(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0026】
なお、本発明において、MFR(以下、「MFR(230℃,21.2N)」と称す。)、密度、融点のピークトップの値(以下、単に「融点」と称す。)は、以下のようにして測定される。
【0027】
<MFR>
JIS−K7210に従い、温度230℃、荷重21.2N、10minの条件で測定される。
【0028】
<密度>
JIS−K7112に従い、水中置換法で測定される。
【0029】
<融点>
DSCにより以下の装置及び条件で測定される。
装置:セイコーアイ(株)製「DSC6220」
検出器:DSC
昇降温速度:一次昇温 40℃から170℃まで 100℃/分
冷却 170℃から−10℃まで −10℃/分
二次昇温 −10℃から170℃ 10℃/分
融点算出:二次昇温におけるピークトップ温度を融点とする。
【0030】
また、変性エチレン−プロピレン系共重合体またはエチレン−プロピレン系共重合体の「エチレン成分の含有量」とは、変性エチレン−プロピレン系共重合体またはエチレン−プロピレン系共重合体を構成する全モノマー成分のモル数に対するエチレン成分のモル数の百分率である。
【0031】
また、変性エチレン−プロピレン系共重合体のグラフト率は、変性エチレン−プロピレン系共重合体に対してグラフトされたエチレン性不飽和結合含有化合物の割合(重量%)であり、その測定方法は、公知の方法を用いることができるが、例えば、以下のようにして測定される。
<グラフト率>
変性エチレン−プロピレン系共重合体をそのまま厚さ100μmのシートにプレス成形して試験サンプルとし、アセトン等の良溶媒を用いた抽出操作により未反応のエチレン性不飽和結合含有化合物の除去を行った後、赤外吸収スペクトル法を用い、樹脂中のエチレン性不飽和結合含有化合物特有の吸収から求める。例えば、エチレン性不飽和結合含有化合物が不飽和カルボン酸またはその誘導体である場合は、1900〜1600cm
−1(C=O伸縮振動帯)のカルボニル基特有の吸収を測定することにより求める。
【0032】
また、有機過酸化物の半減期とは、有機過酸化物が熱によって分解して、その活性酸素量が分解前の量の半分になるまでの時間である。この半減期は、ベンゼン等の比較的不活性な溶剤を使用し、0.1モル/L濃度の有機過酸化物溶液を調製して、熱分解させたときの有機過酸化物濃度の時間変化を測定して求められる(「架橋剤ハンドブック(初版)」大成社発行、第162頁参照)。
【0033】
[変性エチレン−プロピレン系共重合体組成物及びその製造方法]
本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体組成物は、エチレン性不飽和結合含有化合物がグラフトされた変性エチレン−プロピレン系共重合体であって、MFR(230℃,21.2N)が0.4〜200g/10minであり、密度が0.860〜0.900g/cm
3であり、融点が40〜80℃であり、エチレン成分の含有量が5〜20モル%である変性エチレン−プロピレン系共重合体100重量部と、エチレン性不飽和結合含有化合物0.6〜2.0重量部とを含むものである。
【0034】
本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体組成物の製造方法は、本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体組成物を製造することができる限り、特に制限はないが、好ましくは、本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体組成物の製造方法に従って、メタロセン触媒を用いて製造された、エチレン成分含有量が5〜20モル%で、MFR(230℃,21.2N)が0.4〜200g/10min、密度が0.860〜0.900g/cm
3、融点が40〜80℃であるエチレン−プロピレン系共重合体(a)100重量部と、エチレン性不飽和結合含有化合物(b)0.1〜50重量部と、1分間半減期温度が140℃以下であり、かつパーオキシエステル構造またはジアシルパーオキサイド構造を有する有機過酸化物(c)0.01〜5.0重量部とを溶融混合することにより製造される。
【0035】
以下に本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体組成物の製造方法に従って、本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体組成物を説明する。
【0036】
<エチレン−プロピレン系共重合体(a)>
本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体組成物を得るためのグラフト変性に供するベースポリマーとしてのエチレン−プロピレン系共重合体(a)(以下、「本発明のエチレン−プロピレン系共重合体(a)」と称す場合がある。)は、エチレンとプロピレンとの共重合体であってもよく、エチレンとプロピレンと他のα−オレフィンとの三元または四元以上の共重合体であってもよい。また、ブロック共重合体であってもよく、ランダム共重合体であってもよい。本発明のエチレン−プロピレン系共重合体(a)としては、例えば、プロピレン・エチレンランダム共重合体、エチレン・プロピレン・ブテンランダム共重合体、プロピレン・エチレン・ヘキセンランダム共重合体、プロピレン・エチレン・オクテンランダム共重合体、プロピレン・エチレン・ブテン・ヘキセンランダム共重合体、プロピレン・エチレン・ブテン・オクテンランダム共重合体、プロピレン・エチレン・ヘキセン・オクテンランダム共重合体、プロピレン・エチレンブロック共重合体等が挙げられる。
【0037】
本発明のエチレン−プロピレン系共重合体(a)は、メタロセン触媒を用いて製造されたものである。
即ち、エチレン−プロピレン系共重合体としては、チグラーナッタ触媒、クロム触媒、バナジウム触媒、メタロセン触媒などを用いて製造されたものがあるが、このうち、メタロセン触媒を用いて製造されたものは、これをベースポリマーとして変性した場合に、高分子量成分と低分子量成分の双方の割合が少なく、分子量が均一な変性エチレン−プロピレン系共重合体を得ることができる点において好ましい。特に、変性エチレン−プロピレン系共重合体に含まれる低分子量成分は、被着体の極性部分に反応しても、低分子であるために分子の絡みが不十分で、十分な接着力が得られず、接着強度を低下させる要因となるため、このような低分子量成分を含まない、分子量の均一な変性エチレン−プロピレン系共重合体を得ることができる点において、メタロセン触媒を用いて製造されたエチレン−プロピレン系共重合体は、本発明のエチレン−プロピレン系共重合体(a)として好ましい。
【0038】
本発明のエチレン−プロピレン系共重合体(a)は、エチレン成分を5〜20モル%、好ましくは8〜16モル%含むものである。エチレン成分の含有量がこの範囲にあるエチレン−プロピレン系共重合体は、低融点、高弾性、かつ柔軟なエチレン−プロピレン系共重合体であり、このようなエチレン−プロピレン系共重合体をグラフト変性して得られる変性エチレン−プロピレン系共重合体は、接着性に優れたものとなるため好ましい。即ち、エチレン成分の含有量が上記範囲にあるエチレン−プロピレン系共重合体(a)をグラフト変性して得られる変性エチレン−プロピレン系共重合体は、融解終了温度がおよそ100℃以下となり、多層成形時の反応性がより高くなり、また低温での二次加工時に極性基を含む樹脂との界面歪による接着低下の影響を受けにくく、接着力の低下抑制に効果が有り、特に優れた接着性能を発揮する。
【0039】
本発明のエチレン−プロピレン系共重合体(a)のMFR(230℃,21.2N)は、0.4〜200g/min、好ましくは4〜120g/10min、特に好ましくは20〜80g/10minであり、密度は、0.860〜0.900g/cm
3、好ましくは0.875〜0.890g/cm
3、特に好ましくは0.870〜0.880g/cm
3である。また、融点は、40〜80℃、好ましくは45〜75℃、特に好ましくは50〜70℃である。
本発明のエチレン−プロピレン系共重合体(a)のMFR(230℃,21.2N)、密度、融点が上記範囲内であることにより、これを変性して得られる変性エチレン−プロピレン系共重合体の接着性、他の樹脂との相溶性等が十分なものとなり、好ましい。
【0040】
上記の本発明のエチレン−プロピレン系共重合体(a)は、1種を単独で用いてもよく、エチレン−プロピレン系共重合体を構成するモノマー成分や、エチレン成分の含有量、密度等の物性の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0041】
なお、このようなエチレン−プロピレン系共重合体(a)としては、市販品を用いることもでき、例えば、ExxonMobil Chemical社製プロピレン・エチレンランダム共重合体「Vistamaxx 3020FL」やダウ・ケミカル社製プロピレン・エチレンランダム共重合体「VERSIFY 2200」等を用いることができる。
【0042】
<エチレン性不飽和結合含有化合物(b)>
エチレン性不飽和結合含有化合物(b)としては、不飽和カルボン酸及び/またはその誘導体を用いることができる。
【0043】
不飽和カルボン酸としては特に限定されないが、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ハイミック酸、シトラコン酸等が挙げられる。また不飽和カルボン酸の誘導体としては、これらの酸無水物、エステル、アミド、イミド、金属塩等が挙げられる。
【0044】
不飽和カルボン酸の誘導体の具体例としては、無水マレイン酸、無水ハイミック酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸グリシジル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸ジエチルエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイン酸ジアミド、マレイン酸−N−モノエチルアミド、マレイン酸−N,N−ジエチルアミド、マレイン酸−N,N−モノブチルアミド、マレイン酸−N,N−ジブチルアミド、フマル酸モノアミド、フマル酸ジアミド、フマル酸−N−モノブチルアミド、フマル酸−N,N−ジブチルアミド、マレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、メタクリル酸カリウム等が挙げられる。
【0045】
これらの不飽和カルボン酸及びその誘導体は1種を用いても2種以上を併用してもよい。これらのうち、特にマレイン酸及び/またはその無水物が、電子密度が低く反応性が高いことから好適である。
【0046】
不飽和カルボン酸及び/またはその誘導体等のエチレン性不飽和結合含有化合物(b)の使用量は、本発明のエチレン−プロピレン系共重合体(a)100重量部に対して、通常0.1重量部以上、好ましくは0.5重量部以上、より好ましくは1.0重量部以上であり、一方、通常50重量%以下、好ましくは20重量部以下、より好ましくは10重量部以下である。エチレン性不飽和結合含有化合物(b)の使用量が上記下限値未満では、得られる変性エチレン−プロピレン系共重合体の極性を有する樹脂に対する接着性が劣る傾向にあり、一方、上記上限値超過では、未反応物及び副生物が増加し、得られる変性エチレン−プロピレン系共重合体を用いた積層体において、フィッシュアイ、ブツ等により製品外観が悪化し、且つ、接着性も低下する傾向にある。
【0047】
<有機過酸化物(c)>
有機過酸化物(c)は、本発明のエチレン−プロピレン系共重合体(a)のグラフト変性におけるラジカル開始剤として用いられるものである。
【0048】
本発明においては、この有機過酸化物(c)として、1分間半減期温度が140℃以下であり、かつパーオキシエステル構造またはジアシルパーオキサイド構造を有するものを用いる。1分間半減期温度が140℃を超えるものでは、分解が遅過ぎて、本発明のエチレン−プロピレン系共重合体(a)に十分量のエチレン性不飽和結合含有化合物(b)をグラフトすることができない。ただし、1分間半減期温度が過度に低いと分解が早過ぎて、やはり十分量のエチレン性不飽和結合含有化合物(b)を本発明のエチレン−プロピレン系共重合体(a)にグラフトすることができないため、1分間半減期温度は100℃以上であることが好ましい。
【0049】
このような有機過酸化物(c)としては、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、1,4−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレエート、2,2−ビス(4,4−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン等のジアルキルパーオキサイド類、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイックアシッド、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(トルイルパーオキシ)ヘキサン等のパーオキシエステル類、ジ−3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、t−ブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、p−メンタンヒドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ヒドロパーオキシ)ヘキサン等のヒドロパーオキサイド類、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。
【0050】
これらの中でも、1分間半減期温度が100℃以上であるものがグラフト変性効率の観点から好ましく、具体的には、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等のジアルキルパーオキサイド類、または、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキシン−3等のパーオキシエステル類が好ましい。
【0051】
有機過酸化物(c)の使用量は、本発明のエチレン−プロピレン系共重合体(a)100重量部に対して、通常0.01重量部以上、好ましくは0.5重量部以上、より好ましくは1.0重量部以上であり、一方、通常、5.0重量部以下、好ましくは2.5重量部以下、より好ましくは2.0重量部以下である。
有機過酸化物(c)の使用量が少な過ぎると、グラフト変性を効率的に行うことができず、多過ぎると、グラフト変性により得られた変性エチレン−プロピレン系共重合体を含む接着性樹脂組成物の接着層から有機過酸化物の反応残渣による臭気が発生し、食品包装材への適用には好ましくないものとなる。
【0052】
<溶融法によるグラフト変性(溶融変性)>
本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体組成物の製造方法では、前述のエチレン−プロピレン系共重合体(a)とエチレン性不飽和結合含有化合物(b)と有機過酸化物(c)とを所定の割合で用い、溶融変性を行う。通常、溶融変性は、エチレン−プロピレン系共重合体(a)とエチレン性不飽和結合含有化合物(b)と有機過酸化物(c)とを混練機に供給し溶融混練することにより行われる。
【0053】
溶融混練に用いる混練機としては、バンバリーミキサー(インテンシブミキサー)、加圧式ニーダー、2軸押出機等の混練機を使用することができる。
【0054】
バンバリーミキサーは、混合室内に2本のローターを配置してあり、このローターが互いに異なる方向に回転することによって、配合材料を混練し、また、加圧ラムによって、配合材料に圧力を付加することができると共に、ジャケットを介して、配合材料を外部から加熱または冷却できるように構成されている。
【0055】
加圧式ニーダーは、混合室内に2本のブレードを配置してあり、このブレードが互いに異なる方向に回転することによって、配合材料を混練するようにし、また、加圧シリンダーによって、配合材料に圧力を付加することができると共に、ジャケットを介して、配合材料を外部から加熱または冷却できるように構成されている。
【0056】
2軸押出機は、シリンダー内に2本のスクリューを配置してあり、このスクリューが同方向または異方向に回転することによって、配合材料を前後に搬送して圧力を付加しつつ剪断力を付加して混練し、また、シリンダーの外壁をヒーター及び冷却ジャケットで包囲し、配合材料を外部から加熱または冷却できるように構成されている。
【0057】
溶融変性は、通常160〜260℃程度の温度で、用いた混練機の設定条件に従って行われる。
【0058】
<変性エチレン−プロピレン系共重合体組成物>
溶融法によるグラフト変性は、反応が短時間で進行するため、多くの場合、反応しきれないモノマー(以下、「未反応モノマー」と称す場合がある。)が系内に残存する。このため、上記の溶融変性により得られる変性エチレン−プロピレン系共重合体は、変性エチレン−プロピレン系共重合体と未反応モノマー、特に未反応のエチレン性不飽和結合含有化合物(b)を含む変性エチレン−プロピレン系共重合体組成物として得られる。
【0059】
通常、未反応モノマー、特に無水マレイン酸等のエチレン性不飽和結合含有化合物(b)は、極性基を有する樹脂との反応性を有することから、極性基を有する樹脂層と積層させる際は未反応モノマーの影響で十分な接着性が得られないことがある。
しかしながら、本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体組成物では、未反応モノマーが存在しても十分な接着強度が得られる。その理由としては次のことが考えられる。
即ち、前述のエチレン成分含有量の本発明のエチレン−プロピレン系共重合体(a)を溶融変性してなる変性エチレン−プロピレン系共重合体は、非晶質部分が多く存在し、この非晶質部分に、接着性に悪影響を及ぼす未反応モノマーを取り込み、接着性に影響を及ぼさないようにすることができる。
更に、10〜70m/minという比較的速い成形速度で成形が行われる多層フィルム成形に比べて、0.5〜5m/minと比較的遅い成形速度で成形が行われる多層シート成形の場合には、成形時に十分な反応時間を確保することができるため、特に多層シートにおいては、極性基を有する樹脂層に対し十分な接着性を確保することができる。
【0060】
本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体組成物は、変性エチレン−プロピレン系共重合体(以下、「本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体(A)」と称す場合がある。)と、未反応モノマーであるエチレン性不飽和結合含有化合物とを含むものであるが、本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体(A)のグラフト率は、0.1〜10重量%であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5重量%である。グラフト率が0.1重量%未満の場合は接着性が劣る傾向にあり、10重量%を超える場合はグラフト率の増加に比して性能の向上が認められないため経済性が減少する傾向にある。
【0061】
また、本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体(A)は、エチレン成分の含有量が5〜20モル%、好ましくは8〜16モル%であり、MFR(230℃,21.2N)が0.4〜200g/10min、好ましくは4〜120g/10min、特に好ましくは20〜80g/10minであり、密度が0.860〜0.900g/cm
3、好ましくは0.865〜0.890g/cm
3、特に好ましくは0.870〜0.880g/cm
3であり、融点が40〜80℃、好ましくは45〜75℃、特に好ましくは50〜70℃の範囲にある。
【0062】
エチレン成分の含有量が上記範囲内であると、前述の如く、接着性、柔軟性の点で好ましい。
MFR(230℃,21.2N)が上記下限以上であると押出加工が容易であり、上記上限以下であると溶融法によるペレットへの加工適性の点で、好ましい。
また、密度が上記下限以上であると溶融法によるペレットへの加工の際のカッティング適性が良好であり、上記上限以下のものは、前述の非晶質部分を多く含み、未反応モノマーによる接着性低下の防止の面で好ましい。
また、融点が上記下限以上であると包装材の環境温度に適し、上記上限以下であると良好な接着性が発現し、好ましい。
【0063】
また、本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体組成物は、グラフト変性時の未反応モノマーであるエチレン性不飽和結合含有化合物を本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体(A)100重量部に対して0.6〜2.0重量部、好ましくは0.8〜1.8重量部、特に好ましくは1.0〜1.6重量部含有する。
即ち、溶融法によるグラフト変性では、前述の如く、未反応モノマーが残留し、接着性に悪影響を及ぼすが、本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体組成物では、本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体(A)の非晶質部分が、この未反応モノマーを取り込んで未反応モノマーによる接着性の低下を防止することができる。この点において、変性エチレン−プロピレン系共重合体組成物中のエチレン性不飽和結合含有化合物の含有量が上記上限以下であれば、本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体(A)の非晶質部分への取り込みで、接着性の低下を防止することができる。接着性の低下を防止する観点からは、エチレン性不飽和結合含有化合物は少ない方が好ましいが、本発明による変性エチレン−プロピレン系共重合体(A)の非晶質部分への未反応モノマーの取り込みによる効果を有効に得る上で、上記下限以上であることが好ましい。
【0064】
即ち、溶融法によるグラフト変性は、溶液法によるグラフト変性に比べて、反応時間が短時間でよく、設備的にも生産効率の面でも好ましいが、未反応モノマーの残存が問題となる。この未反応モノマーの残存を防止するためには、溶融変性時に煩雑な条件制御が必要となる。本発明の効果は、このような煩雑な条件制御を行うことなく、従って、溶融変性時に未反応モノマーを残留させた状態で、グラフト変性に供するエチレン−プロピレン系共重合体(a)や有機過酸化物(c)を選択することにより、十分な接着性を得ることにある。
【0065】
なお、溶融法によるグラフト変性により得られる変性エチレン−プロピレン系共重合体組成物のエチレン性不飽和結合含有化合物含有量が上記上限を超えるような場合には、有機溶媒等を用い、未反応のエチレン性不飽和結合含有化合物を除去し、これを低減することができるが、通常、前述の方法で溶融変性して得られる変性エチレン−プロピレン系共重合体組成物のエチレン性不飽和結合含有化合物含有量は上記上限以下となる。
【0066】
[接着性樹脂組成物]
本発明の接着性樹脂組成物は、上述の本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体組成物を含むものであり、通常、本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体組成物とポリオレフィン樹脂(B)と、ハイドロタルサイト系化合物(C)とを含むものである。
【0067】
<ポリオレフィン樹脂(B)>
本発明の接着性樹脂組成物に含有されるポリオレフィン樹脂(B)としては特に限定されないが、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1等の炭素数2以上のα−オレフィンの単独重合体、これらのα−オレフィンの2種類以上のランダムまたはブロック共重合体、若しくは、炭素数2以上のα−オレフィンを主成分とし、他のモノマーとのランダムまたはブロック、グラフト等の共重合体、或いは、これらの混合物を使用することができる。
【0068】
特に、変性エチレン−プロピレン系共重合体との相溶性の点から、ポリオレフィン樹脂(B)としては、ポリプロピレン及び/またはエチレン・プロピレン共重合体が好ましく、MFR(230℃,21.2N)0.1〜30g/10min程度であるものが好ましい。
【0069】
本発明の接着性樹脂組成物において、ポリオレフィン樹脂(B)の含有量は、本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体組成物中の本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体(A)とポリオレフィン樹脂(B)との合計100重量部中、好ましくは85〜92重量部、より好ましくは88〜90重量部であり、本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体(A)の含有量は好ましくは8〜15重量部、より好ましくは10〜12重量部である。本発明の接着性樹脂組成物中のポリオレフィン樹脂(B)の含有量が上記上限より多く、本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体(A)の含有量が上記下限よりも少ないと接着性樹脂組成物としての接着力が不足する。逆に、ポリオレフィン樹脂(B)の含有量が上記下限よりも少なく、本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体(A)の含有量が上記上限よりも多いと、得られる積層体の外観が悪化する。これは、本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体(A)が多く含まれることにより、本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体組成物中のエチレン性不飽和結合含有化合物も多く含まれるものとなり、このエチレン性不飽和結合含有化合物が極性基を有する樹脂と部分的に反応して高粘度化することによるものと考えられる。
【0070】
<ハイドロタルサイト系化合物(C)>
本発明の接着性樹脂組成物に含まれるハイドロタルサイト系化合物(C)としては、天然鉱物であるハイドロタルサイトでも、工業的に合成したハイドロタルサイト系化合物でもよく、これらの混合物であってもよい。
ハイドロタルサイト系化合物としては、代表的には下記一般式(I)で表されるハイドロタルサイト類が挙げられる。
M
2+1−XAl
X(OH)
2(A
n−)
X/n・mH
2O ・・・(I)
【0071】
一般式(I)中、M
2+は、アルカリ土類金属、または亜鉛族(Zn、Cd、Hg)の二価金属イオンであるが、中でもMg、Ca、Znが望ましい。A
n−はn価アニオンであり、xは、0<x<0.5の条件を満足する数値であり、mは、0≦m≦4の条件を満足する数値である。
【0072】
一般式(I)中のAとしては、たとえばCl
−、Br
−、I
−、NO
2−、ClO
4−、SO
42−、CO
32−、SiO
32−、Si
2O
52−、HPO
42−、HBO
32−、PO
43−、Fe(CN)
63−、Fe(CN)
44−、CH
3COO
−、C
6H
4(OH)COO
−、(OCOCOO)
2−、(OCOC
6H
4COO)
2−、などの1種または2種以上を例示することができる。Aとしては、とくにCO
32−、SiO
32−、Si
2O
52−などが好ましい。
【0073】
合成ハイドロタルサイト系化合物としては市販品も入手可能であり、Mg
6Al
2(OH)
16CO
3・4H
2Oが、協和化学工業社製「DHT−4A」として入手可能である。
【0074】
本発明の接着性樹脂組成物は、ハイドロタルサイト系化合物(C)を、本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体(A)とポリオレフィン樹脂(B)との合計100重量部に対して、好ましくは0.05〜0.2重量部、より好ましくは0.075〜0.15重量部含有する。ハイドロタルサイト系化合物(C)は、本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体組成物中の未反応モノマーであるエチレン性不飽和結合含有化合物を捕捉して、エチレン性不飽和結合含有化合物による積層体の外観低下を防止する効果を奏するが、ハイドロタルサイト系化合物(C)の含有量が上記下限より少ないと、この効果を十分に得ることができず、上記上限よりも多いと、本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体(A)にグラフトされたエチレン性不飽和結合含有化合物とも反応を起こし、接着性低下の要因となる。
【0075】
<その他の成分>
本発明の接着性樹脂組成物には、上記の各成分に加え、本発明の効果を著しく損なわない範囲で各種目的に応じ他の任意の添加剤や樹脂等(以下、これらを「その他の成分」と称す。)を配合することが出来る。その他の成分は、1種類のみを用いても、2種類以上を任意の組合せと比率で併用してもよい。
【0076】
添加剤としては、具体的には、プロセス油、加工助剤、可塑剤、結晶核剤、衝撃改良剤、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、帯電防止剤、滑剤、充填剤、相溶化剤、耐熱安定剤、耐候安定剤(酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤など)、カーボンブラック、着色剤(顔料、染料など)等が挙げられる。
【0077】
このうち、難燃剤は、ハロゲン系難燃剤と非ハロゲン系難燃剤に大別されるが、非ハロゲン系難燃剤が好ましく、具体的には、金属水酸化物、リン系難燃剤、窒素含有化合物(メラミン系、グアニジン系)難燃剤及び無機系化合物(硼酸塩、モリブデン化合物)難燃剤等が挙げられる。
熱安定剤及び酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物等が挙げられる。
【0078】
充填剤は、有機充填剤と無機充填剤に大別される。有機充填剤としては、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ等の天然由来のポリマーやこれらの変性品等が挙げられる。また、無機充填剤としては、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、金属繊維、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、炭素繊維等が挙げられる。
【0079】
これらの添加剤を用いる場合、その含有量は限定されないが、本発明の接着性樹脂組成物中の含有量として、通常0.01重量%以上、好ましくは0.2重量%以上であり、また、通常5重量%以下、好ましくは2重量%以下であることが望ましい。なおこれらの添加剤は、本発明の接着性樹脂組成物をマスターバッチとして用いる場合には、前記した含有量の2〜50倍、好ましくは3〜30倍の濃度で含有させることもできる。
【0080】
その他の成分として用いる樹脂としては、具体的には、例えば、ポリフェニレンエーテル系樹脂;ポリカーボネート樹脂;ナイロン66、ナイロン11等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、及びポリメチルメタクリレート系樹脂等のアクリル/メタクリル系樹脂等を挙げることができる。
【0081】
本発明の接着性樹脂組成物がこれらのその他の樹脂を含有する場合、その含有量は、本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体(A)とポリオレフィン樹脂(B)との合計100重量部に対して30重量部以下であることが好ましい。
【0082】
本発明の接着性樹脂組成物は、本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体組成物、ポリオレフィン樹脂(B)、及びハイドロタルサイト系化合物(C)と、必要に応じて用いられるその他の成分を、タンブラーブレンダー、リボンブレンダー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー等により均一に混合した後、一軸又は二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、ブラベンダー等により溶融混練することにより調製される。
【0083】
[積層体]
本発明の積層体は、本発明の接着性樹脂組成物からなる接着層を介して、熱可塑性樹脂層と極性基を有する樹脂層、或いは、ガスバリアー性を有する樹脂層と熱可塑性樹脂のうちのプロピレン系重合体からなる層とを積層、接着一体化してなる構造を有するものである。
【0084】
<接着層>
本発明の積層体における本発明の接着樹脂組成物からなる層の厚みとしては限定されるものではなく、用途や被接着層の種類等に応じて適宜決定されるが、通常1〜100μmの範囲であることが好ましく、更には2〜50μmの範囲であることが好ましく、特に3〜20μmの範囲であることが好ましい。
【0085】
<熱可塑性樹脂層>
本発明の積層体に用いる熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、(1)エチレン系ポリマー、プロピレン系ポリマー等から選択されるオレフィン系重合体、(2)ポリフェニレンエーテル系樹脂、(3)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂、(4)ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、(5)ポリオキシメチレンホモポリマー、ポリオキシメチレンコポリマー等のポリオキシメチレン系樹脂、(6)ポリメチルメタクリレート系樹脂等のアクリル/メタクリル系樹脂などが挙げられる。これらは、1種類のみを用いても、2種類以上を任意の組合せと比率で併用してもよい。これらのうち、(1)オレフィン系重合体が好ましい。
【0086】
(1)オレフィン系重合体としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1等の炭素数2以上のα−オレフィンモノマーの重合体または共重合体が挙げられる。
エチレン系ポリマーは、エチレン成分の含有量が50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80〜100モル%の範囲にある。このようなエチレン系ポリマーとしては、具体的には、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、アイオノマー樹脂などを挙げることができる。中でも、低密度ポリエチレンまたはEVAが好ましく、特に密度が0.930g/cm
3以下である直鎖状低密度ポリエチレンまたはEVAが好ましく用いられる。
【0087】
プロピレン系ポリマーは、プロピレン成分の含有量が50モル%以上の範囲にある。具体的には、プロピレン単独重合体(プロピレンホモポリマー)、プロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレン・ブテンランダム共重合体、プロピレン・エチレン・ヘキセンランダム共重合体、プロピレン・エチレン・オクテンランダム共重合体、プロピレン・ブテン・ヘキセンランダム共重合体、プロピレン・ブテン・オクテンランダム共重合体、プロピレン・ヘキセン・オクテンランダム共重合体、プロピレン・エチレンブロック共重合体等のプロピレン系重合体を挙げることができ、中でもMFR(230℃,21.2N)0.1〜30g/10minの、プロピレン単独重合体(プロピレンホモポリマー)、プロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレン・ブテンランダム共重合体、プロピレン・エチレン・ヘキセンランダム共重合体、プロピレン・エチレン・オクテンランダム共重合体、プロピレン・ブテン・ヘキセンランダム共重合体、プロピレン・ブテン・オクテンランダム共重合体、特にプロピレン単独重合体(プロピレンホモポリマー)、プロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレン・ブテンランダム共重合体が好ましく用いられる。
【0088】
熱可塑性樹脂層の厚みとしては特に限定されるものではなく、用途や樹脂種、要求特性等によって適宜決定されるが、通常20〜5000μm、好ましくは30〜4000μmである。
【0089】
<極性基を有する樹脂層>
極性基を有する樹脂とは、分子内に1価または2価の極性基を有する樹脂である。1価または2価の極性基としては、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アルキルエステル基、イソシアネート基、グリシジル基等の1価の官能基、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、ウレア結合、エーテル結合、カルボニル結合等を形成する2価の官能基等が挙げられる。
【0090】
このような極性基を有する樹脂としては、例えば、極性基を有するオレフィン系ポリマー、ポリアミド系樹脂、エチレン・ビニルアルコール共重合体などが好適に用いられる。なかでもエチレン・ビニルアルコール共重合体がより好ましい。
【0091】
極性基を有するオレフィン系ポリマーとしては、具体的には、前述の本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体(A)、シラン変性ポリオレフィン等が挙げられる。本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体(A)としては、前記接着性樹脂組成物からなる層と異なったエチレン含有量、異なったグラフト率のものを用いることができる。
【0092】
ポリアミド系樹脂としては、具体的には、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン9、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6/66、ナイロン66/610、ナイロン6/11、MXDナイロン、アモルファスナイロン、テレフタル酸/アジピン酸/ヘキサメチレンジアミン共重合体などが好ましく用いられる。中でも融点、剛性などが優れるナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/66が好ましい。
【0093】
エチレン・ビニルアルコール共重合体としては、好ましくはエチレン成分含有量が15〜65モル%、さらに好ましくは25〜48モル%である共重合体が望ましい。このようなエチレン・ビニルアルコール共重合体は、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体を鹸化することにより製造することができ、その鹸化度が好ましくは50%以上、さらに好ましくは90%以上になるように鹸化したものが用いられる。なお、鹸化度の上限は100%である。エチレン・ビニルアルコール共重合体のエチレン成分の含有量が少な過ぎると熱分解し易く、溶融成形が困難で、また延伸性にも劣り、かつ吸水し膨潤し易く耐水性が劣る。一方、エチレン・ビニルアルコール共重合体のエチレン成分の含有量が多過ぎると、耐ガス透過性が低下する傾向がある。また、鹸化度が低過ぎる場合には、耐ガス透過性が低下する傾向がある。
【0094】
極性基を有する樹脂層の厚みとしては特に限定されるものではなく、用途や樹脂種、要求特性等によって適宜決定されるが、通常2〜200μm、好ましくは3〜100μmである。
【0095】
なお、上記の熱可塑性樹脂層、及び極性基を有する樹脂層には、その目的を損なわない範囲において、本発明の変性エチレン−プロピレン系共重合体組成物を含んでいてもよく、また、前述の本発明の接着性樹脂組成物が含有していてもよいその他の成分を含有していてもよい。
【0096】
本発明の積層体がガスバリアー性を有する樹脂層とプロピレン系重合体からなる層とが、本発明の接着性樹脂組成物よりなる接着層を介して積層接着された構造を有するものである場合、プロピレン系重合体からなる層を構成するプロピレン系重合体としては、前述の熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂のうち、プロピレン系ポリマーとして例示したものが挙げられ、その厚みについても熱可塑性樹脂層と同等である。
また、ガスバリアー性を有する樹脂としては、前述の極性基を有する樹脂として例示した、ナイロン6、ナイロン12、ナイロン66、MXDナイロン、ナイロン6/66等のポリアミド系樹脂、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート・イソフタレート共重合体、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキシレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂等の1種又は2種以上が挙げられる。
ガスバリアー性を有する樹脂層の厚みとしては特に限定されるものではなく、用途や樹脂種、要求特性等によって適宜決定されるが、通常2〜200μm、好ましくは3〜100μmである。
【0097】
<その他の層>
本発明の積層体は、少なくとも熱可塑性樹脂層/本発明の接着性樹脂組成物層/極性基を有する樹脂層、或いは、ガスバリアー性を有する樹脂層/本発明の接着性樹脂組成物層/プロピレン系重合体からなる層の積層構造を有するものであるが、更にその他の層が積層されていてもよい。
その他の層としては特に制限されることはないが、例えば、本発明の積層体としては、極性基を有する樹脂層の両面に接着性樹脂組成物層を介して熱可塑性樹脂層が積層してなる5層の積層体、即ち、熱可塑性樹脂層/本発明の接着性樹脂組成物層/極性基を有する樹脂層/本発明の接着性樹脂組成物層/熱可塑性樹脂層が好ましい。
この場合、2つの熱可塑性樹脂層は同一の熱可塑性樹脂よりなるものであってもよく、異なる熱可塑性樹脂よりなるものであってもよい。
【0098】
その他、例えば、ポリカーボネート樹脂;ポリスチレン(GPPS)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、スチレン−アクリロニトリルグラフト共重合体(ABS樹脂)等のスチレン系樹脂等からなる樹脂層が更に積層されていてもよい。
【0099】
また、本発明の積層体は、エチレン系樹脂、プロピレン系樹脂等の極性基のないオレフィン系樹脂層を更に有していてもよく、その場合、極性基のないオレフィン系樹脂層/熱可塑性樹脂層/極性基を有する樹脂層の順に、本発明の接着性樹脂組成物層を介して積層された積層体であってもよい。
【0100】
本発明の積層体が多層シートである場合、その総厚さは200〜5000μmであることが好ましい。また、本発明の積層体が多層フィルムである場合、その総厚みは30〜200μmであることが好ましい。
【0101】
<積層体の製造方法>
本発明の積層体を製造する方法(以下、「一次加工」と称す場合がある。)としては、従来より公知の種々の手法を採用することができる。例えば、押出機で溶融させた個々の溶融樹脂を多層ダイスに供給し、ダイスの中で積層する共押出し手法によるインフレーション成形、T−ダイ成形によるフィルム成形もしくはシート成形、ブロー成形による容器成形、溶融した個々の樹脂を同一金型内にタイムラグを付けてインジェクションする共インジェクション成形がある。また、被着材に対し単体または他樹脂との共押出しによる押出しラミネーション、あるいは押出しラミネーションの際、積層前に被着材をコロナ放電処理や火炎処理を行い、積層直前に被着材および本発明の接着性樹脂組成物の接着面をオゾン処理する手法も用いられる。さらに、単体または他樹脂との共押出により得られた本発明の接着性樹脂組成物フィルムと被着材フィルムとの熱ラミ、ヒートシール等による積層法を用いることもできる。
【0102】
これら共押出しによるフィルム、シート、ブロー成形の条件は、特に限定されるものではないが、ダイス温度180〜250℃の範囲で成形されることが好ましい。また、押出しラミネーション成形の条件は、特に限定されるものではないが、ダイス温度280〜320℃の範囲で成形されることが好ましく、熱ラミやヒートシールによる積層法は、特に限定されるものではないが、積層温度が160〜220℃の範囲で成形されることが好ましい。
【0103】
[多層容器等の成形]
本発明の積層体である多層シートや多層フィルムから多層容器等を製造する方法(以下、「二次加工」と称す場合がある。)としては、従来より公知の種々の手法を採用することができる。例えば、上記一次加工により製造した積層体である多層フィルムや多層シートを加熱し、金型内で圧縮空気等のみにより成形する圧空成形、上記一次加工により製造した積層体である多層フィルムや多層シートを加熱軟化して型に密着させ、型に設けられた排気口から空気を排出させて、成形体を型に密着させ、その後これを冷却することにより、二次加工成形する真空成形、真空引きする面と反対面を圧空で賦形させる真空圧空成形、プラグと圧縮空気を併用するSPPF成形等によるカップ等の容器成形、共インジェクション成形品を更に延伸成形するカップ、ボトル等の容器成形がある。
【0104】
これら二次加工の内、真空成形は、特に限定されるものではないが、成形体の表面温度が通常120〜250℃の範囲、好ましくは120〜220℃の温度範囲、より好ましくは120〜200℃の温度範囲で行われる。表面温度が上記範囲にある場合には、ドローダウン性、賦形性が良好となり、肉厚が均一となる。
【0105】
また、SPPF成形等によるカップ等の容器成形は、特に限定されるものではないが、成形体の表面温度が130〜180℃の範囲、更には140〜170℃の範囲、特に150〜160℃の範囲で成形されることが好ましい。
SPPF成形では、積層体である多層シートの主層(熱可塑性樹脂層)を構成する樹脂の融解ピーク温度以下で行う際、好ましくは、融解ピーク温度較差5〜30℃の範囲になるような温度で加熱をすることにより主層を軟化させ、次に、アシストプラグを押し下げることにより、多層シートを容器状に予備賦形し、引き続き、該予備賦形部分に対して、空気圧を付加して該多層シートを金型キャビティ表面に密着させることにより熱成形体を成形することができる。該成形により得られた容器は剛性、衝撃強度に優れたものとなる。
【0106】
[用途]
本発明の接着性樹脂組成物は、極性基を有する樹脂やガスバリアー性を有する樹脂、特に、ポリアミド系樹脂、エチレン・ビニルアルコール共重合体に対して優れた接着強度特性を示す。このため、このような本発明の接着性樹脂組成物を接着層とする本発明の積層体は、優れた接着強度特性を示し、更に強度、耐熱性およびガスバリアー性に優れる。従って、本発明の積層体及びこの積層体から製造される多層容器は、食用油のボトルやハム等の畜肉包装フィルム、ゼリーカップや米飯トレーなどの一般食品包装用材料、意匠包装やラベル等に好適に使用することができる。
特に好ましいのは、低温で二次加工を行うSPPF成形により作製されるゼリーカップや米飯トレーなどの一般食品包装材料に使用される用途である。
【実施例】
【0107】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0108】
〔原材料〕
以下の諸例で用いた原材料は次の通りである。
【0109】
変性エチレン−プロピレン系共重合体組成物の製造に用いたベースポリマーのエチレン−プロピレン系共重合体(a)、有機過酸化物(c)の詳細は、それぞれ、以下の通りである。なお、エチレン性不飽和結合含有化合物(b)としては無水マレイン酸を用いた。
【0110】
<エチレン−プロピレン系共重合体>
ExxonMobil Chemical社製「Vistamaxx 3020FL」(メタロセン触媒を用いて製造されたプロピレン・エチレンランダム共重合体、エチレン成分含有量:11モル%、MFR(230℃,21.2N):2g/10min、密度:0.873g/cm
3、融点:59℃)
【0111】
<有機過酸化物>
パーブチルO:日油株式会社製「パーブチルO」(パーオキシエステル構造を有するt−ブチル パーオキシ−2−エチルヘキサノエート、1分間半減期温度:134℃)
ナイパーBMTK40:日油株式会社製「ナイパーBMTK40」(ジアシルパーオキサイド構造を有するジベンゾイルパーオキサイド、1分間半減期温度:131℃)
パーブチルI:日油株式会社製「パーブチルI」(パーオキシエステル構造を有するt−ブチル パーオキシイソプロピルモノカーボネート、1分間半減期温度:159℃)
【0112】
また、比較のためのベースポリマーとしては、以下のポリプロピレンを用いた。
ポリプロピレン:日本ポリプロ社製「ノバテックPP EG8B」(MFR(230℃,21.2N):0.8g/10min、密度:0.90g/cm
3、融点:144℃)
【0113】
<ポリオレフィン樹脂(B)>
接着性樹脂組成物調製のためのポリオレフィン樹脂(B)としては下記表−1に示すものを用いた。
【0114】
【表1】
【0115】
<ハイドロタルサイト系化合物(C)>
ハイドロタルサイト系化合物としては、協和化学工業社製合成ハイドロタルサイト「DHT−4A」を用いた。
【0116】
[製造例1〜3:変性エチレン−プロピレン系共重合体組成物の製造]
エチレン−プロピレン系共重合体(a)として、ExxonMobil Chemical社製「Vistamaxx 3020FL」100重量部と、無水マレイン酸(和光純薬社製)2重量部と、有機過酸化物として、それぞれパーブチルO1.5重量部、ナイパー−BMTK40 3.58重量部、またはパーブチルI0.6重量部を用い、事前にこれらをドライブレンドにより配合し、二軸押出機TEX30(D=30mmφ、L/D=32、日本製鋼(株)製)を用い、温度200℃、スクリュー回転数200rpm、押出量15kg/hで溶融混練し、紐状に押し出し、冷却後、カッティングして、それぞれ変性エチレン−プロピレン系共重合体組成物I,II,IIIを得た。
【0117】
[製造例4:比較例の変性樹脂の製造]
日本ポリプロ社製ポリプロピレン「ノバテックPP EG8B」100重量部に対し、無水マレイン酸(和光純薬社製)2重量部と、パーブチルO1.5重量部とを事前にドライブレンドにより配合し、二軸押出機TEX30(D=30mmφ、L/D=32、日本製鋼(株)製)を用い、温度200℃、スクリュー回転数200rpm、押出量15kg/hで溶融混練し、紐状に押し出し、冷却後、カッティングして変性プロピレン系重合体組成物Xを得た。
【0118】
製造例1〜4で得られた変性樹脂のMFR、密度、融点、無水マレイン酸のグラフト率、エチレン成分含有量と変性樹脂組成物の無水マレイン酸含有量は以下の表−2の通りである。
【0119】
【表2】
【0120】
[
参考例1]
<接着性樹脂組成物の製造>
変性エチレン−プロピレン系共重合体組成物Iを変性エチレン−プロピレン系共重合体として20重量部、ポリオレフィン樹脂(B−1)70重量部、ポリオレフィン樹脂(B−2)10重量部、及びハイドロタルサイト系化合物(C)0.1重量部を、事前にドライブレンドにより配合し、単軸押出機PMS50−32(1V)(D=50mmφ、L/D=32、IKG(株)製)を用い、温度230℃、スクリュー回転数60rpm、押出量20kg/hで溶融混練し、紐状に押し出し、冷却後カッティングし、接着性樹脂組成物のペレットを得た。
【0121】
<多層シート成形>
得られた接着性樹脂組成物のペレットを接着層を構成する接着材として用い、株式会社プラ技研製、6種11層共押出多層シート成形機にて多層シート(積層体)を得た。
層構成は、冷却ロール面に接する側から外側に向かって、ポリプロピレンEA6A(日本ポリプロ社製、プロピレン単独重合体、MFR(230℃,21.2N):1.9g/10min)/接着材/エバール(登録商標)J171B(クラレ社製、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン成分含有量:32モル%)/接着材/ポリプロピレンEA6A(日本ポリプロ社製、プロピレン単独重合体、MFR(230℃,21.2N)1.9g/10min)とすることによって5層構成とした。各層の厚みは、それぞれ540μm/20μm/80μm/20μm/540μmとし、成形温度は230℃、成形速度は0.8m/minに設定し、多層シートを得た。
【0122】
<多層カップ成形>
上記6種11層共押出多層シート成形機にて得られた多層シートを用い、ILLIG社製カップ成形機「RDM−50K」を用い、成形温度355℃、成形速度14個/min、L/D=0.75に設定し、多層カップを得た。
【0123】
<接着性の評価>
上記で得られた多層シートと多層カップから、それぞれ、幅10mmの短冊状の試験片を切り出し、23℃の雰囲気下、速度50mm/分(シート)、速度100mm/分(カップ)にてT−ピール剥離試験を行った。結果を表−3に示す。
【0124】
[
参考例2
,3、実施例4〜9、比較例1〜4]
原材料及びその配合量を表−3〜表−5に示すように変更したこと以外は
参考例1と同様にして接着性樹脂組成物のペレットを得、同様に多層シート成形及び多層カップ成形とその評価を行い、結果を表−3〜表−5に示した。
なお、表−4,5中、「多層シート外観」は、多層シートを目視観察したときに良好なものを「○」、外観不良(ムラ、うねり)のあるものを「×」とした。
【0125】
【表3】
【0126】
【表4】
【0127】
【表5】
【0128】
表−3〜表−5より次のことが分かる。
グラフト変性のベースポリマーとしてポリプロピレンを用いた比較例2の接着性樹脂組成物では、接着性が十分でない。
これに対して、特定の物性の本発明のエチレン−プロピレン系共重合体をベースポリマーとしてグラフト変性した実施
例4〜9の接着性樹脂組成物では、良好な接着性を得ることができ、衛生性、シート外観にも優れる。
なお、
参考例2は、ベースポリマーとして本発明のエチレン−プロピレン系共重合体を用いても、変性に用いた有機過酸化物の量が若干多く、また、有機溶媒を含有する為、衛生性の面で問題があるが、接着性は十分である。
参考例3は、変性により得られた変性エチレン−プロピレン系共重合体のMFRが大きいために、多層シートの接着性が若干劣る結果となる。
表−4は、変性エチレン−プロピレン系共重合体組成物Iの配合量を変えたものであるが、実施例4〜6の結果から、変性エチレン−プロピレン系共重合体組成物Iの配合量が少なくなると接着性が低下してくることが分かるが、比較例2より変性エチレン−プロピレン系共重合体組成物Iが多過ぎても接着性が低下する上に、シート外観が劣るものとなることが分かる。
表−5は、更にハイドロタルサイト系化合物(C)の配合量を変えたものであるが、ハイドロタルサイト系化合物(C)を配合しない比較例3では、シート外観不良をきたし、また、接着性も悪く、一方で、ハイドロタルサイト系化合物(C)の配合量が多過ぎる比較例4では、接着性が低下することが分かる。