(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
磁気ヒステリシスを有する磁気抵抗効果素子で構成され、磁気抵抗効果素子の感磁面内の磁界を検出する磁気センサと、前記磁気センサに対して相対移動する請求項1〜3のいずれかに記載の磁気媒体と、を備える磁気エンコーダ。
前記磁気センサと相対移動することにより、前記信号着磁領域から前記磁気センサに対し、周期的な信号漏れ磁界を印加するとともに、前記バイアス着磁領域から周期的なバイアス漏れ磁界を印加することを特徴とする請求項4に記載の磁気エンコーダ。
前記磁気抵抗効果素子が、異方性磁気抵抗効果素子、巨大磁気抵抗効果素子、結合型巨大磁気抵抗効果素子、スピンバルブ型巨大磁気抵抗効果素子、トンネル磁気抵抗効果素子からなる群から選択された1種であることを特徴とする請求項4又は5に記載の磁気エンコーダ。
感磁面と平行な第1の方向に着磁された第1の着磁領域と、第1の方向と対向する第2の方向に着磁された第2の着磁領域と、が前記第1の方向又は前記第2の方向に対し交互に配置された信号着磁領域と、前記第1の方向および前記第2の方向の両方と交差する方向であって、前記感磁面と平行な第3の方向に着磁されたバイアス着磁領域と、を有する磁気媒体を作製する方法であって、
磁気媒体に対して第3の方向にバイアス着磁を行う工程と、
所定の周期で第1の方向および前記第1の方向に対向する第2の方向に信号着磁を行う工程と、を備えることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1つに記載の磁気媒体の作製方法。
前記信号着磁及び前記バイアス着磁を、着磁電流により磁界を制御する磁気ヘッドを用いて、前記磁気媒体の上面から着磁することを特徴とする請求項7に記載の磁気媒体の作製方法。
前記信号着磁領域を着磁するための磁界強度は、前記バイアス着磁領域を着磁するための磁界強度の2倍以上であることを特徴とする請求項7又は8に記載の磁気媒体の作製方法。
前記磁気ヘッドは、軟磁性材料で構成された磁気ヨークと、着磁電流が流れることによって磁気ヨークに磁界を発生させるコイルと、を有し、前記磁気ヨークは磁界を発生させる両端が一定のギャップ長を有し、前記信号着磁を行なう際の前記ギャップ長は信号着磁のピッチより小さいことを特徴とする請求項8に記載の磁気媒体の作製方法。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は本発明を例示するものであり、本発明の技術的範囲は以下の実施形態に限定されることはない。特に、以下の説明では、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、「右」、「左」およびそれらの用語を含む別の用語)を用いるが、それらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が制限されるものではない。また、本発明において、「深い」または「浅い」との文言を使用することがあるが、磁気センサに漏れ磁界を与える面(すなわち、磁気センサに対向する面)を上側にして磁気媒体を水平に配置した場合において、磁気媒体の下面に近い場合に「深い」との文言を使用し、磁気媒体の上面(磁気センサに漏れ磁界を与える面(磁気センサに対向する面))に近い場合に「浅い」との文言を使用する。
複数の図面に表れる同一符号の部分は、特に断らない限り同一の部分又は部材を示す。
【0026】
まず、最初に、本発明の課題を解決すべく如何にして本発明の構成としたかについて説明する。
本発明者らは、上述した、ヒステリシス誤差を低減することができるとともに、十分な信号出力が得られる信頼性の高い磁気媒体、磁気エンコーダ、並びに磁気媒体の製造方法を提供するという課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。すなわち、磁気媒体の上面からバイアス着磁した後に、同じく上面から信号着磁した磁気媒体において、信号着磁により一の方向に着磁された第1の着磁領域と、同じく信号着磁により一の方向と反対方向に着磁された第2の着磁領域との界面にてバイアス着磁領域からのバイアス漏れ磁界が磁気センサに印加されることにより、信号磁界の感磁面内成分が殆ど無くなっても、バイアス磁界が、磁気センサの感磁面内に印加され続けることになり、ヒステリシス誤差を低減することができる。また、第1の着磁領域の中央下部および第2の着磁領域の中央下部において、バイアス着磁を、信号着磁によって上書きすることにより、信号着磁領域からの信号漏れ磁界は、バイアス着磁領域からのバイアス漏れ磁界による影響を受けず、十分な信号出力が得られる。本発明者らは、上記知見に基づき検討を重ねた結果、本発明を完成させるに至った。
【0027】
(実施の形態1)
本発明の理解を容易にするために、最初に
図1を用いて磁気抵抗効果素子を備える磁気センサと磁気媒体とを有してなる磁気エンコーダの構成および機能について説明する。磁気媒体を直線状に設けることによりリニア式磁気エンコーダとすることができ、また、磁気媒体をドラムの外周面に環状に設けることにより、ドラム式磁気エンコーダとすることができる。したがって、当業者であれば、リニア式磁気エンコーダの具体例から、ドラム式磁気エンコーダを実施することができることは理解されよう。
【0028】
図1は、本発明に係るリニア式磁気エンコーダ(以下、単に磁気エンコーダまたはエンコーダと称することがある)1の概略図である。
図1に示すように、本発明に係るリニア式磁気エンコーダ1は、一または複数の磁気抵抗効果素子(例えば、巨大磁気抵抗効果(GMR)素子等)を有する磁気センサ2と、一定の周期λmで着磁方向が変化する着磁パターンを有し、磁気センサ2に対して相対的に移動する磁気媒体3と、を備える。ここで、「磁気センサ2に対して相対的に移動する」とは、磁気媒体3が、磁気センサ2に対して移動する場合に限らず、磁気センサ2が磁気媒体3に対して移動する場合も含まれる。本発明において、「移動する」とは、磁気センサ2と磁気媒体3とが離間した状態(
図1においては、磁気センサ2と磁気媒体3とは間隔G
Aで離間しており、この距離をエアギャップと称する。)で移動することのみならず、磁気センサ2と磁気媒体3とが接触した状態で移動すること、すなわち摺動することも含む概念である。
【0029】
図2は、磁気媒体(不図示)に対向して配置される磁気センサ2の概略図である。
図2に示すように、磁気センサ2は少なくとも1つ以上の磁気センサ素子5を有し、磁気センサ素子5は、磁界により電気抵抗が変化する感磁センサ素子11、12を直列接続することにより作製してもよい。より具体的には、例えば、感磁センサ素子11の一端と感磁センサ素子12の一端とを接続し、感磁センサ素子12の他端を接地し、感磁センサ素子11の他端を電源電圧Vccに接続する。感磁センサ素子11と感磁センサ素子12との接続点13から中点電位を取り、この電圧が磁気センサ2の出力電圧となる。感磁センサ素子11と感磁センサ素子12は反平行の感磁軸を有するように構成すると、出力が最も大きくなるため好ましい。この中点電位の変化を磁気センサ2と磁気媒体3の相対位置信号として検出する。
【0030】
通常、磁気エンコーダとしては、i)感磁面内の磁界(感磁面に平行な磁界)のみに応じて電気抵抗が変化する。ii)磁気媒体がN極とS極とが反転するように信号着磁され、このように形成された磁気媒体の信号着磁面に沿って磁気センサを移動させた場合、磁気センサからの出力が正弦波に従う、ことを前提とするものが使用されている。しかしながら、このような磁気エンコーダは、以下に示すように、磁気媒体に対してバイアス着磁が行われていない場合、磁気媒体を磁気センサに対して右方向に移動(または回転)させた場合と、左方向に移動(または回転)させた場合と、で磁気センサからの出力に位相のずれが生じる。
【0031】
図3(a)は、磁気媒体に対して信号着磁のみを行い、バイアス着磁を行わず、且つ、バイアス磁界を発生させるための磁石などを設けずに、磁気センサで測定した結果(比較例1)である。一方、
図3(b)は、磁気媒体に対してバイアス着磁及び信号着磁を行った磁気センサにより測定した結果(実施例1)である。
図3(a)、
図3(b)において、横軸は、磁気媒体3の磁気センサ2に対する移動距離(mm)を、縦軸は、磁気センサ2の出力電圧(V)を示しており、磁気媒体3と磁気センサ2を相対的に左方向及び右方向に動かした場合に磁気センサから出力された波形をそれぞれ示している。
【0032】
磁気媒体にバイアス着磁を行わず信号着磁のみ行った磁気エンコーダにおいて、
図3(a)の比較例1に示すように、磁気媒体3を右方向に移動(または回転)させた場合と、左方向に移動(または回転)させた場合とで、出力波形に位相のずれが生じる。この位相のずれは、磁気センサの出力波形の1周期が500μmの場合、19.3μm程度(正弦波の電気角13.9°程度)に相当し、精密な動作が必要とされる機器/装置にとっては許容できない程大きなものである。
【0033】
したがって、AMRセンサまたはGMRセンサ等の磁気センサを用いた磁気エンコーダにおいて、磁気エンコーダの信号精度を向上させる上で、磁気センサのヒステリシス誤差を低減することが必須の課題である。
【0034】
磁気エンコーダのヒステリシス誤差の要因の一つは、磁気センサが検知できる磁界の成分がほとんどゼロとなる領域(すなわち、信号着磁が最小となる、着磁方向が切り替わる界面付近)を磁気センサが通過するときに、その直前の磁界によって磁化した磁気センサ(磁気抵抗効果素子)の磁気ヒステリシスに起因すると考えられる。このヒステリシス誤差は、磁気センサにより検出する移動量の分解能を高めるときに阻害要因となる。特に、高感度であるスピンバルブ型GMR素子またはTMR素子は、AMR素子よりも出力が大きいので、このヒステリシス誤差が大きくなり、分解能を高めるうえで好ましくない。このような誤差を低減するために、着磁の方向が変化する界面においてバイアス磁界を印加する方法が利用されている。
【0035】
上述したとおり、バイアス磁界の印加方法として、磁気媒体の側面に永久磁石を設置する方法、または、磁気媒体にバイアス着磁を行う方法が提案されているが、前者は、小型化が困難な永久磁石を磁気媒体の側面に設置することになるため、磁気エンコーダの構造が大きくなってしまい、また、コストアップの要因となることから実用的ではない。
【0036】
後者については、磁気媒体の磁性層を一様にバイアス着磁する方法が提案されているが、バイアス磁界は小さすぎるとバイアス磁界の効果が無く、一方、バイアス磁界が大きすぎると磁気センサの再生出力が小さくなったり、信号着磁そのものが困難となったりする場合もある。
【0037】
上記理由により、バイアス着磁に最適な磁界強度は、磁気センサの保磁力として0.5mT未満程度を有する場合、前記保磁力よりやや大きめの0.5〜5mT程度が適当である。
【0038】
さらに、バイアス着磁からのバイアス漏れ磁界(バイアス磁界)が必要になる領域は、
図1で示すと、信号着磁が最小となり、着磁方向が切り替わる界面21付近であり、界面21間の略中間の位置22では、信号着磁からの漏れ磁界が最大となり、磁気センサ2が飽和するため、ヒステリシス誤差は生じない。
【0039】
この最適なバイアス磁界強度を実現する方法として、以下の方法がある。まず、バイアス着磁について
図4及び
図5を用いて説明する。
図5(a)は、バイアス着磁を行う場合の、磁気ヘッド41と磁気媒体3との位置関係を示した図であり、
図5(b)は、バイアス着磁された磁気媒体3の側面図であり、
図5(c)は、その上面図である。まず最初に、
図5(a)に示すように、磁気媒体3に、磁気媒体3の長手方向(Z方向)に対して直交する一の方向(例えばAの方向のいずれか一方)にバイアス着磁を行う。バイアス着磁およびその後の信号着磁に用いる磁気ヘッド41を
図4に示す。
図4に示すように、磁気ヨーク42の両端44、45が磁気ヨーク42の上部43において離間されており、前記両端44、45以外は連続した磁路を形成しているほうが、磁束の漏れが少なく効率が良いため好ましい。磁気ヨーク42の形状は
図4以外にも直方体や円柱形状など様々な形態を取りうるが、前記両端44、45を突き出すように配置することで、離間した箇所に磁束を集中させることができるため効率が良い。また、磁気ヨーク42の長さ(ギャップ方向に対して垂直な方向の長さ)は、平行な磁界で着磁するために、着磁対象より長いことが好ましい。例えば、バイアス着磁用であれば磁気媒体の長さ(Z方向寸法)より長く、信号着磁用であれば、磁気媒体の幅(X方向寸法)より長いことが好ましい。離間された磁気ヨーク42の端部44、45間の距離がG
Bで表されている。ヨークの材質は磁性を有する材料によって構成され、特に保磁力が小さく透磁率が大きい軟磁性が好ましい。磁気ヘッド41は、軟磁性材料で構成された磁気ヨーク42と、着磁電流が流れることによって磁気ヨーク42に磁界を発生させるコイル46と、を有する。信号着磁を行なうための磁気ヘッド41において、ギャップ長G
Bは信号着磁のピッチλmより小さくなっている。このようにギャップG
Bが設けられた磁気ヘッド41を、
図5(a)に示すように磁気ヘッド41のギャップ形成方向(Z方向)と磁気媒体3の長手方向とが一致するように設け、バイアス着磁を行う。このとき、
図5(b)、
図5(c)に示すように、前記着磁電流として一定電圧の直流電流を流しながら、着磁ヘッドをX方向又は−X方向のいずれか一方(すなわち、Aの方向のいずれか一方)に移動させることで、上面からd1の深さまで着磁する。
【0040】
次に信号着磁について
図6を用いて説明する。
図6(a)は、信号着磁を行う場合の、磁気ヘッド41と磁気媒体3との位置関係を示した図であり、
図6(b)は、信号着磁された磁気媒体3の側面図であり、
図6(c)は、その上面図である。バイアス着磁の後、
図6(a)に示すように磁気ヘッド41を磁気媒体3に沿ってZ方向又は−Z方向のいずれか一方(すなわち、Bの方向のいずれか一方)に移動させつつ、
図6(b)、
図6(c)に示すように、バイアス着磁された磁気媒体3に対して信号着磁を行う。信号着磁は、信号着磁領域の深さが、信号着磁の着磁方向が変化する界面21において、バイアス着磁領域の深さより浅く、且つ、界面21間の略中間の位置22において、信号着磁領域の最大着磁深さd2が、バイアス着磁領域の着磁深さd1より深くなるように行う。このような方法によれば、
図7(a)、
図7(b)に示すように界面21間の略中間の位置22において、バイアス着磁の着磁深さd1が信号着磁の最大着磁深さd2より浅くなるため、信号着磁が最大となる領域ではバイアス着磁はほぼ上書き着磁され信号着磁のみが残る。一方、信号着磁の着磁方向が切り替わる界面21付近では、信号着磁の着磁深さがバイアス着磁の着磁深さより浅くなるため、バイアス着磁が上書きされず、バイアス着磁がある程度残った状態となっている。
【0041】
信号着磁後も上書きされず残ったバイアス着磁によって、バイアス磁界が必要な領域(すなわち、信号着磁の着磁方向が切り替わる界面21付近であって信号着磁が最小となる領域、例えば界面21)にバイアス磁界を印加することができるため、ヒステリシス誤差を低減することが可能となる。さらに、バイアス着磁の着磁深さと信号着磁の着磁深さを調整することによって、さらに最適なバイアス磁界強度を調整することが可能である。
すなわち、本発明者らは、磁気媒体3における着磁方向が変化する界面21付近において、バイアス着磁領域の深さより、信号着磁領域の深さが浅く、且つ、界面21間の略中間の位置22において、バイアス着磁領域の深さd1より、信号着磁の最大着磁深さd2が深くなるように磁気媒体3を着磁すれば、磁気センサ2の再生出力をそれ程低減することなく、ヒステリシス誤差を低減することが可能となることを見出した。
【0042】
以下、本発明に係る磁気媒体3および磁気センサ2からなる磁気エンコーダ1について詳細に説明する。
図7は、
図1に示された磁気媒体3の概略を示した図である。
図7(a)は、
図1に示す磁気媒体3の幅方向中心を通るB−B断面における断面図であり、後述するバイアス着磁、およびその後の信号着磁が施された後の着磁の状態および磁界が示されている。
図7(b)は、その磁気媒体3の上面図であり、着磁の状態が示されている。また、
図7(c)は、
図1に示すA
1−A
1断面、すなわち、着磁方向が切り替わる界面21に対して平行であり、且つ、当該界面21を含まない断面における断面図である。
図7(d)は、
図1に示すA
2−A
2断面、すなわち、当該界面21に対して平行であり、且つ、当該平面21を含む断面における断面図である。
【0043】
図7(a)において、磁気媒体の内部に示された矢印は、着磁の方向を示しており、この着磁を示した矢印は、S極からN極へ向かっている。また、磁気媒体3の外部に示された矢印(すなわち、磁気媒体3の上面上方に示された矢印)は、磁界の方向を示しており、この磁界の方向を示した矢印は、N極からS極へ向かっている。なお、○の中に×を示した記号は、紙面上方から下方へ向かうことを示しており、○の中に・を示した記号は、紙面下方から上方へ向かうことを示している。
【0044】
図7(a)に示すように、磁気媒体3は、信号着磁領域50を有し、信号着磁領域50は、感磁面と平行な第1の方向(例えば、Z方向)に着磁された第1の着磁領域51と、第1の方向と対向する第2の方向(例えば、−Z方向)に着磁された第2の着磁領域52とからなる。信号着磁領域50は、磁気媒体3の上面56、すなわち、磁気センサ2(すなわち、磁気抵抗効果素子2a)に漏れ磁界を与える面(磁気センサに対向する面)56に形成される。第1の着磁領域51は、
図7(a)に示すように、Z方向に信号着磁されることにより形成されている。これにより、磁気媒体3の上面56の上方には、−Z方向の磁界が発生している。一方、第2の着磁領域52は、
図7(a)に示すように、−Z方向に信号着磁されることにより形成されている。これにより、磁気媒体3の上面56の上方には、Z方向の磁界が発生している。このように磁気媒体3の上面56において、方向が交互に入れ替わるような磁界が発生することにより、このように形成された磁気媒体3の信号着磁面に沿って磁気センサ2を移動させた場合、磁気センサからの出力は正弦波に従う。このため、この磁気媒体3を磁気エンコーダ1において使用した場合に、移動体の移動方向もしくは移動量、または回転体の回転角度等を容易に検出することができる。
【0045】
信号着磁領域50の第1の着磁領域51および第2の着磁領域52の着磁方向およびこれに対応する磁界の方向は、上述の方向に限られることはなく、着磁の方向が上述の方向と反対方向であってもよい。すなわち、第1の着磁領域51が、−Z方向に信号着磁され、これに対応する磁界がZ方向に形成されていてもよい。一方、第2の着磁領域52が、Z方向に信号着磁され、これに対応する磁界が−Z方向に形成されていてもよい。また、後述するように、信号着磁の方向は、Z方向(又は−Z方向)に対して傾斜していてもよい(例えば、例えば、±5°以内)。例えば、信号着磁領域の極に近い側面61や側面62付近などにおいて、より強い着磁の極に傾斜したり、磁気ヘッドと磁気媒体の位置ずれなどの可能性がある。このように構成されていても、上記同様、移動体の移動方向もしくは移動量、または回転体の回転角度等を容易に検出することができる。
【0046】
また、磁気媒体3は、磁気センサ2と対向する磁気媒体3の面56を上面として、着磁方向が切り替わる界面21付近(第1の着磁領域51と第2の着磁領域52との間の領域)において、バイアス着磁領域53が形成され、第1の着磁領域51の中央下部54および第2の着磁領域52の中央下部55にバイアス着磁領域53が形成されていない。
【0047】
本発明において、信号着磁領域50とは、バイアス着磁より信号着磁が優勢な領域であって、完全着磁の半分以上の強度で着磁されている領域を意味する。完全着磁とは、着磁するときの磁界強度をそれ以上強くしても、それ以上の強度で着磁されない状態を指す。バイアス着磁領域53とは、信号着磁よりバイアス着磁が優勢な領域であって、同様に完全着磁の半分以上の強度で着磁されている領域を意味する。「バイアス着磁領域53が、第1の着磁領域51の中央下部(すなわち、54で示す領域)に形成されていない」とは、当該領域において、信号着磁がバイアス着磁より強いためにバイアス着磁の影響を無視できることを意味する。
【0048】
バイアス着磁領域53は、
図1に示すように、磁気媒体3の一方の側面61付近にN極が形成され、磁気媒体3のもう一方の側面62付近にS極が形成されることにより、設けられている。すなわち、バイアス着磁領域53は、
図7(a)に○の中に×を示した記号が示されているように、紙面上方から紙面下方へ向かう方向(すなわち、−X方向)にバイアス着磁されることにより形成されている。これにより、
図7(a)に○の中に・を示した記号が示されているように、磁気媒体3の上面上方には、紙面下方から紙面上方へ向かう方向(すなわち、X方向)に磁界が発生している。このように、界面21において、−X方向へバイアス着磁領域53が形成されていることにより、後述するようにヒステリシス誤差を低減することが可能となる。
【0049】
バイアス着磁領域53の着磁方向およびこれに対応する磁界の方向は、上述の方向に限られることはなく、着磁の方向がX方向(すなわち、紙面下方から紙面上方へ向かう方向)であり、磁界の方向が−X方向(すなわち、紙面上方から紙面下方へ向かう方向)であってもよい。また、後述するように、バイアス着磁の方向は、X方向(又は−X方向)に対して傾斜していてもよい((例えば、±5°以内))。例えば、磁気ヘッドと磁気媒体との位置ずれなどにより傾斜する可能性がある。このように構成されていても、上記同様、ヒステリシス誤差を低減することができる。
【0050】
図7(c)は、上述したように、
図1に示すA
1−A
1断面における断面図である。
図7(c)に示すように、A
1−A
1断面において、−Z方向へ着磁された第2の信号着磁領域52が存在する。信号着磁領域50においても磁気媒体3に対してX方向にバイアス着磁が施されているため、バイアス着磁領域が存在していたと考えられるが、A
1−A
1断面に示されているように、バイアス着磁後に信号着磁されたことにより、X方向へのバイアス着磁が、−Z方向への信号着磁により上書きされたと考えられる。一方、磁気媒体3の上面には、
図7(c)に示すように、紙面上方から紙面下方へ向かう磁界が発生している。
【0051】
また、
図7(d)に示すように、A
2−A
2断面は、着磁の方向が変化する界面21を含んでおり、A
2−A
2断面においては、信号着磁領域は存在しない。しかしながら、A
2−A
2断面においては、バイアス着磁によりX方向へ着磁されており、このバイアス着磁は信号着磁により上書きされることはないため、
図7(d)に示すように、X方向にバイアス着磁されたバイアス着磁領域53が形成されていると推察される。
【0052】
図7(d)に示すように、A
2−A
2断面において、X方向にバイアス着磁による磁界が形成されることにより、バイアス着磁領域からの漏れ磁界が磁気センサ2に印加され、それにより、信号磁界の感磁面内成分が殆ど無くなってもバイアス磁界が、磁気センサの感磁面内において一の方向及び反対の方向に対して垂直な方向に印加され続けることになり、ヒステリシス誤差を低減していると考えられる。
【0053】
また、
図7(c)に示すように、A
1−A
1断面を貫通するように、信号着磁による−Z方向へ着磁されていることにより、十分な信号出力が得られる。
【0054】
本発明の実施の形態1に係る磁気媒体3は、フェライトの粉末や希土類磁石の粉末などの強磁性材料を、エポキシ樹脂等の有機樹脂やゴムなどの成形可能な非磁性体に混ぜ合わせ、成型することで作製したり、あるいは強磁性粉末を成型し、焼結することにより作製することができる。磁気媒体3の深さは信号着磁ピッチの1倍以上が好ましく、上限は設計に応じて任意に決めてよい。また、幅は、信号着磁ピッチの1倍以上が好ましく、広すぎるとバイアス磁界が届かないため、深さの5倍以下程度が好ましい。長さは設計に応じて任意に決められるが、少なくとも信号着磁ピッチ4つ分以上の長さであることが好ましい。
【0055】
本発明に係る実施の形態1において、信号着磁領域50およびバイアス着磁領域53は、共に磁気媒体3の下面まで着磁されていないことが好ましい。すなわち、
図7(a)に示すように、信号着磁領域50を構成する第1の着磁領域51および第2の着磁領域52の最下部が、磁気媒体3の下面より上側に位置するとともに、バイアス着磁領域53の最下部が、磁気媒体3の下面より上側に位置することが肝要である。
【0056】
さらに、
図7(a)に示すように、バイアス着磁領域53の最大着磁深さより、信号着磁領域50の最大着磁深さの方が深いことが肝要である。ここで、「最大着磁深さ」とは、着磁領域の中で最も深い位置における深さを意味し、磁気媒体の上面から、着磁領域の中で最も深い位置までの鉛直方向の距離に相当する。
【0057】
より具体的には、信号着磁領域の深さが、信号着磁の着磁方向が変化する界面21において、バイアス着磁領域の深さより浅く、且つ、界面21間の略中間の位置22において、信号着磁領域の最大着磁深さd2が、バイアス着磁領域の着磁深さd1より深くなるように設定する。
【0058】
このように構成することにより、信号着磁領域が残るため、磁気媒体3の、磁気センサ2に対する相対移動方向(相対回転方向)を判別するために必要な出力を検出することができ、相対移動方向(相対回転方向)を判別することができる。一方、信号着磁後も上書きされず残ったバイアス着磁によって、バイアス磁界が必要な領域(すなわち、信号着磁の着磁方向が切り替わる界面付近であって信号着磁が最小となる領域、例えば界面21)にバイアス磁界を印加することができるため、ヒステリシス誤差を低減することが可能となる。
【0059】
本発明に係る実施の形態1において、磁気エンコーダ1は、感磁面内の磁界を検出する磁気センサ2と、上述した、磁気センサに対して相対移動する磁気媒体3と、を備える。
【0060】
本発明に係る実施の形態1において、磁気媒体3は、磁気センサ2と相対移動することにより、信号着磁領域50から磁気センサ2に対し、周期的な信号漏れ磁界を印加するとともに、バイアス着磁領域53から周期的なバイアス漏れ磁界を印加する。このように構成することにより、磁気センサ2は磁気媒体3から強い信号漏れ磁界を印加されることで、磁気センサ2の出力振幅は高いS/N比を確保できるとともに、磁気媒体3からバイアス磁界を印加されることで、磁気センサ2のヒステリシス誤差を低減することが可能となる。
【0061】
本発明の実施の形態1に係る磁気エンコーダ1に使用される磁気センサは、静的に磁界を検出可能で、磁気ヒステリシスを有し、磁気媒体との相対移動において磁気ヒステリシスが発生する可能性があれば、様々なセンサが考えられる。例えば、磁気抵抗効果素子としては、異方性磁気抵抗効果(AMR)素子、巨大磁気抵抗効果(GMR)素子(例えば、結合型巨大磁気抵抗効果素子、スピンバルブ型巨大磁気抵抗効果(SVGMR)素子)、トンネル磁気抵抗効果(TMR)素子等を使用することができる。以下では、素子の中に、磁気ヒステリシスを有するNiとFeの合金やCoとFeの合金などを含むSVGMR素子を用いた場合について説明するが、当業者であれば、それ以外の磁気抵抗効果素子を用いて本発明を実施することができることは理解されよう。
【0062】
図8は、感磁面内の磁界を検出する磁気センサ2として、スピンバルブ型巨大磁気抵抗効果(SVGMR)素子2aの構成を示す。
図8は、その膜構成図の一例を示している。このSVGMR素子2aは、例えばスパッタ等により、ガラスウェハ11上に下地層12、反強磁性層13、磁化固定層14、非磁性導電層15、磁化自由層16、保護層17をこの順番で形成することにより作製される。外部磁界により積層した面内で磁化自由層16の磁化が回転し、磁化自由層16の磁化方向と磁化固定層14の磁化方向とがなす相対角度によって電気抵抗が変化する。
【0063】
次に磁気媒体の作製方法について説明する。本発明に係る磁気エンコーダ1を作製するに際して、
図5(a)に示すように、磁気ヘッド41を用いて磁気媒体3に対してまずバイアス着磁を行う。バイアス着磁は、磁気媒体3の上面から、磁気媒体3の長手方向(Z方向)と垂直な一の方向(例えば−X方向)にバイアス磁界を印加する。バイアス着磁の着磁が強すぎると以下に説明するように信号着磁によりバイアス着磁を上書きできないため、バイアス着磁は信号着磁の1/2倍以下、さらに好ましくは1/5以上1/2以下の強度でバイアス着磁を行うことが好ましい。バイアス着磁の方向は、−X方向に限らず、−X方向に対して傾斜していてもよい。バイアス着磁の方向と−X方向との角度は、±5°以内であることが好ましい。
【0064】
つづいて、
図6(a)に示すように、バイアス着磁された磁気媒体3に対して信号着磁を行う。信号着磁は、バイアス着磁された磁気媒体3の上面56から、磁気媒体3の長手方向(Z方向)に、所定のピッチ(より具体的に、例えばフェライトを用いた場合は、100μm〜5000μm、好ましくは200μm〜1000μm、より好ましくは400μm〜800μm)で、信号磁界を印加することにより行う。印加する着磁磁界の磁界方向を所定のピッチで反転させながら着磁することを交番着磁と称し、
図6(a)〜(c)に示すように信号着磁として交番着磁を行なうことで、着磁の向きが反転した着磁パターンを形成することができる。このように着磁の向きが反転した一つ一つの要素を磁気媒体要素20a、20bと称する。磁気媒体要素20aには、第1の着磁領域51が形成され、磁気媒体要素20bには、第2の着磁領域52が形成される。当該ピッチよりわずかに小さいギャップ長を有する磁気ヘッドを用いて、磁気ヘッドを移動させながら信号着磁(交番着磁)を行う。磁気ヘッドのギャップは信号着磁のピッチの10%以上70%以下であり、好ましくは40%以上50%未満のギャップであるのが好ましい。磁気ヘッドは、移動量に応じて磁気ヘッドに流れる電流の向きを変えることにより、着磁磁界の磁界方向を反転させることができ、前記磁気ヘッドの移動速度や電流の向きを変えるタイミングを調整することで、前記ギャップ長以上のピッチで着磁できる。これにより、N−S、S−N、N−S、S−Nのように着磁の向きが反転し、N−SまたはS−Nの距離を前記所定のピッチとする着磁パターンを形成することができる。
【0065】
信号着磁は、
図7(a)に示すように、磁気媒体3内の、信号着磁の着磁方向が変化する界面21において、バイアス着磁領域53の深さより、信号着磁領域51、52の深さが浅く、且つ、第1、第2の信号着磁領域の中央下部54、55、すなわち界面21間の略中間の位置22において、バイアス着磁領域53の深さd1より、第1、第2の信号着磁領域51、52の最大着磁深さd2が深くなるように行う。界面21付近において、バイアス着磁領域53が残るため、磁気センサ2は常に同じ方向(−X方向)のバイアス磁界を検出し続けることとなる。そのため、直前の信号着磁の漏れ磁界によって、磁気センサに異なる方向のヒステリシスを残したとしても、磁気センサ2は常に同じ方向(−X方向)のバイアス磁界を検出し、位相のずれを抑制することができる。
【0066】
磁気媒体3に対して信号着磁を施した場合、
図7(a)に示すように、信号着磁された磁気媒体3の着磁深さは界面21で最小となり、界面21間の略中間の位置22で最大となる。界面21間の略中間の位置22において、バイアス着磁の着磁深さが、信号着磁の最大着磁深さより浅くなるため、中間の位置22付近の、信号着磁の着磁深さがバイアス着磁の着磁深さより深い部分において信号着磁はバイアス着磁を上書きして信号着磁領域が残る。すなわち、中間の位置22付近においては、磁気媒体3の、磁気センサ2に対する相対移動方向(相対回転方向)を判別するために必要な出力を検出することができ、相対移動方向(相対回転方向)を判別することができる。
【0067】
また、本発明に係る磁気エンコーダ1において、界面21間の略中間の位置22における、バイアス着磁の着磁深さd1より、信号着磁の最大着磁深さd2が2倍以上あることが好ましく、より好ましくは2倍〜5倍である。界面21間の略中間の位置22におけるバイアス着磁の着磁深さd1より、信号着磁の最大着磁深さd2が2倍未満である場合においては、磁気センサ2で検出される出力が小さくなり、これは上述のように、バイアス磁界を十分に上書きすることができず、信号磁界を検出することが困難となったためと推察される。界面21間の略中間の位置22におけるバイアス着磁の着磁深さd1より、信号着磁の最大着磁深さd2が5倍より大きい場合においては、磁気センサの出力にヒステリシス誤差が発生する。これはバイアス着磁を完全に上書きしてしまい、バイアス着磁が残らなくなったためと考えられる。したがって、界面21間の略中間の位置22におけるバイアス着磁の着磁深さd1が、このような範囲にあれば、相対移動方向(相対回転方向)の判別をより良好に行うことができるとともに、バイアス着磁と信号着磁を同時に磁気媒体3に配置することができる。
【0068】
具体的には、界面21間の略中間の位置22における、信号着磁の最大着磁深さd2が、バイアス着磁の着磁深さd1より2倍以上とするためには、信号着磁する磁界強度をバイアス着磁する磁界強度より2倍以上とする。すなわち、バイアス着磁を行った後、バイアス着磁の磁界強度の2倍以上の磁界強度で信号着磁を行う。また、界面21間の略中間の位置22における、信号着磁の最大着磁深さd2を、バイアス着磁の着磁深さd1の5倍以下とするためには、信号着磁する磁界強度をバイアス着磁する磁界強度の5倍以下とする。すなわち、バイアス着磁を行った後、バイアス着磁の磁界強度の5倍以下の磁界強度で信号着磁を行う。これにより、界面21間の略中間の位置22における、信号着磁の最大着磁深さd2を、バイアス着磁の着磁深さd1の2倍とすることができる。
【0069】
本発明に係る構成を有するか否かは、相対移動方向の違いによる位相のずれが発生しているか否かにより確認することができる。
図3(b)は、本発明に係る製造方法により作製した磁気エンコーダ1、すなわち、
図5(b)、(c)に示すように、磁気媒体3の上面からd1の深さまで一方向(X方向)にバイアス着磁を行い、その後、磁気ヘッド41を磁気媒体3に沿ってZ方向に移動させつつ、
図6の(b)、(c)に示すように、バイアス着磁された磁気媒体3に対して、信号着磁領域の深さが、信号着磁の着磁方向が変化する界面21において、バイアス着磁領域の深さd1より浅く、且つ、界面21間の略中間の位置22において、信号着磁領域の最大着磁深さd2が、バイアス着磁領域の着磁深さd1より深くなるように信号着磁を行った磁気エンコーダ1により得られる波形である。
【0070】
また、
図3(a)は、バイアス着磁を行わず、信号着磁のみ行った磁気エンコーダ1により得られる波形である。
【0071】
図3(b)に示すように、磁性媒体3を磁気センサ2に対して右方向に移動させた場合と左方向に移動させた場合とで位相のずれが生じていないことにより、信号着磁領域の深さが、信号着磁の着磁方向が変化する界面21において、バイアス着磁領域の深さより浅くなっており、信号着磁領域の第1の着磁領域と第2の着磁領域との界面21の下部にバイアス着磁領域が形成されていることが分かる。界面21においてバイアス着磁領域が形成されていない場合、
図3(a)に示すように、磁気センサの磁気ヒステリシスに起因して、磁気センサ2と磁気媒体3の相対移動方向を反転させた際に位相のずれが生じる。一方、界面21において、バイアス着磁領域の深さより浅くなっており、信号着磁領域の第1の着磁領域と第2の着磁領域との界面21の下部にバイアス着磁領域が形成されている場合、信号着磁後も上書きされず残ったバイアス着磁によって、界面21にバイアス磁界を印加することができるため、ヒステリシス誤差を低減することができ、上記位相のずれを抑制することができる。位相のずれが生じていない場合、信号着磁の着磁方向が変化する界面21において、信号着磁領域の深さが、バイアス着磁領域の深さより浅くなっており、信号着磁領域の第1の着磁領域と第2の着磁領域との界面21付近の、磁気媒体3の表面から所定の距離d1までの領域にバイアス着磁領域が形成されていることが確認できる。
このように、位相のずれが発生しているか否かを確認することにより、本発明に係る磁気媒体、磁気エンコーダが上述の構成を有するか否かを確認することができる。
【実施例】
【0072】
本発明の実施形態1に係る磁気エンコーダ1を、磁気媒体3に上述のバイアス着磁及び信号着磁を施し、磁気センサ3に磁気センサ2を対向して配置することにより、作製した。磁気センサ2として、
図8に示すようなSVGMRセンサを用い、磁気媒体3として、飽和磁束密度Brが290mT(ミリテスラ)のフェライトボンド磁石を用いた。
(実施例1)
本発明の実施形態1に係るバイアス着磁と信号着磁を行なった磁気エンコーダ1について、左方向、及び右方向に3mm移動させたときの出力を測定した。その結果を
図3(b)に示す。
【0073】
(実施例2)
本発明の実施形態1に係るバイアス着磁と信号着磁を行なった磁気エンコーダについて、磁気センサと磁気媒体の距離であるエアギャップG
Aを50〜400μmで変えたときの出力振幅を
図9に、累積誤差を
図10に示す。
【0074】
(比較例1)
前記実施例1について、バイアス着磁を行なわなかった磁気エンコーダ1について、左方向、及び右方向に3mm移動させたときの出力を測定した。その結果を
図3(a)に示す。
【0075】
(比較例2)
前記実施例2について、バイアス着磁を従来技術に係る磁気媒体全体に施した場合の磁気エンコーダについて、磁気センサと磁気媒体の距離であるエアギャップG
Aを50〜400μmで変えたときの出力振幅を
図9に、累積誤差を
図10に示す。なお、
図9、10の中や以降の説明において本発明に係る着磁を表面バイアス着磁、従来技術に係る着磁を全面バイアス着磁とも示す。
【0076】
バイアス着磁がされていない磁気エンコーダの場合、
図3(a)に示すように、磁性媒体を磁気センサに対して右方向に移動させた場合と左方向に移動させた場合とで位相のずれが生じた。このようなヒステリシス誤差は、上述したように、磁気センサが検知できる感磁面内の磁界の成分がほとんどゼロとなる領域(すなわち、信号着磁が最小となる、着磁方向が切り替わる界面付近)を磁気センサが通過するときに、その直前の磁界によって磁化した磁気センサの磁気ヒステリシスに起因すると考えられる。このヒステリシス誤差を抑制するため、信号着磁領域の第1の着磁領域と第2の着磁領域との界面21において、信号着磁領域の深さが、バイアス着磁領域の深さより浅くなるように、バイアス着磁領域を形成することにより、ヒステリシス誤差を低減することができ、これにより、
図3(b)に示すように、上述した位相のずれを抑制することができた。
【0077】
図9は、実施例2と比較例2のエアギャップ−出力特性を比較して示したグラフである。エアギャップとは磁気センサと磁気媒体の距離のことであり、磁気エンコーダ取り付け精度による出力への影響が示されている。磁気媒体の表面だけバイアス着磁を行う表面バイアス着磁を行った場合、
図9に示すように、磁気媒体の表面から裏面までバイアス着磁を行う全面バイアス着磁を行った場合より、出力振幅が大きい。
【0078】
例えばエアギャップが50μmの場合、表面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの出力振幅は約17.0mV/Vであり、全面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの出力振幅は約3.8mV/Vであった。この場合、表面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの出力振幅は、全面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの出力振幅の4倍以上であった。
【0079】
また、エアギャップが150μmの場合、表面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの出力振幅は約16.2mV/Vであり、全面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの出力振幅は約2.2mV/Vであった。この場合、表面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの出力振幅は、全面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの出力振幅の7倍以上であった。
【0080】
また、エアギャップが300μmの場合、表面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの出力振幅は約13.8mV/Vであり、全面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの出力振幅は約0.5mV/Vであった。この場合、表面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの出力振幅は、全面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの出力振幅の27倍以上であった。
【0081】
また、エアギャップが400μmの場合、表面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの出力振幅は約11.1mV/Vであり、全面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの出力振幅は約0.1mV/Vであった。この場合、表面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの出力振幅は、全面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの出力振幅の100倍以上であった。
【0082】
以上のように、同じ大きさのエアギャップで比較した場合、表面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの出力振幅は、全面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの出力振幅より大きいことが分かった。
【0083】
このように表面バイアス着磁を行った場合、界面21間の略中間の位置22において、信号着磁領域の最大着磁深さd2が、バイアス着磁領域の着磁深さd1より深くなるように設定することが可能となる。界面21間の略中間の位置22において、第1の着磁領域又は第2の着磁領域からなる信号着磁領域が形成され、第1の着磁領域又は第2の着磁領域の中央下部にバイアス着磁領域が形成されない構成とすることができる。
【0084】
一方、全面バイアス着磁を行った場合、磁気媒体の表面から裏面までバイアス着磁され、信号着磁領域を形成することができる最大深さまでバイアス着磁領域が形成されているため、界面21間の略中間の位置22において、信号着磁領域の最大着磁深さd2が、バイアス着磁領域の着磁深さd1より深くなるように設定することができない。そのため、界面21間の略中間の位置22において、第1の着磁領域又は第2の着磁領域からなる信号着磁領域が形成され、第1の着磁領域又は第2の着磁領域の中央下部にバイアス着磁領域が形成されない構成とすることができない。
【0085】
このように、表面バイアス着磁を行った場合、界面21間の略中間の位置22において、第1の着磁領域又は第2の着磁領域からなる信号着磁領域が形成され、第1の着磁領域又は第2の着磁領域の中央下部にバイアス着磁領域が形成されない構成とすることができるため、信号着磁による信号漏れ磁界強度が強く、磁気エンコーダの出力振幅を大きくすることができる。
【0086】
図10は、実施例2と比較例2のエアギャップ−累積誤差特性を示したグラフである。これは、
図9と同じ構成の全面バイアス着磁を行なった磁気エンコーダと、表面バイアス着磁を行なった磁気エンコーダとを、エアギャップを変えつつ移動量を測定した際の、累積される誤差について測定したものである。表面バイアス着磁を行った場合、
図10に示すように、全面バイアス着磁を行った場合より、累積誤差が極めて小さいことが分かった。
【0087】
例えばエアギャップが50μmの場合、表面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの累積誤差は約5.3μmであり、全面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの累積誤差は約17.3μmであった。この場合、表面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの累積誤差は、全面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの累積誤差の3.2分の1以下であった。
【0088】
また、エアギャップが150μmの場合、表面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの累積誤差は約6.1μmであり、全面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの累積誤差は約524.4μmであった。この場合、表面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの累積誤差は、全面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの累積誤差の86分の1以下であった。
【0089】
また、エアギャップが300μmの場合、表面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの累積誤差は約6.5μmであり、全面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの累積誤差は約1154.1μmであった。この場合、表面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの累積誤差は、全面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの累積誤差の177.6分の1以下であった。
【0090】
また、エアギャップが400μmの場合、表面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの累積誤差は約6.2μmであり、全面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの累積誤差は約48090.1μmであった。この場合、表面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの累積誤差は、全面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの累積誤差の7756.5分の1以下であった。
【0091】
以上のように、同じ大きさのエアギャップで比較した場合、表面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの累積誤差は、全面バイアス着磁を行った磁気エンコーダの累積誤差より極めて小さいことが分かった。また、全面バイアス着磁の場合、エアギャップが大きくなるにしたがって累積誤差は極めて大きくなるのに対して、表面バイアス着磁の場合、エアギャップが大きくなっても累積誤差はほとんど同じであることが分かった。
【0092】
累積誤差を大きくする要因は主に、信号波形の歪、信号振幅の変動、信号に含まれるノイズ成分に対する出力振幅の比率があるが、このように表面バイアス着磁を行った場合、界面21間の略中間の位置22において、第1の着磁領域又は第2の着磁領域からなる信号着磁領域が形成され、第1の着磁領域又は第2の着磁領域の中央下部にバイアス着磁領域が形成されない構成とすることができるため、信号着磁による信号漏れ磁界強度が強く、磁気エンコーダの出力振幅を大きくすることができる。これにより、磁気エンコーダが持つ磁気的、電気的ノイズに対する出力振幅の比率が大きくなり、結果的に累積誤差を小さくすることが可能となる。一方全面バイアス着磁を行った場合、磁気媒体の表面から裏面までバイアス着磁され、信号着磁領域を形成することができる最大深さまでバイアス着磁領域が形成されているため、界面21間の略中間の位置22において、信号着磁領域の最大着磁深さd2が、バイアス着磁領域の着磁深さd1より深くなるように設定することができないため、信号着磁により信号漏れ磁界強度が弱く、磁気エンコーダの出力振幅を大きくすることができない。そのため、磁気エンコーダが持つ磁気的、電気的ノイズに対する出力振幅の比率が小さくなり、結果的に累積誤差が大きくなってしまう。したがって、上述のように、表面バイアス着磁を行った場合、全面バイアス着磁を行った場合より磁気エンコーダの累積誤差を極めて小さくすることができる。