(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス用のシリコンウェーハは、通常、チョクラルスキー法(以下、「CZ法」ともいう。)により育成されたシリコン単結晶から切り出して得られる。CZ法は、坩堝内で原料を溶融して原料融液を生成し、この原料融液に種結晶を接触させた後、種結晶を回転させながら引き上げることにより、種結晶の下に単結晶を成長させる方法である。
【0003】
シリコン単結晶を育成する際、シリコン単結晶に炭素が多く取り込まれると、結晶欠陥が導入されやすくなる。このため、通常は、シリコン単結晶は、なるべく炭素が導入されないようにして、育成する。シリコン単結晶に導入される炭素は、たとえば、炭素製のヒーターを起源としていると考えられる。より詳細には、シリコン単結晶の引き上げに先立って、坩堝内でシリコン原料を溶融する際、シリコン融液と未溶融のシリコン原料とが共存する。この状態で、シリコン融液からSiOが蒸発し、このSiOが、シリコン単結晶育成装置(炉)内のグラファイト部材(主として、ヒーター)と反応してCOガスを生じ、このCOガスが、未溶融のシリコン原料の表面に吸着して、シリコン単結晶に取り込まれる。
【0004】
特許文献1には、シリコン単結晶の炭素濃度を低下させる方法として、多結晶シリコン原料を5〜60mbarの炉内圧で溶融し、100mbar以上の炉内圧でシリコン単結晶の引上を行う、シリコン単結晶の引上方法が開示されている。特許文献1によれば、原料を溶融中の炉内圧を5〜60mbarとすることにより、グラファイト部材から生ずるCOガスのシリコン融液中への混入を抑制でき、その結果、結晶の炭素濃度を低減できる、とされている。
【0005】
特許文献2には、Siソース材料を収容するための石英製坩堝と、石英製坩堝を保持するためのグラファイト製坩堝と、グラファイト製坩堝の全表面を覆い、SiC、TiC、NbC、TaC、ZrCおよびこれらの混合物のいずれかで形成されたコーティングとを備えた、Siの結晶成長装置が開示されている。特許文献2によれば、コーティングにより、グラファイト製坩堝から石英坩堝を介してSiメルト中に炭素が混入することを抑制できると、されている。
【0006】
一方、特許文献3では、育成されるシリコン単結晶の酸素濃度が少なく、このシリコン単結晶に形成される酸素析出物の数が金属不純物の有効な捕捉のために不十分である場合には、シリコン単結晶に、育成時に意図的に炭素を導入することにより、十分な量の酸素析出物を形成できる、とされている。特許文献4では、シリコン単結晶に炭素を意図的に添加することにより、空孔が凝集した空孔クラスタの発生を抑制できる、とされている。このように、特定の目的のために、炭素を意図的に添加(ドープ)して、シリコン単結晶を育成することがある。これらの場合、シリコン単結晶の炭素濃度が所定範囲内になるように、炭素の添加量を制御する必要がある。
【0007】
特許文献3では、シリコン単結晶育成時に、育成装置内に流す不活性ガスフローの流速を制御して、シリコン融液の炭素濃度を調整するとしている。特許文献4の結晶育成方法では、シリコン融液を生成する際に、坩堝内の底面上に炭素粉末を投入することにより、シリコン単結晶に炭素を導入する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1〜4の方法および装置では、シリコン原料を坩堝に投入して昇温する前からシリコン原料に含まれる炭素については十分に考慮されていない。また、特許文献1の方法では、シリコン単結晶について調整可能な炭素濃度の範囲は狭い。以上の理由により、シリコン単結晶の炭素濃度を低減する場合、および、シリコン単結晶に意図して炭素を添加する場合のいずれでも、シリコン単結晶の炭素濃度を、必ずしも十分に制御することができない。
【0010】
さらに、特許文献4の方法では、添加した炭素粉末が、シリコン融液に十分に溶融しないことによって、シリコン単結晶が有転位化しやすいという問題があった。
【0011】
また、シリコン単結晶の育成終了後、坩堝内に残ったシリコン融液にシリコン原料を追加(リチャージ)して溶融し、さらなるシリコン単結晶を育成する場合も、特許文献1〜4の方法および装置を適用すると、上記と同様の問題を生ずる。
【0012】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、シリコン単結晶の炭素濃度を高い精度で制御することができる、シリコン単結晶の育成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、下記(A)および(B)のシリコン単結晶の育成方法を要旨とする。
(A)シリコン原料を溶融して得られたシリコン融液から、チョクラルスキー法により、シリコン単結晶を育成する方法であって、
予め、シリコン単結晶の育成を行い、シリコン原料の比表面積と、当該シリコン原料を溶融して得られるシリコン融液から育成したシリコン単結晶の炭素濃度との関係を表す第1検量線を求める第1予備試験工程と、
前記第1検量線を用いて、育成するべきシリコン単結晶の目標とする炭素濃度に応じて、使用するシリコン原料を決定する第1決定工程と、
前記第1決定工程によって決定された当該シリコン原料を坩堝内に充填する第1充填工程と、
前記第1充填工程で充填された前記シリコン原料を溶融して得られたシリコン融液から前記シリコン単結晶を育成する第1育成工程と
を含む、シリコン単結晶の育成方法。
【0014】
(B)シリコン原料を溶融して得られたシリコン融液から、チョクラルスキー法により、シリコン単結晶を育成する方法であって、
予め、シリコン単結晶の育成を行い、シリコン原料の粒径と、当該シリコン原料を溶融して得られるシリコン融液から育成したシリコン単結晶の炭素濃度との関係を表す第2検量線を求める第2予備試験工程と、
前記第2検量線を用いて、育成するべきシリコン単結晶の目標とする炭素濃度に応じて、使用するシリコン原料を決定する第2決定工程と、
前記第2決定工程によって決定された前記シリコン原料を、坩堝内に充填する第2充填工程と、
前記第2充填工程で充填された前記シリコン原料を溶融して得られたシリコン融液から前記シリコン単結晶を育成する第2育成工程と
を含む、シリコン単結晶の育成方法。
【0015】
上記(A)の育成方法において、前記第1育成工程を終了した後、前記第1決定工程、前記第1充填工程、および前記第1育成工程を繰り返してもよい。同様に、上記(B)の育成方法において、前記第2育成工程を終了した後、前記第2決定工程、前記第2充填工程、および前記第2育成工程を繰り返してもよい。
【0016】
前記第2決定工程において、前記育成するべきシリコン単結晶の目標とする炭素濃度は、1.0×10
16atoms/cm
3以下であってもよく、この場合、前記使用するシリコン原料の粒径を、たとえば、前記シリコン原料の最小長さ、平均粒径、または粒度分布の最大頻度値で、50mmより大きいと決定することができる。
【0017】
前記シリコン原料は、多結晶シリコンを破砕した後に、所定範囲のサイズのシリコン原料を選別したものであってもよく、育成されたシリコン単結晶を破砕した後に、所定範囲のサイズのシリコン原料を選別したものであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の方法によれば、第1または第2検量線を用いて適切なシリコン原料を選択することにより、シリコン単結晶の炭素濃度を、極めて精度よく制御することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
「シリコン原料」とは、シリコン単結晶の原料であって、シリコンの粒子ないし塊の集合体をいうものとし、特に断りのない場合は、個々の形状は限定されず、略球状、楕円体状、板状、棒状等の形状を有していてもよい。
「シリコン原料の粒径」とは、シリコン原料を構成する粒子ないし塊の粒径をいうものとする。
【0021】
本発明者らは、シリコン原料の粒径または比表面積と、このシリコン原料を溶融して得られたシリコン融液から育成したシリコン単結晶の炭素濃度との間に強い相関があることを見出した。具体的には、シリコン原料の粒径が小さくなるほど(比表面積が大きくなるほど)、シリコン単結晶の炭素濃度は高くなる。これは、以下に示す理由から、シリコン原料の粒径が小さくなるほど、単位体積または単位質量あたりのシリコン原料に含まれる炭素が多くなり、これにともなって、単位体積または単位質量あたりのシリコン単結晶に取り込まれる炭素が多くなるためであると考えられる。
【0022】
通常、シリコン原料は、より大きな塊状のシリコンを破砕して製造される。破砕後のシリコン原料の径は、数mm〜数十mmである。シリコン原料に含まれる炭素は、たとえば、シリコン原料を製造する際の環境、および樹脂製の梱包材(たとえば、ビニール袋)を起源としていると考えられる。粒径が小さなシリコン原料ほど、比表面積が大きいことにより、単位体積または単位質量あたりのシリコン原料の表面に付着する炭素量が多くなり得るので、この場合は、シリコン原料において、シリコンに対する炭素の割合が多くなる。
【0023】
また、シリコン単結晶の製造段階では、上述のグラファイト部材から生ずるCOガスのシリコン原料表面への吸着量も、単位体積または単位質量あたりのシリコン原料については、比表面積が大きいほど、すなわち、シリコン原料の粒径が小さいほど、大きくなる。これにともなって、単位体積または単位質量あたりのシリコン単結晶に取り込まれる炭素の量が多くなる。したがって、シリコン原料の表面に吸着したCOガスを起源として、単位体積または単位質量あたりのシリコン単結晶に取り込まれる炭素の量も、シリコン原料の粒径が小さくなるほど(比表面積が大きくなるほど)多くなると考えられる。
【0024】
本発明者らは、このようなシリコン原料の比表面積または粒径とシリコン原料の炭素濃度との関係を利用して、適切なシリコン原料を選択することにより、シリコン単結晶への炭素の導入量を制御して、所望の炭素濃度を有するシリコン単結晶を育成できると考えた。
【0025】
上述のように、本発明の、シリコン単結晶の育成方法は、シリコン原料を溶融して得られたシリコン融液から、チョクラルスキー法により、シリコン単結晶を育成する方法である。
【0026】
本発明の第1の態様の育成方法は、予め、シリコン単結晶の育成を行い、シリコン原料の比表面積と、当該シリコン原料を溶融して得られるシリコン融液から育成したシリコン単結晶の炭素濃度との関係を表す第1検量線を求める第1予備試験工程と、前記第1検量線に基づき、育成するべきシリコン単結晶の目標とする炭素濃度に応じて、使用するシリコン原料の比表面積を決定する第1決定工程と、前記第1決定工程によって決定された当該シリコン原料を坩堝内に充填する第1充填工程と、前記第1充填工程で充填された前記シリコン原料を溶融して得られたシリコン融液から前記シリコン単結晶を育成する第1育成工程とを含む。
【0027】
本発明の第2の態様の育成方法は、予め、シリコン単結晶の育成を行い、シリコン原料の粒径と、当該シリコン原料を溶融して得られるシリコン融液から育成したシリコン単結晶の炭素濃度との関係を表す第2検量線を求める第2予備試験工程と、前記第2検量線を用いて、育成するべきシリコン単結晶の目標とする炭素濃度に応じて、使用するシリコン原料を決定する第2決定工程と、前記第2決定工程によって決定された前記シリコン原料を、坩堝内に充填する第2充填工程と、前記第2充填工程で充填された前記シリコン原料を溶融して得られたシリコン融液から前記シリコン単結晶を育成する第2育成工程とを含む。
【0028】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
原料を所定の範囲の大きさでm水準に分類し、このm水準の大きさの原料を坩堝に充填する場合を考える。ここで、第i(1≦i≦m)番目の大きさに分類される原料を原料iと表現する。坩堝には、m水準すべての原料を充填してもよく、m水準のうちの一部の水準の原料を充填してもよい。すなわち、iは、1〜mのいずれかまたはすべてである。原料iに付随する特性には添え字iを用いて表現する。なお、iが1〜mのいずれひとつの場合は、1種類の原料を想定することになる。この場合は、その原料を用いてシリコン単結晶全体の平均炭素濃度Cが目標とする範囲内となるのか否かを判断し、範囲外と判断した場合は、目標とする範囲内の炭素濃度Cが得られるように必要な処置をとることとする。このような処置として、たとえば、異なるサイズの原料、または異なる原料メーカーの原料等を検討すること、意図的に炭素を添加することなどが挙げられる。
【0029】
シリコン原料に含まれる炭素の量は、シリコン原料の単位体積(または単位質量)あたりの表面積、すなわち、比表面積Sに比例すると仮定すると、シリコン単結晶全体の平均炭素濃度Cは、下記(1)式で表される。
C=S×Kr+C
0
=ΣC
i(i=1〜mから選択される値)+C
0
=ΣS
i×x
i×Kr
i(i=1〜mから選択される値)+C
0 (1)
【0030】
ここで、
S
i:原料iの単位体積(または単位質量)あたりの表面積(比表面積)
C
i:原料iのシリコン単結晶の平均炭素濃度Cへの寄与分(表面起因)
C
0:原料の表面以外に起因する、シリコン単結晶の平均炭素濃度Cへの寄与分(意図的な炭素添加による分を含む)
x
i:投入原料のうち、原料iが占める割合(投入比率;質量比)。X
1+…+X
m=1
Kr
i:原料iの単位表面積あたりのシリコン単結晶の平均炭素濃度Cへの寄与分(比例定数)
である。
【0031】
さらに(1)式は以下のように変形することもできる。
C=ΣS
i×x
i×Kr
i(i=1〜mから選択される値)+C
0
=Σ(4×π×r
i2/(4/3×π×r
i3))×x
i×Kr
i+C
0
=Σ(3/r
i)×x
i×Kr
i+C
0
ここで、r
iは、たとえば、「原料iの個々の原料を原料iの体積を変えずに球形としたときの平均半径」と定義することができる。
このように、原料の比表面積(S
i)と粒径(2×r
i)とは、反比例の関係がある。
【0032】
原料の平均半径r
iの定義は、上記のものに限定されるものでなく、原料の表面積との関係が合理的であると判断できる定義であればよい。また、妥当であれば、(1)式において、Kr
1=Kr
2=Kr
3…(=定数)として、(1)式をより簡便なものとしてもよい。さらに、後述の
図1に示すように、(1)式における定数C
0は、意図的に炭素を添加する場合を除くと、原料表面起因の炭素持込み分に比べて小さいので、無視することとしてもよい。
【0033】
(1)式にあるように、シリコン単結晶全体の平均炭素濃度Cは、原料i(i=1〜mから選択される値)の寄与分(C
i)の総和、および原料表面以外の寄与分C
0から算出できる。したがって、第1予備試験工程で求める第1検量線としては、原料iのC
iに対する個別の検量線、または個別の検量線を複合することにより求められる検量線を用いることができ、これらの検量線から導かれるシリコン単結晶全体の平均炭素濃度Cに対する寄与分の総和から、平均炭素濃度Cを求めることができる。
【0034】
また、(1)式は、原料i(i=1〜mから選択される値)の投入比率(x
i)を適切に選択することにより、シリコン単結晶全体の平均炭素濃度Cを目標とする範囲内にし得ることを示している。すなわち、第1決定工程、または第2決定工程において、原料の大きさの水準1〜mのうち、どの水準のものを使用し、かつ、どのような投入比率とするかを定めて、シリコン単結晶全体の平均炭素濃度Cを目標範囲内にすることが可能となる。このとき、目標とする平均炭素濃度Cが高い場合は、原料表面に起因する炭素に加えて、意図的に原料に炭素を添加する処置を施すこともできる。
【0035】
目標とする平均炭素濃度Cは、ある濃度値としてもよく、ある濃度値以下または未満としてもよい。
【0036】
具体例として、坩堝に充填されるシリコン原料の大きさが、「大径原料A」と「小径原料B」との2水準のみ(m=2)の場合について説明する。大径原料Aは、たとえば、目開きがa
1mmの篩を通過し、かつ目開きがa
2(a
1>a
2)mmの篩を通過しないものとすることができ、小径原料Bは、たとえば、目開きがa
3mm(a
2≧a
3)の篩を通過し、かつ目開きがa
4mm(a
3>a
4)の篩を通過しないものとすることができる。
【0037】
シリコン単結晶全体の平均炭素濃度Cは、
C=C
A+C
B+C
0 (2)
と表される。
【0038】
ここで、
C
A=4×π×r
A2/(4/3×π×r
A3)×x
A×Kr
A
=3/r
A×x
A×Kr
A
C
B=4×π×r
B2/(4/3×π×r
B3)×x
B×Kr
B
=3/r
B×x
B×Kr
B
r
A:大径原料Aの平均半径(個々の原料を球形と仮定)
r
B:小径原料Bの平均半径(個々の原料を球形と仮定)
Kr
A:大径原料Aの単位表面積あたりのシリコン単結晶の平均炭素濃度Cへの寄与分(比例定数)
Kr
B:小径原料Bの単位表面積あたりのシリコン単結晶の平均炭素濃度Cへの寄与分(比例定数)
C
0:原料の表面以外に起因する、シリコン単結晶の平均炭素濃度Cへの寄与分
である。
【0039】
たとえば、大径原料Aと小径原料Bとの充填比(質量比)が0.3:0.7とすると、x
A=0.3、x
B=0.7となり、C
A=3/r
A×0.3×Kr
A、C
B=3/r
B×0.7×Kr
Bである。
【0040】
予め、x
A:x
BとCとの関係を求めておくことにより、Kr
A/r
A、およびKr
B/r
Bの値を求めることができる。したがって、この場合、r
Aおよびr
Bの値が未知であっても、(2)式に基づき、得られるシリコン単結晶の炭素濃度Cを予想することができる。この場合、大径原料Aと小径原料Bとの投入比率により、シリコン単結晶全体の平均炭素濃度Cを制御することができる。
【0041】
また、小径原料Bの平均半径r
Bを変更することによっても、シリコン単結晶全体の平均炭素濃度Cを制御することができる。この場合、シリコン単結晶全体の平均炭素濃度Cは、小径原料Bの平均半径r
Bの逆数に依存して変化する。大径原料Aの平均半径r
Aを変更することによっても、炭素濃度Cを制御することができるが、大径原料Aより小径原料Bの方が、単位質量あたりのCへの寄与は大きいので、小径原料Bの平均半径r
Bを変更する方が、効率的に、Cを調整することができる。
【0042】
炭素濃度Cは、大径原料Aと小径原料Bとの投入比率、および小径原料Bの平均半径r
Bの双方によって制御することも可能である。炭素濃度Cが低いシリコン単結晶を育成する場合は、小径原料Bの投入比率を小さくしてもよく、これに加えて、または、これに代えて、小径原料Bの平均半径r
Bを大きくしてもよい。
【0043】
シリコン単結晶全体の平均炭素濃度Cへの大径原料Aの寄与分が、小径原料Bのものより十分小さい場合、C≒C
B+C
0として、大径原料Aの寄与を無視することも可能である。
【0044】
以上、石英坩堝に充填される原料を、複数水準の大きさの原料が混合されたものとすることにより、製造するべき1本のシリコン単結晶の平均炭素濃度を制御する方法について説明した。次に、この方法を、シリコン単結晶の育成終了後、坩堝内に残ったシリコン融液にシリコン原料を追加(リチャージ)して溶融し、さらなるシリコン単結晶を育成するマルチ引き上げに適用する場合について説明する。
【0045】
リチャージの回数をn回とし、(n+1)本の単結晶を製造する場合、(n+1)本目のシリコン単結晶全体の平均炭素濃度C
n+1は、下記(3)式で表される。
C
n+1=(S×Kr+C
0)+Σ((S×Kr+C
0)
j+Cp
j) (j=1〜n) (3)
【0046】
上記(3)式において、右辺第1項は、シリコン単結晶の平均炭素濃度C
n+1への初期原料チャージによる寄与分、右辺第2項は、シリコン単結晶の平均炭素濃度C
n+1への原料リチャージによる寄与分である。右辺第2項の(S×Kr+C
0)
jは、j回目のリチャージにおける原料表面に付着した炭素によるシリコン単結晶の平均炭素濃度C
n+1への寄与分であり、Cp
jはj回目のリチャージにおけるプロセス起因のシリコン単結晶の平均炭素濃度C
n+1への寄与分である。(3)式は、初期原料チャージの寄与分に加えてリチャージによる寄与分の積算でシリコン単結晶の炭素濃度が定まることを示している。原料として、大きさの異なる複数水準の原料を用いてもよく、その場合は(1)式を(3)式に代入することによって平均炭素濃度C
n+1が求まる。
【0047】
以下に、マルチ引き上げを行う場合にシリコン単結晶の炭素濃度を制御することについて、具体的に説明する。マルチ引き上げを行う場合に、シリコン原料の比表面積で、シリコン単結晶の炭素濃度を表すと、表1に示す通りとなる。表1の添え字の数字(≧1)は、(3)式のjに相当し、リチャージ順の番号を意味する。
【0049】
表1中の記号の意味は、以下の通りである。
S:初期チャージのシリコン原料の比表面積
S
1:1回目のリチャージのシリコン原料の比表面積
S
2:2回目のリチャージのシリコン原料の比表面積
Kr
1:1回目のリチャージにおける原料の比表面積あたりのシリコン単結晶の平均炭素濃度Cへの寄与分(比例定数)
Kr
2:2回目のリチャージにおける原料の比表面積あたりのシリコン単結晶の平均炭素濃度Cへの寄与分(比例定数)
C
P1:1回目のリチャージでのプロセス起因のCへの寄与分
C
P2:2回目のリチャージでのプロセス起因のCへの寄与分
C
1:1回目のリチャージでの原料表面以外かつプロセス起因以外の要因のCへの寄与分(意図的な炭素添加による分を含む)
C
2:2回目のリチャージでの原料表面以外かつプロセス起因以外の要因のCへの寄与分(意図的な炭素添加による分を含む)
【0050】
この場合も、実験により、Kr
1、Kr
2、C
1、C
2、Cp
1、Cp
2のうち必要なものの値を決定すれば、表1の「シリコン単結晶の炭素濃度」の欄の数式を検量線として、シリコン単結晶の平均炭素濃度Cを、原料の平均半径rにより、制御することができる。また、複数の原料の大きさ水準の投入比率により制御することもできる。
【0051】
シリコン原料は、大径原料と小径原料とを併用したものや、単一種の原料として粒径が調整されたものであってもよい。この場合も、シリコン原料の粒径が小さくなる(比表面積が大きくなる)ほど、シリコン単結晶の炭素濃度は高くなる。たとえば、シリコン単結晶の炭素濃度を低減する場合、シリコン原料について、最小長さ、平均粒径、または当該シリコン原料の粒度分布の最大頻度値を、50mmより大きくすることで、初期チャージ引き上げ、およびリチャージ引き上げによるシリコン単結晶の炭素濃度を、いずれも、1.0×10
16atoms/cm
3以下にすることができる。
【0052】
「最小長さ」とは、シリコン原料を構成する粒子ないし塊の長さを異なる複数の方向から測定した場合の最小の長さである。「平均粒径」は、無作為に選んだ数十個の粒子ないし塊の各々について平均的な粒径を測定し、平均したものとすることができる。「粒度分布」は、無作為に選んだ数十個の粒子ないし塊について、粒子ないし塊の粒径の分布とすることができる。
【0053】
シリコン原料の粒径または比表面積と、シリコン単結晶の炭素濃度との関係を表す検量線は、必ずしも、シリコン原料の粒径または比表面積の一次式で表される必要はなく、一次式でずれが大きい場合は、たとえば、n次式(2≦n)、指数関数、対数関数、その他任意の関数式を採用することができる。
【0054】
また、本発明の育成方法では、シリコン単結晶に炭素をドープする場合、炭素粉末を使用する必要がないか、使用する必要がある場合であっても使用量を減ずることができるので、シリコン単結晶の有転位化を抑制することができる。また、通常、シリコン単結晶に炭素をドープするために用いられる炭素粉末は、特殊な仕様のものであるため高価である。本発明の育成方法では、炭素粉末を用いないか、使用する炭素粉末の量を削減することにより、原料コストを低減することができるという付帯効果も得られる。
【実施例】
【0055】
種々の粒度(水準1〜6)に調整したシリコン原料を用意し、各シリコン原料を用いて、シリコン単結晶を育成し、シリコン原料の粒度と、シリコン単結晶の炭素濃度との関係を調べた。各シリコン原料について、リチャージを挟んで、連続して3本のシリコン単結晶を育成した。シリコン原料の粒度の調整は、予め定めた原料サイズ範囲に入るように目視の選別により行った。
【0056】
各シリコン原料を坩堝内に充填(初期チャージ)して100%溶融し、得られたシリコン融液から、CZ法により、1本目のシリコン単結晶を引き上げた。シリコン融液の量が初期の量の約半分となったところで、1本目のシリコン単結晶の育成を終了した。
【0057】
続いて、坩堝内に残ったシリコン融液に、最初に充填したものと同じ粒度のシリコン原料を投入(1回目のリチャージ)して、シリコン融液に溶かし込んだ。そして、このシリコン融液から、1本目のシリコン単結晶と同様にして、2本目のシリコン単結晶を引き上げた。シリコン融液の量が初期の量の約半分となったところで、2本目のシリコン単結晶の育成を終了した。
【0058】
続いて、坩堝内に残ったシリコン融液に、最初に充填したものと同じ粒度のシリコン原料を投入(2回目のリチャージ)して、シリコン融液に溶かし込んだ。そして、このシリコン融液から、1本目のシリコン単結晶と同様にして、3本目のシリコン単結晶を引き上げた。リチャージの量は、いずれも、坩堝内に残ったシリコン融液とリチャージしたシリコン原料との和が、初期チャージのシリコン原料の充填量にほぼ等しくなるようにした。
【0059】
いずれのシリコン単結晶でも、有転位化は生じていなかった。
各シリコン単結晶について、固化率が70%の位置における炭素濃度を測定した。炭素濃度は、FTIR法により測定した。
【0060】
表2に、用いたシリコン原料のサイズの範囲、直径が100mmの円柱状の原料(水準6)を1としたときの各原料の表面積比(以下、単に、「表面積比」ともいう。)、および各原料を用いて育成したシリコン単結晶の炭素濃度(固化率70%の位置におけるもの;以下、単に、「炭素濃度」ともいう。)を示す。原料サイズの範囲は、無作為に選んだ数十個の原料の径の範囲を示している。表面積比は、各シリコン原料の形状を球に近似してその表面積を求め、同じ質量の水準6の原料の表面積で除したものとした。水準6のシリコン原料は、直径が約100mmで、長さが約500mmの円柱状のものであった。
【0061】
【表2】
【0062】
図1に、1〜3本目のシリコン単結晶のそれぞれについて、用いたシリコン原料の表面積比と、シリコン単結晶の炭素濃度との関係を示す。1〜3本目に育成したシリコン単結晶の各々において、シリコン原料の表面積比とシリコン単結晶の炭素濃度とは、極めて強い相関を有する。1〜3本目のシリコン単結晶の各々について、プロットの回帰直線(
図1に、それぞれ、実線、破線、および一点鎖線で示す。)は、シリコン原料の表面積比に対する、シリコン単結晶の炭素濃度についての検量線となっている。したがって、炭素濃度が低く抑えられたシリコン単結晶を育成する場合、および、所定濃度の炭素がドープされたシリコン単結晶を育成する場合のいずれでも、この検量線に従って、使用するシリコン原料の表面積比を決定することができる。そして、この検量線に基づき、シリコン単結晶の目標とする炭素濃度に対応した表面積比(したがって、粒径)を有するシリコン原料を用いることにより、ほぼ目標とする炭素濃度を有するシリコン単結晶を製造することができる。
【0063】
図1は、2本目および3本目のシリコン単結晶を育成するにあたって、リチャージに用いたシリコン原料を、1本目のシリコン単結晶の育成に用いたシリコン原料と同じ粒度のものとした場合の結果を示している。しかし、2本目のシリコン単結晶の育成にあたってリチャージに用いるシリコン原料は、1本目のシリコン単結晶の育成に用いるシリコン原料とは異なる粒度のものであってもよく、3本目のシリコン単結晶育成にあたってリチャージに用いるシリコン原料は、1本目および/または2本目のシリコン単結晶の育成に用いるシリコン原料とは異なる粒度のものであってもよい。
【0064】
図1は、特定のシリコン原料、および特定のシリコン単結晶育成装置を用い、特定の条件で、シリコン単結晶の育成を行った場合の結果であり、これとは異なる原料または装置を用いてシリコン単結晶の育成を行った場合は、検量線は、
図1とは異なる式で表されるものとなり得る。また、上記特定のシリコン原料、および上記特定のシリコン単結晶育成装置を用いても、上記特定の条件とは異なる条件でシリコン単結晶の育成を行った場合も、検量線は、
図1とは異なる式で表されるものとなり得る。