(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記Niめっき金属板を形成する工程は、電解Niめっき処理により、前記金属板の表面に前記Niめっき層を形成する工程を含む、請求項1または2に記載の気密封止用蓋材の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
(
本実施形態)
まず、
図1および
図2を参照して、本発明の
一実施形態による気密封止用蓋材1の構造について説明する。
【0016】
本発明の
一実施形態による気密封止用蓋材1は、後述する水晶振動子20を収納するための電子部品収納部材30を含む電子部品収納用パッケージ100(
図3参照)に用いられる。また、気密封止用蓋材1は、
図1に示すように、平板状に形成されており、長手方向(X方向)におおよそ3.0mmの長さL、幅方向(Y方向)におおよそ2.4mmの幅W1、および、厚み方向(Z方向)におおよそ83μmの厚みt1を有している。
【0017】
ここで、
本実施形態では、気密封止用蓋材1は、
図2に示すように、基材層10と、基材層10の下面10a(気密封止用蓋材1の下面1a側)および上面10b(気密封止用蓋材1の上面1b側)にそれぞれ形成されたNiめっき層11および12とから構成されている。一方で、
図1に示すように、気密封止用蓋材1の側面1cには、全体に亘ってNiめっき層は形成されていない。
【0018】
また、基材層10は、FeとCrとを少なくとも含むFe合金の金属板により構成されている。ここで、基材層10を構成するFe合金におけるCrの含有率は、おおよそ1質量%以上であるのが好ましく、おおよそ4質量%以上であるのがより好ましい。また、基材層10を構成するFe合金におけるCrの含有率は、おおよそ6質量%以上18質量%以下であるのがさらに好ましい。これにより、基材層10の耐食性を効果的に確保することが可能である。
【0019】
また、基材層10を構成するFe合金は、FeおよびCrに加えてさらにNiを含むFe合金からなるのが好ましい。これにより、基材層10の耐食性をより向上させることが可能である。なお、Fe、CrおよびNiを含むFe合金としては、たとえば、36質量%以上47質量%以下のNiと、4質量%以上6質量%以下のCrと、不可避不純物と残部Feとから構成された(36〜47)Ni−(4〜6)Cr−Fe合金や、8質量%のNiと、18質量%のCrと、不可避不純物と残部Feとから構成された8Ni−18Cr−Fe合金などを用いることが可能である。ここで、Niの含有率を36質量%以上47質量%以下にすることにより、基材層10の熱膨張係数を効果的に小さくすることが可能である。
【0020】
また、基材層10を構成するFe合金は、Fe、CrおよびNiに加えてさらにCoを含むFe合金からなるのがより好ましい。これにより、基材層10の耐食性を確保しつつ、基材層10の熱膨張係数を小さくすることが可能である。なお、Fe、Cr、NiおよびCoを含むFe合金としては、たとえば、29質量%のNiと、17質量%のCoと、6質量%のCrと、不可避不純物と残部Feとから構成された29Ni−17Co−6Cr−Fe合金などを用いることが可能である。
【0021】
ここで、基材層10の熱膨張係数を小さくすることによって、一般的に熱膨張係数が小さいアルミナ(Al
2O
3)などのセラミックスの熱膨張係数に近づけることが可能である。これにより、基材層10を備える気密封止用蓋材1と、セラミックスにより構成された電子部品収納部材30の後述する基台31との熱膨張差を小さくすることができるので、電子部品収納用パッケージ100においてクラックの発生やはがれを抑制することが可能である。
【0022】
また、Niめっき層11および12は、おおよそ99質量%以上のNi(いわゆる純Ni)から構成されている。このNiめっき層11および12は、電解Niめっきによって形成されている。また、下面1a側のNiめっき層11は、電子部品収納部材30に対して抵抗溶接の一種であるシーム溶接により溶接される際に、溶融する接合層として機能する。また、上面1b側のNiめっき層12は、シーム溶接により溶接される際に、電気抵抗を低下させる機能を有している。
【0023】
また、気密封止用蓋材1の側面1cのうち、基材層10が露出する部分には、基材層10を構成するFe合金のCrが酸化されることによって、主にCr
2O
3からなる不動態膜(図示せず)が形成されている。これにより、基材層10の耐食性が向上するように構成されている。
【0024】
また、基材層10は、おおよそ80μmの厚みt2を有し、Niめっき層11および12は、共に、おおよそ3μmの厚みt3を有している。なお、基材層10は、おおよそ40μm以上80μm以下の厚みt2を有していればよい。また、Niめっき層11および12は、共に、おおよそ1μm以上10μm以下の厚みt3を有していればよく、おおよそ2μm以上6μm以下の厚みt3を有するのが好ましい。
【0025】
次に、
図3を参照して、本発明の
一実施形態による気密封止用蓋材1が用いられる電子部品収納用パッケージ100の構造について説明する。
【0026】
本発明の
一実施形態による電子部品収納用パッケージ100は、
図3に示すように、気密封止用蓋材1と、水晶振動子20(
図4参照)を収納した状態で、気密封止用蓋材1により気密封止される電子部品収納部材30とを備えている。電子部品収納用パッケージ100では、気密封止用蓋材1は、気密封止用蓋材1の下面1a側のNiめっき層11が電子部品収納部材30側(下側、Z2側)になるように、電子部品収納部材30の上に配置されている。なお、水晶振動子20は、本発明における「電子部品」の一例である。
【0027】
電子部品収納部材30は、セラミックスであるアルミナ(Al
2O
3)により構成された箱型形状の基台31と、基台31にろう付け接合されたリング状のシールリング32と、シールリング32を覆う保護めっき層33とを含んでいる。
【0028】
基台31は、Z2側の底部31aと、底部31aの上面(Z1側の面)の外周縁から上方(Z1側)に延びるように形成された側部31bとを含んでいる。また、電子部品収納部材30には、底部31aおよび側部31bに囲まれるように凹部31cが形成されている。また、水晶振動子20は、バンプ21により凹部31cに固定された状態で、凹部31c内に収納されている。
【0029】
また、側部31bの上端には、メタライズ層31dが形成されている。このメタライズ層31dは、基台31を構成するセラミックス(Al
2O
3)と、シールリング32を構成するFe合金とのろう付け接合を良好にするために形成されている。
【0030】
金属製のシールリング32は、29Ni−17Co−Fe合金(いわゆるコバール(登録商標))により構成された基材32aと、基材32aの少なくとも下面に配置された銀ろう部32bとを有している。また、基台31のメタライズ層31dと、シールリング32の銀ろう部32bとが当接した状態で熱が加えられることにより、銀ろう部32bが溶融される。これにより、基台31とシールリング32とがろう付け接合されている。また、基台31とシールリング32とがろう付け接合された状態で、Niめっき層およびAuめっき層(図示せず)からなる保護めっき層33が、シールリング32を覆うように形成されている。
【0031】
また、気密封止用蓋材1は、電子部品収納部材30のシールリング32の上面に配置された状態で、抵抗溶接の一種であるシーム溶接により溶接されることにより電子部品収納部材30に対して接合されている。つまり、シーム溶接により、気密封止用蓋材1のNiめっき層11が溶融することによって、気密封止用蓋材1がシールリング32の上面に接合されている。
【0032】
この際、銀ろう部32bの一部が気密封止用蓋材1の側面1cに到達して側面1cの一部を覆う場合があるものの、通常、気密封止用蓋材1の側面1cは露出される。ここで、Niめっき層11および12を構成するNiが耐食性を有しているとともに、基材層10が耐食性を有していることによって、気密封止用蓋材1の側面1cが腐食するのが抑制される。
【0033】
次に、
図1、
図2および
図4〜
図8を参照して、本発明の
一実施形態による気密封止用蓋材1の製造プロセスを説明する。
【0034】
まず、
図4に示すように、FeとCrとを少なくとも含むFe合金により構成された帯状の金属板40を準備する。この帯状の金属板40は、コイル状に巻き取られている。また、帯状の金属板40は、幅方向(Y方向)におおよそ12.4mmの幅W2と、厚み方向(Z方向)におおよそ80μmの厚みt2(
図5参照)を有している。そして、複数のガイドローラ50を用いて、コイル状に巻き取られた帯状の金属板40を、搬送方向Aに向かって連続的に送り出す。
【0035】
ここで、
本実施形態の製造方法では、連続的に送り出された帯状の金属板40に対して、フープめっき処理により電解Niめっき処理を行う。このフープめっき処理は、バレルめっき処理とは異なり、帯状の金属板40のような連続体に連続的にめっき処理を行うめっき方法である。
【0036】
具体的には、硫酸ニッケル、塩化ニッケルおよびホウ酸などが含まれたNiめっき浴51を準備する。また、99質量%以上のNiから構成された純Ni板(電解Ni板)52を、Niめっき浴51内に配置する。そして、帯状の金属板40を搬送方向Aに搬送しながら、電解Ni板52を陽極とし、帯状の金属板40を陰極として電圧を印加する。これにより、電解Ni板52のNiが電子を失い陽イオン化して、Niめっき浴51内を帯状の金属板40側に移動するとともに、陽イオン化したNiイオンが帯状の金属板40の表面(全面)において電子を受け取りNiとして析出する。この際、電解Niめっき処理では、帯状の金属板40から直接的に電子を受け取るため、無電解めっき処理と比べて、Niの析出効率が高く、その結果、十分な厚みt3を有するNiめっき層41を確実に形成することが可能である。
【0037】
これにより、帯状の金属板40の全面にNiめっき層41(
図5参照)が連続的に形成されて、帯状のNiめっき板60が連続的に形成される。この際、
図5に示すように、帯状のNiめっき板60の上面、下面および側面の全体(全面)に亘ってNiめっき層41が連続的に形成される。なお、Niめっき層41は、おおよそ3μmの厚みt3で帯状の金属板40の全面に亘って略均一に形成される。その結果、帯状のNiめっき板60の厚みt1は、おおよそ86μmになる。
【0038】
次に、搬送方向Aに向かって搬送される帯状のNiめっき板60を、スリット加工部53において連続的にスリット加工する。具体的には、スリット加工部53は、回転可能に構成されたスリットカッタ部54と、対向ローラ部55とを備えている。また、スリットカッタ部54には、幅方向(Y方向)におおよそ3.1mmの間隔D1を隔てて略等間隔に配置された複数(3個)の切断部54aが設けられている。また、対向ローラ部55は、帯状のNiめっき板60に対してスリットカッタ部54とは反対側に配置されている。
【0039】
そして、帯状のNiめっき板60がスリットカッタ部54と対向ローラ部55との間を通過する際に、間隔D1を隔てて略等間隔に配置された複数の切断部54aによって、帯状のNiめっき板60が幅方向と直交する搬送方向Aに沿って連続的に切断される。これにより、複数(4条)のスリット加工された帯状のNiめっきスリット板70が連続的に形成される。この際、帯状のNiめっきスリット板70の幅W3は、複数の切断部54a同士の間隔D1と略同一(おおよそ3.1mm)になる。なお、帯状のNiめっきスリット板70は、本発明の「Niめっき金属板」の一例である。
【0040】
ここで、帯状のNiめっき板60の幅方向の両端以外から得られる帯状のNiめっきスリット板70では、
図6に示すように、Niめっき層41は、帯状のNiめっきスリット板70の下面70aおよび上面70bのみに配置されることにより、帯状のNiめっきスリット板70の両方の側面70cにおいて、金属板40は露出される。また、帯状のNiめっき板60の幅方向の両端から得られる帯状のNiめっきスリット板70では、Niめっき層41は、帯状のNiめっきスリット板70の下面70aおよび上面70bと、帯状のNiめっきスリット板70の側面70cの一方側とにのみ形成されることにより、帯状のNiめっきスリット板70の側面70cの他方側において、金属板40は露出される。この状態であっても、金属板40が耐食性を有することにより、帯状のNiめっきスリット板70の露出した部分が腐食するのが抑制される。そして、
図4に示すように、複数の帯状のNiめっきスリット板70は、各々コイル状に巻き取られる。
【0041】
また、
本実施形態の製造方法では、
図7に示すように、スリット加工において、帯状のNiめっきスリット板70の幅W3(おおよそ3.1mm)は、気密封止用蓋材1の幅W1(おおよそ2.4mm)よりも所定の取り代(2×D2(おおよそ0.7mm))だけ大きな幅になるように構成されている。なお、所定の取り代(2×D2)は、できるだけ小さい方がより多くの気密封止用蓋材1を形成することが可能になるので好ましい。一方、所定の取り代(2×D2)は、気密封止用蓋材1(Niめっき板60およびNiめっきスリット板70)の厚みt1(おおよそ86μm、
図2、
図5および
図6参照)の約2倍以上(おおよそ172μm以上)であるのが好ましい。これにより、確実に、帯状のNiめっきスリット板70から気密封止用蓋材1を打ち抜くことが可能である。
【0042】
その後、
図8に示すように、コイル状に巻き取られた帯状のNiめっきスリット板70に対して、搬送方向Bに送り出しながら打抜き加工を行う。この際、ベルトコンベアなどの搬送装置
56によって帯状のNiめっきスリット板70を搬送方向Bに搬送しながら、帯状のNiめっきスリット板70から一定間隔毎に気密封止用蓋材1を打ち抜く。この際、気密封止用蓋材1に対応する形状を有する金型が先端に取り付けられたプレス機
57を用いて、帯状のNiめっきスリット板70の幅方向の略中央が気密封止用蓋材1の中央と略一致するように気密封止用蓋材1を打ち抜く。この結果、
図7に示すように、帯状のNiめっきスリット板70の幅方向の両端部から、各々間隔D2(おおよそ0.35mm)だけ内側の位置で気密封止用蓋材1が打ち抜かれる。なお、帯状のNiめっきスリット板70の幅方向の両端部から、各々気密封止用蓋材1の厚みt1以上の間隔D2だけ内側の位置で気密封止用蓋材1を打ち抜くのが好ましい。
【0043】
これにより、
図1および
図2に示すような、基材層10と、基材層10の下面10a(気密封止用蓋材1の下面1a側)および上面10b(気密封止用蓋材1の上面1b側)にそれぞれ形成されたNiめっき層11および12とから構成される一方、側面1cには、全体に亘ってNiめっき層が形成されていない、気密封止用蓋材1が連続的に形成される。
【0044】
なお、帯状のNiめっきスリット板70をコイル状に巻き取らずに、そのまま連続的に帯状のNiめっきスリット板70に対して打抜き加工を行ってもよい。
【0045】
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0046】
本実施形態では、上記のように、打抜き加工される前の耐食性を有する帯状の金属板40の上面、下面および側面の全体(表面)に亘ってNiめっき層41を形成して帯状のNiめっき板60を形成するとともに、帯状のNiめっきスリット板70を打抜き加工して、気密封止用蓋材1を形成する。これにより、Niめっき層41(Niめっき層11および12)が形成されずに金属板40(基材層10)が露出する部分(側面10c(側面1c))が形成されたとしても、金属板40(基材層10)が耐食性を有していることによって、金属板40(基材層10)が露出する部分から金属板40(基材層10)の腐食が進行するのを効果的に抑制することができる。これにより、気密封止用蓋材1が腐食するのを効果的に抑制することができるので、気密封止用蓋材1が用いられる電子部品収納用パッケージ100の気密封止性を維持することができる。また、帯状の金属板40にNiめっき層41を形成して帯状のNiめっき金属板60(帯状のNiめっきスリット板70)を形成し、その後、帯状のNiめっきスリット板70を打抜き加工して気密封止用蓋材1を形成するように構成する。これにより、連続的に帯状のNiめっき金属板60(帯状のNiめっきスリット板70)を形成することができるとともに、連続的に打抜き加工を行って気密封止用蓋材1を連続的に形成することができる。これにより、気密封止用蓋材1が腐食するのを効果的に抑制しながら、気密封止用蓋材1の生産効率を向上させることができる。
【0047】
また、
本実施形態では、帯状のNiめっき板60を形成する工程の後で、かつ、気密封止用蓋材1を形成する工程に先立って、帯状のNiめっき板60をスリット加工することによって、スリット加工により、帯状のNiめっき板60を気密封止用蓋材1の大きさに対応する幅W3に容易に切断することができる。
【0048】
また、
本実施形態では、スリット加工において、Niめっきスリット板70の幅W3を、気密封止用蓋材1の幅W1よりも気密封止用蓋材1の厚みt1の約2倍以上の所定の取り代(2×D2)だけ大きな幅になるように形成する。このように構成すれば、帯状のNiめっきスリット板70の取り代が過度に小さくなるのを抑制することができるので、打抜き加工時に帯状のNiめっきスリット板70にねじれや反りが発生するのを抑制することができる。これにより、打抜き加工時に気密封止用蓋材1の打抜き加工部分にバリが生じるのを抑制することができるとともに、打抜き加工後に気密封止用蓋材1の反りが大きくなるのを抑制することができる。
【0049】
また、
本実施形態では、電解Niめっき処理により、帯状の金属板40の上面、下面および側面の全体(表面)にNiめっき層41を形成することによって、無電解Niめっき処理と比べて、十分な厚みを有するNiめっき層41を確実に形成することができるので、Niめっき層41の形成が不十分な領域が生じるのを効果的に抑制することができる。これによっても、気密封止用蓋材1が腐食するのを効果的に抑制することができる。また、帯状の金属板40の表面に連続的にNiめっき層41を形成する場合であっても、確実に、十分な厚みを有するNiめっき層41を形成することができる。また、無電解Niめっき処理と比べて、Niの純度が高く、不純物の少ないNiめっき層41を形成することができる。
【0050】
また、
本実施形態では、帯状のNiめっきスリット板70を打抜き加工することにより、基材層10と、基材層10の下面10a(気密封止用蓋材1の下面1a側)および上面10b(気密封止用蓋材1の上面1b側)にそれぞれ形成されたNiめっき層11および12とから構成される一方、側面1cには、全体に亘ってNiめっき層が形成されていない、気密封止用蓋材1を形成する。このような側面1cにはNiめっき層41が形成されておらず、その結果、基材層10(金属板)が露出する部分が生じている気密封止用蓋材1であっても、基材層10が耐食性を有していることによって、側面1cから基材層10の腐食が進行するのを効果的に抑制することができるので、気密封止用蓋材1が腐食するのを効果的に抑制することができる。
【0051】
また、
本実施形態では、基材層10を構成する耐食性を有する帯状の金属板40を、4質量%以上のCrとFeとを少なくとも含むFe合金により構成すれば、十分な耐食性を有するように金属板40(基材層10)を構成することができる。
【0052】
また、
本実施形態では、帯状の金属板40および基材層10を、FeおよびCrに加えてさらにNiを含むFe合金により構成すれば、Niにより帯状の金属板40の耐食性をより向上させることができる。また、Niの含有量を36質量%以上47質量%以下に調整することにより帯状の金属板40の熱膨張係数を小さくすることができる。これにより、セラミックスから構成されている基台31に気密封止用蓋材1が接合されたとしても、気密封止用蓋材1と基台31との熱膨張差が大きくなるのを抑制することができる。これにより、気密封止用蓋材1と基台31との接合がはがれたり、気密封止用蓋材1や基台31にクラックが生じたりするのを抑制することができる。さらに、帯状の金属板40および基材層10を、さらにCoを含むFe合金により構成すれば、Coにより帯状の金属板40の熱膨張係数を効果的に小さくすることができるので、気密封止用蓋材1と基台31との熱膨張差が大きくなるのを効果的に抑制することができる。
【0053】
(
参考例)
次に、
図1、
図2および
図9〜
図11を参照して、本発明の
参考例による気密封止用蓋材1の製造プロセスについて説明する。この
参考例による気密封止用蓋材1の製造方法は、
上記実施形態の気密封止用蓋材1の製造方法とは異なり、フープめっき処理の前にスリット加工処理を行う例について説明する。なお、気密封止用蓋材1自体の構造は、上
記実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0054】
まず、
図9に示すように、
上記実施形態と同様に、FeとCrとを少なくとも含むFe合金により構成された帯状の金属板40を準備する。そして、複数のガイドローラ50を用いて、コイル状に巻き取られた帯状の金属板40を、搬送方向A1に向かって連続的に送り出す。
【0055】
ここで、
参考例の製造方法では、
上記実施形態のNiめっき板60に対するスリット加工と同様に、連続的に送り出された帯状の金属板40を、スリット加工部53において連続的にスリット加工する。これにより、帯状の金属板40が複数(4条)の帯状のスリット板160に切断される。なお、4条の帯状のスリット板160の幅W3は、複数の切断部54a同士の間隔D1と略同一(おおよそ3.1mm)になる。そして、複数の帯状のスリット板160は、各々コイル状に巻き取られる。
【0056】
その後、
図10に示すように、コイル状に巻き取られた帯状のスリット板160に対して、搬送方向A2に送り出しながらフープめっき処理による電解Niめっき処理を行う。このフープめっき処理による電解Niめっき処理は、
上記実施形態の帯状の金属板40に対するフープめっき処理による電解Niめっき処理と同様である。これにより、帯状のスリット板160の全体にNiめっき層41(
図11参照)が連続的に形成されて、帯状のNiめっきスリット板170が連続的に形成される。なお、帯状のNiめっきスリット板170は、本発明の「Niめっき金属板」の一例である。
【0057】
ここで、上
記実施形態の帯状のNiめっきスリット板70とは異なり、帯状のNiめっきスリット板170では、帯状のNiめっきスリット板170の上面、下面および側面の全体(表面)に亘ってNiめっき層41が連続的に形成される。なお、Niめっき層41は、厚みt3で帯状のスリット板160の全面に亘って略均一に形成される。そして、帯状のNiめっきスリット板170に打ち抜き加工が行われることによって、
図1および
図2に示す気密封止用蓋材1が形成される。なお、打抜き加工については、上
記実施形態の製造方法と同様であるので、説明を省略する。
【0058】
なお、帯状のスリット板160をコイル状に巻き取らずに、そのまま帯状のスリット板160に対してフープめっき処理による電解Niめっき処理を行ってもよい。
【0059】
参考例では、以下のような効果を得ることができる。
【0060】
参考例では、上記のように、打抜き加工される前の耐食性を有する帯状のスリット板160の上面、下面および側面の全体(表面)に亘ってNiめっき層41を形成して帯状のNiめっきスリット板170を形成するとともに、帯状のNiめっきスリット板170を打抜き加工して、気密封止用蓋材1を形成する。これにより、上
記実施形態と同様に、気密封止用蓋材1が腐食するのを効果的に抑制することができる。
【0061】
また、
参考例では、帯状のNiめっきスリット板170を形成する工程に先立って、帯状の金属板40をスリット加工する。これにより、スリット加工により、帯状の金属板40を気密封止用蓋材1の大きさに対応する幅W3に容易に切断することができる。さらに、たとえば、帯状の金属板40の全てを帯状のNiめっきスリット板170に形成せずに一部を他の用途に用いる場合においては、Niめっき処理が行われる前にスリット加工が行われるので、帯状のNiめっきスリット板170として必要な分だけ、スリット加工された帯状のスリット板160に対してNiめっき処理を行うことができる。これにより、気密封止用蓋材1の生産数が少ない場合(小ロットの場合)であっても、歩留まりが低下するのを抑制することができる。
【0062】
(実施例)
次に、
図2、
図12および
図13を参照して、上記実施形態の効果を確認するために行った気密封止用蓋材に用いる基材層の検討について説明する。
【0063】
ここで、気密封止用蓋材1の基材層10(
図2参照)を構成する耐食性を有する金属として、Niの含有率およびCrの含有率を異ならせた6種のNi−Cr−Fe合金と、1種のNi−Co−Cr−Fe合金と、1種のNi−Cr合金とを用いた。
【0064】
なお、Ni−Cr−Fe合金として、36質量%のNi、6質量%のCr、不可避不純物および残部Feから構成された36Ni−6Cr−Fe合金と、38質量%のNiを含有する38Ni−6Cr−Fe合金と、40質量%のNiを含有する40Ni−6Cr−Fe合金と、42質量%のNiおよび4質量%のCrを含有する42Ni−4Cr−Fe合金と、42質量%のNiを含有する42Ni−6Cr−Fe合金と、47質量%のNiを含有する47Ni−6Cr−Fe合金とを用いた。
【0065】
また、Ni−Co−Cr−Fe合金として、29Ni−17Co−6Cr−Fe合金を用いた。また、Ni−Cr合金として、18質量%のCrと、不可避不純物と残部Feとから構成された18Cr−Fe(いわゆるSUS430)を用いた。
【0066】
一方、耐食性を有しない試験材(比較例)として、Crを含有しないNi−Co−Fe合金を用いた。具体的には、29質量%のNiと、17質量%のCoと、不可避不純物と残部Feとから構成された29Ni−17Co−Fe合金(いわゆるコバール(登録商標))を用いた。
【0067】
(耐食性に基づく基材層の検討)
まず、耐食性試験として、組成の異なる試験材の各々に対して、JIS C60068−2−11に従い、35±2℃の温度、5±1質量%の塩濃度、および、6.5以上7.2以下のpHの条件下で、塩水噴霧試験を48時間以上行った。そして、各々の試験材における腐食の度合いを観察した。ここで、24時間経過後と、48時間経過後とにおいて、耐食性を評価した。また、42Ni−4Cr−Fe合金の試験材については、72時間経過後における耐食性も評価した。また、42Ni−6Cr−Fe合金の試験材については、72時間経過後と、144時間経過後とにおける耐食性も評価した。その際、耐食性の評価として、多くの腐食が確認された金属板には、×印(バツ印)を付した。一方、腐食が若干確認されたものの、実用上問題ない程度である場合には、△印(三角印)を付し、腐食が確認できなかった場合には、○印(丸印)を付した。その結果を参照して、実用上特に適していると評価した基材層の材質には、☆印(星印)、実用上好ましいと評価した基材層の材質には、◎印(二重丸印)、実用上用いることが可能であると評価した基材層の材質には、○印(二重丸印)、実用上不適であると評価した基材層の材質には、×印(バツ印)をそれぞれ付した。
【0068】
塩水噴霧試験の結果としては、
図12に示すように、Crを含有するFe合金のいずれにおいても、24時間経過後において腐食はほとんど確認されなかった。一方、Crを含有しない比較例のFe合金(29Ni−17Co−Fe合金)では、24時間経過後において多くの腐食が確認された。このことから、Crを含有するFe合金は、耐食性を有することが確認できた。
【0069】
また、36Ni−6Cr−Fe合金および38Ni−6Cr−Fe合金では、48時間経過後において若干の腐食が確認された。これにより、基材層を構成するFe合金のFeとNiとの含有率のうち、Niの含有率を増加させることによって、より確実にFe合金の腐食を抑制することが可能であり、耐食性が向上することが判明した。
【0070】
また、42Ni−4Cr−Fe合金では、72時間経過後において若干の腐食が確認された。一方、42Ni−6Cr−Fe合金では、144時間経過後であっても腐食はほとんど観察されなかった。これにより、基材層を構成するFe合金のCrの含有量を6質量%以上にすることによって、さらに確実に腐食を抑制することが可能であり、耐食性が向上することが判明した。したがって、Crの含有量が6質量%以上で、さらに、Niの含有量が40質量%以上であるFe合金が、基材層を構成するFe合金として、特に適していると考えられる。なお40Ni−6Cr−Fe合金および47Ni−6Cr−Fe合金に関しては48時間以上の塩水噴霧試験を行っていないものの、48時間を超える長期間、腐食を十分に抑制することが可能な耐食性を有しているものと考えられる。
【0071】
(熱膨張性に基づく基材層の検討)
次に、上記した試験材の平均熱膨張係数に基づいて、本発明の基材層に適した金属について検討した。なお、封止における溶接対象(基台31)を構成するアルミナ(Al
2O
3)などのセラミックスの熱膨張係数に近い熱膨張係数を有するFe合金が、基材層としてより適していると考えられる。
【0072】
具体的には、各々の試験材に対して、30℃〜300℃の温度範囲における平均熱膨張係数と、30℃〜400℃の温度範囲における平均熱膨張係数と、30℃〜500℃の温度範囲における平均熱膨張係数とを求めた。なお、参考例のアルミナに関しては、30℃〜400℃の温度範囲における平均熱膨張係数のみを求めた。
【0073】
図13に示す平均熱膨張係数から、Coを含有するNi−Co−Cr−Fe合金(29Ni−17Co−6Cr−Fe合金)の熱膨張係数は、Crを含まない29Ni−17Co−Fe合金の熱膨張係数よりも大きいものの、全ての温度範囲においてNi−Cr−Fe合金やNi−Cr合金の熱膨張係数よりも小さくなることが判明した。また、Ni−Co−Cr−Fe合金が、最もアルミナの熱膨張係数に近い熱膨張係数になった。このことから、Ni−Co−Cr−Fe合金は、熱膨張性の観点から気密封止用蓋材1の基材層10を構成する低熱膨張金属として最も好ましいことが判明した。
【0074】
また、Ni−Cr−Fe合金においては、30℃〜500℃の温度範囲において平均熱膨張係数が大きくなったものの、30℃〜300℃の温度範囲において平均熱膨張係数が小さくなった。この結果、約300℃以下の低温環境下に主に配置される気密封止用蓋材1の基材層10としてはNi−Cr−Fe合金も好ましいことが判明した。なお、Ni−Cr−Fe合金のうち、Niの含有率が40質量%以上47質量%以下の場合には、より熱膨張係数を小さくすることができるため、より好ましく、Niの含有率が42質量%近傍の場合には、熱膨張係数をさらに小さくすることができ、さらに好ましいことが判明した。また、Ni−Cr−Fe合金のうち、Crの含有率が6質量%よりも小さい場合には、より熱膨張係数を小さくすることができるため、より好ましいことが判明した。
【0075】
また、Cr−Fe合金(18Cr−Fe合金)では、全ての温度領域において熱膨張係数がある程度大きくなったものの、温度変化による熱膨張係数の変動は小さかった。特に、30℃〜500℃の温度範囲においては、(36〜40、47)Ni−6Cr−Fe合金よりも熱膨張係数が小さくなった。このことから、特に約400℃以上の高温環境下に配置される気密封止用蓋材1の基材層10としてはCr−Fe合金も好ましいことが判明した。
【0076】
なお、今回開示された実施形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態および実施例の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0077】
たとえば、上記
実施形態および
参考例では、気密封止用蓋材1が、基材層10と、基材層10の下面10aおよび上面10bにそれぞれ形成されたNiめっき層11および12とから構成された例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、
図14に示す
上記実施形態および
参考例の第1変形例のように、気密封止用蓋材201を、基材層10と、基材層10の下面10a(電子部品収納部材側(Z2側)である下面1a側)に形成されたNiめっき層11とのみから構成し、上面10bにNiめっき層を形成しなくてもよい。なお、この気密封止用蓋材201は、帯状の金属板または帯状のスリット板の上面に図示しないマスクを形成した状態で、フープめっき処理により電解Niめっき処理を行い、その後、マスクを除去するとともに打抜き加工を行うことによって形成することが可能である。
【0078】
また、上記
実施形態および
参考例では、気密封止用蓋材1を平板状に形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、
図15に示す第1および第2本実施形態の第2変形例のように、気密封止用蓋材301に、側端部の全周から下方(Z2側)に突出する壁部301dを設けることによって、気密封止用蓋材301を箱状に形成してもよい。なお、
図15に示すように、壁部301dの下端は鍔状に形成されるのが好ましい。
【0079】
また、上
記実施形態では、スリット加工部53により、帯状のNiめっき板60を4条の帯状のNiめっきスリット板70にスリット加工する例を示し、上記
参考例では、スリット加工部53により、帯状の金属板40を4条の帯状のスリット板160にスリット加工する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、帯状の板部材を4条の帯状のスリット板にスリット加工する場合に限られない。つまり、帯状の板部材を2条、3条、または、5条以上の帯状のスリット板にスリット加工してもよい。たとえば、おおよそ50mmの幅を有する帯状の金属板を16条のスリット板にスリット加工してもよい。この場合、スリット板の幅は、おおよそ3.1mmになる。
【0080】
また、上
記実施形態では、帯状のNiめっきスリット板70から1つの気密封止用蓋材1を連続的に打抜く例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、複数の気密封止用蓋材を一度に打ち抜けるような形状を有する金型を用いることによって、一度に複数の気密封止用蓋材を打ち抜いてもよい。ここで、帯状のNiめっきスリット板の幅方向に複数(たとえば、3つ)の気密封止用蓋材を打ち抜く場合には、帯状のNiめっきスリット板の幅は、気密封止用蓋材の幅(W1)と所定の取り代(2×D2)との合計の複数倍(3倍)である(3×(W1+(2×D2)))の大きさにする必要がある。
【0081】
また、スリット加工されるスリット板の幅を各々異ならせてもよい。これにより、
上記実施形態のようにNiめっき板をスリット加工する場合には、複数の気密封止用蓋材の幅に各々対応するNiめっきスリット板を一度に形成することが可能である。また、
参考例のように金属板をスリット加工する場合には、複数の気密封止用蓋材の幅に各々対応するスリット板を形成することができるとともに、Niめっき層が形成されていないことにより、気密封止用蓋材以外の用途にもスリット板を用いることが可能になる。
【0082】
また、上記
実施形態および
参考例では、Niめっき層11および12が99質量%以上の純Niにより構成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、Niめっき層は、より純度の低いNiから構成してもよい。また、Niめっき層をNi合金により構成してもよい。たとえば、帯状の金属板に無電解めっき処理を行うことによって、Niめっき層をNi合金により構成してもよい。
【0083】
また、上
記実施形態では、抵抗溶接の一種であるシーム溶接により、気密封止用蓋材1と電子部品収納部材30とを接合する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、抵抗溶接の一種である抵抗スポット溶接により、気密封止用蓋材と電子部品収納部材とを接合してもよい。また、抵抗溶接以外の接合方法を用いて、気密封止用蓋材と電子部品収納部材とを接合してもよい。たとえば、電子ビームを用いた電子ビーム溶接によって、気密封止用蓋材と電子部品収納部材とを接合してもよい。
【0084】
また、上
記実施形態では、水晶振動子20を電子部品収納部材30に収納した例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、SAWフィルタ(表面弾性波フィルタ)などを電子部品収納部材に収納してもよい。
【0085】
また、上
記実施形態では、帯状の金属板40にNiめっき層41を形成して帯状のNiめっき板60を形成する例を示し、上記
参考例では、帯状のスリット板160にNiめっき層41を形成して帯状のNiめっきスリット板170を形成する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、所定の大きさに切断された帯状でない金属板やスリット板にNiめっき層を形成して、帯状でないNiめっき板またはNiめっきスリット板を形成してもよい。