(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、亜鉛製錬所における亜鉛地金の原料として、粗酸化亜鉛等の亜鉛含有鉱から、不純物を分離除去して得た酸化亜鉛鉱が広く用いられている。
【0003】
粗酸化亜鉛は、例えば、鉄鋼業における高炉や電気炉等の製鋼炉から発生する鉄鋼ダストに還元焙焼処理を施すことによって得ることができる。この鉄鋼ダストの還元焙焼処理は、一般に、ロータリーキルンによる還元焙焼処理によって行われる。
【0004】
ロータリーキルンによる還元焙焼処理を行う場合、原料とする鉄鋼ダストは、カーボン等の炭素質還元剤とともに、ロータリーキルン内に投入される。又、亜鉛の揮発率をより向上させるために、ロータリーキルン内に投入する鉄鋼ダストを、予め炭素質還元剤と混合造粒して大きさ5〜10mm程度の還元剤内装型のペレットに成形することも広く行われている(特許文献1参照)。
【0005】
還元焙焼処理を行うロータリーキルン内は燃料重油と上記の炭素質還元剤の燃焼により、最高温度が1100〜1200℃程度にコントロールされている。このロータリーキルン内で鉄鋼ダストは還元焙焼され、揮発した金属亜鉛はキルン内で再酸化されて固形化した後、粒子状の粗酸化亜鉛として電気集塵機等で捕集される。そして、回収された粗酸化亜鉛は、更にその後の湿式工程や乾燥加熱工程によって更に不純物を分離して必要な程度にまでその亜鉛品位を高めた酸化亜鉛鉱とされ、亜鉛製錬の原料となる。
【0006】
ここで、資源リサイクル促進の観点からは、上記の鉄鋼ダストの亜鉛原料としての再利用は望ましいものである。しかし、一方で鉄鋼ダスト由来の粗酸化亜鉛には、その主成分である酸化亜鉛以外に、フッ素や塩素等のハロゲン族元素からなる不純物が一定以上の濃度で含有されている。
【0007】
ここで、最終製品である亜鉛の品位を高めるためには、その材料となる酸化亜鉛鉱のハロゲン濃度を極めて低いものとすることが求められる。
【0008】
酸化亜鉛鉱のハロゲン濃度を低減するために、還元焙焼後の粗酸化亜鉛からハロゲン族元素を分離除去する方法としては、乾燥加熱炉による焼成によってハロゲン成分を揮発させて分離する方法(特許文献2参照)がある。
【0009】
ハロゲン族元素の分離除去を行うための手段として、上記の焼成を行うロータリーキルン内の温度を高めてハロゲン族元素の揮発率を高める方法がある。しかし、ロータリーキルン内の温度を、例えば1300℃程度まで高めた場合には、乾燥加熱処理による反応生成物が軟化・溶融してロータリーキルン内壁に付着し、付着物が操業時間の経過に伴って成長増大し、原料がロータリーキルン内を移動する際の障害物となり、遂には操業の停止を招くという欠点がある。
【0010】
酸化亜鉛鉱の製造現場においては、ハロゲン族元素を除去して高品位の酸化亜鉛鉱を得るために、高温操業によるロータリーキルンの稼動率の低下を、ある程度は容認せざるをえないのが現状であり、高い稼動率を維持したまま、高品位の酸化亜鉛鉱を得ることができる酸化亜鉛鉱の製造方法が求められていた。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施態様について図面を参照しながら説明する。
【0022】
<全体プロセス>
本実施例の酸化亜鉛鉱の製造方法は、乾燥加熱工程への炭素の混入量を制御することによって酸化亜鉛鉱の亜鉛品位を向上させる点にその特徴がある製造方法である。このような本発明の製造方法は、例えば、
図1に示すような全体プロセスに、好ましく適用することができる。このような実施態様によれば、ロータリーキルンの稼動率を維持したまま、酸化亜鉛鉱の亜鉛品位を高濃度範囲、具体的には65%以上の濃度に維持することができる。
【0023】
この全体プロセスは、
図1に示すように、鉄鋼ダスト等の粉末状の原料鉱と、リサイクルカーボン等の炭素質還元剤とを混合造粒して還元剤内装ペレットとする予備混合工程S10と、還元剤内装ペレット、及び、その他の鉄鋼ダストを、還元焙焼して粗酸化亜鉛を得る還元焙焼工程S20、還元焙焼工程S20で得た粗酸化亜鉛から、フッ素や塩素等のハロゲン族元素を処理液中に分離除去して粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式工程S30、及び、湿式工程S30で得た粗酸化亜鉛ケーキを乾燥加熱して酸化亜鉛鉱を得る乾燥加熱工程S40、乾燥加熱工程S40で発生した排ガスダストを洗浄して洗浄後の排ガスダストケーキを得る排ガスダスト洗浄工程S50、排水処理工程S60及び、炭素濃度測定工程S70と、を備える。
【0024】
本実施例の酸化亜鉛鉱の製造方法は、特に乾燥加熱工程S40において乾燥加熱ロータリーキルン(DRK)に投入される粗酸化亜鉛ケーキの炭素濃度を所定範囲以下に制御することによって、酸化亜鉛鉱の品位を向上させることができるという独自の知見に基づき、このような制御を主として還元剤内装ペレットの材料及び配合の最適化によって実現する点にある。この方法によれば、ロータリーキルンの稼動率を維持したまま、酸化亜鉛鉱の亜鉛品位を65%以上の高濃度に維持することができる。このような酸化亜鉛鉱は、電解製錬向け酸化亜鉛鉱としても好ましく用いることができる。
【0025】
<予備混合工程>
予備混合工程S10は、還元焙焼工程S20に先駆けて、鉄鋼ダスト等の原料鉱とリサイクルカーボン等の炭素質還元剤とを主体とする粉体を混合造粒して還元剤内装ペレットとする工程である。この混合造粒の作業は、一般的に用いられるペレタイジング装置を使用することができる。例えば、回転式のパン型ペレタイザーを用いて、鉄鋼ダストとリサイクルカーボン、及び必要に応じてその他の添加物とを、所定のペレット組成となるように連続的に供給し、ミスト状の水分を添加しながらペレタイジングする。ペレットのサイズとしては5〜10mm程度が好ましく、含水率としては10〜15質量%程度となることが好ましい。
【0026】
本発明の製造方法においては、原料鉱として、その粒度分布が本発明所定の特定範囲にある粉末状の原料鉱を用いることができる。即ち、0.5mmアンダーの割合が10%以下の粒度分布を有する粉末状の原料鉱を用いることができる。原料鉱の粒度分布について、0.5mmアンダーの割合が10%を超えると、乾燥加熱工程でDRKに混入する炭素量が好ましくない範囲にまで増加するからである。DRKに混入する炭素量が増加する理由は以下の通りであると考えられる。先ず、上記のように粒径の極めて小さい原料鉱の割合が一定割合以上に増加すると、ペレット形成時のその核となりペレット全体の強度を保持しえるだけの最小限の粒径にも満たない極小の粒子の割合が増えることになる。このため、相対的に強度の小さいペレットや、ペレット化されずに極小の微粉末状のまま還元焙焼工程に混入されてしまう還元剤の割合が増加する。そして、この相対的に強度の小さいペレットの多くは、還元焙焼工程を行う還元焙焼ロータリーキルン(RRK)内において転がり、或いは擦れ合いながら移動する最中に序々に砕けてゆき、ペレット内の還元剤がRRK中で飛散する。この飛散した還元剤や、上記の極小の微粉末状のままRRK内に混入されてしまった還元剤の多くは、還元剤としての機能を発揮しえないまま、RRK内の気流にのってRRKの外に運び出されてしまう。以上より、原料鉱の粒度分布について、0.5mmアンダーの割合が10%を超える場合には、乾燥加熱工程でDRKに混入する炭素量増加するものと考えられる。
【0027】
又、この粒度分布については、6.7mmオーバーの割合が50%以上であることがより好ましい。原料鉱の粒度分布について、6.7mmオーバーの割合が50%未満であると、乾燥加熱工程でDRKに混入する炭素量が好ましくない範囲にまで増加するからである。粒径の小さな原料鉱の割合が増加するに従い、ペレットの核となる粒子が小さくなるためペレットの強度が低下してしまう。この場合も上記同様に、この相対的に強度の小さいペレットの多くは、RRK内で徐々に砕けてゆき、ペレット内の還元剤がRRK中で飛散する。そして、飛散したこれらの還元剤の多くは、やはり還元剤としての機能を発揮しえないまま、RRK内の気流にのってRRKの外に運び出されてしまう。以上より、原料鉱の粒度分布について、6.7mmオーバーの割合が50%未満である場合には、乾燥加熱工程でDRKに混入する炭素量増加するものと考えられる。
【0028】
上記の粒度分布についての条件を満たす限り、原料鉱として、亜鉛を含む有価金属を含有する種々の粉末状の鉱石を用いることができる。又、金属の精錬工程や加工工程で発生するダストやスラジであって、ペレット化可能な粉体、又はスラリー状のものも用いることができる。中でも、資源リサイクルの促進、コスト削減の観点から、鉄鋼ダストを好ましく用いることができる。以下、本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法において粗酸化亜鉛の原料鉱として鉄鋼ダストを用いる場合について説明する。
【0029】
粒度分布に関する上記の条件を満たすものである限り、一般に亜鉛品位が高く、よって一般的還元焙焼条件における亜鉛の揮発率が相対的に低い鉄鋼ダスト(以下「鉄鋼ダストA」とも言う)であってもよい。このような鉄鋼ダストAについても、予備混合工程S10によって、予め、還元剤内装ペレットとすることにより、亜鉛の揮発率が相対的に高い一般的な鉄鋼ダスト(以下「鉄鋼ダストB」とも言う)を、炭素質還元剤を内装せずに、還元焙焼炉に投入した場合と同様に、高い揮発率で亜鉛を揮発させて回収することができる。
【0030】
本発明の製造方法においては、炭素質還元剤として、その粒径が本発明所定の特定範囲にある粉末状の還元剤を用いることができる。即ち、粒径200μm以下のカーボンやリサイクルカーボン等の還元剤であって、ペレット化可能な粉体、又はスラリー状のものを用いることができる。
【0031】
炭素質還元剤としては、資源リサイクルの促進、コスト削減の観点から、リサイクルカーボンを好ましく用いることができる。リサイクルカーボンは、概ね均一な粉体状のものを、相対的に他の炭素質還元材料よりも、低廉且つ容易に入手し易い。そして、そのような粉体状のリサイクルカーボンは、還元剤内装ペレット中での分散性に優れ、又、造粒も容易である。以上より、特に粉体状のリサイクルカーボンは、本発明の製造方法に用いる炭素質還元剤として極めて好ましく用いることができる。以下、本明細書では、本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法において還元剤内装ペレットを得るために用いる炭素質還元剤として粉体状のリサイクルカーボンを用いる場合について説明する。
【0032】
鉄鋼ダストAとリサイクルカーボンとをパン型ペレタイザーで混合造粒して製造する還元剤内装ペレットは、混合造粒時点における炭素濃度を18%以下に調整しておく。
【0033】
以上述べた通り、還元剤内装ペレットの製造に用いる粉状材料の粒度分布と、ペレット中の炭素濃度を上記特定範囲内に保持することによって、その後の各工程を経て、乾燥加熱工程でDRKへ投入される時点での炭素濃度を2%以下とすることができ、又、その結果として粗酸化亜鉛の亜鉛品位を65%以上とすることができる。
【0034】
尚、上記の乾燥加熱工程でDRKへ投入される時点での炭素濃度の調整は、還元焙焼ロータリーキルン(RRK)への投入時の還元剤内装ペレットの下記の定義による圧壊強度が、4200g以上6500g以下、好ましくは、6000g程度となるように造粒されたものであることが好ましい。圧壊強度が、この範囲内に最適化されていることにより、更に安定的に本発明の効果が発現する。圧壊強度が4200gを大きく下回ると、ペレットに必要な強度が不足し、ペレットがRRK内での移動中に徐々に砕けてゆき、その結果、上記と同様の理由により、DRKへの炭素の混入が増加する場合があり、又、6000gを大きく超えると、ペレットの強度が過剰となり、還元剤としての作用が不充分となる場合があるからである。
【0035】
[圧壊強度の定義]
本明細書において、圧壊強度とは、以下に定義する値のことを言うものとする。
圧壊強度:還元剤内装ペレットを、ばね計りと、試料設置板を備える圧壊強度測定装置により圧縮した場合に、還元剤内装ペレットが、損壊した時点のばね計りの測定値(g)を、当該還元剤内装ペレットの圧壊強度(g)とする。尚、測定時の試料の安定性を確保して、測定を安定的に行うためには、例えば、試料にかかる圧力を、3つのばね計りで、それぞれ測定した3カ所の圧力の合計として測定する3点指示型の圧壊強度測定装置を好ましく用いることができる。この場合には上記の3つのばね計りのそれぞれの測定値の和が上記の圧壊強度(g)となる。
【0036】
尚、上記の還元剤内装ペレットの圧壊強度は、原料鉱とする鉄鋼ダスト等の圧壊強度に強く依存する。よって、選択する鉄鋼ダストの強度を高強度のものに限定することによって所望の圧壊強度のペレットを製造することができる。又、ペレット造粒後のエイジング期間を調整することによっても適宜所望の圧壊強度とすることができる。
【0037】
<還元焙焼工程>
還元焙焼工程S20を行う具体的な方法としては、還元焙焼ロータリーキルン(RRK)による還元焙焼法が一般的に採用されている。還元焙焼工程S20では、予備混合工程S10において得た還元剤内装ペレットが、石灰石等とともに、RRKに連続的に投入される。又、この際、還元剤内装ペレットとした鉄鋼ダストA以外にも、比較的亜鉛揮発率の高い鉄鋼ダストBが、コークス等の炭素質還元剤とともに、RRKに同様に投入されてもよい。この場合において、鉄鋼ダストBは、やはり、必要に応じて予め大きさ5〜10mm程度のペレットに成形されていることが好ましい。
【0038】
このRRKの炉内は重油の燃焼と投入した炭素質還元剤の燃焼により、被処理物の最高温度が1100〜1200℃程度にコントロールされている。この炉内で鉄鋼ダストAを含む還元剤内装ペレット及び鉄鋼ダストBはいずれも還元焙焼され、揮発した金属亜鉛は炉内で再酸化されて粉状の酸化亜鉛となる。粉状の酸化亜鉛は、RRKからの排出ガスとともに集塵機に導入され、捕捉されて粗酸化亜鉛として回収される。
【0039】
鉄鋼ダストから還元焙焼工程によって得る粗酸化亜鉛には、一般的には8〜20質量%程度のハロゲン族元素等の不純物が含有されている。本実施例の還元焙焼工程S20においては、還元焙焼処理後の粗酸化亜鉛の炭素濃度が2.0質量%未満となるように調整することが好ましい。鉄鋼ダストの組成や造粒状態、CaO等の添加剤混合量をキルン内風速や攪拌状態を鑑みて十分に調整することによって粗酸化亜鉛の炭素濃度を2.0質量%未満とすることができる。本実施例においては、後の湿式工程S30に投入する炭素濃度を上記範囲に調整することにより、電解製錬法による亜鉛製錬にも好ましく用いることができる亜鉛品位が65質量%以上の高品位の酸化亜鉛鉱を、効率よく製造することができる。
【0040】
尚、上記還元焙焼法によって、揮発せずにキルン中に残った還元焙焼残渣は、還元された鉄分が多く含有されるため、還元鉄ペレットと称する製品としてキルン排出端より回収され、鉄鋼メーカーに鉄原料として払いだされる。
【0041】
<湿式工程>
粗酸化亜鉛に含有されるフッ素や塩素等のハロゲン族元素を含んでなる不純物を処理液中に分離抽出し、更に固液分離処理によって、粗酸化亜鉛から不純物を水洗浄法により除去して粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式処理は、以下の湿式工程S30における処理によって行うことができる。
【0042】
還元焙焼工程S20により鉄鋼ダストから回収された粗酸化亜鉛は、工業用水等でレパルプされる。回収は、電気集塵機等で行うことができる。又、このレパルプについてはアルカリ溶液を使用する必要はない。スラリーとなった粗酸化亜鉛はpH調整及び凝集処理を行い、その後、1次脱水を行う。pHは6〜7程度の弱酸性溶液に調整してカドミウムを溶離、凝集は凝集剤等を利用して沈降性を高める。この1次脱水後、工業用水で希釈し、更に2次脱水を行う。この2度の洗浄脱水により、酸化亜鉛ケーキのハロゲン濃度は、フッ素濃度について0.6質量%未満、塩素濃度については、1.0質量%未満にまで低減することが好ましい。
【0043】
フッ素等の不純物が処理液中に除去された状態において、固液分離により、不純物が分配された処理液をスラリーから除去する。これにより、粗酸化亜鉛スラリーがより高濃度の粗酸化亜鉛ケーキとなる。尚、固液分離のための脱水処理については、シックナー等の重力沈降式スラリー濃縮装置や真空脱水機等の水分強制脱水装置を用いることができる。
【0044】
<乾燥加熱工程>
湿式工程S30で得た粗酸化亜鉛ケーキを、乾燥加熱ロータリーキルン(DRK)等の加熱炉に投入して焼成する乾燥加熱工程S40により、亜鉛品位を更に高めつつ、酸化亜鉛鉱を製造することができる。
【0045】
本発明の製造方法は、全体プロセスの上流側工程である予備混合工程S10において、還元剤内装ペレットの性状を所定の条件範囲内に予め最適化することによって、この乾燥過熱工程において、DRKに投入される粗酸化亜鉛ケーキの炭素濃度を、2.0質量%以下に保持することに特徴がある。この粗酸化亜鉛ケーキの炭素濃度は、上述の通り、還元焙焼工程に投入される炭素質還元剤内装ペレットの炭素濃度と、ペレットを構成する各粉状の材料の粒度分布に大きく依存する。この二つの要因を制御することによって、DRKに投入する粗酸化亜鉛ケーキの炭素濃度を適切な範囲に保持することができる。
【0046】
乾燥加熱処理の焼成温度については、DRKから排出される際の被焼成物の温度が1100℃以上1150℃の範囲の温度となるように、炉内温度を維持管理することが好ましい。本明細書において、「1100℃で焼成する」とは、上記の通り、DRKの排出端における被焼成物の温度が1100℃となるような炉内温度環境で被焼成物を焼成することを言うものとする。
【0047】
ここで、粗酸化亜鉛ケーキ中に尚残留する炭素によりDRK内の還元雰囲気が強まると、亜鉛は排ガス中に還元揮発し、製品への亜鉛固定率は減少し、酸化亜鉛鉱中の亜鉛品位は低下する。又、DRK内の還元雰囲気が強まることは、フッ素等のハロゲン族元素の揮発が妨げられて、亜鉛品位を低下させる要因となる。
【0048】
本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法においては、DRKによる焼成を、ロータリーキルンの稼動率の低下を引き起こすリスクの小さい一般的な操業温度である1100℃以上1150℃以下程度の範囲内で行いながら、DRKに投入される粗酸化亜鉛ケーキの炭素濃度を、全体システムの上流側工程である予備混合工程S10において、炭素質還元剤の添加量を調整することによって適切に制御し、これにより、亜鉛品位の高い高品位の粗酸化亜鉛を安定的に製造することができる。
【0049】
<排ガスダスト洗浄工程>
乾燥加熱工程S40で発生した排ガスダストを洗浄して洗浄後の排ガスダストケーキを得るための排ガスダスト洗浄工程S50を行うための洗浄設備としては、洗浄塔、湿式電気集塵機の組み合わせが一般的である。又、これらの設備で回収された洗浄後の排ガスダストケーキを、乾燥加熱工程S40のDRK等の上流工程に繰り返して循環投入することにより、金属資源の有効利用を図る処理が従来行われている。
【0050】
<排水処理工程>
排水処理工程S60は、湿式工程S30において粗酸化亜鉛から分離されたフッ素やカドミウムを高濃度で含有する廃液から、フッ素及びカドミウムを除去し、更に、廃液中に微量含まれる重金属を中和処理により抽出し、最終的にpHを調整して無害の排水とする工程である。
【0051】
湿式工程S30において分離された廃液中には粗酸化亜鉛から極微量溶出した亜鉛及び/又は鉛成分も含有している。この重金属成分の回収のために上述の通り中和処理を行う。この中和処理は一般に消石灰を添加することにより行う。この消石灰の添加方法は、固体状の消石灰を直接湿式処理液に添加する方法や、消石灰を液体状に溶解した溶解液を湿式処理液に添加する方法等が使用できる。又、消石灰の添加量は、添加後の中和処理液のpHを測定することで調整することもできる。
【0052】
尚、この中和処理により回収された亜鉛化合物或いは鉛化合物を含有する中和処理澱物は、湿式処理工程に繰り返して用いられ、還元焙焼工程から得られる酸化亜鉛スラリーとともに湿式処理され、DRKにて焼成及び造粒を行い、酸化亜鉛鉱に固定させる方法が一般的に行われている。
【0053】
<炭素濃度測定工程>
本発明においては、乾燥加熱工程S40に投入される粗酸化亜鉛ケーキの炭素濃度を、測定する工程である炭素濃度測定工程S70を、湿式工程S30と乾燥加熱工程S40との間の工程として設けてもよい。炭素濃度の測定方法としては、上述の通り、XRF分析による測定方法を好ましい一例として挙げることができる。この炭素濃度測定工程S70によって、上記の祖酸化亜鉛ケーキの炭素濃度を、常時、或いは、随時適当な間隔で測定確認し、その結果を上流側の工程の制御に適宜フィードバックすることにより、上記の炭素濃度をより厳密に高い精度で制御することができる。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限るものではない。又、本発明の実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施例に記載されたものに限定されるものではない。
【実施例】
【0055】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
本発明の製造方法によれば、乾燥過熱工程を行うDRKに投入する粗酸化亜鉛ケーキの炭素濃度を2.0質量%以下に制御することができること、及び、それにより、乾燥過熱工程を経た酸化亜鉛鉱の亜鉛品位を65%以上とすることができること、これらを確認するために以下の試験を行った。
【0057】
上記において説明した通り、予備混合工程S10、還元焙焼工程S20、湿式工程S30、乾燥加熱工程S40、排ガスダスト洗浄工程S50、及び、排水処理工程S60を備える全体プロセスを実施可能な製造設備における試験操業によって、粗酸化亜鉛の製造を行った。操業は、本発明の諸要件を満たす実施例1〜3の還元剤内装ペレットと、同条件を充足しない比較例1〜3の還元剤内装ペレットを用いてそれぞれ別途行った。その他、試験操業条件の詳細は以下に示す通りである。
【0058】
原料鉱としては、実施例1〜3と比較例6の各還元剤内装ペレットに対して、それぞれ異なる粒度分布を有する鉄鋼ダストを用いた。それぞれの粒度分布は表1に示す通りである。尚、鉄鋼ダストの組成についてはいずれも下記の範囲にあるものを用いた。
Zn:20〜35質量%、Pb:1〜3質量%、Fe:10〜35質量%、Cr:<0.1質量%、F:1.0質量%、Cd:1.0質量%、である。
【0059】
炭素質還元剤として、リサイクルカーボンを用いた。リサイクルカーボンの粒径につていては、全て50μm以下のものを用いた。又、原料鉱の総量に対するリサイクルカーボンの添加量は、還元剤内装ペレット中のリサイクルカーボンの含有量比がそれぞれ表1に記載の含有量比となるように適宜調整した。
【0060】
そして、上記の原料鉱と炭素質還元剤とをパンペレタイザーによって混合造粒し、粒径が5.4〜9.6mmの炭素質還元剤内装ペレットとした。
【0061】
このようにして製造した炭素質還元剤内装ペレットを、還元焙焼工程に投入し、粗酸化亜鉛を回収した。ここで、投入される炭素質還元剤内装ペレットの炭素含有率等にかかわらずRRKの操業条件は、いずれの例のペレットを用いた操業においても全て一定に保持した。焙焼温度については1100〜1150℃の範囲とした。
【0062】
上記還元焙焼工程で得た粗酸化亜鉛を更に湿式工程に投入し、当該湿式工程を得た粗酸化亜鉛(粗酸化亜鉛ケーキ)を、乾燥加熱工程に投入した。焼成温度は1100〜1150℃の範囲として乾燥加熱処理を行った。尚、乾燥加熱工程に投入される粗酸化亜鉛(粗酸化亜鉛ケーキ)の炭素含有量を把握するため、DRKに投入直前の段階にある粗酸化亜鉛ケーキの炭素含有量を各ロット毎に測定した。各実施例及び比較例毎の、この炭素含有量を「C品位」としてそれぞれ表1に記した。
【0063】
上記乾燥加熱処理の終了後、製品の亜鉛品位を測定した。この亜鉛品位は、乾燥加熱工程を経て得た焼鉱を、X線分析装置で分析した数値である。各実施例及び比較例毎の、この亜鉛品位を「Zn品位」としてそれぞれ表1に記した。又、これらの結果からDRKへの投入物中の炭素量の値を横軸とし、DRKから算出された最終製品である各酸化亜鉛鉱の亜鉛品位の値を縦軸として、両者の間の相関を示すグラフとしたものを
図2に示す。
【0064】
又、実施例1の還元剤内装ペレットを用いた場合における、乾燥加熱工程での粗酸化亜鉛ケーキからの亜鉛回収率を求めた。この亜鉛回収率は、DRKから産出された焼鉱中の亜鉛量をDRKに投入される直前の粗酸化亜鉛ケーキ中の亜鉛量にて除することにより求めたものである。結果、実施例1の亜鉛回収率は、97.6%であった。
【0065】
表1及び
図2から、本発明の条件を充足する還元剤内装ペレットを用いることにより、還元乾燥加熱工程に投入する粗酸化亜鉛(粗酸化亜鉛ケーキ)の炭素濃度を2.0質量%以下に保持することができることと、及び、それにより、更には、乾燥過熱工程を経た酸化亜鉛鉱の亜鉛品位を65.0%以上に保持できることが分かる。
【0066】
【表1】