【実施例】
【0067】
  以下に具体的な実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
  
図1に示した単結晶育成装置10を用いて、タンタル酸リチウム単結晶の育成を行った。なお、坩堝14の底面には図示しない熱電対を、その測温部が坩堝14の底面の外表面に接触するように設けており、坩堝14の底部で原料融液の温度を測定できるように構成している。以下に説明する原料融液の温度とは、係る熱電対により測定した坩堝底温度を意味する。
【0068】
  また、本実施例では、耐熱物である耐火物13Aや、耐火物13B、耐火物坩堝16、の材料としては全てアルミナを用い、耐火物充填材17の材料としてはジルコニアを用いた。そして、坩堝14、及びアフターヒーター15の材料としてはイリジウムを用いた。
(種結晶の単位時間当たりの重量変化と原料融液の温度との関係の検討)
  まず、実際の単結晶の育成を開始する前に、種結晶の単位時間当たりの重量変化と原料融液の温度との関係について、以下の(1)〜(4)の実験を行い、検討した。
【0069】
  具体的には、原料融液の温度をシーディング温度よりも高いと思われる温度としてから、原料融液に種結晶を接触させ、重量変化を測定した後、種結晶を原料融液から切り離す。そして、原料融液の温度を数度程度下げてから、再度原料融液に種結晶を接触させて重量変化を測定する。以上の操作を、原料融液の温度がシーディングに適した温度となっていると判断されるまで繰り返し行い、種結晶の重量変化速度と、原料融液との関係について検討した。
(1)坩堝14内にタンタル酸リチウムの原料を充填した後、高周波コイル12により加熱し、タンタル酸リチウムの原料を融解し、原料融液を調製した。
【0070】
  そして、原料融液に、引上げ軸19の端部に固定した種結晶20を接触させ、種結晶の単位時間当たりの重量変化を重量センサー21により測定した。結果を
図3に示す。
【0071】
  なお、
図3において、重量変化とは原料融液に種結晶を接触させる前の、重量センサーの検出値を0gとし、それからの重量センサーが検出した重量の変化を示している。以下の
図4〜
図6の場合も同様である。
【0072】
  図3に示したように、原料融液に種結晶を接触させた瞬間、すなわち
図3中、24秒程度の時に結晶重量がおよそ1.3g増加した。これは、原料融液の表面張力の作用によって種結晶が下方に引っ張られたことによる。
【0073】
  しかし、重量が徐々に減少し始めた。これは、種結晶が徐々に融解していることによる。そして、重量が減少し始めてから2分後、約0.8g減少したところで急激に1.3g減少した。これは種結晶の融解が進み、種結晶が原料融液から切り離れ、表面張力が解消されたためである。
(2)次に、一旦種結晶を原料融液から引き離した後、高周波コイル12への高周波出力を下げ、坩堝14の底に熱電対を接触させて測定していた原料融液の温度を上記(1)の状態から3.3℃下げた。その後、(1)の場合と同様に原料融液に種結晶を接触させた。
【0074】
  図4に示すように、原料融液に種結晶を接触させた瞬間に結晶重量がおよそ1.3g増加し、その後30秒ほど経ると、重量が徐々に減少し始めた。そして、重量が減少し始めてから5分後、約0.8g減少したところで急激に1.3g減少した。
(3)(2)の実験の後、一旦種結晶を原料融液から引き離し、さらに、高周波コイル12への高周波出力を下げ、坩堝14の底に熱電対を接触させて測定していた原料融液の温度を上記(2)の状態から2.5℃下げた。その後、(1)、(2)の場合と同様に原料融液に種結晶を接触させた。
【0075】
  図5に示すように、原料融液に種結晶を接触させた瞬間に結晶重量がおよそ1.3g増加し、その後、直ちに重量が増加し始めた。従って、原料融液の温度がシーディングに適した温度よりも低くなっていることが確認できる。このため、坩堝14の底に熱電対を接触させて測定していた原料融液の温度を5℃上げて、成長した結晶を再融解させた後、原料融液から種結晶を切り離した。
(4)(3)の実験の後、坩堝14の底に熱電対を接触させて測定していた原料融液の温度を4℃下げたところで原料融液に種結晶を接触させた。すると
図6に示すように、原料融液に種結晶を接触させた瞬間に結晶重量がおよそ1.3g増加し、その後、重量が徐々に減少し始めたものの、重量が減少し始めてから7分後、約0.14g減少したところで重量の減少が停止した。このため、原料融液が適正なシーディング温度にあると判断した。
【0076】
  なお、原料融液が適正なシーディング温度にある場合はまず、原料融液に種結晶を接触させた瞬間に原料融液の表面張力により結晶重量が増加する。そして、その後最初は重量がやや減少する。しかしその後、種結晶引き上げ軸を伝って熱が伝搬、放熱されるため、種結晶の重量減少は徐々に鈍くなり、しばらくすると重量減少が停止する。このような挙動を示す場合に、原料融液が適正なシーディング温度にあると判断することができる。
【0077】
  そこで、
図3、
図4、
図5、
図6に示した結果において、原料融液に種結晶を接触させ、原料融液の表面張力による見かけの重量増加が終了した時から1分後を始点として、1分間の重量減少量を重量減少率とした。具体的には、
図3に示した例の場合、直線31と、直線32とで挟まれている間の重量減少量を重量減少率とした。
図4に示した例の場合、直線41と直線42とで挟まれている間、
図5に示した例の場合、直線51と直線52とで挟まれている間、
図6に示した例の場合、直線61と直線62とで挟まれている間、の重量減少量を重量減少率とした。
【0078】
  そして、
図6の重量変化を測定した際の原料融液の温度(坩堝底温度)をシーディングに適した原料融液の温度とし、
図3〜
図5の各重量変化を測定した際の原料融液の温度(坩堝底温度)と、上記シーディングに適した原料融液の温度との差を横軸に、重量減少率を縦軸にしてグラフ化した。結果を
図7に示す。
【0079】
  なお、
図7の縦軸は重量減少率を示しており、正の値の場合に種結晶が重量減少したことを、負の値の場合に種結晶が重量増加したことを示す。
【0080】
  図7の結果から、原料融液に種結晶を接触させた際の種結晶の重量変化と、原料融液の間に相関関係があることを確認できた。
【0081】
  なお、原料融液に種結晶を接触させた際の重量変化速度と、原料融液の温度とシーディングに適した原料融液の温度との差との関係について、後述する実施例2〜4において算出した結果も全てまとめると
図8に示すグラフのようになる。
【0082】
  図7、
図8に示したグラフの算出に当たっては、上記(1)〜(4)の実験例と同様に、まず、適正なシーディング温度からは高いと考えられる原料融液に種結晶を接触させてシーディングし、その時の重量変化速度、または重量減少率を算出する。次に原料融液の温度を1〜2℃程度下げ、同様に種結晶の重量変化速度を記録する作業を適正なシーディング温度になるまで何回か繰り返す。
【0083】
  このように、原料融液に種結晶を接触させた際の種結晶の重量変化速度と、原料融液の温度とシーディングに適した原料融液の温度との差との関係を求めておけば、結晶育成におけるシーディングに際して、この関係から原料融液の温度とシーディングに適した原料融液の温度との差を容易に算出できる。このため、短時間で適正なシーディングの温度に原料融液を調整でき、良好なシーディングが再現性よく実行できる。
(単結晶の育成)
(1)実施例1−結晶1
  上述の結果を参考にして、タンタル酸リチウム単結晶を育成した。
【0084】
  図1に示した単結晶育成装置10を用いて、
図2に示したフロー図に従って、タンタル酸リチウム単結晶の製造を行った。なお、既述のように単結晶育成装置10の坩堝14の底面には図示しない熱電対を、その測温部が坩堝14の底面の外表面に接触するように設けており、坩堝14の底部で原料融液の温度を測定できるように構成している。以下に説明する原料融液の温度とは、係る熱電対により測定した坩堝底温度を意味する。
【0085】
  また、本実施例では、上記種結晶の単位時間当たりの重量変化と原料融液の温度との関係の検討を行った際と同じ単結晶育成装置を用いており、係る単結晶育成装置について、以下保温系1とも記載する。
【0086】
  具体的な操作手順について説明する。
【0087】
  まず、坩堝14内にタンタル酸リチウムの原料を充填した後、高周波コイル12により加熱し、タンタル酸リチウムの原料を融解し、原料融液を調製した。
【0088】
  そして、原料融液に、引上げ軸19の端部に固定した種結晶20を接触させ、原料融液の表面張力による見かけの重量増加が終了した時から1分後を始点として、1分間種結晶の重量変化を重量センサー21により測定した。すなわち、単位時間を1分間とする単位時間当たりの種結晶の重量変化を測定した(S11:重量変化測定工程)。なお、この際の単位時間当たりの種結晶の重量変化、すなわち重量変化速度を後述する表1の中では重量変化速度として記載している。
【0089】
  測定した単位時間当たりの重量変化が−100mg/分以上−10mg/分以下の場合には、種結晶の単位時間当たりの重量変化が予め定めた範囲内であると予め規定しておき、係る基準に基づいて判定を実施した(S12:判定工程)。そして、種結晶の単位時間当たりの重量変化が予め定めた範囲内であると判定した場合には、種結晶を回転させながら徐々に引き上げ、単結晶の育成を行うこととした(S13:単結晶育成工程)。
【0090】
  しかしながら結晶1を作製する際には、重量変化測定工程で測定した重量変化速度は−482mg/分であった。このため、判定工程(S12)において、種結晶の単位時間当たりの重量変化が予め定めた範囲外であると判定された。そこでまず、種結晶を原料融液から引き離した(S14:種結晶位置変更工程)。
【0091】
  次いで、
図7に示した、種結晶の単位時間当たりの重量変化と、シーディングに適した原料融液の温度との差との関係から、原料融液の温度(坩堝底温度)と、シーディングに適した原料融液の温度との差を算出した(S15:制御温度算出工程)。なお、この際算出した温度修正量について、表1では温度修正として示している。結晶1を育成する際には、原料融液の温度を4.8℃温度を下げることとした。
【0092】
  そして、制御温度算出工程で算出した、原料融液の温度(坩堝底温度)と、シーディングに適した原料融液の温度との差の温度に基づいて、原料融液の温度を制御した(S16:原料融液温度制御工程)。この際には、原料融液の温度と、シーディングに適した原料融液の温度との差分について、原料融液の温度(坩堝底温度)が変化するように、高周波コイルへの高周波出力を調整し、4.8℃下げた。
【0093】
  原料融液温度制御工程を実施した後、原料融液に種結晶を再び接触させた(S17:種結晶接触工程)。その後、種結晶を回転させながら、徐々に上昇させ、単結晶の育成を実施した(S13:単結晶育成工程)
  得られた単結晶については、多結晶化の有無、結晶欠陥の有無、割れの有無を評価した。多結晶化、結晶欠陥(リニエジと呼ばれる転位の集合体で結晶の円筒側面に現れ筋状に見える)、および割れの有無は、外観観察により評価を行った。
【0094】
  結晶1については、多結晶化、割れいずれも観察されず、結晶欠陥が少ない高品質な結晶を得られたことが確認できた。
(2)実施例1−結晶2〜実施例1−結晶6
  結晶1の場合と同様にして、結晶1の場合を含めて合計6回タンタル酸リチウム単結晶の育成を行った。2回目から6回目に作製したタンタル酸リチウム単結晶はそれぞれ結晶2〜結晶6として表1に結果を示している。
【0095】
  なお、表1に示したように、実施例1−結晶3、4を育成した場合には、重量変化測定工程(S11)で測定した単位時間当たりの種結晶の重量変化、すなわち重量変化速度が−70mg、−100mgとなっていた。このため、判定工程(S12)において、予め定めた範囲内であると判定された。従って、原料融液温度制御工程等は実施せずに、そのまま、タンタル酸リチウム単結晶を育成する単結晶育成工程を実施した。
【0096】
  また、実施例1−結晶2、5、6を育成した場合には、重量変化測定工程で測定した重量変化速度が、予め定めた−100mg/分以上−10mg/分以下の範囲外であった。このため、種結晶位置変更工程(S14)〜種結晶接触工程(S17)を実施してから単結晶育成工程(S13)を実施した。
【0097】
  結果を表1に示す。
[実施例2]
  断熱物の一部の厚みを厚くした単結晶育成装置(保温系2)を用いた点以外は、実施例1と同様にしてタンタル酸リチウム単結晶の育成を行った。
【0098】
  そしてまず、実施例1と同様に、種結晶の単位時間当たりの重量変化、すなわち重量変化速度と、原料融液の温度との関係の検討を行った。結果を
図8に示す。なお、
図8中では、原料融液の温度は、原料融液の温度とシーディングに適した原料融液の温度との差として示している。また、
図8中の保温系2が本実施例での検討結果を示している。
【0099】
  図8中、保温系1が実施例1で算出した種結晶の単位時間当たりの重量変化、すなわち重量変化速度と原料融液の温度との関係の検討結果を示している。すなわち、
図7に示したものと同じデータを
図8のグラフにあわせて示している。なお、
図8では重量変化速度として示していることから、値が負の場合には単位時間に種結晶の重量が減少し、値が正の場合には、単位時間に種結晶の重量が増加したことを意味する。
【0100】
  次いで、実施例1の場合と同様に、
図2に示したフロー図に従って、タンタル酸リチウム単結晶の育成を行った。タンタル酸リチウム単結晶は、同様の手順で合計6回育成を行った。1回目から6回目に作製したタンタル酸リチウム単結晶はそれぞれ実施例2−結晶1〜実施例2−結晶6として表1に結果を示している。
【0101】
  本実施例においても、判定工程(S12)における判定基準としては、測定した単位時間当たりの重量変化、すなわち重量変化速度が−100mg/分以上−10mg/分以下の場合には、種結晶の単位時間当たりの重量変化が予め定めた範囲内であると定めて実施した。本実施例では実施例2−結晶1〜実施例2−結晶6いずれについても、判定工程で原料融液の温度調整が必要であると判定された。
【0102】
  そこで、種結晶位置変更工程(S14)〜種結晶接触工程(S17)を実施してから単結晶育成工程(S13)を実施した。
【0103】
  制御温度算出工程(S15)では、
図8に示した、保温系2の種結晶の重量変化速度と、原料融液の温度とシーディングに適した原料融液の温度との差との関係から、原料融液の温度と、シーディングに適した原料融液の温度との差を算出した。そして、原料融液温度制御工程(S16)で、制御温度算出工程(S15)で算出した温度差の分だけ原料融液の温度が変化するように制御してから、種結晶接触工程(S17)、単結晶育成工程(S13)を実施し、タンタル酸リチウム単結晶を育成した。
【0104】
  結果を表1に示す。
[実施例3]
  耐熱物について、全ての部材をジルコニアに変更した単結晶育成装置10(保温系3)を用いた点以外は、実施例1と同様にしてタンタル酸リチウム単結晶の育成を行った。
【0105】
  そしてまず、実施例1と同様に、種結晶の単位時間当たりの重量変化、すなわち重量変化速度と、原料融液の温度との関係の検討を行った。結果を
図8に示す。なお、
図8中では、原料融液の温度は、原料融液の温度とシーディングに適した原料融液の温度との差として示している。また、
図8中の保温系3が本実施例での検討結果を示している。
【0106】
  次いで、実施例1の場合と同様に、
図2に示したフロー図に従って、タンタル酸リチウム単結晶の育成を行った。タンタル酸リチウム単結晶は、同様の手順で合計4回育成を行った。1回目から4回目に作製したタンタル酸リチウム単結晶はそれぞれ実施例3−結晶1〜実施例3−結晶4として表1に結果を示している。
【0107】
  本実施例においても、判定工程(S12)における判定基準としては、測定した単位時間当たりの重量変化が−100mg/分以上−10mg/分以下の場合には、種結晶の単位時間当たりの重量変化が予め定めた範囲内であると定めて実施した。本実施例では実施例3−結晶1〜実施例3−結晶4いずれについても、判定工程で原料融液の温度調整が必要であると判定された。
【0108】
  そこで、種結晶位置変更工程(S14)〜種結晶接触工程(S17)を実施してから単結晶育成工程(S13)を実施した。
【0109】
  制御温度算出工程(S15)では、
図8に示した、保温系3の種結晶の重量変化速度と、原料融液の温度とシーディングに適した原料融液の温度との差との関係から、原料融液の温度と、シーディングに適した原料融液の温度との差を算出した。そして、原料融液温度制御工程(S16)で、制御温度算出工程(S15)で算出した温度差の分だけ原料融液の温度が変化するように制御してから、種結晶接触工程(S17)、単結晶育成工程(S13)を実施し、タンタル酸リチウム単結晶を育成した。
【0110】
  結果を表1に示す。
[実施例4]
  耐熱物の耐火物13Aの部材をジルコニアに変更した単結晶育成装置10(保温系4)を用いた点以外は、実施例1と同様にしてタンタル酸リチウム単結晶の育成を行った。
【0111】
  そしてまず、実施例1と同様に、種結晶の単位時間当たりの重量変化、すなわち重量変化速度と、原料融液の温度との関係の検討を行った。結果を
図8に示す。なお、
図8中では、原料融液の温度は、原料融液の温度とシーディングに適した原料融液の温度との差として示している。また、
図8中の保温系4が本実施例での検討結果を示している。
【0112】
  次いで、実施例1の場合と同様に、
図2に示したフロー図に従って、タンタル酸リチウム単結晶の育成を行った。タンタル酸リチウム単結晶は、同様の手順で合計6回育成を行った。1回目から6回目に作製したタンタル酸リチウム単結晶はそれぞれ実施例4−結晶1〜実施例4−結晶6として表1に結果を示している。
【0113】
  本実施例においても、判定工程(S12)における判定基準としては、測定した単位時間当たりの重量変化が−100mg/分以上−10mg/分以下の場合には、種結晶の単位時間当たりの重量変化が予め定めた範囲内であると定めて実施した。
【0114】
  本実施例では実施例4−結晶3、実施例4−結晶4、実施例4−結晶5については、重量変化測定工程(S11)で測定した単位時間当たりの種結晶の重量変化、すなわち重量変化速度がそれぞれ、−52mg/分、−22mg/分、−11mg/分となっていた。このため、判定工程(S12)において、予め定めた範囲内であると判定された。従って、原料融液温度制御工程等は実施せずに、そのまま、タンタル酸リチウム単結晶を育成する単結晶育成工程(S13)を実施した。
【0115】
  これに対して、実施例4−結晶1、実施例4−結晶2、実施例4−結晶6については、判定工程(S12)で原料融液の温度調整が必要であると判定された。
【0116】
  そこで、判定工程(S12)で原料融液の温度調整が必要であると判定された場合には、
図2のフロー図に従い、種結晶位置変更工程(S14)〜種結晶接触工程(S17)を実施してから単結晶育成工程(S13)を実施した。
【0117】
  この際、制御温度算出工程(S15)では、
図8に示した、保温系4の種結晶の重量変化速度と、原料融液の温度とシーディングに適した原料融液の温度との差との関係から、原料融液の温度と、シーディングに適した原料融液の温度との差を算出した。そして、原料融液温度制御工程(S16)で、制御温度算出工程(S15)で算出した温度差の分だけ原料融液の温度が変化するように制御してから、種結晶接触工程(S17)、単結晶育成工程(S13)を実施し、タンタル酸リチウム単結晶を育成した。
【0118】
  結果を表1に示す。
[比較例1]
  実施例1で用いた単結晶育成装置(保温系1)で、重量変化測定工程における重量変化速度が5mg/分の増加傾向であり、予め定めていた重量変化測定工程で測定した重量変化速度の範囲である−100mg/分以上−10mg/分以下の範囲外であった。
【0119】
  しかしながら、判定工程(S12)を実施せず、原料融液の温度も調整しないで種結晶の引き上げを開始し結晶を育成した。すると、多結晶化はしなかったものの結晶欠陥が多い結晶となった。
【0120】
  結果を表1に示す。
[比較例2]
  実施例1で用いた単結晶育成装置(保温系1)で、重量変化測定工程における重量変化速度が47mg/分の増加傾向であり、予め定めていた重量変化測定工程で測定した重量変化速度の範囲である−100mg/分以上−10mg/分以下の範囲外であった。
【0121】
  しかしながら、判定工程(S12)を実施せず、原料融液の温度も調整しないで種結晶の引き上げを開始し結晶を育成した。すると、多結晶化し、結晶が割れる結果となった。
【0122】
  結果を表1に示す。
[比較例3]
  実施例2で用いた単結晶育成装置(保温系2)で、重量変化測定工程における重量変化速度が28mg/分の増加傾向であり、予め定めていた重量変化測定工程で測定した重量変化速度の範囲である−100mg/分以上−10mg/分以下の範囲外であった。
【0123】
  しかしながら、判定工程(S12)を実施せず、原料融液の温度も調整しないで種結晶の引き上げを開始し結晶を育成した。すると、多結晶化はしなかったものの結晶欠陥が多い結晶となった。
【0124】
  結果を表1に示す。
[比較例4]
  実施例2で用いた単結晶育成装置(保温系2)で、重量変化測定工程における重量変化速度が87mg/分の増加傾向であり、予め定めていた重量変化測定工程で測定した重量変化速度の範囲である−100mg/分以上−10mg/分以下の範囲外であった。
【0125】
  しかしながら、判定工程(S12)を実施せず、原料融液の温度も調整しないで種結晶の引き上げを開始し結晶を育成した。すると、多結晶化し、結晶が割れる結果となった。
【0126】
  結果を表1に示す。
[比較例5]
  実施例3で用いた単結晶育成装置(保温系3)で、重量変化測定工程における重量変化速度が77mg/分の増加傾向であり、予め定めていた重量変化測定工程で測定した重量変化速度の範囲である−100mg/分以上−10mg/分以下の範囲外であった。
【0127】
  しかしながら、判定工程(S12)を実施せず、原料融液の温度も調整しないで種結晶の引き上げを開始し結晶を育成した。すると、多結晶化し、結晶が割れる結果となった。
【0128】
  結果を表1に示す。
[比較例6]
  実施例3で用いた単結晶育成装置(保温系3)で、重量変化測定工程における重量変化速度が145mg/分の増加傾向であり、予め定めていた重量変化測定工程で測定した重量変化速度の範囲である−100mg/分以上−10mg/分以下の範囲外であった。
【0129】
  しかしながら、判定工程(S12)を実施せず、原料融液の温度も調整しないで種結晶の引き上げを開始し結晶を育成した。すると、多結晶化し、結晶が割れる結果となった。
【0130】
  結果を表1に示す。
[比較例7]
  実施例4で用いた単結晶育成装置(保温系4)で、重量変化測定工程における重量変化速度が−370mg/分の減少傾向であり、予め定めていた重量変化測定工程で測定した重量変化速度の範囲である−100mg/分以上−10mg/分以下の範囲外であった。
【0131】
  しかしながら、判定工程(S12)を実施せず、原料融液の温度も調整しないで種結晶の引き上げを開始し結晶を育成した。すると、種結晶に原料融液に接触させた2分後、種結晶の先端と原料融液が切り離れた。
【0132】
  結果を表1に示す。
[比較例8]
  実施例4で用いた単結晶育成装置(保温系4)で、重量変化測定工程における重量変化速度が−160mg/分で減少傾向であり、予め定めていた重量変化測定工程で測定した重量変化速度の範囲である−100mg/分以上−10mg/分以下の範囲外であった。
【0133】
  しかしながら、判定工程(S12)を実施せず、原料融液の温度も調整しないで種結晶の引き上げを開始し結晶を育成した。すると、種結晶に原料融液に接触させた6分後、種結晶の先端と原料融液が切り離れた。
【0134】
  結果を表1に示す。
【0135】
【表1】
  以上の実験の結果から明らかなように、重量変化測定工程において測定した種結晶の重量変化速度が、予め定めた一定の範囲内にある場合には、原料融液の温度がシーディングに適した温度にあることが確認できた。すなわち、重量変化測定工程で、種結晶の重量変化速度を測定することで、原料融液の温度がシーディングに適した温度にあることを再現性良く検出し、シーディングを実施できることが確認できた。
【0136】
  また、予め測定しておいた種結晶の単位時間当たりの重量変化と原料融液の温度との関係、及び重量変化測定工程において測定した種結晶の単位時間当たりの重量変化から、原料融液の温度と、シーディングに適した原料融液の温度との差の温度を容易に算出できる。このため、重量変化測定工程において測定した重量変化速度が、予め定めた範囲外の場合でも、容易に原料融液の温度とシーディングに適した原料融液の温度との差を算出、制御することができ、原料融液の温度をシーディングに適した温度とすることができる。
【0137】
  従って、高品質な単結晶を歩留り良く製造することができる。