特許第6387907号(P6387907)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6387907
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 15/28 20060101AFI20180903BHJP
【FI】
   C30B15/28
【請求項の数】3
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-123308(P2015-123308)
(22)【出願日】2015年6月18日
(65)【公開番号】特開2017-7884(P2017-7884A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2017年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】寺島 彰
(72)【発明者】
【氏名】西川 貴弘
【審査官】 今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭56−164098(JP,A)
【文献】 特開昭59−184795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 15/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料融液に種結晶を接触させた後、前記種結晶を引上げることで単結晶を育成する引上げ法による単結晶の製造方法であって、
前記原料融液に前記種結晶を接触させた際の、前記種結晶の単位時間当たりの重量変化を測定する重量変化測定工程と、
単結晶の育成を行う単結晶育成工程と、を有し、
前記重量変化測定工程は、前記原料融液に前記種結晶を接触させた後、30秒以上1分以下経過してから、30秒間以上5分間以下実施し、
前記重量変化測定工程において測定した、前記種結晶の単位時間当たりの重量変化が予め定めた範囲以内の場合に、前記単結晶育成工程を実施する単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記重量変化測定工程において測定した、前記種結晶の単位時間当たりの重量変化が予め定めた範囲を超えた場合に、前記種結晶を前記原料融液から引き離す種結晶位置変更工程と、
予め測定しておいた前記種結晶の単位時間当たりの重量変化と原料融液の温度との関係、及び前記重量変化測定工程において測定した前記種結晶の単位時間当たりの重量変化から、前記原料融液の温度と、シーディングに適した原料融液の温度との差の温度を算出する制御温度算出工程と、
前記制御温度算出工程で算出した、前記原料融液の温度と、シーディングに適した原料融液の温度との差の温度に基づいて、前記原料融液の温度を制御する原料融液温度制御工程と、
前記原料融液温度制御工程を実施した後、前記原料融液に前記種結晶を再び接触させる種結晶接触工程と、をさらに有し
前記種結晶接触工程の後に、前記単結晶育成工程を実施する、請求項1に記載の単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記重量変化測定工程において測定した、前記種結晶の単位時間当たりの重量変化が、−100mg/分以上−10mg/分以下の場合に、前記単結晶育成工程を実施する請求項1または請求項2に記載の単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から電子部品等の用途において、用途に応じて各種単結晶が用いられている。
【0003】
例えば、携帯電話の急速な普及に伴い、表面弾性波(SAW)を用いたSAWフィルター用材料として、タンタル酸リチウム(LT)結晶や、ニオブ酸リチウム(LN)結晶が多く用いられている。また、光アイソレータや高温超伝導ケーブルなどには、希土類・ガリウム・ガーネット結晶であるネオジム・ガリウム・ガーネット(NGG)結晶、サマリウム・ガリウム・ガーネット(SGG)結晶、ガドリニウム・ガリウム・ガーネット(GGG)結晶などが使用されている。
【0004】
単結晶を育成するには様々な方法があるが、結晶特性が良好で大きな結晶径のものが得られることから溶融固化法で育成される場合が多い。特に、LN、LT、GGG、サファイアの大部分は、チョクラルスキー法(Cz法、引上げ法、以下「Cz法」、または「引上げ法」と記載する。)が一般的に用いられている。
【0005】
Cz法ではまず、高周波による誘導加熱、または発熱抵抗体による抵抗加熱によって原料を融解させて原料融液を形成する。そして、原料融液を適切な温度に調整してから、種結晶を原料融液に浸すシーディングを実施した後、種結晶を回転させながら引き上げることで単結晶を育成することができる。Cz法を用いれば、種結晶と同一方位の単結晶を作製することができる。
【0006】
ところが、Cz法において、シーディングを行う際の原料融液の温度が、適切な温度域よりも低い場合は、種結晶から結晶が急激に成長し、育成した結晶に多くの欠陥が導入され、それが原因で多結晶化したり結晶にクラックが入ったりする場合がある。また、シーディングを行う際の原料融液の温度が適切な温度域よりも高い場合には、種結晶が融解してしまう場合もある。このため、シーディング時の原料融液の温度は極めて重要である。
【0007】
しかしながら、例えばLN、LTなどの酸化物単結晶のように、高融点の材料の単結晶を作製する場合、一般的には原料融液に熱電対等の温度計を直接接触させて結晶育成を行うことはない。これは、高融点の材料の原料融液を形成するために高温まで加熱した場合、温度計として使用される熱電対と原料融液とが反応して熱電対の熱起電力が変化するためで、長時間にわたる高精度の温度測定は困難だからである。
【0008】
このため、熱電対は坩堝の下方から坩堝底に接触させたり、周囲の耐火物に埋め込んだりして原料融液に直接触れさせずに離して設置する方法が採られている。
【0009】
しかし、上述の様に熱電対を坩堝底に接触させる等して、熱電対を原料融液に直接接触しないように配置した場合でも、シーディングを実施する際、熱電対によって測定している温度の絶対値は必ずしも正確ではない。これは、熱電対や断熱材の劣化などによるもので、タンタル酸リチウム(LT)の場合であれば、1650℃の融点に対して、良好なシーディングに必要な1℃程度の精度で温度が再現良く測定できているわけではない。このため、測定した温度はおおよその目安にはなるものの、良好なシーディングを再現性良く実施するには十分ではない。
【0010】
また、例えば特許文献1には、原料融液から回転引上げ法により単結晶を製造する単結晶の製造方法において、上記原料温度を測定するための温度センサをルツボに設けると共に、この温度センサにより測定された温度の時間に対する二次微分値から原料の融解状態を検出し、上記二次微分値が負から正となる時点を原料の融解終了時点として原料融液の温度制御を行うようにしたことを特徴とする単結晶の製造方法が開示されている。しかしながら、特許文献1に開示された発明によれば、原料融液に対する過熱は防止できるものの、原料融液がシーディングに適した温度域にあることを検出するものではなかった。
【0011】
また、シーディングを原料融液が適切な温度域にある時に行うため、単結晶育成炉の上部であって、坩堝の上部に位置する部分に窓を配し、原料融液等の状態を目視やカメラで観察し、シーディングを行う場合がある。しかしながら、このようなシーディング方法では作業者の熟練度が求められ、また、適切なシーディング温度かどうかの判定には個人差も生じ易い。
【0012】
このように従来技術によれば、原料融液の温度がシーディングに適した温度にあることを再現性良く検出することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平10−338596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明の一側面では上記従来技術が有する問題に鑑み、原料融液の温度がシーディングに適した温度にあることを再現性良く検出し、シーディングを実施できる単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、原料融液に種結晶を接触させた後、前記種結晶を引上げることで単結晶を育成する引上げ法による単結晶の製造方法であって、
前記原料融液に前記種結晶を接触させた際の、前記種結晶の単位時間当たりの重量変化を測定する重量変化測定工程と、
単結晶の育成を行う単結晶育成工程と、を有し、
前記重量変化測定工程は、前記原料融液に前記種結晶を接触させた後、30秒以上1分以下経過してから、30秒間以上5分間以下実施し、
前記重量変化測定工程において測定した、前記種結晶の単位時間当たりの重量変化が予め定めた範囲以内の場合に、前記単結晶育成工程を実施する単結晶の製造方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、原料融液の温度がシーディングに適した温度にあることを再現性良く検出し、シーディングを実施できる単結晶の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】単結晶育成装置の構成例。
図2】本発明の実施形態における単結晶の製造工程のフロー図。
図3】本発明の実施例1において、原料融液に種結晶を接触させた際の重量変化。
図4】本発明の実施例1において、原料融液に種結晶を接触させた際の重量変化。
図5】本発明の実施例1において、原料融液に種結晶を接触させた際の重量変化。
図6】本発明の実施例1において、原料融液に種結晶を接触させた際の重量変化。
図7】本発明の実施例1における、原料融液に種結晶を接触させた際の重量減少率と、原料融液の温度とシーディングに適した原料融液の温度との差の関係。
図8】本発明の実施例1〜4における、原料融液に種結晶を接触させた際の重量変化速度と、原料融液の温度とシーディングに適した原料融液の温度との差との関係。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
【0019】
本実施形態の酸化物単結晶の製造方法の一構成例について以下に説明する。
【0020】
本実施形態の酸化物単結晶の製造方法は、原料融液に種結晶を接触させた後、種結晶を引上げることで単結晶を育成する引上げ法による単結晶の製造方法に関し、以下の工程を有することができる。
原料融液に種結晶を接触させた際の、種結晶の単位時間当たりの重量変化を測定する重量変化測定工程。
単結晶の育成を行う単結晶育成工程。
そして、重量変化測定工程において測定した、種結晶の単位時間当たりの重量変化が予め定めた範囲以内の場合に、単結晶育成工程を実施することができる。
【0021】
ここでまず、図1を用いて、本実施形態の単結晶の製造方法において好適に用いることができる、単結晶育成装置の構成例を説明する。図1に示した単結晶育成装置10は、単結晶育成装置10内に設けた坩堝の中心軸を通る面での断面を模式的に示している。
【0022】
単結晶育成装置10の最外部はチャンバー11により構成することができる。チャンバー11の材料は特に限定されるものではないが、耐蝕性や、耐熱性の観点から、チャンバー11は、ステンレススチール(SUS)製であることが好ましい。
【0023】
チャンバー11の内側には、坩堝内の原料粉末、及び原料粉末が溶解した原料融液を加熱するための加熱手段を設けることができる。加熱手段として、図1では、高周波コイル12を設けた例を示している。ただし、係る形態に限定されるものではない。加熱手段として抵抗加熱等を用いることもできる。
【0024】
さらに、加熱手段の内側には断熱性と保温性を高めるための耐火物13A、13Bを設置できる。なお、耐火物13A、及び耐火物13Bとして2重に配置した例を示したが、係る形態に限定されるものではない。1重であっても良く、3重以上であっても良い。
【0025】
加熱手段である高周波コイル12の内側には、坩堝14を配置できる。坩堝14の材料は特に限定されないが、製造する単結晶の融点に応じて、該融点に対して耐熱性を有し、かつ原料融液に対する反応性が低い材料を用いることが好ましい。例えば、貴金属製の坩堝を用いることができる。
【0026】
坩堝14の上部には、育成した単結晶が急激に冷却されてクラック等が生じることを防ぐため、アフターヒーター15を配置できる。アフターヒーター15の材料も特に限定されないが、例えば貴金属製のアフターヒーターを用いることができる。
【0027】
また、坩堝14の周囲には、耐火物坩堝16を配置することができ、坩堝14と耐火物坩堝16との間には耐火物充填材17を充填できる。耐火物充填材17としては、例えば耐火物のバブル等を用いることができ、特にジルコニア製のバブルを好適に用いることができる。
【0028】
耐火物坩堝16は坩堝台18の上に設置できる。
【0029】
耐火物13Aや、耐火物13B、耐火物坩堝16、耐火物充填材17等の耐火物の材料は、ジルコニアや、アルミナ等を好適に用いることができ、使用する箇所や使用温度によって使い分けられている。
【0030】
また、例えば育成する単結晶が酸化物結晶の場合においては、坩堝14およびアフターヒーター15は、高温下で酸化雰囲気に耐えられる必要がある。このため、坩堝14、及びアフターヒーター15の材料としては、イリジウムや白金等の貴金属を好ましく用いることができる。
【0031】
坩堝14の上部には、単結晶を坩堝14から引き上げる結晶引き上げ軸19を設けることができる。引上げ軸19の坩堝14側の端部には種結晶20を予め固定しておくことができる。また、引き上げ軸19には、重量測定手段である重量センサー21を連結しておくことができ、育成した単結晶の結晶重量や、種結晶20の重量変化を高精度で測定することができる。
【0032】
なお、単結晶育成装置10の構成は上述の構成に特定されるものではなく、必要に応じて任意の部材を更に設けることもできる。具体的には例えば、チャンバー11内の気体を置換するための、気体供給手段や、真空ポンプやベントバルブ等の排気手段等を設けることができる。また、原料融液の表面温度や坩堝14の底温度を検出するための温度測定手段を設けることもできる。
【0033】
そして、本発明の発明者らは、引上げ法による単結晶の製造方法において、原料融液の温度が、シーディングに適した温度にあることを再現性良く検出する方法について鋭意検討を行った。その結果、原料融液に種結晶を接触させた際の、種結晶の単位時間当たりの重量変化を用いることで、原料融液の温度がシーディングに適した温度にあることを再現性良く検出できることを見出し、本発明を完成させた。
【0034】
本実施形態の単結晶の製造方法は、原料融液を形成後、図2に示したフロー図に従って実施することができる。以下に各工程について説明する。なお、原料融液は、例えば坩堝14内に単結晶の原料を充填してチャンバー11内にセットした後、必要に応じてチャンバー11内の雰囲気を制御した後、高周波コイル12等の加熱手段により加熱することにより形成することができる。
【0035】
まず、図2に示したフロー図のうち、重量変化測定工程(S11)を実施できる。
【0036】
重量変化測定工程では、原料融液に種結晶を接触させた際の、種結晶の単位時間当たりの重量変化を測定することができる。種結晶の単位時間当たりの重量変化は、例えば既述の単結晶育成装置10を用いた場合であれば、重量センサー21を用いて測定できる。
【0037】
ここで、原料融液に種結晶を接触させた際における重量センサーで検出される信号の振る舞いについて簡単に説明する。
【0038】
原料融液に種結晶を接触させた瞬間に種結晶は原料融液の表面張力によって下に引っ張られ、あたかも重量が増加したかのように観測される。表面張力の大きさは、原料の種類や融液の温度によって様々であるが、数グラム程度の大きさである。
【0039】
原料融液に種結晶を接触させた後、種結晶の重量は原料融液の温度によって、減少あるいはほとんど変化しないか、もしくは増加する。原料融液の温度がシーディングに適切な温度よりも5℃も高いと、種結晶は徐々に融解するため種結晶の重量は減少し種結晶が融液から切り離れる。原料融液の温度が適切な場合は、最初は重量がやや減少するものの種結晶引き上げ軸を伝って熱が伝搬、放熱されるため、種結晶の重量減少は徐々に鈍くなり、しばらくすると重量減少が停止する。このため、重量減少が下げ止まったところで種結晶の引き上げを開始すれば良好な結晶を得ることができる。
【0040】
そこで、本実施形態の単結晶の製造方法においては、重量変化測定工程において測定した、種結晶の単位時間当たりの重量変化が予め定めた範囲以内の場合に、原料融液の温度がシーディングに適した温度になっていると判断できる。この場合、重量変化測定工程において、原料融液に種結晶を接触させる操作をシーディングとすることができる。そして、重量変化測定工程に続けて後述する単結晶育成工程を実施できる。
【0041】
種結晶の単位時間当たりの重量変化を測定を開始するタイミング、すなわち重量変化測定工程を開始するタイミングは特に限定されるものではない。ただし、上述の様に、原料融液に種結晶を接触させた瞬間に種結晶は原料融液の表面張力によって下に引っ張られ、あたかも重量が増加したかのように観測される。このため、係る重量増加の間については、単位時間当たりの重量変化を測定する時間に含めないことが好ましい。
【0042】
従って、重量変化測定工程は、原料融液に種結晶を接触させた際の、原料融液の表面張力による見かけの重量増加が終了した後に実施することが好ましい。
【0043】
そして、本発明の発明者らの検討によれば、原料融液の表面張力による見かけの重量増加は、原料融液に種結晶を接触させた後、短時間に収束する。ただし、原料融液の表面張力による見かけの重量増加の影響を避けるため、重量変化測定工程は、原料融液に種結晶を接触させた後、30秒以上経過してから実施することが好ましい。もっとも、原料融液に種結晶を接触させた後、重量変化測定工程を実施するまでの時間が長すぎると、生産性が低下する恐れがある。このため、重量変化測定工程は、原料融液に種結晶を接触させた後、1分以内に実施することが好ましい。
【0044】
種結晶の単位時間当たりの重量変化を測定する時間についても特に限定されるものではないが、5分間以内であることが好ましく、2分間以内であることがより好ましい。
【0045】
これは、単位時間当たりの重量変化を測定する時間が5分間以内で、十分に種結晶の単位時間当たりの重量変化の傾向を把握することができ、5分間よりも長く測定を実施するとかえって生産性が低下する恐れがあるためである。
【0046】
また、種結晶の単位時間当たりの重量変化を測定する時間の下限値は特に限定されないが、30秒間以上であることが好ましく1分間以上であることがより好ましい。これは、種結晶の単位時間当たりの重量変化を測定する時間を30秒間以上とすることで、種結晶の単位時間当たりの重量変化の傾向をより正確に把握することができるためである。
【0047】
重量変化測定工程を実施した後、単結晶育成工程を実施する前に、図2に示したフロー図で、S12として、上記重量変化測定工程において測定した、種結晶の単位時間当たりの重量変化が予め定めた範囲内であるかを判定することができる(判定工程)。そして、重量変化測定工程において測定した、種結晶の単位時間当たりの重量変化が予め定めた範囲内であると判定された場合に、S13として単結晶育成工程を実施することができる。
【0048】
単結晶育成工程を実施するか否かの判定の基準、すなわち種結晶の単位時間当たりの重量変化量についての予め定める範囲については特に限定されるものではなく、育成する単結晶に許容される欠陥等の含有の程度等に応じて任意に選択することができる。
【0049】
例えば、重量変化測定工程において測定した、種結晶の単位時間当たりの重量変化、すなわち重量変化速度が、−100mg/分以上−10mg/分以下の場合に、単結晶育成工程を実施することが好ましい。特に、−60mg/分以上−30mg/分以下であることがより好ましい。これは、本発明の発明者らの検討によれば、重量変化測定工程において測定した、種結晶の単位時間当たりの重量変化が、−100mg/分以上−10mg/分以下の場合に、特に育成した結晶内の欠陥を低減できるためである。
【0050】
単結晶育成工程において、単結晶の育成を開始した後の具体的な手順は特に限定されるものではない。例えば図1に示した単結晶育成装置10を用いた場合、種結晶20を保持している引上げ軸19により、種結晶20を回転させながら徐々に引き上げることで単結晶を育成することができる。
【0051】
次に、判定工程(S12)において、重量変化測定工程で測定した種結晶の単位時間当たりの重量変化が、予め定めた範囲を超えたと判定した場合について説明する。この場合、図2において、判定工程(S12)のNoの側に進み、S14〜S17を実施できる。
【0052】
重量変化測定工程において測定した、種結晶の単位時間当たりの重量変化が予め定めた範囲を超えた場合に、種結晶を原料融液から引き離す種結晶位置変更工程(S14)を実施できる。
【0053】
重量変化測定工程で測定した種結晶の単位時間当たりの重量変化が予め定めた範囲を超えた場合、すなわち予め定めた範囲を外れた場合、原料融液の温度は、シーディングに適した温度域よりも高温、または低温となっている。そして、原料融液の温度がシーディングに適した温度域よりも高温の場合、種結晶が融解する恐れがある。また、原料の温度がシーディングに適した温度域よりも低温の場合、種結晶を原料融液と接触させた状態のままとすると、急速に単結晶の育成が進行する恐れがある。
【0054】
このため、種結晶位置変更工程を実施し、種結晶を原料融液から引き離すことが好ましい。例えば図1に示した単結晶育成装置10を用いた場合、種結晶位置変更工程では、引上げ軸19を上方に移動させることにより、種結晶20を原料融液から引き離すことができる。
【0055】
次に、予め測定しておいた、種結晶の単位時間当たりの重量変化と、原料融液の温度との関係、及び重量変化測定工程において測定した種結晶の単位時間当たりの重量変化から、原料融液の温度と、シーディングに適した原料融液の温度との差の温度を算出する制御温度算出工程(S15)を実施できる。
【0056】
本発明の発明者らの検討によると、種結晶の単位時間当たりの重量変化と、原料融液の温度との間には相関関係がある。このため、予め測定しておいた種結晶の単位時間当たりの重量変化と原料融液の温度との関係を用い、重量変化測定工程において測定した種結晶の単位時間当たりの重量変化から、原料融液の温度と、シーディングに適した原料融液の温度との差を算出できる。
【0057】
なお、種結晶の単位時間当たりの重量変化と、原料融液の温度との関係として、予め測定しておいた種結晶の単位時間当たりの重量変化と、原料融液の温度とシーディングに適した原料融液の温度との差の温度との関係を用いることもできる。
【0058】
そして、次に、制御温度算出工程で算出した、原料融液の温度と、シーディングに適した原料融液の温度との差の温度に基づいて、原料融液の温度を制御する原料融液温度制御工程(S16)を実施できる。
【0059】
すなわち、制御温度算出工程で、現在の原料融液の温度が、シーディングに適した温度よりも高いと算出された場合には、算出した温度差の分だけ原料融液の温度を低下させるように、加熱手段の出力を低下させることができる。また、制御温度算出工程で、現在の原料融液の温度が、シーディングに適した温度よりも低いと算出された場合には、算出した温度差の分だけ原料融液の温度を上昇させるように、加熱手段の出力を増加させることができる。
【0060】
原料融液温度制御工程で、原料融液の温度を制御するために用いる温度測定手段は特に限定されるものではないが、例えば坩堝の下方から坩堝底に接触させるように配置した熱電対や、周囲の耐火物に埋め込んだ熱電対を用いることができる。既述のように、単結晶育成装置10内に設け、坩堝底と接触するように配置した熱電対や、耐火物に埋めた熱電対については、絶対温度が正確ではない場合がある。しかしながら、温度差分については概ね正確な値となっている。このため、坩堝底と接触するように配置した熱電対等を用いて原料融液の温度を制御できる。
【0061】
原料融液温度制御工程を実施した後、原料融液に種結晶を再び接触させる種結晶接触工程(S17)を実施することができる。そして、種結晶接触工程の後に、単結晶育成工程(S13)を実施することができる。
【0062】
種結晶接触工程では、引上げ軸19を下げることにより、その端部に固定した種結晶20を原料融液に接触させることができる。単結晶育成工程については既述のため説明を省略する。
【0063】
なお、種結晶接触工程を実施した後、図2中点線で示したように、再度重量変化測定工程(S11)を実施することもできる。再度重量変化測定工程(S11)を実施した場合には、重量変化測定工程において測定した、種結晶の単位時間当たりの重量変化が予め定めた範囲内であるかを判定する判定工程(S12)を実施できる。その後は判定工程の判定に基づいて、既述の手順により各工程を実施することができる。
【0064】
以上に説明した本実施形態の単結晶の製造方法によれば、熱電対等の温度計や、オペレーターの経験に依らずに、種結晶の重量変化から容易に原料融液の温度がシーディングに適した温度であるかを判断することができる。このため、原料融液の温度がシーディングに適した温度にあることを再現性良く検出し、シーディングを実施できる。また、原料融液の温度が、シーディングに適した温度にあることを再現性良く検出し、シーディングを実施できるため、結晶欠陥の少ない高品質な結晶を歩留まり良く製造することが可能になる。
【0065】
本実施形態の単結晶の製造方法により製造する単結晶の種類は特に限定されるものではなく、各種単結晶の製造に適用することができる。ただし、融点が高く、原料融液の温度を検出することが特に困難であった、酸化物の単結晶を製造する際に好適に適用することができる。
【0066】
酸化物の単結晶の中でもBiGe12(BGO)、GdSiO:Ce(GSO)、LuSiO:Ce(LSO)等のシンチレータ材料や、GdGa12(GGG)等のアイソレータ基板材料、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウムについては高品質な単結晶が求められていたところ、従来はシーディングのタイミングを再現性良く検出することが困難であったため、歩留まり良く高品質な単結晶を製造することが困難であった。これに対して、本実施形態の単結晶の製造方法によれば、既述のように歩留まり良く高品質な単結晶を製造できる。このため、本実施形態の単結晶の製造方法は、上述のシンチレータ材料や、アイソレータ基板材料、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウムの製造に特に好適に適用することができる。
【実施例】
【0067】
以下に具体的な実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
図1に示した単結晶育成装置10を用いて、タンタル酸リチウム単結晶の育成を行った。なお、坩堝14の底面には図示しない熱電対を、その測温部が坩堝14の底面の外表面に接触するように設けており、坩堝14の底部で原料融液の温度を測定できるように構成している。以下に説明する原料融液の温度とは、係る熱電対により測定した坩堝底温度を意味する。
【0068】
また、本実施例では、耐熱物である耐火物13Aや、耐火物13B、耐火物坩堝16、の材料としては全てアルミナを用い、耐火物充填材17の材料としてはジルコニアを用いた。そして、坩堝14、及びアフターヒーター15の材料としてはイリジウムを用いた。
(種結晶の単位時間当たりの重量変化と原料融液の温度との関係の検討)
まず、実際の単結晶の育成を開始する前に、種結晶の単位時間当たりの重量変化と原料融液の温度との関係について、以下の(1)〜(4)の実験を行い、検討した。
【0069】
具体的には、原料融液の温度をシーディング温度よりも高いと思われる温度としてから、原料融液に種結晶を接触させ、重量変化を測定した後、種結晶を原料融液から切り離す。そして、原料融液の温度を数度程度下げてから、再度原料融液に種結晶を接触させて重量変化を測定する。以上の操作を、原料融液の温度がシーディングに適した温度となっていると判断されるまで繰り返し行い、種結晶の重量変化速度と、原料融液との関係について検討した。
(1)坩堝14内にタンタル酸リチウムの原料を充填した後、高周波コイル12により加熱し、タンタル酸リチウムの原料を融解し、原料融液を調製した。
【0070】
そして、原料融液に、引上げ軸19の端部に固定した種結晶20を接触させ、種結晶の単位時間当たりの重量変化を重量センサー21により測定した。結果を図3に示す。
【0071】
なお、図3において、重量変化とは原料融液に種結晶を接触させる前の、重量センサーの検出値を0gとし、それからの重量センサーが検出した重量の変化を示している。以下の図4図6の場合も同様である。
【0072】
図3に示したように、原料融液に種結晶を接触させた瞬間、すなわち図3中、24秒程度の時に結晶重量がおよそ1.3g増加した。これは、原料融液の表面張力の作用によって種結晶が下方に引っ張られたことによる。
【0073】
しかし、重量が徐々に減少し始めた。これは、種結晶が徐々に融解していることによる。そして、重量が減少し始めてから2分後、約0.8g減少したところで急激に1.3g減少した。これは種結晶の融解が進み、種結晶が原料融液から切り離れ、表面張力が解消されたためである。
(2)次に、一旦種結晶を原料融液から引き離した後、高周波コイル12への高周波出力を下げ、坩堝14の底に熱電対を接触させて測定していた原料融液の温度を上記(1)の状態から3.3℃下げた。その後、(1)の場合と同様に原料融液に種結晶を接触させた。
【0074】
図4に示すように、原料融液に種結晶を接触させた瞬間に結晶重量がおよそ1.3g増加し、その後30秒ほど経ると、重量が徐々に減少し始めた。そして、重量が減少し始めてから5分後、約0.8g減少したところで急激に1.3g減少した。
(3)(2)の実験の後、一旦種結晶を原料融液から引き離し、さらに、高周波コイル12への高周波出力を下げ、坩堝14の底に熱電対を接触させて測定していた原料融液の温度を上記(2)の状態から2.5℃下げた。その後、(1)、(2)の場合と同様に原料融液に種結晶を接触させた。
【0075】
図5に示すように、原料融液に種結晶を接触させた瞬間に結晶重量がおよそ1.3g増加し、その後、直ちに重量が増加し始めた。従って、原料融液の温度がシーディングに適した温度よりも低くなっていることが確認できる。このため、坩堝14の底に熱電対を接触させて測定していた原料融液の温度を5℃上げて、成長した結晶を再融解させた後、原料融液から種結晶を切り離した。
(4)(3)の実験の後、坩堝14の底に熱電対を接触させて測定していた原料融液の温度を4℃下げたところで原料融液に種結晶を接触させた。すると図6に示すように、原料融液に種結晶を接触させた瞬間に結晶重量がおよそ1.3g増加し、その後、重量が徐々に減少し始めたものの、重量が減少し始めてから7分後、約0.14g減少したところで重量の減少が停止した。このため、原料融液が適正なシーディング温度にあると判断した。
【0076】
なお、原料融液が適正なシーディング温度にある場合はまず、原料融液に種結晶を接触させた瞬間に原料融液の表面張力により結晶重量が増加する。そして、その後最初は重量がやや減少する。しかしその後、種結晶引き上げ軸を伝って熱が伝搬、放熱されるため、種結晶の重量減少は徐々に鈍くなり、しばらくすると重量減少が停止する。このような挙動を示す場合に、原料融液が適正なシーディング温度にあると判断することができる。
【0077】
そこで、図3図4図5図6に示した結果において、原料融液に種結晶を接触させ、原料融液の表面張力による見かけの重量増加が終了した時から1分後を始点として、1分間の重量減少量を重量減少率とした。具体的には、図3に示した例の場合、直線31と、直線32とで挟まれている間の重量減少量を重量減少率とした。図4に示した例の場合、直線41と直線42とで挟まれている間、図5に示した例の場合、直線51と直線52とで挟まれている間、図6に示した例の場合、直線61と直線62とで挟まれている間、の重量減少量を重量減少率とした。
【0078】
そして、図6の重量変化を測定した際の原料融液の温度(坩堝底温度)をシーディングに適した原料融液の温度とし、図3図5の各重量変化を測定した際の原料融液の温度(坩堝底温度)と、上記シーディングに適した原料融液の温度との差を横軸に、重量減少率を縦軸にしてグラフ化した。結果を図7に示す。
【0079】
なお、図7の縦軸は重量減少率を示しており、正の値の場合に種結晶が重量減少したことを、負の値の場合に種結晶が重量増加したことを示す。
【0080】
図7の結果から、原料融液に種結晶を接触させた際の種結晶の重量変化と、原料融液の間に相関関係があることを確認できた。
【0081】
なお、原料融液に種結晶を接触させた際の重量変化速度と、原料融液の温度とシーディングに適した原料融液の温度との差との関係について、後述する実施例2〜4において算出した結果も全てまとめると図8に示すグラフのようになる。
【0082】
図7図8に示したグラフの算出に当たっては、上記(1)〜(4)の実験例と同様に、まず、適正なシーディング温度からは高いと考えられる原料融液に種結晶を接触させてシーディングし、その時の重量変化速度、または重量減少率を算出する。次に原料融液の温度を1〜2℃程度下げ、同様に種結晶の重量変化速度を記録する作業を適正なシーディング温度になるまで何回か繰り返す。
【0083】
このように、原料融液に種結晶を接触させた際の種結晶の重量変化速度と、原料融液の温度とシーディングに適した原料融液の温度との差との関係を求めておけば、結晶育成におけるシーディングに際して、この関係から原料融液の温度とシーディングに適した原料融液の温度との差を容易に算出できる。このため、短時間で適正なシーディングの温度に原料融液を調整でき、良好なシーディングが再現性よく実行できる。
(単結晶の育成)
(1)実施例1−結晶1
上述の結果を参考にして、タンタル酸リチウム単結晶を育成した。
【0084】
図1に示した単結晶育成装置10を用いて、図2に示したフロー図に従って、タンタル酸リチウム単結晶の製造を行った。なお、既述のように単結晶育成装置10の坩堝14の底面には図示しない熱電対を、その測温部が坩堝14の底面の外表面に接触するように設けており、坩堝14の底部で原料融液の温度を測定できるように構成している。以下に説明する原料融液の温度とは、係る熱電対により測定した坩堝底温度を意味する。
【0085】
また、本実施例では、上記種結晶の単位時間当たりの重量変化と原料融液の温度との関係の検討を行った際と同じ単結晶育成装置を用いており、係る単結晶育成装置について、以下保温系1とも記載する。
【0086】
具体的な操作手順について説明する。
【0087】
まず、坩堝14内にタンタル酸リチウムの原料を充填した後、高周波コイル12により加熱し、タンタル酸リチウムの原料を融解し、原料融液を調製した。
【0088】
そして、原料融液に、引上げ軸19の端部に固定した種結晶20を接触させ、原料融液の表面張力による見かけの重量増加が終了した時から1分後を始点として、1分間種結晶の重量変化を重量センサー21により測定した。すなわち、単位時間を1分間とする単位時間当たりの種結晶の重量変化を測定した(S11:重量変化測定工程)。なお、この際の単位時間当たりの種結晶の重量変化、すなわち重量変化速度を後述する表1の中では重量変化速度として記載している。
【0089】
測定した単位時間当たりの重量変化が−100mg/分以上−10mg/分以下の場合には、種結晶の単位時間当たりの重量変化が予め定めた範囲内であると予め規定しておき、係る基準に基づいて判定を実施した(S12:判定工程)。そして、種結晶の単位時間当たりの重量変化が予め定めた範囲内であると判定した場合には、種結晶を回転させながら徐々に引き上げ、単結晶の育成を行うこととした(S13:単結晶育成工程)。
【0090】
しかしながら結晶1を作製する際には、重量変化測定工程で測定した重量変化速度は−482mg/分であった。このため、判定工程(S12)において、種結晶の単位時間当たりの重量変化が予め定めた範囲外であると判定された。そこでまず、種結晶を原料融液から引き離した(S14:種結晶位置変更工程)。
【0091】
次いで、図7に示した、種結晶の単位時間当たりの重量変化と、シーディングに適した原料融液の温度との差との関係から、原料融液の温度(坩堝底温度)と、シーディングに適した原料融液の温度との差を算出した(S15:制御温度算出工程)。なお、この際算出した温度修正量について、表1では温度修正として示している。結晶1を育成する際には、原料融液の温度を4.8℃温度を下げることとした。
【0092】
そして、制御温度算出工程で算出した、原料融液の温度(坩堝底温度)と、シーディングに適した原料融液の温度との差の温度に基づいて、原料融液の温度を制御した(S16:原料融液温度制御工程)。この際には、原料融液の温度と、シーディングに適した原料融液の温度との差分について、原料融液の温度(坩堝底温度)が変化するように、高周波コイルへの高周波出力を調整し、4.8℃下げた。
【0093】
原料融液温度制御工程を実施した後、原料融液に種結晶を再び接触させた(S17:種結晶接触工程)。その後、種結晶を回転させながら、徐々に上昇させ、単結晶の育成を実施した(S13:単結晶育成工程)
得られた単結晶については、多結晶化の有無、結晶欠陥の有無、割れの有無を評価した。多結晶化、結晶欠陥(リニエジと呼ばれる転位の集合体で結晶の円筒側面に現れ筋状に見える)、および割れの有無は、外観観察により評価を行った。
【0094】
結晶1については、多結晶化、割れいずれも観察されず、結晶欠陥が少ない高品質な結晶を得られたことが確認できた。
(2)実施例1−結晶2〜実施例1−結晶6
結晶1の場合と同様にして、結晶1の場合を含めて合計6回タンタル酸リチウム単結晶の育成を行った。2回目から6回目に作製したタンタル酸リチウム単結晶はそれぞれ結晶2〜結晶6として表1に結果を示している。
【0095】
なお、表1に示したように、実施例1−結晶3、4を育成した場合には、重量変化測定工程(S11)で測定した単位時間当たりの種結晶の重量変化、すなわち重量変化速度が−70mg、−100mgとなっていた。このため、判定工程(S12)において、予め定めた範囲内であると判定された。従って、原料融液温度制御工程等は実施せずに、そのまま、タンタル酸リチウム単結晶を育成する単結晶育成工程を実施した。
【0096】
また、実施例1−結晶2、5、6を育成した場合には、重量変化測定工程で測定した重量変化速度が、予め定めた−100mg/分以上−10mg/分以下の範囲外であった。このため、種結晶位置変更工程(S14)〜種結晶接触工程(S17)を実施してから単結晶育成工程(S13)を実施した。
【0097】
結果を表1に示す。
[実施例2]
断熱物の一部の厚みを厚くした単結晶育成装置(保温系2)を用いた点以外は、実施例1と同様にしてタンタル酸リチウム単結晶の育成を行った。
【0098】
そしてまず、実施例1と同様に、種結晶の単位時間当たりの重量変化、すなわち重量変化速度と、原料融液の温度との関係の検討を行った。結果を図8に示す。なお、図8中では、原料融液の温度は、原料融液の温度とシーディングに適した原料融液の温度との差として示している。また、図8中の保温系2が本実施例での検討結果を示している。
【0099】
図8中、保温系1が実施例1で算出した種結晶の単位時間当たりの重量変化、すなわち重量変化速度と原料融液の温度との関係の検討結果を示している。すなわち、図7に示したものと同じデータを図8のグラフにあわせて示している。なお、図8では重量変化速度として示していることから、値が負の場合には単位時間に種結晶の重量が減少し、値が正の場合には、単位時間に種結晶の重量が増加したことを意味する。
【0100】
次いで、実施例1の場合と同様に、図2に示したフロー図に従って、タンタル酸リチウム単結晶の育成を行った。タンタル酸リチウム単結晶は、同様の手順で合計6回育成を行った。1回目から6回目に作製したタンタル酸リチウム単結晶はそれぞれ実施例2−結晶1〜実施例2−結晶6として表1に結果を示している。
【0101】
本実施例においても、判定工程(S12)における判定基準としては、測定した単位時間当たりの重量変化、すなわち重量変化速度が−100mg/分以上−10mg/分以下の場合には、種結晶の単位時間当たりの重量変化が予め定めた範囲内であると定めて実施した。本実施例では実施例2−結晶1〜実施例2−結晶6いずれについても、判定工程で原料融液の温度調整が必要であると判定された。
【0102】
そこで、種結晶位置変更工程(S14)〜種結晶接触工程(S17)を実施してから単結晶育成工程(S13)を実施した。
【0103】
制御温度算出工程(S15)では、図8に示した、保温系2の種結晶の重量変化速度と、原料融液の温度とシーディングに適した原料融液の温度との差との関係から、原料融液の温度と、シーディングに適した原料融液の温度との差を算出した。そして、原料融液温度制御工程(S16)で、制御温度算出工程(S15)で算出した温度差の分だけ原料融液の温度が変化するように制御してから、種結晶接触工程(S17)、単結晶育成工程(S13)を実施し、タンタル酸リチウム単結晶を育成した。
【0104】
結果を表1に示す。
[実施例3]
耐熱物について、全ての部材をジルコニアに変更した単結晶育成装置10(保温系3)を用いた点以外は、実施例1と同様にしてタンタル酸リチウム単結晶の育成を行った。
【0105】
そしてまず、実施例1と同様に、種結晶の単位時間当たりの重量変化、すなわち重量変化速度と、原料融液の温度との関係の検討を行った。結果を図8に示す。なお、図8中では、原料融液の温度は、原料融液の温度とシーディングに適した原料融液の温度との差として示している。また、図8中の保温系3が本実施例での検討結果を示している。
【0106】
次いで、実施例1の場合と同様に、図2に示したフロー図に従って、タンタル酸リチウム単結晶の育成を行った。タンタル酸リチウム単結晶は、同様の手順で合計4回育成を行った。1回目から4回目に作製したタンタル酸リチウム単結晶はそれぞれ実施例3−結晶1〜実施例3−結晶4として表1に結果を示している。
【0107】
本実施例においても、判定工程(S12)における判定基準としては、測定した単位時間当たりの重量変化が−100mg/分以上−10mg/分以下の場合には、種結晶の単位時間当たりの重量変化が予め定めた範囲内であると定めて実施した。本実施例では実施例3−結晶1〜実施例3−結晶4いずれについても、判定工程で原料融液の温度調整が必要であると判定された。
【0108】
そこで、種結晶位置変更工程(S14)〜種結晶接触工程(S17)を実施してから単結晶育成工程(S13)を実施した。
【0109】
制御温度算出工程(S15)では、図8に示した、保温系3の種結晶の重量変化速度と、原料融液の温度とシーディングに適した原料融液の温度との差との関係から、原料融液の温度と、シーディングに適した原料融液の温度との差を算出した。そして、原料融液温度制御工程(S16)で、制御温度算出工程(S15)で算出した温度差の分だけ原料融液の温度が変化するように制御してから、種結晶接触工程(S17)、単結晶育成工程(S13)を実施し、タンタル酸リチウム単結晶を育成した。
【0110】
結果を表1に示す。
[実施例4]
耐熱物の耐火物13Aの部材をジルコニアに変更した単結晶育成装置10(保温系4)を用いた点以外は、実施例1と同様にしてタンタル酸リチウム単結晶の育成を行った。
【0111】
そしてまず、実施例1と同様に、種結晶の単位時間当たりの重量変化、すなわち重量変化速度と、原料融液の温度との関係の検討を行った。結果を図8に示す。なお、図8中では、原料融液の温度は、原料融液の温度とシーディングに適した原料融液の温度との差として示している。また、図8中の保温系4が本実施例での検討結果を示している。
【0112】
次いで、実施例1の場合と同様に、図2に示したフロー図に従って、タンタル酸リチウム単結晶の育成を行った。タンタル酸リチウム単結晶は、同様の手順で合計6回育成を行った。1回目から6回目に作製したタンタル酸リチウム単結晶はそれぞれ実施例4−結晶1〜実施例4−結晶6として表1に結果を示している。
【0113】
本実施例においても、判定工程(S12)における判定基準としては、測定した単位時間当たりの重量変化が−100mg/分以上−10mg/分以下の場合には、種結晶の単位時間当たりの重量変化が予め定めた範囲内であると定めて実施した。
【0114】
本実施例では実施例4−結晶3、実施例4−結晶4、実施例4−結晶5については、重量変化測定工程(S11)で測定した単位時間当たりの種結晶の重量変化、すなわち重量変化速度がそれぞれ、−52mg/分、−22mg/分、−11mg/分となっていた。このため、判定工程(S12)において、予め定めた範囲内であると判定された。従って、原料融液温度制御工程等は実施せずに、そのまま、タンタル酸リチウム単結晶を育成する単結晶育成工程(S13)を実施した。
【0115】
これに対して、実施例4−結晶1、実施例4−結晶2、実施例4−結晶6については、判定工程(S12)で原料融液の温度調整が必要であると判定された。
【0116】
そこで、判定工程(S12)で原料融液の温度調整が必要であると判定された場合には、図2のフロー図に従い、種結晶位置変更工程(S14)〜種結晶接触工程(S17)を実施してから単結晶育成工程(S13)を実施した。
【0117】
この際、制御温度算出工程(S15)では、図8に示した、保温系4の種結晶の重量変化速度と、原料融液の温度とシーディングに適した原料融液の温度との差との関係から、原料融液の温度と、シーディングに適した原料融液の温度との差を算出した。そして、原料融液温度制御工程(S16)で、制御温度算出工程(S15)で算出した温度差の分だけ原料融液の温度が変化するように制御してから、種結晶接触工程(S17)、単結晶育成工程(S13)を実施し、タンタル酸リチウム単結晶を育成した。
【0118】
結果を表1に示す。
[比較例1]
実施例1で用いた単結晶育成装置(保温系1)で、重量変化測定工程における重量変化速度が5mg/分の増加傾向であり、予め定めていた重量変化測定工程で測定した重量変化速度の範囲である−100mg/分以上−10mg/分以下の範囲外であった。
【0119】
しかしながら、判定工程(S12)を実施せず、原料融液の温度も調整しないで種結晶の引き上げを開始し結晶を育成した。すると、多結晶化はしなかったものの結晶欠陥が多い結晶となった。
【0120】
結果を表1に示す。
[比較例2]
実施例1で用いた単結晶育成装置(保温系1)で、重量変化測定工程における重量変化速度が47mg/分の増加傾向であり、予め定めていた重量変化測定工程で測定した重量変化速度の範囲である−100mg/分以上−10mg/分以下の範囲外であった。
【0121】
しかしながら、判定工程(S12)を実施せず、原料融液の温度も調整しないで種結晶の引き上げを開始し結晶を育成した。すると、多結晶化し、結晶が割れる結果となった。
【0122】
結果を表1に示す。
[比較例3]
実施例2で用いた単結晶育成装置(保温系2)で、重量変化測定工程における重量変化速度が28mg/分の増加傾向であり、予め定めていた重量変化測定工程で測定した重量変化速度の範囲である−100mg/分以上−10mg/分以下の範囲外であった。
【0123】
しかしながら、判定工程(S12)を実施せず、原料融液の温度も調整しないで種結晶の引き上げを開始し結晶を育成した。すると、多結晶化はしなかったものの結晶欠陥が多い結晶となった。
【0124】
結果を表1に示す。
[比較例4]
実施例2で用いた単結晶育成装置(保温系2)で、重量変化測定工程における重量変化速度が87mg/分の増加傾向であり、予め定めていた重量変化測定工程で測定した重量変化速度の範囲である−100mg/分以上−10mg/分以下の範囲外であった。
【0125】
しかしながら、判定工程(S12)を実施せず、原料融液の温度も調整しないで種結晶の引き上げを開始し結晶を育成した。すると、多結晶化し、結晶が割れる結果となった。
【0126】
結果を表1に示す。
[比較例5]
実施例3で用いた単結晶育成装置(保温系3)で、重量変化測定工程における重量変化速度が77mg/分の増加傾向であり、予め定めていた重量変化測定工程で測定した重量変化速度の範囲である−100mg/分以上−10mg/分以下の範囲外であった。
【0127】
しかしながら、判定工程(S12)を実施せず、原料融液の温度も調整しないで種結晶の引き上げを開始し結晶を育成した。すると、多結晶化し、結晶が割れる結果となった。
【0128】
結果を表1に示す。
[比較例6]
実施例3で用いた単結晶育成装置(保温系3)で、重量変化測定工程における重量変化速度が145mg/分の増加傾向であり、予め定めていた重量変化測定工程で測定した重量変化速度の範囲である−100mg/分以上−10mg/分以下の範囲外であった。
【0129】
しかしながら、判定工程(S12)を実施せず、原料融液の温度も調整しないで種結晶の引き上げを開始し結晶を育成した。すると、多結晶化し、結晶が割れる結果となった。
【0130】
結果を表1に示す。
[比較例7]
実施例4で用いた単結晶育成装置(保温系4)で、重量変化測定工程における重量変化速度が−370mg/分の減少傾向であり、予め定めていた重量変化測定工程で測定した重量変化速度の範囲である−100mg/分以上−10mg/分以下の範囲外であった。
【0131】
しかしながら、判定工程(S12)を実施せず、原料融液の温度も調整しないで種結晶の引き上げを開始し結晶を育成した。すると、種結晶に原料融液に接触させた2分後、種結晶の先端と原料融液が切り離れた。
【0132】
結果を表1に示す。
[比較例8]
実施例4で用いた単結晶育成装置(保温系4)で、重量変化測定工程における重量変化速度が−160mg/分で減少傾向であり、予め定めていた重量変化測定工程で測定した重量変化速度の範囲である−100mg/分以上−10mg/分以下の範囲外であった。
【0133】
しかしながら、判定工程(S12)を実施せず、原料融液の温度も調整しないで種結晶の引き上げを開始し結晶を育成した。すると、種結晶に原料融液に接触させた6分後、種結晶の先端と原料融液が切り離れた。
【0134】
結果を表1に示す。
【0135】
【表1】
以上の実験の結果から明らかなように、重量変化測定工程において測定した種結晶の重量変化速度が、予め定めた一定の範囲内にある場合には、原料融液の温度がシーディングに適した温度にあることが確認できた。すなわち、重量変化測定工程で、種結晶の重量変化速度を測定することで、原料融液の温度がシーディングに適した温度にあることを再現性良く検出し、シーディングを実施できることが確認できた。
【0136】
また、予め測定しておいた種結晶の単位時間当たりの重量変化と原料融液の温度との関係、及び重量変化測定工程において測定した種結晶の単位時間当たりの重量変化から、原料融液の温度と、シーディングに適した原料融液の温度との差の温度を容易に算出できる。このため、重量変化測定工程において測定した重量変化速度が、予め定めた範囲外の場合でも、容易に原料融液の温度とシーディングに適した原料融液の温度との差を算出、制御することができ、原料融液の温度をシーディングに適した温度とすることができる。
【0137】
従って、高品質な単結晶を歩留り良く製造することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8