(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記含フッ素共重合体は、前記水を含む媒体中で、前記融点が50℃〜70℃の非イオン性界面活性剤の少なくとも一部によって含フッ素エマルションを形成しており、前記含フッ素共重合体エマルションの平均粒子径が5nm〜300nmである、請求項1〜4のいずれかに記載の撥水撥油剤組成物。
撥水撥油剤組成物の製造方法であって、水を含む媒体中に含フッ素単量体を含む単量体および融点が50℃〜70℃の非イオン性界面活性剤を加えて乳化重合を行い、含フッ素共重合体エマルションを得る工程(1)と、前記工程(1)によって得られた含フッ素共重合体エマルションを用いて撥水撥油剤組成物を調製する工程(2)と、を有し、前記非イオン性界面活性剤が、ステアリルポリオキシエチレン50モル付加物、ステアリルポリオキシエチレン40モル付加物、オレイルポリオキシエチレン60モル付加物、オレイルポリオキシエチレン40モル付加物、およびベヘニルポリオキシエチレン30モル付加物からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記含フッ素単量体を含む単量体が、下記単量体(a)および下記単量体(b)を含む、撥水撥油剤組成物の製造方法。
単量体(a):(Z−Y)nXで表され、式中の記号は以下の意味を示す。
Z:炭素数6以下のパーフルオロアルキル基またはCmF2m+1O(CF2CF(CF3)O)dCF(CF3)−(mは1〜6の整数。dは1〜4の整数。)で表される基。
Y:2価の有機基または単結合。
n:1または2。
X:重合性不飽和基であって、nが1の場合は、−CR=CH2、−COOCR=CH2、−OCOCR=CH2、−OCH2−φ−CR=CH2または−OCH=CH2であり、nが2の場合は、=CH(CH2)qCR=CH2、=CH(CH2)qCOOCR=CH2、=CH(CH2)qOCOCR=CH2または−OCOCH=CHCOO−である。
ただし、Rは水素原子、メチル基またはハロゲン原子であり、φはフェニレン基であり、qは0〜4の整数である。
単量体(b):炭素数12以上の飽和炭化水素基を有するアクリレートまたはメタクリレート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<撥水撥油剤組成物>
本発明の撥水撥油剤組成物は、融点が50℃〜70℃の非イオン性界面活性剤と、含フッ素共重合体と、水を含む媒体とを含有する。
本発明において、非イオン性界面活性剤とは、非イオン性である界面活性剤のことを言う。
上記の非イオン性界面活性剤の融点とは、示差走査熱量計を用い、JIS K7121−1987に準ずる方法にて当該非イオン性界面活性剤を分析した時に、溶解ピーク温度として観測される温度のことを言う。
【0013】
本発明においては、融点が50℃以上の非イオン界面活性剤を用いることにより、発生するスカムの粘着性を抑えることができ、スカムが絞りローラー等に付着するのを抑制すると共に、絞りローラー等からの脱離性が向上し、ガムアップ除去性が高まる。また、融点が70℃以下の非イオン性界面活性剤を用いることにより、乳化重合時に当該非イオン界面活性剤の再結晶化を抑えることでき、重合安定性が低下するのを抑制することができる。さらに、融点が70℃以下の非イオン性界面活性剤を用いることで、含フッ素共重合体を媒体中で安定に存在させることができる。
非イオン性界面活性剤の融点は50〜60℃が好ましく、取扱いの点から50〜55℃がより好ましい。
【0014】
融点が50〜70℃の非イオン性界面活性剤の含有量は、含有される含フッ素共重合体の100質量%に対して、0.1質量%〜10質量%であり、0.5質量%〜7質量%であることがより好ましく、1質量%〜5質量%であることが特に好ましい。0.1質量%以上であると、粘度の高いスカムの発生を、より一層抑制することができ、10質量%以下であると、撥水撥油剤で処理した物品が撥水性能に優れる。
【0015】
融点が50〜70℃の非イオン性界面活性
剤としては、ステアリルポリオキシエチレン40モル付加物のEMALEX640(日本エマルジョン社製、商品名)、ステアリルポリオキシエチレン50モル付加物のエマルゲン350(花王社製、商品名)およびブラウノンSR−750(青木油脂社製、商品名)、オレイルポリオキシエチレン40モル付加物のブラウノンEN−1540(青木油脂社製、商品名)
、オレイルポリオキシエチレン60モル付加物のブラウノンEN−1560(青木油脂社製、商品名)、ベヘニルポリオキシエチレン30モル付加物のNIKKOL BB30(日光ケミカルズ社製、商品名)およびEMALEX BHA−30(日本エマルジョン社製、商品名)等が挙げられる。
重合時の取り扱い、および重合後の分散液の安定性の観点から、ステアリルポリオキシエチレン50モル付加物のエマルゲン350(花王社製、商品名)
、ベヘニルポリオキシエチレン30モル付加物のEMALEX BHA−30(日本エマルジョン社製、商品名)およびNIKKOL BB30(日光ケミカルズ社製、商品名)が特に好ましい。
【0016】
本発明において、含フッ素共重合体とは、フッ素を含む共重合体のことをいう。
含フッ素共重合体は、下記単量体(a)に基づく構成単位と下記単量体(b)に基づく構成単位を含
む。この構造を有することにより、良好な撥水撥油性を物品に付与できる。
【0017】
[単量体(a)]
単量体(a)は、(Z−Y)
nXで表され、式中の記号は以下の意味を示す。
Z:炭素数6以下のペルフルオロアルキル基またはC
mF
2m+1O(CF
2CF(CF
3)O)
dCF(CF
3)−(mは1〜6の整数。dは1〜4の整数。)で表される基であり、炭素数6以下のペルフルオロアルキル基が好ましく、炭素数4〜6のペルフルオロアルキル基がより好ましく、炭素数6のペルフルオロアルキル基が最も好ましい。
Y:2価の有機基または単結合であり、−(CH
2)
r−(rは1〜4の整数)が好ましく、−CH
2CH
2−がより好ましい。
n:1または2であり、1が好ましい。
X:重合性不飽和基であって、nが1の場合は、−CR=CH
2、−COOCR=CH
2、−OCOCR=CH
2、−OCH
2−φ−CR=CH
2または−OCH=CH
2であり、nが2の場合、は=CH(CH2)
qCR=CH
2、=CH(CH
2)
qCOOCR=CH
2、=CH(CH
2)
qOCOCR=CH
2または−OCOCH=CHCOO−である。
ただし、Rは水素原子、メチル基またはハロゲン原子であり、水素原子またはメチル基であることが好ましい。
φはフェニレン基であり、qは0〜4の整数である。
Xとしては、−OCOC(CH
3)=CH
2、−OCOCH=CH
2が好ましく、特に−OCOC(CH
3)=CH
2が好ましい。
【0018】
単量体(a)としては、他の単量体との重合性、共重合体を含む皮膜の柔軟性、物品に対する共重合体の接着性、媒体に対する溶解性、乳化重合の容易性等の点から、炭素数が6以下のペルフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートが好ましく、炭素数が4〜6のペルフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートがより好ましく、炭素数が4〜6のペルフルオロアルキル基を有するメタアクリレートがさらに好ましい。
ここで、(メタ)アクリレートとは、メタアクリレートとアクリレートを含むものとする。
【0019】
具体例としては、CF
3(CF
2)
5CH
2CH
2OCOC(CH
3)=CH
2、CF
3(CF
2)
5CH
2CH
2OCOCH=CH
2、CF
3(CF
2)
5CH
2CH
2OCOC(Cl)=CH
2、CF
3(CF
2)
3CH
2CH
2OCOC(CH
3)=CH
2、CF
3(CF
2)
3CH
2CH
2OCOCH=CH
2、CF
3(CF
2)
3CH
2CH
2OCOC(Cl)=CH
2、CF
3(CF
2)
5CH
2OCOC(CH
3)=CH
2、CF
3(CF
2)
5CH
2OCOCH=CH
2、CF
3(CF
2)
5CH
2OCOC(Cl)=CH
2が挙げられる。
【0020】
[単量体(b)]
単量体(b)は、炭素数12以上のアルキル基を有するアクリレートまたはメタクリレートである。アルキル基の炭素数は、撥水性の点から16〜30が好ましく18〜30がより好ましい。
単量体(b)としては、たとえば、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
単量体(b)は、得られる撥水撥油剤組成物により表面処理した物品の撥水撥油性と風合いの観点から、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等が好ましい。
【0021】
本発明の含フッ素共重合体は、単量体(a)に基づく構成単位、単量体(b)に基づく構成単位以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の単量体に基づく構成単位を有することができる。
その他の単量体としては、ハロゲン化ビニル、ハロゲン化ビニリデンが挙げられる。ハロゲン化ビニルとしては塩化ビニル、ハロゲン化ビニリデンとしては、塩化ビニリデンが好ましく、これらを用いることで、得られる撥水撥油剤組成物の物品への密着性をより向上させ、撥水撥油性をより向上させることができる。
さらに、その他の単量体として、架橋しうる官能基を有する単量体が挙げられる。該官能基としては、イソシアネート基、ブロックドイソシアネート基、水酸基、カルボキシ基、メチロール基などが挙げられる。
上記単量体としては、ブロックドイソシアネート基、メチロール基、水酸基を有する単量体が好ましく、2−イソシアナトエチル(メタ)アクリレートの3,5−ジメチルピラゾール付加体、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が特に好ましい。
本発明の含フッ素共重合体において、単量体(a)に基づく構成単位の含有量は、含フッ素共重合体中の全ての単量体単位(100質量%)のうち、8〜90質量%であり、20〜85質量%が好ましく、40〜80質量%がより好ましい。
単量体(b)に基づく構成単位の含有量は、含フッ素共重合体中の全ての単量体単位(100質量%)のうち、0〜80質量%であり、1〜65質量%が好ましく、5〜50質量%がより好ましい。
その他の単量体に基づく構成単位の含有量は、含フッ素共重合体中の全ての単量体単位(100質量%)のうち、0〜80質量%であり、0.1〜50質量%が好ましく、0.5〜30質量%がより好ましい。
【0022】
本発明の撥水撥油剤組成物は、水を含む媒体を含有する。水を含む媒体とは、水、アルコール、グリコール、グリコールエーテル、ハロゲン化合物、炭化水素、ケトン、エステル、エーテル、窒素化合物、硫黄化合物、無機溶媒、有機酸等が挙げられる。なかでも、溶解性、取り扱いの容易さの点から、水、アルコール、グリコール、グリコールエーテルおよびグリコールエステルからなる群から選ばれた1種以上の媒体が好ましい。
水以外の媒体を含む場合、水以外の媒体の含有量は、水の100質量部に対して、0〜60質量部が好ましく、5〜50質量部がより好ましい。
【0023】
含フッ素共重合体は、融点が50℃〜70℃の非イオン性界面活性剤の少なくとも一部によって水を含む媒体中に分散し、含フッ素共重合体エマルションを形成していることが好ましい。
含フッ素共重合体エマルションの平均粒子径は、5〜300nmであることが好ましく、50〜200nmがより好ましい。平均粒子径が5nm以上とすることで、良好な加工浴安定性を維持することができる。平均粒子径を300nm以下とすることで、含フッ素共重合体粒子を繊維製品の表面に均一に付着することが可能となる。含フッ素共重合体エマルションの平均粒子径は(測定装置)動的光散乱法やレーザー回折法を用いて求めることができる。
【0024】
本発明の撥水撥油剤組成物は、前記融点が50〜70℃の非イオン性界面活性剤に加え、さらに融点が50℃未満の非イオン性界面活性剤を含有することが好ましい。融点が50℃未満の非イオン性界面活性剤を含有することで、夾雑物に対する安定性が向上し、得られた撥水撥油剤組成物を物品への加工時に用いる際に、スカム自体の発生を抑えることができる。
融点が50℃未満の非イオン性界面活性剤としては、公知のものを使用できるが、エチレンオキシドプロピレンオキシド重合物(日油社製の商品、プロノンシリーズ)が好ましい。
さらに、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールエチレンオキシド付加物(日信化学工業社製の商品、サーフィノールシリーズ)が好ましい。これらは単独でも、混合しても使用することができる。サーフィノールシリーズを使用すると、撥水撥油剤組成物の物品への浸透性を向上させる効果がある。
また、融点50℃未満の非イオン性界面活性剤のHLB(Hydrophile-Lipophile Balance)は、17未満であることが含フッ素共重合体の分散性とガムアップ防止効果の観点から好ましい。
【0025】
本発明の撥水撥油剤組成物は、上記以外の界面活性剤を、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。界面活性剤を含有すると、撥水撥油剤組成物の夾雑物に対する安定性をより一層高めることができる。
【0026】
カチオン性界面活性剤としては、置換アンモニウム塩型のカチオン性界面活性剤が好ましい。具体的には、「(R)
4N
+」・X
−の構造を持つものが好ましい。ここに、Rとしては水素原子、炭素数が1〜22のアルキル基、または炭素数が2〜22のアルケニル基が好ましく、4つのRは同一であっても、異なっていても良い。4つのRのうち1つが炭素数6〜22のアルキル基、特には12〜18であり、残り3つがメチル基であることが好ましい。X
−は対イオンであり、塩素イオン、エチル硫酸イオン、または酢酸イオンが例示されるが、塩素イオンが特に好ましい。好ましいカチオン性界面活性剤としては、C12(またはC12成分を主成分とした直鎖)アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリル(またはC18成分を主成分とした直鎖)トリメチルアンモニウムクロライドが挙げられる。
【0027】
本発明の撥水撥油剤組成物においては、その他添加剤として、浸透剤、消泡剤、吸水剤、帯電防止剤、防しわ剤、風合い調節剤、増膜助剤、水溶性高分子、熱硬化剤(メラミン樹脂、ウレタン樹脂、トリアジン環含有有機化合物、イソシアネート系化合物など)などを使用することができる。
【0028】
本発明の含フッ素共重合体の比重は、1.10g/ml以上1.75g/ml未満であることが好ましく、1.10g/ml〜1.50g/mlがより好ましい。この範囲であると、スカムが発生したとしても、加工浴底部に速やかに堆積することにより、スカムが絞りローラー上に持ち込まれにくくガムアップが発生しにくい。
具体的には、含フッ素共重合体中の単量体(a)のモル分率を、8%以上85%未満にすることで、含フッ素共重合体の比重を制御することができる。
【0029】
<撥水撥油剤組成物の製造方法>
本発明の含フッ素撥水撥油剤組成物の製造方法は、下記工程(1)、および工程(2)を有する。
工程(1):水を含む媒体中に含フッ素単量体を含む単量体、および融点が50〜70℃の非イオン性界面活性剤を加えて乳化重合を行い、含フッ素共重合体エマルションを得る。
工程(2):工程(1)によって得られた含フッ素共重合体エマルションを用いて、撥水撥油剤組成物を調製する。
【0030】
(工程(1))
工程(1)では、水を含む媒体中に含フッ素単量体を含む単量体と、融点が50〜70℃の非イオン界面活性剤を加えて乳化重合を行って含フッ素共重合体エマルションを得る。水を含む媒体、および融点が50〜70℃の非イオン界面活性剤は、前述のものを用いることができる。
含フッ素単量体を含む単量体とは、含フッ素単量体の他に、それ以外の単量体を含んでいてもよい。
含フッ素単量体を含む単量体としては、前述した単量体(a)を含む単量体が好ましく、より好ましくは、前述した単量体(a)および前述した単量体(b)を含む単量体が好ましい。単量体(a)および単量体(b)を含む単量体を用いることにより、得られた撥水撥油剤組成物で処理した物品の風合いを柔らかくすることができる。
【0031】
工程(1)では、前記融点が50〜70℃の非イオン性界面活性剤に加え、さらに融点が50℃未満の非イオン性界面活性剤を加えることが好ましい。融点が50℃未満の非イオン性界面活性剤をさらに加えることで、既アニオン夾雑物安定性が向上し、得られた撥水撥油剤組成物を物品への加工時に用いる際にスカム自体の発生を抑えることができる。
乳化重合後に得られる含フッ素共重合体エマルションは、含フッ素単量体を含む単量体が重合した含フッ素共重合体が、乳化重合で用いた非イオン性界面活性剤を含む界面活性剤により、水を含む媒体中に分散した分散体である。
【0032】
工程(1)で用いられる、融点が50〜70℃の非イオン性界面活性剤の添加量は、含フッ素単量体を含む単量体の全質量(100質量%)に対して、0.1質量%〜10質量%、好ましくは0.5質量%〜7質量%、さらに好ましくは1質量%〜5質量%であることが重合安定性の観点から好ましい。また、0.1質量%以上であると、撥水撥油剤で物品を処理する際、粘着性の高いスカムの発生をより一層抑制することができ、10質量%以下であると、撥水撥油剤で処理した物品は撥水性能に優れる。
【0033】
(工程(2))
工程(2)では、工程(1)で得られた含フッ素共重合体エマルジョンを用いて撥水撥油組成物を調製する。ここで、調製とは、得られた含フッ素エマルションが、撥水撥油剤組成物の原料として用いることができる形態であれば、どのような調製の仕方でもよい。得られた含フッ素エマルションをそのまま撥水撥油組成物として使用しても良い。また、調製には、含フッ素エマルションから媒体の一部や界面活性剤の一部を取り除く工程が含まれてもよい。
好ましい調製としては、含フッ素エマルションを所定濃度に媒体で希釈する例が挙げられる。これにより、撥水撥油剤組成物を簡易に製造することができる。
【0034】
本発明の含フッ素撥水撥油剤組成物は、下記の工程(3)および工程(4)によっても製造することができる。
工程(3):水を含む媒体中に含フッ素単量体を含む単量体、および融点が50〜70℃の非イオン界面活性剤以外の界面活性剤を加えて乳化重合を行い、含フッ素共重合体エマルションを得る。
工程(4):工程(3)によって得られた含フッ素共重合体エマルションに、融点が50〜70℃の非イオン性界面活性剤を加えて撥水撥油剤組成物を調製する。
工程(4)で用いられる、融点が50〜70℃の非イオン性界面活性剤の添加量は、含フッ素共重合体の質量に対して0.1質量%〜10質量%であることが好ましい。
【0035】
乳化重合の重合開始剤としては、熱重合開始剤、光重合開始剤、放射線重合開始剤、ラジカル重合開始剤、イオン性重合開始剤等が挙げられ、水溶性または油溶性のラジカル重合開始剤が好ましい。
ラジカル重合開始剤としては、アゾ系重合開始剤、過酸化物系重合開始剤、レドックス系開始剤等の汎用の開始剤が、重合温度に応じて用いられる。ラジカル重合開始剤としては、重合時の扱いやすさからアゾ系重合開始剤が好ましい。
重合開始剤の添加量は、含フッ素単量体を含む単量体の100質量部に対して、0.1〜5質量部が好ましく、0.2〜3質量部がより好ましい。
重合温度は、20〜80℃が好ましく、30〜70℃がより好ましい。
重合の際には分子量調整剤を用いても良い。分子量調整剤としては、芳香族系化合物、メルカプトアルコール類またはメルカプタン類が好ましく、アルキルメルカプタン類が特に好ましい。分子量調整剤の添加量は、単量体混合物の100質量部に対して、0〜5質量部が好ましく、0〜3質量部がより好ましい。
【0036】
<物品>
本発明の物品は、本発明の撥水撥油剤組成物によって表面が処理されたものである。
本発明の物品は、本発明の撥水撥油剤組成物によって表面処理がされているので、表面処理時に発生するスカムに起因する物品表面の汚れの発生や処理ムラを抑えることができる。
処理される物品としては、繊維(天然繊維、合成繊維、混紡繊維等)、各種繊維製品、不織布、樹脂、紙、皮革、金属、石、コンクリート、石膏、ガラス等が挙げられる。
処理方法としては、たとえば、公知の塗工方法によって物品に撥水撥油剤組成物を含む塗布液を塗布した後、乾燥する方法、または物品を、撥水撥油剤組成物を含む塗布液に浸漬した後、乾燥する方法が挙げられる。
本発明の撥水撥油剤組成物の物品への表面処理方法は、公知の方法のいずれも適用可能であるが、特に既存のDip−Nip法が好ましい。
本発明の撥水撥油剤組成物による処理と帯電防止加工、柔軟加工、抗菌加工、消臭加工、防水加工、防しわ加工等の各種機能加工を組み合わせて加工することも可能である。組み合わせ方法としては、本発明の撥水撥油剤組成物による処理を行う前、処理を行う時に同時に、あるいは処理を行った後のいずれでも良い。
防水加工としては、防水膜を付与する加工が挙げられる。防水膜としては、ウレタン樹脂やアクリル樹脂から得られる多孔質膜、ウレタン樹脂やアクリル樹脂から得られる無孔質膜、ポリテトラフルオロエチレン膜、またはこれらを組み合わせた透湿防水膜が挙げられる。
【実施例】
【0037】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、これらの説明が本発明を限定するものではない。
【0038】
[含フッ素重合体の比重の測定方法]
撥水撥油剤組成物に2−ブタノール/ヘキサン(50/50質量部数)を添加して、凝集した含フッ素重合体を真空乾燥した後、粉砕したものを測定試料とした。
23℃、RH50%の条件下で、予め空で秤量した比重カップにイソプロピルアルコール/HCFC225(HCFC225ca(3,3-ジクロロ-1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン)とHCFC225cb(1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン)の45/55混合溶媒)=80/20(質量比)の混合溶媒を満たして、総質量を秤量し、混合溶媒の比重を下記式(1)に従い計算した。その結果、Lρは0.87g/mlであった。
Lρ=(C−B)/A・・・式(1)
(A:比重カップの容量(ml)、B:比重カップの質量(g)、C:混合溶媒で満たした比重カップの質量(g)、Lρ:混合溶媒の比重)
【0039】
次に測定試料約2gを比重カップに投入し精秤した後、混合溶媒で比重カップを満たして精秤し、下記式(2)に従い、測定試料の比重(Pρ)を計算した。
Pρ=(D−B)/(A−((E−D)/Lρ))・・・式(2)
(D:測定試料を投入した比重カップの質量(g)、E:測定試料を投入し混合溶媒で比重カップを満たした後の比重カップの質量(g)、Pρ:測定試料の比重)
【0040】
[非イオン性界面活性剤の融点の測定方法]
示差走査熱量計を用い、JIS K7121−1987に準ずる方法で非イオン界面活性剤を分析した時に、溶解ピーク温度として観測される温度を当該非イオン活性剤の融点とした。
【0041】
[撥水性の評価]
試験布について、JIS L1092(2009)のスプレー法に準じて撥水性を評価した。撥水性は、表1に示す通り、1〜5段階の等級で表した。点数が大きいほど撥水性が良好であることを示す。3等級以上であるものを撥水性が発現しているものとみなす。なお、撥水性等級、+(−)を付したものは、それぞれの性質がわずかに良い(悪い)ことを示す。
【0042】
【表1】
【0043】
[機械的安定性の評価]
固形分濃度が20質量%の撥水撥油剤組成物3gを300mlのガラス製ビーカーにとり、塩化カルシウムを用いて調製した硬度200ppmの人工硬水で希釈して、全量を200mlとした。これを35℃にて保温し、ホモジナイザーを用いて2500rpmにて5分間攪拌した。攪拌を終えた希釈液を黒色ポリエステル染色布からなるろ布を用いてろ過した。ろ過残さを、表2の基準で目視判定し、機械的安定性の評価とした。
【0044】
【表2】
【0045】
[ガムアップ除去性の評価]
固形分濃度を20質量%に調整した撥水撥油剤組成物2.5gとアニオン夾雑物としてディマフィックスES(明成化学工業社製、ポリアミド繊維用染料固着剤)0.025gを、炭酸カルシウムを用いて調製した硬度150ppmの人工硬水で100mlになるように希釈した。この時に液中に発生したスカムを採取し、エタノールにより脱脂したNBR(nitril-butadiene rubber)ゴムシート(硬度85、黒色)の表面に塗布した。塗布済みのNBRゴムシートを40℃にて4時間乾燥させ、NBRゴムシート上に塗布したスカムの皮膜を薬匙にて擦り取った。この時の皮膜の取れ易さを以下のように評価した。
○:皮膜がNBRゴムシートから容易に剥がれる
△:皮膜に粘着性があり、NBRゴムシートから剥がれにくい
×:皮膜に粘着性があり、NBRゴムシートから剥がれない
【0046】
[略号]
(単量体(a))
C6FMA:F(CF
2)
6CH
2CH
2OC(O)C(CH
3)=CH
2
(単量体(b))
StA:ステアリルアクリレート
BeA:ベヘニルアクリレート
(単量体(c))
VdCl:塩化ビニリデン。
VCM:塩化ビニル。
NMAM:N−メチロールアクリルアミド
(界面活性剤)
BB30:ベヘニルポリオキシエチレン30モル付加物(青木油脂社製、ブラウノンBB30)
BO50:オレイルポリオキシエチレン50モル付加物(青木油脂社製、ブラウノンBO50)
E350:ステアリルポリオキシエチレン50モル付加物(花王社製、エマルゲンE350)
E420:オレイルポリオキシエチレン20モル付加物(花王社製、エマルゲンE420)
E147:ラウリルポリオキシエチレン47モル付加物(花王社製、エマルゲンE147)
E320:ステアリルポリオキシエチレン20モル付加物(花王社製、エマルゲンE320)
BB20:オレイルポリオキシエチレン20モル付加物(青木油脂社製、ブラウノンBB20)
E430:オレイルポリオキシエチレン30モル付加物(花王社製、エマルゲンE430)
P204:エチレンオキシドプロピレンオキシド重合物(日油社製、プロノン204)
SFN465:2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールエチレンオキシド付加物(日信化学工業社製、サーフィノール465)
Aq18:ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド(ライオン社製、アーカード18−63)
(分子量調整剤)
StSH:ステアリルメルカプタン。
(重合開始剤)
VA−061A:2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン](和光純薬社製、VA−061)の酢酸塩
(水)
水:脱イオン水。
(他の媒体)
DPG:ジプロピレングリコール。
【0047】
[実施例1]
ガラス製ビーカーに、C6FMAの194.7g、StAの18.9g、NMAMの2.7g、BB30の5.4g、SFN465の2.7g、P204の2.7g、Aq18の4.1g、StSHの1.4g、DPGの81.3g、および水の430.9gを入れ、65℃で40分間加温した後、ミキサー(SMT社製、HIGH−FLEX DISPERSER HG−92)を用いて予備乳化液を得た。
得られた予備乳化液を、60℃を保ちながら、高圧乳化機(ゴーリン社製、LAB60)を用いて、40MPaで処理して乳化液を得た。得られた乳化液をステンレス鋼製の反応容器に入れ、20℃以下に冷却し、VA−061Aの1.28gを加えた。気相を窒素置換した後、VdClの13.5g、およびVCMの40.6gを順に導入した。反応容器を温浴槽に入れ、60℃で12時間の重合反応を行い、含フッ素共重合体エマルションを得た。得られた含フッ素共重合体エマルションを固形分濃度20質量%になるよう脱イオン水で希釈し、撥水撥油剤組成物とした。
【0048】
[
参考例2
、実施例3〜4、および比較例1〜5]
各単量体の仕込み量を、表3に示す各単量体並びに界面活性剤に基づく構成単位の割合となるように変更した以外は、実施例1、と同様にして含フッ素共重合体のエマルションを得た。各単量体に基づく構成単位の仕込み量および割合を表3に示す。得られた含フッ素共重合体エマルションを固形分濃度20質量%になるように脱イオン水で希釈し、撥水撥油剤組成物とした。
【0049】
[比較例6]
ガラス製ビーカーに、C6FMAの48.7g、StAの135.3g、BeAの27.0g、NMAMの1.4g、E430の5.4g、SFN465の2.7g、P204の2.7g、Aq18の2.7g、StSHの2.7g、DPGの81.3g、および水の419.2gを入れ、65℃で40分間加温した後、ミキサー(SMT社製、HIGH−FLEX DISPERSER HG−92)を用いて予備乳化液を得た。
得られた予備乳化液を、60℃を保ちながら、高圧乳化機(ゴーリン社製、LAB60)を用いて、40MPaで処理して乳化液を得た。得られた乳化液をステンレス鋼製の反応容器に入れ、20℃以下に冷却し、VA−061Aの1.35gを加えた。気相を窒素置換した後、VCMの57.0gを導入した。反応容器を温浴槽に入れ、60℃で12時間の重合反応を行い、含フッ素共重合体エマルションを得た。得られた含フッ素共重合体エマルションを固形分濃度20質量%になるように脱イオン水で希釈し、撥水撥油剤組成物とした。
【0050】
【表3】
【0051】
[含フッ素共重合体の比重測定]
実施例1
、3〜4
、参考例2および比較例1〜6で得られた含フッ素共重合体の比重を測定した。測定結果を表4に示す。
【0052】
【表4】
【0053】
[非イオン性界面活性剤の融点測定]
実施例1
、3〜4
、参考例2および比較例1〜6に使用した非イオン性界面活性剤の融点測定結果を表5に示す。
【0054】
【表5】
【0055】
[撥水性の評価]
実施例1
、3〜4
、参考例2および比較例1〜6で得られた撥水撥油剤組成物を、加工濃度2.0%となるように連続法にて加工した布帛について撥水性評価を行った。評価結果を表6に示す。
【0056】
【表6】
【0057】
[機械的安定性の評価]
実施例1
、3〜4
、参考例2および比較例1〜6で得られた撥水撥油剤組成物の機械的安定性評価を行った。評価結果を表7に示す。
【0058】
【表7】
【0059】
[ガムアップ除去性の評価]
発生したスカムを使用して、ガムアップ除去性評価を行った。評価結果を表8に示す。
【0060】
【表8】
【0061】
実施例1
、3〜4
および参考例2においては、NBRゴムシート上のスカムが容易に除去できた。比較例1〜6においては、NBRゴムシート上のスカムはべたつきが多く除去が困難であった。
これらの結果から、本発明の撥水撥油剤組成物を用いて物品を処理した場合、良好な撥水性能を付与できることがわかる。さらに、本発明の撥水撥油剤組成物は、機械的安定性、ガムアップ除去性に優れるものであることが分かった。
【0062】
また、実施例1
、3〜4
、参考例2および比較例1〜6から得られた撥水撥油剤組成物に、アニオン夾雑物を添加すると、スカムが発生した。比較例6は、発生したスカムが、混合液中に浮遊した状態であった。このような撥水撥油剤組成物を布帛の加工に用いた場合、スカムが容易に絞りローラーへ運び込まれやすくため、絞りローラーにてガムアップが発生しやすい。一方、実施例1
、3〜4
、参考例2および比較例1〜5では、発生したスカムは、混合液中に沈降した状態であった。これにより、ガムアップが発生しにくい。