(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
凹部及び型合わせ面を有する少なくとも一対の生型部を有する生型鋳型であって、各生型部の凹部面及び型合わせ面に熱硬化性樹脂を主成分とする硬化層が形成されており、前記硬化層が40〜98の硬度、0.5〜6 mmの厚さ、及び70〜150の通気度を有することを特徴とする生型鋳型。
【背景技術】
【0002】
鋳砂を圧縮して造型した生型は、シェル鋳型やコールドボックス鋳型に比べて造型コストが安価であるため、古くから広く使用されている。
図4に示すように、従来の生型の製造方法では、定盤13上の鋳枠11内に模型12a,12bをセットした後、数%程度の水分と粘土分などが添加された鋳砂を鋳枠11内に入れて圧縮することにより、所望の凹部3a,3bを有する生型部1a,1bを造型し[工程(1)]、抜型し[工程(2)]、型合わせする[工程(3) 及び(4)]。これにより、両生型部1a,1bの凹部3a,3bは組合されて、キャビティ6となる。なお、圧縮造型された生型1a,1bの型合わせ面4a,4bは、抜型後に鋳砂のスプリングバックにより凸曲面状になるので、型合わせ時に圧縮変形できなければならない。このような変形性(なじみ性)により、工程(4) に示すように型合わせ面4a,4b同士は密着する。
【0003】
ところが生型には、シェル鋳型やコールドボックス鋳型に比べて型バラシ時に砂落ちが悪いという問題がある。型バラシ時の砂落ちを良くするために、特開昭59-10446号は、生型の型合わせ面とキャビティ表面に硬化剤として水ガラスを噴霧法により塗布し、型合わせ後に生型にCO
2ガスを通気させることにより水ガラスを硬化させる方法を開示している。しかし、水ガラスを塗布した状態で型合わせすると、生型の重量や鋳枠の重量により型合わせ面にかかる負荷により、生型のキャビティが変形するおそれがあることが分った。
【0004】
また、特開昭61-71153号は、造型後の生型にフラン樹脂粘結剤と有機スルホン酸硬化剤とからなる固形化液を塗布し、吸引により固形化液を生型内に浸透させ、次いで自然放置により固形化液を硬化させると、鋳型の表面硬度が自硬性鋳型の硬度と同程度になることを開示している。しかし、固形化液の塗布後吸引すると、固形化液は生型内に浸透しすぎ、型合わせ面に十分な硬度が得られない。また、十分な硬度が得られるように多量の固形化液を塗布すると、鋳型の通気度が著しく低下し、やはり得られる鉄系鋳物にピンホール等のガス欠陥が生じるおそれがある。さらに、フラン樹脂粘結剤が完全に硬化した後に型合わせすると、型合わせ面の変形性(なじみ性)が失われているので、一対の生型が密着せず、型合わせ面に隙間ができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の第一の目的は、硬化剤の塗布だけで十分な硬度及び通気度を有し、もって寸法精度及び外観に優れた鉄系鋳物を製造するのに好適な生型鋳型を提供することである。
【0006】
本発明の第二の目的は、かかる生型鋳型を効率良く製造する方法を提供することである。
【0007】
本発明の第三の目的は、かかる生型鋳型を用いて寸法精度及び外観に優れた鉄系鋳物を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、硬化剤を各生型部に塗布した後、型合わせ面が十分な変形性を保持した状態で生型部の型合わせを行い、その後硬化剤を硬化させることにより、良好な寸法精度及び外観を有する鉄系鋳物を鋳造できる生型鋳型が得られることを発見し、本発明に想到した。
【0009】
すなわち、本発明の生型鋳型は、凹部及び型合わせ面を有する少なくとも一対の生型部を有し、各生型部の凹部面及び型合わせ面に熱硬化性樹脂を主成分とする硬化層が形成されており、前記硬化層が40〜98の硬度、0.5〜6 mmの厚さ、及び70〜150の通気度を有することを特徴とする。
【0010】
前記熱硬化性樹脂はフェノール樹脂、エポキシ樹脂及びフラン樹脂の少なくとも一種であるのが好ましい。
【0011】
上記生型鋳型を製造する本発明の方法は、
各生型部の凹部面及び型合わせ面に、熱硬化性樹脂を主成分とし、かつ1〜100 mPa・Sの粘度を有する硬化剤を塗布し、
前記生型部の型合わせ後に加熱することにより、前記硬化剤を硬化させることを特徴とする。
【0012】
前記硬化剤は熱硬化性樹脂のアルコール溶液であるのが好ましい。
【0013】
硬化剤の塗布量は100〜550 g/m
2であるのが好ましい。
【0014】
上記生型鋳型を製造する第一の方法は、
各生型部の凹部面及び型合わせ面に1〜15 mPa・Sの粘度を有する硬化剤を塗布し、
型合わせ前に前記硬化剤を半硬化状態まで硬化させて、半硬化層を形成し、
型合わせ後に前記半硬化層を加熱することにより、ほぼ完全に硬化した硬化層とすることを特徴とする。
【0015】
生型鋳型の第一の製造方法において、前記半硬化層の硬度は30〜45であるのが好ましい。また、前記硬化層の厚さは2.2〜6 mmであるのが好ましい。
【0016】
上記生型鋳型を製造する第二の方法は、
各生型部の凹部面及び型合わせ面に15〜100 mPa・Sの粘度を有する硬化剤を塗布し、
型合わせ後に加熱することにより前記硬化剤を硬化させ、ほぼ完全に硬化した硬化層とすることを特徴とする。
【0017】
生型鋳型の第二の製造方法において、型合わせ前の硬化剤層の硬度は5〜30であるのが好ましい。また、前記硬化層の厚さは0.5〜2.2 mmであるのが好ましい。
【0018】
上記生型鋳型を用いて鉄系鋳物を製造する本発明の方法は、
前記生型部を型合わせした後、加熱することにより前記硬化層を形成し、
型合わせした前記生型部の凹部により形成されたキャビティに鉄系溶湯を充填することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の方法によれば、型合わせ面に硬化剤が塗布された生型であっても不具合を防止することができ、寸法精度及び外観に優れた鉄系鋳物の製造方法を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態を以下詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の変更をしても良い。
【0022】
本明細書において、硬化剤の「粘度」は、JIS K6910に従ってブルックフィールド粘度計により測定した値である。硬化層については、「硬度」は株式会社ナカヤマ製の自硬性硬度計(NK-009)を使用して測定した値であり、「厚さ」はSEM写真から求めた値であり、「通気度」はJIS Z 2601の付属書3に記載された迅速法により測定した値である。
【0023】
[1] 生型鋳型
図1(a) 及び
図1(b) に示すように、本発明の生型鋳型1は、凹部3a,3b及び型合わせ面4a,4bを有する少なくとも一対の生型部1a,1bを有し、(a) 各生型部1a,1bの凹部3a,3bの表面及び型合わせ面4a,4bに熱硬化性樹脂を主成分とする硬化層8が形成されており、(b) 硬化層8が40〜98の硬度、0.5〜6 mmの厚さ、及び70〜150の通気度を有することを特徴とする。ここで、凹部3a,3bは、生型部1a,1bを型合わせしたときに鋳造用キャビティ6を形成する部分、及びキャビティ6に連通する湯道15のように生型鋳型内にある空洞部を意味する。
【0024】
薄い硬化層8でも十分な硬度及び通気度を確保するとともに、型バラシ時に大きな砂落ち効果を得るために、硬化層8は熱硬化性樹脂を主成分とする。熱硬化性樹脂は熱可塑性樹脂より高温強度が高く、キャビティ内の溶湯圧力に耐えて生型への溶湯の差し込みを少なくできる。その上、熱硬化性樹脂には水ガラスより通気度を大きく保持できるという利点もある。熱硬化性樹脂として、フェノール樹脂、エポキシ樹脂及びフラン樹脂の少なくとも一種が好ましい。中でも、フェノール樹脂が好ましい。
【0025】
硬化層8は40〜98の硬度を有する必要がある。硬度が40以上であると十分な砂落ち効果を発揮し、外観の良好な鉄系鋳物が得られる。また硬度が98以下であると、所望の通気度が確保され、ピンホール等のガス欠陥の発生のおそれが小さく、かつ熱硬化性樹脂の無駄もない。硬化層8の好ましい硬度は45〜95である。
【0026】
上記の通り、硬化層8の硬度は自硬性硬度計で測定するが、複雑な凹部を有する生型部1a,1bの場合等では極端に硬度の測定値が小さくなる部位もある。そのため、測定誤差を避けるために、極端に硬度の測定値が小さい部位(鋳枠から50 mm以内の範囲、及び深いキャビティ)を避けて、5ヶ所の硬化層8の硬度を測定し、平均する。この測定方法は、以下に記載する半硬化層7の硬度の測定の場合も同じである。
【0027】
硬化層8は0.5〜6 mmの厚さを有する必要がある。硬化層8の厚さを0.5 mm以上にすることにより十分な砂落ち効果を得ることができる。また硬化層8の厚さを6 mm以下にすることにより、生型鋳型に鉄系溶湯を注入したときのガスの透過が抑制されず、鋳物にピンホールが発生するおそれが低下する。硬化層8の好ましい厚さは1〜5 mmである。
【0028】
硬化層8は70〜150の通気度を有する必要がある。通気度が70より小さくなるとピンホールなどの欠陥が生じるおそれがある。また、通気度を150より大きくするには硬化剤の塗布量を少なくするしかないが、そうすると硬化層8の硬度が不十分になり、型バラシ時の砂落ち程度が小さくなる。硬化層8の好ましい通気度は100〜150である。
【0029】
本発明の生型鋳型は、凹部3a,3bの表面及び型合わせ面4a,4bに0.5〜6 mmと薄い硬化層8が形成されているので、40〜98と比較的大きな硬度を有しながら、70〜150と十分な通気度を有する。このような特徴は、型合わせ面に硬化層8を形成したことにより得られる。また、凹部3a,3bの表面及び型合わせ面4a,4bにのみ硬化層8を形成するので、熱硬化性樹脂の塗布量を低減できるという効果も得られる。
【0030】
[2] 生型鋳型の製造方法
本発明の生型鋳型を製造する方法は、(1) 各生型部1a,1bの凹部3a,3bの表面及び型合わせ面4a,4bに、熱硬化性樹脂を主成分とし、かつ1〜100 mPa・Sの粘度を有する硬化剤2を塗布し、(2) 生型部1a,1bの型合わせ後に加熱することにより、硬化剤2を硬化させることを特徴とする。
【0031】
硬化剤は、塗布後に直ちに乾燥するように、熱硬化性樹脂のアルコール溶液であるのが好ましい。アルコールは低分子量であれば特に限定されないが、作業環境の観点からエタノール、イソプロピルアルコール等が好ましい。
【0032】
硬化剤中の熱硬化性樹脂の濃度により、硬化剤の粘度を調整することができる。上記要件(40〜98の硬度、0.5〜6 mmの厚さ、及び70〜150の通気度)を満たす硬化層8を得るためには、硬化剤の粘度を1〜100 mPa・Sとする必要がある。硬化剤の粘度が1 mPa・S未満であると、硬化剤が生型部1a,1bの表面から深く浸透しすぎるので、硬化剤が表面近傍に残留しにくくなり、十分な硬度を有する硬化層8が得られない。十分な硬度を有する硬化層8を形成するために多量の硬化剤を塗布すると、不経済であるだけでなく、注湯時にガスが多量に発生するため鋳物製品にピンホール欠陥が発生しやすくなるという問題が生じる。また、粘度が100 mPa・Sを超えると生型部1a,1bにほとんど浸透せず、生型部1a,1bの表面で硬化収縮した硬化層は剥離しやすくなる。勿論、硬化層が剥離すると生型に溶湯が差し込み、その部分の砂落ちが悪化したり、焼き付きが発生したりすることがある。
【0033】
上記要件を満たす硬化層8を得るために、硬化剤の塗布量は100〜550 g/m
2であるのが好ましい。硬化剤の塗布量が少なすぎると、十分な砂落ち
抑制効果が発揮できない。また、硬化剤の塗布量が過剰であると、生型の通気度が小さくなり、ガス欠陥が発生しやすくなる。なお本明細書では、硬化剤の塗布量を生型1の平面面積[生型1を平面視したときの面積(m
2)]当たり塗布した硬化剤の量(g)で表わす。鋳枠を用いる場合、上記平面面積は鋳枠の内面の縦寸法×横寸法(m
2)である。
【0034】
硬化剤がほぼ完全に硬化して硬い硬化層8を形成する前に型合わせすると、硬化層8の損傷を防止することができる。型合わせ後に80〜180℃程度に加熱することにより、硬化剤がほぼ完全に硬化することができる。加熱保持時間は、生型鋳型の大きさにもよるが、一般に1〜3分程度で良い。
【0035】
本発明の生型鋳型の製造方法には、(a) 生型部1a,1bに硬化剤2を塗布後、ある程度加熱することにより不十分に硬化させ、次いで型合わせした後再度加熱することによりほぼ完全に硬化させて硬化層8を得る第一の方法と、(b) 硬化剤2を塗布した生型部1a,1bを型合わせした後、加熱することによりほぼ完全に硬化させて硬化層8を得る第二の方法とがある。以下それぞれについて詳細に説明する。
【0036】
(A) 第一の方法
本発明の生型鋳型を製造する第一の方法は硬化剤の第一及び第二の硬化工程を有することを特徴とする。具体的には
図1に示すように、第一の方法は、(1) 各生型部1a,1bの凹部3a,3bの表面及び型合わせ面4a,4bに1〜15 mPa・Sの粘度を有する硬化剤2を塗布し、(2) 型合わせ前に硬化剤2を半硬化状態まで硬化させて、半硬化層7を形成し、(3) 型合わせ後に半硬化層7を加熱することにより、ほぼ完全に硬化した硬化層8とすることを特徴とする。
【0037】
硬化剤2の粘度が1〜15 mPa・Sと小さいと、硬化剤2の各生型部1a,1bへの浸透度が大きいので、得られる硬化剤層(鋳砂に硬化剤が含浸した層)は小さな硬度しか有さない。そのため、
図2に示すように、各生型部1a,1bの凹部3a,3bの表面及び型合わせ面4a,4bに硬化剤2を塗布した後、硬化剤2を半硬化状態にまで硬化させる第一の硬化工程と、第一の硬化工程により得られた半硬化層7を介して生型部1a,1bを型合わせした後半硬化層7をほぼ完全に硬化させる第二の硬化工程とを行う。硬化剤2の粘度の下限は好ましくは2 mPa・S以上であり、より好ましくは3 mPa・S以上である。硬化剤2の粘度は、熱硬化性樹脂の濃度により調節することができる。
【0038】
第一の硬化工程は、各生型部1a,1bを好ましくは80〜180℃に1〜3分間加熱することにより行う。より好ましくは、第一の硬化工程の加熱温度は100〜130℃であり、加熱保持時間は1〜2分間である。
【0039】
半硬化層7の硬度は30〜45の範囲にあるのが好ましい。上記の通り、極端に硬度の測定値が小さい部位(鋳枠から50 mm以内の範囲、及び深いキャビティ)を避けて、5ヶ所の半硬化層7の硬度を自硬性硬度計で測定し、平均する。硬度が30以上の半硬化層7は型合わせ時につぶれることがないので、得られる鉄系鋳物に寸法及び外観の不具合が発生するおそれが低い。また、45以下の硬度とすることにより、半硬化層7は十分な変形性を有し、型合わせ時に割れるおそれが小さくなる。
【0040】
半硬化層7
をほぼ完全に硬化させる第二の硬化工程は、型合わせした生型部1a,1bを好ましくは80〜180℃に1〜3分間加熱することにより行う。より好ましくは、第二の硬化工程の加熱温度は100〜130℃であり、加熱保持時間は1〜2分間である。
【0041】
第一の方法では生型部1a,1bに十分に浸透する低粘度の硬化剤2を使用するので、得られる半硬化層7、及び半硬化層7の再度の硬化により得られる硬化層8は比較的厚い。具体的には、硬化層8(半硬化層7)の厚さは2.2〜6 mmであるのが好ましい。勿論、第一の方法により形成される硬化層8が40〜98の硬度及び70〜150の通気度を有する。
【0042】
上記の通り、第一の硬化工程で、型合わせ時に作用する力に屈しない程度の硬度を有するとともに、型合わせ時の衝撃を吸収し得る程度の変形性を保持した半硬化層7を形成することにより、型合わせを良好に行うことができる。次いで、型合わせ後に第二の硬化工程を行うにより半硬化層7をほぼ完全に硬化させて、十分な硬度を有する硬化層8とするので、型バラシ時の砂落ちを十分に
抑制することができ、もって健全な外観を有する鋳物を得ることができる。
【0043】
(B) 第二の方法
本発明の生型鋳型を製造する
第二の方法は、(1) 各生型部1a,1bの凹部3a,3bの表面及び型合わせ面4a,4bに15〜100 mPa・Sの粘度を有する硬化剤2’を塗布し、(2) 型合わせ後に加熱することにより硬化剤2’を硬化させ、ほぼ完全に硬化した硬化層8とすることを特徴とする。
【0044】
第二の方法では硬化剤2’の硬化を一段で行うので、硬化剤2’の粘度を15〜100 mPa・Sと比較的大きくする。粘度が15 mPa・S以上であると、硬化剤2’は各生型部1a,1bに浸透し
づらく、得られた薄い硬化剤層7’は型合わせ時にほとんどつぶれない。硬化剤層7’の厚さは0.5〜2.2 mmであるのが好ましい。
【0045】
型合わせ前の硬化剤層7’の硬度は5〜30であるのが好ましい。硬度が5以上であると硬化剤層7’は型合わせ時につぶれない。また、硬化剤層7’の硬度が30以下であると、十分な変形性があるために型合わせにより破壊するおそれがないだけでなく、硬化剤層7’から得られる硬化層8が十分なガス透過性を有するので、得られる鉄系鋳物にピンホール等のガス欠陥が発生するおそれが小さい。
【0046】
硬化剤層7’を一回でほぼ完全に硬化させるため、型合わせした生型部1a,1bを好ましくは80〜180℃に1〜3分間加熱する。より好ましくは、硬化剤層7’の加熱温度は100〜130℃であり、加熱時間は1〜2分間である。
【0047】
硬化剤層7’の硬化により得られる硬化層8は好ましくは0.5〜2.2 mmの厚さを有する。第二の方法により得られた硬化層8の厚さが0.5 mm以上であると、十分な砂落ち
抑制効果が得られる。また硬化層8の厚さが2.2 mm以下であると、鋳型に溶湯を注入したときのガスの透過が抑制されず、鋳物にピンホールが発生するおそれが低い。勿論、第二の方法により形成される硬化層8も40〜98の硬度及び70〜150の通気度を有する。
【0048】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は
それに限定されるものではない。
【0049】
実施例1
第一の方法により得られた生型鋳型を用いた鋳造
(1) 造型工程
まず珪砂と水と粘土とを質量比で100:3:1の割合で混練することにより鋳砂を調製した。次に、
図2に示すように、模型12a,12bをセットした定盤13上に鋳枠11(内側のサイズ:0.5 m×0.6 m)をセットし、鋳枠11の内側に鋳砂を投入した後、ジョルトスキーズ法で圧縮することにより生型部(上型)1a及び生型部(下型)1bを得た。株式会社ナカヤマ製のNK-009を使用し、鋳枠11から50 mm以上離れた上型1a,下型1bの型合わせ面4a,4bの平面部において、自硬性硬度計により5ヶ所の硬度を測定し、平均することにより硬度を求めた。その結果、硬度は上型1a及び下型1bのいずれも20であった。
【0050】
(2) 塗布工程
上型1a,下型1bの凹部3a,3bの表面及び型合わせ面4a,4bに、塗布装置14を用いた噴霧法によりフェノール樹脂のエタノール溶液(粘度:10 mPa・S)からなる硬化剤2を塗布し、乾燥した。上型1a及び下型1bの各型合わせ面4a,4bに塗布した硬化剤2の量は120 gであり、型合わせ面4a,4bの面積当たり400 g/m
2であった。上記と同様に測定した硬化剤2塗布後の硬度は8であった。
【0051】
(3) 第一の硬化工程
型合わせ面4a,4bに塗布した硬化剤層を白熱灯で105℃に1分間加熱し、半硬化させた。得られる半硬化層7の硬度は白熱灯の温度及び点灯時間により調節可能である。上記と同様に測定した半硬化層7の硬度は43であった。
【0052】
(4) 型合わせ工程
型合わせ面4a,4bに半硬化層7を形成した上型1a及び下型1bを型合わせした。
【0053】
(5) 第二の硬化工程
湯口15より105℃の温風をキャビティ6に圧送することにより半硬化層7を再度硬化させ、厚さ3 mmの硬化層8を形成した。上記と同じ方法で測定した硬化層8の硬度は76であった。また、硬化層8の通気度は110であった。
【0054】
(6) 評価
完成した生型1に溶湯を注湯した後、型バラシ時の砂落ち程度、及び得られた鋳物の外観を観察した。結果を表1に示す。砂落ち程度は、型バラシ後の湯道及び製品に付着した鋳砂の質量を、比較例1における質量を100%としたときの相対値で表したものである。砂落ち程度が小さいほど、得られた鋳物に付着した鋳砂を容易に除去できることを示す。
【0055】
比較例1
図4に示すように硬化剤を塗布しない以外実施例1と同様にして、生型1を製造し、型バラシ時の砂落ち程度及び鋳物の外観を評価した。結果を表1に示す。硬化剤を塗布しない生型1の
凹部の通気度は160であった。また硬化剤を塗布していないため、型バラシ時の砂落ちが悪かった。
【0056】
比較例2
第一の硬化剤の粘度を0.5 mPa・Sとし、硬化剤の塗布量を800 g/m
2とし、硬化層の厚さを8 mmとした以外実施例1と同様にして生型1を製造し、型バラシ時の砂落ち程度及び鋳物の外観を評価した。結果を表1に示す。半硬化層7の硬度は25であった。また、硬化層8の硬度は60であり、通気度は68であった。
【0057】
実施例2〜5及び比較例3
硬化剤の種類、粘度及び塗布量、第一の硬化工程及び第二の硬化工程を表1に示すように変化させた以外実施例1と同様にして生型1を製造し、型バラシ時の砂落ち程度及び鋳物の外観を評価した。第一硬化工程後及び第二の硬化工程後の硬度は硬化時間を変えるこれにより変化させた。結果を表1に示す。
【0058】
【表1-1】
注:(1) フェノール樹脂。
(5) JIS K6910に従ってブルックフィールド粘度計により測定した粘度。
(6) JIS Z 2601の付属書3に記載された迅速法により測定。
【0059】
【表1-2】
注:(1) フェノール樹脂。
(2) エポキシ樹脂。
(3) フラン樹脂。
(4) 水ガラス。
(5) JIS K6910に従ってブルックフィールド粘度計により測定した粘度。
(6) JIS Z 2601の付属書3に記載された迅速法により測定。
【0060】
表1から明らかなように、造型後の生型の型合わせ面に粘度が1〜15 mPa・S
の硬化剤を塗布し、第一の硬化工程にて半硬化層を形成し、型合わせ工程の後の第二の硬化工程にて硬化層
を形成した生型を用いる実施例1〜5では、型バラシ時の砂落ち程度が良好であり、鋳物の外観も良好であった。特に実施例1〜3では、熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂を使用し、半硬化層が30〜45の範囲内の硬度を有し、硬化層が40〜98の範囲内の硬度、2.2〜6 mmの範囲内の厚さ及び70〜150の範囲内の通気度を有していたので、砂落ち程度及び鋳物の外観が非常に良好であった。実施例4で得られた鋳物には見切り部の変形による僅かなバリが確認されたが、外観は全体的に良好(○)であった。また、実施例5で得られた鋳物にはピンホール及び焼き付きが観察されたが、外観は全体的に良好(○)であった。
【0061】
これに対し、比較例1では硬化剤を塗布しないために凹部の通気度は160であったが、型バラシ時の砂落ちが悪かった。また、比較例2では硬化剤の粘度が1 mPa・S未満であるので多量の硬化剤を塗布した結果、通気度が70未満であり、ピンホールが発生して鋳物の外観は不良(×)であるだけでなく、鋳物の見切り部も変形していた。さらに、比較例3では硬化剤として水ガラスを用いたので、硬化層8の通気度は62であり、砂落ち程度及び鋳物の外観がともに悪かった。
【0062】
実施例6
第二の方法により得られた生型鋳型を用いた鋳造
粘度を25 mPa・Sに調整したフェノール樹脂のエタノール溶液を硬化剤2として用い、かつ
図3に示すように本発明の第二の方法により硬化剤2を型合わせ後にほぼ完全に硬化させた以外、実施例1と同様にして生型1を製造し、型バラシ時の砂落ち程度及び鋳物の外観を評価した。なお、硬化剤の塗布の終了後型合わせまでの時間は2分であった。結果を表2に示す。表2から明らかなように、硬化剤の塗布後の硬度は8であり、硬化層8の硬度は80でありかつ厚さは2 mmであった。
【0063】
比較例4
硬化剤2の粘度を150 mPa・Sとした以外実施例6と同様にして生型1を製造し、型バラシ時の砂落ち程度及び鋳物の外観を評価した。結果を表2に示す。表2から明らかなように、硬化剤2は粘度が大きいために生型1にほとんど浸透せず、硬化層8の厚さは0.2 mmであった。この硬化層8は生型1表面へのアンカー効果を有さないので、部分的に剥離し、露出した砂型部分に溶湯が差し込み、焼き付き不良が発生した。
【0064】
実施例7〜9及び比較例5及び6
硬化剤の種類、硬化剤の塗布量、硬化剤の粘度、型合わせ前の硬度の測定値を表2に示すように変えた以外、実施例6と同様にして生型1を製造し、型バラシ時の砂落ち程度及び鋳物の外観を評価した。結果を表2に示す。
【0065】
【表2-1】
注:(1) フェノール樹脂。
(5) JIS K6910に従ってブルックフィールド粘度計により測定した粘度。
(6) JIS Z 2601の付属書3に記載された迅速法により測定。
【0066】
【表2-2】
注:(2) エポキシ樹脂。
(3) フラン樹脂。
(4) 水ガラス。
(5) JIS K6910に従ってブルックフィールド粘度計により測定した粘度。
(6) JIS Z 2601の付属書3に記載された迅速法により測定。
【0067】
表2から明らかなように、実施例6〜9では造型後の生型の型合わせ面に粘度が15〜100 mPa・Sの範囲内の硬化剤を塗布し、硬化工程は型合わせ工程の後のみで行っているために型バラシ時の砂落ち程度が良好であり、鋳物の外観も良好であった。特に実施例6〜8では、熱硬化樹脂としてフェノール樹脂を用い、硬化剤層の硬度が5〜30の範囲内にあり、硬化層が40〜98の範囲内の硬度、0.5〜2.2 mmの範囲内の厚さ、及び70〜150の範囲内の通気度を有していたので、砂落ち程度と鋳物の外観が非常に良好であった。
【0068】
これに対し、比較例4では硬化剤の粘度が100 mPa・S超であるために、硬化層が脱落し、焼き付き不良が発生した。また、比較例5では硬化層の厚さが0.5 mm未満であるので、砂落ち程度と鋳物の外観がともに悪かった。さらに、比較例6では通気度が70より小さいため、鉄系鋳物にピンホール等のガス欠陥が発生し、外観が悪かった。