(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記p側第1障壁層及び前記p側第1中間障壁層は、アンドープ層又はn型不純物濃度が前記n側第1中間障壁層より小さい層である請求項3又は4に記載の窒化物半導体発光素子。
前記中間障壁層と前記井戸層との間に、前記n側層側から順に、前記n側層からの距離が三番目に短い井戸層である中間井戸層と、前記n側第1中間障壁層よりバンドギャップの大きい第2中間障壁層とを含む請求項1〜10のいずれか1つに記載の窒化物半導体発光素子。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明に係る実施形態の窒化物半導体発光素子について説明する。
【0012】
実施形態1.
実施形態1の窒化物半導体発光素子10は、
図1に示すように、基板1と、基板1上に設けられたn側層(n側半導体層)2、発光層3及びp側層(p側半導体層)4とを含む。なお、基板1は、例えば、n側層2、発光層3及びp側層4を形成した後に除去してもよい。n側層2は、n型コンタクト層を含み、p側層4はp型コンタクト層を含む。
【0013】
また、窒化物半導体発光素子10において、p側層4の上面の略全面に形成された全面電極6(第1p電極)が設けられ、全面電極6の一部にパッド電極7(第2p電極)が設けられている。全面電極6は、p側層4の一部であるp型コンタクト層と接している。また、p側層4及び発光層3の一部ならびにn側層2の一部が除去されて、n型コンタクト層が露出され、その露出させた面にn電極8が設けられている。n側層2、発光層3及びp側層4は、例えば、In
xAl
yGa
1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)で表される窒化物半導体によって形成される。
【0014】
(実施形態1の発光層)
窒化物半導体発光素子10において、発光層3は、
図2Aに示すように、n側層2側から順に、n側第1障壁層3bnと、n側層2に最も近い井戸層であるn側第1井戸層3wnと、n側第1障壁層3bnよりバンドギャップの小さいn側第1中間障壁層3mnと、n側層からの距離が二番目に短い井戸層である井戸層3w2(n側第2井戸層)と、n側第1中間障壁層3mnよりバンドギャップの大きい中間障壁層3m2と、井戸層3w3と、p側第1障壁層3bpとを含む。
図2Bに、以上のように構成された発光層3に係るエネルギーバンド構造(以下、単にバンド構造という。)の一例を示す。なお、
図2Bは、バンドギャップの大小関係を模式的に示す図である。これ以降のバンド構造を示す図についても同様である。
ここで、本実施形態において、n側第1障壁層3bnとn側第1中間障壁層3mnの間に位置する井戸層を、n側第1井戸層3wnと称して他の井戸層と区別している。
【0015】
以上のように構成された窒化物半導体発光素子10では、n側第1中間障壁層3mnのバンドギャップを、n側第1障壁層3bnのバンドギャップより小さくしているので、井戸層3w2及び井戸層3w3への電子が注入量を増加させることができる。これにより、中間障壁層3m2の両側の井戸層(井戸層3w2及び井戸層3w3)における電子と正孔の再結合を増加させることができる。したがって、順方向電圧を低下させることができ、発光効率を向上させることができる。
【0016】
すなわち、多重量子井戸構造の発光層では、井戸層に注入される電子はn側の井戸層で多く中央部の井戸層で少なくなる傾向があり、一方、正孔はn側の井戸層で少なくなる傾向がある。そして、中央部の井戸層への電子の注入が少ないことで当該井戸層における正孔との再結合が減り順方向電圧が上昇する。このような傾向は転位密度が低下するほど顕著となる。
これに対して、本実施形態1では、n側第1中間障壁層3mnのバンドギャップを、n側第1障壁層3bnのバンドギャップより小さくして、n側層2から中央部の井戸層に電子が流入しやすいようにしている。これにより、順方向電圧を低下させることができる。
【0017】
また、窒化物半導体発光素子10では、発光効率を向上させることができる。発光効率は、例えば、電流値に対する光出力により規定されるスロープ効率(光出力(a.u.)/電流(mA))で示される。発光効率が向上する理由は、以下であると考えられる。まず、発光層における正孔はn側に向かうにつれて少なくなる傾向があるため、n側層2に近い井戸層、例えばn側第1井戸層3wnは、もともと発光効率を高くすることが難しい。そこで、n側第1中間障壁層3mnのバンドギャップを低くして、n側第1井戸層3wnの電子を減少させ、相対的に他の井戸層における電子を増加させている。これにより、相対的に他の井戸層における発光効率を向上させることができ、窒化物半導体発光素子10の発光効率を向上させることができると考えられる。
【0018】
さらに、窒化物半導体発光素子10では、n側第1障壁層3bnのバンドギャップ及び中間障壁層3m2のバンドギャップをn側第1中間障壁層3mnのバンドギャップより大きくしている。これにより、発光層3に電子と正孔を閉じ込めることができ、電子と正孔を効率よく井戸層で再結合させることができる。
すなわち、n側第1障壁層3bnのバンドギャップ及び中間障壁層3m2のバンドギャップをn側第1中間障壁層3mnのように小さくすると、電子と正孔を発光層3に閉じ込めるための障壁が小さくなる。この場合、電子と正孔の発光層3内への閉じ込めが弱まり、発光層3における電子と正孔の再結合確率が低下する。このような構造では、例えば20mA以下のような低電流域での発光効率を向上させることが難しい。
【0019】
以上のように、窒化物半導体発光素子10では、n側第1中間障壁層3mnのバンドギャップをn側第1障壁層3bn及び中間障壁層3m2より小さくしている。これにより、順方向電圧を低くでき、かつ発光効率を高くできる窒化物半導体発光素子10を実現することができる。
【0020】
窒化物半導体発光素子10において、例えば、n側第1障壁層3bnをIn
b1Ga
1−b1N(0≦b1<1)で表される窒化物半導体によって形成し、n側第1中間障壁層3mnをIn
m1Ga
1−m1N(0<m1<1)で表される窒化物半導体によって形成することができる。この場合、n側第1障壁層3bnのIn組成b1をn側第1中間障壁層3mnのIn組成m1より小さくする。これにより、n側第1障壁層3bnのバンドギャップが、n側第1中間障壁層3mnのバンドギャップより大きくなる。n側第1障壁層3bnは例えばGaNからなり、n側第1中間障壁層3mnは例えばInGaNからなる。また、n側第1井戸層3wnと井戸層3w2と井戸層3w3は、In組成wがn側第1中間障壁層3mnのIn組成m1より大きいIn
wGa
1−wN(0<w<1)で表される窒化物半導体により形成する。n側第1井戸層3wnと井戸層3w2と井戸層3w3は、例えば同一のバンドギャップを有する窒化物半導体により形成することができる。尚、本明細書において、InとGaとNを含む3元の窒化物半導体について、単に、InGaNと表記することもある。
【0021】
n側第1障壁層3bnをIn
b1Ga
1−b1Nとし、n側第1中間障壁層3mnをIn
m1Ga
1−m1Nとする場合、n側第1障壁層3bnのIn組成b1は、0≦b1<0.1の範囲に設定し、n側第1中間障壁層3mnのIn組成m1は、0<m1<0.2でかつb1<m1とすることが好ましい。In組成比が大きくなるほど結晶性が悪化する傾向があるため、それを考慮してこのような範囲内とすることが好ましい。このとき、n側第1井戸層3wnと井戸層3w2と井戸層3w3のIn組成wは、例えば0.05≦w≦0.5とする。なお、井戸層のIn組成wは、そのバンドギャップがいずれの障壁層よりも小さくなるように設定する。
【0022】
また、窒化物半導体発光素子10において、p側第1障壁層3bpは、例えば、n側第1障壁層3bnと同じバンドギャップを有する窒化物半導体により形成することができる。p側第1障壁層3bpを、例えば、In
bfGa
1−bfN(0≦bf<1)で表される窒化物半導体によって形成する場合、In組成bfをn側第1障壁層3bnのIn組成b1と同一に設定する。p側第1障壁層3bpのIn組成bfは、n側第1障壁層3bnのIn組成b1と同様に、0≦bf<0.1の範囲に設定することが好ましい。
【0023】
また、窒化物半導体発光素子10において、中間障壁層3m2は、例えば、n側第1障壁層3bn及びp側第1障壁層3bpと同じバンドギャップを有する窒化物半導体により形成することができる。中間障壁層3m2は、In
m2Ga
1−m2N(0≦m2<1)で表される窒化物半導体によって形成することができる。このとき、中間障壁層3m2のIn組成m2は、n側第1障壁層3bnのIn組成b1及びp側第1障壁層3bpのIn組成bfと同様の範囲から選択することができ、例えば実質的に同じとする。
【0024】
また、窒化物半導体発光素子10において、n側第1障壁層3bnとn側第1中間障壁層3mnはn型不純物を含んでいることが好ましい。これにより、n側第1井戸層3wn及びそれよりp側層4よりに位置する井戸層に注入される電子を多くでき、順方向電圧を低くできる。この場合、n側第1中間障壁層3mnのn型不純物濃度をn側第1障壁層3bnより低くすることが好ましい。これにより、n型不純物を添加することによる正孔の減少を抑えることができるため、光出力の低下を抑えることができる。各層の具体的なn型不純物濃度としては、n側第1障壁層3bnとn側第1中間障壁層3mnの大小関係を維持した上で、n側第1障壁層3bnは1×10
18/cm
3以上1×10
20/cm
3未満が挙げられ、n側第1中間障壁層3mnは1×10
17/cm
3より大きく1×10
19/cm
3未満が挙げられる。n型不純物としては、例えばSiを用いる。
【0025】
次に、実施形態2〜8の窒化物半導体発光素子について説明する。
実施形態2〜8の窒化物半導体発光素子は、実施形態1の窒化物半導体発光素子と比較して、発光層3の構成が異なる他は実施形態1の窒化物半導体発光素子と同様に構成される。また、特に言及しない限り、同じ名称の層には同様の構成を用いることができる。以下、実施形態2〜8の窒化物半導体発光素子における発光層の構成を説明する。
【0026】
実施形態2.
実施形態2の窒化物半導体発光素子の発光層3は、
図3Aに示すように、実施形態1の発光層3における井戸層3w3とp側第1障壁層3bpの間にさらに、n側層2側からp側第1中間障壁層3mpと、p側第1井戸層3wpとを追加した構造である。そして、p側第1中間障壁層3mpのバンドギャップをp側第1障壁層3bpより小さくしている。
図3Bに、以上のように構成された実施形態2の発光層3に係るバンド構造の一例を示す。
ここで、本実施形態2において、p側第1障壁層3bpとp側第1中間障壁層3mpの間に位置する井戸層を、p側第1井戸層3wpと称して他の井戸層と区別している。
【0027】
このように、p側第1中間障壁層3mpのバンドギャップをp側第1障壁層3bpより小さくすることにより、p側層から離れた位置にある井戸層3w3及びよりn側層寄りの井戸層への正孔の流入量を多くすることができる。
これにより、ドループ現象を抑制することができ、例えば40mA以上のような高電流域での発光効率の低下を抑制することができる。
【0028】
実施形態2の発光層3では、例えば、p側第1中間障壁層3mpをIn
m3Ga
1−m3N(0≦m3<1)で表される窒化物半導体により形成し、p側第1障壁層3bpをIn
bfGa
1−bfN(0≦bf<1)で表される窒化物半導体により形成する。この場合、p側第1中間障壁層3mpのIn組成m3を、p側第1障壁層3bpのIn組成bfより大きく設定する。また、n側第1中間障壁層3mnとp側第1中間障壁層3mpは、n側第1障壁層3bnとp側第1障壁層3bpよりバンドギャップが小さいことが好ましい。
p側第1障壁層3bpのIn組成bfは、0≦bf<0.1の範囲に設定し、p側第1中間障壁層3mpのIn組成m3は、0<m3<0.2でかつbf<m3とすることが好ましい。これにより、電子の発光層3内への閉じ込めと正孔のp側第1井戸層3p1への集中の緩和をより効率的に行うことができる。このとき、n側第1井戸層3wnと井戸層3w2と井戸層3w3のIn組成wは、例えば0.05≦w≦0.5とする。なお、井戸層のIn組成wは、そのバンドギャップがいずれの障壁層よりも小さくなるように設定する。
【0029】
n側第1障壁層3bnとp側第1障壁層3bpは、例えば、等しいバンドギャップを有する窒化物半導体により形成することができる。
例えば、n側第1障壁層3bnをIn
b1Ga
1−b1N(0≦b1<1)で表される窒化物半導体によって形成し、p側第1障壁層3bpをIn
bfGa
1−bfN(0≦bf<1)で表される窒化物半導体により形成する場合、n側第1障壁層3bnのIn組成b1と、p側第1障壁層3bpのIn組成bfを等しくする。この場合、In組成b1とIn組成bfとをいずれも0として、n側第1障壁層3bnとp側第1障壁層3bpとをそれぞれ、GaNにより形成することができる。このようにn側第1障壁層3bnとp側第1障壁層3bpとをバンドギャップの大きな層とすることが、発光層3内へのキャリア閉じ込めに有利である。
【0030】
n側第1中間障壁層3mnとp側第中間障壁層3mpは、例えば、等しいバンドギャップを有する窒化物半導体により形成することができる。例えば、n側第1中間障壁層3mnをIn
m1Ga
1−m1N(0<m1<1)で表される窒化物半導体によって形成する場合、p側第中間障壁層3mpを、n側第1中間障壁層3mnのIn組成m1と同一のIn組成m3のIn
m3Ga
1−m3N(0<m3<1)によって表される窒化物半導体により形成する。
【0031】
p側第1障壁層3bp及びp側第1中間障壁層3mpはそれぞれ、アンドープ層又はn型不純物濃度がn側第1中間障壁層3mnより小さい層であることが好ましい。
これにより、p側層4寄りの井戸層(p側第1井戸層3wp)における正孔の減少を抑制でき、発光効率の高いp側層4寄り井戸層を効果的に発光させることができる。なお、アンドープ層とは、n型不純物及びp型不純物を意図的にドープせずに形成した層を指す。また、アンドープ層は、不純物濃度が二次イオン質量分析(SIMS)等による分析の検出限界以下である層ということができる。発光層3に含まれる井戸層も、典型的にはすべてアンドープ層である。
【0032】
実施形態3.
実施形態3の窒化物半導体発光素子の発光層3は、
図4Aに示すように、実施形態1の発光層3における井戸層3w3とp側第1障壁層3bpの間にさらに、n側層2側から中間障壁層3m3と、井戸層3w4と、中間障壁層3m4と、井戸層3w5と、p側第1中間障壁層3mpと、p側第1井戸層3wpとを追加した構造である。
言い換えると、実施形態3の窒化物半導体発光素子の発光層3は、実施形態2の発光層3における井戸層3w3とp側第1中間障壁層3mpの間にさらに、n側層2側から、中間障壁層3m3と、井戸層3w4、中間障壁層3m4と、井戸層3w5と、を追加した構造である。
図4Bに、以上のように構成された実施形態3の発光層3に係るバンド構造の一例を示す。
【0033】
井戸層3w3(中間井戸層)は、n側層2からの距離が三番目に短い井戸層である。中間障壁層3m3(第2中間障壁層)は、n側第1中間障壁層3mnよりバンドギャップが大きい。これにより、中間障壁層3m3のバンドギャップをn側第1中間障壁層3mnのように低くする場合と比較して、電子と再結合することなくn側層2に流出する正孔の量を減少させることができる。したがって、20mA以下のような低電流域での発光効率を向上させることができる。
ここで、中間障壁層3m3と中間障壁層3m4は、中間障壁層3m2と同じバンドギャップを有する窒化物半導体により形成することができる。例えば、中間障壁層3m3と中間障壁層3m4は、In組成m4とm5が中間障壁層3m2のIn組成m2と同じに設定したIn
m4Ga
1−m4N(0≦m4<1)及びIn
m5Ga
1−m5N(0≦m5<1)で表される窒化物半導体によって形成することができる。また、中間障壁層3m2、3m3、3m4は、n側第1障壁層3bn及びp側第1障壁層3bpと同じバンドギャップとしてもよい。例えば、中間障壁層3m2、3m3、3m4はGaNからなる。
【0034】
ここで、中間障壁層3m2は、n型不純物を含んでいてもよい。なお、中間障壁層3m2にn型不純物をドープすると、その付近の井戸層における電子の濃度を増大させることができるが、一方で正孔の濃度が減少する。このため、中間障壁層3m2のn型不純物濃度は、n側第1中間障壁層3mnと同様に、n側第1障壁層3bnより低くすることが好ましい。n型不純物濃度の具体的な値も、n側第1中間障壁層3mnと同様の範囲を選択することができる。
さらには、電子の濃度が低くなりがちな箇所の中間障壁層にn型不純物をドープし、それ以外の中間障壁層はアンドープとすることが好ましい。これにより、光出力の低下を抑えながら順方向電圧を低下させることができる。具体的には、井戸層と井戸層で挟まれた中間障壁層(n側第1中間障壁層3mnとp側第1中間障壁層3mpを含む)のうち、n側層2に近い順に1以上の層をn型不純物を含有する層とし、少なくとも最もp側層4に近い1層をアンドープ層とすることが好ましい。具体的には、n型不純物を含有する中間障壁層の数は、中間障壁層の総数の80%未満であることが好ましい。このような範囲を満たす構成であれば、中間障壁層がすべてアンドープである場合と比較して、順方向電圧を低下させることができ、且つ、光出力を同等以上とすることができる。例えば、
図4Aに示すように5つの中間障壁層を有する場合は、n型不純物をドープする範囲はn側第1中間障壁層3mnから最大でも中間障壁層3m3までとし、それよりもp側層4寄りの層はアンドープとすればよい。
【0035】
また、井戸層3w4と井戸層3w5は、n側第1井戸層3wn、井戸層3w2、井戸層3w3及びp側第1井戸層3wpと、同一のバンドギャップを有する窒化物半導体により形成することができる。例えば、In組成wがn側第1中間障壁層3mnのIn組成m1より大きいIn
wGa
1−wN(0≦w<1)で表される窒化物半導体により形成する。
【0036】
実施形態4.
実施形態4の窒化物半導体発光素子の発光層3は、
図5Aに示すように、実施形態1の発光層3におけるn側第1障壁層3bnを組成傾斜層とした構造である。
具体的には、実施形態4のn側第1障壁層3bnは、n側層2からn側第1井戸層3wnに向かってバンドギャップが小さくなるように構成している。例えば、n側層2における第1障壁層3bnが接する層が、GaNからなるn型コンタクト層であり、n側第1井戸層3wnがInGaNである場合、n型コンタクト層側から徐々にIn組成を増加させて、n側第1井戸層3wnとの界面において、n側第1井戸層3wnのIn組成と実質的に等しくなるようにする。
図5Bに、以上のように構成された実施形態4の発光層3に係るバンド構造の一例を示す。
このように、窒化物半導体発光素子10の発光層3において、n側第1障壁層3bnは組成傾斜層としてもよい。実施形態2又は実施形態3の窒化物半導体発光素子の発光層3においても、n側第1障壁層3bnを組成傾斜層とすることができる。尚、この場合、n側第1中間障壁層3mnとのバンドギャップの大小関係は、例えば組成傾斜層における最大のバンドギャップと比較する。組成傾斜層の平均のバンドギャップと比較してもよく、さらには組成傾斜層における最小のバンドギャップと比較してもよい。なお、後述する実施例1、2では、n側第1障壁層3bnを含む各層は組成傾斜層ではなく単一組成層とした。
【0037】
実施形態5.
実施形態5の窒化物半導体発光素子の発光層3は、
図6Aに示すように、実施形態1の発光層3における第1障壁層3bnとn側第1井戸層3wnの間に、組成傾斜層である挿入層3i1を追加した構造である。
この挿入層3i1は、第1障壁層3bn側からn側第1井戸層3wnに向かってバンドギャップが小さくなるように構成している。例えば、第1障壁層3bnと接する部分の組成を、第1障壁層3bnと同一組成とし、第1障壁層3bnから離れるにしたがって組成を徐々に変化させて、n側第1井戸層3wnに接する部分ではn側第1中間障壁層3mnと実質的に同一組成になるようにしている。
図5Bに、以上のように構成された実施形態5の発光層3に係るバンド構造の一例を示す。
このように、障壁層と井戸層は接していなくてもよく、挿入層3i1を設けてもよい。
【0038】
実施形態6.
実施形態6の窒化物半導体発光素子の発光層3は、
図7Aに示すように、実施形態1の発光層3におけるn側第1障壁層3bnとn側第1井戸層3wnの間に、挿入層3i1を含んでいる点では、実施形態5の発光層3と類似している。しかし、挿入層3i1の組成が厚さ方向に変化することなく一定でかつ挿入層3i1のバンドギャップがn側第1障壁層3bnのバンドギャップとn側第1井戸層3wnのバンドギャップの間の値に設定されている。
例えば、n側第1障壁層3bnをGaNにより構成し、n側第1井戸層3wnをInGaNにより構成する場合、挿入層3i1はn側第1井戸層3wnのIn組成より小さいInGaNにより構成する。
図7Bに、以上のように構成された実施形態6の発光層3に係るバンド構造の一例を示す。
このように、挿入層3i1は組成傾斜層に限らず、n側第1障壁層3bn等の障壁層の効果が得られる程度の組成及び膜厚で設けてよい。
【0039】
実施形態7.
実施形態7の窒化物半導体発光素子の発光層3は、
図8Aに示すように、n側第1障壁層3bnとn側第1井戸層3wnの間に挿入層3i1を含み、さらにn側第1井戸層3wnとn側第1中間障壁層3mnの間に挿入層3i2を含んでいる点で実施形態1の発光層3とは異なっている。この挿入層3i1のバンドギャップと挿入層3i2のバンドギャップとは、n側第1中間障壁層3m1のバンドギャップより小さく、n側第1井戸層3wnのバンドギャップより大きくなるように設定される。また、この挿入層3i1のバンドギャップと挿入層3i2のバンドギャップは、好ましくは同一に設定されるが、異なっていても良い。
図8Bに、以上のように構成された実施形態7の発光層3に係るバンド構造の一例を示す。
このように、複数の挿入層3i1、3i2を設けることもできる。
【0040】
実施形態8.
実施形態8の窒化物半導体発光素子の発光層3は、
図9Aに示すように、第1障壁層3bnとn側第1井戸層3wnの間に挿入層3i1を含み、さらにn側第1井戸層3wnとn側第1中間障壁層3mnの間に挿入層3i2を含んでいる点で実施形態1の発光層3とは異なっている。この点では実施形態7の発光層3と類似しているが、挿入層3i1及び挿入層3i2が組成傾斜層となっている点で実施形態8の発光層3は実施形態7の発光層3とは異なっている。
【0041】
具体的には、挿入層3i1は、n側第1障壁層3bnからn側第1井戸層3wnに向かってバンドギャップが小さくなるように構成している。また、挿入層3i2は、n側第1井戸層3wnからn側第1中間障壁層3mnに向かってバンドギャップが大きくなるように構成している。
図9Bに、以上のように構成された実施形態8の発光層3に係るバンド構造の一例を示す。
【0042】
実施形態5〜8で説明した挿入層は、種々の目的を持って、実質的に井戸層と障壁層の機能を損なうことが無いように形成される層である。図面中では作図の都合上、井戸層や障壁層と同程度の厚さに描いているが、実際は、例えば、1nm程度、又はそれ未満の極めて薄い層である。
また、挿入層を形成する位置は、目的に応じて種々選択され、中間障壁層と井戸層の間、又はp側の障壁層と井戸層の間に形成してもよい。
【0043】
以上、本発明に係る実施形態1〜8の窒化物半導体発光素子について説明したが、実施形態1〜8に係る窒化物半導体発光素子10の転位密度は1×10
8/cm
2未満であることが好ましい。さらには、転位密度は5×10
7/cm
2以下であることが好ましい。これにより、各実施形態において説明した作用効果が顕著に得られる。通常、n側層2からp側層4にかけて転位密度に大きな変化はないため、転位密度はいずれの位置で評価してもよい。高温時の出力低下の度合いを低減させるためには発光層3の転位密度が1×10
8/cm
2未満であることが好ましいと考えられるため、発光層3またはその近傍で評価することが好ましい。なお、このような低転位密度の層は、例えば、サファイア基板の表面に多結晶でなく結晶性のAlNバッファ層を形成し、その上に成長させることで得ることができる。
ここで、発光層3の転位密度は、透過電子顕微鏡(TEM)や、結晶に電子線を照射することにより結晶中にキャリアを励起して再結合時に発生する発光を分光するカソードルミネッセンス(CL)法を用いて評価することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例について説明する。
実施例1として表1に示す窒化物半導体発光素子を作製し、実施例2として表2に示す窒化物半導体発光素子を作製し、それらの比較例1として、表3に示す窒化物半導体発光素子を作製した。いずれも、サファイア基板上にこれらの半導体層を成長させ、チップサイズは、650μm×650μmとした。また、いずれも、個片化後にCL法によって測定した転位密度は5×10
7/cm
2程度であった。
【0045】
(表1)
【0046】
(表2)
【0047】
(表3)
【0048】
以上のように作製した実施例1、2の窒化物半導体発光素子及び比較例1の窒化物半導体発光素子について、電流値に対する光出力により規定されるスロープ効率(光出力(a.u.)/電流(mA))と、順方向電圧Vfを評価した。
図10及び
図11にそれぞれスロープ効率(光出力(a.u.)/電流(mA))と順方向電圧Vfの評価結果を示す。いずれも、横軸はIf(順方向電流)である。
その結果、実施例1、2の窒化物半導体発光素子はいずれも比較例1の窒化物半導体発光素子より順方向電圧を低くできること、スロープ効率を高くできることが確認された。