特許第6388023号(P6388023)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6388023
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】画像表示装置構成用積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G09F 9/00 20060101AFI20180903BHJP
   C09J 5/00 20060101ALI20180903BHJP
   C09J 5/06 20060101ALI20180903BHJP
   C09J 151/00 20060101ALI20180903BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20180903BHJP
   C09J 7/00 20180101ALI20180903BHJP
【FI】
   G09F9/00 342
   C09J5/00
   C09J5/06
   C09J151/00
   C09J11/06
   C09J7/00
【請求項の数】14
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-507456(P2016-507456)
(86)(22)【出願日】2015年3月2日
(86)【国際出願番号】JP2015056079
(87)【国際公開番号】WO2015137178
(87)【国際公開日】20150917
【審査請求日】2016年6月10日
(31)【優先権主張番号】特願2014-45936(P2014-45936)
(32)【優先日】2014年3月10日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-169156(P2014-169156)
(32)【優先日】2014年8月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】特許業務法人竹内・市澤国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新美 かほる
(72)【発明者】
【氏名】稲永 誠
【審査官】 後藤 亮治
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/038366(WO,A1)
【文献】 特開2011−241377(JP,A)
【文献】 特開2012−041385(JP,A)
【文献】 特開2009−139907(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09F 9/00
C09J 7/00
C09J 11/06
C09J 133/00
C09J 151/00
B32B 1/00 − 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明両面粘着材を介して画像表示装置構成部材が積層されてなる構成を備えた画像表示装置構成用積層体の製造方法であって、
少なくとも次の(1)、(2)、(2−1)及び(3)の工程を有することを特徴とする画像表示装置構成用積層体の製造方法。
(1)枝成分としてマクロモノマーを備えたグラフト共重合体からなるアクリル系共重合体(A)と、架橋剤(B)と、光重合開始剤(C)とを含有する粘着剤樹脂組成物を作製して、該粘着剤樹脂組成物からなる粘着層を備えた単層又は多層の透明両面粘着材をシート状に成形する工程。
(2)前記透明両面粘着材を介して2つの画像表示装置構成部材を貼着して積層する工程。
(2−1)前記工程(2)で得られた積層物を加熱して透明両面粘着材の粘着層を加熱溶融させる工程。
(3)少なくとも一方の画像表示装置構成部材の外側から、活性エネルギー線を透明両面粘着材の前記粘着層に照射し、当該粘着層を架橋させて、2つの画像表示装置構成部材を接着させる工程。
【請求項2】
透明両面粘着材を介して画像表示装置構成部材が積層されてなる構成を備えた画像表示装置構成用積層体の製造方法であって、
少なくとも次の(1)〜(3)の工程を有し、かつ、該工程(1)及び該工程(2)における透明両面粘着材は、JIS−Z−0237(ISO
29863)に準じた保持力測定において、SUS板に面積20mm×20mmで貼着させ、40℃の雰囲気下で500gfの荷重をかけた時の落下時間が20分以上であり、且つ、70℃の雰囲気下で500gfの荷重をかけた時の落下時間が5分未満であることを特徴とする画像表示装置構成用積層体の製造方法。
(1)枝成分としてマクロモノマーを備えたグラフト共重合体からなるアクリル系共重合体(A)と、架橋剤(B)と、光重合開始剤(C)とを含有する粘着剤樹脂組成物を作製して、該粘着剤樹脂組成物からなる粘着層を備えた単層又は多層の透明両面粘着材をシート状に成形する工程。
(2)前記透明両面粘着材を介して2つの画像表示装置構成部材を貼着して積層する工程。
(3)少なくとも一方の画像表示装置構成部材の外側から、活性エネルギー線を透明両面粘着材の前記粘着層に照射し、当該粘着層を架橋させて、2つの画像表示装置構成部材を接着させる工程。
【請求項3】
透明両面粘着材を介して画像表示装置構成部材が積層されてなる構成を備えた画像表示装置構成用積層体の製造方法であって、
少なくとも次の(1)〜(3)の工程を有し、且つ、下記アクリル系共重合体(A)は、幹成分として、疎水性のアクリレートモノマーと、親水性のアクリレートモノマーと、マクロモノマーの末端の重合性官能基とがランダム共重合してなる構成を備えたものであることを特徴とする画像表示装置構成用積層体の製造方法。
(1)枝成分としてマクロモノマーを備えたグラフト共重合体からなるアクリル系共重合体(A)と、架橋剤(B)と、光重合開始剤(C)とを含有する粘着剤樹脂組成物を作製して、該粘着剤樹脂組成物からなる粘着層を備えた単層又は多層の透明両面粘着材をシート状に成形する工程。
(2)前記透明両面粘着材を介して2つの画像表示装置構成部材を貼着して積層する工程。
(3)少なくとも一方の画像表示装置構成部材の外側から、活性エネルギー線を透明両面粘着材の前記粘着層に照射し、当該粘着層を架橋させて、2つの画像表示装置構成部材を接着させる工程。
【請求項4】
前記粘着層を加熱溶融させる工程では、積層物を60〜100℃の温度範囲に加熱して透明両面粘着材の粘着層を加熱溶融(ホットメルト)させることを特徴とする請求項に記載の画像表示装置構成用積層体の製造方法。
【請求項5】
前記工程(1)および前記工程(2)における前記透明両面粘着材は、未架橋状態であることを特徴とする請求項1〜の何れかに記載の画像表示装置構成用積層体の製造方法。
【請求項6】
前記工程(3)において、架橋後の透明両面粘着材は、JIS−Z−0237(ISO
29863)に準じた保持力測定において、SUS板に面積20mm×20mmで貼着させ、40℃および70℃の雰囲気下で500gfの荷重をかけた時の30分後のズレ長さが1mm未満であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の画像表示装置構成用積層体の製造方法。
【請求項7】
前記アクリル系共重合体(A)は、前記マクロモノマーを5〜30質量%の割合で含有することを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の画像表示装置構成用積層体の製造方法。
【請求項8】
前記アクリル系共重合体(A)の枝成分としてのマクロモノマーのガラス転移温度は、上記アクリル系共重合体(A)の幹成分を構成する共重合体成分のガラス転移温度よりも高いことを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の画像表示装置構成用積層体の製造方法。
【請求項9】
前記マクロモノマーのガラス転移温度は30℃〜120℃であることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載の画像表示装置構成用積層体の製造方法。
【請求項10】
前記アクリル系共重合体(A)の幹成分を構成する共重合体成分のガラス転移温度は−70〜0℃であることを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載の画像表示装置構成用積層体の製造方法。
【請求項11】
前記アクリル系共重合体(A)は、幹成分として、疎水性のアクリレートモノマーと、親水性のアクリレートモノマーとを含有することを特徴とする請求項1〜10の何れかに記載の画像表示装置構成用積層体の製造方法。
【請求項12】
前記架橋剤(B)として、極性官能基を含有する多官能モノマー若しくはオリゴマーを用いることを特徴とする請求項1〜1の何れかに記載の画像表示装置構成用積層体の製造方法。
【請求項13】
前記工程(1)の代わりに、
枝成分としてマクロモノマーを備えたグラフト共重合体からなるアクリル系共重合体(A)、架橋剤(B)及び光重合開始剤(C)を含有する粘着剤樹脂組成物を、離型フィルムの上に単層又は多層のシート状に成形して、粘着層を備えた単層又は多層の透明両面粘着材を作製すると共に、
前記工程(2)の代わりに、
前記離型フィルムを剥がして、前記透明両面粘着材を介して2つの画像表示装置構成部材を貼着して積層する、ことを特徴とする請求項1〜1の何れかに記載の画像表示装置構成用積層体の製造方法。
【請求項14】
前記工程(1)の代わりに、
枝成分としてマクロモノマーを備えたグラフト共重合体からなるアクリル系共重合体(A)と、架橋剤(B)と、光重合開始剤(C)とを含有する粘着剤樹脂組成物を、画像表示装置構成部材の上に単層又は多層のシート状に成形して、当該画像表示装置構成部材上に、粘着層を備えた単層又は多層の透明両面粘着材を作製する、ことを特徴とする請求項1〜1の何れかに記載の画像表示装置構成用積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹凸面への追従性並びに保管安定性に優れた透明両面粘着材に関する。特にパソコン、モバイル端末(PDA)、ゲーム機、テレビ(TV)、カーナビ、タッチパネル、ペンタブレットなどのような画像表示装置の構成部材として好適に使用することができる画像表示装置構成用積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、画像表示装置の視認性を向上させるために、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)又はエレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)等の画像表示パネルと、その前面側(視認側)に配置する保護パネルやタッチパネル部材との間の空隙を、粘着シートや液状の接着剤等で充填し、入射光や表示画像からの出射光の空気層界面での反射を抑えることが行われている。
【0003】
このような画像表示装置用構成部材間の空隙に粘着剤を用いて充填する方法として、紫外線硬化性樹脂を含む液状の接着樹脂組成物を該空隙に充填した後、紫外線を照射し硬化せしめる方法が知られている(特許文献1)。
【0004】
また、画像表示装置用構成部材間の空隙を、粘着シートを用いて充填する方法も知られている。例えば特許文献2には、透明両面粘着シートの少なくとも片側に、画像表示装置構成部材が積層してなる構成を備えた画像表示装置構成用積層体の製造方法として、紫外線によって1次架橋した粘着シートを画像表示装置構成部材に貼合後、画像表示装置構成部材を介して粘着シートに紫外線照射し2次硬化させる方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には重量平均分子量が2万から10万であるウレタン(メタ)アクリレートを主成分とした、25℃における損失正接が1未満であるホットメルトタイプの接着組成物をもちいたシートが開示されている。
【0006】
さらに特許文献4には、架橋性官能基を有する(メタ)アクリル系モノマーおよび特定のマクロマーを含むモノマーを共重合させて得られる、(メタ)アクリル系ポリマーと、架橋剤とを含む、タッチパネルの貼合に好適な粘着剤層が開示されている。
【0007】
また、特許文献5には、透明両面粘着シートを介して画像表示装置構成部材が積層されてなる構成を備えた画像表示装置構成用積層体の製造方法であって、少なくとも次の(1)及び(2)の工程を有することを特徴とする画像表示装置構成用積層体の製造方法が開示されている。
(1) 粘着剤組成物を単層又は多層のシート状に形成し、これを紫外線架橋して1次硬化させることにより2次硬化前透明両面粘着シートを形成する工程。
(2) 2次硬化前透明両面粘着シートを介して2つの画像表示装置構成部材を積層した後、少なくとも一方の画像表示装置構成部材側から紫外線を照射し、この部材を介して、前記2次硬化前透明両面粘着シートを紫外線架橋して2次硬化させる工程。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開2010/027041号公報
【特許文献2】特許第4971529号公報
【特許文献3】国際公開2010/038366号公報
【特許文献4】特開2013−18227号公報
【特許文献5】特開2012−184423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
粘着シートを使用して画像表示装置構成部材を貼着する際、通常状態、すなわち室温において、適度な接着性、例えば、剥離可能な程度の接着性(“タック性”と称する)を備えていれば、貼着する際の位置決めを行いやすく、作業上とても便利である。
【0010】
また、携帯電話や携帯端末などを中心に画像表示装置の分野では、薄肉化、高精密化に加えて、デザインの多様化が進んでおり、それに伴って新たな課題が生じてきている。例えば、表面保護パネルの周縁部には、枠状に黒色の隠蔽部を印刷するのが従来は一般的であったが、デザインの多様化に伴って、この枠状の隠蔽部を黒色以外の色で形成することが行われ始めている。黒色以外の色で隠蔽部を形成する場合、黒色以外の色では隠蔽性が低いため、黒色に比べて隠蔽部、すなわち印刷部の高さが高くなる傾向がある。そのため、そのような印刷部を備えた構成部材を貼り合わせるための粘着シートには、大きな印刷段差に追従して隅々まで充填することができる印刷段差追従性が求められる。
中でも、粘着シートを介して、例えば印刷部が形成された表面保護パネルを、他の画像表示装置構成部材を貼り合わせる場合には、印刷段差に追従して隅々まで充填することができると共に、粘着シートの表面が平滑にならないと、粘着シートに歪や変形が生じるため、当該粘着シートには流動性が求められる。
【0011】
その一方で、通常状態、すなわち室温において、粘着シートが流動すると、シートとしての形状を保持できないようになり、粘着シートの保管安定性や取り回し時の作業性が損なわれることになってしまう。
そのため、従来技術におけるホットメルトタイプのシートは、保管安定性を得るために、室温域においてある程度の剛性を備えた接着性組成物を用いた、タック性をもたないシートが一般的であった。このため、ホットメルトタイプのシートは、貼合せする際に位置決めの段階から被着体を予熱する必要があり、圧着のみで常温貼付可能な粘着シートと比して、作業が煩雑であるという課題を抱えていた。
【0012】
そこで本発明は、通常状態、すなわち、室温状態では、シート状の形状を保持することができ、しかも、剥離可能な程度の接着性(“タック性”と称する)を備えているため、通常の粘着シート同様、室温で貼着でき、さらには、画像表示装置構成部材を、粘着シートを介して積層した後は、架橋させて画像表示装置構成部材同士を接着することができる、新たな画像表示装置構成用積層体の製造方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、透明両面粘着材を介して画像表示装置構成部材が積層されてなる構成を備えた画像表示装置構成用積層体の製造方法であって、少なくとも次の(1)〜(3)の工程を有することを特徴とする画像表示装置構成用積層体の製造方法。
(1) 枝成分としてマクロモノマーを備えたグラフト共重合体からなるアクリル系共重合体(A)と、架橋剤(B)と、光重合開始剤(C)とを含有する粘着剤樹脂組成物を作製して、該粘着剤樹脂組成物からなる粘着層を備えた単層又は多層の透明両面粘着材をシート状に成形する工程。
(2) 前記透明両面粘着材を介して2つの画像表示装置構成部材を貼着して積層する工程。
(3) 少なくとも一方の画像表示装置構成部材の外側から、活性エネルギー線を透明両面粘着材の前記粘着層に照射し、当該粘着層を架橋させて、2つの画像表示装置構成部材を接着させる工程。
【発明の効果】
【0014】
工程(1)で得られる透明両面粘着材は、化学的な架橋構造を有していない代わりに、ベースポリマーの枝成分を構成するマクロモノマー同士が凝集して物理的な架橋構造を有しており、これにより、通常状態、すなわち室温における流動が抑えられ、シート形状を保持することができる。しかも、工程(1)で得られる透明両面粘着材は、ベースポリマーの幹成分を構成する部分が粘着性を有しているため、共重合から室温状態において、剥離可能な程度の接着性(“タック性”と称する)を備えることもできる。また、当該粘着材を加熱すると、マクロモノマー同士の前記凝集が解れて物理的な架橋構造が解消して高い流動性を発現させることができる。さらには、光線、すなわち活性エネルギー線を照射することにより、被着体同士を強固に接着させることができる。このように、粘着シートとホットメルトシートの長所を兼ね備えた透明両面粘着材である。
よって、工程(1)で得られるこのような透明両面粘着材を用いて、次の工程(2)〜(3)を実現して画像表示装置構成用積層体を製造することができる。
なお、上記「化学的な架橋構造」とは、化学結合を介して架橋している構造を意味し、上記「物理的な架橋構造」とは、化学結合を介さず、物理的作用によって凝集している状態を意味するものである。
【0015】
工程(2)では、シート形状を保持しつつ、透明両面粘着材を介して2つの画像表示装置構成部材を貼着することができるから、貼着する際の位置決めを行いやすく、作業上とても便利である。
そして、工程(3)では、画像表示装置構成部材を介して、未架橋状態の透明両面粘着材に活性エネルギーを照射して粘着層を硬化させることができるから、画像表示装置構成部材同士を接着することができる。よって、例えば保護パネル等から発生するアウトガスのガス圧に対して十分に対抗できるだけの接着力と凝集力を持たせることができる。
また、前記工程(2)で得られた積層物を、加熱して加熱溶融(ホットメルト)可能な温度に加熱すると、流動性を持つようになり、貼合面に大きな印刷段差があった場合でも、貼合面の段差部へ任意に追従して隅々まで充填することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態の一例について説明する。但し、本発明が下記実施形態の例に制限されるものではない。
【0017】
本発明の実施形態の一例に係る画像表示装置構成用積層体の製造方法(「本画像表示装置構成用積層体の製造方法」と称する)は、所定の粘着剤樹脂組成物(「本粘着剤樹脂組成物」と称する)から透明両面粘着材を作製し、前記透明両面粘着材を介して2つの画像表示装置構成部材を積層し、2つの画像表示装置構成部材を貼着する工程を備えた画像表示装置構成用積層体(「本画像表示装置構成用積層体」と称する)の製造方法である。
そこで先ずは、本画像表示装置構成用積層体の製造方法で使用する「本粘着剤樹脂組成物」について説明する。
【0018】
≪本粘着剤樹脂組成物≫
本粘着剤樹脂組成物は、アクリル系共重合体(A)と、架橋剤(B)と、光重合開始剤(C)とを含有する粘着剤樹脂組成物である。
【0019】
<アクリル系共重合体(A)>
前記アクリル系共重合体(A)は、枝成分としてマクロモノマーを備えたグラフト共重合体である。
【0020】
(幹成分)
前記アクリル系共重合体(A)の幹成分は、(メタ)アクリル酸エステル由来の繰り返し単位を含有する共重合体成分から構成されるのが好ましい。
【0021】
前記アクリル系共重合体(A)の幹成分を構成する共重合体のガラス転移温度は−70〜0℃であるのが好ましい。
この際、幹成分を構成する共重合体成分のガラス転移温度とは、アクリル系共重合体(A)の幹成分を組成するモノマー成分のみを共重合して得られるポリマーのガラス転移温度をさす。具体的には、当該共重合体各成分のホモポリマーから得られるポリマーのガラス転移温度と構成比率から、Foxの計算式によって算出される値を意味する。
なお、Foxの計算式とは、以下の式により求められる計算値であり、ポリマーハンドブック〔Polymer HandBook,J.Brandrup,Interscience,1989〕に記載されている値を用いて求めることができる。
1/(273+Tg)=Σ(Wi/(273+Tgi))
[式中、Wiはモノマーiの重量分率、TgiはモノマーiのホモポリマーのTg(℃)を示す。]
【0022】
前記アクリル系共重合体(A)の幹成分を構成する共重合体成分のガラス転移温度は、室温状態での本粘着剤樹脂組成物の柔軟性や、被着体への本粘着剤樹脂組成物の濡れ性、すなわち接着性に影響するため、本粘着剤樹脂組成物が室温状態で適度な接着性(タック性)を得るためには、当該ガラス転移温度は、−70℃〜0℃であるのが好ましく、中でも−65℃以上或いは−5℃以下、その中でも−60℃以上或いは−10℃以下であるのが特に好ましい。
【0023】
但し、当該共重合体成分のガラス転移温度が同じ温度であったとしても、分子量を調整することにより粘弾性を調整することができる。例えば共重合体成分の分子量を小さくすることにより、より柔軟化させることができる。
【0024】
前記アクリル系共重合体(A)の幹成分が含有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、例えば2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリート、イソオクチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、メチルアクリレート等を挙げることができる。これらに、親水基や有機官能基などをもつヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、グリシジルアクリレート、アクリルアミド、N、N-ジメチルアクリルアミド、アクリルニトリル、メタクリロニトリル等を用いることもできる。
また、上記アクリルモノマーやメタクリルモノマーと共重合可能な酢酸ビニルやアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル等の各種ビニルモノマーも適宜用いることができる。
【0025】
また、アクリル系共重合体(A)の幹成分は、疎水性の(メタ)アクリレートモノマーと、親水性の(メタ)アクリレートモノマーとを構成単位として含有するのが好ましい。
アクリル系共重合体(A)の幹成分が、疎水性モノマーのみから構成されると、湿熱白化する傾向が認められるため、親水性モノマーも幹成分に導入して湿熱白化を防止するのが好ましい。
具体的には、上記アクリル系共重合体(A)の幹成分として、疎水性の(メタ)アクリレートモノマーと、親水性の(メタ)アクリレートモノマーと、マクロモノマーの末端の重合性官能基とがランダム共重合してなる共重合体成分を挙げることができる。
【0026】
ここで、上記の疎水性の(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えばn−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−メチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレ−ト、メチルメタクリレート、酢酸ビニルなどを挙げることができる。
【0027】
上記の親水性の(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えばメチルアクリレート、(メタ)アクリル酸、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイロキシプロピルヘキサヒドロフタル酸、N,N−ジメチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミドなどを挙げることができる。
【0028】
(枝成分:マクロモノマー)
アクリル系共重合体(A)は、グラフト共重合体の枝成分として、マクロモノマーを導入し、マクロモノマー由来の繰り返し単位を含有することが重要である。
マクロモノマーとは、末端の重合性官能基と高分子量骨格成分とを有する高分子単量体である。
【0029】
マクロモノマーのガラス転移温度(Tg)は、上記アクリル系共重合体(A)を構成する共重合体成分のガラス転移温度よりも高いことが好ましい。
具体的には、マクロモノマーのガラス転移温度(Tg)は、本粘着剤樹脂組成物の加熱溶融温度(ホットメルト温度)に影響するため、マクロモノマーのガラス転移温度(Tg)は30℃〜120℃であるのが好ましく、中でも40℃以上或いは110℃以下、その中でも50℃以上或いは100℃以下であるのがさらに好ましい。
このようなガラス転移温度(Tg)であれば、分子量を調整することにより、優れた加工性や保管安定性を保持できると共に、80℃付近でホットメルトするように調整することができる。
マクロモノマーのガラス転移温度とは、当該マクロモノマー自体のガラス転移温度をさし、示差走査熱量計(DSC)で測定することができる。
【0030】
また、室温状態では、枝成分同士が引き寄せ合って粘着剤樹脂組成物として物理的架橋をしたような状態を維持することができ、しかも、適度な温度に加熱することで前記物理的架橋が解れて流動性を得ることができるようにするためには、マクロモノマーの含有量を調整することも好ましいことである。
かかる観点から、マクロモノマーは、アクリル系共重合体(A)中に5質量%〜30質量%の割合で含有することが好ましく、中でも6質量%以上或いは25質量%以下、その中でも8質量%以上或いは20質量%以下であるのが好ましい。
【0031】
マクロモノマーの高分子量骨格を構成する成分は、アクリル系モノマーまたはビニル系モノマーから構成されるのが好ましく、中でも疎水性のモノマーがより好ましい。
前記マクロモノマーの高分子量骨格を構成する成分としては、例えばスチレン、アクリロニトリル、t−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、メチルメタクリレート、2−フェノキシエチルメタクリレート、3,5,5−トリメチルシクロヘキサンアクリレート、p−クミルフェノールEO変性アクリレート、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、セチルアクリート、セチルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、ベヘニルアクリレート、ベヘニルメタクリレート、ベンジルメタクリレートなどを挙げることができる。
前記成分の中でも、マクロモノマーの高分子量骨格を構成する前記成分をホモポリマーとした時のガラス転移温度が30℃〜120℃であるモノマーであるのがさらに好ましい。具体的には、当該モノマーとして、例えばメチルメタクリレート、3,5,5−トリメチルシクロヘキサンアクリレート、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレートなどを挙げることができる。
また、前記成分の中でも、マクロモノマーの高分子量骨格を構成する前記成分が結晶性を有する場合、当該前記成分をホモポリマーとした時の結晶融解温度が30℃〜120℃であるモノマーであるのがさらに好ましい。具体的には、当該モノマーとして、例えばステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、セチルアクリート、セチルメタクリレート、ベヘニルアクリレート、ベヘニルメタクリレートなどを挙げることができる。
なお、マクロモノマーの高分子量骨格を構成する際、これらのモノマーの一つを単独で重合して使用してもよいし、これら複数のモノマーを共重合させて使用してもよい。
【0032】
前記マクロモノマーの末端重合性官能基としては、例えば、メタクリロイル基、アクリロイル基、ビニル基などを挙げることができる。
【0033】
(アクリル系共重合体(A)の物性)
前記アクリル系共重合体(A)は、温度130℃、周波数0.02Hzにおける複素粘度が100〜800Pa・sであることが好ましく、150〜700Pa・sがより好ましく、170〜600Pa・sがさらに好ましい。
前記アクリル系共重合体(A)の温度130℃における複素粘度は、当該透明両面粘着材をホットメルトさせて使用するときの粘着剤樹脂組成物の流動性に影響するため、かかる複素粘度が100〜800Pa・sであれば、優れたホットメルト適性を持たせることができる。
【0034】
前記アクリル系共重合体(A)の複素粘度を前記範囲に調整するには、例えばアクリル系共重合体(A)の幹成分を構成する共重合体成分のガラス転移温度を調整することが挙げられる。好ましくは−70℃〜0℃、中でも−65℃以上或いは−5℃以下、その中でも−60℃以上或いは−10℃以下に調整すると共に、当該共重合体成分の分子量を調整して粘弾性を調整する方法を挙げることができる。但し、この方法に限定するものではない。
【0035】
<架橋剤(B)>
画像表示装置構成部材を貼合一体化させた後、架橋剤(B)を粘着材中で架橋することで、当該シートはホットメルト性を失う代わりに、高温環境下における高い凝集力を発現し、優れた耐発泡信頼性を得ることができる。
【0036】
このような架橋剤(B)としては、例えばエポキシ架橋剤やイソシアネート架橋剤、オキセタン化合物、シラン化合物、アクリル化合物等からなる架橋剤を適宜選択可能である。中でも、反応性や得られる硬化物の強度の点で、(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能(メタ)アクリレートが好ましい。
【0037】
このような多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、グリセリングリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAポリエトキシジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAポリプロポキシジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFポリエトキシジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリオキシエチル(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ヒドロキシビバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシビバリン酸ネオペングリコールのε−カプロラクトン付加物のジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリエトキシトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等の紫外線硬化型の多官能モノマー類のほか、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート等の多官能アクリルオリゴマー類を挙げることができる。
【0038】
上記に挙げた中でも、被着体への密着性や湿熱白化抑制の効果を向上させる観点から、水酸基等の極性官能基を含有する多官能モノマーもしくはオリゴマーが、好ましい。
その中でも、水酸基を有する多官能(メタ)アクリル酸エステルを用いるのが好ましい。
よって、湿熱白化を防止する観点からは、前記アクリル系共重合体(A)、すなわちグラフト共重合体の幹成分として、疎水性のアクリレートモノマーと、親水性のアクリレートモノマーとを含有するのが好ましく、さらには、架橋剤(B)として、水酸基を有する多官能(メタ)アクリル酸エステルを用いるのが好ましい。
【0039】
架橋剤(B)の含有量は、特に制限されるものではない。目安としては、アクリル系共重合体(A)100質量部に対して0.5〜20質量部、中でも1質量部以上或いは15質量部以下、その中でも2質量部以上或いは10質量部以下の割合であるのが好ましい。
架橋剤(B)を上記範囲で含有することで、未架橋状態における本粘着材の形状安定性と、架橋後の粘着材における耐発泡信頼性とを両立させることができる。但し、他の要素とのバランスでこの範囲を超えてもよい。
【0040】
<光重合開始剤(C)>
光重合開始剤(C)は、前述の架橋剤(B)の架橋反応における反応開始助剤としての機能を果たす。光重合開始剤は、現在公知のものを適宜使用することができる。中でも、波長380nm以下の紫外線に感応する光重合開始剤が、架橋反応の制御のしやすさの観点から好ましい。
【0041】
光重合開始剤は、ラジカル発生機構によって大きく2つに分類され、光重合性開始剤自身の単結合を開裂分解してラジカルを発生させることができる開裂型光重合開始剤と、光励起した開始剤と系中の水素供与体とが励起錯体を形成し、水素供与体の水素を転移させることができる水素引抜型光重合開始剤と、に大別される。
【0042】
これらのうちの開裂型光重合開始剤は、光照射によってラジカルを発生する際に分解して別の化合物となり、一度励起されると反応開始剤としての機能をもたなくなる。このため、架橋反応が終了した後の粘着材中に活性種として残存することがなく、粘着材に予期せぬ光劣化等をもたらす可能性がないため、好ましい。
他方、水素引抜型の光重合開始剤は、紫外線などの活性エネルギー線照射によるラジカル発生反応時に、開裂型光重合開始剤のような分解物を生じないので、反応終了後に揮発成分となりにくく、被着体へのダメージを低減させることができる点で有用である。
【0043】
前記開裂型光開始剤としては、例えば2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒロドキシ-1-[4-{4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)ベンジル}フェニル]-2-メチル-プロパン-1-オン、オリゴ(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−(4−(1−メチルビニル)フェニル)プロパノン)、フェニルグリオキシリック酸メチル、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)ブタン-1-オン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドや、それらの誘導体などを挙げることができる。
【0044】
前記水素引抜型光開始剤としては、例えばベンゾフェノン、4-メチル-ベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、3,3‘-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン、2−ベンゾイル安息香酸メチル、ベンゾイルぎ酸メチル、ビス(2‐フェニル‐2‐オキソ酢酸)オキシビスエチレン、4-(1,3-アクリロイル-1,4,7,10,13-ペンタオキソトリデシル)ベンゾフェノン、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、3-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、2-tert-ブチルアントラキノン、2-アミノアントラキノンやその誘導体などを挙げることができる。
但し、光重合開始剤として前記に挙げた物質に限定するものではない。本粘着剤樹脂組成物は、開裂型光重合開始剤及び水素引抜型光重合開始剤のいずれか一種を使用してもよいし、両者を組み合わせて使用してもよい。
【0045】
光重合開始剤(C)の含有量は特に制限されるものではない。目安としては、アクリル系共重合体(A)100質量部に対して0.1〜10質量部、中でも0.5質量部以上或いは5質量部以下、その中でも1質量部以上或いは3質量部以下の割合で含有するのが好ましい。
光重合開始剤(C)の含有量を上記範囲とすることで、活性エネルギー線に対する適度な反応感度を得ることができる。
【0046】
<その他の成分(D)>
本粘着剤樹脂組成物は、上記以外の成分として、通常の粘着剤樹脂組成物に配合されている公知の成分を含有してもよい。例えば、必要に応じて、粘着付与樹脂や、酸化防止剤、光安定化剤、金属不活性化剤、老化防止剤、吸湿剤などの各種の添加剤を適宜含有させることが可能である。
また、必要に応じて反応触媒(三級アミン系化合物、四級アンモニウム系化合物、ラウリル酸スズ化合物など)を適宜含有してもよい。
【0047】
<本画像表示装置構成用積層体の製造方法>
本画像表示装置構成用積層体の製造方法は、少なくとも次の(1)〜(3)の工程を有することを特徴とする製造方法である。
(1) 上記の本粘着剤樹脂組成物を作製して、該粘着剤樹脂組成物からなる粘着層を備えた単層又は多層の透明両面粘着材(「本粘着材」と称する)をシート状に成形する工程(「工程(1)」と称する)。
(2) 前記本粘着材を介して2つの画像表示装置構成部材を貼着して積層する工程(「工程(2)」と称する)。
(3) 少なくとも一方の画像表示装置構成部材の外側から、活性エネルギー線を本粘着材の前記粘着層に照射し、当該粘着層を架橋させて、2つの画像表示装置構成部材を接着させる工程(「工程(3)」と称する)。
【0048】
なお、本画像表示装置構成用積層体の製造方法は、少なくとも次の(1)〜(3)の工程を有すればよいから、他の工程を追加したり、各工程の間に他の工程を挿入したりすることは可能である。
【0049】
<工程(1)>
工程(1)では、本粘着剤樹脂組成物を作製して、該粘着剤樹脂組成物からなる粘着層を備えた単層又は多層の未架橋状態の透明両面粘着材(本粘着材)をシート状に成形する。
本粘着剤樹脂組成物をシート状に成形する方法は、現在公知の方法を任意に採用することができる。
この際、本粘着剤樹脂組成物を、離型フィルムの上に単層又は多層のシート状に成形して、粘着層を備えた単層又は多層の透明両面粘着材を作製するようにしてもよい。
また、本粘着剤樹脂組成物を、画像表示装置構成部材の上に単層又は多層のシート状に成形して、当該画像表示装置構成部材上に、粘着層を備えた単層又は多層の透明両面粘着材を作製するようにしてもよい。
【0050】
本粘着材を多層の透明両面粘着材とする場合には、最外層は、上記単層の場合と同様に、凹凸追随性と耐発泡信頼性とを兼ね備えているのが好ましいから、上記の本粘着剤樹脂組成物を用いて成形するのが好ましい。
【0051】
他方、中間層は、画像表示装置構成部材との粘着には寄与しないため、透明性を損なわず、かつ最外層の2次硬化反応を阻害しない程度の光透過性を有し、かつ、カット性及びハンドリング性を高める性質を有しているのが好ましい。
中間層を形成するベースポリマーの種類は、透明樹脂であれば、特に限定するものではない。中間層を形成するベースポリマーは、最外層のベースポリマーと同一の樹脂であっても異なる樹脂であってもよい。中でも、透明性の確保や作製し易さ、さらには積層境界面での光の屈折を防ぐ観点から、最外層のベースポリマーと同一のアクリル系樹脂を用いるのが好ましい。
中間層及び他の樹脂層は、活性エネルギー線硬化性を有していてもいなくてもよい。例えば紫外線架橋によって硬化するように形成してもよいし、熱によって硬化するように形成してもよい。また、特に後硬化しないように形成してもよい。但し、最外層との密着性等を考慮すると、後硬化するように形成するのが好ましく、特に紫外線架橋するように形成するのが好ましい。
その際、架橋開始剤の含有量が多くなると光透過率が低下するため、中間層における架橋開始剤の外層における含有率よりも低い含有率で紫外線架橋剤を含むのが好ましい。
【0052】
本粘着材を多層の透明両面粘着材とする場合、積層構成としては、具体的には、本粘着剤樹脂組成物と、他の粘着剤樹脂組成物とを積層した2種2層構成や、中間樹脂層を介して表裏に本粘着剤樹脂組成物を配した2種3層構成や、本粘着剤樹脂組成物と、中間樹脂組成物と、他の粘着剤樹脂組成物とをこの順に積層してなる3種3層構成などを挙げることができる。
また、本粘着剤樹脂組成物と他の粘着剤樹脂組成物とを、それぞれ異なる離型フィルム乃至画像表示装置構成部材上にシート状に成形し、両粘着面を積層して本粘着材を得るようにしてもよいし、また、本粘着剤樹脂組成物と、中間樹脂組成物と、粘着剤樹脂組成物とを、この順に共押出して2種3層の本粘着材を得るようにしてもよいし、また、中間樹脂層の表裏面に本粘着剤樹脂組成物又は他の粘着剤樹脂組成物を積層して本粘着材を得るようにしてもよい。
但し、これらの製法に限定するものではない。
工程(1)において、透明両面粘着材は未架橋状態である。
【0053】
(厚さ)
本粘着材の総厚さは、50μm〜1mmであるのが好ましく、より好ましくは75μm以上或いは500μm以下である。
本粘着材の総厚さが50μm以上であれば、高印刷段差等の凹凸への追従することが可能であり、1mm以下であれば、薄肉化の要求にこたえることができる。
さらに、従来の画像表示装置における周縁の隠蔽層の印刷高さがより高く、具体的には80μm程度の段差までをも埋める観点から、本粘着材の総厚さは75μm以上がより好ましく、特に100μm以上であるのがさらに好ましい。他方、薄肉化の要求にこたえる観点からは、500μm以下であるのが好ましく、特に350μm以下であるのがさらに好ましい。
【0054】
多層構成とする場合には、各最外層の厚さと中間層の厚さの比率は1:1〜1:20であるのが好ましく、中でも1:2〜1:10であるのがさらに好ましい。
中間層の厚みが、上記範囲であれば、積層体における粘着材層の厚みの寄与が大きくなりすぎず、柔軟すぎて裁断や取回しに係る作業性が劣るようになることがなく好ましい。
また、最外層が上記範囲であれば、凹凸や屈曲した面への追随性に劣ることがなく、被着体への接着力や濡れ性を維持することができて、好ましい。
【0055】
(本粘着材の特徴)
本粘着材は、単層のものも多層構成のものもいずれも、透明で、通常状態でシート状に形状を保持できており、かつ接着性を備えている。また、本粘着材を加熱して粘着層を流動化させることによって、粘着材内に歪みを残すことなく、貼合面の段差部に追従して隅々まで充填することができ、さらには、架橋することによって高温や高湿環境下での耐発泡性を維持することができる。
よって、本粘着材を用いて、次の工程(2)〜(3)を実現して本画像表示装置構成用積層体を製造することができる。
【0056】
本粘着材の透明性は、本粘着剤樹脂組成物を、厚さ150μmのシート状に賦形して、ソーダライムガラス(0.5mm厚)とシクロオレフィンポリマーフィルム(100μm厚)との間に挟んだ積層体のヘイズ(JIS K7136)を10%未満、中でも5%以下、中でも2%以下とすることができる。
【0057】
また、湿熱保管後の透明性については、本粘着剤樹脂組成物を厚さ150μmのシート状に賦形して、ソーダライムガラス(0.5mm厚)とシクロオレフィンポリマーフィルム(100μm厚)との間に挟んだ積層体を、紫外線照射して硬化した後に65℃、90%RHの湿熱環境下にて100時間保管した後、23℃、50%RHの室温環境下にて2時間保管した後のヘイズ(JIS K7136)を10%未満、中でも5%以下、中でも2%以下とすることができる。
【0058】
また、本粘着材は、JIS−Z−0237(ISO 29863)に準じた保持力測定において、SUS板に面積20mm×20mmで貼着させ、40℃の雰囲気下で500gfの荷重をかけた時の落下時間が20分以上であり、且つ、70℃の雰囲気下で500gfの荷重をかけた時の落下時間が5分未満であるものとすることができる。
この際、40℃の雰囲気下での当該落下時間は40分以上であるのがさらに好ましく、中でも60分以上であるのさらに好ましい。
他方、70℃の雰囲気下での当該落下時間は3分以下であるのがさらに好ましく、中でも2分以下であるのさらに好ましい。
【0059】
<工程(2)>
工程(2)では、前記本粘着材を介して2つの画像表示装置構成部材を貼着して積層することができる。
【0060】
本粘着材のベースポリマーであるアクリル系共重合体(A)は、マクロモノマーを枝成分として含有するグラフト共重合体であるから、通常状態、すなわち室温状態で、当該マクロモノマー同士が凝集して物理的架橋構造を形成し、本粘着材に優れた保管安定性や裁断加工性を付与することができる。
また、アクリル系共重合体(A)は、温度130℃、周波数0.02Hzにおける複素粘度が100〜800Pa・sであるから、貼合時にホットメルトシートとして用いる際、優れた作業性を享受することができる。
【0061】
このように工程(2)では、本粘着材を介して2つの画像表示装置構成部材を貼着して積層することができる。このようにすれば、本粘着材を被着体に押し付けるだけで簡単に貼りつく程度の粘着性を得ることができるから、粘着材を貼着する位置決めがしやすく、作業上とても便利である。
【0062】
また、本粘着材は、形状保持性に優れ、事前に任意の形状に加工しておくことが可能であることから、離型フィルム上に成形した本粘着材を、積層する画像表示装置構成部材の寸法に合わせて予めカットしておくこともできる。
この際のカット方法は、トムソン刃による打ち抜き、スーパーカッターやレーザーでのカットが一般的であり、離型フィルムを剥がし易いように表裏どちらか一方の離型フィルムを額縁状に残してハーフカットするのがより好ましい。
工程(2)においても、本粘着材、すなわち透明両面粘着材は未架橋状態である。
【0063】
<工程(3)>
工程(3)では、少なくとも一方の画像表示装置構成部材の外側から、活性エネルギー線を本粘着材の前記粘着層に照射し、当該粘着層を架橋させて、2つの画像表示装置構成部材を接着させて、本画像表示装置構成用積層体を製造することができる。
【0064】
本粘着材は、架橋剤(B)及び光重合開始剤(C)を含有しているから、活性エネルギー線を本粘着材の前記粘着層に照射し、当該粘着層を架橋させて硬化させることができ、2つの画像表示装置構成部材をしっかりと貼着することができる。
【0065】
この際、活性エネルギー線としては、熱線、X線、電子線、紫外線、可視光線等の、重合開始剤を感応せしめるエネルギー線を照射すればよい。中でも、画像表示装置構成部材へのダメージ抑制や、反応制御のしやすさの観点から、紫外線、とくに波長380nm以下の紫外線を照射するのが好ましい。
紫外線照射条件について特に制約はない。例えば、粘着材に到達する紫外線の積算光量が、波長365nmにおいて500〜5000mJ/cmとなるよう照射するのが好ましい。作業性を保持しつつ、十分に架橋反応を進行させる観点からである。
但し、紫外線を照射する際に介在する画像表示装置構成部材が、上記波長の光線を遮断する場合は、介在する部材に合わせて、粘着材が感応するエネルギー線の種類を、重合開始剤の種類によって適宜調整するのが好ましい。
【0066】
本工程(3)において、前記粘着層に照射して架橋させた後の粘着層すなわち該粘着層を形成する透明両面粘着材は、JIS−Z−0237(ISO 29863)に準じた保持力測定において、SUS板に面積20mm×20mmで貼着させ、40℃および70℃の雰囲気下で500gfの荷重をかけた時の30分後のズレ長さが1mm未満とすることができる。
この際、前記ズレ長さを0.8mm以下とするのがさらに好ましく、中でも0.5mm以下とするのがさらに好ましい。
【0067】
<他の工程>
前記工程(2)と前記工程(3)の間に、前記工程(2)で得られた積層物を加熱して透明両面粘着材の粘着層を加熱溶融させる工程を挿入するようにしてもよい。すなわち、工程(2)で貼着した積層物を加熱して本粘着材の粘着層を加熱溶融(ホットメルト)させるようにしてもよい。
【0068】
本粘着材は、加熱すると、マクロモノマー同士の前記凝集が解れて物理的架橋構造が解消して高い流動性を発現させることができる。よって、着面に印刷段差等の凹凸がある場合には、2つの画像表示装置構成部材を積層する際に、本粘着材を加熱して流動(ホットメルト)させることで、粘着材の凹凸追従性や被着体への濡れ性が高まり、歪みを残さず、部材同士をより強固に一体化させることができる。
【0069】
この際、60〜100℃に加熱してホットメルトさせるのが好ましい。60℃以上であれば、粘着材の流動性を十分に付与することができ、凹凸部へ十分に粘着剤樹脂組成物を充填させることができる。他方、100℃以下であれば、被着体たる画像表示装置構成部材に熱ダメージを与えるのを抑えることができるばかりか、粘着材が流動し過ぎて粘着剤樹脂組成物のはみだしや潰れが生じることを防ぐこともできる。
このような観点から、ホットメルト温度は、60〜100℃であるのが好ましく、中でも62℃以上或いは95℃以下、その中でも65℃以上或いは90℃以下であるのがさらに好ましい。
【0070】
<本画像表示装置構成用積層体>
本画像表示装置構成用積層体としては、例えばパソコン、モバイル端末(PDA)、ゲーム機、テレビ(TV)、カーナビ、タッチパネル、ペンタブレットなど、LCD、PDP又はELなどの画像表示パネルを用いた平面型画像表示装置の構成部材を挙げることができる。
中でも、これら画像表示パネルと、保護パネルやタッチパネル等の透明パネル乃至フィルム部材とを粘着材を介して貼り合わせてなる構成を備えた画像表示装置構成用積層体を挙げることができる。
【0071】
例えば、携帯電話の表示画面などでは、タッチパネルフィルム等の機能性フィルム上にシート状の粘着材を介して表面保護パネルを積層する構成が採用されている。この際、該保護パネルの裏面には、周縁部に隠蔽用印刷部(厚さ5μm〜80μm程度)が付設され、隠蔽用印刷部の縁に形成される段差部の入隅部内にまで粘着剤が十分に入り込まないと、気泡が残留して画面の視認性が低下することになる。また、段差近傍でフィルム部材が屈曲して外観不良となったり、フィルムの屈曲による残留歪が起点となって、積層した部材間に発泡や剥離が起こったりするおそれがあった。
本粘着材は、このような5μm〜30μm程度の段差はもちろん、30〜80μm程度の段差があっても、段差の隅々まで充填して気泡を残留させることなく貼着することができる。しかも、たとえ被着体の一方が屈曲性をもつフィルム部材であったとしても、当該粘着材をホットメルトさせることで、表面を歪みなく平滑に均す事が可能であるため、フィルム部材に歪や変形を生じさせずに、部材を貼合一体化することができる。さらには、貼合後に粘着材を架橋することで、例えば85℃程度の高温環境下においても、粘着材は流動せずに高凝集力を維持できることから、耐発泡信頼性を得ることができる。
【0072】
なお、一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、その厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいい、一般的に「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいう(日本工業規格JIS K6900)。しかし、シートとフィルムの境界は定かでなく、本発明において文言上両者を区別する必要がないので、本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
また、画像表示パネル、保護パネル等のように「パネル」と表現する場合、板体、シートおよびフィルムを包含するものである。
また、本発明において、「貼着」とは、粘着材が有する自己粘着性によって、すなわち粘着材が未架橋状態で被着体を固定する状態を示し、例えば一時的に被着体を固定する状態や剥離可能に被着体を固定する状態などを包含する。他方、「接着」とは、粘着剤を架橋することによって、該粘着剤を化学的もしくは物理的に変化させた状態で被着体を固定する状態を示し、例えば被着体との界面に高い接合力を発現せしめた状態や、被着体を剥離困難な状態に固定するなどを包含する。
【0073】
本明細書において、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
また、「X以上」(Xは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
【実施例】
【0074】
以下、実施例及び比較例によりさらに詳しく説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0075】
[実施例1]
アクリル系共重合体(A)として、数平均分子量2400のポリメタクリル酸メチルマクロモノマー15重量部とブチルアクリレート81重量部とアクリル酸4重量部とがランダム共重合してなるアクリル酸エステル共重合体(A−1)(重量平均分子量23万)1kgに対し、架橋剤(B)として、トリメチロールプロパンエポキシアクリレート(EA5321 新中村化学工業社製)(B−1)100gと、光重合開始剤(C)としてのジフェニル−2,4,6−トリメチルベンゾイルホスフィンオキサイド(オムニラッドTPO IGM社製)(C−1)15gを均一混合し、粘着剤樹脂組成物を作製した。
前記組成物を剥離処理した2枚のポリエチレンテレフタレートフィルム(「剥離フィルム」と称する。三菱樹脂社製 ダイアホイルMRV−V06 厚さ100μm/三菱樹脂社製 ダイアホイルMRQ 厚さ75μm)で挟み、ラミネータを用いて厚さ150μmとなるようシート状に賦形して、粘着材1を作製した。
【0076】
60mm×90mm×厚さ0.5mmのソーダライムガラスの周縁部に、幅10mm、厚み40μmの白色の印刷(全光線透過率0%)を施し、周縁部に40μmの印刷段差をもつ評価用ガラス基板を作製した。この評価用ガラス基板は、段差部及び平坦面部を貼合面に有する画像表示装置構成部材の代替品である。
この評価用ガラス基板に貼合する試験用被着体として、画像表示装置構成部材としての偏光板(日東電工株式会社製「NWF−KDSEGHC−ST22」)を、予めガラス板上(60×90mm×t0.5mm)の片面に全面貼合したものを作製した。
【0077】
前記粘着材1の一方の剥離フィルムを剥がし、露出した粘着面を上記ガラス基板の印刷段差部を覆うようにハンドローラにて貼着した。次いで、残る剥離フィルムを剥がし、露出した粘着面に未処理のソーダライムガラスを減圧下(絶対圧5kPa)にてプレス貼合した後、オートクレーブ処理(60℃、ゲージ圧0.2MPa、20分)を施して仕上げ貼着し、ソーダライムガラス面から、波長365nmの積算光量が2000mJ/cmとなるように粘着材1に紫外線を照射して架橋させ、画像表示装置構成用積層体を作製した。
【0078】
なお、アクリル酸エステル共重合体(A−1)は、枝成分としてポリメタクリル酸メチルマクロモノマーを備え、幹成分として、ブチルアクリレートと、アクリル酸と、マクロモノマーの末端の重合性官能基であるメタクリロイル基とがランダム共重合してなる共重合成分を備えたグラフト共重合体である。
アクリル酸エステル共重合体(A−1)の幹成分を構成する共重合体成分のガラス転移温度(当該共重合体成分をポリマー化して得られるポリマーの理論値で求められるガラス転移温度)は−50℃であった。
アクリル酸エステル共重合体(A−1)の枝成分を構成するポリメタクリル酸メチルマクロモノマーの数平均分子量は2400であり、該マクロモノマーのガラス転移温度は60℃であり、該マクロモノマーは、アクリル酸エステル共重合体(A−1)中に15質量%の割合で含有されていた。
アクリル系共重合体(A)は、温度130℃、周波数0.02Hzにおける複素粘度が260Pa・sであった。
【0079】
[実施例2]
架橋剤(B)としてグリセリンジメタクリレート(G101P 共栄社化学社製)(B−2)100gを用いる以外は、粘着材1と同様にして厚さ150μmのシート状の粘着材2を作製した。
そして、この粘着材2を用いて実施例1と同様に画像表示装置構成用積層体を作製した。
【0080】
[比較例1]
マクロモノマーを有さないアクリル系共重合体を用いて粘着材3を作製した。すなわち、アクリル系共重合体(A)として、メタクリル酸メチル20重量部とブチルアクリレート80重量部とをランダム共重合してなるアクリル酸エステル共重合体(A−2)(重量平均分子量40万)を用いる以外は、粘着材1と同様にして厚さ150μmのシート状の粘着材3を作製した。
そして、この粘着材3を用いて実施例1と同様に画像表示装置構成用積層体を作製した。
【0081】
[比較例2]
特許4971529号公報の実施例3に準じて粘着材4を作製した。
すなわち、2−エチルヘキシルアクリレート75質量部と酢酸ビニル20質量部とアクリル酸5質量部とをランダム共重合してなるアクリル酸エステル共重合体前記アクリル酸エステル共重合体(A−3)1kgに、架橋剤(B)としてノナンジオールジアクリレート(ビスコート260 大阪有機化学社製)(B−3)50g及び光重合開始剤(C)として4−メチルベンゾフェノン(C−3)10gを混合添加して粘着剤樹脂組成物を調製した。
前記粘着剤樹脂組成物を剥離処理した2枚のポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂社製 ダイアホイルMRV−V06 厚さ100μm/三菱樹脂社製 ダイアホイルMRQ 厚さ75μm)で挟み、ラミネータを用いて厚さ150μmとなるようシート状に賦形した。続いて、ポリエチレンテレフタレートフィルムを介して、粘着層に波長365nmの紫外線が1000mJ/cm到達するよう紫外線を照射し、架橋剤を一部反応させて、粘着材4(厚さ150μm)を作製した。
そして、この粘着材4を用いて実施例1と同様に画像表示装置構成用積層体を作製した。
【0082】
[比較例3]
特開2013−18227号公報の実施例1に準じて粘着材5を作製した。
すなわち、アクリル系共重合体(A)として、数平均分子量6000のポリメタクリル酸メチルマクロモノマー10重量部とブチルアクリレート16重量部とメトキシエチルアクリレート70重量部と2−ヒドロキシエチルアクリレート4重量部をランダム共重合してなるアクリル酸エステル共重合体(A−4)(重量平均分子量30万)1kgに対し、架橋剤(B)としてキシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加体(TD−75 綜研化学社製)4g(B−4)からなる、粘着剤樹脂組成物を作製した。
前記粘着剤樹脂組成物を酢酸エチルで希釈した固形分濃度50%希釈溶液とし、剥離処理したポリエチエレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂社製 ダイアホイルMRV−V06 厚さ100μm)上に、乾燥後の厚みが150μmとなるように塗布し、乾燥させた後、剥離処理したポリエチエレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂社製 ダイアホイルMRQ 厚さ75μm)を粘着面に被覆し、23℃湿度40%にて1週間養生して架橋反応を進行させ、厚さ150μmのシート状の粘着材5を作製した。
そして、この粘着材5を用いて、紫外線を照射しない事以外は実施例1と同様に画像表示装置構成用積層体を作製した。
【0083】
[評価]
(架橋前の粘着材の保持力)
実施例及び比較例で作製した粘着材1〜5を40mm×50mmに裁断して片面の離型フィルムを剥がし、裏打用のPETフィルム(三菱樹脂製ダイアホイルS−100、厚さ38μm)をハンドローラで背貼りした後、これを巾25mm×長さ100mmの短冊状に裁断して試験片とした。次に、残る離型フィルムを剥がして、SUS板(120mm×50mm×厚さ1.2mm)に対して、貼着面積が20mm×20mmとなるようハンドローラで貼着した。その後、試験片を40℃の雰囲気下で15分養生させた後、試験片に500gf(4.9N)の錘を垂直方向に取り付けて掛けて静置した後、錘の落下時間(分)を測定した。30分以内に落下しなかったものについては、SUSと試験片との貼着位置が下方にズレた長さ(mm)、すなわちズレ量を測定した。この時、錘の落下時間が20分以上であれば十分な保持力を有しており、加工性および保管安定性が優れていることを示唆している。なお、表中の「<0.5mm」はズレ長さが0.5mm未満で、ほとんどズレのない状態を意味している。
【0084】
また、実施例及び比較例で作製した粘着材1〜5について、上記保持力測定と同様にして、SUS板と試験片との積層体を作成した。70℃の雰囲気下で15分養生させた後、試験片に500gf(4.9N)の錘を垂直方向に取り付けて掛けて30分間静置した後、錘の落下時間(分)を測定した。30分以内に落下しなかったものについては、SUSと試験片との貼着位置が下方にズレた長さ(mm)、すなわちズレ量を測定した。
この時、落下時間が5分未満であれば、加熱によって高い流動性を発現し、凹凸追従性や被着体への濡れ性が高められることを示唆している。
【0085】
(架橋後の粘着材の保持力)
実施例及び比較例で作製した粘着材1〜5について、上記保持力測定と同様にして、SUSと試験片との積層体を作成した後、波長365nmの紫外線が粘着シートに2000mJ/cm到達するよう、光量計(ウシオ電機社製、UNIMETER UIT250/センサー:UVD−C365)で積算光量を確認しながら裏打用のPETフィルム側から高圧水銀ランプを用いて紫外線照射し、工程(3)における光硬化後の透明両面粘着シートに相当する試験片を作製した。
その後、試験片を40℃および70℃の雰囲気下で15分養生させた後、試験片に4.9Nの錘を垂直方向に取り付けて掛けて30分間静置した後、SUSと試験片との貼着位置が下方にズレた長さ(mm)を測定した。試験片が殆ど動かず、ズレ長さが0.5mm未満のものについては、表中「<0.5mm」と表記した。
この時、試験片が殆ど動かなければ、粘着材が高い凝集力を有しており、耐発泡信頼性に優れていることを示唆している。
【0086】
(ヘイズ)
粘着材1〜5の一方の離型フィルムを剥がして露出した粘着面を、ソーダライムガラス(82mm×53mm×0.5mm厚)にロール圧着した。次いで残る離型フィルムを剥がし、ゼオノアフィルム(日本ゼオン製、100μm厚)をロール貼合した後、オートクレーブ処理(80℃、ゲージ圧0.2MPa、20分)を施して仕上げ貼着し、積層体を作製した。
前記積層体について、ヘイズメーター(日本電色工業株式会社製 NDH5000)を用いて、初期ヘイズ並びに65℃90%RHの湿熱環境下にて100時間保管した後のヘイズ値(表の「湿熱試験後ヘイズ」)をJIS K7136に準じて測定した。
【0087】
(加工適性)
粘着材1〜5を、離型フィルムを積層したままトムソン打抜機を用いて50mm×80mmのトムソン刃で100枚カットし、端部の形状を観察した。端部の潰れや糊はみだし、離型フィルムの浮きが20枚以上みられたものを「×」と評価し、20枚以上無かったものを「○」と判定した。
【0088】
(粘着材の保管安定性)
上記加工適性評価で作製した粘着材1〜5の裁断品を100mm×100mm×3mmのガラス板間に挟むように積層し、天面のガラス板に1kgの錘を乗せて40℃で65時間静置した。
養生後に粘着材がつぶれ、糊はみ出しが顕著に見られたものを「×」、糊はみだしがわずかに見られたが、実用性に問題ないものを「○」、糊はみ出しが見られなかったものを「◎」と判定した。
【0089】
(接着力)
粘着材1〜5の一方の離型フィルムを剥がし、裏打ちフィルムとして50μmのPETフィルム(三菱樹脂製ダイアホイルT100 厚さ50μm)を貼合した。
上記積層品を長さ150mm、巾10mmに裁断した後、残る離型フィルムを剥がして露出した粘着面をソーダライムガラスにロール圧着した。貼合品にオートクレーブ処理(80℃,ゲージ圧0.2MPa,20分)を施して仕上げ貼着した後、粘着材1〜4の試料については紫外線を365nmの積算光量が2000mJ/cm2となるよう照射して粘着材を硬化し、23℃、50%RHで15時間養生して、剥離力測定試料とした。
粘着材5については、架橋反応がすでに終了しているため、紫外線照射等の後硬化処理を行わず、そのまま剥離力測定試料とした。
上記剥離力測定試料を、23℃40%RHの環境下にて剥離角180°、剥離速度60mm/分で引き剥がしたときのガラスへの剥離力(N/cm)を測定した。
【0090】
(貼合性)
加工性評価にて裁断した粘着材1〜5の一方の離型フィルムを剥がして露出した粘着面を、周縁部5mmに厚さ80μmの印刷を施したソーダライムガラス(82mm×53mm×0.5mm厚)の印刷面に、粘着材の4辺が印刷段差にかかるようにして真空プレスを用いてプレス圧着した(絶対圧5kPa、温度80℃、プレス圧0.04MPa)。次いで残る離型フィルムを剥がし、ゼオノアフィルム(日本ゼオン製 100μm厚)をプレス貼合した後、オートクレーブ処理(80℃、ゲージ圧0.2MPa、20分)を施して仕上げ貼着し、積層体1〜5を作製した。
作製した積層体1〜5を目視観察し、印刷段差近傍で粘着材が追従せず気泡が残ったものを「×」、フィルムが段差近傍で屈曲し、歪むことによる凹凸ムラが見えたものを「△」、気泡なく平滑に貼合されたものを「○」と判定した。
【0091】
(耐発泡信頼性)
実施例及び比較例にて作製した積層体1〜5について、85℃、85%RHの環境下で100時間保管した後の外観を目視観察し、環境試験後に粘着材の変形や発泡、剥離が生じたものを「×」、なきものを「○」と判定した。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
(考察)
実施例のシート状の粘着材は、アクリル酸エステル共重合体中のマクロモノマーが凝集成分として寄与する結果、未架橋状態においても高い保持力を示し、加工性や保管安定性に優れたものであった。また、実施例の粘着材は、加熱により高い流動性を発現することから、貼合時に加熱し溶融させることで、凹凸面への追従性に優れるばかりか、被着体の一方がフィルムのような剛性の低い素材であっても段差近傍で屈曲を生じず、平滑な積層体を得ることができた。さらには、積層体とした後に紫外線照射し粘着材を硬化させることで、高温高湿下等の苛酷な環境試験下においても剥離や発泡、変形を生じず、高い信頼性をもつ積層体を得ることができた。
【0095】
これに対し、比較例1は、マクロモノマーを含まないアクリル酸エステル共重合体を用いたシート状の粘着材であるため粘着剤としての凝集力が低く、加工性や保管安定性が得られなかった。
比較例2は、紫外線照射によって粘着剤樹脂組成物が一部架橋しているため保管安定性や裁断加工性には優れるものの、印刷段差尽きガラスとフィルムとを積層する際、フィルム側に印刷段差による凹凸が転写し平滑な積層体が得られないばかりか、印刷段差が交差する角部付近では一部粘着剤が充填しきれず気泡が残る結果となった。また、段差近傍の粘着材の歪みをきっかけに高温高湿試験下で発泡し、保管安定性に劣るものであった。
比較例3は、粘着剤樹脂組成物の架橋反応が、部材へ貼合する前段階で既に完了しているため、粘着材単独での加工性や保管安定性には優れるものの、貼合面の段差部を平滑に埋められるものではなかった。
【0096】
以上の実施例の結果並びにこれまで発明者が行ってきた試験結果から、枝成分としてマクロモノマーを備えたグラフト共重合体からなるアクリル系共重合体(A)と、架橋剤(B)と、光重合開始剤(C)とを含有する粘着剤樹脂組成物から成形した単層又は多層の透明両面粘着材を用いれば、実施例同様に2つの画像表示装置構成部材を接着させることができるものと考えることができる。