(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。なお、本明細書において、「X〜Y」(X、Yは任意の数値)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」であることを意味する。
【0018】
≪1.硫化物の製造方法≫
本実施の形態に係る硫化物の製造方法(以下、「硫化処理方法」ともいう)は、ニッケルを含む硫酸水溶液を反応槽に装入し、その水溶液に対して硫化剤を添加して硫化反応によりニッケルを含む硫化物を生成させる方法である。具体的に、この硫化反応に基づく硫化物の製造方法は、複数段の反応容器が直列に連結して構成される反応槽を用いて行う。
【0019】
この硫化処理方法では、例えば純度95%〜99%程度の硫化水素ガスを硫化剤として用い、硫化反応により硫化物を生成させるための必要理論当量よりも多い過剰量の硫化水素ガスを、硫化反応始液であるその硫酸水溶液に添加する。これにより、硫酸水溶液に含まれるニッケルを硫化物として高い回収率で回収することができる。
【0020】
一方で、この硫化処理方法では、過剰量の硫化水素ガスを添加しているために、硫化反応に関与しなかった未反応のガスが反応槽内に残存するようになる。そこで、この硫化処理方法では、添加した硫化水素ガスのうちの未反応の硫化水素ガスを回収し、回収した硫化水素ガスに水酸化ナトリウムを添加して水硫化ナトリウムを生成させ、得られた水硫化ナトリウム水溶液を硫化剤の一部として反応槽に供給している。これにより、硫酸水溶液中のニッケルを、ニッケル硫化物としてより一層高い回収率で回収することが可能になるとともに、硫化水素ガスの利用効率を向上させることもできる。
【0021】
そして、このとき、本実施の形態に係る硫化処理方法においては、未反応の硫化水素ガスに基づいて得られた水硫化ナトリウム水溶液を、反応槽に供給される硫酸水溶液の流量に対して0.17体積%以下となる流量で、複数段の反応容器で構成される反応槽のうちの2段目以降の反応容器に添加するようにし、一方で、その水硫化ナトリウム水溶液の残量を1段目の反応容器に添加することを特徴としている。
【0022】
このような硫化処理方法によれば、後述するように、硫酸水溶液中に含まれる鉄の硫化を抑制し、鉄の硫化に伴ってクロムが共沈又は吸着して析出することを抑制することができ、得られる硫化物中のクロム品位を有効に低減することができる。具体的には、硫化物中のクロム品位を0.0100重量%未満にまで低減することが可能となる。
【0023】
以下、図面を参照しながらより具体的に説明する。
図1に、硫化反応に寄与しなかった余剰分の硫化水素ガスを回収して水酸化ナトリウム(NaOH)によるアルカリ処理に供し、そのアルカリ処理により得られた水硫化ナトリウム(NaHS)水溶液を硫化反応に供給する流れを模式的に示す。
【0024】
図1に示すように、硫化処理方法に用いられる反応槽1は、通常、硫化反応始液を導入する導入口10と、硫化剤としての純度95%〜99%の硫化水素ガスを吹き込むガス吹き込み口11と、反応槽1内のガスの一部を排ガスとして排出する排ガス口12と、反応後のスラリーを排出する排出口13と、を備えた密閉型の反応設備である。
【0025】
また、図示しないが、反応槽1は、複数段(2基以上)の反応容器を直列に連結して構成されている。例えば、反応槽1としては、4段の反応容器が直列に連結して構成される多段連続撹拌硫化反応設備を用いることができる。硫化処理を行うに際しては、効率よく硫化反応を進めるために硫化反応が生じている水溶液の滞留時間を長くすることが有利であり、反応槽に供給した水溶液のショートパスを防止するために、複数段の反応容器を直列に並べることが好ましい。
【0026】
例えば、4段の反応容器を直列に連結して構成されてなる反応槽1では、先ず、最上流側の反応容器である第1段目の反応容器内に、導入口10から硫化反応始液であるニッケルを含む硫酸水溶液が導入されるとともに、ガス吹き込み口11から反応容器内の気相部分に硫化水素ガスが吹き込まれる。そして、第1段目の反応容器において所定の時間で硫化反応を生じさせることによって、その容器内の水溶液中のニッケルがニッケル硫化物となる。次に、第1段目の反応容器内で生成したニッケル硫化物を含んだ硫酸水溶液は、第2段目の反応容器内に移送され、適宜、その第2段目の反応容器内にもガス吹き込み口11から硫化水素ガスが供給して硫化反応を生じさせる。以降、順次、第3段目の反応容器、第4段目の反応容器において硫化反応が進行していき、第4段目の反応容器内に得られた反応後のスラリーは、排出口13から排出され、シックナー等の固液分離装置によりニッケル硫化物と硫化反応終液である貧液とに分離される。
【0027】
このように、例えば、4段の反応容器から構成される反応槽1において、主として第1段目の反応容器にて硫化反応に基づくニッケル硫化物の生成反応が生じ、続く第2段目以降の反応容器においては、生成したニッケル硫化物のいわゆる成長が生じる。したがって、ニッケルを含む硫酸水溶液から硫化反応によりニッケル硫化物を生成させるに際して、多段の反応容器を直列に設けて構成される反応槽1を用いることによって、ニッケル硫化物の生成と、生成したニッケル硫化物の所望とする大きさへの成長を効率的に生じさせることができる。
【0028】
ここで、硫化反応によりニッケルを硫化物として高い回収率で回収するためには、硫化剤となる硫化水素は必要理論当量よりも過剰に添加する必要がある。したがって、例えば第1段目の反応容器内には、硫化反応後において、有価金属の硫化反応に寄与しなかった余剰の硫化水素ガスが溶存している状態となり、この余剰の硫化水素ガスは、排ガス口12から硫化反応処理外へと排出される。また、硫化反応後の水溶液に溶存している硫化水素は、温度や圧力が下がると平衡条件により一部が硫化水素ガスとして排出される。これら排出される硫化水素ガスは、排ガス口12からH
2Sガス洗浄塔2へと回収され、水酸化ナトリウム水溶液によりアルカリ処理が施される。
【0029】
このアルカリ処理においては、硫化水素ガスを水酸化ナトリウム水溶液に接触させて吸収させる反応が生じ、下記の反応式に示すように水硫化ナトリウム水溶液が得られる。なお、H
2Sガス洗浄塔2では、アルカリ溶液と硫化水素ガスとの接触を効率的に行うため、スクラバー等の除害設備を設けることが好ましい。
NaOH+H
2S→NaHS+H
2O
【0030】
本実施の形態に係る硫化処理方法では、このようにして得られた水硫化ナトリウム水溶液を、ポンプ等を用いて、反応槽1に装入された硫化反応始液に添加する。すなわち、硫化水素ガスと共に硫化反応に用いる硫化剤の一部として、硫化反応始液に添加する。そうすると、下記の(1)式で示されるような硫化水素ガスによる硫化反応に加えて、下記(2)式で示されるような水硫化ナトリウム水溶液による硫化反応が発生することになる(式(1)、(2)において、Mは、Ni、Co及びFeを表す)。
MSO
4+H
2S→MS+H
2SO
4 ・・・(1)
2NaHS+MSO
4→Na
2SO
4+MS+H
2S ・・・(2)
【0031】
このような方法によれば、反応槽1に繰り返し添加される硫化ナトリウム水溶液も硫化反応に使用され、その硫化反応に伴う反応系内におけるpHの低下が抑制されることになる。すると、生成したNiS及びCoSの再溶解が低減される。
【0032】
ところが、本発明者らは、第2段目以降の反応容器に対して水硫化ナトリウム水溶液の添加流量を増加させると、生成した硫化物の再溶解は抑制されるものの、その硫化物中のクロム品位及び鉄品位が増加する傾向があることを発見した。
【0033】
このようなクロムの析出機構に関しては、先ず、クロムの硫化物の溶解度積が、ニッケルやコバルト、鉄の硫化物の溶解度積と比較して大きく、本プロセスの硫化反応においては硫化物として析出しないため、クロムの析出には別の機構が働いていると推測できる。そして、
図2に示すように、硫化物中の鉄品位とクロム品位には強い相関があることから、鉄が硫化反応により硫化物として析出する際にクロムが共沈又は吸着するというメカニズムが、液中からクロムが析出する機構であると考えられる。
【0034】
したがって、このことから本発明者らは、鉄の硫化反応を抑制する、すなわちクロムが共沈又は吸着する鉄の硫化物の生成反応を抑制することで、硫化物中のクロム品位を低減させることが可能になると考えた。
【0035】
さらに、本発明者らは、複数段の反応容器が直列に連結されてなる反応槽1において、第1段目の反応容器では、硫化物の溶解度積の低いニッケル又はコバルトの硫化反応が支配的であるが、ニッケル又はコバルトの硫化が十分に進行した第2段目以降の反応容器では、比較的硫化物の溶解度積の高い鉄の硫化が進行しやすくなり(
図3参照)、鉄の硫化に伴うクロムの共沈又は吸着によってクロムの析出も進行していると考えた。
【0036】
そこで、本実施の形態に係る硫化処理方法においては、硫化剤の一部として水硫化ナトリウム水溶液を硫化反応始液に添加するに際して、その水硫化ナトリウム水溶液を、反応槽1に供給される硫酸水溶液の流量に対して0.17体積%以下となる流量として第2段目以降の反応容器に添加するようにし、一方で、その水硫化ナトリウム水溶液の残量を第1段目の反応容器に添加する。
【0037】
このように、第2段目以降の反応容器への水硫化ナトリウム水溶液の添加流量を低減させることにより、鉄の硫化反応を抑制させてクロムの析出を抑えることができ、その結果、得られる硫化物中のクロム品位を有効に低減させることができる。
【0038】
水硫化ナトリウム水溶液の添加流量に関して、第2段目以降の反応容器への水硫化ナトリウム水溶液の添加流量が、反応槽に供給される硫酸水溶液の流量の0.17体積%を超える場合には、硫化処理対象の硫酸水溶液の液性がアルカリ側に移行し、鉄の硫化が進行してしまい、それに伴って共沈又は吸着によるクロムの析出も進行する。なお、第二段目以降の反応容器への水硫化ナトリウム水溶液の添加流量の下限としては、限定されず、0体積%であってもよい。
【0039】
以下、硫化処理におけるその他の具体的な条件について説明する。
【0040】
硫化処理においては、特に限定されないが、反応槽1を構成する複数段の反応容器のそれぞれの内部圧力を100kPa〜300kPaであることが好ましい。これにより、ニッケル及びコバルトの硫化反応をより効率的に進行させることができる。また、複数段の反応容器のすべてを同じ圧力に制御しなくてもよく、例えば、最上流側の第1段目の反応容器の内部圧力を250kPa〜300kPaとし、2段目以降の反応容器の内部圧力を徐々に降下させ、最下流側の反応容器では100kPa〜150kPaとする。これにより、硫化剤として供給する硫化水素ガスを効率的に反応に供することができ、硫化物が生成する反応と析出した硫化物が成長する反応とに応じて適切に制御することができる。
【0041】
また、硫化処理に供するニッケルを含む硫酸水溶液のpHとしては、特に限定されないが、硫化反応を効率的に進行させる観点から、3.0〜3.8とすることが好ましい。すなわち、硫酸水溶液のpHが3.0未満であると、例えばニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおける硫化工程の前段にある中和工程にて、鉄、アルミニウム等を十分に除去できない可能性があり、不純物を多く含む硫化処理始液となる。一方、硫酸水溶液のpHが3.8を超えると、ニッケルやコバルトの水酸化物が生成する可能性がある。
【0042】
また、硫酸水溶液の温度としては、特に限定されないが、65℃〜90℃程度とすることが好ましい。すなわち、一般的に、硫化反応自体は高温であるほど促進され、特に65℃以上とすることにより、より効率的に反応を促進させることができる。一方で、水溶液温度が90℃を超えると、温度を上昇させるためにコストがかかることのほか、反応速度が速くなるために反応槽1内に硫化物が付着して有効に回収できない等の問題が生じることがある。
【0043】
≪2.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法での適用≫
本実施の形態に係る硫化処理方法では、上述したように、その硫化処理の対象として、少なくともニッケルを含む硫酸水溶液を用いる。このニッケルを含む硫酸水溶液は、硫化反応の反応始液であり、例えば、ニッケル濃度は2〜6g/Lである。また、この硫酸水溶液は、ニッケル以外の元素として、コバルト、鉄、マンガン、マグネシウム、アルミニウム、クロム、鉛等を含むものであってもよい。
【0044】
本実施の形態に係る硫化処理方法は、例えば、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法における硫化工程での処理に適用することができる。このとき、ニッケルを含む硫酸水溶液としては、原料のニッケル酸化鉱石のスラリーに対して高温高圧下で硫酸を用いた浸出処理を施して得られた浸出液を用いることができる。この浸出液には、ニッケルのほか、有価金属としてコバルトを含有する。なお、後述するように、その浸出処理を経て得られた浸出液に対して中和剤を用いて中和処理を行うことで得られた中和後液を用いてもよい。
【0045】
以下では、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法についての概要を説明して、その湿式製錬方法における硫化工程での処理に、上述した硫化処理方法を適用した具体的な態様について説明する。なお、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法として、高温高圧下で浸出を行う高温加圧酸浸出法(HPAL法)による湿式製錬方法を例に挙げて説明する。
【0046】
<2−1.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の各工程について>
図4は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の流れの一例を示した工程図である。
図4に示すように、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、原料のニッケル酸化鉱石を解砕分級して鉱石スラリーを製造し(前処理工程S1)、鉱石スラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出処理を施し(浸出工程S2)、浸出スラリーから浸出残渣を分離してニッケル及びコバルトを含む浸出液を得る(固液分離工程S3)。さらに、浸出液のpHを調整して浸出液中の不純物元素を中和澱物スラリーとして分離し中和後液を得て(中和工程S4)、中和後液に硫化水素ガスを添加することでニッケル・コバルト混合硫化物とニッケル貧液とを得る(硫化工程S5)。また、固液分離工程S3で発生した浸出残渣と、硫化工程S5で発生したニッケル貧液は、無害化する(無害化工程S6)。
【0047】
(1)前処理工程
前処理工程S1では、例えば、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石を、所定の分級点で分級してオーバーサイズの鉱石粒子を除去した後に、アンダーサイズの鉱石粒子に水を添加して鉱石スラリーを調製する。ニッケル酸化鉱石の分級方法は、所望とする粒径に基づいて分級できれば特に限定されず、グリズリーや振動篩等を用いた篩分けによって行うことができる。また、その分級点についても、所望とする粒径値以下の鉱石粒子からなる鉱石スラリーを得るための分級点を適宜設定することができる。
【0048】
ニッケル酸化鉱石としては、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱が挙げられる。ラテライト鉱のニッケル含有量は、通常、0.8重量%〜2.5重量%であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含有される。また、鉄の含有量は、10重量%〜50重量%であり、主として3価の水酸化物(ゲーサイト)の形態であるが、一部2価の鉄がケイ苦土鉱物に含有される。また、このようなラテライト鉱の他に、ニッケル、コバルト、マンガン、銅等の有価金属を含有する酸化鉱石、例えば深海底に賦存するマンガン瘤等を用いることができる。
【0049】
(2)浸出工程
浸出工程S2では、オートクレーブ等の高温加圧反応槽を用い、前処理工程S1で調製された鉱石スラリーに硫酸を添加して、温度230℃〜270℃程度、圧力3〜5MPa程度の条件下で撹拌し、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを生成させる。
【0050】
浸出工程S2における浸出処理では、例えば下記式(i)〜(v)で表される浸出反応と高温熱加水分解反応が生じ、ニッケル、コバルト等の硫酸塩としての浸出と、浸出された硫酸鉄のヘマタイトとしての固定化が行われる。ただし、鉄イオンの固定化は完全には進行しないため、通常、得られる浸出スラリーの液部分には、ニッケル、コバルト等の他に2価と3価の鉄イオンが含まれる。なお、この浸出工程S2では、次工程の固液分離工程S3で生成されるヘマタイトを含む浸出残渣の濾過性の観点から、得られる浸出液のpHが0.1〜1.0にとなるように調整することが好ましい。
【0051】
・浸出反応
MO+H
2SO
4⇒MSO
4+H
2O ・・・(i)
(なお、式中Mは、Ni、Co、Fe、Zn、Cu、Mg、Cr、Mn等を表す)
2Fe(OH)
3+3H
2SO
4⇒Fe
2(SO
4)
3+6H
2O ・・・(ii)
FeO+H
2SO
4⇒FeSO
4+H
2O ・・・(iii)
・高温熱加水分解反応
2FeSO
4+H
2SO
4+1/2O
2⇒Fe
2(SO
4)
3+H
2O ・・・(iv)
Fe
2(SO
4)
3+3H
2O⇒Fe
2O
3+3H
2SO
4 ・・・(v)
【0052】
なお、鉱石スラリーを装入したオートクレーブへの硫酸の添加量としては、特に限定されないが、鉱石中の鉄が浸出されるような過剰量が用いられる。例えば、鉱石1トン当り300kg〜400kg程度とする。
【0053】
(3)固液分離工程
固液分離工程S3では、浸出スラリーを洗浄液と混合した後、シックナー等の固液分離装置を用いて固液分離処理を施し、ニッケルやコバルト等の有価金属を含む浸出液(粗硫酸ニッケル水溶液)と浸出残渣とに分離する。具体的には、先ず、浸出スラリーが洗浄液により希釈され、次に、浸出スラリー中の浸出残渣がシックナーの沈降物として濃縮される。これにより、浸出残渣に付着するニッケルやコバルトをその希釈度合に応じて減少させることができる。なお、実操業では、このような機能を持つシックナーを多段に連結して用いることにより、ニッケル及びコバルトの回収率の向上を図ることができる。
【0054】
(4)中和工程
中和工程S4では、分離された浸出液の酸化を抑制しながら、得られる中和後液のpHが4以下、好ましくは3.0〜3.5、より好ましくは3.1〜3.2になるように、その浸出液に炭酸カルシウム等の中和剤を添加し、ニッケル回収用の母液の元となる中和後液と、不純物元素として3価の鉄を含む中和澱物スラリーとを形成する。中和工程S4では、このように浸出液に対する中和処理(浄液処理)を施すことで、HPAL法による浸出処理で用いた過剰の酸を中和して中和終液を生成するとともに、溶液中に残留する3価の鉄イオンやアルミニウムイオン等の不純物を中和澱物として除去する。
【0055】
なお、中和後液は、上述したように、原料のニッケル酸化鉱石に対して硫酸による浸出処理(浸出工程S2)を施して得られた浸出液に基づく溶液であって、ニッケル及びコバルトを含む硫酸水溶液である。この中和後液は、後述する硫化工程S5における硫化反応の反応始液となるものであり、ニッケル濃度及びコバルト濃度の合計濃度は特に限定されないが、通常2g/L〜6g/Lの範囲である。ここで、ニッケル濃度は通常2g/L〜5g/Lの範囲であり、コバルト濃度は通常0.1g/L〜0.6g/Lの範囲である。また、この中和後液中には、ニッケルやコバルト以外に、微量に残存した鉄、マンガン、マグネシウム、アルミニウム、クロム、鉛等が含まれることがある。
【0056】
(5)硫化工程(ニッケル回収工程)
硫化工程S5では、ニッケル及びコバルトを含む硫酸水溶液である中和後液を硫化反応始液として、その硫化反応始液に対して硫化水素ガスを吹き込むことによって硫化反応を生じさせ、不純物成分の少ないニッケル及びコバルトの硫化物と、ニッケルやコバルトの濃度を低い水準で安定させた貧液(硫化後液)とを生成させる。
【0057】
硫化工程S5における硫化処理は、硫化反応槽等を用いて行うことができ、硫化反応槽に導入した硫化反応始液に対して、その反応槽内の気相部分に硫化水素ガスを吹き込み、溶液中に硫化水素ガスを溶解させることで硫化反応を生じさせる。この硫化処理により、硫化反応始液中に含まれるニッケル及びコバルトを硫化物として固定化して回収する。
【0058】
なお、硫化反応の終了後においては、得られたニッケル及びコバルトの硫化物を含むスラリーをシックナー等の沈降分離装置に装入して沈降分離処理を施し、その硫化物のみをシックナーの底部より分離回収する。一方で、水溶液成分は、シックナーの上部からオーバーフローさせて貧液として回収する。
【0059】
<2−2.硫化工程における硫化処理方法について>
ここで、硫化工程S5での処理、つまりニッケル及びコバルトを含む硫酸水溶液である中和終液からニッケル及びコバルトの硫化物を生成させる硫化処理においては、上述した硫化処理方法を適用することができる。
【0060】
すなわち、本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法では、その硫化工程S5において、硫酸水溶液に添加した硫化水素ガスのうちの未反応のガスを回収し、回収した硫化水素ガスに水酸化ナトリウムを添加して水硫化ナトリウムを生成させ、得られた水硫化ナトリウム水溶液を硫化剤の一部として硫酸水溶液に添加する。そして、その水硫化ナトリウム水溶液を添加するに際しては、水硫化ナトリウム水溶液を、反応槽に供給される硫酸水溶液の流量に対して0.17体積%以下となる流量で第2段目以降の反応容器に添加するようにし、得られた水硫化ナトリウム水溶液の残量を第1段目の反応容器に添加する。
【0061】
具体的な硫化処理の方法についての詳細は、上述した内容と同様であるため、ここでの説明は省略するが、本実施の形態においては、このようにして硫化剤として用いる化合物のうちの水硫化ナトリウム水溶液の各反応槽への添加量を制御することによって、硫化反応の反応効率を維持してニッケルの硫化物としての回収率を高めながら、得られる硫化物のクロム品位を低減させることができ、安定的な操業を実現することができる。
【実施例】
【0062】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0063】
実施例及び比較例で用いた金属の分析は、ICP発光分析法により行った。また、ニッケル回収率は、下記式により算出する。
ニッケル回収率=(反応始液体積×反応始液ニッケル濃度−反応終液体積×反応終液ニッケル濃度)÷(反応始液体積×反応始液ニッケル濃度)
【0064】
[実施例1]
直列に連結された4段の反応容器からなる反応槽を用いて、ニッケルを含む硫酸水溶液を反応始液とし、硫化剤として硫化水素ガスを吹き込んで硫化処理を行った。なお、直列に連結された4段の反応容器のうち、最上流側にある第1段目の反応容器に反応始液である硫酸水溶液を供給し、その第1段目の反応容器と、続く第2段目の反応容器とにおいて硫化反応を生じさせた。第3段目の反応容器及び第4段目の反応容器は、貯留槽として使用した。なお、第4段目の反応容器からは、硫化物と反応後液である貧液との反応後スラリーが得られる。
【0065】
具体的に、硫化反応始液(硫酸水溶液)としては、ニッケル濃度は3.7g/L〜4.0g/Lである水溶液を用い、第1段目の反応容器に対して反応始液の給液流量を400m
3/Hr〜450m
3/Hrとして供給した。また、硫化水素ガスの吹き込み流量は650Nm
3/Hr〜750Nm
3/Hrとして、その全量を第1段目の反応容器に吹き込んだ。
【0066】
一方、吹き込んだ硫化水素ガスのうちの未反応分である、反応容器内に残存したガスを回収し、回収した硫化水素ガスに水酸化ナトリウムを添加して水硫化ナトリウム水溶液を生成させた。水硫化ナトリウム水溶液の添加流量(生成量)は2.0m
3/Hr〜3.0m
3/Hrであり、この水硫化ナトリウム水溶液を第1段目の反応容器及び第2段目の反応容器に対して、下記表1に示す添加比率で添加した。
【0067】
具体的には、水硫化ナトリウム水溶液の第2段目の反応容器への添加流量を、反応始液流量の0.05体積%に調整し、残りの水硫化ナトリウム水溶液を第1段目の反応容器に添加した。
【0068】
その結果、硫化工程における処理全体でのニッケル回収率は98.3%、硫化物中のクロム品位は0.0087重量%となり、良好な結果が得られた。
【0069】
[実施例2]
実施例2では、水硫化ナトリウム水溶液の第2段目の反応容器への添加流量を、反応始液流量の0.15体積%に調整し、残りの水硫化ナトリウム水溶液を第1段目の反応容器に添加した。そのこと以外は、実施例1と同様にして処理した。
【0070】
その結果、硫化工程における処理全体でのニッケル回収率は98.6%、硫化物中のクロム品位は0.0095重量%となり、良好な結果が得られた。
【0071】
[実施例3]
実施例3では、水硫化ナトリウム水溶液を第2段目の反応容器へは添加せず、生成させた水硫化ナトリウム水溶液の全量を第1段目の反応容器に添加した。そのこと以外は、実施例1と同様にして処理した。
【0072】
その結果、硫化工程における処理全体でのニッケル回収率は98.2%、硫化物中のクロム品位は0.0079重量%となり、良好な結果が得られた。
【0073】
[比較例1]
比較例1では、水硫化ナトリウム水溶液の第2段目の反応容器への添加流量を、反応始液流量の0.21体積%に調整し、残りの水硫化ナトリウム水溶液を第1段目の反応容器に添加した。そのこと以外は、実施例1と同様にして処理した。
【0074】
その結果、硫化工程における処理全体でのニッケル回収率は98.8%となり要求を満たすものであったが、硫化物中のクロム品位が0.0100重量%となり、実施例に比して高い品位となった。
【0075】
[比較例2]
比較例2では、水硫化ナトリウム水溶液の第2段目の反応容器への添加流量を、反応始液流量の0.23体積%に調整し、残りの水硫化ナトリウム水溶液を第1段目の反応容器に添加した。そのこと以外は、実施例1と同様にして処理した。
【0076】
その結果、硫化工程における処理全体でのニッケル回収率は98.6%となり要求を満たすものであったが、硫化物中のクロム品位は0.0115重量%となり、実施例に比して高い品位となった。
【0077】
【表1】
【0078】
表1に示す結果のまとめから、第2段目以降の反応容器に添加する水硫化ナトリウム水溶液の添加比率を制御することで、得られる硫化物中のクロム品位を0.0100重量%未満に有効に低減できることが分かった。