(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書中において、「層」との語は、平面図として観察したときに、全面に形成されている形状の構造に加え、一部に形成されている形状の構造も包含される。本明細書中において、「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。本明細書中に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本明細書中において、組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。比重は温度によって変化するため、本明細書においては、20℃で換算した比重と定義する。
【0023】
以下、図面を参照して、本開示に係る鉛蓄電池の実施形態について詳細に説明する。なお、全図中、同一又は相当部分には同一符号を付すこととする。
【0024】
<鉛蓄電池>
本実施形態に係る鉛蓄電池は、正極集電体及び当該正極集電体に充填された正極材を有する正極板と、負極集電体及び当該負極集電体に充填された負極材を有する負極板と、硫酸を含む電解液と、を備える。かかる鉛蓄電池において、負極集電体は、当該負極集電体の上部周縁部に設けられた負極耳部を有し、負極耳部は、Snを含む表面層を有し、正極材の質量と負極材の質量の合計(電極材の質量)M1に対する電解液の質量M2の比率(M2/M1)は0.7以上である。なお、本実施形態における正極材及び負極材は、それぞれ化成後(例えば満充電状態)の正極材及び負極材を意味し、正極材の質量と負極材の質量の合計(電極材の質量)M1に対する電解液の質量M2の比率(M2/M1)は、化成後の正極材の質量と化成後の負極材の質量の合計に対する化成後の電解液の質量を意味する。未化成の段階においては、正極材に相当する材料は、化成によって正極材となる物質を含有しており、負極材に相当する材料は、化成によって負極材となる物質を含有している。
【0025】
図1は本実施形態に係る鉛蓄電池(液式鉛蓄電池)の斜視図であり、
図2は鉛蓄電池1の内部構造を示す図である。これらの図に示すとおり、鉛蓄電池1は、上面が開口して複数の極板群11が格納される電槽2と、電槽2の開口を閉じる蓋3とを備えている。蓋3は、例えば、ポリプロピレン製となっており、正極端子4と、負極端子5と、蓋3に設けられた注液口を閉塞する液口栓6とを備えている。電槽2には、電解液(不図示)が収容されている。
【0026】
なお、
図1に示す鉛蓄電池は液式鉛蓄電池であるが、本開示に係る鉛蓄電池の形式は、特に限定されず、種々の形式であってよい。例えば、制御弁式鉛蓄電池、密閉式鉛蓄電池等であってもよい。製造コスト等の観点から、液式鉛蓄電池が好ましい。
【0027】
(極板群)
図3は極板群を示す斜視図である。
図2及び
図3に示すように、極板群11は、例えば、正極板12と、負極板13と、セパレータ14と、正極側ストラップ15と、負極側ストラップ16と、セル間接続部17又は極柱18とを備えている。正極板12及び負極板13は、セパレータ14を介して交互に積層されることにより極板群11を構成している。
図2及び
図3に示すセパレータ14は袋状であり、負極板13が袋状のセパレータ内に配置されている。また、セパレータ14は、その一方面上に、長手方向に延びるように複数(多数本)形成された凸状のリブを複数有している。なお、セパレータ14は袋状でなくてもよく、リブを有していなくてもよい。
【0028】
極板群11における正極板12及び負極板13の枚数は、例えば、正極板7枚に対し負極板8枚であってよく、正極板8枚に対し負極板8枚であってよく、正極板8枚に対し負極板9枚であってよい。正極板及び負極板の枚数が増えるほど、サイクル寿命性能が更に向上する傾向がある。
【0029】
[電極板]
図4は、電極板(正極板12又は負極板13)を示す正面図である。
図5は、
図4のV−V線における断面図であり、
図5(a)は正極板12の断面を図示したものであり、
図5(b)は負極板13の断面を図示したものである。
図6は、集電体(正極集電体又は負極集電体)を示す正面図である。
図4及び
図6において、カッコ書きした符号は負極板の構成を示している。
【0030】
図4、
図5(a)及び
図6に示すように、正極板12は、正極集電体21と、正極集電体21に充填された正極材23とを有する。正極材23は正極材充填部24を構成している。正極板12のうち、正極材23が充填された部分が正極材充填部24(
図4において砂地状にハッチングした部分)となる。なお、正極材充填部24は、正極板12の表裏面に形成される。通常、正極集電体21の全面に正極材23が充填されるが、必ずしも正極集電体21の全面に正極材23が充填される必要はなく、正極集電体21の一部に正極材23が充填されない部分があってもよい。この場合、正極集電体21のうち正極材23が充填された部分のみが正極材充填部24となり、正極集電体21のうち正極材23が充填されていない部分は正極材充填部24から除外される。
【0031】
正極集電体21は、正極材支持部21aと、正極材支持部21aの上側に帯状に形成された上側フレーム部(上部周縁部)21bと、上側フレーム部21bに設けられた正極集電部(正極耳部)22とを備える。正極耳部22は、例えば、上側フレーム部21bから部分的に上方に突出するように設けられている。正極材支持部21aの外形は例えば矩形(長方形又は正方形)であり、格子状に形成されている。正極材支持部21aは、
図6(b)に示すように、下方の隅部が切り落とされた形状であってもよい。正極集電体21は正極材23からの電流の導電路を構成するものである。
【0032】
正極集電体21の幅W2は、例えば10.0〜16.0cmである。正極集電体21の高さH2は、例えば10.0〜12.0cmである。正極集電体21の厚さ(例えば正極耳部の厚さ)は、例えば0.6〜1.1mmである。なお、正極材支持部21aが、下方の隅部が切り落とされた形状である場合、下方の隅部が存在するものとしてW2及びH2を算出する(
図6(b)参照)。
【0033】
正極集電体21の組成としては、例えば、鉛−カルシウム−錫合金、鉛−カルシウム合金及び鉛−アンチモン合金が挙げられる。これらの鉛合金を重力鋳造法、エキスパンド法、打ち抜き法等で格子状に形成することにより正極集電体21を得ることができる。なお、
図6に示す正極集電体21は、エキスパンド格子体である。
【0034】
図4、
図5(b)及び
図6に示すように、負極板13は、負極集電体31と、負極集電体31に充填された負極材33とを有する。負極材33は負極材充填部34を構成している。正極板12と同様、負極板13のうち、負極材33が充填された部分が負極材充填部34となる。負極材充填部34の詳細は正極材充填部24と同様である。
【0035】
負極集電体31は、負極材支持部31aと、負極材支持部31aの上側に帯状に形成された上側フレーム部(上部周縁部)31bと、上側フレーム部31bに設けられた負極集電部(負極耳部)32とを備える。負極耳部32は、例えば、上側フレーム部31bから部分的に上方に突出するように設けられている。負極材支持部31aの外形は例えば矩形(長方形又は正方形)であり、格子状に形成されている。負極材支持部31aは、
図6(b)に示すように、下方の隅部が切り落とされた形状であってもよい。負極集電体31は負極材33への電流の導電路を構成するものである。
【0036】
負極耳部32はSnを含む表面層32aを有する。すなわち、負極耳部32の表面はSnを含む表面層32aによって構成されている。負極耳部32の表面の少なくとも一部が実質的にSn(スズ)を含むことで、負極耳部32の劣化(耳痩せ現象)が充分に抑制され、これにより優れたサイクル寿命性能を達成できる。すなわち、負極耳部32の表面の少なくとも一部がSnを含む負極板13は、PSOC下で突然寿命に至りにくい、長寿命な鉛蓄電池の提供に有用である。表面層32aは、Sn以外にPbを主要に含んでいてもよい。
【0037】
Snの含有量は、負極耳部32の劣化(耳痩せ)が抑制され、サイクル寿命性能に更に優れる観点から、表面層32aの全質量を基準として、例えば、4質量部以上であり、9質量部以上、30質量部以上又は50質量部以上であってもよい。サイクル寿命性能に特に優れる観点及び製造上の観点からは、100質量部であってもよい。なお、Snの含有量が100質量部である場合、すなわち、表面層32aがSnからなる場合は、Snの他に不可避的な不純物を含んでいてもよい。このような不純物としては、例えば、Ag、Al、As、Bi、Ca、Cd、Cu、Fe、Ni、Sb、Zn等が挙げられる。
【0038】
負極耳部32にSnを含む表面層32aを設けたことで負極耳部32の劣化(耳痩せ現象)又は破断が抑制される理由は必ずしも明らかではないが、これについて本発明者らは以下のとおり推察している。まず、完全な充電が行われず充電が不足した状態(PSOC状態)で鉛蓄電池が使用される場合には、電池内の電極板における上部と下部との間で、電解液である希硫酸の濃淡差が生じる成層化現象が起こる。これは完全な充電が行われなる場合に電極板から発生する気泡がPSOC状態では発生しないため、電解液の撹拌が不充分になるからである。この場合、電極下部の希硫酸の濃度が高くなりサルフェーションが発生する。サルフェーションは、放電生成物である硫酸鉛が充電状態に戻りにくい現象である。そのため、サルフェーションが発生すると、電極上部のみが集中的に反応するようになる。その結果、電極上部において、活物質間の結びつきが弱くなる等の劣化が進み、耳部においても充放電反応が進行し、耳部が硫酸鉛化すると推察される。上記のようなメカニズムにより、耳部においても、硫酸鉛の溶解と析出が繰り返されることによって、耳痩せ又は破断が生じると考えられる。負極耳部32にSnを含む表面層32aを設けることで、表面層32aの電位を硫酸鉛の溶解と析出を繰り返す電位よりも高い状態に維持しやすく、これにより、負極耳部32の劣化(耳痩せ又は破断)が抑制されると推察される。
【0039】
なお、負極耳部32の全体が表面層32aで覆われていることが好ましいが、負極耳部32には、表面層32aが設けられていない箇所が存在していてもよい。例えば、表面層32aは、負極耳部32においてその一方の主面にのみ設けられていてもよい。負極集電体31における負極耳部32以外の箇所(例えば上側フレーム部31b)の劣化も抑制すべき場合には当該箇所の表面にもSnを含む表面層を設ければよい。
【0040】
負極集電体31の表面層32a以外の組成は、正極集電体21と同様であってよい。負極集電体31は、例えば表面層32aを形成すること以外は、正極集電体21と同様の方法により作製することができる。負極集電体31を作製する方法は、例えば、正極集電体21と同様の方法により集電体を作製する工程と、その後に所定の箇所に表面層32aを形成する工程とを含んでもよく、あるいは、予め表面層32aが形成された合金板を準備する工程と、この合金板を加工することによって集電体を得る工程とを含んでもよい。
【0041】
表面層32aを形成する方法としては、例えば、圧延法、溶融メッキ法等が挙げられる。圧延法とは、表面層32aが形成される材料(例えば、金属板、合金板等)と、表面層32aを形成する材料(例えばSnを含むシート)とを重ね合わせて、これらを圧延する方法である。一方、溶融メッキ法とは、表面層32aを形成する材料(Snを含む材料)が溶融した溶融槽に、表面層32aを形成すべき箇所を浸漬させてメッキする方法である。本実施形態では、これらの方法のうち、圧延法が好ましい。
【0042】
圧延法により表面層32aを形成する方法は、例えば、以下のような方法であってもよい。まず、板状の鉛合金(基材)の両面に、表面層32aを形成するためのSnシートを重ね合わせた後、これを圧延ローラで圧延して圧延シートを作製する(圧延シートを作製する工程)。次に、負極集電体31の負極耳部32となる領域に表面層32aが形成されるように圧延シートの位置を調整しながら、圧延シートをエキスパンド機により展開する(エキスパンド法)。これにより、表面層32aを有する負極集電体31が得られる。なお、この圧延法においては、基材となる合金の厚さ、表面層32aとなるシートの厚さ、及び/又は圧延後のシートの厚さを調整することによって、表面層32aの厚さを容易に調節可能である。表面層32aの厚さdは、サイクル寿命性能に更に優れる観点から、例えば、10μmよりも大きいことが好ましい。圧延後の表面層32aの厚さdは、製造上の観点及び製造コストを低減する観点から、60μm未満であることが好ましい。これらの観点から、圧延後の表面層32aの厚さdは、10μmより大きく60μm未満であることが好ましい。
【0043】
負極耳部32の厚さDは、負極耳部32が破断しにくくなり、サイクル寿命性能に更に優れる観点から、0.7mm以上であることが好ましく、0.8mm以上、0.85mm以上、0.90mm以上、0.95mm以上、又は1.0mm以上であってもよい。負極耳部32の厚さDは、鉛蓄電池を軽量化する観点、製造コストを低減する観点、及びキャストオンストラップ時の湯周りが良くなり製品不良率を低減できる観点から、例えば、1.1mm以下であることが好ましい。これらの観点から、負極耳部32の厚さDは、0.7〜1.1mmであることが好ましく、0.8〜1.1mm、0.85〜1.1mm、0.90〜1.1mm、0.95〜1.1mm、又は1.0〜1.1mmであってもよい。なお、負極耳部32の厚さDとは、表面層32aの厚さdを含めた負極耳部32の厚さを測定した際の厚さである。
【0044】
負極集電体31の幅W2及び高さH2は、正極集電体21と同様であってよく、同様でなくてもよい。なお、負極材支持部31aが、下方の隅部が切り落とされた形状である場合、下方の隅部が存在するものとしてW2及びH2を算出する(
図6(b)参照)。
【0045】
(電極材及び電解液)
[正極材]
正極材23は、例えば、正極活物質を含有している。正極材23は、例えば、化成によって正極活物質となる物質(正極活物質の原料)を含む正極材ペーストを熟成及び乾燥し、これを化成することによって得られる。正極活物質としては、β−二酸化鉛(β−PbO
2)及びα−二酸化鉛(α−PbO
2)が挙げられる。これらのうち、一方が正極材23に含まれていてもよいし、両方が正極材23に含まれていてもよい。正極活物質の原料としては、特に制限はなく、例えば鉛粉が挙げられる。鉛粉としては、例えば、ボールミル式鉛粉製造機又はバートンポット式鉛粉製造機によって製造される鉛粉(ボールミル式鉛粉製造機においては、主成分PbOの粉体と鱗片状金属鉛の混合物)が挙げられる。正極活物質の原料として鉛丹(Pb
3O
4)を用いてもよい。正極材ペーストは、例えば、三塩基性硫酸鉛(正極活物質の原料)を主成分として含有する。
【0046】
低温高率放電性能及び充電受入性に優れる観点、及び、サイクル寿命性能に更に優れる観点から、正極活物質の含有量(正極材23の全質量基準)は、例えば95質量%以上であり、97質量%以上又は99質量%以上であってもよい。正極活物質の含有量の上限は例えば100質量%であってよい。つまり、正極材23が実質的に正極活物質からなるものであってもよい。なお、ここでいう正極活物質の含有量とは、正極材23(化成されたもの)に含まれる正極活物質(化成されたもの)の量を意味する。
【0047】
正極材23は、添加剤を更に含有していてもよい。添加剤としては、炭素質材料(炭素質導電材)、補強用短繊維等が挙げられる。炭素質材料としては、カーボンブラック、黒鉛等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック(ケッチェンブラック等)、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラックなどが挙げられる。補強用短繊維としては、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、炭素繊維等が挙げられる。なお、ここで補強用短繊維として挙げた炭素繊維は、炭素質材料(炭素質導電材)として正極材に添加してもよい。
【0048】
[負極材]
負極材33は、例えば、負極活物質を含有している。負極材33は、例えば、化成によって負極活物質となる物質(負極活物質の原料)を含む負極材ペーストを熟成及び乾燥し、これを化成することによって得られる。負極活物質としては、海綿状鉛(Spongylead)等が挙げられる。海綿状鉛は、電解液中の硫酸と反応して、次第に硫酸鉛(PbSO
4)に変わる傾向がある。負極活物質の原料としては、鉛粉等が挙げられる。鉛粉としては、例えば、ボールミル式鉛粉製造機又はバートンポット式鉛粉製造機によって製造される鉛粉(ボールミル式鉛粉製造機においては、主成分PbOの粉体と鱗片状金属鉛の混合物)が挙げられる。負極材ペーストは、例えば、塩基性硫酸鉛及び金属鉛、並びに、低級酸化物から構成される。
【0049】
低温高率放電性能及び充電受入性に優れる観点、及び、サイクル寿命性能に更に優れる観点から、負極活物質の含有量(負極材33の全質量基準)は、例えば93質量%以上であり、95質量%以上又は98質量%以上であってもよい。負極活物質の含有量の上限は例えば100質量%であってよい。つまり、負極材33が実質的に負極活物質からなるものであってもよい。なお、ここでいう負極活物質の含有量とは、負極材33(化成されたもの)に含まれる負極活物質(化成されたもの)の量を意味する。
【0050】
負極材33は、添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、スルホン基及びスルホン酸塩基からなる群より選択される少なくとも一種の樹脂(スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂)、及び、その他の添加剤が挙げられる。
【0051】
スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂としては、スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有するビスフェノール系樹脂(以下、単に「ビスフェノール系樹脂」という)、リグニンスルホン酸、リグニンスルホン酸塩等が挙げられる。スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂は、充電受入性が向上する観点から、ビスフェノール系樹脂であってよい。負極材33がビスフェノール系樹脂を含有することにより、充電受入性に優れる。さらに、本実施形態に係る鉛蓄電池1は、負極材33がビスフェノール系樹脂を含有することにより、サイクル寿命性能に更に優れる。
【0052】
負極材は、その他の添加剤を含んでいてもよい。その他の添加剤としては、例えば、硫酸バリウム、炭素質材料(炭素質導電材)、補強用短繊維等が挙げられる。なお、補強用短繊維の一例として炭素繊維が挙げられるが、これを炭素質材料(炭素質導電材)として負極材に添加してもよい。
【0053】
炭素質導電材は、好ましくは、黒鉛、カーボンブラック、活性炭、炭素繊維及びカーボンナノチューブからなる材料群の中から選択される。炭素質導電材の含有量は、満充電状態の負極活物質(海綿状金属鉛)100質量部に対し0.1〜3質量部の範囲とするのが好ましい。好ましくは、黒鉛を選択し、更に好ましくは、鱗片状黒鉛を選択する。鱗片状黒鉛の平均一次粒子径は、好ましくは、100μm以上とする。
【0054】
補強用短繊維は、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、炭素繊維等が挙げられる。
【0055】
[電解液]
電解液は、硫酸を含有する。電解液は、過放電時の短絡を抑制できる観点及び減液性能に更に優れる観点から、アルミニウムイオンを更に含有することが好ましい。
【0056】
硫酸及びアルミニウムイオンを含有する電解液は、例えば、硫酸及び硫酸アルミニウム(例えば、硫酸アルミニウム粉末)を混合することにより得ることができる。電解液中に溶解させる硫酸アルミニウムは、無水物又は水和物として添加することができる。
【0057】
化成後の電解液(例えば、アルミニウムイオンを含む電解液)の比重は、低温高率放電性能に優れる観点から、例えば、1.26より大きいことが好ましく、1.265以上又は1.27以上であってもよい。化成後の電解液の比重は、充電受入性に優れる観点から、1.29未満が好ましく、1.285以下又は1.28以下であってもよい。これらの観点から、化成後の電解液の比重は、1.26より大きく1.29未満が好ましく、1.265〜1.285又は1.26〜1.28であってもよい。電解液の比重の値は、例えば、浮式比重計、又は、京都電子工業株式会社製のデジタル比重計によって測定することができる。
【0058】
電解液のアルミニウムイオン濃度は、充電受入性が向上する観点、減液性能に更に優れる観点及びサイクル寿命性能に更に優れる観点から、0.01mol/L以上が好ましく、0.02mol/L以上がより好ましく、0.03mol/L以上が更に好ましい。電解液のアルミニウムイオン濃度は、充電受入性が向上する観点及びサイクル寿命性能に更に優れる観点から、0.2mol/L以下が好ましく、0.15mol/L以下がより好ましく、0.13mol/L以下が更に好ましい。これらの観点から、電解液のアルミニウムイオン濃度は、0.01〜0.2mol/Lが好ましく、0.02〜0.15mol/Lがより好ましく、0.03〜0.13mol/Lが更に好ましい。電解液のアルミニウムイオン濃度は、例えば、ICP発光分光分析法(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法)により測定することができる。
【0059】
電解液のアルミニウムイオン濃度が前記所定範囲であることにより充電受入性が向上するメカニズムの詳細については明らかではないが、任意の低SOC下において、放電生成物である結晶性硫酸鉛の電解液中への溶解度が上がるため、又は、アルミニウムイオンの高いイオン伝導性により電解液の電極活物質内部への拡散性が向上するためと考えられる。
【0060】
電解液のアルミニウムイオン濃度が所定範囲であることにより減液性能に優れるメカニズムの詳細については明らかではないが、これについて本発明者らは以下のとおり推察する。大電流充電が繰り返されることによって電解液中の水の電気分解が起こると、負極近傍に存在する水素イオンに起因して水素ガスが発生し、当該水素ガスが電池外に排出されるため、電解液中の水が減少しやすい。一方、アルミニウムイオン濃度が所定範囲であると、充電時に、水素イオンだけでなく、アルミニウムイオンも負極近傍に移動してくる。このアルミニウムイオンの影響により、負極近傍に存在する水素イオンの数が減少するため、反応電位が下がり、水素発生過電圧が大きくなる。このような理由により、アルミニウムイオン濃度が所定範囲であると、減液性能に優れる(電解液の減液を抑制することができる)と推察される。
【0061】
また、電解液のアルミニウムイオン濃度が前記所定範囲であることによりサイクル寿命性能が向上するメカニズムについては、以下のように推測される。まず、アルミニウムイオンを含まない通常の電解液を用いた場合、充電時に電解液に供給される硫酸イオン(例えば硫酸鉛から生成する硫酸イオン)は、電極(極板等)の表面を伝って下方へと移動する。PSOC下では、電池が満充電になることがなく、ガス発生による電解液の撹拌が行われないため、上述の成層化現象が起こる。すなわち、電池下部での電解液比重が高くなるのに対し電池上部の電解液比重が低くなり、電解液濃度の不均一化が生じる。このような現象が起こると、充電しても元に戻り難い結晶性硫酸鉛が生成するとともに、活物質の反応面積が低下する。これにより、充放電が繰り返される寿命試験において性能の劣化が起こる。一方、電解液のアルミニウムイオン濃度が前記所定範囲であると、アルミニウムイオンの静電的引力により硫酸イオンが強く引き付けられるため、成層化が発現しにくくなると考える。
【0062】
[電極材の質量M1に対する電解液の質量M2の比率(M2/M1)]
電極材の質量M1に対する電解液の質量M2の比率(M2/M1)は0.7以上である。比率(M2/M1)は、サイクル寿命性能に更に優れる観点から0.8以上が好ましく、0.9以上がより好ましい。比率(M2/M1)は充電受入性に優れる観点から1.0未満が好ましい。これらの観点から、比率(M2/M1)は0.7以上1.0未満が好ましく、0.8以上1.0未満がより好ましく、0.9以上1.0未満が更に好ましい。比率(M2/M1)は、例えば、電極板の枚数、電極材の充填量、電解液の比重、電解液の注入量等によって調整することができる。
【0063】
電極材の質量M1は、化成後(例えば満充電状態)の鉛蓄電池における電極材の質量であり、鉛蓄電池が備えるすべての極板群における正極材の質量と負極材の質量の合計である。電極材の質量M1は、例えば、以下の方法により測定することができる。まず、化成後の鉛蓄電池からすべての極板群を取り出し、各極板群から化成後の正極板及び負極板を一枚毎に分離させる。次いで、正極板及び負極板を水洗した後乾燥させる。なお、正極板は空気雰囲気において乾燥させ、負極板は窒素雰囲気において乾燥させる。乾燥後、すべての正極板の質量及びすべての負極板の質量を測定し、これらの合計をM1aとする。次いで、乾燥後の正極板及び負極板から電極材(正極材及び負極材)を取り除いた後、水洗いし、乾燥させる。乾燥後、得られたすべての集電体(正極集電体及び負極集電体)の質量を測定し、これらの合計をM1bとする。M1aからM1bを引いた値が電極材の質量M1となる。
【0064】
電解液の質量M2は、化成後(例えば満充電状態)の鉛蓄電池における電解液の質量である。電解液の質量M2は、例えば、以下の方法により測定することができる。まず、化成後の鉛蓄電池の質量を測定し、この測定値をM2aとする。次いで、鉛蓄電池から電解液を排出した後、電槽からすべての極板群を取り出し、各極板群から正極板、負極板及びセパレータを分離させる。次いで、すべての正極板、負極板、セパレータ及び電槽を水洗いし、乾燥させる。なお、正極板、セパレータ及び電槽は空気雰囲気において乾燥させ、負極板は窒素雰囲気において乾燥させる。乾燥後、正極板、負極板及びセパレータを電槽に戻し、この電池の質量(化成後の鉛蓄電池から電解液を取り除いた後の質量)を測定する。この測定値をM2bとする。M2aからM2bを引いた値が電解液の質量M2となる。
【0065】
電極材の質量M1に占める正極材の質量p1の割合及び電極材の質量M1に占める負極材の質量n1の割合は特に限定されない。負極材33の質量n1に対する正極材23の質量p1の比率(p1/n1)は、サイクル寿命性能に更に優れる観点から、例えば、1.15以上であり、1.20以上、1.25以上、1.35以上、又は1.40以上であってもよい。比率(p1/n1)は、充分な電池容量が得られやすい観点及び実用上の観点から、例えば、1.60以下であり、1.45以下であってもよい。これらの観点から、比率(p1/n1)は、例えば、1.15〜1.60であり、1.20〜1.60、1.25〜1.60、1.35〜1.60、1.40〜1.60、1.15〜1.45であり、1.20〜1.45、1.25〜1.45、1.35〜1.45又は1.40〜1.45であってもよい。なお、ここでいう正極材23の質量p1及び負極材33の質量n1は、化成後の正極材23の質量及び化成後の負極材33の質量をそれぞれ意味する。
【0066】
質量比p1/n1を上記範囲とすることで一層優れたサイクル寿命性能を達成できる要因は定かではないが、これについて本発明者らは以下のとおり推察する。すなわち、質量比p1/n1が上記範囲であると、負極活物質が十分に還元され易くなるため、鉛蓄電池の充電状態(SOC)が比較的高い範囲を推移しやすくなる。その結果、負極耳部32が硫酸鉛化しにくくなる。これが一層優れたISSサイクル特性を達成できる一因であると推察される。
【0067】
電極材の質量M1に占める電極活物質の質量(正極活物質の質量と負極活物質の質量の合計)の割合は、例えば、95%以上であり、97%以上又は99%以上であってもよい。当該割合の上限は例えば100%であってよい。
【0068】
<鉛蓄電池の製造>
本実施形態に係る鉛蓄電池1の製造方法は、例えば、電極板(正極板12及び負極板13)を得る電極板製造工程と、電極板を含む構成部材を組み立てて鉛蓄電池1を得る組み立て工程とを備える。
【0069】
電極板製造工程では、例えば、電極材ペースト(正極材ペースト及び負極材ペースト)を集電体(例えば、鋳造格子体、エキスパンド格子体等の集電体格子)に充填した後に、熟成及び乾燥を行うことにより未化成の電極板(未化成の正極板及び未化成の負極板)を得る。正極材ペーストは、例えば、正極活物質の原料(鉛粉等)を含有しており、他の添加剤を更に含有していてもよい。負極材ペーストは、例えば、負極活物質の原料(鉛粉等)、及びスルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂(ビスフェノール系樹脂等)を含有しており、他の添加剤を更に含有していてもよい。
【0070】
組み立て工程では、例えば、上記のように作製した未化成の負極板及び未化成の正極板を、セパレータを介して交互に積層し、同極性の電極の集電部(耳部)をストラップに連結(溶接等)させて極板群を得る。この極板群を電槽内に配置して未化成の電池を作製する。次に、未化成の電池に電解液(例えば希硫酸)を注液した後、直流電流を通電して電槽化成を行うことにより鉛蓄電池1が得られる。通常は、通電のみで所定比重の鉛蓄電池が得られるが、通電時間の短縮を目的として、化成後に希硫酸を一度抜いた後、電解液を注液してもよい。
【0071】
化成条件及び硫酸の比重は電極活物質の性状に応じて調整することができる。また、化成処理は、組み立て工程後に実施されることに限られず、電極製造工程における熟成及び乾燥後に実施されてもよい(タンク化成)。
【0072】
以上、本開示に係る鉛蓄電池の実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0073】
次に、本開示の実施例について説明する。但し、本開示は次の実施例に限定されるものではない。
【0074】
(実施例1)
<鉛蓄電池の作製>
[正極板の作製]
正極集電体として、板状の鉛−カルシウム−錫合金(カルシウム含有量:0.05質量%、錫含有量0.5質量%)に切れ目を入れ、この切れ目を拡開するように引き伸ばして作製したエキスパンド格子体を用意した。ボールミル法によって作製した鉛粉に、補強用短繊維としてアクリル繊維0.07質量%と、硫酸ナトリウム0.01質量%とを加えて乾式混合し、鉛粉を含む混合物を得た。アクリル繊維及び硫酸ナトリウムそれぞれの配合量は、鉛粉の全質量を基準とした配合量である。次に、前記鉛粉を含む混合物に対して、水10質量%と、希硫酸(比重1.28)9質量%とを加えて混練して正極材ペーストを作製した(水及び希硫酸それぞれの配合量は、鉛粉の全質量を基準とした配合量である。)。正極材ペーストの作製に際しては、急激な温度上昇を避けるため、希硫酸の添加は段階的に行った。続いて、作製した正極材ペーストを、上記正極集電体に充填し、正極材ペーストが充填された集電体を温度50℃、湿度98%の雰囲気で24時間熟成した。これにより、正極集電体に未化成の正極材が充填された未化成の正極板を得た。
【0075】
[負極集電体の作製]
負極集電体を下記の手順で作製した。まず、基材として、厚さが12mmであり、板状の鉛−カルシウム−錫合金(カルシウム含有量:0.05質量%、錫含有量:0.5質量%)を用意し、表面層を形成するための金属シートとして、厚さが0.2mmである錫(Sn)シートを用意した。錫−カルシウム−錫合金の両面に、負極集電体の耳部の位置にSnからなる表面層が備えられるように錫シートを重ね合わせ、圧延ローラで圧延することにより、厚さが0.8mmの圧延シートを作製した。圧延シートに形成された表面層となる層(Snからなる表面層)の厚さは約13μmであった。
【0076】
負極集電体の耳部の位置にSnからなる表面層が備えられるように圧延シートの位置を調整しながら、圧延シートをレシプロ式エキスパンド機により展開した。これにより、耳部の表面にSnからなる表面層(厚さ:13μm)が形成された負極集電体(負極耳部の厚さD:0.8mm)を作製した。
【0077】
[負極板の作製]
負極活物質の原料として鉛粉を用いた。ビスフェノール系樹脂を0.2質量%(固形分換算、日本製紙(株)製、商品名:ビスパーズP215)、補強用短繊維(アクリル繊維)を0.1質量%、硫酸バリウムを1.0質量%、及び、炭素質導電材(ファーネスブラック)を0.2質量%含む混合物を前記鉛粉に添加した後に乾式混合した(前記配合量は、負極活物質の原料の全質量を基準とした配合量である)。次に、水10質量%(負極活物質の原料の全質量を基準とした配合量である)を加えた後に混練した。続いて、比重1.280の希硫酸9.5質量%(負極活物質の原料の全質量を基準とした配合量である)を少量ずつ添加しながら混練して、負極材ペーストを作製した。続いて、前記の方法で作製した負極集電体にこの負極材ペーストを充填した。次いで、負極材ペーストが充填された集電体を温度50℃、湿度98%の雰囲気で24時間熟成した。その後、乾燥して未化成の負極板を得た。
【0078】
[電池の組み立て]
表面にリブを有するポリエチレン製のセパレータを、リブを有する面が外側となるように袋状に加工し、得られた袋状のセパレータに未化成の負極板を挿入した。次に、未化成の正極板7枚と、袋状のセパレータに収容された未化成の負極板8枚とを、セパレータのリブが未化成の正極板に接するようにして交互に積層した。次に、未化成の正極板の集電部(正極耳部)及び未化成の負極板の集電部(負極耳部)をキャストオンストラップ方式により極性毎に正極側ストラップ及び負極側ストラップに集合溶接して、極板群を得た。
【0079】
6つのセル室を有する電槽を用意し、6つのセル室にそれぞれ極板群を挿入した。次いで、極板群をセル間接続した後、電槽に蓋を熱溶着した。その後、各液口栓を開栓して蓋に設けられた各注液口から各セルに電解液として希硫酸を注液した。次いで、周囲温度40℃、電流25Aで20時間通電することにより電槽化成を行い、JISD5301規定の85D23形電池(鉛蓄電池)を作製した。化成後の電解液の比重は1.28に調整した。化成後の正極活物質の含有量(正極材の全質量基準)は、99.9質量%であり、化成後の負極活物質の含有量(負極材の全質量基準)は、98.4質量%であった。
【0080】
[電極材の質量M1に対する電解液の質量M2の比率の算出]
化成後の鉛蓄電池の質量を測定し、この測定値をM2aとした。次いで、鉛蓄電池から電解液を排出した後、電槽からすべての極板群を取り出し、各極板群から正極板、負極板及びセパレータを分離させた。すべての正極板、負極板及びセパレータを水洗いし、乾燥させた。なお、正極板及びセパレータは空気雰囲気において乾燥させ、負極板は窒素雰囲気において乾燥させた。同様に電槽を水洗いし、乾燥させた。乾燥後のすべての正極板の質量及び負極板の質量を測定し、これらの測定値の合計をM1aとした。乾燥後の正極板、負極板及びセパレータを乾燥後の電槽に戻し、この電池の質量(化成後の鉛蓄電池から電解液を取り除いた後の質量)を測定した。この測定値をM2bとした。次いで、乾燥後の正極板及び負極板から電極材(正極材及び負極材)を取り除いた後、水洗いし、乾燥させた。乾燥後、得られた集電体(正極集電体及び負極集電体)の質量を測定し、これらの測定値の合計をM1bとした。M1aからM1bを引くことにより電極材の質量M1を求め、M2aからM2bを引くことにより電解液の質量M2を求めた。すなわち、電極材の質量M1に対する電解液の質量M2の比率(M2/M1)は0.7であった。
【0081】
(実施例2〜4)
正極材の充填量及び負極材の充填量を調整することによりM2/M1を表1に示す値としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜4の鉛蓄電池を得た。実施例2〜4の鉛蓄電池における化成後の正極活物質の含有量(正極材の全質量基準)及び化成後の負極活物質の含有量(負極材の全質量基準)は実施例1と同一であった。
【0082】
(実施例5〜9)
負極集電体の作製の際に、負極耳部の厚さD(圧延シートの厚さ)及び表面層の厚さdが表1に示す値となるように圧延を行ったこと以外は実施例1と同様にして、実施例5〜9の鉛蓄電池を得た。なお、鉛−カルシウム−錫合金及び金属シートは、実施例1で用いた鉛−カルシウム−錫合金及び金属シートを用いた。実施例5〜9の鉛蓄電池における化成後の正極活物質の含有量(正極材の全質量基準)及び化成後の負極活物質の含有量(負極材の全質量基準)は実施例1と同一であった。
【0083】
(実施例10)
正極材の充填量及び負極材の充填量を調整することによりM2/M1を表1に示す値としたこと、及び、負極集電体の作製の際に、負極耳部の厚さD(圧延シートの厚さ)及び表面層の厚さdが表1に示す値となるように圧延を行ったこと以外は実施例1と同様にして、実施例10の鉛蓄電池を得た。なお、鉛−カルシウム−錫合金及び金属シートは、実施例1で用いた鉛−カルシウム−錫合金及び金属シートを用いた。実施例10の鉛蓄電池における化成後の正極活物質の含有量(正極材の全質量基準)及び化成後の負極活物質の含有量(負極材の全質量基準)は実施例1と同一であった。
【0084】
(比較例1)
負極集電体として、鉛−カルシウム−錫合金(カルシウム含有量:0.05質量%、錫含有量:0.5質量%)からなる圧延シートにエキスパンド加工を施すことにより作製されたエキスパンド格子体(負極耳部の厚さ:0.8mm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の鉛蓄電池を得た。比較例1の鉛蓄電池における化成後の正極活物質の含有量(正極材の全質量基準)及び化成後の負極活物質の含有量(負極材の全質量基準)は実施例1と同一であった。
【0085】
(比較例2及び3)
正極材の充填量及び負極材の充填量を調整することによりM2/M1を表1に示す値としたこと以外は、比較例1と同様にして、比較例2及び3の鉛蓄電池を得た。比較例2及び3の鉛蓄電池における化成後の正極活物質の含有量(正極材の全質量基準)及び化成後の負極活物質の含有量(負極材の全質量基準)は実施例1と同一であった。
【0086】
(比較例4)
負極集電体として、鉛−カルシウム−錫合金(カルシウム含有量:0.05質量%、錫含有量:0.5質量%)からなる圧延シートにエキスパンド加工を施すことにより作製されたエキスパンド格子体(負極耳部の厚さ:0.6mm)を用いたこと以外は、比較例1と同様にして、比較例4の鉛蓄電池を得た。比較例4の鉛蓄電池における化成後の正極活物質の含有量(正極材の全質量基準)及び化成後の負極活物質の含有量(負極材の全質量基準)は実施例1と同一であった。
【0087】
(比較例5)
負極集電体として、鉛−カルシウム−錫合金(カルシウム含有量:0.05質量%、錫含有量:0.5質量%)からなる圧延シートにエキスパンド加工を施すことにより作製されたエキスパンド格子体(負極耳部の厚さ:1.1mm)を用いたこと以外は、比較例1と同様にして、比較例5の鉛蓄電池を得た。比較例5の鉛蓄電池における化成後の正極活物質の含有量(正極材の全質量基準)及び化成後の負極活物質の含有量(負極材の全質量基準)は実施例1と同一であった。
【0088】
<電池特性の評価>
前記の鉛蓄電池について、充電受入性、低温高率放電性能、サイクル寿命性能及び減液性能を下記のとおり測定した。結果を表1に示す。なお、減液性能の評価は実施例1及び比較例1についてのみ行った。
【0089】
[充電受入性]
作製した鉛蓄電池において、25℃、10.4Aで30分間定電流放電を行い、12時間放置した。その後、鉛蓄電池を、100Aの制限電流の下、14.0Vで60秒間定電圧充電を行い、充電開始から5秒目の電流値を測定した。この電流値を比較することにより充電受入性を評価した。なお、充電受入性は、比較例1の測定結果を100として相対評価した。
【0090】
[低温高率放電性能]
作製した電池において、電池温度を−15℃に調整し、300Aで定電流放電を行い、放電開始後30秒目の端子電圧を測定した。この端子電圧を比較することにより低温高率放電性能を評価した。なお、低温高率放電性能は、比較例1の測定結果を100として相対評価した。
【0091】
[サイクル寿命性能]
電池温度が25℃になるように雰囲気温度を調整した。45A−59秒間の定電流放電及び300A−1秒間の定電流放電を行った後に100A−14.0V−60秒間の定電流・定電圧充電を行う操作を1サイクルとし、3600サイクル毎に40時間放置してからサイクルを再開する、サイクル試験を行った。このサイクル試験では、放電量に対して充電量が少ないため、充電が完全に行われないと徐々に充電不足になる。その結果、放電電流を300Aとして1秒間放電した時の1秒目電圧が徐々に低下する。すなわち、定電流・定電圧充電時に負極が分極して早期に定電圧充電に切り替わると、充電電流が減衰して充電不足になる。この寿命試験では、300A放電時の1秒目電圧が7.2Vを下回ったときを、その電池の寿命と判定し、寿命までに行ったサイクル回数を比較することによりサイクル寿命性能を評価した。なお、サイクル寿命性能は、実施例1の測定結果を100として相対評価した。
【0092】
[減液性能]
減液性能の評価は次のように行った。電池温度が60℃になるように調整し、42日間(1008時間)、14.4Vで定電圧充電を行った。電池温度が60℃に達し定電圧充電を行う直前の電池重量と、42日間の定電圧充電が終了した直後の電池重量の差を減液量とし、この量を比較することにより減液性能を評価した。比較例1の減液量を100として相対評価した。
【0093】
【表1】
本開示に係る鉛蓄電池は、正極集電体及び当該正極集電体に充填された正極材を有する正極板と、負極集電体及び当該負極集電体に充填された負極材を有する負極板と、硫酸を含む電解液と、を備え、負極集電体が、当該負極集電体の上部周縁部に設けられた負極耳部を有し、負極耳部が、Snを含む表面層を有し、正極材の質量と負極材の質量の合計M1に対する電解液の質量M2の比率(M2/M1)が0.7以上である。