特許第6388340号(P6388340)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6388340
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】リン酸鉄リチウム正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20180903BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20180903BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20180903BHJP
【FI】
   H01M4/58
   H01M4/36 A
   C01B25/45 Z
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-24106(P2015-24106)
(22)【出願日】2015年2月10日
(65)【公開番号】特開2016-149201(P2016-149201A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2017年3月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005902
【氏名又は名称】株式会社三井E&Sホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100095452
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 博樹
(72)【発明者】
【氏名】橋本 聡司
(72)【発明者】
【氏名】宮内 啓成
【審査官】 青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0146806(US,A1)
【文献】 特開2013−030350(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
C01B 25/45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式LiFePO4で表されるリン酸鉄リチウム正極活物質の製造方法であって、
炭酸リチウム(Li2CO3)とリン酸二水素アンモニウム(NH4H2PO4)とシュウ酸鉄(II)・二水和物(FeC2O4・2H2O)を混合し、水を加えることなく粉砕して紛体にする粉砕工程と、
前記粉砕工程後の原料混合物に水(H2O)を加えて造粒して焼成前駆体を得る造粒工程と、
造粒された前記焼成前駆体を焼成してリン酸鉄リチウムを生成する焼成工程と、を有し、
前記造粒工程における前記水の添加量は、前記原料混合物に対して25wt%以下であることを特徴とする、リン酸鉄リチウム正極活物質の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のリン酸鉄リチウム正極活物質の製造方法において、
前記原料混合物の粒度分布がD50≦15μmであることを特徴とする、リン酸鉄リチウム正極活物質の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のリン酸鉄リチウム正極活物質の製造方法において、
前記造粒工程において造粒される焼成前駆体の造粒粒子径が10mm以下であることを特徴とする、リン酸鉄リチウム正極活物質の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載のリン酸鉄リチウム正極活物質の製造方法において、
前記焼成工程は、室温から360℃以上450℃以下までの温度での焼成を含むことを特徴とする、リン酸鉄リチウム正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸鉄リチウム正極活物質の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の電極材料として、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO)、リン酸コバルトリチウム(LiCoPO)、リン酸ニッケルリチウム(LiNiPO)等の一般式LiMPO(M=Fe,Mn,Co,Ni)で表わされるリン酸遷移金属リチウム化合物が挙げられる。
【0003】
そのうち、オリビン型結晶構造を持つリン酸鉄リチウムは、理論容量が大きく(170mAh/g)、比較的高い起電力(対Li/Li負極にて約3.4〜3.5V)を有し、更に熱力学的に安定であり、400℃程度まで酸素放出や発熱がほとんどないため、安全性の観点からも好ましい正極材料であると言える。
更に、資源的に豊富な鉄・リン等から安価に製造できるため、有力な正極材料として期待されている。
【0004】
リン酸鉄リチウム(LiFePO)は一般的に、Li源となる原料と、Fe源となる原料と、PO源となる原料の3つの原料を混合して合成されており、その合成方法としては、乾式法(固相法とも言う:例えば、特許文献1)がある。
乾式法では、特許文献1に示されるように、固体(粉体)の原料を混合、粉砕処理した焼成前駆体を焼成してリン酸鉄リチウム正極活物質を製造する。
また、乾式法では、焼成前駆体の状態では3つの原料が混合されただけであり、反応はほとんど進んでいない。前記焼成前駆体を焼成する工程(以下、焼成工程と言う)において熱が加えられることにより、3つの原料が反応してリン酸鉄リチウム正極活物質が生成する。
【0005】
一方、特許文献2、特許文献3に示されるように、原料を液体(例えばアセトン等の有機溶媒)に分散させた状態でビーズミル等により混合、粉砕処理し、前記溶媒を乾燥除去したものを焼成前駆体として焼成してリン酸鉄リチウム正極活物質を製造する方法がある。この方法は湿式法と呼ばれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−292308号公報
【特許文献2】特開2008−4317号公報
【特許文献3】特許第5581065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、前記乾式法では、反応のほとんどを焼成工程において進行させるため、焼成時間が長くかかる。
【0008】
また、ビーズミル等を用いる湿式法では、前記原料とビーズとを均一に分散させるため、加える溶媒の量は多く必要になる。そのため、原料の粉砕後、焼成前に前記溶媒を乾燥等により除去する必要がある。したがって、前記溶媒除去のためのエネルギーが必要であるとともに、製造工程の煩雑化や設備の大型化、高コスト化の問題がある。
【0009】
また、前記溶媒を除去(乾燥)する工程を行うと、その乾燥条件等により、焼成前駆体が例えばパウダー状のようにかさ密度が低い状態になる場合がある。焼成前駆体のかさ密度が低いと焼成を行う焼成炉等への仕込み量が減るため、生産性が低下する。
【0010】
そこで本発明の目的は、簡易、省エネルギー且つ低コストであるとともに、生産性の高いリン酸鉄リチウム正極活物質の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題に鑑み、本発明の第1の態様に係るリン酸鉄リチウム正極活物質の製造方法は、一般式LiFePOで表されるリン酸鉄リチウム正極活物質の製造方法であって、炭酸リチウム(LiCO)とリン酸二水素アンモニウム(NHPO)とシュウ酸鉄(II)・二水和物(FeC・2HO)を混合し、粉砕する粉砕工程と、前記粉砕工程後の原料混合物に水(HO)を加えて造粒して焼成前駆体を得る造粒工程と、造粒された前記焼成前駆体を焼成してリン酸鉄リチウムを生成する焼成工程と、を有することを特徴とするものである。
【0012】
粉砕された原料混合物に加える水(HO)の量は、粉砕された粉体の原料混合物を纏めて粒状にすること(造粒)が可能な量である。
本態様によれば、前記粉砕工程後の原料混合物に水(HO)を加えて焼成前駆体を造粒するので、かさ密度の高い焼成前駆体を安定して得ることができる。以って、より高い生産性で安定したリン酸鉄リチウム正極活物質の製造を行うことができる。
【0013】
加えて、造粒した焼成前駆体に水が含まれていることにより、焼成前駆体の状態で合成反応が開始する。
このことにより、後段の焼成工程において反応を完結させるに当たり、焼成時間が短くて済む。尚、前記反応の具体的な反応式を示すと、以下の(1)式および(2)式のようになる
【0014】
【化1】
【0015】
【化2】
【0016】
前記造粒工程において加える水は、前述のように、粉砕された粉体の原料混合物を纏めて粒状にすることが可能な量であるので、造粒した焼成前駆体から前記水を除去することなく焼成工程に供したとしてもすぐに蒸発し、焼成工程時に当該水の蒸発に多くのエネルギーが使われる等の虞が少ない。
したがって、前記造粒工程において加えた水を乾燥等により除去する必要がなく、製造工程を少なくして製造時間を短縮できるとともに、乾燥等に必要な設備にかかるコストやエネルギーを抑えることができる。
【0017】
尚、本明細書において製造する一般式LiFePOとは、リチウム(Li)と鉄(Fe)とリン酸(PO)が化学量論比において、ほぼ1:1:1の割合で含有されていることを意味し、厳密に各成分が1:1:1で含まれている場合に限られない。また、他の成分や不純物を全く含まないことを要求しない。
【0018】
本発明の第2の態様に係るリン酸鉄リチウム正極活物質の製造方法は、第1の態様において、前記造粒工程における前記水の添加量は、前記原料混合物に対して25wt%以下であることを特徴とするものである。
【0019】
本態様によれば、前記造粒工程における前記水の添加量を、前記原料混合物に対して25wt%以下とすることにより、粒状の焼成前駆体を容易にしてかさ密度を高く形成することができる。また、粒径の揃った焼成前駆体を形成することが可能であり、後段の焼成工程時に均一な焼成を行うことができる。以って、反応を均一に進行させてより安定した品質のリン酸鉄リチウム正極活物質を製造することができる。
【0020】
本発明の第3の態様に係るリン酸鉄リチウム正極活物質の製造方法は、第1の態様または第2の態様において、前記原料混合物の粒度分布がD50≦15μmであることを特徴とするものである。
【0021】
本態様によれば、前記原料混合物が粒度分布D50≦15μmの細粒に粉砕されていることにより、前記反応がより高効率に進むとともに、組成の安定した焼成前駆体を得ることができる。また、原料混合物をこの程度にまで細かく粉砕しても、水を加えて造粒するので、焼成前駆体としてのかさ密度を容易に高めることができる。以って、本方法により製造したリン酸鉄リチウム正極活物質を用いてリチウムイオン二次電池を作成した場合に、より良好な電池特性を得ることができる。
【0022】
本発明の4の態様に係るリン酸鉄リチウム正極活物質の製造方法は、第1の態様から第3の態様のいずれかにおいて、前記造粒工程において造粒される焼成前駆体の造粒粒子径が10mm以下であることを特徴とするものである。
【0023】
本明細書において「造粒粒子径」とは、造粒工程において造粒された焼成前駆体の直径である。尚、造粒された焼成前駆体の表面に凹凸がある場合には、その凸部を含む球形を仮想球形として、該仮想球形の直径を焼成前駆体の直径とする。また、焼成前駆体の断面が例えば楕円状となる場合のように、前記造粒粒子径に長径と短径がある場合には、長径と短径の平均を焼成前駆体の直径として用いる。
本態様によれば、焼成前駆体の造粒粒子径が10mm以下であることにより、焼成工程において焼成前駆体の中心部にまで熱が確実に伝わり、より効果的に反応を進行させることができる。
【0024】
本発明の第5の態様に係るリン酸鉄リチウム正極活物質の製造方法は、第1の態様から第4の態様のいずれかにおいて、前記焼成工程は、室温から360℃以上450℃以下までの温度での焼成を含むことを特徴とするものである。
【0025】
本態様によれば、造粒された焼成前駆体の状態で前記反応が進行するとともに、この反応進行中の焼成前駆体に対して焼成工程を行うので、より高効率に生成物(リン酸鉄リチウム正極活物質)を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれる。
【0027】
[リン酸鉄リチウム正極活物質の製造方法の概要]
以下において、本発明に係るリン酸鉄リチウム正極活物質の製造方法の概要について説明する。本発明に係るリン酸鉄リチウム正極活物質は、一般式LiFePOで表される物質である。
【0028】
成分Li導入用原料としては、炭酸リチウム(LiCO)を用いる。成分PO導入用原料としては、リン酸二水素アンモニウム(NHPO)を用いる。成分Fe導入用原料としては、シュウ酸鉄(II)・二水和物(FeC・2HO)を用いる。
【0029】
(1)粉砕工程
原料の炭酸リチウムとリン酸二水素アンモニウムとシュウ酸鉄(II)・二水和物(以下、単にシュウ酸鉄と称する場合がある)を混合し、粉砕して原料混合物を得る。炭酸リチウムとリン酸二水素アンモニウムとシュウ酸鉄は、リチウム、鉄、リンの化学量論比が1:1:1となるように混合される。前記原料の混合は、例えばプラネタリーミキサー等の公知の混合装置を用いて行うことができる。また粉砕は、ボールミル等の公知の粉砕機を用いて行うことができる。
【0030】
また、粉砕工程における粉砕は、混合、粉砕後の原料混合物の粒度分布がD50≦15μmとなるようにすることが好ましい。粒度分布がD50≦15μmの細粒に原料を粉砕することにより、リン酸鉄リチウム正極活物質の合成反応をより高効率に行うことができる。また、組成の安定した焼成前駆体を得ることができる。
【0031】
(2)造粒工程
前記粉砕工程において粉砕された粉体の前記原料混合物に水(HO)を加え、粒状に纏めて造粒して、焼成前駆体を形成する。
【0032】
前記水の添加量は、前記原料混合物に対して25wt%以下であることが好ましい。このことにより、かさ密度の高い焼成前駆体を容易に形成することができる。
また、粒径の揃った焼成前駆体を形成することができるので、後段の焼成工程時に均一な焼成を行うことができる。均一な焼成が可能であることにより、反応が均一に進行するので、生成物であるリン酸鉄リチウム正極活物質の品質を安定させることができる。
【0033】
加えて、造粒される焼成前駆体の造粒粒子径は10mm以下であることが望ましい。より好ましくは1.0mm〜10mmである。このことにより、焼成時に焼成前駆体の中心部にまで熱が確実に伝わり、効率よく反応を進行させることができる。
【0034】
(3)焼成工程
焼成工程は、前記造粒工程によって得た焼成前駆体を焼成してLiFePOを生成する工程である。本説明では、以下の(3-1)〜(3-4)の工程によって行う焼成工程について説明する。
【0035】
(3-1)一段目焼成工程
前記造粒工程によって得た焼成前駆体を、焼成炉等の焼成装置において焼成する。
焼成温度は、室温から300℃以上450℃以下までの温度に昇温することが好ましく、360℃以上450℃以下までの温度であることがより好ましい。焼成時間は、数時間(例えば1時間〜8時間程度)である。
【0036】
(3-2)炭素前駆体添加工程
炭素前駆体添加工程では、前記焼成物解砕工程の焼成物(以下、一次焼成物という)に対して炭素前駆体を添加する。炭素前駆体を添加して後述する二段目焼成工程を行うことにより、リン酸鉄リチウムの表面に、導電性炭素を析出させることができる。表面に導電性炭素を析出させた電極材料は、炭素析出のない場合よりもさらに高い充放電特性を示すことが可能となる。
前記炭素前駆体としては、クエン酸等の有機酸の他、石炭ピッチ等のビチューメン類や糖類を添加することができる。
【0037】
(3-3)焼成物減容化工程
焼成物減容化工程では、炭素前駆体添加工程の後の一次焼成物を粉砕して減容化する。
粉砕は、例えば、ターボミルかジェットミル等の設備用いて行うことができる。粉砕後のメディアン径が100μm以下であることが好ましく、より好ましくは50μm以下である。
【0038】
(3-4)二段目焼成工程
前記焼成物減容化工程後に、焼成炉等により室温から600℃以上800℃以下(より好ましくは、650℃以上780℃以下)までの温度に昇温して焼成を行う。尚、このときの「室温」とは、前記炭素前駆体添加工程の後の室温である。炉内を昇温後、数時間(例えば1時間〜8時間程度)焼成する。
二段目焼成工程を行うことにより、表面に導電性炭素を有するリン酸鉄リチウム正極活物質としての生成物が得られる。
【0039】
以上説明した方法によりリン酸鉄リチウム正極活物質を製造することにより、以下の作用効果が得られる。
前記粉砕工程後の原料混合物に対し、水(HO)を加えて造粒し、焼成前駆体を得るので、かさ密度の高い焼成前駆体を安定して得ることができる。かさ密度が高いと、一度に多くの焼成前駆体を焼成炉に仕込むことが可能となり、以って、生産性を高めることができる。
【0040】
更に、造粒した焼成前駆体に水が含まれていることにより、前記焼成前駆体の状態で合成反応が開始する。すなわち、焼成工程前に反応を進行させることができる。
このことにより、焼成工程において反応を完結させる際に、焼成時間が短くて済む。
【0041】
また、造粒工程において加える水は、粉体の原料混合物を造粒するための水であり、少量であるので、造粒した焼成前駆体から前記水を除去することなく焼成工程に供してもすぐに蒸発する。すなわち、当該水の蒸発に多くのエネルギーを要しない。
したがって、造粒工程において加えた水を除去することなく焼成工程を行うことができ、製造時間を短縮することができる。また、乾燥等に必要な設備にかかるコストやエネルギーも抑えることができる。
【0042】
以上のように、生産性の高いリン酸鉄リチウム正極活物質の製造を、簡易、省エネルギー且つ低コストで行うことができる。
【0043】
尚、上記説明では一段目焼成工程と二段目焼成工程の二段階の焼成を行う場合について説明したが、焼成工程を二段階に分けず、一段階の焼成によって行うことも可能である。また、二段階の焼成を行う場合に、炭素前駆体添加工程、焼成物減容化工程の少なくとも一方を行わない場合も本発明の範囲に含むものとする。
【0044】
[具体例]
リン酸鉄リチウム正極活物質を以下の手順で製造し、製造した活物質を用いてリチウムイオン二次電池を作成し、その電池特性を調べた(実施例1)。比較例として、従来法である乾式法(比較例1)と湿式法(比較例2)によりリン酸鉄リチウム正極活物質を製造した。
【0045】
(実施例1)
原料として、炭酸リチウム、73.8909gとリン酸二水素アンモニウム、115.0257gと、シュウ酸鉄(II)・二水和物、179.8946gを計量し、粉砕機を用いて混合、粉砕し、粒度分布がD50≦15μmの原料混合物を得た(粉砕工程)。粉砕した前記原料混合物を造粒機に入れ、20wt%の水を加えながら造粒し、焼成前駆体を得た(造粒工程)。焼成前駆体の造粒粒子径は10mmであった。
造粒した焼成前駆体に対し、一段目焼成工程(焼成温度:400℃、保持時間:4時間)を行った後、一段目焼成物に炭素源としての石炭ピッチを3.5wt%添加し、その混合物を解砕機により解砕し、二段目焼成工程(焼成温度:760℃、保持時間:6時間)を行い、リン酸鉄リチウム正極活物質としての生成物を得た(焼成工程)。
【0046】
(比較例1:乾式法)
原料として、炭酸リチウム、73.8909gとリン酸二水素アンモニウム、115.0257gと、シュウ酸鉄(II)・二水和物、179.8946gを計量し、粉砕機を用いて混合、粉砕したものを焼成前駆体とした。この焼成前駆体に対し、実施例1と同様の焼成工程に供した。
【0047】
(比較例2:湿式法)
原料として、炭酸リチウム、73.8909gとリン酸二水素アンモニウム、115.0257gと、シュウ酸鉄(II)・二水和物、179.8946gを計量し、前記原料を有機溶媒に分散してビーズミルによる混合粉砕処理を行い、スラリー化した。得られたスラリーに対して溶媒蒸発工程を行い、前記有機溶媒を除去したものを焼成前駆体とした。
この焼成前駆体に対し、実施例1と同様の焼成工程に供した。
【0048】
表1に、実施例1、比較例1、および比較例2において、焼成前駆体を製造する際の製造時間と、各焼成前駆体のかさ密度を示す。
【0049】
【表1】
【0050】
次に、実施例1、比較例1、および比較例2のリン酸鉄リチウム正極活物質を用い、以下の条件でリチウムイオン二次電池を作成し、充放電試験を行った。
セルタイプ:CR2032
正極電極組成:LFP:AB:PVdF=91:4:5
正極担持量:16 mg/cm2
負極:Li−Metal
電解液:1M LiPF in EC/EMC
温度:25℃
充電条件:0.1C(CC−CV):4.3V
1C(CC−CV):4.0V
放電条件:0.1, 1C(CC), 2.0V
尚、LFP=リン酸鉄リチウム、AB=アセチレンブラック、PVdF=ポリフッ化ビニリデン、LiPF=六フッ化リン酸リチウム、EC=エチレンカーボネート、EMC=エチルメチルカーボネートである。
【0051】
表2は、実施例1、比較例1、および比較例2のリン酸鉄リチウム正極活物質で作成したリチウムイオン二次電池の電池容量の試験結果である。
【0052】
【表2】
【0053】
表2に示すように、実施例1のリン酸鉄リチウム正極活物質は、比較例1および比較例2に比して大きな電池容量の二次電池を作成することができた。
また、表1に示すように、比較例1(乾式法)は、実施例1よりも焼成前駆体を得るまでの時間は短いが、実施例1と同様の焼成条件では、十分な電池容量の二次電池を作成することはできなかった。