特許第6389775号(P6389775)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6389775リチウム二次電池用炭素被覆リン酸鉄リチウムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6389775
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用炭素被覆リン酸鉄リチウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20180903BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20180903BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20180903BHJP
【FI】
   H01M4/58
   H01M4/36 C
   C01B25/45 Z
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-26415(P2015-26415)
(22)【出願日】2015年2月13日
(65)【公開番号】特開2016-149296(P2016-149296A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2017年3月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005902
【氏名又は名称】株式会社三井E&Sホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】富田 紘貴
【審査官】 青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/017617(WO,A1)
【文献】 特開2012−248378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
C01B 25/45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料と、前記炭素材料によって被覆されるリン酸鉄リチウムと、により構成されるリチウム二次電池用炭素被覆リン酸鉄リチウムを製造する方法であって、
リン原料と、鉄原料と、リチウム原料との混合物を焼成することで、前記リン酸鉄リチウムを得る一次焼成工程と、
前記リン酸鉄リチウムを、脂肪族有機酸とスクロースとを含む水溶液中で粉砕する粉砕工程と、
前記粉砕工程後の前記リン酸鉄リチウムと、炭素原料との混合物を焼成することで、BET比表面積が3m/g以上の前記リン酸鉄リチウムを含む、前記リチウム二次電池用炭素被覆リン酸鉄リチウムを得る二次焼成工程と、を含み、
前記粉砕工程では、前記リン酸鉄リチウムからリン酸リチウムを溶解して除去することを特徴とする、リチウム二次電池用炭素被覆リン酸鉄リチウムの製造方法。
【請求項2】
前記脂肪族有機酸はクエン酸であることを特徴とする、請求項に記載のリチウム二次電池用炭素被覆リン酸鉄リチウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用炭素被覆リン酸鉄リチウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池の充放電特性を向上させる観点から、リチウム二次電池用の炭素被覆されたリン酸マンガンリチウムのBET比表面積を大きくする試みが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−233438号公報(特に段落0027)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者が検討したところによると、炭素被覆された正極活物質のBET比表面積と、それを用いたリチウム二次電池の充放電容量との間には相関関係が無いことがわかった。即ち、炭素被覆された正極活物質のBET比表面積に基づいて、リチウム二次電池の物性を予測しても、得られるリチウム二次電池の実際の充放電特性が必ずしも良くならないことがあった。即ち、従来は、得られるリチウム二次電池の充放電特性を正確に予測することができなかった。
【0005】
また、近年、レアメタルの使用量低減や充放電容量の高さ等の観点から、正極活物質として、リン酸鉄リチウムが注目されている。従って、炭素被覆されたリン酸鉄リチウムを用いつつ、良好な充放電特性を奏するリチウム二次電池を従来よりも確実に製造可能な技術が望まれている。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、良好な充放電特性を奏するリチウム二次電池を確実に製造可能な、リチウム二次電池用炭素被覆リン酸鉄リチウムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は前記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、以下の知見を見出した。即ち、本発明の要旨は、炭素材料と、前記炭素材料によって被覆されるリン酸鉄リチウムと、により構成されるリチウム二次電池用炭素被覆リン酸鉄リチウムを製造する方法であって、リン原料と、鉄原料と、リチウム原料との混合物を焼成することで、前記リン酸鉄リチウムを得る一次焼成工程と、前記リン酸鉄リチウムを、脂肪族有機酸とスクロースとを含む水溶液中で粉砕する粉砕工程と、前記粉砕工程後の前記リン酸鉄リチウムと、炭素原料との混合物を焼成することで、BET比表面積が3m/g以上の前記リン酸鉄リチウムを含む、前記リチウム二次電池用炭素被覆リン酸鉄リチウムを得る二次焼成工程と、を含み、前記粉砕工程では、前記リン酸鉄リチウムからリン酸リチウムを溶解して除去することを特徴とする、リチウム二次電池用炭素被覆リン酸鉄リチウムの製造方法に関する。
【0009】
また、このとき、前記脂肪族有機酸はクエン酸であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、良好な充放電特性を奏するリチウム二次電池を確実に製造可能な、リチウム二次電池用炭素被覆リン酸鉄リチウムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態において、炭素被覆されたリン酸鉄リチウムを製造する際の各工程を示すフローチャートである。
図2】実施例1〜実施例3並びに比較例1及び比較例2で製造した、炭素被覆されたリン酸鉄リチウムについて、(a)は炭素除去後のリン酸鉄リチウムのBET比表面積と放電容量とのプロット、(b)は炭素除去前のリン酸鉄リチウムのBET比表面積と放電容量とのプロットを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を適宜参照しながら、本発明を実施するための形態(本実施形態)を説明する。なお、以下の記載においては、炭素材料によって被覆されたリン酸鉄リチウム(即ち、炭素被覆されたリン酸鉄リチウム)のことを、「炭素被覆リン酸鉄リチウム」と記載することがある。
【0014】
図1は、本実施形態において、炭素被覆されたリン酸鉄リチウムを製造する際の各工程を示すフローチャートである。本実施形態では、図1に示すフローにより、炭素材料と、当該炭素材料によって被覆されるリン酸鉄リチウムとにより構成される、炭素被覆されたリン酸鉄リチウム(即ち、炭素被覆リン酸鉄リチウム、以下同じ)が得られる。製造された炭素被覆されたリン酸鉄リチウムは、リチウム二次電池の正極活物質として使用可能である。以下、炭素被覆されたリン酸鉄リチウムの製造方法を各ステップに分けながら説明する。
【0015】
まず、リン原料と鉄原料とリチウム原料とを混合することで、原料混合物が得られる(ステップS101)。これらの原料のうち、リン原料は、以下で製造されるリン酸鉄リチウムを構成するリンとなるものである。また、同様に、鉄原料は鉄に、リチウム原料はリチウムになるものである。リン原料は、例えばリン酸二水素アンモニウム等である。また、鉄原料は、例えばシュウ酸鉄二水和物等である。さらに、リチウム原料は、水酸化リチウムや炭酸リチウムである。なお、一つの化合物が2以上の原料を兼ねるようにしてもよい。
【0016】
各原料の混合比は特に制限されないが、リン、鉄及びリチウムのそれぞれがモル比で等量ずつ含まれるように、各原料を混合することが好ましい。リン酸鉄リチウムは、組成式LiFePOで表され、リン、鉄及びリチウムのそれぞれが等モルずつ含まれることから、このような混合比にすることで、原料を過不足なく使用することができる。
【0017】
次いで、原料混合物が一次焼成され、これにより、リン酸鉄リチウムの結晶が生成する(ステップS102、一次焼成工程)。また、このとき、通常は、副生成物としてリン酸リチウム(LiPO)が生成する。この副生成物は除去することが好ましいが、本実施形態では、後記するステップS105において除去される。
【0018】
一次焼成時の焼成条件は特に制限されないが、結晶が過度に増大してリン酸鉄リチウムのBET比表面積が過度に低下することを避ける観点からは、比較的結晶成長を抑制可能な条件(温和な条件)にすることが好ましい。具体的には、例えば300℃〜500℃で4時間〜5時間程度にすることが好ましい。
【0019】
そして、一次焼成して得られた結晶を冷却することで(ステップS103)、リン酸鉄リチウムの結晶が複数集合してなる一次粒子が生成する(ステップS104)。この一次粒子を構成するリン酸鉄リチウムのBET比表面積は3m/g以上であることが好ましい。二次焼成(ステップS108において後記する)を行う前のリン酸鉄リチウムのBET比表面積が3m/g以上であることで、炭素被覆を行うための二次焼成を行った後のリン酸鉄リチウムのBET比表面積を3m/g以上にし易くなるという利点がある。
【0020】
なお、BET比表面積は、例えばJIS Z 8830:2013(ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法)等に基づいたBET比表面積測定装置を用いて測定可能である。
【0021】
リン酸鉄リチウムの一次粒子は、クエン酸水溶液中で十分に粉砕される(ステップS105、粉砕工程)。これにより、前記のステップS102において生成したリン酸リチウム等が水溶液に溶解して、除去される。即ち、クエン酸水溶液(脂肪族弱酸)等の脂肪族有機酸には、リン酸リチウムを溶解する作用がある。そのため、クエン酸水溶液中で粉砕することで、一次焼成により形成されたリン酸鉄リチウム同士を架橋するリン酸リチウムを溶解させることができる。これにより、局所的な架橋部分が除去され、リン酸鉄リチウムを一様に分散させることができる。そして、このようにすることで、均一な一次粒子群を得ることができ、BET比表面積の増大を図ることができる。
【0022】
なお、ステップS105では、クエン酸水溶液を用いたが、例えばシュウ酸や酢酸等の脂肪族有機酸を溶解した水溶液であれば、どのようなものであってもよい。特に、水様性の脂肪族有機酸を用いることで、リン酸鉄リチウムの水溶液への溶解を十分に防止し、副生成物と生成することが多いリン酸リチウムをより確実に除去することができる。
【0023】
また、クエン酸水溶液(脂肪族有機酸水溶液)には、スクロースが含まれていることが好ましい。スクロースが含まれていることで、二次焼成による結晶成長を抑制し、BET比表面積の増大化を図ることができる。この理由は、以下の通りである。即ち、スクロースは水溶性炭素であるため、クエン酸水溶液に含まれるスクロースが粒子群全体にいき渡り易くなる。そして、スクロースの融点が200℃未満であるため、リン酸鉄リチウムの結晶化が開始される温度の400℃程度に到達する前に、スクロースは表面全体へ広がることができる。そのため、二次焼成を行っても、一次粒子の表面に存在するスクロースによって一次粒子の成長が抑制され、BET比表面積が大きいまま、炭素被覆されたリン酸鉄リチウムを得ることができる。
【0024】
ステップS105において十分に粉砕した後、必要に応じて脱水(濾過等)した後で乾燥させ(ステップS106)、次いで、粉砕した一次粒子(乾燥物)と炭素原料とを混合することで、混合物が得られる(ステップS107)。ここで用いる炭素原料は、本実施形態での最終産物である「炭素被覆されたリン酸鉄リチウム」に含まれる炭素を構成するものである。
【0025】
二次焼成時に使用可能な炭素原料は特に制限されないが、リン酸鉄リチウムの一次粒子の成長抑制効果がある炭素原料を用いることが好ましい。具体的には例えば、クレオソート油やポリビニルアルコール等が挙げられる。また、使用可能な炭素原料としては、ステップS105において用いたクエン酸やスクロース等をそのまま使用することができる。即ち、ステップS106において乾燥させた混合物には、クエン酸やスクロース等が含まれている。従って、これらは炭素原料になりうるため、炭素原料を別途添加しなくてもよい。
【0026】
そして、この混合物に対して、二次焼成が行われる(ステップS108)。この二次焼成によって、リン酸鉄リチウムの結晶が炭素被覆され、炭素被覆されたリン酸鉄リチウムが得られる。また、前記のクエン酸水溶液に溶解しなかったリン酸リチウム(ステップS105参照)や、クエン酸水溶液を用いなかった場合には大量に含まれるリン酸リチウムを起点として、結晶成長が生じる、これにより、リン酸リチウムはリン酸鉄リチウムに相変化し、リン酸鉄リチウムの結晶が得られる。
【0027】
また、リン酸リチウムからリン酸鉄リチウムに相変化する際、同じ反応系内に存在する炭素材料によって結晶成長が妨げられることで、微細な粒子群であり、炭素被覆されたリン酸鉄リチウムの二次粒子が得られる。結晶成長が抑制されることで粒子の粗大化を抑制し、BET比表面積の増大を図ることができる。即ち、二次焼成によって通常であれば結晶成長が生じてBET比表面積が減少するが、本実施形態では、結晶成長が抑制されることになる。これにより、リン酸鉄リチウムのBET比表面積が3m/g以上になっている、炭素被覆されたリン酸鉄リチウムが得られやすくなる。
【0028】
二次焼成の条件は特に制限されないが、例えば600℃〜800℃程度で3時間〜6時間程度にすることができる。
【0029】
二次焼成後、焼成されたリン酸鉄リチウムは冷却され(ステップS109)、炭素被覆されたリン酸鉄リチウムの二次粒子が得られる(ステップS110)。このとき、この二次粒子を構成するリン酸鉄リチウムのBET比表面積は3m/g以上になっている。BET比表面積が3m/g以上のリン酸鉄リチウムを用いることで、良好な充放電特性を奏するリチウム二次電池が得られる。
【0030】
炭素被覆されたリン酸鉄リチウムであって、それを構成するリン酸鉄リチウム(炭素被覆されていないリン酸鉄リチウム)のBET比表面積が3m/g以上となる製造方法は、例えば前記のものである。具体的には例えば、BET比表面積が3m/g以上のリン酸鉄リチウムを用い、前記のような炭素原料とともに温和な条件で焼成(二次焼成)することで、二次焼成中の結晶の成長が抑制される。これにより、炭素被覆されたリン酸鉄リチウムであって、そのリン酸鉄リチウムのBET比表面積が3m/g以上となっているものを製造することができる。ただし、炭素被覆されたリン酸鉄リチウムであって、そのリン酸鉄リチウムのBET比表面積が3m/g以上となる製造方法はこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で任意に変更して製造してもよい。
【実施例】
【0031】
以下、具体的な実施例を参照しながら、本実施形態をさらに詳細に説明する。
【0032】
炭素除去後のBET比表面積が3m/g以上となる、炭素被覆されたリン酸鉄リチウムを用いて二次電池を作製し、その放電容量を測定した。
【0033】
<実施例1>
水酸化リチウム(LiOH・HO)と、シュウ酸鉄二水和物(FeC・2HO)と、リン酸二水素アンモニウム(NHPO)とをイソプロピルアルコール中で、平均粒径D50が2.5μm以下を目安に微粉砕混合した。次いで、その混合物について405℃で一次焼成を行い、炭素被覆されていないリン酸鉄リチウムを作製した。焼成時間は4時間とした。
【0034】
一次焼成後、リン酸鉄リチウム80kgに対して、炭素原料としてクレオソート油(JFEケミカル社製、HOB)を3.2kg混合した。そして、その混合物を680℃まで昇温し、680℃で3時間加熱することで二次焼成を行った。二次焼成後、解砕及び分級(ふるいにより直径45μm以上のものを除外)することで、炭素被覆されたリン酸鉄リチウム(即ち、炭素被覆リン酸鉄リチウム)を得た。得られた炭素被覆されたリン酸鉄リチウムについて、BELSORP−mini(日本ベル社製)を用いてBET比表面積を測定したところ、15.4m/gであった。
【0035】
また、得られた炭素被覆されたリン酸鉄リチウムについて、500℃で6時間、大気中で焼成を行うことで、表面の炭素材料を除去した。そして、炭素材料を除去して剥き出しになったリン酸鉄リチウムのBET比表面積を測定したところ、10.8m/gであった。
【0036】
解砕及び分級後の焼成物(炭素被覆されたリン酸鉄リチウム)と、アセチレンブラック(デンカブラック(登録商標)、電気化学工業社製、75%プレス品)と、ポリフッ化ビニリデン(クレハバッテリーマテリアルズジャパン社製、#9100)と、ポリフッ化ビニリデン(クレハバッテリーマテリアルズジャパン社製、#7200)とを、91:4:2.5:2.5(質量比)の割合で混合した。次いで、得られた混合物をN−メチルピロリドン中で撹拌及び混合することで、正極合剤スラリー(正極材料)を得た。
【0037】
そして、得られた正極合剤スラリーをアルミニウム板に塗布した後に乾燥させて、正極を作製した。作製した正極と、負極として金属リチウムと、非水電解液とを用いてリチウム二次電池を作製した。この非水電解液は、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを3:7の割合(体積比)で含む溶媒に、1MになるようにLiPFを混合して得た溶液である。作製したリチウム二次電池について、0.1Cで定電流充電を4.3Vまで行った後、2.0Vまで1Cで定電流放電を行い、放電容量を測定した。その結果、放電容量は、149mAh/gであった。
【0038】
<実施例2>
炭酸リチウム(LiCO)と、シュウ酸鉄二水和物(FeC・2HO)と、リン酸二水素アンモニウム(NHPO)とを混合した。次いで、その混合物について405℃で一次焼成を行い、炭素被覆されていないリン酸鉄リチウムを得た。焼成時間は4時間とした。
【0039】
得られた炭素被覆されていないリン酸鉄リチウム200gと、ポリビニルアルコール10質量%溶液の34g(クラレ社製、PVA−205)と、クエン酸(キシダ化学社製)50質量%溶液の26.8gとを混合して、720℃まで昇温し、720℃で6時間保持した(二次焼成)。そして、二次焼成後、実施例1と同様にして、炭素被覆されたリン酸鉄リチウムを得た。
【0040】
得られた炭素被覆されたリン酸鉄リチウムについて、実施例1と同様にしてBET比表面積を測定したところ、8.76m/gであった。
【0041】
そして、得られた炭素被覆されたリン酸鉄リチウムについて、実施例1と同様にして表面の炭素材料を除去した。そして、炭素材料を除去して剥き出しになったリン酸鉄リチウムのBET比表面積を測定したところ、4.34m/gであった。
【0042】
また、得られた炭素被覆されたリン酸鉄リチウムを用いて実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製し、製造例1と同様にして放電容量を測定したところ、放電容量は137mAh/gであった。
【0043】
<実施例3>
実施例2と同様にして一次焼成を行い、炭素被覆されていないリン酸鉄リチウムを得た。得られた炭素被覆されていないリン酸鉄リチウム300gと、クエン酸無水和物30gと、スクロース30gとを混合したものを水に懸濁し、ビーズミル(日本コークス工業社製、SC220)を用いて2時間粉砕処理を行った。次いで、粉砕処理後のスラリーを乾燥した。乾燥はスプレードライヤ(大川原化工機社製、NL−5)を用いた。そして、乾燥物を720℃で4時間加熱することで二次焼成を行い、その後は実施例1と同様にして、炭素被覆されたリン酸鉄リチウムが得られた。
【0044】
得られた炭素被覆されたリン酸鉄リチウムについて、実施例1と同様にしてBET比表面積を測定したところ、45.2m/gであった。
【0045】
そして、得られた炭素被覆されたリン酸鉄リチウムについて、実施例1と同様にして表面の炭素材料を除去した。そして、炭素材料を除去して剥き出しになったリン酸鉄リチウムのBET比表面積を測定したところ、12.9m/gであった。
【0046】
また、得られた炭素被覆されたリン酸鉄リチウムを用いて実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製し、製造例1と同様にして放電容量を測定したところ、放電容量は150mAh/gであった。
【0047】
<比較例1>
実施例2と同様にして一次焼成を行い、炭素被覆されていないリン酸鉄リチウムを得た。得られた炭素被覆されていないリン酸鉄リチウム300gに対して、水溶性炭素を加えずに水中で、ビーズミルを用いて2時間粉砕処理を行った。そして、120℃で一晩真空乾燥を行い、乾燥物を得た。そして、その乾燥物に対して、石炭ピッチ(JFEケミカル社製 MCP110C)を、3.5質量%の割合になるように混合し、その混合物について720℃で4時間加熱することで二次焼成を行った。その後は実施例1と同様にして、炭素被覆されたリン酸鉄リチウムを得た。
【0048】
得られた炭素被覆されたリン酸鉄リチウムについて、実施例1と同様にしてBET比表面積を測定したところ、6.01m/gであった。
【0049】
そして、得られた炭素被覆されたリン酸鉄リチウムについて、実施例1と同様にして表面の炭素材料を除去した。そして、炭素材料を除去して剥き出しになったリン酸鉄リチウムのBET比表面積を測定したところ、0.048m/gであった。
【0050】
また、得られた炭素被覆されたリン酸鉄リチウムを用いて実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製し、製造例1と同様にして放電容量を測定したところ、放電容量は37mAh/gであった。
【0051】
<比較例2>
実施例2と同様にして一次焼成を行い、炭素被覆されていないリン酸鉄リチウムを得た。得られたリン酸鉄リチウム200gとポリビニルアルコール粉末6.6g(クラレ社製、PVA−205)とを混合して、720℃まで昇温し、720℃で6時間保持した(二次焼成)。そして、二次焼成後の焼成物について、実施例1と同様にすることで、炭素被覆されたリン酸鉄リチウムを得た。
【0052】
得られた炭素被覆されたリン酸鉄リチウムについて、実施例1と同様にしてBET比表面積を測定したところ、9.54m/gであった。
【0053】
そして、得られた炭素被覆されたリン酸鉄リチウムについて、実施例1と同様にして表面の炭素材料を除去した。そして、炭素材料を除去して剥き出しになったリン酸鉄リチウムのBET比表面積を測定したところ、1.64m/gであった。
【0054】
また、得られた炭素被覆されたリン酸鉄リチウムを用いて実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製し、製造例1と同様にして放電容量を測定したところ、放電容量は113mAh/gであった。
【0055】
<検討>
実施例1〜3並びに比較例1及び比較例2で製造したリチウム二次電池の放電容量と、それに用いたリン酸鉄リチウムのBET比表面積との関係をグラフにプロットした。そのグラフを図2に示す。
【0056】
図2は、実施例1〜実施例3並びに比較例1及び比較例2で製造した、炭素被覆されたリン酸鉄リチウムについて、(a)は炭素除去後のリン酸鉄リチウムのBET比表面積と放電容量とのプロット、(b)は炭素除去前のリン酸鉄リチウムのBET比表面積と放電容量とのプロットを示すグラフである。図2(a)に示すように、炭素材料を除去した後のリン酸鉄リチウムのBET比表面積と、その炭素被覆されたリン酸鉄リチウムを用いたリチウム二次電池の放電容量との間には、グラフ中破線で示すような相関がみられた。
【0057】
具体的には、炭素除去後のリン酸鉄リチウムのBET比表面積が3m/g未満のときには放電容量は急激に増加し、そのBET比表面積が3以上になると放電容量の増加が緩やかになった。従って、炭素材料を除去した後のリン酸鉄リチウムのBET比表面積が3m/g以上になるようにリン酸鉄リチウムを炭素材料で被覆することで、良好な充放電特性を奏するリチウム二次電池が確実に得られることがわかった。
【0058】
一方で、図2(b)に示すように、炭素材料を除去する前のリン酸鉄リチウムについてBET比表面積と放電容量との関係をプロットしても、相関はみられなかった。例えば、炭素被覆されたリン酸鉄リチウムの実施例2と比較例2とのBET比表面積は、それぞれ、8.76m/gと9.54m/gという比較的近い値である。しかしながら、図2(b)に示すように、放電容量には大きな差が生じており、実施例2の放電容量は、炭素被覆されたリン酸鉄リチウムのBET比表面積に基づけば2倍近く異なる実施例1(15.4m/g)の放電容量とほぼ同じであった。従って、従来のように、炭素被覆されたリン酸鉄リチウムのBET比表面積に基づいて二次電池を作製しても、充放電特性が良好にならないことがあることがわかった。
図1
図2