【実施例】
【0031】
以下、具体的な実施例を参照しながら、本実施形態をさらに詳細に説明する。
【0032】
炭素除去後のBET比表面積が3m
2/g以上となる、炭素被覆されたリン酸鉄リチウムを用いて二次電池を作製し、その放電容量を測定した。
【0033】
<実施例1>
水酸化リチウム(LiOH・H
2O)と、シュウ酸鉄二水和物(FeC
2O
4・2H
2O)と、リン酸二水素アンモニウム(NH
4H
2PO
4)とをイソプロピルアルコール中で、平均粒径D
50が2.5μm以下を目安に微粉砕混合した。次いで、その混合物について405℃で一次焼成を行い、炭素被覆されていないリン酸鉄リチウムを作製した。焼成時間は4時間とした。
【0034】
一次焼成後、リン酸鉄リチウム80kgに対して、炭素原料としてクレオソート油(JFEケミカル社製、HOB)を3.2kg混合した。そして、その混合物を680℃まで昇温し、680℃で3時間加熱することで二次焼成を行った。二次焼成後、解砕及び分級(ふるいにより直径45μm以上のものを除外)することで、炭素被覆されたリン酸鉄リチウム(即ち、炭素被覆リン酸鉄リチウム)を得た。得られた炭素被覆されたリン酸鉄リチウムについて、BELSORP−mini(日本ベル社製)を用いてBET比表面積を測定したところ、15.4m
2/gであった。
【0035】
また、得られた炭素被覆されたリン酸鉄リチウムについて、500℃で6時間、大気中で焼成を行うことで、表面の炭素材料を除去した。そして、炭素材料を除去して剥き出しになったリン酸鉄リチウムのBET比表面積を測定したところ、10.8m
2/gであった。
【0036】
解砕及び分級後の焼成物(炭素被覆されたリン酸鉄リチウム)と、アセチレンブラック(デンカブラック(登録商標)、電気化学工業社製、75%プレス品)と、ポリフッ化ビニリデン(クレハバッテリーマテリアルズジャパン社製、#9100)と、ポリフッ化ビニリデン(クレハバッテリーマテリアルズジャパン社製、#7200)とを、91:4:2.5:2.5(質量比)の割合で混合した。次いで、得られた混合物をN−メチルピロリドン中で撹拌及び混合することで、正極合剤スラリー(正極材料)を得た。
【0037】
そして、得られた正極合剤スラリーをアルミニウム板に塗布した後に乾燥させて、正極を作製した。作製した正極と、負極として金属リチウムと、非水電解液とを用いてリチウム二次電池を作製した。この非水電解液は、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを3:7の割合(体積比)で含む溶媒に、1MになるようにLiPF
6を混合して得た溶液である。作製したリチウム二次電池について、0.1Cで定電流充電を4.3Vまで行った後、2.0Vまで1Cで定電流放電を行い、放電容量を測定した。その結果、放電容量は、149mAh/gであった。
【0038】
<実施例2>
炭酸リチウム(Li
2CO
3)と、シュウ酸鉄二水和物(FeC
2O
4・2H
2O)と、リン酸二水素アンモニウム(NH
4H
2PO
4)とを混合した。次いで、その混合物について405℃で一次焼成を行い、炭素被覆されていないリン酸鉄リチウムを得た。焼成時間は4時間とした。
【0039】
得られた炭素被覆されていないリン酸鉄リチウム200gと、ポリビニルアルコール10質量%溶液の34g(クラレ社製、PVA−205)と、クエン酸(キシダ化学社製)50質量%溶液の26.8gとを混合して、720℃まで昇温し、720℃で6時間保持した(二次焼成)。そして、二次焼成後、実施例1と同様にして、炭素被覆されたリン酸鉄リチウムを得た。
【0040】
得られた炭素被覆されたリン酸鉄リチウムについて、実施例1と同様にしてBET比表面積を測定したところ、8.76m
2/gであった。
【0041】
そして、得られた炭素被覆されたリン酸鉄リチウムについて、実施例1と同様にして表面の炭素材料を除去した。そして、炭素材料を除去して剥き出しになったリン酸鉄リチウムのBET比表面積を測定したところ、4.34m
2/gであった。
【0042】
また、得られた炭素被覆されたリン酸鉄リチウムを用いて実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製し、製造例1と同様にして放電容量を測定したところ、放電容量は137mAh/gであった。
【0043】
<実施例3>
実施例2と同様にして一次焼成を行い、炭素被覆されていないリン酸鉄リチウムを得た。得られた炭素被覆されていないリン酸鉄リチウム300gと、クエン酸無水和物30gと、スクロース30gとを混合したものを水に懸濁し、ビーズミル(日本コークス工業社製、SC220)を用いて2時間粉砕処理を行った。次いで、粉砕処理後のスラリーを乾燥した。乾燥はスプレードライヤ(大川原化工機社製、NL−5)を用いた。そして、乾燥物を720℃で4時間加熱することで二次焼成を行い、その後は実施例1と同様にして、炭素被覆されたリン酸鉄リチウムが得られた。
【0044】
得られた炭素被覆されたリン酸鉄リチウムについて、実施例1と同様にしてBET比表面積を測定したところ、45.2m
2/gであった。
【0045】
そして、得られた炭素被覆されたリン酸鉄リチウムについて、実施例1と同様にして表面の炭素材料を除去した。そして、炭素材料を除去して剥き出しになったリン酸鉄リチウムのBET比表面積を測定したところ、12.9m
2/gであった。
【0046】
また、得られた炭素被覆されたリン酸鉄リチウムを用いて実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製し、製造例1と同様にして放電容量を測定したところ、放電容量は150mAh/gであった。
【0047】
<比較例1>
実施例2と同様にして一次焼成を行い、炭素被覆されていないリン酸鉄リチウムを得た。得られた炭素被覆されていないリン酸鉄リチウム300gに対して、水溶性炭素を加えずに水中で、ビーズミルを用いて2時間粉砕処理を行った。そして、120℃で一晩真空乾燥を行い、乾燥物を得た。そして、その乾燥物に対して、石炭ピッチ(JFEケミカル社製 MCP110C)を、3.5質量%の割合になるように混合し、その混合物について720℃で4時間加熱することで二次焼成を行った。その後は実施例1と同様にして、炭素被覆されたリン酸鉄リチウムを得た。
【0048】
得られた炭素被覆されたリン酸鉄リチウムについて、実施例1と同様にしてBET比表面積を測定したところ、6.01m
2/gであった。
【0049】
そして、得られた炭素被覆されたリン酸鉄リチウムについて、実施例1と同様にして表面の炭素材料を除去した。そして、炭素材料を除去して剥き出しになったリン酸鉄リチウムのBET比表面積を測定したところ、0.048m
2/gであった。
【0050】
また、得られた炭素被覆されたリン酸鉄リチウムを用いて実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製し、製造例1と同様にして放電容量を測定したところ、放電容量は37mAh/gであった。
【0051】
<比較例2>
実施例2と同様にして一次焼成を行い、炭素被覆されていないリン酸鉄リチウムを得た。得られたリン酸鉄リチウム200gとポリビニルアルコール粉末6.6g(クラレ社製、PVA−205)とを混合して、720℃まで昇温し、720℃で6時間保持した(二次焼成)。そして、二次焼成後の焼成物について、実施例1と同様にすることで、炭素被覆されたリン酸鉄リチウムを得た。
【0052】
得られた炭素被覆されたリン酸鉄リチウムについて、実施例1と同様にしてBET比表面積を測定したところ、9.54m
2/gであった。
【0053】
そして、得られた炭素被覆されたリン酸鉄リチウムについて、実施例1と同様にして表面の炭素材料を除去した。そして、炭素材料を除去して剥き出しになったリン酸鉄リチウムのBET比表面積を測定したところ、1.64m
2/gであった。
【0054】
また、得られた炭素被覆されたリン酸鉄リチウムを用いて実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製し、製造例1と同様にして放電容量を測定したところ、放電容量は113mAh/gであった。
【0055】
<検討>
実施例1〜3並びに比較例1及び比較例2で製造したリチウム二次電池の放電容量と、それに用いたリン酸鉄リチウムのBET比表面積との関係をグラフにプロットした。そのグラフを
図2に示す。
【0056】
図2は、実施例1〜実施例3並びに比較例1及び比較例2で製造した、炭素被覆されたリン酸鉄リチウムについて、(a)は炭素除去後のリン酸鉄リチウムのBET比表面積と放電容量とのプロット、(b)は炭素除去前のリン酸鉄リチウムのBET比表面積と放電容量とのプロットを示すグラフである。
図2(a)に示すように、炭素材料を除去した後のリン酸鉄リチウムのBET比表面積と、その炭素被覆されたリン酸鉄リチウムを用いたリチウム二次電池の放電容量との間には、グラフ中破線で示すような相関がみられた。
【0057】
具体的には、炭素除去後のリン酸鉄リチウムのBET比表面積が3m
2/g未満のときには放電容量は急激に増加し、そのBET比表面積が3以上になると放電容量の増加が緩やかになった。従って、炭素材料を除去した後のリン酸鉄リチウムのBET比表面積が3m
2/g以上になるようにリン酸鉄リチウムを炭素材料で被覆することで、良好な充放電特性を奏するリチウム二次電池が確実に得られることがわかった。
【0058】
一方で、
図2(b)に示すように、炭素材料を除去する前のリン酸鉄リチウムについてBET比表面積と放電容量との関係をプロットしても、相関はみられなかった。例えば、炭素被覆されたリン酸鉄リチウムの実施例2と比較例2とのBET比表面積は、それぞれ、8.76m
2/gと9.54m
2/gという比較的近い値である。しかしながら、
図2(b)に示すように、放電容量には大きな差が生じており、実施例2の放電容量は、炭素被覆されたリン酸鉄リチウムのBET比表面積に基づけば2倍近く異なる実施例1(15.4m
2/g)の放電容量とほぼ同じであった。従って、従来のように、炭素被覆されたリン酸鉄リチウムのBET比表面積に基づいて二次電池を作製しても、充放電特性が良好にならないことがあることがわかった。