(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
[カーボンナノチューブ複合材料]
以下、本実施形態のカーボンナノチューブ複合材料について、図面を参照して説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料の一部を示す斜視図である。なお、カーボンナノチューブ複合材料1は、長手方向に延在する線材であり、
図1には、カーボンナノチューブ複合材料1のうち、長手方向Lに沿って両端を切断した一部分のみを示す。
図2は、
図1のA−A線に沿った断面を模式的に示す断面図である。
図3は、
図1のB−B線に沿った断面を模式的に示す断面図である。
【0022】
図2及び3に示すように、本実施形態のカーボンナノチューブ複合材料1は、金属母材10と、カーボンナノチューブ導電経路部20と、を備える。
【0023】
(金属母材)
金属母材10は、複数個の棒状金属結晶粒11が同一方向に配向した多結晶体からなる。
【0024】
棒状金属結晶粒11は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金等の金属からなる。これらの金属結晶粒の金属は、導電性が高いため好ましい。なお、棒状金属結晶粒11は、不可避不純物が含まれていてもよい。棒状金属結晶粒11中の不可避不純物の濃度は、10質量%以下である。
【0025】
本発明において、棒状金属結晶粒11とは、アスペクト比が1以上の棒状の金属結晶粒を意味する。アスペクト比は、金属結晶粒の長辺(棒状金属結晶粒の長手方向の長さ)と短辺(棒状金属結晶粒の幅方向の長さ)の比率と定義される。アスペクト比は走査型電子顕微鏡(SEM)により測定することができる。
【0026】
棒状金属結晶粒11の断面形状は特に限定されない。なお、
図2では、棒状金属結晶粒11の断面形状が六角形であるように示したが、棒状金属結晶粒11の断面形状が六角形以外の形状であってもよい。
【0027】
棒状金属結晶粒11は、長さが、例えば0.1〜200μmである。ここで、棒状金属結晶粒11の長さとは、棒状金属結晶粒の長手方向の長さを意味する。また、棒状金属結晶粒11は、結晶粒の直径相当径が、例えば0.1〜100μmである。ここで、棒状金属結晶粒11の結晶粒の直径相当径とは、棒状金属結晶粒11の横断面における平均結晶粒径を意味する。棒状金属結晶粒11の長さ及び直径相当径が、上記範囲内にあり且つ細かいほど、金属母材10の強度が高い。
【0028】
金属母材10は、これらの棒状金属結晶粒11の複数個が同一方向に配向するとともに隣接する棒状金属結晶粒11同士が粒界で結合された多結晶体になっている。ここで、棒状金属結晶粒11の複数個が同一方向に配向するとは、棒状金属結晶粒11の長手方向が同一方向に向いていることを意味する。
【0029】
ところで、本実施形態のカーボンナノチューブ複合材料1は、
図1及び3に示す長手方向Lに沿って押出加工されて製造されたものである。
図3において、複数個の棒状金属結晶粒11は、長手方向Lと同一方向に配向している。
【0030】
このように、複数個の棒状金属結晶粒11が長手方向Lと同一方向に配向する理由は、特定方向に配列されていない金属結晶粒が製造の際に押出加工により同一方向に引き伸ばされることによる。
【0031】
なお、本実施形態のカーボンナノチューブ複合材料1は、押出加工されて製造されたものであるが、本発明のカーボンナノチューブ複合材料は、押出加工以外の方法で製造されていてもよい。
【0032】
(カーボンナノチューブ導電経路部)
図2及び3に示すように、カーボンナノチューブ複合材料1では、棒状金属結晶粒11同士の粒界15の一部に、カーボンナノチューブ導電経路部20が存在している。カーボンナノチューブ導電経路部20は、カーボンナノチューブ複合材料1中に、複数個形成される。
【0033】
カーボンナノチューブ導電経路部20は、カーボンナノチューブからなり、金属母材10の長手方向に導電する導電経路を形成するものである。カーボンナノチューブ導電経路部20は、1本以上のカーボンナノチューブからなる。カーボンナノチューブ導電経路部20を構成するカーボンナノチューブとしては、公知のものを用いることができる。カーボンナノチューブの直径は、例えば、0.4〜50nmである。カーボンナノチューブの平均長さは、例えば、1μm以上である。
【0034】
カーボンナノチューブ導電経路部20を構成するカーボンナノチューブは、1本又は2本以上のカーボンナノチューブが伸びた状態で存在していてもよいし、凝集して塊状になっていてもよい。
【0035】
図2に示すように、カーボンナノチューブ導電経路部20は、金属母材10の横断面において棒状金属結晶粒11間の粒界15の一部に存在する。すなわち、金属母材10の横断面において、カーボンナノチューブ導電経路部20は、棒状金属結晶粒11の粒界15全体に存在することはない。このため、カーボンナノチューブ導電経路部20は、棒状金属結晶粒11の周囲を被覆する構造を有しない。また、
図2に示すように、カーボンナノチューブ導電経路部20が複数個存在する場合、通常、カーボンナノチューブ導電経路部20同士が離間して存在する。
【0036】
なお、従来のカーボンナノチューブ複合材料としては、棒状金属結晶粒の周囲全体をカーボンナノチューブ導電経路部が被覆する、いわゆるセルレーション構造のものが知られている。このセルレーション構造は、カーボンナノチューブ導電経路部が形成するセル中に、棒状金属結晶粒が入った構造である。セルレーション構造は、通常、複数個のセルからなるとともに、隣接する2個のセルが壁面を共有するように連結されてなる、ハニカム状構造になっている。このセルレーション構造では、棒状金属結晶粒間の粒界の全体にカーボンナノチューブ導電経路部が存在する構造になる。
【0037】
これに対し、本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料1では、金属母材10の横断面においてカーボンナノチューブ導電経路部20が棒状金属結晶粒11間の粒界15の一部のみに存在し、粒界15の全体には存在しない。このため、本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料1は、カーボンナノチューブ導電経路部20が、棒状金属結晶粒11を被覆するセルを形成することはなく、セルレーション構造とは明らかに構造が異なる。
【0038】
図3に示すように、カーボンナノチューブ導電経路部20は、金属母材10の長手方向Lに沿って存在することにより、金属母材10の長手方向に導電する導電経路を形成している。なお、カーボンナノチューブ複合材料1において、カーボンナノチューブ導電経路部20は、金属母材10の長手方向Lに沿って、連続的、断続的又はこれらの両方の態様で存在する。
【0039】
例えば、
図3では、3個のカーボンナノチューブ導電経路部20a、20b及び20cが、長手方向Lに沿って連続的に存在する。ここで連続的に存在するとは、長手方向Lに隣接するカーボンナノチューブ導電経路部20同士が接触することを意味する。
【0040】
また、
図3では、3個のカーボンナノチューブ導電経路部20d、20e及び20fが、長手方向Lに沿って断続的に存在する。ここで断続的に存在するとは、長手方向Lに隣接するカーボンナノチューブ導電経路部20同士が接触しないことを意味する。
【0041】
なお、カーボンナノチューブ導電経路部20は、少なくとも一部のカーボンナノチューブ導電経路部20が金属母材10の長手方向Lに沿って存在していればよい。このため、全てのカーボンナノチューブ導電経路部20が金属母材10の長手方向Lに沿って存在する必要はない。例えば、本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料1では、一部のカーボンナノチューブ導電経路部20の配向方向が金属母材10の長手方向Lに沿わなくてもよい。この場合、カーボンナノチューブ複合材料1中のカーボンナノチューブ導電経路部20の配向方向がランダムになる。
【0042】
このように本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料1では、複数個のカーボンナノチューブ導電経路部20が金属母材10の長手方向Lに沿って連続して存在するとは限らない。しかし、金属母材10自体が導電性を有するため、カーボンナノチューブ導電経路部20同士が離間していても、金属母材10を介して導通することが可能である。
【0043】
本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料1では、カーボンナノチューブ導電経路部20が、金属母材10に対して、通常0.1〜1質量%、好ましくは0.2〜0.8質量%、より好ましくは0.5〜0.8質量%含まれる。ここで、1質量%とは、金属母材10の100質量部に対してカーボンナノチューブ導電経路部20が1質量部含まれることを意味する。なお、金属母材10の100質量部とは、棒状金属結晶粒11の100質量部と同じ意味である。
【0044】
カーボンナノチューブ導電経路部20の含有量が上記範囲内にあると、カーボンナノチューブ複合材料1が、金属母材10の横断面において棒状金属結晶粒11間の粒界15の一部に存在するようになり易い。
【0045】
なお、従来のセルレーション構造のカーボンナノチューブ複合材料では、カーボンナノチューブ導電経路部がセルの壁面を形成する。このため、従来のセルレーション構造のカーボンナノチューブ複合材料は、カーボンナノチューブ導電経路部の含有量が実質的に1〜5質量%程度と多い。
【0046】
これに対して、本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料1は、セルレーション構造でなく、カーボンナノチューブ導電経路部20が、金属母材10の横断面において棒状金属結晶粒11間の粒界15の一部に存在すればよい。このため、本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料1は、カーボンナノチューブ導電経路部20の含有量が少なくて済む。
【0047】
本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料1について、断面写真の一例を示す。
図4は、(A)、(B)共に、本発明の実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料の横断面の透過型電子顕微鏡(TEM)写真の一例である。この
図4は、(A)、(B)共に、カーボンナノチューブ複合材料1の横断面、すなわち、カーボンナノチューブ複合材料1の長手方向に垂直な面で切断した断面のTEM写真の一例である。なお、
図4は、後述の実施例1の横断面のTEM写真である。
【0048】
図4(A)に示すように、カーボンナノチューブ複合材料1の横断面には、棒状金属結晶粒11間の粒界15の一部にカーボンナノチューブ導電経路部20が存在する。
【0049】
図4(B)は、
図4(A)のカーボンナノチューブ導電経路部20が存在する領域を符号Cで示したものである。
図4(B)より、符号Cで示した領域内に存在するカーボンナノチューブ導電経路部20は、棒状金属結晶粒11間の粒界15の全部に存在するのでなく、粒界15の一部に存在することが分かる。
【0050】
図5は、本発明の実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料の縦断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真の一例である。
図6は、本発明の実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料の縦断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真の他の一例である。すなわち、
図5及び6は、カーボンナノチューブ複合材料1の縦断面、すなわち、カーボンナノチューブ複合材料1の長手方向に平行な面で切断した断面のSEM写真の一例である。なお、
図5及び6は、後述の実施例1の縦断面のSEM写真である。
【0051】
詳細には、
図5は、複数個のカーボンナノチューブ導電経路部20がネットワーク状に形成されている状態を示す写真である。また、
図6は、複数個のカーボンナノチューブ導電経路部20が、それぞれ鞠状に凝集し、ネットワーク状に形成されていない状態を示す写真である。
【0052】
図5に示すように、カーボンナノチューブ導電経路部20は、金属母材10の長手方向Lに沿って存在することにより、金属母材10の長手方向に導電する導電経路を形成している。なお、カーボンナノチューブ複合材料1において、カーボンナノチューブ導電経路部20は、金属母材10の長手方向Lに沿って、連続的、断続的又はこれらの両方の態様で存在する。例えば、
図5では、3個のカーボンナノチューブ導電経路部20l及び20nが、長手方向Lに沿って連続的に存在している。
【0053】
図6では、カーボンナノチューブ導電経路部20p、20q、20r及び20sは、カーボンナノチューブが凝集した塊状になっている。カーボンナノチューブ導電経路部20が塊状になっていることは、カーボンナノチューブ導電経路部20が長手方向Lに沿って伸びた形状になっていないことから判断できる。また、
図6では、2個のカーボンナノチューブ導電経路部20p及び20qが、長手方向Lに沿って断続的に存在している。さらに、
図6では、2個のカーボンナノチューブ導電経路部20r及び20sが、長手方向Lに沿って断続的に存在している。
【0054】
本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料1は、導電率が高くかつカーボンナノチューブの配合量が少ない。なお、カーボンナノチューブ複合材料1の導電率が高くなる理由は、カーボンナノチューブ複合材料1がセルレーション構造を有さないため、製造の際にエラストマーを用いる必要がなく、エラストマーの気化による残渣が存在しないためであると考えられる。
【0055】
[カーボンナノチューブ複合材料の製造方法]
次に、実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料の製造方法について、図面を参照して説明する。
【0056】
本実施形態のカーボンナノチューブ複合材料の製造方法は、圧粉体成形工程と、押出加工工程と、を有する。
【0057】
(圧粉体成形工程)
圧粉体成形工程は、金属粉末とカーボンナノチューブとを含む混合粉末に圧力を加えて粉末圧粉体を成形する工程である。
【0058】
<金属粉末>
金属粉末としては、例えば、アルミニウム粉末、アルミニウム合金粉末、銅粉末、銅合金粉末が用いられる。これらの金属粉末は、導電性が高いため好ましい。金属粉末は、平均粒子径D
50が、例えば、1〜500μm、好ましくは3〜300μmである。ここで、D
50とはメディアン径を意味する。金属粉末の平均粒子径D
50が上記範囲内にあると、本実施形態のカーボンナノチューブ複合材料1を得易い。また、金属粉末は、平均粒子径D
50の異なる複数種類の金属粉末の混合物であってもよい。金属粉末が、平均粒子径D
50の異なる複数種類の金属粉末の混合物であると、金属粉末粒子間の隙間が小さくなるため、粉末圧粉体を成形し易い。
【0059】
<カーボンナノチューブ>
カーボンナノチューブとしては、本実施形態のカーボンナノチューブ複合材料で用いられるものと同じものが用いられる。なお、カーボンナノチューブは、予め酸で洗浄することにより白金等の金属触媒やアモルファスカーボンを除去したり、予め高温処理することにより黒鉛化したりしたものであってもよい。カーボンナノチューブにこのような前処理を行うと、カーボンナノチューブを高純度化したり高結晶化したりすることができる。これら以外の事項については、本実施形態のカーボンナノチューブ複合材料で説明したことと同じであるため、カーボンナノチューブについての説明を省略する。
【0060】
<混合粉末>
混合粉末は、金属粉末とカーボンナノチューブとを含む粉末である。混合粉末は、例えば、金属粉末とカーボンナノチューブとをアルコール系溶媒等の溶媒中で混合し、溶媒を気化させる方法で得られる。
【0061】
混合粉末は、金属粉末に対してカーボンナノチューブを、通常0.1〜1質量%、好ましくは0.2〜0.8質量%、より好ましくは0.5〜0.8質量%含む。ここで、1質量%とは、金属粉末の100質量部に対してカーボンナノチューブが1質量部含まれることを意味する。
【0062】
圧粉体成形工程では、上記混合粉末に圧力を加えて押し固めることにより粉末圧粉体を成形する。圧粉体成形工程では、混合粉末中の金属粉末粒子間の隙間が最小になるように混合粉末が押し固められる。混合粉末に圧力を加える方法としては公知の方法を用いることができ、例えば、筒状の圧粉体成形容器に混合粉末を投入した後、この容器内の混合粉末を加圧する方法が用いられる。
【0063】
得られた粉末圧粉体中では、カーボンナノチューブは、通常、押し固められた金属粉末粒子間の隙間に存在する。カーボンナノチューブは、1本又は2本以上のカーボンナノチューブが伸びた状態で存在していてもよいし、金属粉末粒子間の隙間に存在する限り凝集して塊状になっていてもよい。
【0064】
圧粉体成形工程について、図面を参照して説明する。
図7は、圧粉体成形工程の一例を示す図である。
図7に示す圧粉体成形容器80は、混合粉末50に圧力を加えて粉末圧粉体60を成形するための容器である。圧粉体成形容器80は、軸方向に貫通する円柱状の空洞部83が設けられた筒状の容器本体81からなる。
【0065】
圧粉体成形工程では、はじめに、圧粉体成形容器80が、図示しない底板上に載置される。このとき、圧粉体成形容器80は、圧粉体成形容器80の底面と底板の表面との間に隙間が生じないように載置される。次に、底板で底部側が塞がれた圧粉体成形容器80の空洞部83内に混合粉末50を投入する。さらに、空洞部83内の混合粉末50を符号F1の力で圧力を加えて混合粉末50を押し固めることにより、粉末圧粉体60を成形する。
【0066】
圧粉体成形工程で符号F1の力により混合粉末50に加えられる圧力は、混合粉末50中の金属粉末の降伏応力以上最大応力以下とする。例えば、混合粉末50中の金属粉末がアルミニウム粉末である場合は、アルミニウム粉末の降伏応力以上最大応力以下の圧力になるように混合粉末50に圧力を加える。混合粉末50に加えられる圧力を、混合粉末50中の金属粉末の降伏応力以上最大応力以下とすると、混合粉末50中の金属粉末同士の隙間が最小になるように混合粉末50が押し固められた粉末圧粉体60が成形される。
【0067】
ここで、降伏応力とは、弾性変形と塑性変形の境界点における応力を意味する。すなわち、金属粉末等の金属材料は、通常、ひずみ量の小さい領域ではひずみ量の増加に対して応力も比例して増加するが(弾性変形)、所定のひずみ量を超えるとひずみ量の増加に対して応力が比例して増加することがなくなる(塑性変形)。この所定のひずみ量における応力を降伏応力という。また、最大応力とは、弾性変形及び塑性変形の両領域を通じた応力の最大値を意味する。金属材料の最大応力は、通常、塑性変形領域に存在する。
【0068】
混合粉末50に加えられる圧力が、金属粉末の降伏応力以上最大応力以下の圧力であることについて、図面を参照して説明する。
図8は、圧粉体成形工程で混合粉末に加えられる圧力の範囲を説明する図である。具体的には、
図8は、金属粉末が純Al(アルミニウム)である場合とアルミニウム合金である場合とにおける応力−ひずみ線図を示すグラフである。なお、
図8の応力−ひずみ線図は、応力を示す軸が対数表示された片対数グラフになっている。
【0069】
図8に示すように、金属粉末が純Al(アルミニウム)である場合、降伏応力は点A
1の応力であるYS
1、最大応力は点A
2の応力であるMS
1となる。このため、混合粉末50に含まれる金属粉末が純Al(アルミニウム)である場合、圧粉体成形工程で混合粉末50に加えられる圧力を、降伏応力YS
1以上最大応力MS
1以下とする。なお、
図8の純Alの応力−ひずみ曲線上の点Oと点A
1との間の領域は曲線として示されているが、この領域はひずみ量の増加に対して応力が比例する弾性変形領域である。この領域が曲線として示されるのは、
図8が片対数グラフであることによる。
【0070】
また、金属粉末がアルミニウム合金である場合、降伏応力は点B
1の応力であるYS
2、最大応力は点B
2の応力であるMS
2となる。このため、混合粉末50に含まれる金属粉末がアルミニウム合金である場合、圧粉体成形工程で混合粉末50に加えられる圧力を、降伏応力YS
2以上最大応力MS
2以下とする。なお、
図8のアルミニウム合金の応力−ひずみ曲線上の点Oと点B
1との間の領域は、上記の点Oと点A
1との間の領域と同様に、弾性変形領域である。
【0071】
圧粉体成形工程で混合粉末50に圧力を加える処理は、通常、常温下で行う。また、圧粉体成形工程で混合粉末50に圧力を加える時間は、通常5〜60秒、好ましくは10〜40である。本工程では、混合粉末50が、数時間の熱処理を必要とするエラストマー等の有機物を含まず、また混合粉末50を押し固めて粉末圧粉体60を成形する物理的な処理であるため、混合粉末50に圧力を加える時間を極短時間にすることができる。
【0072】
圧粉体成形工程で混合粉末50に所定範囲内の圧力が加えられると、圧粉体成形容器80の空洞部83内で混合粉末50から粉末圧粉体60が成形される。粉末圧粉体60は、例えば、突き出されることにより圧粉体成形容器80の空洞部83から排出される。得られた粉末圧粉体60は、次工程である押出加工工程に共される。
【0073】
(押出加工工程)
押出加工工程は、粉末圧粉体60を、真空雰囲気下、400℃以上、ひずみ速度0.1〜100s
−1で押出加工を行う工程である。
【0074】
押出加工工程では、粉末圧粉体60に対して加熱し押出加工することで、カーボンナノチューブ複合材料1を得る。粉末圧粉体60を押出加工する方法としては公知の方法を用いることができ、例えば、筒状の押出加工装置に粉末圧粉体60を投入した後、この容器内の粉末圧粉体60を加熱し押出加工する方法が用いられる。
【0075】
押出加工工程について、図面を参照して説明する。
図9は、押出加工工程の一例を示す図である。
図9に示す押出加工装置90は、粉末圧粉体60に加熱し押出加工してカーボンナノチューブ複合材料1を成形するための装置である。押出加工装置90は、粉末圧粉体60が装入される円柱状の空洞部93が設けられた筒状の装置本体91と、装置本体91の底部に設けられ、押出加工物を排出するダイス95とを備える。
【0076】
押出加工工程では、押出加工装置90の空洞部93に装入された粉末圧粉体60が真空雰囲気下で加熱された後、符号F2の力が加えられ、ダイス95から押出方向Mに押し出される。なお、雰囲気は、真空雰囲気に代えて不活性ガス雰囲気としてもよい。
【0077】
粉末圧粉体60の加熱は、粉末圧粉体60の温度が、通常400℃以上、好ましくは400〜700℃、より好ましくは400〜660℃、さらに好ましくは400〜650℃になるように行う。粉末圧粉体60の温度が400℃未満であると、押出加工が困難になる。また、粉末圧粉体60の温度が660℃を超えると、カーボンナノチューブ複合材料1中にアルミニウムカーバイド(炭化アルミニウム)が生成するおそれがある。
【0078】
また、粉末圧粉体60の加熱は、粉末圧粉体60の温度が上記温度範囲内にある時間が、通常0.3〜5分、好ましくは0.5〜3分になるように行う。本工程では、粉末圧粉体60が、数時間の熱処理を必要とするようなエラストマー等の有機物を含まず、また本工程で得られるカーボンナノチューブ複合材料1もセルレーション構造を有さない。このため、本工程では、粉末圧粉体60の加熱時間を極短時間にすることができる。
【0079】
加熱した粉末圧粉体60の押出加工時のひずみ速度は、通常0.1〜100s
−1、好ましくは0.3〜3s
−1である。ひずみ速度がこの範囲内にあると、得られるカーボンナノチューブ複合材料1が、本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料の構造及び特性を備えたものになる。
【0080】
押出加工時の押出比は、通常4以上である。押出比が4未満であると、粉末圧粉体60の焼結が不十分になるおそれがある。ここで、押出比とは、押出し材であるカーボンナノチューブ複合材料1の横断面の断面積に対する、粉末圧粉体60の横断面の断面積の比を意味する。
【0081】
上記押出加工を経て得られたカーボンナノチューブ複合材料1は、本実施形態のカーボンナノチューブ複合材料1と同様の構造を有する。このため、カーボンナノチューブ複合材料1についての説明を省略する。
【0082】
本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料の製造方法は、導電率が高くかつカーボンナノチューブの配合量が少ないカーボンナノチューブ複合材料を短時間で製造することができる。なお、カーボンナノチューブ複合材料1の導電率が高くなる理由は、カーボンナノチューブ複合材料1がセルレーション構造を有さないため、製造の際にエラストマーを用いる必要がなく、エラストマーの気化による残渣が存在しないためであると考えられる。また、カーボンナノチューブ複合材料1を短時間で製造することができる理由は、エラストマーの気化作業が不要であり、圧粉体成形工程及び押出加工工程を含めても2分程度でカーボンナノチューブ複合材料1を製造することができるからである。
【実施例】
【0083】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0084】
[実施例1]
(圧粉体成形工程)
はじめに、純度99.9%、平均粒子径D
50が50μmのアルミニウム粉末100質量部と、直径40nm程度、平均長さ5μm程度のカーボンナノチューブ1質量部とを、アルコール系溶媒中で混合した。その後、アルコール系溶媒を気化させて、アルミニウム粉末とカーボンナノチューブとを含む混合粉末を調製した。
【0085】
次に、
図7に示す圧粉体成形容器80の空洞部83内に、混合粉末を投入し、常温下(20℃)で混合粉末に圧力を20秒加えた。なお、混合粉末には、混合粉末中のアルミニウム粉末の降伏応力以上最大応力以下の圧力が加えられるようにした。この結果、圧粉体成形容器80の空洞部83内で粉末圧粉体が成形された。
【0086】
(押出加工工程)
さらに、
図9に示す押出加工装置90の空洞部93内に、粉末圧粉体を投入し、真空雰囲気下、ダイス95の設定温度を500℃とし2分程度保持し、押出加工した。押出加工は、ひずみ速度1s
−1とした。また、押出加工の押出比を4とした。
【0087】
押出加工の終了後、カーボンナノチューブ複合材料が得られた。得られたカーボンナノチューブ複合材料は、複数個の棒状金属結晶粒が同一方向に配向した多結晶体からなる金属母材と、カーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ導電経路部とを有するものであった。このカーボンナノチューブ導電経路部は、金属母材の横断面において棒状金属結晶粒間の粒界の一部に存在するとともに、金属母材の長手方向に沿って存在することにより、金属母材の長手方向に導電する導電経路を形成するものであった。
【0088】
図4に、得られたカーボンナノチューブ複合材料の横断面の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を示す。
図4(A)より、カーボンナノチューブ複合材料1の横断面には、棒状金属結晶粒11間の粒界15の一部にカーボンナノチューブ導電経路部20が存在するが分かった。また、
図4(B)より、符号Cで示した領域内に存在するカーボンナノチューブ導電経路部20は、棒状金属結晶粒11間の粒界15の全部に存在するのでなく、粒界15の一部に存在することが分かった。
【0089】
図5及び6に、得られたカーボンナノチューブ複合材料の縦断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
図5より、3個のカーボンナノチューブ導電経路部20l及び20mが、長手方向Lに沿って連続的に存在することが分かった。また、
図6より、カーボンナノチューブ導電経路部20p、20q、20r及び20sは、カーボンナノチューブが凝集した塊状になっていることが分かった。さらに、
図6より、2個のカーボンナノチューブ導電経路部20p及び20qが、長手方向Lに沿って断続的に存在し、2個のカーボンナノチューブ導電経路部20r及び20sが、長手方向Lに沿って断続的に存在することが分かった。
【0090】
(評価)
得られたカーボンナノチューブ複合材料について、JIS C3002に準拠して導電率を評価した。導電率は、20℃(±0.5℃)に保った恒温槽中で、四端子法を用いカーボンナノチューブ複合材料の比抵抗を測定し、この比抵抗から導電率を算出した。比抵抗の測定の際の端子間距離を1000mmとした。得られた結果を、表1に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
[実施例2〜4、比較例1及び2]
混合粉末中の金属粉末、及び金属粉末に対するCNT(カーボンナノチューブ)の配合量を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にしてカーボンナノチューブ複合材料(実施例2〜4)又は金属材料(比較例1及び2)を作製した。
得られたカーボンナノチューブ複合材料(実施例2〜4)又は金属材料(比較例1及び2)について、実施例1と同様にして導電率を算出した。得られた結果を、表1に示す。
【0093】
表1より、同じ金属粉末を用いて作製された実施例1及び3のカーボンナノチューブ複合材料、並びに比較例1の金属材料を比較すると、実施例1及び3の方が比較例1よりも、導電率が向上していることが分かった。同様に、同じ金属粉末を用いて作製された実施例2及び4のカーボンナノチューブ複合材料、並びに比較例2の金属材料を比較すると、実施例2及び4の方が比較例2よりも、導電率が向上していることが分かった。
【0094】
以上、本発明を実施形態によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。