特許第6390083号(P6390083)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DIC株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6390083-ポリアリーレンスルフィドの製造方法 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6390083
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/025 20160101AFI20180910BHJP
【FI】
   C08G75/025
【請求項の数】10
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-187335(P2013-187335)
(22)【出願日】2013年9月10日
(65)【公開番号】特開2015-54869(P2015-54869A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2016年7月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100159293
【弁理士】
【氏名又は名称】根岸 真
(72)【発明者】
【氏名】檜森 俊男
【審査官】 佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/061872(WO,A1)
【文献】 特開2008−285596(JP,A)
【文献】 特公昭48−016078(JP,B1)
【文献】 国際公開第2007/034800(WO,A1)
【文献】 特開平07−102070(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 75/00−75/32
C08J 3/00−3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリゴアリーレンスルフィド(1)を、循環ラインを備えた溶融混練装置に供給し、非酸化性雰囲気下で、循環させながら溶融混練を行い、溶融重合すること、
前記オリゴアリーレンスルフィド(1)が、下記構造式(2)
【化1】
(ただし、式中m=2〜50である。Arがフェニレン基である)で表される環式ポリアリーレンスルフィド(2a)を50質量%以上から100質量%以下の範囲と、下記構造式(3)または(4)
【化2】
(式中、Yハロゲン原子を表す。)で表される2量体ないし3量体成分を0質量%以上から50質量%以下の範囲となる割合で含有するものであること、
前記オリゴアリーレンスルフィド(1)は、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合工程で精製除去されたオリゴアリーレンスルフィドであること、
を特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記溶融混練装置は、スクリュー先端方向に送られた前記原料の溶融混練物を再度後端方向に移行できる循環ラインを備えたものである請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記製造方法により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂は、その非ニュートン指数が0.90〜1.25の範囲である請求項1又は2記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記製造方法により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂は、300℃における溶融粘度(ただし、フローテスターを用いて、温度300℃、荷重1.96MPa、オリフィス長とオリフィス径との、前者/後者の比が10/1であるオリフィスを使用して6分間保持した後の測定値)が5〜1,000〔Pa・s〕の範囲である請求項1〜の何れか一項記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項5】
オリゴアリーレンスルフィド(1)に加え、さらに下記構造式(1’)で表される化合物(2)0.01〜20質量部とオリゴアリーレンスルフィド(1)99.99〜80質量部とを、循環ラインを備えた溶融混練装置に供給し、非酸化性雰囲気下で、循環させながら溶融混練を行い、溶融重合する請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【化3】
(式中、Xは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。)
【請求項6】
オリゴアリーレンスルフィド(1)と前記化合物(2)とに加え、さらにオリゴアリーレンスルフィド(1)と該化合物(2)との合計100質量部に対して、50質量部以下の割合でポリアリーレンスルフィド樹脂を含む条件下で溶融重合する請求項5記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記オリゴアリーレンスルフィド(1)と前記化合物(2)は、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合工程で精製除去された反応混合物を、アルコール・フェノール系溶媒、炭化水素系溶媒、ケトン系溶媒、カルボン酸エステル系溶媒及び水からなる群から選ばれる少なくとも一種類と接触させて得られたものである請求項5または6記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項8】
前記オリゴアリーレンスルフィド(1)と前記化合物(2)とは、
有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、オリゴアリーレンスルフィド(1)、前記化合物(2)、有機極性溶媒(3)、ポリアリーレンスルフィド(4)及びアルカリ金属ハロゲン化物(5)を含む粗反応混合物を得たのち、該粗反応混合物を有機極性溶媒(6)で洗浄して、ポリアリーレンスルフィド(4)及びアルカリ金属ハロゲン化物(5)を分離除去して、オリゴアリーレンスルフィド(1)、前記化合物(2)および有機極性溶媒(3)を含む反応混合物(a1)を得る工程(1)、
前記反応混合物(a1)から前記有機極性溶媒を固液分離して、オリゴアリーレンスルフィド(1)および前記化合物(2)を含む反応混合物(a2)を得る工程(2)、
反応混合物(a2)をアルコール・フェノール系溶媒、炭化水素系溶媒、ケトン系溶媒、カルボン酸エステル系溶媒及び水からなる群から選ばれる少なくとも一種類と接触させることにより、オリゴアリーレンスルフィド(1)と前記化合物(2)とを分離する工程(3)、
分離したオリゴアリーレンスルフィド(1)を回収する工程(4)によって得られたものである請求項〜7の何れか一項記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項9】
前記アルコール・フェノール系溶媒、炭化水素系溶媒、ケトン系溶媒、カルボン酸エステル系溶媒及び水からなる群から選ばれる少なくとも一種類が、100℃以上かつpH6以上の水である請求項7に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項10】
前記工程(2)において固液分離がフラッシングにより極性有機溶媒を分離し除去するものである請求項8に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造時の精製工程で排出されるオリゴアリーレンスルフィドを回収し、得られたオリゴアリーレンスルフィドを循環させながら溶融融混して、ポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂に代表されるポリアリーレンスルフィド(PAS)樹脂は、耐熱性、耐薬品性等に優れ、電気電子部品、自動車部品、給湯機部品、繊維、フィルム用途等に幅広く利用されている。特に、リチウムイオン電池用パッキンやガスケット部材といった用途では、近年、特に高分子量PAS樹脂が、靭性および成形性に優れることから広く用いられている。
【0003】
PPSの工業的な重合方法は、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶媒中で硫化ナトリウムなどのアルカリ金属硫化物とp−ジクロロベンゼンなどのポリハロ芳香族化合物とを反応させる方法が一般的であるが、PAS重合反応段階において副生物として、オリゴアリーレンスルフィドが約2〜5%程度生成することが知られている(非特許文献1参照、特に第388頁右下欄参照。)。
【0004】
このオリゴアリーレンスルフィドは、ポリアリーレンスルフィド樹脂の結晶化速度を低下させ、射出成形時の成形サイクルを遅延させる原因となり、また、溶融時発生ガス量が増え、射出成形時のヤニが増加する等の原因にもなるため、PAS重合の後処理工程で精製され除去されている。
【0005】
しかしながら、当該オリゴアリーレンスルフィドの精製除去は、収量低下を招き、その分余計に原料が必要となり、製造コストを圧迫する要因となっており、さらに、産業廃棄物量の増加をもたらし、工業規模では年間数百トン(オリゴアリーレンスルフィド生成量が5%の場合、1万トン生産で産廃は500トン)もの産廃処理問題が発生する原因となっていた。
【0006】
そこでオリゴアリーレンスルフィド中に含まれる繰り返し単位n=4〜13量体の環状オリゴアリーレンスルフィドに着目し、該環状オリゴアリーレンスルフィドを、モノマー原料として開環重合し、高分子量直鎖状化合物を合成する方法などをはじめとして、環状物であることを活用した高機能材料や機能材料への応用展開の可能性に注目が集まっている(特許文献1、2)。
【0007】
しかしながら、通常、フィリップス法で用いられるような重合反応装置、すなわち、バッチ式反応釜を用いてオリゴアリーレンスルフィドを溶融重合すると、反応終了後に溶融状態(すなわち高温高圧)を保ったまま、溶融物を重合反応装置から押出機へ移送した後、押出成形するため、生産設備の大型化と操作が煩雑となり、生産性が低下する。また、押出機や溶融混練機などの、従来から成形時に用いられてきた混練装置と加熱機構を具備した装置を用い、溶融重合と押出成形を連続的に行う場合も、滞留時間を長く取れないため、重合度が上がらず、溶融粘度の低いポリアリーレンスフィド樹脂しか得られなかった。しかし、溶融重合と押出成形を連続的に行う場合、従来の装置では、滞留時間を長く取るためには生産設備の大型化が避けられず、装置コストが増大し、生産性が低下する問題があった。また、溶融粘度の低いポリアリーレンスフィド樹脂は、成形加工時の発生ガス成分が多いという問題があり、臭気問題による作業環境の悪化や、金型汚れによるメンテナンス性の低下を招いていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Fahey,D.R et.al, Macromolecules, Volume 30, Issue 3, 10 February 1997, Pages 387-393
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2007/034800号パンフレット
【特許文献2】特開2011-132323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明が解決しようとする課題は、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合工程で副生物として精製除去されたオリゴアリーレンスルフィドを用いて、高分子量かつ発生ガスの少ないポリアリーレンスルフィド樹脂を生産性よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者らは種々の検討を行った結果、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合工程で精製除去されたオリゴアリーレンスルフィドを非酸化性雰囲気下で、循環ラインを備えた溶融混練装置に供給し、循環させながら溶融混練を行い、高重合度体へ溶融重合することで高分子量のポリアリーレンスルフィド樹脂を製造できることを見出し、本発明を解決するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、オリゴアリーレンスルフィドを、循環ラインを備えた溶融混練装置に供給し、非酸化性雰囲気下で、循環させながら溶融混練を行い、溶融重合することを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合工程で副生物として精製除去されたオリゴアリーレンスルフィドを用いて、高分子量かつ発生ガスの少ないポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る溶融混練装置の概略構成を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法は、オリゴアリーレンスルフィドを、循環ラインを備えた溶融混練装置に供給し、非酸化性雰囲気下で、循環させながら溶融混練を行い、溶融重合することを特徴とする。
【0016】
以下、詳述する。
本発明で用いる、オリゴアリーレンスルフィド(1)、例えば下記の工程(1)〜工程(3)により製造することができる。
【0017】
・工程(1)
有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、オリゴアリーレンスルフィド(1)、下記構造式(1)で表される化合物(2)、有機極性溶媒(3)、ポリアリーレンスルフィド(4)及びアルカリ金属ハロゲン化物(5)を含む粗反応混合物を得たのち、該粗反応混合物を有機極性溶媒(6)で洗浄して、ポリアリーレンスルフィド(4)及びアルカリ金属ハロゲン化物(5)を分離除去して、オリゴアリーレンスルフィド(1)、前記化合物(2)および有機極性溶媒(3)を含む反応混合物(a1)を得る工程(1)を有する。
【0018】
まず始めに、工程(1)は、有機極性溶媒中で、少なくともポリハロ芳香族化合物とアルカリ金属硫化物とを反応させて、オリゴアリーレンスルフィド(1)、前記構造式(1)で表される化合物(2)、有機極性溶媒(3)、ポリアリーレンスルフィド(4)及びアルカリ金属ハロゲン化物(5)を含む粗反応混合物を製造するか、または、有機極性溶媒中で、少なくともポリハロ芳香族化合物とアルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させてオリゴアリーレンスルフィド(1)、下記構造式(1)で表される化合物(2)、有機極性溶媒(3)、ポリアリーレンスルフィド(4)及びアルカリ金属ハロゲン化物(5)を含む粗反応混合物を製造する方法を工程(1a)として有する。
【0019】
本発明で用いられるポリハロ芳香族化合物は、例えば、芳香族環に直接結合した2個以上のハロゲン原子を有するハロゲン化芳香族化合物であり、具体的には、p−ジクロルベンゼン、o−ジクロルベンゼン、m−ジクロルベンゼン、トリクロルベンゼン、テトラクロルベンゼン、ジブロムベンゼン、ジヨードベンゼン、トリブロムベンゼン、ジブロムナフタレン、トリヨードベンゼン、ジクロルジフェニルベンゼン、ジブロムジフェニルベンゼン、ジクロルベンゾフェノン、ジブロムベンゾフェノン、ジクロルジフェニルエーテル、ジブロムジフェニルエーテル、ジクロルジフェニルスルフィド、ジブロムジフェニルスルフィド、ジクロルビフェニル、ジブロムビフェニル等のジハロ芳香族化合物及びこれらの混合物が挙げられ、これらの化合物をブロック共重合してもよい。これらの中でも好ましいのはジハロゲン化ベンゼン類であり、特に好ましいのはp−ジクロルベンゼンを80モル%以上含むものである。
【0020】
また、枝分かれ構造とすることによってポリアリーレンスルフィド樹脂の粘度増大を図る目的で、1分子中に3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物を分岐剤として所望に応じて用いてもよい。このようなポリハロ芳香族化合物としては、例えば、1,2,4−トリクロルベンゼン、1,3,5−トリクロルベンゼン、1,4,6−トリクロルナフタレン等が挙げられる。
【0021】
更に、アミノ基、チオール基、ヒドロキシル基等の活性水素を持つ官能基を有するポリハロ芳香族化合物を挙げることが出来、具体的には、2,6−ジクロルアニリン、2,5−ジクロルアニリン、2,4−ジクロルアニリン、2,3−ジクロルアニリン等のジハロアニリン類;2,3,4−トリクロルアニリン、2,3,5−トリクロルアニリン、2,4,6−トリクロルアニリン、3,4,5−トリクロルアニリン等のトリハロアニリン類;2,2’−ジアミノ−4,4’−ジクロルジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノ−2’,4−ジクロルジフェニルエーテル等のジハロアミノジフェニルエーテル類およびこれらの混合物においてアミノ基がチオール基やヒドロキシル基に置き換えられた化合物などが例示される。また、これらの活性水素含有ポリハロ芳香族化合物中の芳香族環を形成する炭素原子に結合した水素原子が他の不活性基、例えばアルキル基などの炭化水素基に置換している活性水素含有ポリハロ芳香族化合物も使用出来る。これらの各種活性水素含有ポリハロ芳香族化合物の中でも、好ましいのは活性水素含有ジハロ芳香族化合物であり、特に好ましいのはジクロルアニリンである。
【0022】
ニトロ基を有するポリハロ芳香族化合物としては、例えば、2,4−ジニトロクロルベンゼン、2,5−ジクロルニトロベンゼン等のモノまたはジハロニトロベンゼン類;2−ニトロ−4,4’−ジクロルジフェニルエーテル等のジハロニトロジフェニルエーテル類;3,3’−ジニトロ−4,4’−ジクロルジフェニルスルホン等のジハロニトロジフェニルスルホン類;2,5−ジクロル−3−ニトロピリジン、2−クロル−3,5−ジニトロピリジン等のモノまたはジハロニトロピリジン類;あるいは各種ジハロニトロナフタレン類などが挙げられる。
【0023】
本発明で用いられるアルカリ金属硫化物としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム及びこれらの混合物が含まれる。かかるアルカリ金属硫化物は、水和物あるいは水性混合物あるいは無水物として使用することができる。また、アルカリ金属硫化物はアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物との反応によっても導くことができる。
【0024】
尚、通常、アルカリ金属硫化物中に微量存在するアルカリ金属水硫化物、チオ硫酸アルカリ金属と反応させるために、少量のアルカリ金属水酸化物を加えても差し支えない。
【0025】
本発明で用いられる有機極性溶媒としては、ホルムアミド、アセトアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、N−メチル−ε−カプロラクタム、ε−カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N−ジメチルプロピレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン酸などのアミド、尿素及びラクタム類;スルホラン、ジメチルスルホラン等のスルホラン類;ベンゾニトリル等のニトリル類;メチルフェニルケトン等のケトン類及びこれらの混合物を挙げることができ、これらの中でもN−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、N−メチル−ε−カプロラクタム、ε−カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N−ジメチルプロピレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン酸の脂肪族系環状構造を有するアミドが好ましい。
【0026】
ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応は、これらの有機極性溶媒の存在下、いわゆるスルフィド化剤と呼ばれる上記のアルカリ金属硫化物またはアルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、ポリハロ芳香族化合物とを反応させる。重合条件は一般に、温度200〜330℃の範囲であり、圧力は重合溶媒及び重合モノマーであるポリハロ芳香族化合物を実質的に液層に保持するような範囲であるべきであり、一般には0.1〜20MPaの範囲、好ましくは0.1〜2MPaの範囲より選択される。
【0027】
本発明で用いるポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法の具体的態様の一つとして、1)例えば、ポリハロ芳香族化合物の存在下、アルカリ金属硫化物、又は、含水アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、脂肪族環状構造を有するアミド、尿素またはラクタムとを、脱水させながら反応させて固形のアルカリ金属硫化物を含むスラリーを製造する工程、該スラリーを製造した後、更にNMPなどの極性有機溶媒を加え、水を留去して脱水を行う工程、次いで、脱水工程を経て得られたスラリー中で、ポリハロ芳香族化合物と、アルカリ金属水硫化物と、前記脂肪族環状構造を有するアミド、尿素またはラクタムの加水分解物のアルカリ金属塩とを、NMPなどの極性有機溶媒1モルに対して反応系内に現存する水分量が0.02モル以下で反応させて重合を行う工程を必須の製造工程として有するポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法が挙げられる。
【0028】
アミド基含有環状炭化水素化合物の存在下、アルカリ金属硫化物又はアルカリ金属水硫化物と芳香族ポリハロゲン化合物とを重合させるその他の具体的方法としては、
2)アルカリ金属カルボン酸塩またはハロゲン化リチウム等の重合助剤を使用する方法、
3)芳香族ポリハロゲン化合物等の架橋剤を使用する方法、
4)少量の水の存在下に重合反応を行い次いで水を追加してさらに重合する方法、
5)アルカリ金属硫化物と芳香族ジハロゲン化合物との反応中に、反応釜の気相部分を冷却して反応釜内の気相の一部を凝縮させ液相に還流させる方法、等が挙げられる。
これらの中でも特に、副生成物の生成が少なく、かつ、直鎖状で高分子量を有するポリアリーレンスルフィド樹脂が容易に低コストで得られる点から前記1)の方法が好ましい。
【0029】
本発明においては、オリゴアリーレンスルフィドと、ポリハロ芳香族化合物とアルカリ金属硫化物とを反応させて、オリゴアリーレンスルフィド(1)、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物(2)、有機極性溶媒(3)、ポリアリーレンスルフィド(4)及びアルカリ金属ハロゲン化物(5)を含む粗反応混合物を得るか、または、オリゴアリーレンスルフィドとポリハロ芳香族化合物とアルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させてオリゴアリーレンスルフィド(1)、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物(2)、有機極性溶媒(3)、ポリアリーレンスルフィド(4)及びアルカリ金属ハロゲン化物(5)を含む粗反応混合物を得る形態も包含する。
【0030】
なお、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造時に、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造原料として、例えば、有機極性溶媒がN−メチル−2−ピロリドン、ポリハロ芳香族化合物がp−ジクロロベンゼンである場合には前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物として、下記一般式(1’)
【0031】
【化1】
(式中、Xはアルカリ金属原子または水素原子を表す。)で表されるものが主として得られる(この化合物を“CP−MABA”と略記する)。
【0032】
続いて、工程(1)は、工程(1a)で得られた上記粗反応混合物を有機極性溶媒(6)で洗浄して、ポリアリーレンスルフィド(4)及びアルカリ金属ハロゲン化物(5)を分離除去して、オリゴアリーレンスルフィド(1)、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物(2)、有機極性溶媒(3)および(6)を含む反応混合物(a1)を製造する方法を工程(1b)として有する。
【0033】
上記粗反応混合物からポリアリーレンスルフィド(4)及びアルカリ金属ハロゲン化物(5)を分離除去して、オリゴアリーレンスルフィド(1)、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物(2)および有機極性溶媒(3)を含む反応混合物(a1)を得る方法に特に制限は無く、例えば必要に応じて有機極性溶媒(3)の一部もしくは大部分を蒸留等の固液分離操作により除去した後に、得られたスラリーに有機極性溶媒(6)を混和し、10〜200℃、好ましくは50〜150℃、より好ましくは80〜130℃の範囲で接触させることにより、ポリアリーレンスルフィド(4)及びアルカリ金属ハロゲン化物(5)を含む固形成分を簡易な濾過操作で分離し、オリゴアリーレンスルフィド(1)、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物(2)および有機極性溶媒(3および6)を含む反応混合物(a1)を濾液成分として得ることができる。
【0034】
この様な有機極性溶媒(6)としては、オリゴアリーレンスルフィド(1)の溶解を行う環境においてオリゴアリーレンスルフィド(1)は溶解するがポリアリーレンスルフィド樹脂(4)は溶解しにくい溶剤が好ましく、ポリアリーレンスルフィド樹脂(4)は溶解しない溶剤がより好ましい。前記スラリーと有機極性溶剤(6)とを接触させる際の圧力は常圧もしくは加圧いずれでも良いが、0.1〜0.5〔MPa〕の範囲の加圧下で行うことが好ましい。用いる有機極性溶剤(6)としてはポリアリーレンスルフィド樹脂(4)の分解や架橋など好ましくない副反応を実質的に引き起こさないものが好ましく、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、2,6−ジクロロトルエン等のハロゲン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒、ホルムアミド、アセトアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、N−メチル−ε−カプロラクタム、ε−カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N−ジメチルプロピレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン酸などのアミド、尿素及びラクタム類、ジメチルスルホキシド、トリメチルリン酸、N,N−ジメチルイミダゾリジノン、メチルエチルケトンなどの極性溶媒を例示できる。
【0035】
前記スラリーと有機極性溶剤(6)とを接触させる際の雰囲気に特に制限はないが、接触させる際の温度や時間などの条件によってポリアリーレンスルフィド樹脂(4)や有機極性溶媒(6)が酸化劣化するような場合には、非酸化性雰囲気下で行うことが望ましい。
【0036】
・工程(2)
工程(2)は、工程(1)に続いて、前記反応混合物(a1)から前記有機極性溶媒を固液分離して、オリゴアリーレンスルフィド(1)およびカルボキシアルキルアミノ基含有化合物(2)を含む反応混合物(a2)を得る工程である。
【0037】
前記濾液成分として得られた反応混合物(a1)から有機極性溶媒(3)および(6)を除去する方法は、たとえば溶媒を蒸発させて溶媒回収し、同時に固形物も回収する、いわゆるフラッシュ法や、膜を利用した溶剤の除去を例示できる。有機極性溶剤を除去する際、固形物(不揮発分)の割合が20〜100〔質量%〕、好ましくは20〜99.99〔質量%〕、さらに好ましくは30〜90〔質量%〕の範囲となるよう溶剤を除去することが望ましい。加熱による溶剤の除去を行う際の温度は用いる溶剤の特性に依存するため一意的には限定できないが、通常、20〜150℃、好ましくは40〜120℃の範囲が選択できる。また、溶剤の除去を行う圧力は常圧以下が好ましく、これにより溶剤の除去をより低温で行うことが可能になる。
【0038】
・工程(3)
工程(3)は、工程(2)に続いて、該反応混合(a2)を、オリゴアリーレンスルフィド(1)とカルボキシアルキルアミノ基含有化合物(2)とに分離する工程である。
【0039】
工程(3)において、オリゴアリーレンスルフィド(1)とカルボキシアルキルアミノ基含有化合物(2)との分離は、完全である必要はなく、例えば、前記該反応混合(a2)を、必要に応じて前処理として20〜100℃の範囲の条件下で水洗処理した後に、オリゴアリーレンスルフィド(1)は溶解しない、または溶解しにくいものの、アルキルアミノ基含有化合物(2)は溶解する溶媒と接触させる方法が挙げられる。
【0040】
工程(3)において、前記必要に応じて行う前処理としての水洗処理は、例えば反応混合(a2)に水を加えて撹拌した後にろ過装置を用いてろ過する方法、前記したろ過によって得られた水分を含有するろ過残渣(以下「含水ケーキ」と略記する。)に再度水を加えてスラリーとした後にろ過する方法、または前記含水ケーキがろ過器に保持された状態で再度水を加えろ過する方法等が挙げられる。
アミノ基含有化合物(2)は溶解する溶媒と接触させる方法が挙げられる。
【0041】
前記必要に応じて行う水洗処理の際に加える水の量は、最終的に得られるオリゴアリーレンスルフィド(1)の理論収量に対して2倍〜10倍の範囲にあることが洗浄効率の点から好ましく、上記の量の水を2〜10回、好ましくは2〜4回に分割して水洗に供することが好ましい。前記水洗処理時の水の温度は50〜90℃の範囲であることが、やはり洗浄効率が良好となる点から好ましく、なかでも70〜90℃の範囲であることが特に好ましい。
【0042】
必要に応じて行う水洗処理はバッチ処理として複数回行うことができる。複数回行う際には、例えば、50〜90℃で洗浄を行う。複数回繰り返し水洗浄する場合、前記温度条件は同一でも異なっていても良い。
【0043】
工程(3)において、オリゴアリーレンスルフィド(1)とカルボキシアルキルアミノ基含有化合物(2)を含む反応混合(a2)は、必要に応じて水洗処理を行った後、オリゴアリーレンスルフィド(1)は溶解しない、または溶解しにくいものの、アルキルアミノ基含有化合物(2)は溶解する溶媒と接触させる。
【0044】
オリゴアリーレンスルフィド(1)は溶解しない、または溶解しにくいものの、アルキルアミノ基含有化合物(2)は溶解する溶媒の具体例としては、オリゴアリーレンスルフィド(1)の分解や架橋など好ましくない副反応を実質的に引き起こさないものであれば特に限定されるものではないが、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン等の炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン、アセトフェノン等のケトン系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ペンチル、酢酸オクチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸ペンチル、サリチル酸メチル、蟻酸エチル、等のカルボン酸エステル系溶媒、と言った有機溶媒や、水が例示でき、なかでもメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチルが好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、アセトン、酢酸エチル、水が特に好ましいものとして挙げられる。これらの有機溶媒は1種類または2種類以上の混合物として使用することができる。
【0045】
工程(3)において、圧力条件としては、常圧または加圧条件下で行うことが出来る。加圧する場合は、優れた所定の精製効果を発揮しつつ、前記化合物(1)の溶媒への溶解を促進させるために、0.02〜0.1〔MPa〕(ゲージ圧)で行うことが好ましい。加圧する雰囲気としては、安全性の面から窒素ガス、アルゴンガス、ネオンガス等の不活性ガスとの混合ガスを用いても良いが、経済性の面から、空気を用いることが最も好ましい。
【0046】
工程(3)において、オリゴアリーレンスルフィド(1)とカルボキシアルキルアミノ基含有化合物(2)と溶媒を接触させる際の温度は、本発明の効果を損なわなければ特に限定されることはなく、例えば、20℃以上の範囲であればよいが、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物(2)の水への溶解度がより顕著となりカルボキシアルキルアミノ基含有化合物(2)とオリゴアリーレンスルフィド(1)の分離がより効率的に行えることから、加圧条件下で、100℃超、好ましくは120℃以上、より好ましくは140℃以上である。また、この際の温度の上限は特に限定されないが、200℃以下、より好ましくは180℃以下である。
【0047】
特に、工程(3)において、加圧条件下でカルボキシアルキルアミノ基含有化合物(1)とオリゴアリーレンスルフィドと水を接触させる際は、酸や塩基を添加してpHを6以上、好ましくは6.5〜11.5の範囲に調整をすることによって、前記化合物(1)の水への溶解度等を制御することが好ましい。100℃超の熱水洗の際に塩基を添加して熱水洗後のpHを9.5〜11.5にすると、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物(2)の酸性型末端(H型末端)が塩基性型末端(Na型末端)に変換されるためカルボキシアルキルアミノ基含有化合物(2)の水への溶解度がさらに高められるため好ましい。
【0048】
ここで用いられる酸は、例えば、塩酸、硫酸、炭酸、酢酸等が挙げられ、これらの中でも炭酸や酢酸が好ましい。また用いられる塩基性化合物は水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、または炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、リン酸ナトリウム等が挙げられ、これらの中でも水酸化ナトリウムが好ましい。pHの測定方法は、例えば、スラリーに対して酸を添加する場合には該スラリーを濾過した濾液のpHを測定する方法が挙げられる。
【0049】
また、工程(3)において、加圧条件下でオリゴアリーレンスルフィド(1)とカルボキシアルキルアミノ基含有化合物(2)と溶媒を接触させる際に用いる溶媒の量についても、水分子が液体として存在する量であれば特に制限は無い。加圧条件下、密閉系内の溶媒の圧力が、その温度での飽和蒸気圧に達していれば、溶媒が液体として存在するが、本発明においては、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物(2)が効率的に溶媒に溶解できるためには、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物(2)100質量部に対して、100〜1000質量部の範囲が好ましく、さらに100〜1000質量部の範囲がより好ましく、200〜800質量部の範囲がさらに好ましい。
【0050】
本発明においては、加圧条件下でカルボキシアルキルアミノ基含有化合物(2)とオリゴアリーレンスルフィドと水との接触は連続的に行っても良いし、バッチ式に行ってもいずれでも良い。
【0051】
本発明においては、加圧条件下でオリゴアリーレンスルフィド(1)と前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物(2)と溶媒とを接触させる際に用いる容器は、前記化合物(2)を液層に溶解可能な密閉型あるいは密閉可能な混合機能を有す容器であり、本発明の目的を達成可能なものであるなら何れのものでもよいが、容器内部に撹拌翼を有し、且つ、底部に濾過用フィルターが配設された密閉型あるいは密閉可能な混合機能を有す容器などが挙げられる。
【0052】
工程(3)において、オリゴアリーレンスルフィド(1)と前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物(2)を含む反応混合(a2)は、必要に応じて水洗処理を行った後、オリゴアリーレンスルフィド(1)は溶解しない、または溶解しにくいものの、アルキルアミノ基含有化合物(2)は溶解する溶媒と接触させ、その後、必要に応じて濾過し、イオン交換水を加えて20〜90℃の範囲で再度濾過して、液層として塩基性型末端(Na型末端)に変換された前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物(2)を分離して、固形分としてオリゴアリーレンスルフィド(1)を回収する。しかしながら、このようにして反応混合(a2)から固液分離して得られた固形分はオリゴアリーレンスルフィド(1)を高濃度に含む。上記固液分離操作は1回または複数回行い、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物(1)0.00〜40質量%とオリゴアリーレンスルフィド100.00〜60質量%とを含む組成物(α)、好ましくはカルボキシアルキルアミノ基含有化合物(1)0.01〜20質量%とオリゴアリーレンスルフィド99.99〜80質量%とを含む組成物(α)となるまで行うことが好ましい。
組成物(α)中のカルボキシアルキルアミノ基含有化合物(1)が20質量%以下の範囲であると、ポリアリーレンスルフィド樹脂の溶融重合時の反応性が良くなり、一方、0.01質量%以下の範囲であれば、過剰な固液分離が不要となり生産性が向上するため好ましい。
【0053】
回収して得られたオリゴアリーレンスルフィド(1)を高濃度で含有する組成物(α)は、そのまま乾燥して粉末を得ても良いし、更に数回の水洗処理した後、固液分離し、乾燥を行って粉末として得ても良い。また乾燥は実質的に水が蒸発する温度に加熱して行う。乾燥は真空下で行っても良いし、空気中あるいは窒素のような不活性雰囲気下で行っても良い。
【0054】
なお、オリゴアリーレンスルフィド(1)中には、下記構造式(2)
【0055】
【化2】
(ただし、式中、Arはアリーレン構造を表し、m=2〜50、好ましくは4〜13である。)で表される環式ポリアリーレンスルフィド(2a)を50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上から100質量%以下、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下の範囲といった高純度で含有する。なお、残りの成分としては下記構造式(3)および(4)
【0056】
【化3】
(式中、Yハロゲン原子を表す。)で表される2量体ないし3量体成分などが0質量%以上、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上から、50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下の範囲となる割合で挙げられる。
【0057】
・PASの製造方法
本発明は、上記工程(1)〜(3)を経ることによって、オリゴアリーレンスルフィド(1)を含む組成物(α)として得られたものを原料として用い、溶融重合することにより、ポリアリーレンスルフィド樹脂を製造することができる。
【0058】
本発明において溶融重合は循環ラインを備えた溶融混練装置に供給し、非酸化性雰囲気下で、循環させながら溶融混練を行い、オリゴアリーレンスルフィドの融点以上で、オリゴアリーレンスルフィドを溶融した状態で行ってもよいが、オリゴアリーレンスルフィドの熱劣化の可能性が高まるため、融点プラス100℃以下で行うことが好ましい。ただし、ここでの融点とは、示差走査熱量計(パーキンエルマー製DSC装置 Pyris Diamond)を用いてJIS K 7121に準拠して測定したものをさす。
【0059】
溶融時間は、予備実験等で溶融時間と樹脂の溶融粘度との関係をプロットしておき、所定範囲の溶融粘度の範囲となるよう適宜調整して決定すればよい。
本発明で用いる溶融混練装置は、循環ラインを備え、溶融混練物を循環させながら溶融重合することができれば特に制限されないが、スクリュー先端方向に送られた前記原料の溶融混練物を再度後端方向に移行できる循環ラインを備えたものであることが好ましい。
【0060】
本発明で用いる溶融混練装置を用いたポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法について、さらに図面を参照しながら具体的に説明する。
【0061】
計量されたオリゴアリーレンスルフィド(1)を含む組成物(α)は、投入口1より投入され、溶融混練機2に供給される。供給されたオリゴアリーレンスルフィド(1)を含む組成物(α)は溶融混練機2内に設置された原料を推進させるためのフライト3を有し、かつ、フライト3が相互にかみ合った二軸のスクリュー4で混練され、混練物(溶融重合体)となる。混練物(溶融重合体)は循環ライン5を通って供給口6から溶融混練機2に供給され、循環される。その際、溶融混練物はスクリュー先端方向に送られた排出口7より一旦排出され、循環ライン5を通って、再度後端方向に移行できる供給口6から溶融混練機2に供給されることが好ましい。なお、溶融混練開始時には、供給口6に設置されたバルブ11は閉とし、循環ライン5に混練物が充満し、循環した後に開とすることが好ましい。溶融混練後、得られた溶融重合体は、排出口7を通り、払い出しライン8を通り、払い出しノズル(図示せず)またはダイヘッドを経て吐出される。
【0062】
ここで、本発明に用いる溶融混練機2としては単軸スクリュー型でも二軸スクリュー型でもいずれでもよい。溶融混練機2としては、回転数が25〜300rmpで、押出量が 1〜100kg/hrの能力のものが生産機として好ましい。本発明で用いる溶融混練装置は、溶融混練機2に循環ライン5を設けたものであり、このラインを通して混練物を循環させることにより、滞留時間を長くして溶融重合反応を十分に進行させるものである。この際の滞留時間は、前述のように、適宜調整すればよいが、5〜120分の範囲であり、滞留時間がこの範囲になるように循環ライン5に設けたギアポンプ(図示せず)の能力や循環ラインの管径等を設定すればよい。
【0063】
このように、本発明は、混練物(溶融重合体)を循環させながら混練および反応を進行させるため、溶融重合反応を容易に制御できるだけでなく、通常用いられる溶融重合装置と同等規模の装置で、高分子量かつ発生ガスの少ないポリアリーレンスルフィド樹脂を生産性よく製造することができる。
【0064】
本発明において溶融重合は、酸化架橋反応を防ぎつつ、かつ高重合度体を得ることができる観点から非酸化性雰囲気下で行う。なお、本発明において非酸化性雰囲気とは、気相の酸素濃度が5体積%未満、好ましくは2体積%未満、更に好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることを指す。
【0065】
また、本発明において溶融重合は、溶媒を実質的に含まない条件下で行うことが好ましい。溶媒を実質的に含まない条件であるとは、オリゴアリーレンスルフィド(1)を含む組成物(α)100質量部に対して、溶媒が10質量部以下、好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは1質量部以下から、0質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、さらに好ましくは0.1質量部以上の範囲であることを意味する。
【0066】
また、本発明において溶融重合の原料としてオリゴアリーレンスルフィド(1)を含む組成物(α)100質量部に対し、50質量部以下、好ましくは0〜50質量部、より好ましくは0〜10質量部の範囲でポリアリーレンスルフィド樹脂(β)を含む条件下で加熱処理を行うことができる。
【0067】
ここで、ポリアリーレンスルフィド樹脂(β)としては、本発明の効果を損なうものでなければ特に制限されるものではなく、例えば前記工程(1b)で分離除去した、ポリアリーレンスルフィド(4)及びアルカリ金属ハロゲン化物(5)を回収し、さらに水と接触させてアルカリ金属ハロゲン化物(5)を濾別するなどの公知の精製工程を施して得られたものを用いることができる。
【0068】
前記溶融混練装置を用いて溶融重合により得られた本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂を含む反応生成物は、そのまま直接、樹脂組成物を製造するための溶融混練機に投入することもできるが、当該反応生成物に当該反応生成物が溶解する溶媒を加えて溶解物を調製し、当該溶解物の状態で反応装置から反応生成物を取り出すことが、生産性に優れるだけでなく、さらに反応性も良好となるため好ましい。当該反応生成物が溶解する溶媒の添加は、溶融重合後に行うことが好ましいが、溶融重合の反応後期に行ってもよく、また、上記のとおり溶融混合物(反応生成物)を冷却して固体状態の混合物を得た後、加圧下、減圧下、又は非酸化性雰囲気の大気圧下で、混合物を加熱して重合反応を更に進行させた後であってもよい。当該溶解物を調製する工程は、非酸化性雰囲気下で行ってもよい。また、加熱溶解の温度としては、前記反応生成物が溶解する溶媒の融点以上の範囲であればよく、好ましくは200〜350℃の範囲、より好ましくは210〜250℃の範囲であり、加圧下で行うことが好ましい。
【0069】
前記溶解物を調製するために用いる、前記反応生成物が溶解する溶媒の配合割合は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を含む反応生成物100質量部に対して、好ましくは90〜1000質量部、より好ましくは200〜400質量部の範囲である。
【0070】
反応生成物が溶解する溶媒としては、例えば、フィリップス法等の溶液重合において重合反応溶媒として用いられる溶媒を用いることができる。好ましい溶媒の例としては、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略記)、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン酸、ε−カプロラクタム、N−メチル−ε−カプロラクタム等の脂肪族環状アミド化合物、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)、テトラメチル尿素(TMU)、ジメチルホルムアミド(DMF)、及びジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド化合物、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル(重合度は2000以下で、炭素数1〜20のアルキル基を有するもの)等のエーテル化ポリエチレングリコール化合物、並びに、テトラメチレンスルホキシド、及びジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド化合物が挙げられる。その他の使用可能な溶媒の例として、ベンゾフェノン、ジフェニルエーテル、ジフェニルスルフィド、4,4’−ジブロモビフェニル、1−フェニルナフタレン、2,5−ジフェニル−1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ジフェニルオキサゾール、トリフェニルメタノール、N,N−ジフェニルホルムアミド、ベンジル、アントラセン、4−ベンゾイルビフェニル、ジベンゾイルメタン、2−ビフェニルカルボン酸、ジベンゾチオフェン、ペンタクロロフエノール、1−ベンジル−2−ピロリジオン、9−フルオレノン、2−ベンゾイルナフタレン、1−ブロモナフタレン、1,3−ジフェノキシベンゼン、フルオレン、1−フェニル−2−ピロリジノン、1−メトキシナフタレン、1−エトキシナフタレン、1,3−ジフェニルアセトン、1,4−ジベンゾイルプタン、フェナントレン、4−ベンゾイルビフェニル、1,1−ジフェニルアセトン、o,o’−ビフェノール、2,6−ジフェニルフェノール、トリフェニレン、2−フェニルフェノール、チアントレン、3−フェノキシベンジルアルコール、4−フェニルフェノール、9,10−ジクロロアントラセン、トリフェニルメタン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、9,10−ジフェニルアントラセン、フルオランテン、ジフェニルフタレート、ジフェニルカルボネート、2,6−ジメトキシナフタレン、2,7−ジメトキシナフタレン、4−ブロモジフェニルエーテル、ピレン、9,9’−ビ−フルオレン、4,4’−イソプロピルリデン−ジフェノール、イプシロン−カプロラクタム、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン、ジフェニルイソフタレート及びジフェニルーターフタレート及び1−クロロナフタレンからなる群から選ばれる1種以上の溶媒が挙げられる。
【0071】
反応装置から取り出された当該溶解物は、後処理を行った後、他の成分と溶融混練して樹脂組成物を調製することが、反応性がより良好となるため好ましい。溶解物の後処理の方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、以下の方法が挙げられる。
【0072】
処理(1)当該溶解物を、そのまま、又は酸若しくは塩基を加えた後、減圧下又は常圧化で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を水、当該溶解物に用いた溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)、アセトン、メチルエチルケトン、及びアルコール類などから選ばれる溶媒で1回又は2回以上洗浄し、更に中和、水洗、濾過及び乾燥する方法。
【0073】
処理(2)当該溶解物に水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール、エーテル、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、及び脂肪族炭化水素などの溶媒(当該溶解物の溶媒に可溶であり、且つ少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂に対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、ポリアリーレンスルフィド樹脂及び無機塩等を含む固体状生成物を沈降させ、固体状生成物を濾別、洗浄及び乾燥する方法。
【0074】
処理(3)当該溶解物に、当該溶解物に用いた溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて撹拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、及びアルコールなどから選ばれる溶媒で1回又は2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過及び乾燥をする方法。
【0075】
なお、上記処理(1)〜(3)に例示したような後処理方法において、ポリアリーレンスルフィド樹脂の乾燥は真空中で行なってもよいし、空気中又は窒素のような不活性ガス雰囲気中で行なってもよい。酸素濃度が5〜30体積%の範囲の酸化性雰囲気中又は減圧条件下で熱処理を行い、分岐型ポリアリーレンスルフィド樹脂を、さらに酸化架橋させることもできる。
【0076】
以上説明したように、本発明の製造方法は、循環ラインという簡便な機構を備えた溶融混練装置を用いることで、オリゴアリーレンスルフィドから、高分子量かつ発生ガスの少ないポリアリーレンスルフィド樹脂を簡便かつ生産性良く製造することができる。その結果、生産設備の大型化と操作の煩雑性とを防ぎ、また、成形時における臭気問題を改善するだけでなく、金型汚れを防止し、メンテナンス性向上を図ることができる。
【0077】
・ポリアリーレンスルフィド樹脂
本発明の製造方法により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂の溶融粘度、非ニュートン指数、質量平均分子量、分子量分布の広がりと言った各物性は特に特定されるものではないが、好ましくは以下の通りである。
(溶融粘度)
300℃で測定した溶融粘度(V6)は5〜1,000〔Pa・s〕の範囲のものであることが好ましい。ただし、300℃で測定した溶融粘度(V6)とは、フローテスターを用いて、温度300℃、荷重1.96MPa、オリフィス長とオリフィス径との、前者/後者の比が10/1であるオリフィスを使用して6分間保持した後の溶融粘度を表す。
【0078】
(非ニュートン指数)
非ニュートン指数は0.90〜1.25の範囲であることが好ましく、さらに0.95〜1.15の範囲であることがより好ましく、さらに0.95〜1.10の範囲であることがより好ましい。このようなポリアリーレンスルフィド樹脂は機械的物性、流動性、耐磨耗性に優れる。ただし、非ニュートン指数(N値)は、キャピログラフを用いて300℃、オリフィス長(L)とオリフィス径(D)の比、L/D=40の条件下で、剪断速度及び剪断応力を測定し、下記数式(I)を用いて算出した値である。
【0079】
【数1】
[ただし、SRは剪断速度(秒−1)、SSは剪断応力(ダイン/cm)、そしてKは定数を示す。]N値は1に近いほどPPSは線状に近い構造であり、N値が高いほど分岐が進んだ構造であることを示す。
【0080】
(質量平均分子量)
質量平均分子量は10,000〜1,000,000の範囲が好ましく、20,000〜500,000の範囲がより好ましく、さらに40,000〜100,000の範囲が最も好ましい。
【0081】
(分子量分布の広がり)
分子量分布の広がり、すなわち質量平均分子量と数平均分子量の比(質量平均分子量/数平均分子量)で2.5以上が好ましく、さらに3.0以上の範囲であることがより好ましい。
【0082】
さらに、本発明の製造方法により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂は、従来のポリアリーレンスルフィド樹脂と同様に、本発明の目的を逸脱しない範囲で、離型剤、着色剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、発泡剤、防錆剤、難燃剤、滑剤、カップリング剤、充填材など公知慣用の添加剤を含有せしめることができる。更に、同様に下記のごとき合成樹脂及びエラストマーを混合して使用することもできる。これら合成樹脂としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ四弗化エチレン、ポリ二弗化エチレン、ポリスチレン、ABS樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等が挙げられ、エラストマーとしては、ポリオレフィン系ゴム、弗素ゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。
【0083】
また、本発明の製造方法により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂は、重合度が高く、高分子量体であることから機械的強度に優れるだけでなく、さらにエポキシシランカップリング剤や官能基含有熱可塑性エラストマーなどの耐衝撃性改質剤との反応性に優れ、従来のポリアリーレンスルフィド樹脂と同様に、そのまま射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形のごとき各種溶融加工法により、耐熱性、成形加工性、寸法安定性等に優れた成形物にすることができ、例えば、コネクタ・プリント基板・封止成形品などの電気・電子部品、ランプリフレクター・各種電装部品などの自動車部品、各種建築物や航空機・自動車などの内装用材料、あるいはOA機器部品・カメラ部品・時計部品などの精密部品等の射出成形・圧縮成形品、あるいは繊維・フィルム・シート・パイプなどの押出成形・引抜成形品等として幅広く利用可能である。
【実施例】
【0084】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。
【0085】
(CP−MABAの定量方法)
CP−MABA量はHPLCで液中のCP−MABA濃度を測定し、算出した。
サンプル調製:有機溶媒中にCP-MABAが含まれる場合は、溶媒をエバポレータで溶媒を留去したたのち、残渣にHPLCの移動相を加え溶解して測定サンプルを調製した。水溶液中にCP−MABAが含まれる場合は、そのまま移動相を加えて調製した。
測定サンプルのHPLC測定を行い、下記の方法で作製した標準サンプルと同じ保持時間のピーク面積と検量線とから液中の濃度を求め、算出した。
【0086】
(標準物質:CP−MABAの合成)
48%NaOH水溶液83.4g(1.0モル)とN‐メチル‐2‐ピロリドン297.4g(3.0モル)を、撹拌機付き耐圧容器に仕込み、230℃で3時間撹拌した。この撹拌が終了した後、温度230℃のままバルブを開き、放圧し、N‐メチル‐2‐ピロリドンの蒸気圧程度である230℃において0.1MPaまで圧力を低下させ、水を留去した。その後、再び密閉し200℃程度まで温度を低下させた。
【0087】
p−ジクロロベンゼン147.0g(1.0モル)を60℃以上の温度条件下で加熱溶解して反応混合物中に投入し、250℃まで昇温後4時間撹拌した。この撹拌が終了した後、室温まで冷却した。p−ジクロロベンゼンの反応率は31モル%であった。冷却後、内容物を取り出し、水を加えて撹拌後、未反応のp−ジクロロベンゼンが不溶物となって残ったものをろ過によって取り除いた。
【0088】
次いで、ろ液である水溶液に塩酸を加えて該水溶液のpHを4に調整した。このとき水溶液中に褐色オイル状のCP−MABA(水素型)が生じた。そこにクロロホルムを加えて褐色オイル状物質を抽出した。このときの水相には、N‐メチル‐2‐ピロリドン及びその開環物である4−メチルアミノ酪酸(以下「MABA」と略記する。)が含まれるため水相は廃棄した。クロロホルム相は水洗を2回繰り返した。
【0089】
クロロホルム相に水を加えてスラリー化した状態で48%NaOH水溶液を加え、該スラリーのpHを13に調整した。このときCP−MABAはナトリウム塩となって水相に移り、クロロホルム相には副生成物であるp−クロロ−N−メチルアニリン及びN−メチルアニリンが溶解しているためクロロホルム相は廃棄した。水相はクロロホルム洗浄を2回繰り返した。
【0090】
水溶液に希塩酸を加えて該水溶液のpHを1以下に調整した。このときCP−MABAは塩酸塩となって水溶液中にとどまるので、水溶液にクロロホルムを加えて、副生成物であるp−クロロフェノールを抽出した。p−クロロフェノールが溶解したクロロホルム相は廃棄した。
【0091】
残った水溶液に48%NaOH水溶液を加え、該水溶液のpHを4に調整した。これにより、CP−MABAの塩酸塩が中和され、褐色オイル状のCP−MABA(水素型)が水溶液から析出した。CP−MABA(水素型)をクロロホルムで抽出し、クロロホルムを減圧除去することによってCP−MABA(水素型)を得た。
【0092】
(加熱時質量減少率測定)
リガク製示差熱天秤TG8120を用い、サンプル10mgを秤量し、50℃から400℃まで20℃/minで昇温し、100℃時点のサンプル質量を基準に320℃時点のサンプル質量減少量を測定し、質量減少率を算出した。加熱時質量減少率(%)が低い程、発生ガスが抑制されていることを示す。
【0093】
(融点測定)
パーキンエルマー製DSC装置を用い、50℃から350℃まで20℃/minで昇温し、ポリマーが溶融した時に現れる吸熱ピークのピーク温度(Tm)を測定した。
【0094】
(溶融粘度(V6))
フローテスター(島津製作所製高化式フローテスター「CFT−500D型」)を用い
て、温度300℃、荷重1.96MPa、オリフィス長とオリフィス径との、前者/後者
の比が10/1であるオリフィスを使用して6分間保持後の溶融粘度(Pa・s)を測定
した。
【0095】
(非ニュートン指数測定法)
非ニュートン指数(N値)は、キャピログラフを用いて300℃、オリフィス長(L)とオリフィス径(D)の比、L/D=40の条件下で、剪断速度及び剪断応力を測定し、上記数式(I)を用いて算出した。
【0096】
〔製造例1〕
(オリゴフェニレンスルフィドを含むポリフェニレンスルフィド樹脂の製造)
圧力計、温度計、コンデンサーを連結した撹拌翼付きオートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(60.3質量%NaS)1294.2質量部と、N‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)3000.0質量部を仕込んだ。窒素気流下攪拌しながら209℃まで昇温して、水309.6質量部を留出させた(残存する水分量は硫化ソーダ1モル当り11.3モル)。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、パラジクロロベンゼン(p−DCB)1479.0質量部及びNMP1200.0質量部を仕込んだ。液温150℃で窒素ガスを用いてゲージ圧で0.1MPaに加圧して昇温を開始した。液温260℃で3時間攪拌しつつ反応を進め、オートクレーブ上部を散水することにより冷却した。次に降温させると共にオートクレーブ上部の冷却を止めた。オートクレーブ上部を冷却中、液温が下がらないように一定に保持した。反応中の最高圧力は、0.85MPaであった。反応後、冷却し、温度170℃の時点でシュウ酸・2水和物18.9質量部をNMP6630質量部に含む溶液を加圧注入し、30分間撹拌後、冷却した。
【0097】
得られた反応スラリー全量を120℃でろ過し、NMP3200質量部を加えケーキ洗浄ろ過した。NMPろ液量は5360質量部であった。得られた含NMPケーキ全量に70℃のイオン交換水10000質量部を加えて10分間攪拌した後にろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水10000質量部を加えケーキ洗浄を行った。得られた含水ケーキにイオン交換水10000質量部を加えて10分間攪拌した後にろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水10000質量部を加えケーキ洗浄を行った。この操作をもう一度繰り返した後、120℃で4時間乾燥し、溶融粘度(V6)63Pa・s、収量969質量部のPPS樹脂を得た。
【0098】
(オリゴフェニレンスルフィドとCP−MABAを含む反応混合物の回収)
上記NMPろ液5360質量部を1Lナスフラスコに仕込み、ロータリーエバポレーターを用いて、減圧下150℃でNMPを蒸留により除去し、茶色の固形状残渣183.5質量部を得た。この残渣を150℃真空乾燥機で1時間乾燥した後の質量は75.2質量部(オリゴフェニレンスルフィド50.9質量部とNa型CP−MABA24.320質量部を含む)で、固形状残渣の不揮発分は41.0wt%であった。ただし、オリゴフェニレンスルフィドとCP−MABAの定量は以下の方法で行った。
【0099】
(オリゴフェニレンスルフィドとCP−MABAの定量方法)
NMPろ液から回収したオリゴフェニレンスルフィドとCP−MABAを含む反応混合物にクロロホルムとイオン交換水と48%NaOH水溶液を加え、水相をpH13に調整した。オリゴフェニレンスルフィドを抽出したクロロホルム相からクロロホルムを減圧留去することでオリゴフェニレンスルフィドを得た。抽出残渣を150℃真空乾燥機で1時間乾燥した後の質量を秤量することによりオリゴフェニレンスルフィド量を求めた。水相をHPLCで定量することによりCP−MABA量を求めた。
【0100】
〔参考例1〕
(CP−MABAの分離)
製造例1で得られた固形状残渣183.5質量部とイオン交換水1000質量部をオートクレーブに仕込み、48%NaOH水溶液を添加してpHを10.6に調整し、180℃で60分間撹拌を行った。室温まで冷却した後、ろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水1000質量部を加えケーキ洗浄を行った。ろ液のpHは10.0で、ろ液中のNa型CP−MABA量は24.315質量部で、抽出率は99.98%であった。ケーキ洗浄後のケーキを60℃真空乾燥機で1時間乾燥した後、オリゴフェニレンスルフィド50.9質量部と、CP−MABA0.005質量部を含んだ乳白色の粉末状混合物(A−1)を得た。粉末状混合物(A−1)の融点はTm204℃であった。
【0101】
〔実施例1〕
(溶融重合によるPPS樹脂の製造)
PPS樹脂の製造は図1に示す溶融混練装置(DSM Explore社製「compounder15」)を用いて行った。上記粉末状混合物(A−1)を秤量し、投入口(1)より窒素雰囲気を充填した溶融混練装置内に投入した。その後、窒素雰囲気下、混練温度320℃、回転数250rpmで、溶融混練し、溶融混練物を循環ライン(5)を通して、循環させながら1時間滞留させた。溶融混練後、溶融混練物を排出口(7)、払い出しライン(9)を経由し、払い出しノズルからストランド状に押出した。得られたストランドを室温(23℃)まで冷却し、PPS樹脂(1)を得た。得られたPPS樹脂(1)は融点Tmが282(℃)、溶融粘度V6が580(Pa・s)、非ニュートン指数が1.23、加熱時質量減少率(%)が0.05%であった。
【0102】
〔参考例2〕
(CP−MABAの分離)
製造例1で得られた固形状残渣183.5質量部とクロロホルム1000質量部とイオン交換水1000質量部をオートクレーブに仕込み、48%NaOH水溶液を加えて水相をpH13に調整した。オリゴフェニレンスルフィドを抽出したクロロホルム相からクロロホルムを減圧留去した後、固形状残渣に再度クロロホルム100質量部を加え、室温で溶解した。これをメタノール1000質量部に撹拌しながらゆっくりと滴下し、沈殿物をろ過した。得られたケーキを60℃真空乾燥機で1時間乾燥した後、白色粉末状のオリゴフェニレンスルフィド50.9質量部(A−2)を得た。水相のNa型CP−MABA量は24.320質量部で、抽出率は100%であった。粉末状生成物(A−2)の融点はTm204℃であった。
【0103】
〔実施例2〕
(溶融重合によるPPS樹脂の製造)
粉末状混合物(A−1)の代わりに上記粉末状生成物(A−2)を使用した以外は実施例1と同じ操作を行い、PPS樹脂(2)を得た。得られたPPS樹脂(2)の融点Tmは281(℃)、溶融粘度V6は600(Pa・s)、非ニュートン指数は1.23、加熱時質量減少率は0.05(%)であった。
【0104】
〔比較例1〕
粉末状混合物(A−1)を2軸混練押出機(東洋精機製作所製ラボプラストミル)を用い、窒素雰囲気下、樹脂成分吐出量20g/min、スクリュー回転数120rpm、設定温度320℃で溶融混練して押出し、得られた液状物を室温(23℃)まで冷却し、固形物(3)を得た。得られた固形物(3)は融点Tmが204(℃)のオリゴフェニレンスルフィドのままであった。
【0105】
〔比較例2〕
粉末状混合物(A−1)の代わりに、上記粉末状生成物(A−2)を使用した以外は比較例1と同じ操作を行い、固形物(4)を得た。得られた固形物(6)は融点Tmが204(℃)のオリゴフェニレンスルフィドのままであった。
【符号の説明】
【0106】
1 投入口
2 溶融混練機
3 フライト
4 スクリュー
5 循環ライン
6 供給口
7 排出口
8 払い出しライン
9 モーター
10 バルブ
11 バルブ
図1