【実施例】
【0037】
<脱溶剤率の測定方法>
前洗浄工程における凝固繊維束からの脱溶剤率は以下の手順で測定する。
・ バットを前洗浄工程部の洗浄液落下部に設置する。
・ 前洗浄工程部では付与した洗浄液は凝固繊維束を洗浄した後に落下するため、その落下液を1分間バットで受ける。
・ 得られた液の濃度c[%]と落下液流量L[g/分]を測定する。得られた液の濃度の測定の際には屈折率計を使用し、落下液量の測定の際には電子天秤で秤量することにより求めた。
・ 第一洗浄槽の濃度をc
1[%%]とすると前洗浄工程で脱落した溶剤量はL×(c−c
1)/100[g/分]となる。
【0038】
(実施例1)
以下、本発明の実施例について説明する。アクリロニトリル96.5質量%、アクリルアミド2.7質量%、メタクリル酸0.8質量%からなるアクリル系重合体を、アクリル系重合体21.2質量%、ジメチルアセトアミド78.8質量%の比率で混合溶解しアクリル系重合体溶液を得た。前記アクリル系重合体溶液を吐出孔径が0.075mmφである吐出孔を15000個有する紡糸ノズルの吐出孔から吐出量が180g/分で、DMAc/水=67/33質量%、38℃の凝固浴中に吐出して凝固繊維束とし、前記凝固繊維束を第1ロールを通って、駆動ロールである第2のローラーで引き上げた。引き上げ速度となる第1ローラーの表面速度は、8.0m/分であった。第1ローラー4と第2ローラー5との間の凝固繊維束の移送速度は引き上げ速度に対して1.0倍の速度である。第1ローラー4と第2のローラー5との間(
図2中のA部)の凝固繊維束に、前洗浄工程として第一洗浄槽の底部より抜き出した洗浄液を付与した。洗浄液温度は65℃、洗浄液のDMAc濃度は18.7質量%、吐出ノズルからの洗浄液の吐出量は1.0L/分、ノズルから噴出す洗浄液の圧力は50KPa、吐出線速度は9.4m/秒であった。使用したノズルはスプレーイングシステム社製の型番:B1/8HH−ss−3である。その後第2のローラー5と第3のローラー9の間で1.3倍に延伸し、65℃、DMAc濃度18.7%の第一洗浄槽6に導入した。
前洗浄工程での脱溶剤率を表1に示す。
【0039】
[計算例]
脱溶剤率を27.2%と算出した実際の計算例を示す。
実施例1に示すように、アクリル系重合体溶液は紡糸ノズルの吐出孔から吐出量が180g/分でDMAc67%の濃度の凝固浴に吐出される。凝固浴から引き上げられた凝固繊維束の含水分率[=(凝固浴あがり凝固繊維束(g)/絶乾凝固繊維束(g))×100]は250質量%であり、凝固繊維束に付着している溶剤濃度は凝固浴と同一、すなわち67%のDMAcであることから凝固繊維束が保有しているDMAc総量は180×67/100×250/100=301.5g/分である。
一方、前洗浄工程で脱落した溶剤量を求めるために凝固繊維束を洗浄した後に落下する液の流量とその濃度を測定すると、それぞれ762.8g/分、29.47%であった。従って、前洗浄工程で脱落した溶剤量は762.8×(29.47−18.7)/100=82.1g/分である。
脱溶剤率を(脱落した溶剤量)÷(前洗浄する前の凝固繊維束の保有溶剤量)×100と定義すると、本実施例での前洗浄工程での脱溶剤率は82.1÷301.5×100=27.2%となる。なお、前洗浄工程で凝固繊維束の保有溶剤が全て脱落した場合には脱溶剤率は100%となる。一般的に複数段の洗浄槽を通過した後は脱溶剤率がほぼ100%になるよう生産条件を決定している。
【0040】
(実施例2)
前洗浄工程の洗浄液付与位置を2段にし、前記位置を300mm離間し、それぞれのノズルから噴出す洗浄液の圧力を100KPa、洗浄液の付与量を0.5L/分、使用ノズルをスプレーイングシステム社製のB1/8HH−ss−1とした以外は、実施例1と同様の作製方法でアクリル繊維束を製造した。この時、2段目の付与場所も引き上げ速度に対して1.0倍で凝固繊維束が移送されているA部である。
その結果を表1に示す。この結果より2段付与の場合も十分な脱溶剤効果が発揮されることが分かる。
【0041】
(実施例3)
実施例1と同様の作製方法で得られたアクリル系重合体溶液を吐出孔数6000ホール、吐出孔径0.075mmφの口金を用いて、吐出量469.0g/分、引き上げ速度4.0m/分の条件とし、前洗浄工程として
図2中のA部に第一洗浄槽の洗浄液を底部より抜き出し、スプレーノズルを使用して吐出線速度6.8m/秒、65℃、50KPa、0.2L/分で付与した以外は、実施例1と同様の作製方法でアクリル繊維束を製造した。なお、スプレーノズルはスプレーイングシステム社製の型番:B1/8G−3001.4のノズルを使用した。
【0042】
(実施例4)
前洗浄部で配管7の先端の洗浄液の付与方法をスプレーノズルではなく、内径6mmのナイロンチューブを1本用いて、吐出線速度を0.1m/秒として吐出した以外は実施例3と同様にして、アクリル繊維束を得た。ナイロンチューブを使用する際は吐出圧は0KPaとなる。
【0043】
その結果、表1に示すように吐出線速度が6.8m/秒の時には十分な脱溶剤効果が発揮されるが、吐出線速度0.1m/秒の時は洗浄効果が低下するが、洗浄槽の直前で洗浄液を付与する場合に比較すると、洗浄効果は高いことが分かる。
【0044】
(実施例5)
実施例1と同様の作製方法で得られたクリル系重合体溶液を、吐出孔数12000ホール、吐出孔径0.075mmφの口金を用いて、吐出量290g/分、引き上げ速度4.0m/分の条件下で、DMAc/水=67/33質量%、38℃の凝固浴に紡出した。凝固浴から引き上げられた凝固繊維束は
図1中の第2のローラー5を通過して、65℃、DMAc濃度0%の第一洗浄槽6にて脱溶剤する。なお、本実施例では温度による効果を確認するために意図的に第一洗浄槽中の溶媒を純水に置換している。前洗浄工程として
図2中のA部に第一洗浄槽の洗浄液を底部より抜き出し、0.3L/分、50KPa、65℃、10.2m/秒で付与した。この間、凝固繊維束は引き取り速度に対して1.0倍の速度で移送される。前洗浄に使用したノズルはスプレーイングシステム社製の型番:B1/8HH−ss−1である。
【0045】
(実施例6)
前洗浄工程として洗浄液の付与温度を20℃とした以外は、実施例2と同様にして、アクリル繊維束を得た。
【0046】
実施例5と実施例6との洗浄液温度の違いによる脱溶剤効果について、表1に示すように65℃で付与する方が、脱溶剤効果が高いことが分かる。
【0047】
(比較例1)
前洗浄工程として凝固繊維束に洗浄液を付与した場所を引き上げ速度に対して1.3倍となる
図2中のB部とした以外は、実施例1と同様にして、アクリル繊維束を得た。
【0048】
その結果、表1に示すように延伸がかかっているB部では脱溶剤効果が極端に落ちることが分かる。
【0049】
【表1】