特許第6390216号(P6390216)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6390216
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】アクリル繊維束の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/18 20060101AFI20180910BHJP
   D01D 10/06 20060101ALI20180910BHJP
   D01D 5/06 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
   D01F6/18 Z
   D01D10/06
   D01D5/06 105A
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-138250(P2014-138250)
(22)【出願日】2014年7月4日
(65)【公開番号】特開2016-17230(P2016-17230A)
(43)【公開日】2016年2月1日
【審査請求日】2017年3月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山形 岳
(72)【発明者】
【氏名】前納 一裕
(72)【発明者】
【氏名】水鳥 由貴廣
(72)【発明者】
【氏名】池田 勝彦
【審査官】 清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第102677200(CN,A)
【文献】 特開平01−156507(JP,A)
【文献】 特開昭64−077619(JP,A)
【文献】 特開昭57−071414(JP,A)
【文献】 特開2007−321254(JP,A)
【文献】 特開平10−060735(JP,A)
【文献】 特開昭56−096947(JP,A)
【文献】 米国特許第04387476(US,A)
【文献】 米国特許第03037240(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00−6/96
9/00−9/32
D01D 1/00−13/02
D06B 1/00−23/30
D06C 3/00−29/00
D06G 1/00−5/00
D06H 1/00−7/24
D06J 1/00−1/12
D02G 1/00−3/48
D02J 1/00−13/00
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系重合体が溶剤に溶解したアクリル系重合体溶液を紡糸ノズルの複数の吐出孔から凝固浴中に吐出し、凝固浴中で凝固した凝固繊維束を凝固浴から第1のローラーにより引き上げ、洗浄槽に貯留された洗浄液中に導入して溶剤を除去する工程を有するアクリル繊維束の製造方法であって、
凝固浴から引き上げられた前記凝固繊維束に、前記凝固繊維束が第1のローラーを通過した後で前記洗浄槽に入る前に、前記洗浄槽から送液された洗浄液を付与する前洗浄工程を有し、
洗浄液が付与される凝固繊維束の速度が、凝固浴から引き上げられる凝固繊維束の引き上げ速度に対して0.8倍〜1.2倍であるアクリル繊維束の製造方法。
【請求項2】
前記前洗浄工程において、凝固繊維束に付与する洗浄液の温度が40℃以上98℃以下である請求項1に記載のアクリル繊維束の製造方法。
【請求項3】
前記前洗浄工程において凝固繊維束に洗浄液を付与する位置が凝固繊維束の進行方向に2箇所以上ある請求項1〜2のいずれか一項に記載のアクリル繊維束の製造方法。
【請求項4】
2箇所以上ある洗浄液を付与する前記位置間の各距離が200mm以上である請求項3記載のアクリル繊維束の製造方法。
【請求項5】
前洗浄工程において水平に走行している凝固繊維束に対して洗浄液を付与する請求項1〜4のいずれか一項に記載のアクリル繊維束の製造方法。
【請求項6】
前洗浄工程において前記洗浄液を凝固繊維束に付与する位置から1m以上後に、前記凝固繊維束を前記洗浄槽に導入する請求項1〜5のいずれか一項に記載のアクリル繊維束の製造方法。
【請求項7】
凝固繊維束の繊維本数が1000本以上80000本以下である請求項1〜6のいずれか一項に記載のアクリル繊維束の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル繊維束の製造方法に関する。更に詳しくは、溶剤を含む凝固繊維束の溶剤を効率良く脱溶剤するための洗浄する工程を有するアクリル繊維束の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にアクリル繊維の製造工程では重合体が溶剤に溶解した重合体溶液を紡糸ノズルの複数の吐出孔から溶剤を含む水溶液で満たされた凝固浴に吐出して凝固繊維束とし、前記凝固繊維束は繊維としての強力を付与し、かつ脱溶剤をさせるため少なくとも1槽の洗浄槽で洗浄すると共に延伸する。該洗浄槽の溶剤は原液に含まれる溶剤と同一溶剤の水溶液であることが、溶剤回収などから有利であり、洗浄槽が多段の場合は、後段の洗浄槽になる程、溶剤濃度が低下する。温度は後段の洗浄槽になる程、高温度にすることが脱溶剤、延伸の両方を満足させるのに一般的である。
一方、近年生産性向上の要求が急速に高まり、総繊度の太繊度化、高速化による生産性向上が図られてきた。しかしながら、総繊度の太繊度化、あるいは高速化すれば洗浄槽中での洗浄液の浸透が不十分になり脱溶剤が不足するという懸念が生じる。同時に、溶液の浸透が不十分になることで凝固糸束温度が中心まで上昇しないため延伸斑あるいは、糸切れを生じ、工程トラブルを引き起こすばかりか、分繊性が悪化しローラー等への膠着糸まで生ずることがある。
【0003】
特許文献1には、上記問題点に対して工程中の浴槽に於いて少なくとも一つの浴槽の槽入ローラー前と槽出ローラー後の凝固繊維束を該浴槽の一つ後の浴槽の浴液を繊維束にシャワーする事で解決する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−156507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
確かに特許文献1で開示されている技術を用いることで浴槽に入る前の凝固繊維束の脱溶剤は促進されるが、例えば凝固繊維束の総繊度が大きい場合、凝固繊維束の中まで洗浄液が浸透し難いので、溶剤濃度を所望の濃度まで下げるためには、多量の洗浄液を凝固繊維束にシャワーする必要がある。その結果として、洗浄槽内の洗浄抜液量が増大し、洗浄槽内で本来発揮されるべき脱溶剤効果が認められなくなるという問題が生じる。
【0006】
一般的には凝固繊維は延伸されるに従って凝固浴で付着した溶剤が繊維間内部に浸透するため、後の工程になるにつれて脱溶剤し難くなる。それゆえ、前洗浄部の付与場所は重要な課題になってくるが特許文献1では、第3紡糸浴の前後で洗浄液を付与しているが、第4紡糸浴までに6倍延伸しており、数倍延伸された凝固繊維束に洗浄液を付与している。特許文献1の第1図を見る限りではシャワー液の付与場所は洗浄槽の直近であり、2つ先の紡糸浴の浴液を抜き出していることから、工程全体としての脱溶剤効率を低減させている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は本発明によって解決される。
本発明は、アクリル系重合体が溶剤に溶解したアクリル系重合体溶液を紡糸ノズルの吐出孔から凝固浴中に吐出し、凝固浴中で凝固した凝固繊維束を凝固浴から引き上げ、洗浄槽に貯留された洗浄液中に導入して溶剤を除去する工程を有するアクリル繊維束の製造方法であって、
前記凝固繊維束が凝固浴から引き上げられた凝固繊維束に、前記洗浄槽から送液された洗浄液を付与する前洗浄工程を有し、
洗浄液が付与される凝固繊維束の速度が、凝固浴から引き上げられる凝固繊維束の引き上げ速度に対して0.8倍〜1.2倍であるアクリル繊維束の製造方法である。
【0008】
本発明のアクリル繊維束の製造方法は、前記前洗浄工程にて凝固繊維束に付与する洗浄液の温度が40℃以上98℃以下であることが好ましい。
【0009】
本発明のアクリル繊維束の製造方法は、前記前洗浄工程において、前記洗浄液を凝固繊維束に付与する方法が、洗浄液吐出ノズルから凝固繊維束に向かって前記洗浄液を吐出して、前記凝固繊維束に前記洗浄液を付与し、その吐出線速度が2m/秒以上20m/秒以下であり、前記洗浄液を凝固繊維束に付与する際の凝固繊維束の移送速度が3m/分〜15m/分であることが好ましい。
【0010】
本発明のアクリル繊維束の製造方法は、前記前洗浄工程において、凝固繊維束に洗浄液を付与する位置が凝固繊維束の進行方向に2箇所以上あることが好ましい。
【0011】
本発明のアクリル繊維束の製造方法は、2箇所以上ある洗浄液を付与する前記位置間の各距離が200mm以上であることが好ましい。
【0012】
本発明のアクリル繊維束の製造方法は、前洗浄工程において、水平に走行している凝固繊維束に対して洗浄液を付与することが好ましい。
【0013】
本発明のアクリル繊維束の製造方法は、前洗浄工程において前記洗浄液を凝固繊維束に付与する位置から1m以上後に、前記凝固繊維束を前記洗浄槽に導入することが好ましい。
【0014】
本発明のアクリル繊維束の製造方法は、凝固繊維束の繊維本数が1000本以上80000本以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、効率良く凝固繊維束中の溶剤を脱溶剤できる。工程全体として脱溶剤が促進されることから、洗浄槽のみで脱溶剤する場合と比較して洗浄に使用するトータルの洗浄液の量を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態における工程の構成の一例を示す概略構成図である。
図2】実施例1、比較例1で検証に使用した洗浄液の付与場所を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
図1はこの発明の製造工程の概略図である。凝固浴1および第一洗浄槽6にはそれぞれ濃度が異なるが共に同一の溶剤の水溶液が入っている。アクリル系重合体溶液は紡糸ノズル2の吐出孔から凝固浴1に吐出され、凝固液中で凝固した凝固繊維束は第1のローラー4により引き上げられる。第1のローラーを通過した凝固繊維束は、前洗浄部8にて洗浄槽6に入る前に洗浄液が付与される。その際に使用される洗浄液は後段の洗浄槽6より配管7を通って汲み上げられる。前洗浄部を通過した凝固繊維束は、第2のローラー5、第3のローラー9を通過し、第一洗浄槽6内に導入され、さらに脱溶剤が促進される。
【0019】
通常その後に図示されていない洗浄槽が複数あり、延伸ローラー10を通過した後に乾燥処理が施され、ボビンに巻き取られる、またはケンスに収納される。
【0020】
(凝固浴)
ここで凝固浴とは溶剤と水とからなる水溶液である。溶剤としては、ジメチルアセトアミド(以下、DMAcと略す)、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが使用でき、アクリロニトリル重合体を溶解できるものであれば、限定されない。溶解性の観点から、ジメチルアセトアミドが好ましい。
溶剤濃度は、60〜70質量%が好ましい。また凝固浴の温度は30〜40℃が好ましい。そのような溶剤濃度及び凝固浴温度であれば、ボイドが少なく緻密な構造を形成できるからである。凝固浴では原料ポリマーを溶かしていた溶剤が凝固浴に拡散し、ポリマーが凝固し、繊維状に形成される。
【0021】
(第1のローラー)
凝固浴中の凝固繊維束は、第1のローラーを通り、空気中に引き上げられる。第1のローラーは溝付きのフリーローラーが好ましく、凝固繊維束の滑りを防止するために梨地表面となっていることが好ましい。
【0022】
(第2のローラー)
第2のローラーは駆動ロールが好ましく、本ロールが凝固浴からの引き上げ速度を決定している。
【0023】
(第3のローラー)
凝固繊維束のたるみを防止するため、第2のローラー以降で凝固繊維束の温度を上げずにそのままの環境雰囲気下でわずかに延伸するのが一般的である。
【0024】
(その後の洗浄槽)
通常、脱溶剤を促進させるために複数の洗浄槽があり、後段になる程洗浄槽中の水溶液の溶剤濃度が低下する一方で高温度にする。
【0025】
(延伸工程)
凝固繊維束は複数の洗浄槽を通過すると同時に洗浄槽出口の延伸ローラーで引き取られながら延伸される。
【0026】
(乾燥工程)
洗浄槽を通過した後の凝固繊維束は乾燥ロールと呼ばれる蒸気を熱媒体とした加熱ロール上を通過して乾燥される。
【0027】
(前洗浄工程)
前述した通り、図2に示すB部では既に凝固繊維束は延伸されており溶剤の繊維間内部への浸透が進行している状態であるため、延伸がかかっていないA部で前洗浄することで脱溶剤が促進される。
【0028】
前洗浄工程では、引き上げ速度に対して0.8〜1.2倍の速度で移送される凝固繊維束に第一洗浄槽から送液された洗浄液を付与する。
引き上げ速度は、第1のローラーの表面速度とする。
前洗浄工程で洗浄液を付与する凝固繊維束の速度が、引上げ速度に対して0.8〜1.2倍であれば、延伸がかかっていないか、張力の低い状態の凝固繊維束に洗浄液を付与することになり、繊維間の内部まで洗浄液が浸透しやすく、繊維間内部の溶剤と置換しやすくなる。また凝固浴あがりの凝固繊維束は繊維束表面に溶剤を大量に保持しているため、脱溶剤し易い状態となっている。
一般的には凝固繊維束は延伸されるに従って凝固浴で付着した溶剤が繊維間内部に浸透するため、後の工程になるにつれて脱溶剤し難くなる。前記速度は、引上げ速度に対して0.9〜1.1倍がより好ましく、0.95〜1.05倍がさらに好ましい。
【0029】
前洗浄工程に用いる洗浄液は、洗浄槽が複数ある場合、一番上流側の洗浄槽の洗浄液を付与するのが、洗浄液全体の量を減らせるので好ましい。
【0030】
前洗浄部8にて凝固繊維束に付与する洗浄液の温度は40℃以上98℃以下が好ましい。40℃以上であれば常温と比較して脱溶剤量が増加するという点で好ましく、さらに好ましくは60℃以上である。上限としては、洗浄液が沸騰して揮発することを抑制するために98℃以下が好ましく80℃以下がより好ましい。
【0031】
前洗浄部8にて付与する洗浄液の吐出線速度は2m/秒以上20m/秒以下であることが好ましい。前記吐出線速度が2m/秒以上であれば凝固繊維束の内部まで洗浄液が浸透するという点で好ましく、20m/秒以下であれば単繊維が切断し毛羽になることを防ぎやすくなる。前記吐出線速度は5m/秒以上16m/秒以下がより好ましく、8m/秒以上12m/秒以下がさらに好ましい。ここで、吐出線速度とは配管7の先端に吐出ノズルあるいはナイロンチューブを装着し、その吐出ノズルあるいはナイロンチューブ開口部から放出された直後の洗浄液の速度を言う。吐出線速度は、前記開口部から単位時間当たりに吐出される洗浄液の量を、前記開口部の面積で除することで算出する。
【0032】
[計算例]
後述の実施例1で吐出線速度を9.4m/sと算出した、実際の計算例を示す。実施例1にて設定した洗浄液の付与量は1.0L/分であり、使用したノズルはスプレーイングシステム社製の型番:B1/8HH−ss^3である。該ノズルのオリフィス呼び径は1.5mmであることから、開口面積は1.77×10−2cmとなる。従って、吐出線速度は1000cm/分÷(1.77×10−2)cm=5.65×10cm/分=9.4m/秒となる。
【0033】
前洗浄部8にて凝固繊維束に洗浄液を付与する場所は、凝固繊維束の進行方向に対して200mm以上離して2箇所に分割して付与することが好ましい。ここで離すとは2箇所それぞれに配置した吐出ノズル間を結んだ工程に配置された凝固繊維束の長さが200mm以上の長さになることを言う。そうすることで、1段目で付与した液は内部からの溶剤の拡散を促し、2箇所目でさらに洗浄されることでより高い脱溶剤効果が発揮されるためである。吐出ノズルの配置について、1箇所目は引き上げ速度に対して0.8〜1.2倍の速度で移送される間に配置するが、2段目の配置箇所については制限を設けないが、2段目も0.8〜1.2倍の速度で移送される間に配置するのが好ましい。
【0034】
前洗浄工程において水平に走行している凝固繊維束に対して洗浄液を付与することが好ましい。水平に走行している凝固繊維束に対して洗浄液を付与すると、洗浄液が繊維間に浸透し易くなる。
【0035】
前洗浄工程における凝固繊維束に洗浄液を付与する位置は、洗浄槽に凝固繊維束が導入される1m以上手前の位置であることが好ましい。 前記の1m以上手前の位置とは、前洗浄工程における凝固繊維束に洗浄液を付与する位置から、洗浄槽の洗浄液中に凝固繊維束が導入される位置までを凝固繊維束が移送する距離が1m以上となる位置を言う。前記位置で凝固繊維束に洗浄液を付与すると洗浄液が凝固繊維束の繊維間に浸透し洗浄効果が高くなり易いためである。
【0036】
本発明に用いる凝固繊維束の繊維本数は、1000本以上80000本以下が好ましい。1000本以上であれば、本発明の前洗浄によるトータルの洗浄液削減効果が得られやすい。また、80000本以下であれば、前洗浄による脱溶剤が促進されやすいので好ましい。繊維本数は、前記観点から10000本〜60000本がより好ましく、13000本〜30000本がさらに好ましい。
【実施例】
【0037】
<脱溶剤率の測定方法>
前洗浄工程における凝固繊維束からの脱溶剤率は以下の手順で測定する。
・ バットを前洗浄工程部の洗浄液落下部に設置する。
・ 前洗浄工程部では付与した洗浄液は凝固繊維束を洗浄した後に落下するため、その落下液を1分間バットで受ける。
・ 得られた液の濃度c[%]と落下液流量L[g/分]を測定する。得られた液の濃度の測定の際には屈折率計を使用し、落下液量の測定の際には電子天秤で秤量することにより求めた。
・ 第一洗浄槽の濃度をc[%%]とすると前洗浄工程で脱落した溶剤量はL×(c−c)/100[g/分]となる。
【0038】
(実施例1)
以下、本発明の実施例について説明する。アクリロニトリル96.5質量%、アクリルアミド2.7質量%、メタクリル酸0.8質量%からなるアクリル系重合体を、アクリル系重合体21.2質量%、ジメチルアセトアミド78.8質量%の比率で混合溶解しアクリル系重合体溶液を得た。前記アクリル系重合体溶液を吐出孔径が0.075mmφである吐出孔を15000個有する紡糸ノズルの吐出孔から吐出量が180g/分で、DMAc/水=67/33質量%、38℃の凝固浴中に吐出して凝固繊維束とし、前記凝固繊維束を第1ロールを通って、駆動ロールである第2のローラーで引き上げた。引き上げ速度となる第1ローラーの表面速度は、8.0m/分であった。第1ローラー4と第2ローラー5との間の凝固繊維束の移送速度は引き上げ速度に対して1.0倍の速度である。第1ローラー4と第2のローラー5との間(図2中のA部)の凝固繊維束に、前洗浄工程として第一洗浄槽の底部より抜き出した洗浄液を付与した。洗浄液温度は65℃、洗浄液のDMAc濃度は18.7質量%、吐出ノズルからの洗浄液の吐出量は1.0L/分、ノズルから噴出す洗浄液の圧力は50KPa、吐出線速度は9.4m/秒であった。使用したノズルはスプレーイングシステム社製の型番:B1/8HH−ss−3である。その後第2のローラー5と第3のローラー9の間で1.3倍に延伸し、65℃、DMAc濃度18.7%の第一洗浄槽6に導入した。
前洗浄工程での脱溶剤率を表1に示す。
【0039】
[計算例]
脱溶剤率を27.2%と算出した実際の計算例を示す。
実施例1に示すように、アクリル系重合体溶液は紡糸ノズルの吐出孔から吐出量が180g/分でDMAc67%の濃度の凝固浴に吐出される。凝固浴から引き上げられた凝固繊維束の含水分率[=(凝固浴あがり凝固繊維束(g)/絶乾凝固繊維束(g))×100]は250質量%であり、凝固繊維束に付着している溶剤濃度は凝固浴と同一、すなわち67%のDMAcであることから凝固繊維束が保有しているDMAc総量は180×67/100×250/100=301.5g/分である。
一方、前洗浄工程で脱落した溶剤量を求めるために凝固繊維束を洗浄した後に落下する液の流量とその濃度を測定すると、それぞれ762.8g/分、29.47%であった。従って、前洗浄工程で脱落した溶剤量は762.8×(29.47−18.7)/100=82.1g/分である。
脱溶剤率を(脱落した溶剤量)÷(前洗浄する前の凝固繊維束の保有溶剤量)×100と定義すると、本実施例での前洗浄工程での脱溶剤率は82.1÷301.5×100=27.2%となる。なお、前洗浄工程で凝固繊維束の保有溶剤が全て脱落した場合には脱溶剤率は100%となる。一般的に複数段の洗浄槽を通過した後は脱溶剤率がほぼ100%になるよう生産条件を決定している。
【0040】
(実施例2)
前洗浄工程の洗浄液付与位置を2段にし、前記位置を300mm離間し、それぞれのノズルから噴出す洗浄液の圧力を100KPa、洗浄液の付与量を0.5L/分、使用ノズルをスプレーイングシステム社製のB1/8HH−ss−1とした以外は、実施例1と同様の作製方法でアクリル繊維束を製造した。この時、2段目の付与場所も引き上げ速度に対して1.0倍で凝固繊維束が移送されているA部である。
その結果を表1に示す。この結果より2段付与の場合も十分な脱溶剤効果が発揮されることが分かる。
【0041】
(実施例3)
実施例1と同様の作製方法で得られたアクリル系重合体溶液を吐出孔数6000ホール、吐出孔径0.075mmφの口金を用いて、吐出量469.0g/分、引き上げ速度4.0m/分の条件とし、前洗浄工程として図2中のA部に第一洗浄槽の洗浄液を底部より抜き出し、スプレーノズルを使用して吐出線速度6.8m/秒、65℃、50KPa、0.2L/分で付与した以外は、実施例1と同様の作製方法でアクリル繊維束を製造した。なお、スプレーノズルはスプレーイングシステム社製の型番:B1/8G−3001.4のノズルを使用した。
【0042】
(実施例4)
前洗浄部で配管7の先端の洗浄液の付与方法をスプレーノズルではなく、内径6mmのナイロンチューブを1本用いて、吐出線速度を0.1m/秒として吐出した以外は実施例3と同様にして、アクリル繊維束を得た。ナイロンチューブを使用する際は吐出圧は0KPaとなる。
【0043】
その結果、表1に示すように吐出線速度が6.8m/秒の時には十分な脱溶剤効果が発揮されるが、吐出線速度0.1m/秒の時は洗浄効果が低下するが、洗浄槽の直前で洗浄液を付与する場合に比較すると、洗浄効果は高いことが分かる。
【0044】
(実施例5)
実施例1と同様の作製方法で得られたクリル系重合体溶液を、吐出孔数12000ホール、吐出孔径0.075mmφの口金を用いて、吐出量290g/分、引き上げ速度4.0m/分の条件下で、DMAc/水=67/33質量%、38℃の凝固浴に紡出した。凝固浴から引き上げられた凝固繊維束は図1中の第2のローラー5を通過して、65℃、DMAc濃度0%の第一洗浄槽6にて脱溶剤する。なお、本実施例では温度による効果を確認するために意図的に第一洗浄槽中の溶媒を純水に置換している。前洗浄工程として図2中のA部に第一洗浄槽の洗浄液を底部より抜き出し、0.3L/分、50KPa、65℃、10.2m/秒で付与した。この間、凝固繊維束は引き取り速度に対して1.0倍の速度で移送される。前洗浄に使用したノズルはスプレーイングシステム社製の型番:B1/8HH−ss−1である。
【0045】
(実施例6)
前洗浄工程として洗浄液の付与温度を20℃とした以外は、実施例2と同様にして、アクリル繊維束を得た。
【0046】
実施例5と実施例6との洗浄液温度の違いによる脱溶剤効果について、表1に示すように65℃で付与する方が、脱溶剤効果が高いことが分かる。
【0047】
(比較例1)
前洗浄工程として凝固繊維束に洗浄液を付与した場所を引き上げ速度に対して1.3倍となる図2中のB部とした以外は、実施例1と同様にして、アクリル繊維束を得た。
【0048】
その結果、表1に示すように延伸がかかっているB部では脱溶剤効果が極端に落ちることが分かる。
【0049】
【表1】
【符号の説明】
【0050】
1:凝固浴
2:口金
3:凝固繊維束
4:第1のローラー
5:第2のローラー
6:第一洗浄槽
7:配管
8:前洗浄部
9:第3のローラー
10:延伸ローラー
A:前洗浄工程位置
B:延伸糸への付与位置
図1
図2