特許第6390513号(P6390513)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6390513
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】ピグテールファイバモジュール
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/02 20060101AFI20180910BHJP
【FI】
   G02B6/02 421
   G02B6/02 B
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-103649(P2015-103649)
(22)【出願日】2015年5月21日
(65)【公開番号】特開2016-218279(P2016-218279A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2017年4月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095223
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 章三
(74)【代理人】
【識別番号】100085040
【弁理士】
【氏名又は名称】小泉 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】横山 雄一
【審査官】 野口 晃一
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2002/0122653(US,A1)
【文献】 特開2014−164302(JP,A)
【文献】 実開平01−062509(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/00−6/036
6/10
6/24−6/27
6/30−6/34
6/36−6/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シングルモード光を伝搬するコアとその外周を囲むクラッドから成るファイバ芯線と該ファイバ芯線の外周を囲む保護被覆部を有するラージモードエリアファイバと、該ラージモードエリアファイバの先端側を保持するファイバ保持部材を備えるピグテールファイバモジュールにおいて、
上記ファイバ保持部材が、本体中心部に貫通孔を有するフェルールと該フェルール先端側に組み込まれかつ上記貫通孔と連通する細孔を中心部に有するキャピラリとで構成され、上記キャピラリの細孔内に保護被覆部を除去したラージモードエリアファイバのファイバ芯線が収容され、上記フェルールの貫通孔内に保護被覆部を有するラージモードエリアファイバが収容され、上記細孔の貫通孔側端部にファイバ芯線と細孔との隙間を閉止して貫通孔と細孔とを遮断する封止部が設けられると共に該封止部が10%以上の伸びを有する弾性接着剤により形成され、かつ、貫通孔内に収容された保護被覆部が熱硬化型接着剤により貫通孔に固定された構造を有しており、貫通孔と細孔とを遮断する上記封止部により貫通孔から細孔内へ熱硬化型接着剤が入り込まないようにして細孔内の上記ファイバ芯線に熱硬化型接着剤が付着しないようにしたことを特徴とするピグテールファイバモジュール。
【請求項2】
硬化時における弾性接着剤のショアA硬度が70以下であることを特徴とする請求項に記載のピグテールファイバモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にファイバレーザに使用されるラージモードエリアファイバと該ファイバ先端にファイバ保持部材を備えるピグテールファイバモジュールに係り、特に、出射ビームの断面形状が限りなく真円となるピグテールファイバモジュールの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ピグテールファイバモジュールは、光通信やレーザ加工機等に用いられる光伝送媒体の一種である。近年はレーザ加工機等において透過ビームのパワーが大きくなり、用いられる光ファイバも多種多様となっている。そして、高出力対応が可能な光ファイバとして現在主流となっているのが、ラージモードエリアファイバ(Large Mode Area Fiber、以下「LMAファイバ」と称する場合がある)である。
【0003】
この種のラージモードエリアファイバが用いられたピグテールファイバモジュールとしては、特許文献1に記載された先行技術(ピグテールモジュール)が知られている。
【0004】
すなわち、先行技術に係るピグテールモジュールは、シングルモード光を伝搬するコアとその外周を囲むクラッドから成るファイバ芯線と該ファイバ芯線の外周を囲む保護被覆部を有するピグテールファイバ(ラージモードエリアファイバ)とファイバ保持部材とを備え、保護被覆部を除去して露出させたファイバ芯線が、ファイバ保持部材の貫通孔内に熱硬化性樹脂から成る接着剤(熱硬化型接着剤)により固定され、かつ、貫通孔の内径について、該貫通孔内の接着剤で固定されている部分とファイバ芯線(クラッド)との平均的隙間[(貫通孔の内径−クラッド径)/2]が1μm未満となる条件を満たすように設定されていることを特徴とする(特許文献1の請求項1参照)ものであった。
【0005】
そして、上記貫通孔の内径について、平均的隙間[(貫通孔の内径−クラッド径)/2]が1μm未満となる条件を満たすように設定されることで、ファイバ芯線(クラッド)と貫通孔間の隙間に介在される接着剤の厚みも1μm未満となり、これにより接着剤の硬化、収縮に起因した光ファイバへの応力が低減されるため、先行技術に係るピグテールモジュールにおいては、出射ビームにおける光強度分布の形状が入射時の状態を維持できるとされている(特許文献1の段落0011と段落0018参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−255999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、本発明者が先行技術に係るピグテールモジュールの技術評価を行ったところ、特許文献1の記載内容に反して以下のような課題が確認された。
【0008】
すなわち、この種のラージモードエリアファイバにおいてはファイバ先端にエンドキャップ(コアレスファイバー等)が融着されているが、該エンドキャップ端面から出力されたビームの光強度分布にバラツキが確認された。そして、ラージモードエリアファイバがレーザ加工機に適用される場合、光強度分布のバラツキは、加工性能および加工精度に多大な影響を与えるため、光強度分布は本来の光強度分布を保っていることが好ましい。
【0009】
そこで、本発明者が、先行技術に係る光強度分布のバラツキについて詳細に調査したところ、熱硬化性樹脂から成る接着剤(熱硬化型接着剤)を用いてファイバ保持部材の貫通孔にファイバ芯線(クラッド)を接着させたことが原因になっていることが判明した。すなわち、ファイバ芯線(クラッド)と貫通孔間の隙間に介在される接着剤の厚みが1μm未満になっているとされているにも拘わらず、依然として熱硬化型接着剤の硬化、収縮によりファイバ芯線(クラッド)に外部応力が作用し、光強度分布のバラツキを生じさせているためであった。更に、特許文献1に係るピグテールモジュールにおいて、ファイバ保持部材とラージモードエリアファイバ(LMAファイバ)の加工精度から考え、平均的隙間[(貫通孔の内径−クラッド径)/2]が1μm未満となる条件を満たすように設定するには現実的に困難であることも原因となっている。
【0010】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、ファイバ保持部材やラージモードエリアファイバ(LMAファイバ)の加工精度に関係なく、出射ビームの断面形状が限りなく真円となるピグテールファイバモジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、上記課題を解決するためピグテールファイバモジュールの構造について本発明者が鋭意研究を継続した結果、LMAファイバの保護被覆部が除去されて露出したファイバ芯線に熱硬化型接着剤が付着しないピグテールファイバモジュールの構造を見出すに至った。
【0012】
すなわち、本発明に係る第1の発明は、
シングルモード光を伝搬するコアとその外周を囲むクラッドから成るファイバ芯線と該ファイバ芯線の外周を囲む保護被覆部を有するラージモードエリアファイバと、該ラージモードエリアファイバの先端側を保持するファイバ保持部材を備えるピグテールファイバモジュールにおいて、
上記ファイバ保持部材が、本体中心部に貫通孔を有するフェルールと該フェルール先端側に組み込まれかつ上記貫通孔と連通する細孔を中心部に有するキャピラリとで構成され、上記キャピラリの細孔内に保護被覆部を除去したラージモードエリアファイバのファイバ芯線が収容され、上記フェルールの貫通孔内に保護被覆部を有するラージモードエリアファイバが収容され、上記細孔の貫通孔側端部にファイバ芯線と細孔との隙間を閉止して貫通孔と細孔とを遮断する封止部が設けられると共に該封止部が10%以上の伸びを有する弾性接着剤により形成され、かつ、貫通孔内に収容された保護被覆部が熱硬化型接着剤により貫通孔に固定された構造を有しており、貫通孔と細孔とを遮断する上記封止部により貫通孔から細孔内へ熱硬化型接着剤が入り込まないようにして細孔内の上記ファイバ芯線に熱硬化型接着剤が付着しないようにしたことを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明に係る第2の発明は、
第1の発明に記載のピグテールファイバモジュールにおいて、
硬化時における弾性接着剤のショアA硬度が70以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るピグテールファイバモジュールによれば、
ラージモードエリアファイバの先端側を保持するファイバ保持部材が、本体中心部に貫通孔を有するフェルールと該フェルール先端側に組み込まれかつ上記貫通孔と連通する細孔を中心部に有するキャピラリとで構成され、上記キャピラリの細孔内に保護被覆部を除去したラージモードエリアファイバのファイバ芯線が収容され、上記フェルールの貫通孔内に保護被覆部を有するラージモードエリアファイバが収容されると共に、上記細孔の貫通孔側端部にファイバ芯線と細孔との隙間を閉止して貫通孔と細孔とを遮断する封止部が設けられ、かつ、貫通孔内に収容された保護被覆部が熱硬化型接着剤により貫通孔に固定された構造になっており、保護被覆部を固定する熱硬化型接着剤が貫通孔から細孔内へ入り込むことがないため、キャピラリの細孔内に収容されたファイバ芯線に対し熱硬化型接着剤の硬化、収縮に起因した外部応力が作用することがない。
【0015】
従って、ラージモードエリアファイバ(LMAファイバ)から出力されるビームの光強度分布にバラツキを生じないピグテールファイバモジュールの提供が可能となる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係るピグテールファイバモジュールの概略構成断面図。
図2図2はファイバ保持部材の貫通孔内にファイバ芯線(保護被覆部を除去して露出させたファイバ芯線)を熱硬化型接着剤により固定させた比較例1(特許文献1)に係るピグテールファイバモジュールにおいて、そのエンドキャップ端面から出力されたビームをビームプロファイラー(ビームの強度分布と形状を測定する装置)に映し出した画像の写真図であり、図2(a)は熱硬化型接着剤の硬化前における写真図、図2(b)は熱硬化型接着剤の硬化後における写真図。
図3図3はフェルール先端側に組み込まれたキャピラリの細孔内にファイバ芯線(保護被覆部を除去して露出させたファイバ芯線)が収容されかつ細孔の貫通孔側に貫通孔と細孔とを遮断する弾性接着剤から成る封止部が設けられていると共に上記貫通孔内に収容されたラージモードエリアファイバの保護被覆部が熱硬化型接着剤により固定された実施例1に係るピグテールファイバモジュールにおいて、そのエンドキャップ端面から出力されたビームをビームプロファイラーに映し出した画像の写真図であり、図3(a)は弾性接着剤の硬化前における写真図、図3(b)は弾性接着剤の硬化後における写真図、および、図3(c)は熱硬化型接着剤の硬化後における写真図。
図4図4(a)はファイバ芯線の先端にエンドキャップが融着されたエンドキャップ付きファイバの概略構成断面図、図4(b)は図4(a)の符号Aで示した部位の部分拡大図。
図5図5(a)は保護被覆部の外周をルーズチューブで被覆したエンドキャップ付きファイバの概略構成断面図、図5(b)は図5(a)の符号Aで示した部位の部分拡大図。
図6】金属フェルールと該フェルール先端側に組み込まれたキャピラリとで構成されかつルーズチューブで被覆されたエンドキャップ付きファイバが挿入される前におけるファイバ保持部材の概略構成断面図。
図7図7(a)はルーズチューブで被覆されたエンドキャップ付きファイバが挿入されたファイバ保持部材の概略構成断面図、図7(b)は図7(a)の符号Aで示した部位の部分拡大図。
図8図8(a)はルーズチューブで被覆されたエンドキャップ付きファイバが挿入されたファイバ保持部材を研磨加工して製造された本発明に係るピグテールファイバモジュールの概略構成断面図、図8(b)は図8(a)の符号Aで示した部位の部分拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0018】
ラージモードエリアファイバ(LMAファイバ)から出力されるビームの光強度分布にバラツキを生じさせる原因は上述したようにLMAファイバに作用する外部応力である。そして、先行技術に係るピグテールモジュールにおいては、熱硬化型接着剤を用いてファイバ保持部材の貫通孔にファイバ芯線(クラッド)を接着させている。当該熱硬化型接着剤には一般的に熱硬化型エポキシ樹脂が用いられるが、熱硬化型エポキシ樹脂では数パーセント程度の硬化収縮が避けられず、かつ、硬化後の接着剤硬度が大きいため光ファイバに対し大きな残留応力を発生する。ラージモードエリアファイバ(LMAファイバ)のコアは残留応力に対して敏感で、高い頻度で光ファイバからの出力されるビームの光強度分布にバラツキを発生させていた。
【0019】
そこで、ラージモードエリアファイバに対しどのような応力が生じたときに出力ビームの光強度分布にバラツキが生ずるかについて本発明者が調査したところ、ファイバ芯線(クラッド)面に熱硬化型接着剤が付着・硬化した場合に出力ビームの光強度分布にバラツキが発生することが確認され、ファイバ芯線(クラッド)の外周を囲む保護被覆部上で熱硬化型接着剤が付着・硬化した場合には出力ビームの光強度分布にバラツキが発生しないことが判明した。保護被覆部を構成する材料は、紫外線硬化型樹脂(アクリル系樹脂が例示される)等の硬度の低い材料が選択されており、熱硬化型接着剤の残留応力を十分に緩和していると考えられる。
【0020】
ところで、ピグテールファイバモジュールにおいては、上述したようにファイバ先端にファイバ端部の損傷を防止するためのエンドキャップと称されるガラス材(コアレスファイバー等)が一般的に融着されている。
【0021】
そして、エンドキャップとLMAファイバの融着を行う場合には保護被覆部を除去する必要があり、必然的にLMAファイバ先端部分のクラッドが剥き出しとなる。更に、エンドキャップ端面で反射した光がLMAファイバに戻ることを避けるため、エンドキャップ先端部を数度研磨して斜め加工することが一般的であることから、通常は、ファイバ芯線(クラッド)をジルコニア等から成るフェルールに挿入し、かつ、熱硬化型エポキシ樹脂を用いてファイバ芯線(クラッド)をフェルールに固定した後、ファイバ先端部を斜め加工することが必要であった。このため、ファイバ芯線(クラッド)に接着剤が付着しないピグテールファイバモジュール構造を実現するには、ファイバ保持部材にエンドキャップ付きファイバを如何にして保持させるかが課題となり、本発明においては、本体中心部に貫通孔を有するフェルールと該フェルール先端側に組み込まれかつ上記貫通孔と連通する細孔を中心部に有するキャピラリとでファイバ保持部材を構成し、上記キャピラリの細孔内に保護被覆部を除去したラージモードエリアファイバのファイバ芯線を収容し、上記フェルールの貫通孔内に保護被覆部を有するラージモードエリアファイバを収容すると共に、上記細孔の貫通孔側端部にファイバ芯線と細孔との隙間を閉止して貫通孔と細孔とを遮断する封止部を設けることで達成している。
【0022】
尚、ファイバ芯線と細孔との隙間を閉止して貫通孔と細孔とを遮断する上記封止部の材料としては、貫通孔から細孔内への熱硬化型接着剤の入り込みを防止できかつファイバ芯線に付着してもファイバ芯線に外部応力が作用しない材料が好ましく、10%以上の伸びを有する弾性接着剤により上記封止部が形成されることを要する。具体例として、硬化時における弾性接着剤のショアA硬度(JIS K 6253)が70以下であるシリコーン系(スリーボンド社製 商品名スリーボンド TB1220等)、変成シリコーン系(スリーボンド社製 商品名スリーボンド TB1530、セメダイン社製 商品名セメダイン スーパーX No.8008、セメダイン スーパーXG777等)、アクリル系(スリーボンド社製 商品名スリーボンド TB3955等)、ウレタン系(3M社製 商品名3M ポリウレタン接着剤540、3M ハイブリット接着剤740等)等の接着剤を挙げることができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例について比較例を挙げて具体的に説明する。
【0024】
[実施例1]
シングルモード光を伝搬する直径(コア径)10μmのコアと該コアの外周を囲む直径(クラッド径)125μmのクラッドから成るファイバ芯線1と該ファイバ芯線1の外周を囲む保護被覆部2を有するラージモードエリアファイバ(LMAファイバ)10と、該ラージモードエリアファイバ10の先端側を保持するファイバ保持部材を備える実施例1に係るピグテールファイバモジュール100は、図1に示すように、上記ファイバ保持部材が、本体中心部に貫通孔21を有するSUS製のフェルール20と該フェルール20先端側に組み込まれかつ上記貫通孔21と連通する細孔31を中心部に有するジルコニア製のキャピラリ30とで構成され、上記キャピラリ30の細孔31内にLMAファイバ10の保護被覆部2を除去して露出したファイバ芯線1が収容され、上記フェルール20の貫通孔21内に保護被覆部2を有するLMAファイバ10が収容されると共に、上記細孔31の貫通孔21側端部にファイバ芯線1と細孔31との隙間を閉止して貫通孔21と細孔31とを遮断する封止部40が設けられ、かつ、貫通孔21内に収容されたLMAファイバ10の保護被覆部2が熱硬化型接着剤50により貫通孔21に固定された構造を有している。
【0025】
尚、キャピラリ30の細孔31内に収容されたファイバ芯線1の先端に斜め加工されたエンドキャップ4が融着されている。また、実施例1および下記比較例1においては、熱硬化型接着剤に、Epoxy Technology 社製の熱硬化型エポキシ樹脂EPOTEK 353ND(ショアA強度:100)を使用した。
【0026】
ところで、ピグテールファイバモジュールにおいては、モジュールからファイバを引っ張った際にある程度の引っ張り強度を有すること(すなわち、モジュールからファイバを引っ張って抜こうとしたとき、どの程度の引っ張り力に耐え得るか)が、通常、求められる。そして、所望とする引っ張り強度を得るには、熱硬化型接着剤のような硬化後における硬度が強いものが必要とされるため、貫通孔21内に収容されたLMAファイバ10の保護被覆部2が熱硬化型接着剤50により貫通孔21に固定された構造となっている。
【0027】
[ピグテールファイバモジュールの製造工程]
実施例1に係る上記ピグテールファイバモジュール100は以下の工程を経て製造されたものである。
【0028】
まず、保護被覆部2の先端側が除去されて露出したファイバ芯線1の先端にエンドキャップ用ファイバ13を融着し、かつ、所望長さのエンドキャップ用ファイバ13を残してカットし、図4(a)〜(b)に示すエンドキャップ付きファイバ11を製造した。尚、符号12はファイバ芯線1とエンドキャップ用ファイバ13の融着部を示す。
【0029】
次に、得られたエンドキャップ付きファイバ11の外周に硬質ゴム等で構成されたルーズチューブ14を被覆し、かつ、エンドキャップ付きファイバ11の保護被覆部2が所望の長さ露出する位置で上記ルーズチューブ14を固定して図5(a)〜(b)に示すルーズチューブで被覆されたエンドキャップ付きファイバを製造した。
【0030】
次に、貫通孔21を有するSUS製フェルール20と細孔31を有するジルコニア製キャピラリ30とで構成された図6に示すファイバ保持部材に、ルーズチューブ14で被覆された図5(a)〜(b)に示すエンドキャップ付きファイバを挿入すると共に、上記エンドキャップ付きファイバの融着部12がジルコニア製キャピラリ30の細孔31に対して所望とする位置に挿入されるように挿入位置を調整した後、固定用樹脂を用いて図7(a)〜(b)に示すようにルーズチューブ固定部18とファイバ固定部19の位置において上記ファイバ保持部材とエンドキャップ付きファイバ11を固定した。
【0031】
次に、エンドキャップ付きファイバ11が挿入かつ固定されたファイバ保持部材のキャピラリ30先端を研磨加工し、エンドキャップ用ファイバの長さと先端角度を所望の値に設定させた後、SUS製フェルール20の接着剤充填用横穴25から弾性接着剤[ショアA硬度43のセメダイン社製 商品名セメダイン スーパーX No.8008(アクリル変成シリコーン樹脂)]を注入しかつ該接着剤を硬化させてフェルール20の貫通孔21とキャピラリ30の細孔31とを遮断する封止部40を形成し、更に、上記接着剤充填用横穴25から熱硬化型接着剤を注入しかつ該接着剤50を熱硬化させて図8(a)〜(b)に示すような実施例1に係るピグテールファイバモジュール100を製造した。
【0032】
[実施例2]
弾性接着剤にショアA硬度58のセメダイン社製 商品名スーパーXG777(アクリル変成シリコーン樹脂)が適用された以外は実施例1と同様にして実施例2に係るピグテールファイバモジュールを製造した。
【0033】
[比較例1]
シングルモード光を伝搬するコアとその外周を囲むクラッドから成るファイバ芯線と該ファイバ芯線の外周を囲む保護被覆部を有するピグテールファイバ(ラージモードエリアファイバ)とファイバ保持部材とで構成され、かつ、保護被覆部を除去して露出させたファイバ芯線をファイバ保持部材の貫通孔内に挿入させた後、熱硬化型接着剤を用いて上記貫通孔にファイバ芯線を固定して比較例1に係るピグテールファイバモジュールを製造した。
【0034】
尚、貫通孔内の接着剤で固定されている部分とファイバ芯線(クラッド)との平均的隙間[(貫通孔の内径−クラッド径)/2]が1μm未満に設定される特許文献1の条件を満たすように製造し、かつ、ファイバ保持部材に組み込まれるピグテールファイバ(ラージモードエリアファイバ)は実施例1に係るエンドキャップ付きファイバの構成と同一に設定している。
【0035】
[評 価]
(1)図2はファイバ保持部材の貫通孔内にファイバ芯線(保護被覆部を除去して露出させたファイバ芯線)が熱硬化型接着剤により固定された比較例1(特許文献1)に係るピグテールファイバモジュールにおいて、そのエンドキャップ端面から出力されたビームをビームプロファイラー(ビームの強度分布と形状を測定する装置)に映し出した画像の写真図であり、図2(a)は熱硬化型接着剤の硬化前における写真図、図2(b)は熱硬化型接着剤の硬化後における写真図である。
【0036】
ファイバからの出力光は、本来、シングルモード光となるため、理想の形状は真円となり、その強度分布はガウシアン分布で表されたガウシアンビームとなる。
【0037】
そして、熱硬化型接着剤硬化前の状態においては、図2(a)の写真図に示されているように真円度(1が理想)、ガウシアンフィッティング値(X成分とY成分が理想とするガウシアン分布にどれだけ近いものかを示す指標で1が理想)がそれぞれ高い値を示しているのに対し、上記接着剤硬化後の状態においては、図2(b)の写真図に示されているように真円度には大きな変化は無いが、ガウシアンフィッティング値に大きな変化(硬化前0.95、硬化後0.89)が生じていることが確認できる。このように出力光の強度分布にバラツキが生じると、ファイバからの出力光を集光させて再度光ファイバに入光させる際に大きな損失が生じることになってしまう。
【0038】
(2)図3はフェルール先端側に組み込まれたキャピラリの細孔内にファイバ芯線(保護被覆部を除去して露出させたファイバ芯線)が収容されかつ細孔の貫通孔側に貫通孔と細孔とを遮断する弾性接着剤から成る封止部が設けられていると共に上記貫通孔内に収容されたラージモードエリアファイバの保護被覆部が熱硬化型接着剤により固定された実施例1に係るピグテールファイバモジュールにおいて、そのエンドキャップ端面から出力されたビームをビームプロファイラーに映し出した画像の写真図であり、図3(a)は弾性接着剤の硬化前における写真図、図3(b)は弾性接着剤の硬化後における写真図、および、図3(c)は熱硬化型接着剤の硬化後における写真図である。
【0039】
そして、下記表1に示されているように、封止部を構成する弾性接着剤の硬化前、弾性接着剤の硬化後、および、封止部を形成した後に接着剤充填用横穴25から注入された熱硬化型接着剤の硬化後において、上記真円度(0.99)およびガウシアンフィッティング値(0.97)に変化がないことが確認される。
【0040】
【表1】
【0041】
尚、実施例2に係るピグテールファイバモジュールにおいても、実施例1と同様、封止部を構成する弾性接着剤の硬化前、弾性接着剤の硬化後、および、封止部を形成した後に接着剤充填用横穴25から注入された熱硬化型接着剤の硬化後において、真円度およびガウシアンフィッティング値に変化がないことが確認されている。すなわち、実施例1および実施例2に係るピグテールファイバモジュールを適用した場合、出力光の強度分布が殆ど変らない結果となっており、実施例1および実施例2に係るピグテールファイバモジュールの優位性が確認される。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明に係るピグテールファイバモジュールによれば、ラージモードエリアファイバ(LMAファイバ)から出力されるビームの光強度分布にバラツキを生じないため、例えば、加工用レーザ装置における光コネクタの一部として適用される産業上の利用可能性を有している。
【符号の説明】
【0043】
1 ファイバ芯線
2 保護被覆部
4 エンドキャップ
10 ラージモードエリアファイバ(LMAファイバ)
11 エンドキャップ付きファイバ
12 融着部
13 エンドキャップ用ファイバ
14 ルーズチューブ
18 ルーズチューブ固定部
19 ファイバ固定部
20 金属フェルール
21 貫通孔
25 接着剤充填用横穴
30 キャピラリ
31 細孔
40 封止部
50 熱硬化型接着剤
100 ピグテールファイバモジュール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8