(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フッ素樹脂が、カルボキシ基及び酸無水物基のいずれか一方又は両方を有する炭化水素モノマーに基づく構成単位(a1)と、テトラフルオロエチレンに基づく構成単位(b1)と、ペルフルオロモノマー(ただしテトラフルオロエチレンを除く。)に基づく構成単位(b2)とを含有する共重合体であり、
前記構成単位(a1)と前記構成単位(b1)と前記構成単位(b2)との合計モル量に対して、前記構成単位(a1)が0.01〜5モル%で、前記構成単位(b1)が50〜99.89モル%で、前記構成単位(b2)が0.1〜49.99モル%である、請求項1に記載の電線の製造方法。
前記フッ素樹脂が、カルボキシ基及び酸無水物基のいずれか一方又は両方を有する炭化水素モノマーに基づく構成単位(a1)と、テトラフルオロエチレンに基づく構成単位(b1)と、ペルフルオロモノマー(ただしテトラフルオロエチレンを除く。)に基づく構成単位(b2)とを含有する共重合体であり、
前記構成単位(a1)と前記構成単位(b1)と前記構成単位(b2)との合計モル量に対して、前記構成単位(a1)が0.01〜5モル%で、前記構成単位(b1)が50〜99.89モル%で、前記構成単位(b2)が0.1〜49.99モル%である、請求項3に記載の成形品の製造方法。
フッ素樹脂を含む樹脂材料に電子線を照射して前記フッ素樹脂の少なくとも一部を改質フッ素樹脂とすることにより、前記改質フッ素樹脂を含む樹脂材料を得る工程を含み、
前記フッ素樹脂は、結晶融点が260℃以上であり、カルボニル基含有基を有する構成単位(a)及びカルボニル基含有基を有する主鎖末端基(a’)のいずれか一方又は両方と、ペルフルオロモノマーに基づく構成単位(b)(ただし前記構成単位(a)を除く。)とを含有し、炭化水素モノマーに基づく構成単位(ただし前記構成単位(a)を除く。)を含有せず、
前記電子線の照射が、前記フッ素樹脂の結晶融点未満の温度かつ空気中の条件下にて、下記(1)〜(3)の全てを満たすように行われることを特徴とする改質フッ素樹脂を含む樹脂材料の製造方法。
(1) 0.5≦Mb/Ma<1.2
[式中、Maは、電子線照射前のフッ素樹脂の溶融流れ速度(g/10分)を示し、Mbは、電子線照射後のフッ素樹脂の溶融流れ速度(g/10分)を示す。]
(2) 1≦Tb−Ta<6.5
[式中、Taは、電子線照射前のフッ素樹脂の結晶融点(℃)を示し、Tbは、電子線照射後のフッ素樹脂の結晶融点(℃)を示す。]
(3)30kGy未満の照射線量。
前記フッ素樹脂が、カルボキシ基及び酸無水物基のいずれか一方又は両方を有する炭化水素モノマーに基づく構成単位(a1)と、テトラフルオロエチレンに基づく構成単位(b1)と、ペルフルオロモノマー(ただしテトラフルオロエチレンを除く。)に基づく構成単位(b2)とを含有する共重合体であり、
前記構成単位(a1)と前記構成単位(b1)と前記構成単位(b2)との合計モル量に対して、前記構成単位(a1)が0.01〜5モル%で、前記構成単位(b1)が50〜99.89モル%で、前記構成単位(b2)が0.1〜49.99モル%である、請求項5に記載の改質フッ素樹脂を含む樹脂材料の製造方法。
請求項6に記載の改質フッ素樹脂を含む樹脂材料の製造方法により改質フッ素樹脂を含む樹脂材料を得る工程と、前記改質フッ素樹脂を含む樹脂材料を成形して成形品を得る工程とを含む成形品の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書における「構成単位」とは、モノマーが重合することによって形成された該モノマーに基づく単位を意味する。構成単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、重合体を処理することによって該単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。
本明細書における「モノマー」とは、重合性不飽和結合、すなわち重合反応性の炭素−炭素二重結合を有する化合物を意味する。「フッ素モノマー」とは、分子内にフッ素原子を有するモノマーを意味し、「非フッ素モノマー」とは、分子内にフッ素原子を有しないモノマーを意味する。「炭化水素モノマー」とは、分子内に炭化水素基を有し、フッ素原子を有しないモノマーを意味する。
「改質フッ素樹脂」とは、改質される前(すなわち、電子線の照射前)のフッ素樹脂に比べて流動性及び結晶融点のいずれか一方又は両方が異なる値を示すフッ素樹脂を意味する。流動性であれば、照射前と比べ照射後は、低下する挙動がみられ、結晶融点であれば、照射前と比べ照射後には上昇する挙動がみられる。
【0011】
≪電線の製造方法≫
(第一の態様)
本発明の電線の製造方法の第一の態様は、導体と、前記導体の表面を被覆するフッ素樹脂を含む絶縁層とを有する電線の製造方法であって、
導体の表面を被覆するフッ素樹脂を含む絶縁層に電子線を照射し、前記フッ素樹脂の少なくとも一部を改質フッ素樹脂として、前記改質フッ素樹脂を含む絶縁層とする工程(以下「電子線照射工程(I)」ともいう。)を含み、
前記フッ素樹脂は、結晶融点が260℃以上であり、カルボニル基含有基を有する構成単位(a)及びカルボニル基含有基を有する主鎖末端基(a’)のいずれか一方又は両方と、ペルフルオロモノマーに基づく構成単位(b)(ただし前記構成単位(a)を除く。)とを含有し、炭化水素モノマーに基づく構成単位(ただし前記構成単位(a)を除く。)を含有せず、
前記電子線の照射が、前記フッ素樹脂の結晶融点未満の温度かつ空気中の条件下にて、下式(1)を満たすように行われることを特徴とする。
(1) 0.5≦Mb/Ma<1.2
[式中、Maは、電子線照射前のフッ素樹脂の溶融流れ速度(g/10分)を示し、Mbは、電子線照射後のフッ素樹脂の溶融流れ速度(g/10分)を示す。]
【0012】
<電子線照射工程(I)>
電子線照射工程(I)では、導体(芯線)と、導体の表面を被覆する、フッ素樹脂を含有する絶縁層(以下、絶縁層Aともいう。)とを有する電線(以下、電線Aともいう。)の絶縁層Aに、電子線を照射する。これにより、絶縁層Aに含まれるフッ素樹脂の少なくとも一部が改質フッ素樹脂となり、改質フッ素樹脂を含む絶縁層(以下、絶縁層Bともいう。)が形成され、導体と、導体の表面を被覆する、改質フッ素樹脂を含有する絶縁層(以下、絶縁層Bともいう。)とを有する電線(以下、電線Bともいう。)が得られる。
【0013】
導体としては、特に限定されず、銅、銅合金、アルミニウム及びアルミニウム合金、スズメッキ、銀メッキ、ニッケルメッキ等の各種メッキ線、より線、超電導体、半導体素子リード用メッキ線などが挙げられる。
フッ素樹脂については後で詳しく説明する。
絶縁層Aは、フッ素樹脂からなるものでもよく、フッ素樹脂に無機フィラー、有機フィラー等が添加されたものでもよい。フッ素樹脂特有の電気特性、耐薬品性、耐熱性、低溶出性等が充分に生かされる点で、絶縁層Aは、フッ素樹脂からなることが好ましい。ここにおいて、「フッ素樹脂からなる」とは、フッ素樹脂を主体とすることを意味し、具体的にはフッ素樹脂を50質量%以上、好ましくは75質量%以上、より好ましくは85質量%以上含むことを意味する。
電線Aは、導体と絶縁層Aとを有するものが市販されていればそれを用いてもよく、また、公知の方法により製造してもよい。
フッ素樹脂による導体の被覆は、公知の方法により行うことができる。フッ素樹脂が、溶融成形が可能なものである場合は、押出機を用いて、電線用の導体上に溶融させたフッ素樹脂を被覆させるように押し出す成形方法(所謂、電線押し出し成型)が好ましい。
電線Aを製造する成形工程を行う場合、成形工程と電子線照射工程(I)とを一連のプロセスに組むことも、コストメリットが高い点で好ましい。このような例として、電線押し出し成型において、フッ素樹脂を溶融させて導体に融着させて冷却し、固化したフッ素樹脂(絶縁層A)に電子線を照射しながら引き取りおよび/または巻き付けを行う、といったプロセスが考えられる。
【0014】
電子線照射工程(I)は、前記フッ素樹脂の結晶融点未満の温度かつ空気中の条件下にて行う。電子線の照射時の温度は、フッ素樹脂の結晶融点(Ta)未満であり、(Ta−290℃)以上、(Ta−5℃)以下が好ましく、(Ta−280℃)以上、(Ta−200℃)以下がより好ましい。
電子線照射をTa未満の温度で行うことにより、特に(Ta−5℃)以下の温度で行うことにより、以下電子線照射時に絶縁層Aが変形したり、他材に圧着する等の問題が生じにくい。
電子線照射時の温度が(Ta−290℃)以上であると、成形品の寸法安定性が良好である。
電子線照射を空気中(酸素存在下)で行うことは、パーフルオロポリマーの反応点を生成しやすい点、さらには生産性、安全性の点で好ましい。
【0015】
本態様においては、前記条件下での電子線照射を、前記式(1)を満たすように行う。
Mb/Maは、電子線の照射前後でのフッ素樹脂の溶融流れ速度(すなわち、MFR)の変位を示す指標である。
Mb/Maは、0.5以上、1.2未満であり、0.6以上、1.1未満が好ましく、0.7以上、1.0未満が特に好ましい。
Mb/Maが式(1)を満たすことで、耐摩耗性が向上し、機械強度等も充分に維持される。Mb/Maが前記範囲の下限値よりも小さいと、絶縁層Bの耐摩耗性が優れない。Mb/Maが前記範囲の上限値よりも大きいと、絶縁層Aの耐摩耗性と絶縁層Bの耐摩耗性との間にほとんど変化は見られない。
Mb/Maは、電子線の照射量によって調整できる。例えば、電子線の照射量が少ないほど、Mb/Maが大きい(すなわち、MFRの変位が少ない)傾向がある。
【0016】
本態様においては、電子線の照射を、式(1)に加えて、下式(3)を満たすように行うことが好ましい。これにより、絶縁層Bの耐摩耗性がより優れたものとなる。
(3) Wb/Wa≧0.6
[式中、Waは、電子線照射前のフッ素樹脂(フッ素樹脂A)の引張り強度(MPa)を示し、Wbは、電子線照射後のフッ素樹脂(フッ素樹脂B)の引張り強度(MPa)を示す。]
【0017】
Wb/Waは、電子線の照射前後での機械強度の変位を示す指標である。
Wb/Waは、0.6以上であり、0.7以上、1.2未満が好ましく、0.7以上、1.1未満がより好ましく、0.75以上、1.0未満が特に好ましい。
Wb/Waが0.6以上であると、より優れた耐摩耗性が得られる。Wb/Waが1.2以上であると、絶縁層Aの耐摩耗性と絶縁層Bの耐摩耗性との間にほとんど変化は見られない。
Wb/Waは、電子線の照射量によって調整できる。例えば電子線の照射量が少ないほど、Wb/Waが大きい(すなわち、機械強度の変位が少ない)傾向がある。
【0018】
<フッ素樹脂>
本発明において、電子線が照射されるフッ素樹脂は、260℃以上の結晶融点(結晶融解温度)を有する。フッ素樹脂の結晶融点は、260〜330℃が好ましく、260〜320℃がより好ましく、280〜310℃が特に好ましい。フッ素樹脂の結晶融点が上記範囲の下限値以上であれば、耐摩耗性、引張り強度、引張り伸度、弾性率等の機械物性に優れ、上記範囲の上限値以下であれば、成形性に優れる。
フッ素樹脂の結晶融点は、当該フッ素樹脂を構成する構成単位の種類や含有割合、分子量等によって調整できる。例えば、テトラフルオロエチレンに基づく構成単位の割合が多くなるほど、結晶融点が上がる傾向がある。
【0019】
フッ素樹脂の平均分子量は、通常、2,000〜1,000,000であってよい。
【0020】
フッ素樹脂は、溶融流れ速度(メルトフローレート(Melt Flow Rate):以下、「MFR」という。)が1〜200g/10分であることが好ましく、2〜100g/10分がより好ましく、3〜50g/10分が特に好ましい。MFRが上記範囲の下限値以上であると、フッ素樹脂は、溶融流動性を示し、溶融成形が可能であるため、成形加工性に優れる。MFRが上記範囲の上限値以下であると、機械物性、耐摩耗性等に優れる。
本発明においてMFRは、結晶融点よりも20℃以上高い温度(通常、372℃が採用される。)にて、49N荷重下で測定される値である。
MFRは、フッ素樹脂の分子量の目安であり、MFRが大きいと分子量が小さく、MFRが小さいと分子量が大きいことを示す。フッ素樹脂の分子量、ひいてはMFRは、フッ素樹脂の製造条件によって調整できる。例えば、モノマーの重合時に重合時間を短縮すると、MFRが大きくなる傾向がある。
【0021】
フッ素樹脂は、以下の測定方法により測定される引張り強度が、5〜100MPaであることが好ましく、5〜60MPaがより好ましく、7〜55MPaが特に好ましい。引張り強度が前記範囲の下限値以上であると耐摩耗性に優れ、上限値以下であると柔軟性に優れる。ここにおいて、引張り強度は、電子線照射前のフッ素樹脂の値である。
[引張り強度の測定方法]
フッ素樹脂から、JIS K6251:2010に準拠してダンベル状3号形(厚み1mm)形状の試験片を作製する。5個の試験片について、温度23±2℃、湿度50%±10%に制御された恒温、恒湿環境下において、東洋精機社製「ストログラフ」を用いて、標線間距離20mm、引張り速度200m/分の条件で引張り強伸度試験を行い、最大点荷重時における応力(MPa)を求める。求めた応力の平均値を算出し、その値を引張り強度とする。
【0022】
フッ素樹脂は、カルボニル基含有基を有する構成単位(a)及びカルボニル基含有基を有する主鎖末端基(a’)のいずれか一方又は両方を含有する。フッ素樹脂中にカルボニル基含有基を有することで、フッ素樹脂の結晶融点未満の温度かつ空気中の条件下での電子線照射で、フッ素樹脂の耐摩耗性を向上させることができる。
フッ素樹脂は、構成単位(a)及び主鎖末端基(a’)のいずれか一方のみを有してもよく両方を有してもよい。電子線により反応点が生成されやすい点では、少なくとも、構成単位(a)を有することが好ましい。
【0023】
カルボニル基含有基は、構造中にカルボニル基(−C(=O)−)を含む基である。
カルボニル基含有基としては、カーボネート基、カルボキシ基、ハロホルミル基、アルコキシカルボニル基、アミド基、酸無水物残基が好ましく、ハロホルミル基、アルコキシカルボニル基、アミド基、酸無水物残基がより好ましい。
ハロホルミル基は、−C(=O)−X(ただしXはハロゲン原子である。)で表される。ハロホルミル基におけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子等が挙げられる。ハロホルミル基としては、フルオロホルミル基(カルボニルフルオリド基ともいう。)が好ましい。
アルコキシカルボニル基(エステル基ともいう。)におけるアルコキシ基は、直鎖状でも分岐状でもよく、炭素数1〜8のアルコキシ基が好ましい。アルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等が特に好ましい。
フッ素樹脂が有するカルボニル基含有基は、1種でも2種以上でもよい。
カルボニル基含有基としては、所定の条件での電子線照射の操作による耐摩耗性の向上効果がより優れる点から、酸無水物残基が最も好ましい。
【0024】
構成単位(a)としては、カルボニル基含有基を有するモノマーに基づく構成単位、熱分解によりカルボニル基含有基を生成する官能基を有するモノマーに基づく構成単位を熱分解することでカルボニル基含有基を生成させてなる構成単位、反応性官能基を有するモノマーに基づく構成単位に、前記反応性官能基と反応する官能基及びカルボニル基含有基を有する化合物を反応させることでカルボニル基含有基を導入した構成単位、等が挙げられる。
構成単位(a)としては、カルボニル基含有基を有するモノマーに基づく構成単位が好ましい。
【0025】
カルボニル基含有基を有するモノマーは、フッ素モノマーでも非フッ素モノマーでもよい。
カルボニル基含有基を有するフッ素モノマーとしては、例えば、CF
2=CFOR
fCO
2X
2(ここで、R
fは、炭素数1〜10のペルフルオロアルキル基、又は炭素原子間に酸素原子を含む炭素数2〜10のペルフルオロアルキル基であり、X
2は、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基である。)が挙げられる。
カルボニル基含有基を有する非フッ素モノマーとしては、例えば、カルボキシ基及び酸無水物基のいずれか一方又は両方を有する炭化水素モノマー(以下「AMモノマー」ともいう。);酢酸ビニル等のビニルエステル;等が挙げられる。
AMモノマーとしては、イタコン酸、シトラコン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、マレイン酸等のジカルボン酸;無水イタコン酸(以下「IAH」ともいう。)、無水シトラコン酸(以下「CAH」ともいう。)、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物(以下「NAH」ともいう。)、無水マレイン酸等のジカルボン酸の酸無水物;等が挙げられる。これらは、1種単独で用いても、2種以上を用いてもよい。
【0026】
カルボニル基含有基を有するモノマーとしては、熱安定性の点から、AMモノマーが好ましい。中でも、IAH、CAH、NAHからなる群から選ばれる1種以上が好ましい。IAH、CAH、NAHからなる群から選ばれる1種以上を用いると、無水マレイン酸を用いた場合に必要となる特殊な重合方法(特開平11−193312号公報参照。)を用いることなく、酸無水物残基を含有するフッ素樹脂を容易に製造できる。
【0027】
主鎖末端基(a’)としては、例えば、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルオキシ基、カルボキシ基、カルボニルフルオリド基等が挙げられる。
フッ素樹脂の主鎖末端基は、フッ素樹脂の製造時に使用されるラジカル重合開始剤又は連鎖移動剤として、所定の官能基を有するものを用いることにより導入することができる。主鎖末端に導入される官能基としてカルボニル基含有基を有するラジカル重合開始剤又は連鎖移動剤を用いると、重合反応により直接、主鎖末端基(a’)を有するフッ素樹脂が得られる。主鎖末端に導入される官能基として熱分解によりカルボニル基含有基を生成する官能基を有するラジカル重合開始剤又は連鎖移動剤を用い、得られたフッ素樹脂の主鎖末端基を熱分解すると、主鎖末端基(a’)を有するフッ素樹脂が得られる。主鎖末端に導入される官能基として反応性官能基を有するラジカル重合開始剤又は連鎖移動剤を用い、得られたフッ素樹脂の主鎖末端基に、前記反応性官能基と反応する官能基及びカルボニル基含有基を有する化合物を反応させると、主鎖末端基(a’)を有するフッ素樹脂が得られる。
前記主鎖末端基を導入するために使用されるラジカル重合開始剤としては、例えば、ターシャリーブチルパーオキシピバレート、ペルフルオロブチロイルパーオキシド等が挙げられる。
前記主鎖末端基を導入するために使用される連鎖移動剤としては、例えば、エステル基、カーボネート基、水酸基、カルボキシ基、カルボニルフルオリド基等の官能基を有する連鎖移動剤が挙げられる。具体的には、酢酸、無水酢酸、酢酸メチル、エチレングリコール、プロピレングリコールが挙げられる。
【0028】
フッ素樹脂中の構成単位(a)及び/または主鎖末端基(a’)の含有量は、フッ素樹脂中のカルボニル基含有基の含有量が、フッ素樹脂の主鎖炭素数1×10
6個に対し10〜60000個の範囲内となる量が好ましい。フッ素樹脂中のカルボニル基含有基の含有量は、フッ素樹脂の主鎖炭素数1×10
6個に対し100〜10000個がより好ましく、300〜5000個が特に好ましい。カルボニル基含有基の含有量が上記範囲の下限値以上であると、反応性に優れ、上記範囲の上限値以下であると、熱安定性に優れる。
前記カルボニル基含有基の含有量(個数)は、核磁気共鳴(NMR)分析、赤外吸収スペクトル分析等の方法により、測定できる。例えば、特開2007−314720号公報に記載のように赤外吸収スペクトル分析等の方法を用いて、フッ素樹脂を構成する全構成単位の合計に対するカルボニル基含有基を有する構成単位の割合(モル%)を求め、該割合から、カルボニル基含有基の含有量を算出することができる。
【0029】
フッ素樹脂は、ペルフルオロモノマーに基づく構成単位(b)を含有する。
ペルフルオロモノマーとしては、例えば、ペルフルオロオレフィン、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)、ペルフルオロ(オキサアルキルビニルエーテル)、ペルフルオロ(アルキルアリルエーテル)、CF
2=CFOR
fSO
2X
1(ここで、R
fは、炭素数1〜10のペルフルオロアルキル基、又は炭素原子間に酸素原子を含む炭素数2〜10のペルフルオロアルキル基であり、X
1はフッ素原子又は水酸基である。)、CF
2=CF(CF
2)
pOCF=CF
2(ここで、pは1又は2である。)、ペルフルオロ(2−メチレン−4−メチル−1、3−ジオキソラン)等が挙げられる。
ペルフルオロモノマーとしては、上記の中でも、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロペン(HFP)及びペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)からなる群から選ばれる1種以上が好ましい。
【0030】
ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)としては、例えば、CF
2=CFOR
f1(ここで、R
f1は炭素数1〜10のペルフルオロアルキル基である。)が挙げられる。
CF
2=CFOR
f1としては、CF
2=CFOCF
2(CF
2)
pF(ここで、pは0〜2の整数である。)が好ましい。
CF
2=CFOR
f1の具体例としては、CF
2=CFOCF
2CF
3、CF
2=CFOCF
2CF
2CF
3、CF
2=CFOCF
2CF
2CF
2CF
3、CF
2=CFO(CF
2)
8F等が挙げられ、CF
2=CFOCF
2CF
2CF
3(以下、「PPVE」ともいう。)が好ましい。
【0031】
ペルフルオロ(オキサアルキルビニルエーテル)としては、例えば、CF
2=CFOR
f2(ここで、R
f2は炭素原子間に酸素原子を含む炭素数2〜10のペルフルオロアルキル基である。)が挙げられる。
CF
2=CFOR
f2としては、CF
2=CF[OCH
2CFX(CF
2)
m]
nOCF
2(CF
2)
pF(ここで、mは0又は1であり、nは1〜5の整数であり、pは0〜2の整数であり、Xは、mが0の場合はフッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、mが1の場合はフッ素原子である。)が好ましい。
【0032】
フッ素樹脂は、構成単位(b)として、少なくとも、TFEに基づく構成単位(b1)を含有することが好ましく、構成単位(b1)と、ペルフルオロモノマー(ただしTFEを除く。)に基づく構成単位(b2)とを含有することがより好ましい。
構成単位(b2)としては、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)に基づく構成単位、及びペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく構成単位からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0033】
フッ素樹脂における構成単位(b)の好ましい例として、以下の(X1)〜(X3)等が挙げられる。構成単位(b)が(X1)の場合、フッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン系重合体(PTFE)である。構成単位(b)が(X2)の場合、フッ素樹脂は、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン系共重合体(FEP)である。構成単位(b)が(X3)の場合、フッ素樹脂は、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル系共重合体(PFA)である。
(X1)構成単位(b1)のみ。
(X2)構成単位(b1)と、HFPに基づく構成単位との組み合わせ。
(X3)構成単位(b1)と、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく構成単位との組み合わせ。
【0034】
構成単位(b)としては、(X2)または(X3)が好ましく、(X3)が特に好ましい。
(X2)において、構成単位(b1)とHFPに基づく構成単位との合計に対する構成単位(b1)の割合は、87〜96質量%が好ましい。
(X3)において、構成単位(b1)とペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく構成単位との合計に対する構成単位(b1)の割合は、92〜99質量%が好ましい。
【0035】
フッ素樹脂中の構成単位(b)の含有量は、フッ素樹脂を構成する全構成単位の合計に対し、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、95モル%以上が特に好ましい。
構成単位(b)の前記含有量の上限は、フッ素樹脂が構成単位(a)を含む場合は、構成単位(a)及び任意に含まれる他の構成単位の含有量を考慮して適宜設定できる。フッ素樹脂が主鎖末端基(a’)を含み、構成単位(a)を含まない場合は、任意に含まれる他の構成単位の含有量を考慮して適宜設定でき、100モル%であってもよい。
【0036】
フッ素樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、構成単位(a)及び構成単位(b)以外の他の構成単位(以下「任意構成単位」ともいう。)をさらに含有してもよい。
ただし、フッ素樹脂は、炭化水素モノマーに基づく構成単位(ただし前記構成単位(a)を除く。)は含有しない。前記炭化水素モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン等のオレフィン等が挙げられる。
任意構成単位としては、例えば、前述のペルフルオロモノマーのフッ素原子の一部を水素原子、塩素原子等で置換したものが挙げられる。具体例としては、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン(以下「VdF」ともいう。)、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン(以下「CTFE」ともいう。)等のフルオロオレフィン(ただしペルフルオロオレフィンを除く。)に基づく構成単位、CH
2=CX
3(CF
2)
qX
4(ここで、X
3は水素原子又はフッ素原子であり、qは2〜10の整数である。)に基づく構成単位等が挙げられる。
本発明の有効性の点では、フッ素樹脂は、炭素−水素結合を有するモノマーに基づく構成単位(ただし構成単位(a)を除く。)を含有しないことが好ましい。
【0037】
フッ素樹脂としては、AMモノマーに基づく構成単位(a1)と、TFEに基づく構成単位(b1)と、ペルフルオロモノマー(ただしTFEを除く。)に基づく構成単位(b2)とを含有する共重合体(以下「共重合体(I)」ともいう。)が好ましい。
ここで、構成単位(a1)は、AMモノマーに由来して、カルボキシ基及び酸無水物基のいずれか一方又は両方を有しており、これがカルボニル基含有基に相当する。
共重合体(I)は、主鎖末端基(b’)を有してもよく、有さなくてもよい。
【0038】
AMモノマー、ペルフルオロモノマーとしては、それぞれ前記と同様のものが挙げられる。構成単位(b2)におけるペルフルオロモノマーとしては、HFP、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)が好ましい。ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)としては、CF
2=CFOR
f1が好ましく、PPVEが特に好ましい。
共重合体(I)は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述の構成単位(a1)、(b1)、(b2)以外の他の構成単位をさらに含有してもよい。前記他の構成単位としては、任意構成単位として前記で挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0039】
共重合体(I)においては、構成単位(a1)と構成単位(b1)と構成単位(b2)との合計モル量に対して、構成単位(a1)が0.01〜5モル%で、構成単位(b1)が50〜99.89モル%で、構成単位(b2)が0.1〜49.99モル%であることが好ましく、構成単位(a1)が0.1〜3モル%で、構成単位(b1)が50〜99.4モル%で、構成単位(b2)が0.5〜49.9モル%であることがより好ましく、構成単位(a1)が0.1〜2モル%で、構成単位(b1)が50〜98.9モル%で、構成単位(b2)が1〜49.9モル%であることが特に好ましい。
各構成単位の含有量が上記範囲内であると、共重合体(I)は、耐熱性、耐薬品性に優れ、機械強度に優れる。
特に、構成単位(a1)の含有量が上記範囲内であると、共重合体(I)の有するカルボニル基含有基の量が適切な量となり、重合時において、AMモノマーの濃度も適切な量となり、後述のように、該モノマー濃度が高まることによる重合速度の低下を回避しやすい。
構成単位(b2)の含有量が上記範囲内であると、共重合体(I)は、成形性に優れ、共重合体(I)から得られる改質フッ素樹脂の成形品は、耐ストレスクラック性等の機械物性に優れる。
【0040】
共重合体(I)において、構成単位(a1)と構成単位(b1)と構成単位(b2)との合計モル量は、共重合体(I)を構成する全構成単位の合計モル量に対して、60モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましい。好ましい上限値は、100モル%である。
【0041】
なお、共重合体(I)が構成単位(a1)と構成単位(b1)と構成単位(b2)とからなる場合、それらの構成単位の合計モル量に対して構成単位(a1)が0.01モル%とは、共重合体(I)中のカルボニル基含有基の含有量が、共重合体(I)の主鎖炭素数1×10
6個に対して100個であることに相当し、前記合計モル量に対して構成単位(a1)が5モル%とは、共重合体(I)中のカルボニル基含有基の含有量が、共重合体(I)の主鎖炭素数1×10
6個に対して50,000個であることに相当する。
AMモノマーにおけるカルボニル基含有基が酸無水物残基のみである場合でも、AMモノマーに基づく構成単位が一部加水分解し、その結果、共重合体(I)には、酸無水物残基に対応するジカルボン酸(イタコン酸、シトラコン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、マレイン酸等。)に基づく構成単位が含まれる場合がある。該ジカルボン酸に基づく構成単位が含まれる場合、該構成単位の含有量は、構成単位(a1)に含まれるものとする。
各構成単位の含有量は、共重合体(I)の溶融NMR分析、フッ素含有量分析及び赤外吸収スペクトル分析等により算出できる。
【0042】
共重合体(I)の好ましい具体例としては、TFE/PPVE/NAH共重合体、TFE/PPVE/IAH共重合体、TFE/PPVE/CAH共重合体、TFE/HFP/IAH共重合体、TFE/HFP/CAH共重合体等が挙げられる。
【0043】
前述のフッ素樹脂は、所望のフッ素樹脂が市販されていればそれを用いてもよく、また、各種原料化合物から重合等の適当な方法により製造してもよい。
フッ素樹脂の製造方法としては、例えば、以下の(1)〜(4)等が挙げられる。
(1)重合反応でフッ素樹脂を製造する際に、カルボニル基含有基を有するモノマー(例えばAMモノマー)を使用する方法。
(2)カルボニル基含有基を有するラジカル重合開始剤や連鎖移動剤を用いて、重合反応でフッ素樹脂を製造する方法。
(3)熱分解によりカルボニル基含有基を生成する熱分解部位を有するフッ素樹脂を加熱して、該フッ素樹脂を部分的に熱分解することで、カルボニル基含有基を生成させ、カルボニル基含有基を有するフッ素樹脂を得る方法。
(4)カルボニル基含有基を有しないフッ素樹脂に、カルボニル基含有基を有するモノマーをグラフト重合して、該フッ素樹脂にカルボニル基含有基を導入する方法。
フッ素樹脂の製造方法としては、(1)の方法が好ましい。
【0044】
重合反応でフッ素樹脂を製造する場合、重合方法としては、特に制限はなく、例えばラジカル重合開始剤を用いる重合方法が用いられる。
ラジカル重合開始剤としては、その半減期が10時間である温度が、0〜100℃であることが好ましく、20〜90℃であることがより好ましい。具体例としては、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、イソブチリルペルオキシド、オクタノイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド等の非フッ素系ジアシルペルオキシド、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート、tert−ブチルペルオキシピバレート、tert−ブチルペルオキシイソブチレート、tert−ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル、(Z(CF
2)
rCOO)
2(ここで、Zは水素原子、フッ素原子又は塩素原子であり、rは1〜10の整数である。)で表される化合物等の含フッ素ジアシルペルオキシド、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過硫酸物等が挙げられる。
【0045】
重合方法としては、塊状重合、フッ化炭化水素、塩化炭化水素、フッ化塩化炭化水素、アルコール、炭化水素等の有機溶媒を使用する溶液重合、水性媒体及び必要に応じて適当な有機溶剤を使用する懸濁重合、水性媒体及び乳化剤を使用する乳化重合等が挙げられる。好ましくは、溶液重合である。
重合条件は、特に限定されず、重合温度は、0〜100℃が好ましく、20〜90℃がより好ましい。重合圧力は、0.1〜10MPaが好ましく、0.5〜3MPaがより好ましい。重合時間は、1〜30時間が好ましい。
【0046】
カルボニル基含有基を有するモノマーとしてAMモノマーを重合する場合、重合中のAMモノマーの濃度は、全モノマーの合計に対して0.01〜5モル%とすることが好ましく、0.1〜3モル%とすることがより好ましく、0.1〜1モル%とすることが特に好ましい。AMモノマーの濃度が前記の範囲内であれば、重合速度が良好である。AMモノマーの濃度が高すぎると、重合速度が低下する傾向がある。
重合中、AMモノマーが重合で消費されるにしたがって、消費された量を連続的又は断続的に重合槽内に供給し、AMモノマーの濃度を上記範囲内に維持することが好ましい。
【0047】
重合時には、フッ素樹脂のMFRを制御するために、連鎖移動剤を使用することができる。
連鎖移動剤としては、メタノール、エタノール等のアルコール、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン、1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン等のクロロフルオロハイドロカーボン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等のハイドロカーボンが挙げられる。
連鎖移動剤として、エステル基、カーボネート基、水酸基、カルボキシ基、カルボニルフルオリド基等の官能基を有する連鎖移動剤を用いると、前記官能基をフッ素樹脂の主鎖末端に導入することができる。そのような連鎖移動剤としては、酢酸、無水酢酸、酢酸メチル、エチレングリコール、プロピレングリコールが挙げられる。
【0048】
(第二の態様)
本発明の電線の製造方法の第二の態様は、電子線照射工程(I)での電子線の照射を、前記式(1)を満たすように行う代わりに、下式(2)を満たすように行う以外は、前記第一の態様と同様である。
(2) 1≦Tb−Ta<6.5
[式中、Taは、電子線照射前のフッ素樹脂(フッ素樹脂A)の結晶融点(℃)を示し、Tbは、電子線照射後のフッ素樹脂(フッ素樹脂B)の結晶融点(℃)を示す。]
【0049】
Tb−Taは、電子線の照射前後でのフッ素樹脂の結晶融点の変位を示す指標である。
Tb−Taは、1以上、5未満が好ましく、1以上、4未満が特に好ましい。
Tb−Taが前記範囲の上限値を超えると、フッ素樹脂Bの層の耐摩耗性が優れない。Tb−Taが前記範囲の下限値未満であると、フッ素樹脂Aの層の耐摩耗性とフッ素樹脂Bの層の耐摩耗性との間にほとんど変化は見られない。
【0050】
本態様においては、電子線の照射を、式(2)に加えて、前記式(3)を満たすように行うことが好ましい。これにより、絶縁層Bの耐摩耗性がより優れたものとなる。
本態様においては、前記式(1)を満たすことは必須ではないが、第一の態様と同様に、式(1)を満たすことが好ましい。
【0051】
(第三の態様)
本発明の電線の製造方法の第三の態様は、電子線照射工程(I)での電子線の照射を、前記式(1)を満たすように行う代わりに、30kGy未満の照射線量で行う以外は、前記第一の態様と同様である。
照射線量は、0.01kGy以上が好ましく、0.1kGy以上がさらに好ましい。また、照射線量は、25kGy未満が好ましく、10kGy未満がさらに好ましい。
照射線量が30kGy以上であると、フッ素樹脂の脆化が促進され、耐摩耗性、機械強度等の物性が大きく低下する。照射線量が0.01kGy未満であると、耐摩耗性に必要な照射量の不足により、耐摩耗性に向上がみられないおそれがある。
【0052】
本態様においては、電子線の照射を、式(2)に加えて、前記式(3)を満たすように行うことが好ましい。これにより、絶縁層Bの耐摩耗性がより優れたものとなる。
本態様においては、前記式(1)を満たすことは必須ではないが、第一の態様と同様に、式(1)を満たすことが好ましい。
本態様においては、前記式(2)を満たすことは必須ではないが、第二の態様と同様に、式(2)を満たすことが好ましい。
【0053】
≪成形品の製造方法≫
(第一の態様)
本発明の成形品の製造方法の第一の態様は、フッ素樹脂を含む成形品に電子線を照射し、前記フッ素樹脂の少なくとも一部を改質フッ素樹脂として、前記改質フッ素樹脂を含む成形品を得る工程(以下「電子線照射工程(II)」ともいう。)を含み、
前記フッ素樹脂は、結晶融点が260℃以上であり、カルボニル基含有基を有する構成単位(a)及びカルボニル基含有基を有する主鎖末端基(a’)のいずれか一方又は両方と、ペルフルオロモノマーに基づく構成単位(b)(ただし前記構成単位(a)を除く。)とを含有し、炭化水素モノマーに基づく構成単位(ただし前記構成単位(a)を除く。)を含有せず、
前記電子線の照射が、前記フッ素樹脂の結晶融点未満の温度かつ空気中の条件下にて、下式(1)を満たすように行われることを特徴とする。
(1) 0.5≦Mb/Ma<1.2
[式中、Maは、電子線照射前のフッ素樹脂の溶融流れ速度(g/10分)を示し、Mbは、電子線照射後のフッ素樹脂の溶融流れ速度(g/10分)を示す。]
【0054】
<電子線照射工程(II)>
電子線照射工程(II)では、フッ素樹脂を含む成形品(以下、成形品Aともいう。)に電子線を照射する。これにより、成形品Aに含まれるフッ素樹脂の少なくとも一部が改質フッ素樹脂となり、改質フッ素樹脂を含む成形品(以下、成形品Bともいう。)が得られる。
【0055】
フッ素樹脂としては、前述の電線の製造方法の説明で挙げたフッ素樹脂と同様のものが挙げられる。
成形品Aは、フッ素樹脂からなるものでもよく、フッ素樹脂に無機フィラー、有機フィラー等が添加されたものでもよい。フッ素樹脂特有の電気特性、耐薬品性、耐熱性、低溶出性等が充分に生かされる点で、成形品Aは、フッ素樹脂からなることが好ましい。ここにおいて、「フッ素樹脂からなる」とは、前述したように、フッ素樹脂を主体とすることを意味し、具体的にはフッ素樹脂を50質量%以上、好ましくは75質量%以上、より好ましくは85質量%以上含むことを意味する。
成形品Aの具体例としては、例えば、フィルム、チューブ材、軸受け、歯車、ギア部材、摺動部材、電子機器用部材、スペーサー、ローラー、カム等が挙げられる。ただし、本発明における成形品は、これらに限定されるものではない。電子線照射により優れた耐摩耗性が得られることから、成形品Aとしては、摺動部材が好ましい。
成形品Aは、所定のフッ素樹脂を含む成形品が市販されていればそれを用いてもよく、また、公知の方法により製造してもよい。
成形品Aの製造方法としては、フッ素樹脂が、溶融成形が可能なものである場合は、溶融成形法が好ましい。溶融成形法としては、押出成形、射出成形、圧縮成形、ブロー成形、トランスファ成形、カレンダー成形等が挙げられる。成形品Aがフィルム、チューブ材等である場合には、押出成形が主に採用され、成形品Aが軸受け、歯車、ギア部材、摺動部材、電子機器、スペーサー、ローラー、カム等である場合には、射出成形が主に採用される。溶融成形は、溶融成形に通常用いられる溶融成形装置、例えばメルト熱プレス機「ホットプレス二連式」(テスター産業社製)等、を用いて行うことができる。
成形品Aを製造する成形工程を行う場合、成形工程と電子線照射工程(II)とを一連のプロセスに組むことも、コストメリットが高い点で好ましい。
【0056】
本態様における電子線の照射は、前述の電線の製造方法の第一の態様における電子線の照射と同様に行われる。好ましい条件も同様である。
【0057】
(第二の態様)
本発明の成形品の製造方法の第二の態様は、電子線照射工程(II)での電子線の照射を、前記式(1)を満たすように行う代わりに、下式(2)を満たすように行う以外は前記第一の態様と同様である。
(2) 1≦Tb−Ta<6.5
[式中、Taは、電子線照射前のフッ素樹脂(フッ素樹脂A)の結晶融点(℃)を示し、Tbは、電子線照射後のフッ素樹脂(フッ素樹脂B)の結晶融点(℃)を示す。]
【0058】
本態様における電子線の照射は、前述の電線の製造方法の第二の態様における電子線の照射と同様に行われる。好ましい条件も同様である。
【0059】
(第三の態様)
本発明の成形品の製造方法の第三の態様は、電子線照射工程(II)での電子線の照射を、前記式(1)を満たすように行う代わりに、30kGy未満の照射線量で行う以外は前記第一の態様と同様である。
本態様における電子線の照射は、前述の電線の製造方法の第三の態様における電子線の照射と同様に行われる。好ましい条件も同様である。
【0060】
≪改質フッ素樹脂を含む樹脂材料の製造方法≫
(第一の態様)
本発明の改質フッ素樹脂の製造方法の第一の態様は、フッ素樹脂を含む樹脂材料に電子線を照射して前記フッ素樹脂の少なくとも一部を改質フッ素樹脂とすることにより、前記改質フッ素樹脂を含む樹脂材料を得る工程(以下「電子線照射工程(III)」ともいう。)を含み、
前記フッ素樹脂は、結晶融点が260℃以上であり、カルボニル基含有基を有する構成単位(a)及びカルボニル基含有基を有する主鎖末端基(a’)のいずれか一方又は両方と、ペルフルオロモノマーに基づく構成単位(b)(ただし前記構成単位(a)を除く。)とを含有し、炭化水素モノマーに基づく構成単位(ただし前記構成単位(a)を除く。)を含有せず、
前記電子線の照射が、前記フッ素樹脂の結晶融点未満の温度かつ空気中の条件下にて、下式(1)を満たすように行われることを特徴とする。
(1) 0.5≦Mb/Ma<1.2
[式中、Maは、電子線照射前のフッ素樹脂の溶融流れ速度(g/10分)を示し、Mbは、電子線照射後のフッ素樹脂の溶融流れ速度(g/10分)を示す。]
【0061】
<電子線照射工程(III)>
電子線照射工程(III)では、フッ素樹脂を含む樹脂材料(以下、樹脂材料Aともいう。)に電子線を照射する。これにより、樹脂材料Aに含まれるフッ素樹脂の少なくとも一部が改質フッ素樹脂となり、改質フッ素樹脂を含む樹脂材料(以下、樹脂材料Bともいう。)が得られる。
【0062】
フッ素樹脂としては、前述の電線の製造方法の説明で挙げたフッ素樹脂と同様のものが挙げられる。
樹脂材料Aは、フッ素樹脂からなるものでもよく、フッ素樹脂に無機フィラー、有機フィラー等が添加されたものでもよい。フッ素樹脂特有の電気特性、耐薬品性、耐熱性、低溶出性等が充分に生かされる点で、樹脂材料Aは、フッ素樹脂からなることが好ましい。ここにおいて、「フッ素樹脂からなる」とは、前述したように、フッ素樹脂を主体とすることを意味し、具体的にはフッ素樹脂を50質量%以上、好ましくは75質量%以上、より好ましくは85質量%以上含むことを意味する。
本態様における電子線の照射は、前述の電線の製造方法の第一の態様における電子線の照射と同様に行われる。好ましい条件も同様である。
【0063】
(第二の態様)
本発明の改質フッ素樹脂を含む樹脂材料の製造方法の第二の態様は、電子線照射工程(III)での電子線の照射を、前記式(1)を満たすように行う代わりに、下式(2)を満たすように行う以外は前記第一の態様と同様である。
(2) 1≦Tb−Ta<6.5
[式中、Taは、電子線照射前のフッ素樹脂(フッ素樹脂A)の結晶融点(℃)を示し、Tbは、電子線照射後のフッ素樹脂(フッ素樹脂B)の結晶融点(℃)を示す。]
【0064】
本態様における電子線の照射は、前述の電線の製造方法の第二の態様における電子線の照射と同様に行われる。好ましい条件も同様である。
【0065】
(第三の態様)
本発明の改質フッ素樹脂を含む樹脂材料の製造方法の第三の態様は、電子線照射工程(III)での電子線の照射を、前記式(1)を満たすように行う代わりに、30kGy未満の照射線量で行う以外は、前記第一の態様と同様である。
本態様における電子線の照射は、前述の電線の製造方法の第三の態様における電子線の照射と同様に行われる。好ましい条件も同様である。
【0066】
(改質フッ素樹脂を含む樹脂材料の用途)
本発明の改質フッ素樹脂を含む樹脂材料の製造方法により得られる樹脂材料Bの用途としては、特に限定されず、例えば、電線被覆材、フィルム、チューブ材、軸受け、歯車、ギア部材、摺動部材、電子機器、スペーサー、ローラー、カム等の様々な用途に使用できる。
耐摩耗性に優れることから、高い耐摩耗性が要求される用途が好ましく、電線被覆材、又は摺動部材が好ましい。
【0067】
これらの用途において、樹脂材料Bは、典型的には、樹脂材料Bからなる成形品、樹脂材料Bからなる部材と他の部材とを組み合わせた構造体(例えば、電線等)等として用いられる。
成形品としては、樹脂材料Aを目的の形状に成形した前駆成形品に所定の条件で電子線を照射し、得られた樹脂材料Bを最終形状に成形したもの、樹脂材料Aのビーズやペレットに所定の条件で電子線を照射し、得られた樹脂材料Bを成形したもの、等が挙げられる。
樹脂材料Bからなる部材と他の部材とを組み合わせた構造体としては、樹脂材料Aからなる部材と他の部材とを組み合わせた構造体の前記樹脂材料Aからなる部材に所定の条件で電子線を照射したもの、前記樹脂材料Aのビーズやペレットに所定の条件で電子線を照射し、得られた樹脂材料Bを成形し、他の部材と組み合わせたもの、等が挙げられる。
樹脂材料A又はBの成形方法としては、公知の成形方法を用いることができる。例えば、前述の電線の製造方法、成形品の製造方法等に示す方法を採用できる。
電子線を照射すると樹脂材料Aの流動性が下がり、溶融成形性が下がることから、樹脂材料Aを目的の形状に成形した成形品(成形部材を含む)に対して電子線照射することが好ましい。
【0068】
≪成形品の製造方法≫
(第四の態様)
本発明の成形品の製造方法の第四の態様は、前述の本発明の改質フッ素樹脂を含む樹脂材料の製造方法により改質フッ素樹脂を含む樹脂材料を得る工程と、前記改質フッ素樹脂を含む樹脂材料を成形して成形品を得る工程とを含む。
改質フッ素樹脂を含む樹脂材料を得る工程は、前記改質フッ素樹脂を含む樹脂材料の製造方法の第一〜第三の態様のいずれにより行ってもよい。
改質フッ素樹脂を含む樹脂材料を成形する方法としては、特に限定されず、公知の成形方法を利用できる。例えば、前述の溶融成形法により成形することができる。
【0069】
≪作用効果≫
従来、ペルフルオロ型のフッ素樹脂やその成形品を電子線照射する場合は、結晶融点以上かつ酸素不在下(例えば、真空下等)の条件下で実施されることが多い。これは、ETFE、PVdFなどの炭素−水素の結合が比較的多く含まれるフッ素樹脂と違い、炭素−フッ素の結合が大部分を占めるペルフルオロ型のフッ素樹脂は、分子間力が弱く、電子線を照射された際に、ポリマーの分解が優先的におこり、物性が大きく低下することがわかっているためである。そのため、ペルフルオロ型のフッ素樹脂を電子線照射する場合は、ポリマーの自由度を高めるために結晶融点温度以上とし、かつ酸化分解を抑制するために酸素不在下(例えば、真空下等)とされている。
しかし、本発明では、驚くべきことに、空気中(すなわち、酸素の存在下)で電子線照射することによって、炭素−フッ素の結合が大部分を占めるフッ素樹脂であっても、機械強度の低下を引き起こすことなく、耐摩耗性を飛躍的に向上させることが可能である。具体的には、30kGy以下、あるいは上述の式(1)又は(2)を満たし得る低い照射線量であれば、電子線照射によって、前記フッ素樹脂の分子内や分子間でカルボニル基含有基同士が反応し、またはポリマー鎖が切断される際に生じる活性ラジカルがカルボニル基含有基と反応して3次元的網目構造を形成する反応が、空気中と接する表面部分において優先的に進み、表面の硬化が可能である。これにより、機械強度の低下を引き起こすことなく、表面の硬化による分子間力の向上により、フッ素樹脂の耐摩耗性が高くなる。特に、電線被覆材の摩耗性試験として一般的なブレードによる横方向の往復運動による摩擦試験である、ISO6722に準拠したスクレープ摩耗試験に特に効果がある。
このように、本発明によれば、ペルフルオロ型のフッ素樹脂の耐摩耗性を、電子線照射のみによって向上させることが可能である。従来、耐摩耗性の向上のため、フィラー、架橋剤等の添加材を添加する場合があるが、添加材は、ペルフルオロ型のフッ素樹脂特有の優れた電気特性、耐薬品性、耐熱性、低溶出性を損なう懸念がある。本発明においては、これら添加材を加える必要がないため、優れた耐摩耗性だけでなく、フッ素樹脂特有の電気特性、耐薬品性、耐熱性、低溶出性等も充分に兼ね備える改質フッ素樹脂が得られる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
後述する例1〜10のうち、例2〜4が実施例であり、例1、例5〜10が比較例である。
各例で用いた材料、測定方法を以下に示す。
【0071】
(材料)
PFA−1:TFE/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(結晶融点303℃、MFR15.2g/10分)、旭硝子社製、製品名「Fluon PFA 73PT」。
PFA−2:後述する製造例1で得た、TFE/NAH/PPVE共重合体(結晶融点296.4℃、MFR17.0g/10分)。
【0072】
(測定方法)
<フッ素樹脂の組成>
フッ素樹脂の組成(各構成単位のモル比)は、溶融NMR分析、フッ素含有量分析、及び赤外吸収スペクトル分析により測定したデータから算出した。
【0073】
<結晶融点(℃)>
フッ素樹脂の結晶融点(Tm)は、示差走査熱量測定(DSC)により求めた。具体的には、熱分析装置「EXSTAR DSC7020」(セイコーインスツル社製)を用いて、10℃/分の速度で昇温したときの融解ピークを記録し、そのトップピークである極大値に対応する温度(℃)を結晶融点とした。結晶融点の測定に当たっては、電子線照射前のフッ素樹脂および電子線照射後のフッ素樹脂のそれぞれについて行ない、前者の結果をTaとし、後者の結果をTbとした。
【0074】
<溶融流れ速度(MFR)(g/10分)>
テクノセブン社製メルトインデクサーを用い、372℃にて49N(5kg)荷重下で、直径2mm、長さ8mmのノズルから10分間で流出するフッ素樹脂の質量(g)を測定し、その値をMFR(g/10分)とした。溶融流れ速度の測定に当たっては、電子線照射前のフッ素樹脂および電子線照射後のフッ素樹脂のそれぞれについて行ない、前者の結果をMaとし、後者の結果をMbとした。
【0075】
<引張り強度、引張り伸度(強度:MPa、伸度:%)>
フッ素樹脂から、JIS K6251:2010に準拠してダンベル状3号形(厚み1mm)形状の試験片を作製した。5個の試験片について、温度23±2℃、湿度50%±10%に制御された恒温、恒湿環境下において、東洋精機社製「ストログラフ」を用いて、標線間距離20mm、引張り速度200m/分の条件で引張り強伸度試験を行い、最大点荷重時における応力(MPa)、および初期のサンプル長さに対する破断時のサンプル長さの割合(%)を求めた。求めた応力の平均値を算出し、その値を引張り強度とした。また、求めた割合の平均値を算出し、その値を引張り強度とした。
【0076】
<耐摩耗性(耐スクレープ摩耗性)>
各例の電線サンプルを長さ2mに切り出し、安田精機社製、製品名「マグネットワイヤー摩耗試験機(往復式)」を用い、ISO6722−1に準拠した試験方法によってスクレープ摩耗試験を実施して摩耗抵抗(回数)を測定した。具体的には、ニードル直径:0.45±0.01mm、ニードル材質:SUS316(JIS G7602準拠)、摩耗距離:15.5±1mm、摩耗速度:55±5回/min、荷重:7N、試験環境:23±1℃の条件下で実施した。
摩耗抵抗は、ニードルの往復運動によって、芯線が絶縁被覆から露出するまでに要したニードルの往復回数で表される。摩耗抵抗(回数)が多いほど、その電線被覆材の耐摩耗性は優れる。
【0077】
(製造例1:PFA−2の製造)
NAH(構成単位(a1)のモノマー)、TFE(構成単位(b1)のモノマー)、及びPPVE(ペルフルオロプロピルビニルエーテル(CF
2=CFO(CF
2)
3F、構成単位(b2)のモノマー)を、以下のように重合してフッ素樹脂(PFA−2)を得た。
まず、369kgの1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン「AK225cb」(旭硝子社製)(以下、「AK225cb」とも称する。)と、30kgのPPVE(旭硝子社製)とを予め脱気し、内容積430Lの重合槽に入れた。
重合槽内を、50℃に昇温し、TFEを重合槽内に送り込むことで0.89MPa/Gまで昇圧した。重合開始剤として、0.36質量%の(ペルフルオロブチリル)ペルオキシド/AK225cb溶液を、1分間に6.25mLの速度で合計3Lを重合槽内に送り込み、重合を行った。なお、「0.89MPa/G」とは、ゲージ圧が0.89MPaであることを示す。以下、同様である。
重合中は、重合槽内を0.89MPa/Gに維持するため、TFE(旭硝子社製)を重合槽内に送り込んだ。同時に、該TFEを100モル%とした場合に、0.1モル%のNAH(日立化成社製)を重合槽内に送り込んだ。
重合開始8時間後、32kgのTFEを仕込んだ時点で、重合槽内を室温まで降温し、常圧まで降圧し、フッ素樹脂(PFA−2)を含有するスラリを得た。
得られたスラリ中のフッ素樹脂(PFA−2)とAK225cbとを固液分離した後、回収した固形分を150℃で15時間乾燥し、33kgの粒状のフッ素樹脂(PFA−2)を得た。
フッ素樹脂(PFA−2)の比重は、2.15であった。
フッ素樹脂(PFA−2)の共重合組成は、(NAHに基づく構成単位):(TFEに基づく構成単位):(PPVEに基づく構成単位)=0.1:97.9:2.0(モル比)であった。
フッ素樹脂(PFA−2)の結晶融点は、296.4℃であった。
フッ素樹脂(PFA−2)のMFRは、測定温度372℃において17.0g/10分であった。
【0078】
(例1)
製造例1で得られた粒状のPFA−2を、φ15mmの二軸押し出し(テクノベル社製)によって、ダイス成型温度が340℃の条件下でペレット化した後、下記の電線押し出し成型を実施し、電線サンプルを得た。
<電線押し出し成型>
電線製造装置として下記の構成のものを用い、電線径の厚み精度が±0.03mmとなるように、溶融させたフッ素樹脂を芯線上に被覆させるように押し出して電線サンプルを作成した。成型温度は、340℃の条件下で実施した。
・押出機:アイ・ケー・ジー社製、MS30−25押し出し機。
・スクリュー:IKG社製、フルフライト、L/D=24、φ30mm。
・電線ダイスクロスヘッド:ユニテック社製、最大導体径:3mm、最大ダイス孔径:20mm。
・電線引き取り機、巻き取り機:聖製作所社製。
芯線としては、安田工業社製(練り線、芯線径:1.8mm、構成:37/0.26mm(1層:右撚7本、2層:左撚12本、3層:右撚18本))のものを用意した。
【0079】
得られた電線サンプルについて、上記の方法により、スクレープ摩耗試験を実施して摩耗抵抗(回数)を測定した。別途、EB照射後の電線サンプルから、ワイヤーストリッパーを用いて、芯線から電線被覆(すなわち、フッ素樹脂の層)の引き抜きを行った。引き抜き後、得られた電線被覆を用いて、MFRおよび結晶融点の測定を実施した。結果を表1に示す。
【0080】
(例2〜6)
例1で得られた電線サンプルに、空気中(すなわち、酸素の存在下)にて、表1に示す照射線量(kGy)にて電子線(以下、EBとも記す。)を照射した。
EB照射後の電線サンプルについて、上記の方法により、スクレープ摩耗試験を実施して摩耗抵抗(回数)を測定した。別途、EB照射後の電線サンプルから、例1と同様にして、芯線から電線被覆の引き抜きを行い、得られた電線被覆を用いて、MFRおよび結晶融点の測定を実施した。結果を表1に示す。
【0081】
(例7)
ペレット化したPFA−2の代わりにPFA−1を用いた以外は、例1と同様の操作で電線押し出し成型を実施し、電線サンプルを得た。
得られた電線サンプルについて、上記の方法により、スクレープ摩耗試験を実施して摩耗抵抗(回数)を測定した。別途、EB照射後の電線サンプルから、例1と同様にして、芯線から電線被覆の引き抜きを行い、得られた電線被覆を用いて、MFRおよび結晶融点の測定を実施した。結果を表1に示す。
【0082】
(例8〜10)
例7で得られた電線サンプルに、空気中(すなわち、酸素の存在下)にて、表1に示す照射線量(kGy)にて電子線(EB)を照射した。
EB照射後の電線サンプルについて、上記の方法により、スクレープ摩耗試験を実施して摩耗抵抗(回数)を測定した。別途、EB照射後の電線サンプルから、例1と同様にして、芯線から電線被覆の引き抜きを行い、得られた電線被覆を用いて、MFRおよび結晶融点の測定を実施した。結果を表1に示す。
【0083】
例2〜6、例8〜10について、Mb/Ma、Tb−Ta、Wb/Waの値を表1に併記する。例2〜6のMb/Ma、Tb−Ta、Wb/Waは、それぞれ、例1のMFR、結晶融点、引張り強度をMa、Ta、Waとして求めた。例8〜10のMb/Ma、Tb−Ta、Wb/Waは、それぞれ、例7のMFR、結晶融点、引張り強度をMa、Ta、Waとして求めた。
【0084】
【表1】
【0085】
表1より、カルボニル基含有基を有するPFA−2に対し、30kGy未満の照射線量でEBを照射した例2〜4は、EB未照射の例1に比べて、耐摩耗性に優れており、引張り強度も充分に維持されていた。
一方、PFA−2に対し、30kGy以上の照射線量でEBを照射した例5〜6の耐摩耗性は、例1よりも低くなっていた。また、例2〜4に比べて引張り強度の変位も大きかった。
カルボニル基含有基を有しないPFA−1を用いた例7〜10では、EBの照射線量が多くなるにつれて耐摩耗性が低下しており、例2〜4に見られたような、EB照射による耐摩耗性の向上は見られなかった。また、例7〜10では、例1〜6とは異なり、EBの照射線量が多くなるにつれてMFRが大きくなっていた。これらの結果は、EB照射によってPFA−1の主鎖が分解したことによると考えられる。