(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1のFe基軟磁性合金粉と第2のFe基軟磁性合金粉の合計に対する前記第1のFe基軟磁性合金粉の比率が質量比で40%以上であることを特徴とする請求項1に記載の磁心の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る磁心の製造方法、磁心およびコイル部品の実施形態を、具体的に説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではない。
【0016】
図1は、本発明に係る磁心の製造方法の実施形態を説明するための工程のフローである。この製造方法は、Fe基軟磁性合金粒が分散した組織を有する磁心の製造方法であって、AlおよびCrを含む第1のFe基軟磁性合金粉と、CrおよびSiを含む第2のFe基軟磁性合金粉と、バインダとを混合する第1の工程と、前記第1の工程を経て得られた混合物を成形する第2の工程と、前記第2の工程を経て得られた成形体を熱処理する第3の工程とを有する。Fe基軟磁性合金粒が分散した組織は、Fe基軟磁性合金粒の集合体がなす組織である。熱処理によりFe軟磁性合金粉の表面に酸化物層を形成しつつ、該酸化物層を介してFe基軟磁性合金粉同士を結合させる。したがって、得られる磁心は、Fe基軟磁性合金粒と、該Fe基軟磁性合金粒間に介在する酸化物相を有する。ここで酸化物相は、2つのFe基軟磁性合金粒の間の粒界の酸化物層と、3つのFe基軟磁性合金粒の間の粒界の3重点にある、例えば層状の形態をとらない酸化物を含む。
これらの構成によって、以下に説明する効果を得ることができる。
【0017】
本発明に用いる第1のFe基軟磁性合金粉は、質量比でFeを最も多く含み、さらにAlおよびCrを含むFe−Al−Cr系軟磁性合金粉である。また、第2のFe基軟磁性合金粉は、質量比でFeを最も多く含み、さらにSiおよびCrを含むFe−Cr−Si系軟磁性合金粉である。磁心にFe−Cr−Si系軟磁性合金粉を用いることは高耐食性や低コアロスに有利である反面、加圧成形に高圧を要し、磁心の強度向上には不利である。一方、Fe−Al−Cr系軟磁性合金粉は、Fe−Cr−Si系軟磁性合金粉と同様にFe−Si系の合金粉に比べて耐食性に優れるうえに、Fe−Si系やFe−Cr−Si系の合金粉に比べて塑性変形しやすい。したがって、Fe−Cr−Si系軟磁性合金粉単独ではなく、Fe−Al−Cr系軟磁性合金粉も併せて用いることで、低い成形圧力でも高い占積率と強度を備えた磁心を得ることができる。そのため、成形機の大型化・複雑化も回避することができる。また、低圧で成形できるため、金型の破損も抑制され、生産性が向上する。
【0018】
さらに、後述するように、成形後の熱処理によってFe−Al−Cr系軟磁性合金粉およびFe−Cr−Si系軟磁性合金粉の表面に絶縁性の酸化物層を形成することができる。したがって、成形前に絶縁性酸化物を形成する工程を省略することが可能であるうえ、絶縁性被覆の形成方法も簡易になるため、かかる点においても生産性が向上する。また、上記酸化物層の形成に伴い、Fe基軟磁性合金粉同士が該酸化物層を介して結合され、高強度の磁心が得られる。
【0019】
本発明に係る磁心の製造方法の実施形態のうち、まず、第1の工程に供するFe基軟磁性合金粉ついて説明する。なお、以下、特に断りのない限り、含有量や百分率は質量比によるものである。第1のFe基軟磁性合金粉は、軟磁性合金を構成する各成分の中で最も含有率の高い主成分としてFeを、副成分としてAlおよびCrを含む。すなわち、Fe、AlおよびCrが含有比率の高い三つの主要金属元素である。第2のFe基軟磁性合金粉は、軟磁性合金を構成する各成分の中で最も含有率の高い主成分としてFeを、副成分としてCrおよびSiを含む。すなわち、Fe、CrおよびSiが含有比率の高い三つの主要金属元素である。磁心を構成できるのであれば、第1のFe基軟磁性合金粉のAlおよびCrの含有量並びに第2のFe基軟磁性合金粉のCrおよびSiの含有量は、これを特に限定するものではないが、以下好ましい構成について説明する。
【0020】
Feは、Fe基軟磁性合金粉を構成する主要な磁性元素である。高飽和磁束密度を確保する観点からはFeの含有量は80質量%以上であることが好ましい。
【0021】
第1のFe基軟磁性合金粉が含むCrおよびAlは耐食性等を高める元素である。耐食性向上等の観点からは、Crの含有量は、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは2.5質量%以上である。一方、非磁性のCrが多くなると飽和磁束密度が低下する傾向を示すため、Crの含有量は、好ましくは9.0質量%以下、より好ましくは7.0質量%以下、さらに好ましくは4.5質量%以下である。
また、上述のようにAlも耐食性を高める元素であり、特にFe基軟磁性合金粉の表面酸化物の形成に寄与する。かかる観点から、Alの含有量は、好ましくは2.0質量%以上、より好ましくは3.0質量%以上、さらに好ましくは5.0質量%以上である。一方、非磁性のAlが多くなると飽和磁束密度が低下する傾向を示すため、Alの含有量は、好ましくは10.0質量%以下、より好ましくは8.0質量%以下、さらに好ましくは6.0質量%以下である。また、Alは占積率の向上にも寄与するため、CrよりもAlの含有量が高いFe基軟磁性合金粉を用いることがより好ましい。
【0022】
第2のFe基軟磁性合金粉が含むCrは上述のように耐食性等を高める元素である。耐食性向上等の観点からは、Crの含有量は、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは2.5質量%以上である。一方、非磁性のCrが多くなると飽和磁束密度が低下する傾向を示すため、Crの含有量は、好ましくは9.0質量%以下、より好ましくは7.0質量%以下、さらに好ましくは4.5質量%以下である。
Siは電気抵抗率や透磁率を高める元素である。かかる観点から、例えば、Siは1.0質量%以上が好ましい。より好ましくは2.0質量%以上である。一方、Siが多くなりすぎると飽和磁束密度の低下が大きくなるため、10.0質量%以下が好ましい。より好ましくは6.0質量%以下、さらに好ましくは4.0質量%以下である。
【0023】
Fe基軟磁性合金粉は、Co、Ni等の磁性元素やAl、Cr以外の非磁性元素を含むことができる。また、製造上不可避の不純物を含み得る。
第1のFe基軟磁性合金粉は、不可避不純物として、Si、Mn、C、P、S、O、N等を含み得る。即ち、第1のFe基軟磁性合金粉は、AlおよびCrを含み、残部がFeおよび不可避不純物よりなるものでもよい。かかる不可避不純物の含有量は、それぞれ、Si<1.0質量%、Mn≦1.0質量%、C≦0.05質量%、O≦0.3質量%、N≦0.1質量%、P≦0.02質量%、S≦0.02質量%であることが好ましい。このうち、Siは圧環強度向上には不利であるため、第1のFe基軟磁性合金粉では、Si<0.5質量%に規制することがより好ましい。Si量はさらに好ましくは0.4質量%以下である。但し、不純物元素を通常の製造工程を経て含まれる水準よりも大幅に低減することには量産性の観点から現実的ではないため、例えば第1のFe基軟磁性合金粉において0.02質量%以上のSi量は許容することが好ましい。
一方、第2のFe基軟磁性合金粉は、不可避不純物として、Mn、C、P、S、O、N等を含み得る。即ち、第2のFe基軟磁性合金粉は、CrおよびSiを含み、残部がFeおよび不可避不純物よりなるものでもよい。かかる不可避不純物の含有量は、それぞれ、Mn≦1.0質量%、C≦0.05質量%、O≦0.3質量%、N≦0.1質量%、P≦0.02質量%、S≦0.02質量%であることが好ましい。
【0024】
各Fe基軟磁性合金粉の平均粒径(ここでは、体積累積粒度分布におけるメジアン径d50を用いる)は特に限定されるものではないが、例えば、1μm以上、100μm以下の平均粒径を有するFe基軟磁性合金粉を用いることができる。平均粒径を小さくすることで、高周波特性が改善されるので、メジアン径d50は好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは15μm以下である。一方、平均粒径が小さい場合は透磁率が低くなる傾向があるため、メジアン径d50はより好ましくは5μm以上である。また、篩等を用いてFe基軟磁性合金粉から粗い粒子を除くことがより好ましい。この場合、少なくとも32μmアンダーの(すなわち、目開き32μmの篩を通過した)Fe基軟磁性合金粉を用いることが好ましい。
第1のFe基軟磁性合金粉の平均粒径と第2のFe基軟磁性合金粉の平均粒径との関係はこれを特に限定するものではない。例えば、成形性の観点からは、硬く成形性の低い第2のFe基軟磁性合金粉の平均粒径を相対的に小さくすることが好ましく、コアロスの観点からは、コアロスが相対的に大きい第1のFe基軟磁性合金粉の平均粒径を相対的に小さくすることが好ましい。
【0025】
Fe基軟磁性合金粉の形態は、特に限定されるものではないが、流動性等の観点からアトマイズ粉に代表される粒状粉を用いることが好ましい。展性や延性が高く、粉砕しにくい合金の粉末作製には、ガスアトマイズ、水アトマイズ等のアトマイズ法が好適である。また、アトマイズ法は略球状のFe基軟磁性合金粉を得る上でも好適である。
【0026】
第2のFe基軟磁性合金粉に第1のFe基軟磁性合金粉を混合することで、成形性や強度の向上が期待できるので、第1のFe基軟磁性合金粉と第2のFe基軟磁性合金粉との混合比は、これを特に限定するものではない。ただし、第1のFe基軟磁性合金粉を含むことの高強度化の効果を十部に発揮させるためには、第1のFe基軟磁性合金粉と第2のFe基軟磁性合金粉の合計に対する前記第1の基軟磁性合金粉の比率が質量比で40%以上であることが好ましい。また、第1のFe基軟磁性合金粉および第2のFe基軟磁性合金粉以外の磁性粉末をさらに混合してもよい。
【0027】
なお、上述のようにFe−Al−Cr系軟磁性合金粉を用いることは、磁心の高強度化等に効果がある。そのため、Fe−Al−Cr系軟磁性合金粉を含む限り、第2のFe基軟磁性合金粉としてFe−Cr−Si系軟磁性合金粉以外に、広くFe基軟磁性合金粉を用いることでも一定の効果を上げることができる。この場合、他の軟磁性合金粉としては、Fe−Al−Cr系軟磁性合金粉およびFe−Cr−Si系軟磁性合金粉のように、熱処理によって軟磁性合金粉表面に酸化物層が形成されるものを用いることが好ましい。他のFe基軟磁性合金粉は、例えば、Fe−Si系軟磁性合金等である。Alを含むFe−Al−Cr系軟磁性合金粉よりも硬度が低いFe基軟磁性合金粉を第2のFe基軟磁性合金粉として用いれば、第1のFe基軟磁性合金粉の添加効果をより重畳的に発揮させることができる。また、この場合も、前記酸化物層は、磁性元素であるFe以外の副成分が濃化したものであることがより好ましい。
上述のように第2のFe基軟磁性合金粉としてFe−Cr−Si系軟磁性合金粉以外のFe基軟磁性合金粉を用いることができるが、耐食性に優れる点等でFe−Cr−Si系軟磁性合金粉を用いることが好ましい。
【0028】
次に、第1の工程において用いるバインダについて説明する。バインダは、成形する際、粉体同士を結着させ、成形後のハンドリングに耐える強度を成形体に付与する。バインダの種類は、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂等の各種有機バインダを用いることができる。有機バインダは成形後の熱処理により、熱分解する。そのため、熱処理後においても固化、残存して粉末同士を結着する、シリコーン樹脂などの無機系バインダを併用してもよい。但し、本発明に係る磁心の製造方法においては、第3の工程で形成される酸化物層がFe基軟磁性合金粉同士を結着する作用を奏するため、上記の無機系バインダの使用を省略して、工程を簡略化することが好ましい。
【0029】
バインダの添加量は、Fe基軟磁性合金粉間に行きわたり、十分な成形体強度を確保できる量にすればよい。一方、これが多すぎると密度や強度が低下するようになる。かかる観点から、バインダの添加量は、例えば、Fe基軟磁性合金粉100重量部に対して、0.5〜3.0重量部にすることが好ましい。
バインダは第1のFe基軟磁性合金粉と第2のFe基軟磁性合金粉を混合してから、添加、混合してもよいし、第1のFe基軟磁性合金粉、第2のFe基軟磁性合金粉およびバインダを同時に混合してもよい。また、第1のFe基軟磁性合金粉と第2のFe基軟磁性合金粉のうちいずれか一方とバインダを混合し、後から他方を追加して混合することもできる。なお、後述する造粒粉はバインダを含むため、第1のFe基軟磁性合金粉の造粒粉と第2のFe基軟磁性合金粉の造粒粉とを混合する形態も第1の工程に含まれるが、均一性の観点からは造粒前に第1のFe基軟磁性合金粉と第2のFe基軟磁性合金粉とを混合しておくことがより好ましい。
【0030】
第1の工程における、Fe基軟磁性合金粉とバインダとの混合方法は、特に限定されるものではなく、従来から知られている混合方法、混合機を用いることができる。バインダが混合された状態では、その結着作用により、混合粉は広い粒度分布をもった凝集粉となっている。かかる混合粉を、例えば振動篩等を用いて篩に通すことによって、成形に適した所望の二次粒子径の造粒粉(顆粒)を得ることができる。造粒方法としては、噴霧乾燥造粒等の湿式造粒方法を採用することもできる。中でもスプレードライヤを用いた噴霧乾燥造粒が好ましく、これによれば、略球形の顆粒が得ることができ、また加熱空気に曝される時間が短く、大量の顆粒を得ることができる。また、加圧成形の場合の粉末と金型との摩擦を低減させるために、ステアリン酸、ステアリン酸塩等の潤滑材を添加することが好ましい。潤滑材の添加量は、Fe基軟磁性合金粉100重量部に対して0.1〜2.0重量部とすることが好ましい。潤滑剤は、金型に塗布することも可能である。
【0031】
次に、第1の工程を経て得られた混合物を成形する第2の工程について説明する。第1の工程で得られた混合物は、好適には上述のように造粒されて、第2の工程に供される。造粒された混合物は、例えば、成形金型を用いて、トロイダル形状、直方体形状等の所定形状に加圧成形される。Fe基軟磁性合金粉としてFe−Al−Cr系軟磁性合金粉を用いると、低い圧力でも圧粉磁心の占積率(相対密度)を高めることができ、圧粉磁心の強度も向上する。かかる作用を利用して、熱処理を経た圧粉磁心における軟磁性材料粉の占積率を80〜90%の範囲内にすることがより好ましい。かかる範囲が好ましい理由は、占積率を高めることで磁気特性が向上する一方、過度に占積率を高めようとすると、設備的、コスト的な負荷が大きくなるからである。さらに好ましくは、占積率は82〜90%である。
なお、第1のFe基軟磁性合金粉と第2のFe基軟磁性合金粉との混合粉を用いるため、真密度(粒子の合金そのものの密度)としては、第1のFe基軟磁性合金粉の真密度および第2のFe基軟磁性合金粉の真密度と、各合金粉の混合比とに基づく加重平均を用いる。各Fe基軟磁性合金粉の真密度は、溶解によって作製された同組成の合金インゴットの密度測定値を用いればよい。
【0032】
第2の工程における成形は、室温成形でもよいし、バインダが消失しない程度に加熱して行う温間成形でもよい。また、混合物の調整方法および成形方法も上記のものに限定されるものではない。例えば、金型を用いた加圧成形の代わりに、シート成形を行い、得られたシートを積層、圧着して積層型磁心用の成形体を得ることもできる。この場合には、混合物はスラリ状態に調整され、ドクターブレード等のシート成形機に供される。
【0033】
次に、前記第2の工程を経て得られた成形体を熱処理する第3の工程について説明する。成形等で導入された応力歪を緩和して良好な磁気特性を得るために、第2の工程を経た成形体に対して熱処理が施される。かかる熱処理によって、さらに、Fe基軟磁性合金粉の表面に、酸化物層を形成する。この酸化物層は、熱処理によりFe基軟磁性合金粉と酸素とを反応させ成長させたものであり、Fe基軟磁性合金粉の自然酸化を超える酸化反応により形成される。上記酸化物が形成されることによって、Fe基軟磁性合金粉の絶縁性および耐食性が向上する。また、かかる酸化物層は、成形体を構成した後に形成されるため、該酸化物層を介したFe基軟磁性合金粉同士の結合にも寄与する。Fe基軟磁性合金粉同士が前記酸化物層を介して結合されることで、高強度の磁心が得られる。
【0034】
具体的には、上記の熱処理によって第1および第2の各Fe基軟磁性合金粉が酸化されて、その表面に酸化物層が形成される。すなわち、Fe−Si−Cr系合金粉およびFe−Al−Cr系合金粉に含まれる金属の酸化物が存在する。このとき、第1のFe基軟磁性合金粉では、合金粉中のAlが表層に濃化し、Fe、AlおよびCrの和に対するAlの比率が内部の合金相よりも高い酸化物層が形成される。典型的には、内部の合金相に比べて、構成金属元素のうち特にAlの比率が高く、Feの比率が低い。さらに、より微視的には、Fe基軟磁性合金粉間の粒界において、合金相近傍よりも層中央の方がFeの比率が高い酸化物層が形成される。
一方、第2のFe基軟磁性合金粉では、合金粉中のCrが表層に濃化し、Fe、CrおよびSiの和に対するCrの比率が内部の合金相よりも高い酸化物層が形成される。第3の工程の熱処理によって形成される酸化物層は、第1のFe基軟磁性合金粉と第2のFe基軟磁性合金粉、第1のFe基軟磁性合金粉同士、第2のFe基軟磁性合金粉同士、のように、互いに隣接するFe基軟磁性合金粉同士を結合させる。
【0035】
第3の工程の熱処理は、大気中、酸素と不活性ガスの混合気体中など、酸素が存在する雰囲気中で行うことができる。また、水蒸気と不活性ガスの混合気体中など、水蒸気が存在する雰囲気中で熱処理を行うこともできる。これらのうち大気中の熱処理が簡便であり好ましい。また、第3の工程の熱処理は、上記酸化物層が形成される温度で行えばよい。かかる熱処理によって強度に優れた磁心が得られる。さらに、第3の工程の熱処理は、Fe基軟磁性合金粉が著しく焼結しない温度で行うことが好ましい。Fe基軟磁性合金粉が著しく焼結すると、酸化物層の一部が合金相に取り囲まれてアイランド状に孤立化するようになる。そのため、Fe基軟磁性合金粉の母体の合金相同士を隔てる酸化物層としての機能が低下し、コアロスも増加するようになる。具体的な熱処理温度は、600〜900℃の範囲が好ましく、700〜800℃の範囲がより好ましく、750〜800℃の範囲がいっそう好ましい。上記温度範囲での保持時間は磁心の大きさ、処理量、特性ばらつきの許容範囲などによって適宜設定されるが、例えば0.5〜4時間が好ましい。
【0036】
第1〜第3の各工程の前後に他の工程を追加することも可能である。例えば、第1の工程の前に、熱処理やゾルゲル法等によって軟磁性材料粉に絶縁被膜を形成する予備工程を付加してもよい。但し、本発明に係る磁心の製造方法においては、第3の工程によってFe基軟磁性合金粉の表面に酸化物層を形成することができるため、上記のような予備工程を省略して製造工程を簡略化することがより好ましい。また、酸化物層自体は塑性変形しにくい。そのため、成形後に上述の酸化物層を形成するプロセスを採用することで、第2の工程の成形において、Fe基軟磁性合金粉(特にFe−Al−Cr系軟磁性合金粉)が持つ高い成形性を有効に利用することができる。
【0037】
上述の磁心の製造方法によってFe基軟磁性合金粒が分散した組織を有する以下の磁心が得られる。前記Fe基軟磁性合金粒は、AlおよびCrを含む第1のFe基軟磁性合金粒と、CrおよびSiを含む第2のFe基軟磁性合金粒を有し、前記Fe基軟磁性合金粒同士が、該粒の表面に形成された酸化物層を介して結合されている。かかる酸化物層によるFe基軟磁性合金粒同士の結合によって、高強度かつ高比抵抗の磁心が実現される。なお、磁心におけるFe基軟磁性合金粒(以下、単に合金粒ともいう)は、製造方法の実施形態で説明したFe基軟磁性合金粉に対応し、その組成等の説明は重複するので省略する。また、その他の磁心に係る構成も上述の製造方法の実施形態において説明したとおりであるので、重複する部分の説明は省略する。なお、熱処理は酸化を目的の一つとするものであるため、熱処理後の磁心のバルク体組成における酸素量は、成形前のFe基軟磁性合金粉の不可避不純物レベルよりも高くなる。
【0038】
磁心は、その断面観察像において各合金粒の最大径の平均が15μm以下であることが好ましく、8μm以下がより好ましい。磁心を構成する合金粒が細かいことで、強度に加えて高周波特性が改善される。かかる観点から、磁心の断面観察像において、最大径が40μmを超える合金粒の個数比率が1.0%未満であることが好ましい。一方、透磁率の低下を抑える観点から、合金粒の最大径の平均は0.5μm以上であることが好ましい。最大径の平均は、磁心の断面を研磨して顕微鏡観察し、一定の面積の視野内に存在する30個以上の合金粒について最大径を読み取り、その個数平均を取って算出すればよい。成形後の合金粒は塑性変形しているものの、断面観察ではほとんどの合金粒が中心以外の部分の断面で露出するため、上記最大径の平均は粉末状態で評価したメジアン径d50よりも小さい値となる。最大径が40μmを超える合金粒の個数比率は、少なくとも0.04mm
2以上の視野範囲で評価する。
【0039】
熱処理後の磁心における粒界の酸化物層の平均厚みは、100nm以下であることが好ましい。この酸化物層の平均厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)にて、例えば60万倍で磁心の断面を観察し、観察視野内の隣接するFe基軟磁性合金粒の略平行な輪郭が確認される部分で、Fe基軟磁性合金粒間が最も近接する部分の厚み(最小厚み)と最も離間する部分の厚み(最大厚み)とを計測し、その算術平均として算出される厚みを指す。具体的には、粒界の三重点間の中間部付近で測定を行うことが好ましい。酸化物層の厚みが大きいと、Fe基軟磁性合金粒間の間隔が広くなり、透磁率の低下やヒステリシス損失の増加を招き、また非磁性酸化物を含む酸化物層が占める割合が増加して、飽和磁束密度が低下する場合がある。一方、酸化物層の厚みが小さいと、酸化物層を流れるトンネル電流によって渦電流損失が増加する場合があるため、酸化物層の平均厚みは10nm以上であることが好ましい。より好ましい酸化物層の平均厚みは30〜80nmである。
【0040】
コイル部品を構成するために必要な磁心の透磁率は用途に応じて決めることができる。インダクタ用途であれば、例えば100kHzの初透磁率で30以上であることが好ましい。より好ましくは40以上、さらに好ましくは50以上である。本発明に係る磁心は、高比抵抗と高強度を両立する上で好適な構成である。かかる磁心の構成を適用して1×10
3Ω・m以上の比抵抗を得ることができる。さらに1×10
4Ω・m以上の比抵抗を得ることもできる。また、本発明に係る圧粉磁心によれば、120MPa以上の圧環強度を得ることもできる。圧環強度は好ましくは150MPa以上である。
【0041】
磁心の形状はトロイダル、U型、E型、ドラム型等、各種形状を適用することができる。高強度の特徴を活かす観点からは、本発明に係る構成は、
図2に示すような、導線を巻回するための柱状部1、該柱状部の一端側または両端側に鍔部2を有するドラム型磁心に適用することが好ましい。
上記の磁心と、該磁心に巻装されたコイルとを用いてコイル部品が提供される。コイルは、導線を磁心に巻回して構成してもよいし、ボビンに巻回して構成してもよい。このような磁心とコイルとを有するコイル部品は、例えばチョーク、インダクタ、リアクトル、トランス等として用いられる。磁心およびコイル部品が使用される周波数帯域は特に限定されるものではないが、例えば1kHz以上であり、100kHz以上の周波数帯域での使用も好ましい。また、磁心およびコイル部品は静止誘導器に限らず、回転機に適用することもできる。
【0042】
磁心は、上述のようにバインダ等を混合したFe基軟磁性合金粉末だけを加圧成形した圧粉磁心単体の形態で製造してもよいし、内部にコイルが配置された形態で製造してもよい。後者の構成は、特に限定されるものではなく、例えばFe基軟磁性合金粉末とコイルとを一体で加圧成形してコイル封入構造の圧粉磁心を製造することができる。また、積層型の磁心の場合であれば、コイルは磁心内部にパターン電極の形態で巻装される。
【0043】
また、磁心の表面に、コイルの端部を接続するための電極を、メッキや焼き付け等の手法によって形成してもよい。例えば、焼き付けで電極を形成する場合には、導体材料としてはAg、Ag−Pd、Cu等を用いることができる。焼き付けで形成した導体膜の上にさらにメッキによりNi、Au、Sn等の導体膜を形成することもできる。また、スパッタリング、蒸着等の物理気相成長法(PVD)によって電極を形成することもできる。
磁心には絶縁性確保等の目的から、樹脂コーティングを設けてもよい。また、コイル部品は、その一部または全体を樹脂でモールドすることもできる。
【実施例】
【0044】
Fe基軟磁性合金粉として、Fe−Al−Cr系軟磁性合金粉(第1のFe基軟磁性合金粉)およびFe−Cr−Si系軟磁性合金粉(第2のFe基軟磁性合金粉)を用い、以下のようにして圧粉磁心を作製した。
使用したFe−Al−Cr系軟磁性合金粉は粒状のアトマイズ粉であり、その組成は質量百分率でFe−5.0%Al−4.0%Crであった。なお、不純物として最も多かったのはSiであり、その含有量は0.2%であった。アトマイズ粉は、440メッシュ(目開き32μm)の篩で分級し、篩を通過したFe基軟磁性合金粉を混合に供した。篩を通過したFe基軟磁性合金粉の平均粒径(メジアン径d50)をレーザー回折散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製LA−920)で測定した。平均粒径(メジアン径d50)は16.8μmであった。
Fe−Cr−Si系軟磁性合金粉も粒状のアトマイズ粉であり、その組成は質量百分率でFe−4.0%Cr−3.5%Siであった。平均粒径(メジアン径d50)は10.4μmであった。
【0045】
Fe−Al−Cr系軟磁性合金粉とFe−Cr−Si系軟磁性合金粉の配合比を変えたFe基軟磁性合金粉100重量部に対して、バインダとしてPVA(株式会社クラレ製ポバールPVA−205;固形分10%)を2.5重量部(固形分として0.25重量部)の割合で添加し、混合を行った。この混合粉を120℃で10時間乾燥し、乾燥後の混合粉を篩に通して造粒粉を得た。この造粒粉に、Fe基軟磁性合金粉100重量部に対して0.4重量部の割合でステアリン酸亜鉛を添加、混合して成形用の混合物を得た。
【0046】
得られた混合物は、プレス機を使用して、0.74GPaの成形圧で室温にて加圧成形した。得られた成形体は、内径φ7.8mm、外径φ13.5mm、高さ4.3mmのトロイダル形状である。得られた成形体を、大気中、温度750℃、保持時間1.0時間の条件で熱処理し、圧粉磁心を得た。
【0047】
以上の工程により作製した圧粉磁心の密度dsをその寸法および質量から算出し、圧粉磁心の密度dsをFe基軟磁性合金の真密度(使用した軟磁性合金粉の真密度の加重平均)で除して占積率(相対密度)を算出した。また、トロイダル形状の圧粉磁心の径方向に荷重をかけ、破壊時の最大加重P(N)を測定し、次式から圧環強度σr(MPa)を求めた。
σr=P(D−d)/(Id
2)
(ここで、D:磁心の外径(mm)、d:磁心の径方向の肉厚(mm)、I:磁心の高さ(mm)である。)
さらに、一次側と二次側のそれぞれに巻線を15ターン巻回し、岩通計測株式会社製B−HアナライザーSY−8232により、最大磁束密度30mT、周波数300kHzの条件でコアロスPcvを測定した。また、初透磁率μiは、前記トロイダル形状の圧粉磁心に導線を30ターン巻回し、ヒューレット・パッカード社製4284Aにより、周波数100kHzで測定した。さらに、直流重畳特性として、10kA/mの直流磁界印加時の初透磁率(増分透磁率μ
Δ)も測定した。
また、前記トロイダル形状の磁心の対向する二平面に導電性接着剤を塗り、乾燥・固化の後、以下のようにして比抵抗(抵抗率)の評価を行った。電気抵抗測定装置(株式会社エーディーシー製8340A)を用いて、50Vの直流電圧を印加し、抵抗値R(Ω)を測定した。磁心試料の平面の面積A(m
2)と厚みt(m)とを測定し、次式により比抵抗ρ(Ω・m)を算出した。
比抵抗ρ(Ω・m)=R×(A/t)
上記の評価で得られた結果を表1、
図3および
図4に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示すようにFe−Cr−Si系軟磁性合金粉のみを用いて構成したNo1の圧粉磁心は、コアロスPcvや増分透磁率μ
Δに優れるが、圧環強度が十分ではない。これに対して、Fe−Cr−Si系軟磁性合金粉にFe−Al−Cr系軟磁性合金粉を混合して作成したNo2〜5の圧粉磁心は高い圧環強度を有することがわかる。表1および
図3に示すように、Fe−Al−Cr系軟磁性合金粉の含有比率が高くなるにつれて、占積率が向上し、圧環強度も高くなった。特に、Fe−Al−Cr系軟磁性合金粉の含有比率40%以上では、圧粉磁心は150MPa以上の高い値を示した。また、表1および
図4に示すように、比抵抗もFe−Al−Cr系軟磁性合金粉の含有比率が高くなるにつれて向上し、Fe−Al−Cr系軟磁性合金粉の含有比率30%以上では、1.0×10
4Ω・m以上の高い値を示した。すなわち、Fe−Cr−Si系軟磁性合金粉にFe−Al−Cr系軟磁性合金粉を混合することで、高強度、高比抵抗の圧粉磁心が得られることが明らかとなった。また、初透磁率もFe−Al−Cr系軟磁性合金粉の含有比率が高くなるにつれて向上し、Fe−Al−Cr系軟磁性合金粉の含有比率50%以上では、50以上の高い値を示した。
一方、Fe−Al−Cr系軟磁性合金粉の含有比率が高くなるにつれて、コアロスPcvはやや増加し、増分透磁率はやや減少する傾向を示した。
【0050】
No4の圧粉磁心について、走査電子顕微鏡(SEM/EDX)を用いて圧粉磁心の断面観察を行い、同時に各構成元素の分布を調べた。結果を
図5に示す。
図5(a)はSEM像である。圧粉磁心は、明るいグレーの色調を有するFe基軟磁性合金粒3が分散した組織を有することがわかる。なお、他の観察視野も含めた断面観察において、最大径が40μmを超える合金粒は観察されず、個数比率は0.0%であった。
【0051】
図5(b)〜(f)はそれぞれ、Fe、O(酸素)、Cr、Si、Alの分布を示す元素マッピングである。明るい色調ほど対象元素が多いことを示す。Alの分布を示す
図5(f)で白い部分、Siの分布を示す
図5(e)で白い部分が、それぞれ第1のFe基軟磁性合金粒、第2のFe基軟磁性合金粒を示す。
図5から、圧粉磁心が、AlおよびCrを含む第1のFe基軟磁性合金粒と、CrおよびSiを含む第2のFe基軟磁性合金粒が分散した組織を有することがわかる。また、各Fe基軟磁性合金粒の表面(粒界)には酸素が多く、酸化物が形成されていること、および各Fe基軟磁性合金粒同士がこの酸化物を介して結合している様子がわかる。なお、SEM観察によって、第1のFe基軟磁性合金粒および第2のFe基軟磁性合金粒とも多結晶であることも確認された。
各Fe基軟磁合金粒の表面(粒界)では内部に比べてFeの濃度が低いこと、Alは、AlおよびCrを含む第1のFe基軟磁性合金粒の表面での濃度が顕著に高くなっていることが確認された。これらのことから、第1のFe基軟磁合金粒の表面に、内部の合金相よりもFe、AlおよびCrの和に対するAlの比率が高い酸化物層が形成されていることがわかった。さらに、Crは、CrおよびSiを含む第2のFe基軟磁性合金粒の表面での濃度が顕著に高くなっていること、Siは、CrおよびSiを含む第2のFe基軟磁性合金粒の表面と内部とで明確な濃度差がないことが確認された。このことから第2のFe基軟磁合金粒の表面に、内部の合金相よりもFe、CrおよびSiの和に対するCrの比率が高い酸化物層が形成されていることがわかった。第1のFe基軟磁性合金粒および第2のFe基軟磁性合金粒の上記元素分布傾向は、それぞれ第1のFe基軟磁性合金粒同士が隣接する部分、第2のFe基軟磁性合金粒同士が隣接する部分で顕著であった。第1のFe基軟磁性合金粒と第2のFe基軟磁性合金粒とが隣接する部分の粒界ではCrが濃化している形態と、Alが濃化している形態の両方が確認された。
【0052】
また、熱処理前には
図5に示すような各構成元素の濃度分布は観察されず、上記酸化物層が熱処理によって形成されたこともわかった。また、Alの比率が高い酸化物層やCrの比率が高い酸化物層が各粒を覆う構成が、高比抵抗、低コアロス等の特性にも寄与していると考えられる。また、
図5に示すような粒界相(酸化物層)を介してFe基軟磁性合金粒が結合しており、かかる構成が強度向上にも寄与していると考えられる。
また、
図5に示すように第1のFe基軟磁合金粒が集まった部分には、層状ではなくFe基軟磁性合金粒の隙間の形状に沿った塊状酸化物4も確認された。
図5の元素マッピングからは、塊状酸化物4はAlの他にFeの含有量も多い酸化物であることがわかる。比較のために
図6には第1のFe基軟磁性合金粒を含まないNo1の磁心の元素マッピングを示す。
図6(a)はSEM像である。
図6(b)〜(e)はそれぞれ、Fe、O(酸素)、Cr、Siの分布を示す。
図6に示すように、No1の磁心では、No4の磁心で観察される塊状酸化物が明確に確認されなかった。したがって、かかる塊状酸化物の存在も、強度向上に関連していると推察される。