(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基材上の少なくとも一部に、前記基材とは異なる色彩の情報画像及び背景画像から成る印刷模様を備え、前記情報画像は、光輝性インキによって複数形成された情報要素から成る可視情報部を有し、前記背景画像は、拡散反射光下において前記光輝性インキと同じ色相であり、かつ、前記光輝性インキより淡い色彩の有色インキによって複数形成された背景要素から成る背景部と、前記有色インキによって複数形成された潜像要素が、前記情報要素及び前記背景要素と重なることなく配置された潜像部から成り、前記可視情報部と前記背景部は、ネガポジ反転した画像で、かつ、正反射光下において等色に形成され、拡散反射光下において、前記可視情報部と前記背景画像を形成するインキの色彩の差により前記可視情報部が視認でき、正反射光下において、前記印刷模様を構成する画像要素の面積率の差で前記潜像部が視認できることを特徴とする偽造防止印刷物。
前記情報画像は、さらに、前記潜像部をネガポジ反転した潜像カモフラージュ部を有し、前記潜像カモフラージュ部は、前記光輝性インキによって複数形成された潜像カモフラージュ要素が、前記情報要素、前記背景要素及び前記潜像要素と重なることなく配置されて成り、前記潜像カモフラージュ部の面積率が、前記潜像部の面積率よりも低く形成されたことを特徴とする請求項1記載の偽造防止印刷物。
前記潜像カモフラージュ部と前記潜像部の面積率の比と、前記有色インキと前記光輝性インキの反射濃度の比が、下記式を満たすことを特徴とする請求項2記載の偽造防止印刷物。
(式)潜像カモフラージュ部の面積率:潜像部の面積率=有色インキの反射濃度:光輝性インキの反射濃度
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1から4までの全ての従来技術は、光輝性材料によって構成された画像を有する。拡散反射光下と正反射光下とで明瞭な画像のチェンジ効果を実現するためには、光輝性材料によって構成された画像には、有意情報を表した情報部と、情報部と隣接する背景部が必須であった。結果として、情報部と背景部の間のコントラストが低下し、拡散反射光下で視認される可視画像の視認性が低いという問題があった。
【0007】
また、特許文献1の技術に関しては、第1の印刷画像を構成する光輝性材料を用いて形成された面積率の極めて密な光輝性材料層と、第1の印刷画像を構成している光輝性材料に比較して可視光吸収性の高い色材料を用いて形成された面積率の極めて疎な色材料層を重ね合わせて、拡散反射光下において同色(近似色)に見えるような適切な面積率の疎密差を見極めなければならない。すなわち、特許文献1の技術は、光輝性材料層の上に、光輝性材料層とは色調が異なる色材料層を重ね合わせて画像を形成することから、可視光吸収性の高い色材料の種類と面積率を何通りにも変えて印刷し、第1の印刷画像から第2の印刷画像へ最適なチェンジ効果が得られるような適正な条件を見極めるまでに、多大な労力を必要とするという課題があった。
【0008】
加えて、特許文献2及び特許文献3に記載の技術においては、光輝性材料と透明なインキを重ね合わせて偽造防止印刷物を形成する技術であり、潜像の形成に色材料を用いる特許文献1の技術と異なり、潜像を形成するインキは透明であることから、そもそも色調整を行う必要がなく、また、潜像が拡散反射光下で可視化されることもなく、高い画像のスイッチ性を得ることができる技術であったが、目視不可能な透明なインキを使用するために、製造時の印刷品質の管理が困難であるという課題があった。
【0009】
そのための対策としては、透明なインキに紫外線励起タイプの発光顔料を混合した透明な発光インキを使用し、印刷作業時に紫外線を照射して透明インキが問題なく印刷されているか否かを判断するのが一般的であった。しかし、このような対策を用いた場合、製造時の品質管理は可能となる反面、紫外線照射時に出現する発光画像を見ることで、潜像の構成を容易に把握できてしまうことから、偽造者に偽造防止技術の構造の手掛かりを与えてしまう可能性があり、偽造に対する耐性に関して課題があった。
【0010】
さらに、特許文献4に記載の技術は、光輝性材料と、光輝性材料と等色な有色インキをペアインキとしてそれぞれ二つの画像を構成し、二つの画像を毛抜き合わせで配置することで画像のチェンジ効果を実現した技術であるが、二つのインキは、拡散反射光下で等色でなければならなかった。二つのインキの色彩がわずかでも異なる場合、拡散反射光下で本来不可視でなければならない潜像画像が可視化されるという問題があり、そのような完全等色なペアインキの作製には専門的な知識が必要であり、インキの作製が難しいという問題があった。
【0011】
本発明は、前述した課題の解決を目的とするものであり、光輝性材料を含むインキと光輝性材料と色相が同じ有色インキをペアインキとして形成する、拡散反射光下と正反射光下で画像がチェンジする効果を有する印刷物であって、拡散反射光下における可視画像の視認性が高く、インキの色調整や製造が容易で、偽造に対する耐性も高い偽造防止印刷物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の偽造防止印刷物は、基材上の少なくとも一部に、基材とは異なる色彩の情報画像及び背景画像から成る印刷模様を備え、情報画像は、光輝性インキによって複数形成された情報要素から成る可視情報部を有し、背景画像は、拡散反射光下において光輝性インキと同じ色相であり、かつ、光輝性インキより淡い色彩の有色インキによって複数形成された背景要素から成る背景部と、有色インキによって複数形成された潜像要素が、情報要素及び背景要素と重なることなく配置された潜像部から成り、可視情報部と背景部は、ネガポジ反転した画像で、かつ、正反射光下において等色に形成され、拡散反射光下において、可視情報部と背景画像を形成するインキの色彩の差により可視情報部が視認でき、正反射光下において、印刷模様を構成する画像要素の面積率の差で潜像部が視認できることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の偽造防止印刷物は、情報画像は、さらに、潜像部をネガポジ反転した潜像カモフラージュ部を有し、潜像カモフラージュ部は、光輝性インキによって複数形成された潜像カモフラージュ要素が、情報要素、背景要素及び潜像要素と重なることなく配置されて成り、潜像カモフラージュ部の面積率が、潜像部の面積率よりも低く形成されたことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の偽造防止印刷物は、潜像カモフラージュ部と潜像部の面積率の比と、有色インキと光輝性インキの反射濃度の比が、下記式を満たすことを特徴とする。
(式)潜像カモフラージュ部の面積率:潜像部の面積率=有色インキの反射濃度:光輝性インキの反射濃度
【発明の効果】
【0015】
本発明の偽造防止印刷物は、可視情報部のみを光輝性インキで形成し、背景部を含む背景画像を、光輝性インキと同じ色相であり、かつ、拡散反射光下において淡い色彩の有色インキで形成することで、従来の技術のように正反射光下の正反射光が最も強くなる観察角度(印刷物に入射する光の入射角度αと、印刷物から反射する光の角度αが一致する角度。本明細書において、この角度を「最大正反射角度」という。)で画像がチェンジする構成ではなく、正反射光下のある特定の角度で画像がチェンジする構成となったため、情報画像の階調表現域をより大きくすることが可能となった。このため、従来の技術と比較して、拡散反射光下において情報画像が現す有意情報の視認性が格段に高くなった。
【0016】
本発明の偽造防止印刷物を構成する二つの画像は、光輝性インキと有色インキの2種類のインキによって形成される。有色インキは、光輝性インキと同じ色相であって、またそれぞれのインキで構成した画像において、拡散反射光下で光輝性インキによって形成した情報画像が有色インキによって形成した背景画像よりも濃い色彩であり、かつ、正反射光下のある特定の角度で情報画像と背景画像の背景部が同じ色彩となる特性さえ有せばよく、特許文献1や特許文献4に記載の従来技術のような色材料層の微妙な色調整は必要ないことから、製造が容易である。
【0017】
また、特許文献2及び特許文献3に記載の従来技術のような透明インキを使用しないため、従来技術のように潜像画像を発光させて管理する必要がなく、有色インキによって形成された画像の品質を目視で管理すればよい。また、二つの画像が形成された後は、その構成を見破ることは困難であり、偽造に対する耐性が向上した。
【0018】
以上の手法で形成した偽造防止印刷物は、生産性の高い印刷方式であるオフセット印刷で製造可能であることからコストパフォーマンスに優れ、また最新のデジタル機器を用いたとしてもスイッチ効果を実現することは不可能であることから、偽造防止効果に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第一の実施の形態)
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
【0021】
まず、本発明について図面を用いて説明する。
図1に、本発明における偽造防止印刷物(1)を示す。偽造防止印刷物(1)は、基材(2)の上に、基材(2)と異なる色彩を有する印刷模様(3)を有し、印刷模様(3)は、
図2に示す情報画像(4)と背景画像(5)から成る。
【0022】
情報画像(4)は、拡散反射光下で視認される可視情報部(4A)を有した画像であり、情報画像(4)は、光輝性インキによって形成されて成る。第一の実施の形態において情報画像(4)は、
図2に示すように、可視画像部(4A)のみを有する構成であり、可視情報部(4A)が表す第一の有意情報を、アルファベットの「A」の文字とした例について説明する。なお、情報画像(4)が、可視情報部(4A)とは別の画像を備える構成については、第二の実施の形態で説明する。また、第一の実施の形態では、情報画像(4)と可視画像部(4A)は、同じ画像であるが、以下の説明では、光輝性材料によって形成される画像として、広義の意味で情報画像(4)とし、第一の有意情報である「A」の文字を主体的に意味する場合は、狭義の意味で可視情報部(4A)として説明する。
【0023】
一方の背景画像(5)は、正反射光下で視認される第二の有意情報を有した画像であり、第二の有意情報を表した潜像部(7)と、可視情報部(4A)が表す第一の有意情報を正反射光下で隠蔽する働きを成す背景部(6)とを有する。詳細には、背景部(6)は、可視情報部(4A)が表す第一の有意情報をネガポジ反転させた図柄であって、拡散反射光下においては潜像部(7)のコントラストを下げて視認しづらくする働きを成すとともに、正反射光下においては可視情報部(4A)と等色となって、可視情報部(4A)を隠蔽する働きを成す。第一の実施の形態における第二の有意情報はアルファベットの「B」の文字とした例について説明する。背景画像(5)は実体色を有した有色インキで形成されて成る。
【0024】
図3に印刷模様(3)の具体的な画線構成の一例を示す。第一の実施の形態における印刷模様(3)は、少なくとも三つの画像要素から成る。一つは可視情報部(4A)を構成する情報要素(8)であり、二つ目は背景画像(5)の潜像部(7)を構成する潜像要素(10)であり、三つ目は背景画像(5)の背景部(6)を構成する背景要素(9)である。
【0025】
可視情報部(4A)は、特定の画線幅(W1)の情報要素(8)が第一の方向(図中S1方向)に一定のピッチ(P1)で連続して配されて成る。また、可視情報部(4A)は、一定の面積率の範囲内で形成する必要があり、具体的には面積率10%以上90%以下で形成する必要がある。なお、本発明において「面積率」とは、基材(2)の所定の範囲に形成される画像要素の面積の割合のことである。10%未満だと、拡散反射光下で視認される第一の有意情報が不明瞭となるためであり、90%を超える場合、正反射光下で出現する潜像部(7)に割り当てる印刷面積が小さくなりすぎ、第二の有意情報の視認性が低くなりすぎてしまうためである。
【0026】
背景画像(5)の潜像部(7)は、特定の画線幅(W3)の潜像要素(10)が第一の方向(図中S1方向)に一定のピッチ(P1)で連続して配されて成り、背景画像(5)の背景部(6)は、特定の画線幅(W2)の背景要素(9)が第一の方向(図中S1方向)に一定のピッチ(P1)で連続して配されて成る。また、背景要素(9)の中には、印刷されない白抜きの要素である情報反転要素(11)が配されて成る。それぞれの情報反転要素(11)には、対応する情報要素(8)が存在し、対を成す情報反転要素(11)と情報要素(8)が、
図3の拡大図に示すように、嵌め合わさることで、印刷模様(3)が形成される。また、情報要素(8)、背景要素(9)及び潜像要素(10)は、
図3の拡大図に示すように、互いに重なり合うことなく、一定のピッチ(P1)で第一の方向(図中S1方向)に連続して配置されて印刷模様(3)を構成している。なお、
図3に示す印刷模様(3)は、本発明の偽造防止印刷物(1)の構成を簡単に説明するために、情報要素(8)、背景要素(9)及び潜像要素(10)が、一定のピッチ(P1)で互いに重なり合うことなく配置された例を示しているが、各要素が互いに重なり合わなければ、印刷模様(3)を構成する各要素は、一定のピッチで配置されなくてもよい。
【0027】
本発明の偽造防止印刷物(1)において、情報要素(8)、背景要素(9)及び潜像要素(10)は、前述のように、互いに重なり合うことなく配置されることが好ましいが、印刷模様(3)を形成する印刷機の印刷精度や、印刷版面の画線精度等の製造のアバレによって、各要素がわずかに重なったとしても、拡散反射光下と正反射光下の観察で、視認される画像がチェンジする効果は生じることから、各要素がわずかに重なる配置であったとしても、本発明の偽造防止印刷物(1)の技術的思想の範囲に含まれる。
【0028】
本実施の形態では、
図3に示すように、背景要素(9)の画線幅(W2)が、情報要素(8)及び情報反転要素(11)の画線幅(W1)よりも大きい例について説明したが、本発明の偽造防止印刷物(1)において、背景要素(9)の画線幅(W2)が、情報要素(8)及び情報反転要素(11)の画線幅(W1)と同じ大きさであってもよく、この場合も、背景要素(9)の中の印刷されない白抜きの部分に、情報要素(8)が嵌め合わされることで、印刷模様(3)が形成される。
【0029】
潜像部(7)と背景部(6)はそれぞれ一定以上の階調を有して形成され、具体的には有色インキの色濃度にも左右されるが、少なくとも10%以上の面積率で構成される。これは、潜像部(7)の面積率が10%未満の面積率で構成された場合、正反射光下で面積率の差による第二の有意情報の視認性が低くなるためである。また、背景部(6)の面積率が10%未満の面積率で構成された場合、拡散反射光下で視認される第一の有意情報の視認性が低くなるためである。なお、拡散反射光下で第一の有意情報が視認され、正反射光下で第二の有意情報が視認される原理については、後述する。
【0030】
次に、光輝性インキで形成される情報画像(4)と、有色インキで形成される背景画像(5)の色彩の関係について説明する。拡散反射光下において、情報画像(4)と背景画像(5)は同じ色相を有し、かつ、情報画像(4)は、背景画像(5)よりも濃く(明度が低く)視認されるように形成される必要がある。このため、光輝性インキと有色インキに要求される特性としては、まず、拡散反射光下において、光輝性インキと有色インキの関係は、色相が同じである必要がある。また、同じ面積率で画像を形成した場合には、光輝性インキで形成した画像が有色インキで形成した画像よりも濃く(明度が低く)視認されることが必要であり、具体的には、光輝性インキは、有色インキの少なくとも2倍以上の反射濃度を有することが望ましい。
【0031】
情報画像(4)が有する可視情報部(4A)と背景画像(5)とは、背景部(6)を構成する背景要素(9)中にある情報反転要素(11)中に、対を成す情報要素(8)が
図4のように嵌め合わさることで印刷模様(3)と成る。印刷順序は、情報画像(4)を先に印刷しても、背景画像(5)を先に印刷しても、いずれでもよい。
【0032】
以上の構成で形成した偽造防止印刷物(1)の効果を
図5に示す。光源(12)と偽造防止印刷物(1)と観察者(13)の位置関係を、
図5(a)にあるような、拡散反射光が支配的な観察角度(印刷物に入射する光の角度(α)と、観察者と印刷物とを結ぶ角度が大きく異なる角度)で観察した場合には、観察者には可視情報部(4A)の示す第一の有意情報であるアルファベットの「A」の文字が支配的に視認される。拡散反射光下において、第二の有意情報であるアルファベットの「B」の文字は、わずかな濃淡の違いを有して存在するものの、ほとんど認識できない程度の視認性しか有さない。
【0033】
一方、光源(12)と偽造防止印刷物(1)と観察者(13)の位置関係を、
図5(b)にあるような、正反射光下の角度範囲(印刷物に入射する光の角度(α)と、観察者と印刷物とを結ぶ角度が近い角度範囲)の中のある特定の角度(β)で観察した場合には、可視情報部(4A)の示す第一の有意情報であるアルファベットの「A」の文字が完全に消失し、第二の有意情報であるアルファベットの「B」の文字が視認される。
【0034】
本発明の二つの画像がチェンジする基本的な原理は、以下のとおりである。基材(2)と異なる色を有し、光輝性インキによって形成された情報画像(4)は、有色のインキによって形成された背景画像(5)よりも濃く形成されて成ることから、
図5(a)に示す拡散反射光が支配的な観察角度において、二つの画像の濃淡の違いによって、情報画像(4)を構成している可視情報部(4A)が表す第一の有意情報が支配的に視認される。なお、ここでいう「第一の有意情報が支配的に視認される」とは、印刷模様(3)の中に、可視情報部(4A)が表す第一の有意情報と潜像部(7)が表す第二の有意情報とが同時に可視化されているものの、第二の有意情報と比較して第一の有意情報の視認性がはるかに高く、観察者が特別に注意を払わない場合には、第二の有意情報の存在をほとんど認識できずに第一の有意情報のみが視認できる状態を指す。
【0035】
また、
図5(b)に示すような、拡散反射光だけでなく、正反射光が存在する角度範囲の中で本発明の偽造防止印刷物(1)を観察した場合には、光輝性インキによって形成された情報画像(4)は、正反射光を生じることによって淡い色彩へと変化する一方で、背景画像(5)の濃淡は変化しない。このため、二つの画像の濃淡の関係が逆転し、それによって第一の有意情報よりも第二の有意情報の視認性が高くなる。そして、正反射光下のある特定の観察角度(β)において、情報画像(4)の色彩が、背景画像(5)の背景部(6)と一致することで同化して第一の有意情報が目視上消失し、背景画像(5)の潜像部(7)が表す第二の有意情報のみが面積率の差異によって可視化され、視認される状態となる。これが本発明の偽造防止印刷物(1)において画像のチェンジ効果が生じる原理である。
【0036】
なお、本発明でいう拡散反射光が支配的な角度とは、正反射光がほとんどなく、拡散反射光の割合が極めて大きな角度を指す。一方、正反射光が存在する角度を、本発明においては正反射光下の角度とし、この正反射光下の角度では、正反射光が拡散反射光と同程度以上存在すればよく、拡散反射光と正反射光が同じ程度に混在する角度や、拡散反射光が相対的に少なく、正反射光が相対的に多い角度や、極端に正反射光の割合が多い正反射光が支配的な角度等が含まれる。
【0037】
ここで、本発明において第二の有意情報を視認する角度となる「正反射光下の特定の角度」について具体的に説明する。前述のように、拡散反射光が支配的な観察角度から正反射光が支配的な観察角度へと、観察角度が変化することで、印刷模様(3)中の第一の有意情報と第二の有意情報の視認性の関係が連続的に変化する。この関係を
図6において具体的に説明する。
【0038】
図6(a)に示す正反射光がほとんど存在しない、拡散反射光が支配的な観察角度から、
図6(b)に示すように正反射光が存在し、拡散反射光と正反射光が混在している観察角度(i)を経て、
図6(c)に示す偽造防止印刷物(1)に入射する光の入射角度(α)と偽造防止印刷物(1)から反射する光の反射角度(α)が同じ角度であって、最も正反射光が強い観察角度である最大正反射角度(α)まで偽造防止印刷物(1)を観察する角度を変化させた場合、
図6(d)→
図6(e)→
図6(f)→
図6(g)→
図6(h)に示す図のように、印刷模様(3)の中の画像の視認状態が変化する。
【0039】
図6(a)に示す正反射光がほとんど存在しない、拡散反射光が支配的な観察角度では、可視情報部(4A)の濃度は
図6(d)に示す図のように最も高く、一方の
図6(c)に示す正反射光が支配的な観察角度であって、最も正反射光が強い最大正反射角度(α)では、可視情報部(4A)の濃度は
図6(h)に示す図のように最も淡くなる。なお、
図6(d)の図においては、可視情報部(4A)が最も濃く視認され、第一の有意情報が支配的に視認されている一方、
図6(h)の図においては、可視情報部(4A)の濃度が背景画像(5)の濃度よりも淡くなりすぎて白抜き文字のようになり、第一の有意情報と第二の有意情報が同時に出現する状態となっている。以上のように、
図6(a)の角度から、
図6(c)の角度へと観察角度を変化させて最大正反射角度(α)へ達するまで、正反射光が増大し続け、可視情報部(4A)の色彩は連続的に淡く変化する。
【0040】
本発明において、第二の有意情報を視認する「正反射光下の特定の観察角度」とは、可視情報部(4A)が背景画像(5)の背景部(6)と等色化した角度(β)を指す。すなわち、
図6で示すと、
図6(g)に示すように、可視情報部(4A)の表す第一の有意情報が完全に消失した角度が「正反射光下の特定の観察角度(β)」であり、この角度において、印刷模様(3)中の画像が、第一の有意情報から第二の有意情報に変化したことを確認し、真偽判別を行うものである。
【0041】
以上のように、本発明においては、従来の技術のように最大正反射角度(α)において画像をチェンジさせる構成にこだわらず、「正反射光下の特定の角度(β)」において第一の有意情報から第二の有意情報にチェンジさせる構成としている。
【0042】
本発明においては、従来技術のように最大正反射角度(α)ではなく、前述のように正反射光下の特定の観察角度(β)において印刷模様(3)中の画像がチェンジしたことを確認して真偽判別を行うことを特徴の一つとするが、これを実現するための構成と、これを実現したことによって生じた利点について以下に説明する。
【0043】
特許文献1ないし特許文献4に記載の従来技術では、
図6(c)に示すように正反射光が最も強くなる、いわゆる最大正反射角度(α)の観察において、印刷物の第一の有意情報が第二の有意情報にチェンジする構成を有する。従来技術において、画像のチェンジ効果が最大正反射角度(α)において生じる理由は、以下のとおりである。
【0044】
従来技術では、第一の有意情報を表した情報部と、この情報部と隣接して取り囲む濃度の異なる領域を必須とし、この二つの領域を同じ光輝性インキで形成する。一方の領域のみを光輝性インキで形成する本発明と異なり、従来技術では、二つの領域とも同じ光輝性インキで形成するため、光が入射して情報部が淡く変化すれば同時に背景部も淡く変化し、情報部がより淡く変化すれば、背景部もより淡く変化してしまうため、本発明と比較すると、二つの領域の相対的な濃度差は縮まりづらく、第一の有意情報は消失しにくい。そのため、従来の技術においては、二つの領域が目視上等色となるのは、正反射光下で単に強く光を反射するだけでは充分ではなく、この二つの領域から生じる正反射光量の差を観察者が見極められない程強く光を反射した場合のみとなる。
【0045】
すなわち、二つの領域が極めて強く光を反射し、観察者が二つの領域から生じる反射光量の差を判断できない状態となって情報部とそれを取り囲む背景部の濃淡の差が目視上消失する構造である。そのため、従来技術においては、画像をチェンジさせるためには強い正反射光が必須であり、最も強い正反射光が生じる最大正反射角度(α)が第二の有意情報の観察に最も適した観察角度となる。
【0046】
しかし、最大正反射角度(α)での第一の有意情報の消失効果と、第一の有意情報の拡散反射光下の視認性とは相反する関係にあり、例えば、拡散反射光下の第一の有意情報の視認性を高めるため、情報画像(4)を濃く形成した場合には、最大正反射角度(α)では、
図6(h)のように濃淡反転して白く見える第一の有意情報が、第二の有意情報と同時に出現してしまい、画像のチェンジ効果が不明瞭となってしまう。そのため、従来の技術のように、最大正反射角度(α)で第一の有意情報が消失する構成の技術では、情報部と背景部の濃度差を低く止め、拡散反射光下における第一の有意情報の視認性を低く制限せざるを得ない問題があった。
【0047】
一方の本発明では、従来技術の情報部に当たる可視情報部(4A)のみを光輝性インキで形成し、可視情報部(4A)を取り囲む背景画像(5)の背景部(6)は通常の有色インキで形成することから、光が入射して可視情報部(4A)が淡く変化する一方で、背景部(6)の濃度は変化しないために二つの領域の濃度差は容易に縮まり、正反射光下の特定の観察角度(β)で、無理なく等色関係となる。そのため、従来の技術のように、第一の有意情報を消失させるために極めて強い正反射光を生じさせる必要がなく、画像のチェンジ効果が生じる観察角度を最大正反射角度(α)に限定する必要がなくなった。
【0048】
以上に説明した本発明の構成と画像がチェンジする原理により、第一の有意情報の視認性を高くするために、可視情報部(4A)と背景部(6)の濃度差を大きくした場合には、最大正反射角度(α)において、可視情報部(4A)がより淡くなって第一の有意情報の消失効果が低くなる。しかし、本発明の偽造防止印刷物(1)は、最大正反射角度(α)で第二の有意情報を観察する必要はなく、第一の有意情報が消失する正反射光下の観察角度(β)で第二の有意情報を観察できる構成としており、拡散反射光下での第一の有意情報の視認性を向上させながらも、正反射光下で視認できる画像がチェンジする効果を可能とした。
【0049】
以上のように、本発明では、最大正反射角度(α)に限定せず、正反射光下のある特定の角度(β)において第一の有意情報が消失して、画像のチェンジ効果が発揮されれば良い構造となったことで、第一の有意情報の拡散反射光下の視認性と、正反射光下の特定の角度における第一の有意情報の消失効果を両立させる構成とすることが可能となり、結果として、従来の技術と比較して、画像のチェンジ効果がより優れる印刷物となった。
【0050】
情報画像(4)を形成する光輝性インキとは、光を強く反射する特性を備えた光輝性材料をインキ中に含んだインキであって、基材と異なる色彩のインキであればいかなるインキを用いてもよい。オフセットインキとして市販されているインキとしては、メタリックインキと呼ばれる銀インキや金インキ等が存在し、印刷方式をオフセット方式に限定しないのであれば色相変化に優れた特殊な機能性インキを用いてもよい。例えばパール顔料を配合したパールインキやOVIインキ、CSI等を用いてもよい。また、インキ中に、光輝性材料の他に着色顔料を混合しても問題ない。着色顔料の色は黒や赤や青、黄色等のいずれの色相であってもなんら問題ない。ただし、過剰な量の顔料を混合した場合には情報画像(4)を適切な網点面積率の範囲で形成したとしても、階調表現域が拡大しすぎて正反射光下での観察において情報画像(4)が消失しきらない事象が生じる。よって、いずれの着色顔料を混合する場合でも、インキ中の光輝性材料の配合割合の2分の1の量を超えない範囲に留めることが望ましい。
【0051】
前述の光輝性材料は、アルミニウム粉末、銅粉末、亜鉛粉末、錫粉末、真鍮粉末、又はリン化鉄等の一般的な金属粉顔料であってもよい。また、虹彩色パール顔料、鱗片状顔料等の一般的なパール顔料や、ガラスフレーク顔料、コレステリック液晶顔料等の機能性顔料等を用いてもよい。
【0052】
背景画像(5)を形成する有色インキは、光輝性インキと同じ色相であればよい。インキはグロス系でもマット系でもよいが、基材を問わずに高いスイッチ効果を発現させるにはマット系の透明インキを用いることが望ましい。マット系のインキの方が正反射光下において第二の有意情報のコントラストを高めやすく、画像のチェンジ効果が高くなるためである。また、この有色インキに蛍光顔料や燐光顔料、蓄光顔料等の発光顔料やIR吸収顔料、フォトクロミック顔料、示温材料、サーモクロミック材料等の機能性材料を加えてもよく、この場合、画像のスイッチ効果に加えて各種の機能性を追加することができる。
【0053】
本発明における偽造防止印刷物(1)の印刷方式は、オフセット印刷、フレキソ印刷、凸版印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、凹版印刷等のあらゆる印刷方式で形成することが可能である。また、金属インキを用いることが可能であればIJPやレーザプリンタ、昇華型プリンタ等の各種デジタル出力機でも形成でき、この場合には一枚一枚の出力物の情報を変える、いわゆる可変印刷を実施することができる。
【0054】
第一の実施の形態においては、印刷模様(3)を構成するそれぞれの画像要素を画線によって構成した形態で説明したが、印刷模様(3)を構成するそれぞれの画像要素を画素や画線と画素の組合わせ等で構成してもよい。以下にその概要を説明する。
【0055】
図7に示すのは、各画像要素を画素で形成した偽造防止印刷物(1´)である。偽造防止印刷物(1´)は、基材(2´)の上に、基材(2´)と異なる色彩を有する印刷模様(3´)を有し、印刷模様(3´)は、
図8に示す情報画像(4´)と背景画像(5´)から成る。情報画像(4´)は、拡散反射光下で視認される第一の有意情報を表し、また、背景画像(5´)は、第二の有意情報を表した潜像部(7´)及び正反射光下で第一の有意情報を隠蔽する働きを成す背景部(6´)を有する。
【0056】
それぞれの画像部における面積率の制約やインキの構成については、第一の実施の形態で説明した内容と同じであり、それぞれの画像部を構成する画像要素がそれぞれ画線ではなく、
図8に示すように、画素によって形成されるものである。なお、本発明において、「画素」とは、最小の印刷要素である印刷網点を密集させて構成した印刷要素であって、円、多角形、文字、記号、数字等の構成を含む。
【0057】
以上の構成で形成した偽造防止印刷物(1´)の効果は、
図9に示すとおりであり、第一の実施の形態で説明した画線タイプと同様に、
図9(a)にあるような、拡散反射光が支配的な観察角度で観察した場合には、情報画像(4´)の示す第一の有意情報であるアルファベットの「A」の文字が支配的に視認され、一方、正反射光下の角度範囲の中のある特定の角度(β)で観察した場合には、情報画像(4´)の示す第一の有意情報であるアルファベットの「A」の文字が完全に消失し、第二の有意情報であるアルファベットの「B」の文字が視認される。以上のように、画像要素を画線以外の形態とした場合でも本発明の偽造防止印刷物(1´)の画像のチェンジ効果は問題なく発揮される。
【0058】
(第二の実施の形態)
第一の実施の形態では、情報画像(4)は可視情報部(4A)のみから成り、拡散反射光下で背景画像(5)の潜像部(7)をカモフラージュする構造を有していなかったが、第二の実施の形態では情報画像(4)が可視情報部(4A)の他に、潜像カモフラージュ部を有して拡散反射光下で背景画像(5)の潜像部(7)の示す第二の有意情報をカモフラージュして隠蔽する構造を有した形態について説明する。
【0059】
図10に、本発明の第二の実施の形態における偽造防止印刷物(1´´)を示す。偽造防止印刷物(1´´)は、基材(2´´)の上に、基材(2´´)と異なる色彩を有する印刷模様(3´´)を有し、印刷模様(3´´)は、
図11に示す情報画像(4´´)と背景画像(5´´)から成る。
【0060】
第二の実施の形態において情報画像(4´´)は、拡散反射光下で視認される可視情報部(4A´´)と、潜像部(7´´)をカモフラージュする潜像カモフラージュ部(4B´´)から成り、二つの画像部は、同じ光輝性インキによって形成される。なお、第二の実施の形態においても、可視情報部(4A´´)が表す第一の有意情報を、アルファベットの「A」の文字とし、潜像部(7A´´)が表す第二の有意情報を、アルファベットの「B」の文字とした例について説明する。潜像カモフラージュ部(4B´´)は、潜像部(7´´)が表す第二の有意情報であるアルファベットの「B」の文字をネガポジ反転させた画像構成を有する。第二の実施の形態において、情報画像(4´´)と背景画像(5´´)を形成するインキの関係については、第一の実施の形態と同様であり、背景画像(5´´)を形成する有色インキは、情報画像(4´´)を形成する光輝性インキよりも淡いインキを用いて形成される。第二の実施の形態における背景画像(5´´)のその他の構成については、第一の実施の形態と同様であることから説明を省略する。
【0061】
図12に印刷模様(3´´)の具体的な画線構成の一例を示す。第二の実施の形態における印刷模様(3´´)は、少なくとも四つの画像要素から成る。一つは情報画像(4´´)の可視情報部(4A´´)を構成する情報要素(8´´)であり、二つ目は潜像カモフラージュ部(4B´´)を構成する潜像カモフラージュ要素(14´´)であり、三つ目は、背景画像(5´´)の潜像部(7´´)を構成する潜像要素(10´´)であり、四つ目は背景画像(5´´)の背景部(6´´)を構成する背景要素(9´´)である。
【0062】
情報画像(4´´)の可視情報部(4A´´)は、特定の画線幅(W1)の情報要素(8´´)が第一の方向(図中S1方向)に一定のピッチ(P1)で連続して配されて成る。潜像カモフラージュ部(4B´´)は、特定の画線幅(W4)の潜像カモフラージュ要素(14´´)が第一の方向(図中S1方向)に一定のピッチ(P1)で連続して配されて成る。背景画像(5´´)の潜像部(7´´)は、特定の画線幅(W3)の潜像要素(10´´)が第一の方向(図中S1方向)に一定のピッチ(P1)で連続して配されて成り、背景画像(5´´)の背景部(6´´)は、特定の画線幅(W2)の背景要素(9´´)が第一の方向(図中S1方向)に一定のピッチ(P1)で連続して配されて成る。また、背景要素(9´´)の中には、印刷されない白抜きの要素である情報反転要素(11´´)が配されて成る。それぞれの情報反転要素(11´´)は、対応する情報要素(8´´)が存在し、対を成す情報反転要素(11´´)と情報要素(8´´)が嵌め合わさることで、印刷模様(3´´)が形成される。
【0063】
第2の実施の形態においても、それぞれの要素は互いに重なり合うことなく配置されることが好ましいが、製造上のアバレによってわずかに重なる範囲であれば、拡散反射光下と正反射光下の観察で、視認される画像がチェンジする効果は生じることから、各要素がわずかに重なる配置であったとしても、本発明の第二の実施の形態の偽造防止印刷物(1)の技術的思想の範囲に含まれる。
【0064】
ここで、潜像カモフラージュ部(4B´´)及びそれを構成する潜像カモフラージュ要素(14´´)に必要とされる特性について説明する。潜像カモフラージュ部(4B´´)は、潜像部(7´´)と嵌め合わされることで潜像部(7´´)が表す第二の有意情報である「B」の文字を拡散反射光下で隠蔽する働きを成す。そのために潜像カモフラージュ要素(14´´)の画線幅(W4)と、潜像要素(10´´)の画線幅(W3)の比は、背景画像(5´´)を形成する有色インキの反射濃度と、情報画像(4´´)を形成する光輝性インキの反射濃度の比に等しい。例えば、光輝性インキの反射濃度が有色インキの反射濃度の2倍であった場合、光輝性インキを用いて形成する潜像カモフラージュ要素(14´´)の画線幅(W4)は、有色インキを用いて形成する潜像要素(10´´)の画線幅(W3)の1/2の大きさとする。この関係を保つことで、異なる色彩のインキで形成された潜像カモフラージュ要素(14´´)と潜像要素(10´´)が目視上等色となる。潜像カモフラージュ要素(14´´)と潜像要素(10´´)は、同じピッチ(P1)で形成されることから、潜像カモフラージュ部(4B´´)と潜像部(7´´)の面積率の比は、有色インキと光輝性インキの反射濃度の比に等しくなり、二つの画像部が目視上等色となって、第二の有意情報である「B」の文字を拡散反射光下で完全に隠蔽する働きが生じる。
【0065】
前述のように、潜像カモフラージュ要素(14´´)が形成される第二の実施の形態において、第二の有意情報である「B」の文字を拡散反射光下で完全に隠蔽するために、潜像カモフラージュ部(4B´´)と潜像部(7´´)の面積率の比と、有色インキと光輝性インキの反射濃度の比が、完全に等しいことが好ましいが、第一の実施の形態の偽造防止印刷物(1)に対して、潜像カモフラージュ要素(14´´)が形成されるだけでも、第二の有意情報である「B」の文字の隠蔽性は向上する。そのため、潜像部(7´´)を形成する有色インキよりも濃い反射濃度を有する光輝性インキによって形成される潜像カモフラージュ部(14´´)の面積率を、潜像部(7´´)の面積率よりも低くすることで、潜像部(7´´)を隠蔽する効果は得られる。
【0066】
その他各画像部の面積率の制限や、インキに必要とされる特性等については、第一の実施の形態と同様であり、説明を省略する。
【0067】
以上の構成で形成した偽造防止印刷物(1´´)の効果を
図13に示す。光源(12´´)と偽造防止印刷物(1´´)と観察者(13´´)の位置関係を、
図13(a)にあるような、拡散反射光が支配的な観察角度(印刷物に入射する光の角度(α)と、観察者と印刷物とを結ぶ角度が大きく異なる角度)で観察した場合には、観察者には情報画像(4´´)の示す第一の有意情報であるアルファベットの「A」の文字が支配的に視認される。拡散反射光下において、第二の有意情報であるアルファベットの「B」の文字は、第一の実施の形態と異なり、わずかな濃淡の違いさえ存在せず隠蔽されるため、全く視認することは不可能である。
【0068】
一方、光源(12´´)と偽造防止印刷物(1´´)と観察者(13´´)の位置関係を、
図13(b)にあるような、正反射光下の角度範囲(印刷物に入射する光の角度(α)と、観察者と印刷物とを結ぶ角度が近い角度範囲)の中のある特定の角度(β)で観察した場合には、情報画像(4´´)の示す第一の有意情報であるアルファベットの「A」の文字が完全に消失し、第二の有意情報であるアルファベットの「B」の文字が視認される。
【0069】
以上のように、第二の実施の形態では拡散反射光下においては、第二の有意情報が完全に隠蔽されて第一の有意情報のみが視認され、一方の正反射光下においては、第一の有意情報が消失して第二の有意情報のみが視認される。
【0070】
以下、前述の発明を実施するための形態に従って、具体的に作製した偽造防止印刷物の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【0071】
(実施例1)
本発明の実施例1について、
図14から
図17までを用いて説明する。実施例1では、基材(2−1)として白色の上質紙(しらおい「日本製紙株式会社製」)を用いた。
【0072】
図14に、本発明の実施例1における偽造防止印刷物(1−1)を示す。偽造防止印刷物(1−1)は、白色の基材(2−1)の上に、印刷模様(3−1)を有して成る。印刷模様(3−1)は、
図4に示すように、二つの画像を嵌め合わせて形成した。すなわち、背景画像(5−1)と情報画像(4−1)を嵌め合わせて形成した。実施例1における印刷模様(3−1)の構成は、第一の実施の形態で説明した構成と同じであり、
図15に示すように、印刷模様(3−1)は、可視情報部(4A−1)を有する情報画像(4−1)と背景画像(5−1)から成り、背景画像(5−1)は、背景部(6−1)と潜像部(7−1)から成る。
【0073】
本実施例において、情報画像(4−1)の可視情報部(4A−1)が表す第一の有意情報は、アルファベットの「A」の文字情報であり、一方の背景画像(5−1)の潜像部(7−1)が表す第二の有意情報は、アルファベットの「B」の文字情報である。
図16に示すように、可視情報部(4A−1)の「A」の文字は、画線幅0.25mmの情報要素(8−1)を0.4mmのピッチで配し、62.5%の単一の面積率で表現した二値画像である。一方の潜像部(7−1)の「B」の文字は、画線幅0.08mmの潜像要素(10−1)を0.4mmのピッチで配し、潜像部(7−1)の面積率が20%となるように表現した二値画像である。また、背景画像(5−1)の背景部(6−1)は、画線幅0.3mmの背景要素(9−1)の中に画線幅0.25mmの白抜きの情報反転要素(11−1)を配置して成り、情報反転要素(11−1)を含めた面積率は75%である。以上の構成で印刷模様(3−1)を構成した。
【0074】
まず、淡い灰色の通常のマットインキ(UVL 特練 P420C マットグレー T&K TOKA社製)を用いて背景画像(5−1)を基材(2−1)上にオフセット印刷方式で印刷したのち、情報画像(4−1)を一般的なメタリックインキである銀インキ(UV No.3 シルバー T&K TOKA社製)を用いて同じくオフセット印刷方式で背景画像(5−1)に嵌め合わせて印刷し、偽造防止印刷物(1−1)を得た。淡い灰色の通常のマットインキは、銀インキの約3分の1程度の反射濃度であった。
【0075】
図17に本発明の実施例1における偽造防止印刷物(1−1)の効果を記す。
図17(a)は、観察者が拡散反射光下で偽造防止印刷物(1−1)を観察した場合に観察される画像であり、印刷模様(3−1)の中には可視情報部(4A−1)が表す第一の有意情報である「A」の文字画像が支配的に視認された。一方、
図17(b)に示すように、観察者が正反射光下の特定の観察角度で偽造防止印刷物(1−1)を観察した場合、印刷模様(3−1)の中から「A」の文字は消失し、代わりに潜像部(7−1)が表す第二の有意情報である「B」の文字が視認された。以上のように、二つの異なる画像がチェンジする効果が確認できた。