特許第6391229号(P6391229)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6391229
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】マイクロ波ドップラー検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/56 20060101AFI20180910BHJP
   G01S 13/58 20060101ALI20180910BHJP
   G07F 9/02 20060101ALN20180910BHJP
【FI】
   G01S13/56
   G01S13/58 210
   !G07F9/02 101Z
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-207807(P2013-207807)
(22)【出願日】2013年10月3日
(65)【公開番号】特開2015-72185(P2015-72185A)
(43)【公開日】2015年4月16日
【審査請求日】2016年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】新日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098372
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 保人
(72)【発明者】
【氏名】及川 和夫
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 理志
【審査官】 東 治企
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−155490(JP,A)
【文献】 米国特許第03896436(US,A)
【文献】 特許第4799173(JP,B2)
【文献】 特開2008−133585(JP,A)
【文献】 特開2004−085396(JP,A)
【文献】 特開昭55−106368(JP,A)
【文献】 特開平04−132985(JP,A)
【文献】 特開2013−113819(JP,A)
【文献】 米国特許第04499467(US,A)
【文献】 特許第6126472(JP,B2)
【文献】 特許第5996385(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00−7/42
G01S 13/00−13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋外に設置されたセンサから保護カバーを透過させてマイクロ波を放射し、移動体を検知するためのマイクロ波ドップラー検出装置において、
90度位相の異なる2つのドップラーI,Q信号を出力するための直交検波回路と、
この直交検波回路の出力をA/D変換するA/D変換器と、
上記保護カバー表面の水流からの信号に起因する大きな信号を除去するための上限閾値又は下限閾値を設定し、上記A/D変換器からの出力データが上記上限閾値を超えるとき又は上記下限閾値を下回るとき、その出力データを0にする第1信号除去部と、
この第1信号除去部から出力されたI,Q信号を所定の間隔でサンプリングし、これらI信号又はQ信号のいずれかをドップラー信号の中心周波数において略1/4周期ずらした信号ともう一方の信号との積を求め、かつこの積の移動平均を算出する積/移動平均処理部と、を設けたことを特徴とするマイクロ波ドップラー検出装置。
【請求項2】
上記積/移動平均処理部にて、移動平均演算を短い時間で行い、
この短時間移動平均の値が所定の正の閾値以下で負の閾値以上の閾値範囲を連続して超える回数が所定回数以下のときの信号をスパイク信号と判定し、このスパイク信号を上記閾値範囲内の値の信号に置き換えるスパイク除去部を設けたことを特徴とする請求項1記載のマイクロ波ドップラー検出装置。
【請求項3】
屋外に設置されたセンサから保護カバーを透過させてマイクロ波を放射し、移動体を検知するためのマイクロ波ドップラー検出装置において、
90度位相の異なる2つのドップラーI,Q信号を出力するための直交検波回路と、
この直交検波回路の出力をA/D変換するA/D変換器と、
上記保護カバー表面の水流からの信号に起因する大きな信号を除去するための上限閾値又は下限閾値を設定し、上記A/D変換器からの出力データが上記上限閾値を超えるとき又は上記下限閾値を下回るとき、その出力データを0にする第1信号除去部と、
この第1信号除去部から出力されたI,Q信号を所定の間隔でサンプリングし、これらI信号又はQ信号のいずれかをドップラー信号の中心周波数において略1/4周期ずらした信号ともう一方の信号との積を求め、かつこの積の移動平均を算出する積/移動平均処理部と、
この積/移動平均処理部から出力されたデータ列の移動平均演算を短い時間で行う短時間移動平均部と、
この短時間移動平均部で得られるデータから、現時点前の複数回のデータの中央値を抽出し、この中央値を現時点のデータ値として置き換え、この中央値を現時点のデータ値として置き換えるときに、この中央値以外のデータが上限閾値を超えるとき又は下限閾値を下回るとき、そのデータをスパイク信号として検出から除去するスパイク除去部と、を設けたことを特徴とするマイクロ波ドップラー検出装置。
【請求項4】
センサが屋外に設置され、移動体を検知するためのマイクロ波ドップラー検出装置において、
90度位相の異なる2つのドップラーI,Q信号を出力するための直交検波回路と、
この直交検波回路の出力をA/D変換するA/D変換器と、
雨垂れに関する大きな信号を除去するための上限閾値又は下限閾値を設定し、上記A/D変換器からの出力データが上記上限閾値を超えるとき又は上記下限閾値を下回るとき、その出力データを0にする第1信号除去部と、
この第1信号除去部から出力されたI,Q信号を所定の間隔でサンプリングし、これらI信号又はQ信号のいずれかをドップラー信号の中心周波数において略1/4周期ずらした信号ともう一方の信号との積を求める積算部と、
この積算部で得られた積の移動平均を短い時間間隔で演算する短時間移動平均部と、
この短時間移動平均部の出力値が所定の正の閾値以下で負の閾値以上の閾値範囲を連続して超える回数が所定回数以下のときの信号をスパイク信号と判定し、このスパイク信号を上記閾値範囲内の値の信号に置き換えるスパイク除去部と、を設けたことを特徴とするマイクロ波ドップラー検出装置。
【請求項5】
センサが屋外に設置され、移動体を検知するためのマイクロ波ドップラー検出装置において、
90度位相の異なる2つのドップラーI,Q信号を出力するための直交検波回路と、
この直交検波回路の出力をA/D変換するA/D変換器と、
雨垂れに関する大きな信号を除去するための上限閾値又は下限閾値を設定し、上記A/D変換器からの出力データが上記上限閾値を超えるとき又は上記下限閾値を下回るとき、その出力データを0にする第1信号除去部と、
この第1信号除去部から出力されたI,Q信号を所定の間隔でサンプリングし、これらI信号又はQ信号のいずれかをドップラー信号の中心周波数において略1/4周期ずらした信号ともう一方の信号との積を求め、かつこの積の移動平均を算出する積/移動平均処理部と、
この積/移動平均処理部から出力されたデータ列の移動平均演算を短い時間で行う短時間移動平均部と、
この短時間移動平均部で得られるデータから、現時点前の複数回のデータの中央値を抽出し、この中央値を現時点のデータ値として置き換え、この中央値を現時点のデータ値として置き換えるときに、この中央値以外のデータが上限閾値を超えるとき又は下限閾値を下回るとき、そのデータをスパイク信号として検出から除去するスパイク除去部と、を設けたことを特徴とするマイクロ波ドップラー検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロ波ドップラー検出装置、特に屋外に設置され、直接、雨がかかる可能性のある装置・機器に組み込まれ、ドップラー信号により人等の移動体の接近を検知する検出装置の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、マイクロ波を用い、ドップラー効果によって移動体を検知する装置が用いられており、この種の検出装置では、降雨による誤検知の低減、環境雑音レベルの変動の影響の軽減等が行われる。
【0003】
例えば、特許文献1(特許第4799173号公報)のセキュリティ装置では、雨がドップラーセンサに対し常に遠ざかる方向となるように、このドップラーセンサをプラスチック窓に対し45度の角度を持たせて設置し、また直交ミキサ出力を用いることで、接近と離反を判定し、雨の流れる方向をセンサから離反方向として無視し、接近する人等だけを検知する。
【0004】
一方、特許文献2(特開2006−275885号公報)の障害物検知センサでは、ドップラー信号を出力周波数毎に異なる増幅率で伝達し、状況に応じて、適切に感度を調節しながら、障害物の有無を検知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4799173号公報
【特許文献2】特開2006−275885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のドップラー検出装置では、降雨等によって窓(センサ部保護カバー)に雨滴が集まって流れると、この雨垂れ(雨滴、水膜等)によって良好な移動体検知ができないという問題があった。
例えば、自動販売機等の装置で人(購入者)等をマイクロ波ドップラーセンサで検知する場合、その検知範囲が狭く、人体等で反射される電波が比較的大きいため、ドップラーセンサ及びそれを組み込んだ装置に雨が直接かからなければ、降雨等の影響はあまり問題とはならない。
【0007】
しかし、雨が直接、装置にかかり、マイクロ波を放射するためのプラスチック製の窓や筐体等に雨垂れができると、それによって反射される電波が非常に大きくなり、移動体の誤検知を起こしてしまう。
例えば、自動販売機等の窓に雨がかかる場合を考えると、窓に当たった雨滴が水膜として流れる。また、窓に一旦付着した雨滴がその表面を流れ落ちる際、近くにある他の雨滴とまとまり、これら雨滴が連続することで、流れが速く長い距離の水流となる場合もある。このような流れが速く長い距離の水流がセンサ正面付近を通過したときは、検知信号が大きくなると共にその持続時間も長く、人体の動きによる検知信号と時間的に識別することが困難となり、誤検知(1時間に数回程度の誤検知)が生じる。
【0008】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、検知窓等への雨垂れの影響を軽減すると共に、移動体の誤検知を低減するマイクロ波ドップラー検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、屋外に設置されたセンサから保護カバーを透過させてマイクロ波を放射し、移動体を検知するためのマイクロ波ドップラー検出装置において、90度位相の異なる2つのドップラーI,Q信号を出力するための直交検波回路と、この直交検波回路の出力をA/D変換するA/D変換器と、上記保護カバーの表面の水流からの信号に起因する大きな信号を除去するための上限閾値又は下限閾値を設定し、上記A/D変換器からの出力データが上記上限閾値を超えるとき又は上記下限閾値を下回るとき、その出力データを0にする第1信号除去部と、この第1信号除去部から出力されたI,Q信号を所定の間隔でサンプリングし、これらI信号又はQ信号のいずれかをドップラー信号の中心周波数において略1/4周期ずらした信号ともう一方の信号との積を求め、かつこの積の移動平均を算出する積/移動平均処理部と、を設けたことを特徴とする。
【0010】
請求項2の発明は、上記積/移動平均処理部にて、移動平均演算を短い時間で行い、この短時間移動平均の値が所定の正の閾値以下で負の閾値以上の閾値範囲を連続して超える回数が所定回数以下のときの信号をスパイク信号と判定し、このスパイク信号を上記閾値範囲内の値の信号に置き換えるスパイク除去部を設けたことを特徴とする。
請求項の発明は、センサが屋外に設置され、移動体を検知するためのマイクロ波ドップラー検出装置において、90度位相の異なる2つのドップラーI,Q信号を出力するための直交検波回路と、この直交検波回路の出力をA/D変換するA/D変換器と、雨垂れに関する大きな信号を除去するための上限閾値又は下限閾値を設定し、上記A/D変換器からの出力データが上記上限閾値を超えるとき又は上記下限閾値を下回るとき、その出力データを0にする第1信号除去部と、この第1信号除去部から出力されたI,Q信号を所定の間隔でサンプリングし、これらI信号又はQ信号のいずれかをドップラー信号の中心周波数において略1/4周期ずらした信号ともう一方の信号との積を求める積算部と、この積算部で得られた積の移動平均を短い時間間隔で演算する短時間移動平均部と、この短時間移動平均部の出力値が所定の正の閾値以下で負の閾値以上の閾値範囲を連続して超える回数が所定回数以下のときの信号をスパイク信号と判定し、このスパイク信号を上記閾値範囲内の値の信号に置き換えるスパイク除去部と、を設けたことを特徴とする。
請求項3,5の発明は、上記スパイク除去部では、上記短時間移動平均で得られた現時点前の複数回のデータの中央値を抽出し、この中央値を現時点のデータ値として置き換えることを特徴とする
【0011】
請求項1の構成によれば、まず、直交検波されかつA/D変換されたI,Q信号が正の上限閾値を超えるとき又は負の下限閾値を下回るとき、その出力データが0に置換され、これによって、雨滴がまとまった速い水流、長い距離を流れる水流等の大きな信号(大信号)が除去される。そして、上限閾値を超えた又は下限閾値を下回った大信号が除去されたI,Q信号は、積/移動平均処理部によって処理される。
【0012】
基本的に、降雨等のI,Q信号は、信号間に相関のないランダム雑音として検出され、一方の人の動きによるドップラー信号(I,Q信号)は、位相が90度異なった相関のある信号として観測される。即ち、このI又はQ信号のいずれかをドップラー信号の中心周波数において略1/4周期ずらした信号ともう一方の信号との積は、I,Q信号間に相関があり、人等の移動体の場合、約90度の位相差があり、位相をずらす方向によりプラス又はマイナスの値だけとなるため、移動平均を求めることで、プラス又はマイナスの値が得られる。これに対し、ランダム雑音で相関がない場合は、一方をずらして積をとってもその結果はプラスとマイナスがランダムに含まれるため、移動平均は0に近い値となる。このような積/移動平均処理によって、降雨等による雑音が低減される。
【0013】
上記第1信号除去部で、大信号を除去したとき、その大信号の上限閾値以下又は下限閾値以上の部分がスパイク(信号)として残り、これによって誤検知が生じる。また、上記積/移動平均処理をした場合でも、センサの直前の窓に、直接雨滴が当って雨垂れ(水膜)が生じ、反射される電波が大きくなるときには、スパイクとなって誤検知を起こすことになる。
そこで、移動平均演算を短い設定時間(例えば数ミリ〜数十ミリ秒)以内で行い、この短時間移動平均の値が所定の正の閾値以下で負の閾値以上の閾値範囲を連続して超える(逸脱する)回数が所定回数以下のときの信号を、上記大信号の残りのスパイク部分、又は雨垂れ(雨滴、水膜)等によるスパイクと判定し、これらスパイク信号を上記閾値範囲内の値の信号、例えば0の信号に置き換えることで、スパイクを低減する。
【0014】
また、請求項3,5の構成では、現在より前のn個のデータの中央値を求めることで、n個のデータの中に(n+1)/2回以上閾値範囲を超えるデータが含まれている場合は、中央値が閾値範囲を超える値となり、(n+1)/2回以下で閾値範囲を超えるデータが含まれている場合は、中央値が閾値範囲内となる。これは、閾値範囲を連続的に超えた回数を判定してスパイク除去を行う請求項3の処理や、連続して閾値範囲を超えている場合に、(n−1)/2回以下の逆方向のスパイクがあった場合に所定の値の信号に置き換える補間処理を行なっていることと等価な結果となる。なお、nを奇数とすることで中央値が1点となり処理は簡単になるが、nを偶数として2点の中央値を求め、平均や大小判断を行い中央値とすることも可能である。
また、低い周波数を減衰させるハイパスフィルタを設けることで、雨滴、水膜(水流)が良好に除去される。即ち、保護カバーがドップラーセンサのアンテナ面に平行な面となる場合、雨滴の流れは、センサに対するマイクロ波伝搬方向と直角方向に流れる成分が主となるので、雨滴の流れによるセンサ出力は、周波数が0Hz付近に偏り、近接と離反が同時に存在するため方向性を持たないランダム雑音として検知される。従って、センサ出力について低周波側が急峻に減衰するハイパスフィルタを通過させた後、増幅することで、雨滴や水流(水膜)による雑音成分の大半が良好に除去される。
【発明の効果】
【0015】
本発明のマイクロ波ドップラー検出装置によれば、検知窓等への雨垂れの影響を軽減すると共に、移動体の誤検知を低減することができる。特に、請求項1の第1信号除去部によれば、雨滴がまとまって流れ、速い流れの長い距離の水流となる場合であっても、このような水流が良好に除去されるという効果がある。なお、この第1信号除去部は、大きな信号のみに適用されるため、人の動き等の小さな信号に対しては何ら影響を与えない。
【0016】
また、スパイク除去部を設けることで、大信号除去時に生じるスパイクや散発的に発生する短時間のスパイクを除去することができ、検知窓等への雨垂れの影響が軽減され、移動体の誤検知が確実に低減される。このようにして、自動販売機等の各種装置では、購入者、使用者等が近づいた時に、表示灯、電灯を点灯させる等、必要な動作を実行することで、省エネ等を図ることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施例に係るマイクロ波ドップラー検出装置の処理回路ブロックを示し、図(B)は図(A)のマイコン内の構成を示す図である。
図2】実施例のドップラー検出装置の構成例を示す側面図である。
図3】実施例の大信号除去の信号波形を示し、図(A)は除去前の図、図(B)は除去後の図である
図4】実施例の直交検波回路からの出力(IQ信号)を示し、図(A)は人の動きによるドップラー波形図、図(B)は雨滴、水膜等による波形図である。
図5】実施例におけるIQ信号の一方を1/4周期ずらした信号ともう一方の信号の積を相関のある信号とランダム信号で説明するための波形図である。
図6】第2実施例のマイクロ波ドップラー検出装置のマイコン内の構成を示すブロック図である。
図7】第2実施例のドップラー検出装置でのスパイク除去の各種のパターンを示す説明図である。
図8】第2実施例のドップラー検出装置で処理される信号を示し、図(A)はドップラーセンサ回路部からの出力信号波形図、図(B)は短時間移動平均演算後の信号波形図、図(C)はスパイクを除去し、再度の移動平均演算をした後の信号波形図、図(D)は検知判定後の信号波形図である。
図9】第2実施例のマイクロ波ドップラー検出装置のスパイク除去部での他の処理方法(中央値抽出・置換え処理)を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
第1実施例
図1(A),(B)には、本発明の第1実施例に係るマイクロ波ドップラー検出装置の構成が示され、図2には、自動販売機等へ取り付けた装置の構成例が示されている。図2に示されるように、自動販売機等では、その前面に電波を透過させるプラスチック製等の例えば平面窓(保護カバー)10が設けられ、この窓10の内側に、ドップラーセンサ12が取り付けられており、このドップラーセンサ12の前面のアンテナ面(検出面)12Aは、例えば平面窓10に平行となるように配置される。
【0019】
図1(A)のセンサ回路部14は、上記ドップラーセンサ12を含むと共に、直交検波(ミキサ)回路等を備えることにより、センサ12で受信した信号から90度位相の異なるI信号とQ信号を出力する。このセンサ回路部14の後段に、2つのIQ信号出力に対応して、雨垂れ(雨滴,水膜)等の動きに対応する低い周波数を減衰させるハイパスフィルタ(HPF)15a,15bが設けられており、実施例のハイパスフィルタ15a,15bは、低域カットオフ周波数を例えば50Hz程度に設定している。このハイパスフィルタ15a,15bには、アンプ(増幅器)16a,16b、AD(アナログ/デジタル)変換器17a,17b、そしてマイコン18が接続される。
【0020】
即ち、上記アンプ16a,16bでは、雨垂れ等の動きに対応する低周波域を除去したIQ信号を増幅し、上記AD変換器17a,17bでは、増幅後のIQ信号を例えばドップラー信号中心周波数の1/8周期以下のサンプリング時間でサンプリングする。
【0021】
図1(B)には、上記マイコン18の内部の処理ブロック(回路)が示されており、このマイコン18には、上記AD変換器17aから出力されたI,Q信号のそれぞれを入力する第1信号除去部19a,19bが設けられ、これら第1信号除去部19a,19bは、正の上限閾値を超える信号、負の下限閾値を下回る信号を除去する。この上限閾値又は下限の閾値は、ドップラー信号を増幅するアンプ16a,16bが飽和する値、或いはA/D変換器17a,17bの最大値より小さいが、測定したい対象物による検知信号の値より十分に大きい値に設定される。
【0022】
また、I,Q信号のそれぞれを記憶するメモリ20a,20bが設けられており、これらのメモリ20a,20bには、サンプリングしたIQ信号のそれぞれにつき、ドップラー信号中心周波数fd0の略1/4周期に相当する時間毎の時系列(複数)のデータが、所定時間分だけデータ列として記憶される。なお、実施例では、上述のようにドップラー信号の中心周波数の1/8周期以下の時間間隔でサンプリングし、I,Q信号の一方として略1/4周期前にサンプリングされたデータを用い、他方のデータとの積をとるようにするため、上記の1/4周期をずらす操作は、メモリの少ないマイコン等でも容易に実現することができる。
【0023】
また、メモリ20a,20bの後段に、積/移動平均処理部(回路)として、積算部21、移動平均部22が設けられ、この積/移動平均処理部は、IQ信号の各データ列に基づいてIQ信号積/移動平均処理を実行する。上記積算部21は、IQ信号のドップラー信号中心周波数fd0の略1/4周期の時間だけシフトしたデータ(例えばI信号)とシフトしていないデータ(例えばQ信号)を積算し、上記移動平均部22は、現在の時刻から一定時間前までのデータの平均値を算出し、これらを一定時間分のデータ配列として保存する。この移動平均部22の後段に、最終的に人等の移動体を判定する検知判定部26が接続される。
【0024】
第1実施例は以上の構成からなり、まずドップラーセンサ12のアンテナ面12Aは平面窓10に平行に配置されており、この窓10の表面を流れる雨垂れ等はセンサアンテナ面12Aに対して略平行に流れるため、この流れは、センサ12より上側では(センサ12に対して)近接する方向、センサ12より下側では離反する方向となる。
【0025】
また、実施例のハイパスフィルタ15a,15bは、ドップラー信号の低周波成分を除去することで、雨垂れ等による雑音成分を大幅に減衰させ、後段のアンプ16a,16bの飽和も防いでいる。即ち、センサ12のドップラー出力周波数fdは、移動体の速度vとセンサ12に対する移動体の角度αから、fd = 2・f(v/C)・cosα[C:光速、f:ドップラーセンサ12の送信周波数]と表すことができ、上述のように、アンテナ面12Aに平行に水が流れる場合は、角度αが90度に近いためドップラー出力の周波数成分は低い周波数側に集中する。例えば、アンテナ面12Aと平面窓10の角度が45度となる場合と比較すると、アンテナ面12Aと平面窓10が平行となる方が、周波数成分はより低い周波数に集中する。そこで、実施例では、低周波成分をハイパスフィルタ15a,15bにて除去することで、雨垂れ等の雑音成分をある程度、減衰させている。このハイパスフィルタ15a,15bは、バンドパスフィルタとすることで、高周波の雑音成分を除去することも可能である。
【0026】
次に、上記アンプ16a,16bからのI,Q信号出力の各々がAD変換器17a,17bへ入力され、ドップラー中心周波数(fd0)の例えば1/8周期以下のサンプリング時間でサンプリングされる。人の動きのドップラー周波数は、ある範囲に限定できるので、サンプリング時間は取得したいドップラー周波数の中心周波数で、1/8周期より短い間隔とすることが好ましい。
【0027】
上記A/D変換器17a,17bから出力されたI,Q信号は、マイコン18内の第1信号除去部19a,19bに供給され、ここで、I,Q信号のそれぞれにおいて、正の上限閾値を超える信号と負の下限閾値を下回る信号が除去される。
【0028】
図3(A),(B)には、大きな信号の除去処理状態が示されており、図示のように、上限閾値と下限閾値は、正側及び負側においてアンプ飽和レベル(又はA/D変換の最大レベル)を超えない値に設定される。そして、図3(A)のように、上限閾値を超える信号及び下限閾値を下回る信号がある場合には、図3(B)のように、その部分の出力データが0に置換される。この結果、雨滴がまとまった速い水流、長い距離の水流となるような大きな信号が除去される。この第1信号除去部19a,19bでの処理は、リアルタイムで行われるため、これによって処理時間の増加、反応時間の遅れが生じることはない。
【0029】
上記第1信号除去部19a,19bの出力データは、所定の時間分、メモリ20a,20bに保存され、次段の積算部21では、IQ信号の一方の信号の現時点からドップラー中心周波数(fd0)の1/4周期に相当する時間分前に取得されたデータ(例えばIデータ)と、他方の信号の現時点のデータ(例えばQデータ)との積の値が時系列で求められ、このデータ列(複数の積データ)がメモリに保存される。
【0030】
そして、移動平均部22は、上記積算部21から出力されたデータ列につき、現在の時刻から一定時間前までのデータの平均値を算出し、検知判定部26において、データ平均値から最終的に人等の移動体が検知される。
【0031】
図4には、人の動きによるドップラー信号(IQ信号)波形[図(A)]と、雨滴、水膜等によるIQ信号波形[図(B)]を比較したものが示されており、この波形図から明らかなように、人の動きに対するドップラー信号波形は、Q信号がI信号に対し90度の位相遅れを示しているが、I,Q信号で相似の形となっている。これに対し、雨、雫や水膜による出力は、I,Q信号間に相関性のないランダムな波形となる。このことを利用し、雨の影響を軽減し、人の動きを検知しやすいような処理を行う。
【0032】
図5(A)には、90度位相差のあるI信号とQ信号の波形とその現時点での値同士の積の波形が示されており、この積の値はプラスとマイナスが交互に存在するため、このまま移動平均をとると値は0に近くなってしまう。図5(B),(C)には、I信号或いはQ信号のいずれか一方の略1/4周期前の時間に相当する信号と、もう一方の現在時刻の信号との積の波形が示される。I信号とQ信号のいずれを1/4周期前に相当する時間の信号として用いるかで、図5(B),(C)のように、積の値はプラス側かマイナス側のいずれかの値だけになる。そのため、この値の移動平均はプラスかマイナスのある大きさの値となる。
【0033】
一方、図5(D)に示すようなランダム雑音の場合は、I信号またはQ信号のいずれかを1/4周期前の時間を用いてもう一方の現在時刻との積を求めても、相関性がないため積の結果はプラスとマイナスの値がランダムに現れる。この結果を移動平均した場合は0に近い値となるため、本実施例の処理で雨滴、水膜等のランダム雑音成分を減衰し、人の動きのようなI信号、Q信号に相関のある信号のみが抽出される。なお、人が近づく場合と遠ざかる場合でI信号、Q信号の位相は180度異なるため、この処理では積の結果のプラスとマイナスが反転する。このことから、人が近づいているか、遠ざかっているかの判定も同時に可能となる。
【0034】
第2実施例
図6には、短時間移動平均を行うと共にスパイク除去部を有する第2実施例の構成が示されており、マイコン28において、第1信号除去部19a,19bから積算部21までと検知判定部26は第1実施例と同一であるが、積/移動平均処理回路として、積算部21、短時間移動平均部23、スパイク判定及び除去部24、第2の移動平均部25が設けられる。そして、上記短時間移動平均部23は、例えば数ミリ秒(msec)〜数十ミリ秒という短い時間間隔(現在の時刻から一定時間前まで)のデータの平均値を算出し、これらを一定時間分のデータ配列として保存し、上記スパイク判定及び除去部24は、上記配列データおいて、所定の正の閾値以下で負の閾値以上の閾値範囲を連続して超える回数が所定回数以下であるデータ(信号)をスパイクとして抽出し、この所定回数以下の連続信号を上記閾値範囲の値、例えば0に置き換える。即ち、大きな信号を除去した後に残るスパイク部分を含めた雨垂れに関するスパイクを除去する。上記所定回数は、100〜500msecの範囲内で設定され、例えば短時間移動平均演算を30msecとすると、所定回数を10回程度としてスパイク判定を実行する。
【0035】
上記第2の移動平均部25は、スパイク判定及び除去部24から出力された信号(データ列)につき、現在の時刻から一定時間前まで(上記の短い時間間隔よりも長い間隔)のデータの平均値を算出する。
【0036】
第2実施例は以上の構成からなり、マイコン28内の短時間移動平均部23では、上記データ列において、現在の時刻から数ミリ秒〜数十ミリ秒という短い時間前までのデータの平均値(短時間移動平均値)が計算され、次段のスパイク判定及び除去部24では、上記データ配列から、所定の正の閾値以下で負の閾値以上の閾値範囲を連続して超える回数が所定回数以下となるデータがスパイクとして抽出され、このスパイク信号が除去される。
【0037】
図7には、実施例のスパイク除去の各種パターンが示されており、図7(A)の正側スパイクの場合、正の閾値を+1、負の閾値を−1とし、所定回数を10回とすると、図のS1 ,S2 の信号は、本来の生の検出であれば、レベル+2の値の信号となるが、連続して正の閾値を超える回数が所定回数以下であるから、例えば0(閾値範囲内の値)に置き換えられる。図7(B)の負側スパイクの場合も、S3 ,S4 の信号は、生の検出ならレベル−2の値の信号となるが、負の閾値(−1)を下回る回数が所定回数以下であるから、0に置き換えられる。
【0038】
図7(C)の正負連続スパイクの場合は、上記短時間移動平均部23の出力において、正の閾値を超える状態から負の閾値を下回る状態へと連続する信号が出力された場合で、正の閾値を超える回数と負の閾値を下回る回数のそれぞれが所定回数以下のときは、この正負連続信号をスパイクと判定する。その結果、図3(C)のS5 の信号は、生の状態ならレベル−2の値であるが、0(又は閾値範囲内のその他)の値に置き換えられる。逆に、負の閾値を下回る状態から正の閾値を超える状態へ連続する信号が出力された場合も、それぞれが所定回数以下であれば、スパイクと判定し、0への置き換えが行われる。
【0039】
このようにして、スパイク除去された信号(データ列)は、第2の移動平均部25へ供給され、ここで、再度の移動平均演算が行われる。即ち、上記短時間移動平均の間隔よりも長い間隔で、現在の時刻から一定時間前までのデータの平均値が算出されることで、検知判定部26において、人等の移動体が最終的に判定される。
【0040】
図8には、第2実施例で得られる信号波形が示されており、図8(A)の波形のように、ドップラーセンサ回路部(14)からの出力には、人等の移動体の波形に雨垂れ等の雑音が重畳されているが、ハイパスフィルタ(15a,15b)を介した後、短時間移動平均されると、図8(B)のように、短時間のスパイクが抽出される。このスパイクが除去され、再度の移動平均が行われると、図8(C)のように、人等の移動体の信号が抽出され、最終的に、検知判定部26からは、図8(D)のような人等の移動体の検知出力が得られる。
【0041】
このようなスパイク判定及び除去によれば、図3(B)で示したような大信号除去後に残ったスパイクSPが良好に除去されると共に、特に強い降雨等により短時間に比較的高いレベルで生じるスパイクが良好に除去され、人等の移動体が確実に検知される。
【0042】
図9には、第2実施例のスパイク判定及び除去の他の方法が示されており、この例は、上記スパイク判定及び除去部24において、直前の複数回の信号データの中央値を現時点のデータに置き換えてスパイクを判定する。実施例では、例えば用いるデータを5回(任意の回数)とし、図9(A)に示されるように、信号S11〜S15が得られた場合は、大きい方から順に並び替えると、S13→S11→S12→S15→S14で、中央値がS12の値となるため、このS12の値を現時点のデータとして置換え記憶させる。即ち、4回が閾値範囲内で、1回が閾値を超える状態となり、閾値を超える信号S13がスパイクとして検出から除去される。
【0043】
また、図9(B)のように、信号S21〜S25が得られた場合は、S21→S23→S24→S25→S22の順となり、中央値がS24の値となるので、このS24の値を現時点のデータとして記憶する。この場合、3回が正の閾値を超え、その間の1回が負の閾値以下となるが、中央値の信号S24を現時点のデータとすることで、負の閾値を下回ったS22は、逆方向のスパイクとして検出から除去される。
【0044】
このような中央値置換えによっても、スパイク除去ができ、この場合は、複数回の信号の中央値を抽出し、これを現時点の信号に置き換えるだけの処理となり、毎回閾値範囲を超えるかの判定を行いかつ連続回数をカウントする上記のスパイク除去方法に比べると、処理が簡単になるという利点がある。
【符号の説明】
【0045】
10…窓、 12…ドップラーセンサ、
14…センサ回路部、 15a,15b…ハイパスフィルタ、
17a,17b…AD変換器、
18,28…マイコン、 19a,19b…第1信号除去部、
20a,20b…メモリ、 21…積算部、
22…移動平均部、 23…短時間移動平均部、
24…スパイク判定及び除去部、
25…第2の移動平均部 26…検知判定部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9