【文献】
吉村長蔵ほか,反復高電流瞬間通電によるアルミニウムの酸性浴陽極酸化,表面技術,日本,1993年,Vol.44, No.2, 1993,p.75-p.79
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記電解液の温度が10℃以上25℃未満であり、前記リン酸の濃度M(mol/L)と、前記アルミニウム基材を前記電解液中に浸漬させて保持する時間T(min)とが下記式(1)、及び(2)を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
1≦T≦90・・・(1)
−90(2M−1)≦T・・・(2)
前記電解液の温度が10℃以上25℃未満であり、前記リン酸の濃度M(mol/L)と、前記アルミニウム基材を前記電解液中に浸漬させて保持する時間T(min)とが、上記式(2)、及び下記式(3)を満たすことを特徴とする、請求項2に記載の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
1≦T≦45・・・(3)
前記電解液の温度が25℃以上35℃未満であり、前記リン酸の濃度M’(mol/L)と、前記アルミニウム基材を前記電解液中に浸漬させて保持する時間T’(min)とが、下記式(4)、及び(5)を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
1≦T’≦70・・・(4)
−200M’+70≦T’≦−12.5M’+70・・・(5)
前記電解液の温度が25℃以上35℃未満であり、前記リン酸の濃度M’(mol/L)と、前記アルミニウム基材を前記電解液中に浸漬させて保持する時間T’(min)とが、上記式(5)、及び下記式(6)を満たすことを特徴とする、請求項4に記載の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
1≦T’≦45・・・(6)
前記電解液の温度が35℃以上であり、前記リン酸の濃度M’’(mol/L)と、前記アルミニウム基材を前記電解液中に浸漬させて保持する時間T’’(min)とが下記式(7)を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
T’’≦−20M’’+70・・・(7)
前記電解液の温度が35℃以上であり、前記リン酸の濃度M’’(mol/L)と、前記アルミニウム基材を前記電解液中に浸漬させて保持する時間T’’(min)とが、上記式(7)、及び下記式(8)を満たすことを特徴とする、請求項6に記載の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
1≦T’’≦45・・・(8)
前記工程(b)において、アルミニウム基材に印加される電圧が20V〜120Vであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、「細孔」とは、陽極酸化ポーラスアルミナの表面に形成された微細凹凸構造の凹部のことをいう。
また、「細孔の間隔」とは、隣接する細孔同士の中心間距離の平均値を意味する。
また、「突起」とは、成形体の表面に形成された微細凹凸構造の凸部のことをいう。
また、「微細凹凸構造」は、凸部または凹部の平均間隔が10〜400nmである構造を意味する。すなわち、「微細凹凸構造」とは、隣り合う2つの凸部の、頂部と頂部の間隔の平均値(平均距離)、または隣り合う2つの凹部の、底部と底部の間隔の平均値(平均距離)が、10〜400nmである構造を意味する。また、上述の細孔の間隔、及び凸部または凹部の間隔は、電界放出型走査電子顕微鏡を用いて測定することができる。
また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよびメタクリレートの総称である。
また、「活性エネルギー線」は、可視光線、紫外線、電子線、プラズマ、熱線(赤外線等)等を意味する。
【0014】
<陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法>
本発明の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法は、下記の工程(a)〜工程(d)を含むことを特徴とする方法である。
工程(a):複数の酸を混合した電解液中に、アルミニウム基材を浸漬させる工程。
工程(b):前記電解液に浸漬された前記アルミニウム基材に電圧を印加する工程。
工程(c):前記アルミニウム基材に電圧を実質的に印加せず、前記アルミニウム基材を前記電解液中に浸漬したまま保持する工程。
工程(d):前記工程(b)と、前記工程(c)とを交互に繰り返す工程。
【0015】
(工程(a))
本発明の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法において、工程(a)は複数の酸を混合した電解液中に、アルミニウム基材を浸漬させる工程である。
アルミニウム基材の形状は特に限定されず、板状、円柱状、円筒状等、鋳型として使用可能な形状であればどのような形状であってもよい。また、本発明の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法において、アルミニウム基材としては、機械加工されたものを用いるのが好ましい。
ここで、「機械加工」とは、アルミニウム基材の表面を電解研磨することなく、物理的に切削、または研磨して鏡面化することを意味する。なお、本発明において、物理的な研磨には「テープ研磨」、「CMP研磨」も含まれる。本発明においては、CMP研磨によってアルミニウム基材の表面を鏡面化することが好ましい。
【0016】
アルミニウム基材の純度は、すなわち、アルミニウム基材の総質量に対するアルミニウムの割合は、97〜99.9質量%であることが好ましく、99.5〜99.9質量%であることがより好ましい。アルミニウム基材の純度が97質量%未満では、陽極酸化時に、不純物の偏析により可視光を散乱する大きさの凹凸構造が形成されたり、陽極酸化で得られる細孔の規則性が低下したりすることがあるため好ましくない。
【0017】
ところで、純度の高いアルミニウムをアルミニウム基材として用いた場合、所望の形状(例えば円筒状など)に加工する際に、アルミニウム基材が柔らかすぎて加工しにくい場合がある。そこで、アルミニウムにマグネシウムを添加して所定の形状に加工したものを、アルミニウム基材として用いてもよい。マグネシウムを添加することで、アルミニウムの強度が高まるため加工しやすくなる。アルミニウムに添加するマグネシウムの添加量は、アルミニウム基材の総質量に対して0.1〜3質量%程度であることが好ましい。
また、本発明の1つの態様においては、工程(a)で用いるアルミニウム基材としては、アルミニウム基材の表面に陽極酸化の細孔発生点となる窪みを有することが好ましい。前記窪みは、後述する工程(1)、及び(2)によって形成されたものであることが好ましい。
【0018】
工程(a)〜(d)において用いる、アルミニウム基材を浸漬させる電解液としては、複数の酸を混合したものを用いる。本発明において、「複数の酸」とは、酸化被膜の形成に寄与する酸(以下、「第1の酸」ということもある)と、酸化被膜に形成された細孔を拡大するエッチングに有用な酸(以下、「第2の酸」ということもある)とを組み合わせたもののことを指す。
前記複数の酸としては、硫酸、リン酸、シュウ酸、マロン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、およびクエン酸から選択される少なくとも二種の酸であることが好ましい。
ここで、第1の酸としては、シュウ酸、硫酸が挙げられ、第2の酸としては、リン酸であることが好ましい。
すなわち、本発明の1つの態様において、アルミニウム基材を浸漬させる電解液としては、酸化被膜の形成に寄与する第1の酸と、酸化被膜に形成された細孔を拡大するエッチングに有用な第2の酸とを混合したものであることが好ましい。また、前記第1の酸としては、シュウ酸、および硫酸からなる群より選択される少なくとも1つの酸であることが好ましい。また、前記第2の酸としては、リン酸であることが好ましい。
【0019】
工程(a)〜(d)において、このような二種以上の酸を混合したものを電解液として用いることにより、アルミニウム基材表面の陽極酸化工程とエッチング工程を1つの槽で行うことができるため、陽極酸化工程終了後に、アルミニウム基材を槽から引き揚げて、別の槽に浸漬させてエッチングを行うという作業が不要となり、製造工程、及び装置の簡略化が可能となる。
更に、前記複数の酸としては、シュウ酸とリン酸の組み合わせが好ましい。複数の酸として、シュウ酸、およびリン酸を用いることで、アルミニウム基材の表面に規則性の高い細孔が形成されやすく、かつ細孔の形状の制御が容易であるため好ましい。
なお、シュウ酸を単独で用いて陽極酸化を行う場合、大電流がアルミニウム基材に流れると熱暴走やヤケと呼ばれる現象が発生し、酸化被膜に形成された細孔(以下、「ナノホール」と言うこともある)が破壊されてしまうことがある。熱暴走やヤケの発生を抑制するには、電解液中のシュウ酸の濃度を低くしたり、アルミニウム基材を除熱しながら低温で陽極酸化を行う必要がある。
しかしながら、第1の酸としてシュウ酸を用い、第2の酸としてリン酸を加えた電解液中でアルミニウム基材の陽極酸化を行うと、シュウ酸単独で陽極酸化を行う場合と比較して、アルミニウム基材に流れる電流の電流密度が低くなる傾向にある。そのために、アルミニウム基材が発熱し、熱暴走やヤケの発生が抑制されるため、従来よりも簡便に、より大電圧で陽極酸化を行う、あるいはより高温で陽極酸化を行うことが可能となる。
本発明の1つの態様においては、後述する工程(b)のアルミニウム基材の陽極酸化は、4℃以上50℃以下の電解液中で行われることが好ましく、10℃以上45℃以下の電解液中で行われることがより好ましい。なお、工程(b)を、後述する工程(c)と異なる温度で実施してもよいが、陽極酸化ポーラスアルミナを簡便に製造する観点から、工程(b)と工程(c)とは実質的に同じ温度で実施されることが好ましい。なお、本発明において実質的に同じ温度とは、±5℃以内の範囲の温度を意味する。
【0020】
(電解液の調整)
複数の酸を混合した電解液の組成の決定方法は、まず第1の酸と第2の酸を決め、工程(b)における陽極酸化時の電解液の温度、または陽極酸化時の電圧、工程(c)におけるエッチング時の電解液の温度に応じて、それぞれの酸の濃度を決定する方法が好ましい。
例えば、工程(b)の陽極酸化において、40Vを超える大電圧を印加する場合は、第2の酸として混合するリン酸の濃度をより高くする、例えば、0.5mol/L以上とすることで、熱暴走やヤケの発生を防止することができる。
工程(b)および工程(c)を高温環境下、例えば、30〜45℃の電解液中で行う場合は、第2の酸として混合するリン酸の濃度をより低くすることで、例えば2.5mol/L以下とすることで、細孔径の拡大が進み過ぎて、細孔の形状が乱れてしまうことを抑制することができる。
なお、第2の酸として電解液に加えられるリン酸は、低濃度では細孔径拡大速度が遅くなる傾向にある。従って、工程(c)が低温で行われる場合は、リン酸の濃度を高くするか、アルミニウム基材を電解液中に浸漬させたまま保持する時間(以下、「エッチング時間」ということもある)を長くする必要がある。
本発明の1つの態様において、工程(c)が10℃以上25℃未満の電解液中で行われる場合、電解液中に第2の酸として含まれるリン酸の濃度M(mol/L)と、アルミニウム基材を電解液中に浸漬させたまま保持する時間T(min)とは、下記式(1)および式(2)を満たすことが好ましい。
1≦T≦90・・・(1)
−90(2M−1)≦T・・・(2)
上記式(1)、(2)において、Tは工程(c)の電解液温度が10℃以上25℃未満である時の、アルミニウム基材の電解液中での1回当たりのエッチング時間(min)であり、Mは、電解液中のリン酸濃度(mol/L)である。
すなわち、工程(c)が10℃以上25℃未満の電解液中で行われる場合、電解液中に第2の酸として含まれるリン酸の濃度Mを横軸とし、アルミニウム基材のエッチング時間Tを縦軸として作成したグラフに、上記式(2)を満たす直線を引き、この直線と、エッチング時間T=1と、T=90との直線とで囲まれた範囲内に入るようにリン酸濃度M、及びエッチング時間Tを調整することにより、効率的に陽極酸化ポーラスアルミナを製造することができる。
後述の工程(d)は、工程(b)および工程(c)を繰り返し実施する工程であるが、陽極酸化ポーラスアルミナの製造時間をより短くし、効率的な生産を行う観点から、アルミニウム基材のエッチング時間Tは90分間以下とされることが好ましい。また、Tを1分間以上とすることで、細孔径を十分に拡大することが可能となる。なお、より効率的に陽極酸化ポーラスアルミナを製造する観点から、Tは45分間以下であることがより好ましい。
すなわち、本発明の1つの態様においては、工程(c)が10℃以上25℃未満の電解液中で行われる場合、電解液中に第2の酸として含まれるリン酸の濃度M(mol/L)と、アルミニウム基材を電解液中に浸漬させたまま保持する時間T(min)とは、上記式(2)および下記式(3)を満たすことがより好ましい。
1≦T≦45・・・(3)
また、リン酸の濃度Mが上記式(2)を満たす範囲であれば、工程(c)において、アルミニウム基材をエッチング時間でT分間保持する間に、細孔径を十分に拡大できるため好ましい。
また、工程(c)がより高温で行われる場合、アルミニウム基材を電解液中に、浸漬する時間をより短くすることができる。
【0021】
本発明の1つの態様において、工程(c)が、25℃以上35℃未満の電解液中で行われる場合、電解液中に第2の酸として含まれるリン酸の濃度M’(mol/L)と、アルミニウム基材を電解液中に浸漬させたまま保持する時間T’(min)とは、下記式(4)および式(5)を満たすことが好ましい。
1≦T’≦70・・・(4)
−200M’+70≦T’≦−12.5M’+70・・・(5)
上記式(4)、(5)において、T’は電解液温度が25℃以上35℃未満である時の、アルミニウム基材の電解液中での1回当たりのエッチング時間(min)であり、M’は、電解液中のリン酸濃度(mol/L)である。
すなわち、工程(c)が25℃以上35℃未満の電解液中で行われる場合、電解液中に第2の酸として含まれるリン酸の濃度M’を横軸とし、アルミニウム基材のエッチング時間T’を縦軸として作成したグラフに、上記式(4)を満たす2本の直線を引き、この直線で囲まれた範囲内に入るようにリン酸濃度M’、及びエッチング時間T’を調整することにより、効率的に陽極酸化ポーラスアルミナを製造することができる。
後述の工程(d)は、工程(b)および工程(c)を繰り返し実施する工程であるが、陽極酸化ポーラスアルミナの製造時間をより短くし、効率的な生産を行う観点から、エッチング時間T’は70分間以下とされることが好ましい。また、T’を1分間以上とすることで、十分に細孔径を拡大することが可能となる。なお、より効率的に陽極酸化ポーラスアルミナを製造する観点から、T’は45分間以下であることがより好ましい。
すなわち、本発明の1つの態様において、工程(c)が25℃以上35℃未満の電解液中で行われる場合、電解液中に第2の酸として含まれるリン酸の濃度M’(mol/L)と、アルミニウム基材を電解液中に浸漬させたまま保持する時間T’(min)とは、上記式(5)および下記式(6)を満たすことがより好ましい。
1≦T’≦45・・・(6)
また、リン酸の濃度M’とエッチング時間T’とを、式(5)を満たす範囲とすることで、第2の酸の濃度を、エッチング時間T’の間に細孔径を十分に拡大できる範囲に制御しつつ、エッチングが進み過ぎ、細孔形状が乱れてしまうことを防止することができる。
【0022】
更に、本発明のその他の態様において、工程(c)が35℃以上の電解液中で行われる場合、電解液中に第2の酸として含まれるリン酸の濃度M’’(mol/L)と、アルミニウム基材を電解液中に浸漬させたまま保持する時間T’’(min)とは、下記式(7)を満たすことが好ましく、および下記式(7)及び式(8)を満たすことがより好ましい。
T’’≦−20M’’+70・・・(7)
1≦T’’≦45・・・(8)
上記式(7)、(8)において、T’’は工程(c)の電解液温度が35℃以上である時の、アルミニウム基材の電解液中での1回当たりのエッチング時間(min)であり、M’’は、電解液中のリン酸濃度(mol/L)である。
すなわち工程(c)が35℃以上の電解液中で行われる場合、電解液中に第2の酸として含まれるリン酸の濃度M’’を横軸とし、アルミニウム基材のエッチング時間T’’を縦軸として作成したグラフに、上記式(6)を満たす2直線を引き、この直線で囲まれた範囲内に入るようにリン酸濃度M’’、及びエッチング時間T’’を調整することにより、効率的に陽極酸化ポーラスアルミナを製造することができる。
また、リン酸の濃度M’’とエッチング時間T’’とを、式(7)および式(8)を満たす範囲とすることで、電解液中の第2の酸の濃度を、エッチング時間T’’の間に細孔径を十分に拡大できる範囲に制御しつつ、エッチングが進み過ぎ、細孔形状が乱れてしまうことを防止することができる。
また、本発明の1つの態様において、工程(c)が35℃以上の電解液中で行われる場合、電解液中に第2の酸として含まれるリン酸の濃度は、2mol/L以下であることが好ましい。
本発明においては、工程(c)における電解液の温度の上限値は、熱暴走、あるいはヤケを防止する観点から、45℃以下であることが好ましい。
本発明の1つの態様において、第1の酸がシュウ酸であり、第2の酸がリン酸である場合、電解液中のシュウ酸の濃度は、工程(b)、または工程(c)の電解液の温度によらず、0.05mol/L以上1mol/L以下が好ましい。電解液中のシュウ酸の濃度が1mol/L以下であれば、アルミニウム基材に流れる電流値が高くなりすぎて酸化被膜の表面が粗くなるのを防ぐことができるため好ましい。
【0023】
(工程(b))
本発明の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法において、工程(b)は、複数の酸を混合した電解液に浸漬された前記アルミニウム基材に電圧を印加する工程である。すなわち、工程(b)は、複数の酸を混合した電解液中でアルミニウム基材の陽極酸化を行う工程である。
アルミニウム基材の表面の一部または全部を電解液に浸漬して陽極酸化を行うことによって、複数の酸を混合した電解液に浸漬した部分に酸化皮膜を形成することができる。
【0024】
複数の酸を混合した電解液の組成と温度は、陽極酸化時の細孔の深化と、エッチング時の細孔径拡大速度に影響を与える。本発明において、複数の酸を混合した電解液中の第2の酸の濃度を濃くする、もしくは複数の酸を混合した電解液の温度を高くすると、細孔径の拡大速度が速くなり、短時間で細孔を拡大することができる。一方、細孔径の拡大速度が速くなる分、細孔径の大きさを制御することが困難となる。従って、アルミニウム基材の表面に、所望の形状、かつ細孔径を有する細孔を形成させるためには、複数の酸を混合した電解液中の複数の酸の濃度、および複数の酸を混合した電解液の温度を制御することが重要である。
【0025】
工程(b)において、アルミニウム基材に印加する電圧の条件は、30〜180Vが好ましく、40〜180Vがより好ましく、60〜180Vが更に好ましく、70〜180Vが特に好ましく、80〜120Vが最も好ましい。工程(b)において、アルミニウム基材に印加する電圧が、30V以上であれば、細孔の間隔が60nmを超える酸化皮膜を、簡便に形成できるため好ましい。また、アルミニウム基材に印加する電圧が180V以下であれば、電解液を低温に維持する装置や、アルミニウム基材の背面に冷却液を噴射するなどの特殊な手法を用いる必要がなく、簡便な装置で陽極酸化することができるため好ましい。
また、本発明の1つの態様において、工程(b)においてアルミニウム基材に印加する電圧は、20〜120Vであることが好ましい。
【0026】
工程(b)において、アルミニウム基材に印加する電圧は、陽極酸化工程の最初から最後まで一定であってもよく、途中で変化させてもよい。途中で電圧を変化させる場合は、段階的に電圧を上昇させてもよく、連続的に電圧を上昇させてもよい。
また、アルミニウム基材に電圧を印加した直後の電流密度が10mA/cm
2以下となる場合、40V以上の最高電圧を最初から印加してもよい。または、40V未満の電圧で初期の陽極酸化を行い、段階的にまたは連続的に電圧を上昇させ、最終的に電圧を40〜180Vの範囲となるよう調整してもよい。ここで、「最高電圧」とは、工程(b)における電圧の最高値を意味する。
【0027】
また、段階的に電圧を上昇させる場合、一定時間同じ電圧で保持してもよく、一時的に電圧を低下させてもよい。また、電圧の昇圧速度が0.05〜5V/sとなるように経時的に連続して電圧が上昇するようにしてもよい。
電圧を一時的に低下させる場合、一時的に電圧が0Vになってもよいが、陽極酸化の途中で電圧が0Vになると、陽極にかかっていた電場が解消される。そのため、途中で電圧が0Vになった後に電圧を上昇させて再度電場をかけたとき、アルミニウム基材と酸化皮膜が部分的に剥離して、酸化皮膜の厚さが不均一になることがある。よって、途中で電圧が0Vにならないように陽極酸化を行うことが好ましい。
また、任意の電圧から次の電圧へと昇圧する際の昇圧速度は、本発明の効果を有する限り特に制限されず、瞬時に昇圧してもよいし、徐々に昇圧してもよい。ただし、瞬時に電圧を昇圧する場合、アルミニウム基材に流れる電流密度が瞬間的に増大し、ヤケが生じる場合がある。一方、昇圧速度が遅すぎると、電圧を上昇させている間に、酸化皮膜が厚く形成されてしまう場合がある。従って、電圧の昇圧速度は0.05〜5V/sが好ましい。連続的に電圧を上昇させる場合の昇圧速度についても同様である。
【0028】
工程(b)においてアルミニウム基材に電圧を印加して陽極酸化を行う時間は、3〜600秒間が好ましく、30〜120秒間がより好ましい。アルミニウム基材に電圧を印加する時間が、3〜600秒間であれば、アルミニウム基材表面の酸化皮膜の厚さを後述する0.01〜0.8μmに制御しやすいため好ましい。
アルミニウム基材表面の酸化被膜の厚さが0.01μm未満では、細孔の深さも0.01μmに満たないため、陽極酸化ポーラスアルミナとして用いた場合、得られる成形体が十分な反射防止性能を示さないおそれがある。酸化被膜の厚さが0.8μm超では、酸化皮膜が厚くなる分だけ細孔も深くなるため、陽極酸化ポーラスアルミナとして用いた場合、離型不良を起こしやすくなるおそれがある。
【0029】
(工程(c))
本発明の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法において、工程(c)は、前記アルミニウム基材に電圧を実質的に印加せず、前記アルミニウム基材を複数の酸を混合した電解液中に浸漬したまま保持する工程である。本発明においては、工程(b)の後に電圧の印加を中断して、同じ反応槽中で、複数の酸を混合した電解液中にアルミニウム基材を保持することで、酸化被膜に形成されている細孔の孔径を拡大することができる。このように、本発明の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法の一つの態様によれば、1つの反応槽でアルミニウム基材の陽極酸化と、エッチング処理を行うことができるため、陽極酸化工程終了後に、アルミニウム基材を槽から引き揚げて、別の槽に浸漬させてエッチング処理を行うという作業が不要となり、製造工程、及び装置の簡略化が可能である。
本発明においては、アルミニウム基材への電圧の印加を中断した後、複数の酸を混合した電解液中にアルミニウム基材を浸漬させたまま保持する時間を長くするほど、細孔の孔径が大きくなる。なお、本発明においては、「電圧の印加を中断する」、あるいは「実質的に電圧を印加しない」とは、アルミニウム基材に印加する電圧を0Vとすることだけでなく、基材に電流が流れず陽極酸化被膜の形成が進まない程度まで電圧を低下させることを含むものである。
【0030】
工程(c)において、アルミニウム基材を複数の酸を混合した電解液中に浸漬させたまま保持する際の、電解液の温度は、5〜50℃が好ましく、10〜45℃がより好ましい。電解液の温度が5〜50℃であれば、孔径拡大処理の速度を制御することができ、細孔をより簡便にテーパー形状とすることができるため好ましい。また、工程(c)を工程(b)を実施した際の電解液温度と同じ温度で行うことにより、製造工程中の温度管理をより容易にすることができる。
また、工程(c)において、アルミニウム基材を複数の酸を混合した電解液中に浸漬させる時間は、上述の通り、電解液の組成や温度により適宜調整することができる。すなわち、本発明の1つの態様において、工程(c)が10℃以上25℃未満の電解液中で行われる場合、電解液中に第2の酸として含まれるリン酸の濃度M(mol/L)と、アルミニウム基材を電解液中に浸漬する時間T(min)とは、上記式(1)および式(2)とを満たすことが好ましく、式(2)及び式(3)とを満たすことがより好ましい。
また、本発明のその他の態様において、工程(c)が、25℃以上35℃未満の電解液中で行われる場合、電解液中に第2の酸として含まれるリン酸の濃度M’(mol/L)と、アルミニウム基材を電解液中に浸漬する時間T’(min)とは、上記式(4)および式(5)を満たすことが好ましく、上記式(5)および式(6)を満たすことがより好ましい。
また、本発明の別の態様において、工程(c)が35℃以上の電解液中で行われる場合、電解液中に第2の酸として含まれるリン酸の濃度M’’(mol/L)と、アルミニウム基材を電解液中に浸漬する時間T’’(min)とは、上記式(7)および式(8)を満たすことが好ましい。
複数の酸を混合した電解液の温度および電解液中の第2の酸の濃度、および、アルミニウム基材を浸漬する時間を上述の式(1)〜(8)のような範囲とすることにより、生産効率を損なうことなく、効率的に陽極酸化ポーラスアルミナを製造することが可能となる。さらに、ナノホールの孔径拡大処理が過剰に行われて、テーパー形状の細孔が得られない場合や、孔径拡大処理が進まず、細孔がテーパー形状にならないことを回避することが可能となる。
【0031】
(工程(d))
本発明の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法において、工程(d)は、前記工程(b)と前記工程(c)とを交互に繰り返す工程である。
工程(d)を実施する回数、すなわち、前記工程(b)と前記工程(c)の繰り返し回数は、回数が多いほど細孔を滑らかなテーパー形状にすることができる点から、合計で3回以上が好ましく、5回以上がより好ましい。また、工程(b)と工程(c)の繰り返し回数の上限は、生産効率上の観点から、10回以下が好ましい。すなわち、工程(d)の繰り返し回数は、3〜10回が好ましく、5〜10回がより好ましい。
工程(b)と工程(c)の繰り返し回数の合計が2回以下の場合、非連続的に細孔の孔径が減少するため、このような細孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナを用いて反射防止物品(反射防止膜等)を製造した場合、反射率低減効果が不充分となる可能性がある。
工程(d)は、工程(b)で終了してもよく、工程(c)で終了してもよいが、形成される細孔の孔径が連続的に変化するテーパー形状を形成する観点から、工程(c)で終了することが好ましい。細孔がテーパー形状を有することで、屈折率を連続的に増大させることができ、波長による反射率の変動(波長依存性)を抑制し、可視光の散乱を抑制して低反射率にできるという効果が得られるため好ましい。
また、本発明の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法においては、アルミニウム基材の表面に、陽極酸化の細孔発生点となる窪みを形成させる工程を含んでいてもよい。具体的には、工程(a)の前に、前記複数の酸を混合した電解液以外の電解液を用いてアルミニウム基材の表面に陽極酸化被膜を形成する工程(1)と、クロム酸・リン酸混合溶液などを用い、前記工程(1)で形成された陽極酸化皮膜の少なくとも一部を選択的に除去する工程(2)を別途行っても良い。
【0032】
(工程(1))
工程(1)で用いる電解液としては、酸性水溶液またはアルカリ性水溶液が挙げられ、酸性水溶液が好ましい。酸性水溶液としては、無機酸類(硫酸、リン酸等)、有機酸類(シュウ酸、マロン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸等)が挙げられ、硫酸、シュウ酸、リン酸が特に好ましい。また、前記工程(a)〜(d)において用いる電解液と同じであってもよい。
【0033】
シュウ酸を電解液として用いる場合:
工程(1)において、シュウ酸を電解液として用いる場合、シュウ酸の濃度は0.7mol/L以下が好ましい。シュウ酸の濃度が0.7mol/Lを超えると、電流値が高くなりすぎて酸化被膜の表面が粗くなることがある。
工程(1)において、電解液の温度は、60℃以下が好ましく、45℃以下がより好ましい。電解液の温度が60℃を超えると、いわゆる「ヤケ」といわれる現象が起こり、細孔が壊れたり、表面が溶けて細孔の規則性が乱れたりすることがある。
【0034】
硫酸を電解液として用いる場合:
工程(1)において、硫酸を電解液として用いる場合、硫酸の濃度は0.7mol/L以下が好ましい。硫酸の濃度が0.7mol/Lを超えると、電流値が高くなりすぎて定電圧を維持できなくなることがある。
電解液の温度は、30℃以下が好ましく、20℃以下がより好ましい。電解液の温度が30℃を超えると、いわゆる「ヤケ」といわれる現象が起こり、細孔が壊れたり、表面が溶けて細孔の規則性が乱れたりすることがある。
【0035】
工程(1)において、アルミニウム基材に印加する電圧値及び印加時の条件は、前記工程(b)と同じであってもよい。また、酸化皮膜の厚さは電流密度と酸化時間の積である積算電気量に比例するため、形成する酸化皮膜の厚みに応じて、電圧、電流密度、酸化時間を適宜変更すればよい。アルミニウム基材に電圧を印加する時間は、陽極酸化ポーラスアルミナの生産性の観点から5分以上120分以下であることが好ましい。
【0036】
工程(1)において形成される酸化被膜の厚さは、0.5〜10μmが好ましい。酸化被膜の厚さがこの範囲内にあれば、後述の工程(2)において酸化被膜を除去した際に、アルミニウム基材の表面の機械加工の痕は十分に除かれ、かつ結晶粒界の段差が視認できるほど大きくはないため、陽極酸化ポーラスアルミナ由来のマクロな凹凸が成形体本体の表面へ転写するのを回避できる。
工程(1)において形成される酸化被膜の厚さは、工程(1)のアルミニウム基材の陽極酸化にて消費される電気量の合計に比例する。合計の電気量や、電圧ごとに消費される電気量の比を調整することで、酸化被膜の厚み、および初期陽極酸化で形成される酸化被膜の厚みの比を制御することができる。
【0037】
(工程(2))
工程(2)は、工程(1)で形成された酸化被膜の少なくとも一部を除去する酸化被膜除去工程である。工程(2)において、酸化被膜の一部または全部を除去する方法としては、アルミニウムを溶解せず、アルミナ(酸化被膜)を選択的に溶解する溶液に浸漬する方法が挙げられる。このような溶液としては、例えば、クロム酸・リン酸混合溶液等が挙げられる。
【0038】
工程(2)において、前記溶液中にアルミニウム基材を浸漬する時間は、除去する酸化皮膜の厚みやクロム酸・リン酸の濃度に応じて適宜調整すればよいが、陽極酸化ポーラスアルミナの生産性の観点から、15〜300分であることが好ましい。
【0039】
以下、
図1を参考に、上記工程(a)〜(d)を含むことを特徴とする本発明の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法について、詳細に説明する。また、ここでは、上述の工程(1)、(2)を含む場合の製造方法について説明する。
まず、機械加工されたアルミニウム基材10に電圧を印加し、前記アルミニウム基材の表面を陽極酸化して酸化被膜を形成させる(工程(1))。工程(1)の初期に形成される細孔は、規則性が低くランダムに細孔が発生するが、長時間陽極酸化を行うと、細孔が深くなるに従って、徐々に細孔の配列周期の規則性が高くなっていく。これにより、例えば
図1の(A)に示すように、アルミニウム基材10の表面に、規則性が高く配列した複数の細孔12を有する酸化皮膜14を形成することができる。また、工程(1)の後に、細孔がランダムに発生した細孔上部などの陽極酸化皮膜の少なくとも一部、または陽極酸化皮膜を全て除去することで(工程(2))、例えば
図1の(B)に示すように、アルミニウム基材10の表面に、規則性が高く配列した複数の窪み16を有する酸化皮膜14を形成することができる。
複数の窪み16が形成されたアルミニウム基材を用い、上記工程(a)〜(d)を行うことで、窪み16が細孔発生点として作用し、細孔がより規則的に配列した陽極酸化ポーラスアルミナを製造することができる。
次に、複数の窪み16が形成されたアルミニウム基材10を、複数の酸を混合した電解液中に浸漬する(工程(a))。その後、複数の酸を混合した電解液に浸漬されたアルミニウム基材10に電圧を印加して陽極酸化を行うと、
図1の(C)に示すように、アルミニウム基材10が陽極酸化されて、複数の細孔12を有する酸化被膜14が再び形成される(工程(b))。
そして、アルミニウム基材10への電圧の印加を中断し、同じ反応槽中でアルミニウム基材10を、複数の酸を混合した電解液中に保持することで、
図1の(D)に示すように、形成された酸化被膜14の一部が除去されて、細孔12の孔径が拡大する(工程(c))。その後、電圧を印加する工程(b)、及び電圧の印加を中断して、アルミニウム基材10を複数の酸を混合した電解液中に浸漬させたまま保持する工程(c)を交互に繰り返すことによって(工程(d))、
図1の(E)に示すように、細孔12の形状を開口部から深さ方向に対して徐々に孔径が収縮するテーパー形状とすることができる。その結果、周期的な複数の細孔12からなる酸化被膜14がアルミニウム基材10の表面に形成された陽極酸化ポーラスアルミナ18を得ることができる。
【0040】
本発明において、工程(1)、(2)を行った後に、工程(a)〜(d)を行って陽極酸化ポーラスアルミナを製造する場合、工程(b)において、電圧を印加した直後の電流密度を10mA/cm
2以下、より好ましくは5mA/cm
2以下としてもよい。電圧を印加した直後の電流密度を10mA/cm
2以下とする、すなわち、電流の跳ね上がりを抑制することで、陽極酸化ポーラスアルミナ表面の白濁を抑制することができ、得られる陽極酸化ポーラスアルミナの微細凹凸構造を転写した成形体のヘイズが上昇するのをより効果的に抑制できる。これにより、より低い反射率を有する成形体を得ることができる。特に電圧を印加した直後の電流密度を5mA/cm
2以下とすることで、陽極酸化ポーラスアルミナ表面の白濁をさらに抑制でき、成形体のヘイズが上昇するのをさらに抑制できるため好ましい。
なお、本発明において、「電圧を印加した直後」とは、電圧の印加開始から10秒間以内のことを意味する。また、本発明において、電圧の印加開始から10秒間を経過した後の電流密度については特に制限されず、10mA/cm
2以下を維持してもよいし、10mA/cm
2を超えてもよい。ただし、電圧が上昇すると電流密度も高くなる傾向にある。
【0041】
(作用効果)
以上説明した本発明の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法にあっては、陽極酸化工程、及びエッチングの工程(工程(b)〜工程(c))において、複数の酸を混合した電解液中にアルミニウム基材を浸漬して陽極酸化を行い、前記陽極酸化工程で用いられた電解液中にアルミニウム基材を保持した状態で、エッチングを行う。すなわち、1つの反応槽で陽極酸化工程とエッチング工程を行うことにより、テーパー形状の細孔を有するアルマイト(酸化被膜)が形成された陽極酸化ポーラスアルミナを簡便に製造することができる。前記製造方法を用いれば、陽極酸化工程終了後に、アルミニウム基材を槽から引き揚げて、別の槽に浸漬させてエッチングを行うという作業が不要となるため、簡便な装置で、かつ少ない工程数でアルミニウム基材の表面にテーパー形状を有する複数の細孔を形成することが可能となる。
【0042】
(陽極酸化ポーラスアルミナ)
本発明の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法によれば、アルミニウム基材の表面に、開口部から深さ方向に徐々に径が縮小するテーパー形状の細孔が規則的に配列して形成され、その結果、アルミニウム基材の表面に複数の細孔を有する酸化皮膜が形成された陽極酸化ポーラスアルミナを製造することができる。
【0043】
本発明の陽極酸化ポーラスアルミナにおける細孔の間隔は、可視光の波長以下が好ましく、150〜600nmがより好ましい。細孔の間隔が150nm以上であれば、本発明の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法により得られた陽極酸化ポーラスアルミナの表面を転写して得られる成形体(反射防止物品等)の反射防止性能を損なうことなく、耐擦傷性能を向上でき、かつ突起同士の合一に起因する成形体の白化を抑制することができる。細孔の間隔が600nm以下であれば、陽極酸化ポーラスアルミナの表面の転写によって得られた成形体の表面(転写面)において可視光の散乱が起こりにくくなり、十分な反射防止機能が発現するため、反射防止膜等の反射防止物品の製造に適する。
【0044】
また、陽極酸化ポーラスアルミナを反射防止物品(反射防止膜等)の製造に用いる場合、細孔の間隔が600nm以下であるとともに、細孔の深さが100nm以上であることが好ましく、150nm以上であることがより好ましい。細孔の深さが100nm未満の陽極酸化ポーラスアルミナを用いた場合、反射防止物品の反射防止性能が不十分となる可能性があるため好ましくない。細孔の深さの上限としては、500nm以下であることが好ましく、400nm以下であることがより好ましい。細孔の深さが、500nm以下であれば、形成された反射防止物品において、細孔の反転形状を有する突起の機械的強度を保つことができるあるため好ましい。すなわち、陽極酸化ポーラスアルミナを反射防止物品(反射防止膜等)の製造に用いる場合の細孔の深さは、100〜500nmであることが好ましく、150〜400nmであることがより好ましい。
また、陽極酸化ポーラスアルミナの細孔のアスペクト比(細孔の深さ/細孔の間隔)は、0.25以上が好ましく、0.5以上がさらに好ましく、0.75以上が最も好ましい。アスペクト比が0.25以上であれば、反射率が低い表面を形成でき、その入射角依存性も十分に小さくなる。また、陽極酸化ポーラスアルミナの細孔のアスペクト比の上限は、細孔の反転形状を有する突起の機械的強度を保つ観点から、4以下であることが好ましい。
【0045】
複数の細孔を有する酸化皮膜が形成された陽極酸化ポーラスアルミナの表面は、離型が容易になるように、離型処理が施されていてもよい。離型処理の方法としては、例えば、リン酸エステル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、フッ素ポリマー等をコーティングする方法、フッ素化合物を蒸着する方法、フッ素系表面処理剤またはフッ素シリコーン系表面処理剤をコーティングする方法等が挙げられる。
【0046】
<成形体の製造方法>
本発明の、微細凹凸構造を表面に有する成形体の製造方法は、複数の酸を混合した電解液中に、アルミニウム基材を浸漬させる工程(a)と、前記電解液に浸漬された前記アルミニウム基材に電圧を印加する工程(b)と、前記アルミニウム基材に電圧を実質的に印加せず、前記アルミニウム基材を前記電解液中に浸漬したまま保持する工程(c)と、前記工程(b)と、前記工程(c)とを交互に繰り返す工程(d)とを含む方法により陽極酸化ポーラスアルミナを製造し、前記陽極酸化ポーラスアルミナの表面に形成された複数の細孔からなる微細凹凸構造を、成形体本体の表面に転写することを特徴とする。このような陽極酸化ポーラスアルミナの微細凹凸構造(細孔)を転写して製造された成形体は、その表面に陽極酸化ポーラスアルミナの微細凹凸構造の反転構造(突起)が、鍵と鍵穴の関係で転写される。
【0047】
陽極酸化ポーラスアルミナの微細凹凸構造を成形体本体の表面に転写する方法としては、例えば、陽極酸化ポーラスアルミナと透明基材(成形体本体)の間に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(以下、「樹脂組成物」ということもある)を充填し、陽極酸化ポーラスアルミナの微細凹凸構造に樹脂組成物が接触した状態で、活性エネルギー線を照射して樹脂組成物を硬化させた後に陽極酸化ポーラスアルミナを離型する方法が好ましい。これによって、透明基材の表面に、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物から構成される微細凹凸構造を表面に有する成形体を製造できる。得られた成形体の微細凹凸構造は、陽極酸化ポーラスアルミナの微細凹凸構造の反転構造となる。
【0048】
(成形体本体)
透明基材としては、活性エネルギー線の照射を、前記透明基材を介して行うため、活性エネルギー線の照射を著しく阻害しないものが好ましい。透明基材の材料としては、例えば、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、スチレン樹脂、ガラス等が挙げられる。
【0049】
(活性エネルギー線硬化性樹脂組成物)
陽極酸化ポーラスアルミナの微細凹凸構造を成形体本体の表面に転写する方法として、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を用いる方法は、熱硬化性樹脂組成物を用いる方法に比べて加熱や硬化後の冷却を必要としないため、短時間で微細凹凸構造を転写することができ、量産に好適である。
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の充填方法としては、陽極酸化ポーラスアルミナと透明基材の間に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を供給した後に圧延して充填する方法、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布した陽極酸化ポーラスアルミナ上に透明基材をラミネートする方法、あらかじめ透明基材上に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布して陽極酸化ポーラスアルミナにラミネートする方法等が挙げられる。
【0050】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、重合反応性化合物と、活性エネルギー線重合開始剤とを含有する。上記の他に、用途に応じて非反応性のポリマーや活性エネルギー線ゾルゲル反応性成分が含まれていてもよく、増粘剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、溶剤、無機フィラー等の各種添加剤が含まれていてもよい。
【0051】
重合反応性化合物としては、分子中にラジカル重合性結合および/またはカチオン重合性結合を有するモノマー、オリゴマー、反応性ポリマー等が挙げられる。
ラジカル重合性結合を有するモノマーとしては、単官能モノマー、多官能モノマーが挙げられる。
【0052】
ラジカル重合性結合を有する単官能モノマーとしては、(メタ)アクリレート誘導体(メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、s−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート等)、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル、スチレン誘導体(スチレン、α−メチルスチレン等)、(メタ)アクリルアミド誘導体((メタ)アクリルアミド、N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等)等が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
ラジカル重合性結合を有する多官能モノマーとしては、二官能性モノマー(エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌール酸エチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、1,2−ビス(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン、1,4−ビス(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ブタン、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、メチレンビスアクリルアミド等)、三官能モノマー(ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロピレンオキシド変性トリアクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキシド変性トリアクリレート、イソシアヌール酸エチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート等)、四官能以上のモノマー(コハク酸/トリメチロールエタン/アクリル酸の縮合反応混合物、ジペンタエリストールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート等)、二官能以上のウレタンアクリレート、二官能以上のポリエステルアクリレート等が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
カチオン重合性結合を有するモノマーとしては、エポキシ基、オキセタニル基、オキサゾリル基、ビニルオキシ基等を有するモノマーが挙げられ、エポキシ基を有するモノマーが特に好ましい。
【0055】
分子中にラジカル重合性結合および/またはカチオン重合性結合を有するオリゴマーまたは反応性ポリマーとしては、不飽和ジカルボン酸と多価アルコールとの縮合物等の不飽和ポリエステル類;ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、カチオン重合型エポキシ化合物、側鎖にラジカル重合性結合を有する上述のモノマーの単独または共重合ポリマー等が挙げられる。
【0056】
活性エネルギー線重合開始剤としては、公知の重合開始剤を用いることができ、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を硬化させる際に用いる活性エネルギー線の種類に応じて適宜選択することが好ましい。
【0057】
光硬化反応を利用する場合、光重合開始剤としては、カルボニル化合物(ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジル、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、α,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン等)、硫黄化合物(テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等)、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイルジエトキシホスフィンオキサイド等が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
電子線硬化反応を利用する場合、重合開始剤としては、ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、メチルオルソベンゾイルベンゾエート、4−フェニルベンゾフェノン、t−ブチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、チオキサントン(2,4−ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン等)、アセトフェノン(ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン等)、ベンゾインエーテル(ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等)、アシルホスフィンオキサイド(2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド等)、メチルベンゾイルホルメート、1,7−ビスアクリジニルヘプタン、9−フェニルアクリジン等が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物における活性エネルギー線重合開始剤の含有量は、重合性化合物100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましい。活性エネルギー線重合開始剤の含有量が重合性化合物100質量部に対して0.1質量部未満では、重合が進行しにくい。一方、活性エネルギー線重合開始剤の含有量が重合性化合物100質量部に対して10質量部を超えると、硬化樹脂が着色したり、硬化樹脂の機械強度が低下したりすることがある。活性エネルギー線硬化性樹脂組成物における活性エネルギー線重合開始剤の含有量が、重合性化合物100質量部に対して、0.1〜10質量部であれば、重合が進行しやすく、硬化樹脂が着色したり、硬化樹脂の機械強度が低下しないため好ましい。
【0060】
非反応性のポリマーとしては、アクリル樹脂、スチレン系樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエステル樹脂、熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
活性エネルギー線ゾルゲル反応性組成物としては、例えば、アルコキシシラン化合物、アルキルシリケート化合物等が挙げられる。
【0061】
アルコキシシラン化合物としては、例えば、R
xSi(OR’)
yで表されるものが挙げられる。ここで、RおよびR’は炭素数1〜10のアルキル基を表し、xおよびyはx+y=4の関係を満たす整数である。具体的には、テトラメトキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルプロポキシシラン、トリメチルブトキシシラン等が挙げられる。
【0062】
アルキルシリケート化合物としては、例えば、R
1O[Si(OR
3)(OR
4)O]
zR
2で表されるものが挙げられる。ここで、R
1〜R
4はそれぞれ炭素数1〜5のアルキル基を表し、zは3〜20の整数を表す。具体的にはメチルシリケート、エチルシリケート、イソプロピルシリケート、n−プロピルシリケート、n−ブチルシリケート、n−ペンチルシリケート、アセチルシリケート等が挙げられる。
【0063】
(製造装置)
微細凹凸構造を表面に有する成形体は、例えば、
図2に示す製造装置を用いて、下記のようにして製造される。
微細凹凸構造(図示略)を表面に有するロール状モールド20と、ロール状モールド20の表面に沿って移動する帯状のフィルム42(透明基材)との間に、タンク22から活性エネルギー線硬化性樹脂組成物38を供給する。
【0064】
ロール状モールド20と、空気圧シリンダ24によってニップ圧が調整されたニップロール26との間で、フィルム42および活性エネルギー線硬化性樹脂組成物38をニップし、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物38を、フィルム42とロール状モールド20との間に均一に行き渡らせると同時に、ロール状モールド20の微細凹凸構造の凹部内に充填する。
【0065】
ロール状モールド20の下方に設置された活性エネルギー線照射装置28から、フィルム42を通して活性エネルギー線硬化性樹脂組成物38に活性エネルギー線を照射し、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物38を硬化させることによって、ロール状モールド20の表面の微細凹凸構造が転写された硬化樹脂層44を形成する。
剥離ロール30により、表面に硬化樹脂層44が形成されたフィルム42をロール状モールド20から剥離することによって、
図3に示すような成形体40を得る。
【0066】
活性エネルギー線照射装置28としては、例えば、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等が挙げられる。
活性エネルギー線の照射量は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化が進行するエネルギー量であればよく、通常、100〜10000mJ/cm
2程度である。
【0067】
以上説明した本発明の微細凹凸構造を表面に有する成形体の製造方法にあっては、本発明の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法で得られた陽極酸化ポーラスアルミナを用いることによって、この陽極酸化ポーラスアルミナの微細凹凸構造の反転構造を表面に有する成形体を一工程で簡便に製造することができる。
また、上述したように本発明の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法によれば、アルミニウム基材の陽極酸化工程とエッチング工程を1つの反応槽で行うため、アルミニウム基材を槽から引き揚げて、別の槽に浸漬させてエッチングを行うという作業が不要となり、簡便な装置で、かつ少ない工程数でアルミニウム基材の表面にテーパー形状を有する複数の細孔を形成することできる。したがって、本発明の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法で得られた陽極酸化ポーラスアルミナを用いることによって、簡便に、かつ少ない工程数で、表面にテーパー形状の細孔を有する成形体を製造することができる。
【0068】
(成形体)
このようにして製造された成形体40は、
図3に示すように、フィルム42(透明基材)の表面に硬化樹脂層44が形成されたものである。
硬化樹脂層44は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物からなる膜であり、表面に微細凹凸構造を有する。
本発明により得られた陽極酸化ポーラスアルミナを用いた場合の成形体40の表面の微細凹凸構造は、酸化皮膜の表面の複数の細孔を転写して形成されたものであり、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物からなる複数の突起46を有する。
【0069】
微細凹凸構造としては、略円錐形状、角錐形状等の突起(凸部)が複数並んだ、いわゆるモスアイ構造が好ましい。突起間の間隔が可視光の波長以下であるモスアイ構造は、空気の屈折率から材料の屈折率へと連続的に屈折率が増大していくことで有効な反射防止の手段となることが知られている。
【0070】
(用途)
本発明により得られた、微細凹凸構造を表面に有する成形体は、表面の微細凹凸構造によって、反射防止性能、撥水性能等の種々の性能を発揮する。
微細凹凸構造を表面に有する成形体がシート状またはフィルム状の場合には、反射防止膜として、例えば、画像表示装置(テレビ、携帯電話のディスプレイ等)、展示パネル、メーターパネル等の対象物の表面に貼り付けたり、インサート成形したりして用いることができる。また、撥水性能を活かして、風呂場の窓や鏡、太陽電池部材、自動車のミラー、看板、メガネのレンズ等、雨、水、蒸気等に曝されるおそれのある対象物の部材としても用いることができる。
微細凹凸構造を表面に有する成形体が立体形状の場合には、用途に応じた形状の透明基材を用いて反射防止物品を製造しておき、これを上記対象物の表面を構成する部材として用いることもできる。
【0071】
また、対象物が画像表示装置である場合には、その表面に限らず、その前面板に対して、微細凹凸構造を表面に有する成形体を貼り付けてもよいし、前面板そのものを、微細凹凸構造を表面に有する成形体から構成することもできる。例えば、イメージを読み取るセンサーアレイに取り付けられたロッドレンズアレイの表面、FAX、複写機、スキャナ等のイメージセンサーのカバーガラス、複写機の原稿を置くコンタクトガラス等に、微細凹凸構造を表面に有する成形体を用いても構わない。また、可視光通信等の光通信機器の光受光部分等に、微細凹凸構造を表面に有する成形体を用いることによって、信号の受信感度を向上させることもできる。
また、微細凹凸構造を表面に有する成形体は、上述した用途以外にも、光導波路、レリーフホログラム、光学レンズ、偏光分離素子等の光学用途や、細胞培養シートとしての用途に展開できる。
【0072】
なお、微細凹凸構造を表面に有する成形体は、図示例の成形体40に限定はされない。例えば、微細凹凸構造は、硬化樹脂層44を設けることなく、熱インプリント法によってフィルム42の表面に直接形成されていてもよい。ただし、ロール状モールド20を用いて効率よく微細凹凸構造を形成できる点から、硬化樹脂層44の表面に微細凹凸構造が形成されていることが好ましい。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
各種測定、評価は、以下の方法にて行った。
【0074】
(陽極酸化ポーラスアルミナの細孔の測定)
酸化皮膜が表面に形成された陽極酸化ポーラスアルミナの一部を切り取って、表面に白金を1分間蒸着し、電解放出型走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製、「JSM−6701F」)を用いて、加速電圧3.00kVで1万倍に拡大して観察した。細孔の間隔(ピッチ)は一直線上に並んだ6個の細孔の中心間距離を平均して求めた。
また、陽極酸化ポーラスアルミナの一部を異なる2箇所から切り取って、その縦断面に白金を1分間蒸着し、同じく電解放出型走査電子顕微鏡を用いて加速電圧3.00kVで観察した。各断面サンプルを5万倍に拡大して観察し、観察範囲で任意の10個の細孔の深さを測定し、平均した。この測定を2点で行い、各観察点の平均値をさらに平均して細孔の平均深さを求めた。
【0075】
(テーパー形状を有する細孔の判定)
陽極酸化ポーラスアルミナの一部を異なる2箇所から切り取って、その縦断面に白金を1分間蒸着し、同じく電解放出型走査電子顕微鏡を用いて加速電圧3.00kVで観察した。各断面サンプルを5万倍に拡大して観察し、観察範囲で細孔の開口部と底部を測定し、以下に示す判定基準に従って評価した。
底部<開口部 :A
底部<開口部(形状に乱れあり):B
底部=開口部 :C
ここで、細孔の底部とは、細孔の最底部から、10nm上の位置のことを指す。また、細孔の開口部とは、細孔の最上部から底部の方向に10nmの位置のことを指す。
【0076】
(成形体の突起の測定)
成形体(フィルム)の表面および縦断面に白金を10分間蒸着し、電解放出型走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製、「JSM−6701F」)を用いて、加速電圧3.00kVの条件で成形体の表面および断面を観察した。
成形体の表面を1万倍に拡大して観察し、一直線上に並んだ6個の突起(凸部)の中心間距離を平均して突起の平均間隔(ピッチ)を求めた。また、成形体の断面を5万倍で観察し、任意の10本の突起の高さを平均して突起の平均高さを求めた。
【0077】
<実施例1>
(陽極酸化ポーラスアルミナの製造)
純度99.9質量%、厚さ0.4mmのアルミニウム板を50mm×50mmの大きさに切断し表面を切削加工して鏡面化し、これをアルミニウム基材として用いた。
次に、0.3Mのシュウ酸水溶液を15.7℃に温度調整し、これに前記アルミニウム基材を浸漬して、40Vで6時間陽極酸化することで、細孔を有する酸化皮膜を形成した。酸化皮膜が形成されたアルミニウム基材を、6質量%のリン酸と1.8質量%のクロム酸を混合した70℃の水溶液中に12時間以上浸漬して酸化皮膜を溶解除去し、陽極酸化の細孔発生点となる窪みを露出させた。
【0078】
工程(a):
次に、0.3Mのシュウ酸水溶液と0.1Mのリン酸水溶液を混合した電解液を15.5℃に温度調整し、これに前記アルミニウム基材を浸漬させた。
【0079】
工程(b)
前記アルミニウム基材を40Vで60秒間陽極酸化することで、アルミニウム基材の表面に細孔を有する酸化皮膜を形成した。
【0080】
工程(c):
表面に酸化被膜が形成されたアルミニウム基材への電圧の印加を中断し、同じ反応槽中で、15.5℃に温調された電解液中に60分間浸漬させて酸化皮膜を溶解除去し、陽極酸化の細孔発生点となる窪みを露出させた。
【0081】
工程(d):
工程(c)の後、細孔発生点を露出させたアルミニウム基材に再び電圧を印加し、15.5℃に温調された電解液中、40Vで120秒間陽極酸化して、酸化皮膜をアルミニウム基材の表面に再び形成した。
その後、表面に酸化被膜が形成されたアルミニウム基材への電圧の印加を中断し、同じ反応槽中で、15.5℃に温調された前記電解液中に60分間浸漬させて、酸化被膜の孔径を拡大する孔径拡大処理を施した。
工程(b)と工程(c)をさらに交互に4回繰り返し、最後に工程(c)を行った。すなわち、工程(b)と工程(c)を合計で5回行った。
【0082】
その後、脱イオン水で洗浄し、さらに表面の水分をエアーブローで除去し、略円錐形状、即ちテーパー形状の細孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナを得た。得られた細孔の間隔は100nmであり、細孔の平均深さは約200nmであった。
【0083】
(成形体の製造)
離型処理を施した陽極酸化ポーラスアルミナと、透明基材である厚さ80μmのTACフィルム(トリアセチルセルロースフィルム)(富士フイルム株式会社製、商品名:TD80ULM)との間に、下記の組成の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を充填して、フュージョンランプで積算光量1000mJ/cm
2の紫外線を照射することによって、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を硬化させた。その後、陽極酸化ポーラスアルミナを剥離し、透明基材と樹脂組成物の硬化物からなる成形体(フィルム)を得た。
このようにして製造した成形体の表面には微細凹凸構造が形成されており、突起の平均間隔(ピッチ)は100nm、突起の平均高さは約200nmであった。
【0084】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の組成:
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(新中村化学社製):25質量部
ペンタエリスリトールトリアクリレート(第一工業製薬社製):25質量部
エチレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬社製):25質量部
ポリエチレングリコールジアクリレート(東亜合成社製):25質量部
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASF社製):1質量部
ビス(2,4,6‐トリメチルベンゾイル)‐フェニルホスフィンオキサイド(BASF社製):0.5質量
ポリオキシエチレンアルキル(C12‐15)エーテルリン酸(日本ケミカルズ社製):0.1質量部
【0085】
<実施例2〜23、比較例1>
工程(a)〜(d)で用いた、複数の酸を混合した電解液の組成、温度、陽極酸化時の電圧、及びエッチング時間を表1〜3に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム基材への陽極酸化、エッチングを行い、陽極酸化ポーラスアルミナと成型品を得た。評価結果を表1〜3に示す。
なお、実施例2〜6、及び20は、工程(c)を10℃以上25℃未満の電解液中で行った場合の実施例である。また、実施例7〜13、17〜19、21及び23は、工程(c)を25℃以上35℃未満の電解液中で行った場合の実施例である。また、実施例14〜16、及び22は、工程(c)を35℃以上の電解液中で行った場合の実施例である。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】
【0089】
表1〜3から明らかなように、工程(b)〜工程(c)において、1つの反応槽で、第1の酸と第2の酸を混合した電解液を用いて陽極酸化工程とエッチング工程を行うことで、簡便、かつ少ない工程数でテーパー形状の細孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナを製造することが出来た。また、このようなテーパー形状の細孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナを製造するためには、第1の酸としてシュウ酸を使用し、第2の酸としてリン酸を使用し、更にこれらシュウ酸とリン酸を適切な濃度で組み合わせて用いることが好ましいことが分かった。各実施例で得られた陽極酸化ポーラスアルミナからは、ヘイズの低い成形体(フィルム)を製造できた。
【0090】
比較例1では、電解液に第2の酸が含まれていないため、エッチングによる孔径の拡大が全く進まず、テーパー形状を有する細孔が得られなかった。
また、実施例20では、電解液に第2の酸は含まれ、工程(c)の電解液の温度が10℃以下25℃未満であるが、リン酸の濃度とエッチング時間との関係が、式(2)を満たさないことから、実施例1〜6と比較して細孔径の拡大が十分に進まなかった。
また、実施例21、23では、電解液に第2の酸が含まれ、工程(c)の電解液の温度が25℃以上35度未満であるが、リン酸の濃度とエッチング時間との関係が、式(4)を満たさないことから、実施例7〜13、及び17〜19と比較して、細孔径の拡大が十分に進まなかった。
また、実施例23では、電解液に第2の酸が含まれ、工程(c)の電解液の温度が35度以上であるが、リン酸の濃度とエッチング時間との関係が、式(6)を満たさないことから、細孔径の拡張が進み過ぎ、実施例14〜16と比較して細孔径の形状に乱れがみられた。