(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記未硬化材料供給工程は、前記低結晶化面が現れるように前記結晶性樹脂成形品を射出成形型に入れ、前記未硬化材料を射出圧入し、前記低結晶化面に配する未硬化材料射出工程を含む、請求項3に記載の複合成形品の製造方法。
前記低結晶化面形成工程は、繊維状無機充填剤を含有する結晶性樹脂成形品の表面の少なくとも一部にレーザを照射し、前記繊維状無機充填剤が側面より突出して露出された溝を有する前記レーザ被照射面を形成する工程である、請求項5に記載の複合成形品の製造方法。
【背景技術】
【0002】
結晶性樹脂成形品は、一般に優れた機械的強度、耐熱性、耐薬品性、電気特性等の物性を有するため、自動車用部品、電子・電子部品、化学機器等の部品の原料として幅広く使用されている。
【0003】
そして、部品によっては、複雑な形状を有すること等から、複数の樹脂成形品を接合し、複合成形品を得る場合がある。複数の樹脂成形品を接合する手法として、接着剤による接合、ボルト等による機械的接合等が知られている。
【0004】
しかしながら、接着剤を用いて接合する場合、接着剤のコストがかかることのほか、十分な接着強度が得られない等の課題がある。また、ボルト等を用いて接合する場合、コスト面のほか、締結の手間、重量増等が課題となる。
【0005】
接着剤による接合、ボルト等による機械的接合のほか、複数の樹脂成形品を接合する手法として、射出溶着(二重成形法等)、レーザ溶着、熱板溶着、振動溶着、超音波溶着等も考えられる。溶着であれば、複数の樹脂成形品を短時間で接合でき、また、接着剤や金属部品を使用しないので、それにかかるコストや重量増、環境汚染等の問題が生じない。上記の溶着方法の中でも、特に二重成形法等の射出溶着は、二次成形品の成形時に併せて一次成形品と接合させることができるため生産性が高い。しかしながら、対象が結晶性樹脂である場合、二重成形では充分な密着強度が得られないという課題がある。
【0006】
結晶性樹脂の二重成形において密着強度を改善するため、以前より低温の金型で成形した低結晶性一次成形品を金型に配置し、金型内に溶融状態の熱可塑性樹脂組成物を射出することで、第一接合部と第二接合部とで接合された樹脂複合成形品を製造する方法が行われている。この方法の改良として、一次成形品の成形に於いて、キャビティ表面の一部に断熱層が形成された断熱金型を用い、金型温度が一次成形品を構成する結晶性樹脂の冷結晶化温度(Tc1)−10℃以下の条件で製造され、断熱層は、キャビティ表面における、第一接合部を形成する予定の領域である接合予定面と接する部分以外の略全面に形成される(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、低温の金型で成形する場合、一次成形品全体の結晶性を下げてしまうため、一次成形品と二次成形品とを部分的に複合化する場合、露出する一次成形品の表面が荒れたり、寸法変化が大きくなるという不具合を生じ得る。また、この不具合を改善するため、断熱層が形成された金型を使用する場合、特殊な金型が必要であり、その分コスト高となる。
【0009】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、高い密着強度を有し、かつ、一次成形品の表面の荒れ、寸法変化といった品質の劣化を抑えた複合成形品を高い生産性で得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記のような課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、結晶性樹脂成形品の表面の少なくとも一部にレーザを照射し、レーザ被照射面に未硬化材料を配し、そのレーザ被照射面に向けて応力を加え、その後、未硬化材料を硬化することで、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0011】
(1)本発明は、結晶性樹脂成形品の一部に低結晶化面を有する結晶性樹脂成形品と、前記低結晶化面で隣接する他の成形品とを備える複合成形品である。
【0012】
(2)また、本発明は、前記結晶性樹脂成形品がポリアリーレンスルフィド樹脂成形品である、(1)に記載の複合成形品である。
【0013】
(3)また、本発明は、前記結晶性樹脂成形品が繊維状無機充填剤を含有し、該繊維状無機充填剤が側面より突出して露出された溝を有する、(1)又は(2)に記載の複合成形品である。
【0014】
(4)また、本発明は、前記低結晶化面が、レーザが照射されたレーザ被照射面である、(1)から(3)のいずれかに記載の複合成形品である。
【0015】
(5)また、本発明は、結晶性樹脂成形品から結晶性樹脂の一部低結晶化を行い、低結晶化面を形成する低結晶化工程と、前記低結晶化面に未硬化材料を配し、前記被除去面に向けて応力を加える未硬化材料供給工程と、前記未硬化材料を硬化する硬化工程とを含む、複合成形品の製造方法である。
【0016】
(6)また、本発明は、前記未硬化材料供給工程が、前記低結晶化面が現れるように前記結晶性樹脂成形品を射出成形型に入れ、前記未硬化材料を射出圧入し、前記低結晶化面に配する未硬化材料射出工程を含む、(5)に記載の複合成形品の製造方法である。
【0017】
(7)また、本発明は、前記結晶性樹脂の一部低結晶化がレーザの照射により行われる、(5)又は(6)に記載の複合成形品の製造方法である。
【0018】
(8)また、本発明は、前記結晶性樹脂低結晶化工程が、繊維状無機充填剤を含有する結晶性樹脂成形品の表面の少なくとも一部にレーザを照射し、前記繊維状無機充填剤が側面より突出して露出された溝を有する前記レーザ被照射面を形成する工程である、(7)に記載の複合成形品の製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、高い密着強度を有し、かつ、一次成形品の表面の荒れ、寸法変化といった品質の劣化を抑えた複合成形品を高い生産性で得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0022】
<複合成形品1>
図1は本発明の複合成形品1の概略説明図である。複合成形品1は、結晶性樹脂成形品の一部に低結晶化面10aを有する結晶性樹脂成形品10と、低結晶化面10aで隣接する他の成形品20とを備える。
【0023】
〔結晶性樹脂成形品10〕
結晶性樹脂成形品10は、結晶性樹脂成形品の一部に低結晶化面10aを有する。一時的な低結晶化面の形成は、赤外線加熱や熱板接触により成し得るが、加熱を止めると結晶化が進行し、低結晶化面とはなりにくい。溶融樹脂をガラス転移温度以下で冷却、もしくは急冷できる環境において、低結晶化面を得ることが出来る。
【0024】
図2は、低結晶化面10aの好適な一例を示す概略拡大断面模式図である。必須ではないが、密着強度をよりいっそう高めるため、結晶性樹脂成形品10は、繊維状無機充填剤11などを含有しても構わない。また、結晶性樹脂成形品10が繊維状無機充填剤11を含有し、レーザの一部照射により得られる低結晶化面10aに、繊維状無機充填剤11が側面より突出し露出された溝12が形成された場合、大きなアンカー効果が得られることから好ましい。
【0025】
[結晶性樹脂]
結晶性樹脂の種類は、レーザの照射により一部が溶融し冷却され低結晶性となるものであれば、特に限定されるものではない。結晶性樹脂の好適な材質として、例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ナイロン(PA)、ポリアセタール(POM)樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂等が挙げられる。また、結晶性を有する範囲に於いて他の材料が配合または共重合されていても構わない。特に、ポリフェニレンスルフィド樹脂等のポリアリーレンスルフィド樹脂を用いた場合、本発明によれば、ポリフェニレンスルフィド樹脂等においては、室温でレーザ照射しても低結晶化面を容易に形成することが可能であり、樹脂成形体間の接合強度を容易に高めたりすることができる。
【0026】
レーザの照射により結晶性樹脂成形品の一部を加熱し冷却することで低結晶化するにあたり、レーザの吸収を調整する手法として、樹脂にレーザを吸収する配合剤の種類や添加量を調整することが挙げられる。このような配合剤としては、顔料や染料といったものが用いられ、カーボンブラックが効果的である。
【0027】
[繊維状無機充填剤11]
必須ではないが、密着強度をよりいっそう高めるため、結晶性樹脂成形品10は、繊維状無機充填剤11を含有することが好ましい。繊維状無機充填剤11は、結晶性樹脂成形品10の樹脂の一部を除去することにより溝12を形成する際に、繊維状無機充填剤11が結晶性樹脂成形品10に形成される溝において溝の側面より突出し露出されるものであれば、特に限定されない。
【0028】
繊維状無機充填剤11として、ガラス繊維、炭素繊維、ウィスカー繊維、等を挙げることができ、単独もしくは混合して用いることが出来る。繊維状であれば、繊維状無機充填剤11が複合成形品1から脱落することを防止し、繊維状無機充填剤11が結晶性樹脂成形品10及び他の成形品20の分離を抑えるアンカーの役割を果たす。中でもガラス繊維が本願発明においては好適に用いられる。
【0029】
また、繊維状以外のガラスフレーク、マイカ、タルク、ガラスビーズなどの無機充填剤やその他の添加剤や改質剤などが、本発明の効果の発現を妨げない程度に配合されていても構わない。
【0030】
溝12で露出する無機充填剤11が結晶性樹脂成形品10及び他の成形品20の破壊を抑えるアンカーの役割を果たすにあたり、溝12においては、樹脂の一部が除去されることにより形成される凹凸の山13どうしを繊維状無機充填剤11が好適に架けていることが好ましい。
【0031】
繊維状無機充填剤11の含有量は特に限定されるものでないが、樹脂100重量部に対して5重量部以上80重量部以下であることが好ましい。5重量部未満であると、繊維状無機充填剤11が溝12で露出したとしても、この繊維状無機充填剤11が結晶性樹脂成形品10及び他の成形品20の破壊を抑えるアンカーの役割を十分に果たせない可能性がある。80重量部を超えると、繊維状無機充填剤11と溝12に配された他の成形品との係止効果が十分に発揮できない場合がある点で好ましくない。
【0032】
繊維状無機充填剤11を含有する樹脂材料の市販品として、ガラス繊維入りPPS(製品名:ジュラファイドPPS 1140A1,ポリプラスチックス社製)、ガラス繊維入りPPS(製品名:ジュラファイドPPS 1140A7,ポリプラスチックス社製)、ガラス繊維・無機フィラー入りPPS(製品名:ジュラファイドPPS 6165A7,ポリプラスチックス社製)、ガラス繊維入りPBT(製品名:ジュラネックス 3300、ポリプラスチックス社製)等を挙げることができる。
【0033】
[溝12]
必須の態様ではないが、結晶性樹脂成形品10の表面に溝12が形成されていることが好ましい。結晶性樹脂成形品10が繊維状無機充填剤11を含有する場合、溝12では、繊維状無機充填剤11が露出されていることが好ましい。溝の側面から露出される繊維状無機充填剤は、溝他の溝の側面もしくは溝の底と橋渡し状に存在することで高いアンカー効果を得ることが出来る。一方、このような橋渡し状の無機充填剤が増えた場合、無機充填剤によるレーザの遮蔽効果が高まり、深い溝の形成が困難になる。その場合、樹脂の一部除去により溝12を形成するとともに溝の少なくとも表面側において側面から露出し溝に照射されるレーザを一部遮蔽する繊維状無機充填剤の一部を除去することにより、溝12の側面12aから繊維状無機充填剤11を溝側面より突出した状態で露出させることができる。繊維状無機充填剤11の少なくとも一部を除去することで、溝12に露出する繊維状無機充填剤によるレーザの遮蔽効果が減ることで、溝の深くまでレーザが効果的に照射出来るため、溝をより深くすることができ、これにより、他の樹脂成形品と複合成形したときのアンカー効果を高めることができる。また、他の成形品と一体化して複合成形品を得る際、少なくとも表面側において露出する繊維状充填剤の端部を突出する状態で一部を除去しとりわけ溝の中央部の繊維状無機充填剤を除去することで、流動状態にある他の成形品の溝への入り込みを容易にし、溝が深くとも高いアンカー効果を得ることができる。
【0034】
ところで、本発明は、結晶性樹脂の一部に低結晶化が行われた低結晶化面10aを接触面として他の成形品20と一体化して複合成形品1を製造するところ、この複合成形品1において繊維状無機充填剤11は露出されていない。本明細書では、複合成形品1において繊維状無機充填剤11が露出していない場合であっても、複合成形品1から他の成形品20を取り除いた態様において溝12から繊維状無機充填剤11が露出していれば、「溝12において繊維状無機充填剤11が露出されている」ものとする。
【0035】
他の樹脂成形品と複合成形したときに溝12の側面から無機充填剤が突出して露出することで十分なアンカー効果がより効果的に得られる点で、溝12の長手方向は、繊維状無機充填剤11の長手方向とは異なることが好ましい。
【0036】
樹脂成形品10の表面に形成される溝12は、複数の溝12を設けることにより、アンカーの効果がより高まる。溝12を複数形成する際、これら複数の溝12は、各々の溝が個別に形成されたものであってもよいし、一筆書きの要領で複数の凹凸からなる溝が一度に形成されたものであってもよい。
【0037】
複数の溝12は両端が繋がった溝12を等高線のように並べて設けても良いし、交差しない縞状に形成されても、溝12が交差する格子状に形成されてもよい。溝12を格子状に形成する場合は、溝12の長手方向が繊維状無機充填剤の長手方向とは異なる斜格子状に形成することが好ましい。また、溝12を格子状に形成する場合、溝12の形状はひし形状であっても良い。
【0038】
溝12の長さは特に限定されるものでなく、溝12が短い場合、開口部の形状は四角形であってもよいし、丸形や楕円形であってもよい。アンカー効果を得るためには、溝12は長い方が好ましい。
【0039】
また、溝12の深さDについても特に限定されるものではないが、より高いアンカー効果を得られる点で、溝12の深さは深い方が好ましく、深さDが浅いと、溝12で他の成形品20と接合して複合成形品1を形成する際に、溝12に露出する繊維状無機充填剤11と他の成形品20との間に十分なアンカー効果を生じないことから、結晶性樹脂成形品10と他の成形品20とを強固に密接できないことがある。
【0040】
〔他の成形品20〕
図1に戻り、他の成形品20について説明する。他の成形品20は、未硬化状態の場合に、低結晶化面を有する結晶性樹脂成形品と接合可能な材料であれば特に限定されるものでなく、熱可塑性樹脂、硬化性樹脂(熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、放射線硬化性樹脂等)、ゴム、接着剤、金属等のいずれであってもよい。中でも、射出成形による複合一体化が容易である点で、他の成形品20は、同じ結晶性樹脂成形品であることが好ましく、結晶性樹脂成形品がポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の場合、同じくポリアリーレンスルフィド樹脂成形品であることがより好ましい。
【0041】
<複合成形品1の製造方法>
本発明に係る複合成形品1の製造方法は、結晶性樹脂成形品10から結晶性樹脂成形品の一部に低結晶化を行い、低結晶化面10aを形成する低結晶化工程と、低結晶化面10aに未硬化材料を配し、低結晶化面10aに向けて応力を加える未硬化材料供給工程と、未硬化材料を硬化する硬化工程とを含む。
【0042】
図3は、多重成形によって複合成形品1を得るときの概略説明図である。まず、
図3の(1)に示すように、1次樹脂に相当する結晶性樹脂を1次成形し、予備体10’を作製する。続いて、
図3の(2)に示すように、予備体10’の表面の少なくとも一部に対し、低結晶化を行い、低結晶化面10aを形成する。これによって、結晶性樹脂成形品10が作製される。
【0043】
続いて、
図3の(3)に示すように、結晶性樹脂成形品10を金型(図示せず)に入れ、この金型の内部に、低結晶化面10aを接触面として、未硬化材料(他の成形品20を構成する材料の未硬化物であり、結晶性樹脂成形品と接合可能な2次樹脂のほか、ゴム、接着剤、金属等が挙げられる。)を封入する。そして、未硬化材料を硬化する。
図3の(2)が上記低結晶化工程に相当し、
図3の(3)が上記未硬化材料供給工程及び上記硬化工程に相当する。
【0044】
〔低結晶化工程〕
低結晶化工程は、結晶性樹脂成形品10の予備体10’から結晶性樹脂成形品の一部に低結晶化を行い、低結晶化面10aを形成する工程である。低結晶化面10aを形成する手法は特に限定されるものでないが、例えば、予備体10’にレーザの照射を行い、結晶性樹脂を部分的に溶融し冷却することが挙げられる。なお、この手法は一例であり、予備隊10’の表面を炎であぶるフレーミング処理や、熱で溶かす熱板処理、IR加熱処理等、レーザ以外の樹脂の表面加熱手段を用いてもよい。ただし、フレーミング処理、熱板処理、IR加熱処理等は、レーザのような狭い範囲に瞬間的で短時間の加熱が困難なため冷却に工夫が必要となるが、、このような特別な工夫を要しない点で、レーザ照射による結晶性樹脂の低結晶化が好ましい。レーザ照射による低結晶化は、レーザ照射を予め冷却した成形品に行なう、冷媒中で行うなどの簡便な方法で冷却することが出来る。
【0045】
また、予備体10’が繊維状無機充填剤11を含有する場合、密着強度をよりいっそう高めるため、予備体10’から結晶性樹脂の一部除去を行い、繊維状無機充填剤11が側面より突出して露出された溝12を形成し、溝付きの結晶性樹脂成形品10を得ることが好ましい。
【0046】
レーザの照射は、照射対象材料の種類や組成、レーザ装置の出力等をもとに設定される。
【0047】
〔未硬化材料供給工程〕
未硬化材料供給工程は、未硬化材料を低結晶化面10aに配し、低結晶化面10aに向けて応力を加える工程である。未硬化材料を供給する手法は特に限定されるものでないが、一次成形品の低結晶化面10aの低結晶性樹脂部を射出注入された高温の未硬化材料との接触による熱伝達により溶融し、未硬化材料と高い圧力で接合することが出来る点で、射出成形による多重成形法を用いることが好ましい。
【0048】
多重成形の例として、低結晶化面10aが現れるように結晶性樹脂成形品10を射出成形型に入れ、未硬化材料を射出圧入する未硬化材料射出工程が挙げられる。
【0049】
射出圧は、未硬化材料が低結晶化面10a(好ましくは溝12a)に入り込み、接合効果を発揮できるだけの射出圧及び充填後の保圧であることが好ましい。結晶性樹脂成形品10が繊維状無機充填剤11を含有する場合、射出圧は、未硬化材料が低結晶化面10a(好ましくは溝12a)に入り込み、溝12aの側面より突出して露出された繊維状無機充填剤を囲んで、繊維状無機充填剤とのアンカー効果を発揮できるだけの射出圧及び充填後の保圧であることが好ましい。
【0050】
射出速度は、射出圧入の際に、低結晶化面10a(好ましくは溝12a)に未硬化材料が入り込むことのできる速度であることが好ましい。
【0051】
〔硬化工程〕
硬化工程は、未硬化材料供給工程で供給した未硬化材料を硬化する工程である。これら低結晶化工程、未硬化材料供給工程及び硬化工程を経ることで、多重成形による硬化性樹脂との複合成形品1が得られる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0053】
【表1】
【0054】
表1において、結晶性樹脂は次のとおりである。
繊維なし:ガラス繊維なしポリフェニレンスルフィド樹脂(製品名:ジュラファイド(登録商標)PPS 0220A9,ポリプラスチックス社製)
繊維あり:ガラス繊維ありポリフェニレンスルフィド樹脂(製品名:ジュラファイド(登録商標)PPS 1140A1,ポリプラスチックス社製)
【0055】
〔結晶性樹脂成形品〕
表1に記載の結晶性樹脂を下記(ジュラファイドにおける射出成形の条件)に記載の条件で射出成形した射出成形品に、表1の「樹脂の除去」に記載の条件で、射出成形品の表面に対してレーザを照射した。レーザの発振波長は1.064μm、最大定格出力は13W(平均)とし、出力は90%、周波数は40kHz、走査速度は1000mm/sとした。これにより、実施例及び比較例に係る結晶性樹脂成形品を得た。結晶性樹脂成形品は、63.5mm長さ、12.7mm幅、6.4mm厚みであった。
(ジュラファイドにおける射出成形の条件)
予備乾燥:140℃、3時間
シリンダ温度:250℃
金型温度:60℃
射出速度:20mm/sec
保圧:80MPa(800kg/cm
2)
【0056】
〔複合成形品の製造〕
上記結晶性樹脂成形品について、レーザの照射によって形成された被除去面を接触面として射出成形用金型にインサートし、実施例及び比較例の各々で使用した樹脂材料と同じ樹脂材料を上記(ジュラファイドにおける射出成形の条件)に記載の条件で射出成形した。これにより、結晶性樹脂の一部除去が施された結晶性樹脂成形品と他の成形品との複合成形品を得た。他の成形品は、63.5mm長さ、12.7mm幅、6.4mm厚みであった。また、複合成形品は、127mm長さ、12.7mm幅、6.4mm厚みであった。
【0057】
〔評価〕
[結晶性樹脂成形品の拡大観察]
実施例2〜4に係る結晶性樹脂成形品について、結晶性樹脂の一部にレーザ照射されたレーザ被照射面を電子顕微鏡(SEM)で拡大観察した。倍率は20倍、100倍の2種類とした。結果を
図4に示す。
【0058】
[接合強度]
接合強度を評価するため、実施例及び比較例に係る複合成形品について破壊荷重を測定した。本発明において、破壊荷重の測定は、次のようにして行うものとする。測定機器としてテンシロンUTA−50kN(オリエンテック社製)を使用し、クロスヘッド速度が1mm/分の条件で行った。また、評価は複合成形体(127mm長さ、12.7mm幅、6.4mm厚み)を引張り剥がすことで接合強度を測定した。5回測定したときの平均値を測定値とする。結果を表2に示す。
【0059】
[結晶化比率]
実施例1及び比較例1に係る結晶性樹脂成形品について、レーザ被照射面のIR(ATR)測定を行い、非結晶PPSに由来するピークと結晶PPSに由来するピークの吸光度との吸光度の比を求めた。結果を表2に示す。非結晶PPSに由来するピークの比率が大きく、結晶化比率が小さい方が低結晶化であるといえる。
【0060】
【表2】
【0061】
実施例に係る複合成形品は、いずれも、成形品どうしが強固に接合されていることが確認された。また、結晶性樹脂を格子状に除去した場合、全面で除去した場合のいずれにおいても、成形品どうしが強固に接合されていることが確認された。一方、比較例に係る複合成形品は、いずれも、成形品どうしを強固に接合できないことが確認された。
【0062】
実施例では成形品どうしを強固に接合できた理由として、結晶性樹脂成形品において、結晶性樹脂の一部にレーザ照射を施すことで、表面が瞬間的に加熱され、レーザの走査により加熱部を移動させることで、表面の熱の成形品内部への熱拡散が速やかに行われ、レーザ照射面の結晶化度が低下したことによるものと考えられる。その後、他の成形品を構成する未硬化材料を結晶性樹脂成形品のレーザ被照射面に接触させることで、結晶性樹脂成形品のレーザ被照射面において、低結晶化度の結晶性樹脂と未硬化材料との組み合わせによる優れた親和効果が発現したものと考えられる。
【0063】
成形品どうしが強固に接合された理由として、結晶性樹脂成形品において、結晶性樹脂の一部にレーザを施すことで、表面の結晶化度が低下したためであると予想される。
【0064】
実施例によると、一次成形品のレーザ被照射面の結晶性を下げるにとどまり、一次成形品全体の結晶性を下げることがないため、露出する一次成形品の表面の荒れや寸法変化を抑えられる点で好適である。
【0065】
実施例3と実施例5とを比較すると、結晶性樹脂成形品として、繊維状無機充填剤を含有するものを用い、この結晶性樹脂成形品の表面の少なくとも一部にレーザを照射し、繊維状無機充填剤が側面より突出して露出された溝を有するレーザ被照射面を形成することで、接合強度をよりいっそう高められるといえる。これは、繊維状無機充填剤が結晶性樹脂成形品及び他の成形品の分離を抑えるアンカーの役割を果たしているためであると予想される。
【0066】
実施例1と実施例3とを比較すると、結晶性樹脂の除去を結晶性樹脂成形品の表面全体に対して行う方が、結晶性樹脂成形品の表面に対して格子状に行う場合に比べて、高い接合強度が得られるといえる。これは、レーザ照射による低結晶化の効果が全面に及ぶためと考えられる。
【0067】
実施例2〜4を比較すると、レーザの照射量と接合強度との間には一定の相関関係があるといえる。
図4から分かるとおり、レーザの照射量(照射回数)が多くなるにつれて、結晶性樹脂成形品の一部がレーザ照射により十分に加熱溶融し冷却されることによる低結晶化樹脂部が増え、成形品どうしの接合強度が高まるものと予想される。一方で、レーザの照射量(照射回数)が多すぎると、レーザ照射により結晶性樹脂成形品が熱を持ちすぎることになり、結晶性樹脂成形品を十分速やかに冷却できず、レーザ被照射面での結晶化度を好適に下げられない場合がある。そのため、レーザの照射量(照射回数)には好適な範囲があり、本実施例の照射条件においては、1回以上30回以下が好ましく、1回以上15回以下がより好ましいといえる。