特許第6391331号(P6391331)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6391331磁気記録媒体用金属部材および磁気記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6391331
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】磁気記録媒体用金属部材および磁気記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/73 20060101AFI20180910BHJP
   G11B 5/851 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
   G11B5/73
   G11B5/851
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-139904(P2014-139904)
(22)【出願日】2014年7月7日
(65)【公開番号】特開2016-18572(P2016-18572A)
(43)【公開日】2016年2月1日
【審査請求日】2017年5月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000189327
【氏名又は名称】上村工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 航
(72)【発明者】
【氏名】高橋 英希
(72)【発明者】
【氏名】大西 正将
(72)【発明者】
【氏名】藤井 康生
(72)【発明者】
【氏名】太田 裕己
(72)【発明者】
【氏名】高見 秀幸
【審査官】 中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−202325(JP,A)
【文献】 特開平05−065661(JP,A)
【文献】 特開昭61−003317(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0034492(US,A1)
【文献】 特開平02−290978(JP,A)
【文献】 特開平08−176837(JP,A)
【文献】 特開2007−154223(JP,A)
【文献】 米国特許第06106927(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/73
G11B 5/851
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金基板と、該アルミニウム合金基板の少なくとも一方の面に形成された非磁性層とを備えた磁気記録媒体用金属部材であって、
前記非磁性層は、Cuを5〜50質量%、Pbを100〜1000ppm含有するNi−Cu−P系合金からなる、磁気記録媒体用金属部材。
【請求項2】
前記非磁性層が、無電解めっきにより形成された、請求項1記載の磁気記録媒体用金属部材。
【請求項3】
400〜600℃で、2〜10秒間加熱された後の磁束密度が1ガウス未満である、請求項1または2に記載の磁気記録媒体用金属部材。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用金属部材の非磁性層上に、磁性層を備えた磁気記録媒体。
【請求項5】
前記金属部材の温度を400〜600℃とした後、スパッタリングによって前記非磁性層上に前記磁性層が形成された、請求項4記載の磁気記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体用金属部材および磁気記録媒体に関する。特に、磁気ディスクの製造工程において非磁性Ni−Cu−Pめっき層が形成される磁気記録媒体用金属部材、および磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、ハードディスクドライブ(HDD)などの記憶装置に用いられる磁気ディスク(磁気記録媒体)において記録密度の向上が図られてきたが、今後の更なる高記録密度化の為には、磁性粒子の微細化が不可欠である。しかし、一般に磁性粒子の微細化を進めることで、記録された磁化の向きを保持する力が低下し、室温程度の低い熱エネルギーで減磁してしまう熱揺らぎと呼ばれる現象が発生する。この熱揺らぎの影響により、現状の垂直磁気記録方式での記録密度の限界は1Tbits/inchと見込まれている。
【0003】
上記熱揺らぎの現象を抑制し、更なる高記録密度化を図るための技術として、熱アシスト磁気記録方式が注目されている。熱アシスト磁気記録方式とは、磁気ディスク上のデータが記憶される微小領域をレーザー等で瞬間的に加熱しつつ、その加熱された微小領域にデータを磁気ヘッドで記録することをいう。本方式によれば、既存の磁気ヘッドでは記録できないような高い保持力を有する磁性材料であっても、加熱することによって瞬間的に保持力を下げることができるので、熱揺らぎの問題を解消することが可能である。よって、本技術の採用により、磁性粒子の微細化と安定的な記録の両立が可能となる為、超高記録密度化に向けての期待が寄せられている。
【0004】
ここで、熱アシスト磁気記録方式に適するとされる磁性材料としてFe−Pt系材料がある。このFe−Pt系材料をスパッタリングなどで成膜する際には、従来よりも高温で加熱する必要があり、例えば基板温度400〜600℃で10秒程度の加熱・成膜処理時間が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−99179号公報
【発明の概要】
【0006】
しかしながら、従来から用いられてきたアルミニウム合金基板(たとえばJIS規格の5086合金)にNi−Pめっき層を形成する場合において、通常行われる300℃以下での磁性材料のスパッタリング時には何ら問題が生じなかったが、基板温度400〜600℃でFe−Pt系磁性材料のスパッタリングを行うと、基板が歪んで平坦度が悪化するという問題がある。また、アルミニウム基板中の結晶粒が粗大化する為めっき面が粗化する問題や、Ni−Pめっき層が高温に曝されて結晶化し、自発的に磁化してしまう為に磁気記録媒体として使用することができないなどの問題がある。
【0007】
さらに、上記特許文献1では、めっき層を含まないアルミニウム合金板の要件として、平坦度悪化、結晶粒の粗大化を抑制する組成や製造条件を規定しているが、めっき層を有する構成およびめっきの磁化に関する障害は開示されていない。また、上記特許文献1には、一般的に用いられているNi−Pめっきより耐熱性に優れたNi−Cu−PめっきやNi−Mo−Pめっき、Ni−W−Pめっきなどの適用が検討されていることの開示はあるが、具体的なめっき選定の根拠は示されていない。
【0008】
なお、非磁性層の安定化のためには、安定しためっき層を形成する必要があり、そのためにはめっき層形成時の浴安定性が求められる。したがって、めっき選定には浴安定性も考慮に入れる必要がある。
【0009】
本発明の目的は、基板上にめっき層が形成された構成において、磁性材料の成膜時における熱影響を低減することで磁気記録媒体の更なる高記録密度化を実現することができ、かつ安定しためっき層を形成することで、非磁性層の安定化を図ることができる磁気記録媒体用金属部材及び磁気記録媒体を提供することにある。
【0010】
本発明者らは、めっき層を有する磁気記録媒体用アルミニウム合金板について鋭意研究を重ねた結果、Ni−Cu−P合金系の非磁性層を形成し、当該非磁性層がCuを5〜50質量%、Pbを100〜1000ppm含有することで、400〜600℃で磁性材料を成膜する場合であっても、めっき層の磁化を抑制できることを見出した。
【0011】
すなわち、上記課題は以下の発明により達成される。
【0012】
(1)アルミニウム合金基板と、該アルミニウム合金基板の少なくとも一方の面に形成された非磁性層とを備えた磁気記録媒体用金属部材であって、前記非磁性層は、Cuを5〜50質量%、Pbを100〜1000ppm含有するNi−Cu−P系合金からなる、磁気記録媒体用金属部材。
(2)前記非磁性層が、無電解めっきにより形成された、上記(1)記載の磁気記録媒体用金属部材。
(3)400〜600℃で、2〜10秒間加熱された後の磁束密度が1ガウス未満である、上記(1)または(2)に記載の磁気記録媒体用金属部材。
(4)上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の磁気記録媒体用金属部材の非磁性層上に、磁性層を備えた磁気記録媒体。
(5)前記金属部材の温度を400〜600℃とした後、スパッタリングによって前記非磁性層上に前記磁性層が形成された、上記(4)記載の磁気記録媒体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、磁気記録媒体用金属部材上に磁性層を形成する際に、400〜600℃まで基板を加熱してスパッタリングを行う場合であっても、スパッタリング時の加熱によるめっき層の磁化を大幅に抑制することができ、磁気ディスクの更なる高記録密度化を実現することが可能となる。また、本発明では非磁性層にPbが微量、すなわち100〜1000ppm含有されるので、めっき浴の分解が起こりにくく、無電解めっき時に浴安定性が向上する。したがってめっき層を安定して形成することができ、安定した非磁性層を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態における磁気記録媒体用金属部材は、アルミニウム合金基板と、該アルミニウム合金基板の少なくとも一方の面に形成された非磁性層とを備えており、上記非磁性層が、Cuを5〜50質量%、Pbを100〜1000ppm含有するNi−Cu−P系合金めっきからなる。本発明の一実施形態における磁気記録媒体用金属部材は、400〜600℃、2〜10秒間で加熱された後の磁束密度が1ガウス(1.0×10−4T(テスラ))未満である。
【0015】
(アルミニウム合金基板)
磁気ディスク用のアルミニウム合金基板は、中央に孔が設けられたドーナツ状の薄板である。磁気ディスク用基板は、非磁性であると共に、軽量かつ高剛性で、更には滑らかな表面を有することが求められることから、密度が小さく、また鏡面加工が容易なアルミニウム合金が使用される。このアルミニウム合金としては、HDD用磁気ディスクの耐衝撃性で必要となる十分な強度を有し、かつ十分な表面平滑性が得られる等の理由から、Al−Mg系合金が使用される。具体的には、例えばJIS H 4000規定のA5086合金(Mg:3.50〜4.50質量%、Fe:0.50質量%以下、Si:0.40質量%以下、Mn:0.20〜0.70質量%、Cr:0.05〜0.25質量%、Cu:0.10質量%以下、Ti:0.15質量%以下、Zn:0.25質量%以下を含有し、残部Al及び不可避不純物からなる)、あるいはA5083合金(Mg:4.00〜4.90質量%、Fe:0.40質量%以下、Si:0.40質量%以下、Mn:0.40〜1.00質量%以下、Cr:0.05〜0.25質量%以下、Cu:0.10質量%以下、Ti:0.15質量%以下、Zn:0.25質量%以下を含有し、残部Al及び不可避不純物からなる)などである。
【0016】
また、他のアルミニウム合金基板として、表面欠陥を低減する観点から、SiやFeを極力低減した99.94〜99.99質量%の高純度アルミニウムを用いてもよいし、めっき性確保の観点から、Cu或いはZnが添加されたアルミニウム合金を用いてもよい。
【0017】
また、アルミニウム合金基板として、アルミニウム合金のクラッド基板材を用いても良い。クラッド基板材は、複数のアルミニウム合金板材からなり、それぞれの板材を重ねて密着させることで構成される。それぞれが組成の異なるアルミニウム合金板材であっても良い。
【0018】
(非磁性層)
非磁性層は、上記アルミニウム合金基板の一方又は双方の主面上に形成された層である。一般的には、アルミニウム合金基板をめっきすることによって形成されるめっき層である。非磁性層の厚さは、例えば1.0〜12μmである。この非磁性層は、上記アルミニウム合金基板と同様に非磁性であることが求められ、かつ高温環境下でも非磁性が保持される必要がある。このことから、非磁性層には、Ni−Cu−P系合金が用いられ、さらに、Ni−Cu−P系合金におけるCuの含有量が5〜50%であることが必要となる。Cuの含有量が5%未満であると加熱時の非磁性が保持されず、50%を超えると析出速度の低下が大きくなる。Cuの含有量が60%以上となると、析出(反応)はほぼ停止してしまう。
【0019】
また、本発明の一実施形態における非磁性層を構成するNi−Cu−P系合金は、Pbを100〜1000ppm含有している。Pbの含有量が100ppm未満であると、めっき処理での浴安定性が劣るため所望の非磁性層を得ることができず、Pbの含有量が1000ppmを超えると、反応性が悪く析出速度の低下が大きくなり、外周部などにめっきされない部分が発生するおそれがある。すなわち、非磁性層の信頼性に劣る。なお、Pbを含む本願の非磁性層はNi−Cu−P−Pb系合金と言うこともできるが、Pbの含有量は他の成分に比べて小さい為、本願では主成分であるNi−Cu−P系合金と表記している。
【0020】
本発明の一実施形態における非磁性層を構成するNi−Cu−P系合金は、前述のCuおよびPb以外は好ましくはNiおよびPと不可避不純物で構成される。不可避不純物は、めっき等で非磁性層を構成する場合、非磁性層中に不可避的に含まれてしまう元素や化合物を指す。
【0021】
(磁気記録媒体用金属部材及び磁気記録媒体の製造方法)
先ず、所定成分に調整されたアルミニウム合金を鋳造してアルミニウム合金鋳塊を作製し、鋳塊の面削を行って板材とする。
【0022】
その後、均質化処理、熱間圧延処理および冷間圧延処理を施してアルミニウム合金圧延板とする。なお、冷間圧延処理中又はその前に中間焼鈍処理を行ってもよい。また、上記均質化処理は必須ではなく、省略されてもよい。
【0023】
次に、アルミニウム合金圧延板を円環状に打ち抜き、ブランク材を作製する。そして、ブランク材を複数枚積層させた状態で焼鈍する積み付け熱処理を施してひずみ矯正を行い、アルミニウム合金基板を作製する。
【0024】
そして、アルミニウム合金基板に切削加工及び研削加工を施し、更に、脱脂処理とエッチング処理を施す。
【0025】
次に、アルミニウム合金基板表面にジンケート処理(Zn置換処理)を施してZn置換層を形成し、その後、ジンケート処理した基板表面に、Cu、Pbを所定量含有するNi−Cu−P系めっき浴を用いて、無電解Ni−Cu−P系めっき処理を施し、基板表面に非磁性層を形成する。その後、必要に応じて非磁性層の表面を平滑化する研磨加工処理を施して、磁気記録媒体用金属部材を作製する。
【0026】
そして、磁気記録媒体用金属部材にスパッタリング処理を施し、該磁気記録媒体用金属部材の非磁性層表面に、例えばFe−Pt系磁性材料からなる磁性層を形成する。本スパッタリング処理における磁気記録媒体用金属部材の温度は、高記録密度化の観点から、例えば400〜600℃で2〜10秒間である。このように非磁性層表面に磁性層を形成して、磁気ディスク(磁気記録媒体)とする。
【0027】
(磁気記録媒体用金属部材の磁束密度が1ガウス未満であること)
上記のように製造された磁気記録媒体用金属部材の磁束密度は1ガウス未満である。この磁束密度の測定は、例えば磁性体によって形成される磁束の時間変化を検出するものとして試料振動型磁力計が使用される。本発明では、磁気ディスク製造時の磁性層形成行程においてめっき層が高温環境下に曝された場合であっても、磁気記録媒体用金属部材の磁束密度が1ガウス未満であるので、当該めっき層の磁化が抑制され、熱アシスト磁気記録方式等をはじめとした磁気記録媒体の更なる高記録密度を実現することができる。
【0028】
以上、上記実施形態に係る磁気記録媒体用金属部材および磁気記録媒体について述べたが、本発明は記述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。
【実施例】
【0029】
本発明を以下の実施例に基づき詳細に説明する。なお本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
磁気記録媒体用金属部材を得るために、(1)ブランク材加工処理、(2)研削加工処理、(3)めっき処理を行った。具体的には、(1)JIS5086相当のアルミニウム合金圧延材をプレス打ち抜きすることにより、円環状のブランク材を作製した。その後、円環状のブランク材を複数枚積層させ、治具等を用いて加圧しながら焼鈍処理を行った。(2)次に、ブランク材の内外周および主表面を切削加工し,外径95mmφのアルミニウム合金基板を作製した。(3)作製したアルミニウム合金基板に、めっき前処理として、脱脂、エッチング、ダブルジンケート処理し、その後めっき処理を行った。硫酸ニッケル0.05モル/L、硫酸銅0.02モル/L、次亜リン酸ナトリウム0.3モル/L、クエン酸ナトリウム0.2モル/L、ホウ砂0.05モル/L、安定剤0.1ppm、浴温80℃とし、メッキ液中のCu濃度を0.2g/Lに調整した無電解めっき液に90分浸漬し、磁気記録媒体用金属部材を作製した。このようにして作製した磁気記録媒体用金属部材の非磁性層は、Ni77.5質量%、Cu10.0質量%、P12.5質量%よりなり、Pb含有量は100ppmであった。
【0030】
その後、この磁気記録媒体用金属部材を、磁性体の成膜時と同様の加熱条件となるように、550℃、10秒間で加熱試験を行った。加熱処理はアルバック理工社製の赤外線ランプ加熱装置(RTP−6)を用い、昇温速度100℃/分で昇温し、550℃で加熱保持するという条件で行った。
(実施例2)
Pb含有量を100ppmから600ppmに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム合金板を得た。
(実施例3)
めっき層のCu含有量を10質量%から40質量%に変更したこと以外は、実施例2と同様にしてアルミニウム合金板を得た。
【0031】
(比較例1)
めっき層のCu含有量を10質量%から0に変更したこと以外は、実施例2と同様にしてアルミニウム合金板を得た。
(比較例2)
めっき層のCu含有量を10質量%から0に変更し、Moを0.5質量%添加したこと以外は、実施例2と同様にしてアルミニウム合金板を得た。
(比較例3)
めっき層のCu含有量を10質量%から3質量%に変更したこと以外は、実施例2と同様にしてアルミニウム合金板を得た。
(比較例4)
めっき層のCu含有量を10質量%から60質量%に変更したこと以外は、実施例2と同様にしてアルミニウム合金板を得た。
(比較例5)
Pb含有量を600ppmから50ppmに変更したこと以外は、実施例3と同様にしてアルミニウム合金板を得た。
(比較例6)
Pb含有量を600ppmから1200ppmに変更したこと以外は、実施例3と同様にしてアルミニウム合金板を得た。
【0032】
次に、上記のように作製した実施例1〜3および比較例1〜6について、以下の方法で評価を行った。
[浴安定性]
表面を部分的に#200サンドペーパーでこすり傷をつけた1Lガラスビーカーを用い、1Lめっき液を昇温後10時間経過後のビーカーへの析出の有無で評価した。このとき、5時間経過後ビーカーに析出した場合を「×」、10時間経過後ビーカーに析出した場合を「○」、10時間経過後もビーカーに析出しなかった場合を「◎」とした。
【0033】
[析出速度]
めっき成膜時の到達膜厚にて評価した。このとき、めっき膜厚が5μm未満で析出速度の低下により外周部の無めっきが発生する場合を「×」、めっき膜厚が5〜8μmの場合を「○」、めっき膜厚が8〜12μmの場合を「◎」とした。
【0034】
[環境影響]
RoHS規制、ELV指令により定められたNi−Cu−P系合金中のPb規制値(1000ppm以内)を基準として、0〜200ppmの場合を「◎」、200〜1000ppmの場合を「○」、1000ppm超を「×」とした。
【0035】
[加熱後の磁性]
振動試料型磁力計(理研電子社製、装置名「BHV−50」)を用いて、磁力変化から磁力線を形成し、磁場の強さを測定した。
【0036】
上記の方法にて測定・評価した結果を表1に示す。
【表1】
表1の結果から、実施例1〜3のいずれも、550℃、10秒の加熱後であっても非磁性層は結晶化による磁化が生じず、熱安定性が良好であった。
【0037】
一方、比較例1はめっき層にCuが含有されておらず、上記の高温加熱によって、非磁性層の結晶化による磁化が発生したため、熱アシスト磁気記録方式に適さないことがわかった。また、比較例2は、めっき層にCuが含有されない代わりにMoが0.5質量%含有されているが、比較例1と同様、上記高温加熱により、非磁性層の結晶化による磁化が発生した。比較例3は、Cu含有量が不十分であり、非磁性層の若干の磁化発生がみられたことから、熱アシスト磁気記録方式に適しているとは言えないことが分かった。比較例4はCu添加量が過大となることで析出速度の低下が大きく、比較例5はPb含有量が不足しているため、浴安定性が低下した。比較例6は、Pb含有量が増加することで環境影響が悪化し、また析出速度が悪化した。比較例4,5,6のいずれも、熱アシスト磁気記録方式に適しているとは言えないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の磁気記録媒体用アルミニウム合金板は、耐熱性に優れることから、HDD等の記憶装置に内蔵される高記録密度の磁気ディスク用アルミニウム合金板として好適に用いられる。