(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6391415
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】導波管帯域阻止フィルタ
(51)【国際特許分類】
H01P 1/209 20060101AFI20180910BHJP
【FI】
H01P1/209
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-212801(P2014-212801)
(22)【出願日】2014年10月17日
(65)【公開番号】特開2016-82434(P2016-82434A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年8月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】新日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098372
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 保人
(72)【発明者】
【氏名】梅原 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】南谷 康次郎
【審査官】
西村 純
(56)【参考文献】
【文献】
特開平5−335809(JP,A)
【文献】
実開昭63−198202(JP,U)
【文献】
特開平6−310912(JP,A)
【文献】
特開2012−039373(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/20−1/219
H01P 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形導波管の広幅の上下面の伝送方向に複数の溝を設けた帯域阻止フィルタであって、
上記の上面の溝と下面の溝をずらして配置し、かつこれらの溝の伝送方向の幅を溝間の導波管面の幅よりも広くすると共に、上記溝の幅を通過周波数帯の管内波長の約n/4(n:奇数)に設定することを特徴とする導波管帯域阻止フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導波管帯域阻止フィルタに関し、特に通過帯域と阻止帯域が近接する高耐電力のフィルタの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図5には、従来の帯域阻止フィルタとして用いられるコルゲート型フィルタの構成が示されており、
図5(A)のフィルタは、下記特許文献1と同様に、導波管1の広幅の上下面に溝2を有し、この溝2の深さ方向を共振器として動作させている。即ち、阻止(周波数)帯域において、上下の溝2の底面が高周波電界ゼロとなるショート端、導波管面付近が電界最大のオープン端となり、溝2の部分の導波管がオープンとなることで阻止フィルタが構成される。
【0003】
図5(B)のコルゲート型フィルタは、下記特許文献2にも示されるように、上下面の溝2を互い違いに配置したもので、この構造の阻止フィルタでも、同様に溝2の深さ方向の共振を利用して、不要なマイクロ波を阻止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−311838号公報
【特許文献2】特開平8−213807号公報
【特許文献3】特開平7−15210号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】”Microwave Filters, Impedance-matching Networks, and Coupling Structures” George L. Matthaei, Leo Young, E.M.T. Jones(McGraw-Hill)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、レーダー装置の送信機等にマグネトロンが使用される場合、マグネトロンの特性上、送信波の周波数よりも少し高い周波数に不要輻射が放射される場合が多い。その一例として、9.1GHz帯で動作する出力電力60kWの同軸型マグネトロンにおいて、9.5GHz付近に不要輻射を持つものがある。この不要輻射の抑制には、導波管型帯域阻止フィルタが有効である。
【0007】
しかしながら、従来の帯域阻止フィルタでは、阻止帯域と通過帯域とで0.4GHz程度の周波数差しかないため、溝2の縁の導波管面(広幅面)付近での高周波電界強度が高くなり、マイクロ波放電を生じる場合があった。そのため、導波管内を加圧する等の放電対策が必要であった。
【0008】
上記の阻止帯域と通過帯域との周波数差が小さい場合に、溝2の縁の導波管面付近での高周波電界強度が高くなる理由は次の通りである。従来のコルゲート型フィルタでは、阻止周波数において、溝2の縁の導波管面付近はオープン端、即ち電界最大になっている。一方、通過周波数においても、阻止周波数と通過周波数が極近接している場合、溝2の縁の導波管面付近ではオープン端に近く、電界が大きくならざるを得ない。従って、阻止周波数と通過周波数が近ければ近い程、高周波電界強度は大きくなってしまう。
【0009】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、通過帯域と阻止帯域が近接する場合であっても、マイクロ波放電の発生をなくし、不要帯域を阻止しつつ高耐電力が得られる導波管帯域阻止フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、矩形導波管の広幅の上下面の伝送方向に複数の溝を設けた帯域阻止フィルタであって、上記の上面の溝と下面の溝をずらして配置し、かつこれらの溝の伝送方向の幅を溝間の導波管面の幅よりも広くすると共に、上記溝の幅を通過周波数帯の管内波長の約n/4(n:奇数)に設定することを特徴とする。
【0011】
上記の構成によれば、例えば互い違いに配置した上面の溝と下面の溝において、その溝の幅が溝間の導波管面(溝のない導波管面)の幅よりも広くされ、かつ通過周波数帯の管内波長の約1/4に設定される。これにより、上面又は下面における溝間の導波管面同士の間隔が長くなり、また上面の溝間の導波管面と下面の溝間の導波管面との間隔が長くなるので、高耐電力となってマイクロ波放電が抑制され、所望周波数での良好な阻止特性が得られる。
また、溝8の幅を通過周波数の管内波長の約n/4とすることで、溝による通過周波数の反射を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の導波管帯域阻止フィルタによれば、通過帯域と阻止帯域が近接する場合であっても、導波管(広幅面)の溝のない部分での高周波電界強度を小さくすることができ、マイクロ波放電の発生をなくし、不要帯域を阻止しつつ高耐電力が得られるという効果がある。そして、マグネトロン等を用いた大電力の送信機を持つレーダー装置で不要輻射を抑制する好適な帯域阻止フィルタが実現可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る実施例の導波管帯域阻止フィルタの構成を示す側面断面図である。
【
図2】実施例の導波管帯域阻止フィルタの内部構成を示す斜視図である。
【
図3】実施例の導波管帯域阻止フィルタの等価回路を示す図である。
【
図4】実施例の導波管帯域阻止フィルタの減衰特性を示すグラフ図である。
【
図5】従来の導波管帯域阻止フィルタの2つの構成例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1及び
図2に、実施例の導波管帯域阻止フィルタの構成が示されており、このフィルタはコルゲート型からなり、図において、5は入出力導波管、6はステップ導波管、7は導波管、8は溝である。実施例では、
図1に示されるように、広幅の上面の溝8と下面の溝8が伝送方向において互い違いに配置されると共に、この上下面の溝8の幅d
1は溝間の導波管面7sの幅d
2よりも広くされる。また、この溝8の幅d
1を通過周波数帯の管内波長の約1/4とし、溝8の深さd
3は阻止周波数帯の管内波長の約1/4以下に設定している。
【0015】
例えば、通過周波数が9.1GHz、阻止周波数が9.5GHzである場合、入出力導波管5は、その断面寸法が28.5mm×12.6mmの矩形導波管であり、この場合の溝8の寸法を、幅(d
1)10mm、深さ(d
3)6mmとし、溝間の導波管面7sの幅(d
2)を4mmとする。即ち、上記溝8の幅の10mmは、通過周波数9.1GHzの管内波長40.4mmの約1/4で、深さ6mmは、阻止周波数9.5GHzの管内波長37.9mmの1/4以下となる。
【0016】
このような構成を等価回路で考えると、上記の溝8の深さd
3を阻止周波数9.5GHzの管内波長37.9mmの1/4以下とするので、これによって導波管7に直列に入ったインダクタンスLが形成され、導波管面7sは、導波管7に並列に入った容量Cとなる。従って、この帯域阻止フィルタの等価回路は、
図3のように表すことができる。この
図3の回路は、典型的な低域通過フィルタであり、導波管回路では周波数の違いで等価回路定数が変化するため、実施例では、阻止帯域よりも高い周波数にも通過帯域が存在し、単なる低域通過フィルタではなく、帯域阻止フィルタとして動作することになる。
【0017】
このような構成によれば、導波管面7sの高周波電界強度がその他の部分に比べて高くはなるが、溝8の幅d
1を導波管面7sの幅d
2よりも長くし、かつ上下面で溝8交互に配置することで、上下左右の導波管面7s同士の間隔、即ち上下の間隔d
4と左右の間隔d
1が長くなるため、従来のコルゲート型フィルタに比べて、その部分の高周波電界強度を比較的小さくすることができる。実施例では、導波管加圧等の放電対策を行うことなく、60kWの電力で正常に帯域阻止フィルタとして機能することが確認されている。
【0018】
また、上述のように、溝8の幅d
2を10mmとし、通過周波数9.1GHzの管内波長40.4mmの約1/4としており、これにより、通過周波数9.1GHzにおける溝8による反射が小さくなるように作用する。なお、上記ステップ導波管6は、溝8を設けたフィルタ部分と入出力導波管5とのインピーダンス整合を取る役目をする。
【0019】
図4には、実施例のフィルタの減衰特性が示されており、これは、
図5(A)に示した従来のフィルタと実施例のフィルタにおいて、それらの長さを同一、電界強度の最大値を同じとし、通過周波数を9.1GHzとし、9.4GHzで減衰量を20dBにすることを目標として比較したもので、点線50は従来のフィルタ特性、実線51は実施例のフィルタ特性である。
図4に示されるように、実施例のフィルタ(実線51)では、従来のフィルタ(点線50)と比較すると、9.4GHz近傍での大きな減衰量が得られ、全体的にも良好な特性となっている。
【0020】
なお、実施例では、上下面の一方の導波管面7sが他方の溝8の中央に位置するように、互い違いに溝8を配置したが、これらの溝8は伝送方向でずれていればよく、導波管面7sが溝8の中央以外に配置されていてもよい。
また、溝8の幅d
2を通過周波数の管内波長の約1/4としたが、この幅d
2は通過周波数の管内波長の約3/4,5/4等[n/4(n:奇数)]とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の帯域阻止フィルタは、動作周波数の極近傍に不要輻射を放射するマグネトロンや電子管等を用いる装置、送信電力が大きな送信機を使用したレーダー装置に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0022】
1,7…導波管、 2,8…溝、
5…入出力導波管、 6…ステップ導波管、
7s…溝間の導波管面。