特許第6391808号(P6391808)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6391808固体高分子形燃料電池用の担体炭素材料及び触媒
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  • 特許6391808-固体高分子形燃料電池用の担体炭素材料及び触媒 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6391808
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】固体高分子形燃料電池用の担体炭素材料及び触媒
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20180910BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20180910BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20180910BHJP
【FI】
   H01M4/86 M
   H01M4/86 B
   H01M4/92
   H01M8/10 101
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-508157(P2017-508157)
(86)(22)【出願日】2016年3月3日
(86)【国際出願番号】JP2016056657
(87)【国際公開番号】WO2016152447
(87)【国際公開日】20160929
【審査請求日】2017年9月14日
(31)【優先権主張番号】特願2015-64971(P2015-64971)
(32)【優先日】2015年3月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】新日鉄住金化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】古川 晋也
(72)【発明者】
【氏名】飯島 孝
(72)【発明者】
【氏名】日吉 正孝
(72)【発明者】
【氏名】松本 克公
(72)【発明者】
【氏名】禰宜 教之
(72)【発明者】
【氏名】林田 広幸
【審査官】 守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/175097(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/033643(WO,A1)
【文献】 特開2009−080967(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/129597(WO,A1)
【文献】 特開2005−332807(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/141810(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 4/96
H01M 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質炭素材料であって、吸着過程の窒素吸着等温線からBJH解析法により求められる細孔容積及び細孔面積に関して、下記の条件を満たすことを特徴とする固体高分子形燃料電池用の担体炭素材料。
半径2nm以上50nm以下の細孔容積VAが1ml/g以上5ml/g以下であると共に、半径2nm以上50nm以下の細孔面積S2-50が300m2/g以上1500m2/g以下であること、及び、
前記細孔容積VA(ml/g)に対して、半径5nm以上25nm以下の細孔容積V5-25(ml/g)の比率(V5-25/VA)が0.4以上0.7以下であると共に、半径2nm以上5nm以下の細孔容積V2-5(ml/g)の比率(V2-5/VA)が0.2以上0.5以下であること。
【請求項2】
前記細孔容積V5-25が0.7ml/g以上2ml/g以下であることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子形燃料電池用の担体炭素材料。
【請求項3】
平均粒子半径が0.1μm以上5μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載
の固体高分子形燃料電池用の担体炭素材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の固体高分子形燃料電池用の担体炭素材料に、Pt又は
Ptを主成分とするPt合金からなる触媒金属微粒子が担持されていることを特徴とする固体高分子形燃料電池用の触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池用の担体炭素材料及び触媒に関するものであり、特に、大電流で発電した際の出力電圧の低下が少ない固体高分子形燃料電池用の担体炭素材料、及びこの担体炭素材料を用いて調製された触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、プロトン伝導性電解質膜を挟んで、アノードとカソードとなる触媒層が配置され、更に外側にガス拡散層が配置され、更に外側にはセパレータが配置された基本構造(単位セル)で構成されており、通常、必要な出力に応じて複数の単位セルを連結(スタック)して構成されている。
【0003】
このような固体高分子形燃料電池の発電原理は、アノードとカソードの両端に配置されたセパレータのガス流路から、アノード側の触媒層には水素等の還元性ガスを、また、カソード側の触媒層には酸素あるいは空気等の酸化性ガスを、それぞれガス拡散層を介して供給し、これら原料ガスとして例えば水素ガスと酸素ガスを用いる場合、アノード側の触媒層の触媒金属上で起こる下記の反応1(酸化反応)とカソード側の触媒層の触媒金属上で起こる下記の反応2(還元反応)とにより、水分子を生成しながらこれら反応1と反応2との間のエネルギー差(電位差)を利用して発電をする。
2 → 2H+ + 2e- (E0=0V)…(反応1)
2 + 4H+ + 4e- → 2H2O (E0=1.23V)…(反応2)
そして、固体高分子形燃料電池の特性としては、外部へ電流を取り出す際に、どれだけ電圧が維持されるかが1つの指標であり、通常、より高い電流を取りだすと電圧がより低下していく傾向になる。
【0004】
また、固体高分子形燃料電池のアノード及びカソードの触媒層を形成する触媒においては、通常、触媒金属として白金(Pt)や白金を主成分とする白金合金(Pt合金)が用いられ、また、このような触媒金属の微粒子を担持し、また、発生した電流を外部回路へ取り出すために、触媒担体として導電性の炭素材料が用いられる。
【0005】
ところで、近年、貴金属価格の高騰により、固体高分子形燃料電池の分野においても、触媒金属を如何に長寿命にかつ効率良く反応させるかについて様々な検討がされているが、そのためには、反応に寄与する触媒金属の単位重量当りの表面積を高くすることが必要であり、またそのために、触媒金属を微粒子化すると共に高分散状態で担体炭素材料に担持させることが必要である。しかしながら、この触媒金属を微粒子化し過ぎると、担体炭素材料との間の接触面積が小さくなり、燃料電池作動条件中に担体炭素表面からの脱落や、溶解・析出、凝集等の耐久性の観点での問題が発生し、結果として表面積が小さくなり、効率良く反応に寄与できなくなる。つまり、触媒金属の耐久性と高効率な反応のためには、適切なサイズが存在し、例えば白金金属では、半径1.5nm以上5nm以下が好ましいとされており、実際には半径3nm程度が理想的であるとされている。また、触媒金属が、上記のような最適なサイズのまま微粒子の状態で存在するためには、触媒金属同士が互いに一定の距離を保った高分散状態で担体炭素材料に担持されている必要がある。そして、担体炭素材料に触媒金属が担持された触媒において、このような理想的な状態を創り出すために、担体炭素材料については、十分な比表面積を有していることが必要である。
【0006】
また、アノード及びカソードとなる触媒層には、前述の触媒金属微粒子と担体炭素材料の他に、通常、水素イオンを伝導させるプロトン伝導性樹脂(アイオノマー、以下「アイオノマー」と記述する。)が含まれており、固体高分子形燃料電池に高い電池特性を付与するためには、上記反応1及び2を可及的に効率良く進行させることが必要であり、そのためにはアノード、カソード両触媒層中及びプロトン伝導性電解質膜中でのプロトン伝導性を高くすることが重要である。即ち、アノード側触媒層で生成した水素イオンは、この触媒層中の水やアイオノマーを介して触媒金属上からアノード側触媒層中を移動し、プロトン伝導性電解質膜を経て、更に対極のカソード側触媒層中を移動し、カソード側触媒層の触媒金属上まで移動するが、このプロトン伝導性を高くすることが重要である。
【0007】
ところで、一般的に、プロトン伝導性電解質膜及びアイオノマーは、乾燥状態になると、その乾燥部分においてプロトン伝導性が著しく低下する。固体高分子形燃料電池の運転条件において、セル内が低加湿状態では、プロトン伝導性電解質膜及びアイオノマーの湿潤状態が悪くなり、高いプロトン伝導性を確保できなくなる。その結果、前述した電気化学反応に必要な水素イオンの伝導性が悪くなり、発電効率が低下する。例えば、小電流放電時においては、セル内の生成水の発生が少ないため、セル内が低加湿状態になり易く、出力電圧が低くなることがある。そのため、固体高分子形燃料電池は、そのシステム中に加湿器が設置され、この加湿器により加湿されて適度な湿潤状態を保持しながら運転される。
【0008】
更に、固体高分子形燃料電池において、高い電池特性を実現するためには、プロトン伝導性と同時に、原料ガス(還元性ガス及び酸化性ガス)が触媒層中を拡散して触媒金属まで一定量輸送され続けることが必要である。この触媒層中における原料ガスのガス拡散性は、固体高分子形燃料電池の実用化において高出力(大電流)運転での性能向上(出力電圧を高める)を図る上で、重要な課題の一つである。即ち、大電流放電時においては、カソード側触媒層内で上記の反応2が激しく起こり、水蒸気が発生し、高加湿状態になるが、この際に、発生した水蒸気が凝集し、生成した凝縮水が原料ガスを触媒金属まで輸送する経路である触媒層内の細孔を閉塞し、閉塞された細孔内に担持された触媒金属は酸素ガスの供給を得られなくなり、このために電気化学反応に寄与し得なくなって、結果として発電効率が低下する、いわゆるフラッディング現象が発生する。この大電流運転条件下での性能向上のためには、実用化の上で、高加湿環境下でのフラッディング現象の抑制が重要な課題になっている。
【0009】
なお、以下の説明において、「大電流」とは、電極の見かけの面積当りの電流値が1.5A/cm2程度以上である場合を指すものであって、カソードに流す酸素ガスの流量・濃度によるが、1.5A/cm2は常識的な運転条件における限界的な電流密度の一つの目安でもあり、また、触媒層を形成する触媒の担体炭素材料における細孔のサイズに関して、ミクロ孔、メソ孔、及びマクロ孔という用語を用いるが、各々IUPACに従って細孔半径が1nm以下の細孔をミクロ孔と称すると共に細孔半径が1〜25nmの細孔をメソ孔と称することとし、また、細孔半径が25nm以上の細孔をマクロ孔と称する。
【0010】
そこで、従来において、上述した触媒層中における原料ガスのガス拡散性を改善することを目的とした幾つかの取り組みがなされており、担体炭素材料に対する取り組みについても幾つかの提案がなされている。
例えば、特許文献1においては、従来のカーボンブラックに比べてガス拡散性に優れる担体炭素材料として、一次粒子径が半径10〜17nmで、一次粒子が連なった二次粒子が空隙を有し、半径10〜30nmの細孔の合計容積が0.40cm3/g以上2.0cm3/g以下であるカーボンブラックが提案されており、更に、表面積の大きなカーボンブラックはガス拡散性に不利な担体内部の細孔が増えるため、担体炭素材料には適さず、BET比表面積は250〜400m2/gであるのが好ましいとしている。しかしながら、このような担体炭素材料は、その比表面積が400m2/g程度であって、実用上の触媒金属の担持率である40〜70質量%を達成させるには小さ過ぎ、このために、触媒金属の微粒子同士の凝集が発生し易く、結果として担持された触媒金属の粒子径が粗大化して発電性能の低下を防止することは困難である。
【0011】
また、特許文献2では、全細孔容積が1ml/g以上で、メソ孔〔=全細孔容積−ミクロ孔容積(HK法で算出)〕の細孔容積が全細孔容積に対して50%以上である多孔質炭素材
料が電気二重層キャパシタ用電極材料として提案されている。ここで、電気二重層キャパシタにおいて電解質イオンの拡散性に優れた上記の多孔質炭素材料を燃料電池へ適用することを想定すると、メソ孔はガス拡散性に優れているため、メソ孔内に担持される触媒金属の微粒子が十分に触媒作用を発揮し、従って大電流特性の向上が期待される。しかしながら、他方で、ミクロ孔も数10%程度の容積を持つので、このミクロ孔内の触媒金属の微粒子はミクロ孔がフラッディング現象で閉塞され易いので、相当量の触媒金属が大電流時に触媒反応に寄与し得なくなり、結果として、出力の低下を生じる。
【0012】
更に、特許文献3で提案されている触媒担体用炭素材料は、棒状又は環状の単位構造が三次元に連なった、いわゆる樹状形状の粒子からなる材料であり、この樹状部の長さが50〜300nmであって樹状部の直径が30〜150nmであり、触媒層中においてこの樹状粒子で形成される空隙が反応ガスや反応生成物(水)の拡散性に寄与し、また、BET比表面積を200〜1300m2/gとすることにより触媒金属を高分散状態で分散させることができ、高い発電性能が得られるとしている。しかしながら、特許文献3における触媒担体用炭素材料は、半径0.1〜10nm領域に0.2〜1.5cc/gの細孔容積を有しており、反応生成物の水により閉塞し易いミクロ孔が一定の割合で存在するため、フラッディング現象の発生を完全に防止することは困難である。
【0013】
更に、特許文献4においては、少なくともカソード側触媒層中の炭素材料について、乾燥状態でも比較的安定した発電性能を与えると共に触媒成分を担持した触媒担体炭素材料Aと、比較的ガス拡散性に優れていると共に触媒成分を担持した触媒担体炭素材料Bと、触媒成分を担持していない導電助剤炭素材料と、水蒸気吸着特性が低く疎水性であって触媒成分を担持していないガス拡散炭素材料とを用い、プロトン伝導性電解質膜に接する側の内層については触媒担体炭素材料A、導電助剤炭素材料及び電解質材料(アイオノマー)が凝集した触媒凝集相とガス拡散炭素材料が凝集したガス拡散炭素材料凝集相との2相混合構造とし、また、プロトン伝導性電解質膜に接しない側の外層については触媒担体炭素材料B、導電助剤炭素材料及び電解質材料(アイオノマー)が凝集した触媒凝集相とガス拡散炭素材料が凝集したガス拡散炭素材料凝集相との2相混合構造とする触媒層構造を構成し、ガス拡散炭素材料凝集相を存在させることにより、ガス拡散性に優れているだけでなく、加湿条件や負荷条件によらずフラッディング現象が起こり難く、高い電池性能を発揮できる燃料電池が提案されている。この特許文献1の燃料電池においては、優れたガス拡散性が達成されているほか、フラッディング現象の発生もかなり抑制されているが、上記の触媒担体炭素材料Aがミクロ孔を有し、触媒金属を担持したミクロ孔内で生成した水を迅速に除去することは困難であり、このミクロ孔は水により閉塞され、また、このミクロ孔内の触媒金属は反応に関与せず、結果としてミクロ孔内の触媒金属に対応する分だけ反応効率の低下、即ち、電圧低下を防止することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2003-201,417号公報
【特許文献2】特開2014-001,093号公報
【特許文献3】WO 2014/129597 A1公報
【特許文献4】特開2010-123,572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述のように、従来の技術では、反応ガスである酸素ガスの拡散に注目した担体炭素材料の細孔設計が行われ(特許文献1〜3)、また、フラッディング現象の抑制についても着眼した触媒層設計が行われているものの(特許文献4)、いずれの場合も担体炭素材料中で発生するフラッディング現象を必ずしも十分には抑制できておらず、高加湿条件下の大電流発電時において担体炭素材料に担持された触媒金属の利用率が低下し、十分な発電性能を発揮できていない等の課題が残されていた。
【0016】
そこで、本発明者らは、固体高分子形燃料電池において、その運転条件である高加湿条件下での大電流発電時にフラッディング現象が発生する機構について詳細に検討し、以下のように考察した。
先ず、フラッディング現象が起きるのは、発電反応において水が生成するカソード側の触媒層であり、次のような現象である。このカソード側触媒層において、触媒反応の反応2により生成した水分子は、気体状態で触媒金属の表面から乖離し、濃度勾配を駆動力として触媒層中を拡散し、カソード極に配置されたセパレータの酸素ガス(実用では空気)の流路を通って系外へ排出されるが、この際に水分子が触媒層中で液相化し、これによって生じた凝縮水が酸素ガスのガス拡散路を閉塞する現象である。
【0017】
ここで、触媒層中における水分子の拡散路は、担体炭素材料の粒子内部に存在する粒子内細孔と、担体炭素材料の外の各担体炭素材料の粒子間に形成される粒子間細孔の2つに大別される。前者は、多孔質炭素材料からなる担体炭素材料がその材料内部に有する数nm以下の微細な細孔であり、触媒金属の微粒子(白金微粒子)がこの粒子内細孔内に担持され、触媒層において触媒反応の反応2が行われる際に重要な機能を担うことになる。
他方、後者の粒子間細孔は、担体炭素材料のサイズとその樹状構造が主たる形成要因であり、一般的に、触媒層中の粒子間細孔のサイズは、担体炭素材料の典型的なサイズスケールと同程度となる。現在の代表的な担体炭素材料はケッチェンブラック(ライオン社製)であり、樹状構造を構成する一次粒子が40nm程度であって、樹状構造の平均的な大きさが100nm程度なので、触媒層中に形成される粒子間細孔は数10nmから100nm程度である。
【0018】
そして、フラッディング現象の抑制には、前者の担体炭素材料内部に存在する細孔の制御が重要であると考えた。具体的には、細孔径、細孔長、細孔壁の親水性等の制御である。細孔径が水分子数個程度の大きさになると、壁面と水分子の間のファンデルワールス力(引力)により凝縮(液化)する圧力(水分子密度)が低下し、その結果、電流密度が高まると先ずこのサイズの細孔から閉塞が始まり、また、細孔を形成する壁面の親水性が高いと、壁面には水分子が吸着して実質の細孔径が減少し、また、水分子からなる壁面のために凝縮する圧力が低下する、即ち、大電流による水の凝縮が発生し易くなる。
また、触媒層中において、アイオノマー樹脂や親水性の担体炭素材料の付近では、水分子が凝縮し易い環境になるため、フラッディング現象が生じ易くなる。
【0019】
そこで、本発明者らは、従来は検討されて来なかった担体炭素材料内部で生じるフラッディング現象を抑制するという全く新たな観点の下に、大電流発電時の発電特性の改善、特に高加湿条件下での大電流発電時の発電特性を改善する目的で、担体炭素材料内部の細孔構造について鋭意検討し、その過程で以下の事実を突き止め、本発明を完成した。
即ち、高加湿条件下の大電流発電時のようなフラッディング現象を発生し易い条件下において、担体炭素材料の粒子内部に担持された触媒金属の微粒子を充分に反応に関与させるためには、この担体炭素材料の粒子内部に、触媒金属の微粒子を担持させるのに必要な粒子内細孔(触媒担持細孔)を形成すると同時に、ガス拡散に必要な触媒層中の従来の粒子間細孔と同程度の大きさの細孔(ガス拡散細孔)を形成することにより、これまで担体炭素材料内部の微細な細孔で発生していたフラッディング現象を可及的に抑制し、担体炭素材料内部に担持されている殆ど全ての触媒金属微粒子を触媒反応に関与させることができることを見出し、本発明を完成したものである。
【0020】
従って、本発明の目的は、上述の基本的な指針に基づき、触媒金属を高分散状態で担持することができ、高加湿条件下での大電流発電時でもフラッディング現象を起こし難く、かつ、大電流発電時の電圧低下が少ない担体炭素材料及びこれを用いた触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
即ち、本発明は、以下の構成よりなるものである。
(1) 多孔質炭素材料であって、吸着過程の窒素吸着等温線からBJH解析法により求められる細孔容積及び細孔面積に関して、下記の条件を満たすことを特徴とする固体高分子形燃料電池用の担体炭素材料。
半径2nm以上50nm以下の細孔容積VAが1ml/g以上5ml/g以下であって、半径2nm以上50nm以下の細孔面積S2-50が300m2/g以上1500m2/g以下であること、及び、
前記細孔容積VA(ml/g)に対して、半径5nm以上25nm以下の細孔容積V5-25(ml/g)の比率(V5-25/VA)が0.4以上0.7以下であると共に半径2nm以上5nm以下の細孔容積V2-5(ml/g)の比率(V2-5/VA)が0.2以上0.5以下であること。
(2) 前記細孔容積V5-25が0.7ml/g以上2ml/g以下であることを特徴とする前記(1)に記載の固体高分子形燃料電池用の担体炭素材料。
(3) 平均粒子半径が0.1μm以上5μm以下であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の固体高分子形燃料電池用の担体炭素材料。
(4) 前記1〜3のいずれかに記載の固体高分子形燃料電池用の担体炭素材料に、Pt又はPtを主成分とするPt合金からなる触媒金属微粒子が担持されていることを特徴とする固体高分子形燃料電池用の触媒。
【発明の効果】
【0022】
本発明の担体炭素材料は、これを用いて製造された固体高分子形燃料電池において、単に触媒層中の原料ガスのガス拡散性に優れているだけでなく、担体炭素材料の粒子内部に形成されたガス拡散細孔と触媒担持細孔とにより、可及的にフラッディング現象の発生を抑制できると共に担持された触媒金属を効率良く触媒反応に関与させることができ、大電流発電時、特に高加湿条件下での大電流発電時における電圧低下を防ぐことができ、良好な発電特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明の担体炭素材料の細孔構造を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明する。
本発明において最も重要なことは、担体炭素材料の粒子内部に、触媒金属の微粒子を担持させるのに必要な触媒担持細孔(従来の粒子内細孔に相当)と共に、ガス拡散性を発現させるのに必要なガス拡散細孔(従来の触媒層中の粒子間細孔に相当)を作り込むことである。より具体的には、本発明の担体炭素材料は、以下の基本的な指針に基づいて設計された細孔構造を有するものである。
【0025】
(1) 半径1nm以下のいわゆるミクロ孔は、低相対圧で水蒸気の凝縮が起き易くフラッディング現象の要因となるものである。また、ミクロ孔内ではガスの拡散も遅く、大電流の発電特性に対する寄与は実質的にないと考えられる。従って、ミクロ孔の容積、面積は小さい方が好ましいが、製法、原材料由来の材料固有のミクロ孔はある程度は許容するものである。本発明においては、メソ孔の容積・面積を規定することによりミクロ孔容積・面積の相対的比率を下げている。
【0026】
(2) 半径2nm以上50nm以下の細孔は、触媒金属微粒子を担持するのに必要な吸着部位を提供し、また、ガス(酸素と水蒸気)の拡散に必要な空間を提供する。そこで、本発明においては、半径2nm以上50nm以下の細孔容積の下限と上限を規定する。
(3) 半径2nm以上50nm以下の細孔の面積は、触媒金属微粒子の担持場所を提供するものであり、本発明においては、実用的な触媒金属微粒子の担持率である30質量%、好ましくは40質量%以上を可能にするための面積値の下限を定め、更に、実質的な上限を規定する。
【0027】
(4) 半径5nm以上25nm以下の細孔が、担体炭素材料の粒子内部におけるガス(酸素と水蒸気)の拡散を飛躍的に高める役割を果たすものであり、本発明のガス拡散細孔である。このガス拡散細孔は、従来の触媒層中の粒子間細孔に相当し、担体炭素材料の粒子内部で生成した水分子を粒子表面へと導くガス拡散流路を構成する。このガス拡散細孔の細孔径の容積は従来の活性炭等の数ミクロンサイズの炭素材料では存在しえない値である。
一般に、活性炭は、コークス、ヤシ殻、フェノール樹脂などの紛体を、塩化亜鉛による化学賦活、水蒸気による賦活等により、細孔を形成するものである。このような方法で導入される細孔は、比較的分子量の小さい物質を吸着させる目的に合わせるため、細孔半径1nm以下の細孔を主体とするような細孔構造になっており、本発明が求めるような5nm以上25nm以下の細孔は、従来の活性炭等においては殆ど存在しないものである。なお、具体的な活性炭の細孔構造の数値が実施例に示されている。
【0028】
(5) 半径2nm以上5nm以下の細孔は、実用的なサイズである半径1〜3nmの触媒金属微粒子を担持した上で、ガスが拡散できる空隙を持つ細孔のサイズとして設計されており、半径2nm以上50nm以下の細孔容積に対する半径2nm以上5nm以下の細孔容積の比率についてその下限と上限を規定する。
一般に固体高分子形燃料電池の担体炭素材料としてケッチェンブラックが用いられるが、この材料は、カーボンブラックを水蒸気で賦活して製造されている。この水蒸気賦活により形成される細孔は、反応初期に半径1nm以下のミクロ孔が材料表面から内部に向かって形成され、更に賦活反応が進むと、ミクロ孔を形成する壁が浸食され、細孔径が徐々に大きくなり、半径1nm以上のメソ孔が形成される。賦活の程度により形成されるミクロ孔とメソ孔の比率は異なるが、表面積を500m2/gに保とうとするとこの方法で形成される細孔の細孔径には上限があり、担体炭素材料として現在最も一般的に用いられているケッチェンブラックEC300についてみると、1次粒子径が40nm程度であって半径5nm以上の細孔は実質的にはほとんどゼロである。なお、ケッチェンブラックEC300の細孔構造の具体的な数値が実施例に示されている。
【0029】
本発明の担体炭素材料は、これを模式図で示すと、図1に示すような細孔構造を有する。すなわち、図1において、担体炭素材料の粒子1の内部には、メソ孔である半径2nm以上5nm以下の細孔(触媒担持細孔)2とメソ孔である半径5nm以上25nm以下の細孔(ガス拡散細孔)3とが存在し、触媒担持細孔2内には図示外の半径1〜3nmの触媒金属微粒子が担持され、この触媒担持細孔2内の触媒金属微粒子上で生成した水分子は直ちに触媒担持細孔2に通じるガス拡散細孔3内へと拡散し、更に粒子1の外部へと拡散し、触媒層中の粒子間細孔を経て触媒層の外部へと排出される。従って、本発明の担体炭素材料を用いて形成された触媒層においては、水蒸気と酸素ガスが十分に拡散できる空隙(ガス拡散路)が確保され、これにより高加湿条件下での大電流発電時においても効果的にフラッディング現象の発生を抑制することができ、また、大電流発電に必要な酸素ガスの供給が確保される。
【0030】
ここで、担体炭素材料の粒子内部に形成される細孔(触媒担持細孔及びガス拡散細孔)については、半径2nm以上50nm以下の細孔の容積の合計を全細孔容積VAと定義する。この全細孔容積の半径の上限を50nmと規定するのは以下の理由による。即ち、実用上の触媒層の厚みが10μm程度であることから、担体炭素材料の粒子についてはその粒子径が数μm程度に制約され、このような粒子径を有する担体炭素材料において十分な速さのガス拡散性を保ち、かつ、電池製造工程において必要とされる粒子の物理的強度を維持するためには少なくとも粒子径の1/10以下のサブミクロンの細孔径に限定される。他方、ガス吸着において信頼性のある細孔径の上限値は50nm程度であり、実質的に重要な細孔径の上限として50nmを選定した。
【0031】
本発明の担体炭素材料において、その粒子内部に形成される半径2nm以上50nm以下の細孔容積VAは1ml/g以上5ml/g以下であり、より好ましくは、VAは1.5ml/g以上4.5ml/g以下である。また、半径2nm以上50nm以下の細孔面積S2-50は300m2/g以上1500m2/g以下である。
上記の細孔容積VAが1ml/g以下では、粒子内部にガス拡散性に優れたガス拡散細孔を作ることができず、反対に、細孔容積VAが5ml/gを超えると、半径2nm以上50nm以下の細孔面積S2-50について300m2/g以上を確保しようとすると、細孔壁が薄くなり過ぎて粒子としての強度が小さくなり過ぎ、触媒金属を担持させる触媒作成工程やインク作成工程で細孔が潰れて担体炭素材料の微粉化が生じる虞がある。また、上記の細孔面積S2-50が300m2/gより小さいと、触媒金属微粒子を実用的な担持率の40質量%程度で担持するのに必要な面積を確保できず、その結果、触媒金属微粒子同士が凝集する等して発電特性が低下してしまう。また、この面積指標には本質的には上限がないが、実質的には1500m2/gまでであり、これより細孔面積S2-50の大きい担体炭素材料は、その粒子の機械的強度が低くて使用することができない。
【0032】
また、本発明の担体炭素材料は、上記の細孔容積VAに対して、半径5nm以上25nm以下の細孔容積V5-25(ml/g)の比率(V5-25/VA)が0.4以上0.7以下、好ましくは0.5以上0.65以下である必要がある。この比率(V5-25/VA)が0.4よりも小さいと、粒子内部にガス拡散性に優れたガス拡散細孔が形成されず、大電流発電時に水分子の凝縮が生じ易くなり、フラッディング現象が発生し易くなり、結果として酸素ガスの拡散が不十分になり、大電流発電時の電圧低下が大きくなって発電特性が低下する。反対に、上記の比率(V5-25/VA)が0.7よりも大きいと、上述のように、細孔壁が薄くなり、粒子としての強度が低下して触媒作成工程やインク作成工程で細孔が潰れて担体炭素材料の微粉化が生じる虞がある。
【0033】
この半径5nm以上25nm以下の細孔容積V5-25については、好ましくは0.7ml/g以上2ml/g以下であり、0.7ml/gより小さいと、細孔容積そのものが少な過ぎて粒子内部にガス拡散性に優れたガス拡散細孔が形成されず、大電流発電時に水分子の凝縮が生じ易くなり、フラッディング現象が発生し易くなり、反対に、2ml/gよりも大きいと、粒子としての強度が低下して触媒作成工程やインク作成工程で機械的に粉砕され、粒子が壊れると同時に細孔が潰れてしまう虞がある。
【0034】
更に、本発明の担体炭素材料は、上記の細孔容積VAに対して、半径2nm以上5nm以下の細孔容積V2-5の比率(V2-5/VA)が0.2以上0.5以下、好ましくは0.25以上0.4以下である必要がある。この比率(V2-5/VA)が0.2よりも小さいと、実用的な触媒金属微粒子の担持率を確保するのに必要な容積を確保できず、その結果、触媒金属微粒子同士が凝集する等して、触媒反応に有効な表面積が低下し、発電特性、特に大電流発電時の発電特性が低下してしまう。反対に、比率(V2-5/VA)が0.5よりも大きいと、相対的に半径5nm以上25nm以下の細孔容積V5-25が少なくなり、その結果、触媒金属を実質的に担持する半径2nm以上5nm以下の触媒担持細孔の細孔入口へ十分な酸素ガスを供給できず、あるいは、この触媒担持細孔内で発生した水分子を粒子外へ拡散できなくなって大電流発電時にフラッディング現象が発生する虞が生じ、また、酸素ガスの供給が律速となって大電流発電時の発電特性が低下する虞が生じる。
【0035】
本発明において、担体炭素材料の平均粒子半径は、従来のこの種の担体炭素材料が数10nmであるのに対して、好ましくは0.1μm(100nm)以上5μm(5000nm)以下、より好ましくは0.6μm以上3μm以下であることが望ましい。この平均粒子半径が0.1μmよりも小さいと、半径5nm以上25nm以下のガス拡散細孔を細孔容積VAに対する細孔容積V5-25(ml/g)の比率(V5-25/VA)0.4以上0.7以下で形成することが実質的に難しくなり、反対に、平均粒子半径が5.0μmよりも大きいと、実用的な厚み10μmの触媒層を形成した際にこの触媒層の表面に数μmオーダーの凹凸が生じ、反応ガスの流れが不均一になって発電特性が低下する虞がある。
【0036】
本発明の多孔質炭素材料からなる担体炭素材料としては、いわゆる賦活により多孔質化された炭素材料や、活性炭素繊維等の活性炭、特許文献2等に代表されるマグネシウム、ゼオライト、シリカ、アルミナ等を鋳型として形成された炭素材料、金属炭化物を塩素で高温処理して形成された炭素材料、ケッチェンブラック等に代表される多孔質カーボンブラックや、特許文献3等に代表される樹状構造を有する多孔質炭素材料等が挙げられる。また、これら多孔質カーボンブラックや多孔質炭素材料等を更に賦活処理して多孔質化された炭素材料であってもよい。
【0037】
本発明の多孔質炭素材料からなる担体炭素材料は、炭素材料に対して賦活処理による細孔の大孔径化や貫通孔化等を積極的に適用し、炭素材料の粒子内部に最適な細孔構造を作り込むことにより製造することができる。この際の賦活方法としては、例えばガス賦活法や薬品賦活法等が挙げられる。ガス賦活法としては、炭化した原料を水蒸気、二酸化炭素、空気、燃焼ガス等と700℃以上の温度で反応させて多孔質化させる方法がある。また、薬品賦活法としては、賦活剤としてリン酸、硫酸、塩化カルシウム、塩化亜鉛、硫化カリウム、及びアルカリ金属化合物等からなる群から選ばれた1種又は2種以上を用いる方法が挙げられる。これらの賦活剤は、必要に応じて、賦活剤水溶液として使用される場合がある。また、賦活剤として使用されるアルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物や、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩や、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム等のアルカリ金属硫酸塩等が挙げられる。
【0038】
また、本発明の担体炭素材料を用いて固体高分子形燃料電池用の触媒を製造する方法については、例えば、塩化白金酸等の触媒金属化合物の水溶液中に担体炭素材料を浸漬し、所定の温度で撹拌下に過酸化水素水を加え、次いでNa224水溶液を添加して触媒前駆体を調製し、この触媒前駆体を濾過、水洗、乾燥した後に、100%-H2気流中所定の温度及び時間の還元処理を行う方法等、従来から知られているこの種の触媒の製造方法を適用することができる。
更に、このようにして得られた本発明の固体高分子形燃料電池用の触媒を用いて、従来から知られている方法と同様の方法で、固体高分子形燃料電池用の触媒層を形成し、また、この触媒層を用いて固体高分子形燃料電池を製造することができる。
【0039】
ここで、前記担体炭素材料に担持させる触媒金属としては、アノード側又はカソード側の触媒層において必要な化学反応を促進する機能を有するものであれば、特に限定されるものではなく、具体例としては、白金、パラジウム、ルテニウム、金、ロジウム、オスミウム、イリジウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属、又は、これら金属の2種類以上が複合化した複合体や合金等が挙げられ、更には他の触媒金属や助触媒金属等が併用されてもよい。本発明において、特に触媒金属として好ましいものは、白金(Pt)又は白金を主成分とする白金合金(Pt合金)である。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の固体高分子形燃料電池用の担体炭素材料及び触媒について、実施例及び比較例に基づいて説明する。
なお、以下の実施例及び比較例において、細孔の細孔容積及び細孔面積の測定及び平均粒子半径の測定は下記の方法で行った。
【0041】
〔細孔容積及び細孔面積の測定〕
液体窒素温度における窒素ガスの吸着等温線から、解析により、本発明の細孔径を求めた。具体的には、マイクロトラック・ベル社製のBELSORPminiを用いた。装置に付属の解析ソフトにより、BJH法によりメソ孔の分布を算出した。その数値表から、本発明の半径2nm以上50nm以下の細孔容積VA、半径2nm以上50nm以下の細孔面積S2-50、半径5nm以上25nm以下の細孔容積V5-25、及び半径2nm以上5nm以下の細孔容積V2-5を算出した。
【0042】
〔平均粒子半径の測定〕
担体炭素材料の粒度分布の測定には、島津製作所社製のレーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-3000S)を用いた。その装置に付属の粒度分布の解析ソフトによる平均粒子径(対数表示で求めた粒子径に対する頻度に基づき計算した平均値)を本発明の平均粒子半径とした。
【0043】
1.担体炭素材料の調製
〔方法A:アルミナ粒子を鋳型とした担体炭素材料の調製〕
粒径(直径)が10nm、20nm、及び50nmのガンマ型アルミナ粒子〔SIサイエンス社製4N nano alumina(gamma)〕を用い、これら各ガンマ型アルミナ粒子に対して、ポリビニルアルコール粉末(完全けん化型、平均重合度1000)を重量比1:2の割合で混合し、不活性ガス雰囲気中600℃及び2時間の条件で保持した後、更に昇温して900℃で1時間保持して焼成した。その後、得られたアルミナ-炭素複合物を10質量%-水酸化ナトリウム水溶液中60℃で5時間以上処理し、アルミナを溶解して除去した。更に、濾過と純水への再分散とを3回繰り返して洗浄し、濾過して得られた固体を90℃で4時間乾燥し炭素材料を得た。
【0044】
このようにして得られた各炭素材料について、遊星ボールミル(フリッチュ・ジャパン社製プレミアムラインP7)を用い、回転数50〜200rpm及び10分間の処理条件で粉砕し、粒径(直径)10nmの原料を用いて得られた担体炭素材料A10と、20nmの原料を用いて得られた担体炭素材料A20と、50nmの原料を用いて得られた担体炭素材料A50とを得た。
更に、粒径(直径)10nmの原料を用いて得られた炭素材料を用い、粉砕条件を変更して4種類の担体炭素材料(A10S、A10SS、A10L、A10LL)を作成した。
【0045】
更に、粒径(直径)が10nmと20nmの上記ガンマ型アルミナ粒子を質量混合比2:1、1:1、又は1:2の割合で配合し、乳鉢で充分に混合して得られた各混合原料を用い、前述と同じ条件で炭素材料の調製を行い、上記と同様の条件で粉砕し、質量混合比2:1の混合原料を用いて得られた担体炭素材料A21と、質量混合比1:1の混合原料を用いて得られた担体炭素材料A11と、質量混合比1:2の混合原料を用いて得られた担体炭素材料A12とを得た。
【0046】
同様に、粒径(直径)が10nmと50nmの上記ガンマ型アルミナ粒子を質量混合比1:1の割合で配合し、乳鉢で充分に混合して得られた混合原料と、粒径(直径)が20nmと50nmの上記ガンマ型アルミナ粒子を質量混合比1:1の割合で配合し充分に混合して得られた混合原料とを用い、前述と同じ条件で炭素材料の調製を行い、上記と同様の条件で粉砕し、粒径(直径)10nmと50nmのガンマ型アルミナ粒子を用いて得られた担体炭素材料AA11と、粒径(直径)20nmと50nmのガンマ型アルミナ粒子を用いて得られた担体炭素材料AB11とを得た。
【0047】
以上のようにして得られた各担体炭素材料について、更に細孔を大きくする目的で以下の賦活処理を行い、それぞれ賦活処理後の担体炭素材料を得た。
〔賦活処理C〕
上で得られた各担体炭素材料をアルミナボート上に2〜3g秤量し、横型管状電気炉内にセットし、窒素ガスを100ml/分で流通しながら1100℃まで昇温させ、その後に二酸化炭素を100ml/分の速度で流通させながら処理時間1時間(-C1)又は処理時間3時間(-C3)の賦活処理を実施し、賦活処理後の各担体炭素材料を調製した。なお、このようにして得られた賦活処理後の各担体炭素材料については、例えば、担体炭素材料A10に1時間(-C1)の賦活処理を施して得られた賦活処理後の担体炭素材料をA10-C1と表記し、また、担体炭素材料A10に3時間(-C3)の賦活処理を施して得られた賦活処理後の担体炭素材料をA10-C3と表記するように、各担体炭素材料の記号の末尾に「-C1」又は「-C3」を付加して表す。
【0048】
〔賦活処理K〕
賦活処理として、賦活剤としてアルカリを用いたいわゆるアルカリ賦活についても検討した。このアルカリ賦活においては、上で得られた各担体炭素材料約2gとKOH粉末5〜10gとを乳鉢で混合し、得られた混合粉をニッケル製円筒容器に詰め、不活性ガス雰囲気中450℃で、処理時間1時間(-K1)又は処理時間3時間(-K3)の賦活処理を行い、その後、グローブボックス中で冷却後のニッケル円筒容器内にエタノールを入れ、アルカリ金属を溶解させて濾過し、得られた固体を純水で洗浄した後、90℃で4時間真空乾燥を行って賦活処理後の各担体炭素材料を調製した。得られた賦活処理後の各担体炭素材料については、賦活処理Cの場合と同様に、各担体炭素材料の記号の末尾に「-K1」又は「-K3」を付加して表す。
【0049】
〔方法B:グルコン酸Mgの焼成による担体炭素材料の調製〕
グルコン酸マグネシウムn水和物(C12H22MgO14・nH2O)を石英管ボートに充填し、横型管状電気炉中にセットした。毎分10℃の昇温速度で500℃まで昇温し、この温度で2時間保持し、その後900℃まで昇温し、更にこの温度で1時間保持し、グルコン酸マグネシウムn水和物の焼成を行った。焼成中は管状炉内に200ml/minのアルゴンガスを流通させ、焼成中に生成する揮発成分を除去した。この焼成工程で得られた炭素-マグネシウム複合物から希硫酸によりマグネシウム化合物を溶解・除去し、純水で洗浄し、濾過して乾燥し、担体炭素材料Bを得た。
【0050】
上記で得られた担体炭素材料Bについて、上記の賦活処理C又は賦活処理Kを行い、それぞれ賦活処理後の担体炭素材料を得た。得られた賦活処理後の担体炭素材料について、上記の方法Aの場合と同様に、末尾に「-C1」、「-C3」、「-K1」、又は「-K3」を付してそれぞれ担体炭素材料B-C1、担体炭素材料B-C3、担体炭素材料B-K1、担体炭素材料B-K3と表示した。
【0051】
〔方法C:メソポーラスシリカを鋳型とした担体炭素材料の調製〕
メソポーラスなアルミネートシリカ(アルドリッチ社製MCM41;アルミニウム3%)とスクロース(C12H22O11)とを混合し、これに濃硫酸を加え、200℃で2時間保持し、その後1200℃で1時間保持して焼成し、得られたシリカ-炭素複合物をフッ化水素で洗浄し、担体炭素材料Cを得た。
【0052】
次に、二酸化炭素の流通速度を30ml/minとしたこと以外は、上記の賦活処理Cに従って上記の担体炭素材料Cを処理し、賦活処理後の担体炭素材料を得た。得られた賦活処理後の担体炭素材料について、上記の方法Aの場合と同様に、それぞれ末尾に「-C1」又は「-C3」を付して担体炭素材料C-C1、担体炭素材料C-C3と表示した。
また同様に、不活性ガス雰囲気中500℃に加熱したこと以外は、上記の賦活処理Kに従って上記の担体炭素材料Cを処理し、賦活処理後の担体炭素材料を得た。得られた賦活処理後の担体炭素材料について、上記の方法Aの場合と同様に、それぞれ末尾に「-K1」又は「-K3」を付して担体炭素材料C-K1、担体炭素材料C-K3と表示した。
【0053】
〔方法D:ゼオライトを鋳型とした担体炭素材料の調製〕
ゼオライトを鋳型とした多孔質炭素材料は、京谷らの文献(炭素、2008年No.235、p307-316)に準じて作製した。鋳型として粉末Na-Y型ゼオライト(東ソー社製HZS-320NAA)を用い、下記の手順に従って数Åの3次元周期構造規則性を有する多孔質炭素材料を合成した。
予め150℃で乾燥したNa-Y型ゼオライトの粉末を石英製反応管に入れ、これにゼオライトが浸る程度にフルフリルアルコールを加え、撹拌しながら含浸させた。その後、150℃に加熱してゼオライトの空孔中に含浸させたフルフリルアルコールを重合させ、更に900℃の熱処理を行って空孔中の重合物を炭化させ、炭素-ゼオライト複合体を合成した。次に、得られた炭素-ゼオライト複合物をフッ化水素酸及び塩酸で処理し、ゼオライトを溶解し除去して多孔質炭素材料からなる担体炭素材料Dを得た。
【0054】
また、二酸化炭素の流通速度を30ml/minとしたこと以外は、上記の賦活処理Cに従って上記の担体炭素材料Dを処理し、賦活処理後の担体炭素材料を得た。得られた賦活処理後の担体炭素材料について、上記の方法Aの場合と同様に、それぞれ末尾に「-C1」又は「-C3」を付して担体炭素材料D-C1、担体炭素材料D-C3と表示した。
更に、不活性ガス雰囲気中500℃に加熱したこと以外は、上記の賦活処理Kに従って上記の担体炭素材料Dを処理し、賦活処理後の担体炭素材料を得た。得られた賦活処理後の担体炭素材料について、上記の方法Aの場合と同様に、それぞれ末尾に「-K1」又は「-K3」を付して担体炭素材料D-K1、担体炭素材料D-K3と表示した。
【0055】
〔その他の炭素材料:カーボンブラック、活性炭、MCND〕
カーボンブラックの例として、現在固体高分子型燃料電池の触媒担体として標準的に用いられているケッチェンブラック(ライオン社製EC300)を用いた。この材料を担体炭素材料Eとした。
活性炭の例として、クラレケミカル社製の「YP80F」を用い、粉砕機を用いて平均粒子半径1.2μmに調整した。この材料を担体炭素材料Fとした。
多孔質化していない炭素材料の例として、アセチレンブラック(AB;電気化学工業社製、デンカブラック粉状)を用いた。この材料を担体炭素材料Gとした。
特許文献3の実施例1に記載された方法に準じて炭素材料(MCND)を製造した。この材料を担体炭素材料Hとした。
【0056】
上で準備した各種の炭素材料について、それぞれ半径2nm以上50nm以下の細孔容積VA(ml/g)、半径2nm以上50nm以下の細孔面積S2-50(m2/g)、半径5nm以上25nm以下の細孔容積V5-25(ml/g)、半径2nm以上5nm以下の細孔容積V2-5(ml/g)、及び平均粒子半径(μm)を測定し、また、比率(V5-25/VA)及び比率(V2-5/VA)を算出し、各担体炭素材料の細孔構造を調べた。
結果を表1及び表2に示す。
【0057】
〔燃料電池の調製とその電池性能の評価〕
1.触媒及び触媒塗布インクの作製
表1及び表2に示す各担体炭素材料について、塩化白金酸、水、及びエタノールを所定比率で配合した混合溶液中に分散させ、その後脱気処理して混合溶液中に担体炭素材料が分散した分散液を調製した。次に、この分散液中に沈殿剤(還元剤)としてアンモニア水をゆっくり滴下し、1時間撹拌した。アンモニア水を用いて得られた沈殿物の洗浄と瀘過を行った。得られた固形分をHeガス雰囲気中350℃及び3時間の条件で焼成し、白金
担持量50質量%の白金担持炭素材料(Pt触媒)を得た。
【0058】
次に、上記Pt触媒をArガス雰囲気下で容器に取り、これに電解質材料としてDupont社製の電解質樹脂〔登録商標:ナフィオン(Nafion)〕を加えて軽く撹拌した後、超音波で白金担持炭素材料を解砕した。更に、撹拌下にエタノールを加え、Pt触媒とパースルホン酸系イオン交換樹脂との合計固形分濃度が1質量%となるように調整し、Pt触媒と電解質樹脂とが混合した触媒塗布インクを調製した。
【0059】
2.触媒層の調製
その後、上記のようにして作製した所定量の触媒塗布インク中に、攪拌下にエタノールを加えて白金濃度を0.5質量%に調整した後、触媒金属成分(白金)の触媒層単位面積当りの質量(以下、触媒金属成分の目付量という。)が0.2mg/cm2となるようにスプレー条件を調節し、上記触媒塗布インクをテフロン(登録商標)シート上にスプレー塗布し、次いでArガス雰囲気中120℃及び60分間の条件で乾燥処理を行い、触媒層を作製した。
【0060】
3.MEAの作製
作製した上記の触媒層を用いて、以下の方法でMEA(膜電極複合体)を作製した。ナフィオン膜(Dupont社製NR211)から一辺6cmの正方形状の電解質膜を切り出した。また
、テフロン(登録商標)シート上に塗布されたアノード及びカソードの各触媒層については、それぞれカッターナイフで一辺2.5cmの正方形状に切り出した。次に、切り出されたアノード及びカソードの各触媒層の間に、各触媒層が電解質膜の中心部を挟んでそれぞれ接すると共に互いにずれが生じないように、この電解質膜を挟み込み、120℃、100kg/cm2及び10分間の条件でプレスし、次いで室温まで冷却した後、アノード及びカソード共にテフロン(登録商標)シートのみを注意深く剥ぎ取り、アノード及びカソードの各触媒層が電解質膜に定着した触媒層-電解質膜接合体を調製した。
【0061】
次に、ガス拡散層として、カーボンペーパー(SGLカーボン社製35BC)から一辺2.5cmの大きさで一対の正方形状カーボンペーパーを切り出し、これらのカーボンペーパーの間に、アノード及びカソードの各触媒層が一致してずれが生じないように、上記触媒層-電解質膜接合体を挟み込み、120℃、50kg/cm2及び10分間の条件でプレスしてMEAを作製した。
【0062】
なお、作製された各MEAにおける触媒金属成分(白金)、炭素材料、電解質材料の各成分の目付量については、プレス前の触媒層付テフロン(登録商標)シートの質量とプレス後に剥がしたテフロン(登録商標)シートの質量との差からナフィオン膜(電解質膜)に定着させた触媒層の質量を求め、触媒層の組成の質量比より算出した。また、アノードには、炭素材料A-60-1400を共通して用い発電特性の評価結果からカソード触媒層の性能のみを評価できるようにした。
【0063】
4.燃料電池の評価試験
作製した各MEAについて、それぞれセルに組み込み、燃料電池測定装置を用いて以下の手順で燃料電池としての性能評価を行った。
供給ガスとして、カソードに空気を、また、アノードに純水素を、利用率がそれぞれ40%と70%となるように供給した。この際に、それぞれのガス圧については、セル下流に設けられた背圧弁で0.1MPaに圧力調整し、設定した。
【0064】
燃料電池としての性能評価については、フラッディング現象が発生し易い高加湿のガスを用い、大電流発電時の出力特性を評価した。具体的には、セル温度を80℃に設定し、また、供給する空気と純水素については、それぞれ85℃と80℃に保温された蒸留水中でバブリングを行って加湿した。この条件により、水蒸気が飽和した状態で空気と水素とがセルに送り込まれる。
上記の条件において、用いられた担体炭素材料の影響が顕著に表れる、即ち、ガス拡散抵抗が大きくなる領域の1200mA/cm2におけるセル電圧を測定して評価した。
表1及び表2中に、上述の方法で評価した各担体炭素材料のセル電圧を高加湿時の「出力電圧(V)」として示す。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
5.燃料電池の評価結果
(1) 方法Aで調製された担体炭素材料
A10は細孔容積VAが小さ過ぎ、かつ、半径5nmの粒子を鋳型とするために細孔容積V2-5が相対的に大きくなり、反対に細孔容積V5-25が小さくなって、粒子内部のガス拡散細孔が小さく、高加湿条件下の大電流発電時に所望の出力電圧(0.60V以上)が発現しなかった。また、A20とA50は、細孔容積VAが小さ過ぎ、鋳型の粒子径が5nm以上のため細孔容積V2-5が小さく、Pt微粒子の分散が悪く、かつ、反応ガスである酸素の粒子内拡散が悪くて所望の出力電圧が達成されなかった。
【0068】
〔賦活処理Cの効果〕
CO2で1時間賦活処理したA10-C1とA20-C1は、賦活により細孔容積VAが増大し、かつ、細孔容積V2-5と細孔容積V5-25のバランスがよくなり、また、細孔面積S2-50も十分に大きく、いずれも高加湿条件下の大電流発電時に良好な出力電圧を示した。他方、A50-C1は、細孔容積VAは増大したが、細孔容積V2-5の増加が少なく、所望の出力電圧を達成しなかった。 また、CO2で3時間賦活処理したA10-C3、A20-C3及びA50-C3は、共に賦活処理により細孔容積VAが増大し、かつ、細孔容積V2-5と細孔容積V5-25のバランスがよくなり、また、細孔面積S2-50も十分に大きく、いずれも高加湿条件下の大電流発電時に良好な出力電圧を示した。ただ、A50-C3は細孔容積V5-25の絶対値が若干小さく、出力電圧が他よりも少し劣る結果となった。
【0069】
A21、A11、及びA12は、いずれも、細孔面積S2-50が300m2/g未満であり、高加湿条件下の大電流発電時における出力電圧が低かった。その中でもA11とA12は、細孔容積V2-5と細孔容積V5-25のバランスがよく、細孔面積S2-50を大きくする賦活処理をすれば、良好な発電特性を発揮するものと期待される。
また、上記の3種類の担体炭素材料を、CO2で1時間又は3時間賦活処理して得られたA21-C1、A11-C1、A12-C1、A21-C3、A11-C3、及びA12-C3は、いずれも高加湿条件下の大電流発電時において良好な発電特性を発揮した。
【0070】
更に、AA11及びAB11は、何れも細孔容積V2-5と細孔容積V5-25のバランスがよいが、総容量である細孔容積VAが少なく、高加湿条件下の大電流発電時における出力電圧が低かった。AA11及びAB11に対してCO2賦活処理を行って得られたAA11-C3とAB11-C3は、共に高加湿条件下の大電流発電時における出力特性が良好であった。
【0071】
〔賦活処理Kの効果〕
A10、A20、A50、A21、A11、及びA12に対して、KOHで1時間又は3時間の賦活処理を行って得られた担体炭素材料において、鋳型の粒子径が50nm直径のA50の場合には、1時間の処理では細孔径の小さい細孔容積V2-5を作ることができなかったが、3時間の処理では細孔容積V2-5と細孔容積V5-25のバランスがよくて細孔面積S2-50が大きい所望の細孔構造になり、また、鋳型の粒子径が10nm直径又は20nm直径の担体炭素材料の場合には、何れも所望の細孔構造となり、高加湿条件下の大電流発電時に良好な発電特性を示した。
【0072】
〔平均粒子半径の効果〕
A10S-C3、A10SS-C3、A10L-C3、及びA10LL-C3は、何れも細孔構造(細孔容積VA、比率V2-5/VA、比率V5-25/VA、細孔容積V5-25、及び細孔面積S2-50)に優れており、特にA10S-C3とA10L-C3は、平均粒子半径がそれぞれ0.63μmと4.2μmであって、高加湿条件下の大電流発電時に良好な発電特性を示した。
【0073】
(2) 方法Bで調製された担体炭素材料
方法Bで得られた担体炭素材料Bは、細孔容積VAには優れているが、細孔容積V2-5の比率が高くて相対的に細孔容積V5-25の比率が低くなり、加湿条件下の大電流発電時における出力電圧が低かった。一方、担体炭素材料Bを原料として、賦活処理C又は賦活処理Kを実施して得られた担体炭素材料は、何れも細孔構造(細孔容積VA、比率V2-5/VA、比率V5-25/VA、細孔容積V5-25、及び細孔面積S2-50)に優れており、高加湿条件下の大電流発電時に良好な発電特性を発揮した。
【0074】
(3) 方法Cで調製された担体炭素材料
方法Cで調製された担体炭素材料Cは、細孔容積VAには優れているが、細孔容積V2-5の比率が高くて相対的に細孔容積V5-25の比率が低くなり、高加湿条件下の大電流発電時における出力電圧が低かった。一方、担体炭素材料Cを原料として、賦活処理C又は賦活処理Kを実施して得られた担体炭素材料は、いずれも細孔構造(細孔容積VA、比率V2-5/VA、比率V5-25/VA、細孔容積V5-25、及び細孔面積S2-50)に優れており、高加湿条件下の大電流発電時に良好な発電特性を発揮した。
【0075】
(4) 方法Dで調製された担体炭素材料
方法Dで調製された担体炭素材料Dは、ほとんど全ての細孔が半径1nm以下であり、半径2nm以上の細孔が実質的に存在せず、触媒担体として用いた際の高加湿条件下の大電流発電時における発電特性に劣るものであった。一方、担体炭素材料Dに対して、1時間の賦活処理Cを行って得られた担体炭素材料D-C1は、2nm以上の細孔形成が不十分で高加湿条件下の大電流発電時における出力電圧が低かったが、3時間の賦活処理Cを行って得られた担体炭素材料D-C3は、高加湿条件下の大電流発電時に良好な発電特性を示した。
【0076】
(4) その他の炭素材料
カーボンブラックの例として用いた担体炭素材料E、活性炭の例として用いた担体炭素材料F、多孔質化していない炭素材料の例として用いた担体炭素材料G、MCNDの例として用いた担体炭素材料Hは、何れも細孔構造(細孔容積VA、比率V2-5/VA、比率V5-25/VA、細孔容積V5-25、及び細孔面積S2-50)において劣るものであり、高加湿条件下の大電流発電時に所望の出力電圧を達成しなかった。
【符号の説明】
【0077】
1…担体炭素材料の粒子
2…半径2nm以上5nm以下の細孔(触媒担持細孔)
3…半径5nm以上25nm以下の細孔(ガス拡散細孔)
図1