特許第6392339号(P6392339)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6392339
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用の電極材料
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20180910BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20180910BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20180910BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
   H01M4/525
   H01M4/505
   H01M4/58
   H01M4/36 A
   H01M4/36 E
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-524737(P2016-524737)
(86)(22)【出願日】2014年6月30日
(65)【公表番号】特表2016-524301(P2016-524301A)
(43)【公表日】2016年8月12日
(86)【国際出願番号】EP2014063874
(87)【国際公開番号】WO2015003947
(87)【国際公開日】20150115
【審査請求日】2017年6月30日
(31)【優先権主張番号】13175541.5
(32)【優先日】2013年7月8日
(33)【優先権主張国】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】クルクリュス,イファナ
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルコフ,アレクセイ
(72)【発明者】
【氏名】ジュリンク,カルシュテン
【審査官】 式部 玲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−077421(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/176903(WO,A1)
【文献】 特開2012−256591(JP,A)
【文献】 特開2012−190786(JP,A)
【文献】 特開2011−228293(JP,A)
【文献】 特開2008−235151(JP,A)
【文献】 特表2011−502332(JP,A)
【文献】 特開2010−033924(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/133566(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
H01M 10/05−10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)一般式(I)
Li(1+x)[NiCoMn(1−x) (I)
(式中、記号は以下のように定義される:
xは、0.01〜0.07の範囲であり、
aは、0.3〜0.6の範囲であり、
bは、0〜0.35の範囲であり、
cは、0.2〜0.6の範囲であり、
dは、0〜0.05の範囲であり、
a+b+c+d=1であり、
は、Ca、Zn、Fe、Ti、Ba、Alから選択される
少なくとも1種の金属である。)
の少なくとも1種の成分と、
(b)一般式(II)
LiFe(1−y)PO・m リチウムホスフェート (II)
(式中、
yは、0〜0.8の範囲であり、
は、Co、Mn、Ni、V、Mg、Nd、Zn、及びYから選択される少なくとも1種の元素であり、
mは、0.01〜0.15から選択される。)
の少なくとも1種の成分と、
(c)導電的変性状態の炭素と、
を含み、
成分(b)に対する成分(a)の質量比が、30:70〜97.5:2.5の範囲であることを特徴とする電極材料。
【請求項2】
炭素(c)の量が、成分(b)に対して、2〜8質量%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の電極材料。
【請求項3】
成分(b)の表面(BET)が、5〜35m/gの範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の電極材料。
【請求項4】
aが、0.32〜0.50の範囲であり、
bが、0.20〜0.33の範囲であり、
cが、0.30〜0.40の範囲であり、
dが0である
ことを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の電極材料。
【請求項5】
リチウムホスフェートが、LiPO、LiPO、及び Li、又はそれらの少なくとも2種の組み合わせから選択されることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の電極材料。
【請求項6】
成分(a)が、傾斜材料であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の電極材料。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1項に記載の少なくとも1種の電極材料、及び少なくとも1種の結合剤(d)を含むことを特徴とするカソード。
【請求項8】
(A)請求項に記載の少なくとも1種のカソードと、
(B)少なくとも1種のアノードと、
(C)少なくとも1種の電解質と
を含むことを特徴とする電池。
【請求項9】
自動車のための請求項に記載の電池の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
(a)一般式(I)
Li(1+x)[NiCoMn(1−x) (I)
(式中、記号は以下のように定義される:
xは、0.01〜0.05の範囲であり、
aは、0.3〜0.6の範囲であり、
bは、0〜0.35の範囲であり、
cは、0.2〜0.6の範囲であり、
dは、0〜0.05の範囲であり、
a+b+c+d=1であり、
は、Ca、Zn、Fe、Ti、Ba、Alから選択される
少なくとも1種の金属である。)
の少なくとも1種の成分と、
(b)一般式(II)
LiFe(1−y)PO・m リチウムホスフェート (II)
(式中、
yは、0〜0.8の範囲であり、
は、Co、Mn、Ni、V、Mg、Nd、Zn、及びYから選択される少なくとも
1種の元素であり、
mは、0.01〜0.15から選択される。)
の少なくとも1種の成分と、
(c)導電的変性状態の炭素と、
を含む電極材料に関する。
【0002】
更に、本発明は、本発明の電極材料の製造方法に関する。更に、本発明は、本発明の電極材料の使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン二次電池は、エネルギーを貯蔵するための最新の装置である。小型装置、例えば、携帯電話及びラップトップコンピュータから、カーバッテリ及びエレクトロモビリティ(electromobility)のための他のバッテリまで多くの適用分野が考えられる。電池の様々な構成要素、例えば、電解質、電極材料及びセパレータは、電池の性能に関して重要な役割を有する。特に注目すべきは、カソード材料である。いくつかの材料、例えば、リチウム鉄ホスフェート、リチウムコバルトオキシド、及びリチウムニッケルコバルトマンガンオキシドが提案された。広範な研究が行われているが、見出された解決策は未だ改善の余地がある。
【0004】
様々な研究者が、リチウム鉄ホスフェート中のリチウム及び遷移金属の化学量論の影響について研究をしている。D.−H.Kim等による 「J. Power Sources」(2006年、159巻、237ページ)においては、リチウム鉄ホスフェート中のリチウムホスフェートの不純物についての報告がされ、過剰の鉄を有する試料は、より大きな容量、及びより優れた速度能力を有することが開示されている。P. Axmann 等による「Chem. Mater.」(2009年、 21巻、1636ページ)においては、リチウム鉄ホスフェート中のLiPOが、不活性質量として作用し得ると結論付けた。
【0005】
EP2565966(WO2011/136549)及びEP2571082(WO2011/142554)においては、LiPOで被覆されたリチウム化したニッケル−コバルト−マンガンオキシドが開示されている。被覆することの余計な工程が面倒である。
【0006】
WO2008/088180においては、ハイブリッド電極材料が開示されており、それは、2種のリチウム含有複合酸化物を含み、一つは、好ましくはリチウム鉄ホスフェートであり、もう一つは、リチウム遷移金属オキシド、例えば、LiCoO又はLiNi1/3Co1/3Mn1/3である。好ましくは、LiCoO又はLiNi1/3Co1/3Mn1/3は、それぞれ、リチウム鉄ホスフェートで表面コーティングされている。開示された材料には、安全性能の向上が見られる。
【0007】
しかしながら、それらは、様々な温度、特に、45℃以上の温度における容量に関し、特に、そのような高温における容量ロスに関して未だ改善の余地がある。更に、例えば、高温、例えば、45℃以上における、サイクル安定性及びCレート性能が、同様に改善されるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】EP2565966(WO2011/136549)
【特許文献2】EP2571082(WO2011/142554)
【特許文献3】WO2008/088180
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】D.−H.Kim等による 「J. Power Sources」(2006年、159巻、237ページ)
【非特許文献2】P. Axmann 等による「Chem. Mater.」(2009年、 21巻、1636ページ)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、45℃以上における容量が向上し、特にそのような高温における容量ロスが向上した電池を提供することであった。更に、目的は、45℃以上における容量が向上し、特にそのような高温における容量ロスが向上した電池の製造方法を提供することであった。
【発明を実施するための形態】
【0011】
従って、冒頭で定義された材料が見出され、以下で、本発明の電極材料又は本発明に記載の電極材料とも呼ばれる。
【0012】
本発明の電極材料は、少なくとも3種の成分、すなわち、成分(a)、(b)及び(c)を含む。前述の3種の成分について、以下により詳細に記載する。
【0013】
好ましい実施形態においては、成分(a)は、一般式(I)によって特徴付けられる。
【0014】
Li(1+x)[NiCoMn(1−x) (I)
【0015】
(式中、変数は以下のように定義される:
xは、0.01〜0.07の範囲、好ましくは0.05まで、更により好ましくは0.02〜0.04の範囲であり、
aは、0.3〜0.6、好ましくは、0.32〜0.50の範囲であり、
bは、0〜0.35、好ましくは、0.20〜0.33の範囲であり、
cは、0.2〜0.6、好ましくは0.30〜0.40の範囲であり、
dは、0〜0.05の範囲であり、好ましくはdは0であり、
a+b+c+d=1である)。
【0016】
は、Ca、Zn、Fe、Ti、Ba、Alから選択される少なくとも1種の金属である。 d≠0である実施形態においては、Mについては、Al及びTiが好ましい。
【0017】
本発明の実施形態の一つにおいては、上述の一般式(I)は、成分(a)の電気的に中性の状態を指す。好ましくは、成分(a)は、上述の一般式(I)の1種の化合物である。
【0018】
本発明の実施形態の一つにおいては、成分(a)中の最大5mol‐%のオキシドイオンが、フルオリドによって置換されてもよい。他の実施形態においては、成分(a)は、基本的に、フッ素を含むことがなく、すなわち、オキシドに対してフッ素が100ppm未満、又は実験的に検出するレベル未満でもよい。フルオリドの含有量は、例えば、CaFについての質量分析、又は好ましくはイオンクロマトグラフィーによって測定されてもよい。
【0019】
成分(a)の合成は、2工程で行われ得る。第1の工程では、例えば、ニッケル、マンガン、及び任意に、コバルト及び/又はMの水溶性塩、例えば、カーボネート、ヒドロキシド、ヒドロキシド−カーボネート、オキシド及びオキシヒドロキシドの共沈によって前駆体が形成される。第2の工程では、前駆体はリチウム塩、例えばLiOH又はLiCOと混合され、その混合物がか焼(燃焼)される。本発明においては、その前駆体は、Mを含む遷移金属の総量に対して、モル過剰量のリチウム化合物と混合される。成分(a)の合成における水不溶性は、それぞれの前駆体が、20℃の温度で、pH値が7である蒸留水1リットル当り、0.1g以下の溶解度であることを意味する。
【0020】
成分(b)は、一般式
LiFe(1−y)PO・m リチウムホスフェート (II)
(式中、
yは、0〜0.8、好ましくは0〜0.2の範囲であり、
は、Ti、Co、Mn、Ni、V、Mg、Nd、Zn及びYから選択される少なくとも1種の元素であり、y≠0である実施形態においては、Ti、Co及びMnから選択されるMが好ましく、
mは、0.01〜0.15、好ましくは0.02〜0.10から選択される値である。)
によって特徴付けられる。
【0021】
本発明の実施形態の一つにおいては、上述の一般式(II)は、電気的に中性状態の成分(b)を指す。本発明の実施形態の一つにおいては、リチウムホスフェートは、LiPO、LiPO及びLi又はそれらの少なくとも2種の組み合わせ、例えば、LiPO及びLiの組み合わせから選択される。
【0022】
本発明の実施形態の一つにおいては、成分(b)は、その成分の中で均質ではなく、リチウムホスフェートは、成分(b)上に不均一に分布される。好ましくは、リチウムホスフェートは、主に、又は専ら一次粒子であるLiFe(1−y)POの境界に存在し、リチウムホスフェートは、LiFe(1−y)POの構造の中に取り込まれないが、二次相として存在する。
【0023】
多くの元素が偏在する。例えば、ナトリウム、銅及び塩素は、実質的に全ての無機材料において、一定の非常に小さな割合で検出され得る。本発明において、0.1質量%未満の割合のカチオン又はアニオンは無視される。従って、0.1質量%未満のナトリウムを含む式(I)又は(II)の化合物は、本発明においては、ナトリウムを含まないとみなされる。同様に、0.1質量%未満のサルフェートイオンを含む式(I)又は(II)の化合物は、本発明においてはサルフェートを含まないとみなされる。
【0024】
いかなる理論によって拘束されることを望むことなく、追加のリチウムホスフェート化合物は、リチウムイオンが、特に高温で、粒界を横断して移動することを容易にすることが考えられる。
【0025】
いかなる理論によって拘束されることを望むことなく、高温、例えば、45℃、又は更には60℃において、リチウムホスフェートは、リチウムイオン、特に成分(a)についての余分のリザーバ(reservoir)として機能してもよい。
【0026】
成分(b)は、様々な方法によって、例えば、固体法(solid state methods)又は、沈殿法によって製造され得る。実施形態の一つにおいては、成分(b)は、ゲル法によって製造され得る。ゲル法によって、合成の初期段階からナノメートル規模で、材料の構造をコントロールすることができる。水溶性の鉄(III)塩、例えば、Fe(NO又はFe(SO、Li塩、例えば、LiOH又はLiCO、ホスフェート源、例えば、NHPO、及び還元剤、例えば、アスコルビン酸、及び任意に少なくとも1種のMの水溶性化合物、例えば、Co(NO、Mn(NO、Ni(NO、VO(NO、VOCl、VOCl、ZnCl、Zn(NO、Mg(NO等を含む水溶液は、水を蒸発させることによってゲル化する。キセロゲルが得られた後、300〜400℃で乾燥され、その後、機械的に処理され、再び、450〜550℃で乾燥される。続いて、好ましくは水素雰囲気下で、700〜825℃でか焼される。還元剤、好ましくはアスコルビン酸は、炭素源としても機能し得る。
【0027】
他の実施形態においては、成分(b)は、水熱条件下で、鉄源としての水不溶性鉄化合物から開始して合成され得る。そのような実施形態においては、水不溶性鉄(III)化合物、例えば、Fe、Fe、FeOOH又はFe(OH)の水性スラリーは、少なくとも1種の還元剤、例えば、ヒドラジン、ヒドラジンハイドレート、ヒドラジンサルフェート、ヒドロキシルアミン、炭素を主原料とする還元剤、例えば、第1級又は第2級アルコールと混合されて、還元糖、又はアスコルビン酸又は還元性リン化合物、例えば、HPO3、又はそのアンモニウム塩が製造される。炭素源、例えば、グラファイト、煤、又は活性炭素が加えられ得る。還元剤がいずれのリン原子を有していない場合には、ホスフェート源、例えば、リン酸、アンモニウムホスフェート、又はアンモニウム(ジ)ハイドロゲンホスフェート、特に、(NHHPO又はNHPOが加えられる。HPO又はそのアンモニウム塩、及びホスフェート源の組み合わせも同様に可能である。その後、そのように得られるスラリーは、リチウム化合物、例えば、LiCO、LiOH等の存在下で、好ましくは、1〜24時間の間、100〜350℃の範囲の温度に到達する。反応は、1〜100barの範囲の圧力で行われ得る。その後、水が除去され、その後に、好ましくは、水素の存在下で、例えば、700〜900℃におけるか焼が続く。
【0028】
他の実施形態においては、成分(b)は、水熱条件下で、鉄源としての水溶性鉄化合物から開始して合成され得る。そのような実施形態においては、水溶性鉄(II)化合物、例えば、FeSO・7HO、又は水溶性鉄(III)化合物、例えば、Fe(SO・7HOの水溶液は、追加の任意の還元剤、例えば、アスコルビン酸を使用して、又は使用せずに、及び/又は追加のポリエチレングリコール(PEG)を使用して、又は使用せずに、Li化合物、例えば、LiOH・HO、及びリン化合物、例えば、HPO、(NHPO・3HO、NHPO又は(NHHPOと混合される。その後、そのようにして得られる溶液は、120〜190℃、好ましくは175℃を超える温度で、水熱によって処理される。水熱処理後、ほとんどの場合、そのようにして得られる粉末は高温、例えば、600〜800℃の範囲の温度で処理される。
【0029】
他の実施形態においては、成分(b)は、ゾル−ゲル法によって合成され得る。そのような実施形態においては、少なくとも1種の有機溶媒、例えば、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)中の、水溶性鉄(II)化合物、例えばFe(アセテート)、リチウム化合物、例えば、LiCO又はリチウムアセテート、及びHPOの溶液が製造される。その後、好ましくは蒸発によって、有機溶媒は除去される。その後、残留物は、段階的に700℃に加熱され、その後、還元雰囲気下、例えば、水素雰囲気下で、750〜850℃の範囲の温度でか焼される。
【0030】
他の実施形態においては、成分(b)は、オキサレート、例えば、鉄オキサレートから合成され得る。鉄オキサレートは、アルコールの存在下で、ボールミル粉砕によって、又は高せん断ミキサーを使用して、FeC・2HO、及びリチウム化合物、例えば、LiCO又はLiOH・2HO、及びNHPOとの化学量論的混合物を製造することによる固体法で使用され得る。炭素源、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)又はグルコースが加えられ、結果として得られる材料は、還元雰囲気下で、例えば、600〜800℃で焼結される。
【0031】
他の実施形態においては、鉄オキサレートは、ソフト化学、すなわち、レオロジー相反応法に使用されることができ、FeC・2HOは、完全に粉砕し、ポリマー、例えば、炭素源としてのポリエチレングリコールを加えることによって、リチウム化合物、例えば、LiCO3、及びリン化合物、例えば、NHPOと混合される。その後、そのようにして得られる前駆体は、不活性雰囲気下で400〜800℃に加熱される。
【0032】
他の実施形態においては、成分(b)は、650〜800℃の範囲における固体状態反応によって、結晶水を有さない又は好ましくは結晶水を有する鉄ホスフェート及びリチウム塩、好ましくはLiCOの混合物から合成され得る。
【0033】
上述の実施形態のそれぞれにおいては、鉄又は鉄の合計に対してモル過剰量のリチウム塩及びMが使用される。
【0034】
上述の化合物の式においては、結晶水が無視されている。成分(b)の合成用の出発材料における水溶性は、20℃で蒸留水に10g/l以上の溶解度を示す化合物を指す。成分(b)の合成用の出発材料における水不溶性は、20℃で蒸留水に0.1g/l以下の溶解度を示す化合物を指す。
【0035】
本発明による電極材料は、さらに導電的変性状態の炭素を含み、つまり、炭素(c)とも呼ばれる。炭素(c)は、煤、活性炭素、カーボンナノチューブ、グラフェン及びグラファイトから選択され得る。炭素(c)は、それ自体、本発明による電極材料の製造時に加えられることができ、又は、成分(a)又は好ましくは、成分(b)と共に、例えば、有機化合物を加え、その有機化合物と共に成分(b)の任意の前駆体をか焼することによって製造され得る。高分子有機化合物は、好ましい炭素源として機能する有機化合物の例である。
【0036】
本発明の実施形態の一つにおいては、成分(b)に対する成分(a)の質量比が、30:70〜97.5:2.5の範囲、好ましくは、80:20〜95:5、より好ましくは85:15〜95:5の範囲である。特に、60℃を超える温度で、成分(b)に対する成分(a)の質量比が、30〜70未満に低下する場合には、30サイクル以上後の容量は、非常に低下する。
【0037】
本発明の実施形態の一つにおいては、炭素(c)の量は、成分(b)に対して1〜8質量%、好ましくは少なくとも2質量%の範囲である。
【0038】
本発明の実施形態の一つにおいては、成分(b)の表面(BET)は、5〜35m/g、好ましくは7〜15m/gの範囲である。
【0039】
本発明の実施形態の一つにおいては、成分(a)の表面(BET)は、0.2〜10m/g、好ましくは、0.3〜1m/gの範囲である。表面(BET)は、例えば、DIN66131に準ずる吸窒によって測定され得る。
【0040】
本発明の実施形態の一つにおいては、成分(a)の一次粒子は、1〜2000nm、好ましくは10〜1000nm、特に好ましくは、50〜500nmの平均粒径を有する。
【0041】
本発明の実施形態の一つにおいては、成分(a)の二次粒子の粒径(D50)は、6〜16μm、特に7〜9μmの範囲である。本発明における平均粒径(D50)は、例えば、0.5〜3barの範囲の圧力での、特にレーザー散乱技術による光散乱によって測定され得る体積基準の粒径の平均を指す。
【0042】
本発明の実施形態の一つにおいては、成分(b)の一次粒子は、1〜2000nm、好ましくは10〜1000nm、特に好ましくは、50〜500nm、さらにより好ましくは80〜270nmの範囲の平均粒径を有する。一次粒子の平均粒径は、例えば、SEM若しくはTEMによって、又はXRD法によって測定され得る。そのようなXRD法は、好ましくは、ピーク幅が結晶子径と反比例するシェラー方程式を使用する。
【0043】
本発明の実施形態の一つにおいては、成分(b)は、1μm〜10μm、好ましくは2〜5μm、さらにより好ましくは4〜5μmの範囲の平均粒径(d50)を有するような一次粒子の凝集体の形態である。
【0044】
本発明の実施形態の一つにおいては、成分(b)は、一次結晶(一次粒子)間、及び二次粒子の表面が炭素(c)の層によって被覆される。
【0045】
本発明の実施形態の一つにおいては、炭素(c)は、1〜500nmの範囲、好ましくは2〜100nmの範囲、特に好ましくは2〜50nmの範囲、非常に特に好ましくは2〜4nm又はそれ未満の範囲の一次粒子の平均粒径を有する。
【0046】
本発明の実施形態の一つにおいては、分子(I)による成分(a)は、傾斜材料(gradient material)の形態で提供される。本発明による傾斜材料は、粒子、特に、二次粒子を指し、少なくとも2種の遷移金属の遷移金属含有量が、粒子の直径における半径方向に一定ではない。好ましくは、マンガンの含有量は、Ni、Co、Mn、及び該当する場合はM1の合計に対して、粒子の殻の中で、10〜20モル%大きい。好ましくは、ニッケルの含有量は、粒子の殻の中で、Ni、Co、Mn、及び該当する場合は、M1の合計に対して、それぞれの粒子の殻と比較して、10〜20モル%大きい。他の実施形態において、分子(I)に記載の成分(a)においては、それぞれの粒子の直径方向に遷移金属イオンが均一に分布している。
【0047】
本発明に記載の材料は、特に、カソード材料として機能してもよい。
【0048】
本発明のさらなる態様においては、カソードは、本発明に記載の少なくとも1種の電極材料を含む。それらは特に、リチウムイオン電池に有用である。本発明に記載の少なくとも1種の電極を含むリチウムイオン電池は、特に、高温(45℃以上、例えば、60℃を超える温度)で、非常に良好な放電挙動及びサイクル挙動を示し、特に、容量ロスに関しては、高温、例えば、60℃以上の温度で、良好で安全な挙動を示す。好ましくは、サイクル安定性及びCレート容量の挙動が向上される。本発明に記載の少なくとも1種の電極材料を含むカソードは、以下で、本発明のカソード又は本発明に記載のカソードとも呼ぶ。
【0049】
本発明に記載のカソードは、更なる成分を含み得る。それらは、電流コレクタ、限定はしないが、例えば、アルミニウム箔を含み得る。それらは更に、結合剤(d)を含み得る。
【0050】
好適な結合剤(d)は、好ましくは、有機(コ)ポリマーから選択される。好適な(コ)ポリマー、すなわち、ホモポリマー又はコポリマーは、例えば、アニオン、カチオン又はフリーラジカルの(コ)ポリマー化によって得られる(コ)ポリマー、特に、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、ポリスチレン、及びエチレン、プロピレン、スチレン、(メタ)アクリロニトリル並びに1,3−ブタジエンから選択される少なくとも2種のコモノマーのコポリマーから選択され得る。ポリプロピレンもまた好適である。ポリイソプレン及びポリアクリレートは更に好適である。特に好ましくは、ポリアクリロニトリルである。
【0051】
本発明においては、ポリアクリロニトリルは、ポリアクリロニトリルホモポリマーだけでなく、アクリロニトリルと、1,3−ブタジエン又はスチレンとのコポリマーも意味するものとして理解される。好ましくは、ポリアクリロニトリルホモポリマーである。
【0052】
本発明においては、ポリエチレンは、ホモポリエチレンだけでなく、少なくとも50モル%のコポリマー化エチレン及び50モル%までの少なくとも1種の更なるコモノマー、例えば、α−オレフィン、例えば、プロピレン、ブチレン(1−ブテン)、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−ペンテン、並びにイソブテン、ビニル芳香族、例えば、スチレン、並びに(メタ)クリル酸、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、(メタ)クリル酸、特に、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレートのC−C10−アルキルエステル、並びにマレイン酸、マレイン酸無水物、並びにイタコン酸無水物を含むエチレンのコポリマーもまた意味するものと理解される。ポリエチレンは、HDPE又はLDPEでもよい。
【0053】
本発明においては、ポリプロピレンは、ホモポリプロピレンだけでなく、少なくとも50モル%のコポリマー化プロピレン及び50モル%までの少なくとも1種の更なるコモノマー、例えば、エチレン並びにα−オレフィン、例えば、ブチレン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン並びに1−ペンテンを含むプロピレンのコポリマーもまた意味するものとして理解される。ポリプロピレンは、好ましくは、イソタクチックな又は、本質的にイソタクチックなポリプロピレンである。
【0054】
本発明においては、ポリスチレンは、スチレンのホモポリマーだけでなく、アクリロニトリル、1,3−ブタジエン、(メタ)クリル酸、(メタ)クリル酸のC−C10アルキルエステル、ジビニルベンゼン、特に1,3−ジビニルベンゼン、1,2−ジフェニルエチレン並びにα−メチルスチレンとのコポリマーもまた意味するものと理解される。
【0055】
他の好ましい結合剤(d)は、ポリブタジエンである。
【0056】
他の好適な結合剤(d)は、ポリエチレンオキシド(PEO)、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリイミド、及びポリビニルアルコールから選択される。
【0057】
本発明の実施形態の一つにおいては、結合剤(d)は、平均分子量Mが、50000〜1000000g/mol、好ましくは500000g/molまでの範囲である(コ)ポリマーから選択される。
【0058】
結合剤(d)は、架橋又は非架橋(コ)ポリマーでもよい。
【0059】
本発明の特に好ましい実施形態においては、結合剤(d)は、ハロゲン化(コ)ポリマー、特に、フッ素化(コ)ポリマーから選択される。ハロゲン化又はフッ素化(コ)ポリマーは、分子当たり、少なくとも1種のハロゲン原子、又は少なくとも1種のフッ素化原子、より好ましくは、分子当たり、少なくとも2種のハロゲン原子、又は少なくとも2種のフッ素化原子を有する少なくとも1種の(コ)ポリマー化(コ)モノマーを含む(コ)ポリマーを意味するものとして理解される。例えば、ポリビニルクロリド、ポリビニリデンクロリド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオリド(PVdF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ビニリデンフルオリド−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVdF−HFP)、ビニリデンフルオリド−テトラフルオロエチレンコポリマー、ペルフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー、ビニリデンフルオリド−クロロトリフルオロエチレンコポリマー、及びエチレン−クロロフルオロエチレンコポリマーである。
【0060】
好適な結合剤(d)は、特に、ポリビニルアルコール、及びハロゲン化(コ)ポリマーであり、例えば、ポリビニルクロリド、又はポリビニリデンクロリド、特にフッ素化(コ)ポリマー、例えば、ポリビニルフルオリド、特にポリビニリデンフルオリドフルオリド、及びポリテトラフルオロエチレンである。
【0061】
本発明のカソードは、成分(a)、成分(b)及び炭素(c)の合計に対して、1〜15質量%の結合剤(d)を含んでもよい。他の実施形態においては、本発明のカソードは、0.1質量%より大きく、1質量%未満の結合剤(d)を含んでもよい。
【0062】
本発明の更なる実施形態においては、
(A)成分(a)、成分(b)、炭素(c)、及び結合剤(d)を含む少なくとも1種のカソード
(B)少なくとも1種のアノード、及び
(C)少なくとも1種の電解質
を含む電池である。
【0063】
カソード(A)の実施形態については、上述で詳細に記載されている。
【0064】
アノード(B)は、少なくとも1種のアノード活物質、例えば、カーボン(グラファイト)、TiO、リチウムチタンオキシド、シリコン又はスズを含んでもよい。アノード(B)は、更に、電流コレクタ、例えば、金属箔、例えば銅箔を含んでもよい。
【0065】
電解質(C)は、少なくとも1種の非水溶媒、少なくとも1種の電解質塩、及び任意に添加剤を含んでもよい。
【0066】
電解質(C)用の非水溶媒は、室温で、液体又は液体でもよく、好ましくは、ポリマー、環状又は非環状エーテル、環状又は非環状アセタール、及び環状又は非環状有機カーボネートから選択される。
【0067】
好適なポリマーの例は、特に、ポリアルキレングリコール、好ましくは、ポリ−C−C−アルキレングリコール、特にポリエチレングリコールである。ポリエチレングリコールは、ここでは、20mol%までの1種以上のC−C−アルキレングリコールを含み得る。ポリアルキレングリコールは、好ましくは2個のメチル又はエチル末端キャップを有するポリアルキレングリコールである。
【0068】
好適なポリアルキレングリコール、及び特に好適なポリエチレングリコールの分子量Mは、少なくとも400g/molとなり得る。
【0069】
好適なポリアルキレングリコール、及び特に好適なポリエチレングリコールの分子量Mは、最大5000000g/mol、好ましくは最大2000000g/molとなり得る。
【0070】
好適な非環状エーテルは、例えば、ジイソプロピルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタンであり、好ましくは1,2−ジメトキシエタンである。
【0071】
好適な環状エーテルの例は、テトラヒドロフラン、及び1,4−ジオキサンである。
【0072】
好適な非環状アセタールの例は、例えば、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、1,1−ジメトキシエタン、及び1,1−ジエトキシエタンである。
【0073】
好適な環状アセタールの例は、1,3−ジオキサン、及び特に、1,3−ジオキソランである。
【0074】
好適な非環状有機カーボネートの例は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネートである。
【0075】
好適な環状有機カーボネートの例は、一般式(III)及び(IV)の化合物である。
【0076】
【化1】
【0077】
(式中、R、R及びRは、同一又は異なっていてもよく、水素及びC−C−アルキル、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、第二級ブチル、及び第三級ブチルから選択され、R及びRは、好ましくは共に第三級ブチルではない。)
【0078】
特に好ましい実施形態においては、Rはメチルであり、R及びRは、それぞれ水素であり、又はR、R及びRは、それぞれ水素である。
【0079】
他の好ましい環状有機カーボネートは、ビニレンカーボネート、式(V)
【化2】
である。
【0080】
溶媒は好ましくは、水を含まない状態で使用される。すなわち、水の含有量は1ppm〜0.1質量%の範囲であり、それは、例えば、カールフィッシャー滴定で測定され得る。
【0081】
電解質(C)は、更に、少なくとも1種の電解質塩を含む。好適な電解質塩は、特に、リチウム塩である。好適なリチウム塩の例は、LiPF、LiBF、LiCl、LiAsF、LiCFSO、LiC(C2n+1SO、リチウムイミド、例えば、LiN(C2n+1SO(式中、nは1〜20の範囲の整数である)、LiN(SOF)、LiSiF、LiSbF、LiAlCl4、及び一般式(C2n+1SOYLiの塩(式中、tは以下のように定義される:
Yが、酸素及び硫黄から選択されるとき、t=1
Yが、窒素及びリンから選択されるとき、t=2
Yが、炭素及びケイ素から選択されるとき、t=3)である。
【0082】
好ましい電解質塩は、LiC(CFSO、LiN(CFSO、LiPF、LiBF、LiClOから選択され、特に好ましくは、LiPF及びLiN(CFSOである。
【0083】
本発明の実施形態の一つにおいては、本発明に記載の電池は、1種以上のセパレータ(D)を含み、それによって電極は機械的に分離される。好適なセパレータ(D)は、ポリマーフィルム、特に、多孔性ポリマーフィルムであり、それらは金属リチウムに対して反応性を有さない。セパレータ(D)用の特に好適な材料は、ポリオレフィン、特に、フィルム状の多孔性ポリエチレン及びフィルム状の多孔性ポリプロピレンである。
【0084】
ポリオレフィン、特にポリエチレン又はポリプロピレンからなるセパレータ(D)は、35〜45%の範囲の多孔率を有し得る。好適な孔径は、例えば、30〜500nmの範囲である。
【0085】
本発明の他の実施形態においては、セパレータ(D)は、無機粒子が充填されたPET不織布から選択され得る。そのようなセパレータの多孔率は、40〜55%の範囲となり得る。好適な孔径は、例えば、80〜750nmである。
【0086】
本発明に記載の電池は、更に、任意の形状、例えば、立方形又は円筒状のディスク若しくは円筒状の缶の形状を有するハウジングを含み得る。変形例の一つにおいては、ポーチとして構成される金属箔はハウジングとして使用される。
【0087】
本発明に記載の電池は、特に、高温(45℃以上、例えば60℃まで)で、特に、容量ロスに関して、非常に良好な放電及びサイクル挙動を示す。
【0088】
本発明に記載の電池は、互いに接続され、例えば、直列又は並列で接続され得る2個以上の電気化学電池を含み得る。好ましくは、直列接続である。本発明に記載の電池において、少なくとも1個の電気化学電池は、本発明に記載の少なくとも1種のカソードを含む。好ましくは、本発明に記載の電気化学電池においては、電気化学電池の大部分は、本発明に記載のカソードを含む。更により好ましくは、本発明に記載の電池においては、全ての電気化学電池は、本発明に記載のカソードを含む。
【0089】
本発明は更に、機器、特に、移動機器(mobile appliances)における本発明に記載の電池の使用方法を提供する。移動機器の例は、車両、例えば、自動車、自転車、航空機又は水上乗り物、例えば、ボート又は船である。移動機器の他の例は、手動で移動する機器、例えば、コンピュータ、特に、ラップトップ、電話、又は電動ハンドツール、例えば、建築分野においては、特に、ドリル、電池駆動ネジ廻し、又は電池駆動ステープラーである。
【実施例】
【0090】
全体的注釈:%は、別段記載がない限り、質量%を指す。
【0091】
混合遷移金属オキシド/ヒドロキシド前駆体は、空気中で数時間乾燥させたNi0.33Co0.33Mn0.33(OH)等のヒドロキシドであった。乾燥中に、遷移金属の一部が酸化され、対イオンの一部は、ヒドロキシドではなく、オキシドである。以下の実施例においては、そのような酸化を考えずに、その前駆体をヒドロキシドとして表示する。
【0092】
Nmは、通常の条件下(周囲温度/1bar)におけるmを指す。
【0093】
LiOHを、LiOH・HOとして使用した。実施例中の量は、水を含まないLiOHを指す。
【0094】
I.カソード活物質の合成
I.1 化合物(I)の合成
I.1.1 化合物(I.1)の合成
球状の粒子であり、平均粒径が10μmである前駆体Ni0.33Co0.33Mn0.33(OH)を、細かく粉砕したLiCOと混合した。Ni0.33Co0.33Mn0.33(OH)中の遷移金属の合計に対するリチウム(LiCO)のモル比は、1.11であった。そのようにして得た混合物40gを、箱形炉、すなわち、焼結アルミニウムオキシドから製造された長方形の匣鉢の中でか焼した。か焼を空気中で、3K/分の加熱速度で行った。か焼温度プログラムは以下の通りであった:350℃まで加熱し、350℃を4時間保つ。675℃まで加熱し、675℃を4時間保つ。900℃まで加熱し、900℃を6時間保つ。その後、室温まで冷却する。冷却後、そのようにして得た式(I.1)の化合物
Li1.06[Ni0.33Co0.33Mn0.330.94 (I.1)
を乳鉢内で挽いた。その挽いた化合物(I.1)を、メッシュサイズが32μmである篩に掛けた。そして、32μm未満の直径を有する化合物(I.1)の粒子を30g採取した。
【0095】
I.1.2 化合物(I.2)の合成
球状の粒子であり、平均粒径が10μmである前駆体Ni0.4Co0.2Mn0.4(OH)を、細かく粉砕したLiCOと混合した。Ni0.4Co0.2Mn0.4(OH)中の遷移金属の合計に対するリチウム(LiCO)のモル比は、1.13であった。そのようにして得た混合物40gを、箱形炉、すなわち焼結アルミニウムオキシドから製造された長方形の匣鉢の中でか焼した。か焼を空気中で、3K/分の加熱速度で行った。か焼温度プログラムは以下の通りであった:350℃まで加熱し、350℃を4時間保つ。675℃まで加熱し、675℃を4時間保つ。925℃まで加熱し、925℃を6時間保つ。その後、室温まで冷却する。冷却後、そのようにして得た式(I.2)
Li1.07[Ni0.4Co0.2Mn0.40.93 (I.2)
の化合物を乳鉢内で挽いた。その挽いた化合物(I.2)をメッシュサイズが32μmである篩に掛けた。32μm未満の直径を有する化合物(I.2)の粒子を30g採取した。
【0096】
I.2 式(II)で表される成分の合成
I.2.1 化合物(II.1)の合成
以下の材料を使用した:
80.9g LiOH(3.38mol)
280.8g α−FeOOH(3.16mol)
190.6g HPOの85質量%の水溶液(1.63mol)
134.2g(1.6mol)HPO(98%)
46.6g デンプン
46.6g ラクトース
【0097】
ミキサー及びヒーターが備えられた6リットルの反応器に4600gのHOを充填した。そのHOを76℃の温度まで加熱した。その後、材料の添加を開始した。最初に、LiOHを加え、20分以内に溶解させた。発熱反応によって、その溶液の温度が80.5℃まで上昇した。その後、α−FeOOHを加え、更に20分間攪拌した。その後、HPO及びHPOを加えた。20分後、粉末状のデンプン及びラクトースを加えた。そのようにして得た黄色のスラリーの温度は87℃であった。その後、水500gを加えた。そのようにして得たスラリーを85℃で、21時間攪拌した。
【0098】
その後、固形分を噴霧乾燥によって分離させた。上述の工程で製造した懸濁液を、乾燥ガスとしてのN(25Nm/h)を使用し、以下の噴霧乾燥パラメータ:
in 295℃〜298℃
out 135℃〜143℃
スラリー供給:724.1g/時間
を適用して噴霧乾燥させた。
【0099】
噴霧乾燥後、122gの黄色のスプレー粉末を得た。
【0100】
上述で得たスプレー粉末60gを、回転式石英バルブ内でか焼した。その回転式バルブを10rpmの速度で回転させた。スプレー粉末試料を、11.33℃/分の加熱速度で、周囲温度から700℃の温度まで加熱した。最後に、その材料を、Nフローの流れ(16NL/時間)の中で、1時間、700℃の温度でか焼した。その後、そのようにして得た黒色材料(化合物(I.1))を室温まで冷却した。
【0101】
化学量論組成LiFePO・0.023LiPOの化合物(II.1)を、50μm未満の篩に掛けた。それは、約3.6質量%の炭素を含有していた。LiPOは、LiFePOの一次粒子の粒界に存在していた。
【0102】
I.2.2 比較目的用のリチウム鉄ホスフェートの合成
以下の材料を使用した:
75.6g LiOH(3.16mol)
280.8g α−FeOOH(3.16mol)
182.2g HPOの85質量%の水溶液(1.58mol)
134.2g HPO(98%)
46.6g デンプン
46.6g ラクトース
【0103】
ミキサー及びヒーターが備えられた6リットルの反応器に、4600gのHOを充填した。その水を76℃の温度まで加熱した。その後、材料の添加を開始した。最初に、LiOHを加え、20分以内に溶解させた。発熱反応によって、その溶液の温度が80.5℃に上昇した。その後、α−FeOOHを加え、更に20分間攪拌した。その後、HPO及びHPOを加えた。20分後、粉末状のデンプン及びラクトースを加えた。そのようにして得た黄色のスラリーの温度は87℃であった。その後、HO500gを加えた。得られたスラリーを85℃で21時間を超える時間の間、攪拌した。
【0104】
その後、固形分を噴霧乾燥によって分離した。上述の工程で製造した懸濁液を、乾燥ガスとしてのN(25Nm/時間)を使用し、以下の噴霧乾燥パラメータ:
in 295℃〜298℃
out 135℃〜143℃
スラリー供給:724.1g/時間
を適用して噴霧乾燥させた。
【0105】
噴霧乾燥後、122gの黄色のスプレー粉末を得た。
【0106】
上述で得たスプレー粉末60gを、回転式石英バルブ内でか焼した。その回転式バルブを10rpmの速度で回転させた。スプレー粉末試料を、11.33℃/分の加熱速度で、周囲温度から700℃の温度まで加熱した。最後に、材料を、Nフローの流れ(16NL/時間)の中で、1時間、700℃の温度でか焼した。その後、そのようにして得た黒色材料(化合物(II.2))を室温まで冷却した。LiPOを使用せずに、化学量論組成LiFePOの比較化合物C−(II.2)を得た。それを50μm未満の篩に掛けた。それは、約3.5質量%の炭素を含有していた。
【0107】
II. 本発明に係るカソード並びに電池、及び比較例のカソード並びに電池の製造
II.1 本発明に係るカソード及び電池の製造
化合物(a)及び(b)の4種の混合物を製造した:
ボールミル中で、化合物(I.1)80gを、化合物(II.1)20gと混合することで本発明のカソード活物質CAM.1.を製造した。
【0108】
ボールミル中で、化合物(I.1)80gを、比較化合物C−(II.2)20gと混合することで比較例のカソード活物質C−CAM.2.を製造した。
【0109】
ボールミル中で、化合物(I.2)80gを、化合物(II.1)20gと混合することで本発明のカソード活物質CAM.3.を製造した。
【0110】
ボールミル中で、化合物(I.2)80gを、比較化合物C−(II.2)20gと混合することで比較例のカソード活物質C−CAM.4.を製造した。
【0111】
フル電池(full cells)の製造:
カソード(A.1)を製造するために、以下の材料を互いに混合させた:
93gのCAM.1
3gのポリビニリデンジフルオリド,(d.1)(“PVdF”),Arkema Group製のKynar Flex(R)2801として市販されている。
【0112】
2.5gのカーボンブラック,(c.1),BET表面積が62m/gであり、Timcal製の“Super C65L”として市販されている。
【0113】
1.5gのグラファイト,(c.2),Timcal製のKS6として市販されている。
【0114】
攪拌時に、十分な量のN−メチルピロリドン(NMP)を加え、その混合物をUltraturrax(R)を用いて硬く、かつ塊のない(lump-free、ダマがない)ペーストになるまで攪拌した。
【0115】
カソードを以下のように製造した:30μmの厚みを有するアルミニウム箔上に、15μmのドクターブレードで上述のペーストを塗布した。乾燥後のローディング(loading)は2.0mAh/cmであった。ロードした箔を105℃で、真空オーブン内で16時間乾燥させた。それをフード内で、室温まで冷却させた後、円盤状のカソードを箔から打ち抜いた。その後、そのカソードディスクを計量し、それらをアルゴングローブボックス内に入れて再び真空乾燥させた。その後、製造したディスクを有する電気化学電池を組み立てた。
【0116】
電気化学試験を“TC2”電池において行った。使用した電解質(C.1)は、1Mの
エチルメチルカーボネート/エチレンカーボネート(体積比は1:1)中のLiPF溶液であった。
【0117】
セパレータ(D.1):ガラス繊維、アノード(B.1):グラファイト、電池の電位範囲:2.70V〜4.2V
本発明の電気化学電池(BAT.1)を得た。
【0118】
II.2 本発明に記載のカソード及び電気化学電池、並びに比較例のカソード及び電気化学電池の製造
比較する目的のために、本発明の(CAM.1)を、等量のC−CAM.2に置き換えて上述の実験を繰り返した。
【0119】
そして、比較例の電気化学電池C−(BAT.2)を得た。
【0120】
本発明の(CAM.1)を等量のCAM.3に置き換えて上述の実験を繰り返した場合には、本発明の電気化学電池(BAT.3)を得る。
【0121】
本発明の(CAM.1)を等量のC−CAM.4に置き換えて上述の実験を繰り返した場合には、比較例の電気化学電池(BAT.4)を得る。
【0122】
III. 電気化学電池の試験
本発明に係る電気化学電池、及び比較例の電気化学電池について、それぞれ以下のサイクルプログラムを行った:電池の電位範囲:2.70V〜4.2V、0.1C(第1及び第2サイクル)、0.5C(第3サイクルから)、1C=150mA/g、温度:60℃
表1に記載のフル電池における容量ロスは以下のように算出した:60サイクル後の平均容量と2サイクル後の平均容量との差を60サイクル後の平均容量で割り、100を掛けたものが容量ロス(“フェーディング(fading、減退)”)である。
【0123】
【表1】
【0124】
同様に、周囲温度においても、本発明に係る電気化学電池は、比較例の電気化学電池を上回る優位性を示す。