(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(A)に由来する構造単位の含有量(X)が0.05モル%以上10モル%以下であり、けん化度が80.0モル%以上99.9モル%以下である変性ビニルアルコール系重合体粉末であって、
前記重合体粉末500mgをヘッドスペースガスクロマトグラフィーで測定した場合のメタノール含有量が前記重合体粉末500mgに対して0.01重量%以上3.0重量%未満であり、
90℃、濃度5重量%の水溶液に不溶な成分の量が0.1ppm以上2000ppm未満である、変性ビニルアルコール系重合体粉末。
前記エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(A)が、エチレン性不飽和ジカルボン酸のモノエステル、ジエステル又は無水物である、請求項1に記載の変性ビニルアルコール系重合体粉末。
前記エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(A)が、マレイン酸モノアルキルエステル、マレイン酸ジアルキルエステル、無水マレイン酸、フマル酸モノアルキルエステル又はフマル酸ジアルキルエステルを含む、請求項1又は2に記載の変性ビニルアルコール系重合体粉末。
前記エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(A)とビニルエステル系単量体(B)とを共重合して、ビニルエステル系共重合体(C)を得る工程、得られたビニルエステル系共重合体(C)をメタノール溶媒中でアルカリ触媒を用いてけん化するけん化工程、けん化後の重合体を酢酸メチルの含有量が45体積%以上である洗浄液に含浸する工程を有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の変性ビニルアルコール系重合体粉末の製造方法。
前記けん化工程において、20重量%を超える濃度に調製したビニルエステル系共重合体(C)の溶液及びアルカリ触媒を混合し、得られた半固体状物又は固体状物を粉砕機で粉砕する、請求項7に記載の変性ビニルアルコール系重合体粉末の製造方法。
前記エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(A)とビニルエステル系単量体(B)とを共重合して、ビニルエステル系共重合体(C)を得る工程、得られたビニルエステル系共重合体(C)をメタノール溶媒中でアルカリ触媒を用いてけん化するけん化工程を有し、該けん化工程において、メタノール溶媒中に溶解しているビニルエステル系共重合体(C)の濃度が10重量%未満である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の変性ビニルアルコール系重合体粉末の製造方法。
【背景技術】
【0002】
ビニルアルコール系重合体(以下、「PVA」と略記することがある。)は水溶性の合成高分子として知られており、合成繊維ビニロンの原料に用いられ、また紙加工、繊維加工、接着剤、乳化重合及び懸濁重合用の安定剤、無機物のバインダー、フィルム等の用途に広範囲に用いられている。
【0003】
特にカルボン酸又はその誘導体に由来する基を含有するPVAはカルボン酸の反応性を利用して、硫酸バンドを含有する酸性紙のサイジング剤;架橋剤と組み合わせた耐水性塗膜等に用いられている。さらにはカルボン酸及びその誘導体の水溶性を生かして、農薬、洗濯用洗剤、工業用薬品の包装用フィルムとしても工業的に有用であり幅広く利用されている。
【0004】
PVAへの、カルボン酸又はその誘導体に由来する基の導入は、例えばビニルエステル系単量体と、カルボン酸又はその誘導体を含有する単量体とを共重合して共重合体を得た後、該共重合体をけん化することにより行われる。カルボン酸又はその誘導体に由来する基を効率的に導入するために、ビニルエステル系単量体と反応性の高いエチレン性不飽和ジカルボン酸誘導体が用いられ、その工業的入手容易性の観点から、マレイン酸誘導体、フマル酸誘導体の使用が知られている。これらの中でも、マレイン酸、フマル酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸はビニルエステル系単量体に対しての溶解性が乏しいため、溶液重合法においては、エチレン性不飽和ジカルボン酸のモノエステル、ジエステル、又は無水物等の、ビニルエステル系単量体への溶解性が向上した単量体が使用される。
【0005】
PVAは通常、酢酸ビニルをメタノール溶媒中でラジカル重合して酢酸ビニル重合体のメタノール溶液を得た後に、アルカリ触媒を添加してけん化することにより製造されるため、溶媒のメタノールが、乾燥して得られるPVA粉末中に必ず残存する。PVA粉末中に残存するメタノールは、PVAを水に溶解する際に粉末中より開放されるが、開放されたメタノールは通常そのまま大気に放出されることになる。
【0006】
昨今、有機揮発分大気放出抑制の観点から、PVA粉末中に残存するメタノールを低減することが求められており、メタノール含有量を3重量%未満、さらには1重量%未満とする加熱乾燥技術が開発されてきている(特許文献1〜3)。
【0007】
特許文献1及び2には乾燥中に含水ガスを供給することにより、PVA粉末中の有機揮発成分と水分を置換して、効率的に有機揮発分を取り除く技術が開示されている。しかしながら、エチレン性不飽和ジカルボン酸のモノエステル、ジエステル又は無水物に由来する構造単位を含有する変性PVAは、水に対する親和性、溶解性が高く、含水ガスを供給すると粉末粒子の表面が溶解し、乾燥中に粒子同士が融着しブロックを生成してしまい、有機揮発分除去工程の通過が困難となるため、前記変性PVAへのこの技術の適応は困難である。
【0008】
特許文献3では、PVAを炭素数2〜3のアルコールを主体とする洗浄液で洗浄することでメタノール含有量を効率的に低減する技術が提案されている。しかしながら、メタノールよりも沸点、蒸発潜熱の高い、炭素数2〜3のアルコールを使用しているために通常よりも乾燥工程での必要な熱量、時間の増加を招いてしまうことから、製造コストアップ等の工業的な問題が残っているのが現状である。
【0009】
上記のような乾燥技術を用いずとも、通常であれば高温で長時間加熱乾燥することにより、メタノールの除去は可能である。しかしながら、エネルギーの消費が多く、工業的な生産効率が犠牲になることに加え、エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(例えば、モノエステル、ジエステル、又は無水物)に由来する構造単位を含有する変性PVAでは、高温下、非特許文献1に記載されるように、モノエステル、ジエステル、無水物由来の構造部分とPVAの水酸基部分との架橋反応が進行し、水に不溶な成分が生成するため、高温での乾燥条件の選択が困難である。したがって、当該変性PVAにおいて、メタノール含有量3重量%未満の要求を満たし、かつ水に不溶な成分の生成を抑制することは両立できず、実質困難とされてきた。また、このような変性PVAの性質から、通常よりも高熱量、長時間乾燥が必要となる特許文献3の方法の適用も困難である。さらに、水に不溶な成分はフィルム等に成型加工した際には亀裂の基点の原因になり、フィルム製品の収率低下となる一方で、PVA水溶液として用いる場合にストレーナー等の詰まりの原因になるため、その含有量を抑制する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体に由来する構造単位を含有する変性PVA粉末において、該変性PVA粉末中に存在するメタノール含有量が低減され、さらに水に溶解した際の不溶成分の量が微量である、環境に配慮し、工業的に有用な変性PVA粉末及びその製造方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、該変性PVA粉末を用いてなる水溶性フィルム及び包装体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、変性PVA粉末の粒子径あるいは乾燥前の洗浄条件を工夫することにより、エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体に由来する構造単位を導入した場合でも、粉末中に存在するメタノール含有量が3.0重量%未満であり、さらに水に溶解した際の不溶成分の量2000ppm未満を実現可能であることを見い出し、この知見に基づいてさらに研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
[1]エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(A)に由来する構造単位の含有量(X)が0.05モル%以上10モル%以下であり、けん化度が80.0モル%以上99.9モル%以下である変性ビニルアルコール系重合体粉末であって、前記重合体粉末500mgをヘッドスペースガスクロマトグラフィーで測定した場合のメタノール含有量が0.01重量%以上3.0重量%未満であり、90℃、濃度5重量%の水溶液に不溶な成分の量が0.1ppm以上2000ppm未満である、変性ビニルアルコール系重合体粉末。
[2]前記エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(A)が、エチレン性不飽和ジカルボン酸のモノエステル、ジエステル又は無水物である、前記[1]の変性ビニルアルコール系重合体粉末。
[3]前記エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(A)が、マレイン酸モノアルキルエステル、マレイン酸ジアルキルエステル、無水マレイン酸、フマル酸モノアルキルエステル又はフマル酸ジアルキルエステルを含む、前記[1]又は[2]の変性ビニルアルコール系重合体粉末。
[4]前記エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(A)に由来する構造単位の少なくとも一部が、下記式(I)
【化1】
(式中、R
1は、水素原子、又は炭素数1〜8の直鎖状あるいは分岐状のアルキル基であり、R
2は、金属原子、水素原子又は炭素数1〜8の直鎖状あるいは分岐状のアルキル基である。)
で表される構造単位であり、前記エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(A)に由来する構造単位の含有量(X)と式(I)で表される構造単位の含有量(Y)の値が下記式(Q)を満たす、前記[1]〜[3]のいずれかの変性ビニルアルコール系重合体粉末。
0.05≦Y/X<0.98 (Q)
[5]目開き1.00mmの篩を通過する粒子が、全体の95重量%以上である、前記[1]〜[4]のいずれかの変性ビニルアルコール系重合体粉末。
[6]目開き500μmの篩を通過する粒子が、全体の30重量%以上である、前記[1]〜[5]のいずれかの変性ビニルアルコール系重合体粉末。
[7]前記エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(A)とビニルエステル系単量体(B)とを共重合して、ビニルエステル系共重合体(C)を得る工程、得られたビニルエステル系共重合体(C)をメタノール溶媒中でアルカリ触媒を用いてけん化するけん化工程、けん化後の重合体を酢酸メチルの含有量が45体積%以上である洗浄液に含浸する工程を有する、前記[1]〜[6]のいずれかの変性ビニルアルコール系重合体粉末の製造方法。
[8]前記けん化工程において、20重量%を超える濃度に調製したビニルエステル系共重合体(C)の溶液及びアルカリ触媒を混合し、得られた半固体状物又は固体状物を粉砕機で粉砕する、前記[7]の変性ビニルアルコール系重合体粉末の製造方法。
[9]前記けん化工程において酸を用いて中和しない、前記[7]又は[8]の変性ビニルアルコール系重合体粉末の製造方法。
[10]前記エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(A)とビニルエステル系単量体(B)とを共重合して、ビニルエステル系共重合体(C)を得る工程、得られたビニルエステル系共重合体(C)をメタノール溶媒中でアルカリ触媒を用いてけん化するけん化工程を有し、該けん化工程において、メタノール溶媒中に溶解しているビニルエステル系共重合体(C)の濃度が10重量%未満である、前記[1]〜[6]のいずれかの変性ビニルアルコール系重合体粉末の製造方法。
[11]前記[1]〜[6]のいずれかの変性ビニルアルコール系重合体粉末を含有する水溶性フィルム。
[12]さらに可塑剤を含有する前記[11]の水溶性フィルム。
[13]さらに界面活性剤を含有する前記[11]又は[12]の水溶性フィルム。
[14]前記[11]〜[13]のいずれかの水溶性フィルムで薬品を収容してなる包装体。
[15]前記薬品が農薬又は洗剤である前記[14]の包装体。
【発明の効果】
【0015】
本発明の変性ビニルアルコール系重合体粉末(以下、「変性PVA粉末」ともいう。)は、エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(A)に由来する構造単位を導入した場合でも、粉末中に存在するメタノール含有量が3.0重量%未満であるため、使用の際の有機揮発分排出低減につながり、さらには90℃、濃度5重量%の水溶液に不溶な成分の量が2000ppm未満であるため、フィルターの目詰まり等の問題を起こすことが無く、紙塗工剤、耐水性組成物、農薬や洗濯用洗剤等の各種薬品の包装材として好適に用いられる。また、本発明の変性PVA粉末を用いてなる水溶性フィルム及び包装体は、ピンホールが生じにくく、良好な表面外観を有する包装体を収率よく得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[変性PVA粉末]
本発明の変性PVA粉末のエチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(A)に由来する構造単位の含有量(X)は0.05モル%以上10モル%以下であることが重要であり、0.2モル%以上10モル%以下が好ましく、1.0モル%以上8.0モル%以下がより好ましく、1.5モル%以上6.0モル%以下がさらに好ましく、2.5モル%以上6.0モル%以下が特に好ましい。エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(A)に由来する構造単位の含有量(X)が0.05モル%未満の場合には、カルボン酸の導入量が少なく、紙の表面強度向上等の性能を発現できない場合がある。また10モル%を超える場合には、水溶性が高すぎ、空気中の水分により変性PVA粉末が互いに接着しブロックを形成する等のハンドリング性に問題が出る場合;フィルム強度等の実用物性が不十分となる場合があり、また、製造時に架橋による水への不溶成分の生成が多くなり、不溶成分の量を2000ppm未満に制御することが困難な場合がある。エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(A)に由来する構造単位の含有量(X)は、けん化前のビニルエステル系共重合体(C)の
1H−NMR解析により算出できる。
【0017】
なお、本明細書において、数値範囲(各成分の含有量、各成分から算出される値及び各物性等)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。
【0018】
本発明の変性PVAのけん化度は、80.0モル%以上99.9モル%以下であることが重要であり、82.0モル%以上99.9モル%以下が好ましく、85.0モル%以上99.9モル%以下がより好ましい。けん化度が80.0モル%未満の場合には、強度等の実用物性が不十分となる場合がある、あるいは90℃、濃度5重量%の水溶液に不溶な成分の量を2000ppm未満とすることが困難な場合がある。99.9モル%以上は実質製造不可能である。変性PVAのけん化度は、JIS K 6726(1994年)に記載の方法に従って測定できる。
【0019】
本発明の変性PVAの粘度平均重合度(以下、単に「重合度」ともいう。)は、特に限定されないが、100〜5000が好ましく、150〜4500がより好ましく、200〜4000がさらに好ましい。変性PVAの重合度は、JIS K 6726(1994年)に記載の方法に従って測定できる。
【0020】
本発明の変性PVA粉末中に存在するメタノール含有量は、後記する所定の条件において0.01重量%以上3.0重量%未満であることが重要であり、0.01重量%以上2.5重量%未満が好ましく、0.01重量%以上2.0重量%未満がより好ましい。0.01重量%未満は実質製造不可能である。
【0021】
本発明の変性PVA粉末中に存在するメタノール含有量はヘッドスペースガスクロマトグラフィーを用いて、以下の方法で決定される。
<検量線の作成>
イソプロピルアルコールを内部標準として、メタノール含有量が既知の水溶液を3種類準備し、ヘッドスペースサンプラー(Turbo Matrix HS40、Parkin Elmer社製)を装着したガスクロマトグラフ(GC−2010、島津製作所製)を用いて測定を行い、検量線を作成する。
<変性PVA粉末中に存在するメタノール含有量の測定>
蒸留水を1000mLメスフラスコの標線に合わせて採取し、内部標準液のイソプロピルアルコールをメスピペットにて0.1mL添加し、よく攪拌する。この液を「溶解液」とする。次に変性PVA粉末500mgをヘッドスペースガスクロマトグラフィー測定用のバイアル瓶中に秤量し、攪拌子を投入した後、上記溶解液をホールピペットで10mL測りとり、バイアル瓶中に投入する。キャップをバイアル瓶に取り付け、ロックがかかるまで締め付けた後、バイアル瓶をホットスターラー上に乗せて、変性PVA粉末を加熱溶解する。変性PVA粉末が完全に溶解したことを目視で確認後、ヘッドスペースガスクロマトグラフィー測定を行い、上記のようにして作成した検量線から変性PVA粉末中のメタノール含有量を決定する。
【0022】
本発明の変性PVA粉末は、90℃、濃度5重量%の水溶液に不溶な成分の量が0.1ppm以上2000ppm未満であり、0.1ppm以上1000ppm未満がより好ましく、0.1ppm以上500ppm未満が特に好ましい。0.1ppm未満は実質製造不可能である。上記特定の水溶液に不溶な成分の量が2000ppm以上である場合、得られるフィルムが破断しやすくなったり、変性PVA粉末を用いて得られるパウチ(包装体)にピンホールが生じやすくなりパウチ収率が低下する。本明細書において、ppmは重量ppmを意味する。
【0023】
前記特定の水溶液に不溶な成分の量は、以下の方法で決定される。
20℃に設定した水浴中に、攪拌機及び還流冷却管を装着した500mLのフラスコを準備し、前記フラスコに蒸留水を285g投入して、300rpmで攪拌を開始する。変性PVA粉末15gを秤量し、フラスコ中に該変性PVA粉末を徐々に投入する。変性PVA粉末を全量(15g)投入したのち、30分程度かけて水浴の温度を90℃まで上昇させることによって変性PVA粉末を溶解させて、変性PVA溶液を得る。水浴の温度が90℃に到達後、さらに60分間300rpmで攪拌しながら溶解を継続する。その後、前記変性PVA溶液を用いて、未溶解で残留する変性PVAの粒子(以下、「未溶解粒子」ともいう。)を目開き63μmの金属製フィルターでろ過する。次いで、フィルターを90℃の温水でよく洗浄し、フィルターに付着した変性PVA溶液を取り除き、フィルター上に未溶解粒子のみを残した後、フィルターを120℃の加熱乾燥機で1時間乾燥する。乾燥後のフィルターの重量とろ過に使用する前のフィルターの重量とを比較し、未溶解粒子の重量を算出する。こうして得られた未溶解粒子の重量を、前記特定の水溶液に不溶な成分の量とする。
【0024】
本発明に用いるエチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(A)は、本発明の効果を妨げない限り、特に制限されない。エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(A)としては、エチレン性不飽和ジカルボン酸のモノエステル、ジエステル又は無水物が単量体として好ましい。前記エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(A)の具体例としては、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、シトラコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、メサコン酸モノメチル、メサコン酸モノエチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル等のモノアルキル不飽和ジカルボン酸エステル;マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、シトラコン酸ジメチル、シトラコン酸ジエチル、メサコン酸ジメチル、メサコン酸ジエチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル等のジアルキル不飽和ジカルボン酸エステル;無水マレイン酸、シトラコン酸無水物等の不飽和ジカルボン酸無水物が挙げられる。これらの単量体の中でも、工業的入手の観点、ビニルエステル系単量体との反応性の面からマレイン酸モノアルキルエステル、マレイン酸ジアルキルエステル、無水マレイン酸、フマル酸モノアルキルエステル、フマル酸ジアルキルエステルが好ましく、マレイン酸モノメチル、無水マレイン酸が特に好ましい。本発明の変性PVA粉末は、少なくとも1種の上記エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(A)由来の構造単位を有していればよく、2種以上のエチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(A)を併用することもできる。
【0025】
前記エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(A)に由来する構造単位の少なくとも一部が、下記式(I)
【化2】
(式中、R
1は、水素原子、又は炭素数1〜8の直鎖状あるいは分岐状のアルキル基であり、R
2は、金属原子、水素原子又は炭素数1〜8の直鎖状あるいは分岐状のアルキル基である。)
で表される構造単位であり、前記エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(A)に由来する構造単位の含有量(X)(以下、変性量(X)ともいう。)と式(I)で表される構造単位の含有量(Y)(以下、変性量(Y)ともいう。)が下記式(Q)を満たすことが前記特定の水溶液に不溶な成分の量を抑制できる面で好ましい。
0.05≦Y/X<0.98 (Q)
Y/Xが上記式(Q)で示される範囲を満たすことにより、前記特定の水溶液に不溶な成分の量が低減された変性PVA粉末を工業的に容易に製造することが可能となる。上記Y/Xの下限は、0.06以上であることがより好ましい。一方、Y/Xの上限は、0.80以下であることがより好ましく、0.60以下であることがさらに好ましく、0.40以下が特に好ましい。なお、式(I)で表される構造単位の含有量(Y)とは、変性PVAの主鎖を構成する単量体単位の総モル数に対する式(I)の構造単位のモル数の比である。
【0026】
R
1及びR
2における炭素数1〜8の直鎖状あるいは分岐状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、2−メチルプロピル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−エチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、1,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基(イソヘキシル基)、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、1,4−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、1−エチル−2−メチル−プロピル基、1,1,2−トリメチルプロピル基、n−ヘプチル基、2−メチルヘキシル基、n−オクチル基、イソオクチル基、tert−オクチル基、2−エチルヘキシル基、3−メチルヘプチル基等が挙げられる。前記アルキル基の炭素数としては、1〜6が好ましく、1〜4がより好ましく、1〜3がさらに好ましい。
【0027】
R
2において、金属原子は、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属;カルシウム、バリウム、ストロンチウム、ラジウム等のアルカリ土類金属が挙げられ、これらの中でもアルカリ金属が好ましく、ナトリウムがより好ましい。
【0028】
前記エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(A)を用いて変性PVA粉末を製造した場合、導入したエチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(A)に由来する構造単位はけん化後、その一部が上記式(I)で表される6員環ラクトン環構造を形成することが知られている。非特許文献1に記載されるように、上記式(I)で表される6員環ラクトン構造は、加熱により開環し、引き続き分子間のエステル化反応により架橋体を形成するため、変性PVA粉末の水溶液に不溶な成分の量が増加する場合がある。すなわち、式(I)で表される構造単位の含有量(Y)が、導入したエチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(A)に由来する構造単位の含有量(X)に対して多ければ、架橋反応が抑制されていることを意味する。上記式(I)の6員環ラクトン構造は、重ジメチルスルホキシド溶媒で測定した
1H−NMRスペクトルにおいて6.8〜7.2ppmに検出されると考えられている。本発明の変性PVA粉末において、前記特定の水溶液に不溶な成分の量を2000ppm未満とするためには、式(I)で表される構造単位の含有量(Y)は、けん化前のビニルエステル系共重合体(C)から求められるエチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(A)に由来する構造単位の含有量(X)に対して、上記式(Q)を満たすことが好ましい。なお、式(Q)においてY/Xが0.50の場合は、導入したエチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(A)に由来する全構造単位の半数が、式(I)で表される構造単位を形成していることを意味する。
【0029】
本発明の変性PVA粉末を構成する粒子の粒子径は特に限定されないが、変性PVA粉末全体の95重量%以上が目開き1.00mmの篩を通過することが好ましく、目開き710μmの篩を通過することがより好ましく、目開き500μmの篩を通過することが特に好ましい。ここで、前記「変性PVA粉末全体の95重量%以上」とは、粒度分布として、例えば、目開き1.00mmの篩を通過する粒子が、95重量%以上であるという積算分布を意味するものである。目開き1.00mmの篩を通過する粒子が95重量%未満の場合、変性PVA粉末中に取り込まれたメタノールの揮発が困難となり、メタノールの含有量が3.0重量%を超える場合がある、もしくは粒子が大きいため乾燥ムラ等発生し、水溶液に不溶な成分の量が多くなる場合がある。また、本発明の変性PVA粉末を構成する粒子の粒子径は、目開き500μmの篩を通過する量が変性PVA粉末全体の30重量%以上であることが好ましく、35重量%であることがより好ましく、45重量%以上がさらに好ましく、56重量%以上が特に好ましい。さらに、変性PVA粉末を構成する粒子の粒子径は、変性PVA粉末の99重量%以上が目開き1.00mmの篩を通過することが好ましく、変性PVA粉末の99重量%以上が目開き1.00mmの篩を通過し、かつ56重量%以上が目開き500μmの篩を通過することが特に好ましい。前記篩の目開きはJIS Z 8801−1−2006の公称目開きWに準拠する。
【0030】
[変性PVA粉末の製造方法]
以下、本発明の変性PVA粉末の製造方法について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0031】
本発明の変性PVA粉末は、例えば、エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(A)とビニルエステル系単量体(B)とを共重合させてビニルエステル系共重合体(C)を得る工程、得られたビニルエステル系共重合体(C)を、アルコール溶液中でアルカリ触媒又は酸触媒を用いてけん化するけん化工程、洗浄工程及び乾燥する工程を有する製造方法により製造される。
【0032】
上記ビニルエステル系単量体(B)としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられ、とりわけ酢酸ビニルが好ましい。
【0033】
エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(A)とビニルエステル系単量体(B)とを共重合する方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の方法が挙げられる。その方法の中でも、無溶媒で行う塊状重合法又はアルコール等の溶媒を用いて行う溶液重合法が通常採用される。本発明の効果を高める点では、メタノール等の低級アルコールと共に重合する溶液重合法が好ましい。塊状重合法あるいは溶液重合法で重合反応を行う場合、反応の方式は回分式及び連続式のいずれの方式も用いることができる。
【0034】
重合反応に使用される開始剤としては、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されず、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系開始剤;過酸化ベンゾイル、n−プロピルパーオキシカーボネート等の有機過酸化物系開始剤等の公知の開始剤が挙げられる。重合反応を行う際の重合温度は特に制限はなく、5〜200℃の範囲でも、30〜150℃の範囲でもよい。
【0035】
エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(A)とビニルエステル系単量体(B)とを共重合させる際には、本発明の効果が損なわれない範囲であれば、必要に応じて、エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(A)とビニルエステル系単量体(B)以外の、共重合可能な他の単量体(D)をさらに共重合させてもよい。このような単量体(D)としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド等のアクリルアミド系単量体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド系単量体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル系単量体;エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有ビニルエーテル系単量体;プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル系単量体;オキシアルキレン基を有する単量体;酢酸イソプロペニル、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン;ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリエトキシシラン等のシリル基を有する単量体;N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−カプロラクタム等のN−ビニルアミド系単量体等が挙げられる。これらの単量体(D)の使用量は、その使用される目的及び用途等によっても異なるが、通常、共重合に用いられる全ての単量体を基準にした割合で10モル%以下であり、5.0モル%以下が好ましく、3.0モル%以下がより好ましく、2.0モル%以下がさらに好ましい。
【0036】
上記共重合工程で得られたビニルエステル系共重合体(C)をアルコール溶媒中でけん化する工程、洗浄工程、及び乾燥工程に供することで変性PVA粉末が得られる。本発明の変性PVA粉末を得るためのけん化条件、乾燥条件に特に制限はないが、けん化原料溶液の含水率、乾燥時のPVA樹脂の温度又は乾燥時間を特定の範囲にすることが、変性PVA粉末中に存在するメタノール含有量の低減及び前記特定の水溶液に不溶な成分の量を抑制できる面で好ましい。
【0037】
上記共重合工程で得られた、ビニルエステル系共重合体(C)及び溶媒を含有する溶液に、さらに少量の水を添加することにより、けん化原料溶液を調製することができる。水の添加量は、得られるけん化原料溶液の含水率(「系含水率」ともいう。)が1.0重量%を超えて5.0重量%未満となるように調整することが好ましい。当該含水率は1.5〜4.0重量%であることがより好ましい。当該含水率が1.0重量%以下の場合はアルカリ触媒が失活しづらく、架橋のための触媒として働く場合があり、乾燥時、水に不溶な成分の含有量が多くなる場合がある。一方、含水率が5.0重量%以上の場合は、けん化反応速度が低下したり、変性PVA粉末が水に溶解し易いためけん化反応液中に溶出して、製造工程で問題を引き起こす場合がある。
【0038】
けん化反応に用いることができる溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、けん化反応工程に差し支えない範囲で酢酸メチル等のエステルが共存した混合溶媒であってもよい。これらの溶媒の中でもメタノール、もしくはメタノールと酢酸メチルとの混合溶媒が好ましく用いられる。
【0039】
ビニルエステル系共重合体(C)のけん化反応の触媒としては、通常アルカリ触媒が用いられる。アルカリ触媒としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物;及びナトリウムメトキシド等のアルカリ金属アルコキシドが挙げられ、水酸化ナトリウムが好ましい。触媒の使用量は、ビニルエステル系共重合体(C)のビニルエステル単量体単位に対するモル比で0.005〜0.50が好ましく、0.008〜0.40がより好ましく、0.01〜0.30が特に好ましい。触媒は、けん化反応の初期に一括して添加してもよいし、あるいはけん化反応の初期に一部を添加し、残りをけん化反応の途中で追加して添加してもよい。
【0040】
けん化反応の温度は、好ましくは5〜80℃の範囲であり、より好ましくは20〜70℃の範囲である。けん化反応の時間は、好ましくは5分間〜10時間であり、より好ましくは10分間〜5時間である。けん化反応の方式は、バッチ法及び連続法のいずれであってもよい。アルカリ触媒を用いてけん化反応を行う際、けん化反応を停止させるため、必要に応じて、残存する触媒を、酢酸、乳酸等の酸を添加して中和してもよい。但し、中和後、残存する酸により、乾燥時に変性PVAの分子間における架橋反応が進行しやすくなるため、水に不溶な成分を2000ppm未満に抑制する観点から、このような酸の添加による中和は行わないことが好ましい。
【0041】
けん化反応の方式は、公知の方法であれば特に限定されない。例えば、(1)20重量%を超える濃度に調製したビニルエステル系共重合体(C)の溶液及び触媒を混合し、得られた半固体(ゲル状物)又は固体を粉砕機で粉砕することによって変性PVA粉末を得る方法;(2)アルコール(好ましくはメタノール)を含む溶媒中に溶解させるビニルエステル系共重合体(C)の濃度を10重量%未満に制御することによって、反応溶液全体が流動性の無いゲル状となることを抑制し、変性PVAを溶媒中で析出させ、メタノール中に分散する微粒子として得る方法;(3)飽和炭化水素系の溶媒を加えてビニルエステル系共重合体(C)を乳化、又は懸濁相でけん化し、変性PVA粉末を得る方法、等が挙げられる。上記(1)において、粉砕機は特に限定されず、公知の粉砕機、破砕機を使用することができる。製造上の観点から、飽和炭化水素系の溶媒を必要としない方法(1)又は方法(2)が好ましく、メタノール含有量を低減させる観点から方法(2)がより好ましい。方法(2)は、後に続く洗浄工程及び乾燥工程を従来よりも弱めて行う場合においても、メタノール含有量が低減され、かつ水溶液に不溶な成分も微量にでき、工業的に有利である点からも好ましい。方法(2)において、メタノールを含む溶媒中に溶解しているビニルエステル系共重合体(C)及びその部分けん化物の濃度は、8.0重量%未満が好ましく、5.0重量%未満がより好ましく、4.0重量%未満がさらに好ましい。
【0042】
得られる変性PVA粉末中のメタノール含有量を3.0重量%未満にできる点から、けん化工程の後に、必要に応じて変性PVAを洗浄する工程を設けることが好ましい。洗浄液として、メタノール等の低級アルコールを主成分とし、さらに、水及び/又は酢酸メチル等のエステルを含有する溶液を用いることができる。洗浄液としては、メタノールを主成分とし、酢酸メチルを含む溶液が好ましい。ビニルエステル系共重合体(C)の共重合工程で好適に用いられるメタノール及びけん化工程で生成する酢酸メチルを洗浄液として用いることが工程内でリサイクルが可能であり、洗浄液として他の溶媒を準備する必要がなく、経済的及び工程的に好ましい。洗浄中に、洗浄溶媒がPVA粉末に一部含浸することにより、PVA粉末に含有されるメタノールと置換されることがあるため、乾燥後の変性PVA粉末中のメタノール含有量を3.0重量%未満とするためには、洗浄液として、酢酸メチルの含有量が45体積%以上であることが好ましい。洗浄液として、酢酸メチルの含有量は60体積%以上であることがより好ましく、得られる変性PVA粉末の、前記特定の水溶液における不溶な成分の量をより減らすためには、酢酸メチルの含有量は70体積%以上であることが特に好ましい。
【0043】
けん化工程の後あるいは洗浄工程の後、重合体を乾燥することにより本発明の変性PVA粉末を得ることができる。具体的には、円筒乾燥機を使用した熱風乾燥が好ましく、乾燥時の変性PVAの温度は80℃を超え120℃未満であることが好ましく、90℃以上110℃未満であることがより好ましい。また、乾燥時間は2〜10時間であることが好ましく、3〜8時間であることがより好ましい。乾燥時の条件を上記範囲にすることにより、得られる変性PVA粉末中に存在するメタノール含有量を3.0重量%未満、前記特定の水溶液に不溶な成分の量を2000ppm未満に抑制しやすくなる。
【0044】
本発明の他の実施形態としては、上記変性PVA粉末と無変性PVAとを含み、前記無変性PVAの含有量が50重量%未満である樹脂組成物が挙げられる。前記樹脂組成物において、無変性PVAの含有量は、0重量%以上50重量%未満であれば特に限定されず、例えば、0重量%以上40重量%未満であってもよく、0重量%以上20重量%未満であってもよく、0重量%以上10重量%未満であってもよく、0重量%であってもよい。無変性PVAの重合度は特に限定されず、例えば100〜5000であってもよい。無変性PVAの重合度は、JIS K 6726(1994年)に記載の方法に従って測定できる。また、無変性PVAのけん化度は、80.0モル%以上99.9モル%以下であってもよい。無変性PVAのけん化度は、JIS K 6726(1994年)に記載の方法に従って測定できる。
【0045】
[水溶性フィルム]
上記変性PVA粉末を含有する水溶性フィルムも、本発明の実施形態の一つである。本発明の変性PVA粉末は、上述の通り特定の水溶液に不溶な成分の量が2000ppm未満と従来よりも少ないため、水溶液に不溶な成分に由来するフィルムの破断がより一層低減される。したがって、本発明の水溶性フィルムを用いて、ピンホールがなく表面外観が良好なパウチ等の包装体を効率良く製造できる。前記変性PVA粉末を含有する水溶性フィルムにおいて、変性PVA粉末の含有量は特に限定されず、50重量%を超えてもよく、60重量%以上であってもよく、70重量%以上であってもよい。
【0046】
また、本発明の他の実施形態としては、上記変性PVA粉末と無変性PVAとを含み、前記無変性PVAの含有量が50重量%未満である樹脂組成物を含有する水溶性フィルムが挙げられる。前記水溶性フィルムを構成する樹脂組成物において、無変性PVAの含有量は、0重量%以上50重量%未満であれば特に限定されず、例えば、0重量%以上40重量%未満であってもよく、0重量%以上20重量%未満であってもよく、0重量%以上10重量%未満であってもよく、0重量%であってもよい。
【0047】
一般に、水溶性フィルムには、高温多湿の地域又は寒冷地での使用にも耐え得る強度又はタフネスが要求され、特に低温での耐衝撃性が必要とされる。本発明の水溶性フィルムには、低温での耐衝撃性向上を目的として、フィルムのガラス転移点を下げるために、種々の可塑剤を配合することができる。さらに本発明の水溶性フィルムには、上記の目的に加えて、水に対する溶解性を向上させる目的で可塑剤を配合することができる。
【0048】
本発明の水溶性フィルムに配合する可塑剤としては、PVAの可塑剤として一般に用いられているものであれば特に制限はなく、例えば、グリセリン、ジグリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール等の多価アルコール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテル類;ポリビニルピロリドン等のポリビニルアミド類;N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド等のアミド化合物;グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の多価アルコールにエチレンオキサイドを付加した化合物等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。これらの可塑剤の中でも、水溶性を向上させる目的には、グリセリン、ジグリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンを用いるのが好ましく、特に可塑剤のブリードアウトによるフィルムの水溶性低下を抑制する効果の点から、グリセリン、ジグリセリン、トリメチロールプロパン、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンを用いるのが特に好ましい。
【0049】
可塑剤としてポリエチレングリコールを用いる場合、ポリエチレングリコールの分子量について特に制限はないが、PVAとの相溶性及びブリードアウトによる水溶性の低下を抑制する効果の点から、数平均分子量(Mn)が100〜1000であることが好ましい。ポリビニルピロリドンの分子量についても特に制限はないが、PVAとの相溶性の点から重量平均分子量(Mw)で1000〜20000であることが好ましい。
【0050】
可塑剤の配合量は、変性PVA粉末100重量部に対して1〜50重量部であるのが好ましい。可塑剤の配合量が1重量部未満の場合には、可塑剤を配合することによる効果が発現しない傾向がある。一方、可塑剤の配合量が50重量部を超える場合には、可塑剤のブリードアウトが大きくなり、得られるフィルムの耐ブロッキング性が低下する傾向がある。得られるフィルムの水に対する溶解速度の点から、変性PVA粉末100重量部に対して可塑剤を20重量部以上の割合で配合するのが好ましい。一方、得られるフィルムの腰(製袋機等の工程通過性)の点からは、変性PVA粉末100重量部に対して可塑剤を40重量部以下の割合で配合するのが好ましい。
【0051】
本発明の水溶性フィルムには、必要に応じて界面活性剤を配合できる。界面活性剤の種類としては特に限定はないが、アニオン性あるいはノニオン性の界面活性剤が好ましい。アニオン性界面活性剤としては、例えば、ミリスチン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム等のカルボン酸型;オクチルスルホン酸ナトリウム等の硫酸エステル型;ラウリルリン酸、ラウリルリン酸ナトリウム等のリン酸エステル型;ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸型のアニオン性界面活性剤が好適である。ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のアルキルエーテル型;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェニルエーテル型;ポリオキシエチレンラウレート等のアルキルエステル型;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル等のアルキルアミン型;ポリオキシエチレンラウリン酸アミド等のアルキルアミド型;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等のポリプロピレングリコールエーテル型;オレイン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型;ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル等のアリルフェニルエーテル型等のノニオン性界面活性剤が好適である。これらの界面活性剤は1種、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0052】
界面活性剤の配合割合は、変性PVA粉末100重量部に対して0.01〜5重量部が好ましく、0.1〜2重量部がより好ましく、0.2〜0.5重量部がさらに好ましい。界面活性剤の配合割合が0.01重量部より少ないと、製膜装置のドラム等の金属表面と、製膜したフィルムとの剥離性が低下して製造が困難となる傾向がある。配合割合が5重量部より多いとフィルム表面に溶出してブロッキングの原因になり、取り扱い性が低下する傾向がある。
【0053】
本発明の水溶性フィルムには、必要に応じて糖類を配合できる。糖類としては、単糖類、オリゴ糖、多糖類、鎖状糖アルコール及び澱粉が挙げられる。単糖類としては、グルコース等が挙げられる。オリゴ糖としては、例えば、ガラクトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ニゲロオリゴ糖、乳果オリゴ糖、フラクトオリゴ糖等が挙げられる。多糖類としては、澱粉、セルロース、キチン、キトサン、ヘミセルロース、ペクチン、プルラン、寒天、アルギン酸、カラギーナン、デキストリン、トレハロース等が挙げられる。鎖状糖アルコールとしては、トレイトール、エリトリトール等の炭素数4のテトリトール類;アラビニトール、キシリトール等の炭素数5のペンチトール類;イジトール、ガラクチトール、マンニトール、ソルビトール等の炭素数6のヘキシトール類が挙げられる。澱粉としては、例えば、トウモロコシ、馬鈴薯等の生澱粉、これらに物理的又は化学的処置を施した加工澱粉(デキストリン、酸化澱粉、エーテル化澱粉、カチオン化澱粉等)等が挙げられる。これらの糖類は1種、又は2種以上を組み合わせて使用できる。糖類を配合することにより、フィルムの水溶性、生分解性をさらに高めたり、耐ホウ酸イオン性を高めたり、薬品包装後、特にPVAを劣化させる薬品(塩素系物質等)を包装した後の冷水溶解性の低下を抑制できる。糖類添加時のフィルムの冷水溶解性が良好な点から、糖類の中でも澱粉の配合が特に好ましい。
【0054】
糖類の配合量は、変性PVA粉末100重量部に対して1〜100重量部が好ましく、2〜90重量部がさらに好ましく、3〜80重量部が特に好ましい。一般に、PVAと糖類とは相溶性が悪いため、糖類を多量にPVAに配合した場合、得られるフィルムはフィルム強度等の機械的物性が大幅に低下する傾向がある。しかしながら、本発明の水溶性フィルムに用いる変性PVA粉末は糖類、特に澱粉との相溶性に優れるため、本発明の水溶性フィルムには糖類を多量に配合できる。糖類の配合量が1重量部未満であると、フィルムの水溶性及び生分解性が不十分となる傾向がある。一方、糖類の配合量が100重量部より多いと、フィルムの低温での耐衝撃性が低下し、破袋しやすい傾向がある。
【0055】
本発明の水溶性フィルムには、必要に応じて無機フィラーを配合できる。無機フィラーとしては、例えば、シリカ、重質、軽質又は表面処理された炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、珪藻土、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、ゼオライト、酸化亜鉛、珪酸、珪酸塩、マイカ、炭酸マグネシウム、カオリン、ハロイサイト、パイロフィライト、セリサイト等のクレー、タルク等が挙げられる。これらの無機フィラーは1種、又は2種以上を組み合わせて使用できる。これらの中でも、特にPVAへの分散性の点から、タルクを用いることが好ましい。無機フィラーの平均粒子径は、フィルムのブロッキング防止性の点から1μm以上であることが好ましく、一方で、変性PVA粉末への分散性の点から10μm以下であることが好ましい。無機フィラーの配合により発現するフィルムのブロッキング防止性と、PVAへの無機フィラーの分散性の両方の特性を満足させるには、平均粒子径が1〜7μm程度の無機フィラーを用いるのがより好ましい。平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−2100:島津製作所製)により、0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒に用いて測定することができる。
【0056】
無機フィラーの配合量は、フィルムのブロッキング防止性及び変性PVA粉末への無機フィラーの分散性の点から、変性PVA粉末100重量部に対して0.5〜20重量部が好ましく、0.7〜15重量部がより好ましく、1〜10重量部が特に好ましい。なお、変性PVA粉末100重量部に対して無機フィラーを20重量部を超えて配合すると、変性PVA粉末への分散性が低下して無機フィラーが凝集してしまい、得られるフィルムの水溶性が低下する傾向がある。
【0057】
本発明の水溶性フィルムには、必要に応じて酸化防止剤を配合できる。酸化防止剤としては、例えば、アスコルビン酸、トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、ソルビン酸、ソルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸ナトリウム、没食子酸プロピル、亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4’−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、オクタデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナート(イルガノックス1076)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)等が挙げられる。
【0058】
酸化防止剤の配合量は、フィルムの抗酸化性能向上の観点から、変性PVA粉末100重量部に対して0.01〜10重量部が好ましく、0.1〜5重量部がより好ましく、0.5〜3重量部が特に好ましい。
【0059】
本発明の水溶性フィルムには、さらに必要に応じて、着色剤、香料、増量剤、消泡剤、剥離剤、紫外線吸収剤等の添加剤を適宜配合しても差し支えない。特に製膜装置のダイス、ドラム等の金属表面と、製膜したフィルムとの剥離性を向上させる点を重視する場合、変性PVA粉末100重量部に対して界面活性剤を0.01〜5重量部の割合で配合することが好ましい。また、本発明の水溶性フィルムには、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲内で、本発明の変性PVA粉末とは異なる種類のPVA(変性PVAあるいは無変性PVA)、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸又はその塩、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等の水溶性高分子を配合してもよい。特にフィルムの水溶性を向上させる観点から、低粘度タイプのカルボキシメチルセルロースを配合することが好ましい。
【0060】
本発明の水溶性フィルムの製造にあたり、その製造原料は、前記の変性PVA粉末に、必要に応じて可塑剤、糖類、無機フィラー及びその他の成分を配合し、これらを攪拌槽中にて溶媒に溶解又は分散させる方法、又は押出機中にて溶融混練する方法等、公知の方法で混合することにより調製できる。
【0061】
本発明の水溶性フィルムの製造方法は特に限定されず、キャスト法、溶融押出法等の公知の方法により製造できる。例えば、前記変性PVA粉末と可塑剤と、必要により各種添加剤(例えば、界面活性剤、糖類)とを水性溶媒(例えば、水)に溶解し、得られる溶液を平滑な流延面に静置させ、水性溶媒が蒸発した後、流延面から剥離すると、透明で均一な本発明の水溶性フィルムが得られる。水性溶媒は水が好ましい。前記流延面は、スチール、アルミニウム、ガラス、ポリマー(例えばポリオレフィン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリハローカーボン等)等のように、平滑で硬質の材料であればいずれでもよい。水性溶媒の蒸発速度は、流延面を加熱する、あるいは沈着した溶液を例えば被加熱空気もしくは赤外線にさらすことにより高めることができる。
【0062】
本発明の水溶性フィルムの厚さは、10〜200μmが好ましく、フィルムの強度と水溶性のバランスの点から20〜150μmがより好ましく、30〜120μmが特に好ましい。
【0063】
本発明の水溶性フィルムのブロッキング防止性を向上させるために、必要に応じて、該水溶性フィルム表面をロールマット化したり、シリカ又は澱粉等のブロッキング防止用の粉体を水溶性フィルムに塗布したり、エンボス処理を行うことができる。フィルム表面のロールマット化は、製膜時に乾燥前のフィルムが接するロールに微細な凹凸を形成しておくことにより施すことができる。エンボス処理は、一般にフィルムが形成された後で、熱又は圧力を加えながらエンボスロールとゴムロールでニップすることで行える。粉体の塗布はブロッキング防止の効果が大きいが、フィルムの用途によっては使用できないことがあるため、ロールマット化又はエンボス処理を施すことが好ましく、ブロッキング防止効果の大きさの点からロールマット化することが特に好ましい。
【0064】
本発明の水溶性フィルムは冷水溶解性に優れ、良好な表面外観を有する包装体を収率よく得ることができるため、薬品包装材料、衛生材料等、幅広い分野に有用である。薬品としては、特に限定されず、衣料用洗剤、漂白剤、農薬(例えば、ボルドー剤(有効成分:塩基性硫酸銅))等が挙げられる。薬品の形態は、特に限定されず、液体又は固体(例えば、粉末、粒状、塊状等)であってもよい。
【0065】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた態様を含む。
【実施例】
【0066】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。以下の実施例及び比較例において、特に断りがない場合「部」は「重量部」を示し、「%」は「重量%」を示す。
【0067】
[変性PVAの粘度平均重合度]
変性PVAの粘度平均重合度はJIS K 6726(1994年)に準じて測定した。具体的には、変性PVAのけん化度が99.5モル%未満の場合には、けん化度99.5モル%以上になるまでけん化し、得られた変性PVAについて、水中、30℃で測定した極限粘度[η](リットル/g)を用いて下記式により粘度平均重合度(P)を求めた。
P=([η]×10
4/8.29)
(1/0.62)【0068】
[変性PVAのけん化度]
変性PVAのけん化度は、JIS K 6726(1994年)に記載の方法により求めた。
【0069】
[エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(A)に由来する構造単位の含有量(X)]
1H−NMRスペクトル解析によって、変性種のスペクトルから算出された。
[式(I)で表される構造単位の含有量(Y)]
ジメチルスルホキシド溶媒で測定した
1H−NMRスペクトル解析において6.8〜7.2ppmに検出されるスペクトルから算出された。
【0070】
[変性PVAのメタノール含有量]
実施例及び比較例の変性PVA粉末中に存在するメタノール含有量はヘッドスペースガスクロマトグラフィーを用いて、以下の方法で決定された。
<検量線の作成>
イソプロピルアルコールを内部標準として、メタノール含有量が既知の水溶液を3種類準備し、ヘッドスペースサンプラー(Turbo Matrix HS40、Parkin Elmer社製)を装着したガスクロマトグラフ(GC−2010、島津製作所製)を用いて測定を行い、検量線を作成する。
<変性PVA粉末中に存在するメタノール含有量の測定>
蒸留水を1000mLメスフラスコの標線に合わせて採取し、内部標準液のイソプロピルアルコールをメスピペットにて0.1mL添加し、よく攪拌する。この液を「溶解液」とする。次に、試料として実施例及び比較例の変性PVA粉末500mgをヘッドスペースガスクロマトグラフィー測定用のバイアル瓶中に秤量し、攪拌子を投入した後、上記溶解液をホールピペットで10mL測りとり、バイアル瓶中に投入する。キャップをバイアル瓶に取り付け、ロックがかかるまで締め付けた後、バイアル瓶をホットスターラー上に乗せて、試料の変性PVA粉末を加熱溶解する。変性PVA粉末が完全に溶解したことを目視で確認後、ヘッドスペースガスクロマトグラフィー測定を行い、上記のようにして作成した検量線から変性PVA粉末中のメタノール含有量を決定した。
【0071】
[90℃、濃度5重量%の水溶液に不溶な成分の量]
20℃に設定した水浴中に、攪拌機及び還流冷却管を装着した500mLのフラスコを準備し、前記フラスコに蒸留水を285g投入して、300rpmで攪拌を開始する。実施例及び比較例の変性PVA粉末15gを秤量し、フラスコ中に該変性PVA粉末を徐々に投入する。変性PVA粉末を全量(15g)投入したのち、直ちに30分程度かけて水浴の温度を90℃まで上昇させることによって変性PVA粉末を溶解させて、変性PVA溶液を得る。水浴の温度が90℃に到達後、さらに60分間300rpmで攪拌しながら溶解を継続する。その後、前記変性PVA溶液を用いて、未溶解で残留する粒子(未溶解粒子)を目開き63μmの金属製フィルターでろ過する。次いで、フィルターを90℃の温水でよく洗浄し、フィルターに付着した溶液を取り除き、フィルター上に未溶解粒子のみを残した後、フィルターを120℃の加熱乾燥機で1時間乾燥する。乾燥後のフィルターの重量とろ過に使用する前のフィルターの重量とを比較し、未溶解粒子の重量を算出する。こうして得られた未溶解粒子の重量を、水溶液に不溶な成分の量とした。
【0072】
[粒度分布]
JIS Z 8815(1994年)に記載の乾式篩法により、実施例及び比較例で得られた変性PVA粉末の粒度分布を測定した。実施例及び比較例で得られた変性PVA粉末を目開き1.00mmの篩(フィルター)にかけて、篩を通過した変性PVA粉末の重量を測定し、篩にかける前の変性PVA粉末の重量から、篩を通過した変性PVA粒子の割合(重量%)を算出した。同様に、目開き1.00mmの篩とは別個独立に、実施例及び比較例で得られた変性PVA粉末を目開き500μmの篩(フィルター)にかけて、篩を通過した変性PVA粉末の重量を測定し、篩にかける前の変性PVA粉末の重量から、篩を通過した変性PVA粒子の割合(重量%)を算出した。なお、前記目開きは、JIS Z 8801−1−2006の公称目開きWに準拠する。
【0073】
<評価>
[フィルムの破断特性]
後記する実施例及び比較例の変性PVA粉末の4重量%水溶液を調製した。この水溶液を20℃で流延及び乾燥し、厚さ100μmの皮膜を得た。得られた皮膜を縦15cm、横2cmの大きさに切り出し、試験片(フィルム)を作製した。この試験片について、JIS K 7127(1999年)に準じて、温度20℃、湿度65%、試験速度100mm/分の条件でフィルムの引張伸度βを測定した。また、上記変性PVA粉末の4重量%水溶液を目開き63μmの金属製フィルターでろ過し、水溶液に不溶な成分が除去されたろ液から作製した皮膜を用いて試験片(フィルム)を作製し、上記と同様にフィルムの引張伸度γを測定した。ここで破断特性αを以下の基準にしたがって判定した。
【数1】
A:αが0.85以上
B:αが0.75以上、0.85未満
C:αが0.75未満
【0074】
[フィルムの水溶性]
水を溶媒として、後記する実施例及び比較例の変性PVA粉末を溶解させ、前記変性PVA粉末100部に対しグリセリン20部となるようにグリセリンを添加して変性PVAの10重量%水溶液を調製した。この水溶液を20℃で流延及び乾燥し、厚さ76μmのフィルムを得た。このフィルムを40mm×40mmの正方形に切り、これをスライドマウントにはさみこんだ。別途、20℃に調整した恒温バスに、1リットルの蒸留水を入れた容量1リットルのガラスビーカーを設置し、5cmの回転子を用いて250rpmで攪拌を行った。ビーカー内の蒸留水が20℃になった後、上述のスライドマウントを攪拌している冷水中に浸漬して水溶性の測定を開始した。この際、フィルムの溶解状態を目視で観察し、フィルムが完全に溶解するまでの時間(秒数)を測定した。フィルムが完全に溶解するまでの時間が100秒未満の場合をA、100秒以上300秒未満をB、300秒で完全溶解しなかったものをCと判定した。
【0075】
[パウチ収率]
水を溶媒として、後記する実施例及び比較例の変性PVA粉末を溶解させ、前記変性PVA粉末100部に対しグリセリン20部となるようにグリセリンを添加して変性PVAの10重量%水溶液を調製した。この水溶液を20℃で流延及び乾燥し、厚さ76μmのフィルムを得た。このフィルムをクラウド社製フィルムコンバーターを用いて空気入りパウチ100個を作製し、下記式にしたがってパウチ収率を求めた。
パウチ収率(%)=空気の漏れ(ピンホール)がないパウチの個数/100
パウチ収率が95%以上をA、80%以上95%未満をB、80%未満をCと判定した。
【0076】
[実施例1]
(共重合工程)
還流冷却器、原料供給ライン、温度計、窒素導入口及び攪拌翼を備えた、重合容器(連続重合装置;以下、「重合槽」という。)と、還流冷却器、原料供給ライン、反応液取出ライン、温度計、窒素導入口及び攪拌翼を備えた装置を用いた。重合槽に酢酸ビニル(VAM)656L/hr、メタノール(MeOH)171L/hr、変性種としてマレイン酸モノメチル(MMM)の20%メタノール溶液101L/hr、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(AMV)の2%メタノール溶液25L/hrを定量ポンプを用いて連続的に供給した。重合槽内の液面が一定になるように重合槽から重合液を連続的に取り出した。重合槽から取り出される重合液中の酢酸ビニルの重合率が40%になるように調整した。重合槽の滞留時間は4時間であった。重合槽から取り出された重合液の温度は63℃であった。重合槽から重合液を取り出し、当該重合液にメタノール蒸気を導入することで未反応の酢酸ビニルの除去を行い、ビニルエステル系共重合体(PVAc)のメタノール溶液(濃度35重量%)を得た。
【0077】
(けん化工程、洗浄工程及び乾燥工程)
上記ビニルエステル系共重合体のメタノール溶液に、所望量の水及びメタノールを添加して、けん化原料溶液である含水率2重量%のビニルエステル系共重合体/メタノール溶液(濃度32重量%)を調製した。けん化触媒溶液である水酸化ナトリウム/メタノール溶液(濃度4重量%)を上記ビニルエステル系共重合体中の酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比が0.10となるように添加した。けん化原料溶液及びけん化触媒溶液をスタティックミキサーを用いて混合し、混合物を得た。得られた混合物をベルト上に載置し、40℃の温度条件下で18分保持して、けん化反応を進行させた。
けん化反応により得られたゲルを粉砕し、メタノール/酢酸メチル比が15/85(体積比)である洗浄液に含浸した後、遠心脱液機を用いて脱液し、変性ビニルアルコール系重合体粉末を得た。該変性ビニルアルコール系重合体粉末600kg/hr(樹脂分)を樹脂温度が100℃となるように乾燥機内の温度を制御した乾燥機に連続的に供給した。乾燥機内の粉体の平均滞留時間は4時間であった。その後、目開き1.00mmのフィルターを通過するまで粉砕を行い、本発明の変性PVA粉末を得た。
得られた変性PVAの粘度平均重合度は1200、けん化度は94.0モル%、
1H−NMRスペクトル解析における変性量(X)は4.0モル%、変性量(Y)は0.80モル%であり、その比(Y/X)は0.20であった。また得られた変性PVA粉末全体のうち、目開き1.00mmのフィルターを通過した割合は99.0重量%であり、目開き500μmのフィルターを通過した割合は56.0重量%であった。さらに、上述したヘッドスペースガスクロマトグラフィーを用いて算出した粉末中のメタノール含有量は2.3重量%であり、上述した方法で測定した、水溶液に不溶な成分の量(水不溶分量)は100ppmであった。得られた変性PVA粉末の特性及び評価結果を表2に示す。
【0078】
[実施例2−6及び比較例1−13]
表1及び表2に記載した条件に変更したこと以外は、実施例1の変性PVA粉末の製造方法と同様の方法により、変性PVA粉末を得た。得られた変性PVA粉末の特性及び評価結果を表2に示す。
【0079】
[実施例7]
実施例1の共重合工程で得られたビニルエステル系共重合体のメタノール溶液に、所望量の水及びメタノールを添加して、けん化原料溶液である含水率1.3重量%のビニルエステル系共重合体(PVAc)/メタノール溶液(濃度3重量%)を調製し、還流冷却器、原料供給ライン、温度計、窒素導入口及び攪拌翼を備えた反応容器に投入して、300rpmで攪拌しながら、40℃まで昇温した。けん化触媒溶液である水酸化ナトリウム/メタノール溶液(濃度4重量%)を上記ビニルエステル系共重合体中の酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比が0.10となるように添加して、40℃で攪拌を続けた。水酸化ナトリウムの添加から約10分経過後から粒子が析出し始めスラリー状となった。60分後、得られたスラリーを遠心脱液機によって脱液した。脱液して得られた粒子をメタノールに含侵後、再度遠心脱液を用いて脱液し、粒子状の変性ビニルアルコール系重合体を得た。該粒子状の変性ビニルアルコール系重合体を樹脂温度が90℃となるように乾燥機内温度を制御した乾燥機に連続的に供給した。なお、乾燥機内の粉体の平均滞留時間は4時間であった。このようにして本発明の変性PVA粉末が得られた。得られた変性PVAの粘度平均重合度は1200、けん化度は96.0モル%、
1H−NMRスペクトル解析における変性量(X)は4.0モル%、変性量(Y)は1.0モル%であり、その比(Y/X)は0.25であった。また、得られた変性PVA粉末全体のうち、目開き1.00mmのフィルターを通過した割合は99.5重量%であり、目開き500μmのフィルターを通過した割合は98.5重量%であった。さらに、上述したヘッドスペースガスクロマトグラフィーを用いて算出した粉末中のメタノール含有量は0.9重量%であり、上述した方法で測定した、水溶液に不溶な成分の量は20ppmであった。得られた変性PVA粉末の特性及び評価結果を表2に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
比較例1及び2では、目開き1.00mmの篩を通過する粒子が全体の95重量%未満であった。比較例3〜5では乾燥前に使用する洗浄液の酢酸メチルの含有量が50体積%未満であった。このため、いずれもメタノール含有量が3.0重量%未満でかつ、水溶液に不溶な成分の量が2000ppm未満である変性PVA粉末を得られなかった。
【0083】
比較例6では、乾燥前に分子間エステル化の触媒である酢酸で中和した。比較例7では、けん化度が80.0モル%未満であった。比較例8では、エチレン性不飽和カルボン酸の構造単位が10モル%を超えていた。このため、いずれも水溶液に不溶な成分の量が2000ppm未満である変性PVA粉末を得られなかった。
【0084】
比較例9、10、11、及び12では特許文献3に記載の方法に倣い、乾燥前にエタノール又はプロパノールに含浸した。通常よりも高熱量が必要となるために、乾燥温度100℃の場合には乾燥が不十分であり、得られた変性PVA粉末にエタノール又はプロパノール臭気があり、有機溶媒の除去が不十分であった。また、乾燥温度が110℃以上の場合には、水溶液に不溶な成分の量が2000ppmを超えてしまった。
【0085】
比較例13では特許文献3に記載の方法に倣い、乾燥前に6.2%含水エタノールに含浸したが、乾燥機内で変性PVA同士が融着し、乾燥機からの連続的な取り出しが不可能であった。
【0086】
表2に記載の変性PVA粉末を用いてフィルム及びパウチを作製し、該フィルムの水溶性及びパウチを作製した際の収率について評価を行った。結果を表3に示す。
【0087】
【表3】
【0088】
表3の結果から、実施例1、2、3、6及び7の変性PVA粉末を用いて作製したフィルムは、水溶性が高くかつパウチ収率が高いが、比較例2、4〜8、10及び12の変性PVA粉末を用いて作製したフィルムは、水溶性は良好であるがパウチ収率が著しく悪いことが分かる。