特許第6392674号(P6392674)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6392674
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】表面処理銅箔及び積層板
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/06 20060101AFI20180910BHJP
【FI】
   C25D7/06 A
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-11596(P2015-11596)
(22)【出願日】2015年1月23日
(65)【公開番号】特開2016-135903(P2016-135903A)
(43)【公開日】2016年7月28日
【審査請求日】2017年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小平 宗男
(72)【発明者】
【氏名】後藤 千鶴
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−199082(JP,A)
【文献】 特開2014−152352(JP,A)
【文献】 特開2015−124426(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 7/06
C25D 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅箔基材と、
前記銅箔基材の少なくともいずれかの主面上に設けられた粗化銅めっき層と、を備える表面処理銅箔であって、
前記粗化銅めっき層に含まれるめっき粒子の最大径の大きい方から20個の平均値をMとし、
前記粗化銅めっき層が樹脂基材に対向するように前記表面処理銅箔を前記樹脂基材に貼り合わせた後、前記樹脂基材から前記表面処理銅箔を除去したとき、前記めっき粒子が前記樹脂基材に押し当てられて形成された凹部の前記樹脂基材の表面と同一面における径の大きい方から20個の平均値をBとした場合、
B/Mが0.9以下である
表面処理銅箔。
【請求項2】
前記表面処理銅箔を前記樹脂基材に貼り合わせた後に前記表面処理銅箔を前記樹脂基材から引き剥がした際のピール強度が1.0N/mm以上であり、
前記表面処理銅箔を除去した後の前記樹脂基材のHAZE値が70%以下である
請求項1に記載の表面処理銅箔。
【請求項3】
前記Mの値が0.2μmより大きく、0.5μm以下である
請求項1又は2に記載の表面処理銅箔。
【請求項4】
前記粗化銅めっき層上には、前記銅箔基材上からの前記めっき粒子の脱落を抑制するめっき粒子脱落抑制層が設けられている
請求項1ないし3のいずれかに記載の表面処理銅箔。
【請求項5】
銅箔基材、及び前記銅箔基材の少なくともいずれかの主面上に設けられた粗化銅めっき層、を備える表面処理銅箔と、
前記粗化銅めっき層に対向するように前記表面処理銅箔と貼り合わせられた樹脂基材と、を備え、
前記粗化銅めっき層に含まれるめっき粒子の最大径の大きい方から20個の平均値をMとし、
前記粗化銅めっき層が前記樹脂基材に対向するように前記表面処理銅箔を前記樹脂基材に貼り合わせた後、前記樹脂基材から前記表面処理銅箔を除去したとき、前記めっき粒子が前記樹脂基材に押し当てられて形成された凹部の前記樹脂基材の表面と同一面における径の大きい方から20個の平均値をBとした場合、
B/Mが0.9以下である
積層板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理銅箔及び積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、デジタルカメラや携帯電話等の電子機器の配線板として、フレキシブル配線基板(FPC)等が用いられている。FPCは、例えば、銅箔と、樹脂基材と、を備える積層板で形成されている。積層板には、所定箇所の銅箔がエッチング等により樹脂基材上から除去されることで、銅配線(回路パターン)が形成されている。積層板には、銅箔と樹脂基材との密着性(以下、単に「密着性」とも言う。)が高く、銅配線が樹脂基材から剥がれにくいことが要求されている。そこで、銅箔として、例えば銅箔基材のいずれかの主面上にめっき粒子を有する粗化銅めっき層を設けることで、アンカー効果を得て密着性を向上させた表面処理銅箔を用いることが提案されている(例えば特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−238647号公報
【特許文献2】特開2006−155899号公報
【特許文献3】特開2010−218905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の密着性を高めるために、めっき粒子の粒子径を大きくし、表面処理銅箔の表面を粗くすると、銅箔が除去された箇所の樹脂基材の透明性が低下してしまうことがある。従って、積層板に電子部品等を実装する際、銅箔が除去された箇所の樹脂基材越しにアライメントマーク等を認識しにくくなり、電子部品等の実装位置の位置決めを行いにくくなることがある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決し、積層板を形成した際の表面処理銅箔と樹脂基材との密着性が維持されるとともに、積層板から表面処理銅箔が除去された後の樹脂基材の透明性が確保される技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、
銅箔基材と、
前記銅箔基材の少なくともいずれかの主面上に設けられた粗化銅めっき層と、を備える表面処理銅箔であって、
前記粗化銅めっき層に含まれるめっき粒子の最大径の大きい方から20個の平均値をMとし、
前記粗化銅めっき層が樹脂基材に対向するように前記表面処理銅箔を前記樹脂基材に貼り合わせた後、前記樹脂基材から前記表面処理銅箔を除去したとき、前記めっき粒子が前記樹脂基材に押し当てられて形成された凹部の前記樹脂基材の表面と同一面における径の大きい方から20個の平均値をBとした場合、
B/Mが0.9以下である表面処理銅箔が提供される。
【0007】
本発明の他の態様によれば、
銅箔基材、及び前記銅箔基材の少なくともいずれかの主面上に設けられた粗化銅めっき層、を備える表面処理銅箔と、
前記粗化銅めっき層に対向するように前記表面処理銅箔と貼り合わせられた樹脂基材と、を備え、
前記粗化銅めっき層に含まれるめっき粒子の最大径の大きい方から20個の平均値をMとし、
前記粗化銅めっき層が前記樹脂基材に対向するように前記表面処理銅箔を前記樹脂基材に貼り合わせた後、前記樹脂基材から前記表面処理銅箔を除去したとき、前記めっき粒子が前記樹脂基材に押し当てられて形成された凹部の前記樹脂基材の表面と同一面における径の大きい方から20個の平均値をBとした場合、
B/Mが0.9以下である積層板が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、積層板を形成した際の表面処理銅箔と樹脂基材との密着性を維持できるとともに、積層板から表面処理銅箔が除去された後の樹脂基材の透明性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態にかかる表面処理銅箔を備える積層板の概略断面図である。
図2】本発明の一実施形態にかかる表面処理銅箔の縦断面概略図である。
図3】本発明の一実施形態にかかる表面処理銅箔を貼り合わせた後に表面処理銅箔を除去した樹脂基材の縦断面概略図である。
図4】本発明の一実施形態にかかる表面処理銅箔の粗化面のSEM像の一例である。
図5】本発明の一実施形態にかかる表面処理銅箔を貼り合わせた後、表面処理銅箔を除去した樹脂基材の銅箔除去箇所のSEM像の一例である。
図6】(a)〜(c)はそれぞれ、本発明の一実施例にかかる表面処理銅箔を用いて形成したFPCについて、樹脂基材越しに銅配線を撮影した撮影画像である。
図7】(a)(b)はそれぞれ、本発明の一実施例にかかる表面処理銅箔の粗化面のSEM像である。
図8】(a)(b)はそれぞれ、本発明の一実施例にかかる表面処理銅箔を貼り合わせて除去した後の銅箔除去箇所の樹脂基材のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<本発明の一実施形態>
(1)表面処理銅箔及び積層板の構成
本発明の一実施形態にかかる積層板及び表面処理銅箔の構成について、主に図1図3を参照しながら説明する。
【0011】
(積層板)
図1に示すように、本実施形態にかかる積層板(CCL:Copper Clad Laminate)10は、少なくともいずれかの主面上に粗化銅めっき層3が形成された表面処理銅箔1と、粗化銅めっき層3に対向するように設けられた樹脂基材11と、を備えている。例えば、積層板10は、粗化銅めっき層3が対向するように表面処理銅箔1を樹脂基材11のいずれかの主面上に貼り合わせることで形成されている。樹脂基材11として、例えばポリイミド(PI)樹脂フィルムや、ポリエチレンテレフタラート(PET)等のポリエステルフィルムや、液晶ポリマ(LCP)等が用いられる。
【0012】
(表面処理銅箔)
上述の積層板10に用いられる表面処理銅箔1は、銅箔基材2を備えている。銅箔基材2としては、例えば圧延銅箔や電解銅箔を用いることができる。銅箔基材2として、電解銅箔よりも耐屈曲性に優れ、繰り返して折り曲げても破断しにくい圧延銅箔が用いられることがより好ましい。
【0013】
銅箔基材2は、例えば無酸素銅(OFC:Oxygen−Free Copper)やタフピッチ銅(TPC:Tough−Pitch Copper)の純銅から形成されている。無酸素銅とは、JIS C1020やJIS H3100等に規定する純度が99.96%以上の銅材である。無酸素銅には、例えば数ppm程度の酸素が含有されていてもよい。タフピッチ銅とは、例えばJIS C1100やJIS H3100等に規定する純度が99.9%以上の銅材である。タフピッチ銅には、例えば100ppm〜600ppm程度の酸素が含有されていてもよい。銅箔基材2は、無酸素銅やタフピッチ銅に、微量のスズ(Sn)や銀(Ag)等の所定の添加材が添加された希薄銅合金から形成されていてもよい。これにより、銅箔基材2の耐熱性等を向上させることができる。
【0014】
銅箔基材2のいずれかの主面上には、粗化銅めっき層3が設けられている。粗化銅めっき層3は、粗化抜けが発生していない状態にあることが好ましい。例えば、粗化銅めっき層3を上面から見た際、銅箔基材2が露出しないように、粗化銅めっき層3が形成されていることが好ましい。
【0015】
図2に示すように、粗化銅めっき層3には、複数のめっき粒子(粗化粒)3aが含まれている。めっき粒子3aは、例えば銅(Cu)(つまりCu単体)で形成されている。つまり、めっき粒子3aは例えばCuからなるめっき液を用いて形成されている。なお、めっき粒子3aは、例えば、Cuと、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)等の金属元素と、を含むめっき液を用いて形成されていてもよい。
【0016】
めっき粒子3aの平均最大粒子径Mは、例えば0.2μmより大きく、0.5μm以下であることが好ましい。例えば図2では、最大径M,M,Mであるめっき粒子3aが形成された様子を示している。この場合、めっき粒子3aの平均最大粒子径Mは、それぞれのめっき粒子3aの最大径M,M,Mの平均値となる。
【0017】
平均最大粒子径Mが0.2μm以下であると、めっき粒子3aの粒子径が小さくなるため、積層板10において樹脂基材11に接触する表面処理銅箔1の表面積(以下、「接触表面積」とも言う。)が小さくなるため、所望の密着性を維持することができないことがある。なお、密着性とは、積層板10における表面処理銅箔1と樹脂基材11との密着性である。例えば、表面処理銅箔1を樹脂基材11に貼り合わせた後に表面処理銅箔1を樹脂基材11から引き剥がす際のピール強度(以下、「ピール強度」とも言う。)を1.0N/mm以上にできないことがある。また、後述のB/Mが0.9以下にならないことがある。
【0018】
また、平均最大粒子径Mが0.2μm以下になるようなめっき粒子3a(つまり粒子径の小さなめっき粒子3a)を成長させるには、例えば電気めっき処理のめっき時間を短くする必要がある。しかしながら、銅箔基材2として例えば圧延銅箔が用いられる場合、圧延銅箔の主面(表面)には、圧延ロールの跡やオイルピット等による微細な凹凸が形成されていることがある。つまり、圧延銅箔の表面が平坦でないことがある。圧延銅箔の表面に形成された凸箇所は、凹箇所に比べて、例えば電気めっき処理を行っている際に電流が集中しやすい。このため、圧延銅箔の主面に、めっきが成長しやすい箇所(凸箇所)と、めっきが成長しにくい箇所(凹箇所)と、が生じることがある。これにより、圧延銅箔の主面上で、めっきが付着しない箇所や、めっき粒子3aが成長しない箇所が生じ、粗化抜けが発生することがある。その結果、積層板10において、樹脂基材11と表面処理銅箔1との間に隙間が生じてしまい、積層板10において樹脂基材11に接触する表面処理銅箔1の表面積が小さくなるため、密着性が低下することがある。例えば、ピール強度を1.0N/mm以上に維持できないことがある。また、銅箔除去後の樹脂基材11の濃淡(濁り度)が面内でより不均一になることがある。
【0019】
平均最大粒子径Mを0.2μmより大きくすることで、積層板10において樹脂基材11に接触する表面処理銅箔1の表面積を充分に大きくできる。つまり、積層板10において、所望の接触表面積を確保できる。また、粗化抜けの発生を抑制することができる。
【0020】
平均最大粒子径Mが0.5μmを超えると、めっき粒子3aの大きさが大きくなる。従って、積層板10において樹脂基材11に接触する表面処理銅箔1の表面積をより大きくできるため、所望の密着性を維持することはできる。しかしながら、後述の凹部11aの大きさが大きくなるため、透明性が低下してしまうことがある。つまり、所望の透明性を確保することができないことがある。なお、透明性とは、粗化銅めっき層3が樹脂基材11に対向するように表面処理銅箔1を樹脂基材11に貼り合わせた後に表面処理銅箔1を除去した樹脂基材11(以下、「銅箔除去後の樹脂基材11」とも言う。)の透明性である。平均最大粒子径Mの値を0.5μm以下にすることで、所望の密着性を維持しつつ、所望の透明性をより確実に確保できる。例えば、後述のB/Mを0.9以下にすることで、ピール強度を1.0N/mm以上に維持しつつ、銅箔除去後の樹脂基材11のHAZE値(以下、単に「HAZE値」とも言う。)を70%以下により確実にすることができる。なお、HAZE値とは、濁度とも呼ばれ、HAZE値の値が大きくなるほど、透明性が低くなることになる。
【0021】
図3に示すように、粗化銅めっき層3が樹脂基材11に対向するように表面処理銅箔1を樹脂基材11に貼り合わせた後、樹脂基材11から表面処理銅箔1を除去したとき、めっき粒子3aが樹脂基材11に押し当てられることで、樹脂基材11には複数の凹部11aが形成される。つまり、めっき粒子3aの形状が樹脂基材11に転写されることで、複数の凹部11aが樹脂基材11に形成される。
【0022】
例えば図3では、底面径がB,B,Bである凹部11aが形成された様子を示している。なお、底面径とは、凹部11aの樹脂基材11の表面と同一面における径を言う。凹部11aの底面径B,B,Bは、例えばめっき粒子3aの底面径に相当する。この場合、凹部11aの平均底面径Bは、それぞれの凹部11aの底面径B,B,Bの平均値となる。
【0023】
表面処理銅箔1は、平均最大粒子径M及び平均底面径Bを用いて算出したB/Mが例えば0.9以下になるように形成されていることが好ましい。例えば、粗化銅めっき層3を設けることで表面粗さが粗くなった表面処理銅箔1の面(粗化面)におけるB/Mが0.9以下であることが好ましい。
【0024】
B/Mの値が小さくなるほど、めっき粒子3aの最大径が底面径に対して大きくなる。従って、例えば粒子径が同一であるめっき粒子3aでは、B/Mの値が小さくなるほど(つまり凹部11aの底面径が小さくなるほど)、積層板10において樹脂基材11に接触する表面処理銅箔1の表面積が大きくなる傾向にある。また、例えば接触表面積が同一であるめっき粒子3aでは、B/Mの値が小さくなるほど、めっき粒子3aの粒子径が小さくなる傾向にある。なお、B/Mの最大値は1.0である。
【0025】
B/Mが0.9を超えると、めっき粒子3aの最大径と底面径とがほぼ同程度になる。その結果、めっき粒子3aの粒子径(例えば平均最大粒子径M)を小さくすると、積層板10において所定の接触表面積を確保することができないことがある。従って、所望の透明性を確保することはできるが、所望の密着性を維持できないことがある。例えば、銅箔除去後の樹脂基材11のHAZE値は70%以下にできるが、ピール強度が1.0N/mm未満になることがある。
【0026】
B/Mを0.9以下にすることで、めっき粒子3aの粒子径を小さくしても、積層板10において所定の接触表面積を確保できる。その結果、所望の密着性を維持しつつ、所望の透明性を確保することができる。例えば、ピール強度を1.0N/mm以上に維持しつつ、HAZE値を70%以下にすることができる。
【0027】
また、表面処理銅箔1のB/Mが0.7より大きいとより好ましい。B/Mが0.7以下であると、めっき粒子3aが銅箔基材2上から脱落しやすくなる。めっき粒子3aが銅箔基材2から脱落すると、表面処理銅箔1と樹脂基材11とを貼り合わせる際に、脱落しためっき粒子3aが搬送ロール等に付着することがある。めっき粒子3aが付着した搬送ロール間を表面処理銅箔1が通過すると、表面処理銅箔1に凹み(デンツ(dent))が形成されてしまうことがある。デンツは、回路をパターニングする際に、断線などの原因になることがある。その結果、積層板10を用いて形成されるFPC等の製品の信頼性を大きく低下させてしまう。B/Mを0.7より大きくすることで、めっき粒子3aが銅箔基材2上から脱落し、粗化抜けが発生することを抑制できる。
【0028】
ここで、平均最大粒子径Mの算出方法について説明する。例えば、SEM法により、200個以上500個未満のめっき粒子3aが観察できる倍率で、粗化銅めっき層3の主面に対して法線方向における上方から粗化銅めっき層3の上面(主面)を観察(撮影)する。これにより、例えば図4に示すような表面処理銅箔1の粗化面(粗化銅めっき層3の上面)のSEM像を得る。なお、200個未満のめっき粒子3aが観察できる倍率で観察すると、粗化銅めっき層3の観察位置によって平均最大粒子径Mの値が大きく異なってしまうことがある。また、500個以上のめっき粒子3aが観察できる倍率で観察すると、観察するめっき粒子3aのそれぞれの大きさが小さいため、計測誤差の原因になることがある。
【0029】
そして、得られたSEM像中で観察されるめっき粒子3aのうち、密着性及び透明性により大きな影響を及ぼす最大径の大きなめっき粒子3aを抽出する。例えば、最大径の大きい方から順に20個のめっき粒子3aを抽出する。なお、粗化銅めっき層3の上方から撮影したSEM像では、通常、SEM像に写る各めっき粒子3aのそれぞれの長径が最大径に一致する。そして、抽出しためっき粒子3aの最大径の平均値を算出し、この平均値をMとする。
【0030】
次に、平均底面径Bの算出方法について説明する。例えば、SEM法により、200個以上500個未満の凹部11aが観察できる倍率で、銅箔除去後の樹脂基材11の主面に対して法線方向における上方から、銅箔除去後の樹脂基材11における銅箔除去箇所を観察する。この際、例えば上述の平均最大粒子径Mを算出する際に粗化銅めっき層3を観察したときと同じ倍率で観察することがより好ましい。これにより、例えば図5に示すような銅箔除去箇所の樹脂基材11のSEM像を得る。
【0031】
そして、得られたSEM像中で観察される凹部11aのうち、密着性及び透明性により大きな影響を及ぼす底面径の大きな凹部11aを抽出する。例えば、底面径の大きい方から順に20個の凹部11aを抽出する。そして、抽出した凹部11aの底面径の平均値を算出し、この平均値を平均底面径Bとする。
【0032】
また、表面処理銅箔1の粗化面の十点平均粗さ(Rz)が例えば0.8μm以下であることが好ましい。粗化面のRzが0.8μmを超えると、積層板10において樹脂基材11に接触する表面処理銅箔1の表面積が大きくなるため、所望の密着性を維持できるが、所望の透明性を確保できないことがある。粗化面のRzを0.8μm以下にすることで、所望の密着性を維持しつつ、所望の透明性をより確実に確保することができる。例えば、ピール強度を1.0N/mm以上に維持しつつ、HAZE値を70%以下により確実にすることができる。
【0033】
また、めっき粒子3aが銅箔基材2から脱落することを抑制するため、粗化銅めっき層3の少なくとも上面を覆うめっき粒子脱落抑制層4が設けられていることが好ましい。めっき粒子脱落抑制層4は、例えば銅めっき層で形成されていることが好ましい。なお、めっき粒子脱落抑制層4の厚さは薄いため、上述の平均最大粒子径Mや平均底面径Bの算出において、めっき粒子脱落抑制層4の厚さは無視できる。
【0034】
例えば、めっき粒子脱落抑制層4の厚さは0.01μm以上0.3μm以下であることが好ましい。なお、めっき粒子脱落抑制層4の厚さは、めっき粒子3aの表面に均一にめっき粒子脱落抑制層4が形成されると仮定して、めっき粒子脱落抑制層4を形成する際のめっき処理の電気量から計算した厚さである。
【0035】
めっき粒子脱落抑制層4の厚さが0.01μm未満であると、めっき粒子脱落抑制層4の厚さが薄いため、めっき粒子3aの脱落を抑制できないことがある。めっき粒子脱落抑制層4の厚さを0.01μm以上にすることで、めっき粒子3aの脱落を抑制することができる。
【0036】
しかしながら、めっき粒子脱落抑制層4の厚さが0.3μmを超えると、めっき粒子3aによって表面処理銅箔1の表面(粗化面)に形成される凹凸の大きさが大きくなりすぎてしまうことがある。従って、銅箔除去後の樹脂基材11の透明性が低くなってしまうことがある。めっき粒子脱落抑制層4の厚さを0.3μm以下にすることで、めっき粒子3aによって表面処理銅箔1の表面に形成される凹凸の大きさが大きくなりすぎることを抑制できる。従って、所望の密着性を維持しつつ、所望の透明性を確保できる。例えばピール強度を1.0N/mm以上に維持しつつ、HAZE値を70%以下にすることができる。
【0037】
(2)表面処理銅箔及び積層板の製造方法
次に、本実施形態にかかる表面処理銅箔1及び積層板10の製造方法について説明する。
【0038】
[表面処理銅箔形成工程]
まず、本実施形態にかかる表面処理銅箔1を形成する。
【0039】
(銅箔基材形成工程)
銅箔基材2として、例えば圧延銅箔や電解銅箔を形成する。例えば、銅箔基材2としての圧延銅箔を形成する場合、まず、無酸素銅やタフピッチ銅からなる純銅の鋳塊や、無酸素銅やタフピッチ銅を母相とし、母相中に所定量のSnやAg等の添加剤を添加した希薄銅合金の鋳塊を鋳造する。そして、鋳造した鋳塊に対し、所定の熱間圧延処理、所定の冷間圧延処理、所定の焼鈍処理等を行い、所定厚さ(例えば5μm以上35μm以下)の圧延銅箔を形成する。
【0040】
(粗化銅めっき層形成工程)
銅箔基材形成工程が終了したら、例えばロール・ツー・ロール(roll to roll)形式の連続電気めっき処理により、銅箔基材2の少なくともいずれかの主面上に所定厚さ(例えば0.2μm以上1.1μm以下)の粗化銅めっき層3を形成する。具体的には、粗化銅めっき層3を形成するめっき液(粗化銅めっき液)中で電気めっき処理(粗化処理)を行うことで、粗化銅めっき層3を形成する。粗化銅めっき液として、例えば硫酸銅および硫酸を主成分とする酸性銅めっき浴を用いることができる。また、粗化銅めっき液中に、所定量(例えば50g/L)の硫酸鉄七水和物を添加してもよい。
【0041】
粗化銅めっき層形成工程では、めっき条件における限界電流密度以上の電流密度(いわゆる「やけめっき」になるような電流密度)であって、平均底面径B/平均最大粒子径Mを0.9以下にできるようなめっき粒子3aを形成できる電流密度に、電流密度を調整することが好ましい。例えば、電流密度を40A/dm以上に調整することが好ましく、42A/dm以上65A/dm以下に調整することがより好ましい。
【0042】
また、粗化銅めっき層形成工程では、陽極としてCu板を用い、粗化処理を施す対象である銅箔基材2自体を陰極とすることが好ましい。
【0043】
(めっき粒子脱落抑制層形成工程)
粗化銅めっき層形成工程が終了した後、所定厚さ(例えば0.01μm以上0.3μm以下)のめっき粒子脱落抑制層4を粗化銅めっき層3上に形成する。例えば、Cuを主成分とするめっき浴中で電気めっき処理を行うことで、粗化銅めっき層3の少なくとも上面を覆うめっき粒子脱落抑制層4としての銅めっき層を形成する。
【0044】
(検査工程)
めっき粒子脱落抑制層形成工程が終了し、銅箔基材2と、粗化銅めっき層3と、めっき粒子脱落抑制層4と、を備える表面処理銅箔1を形成したら、例えばSEM法により粗化銅めっき層3に含まれるめっき粒子3aの平均最大粒子径Mを算出する。また、表面処理銅箔1の粗化銅めっき層3が設けられた側の面が樹脂基材11に対向するように、表面処理銅箔1と樹脂基材11とを貼り合わせた後、樹脂基材11から表面処理銅箔1を除去し、凹部11aの平均底面径Bを算出する。そして、表面処理銅箔1のB/Mを算出し、B/Mが例えば0.9以下であるか否かを検査する。
【0045】
[積層板形成工程]
上述の検査工程で算出した表面処理銅箔1のB/Mが例えば0.9以下であった場合、表面処理銅箔1と樹脂基材11とを貼り合わせて積層板10を形成する。具体的には、粗化銅めっき層3が樹脂基材11に対向するように表面処理銅箔1を樹脂基材11上に配置し、表面処理銅箔1と樹脂基材11とを貼り合わせる。表面処理銅箔1と樹脂基材11との貼り合わせは、例えば、真空プレス機を用い、表面処理銅箔1と樹脂基材11とを所定温度(例えば150℃以上350℃以下)に加熱しつつ、表面処理銅箔1と樹脂基材11とに所定圧力(例えば20MPa以下)を所定時間(例えば1分以上120分以下)加えて行うことができる。
【0046】
(3)本実施形態にかかる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果を奏する。
【0047】
(a)平均底面径B/平均最大粒子径Mで算出される値を所定値以下にすることで、めっき粒子3aの粒子径を小さくしても(つまり、めっき粒子3aの粒子径を大きくすることなく)、積層板10において表面処理銅箔1が樹脂基材11と接触する表面積を所定値以上にできる。これにより、所望の密着性を維持することができる。また、めっき粒子3aの粒子径を小さくすることで、所望の透明性を確保することができる。つまり、所望の密着性を維持しつつ、所望の電気特性を確保することができる。
【0048】
(b)具体的には、B/Mを0.9以下にすることで、例えば、ピール強度を1.0N/mm以上に維持しつつ、HAZE値を70%以下にできる。
【0049】
ピール強度を1.0N/mm以上にすることで、例えば表面処理銅箔1を用いた積層板10で形成したFPCにおいて、表面処理銅箔1の所定箇所をエッチング等により除去することで形成した銅配線が、樹脂基材11から剥がれることを抑制できる。従って、FPCの信頼性の低下を抑制できる。
【0050】
また、HAZE値を70%以下にすることで、例えば表面処理銅箔1を用いた積層板10で形成したFPCに電子部品等を実装する際、目視やCCDカメラ等により、表面処理銅箔1が除去された箇所の樹脂基材11越しに銅配線や位置決めマーク等を容易に認識することができる。その結果、例えばFPCに電子部品等を実装する際の実装作業性を向上させることができる。
【0051】
(c)平均最大粒子径Mを0.2μmより大きく、0.5μm以下にすることで、より確実にB/Mを0.9以下にすることができるとともに、所望の密着性を維持しつつ、所望の透明性をより確実に得ることができる。従って、上記(a)(b)の効果をより得ることができる。
【0052】
例えば図6(a)に示すように、平均最大粒子径Mが0.2μmより大きく0.5μm以下である表面処理銅箔1を用いた積層板10で形成したFPCでは、銅箔除去後の樹脂基材11が所望の透明性を有していることが分かる。つまり、銅箔を除去した箇所の樹脂基材11越しに銅配線を容易に認識することができる。例えば、樹脂基材11と銅配線との境界を容易に認識することができる。
【0053】
これに対し、例えば図6(b)に示すように、平均最大粒子径Mが0.2μm以下である表面処理銅箔を用いた積層板で形成したFPCでは、銅箔除去後の樹脂基材11の透明性を高くすることができる。しかしながら、例えばCCDカメラを用いてFPCに電子部品を実装する場合、CCDカメラが備える光照射部から出射されて樹脂基材11を透過した光が銅配線である表面処理銅箔上で反射することがある。このため、例えば、銅箔を除去した箇所の樹脂基材11越しに銅配線を認識し難くなることがある。また、例えば図6(c)に示すように、平均最大粒子径Mが0.5μmを超える表面処理銅箔を用いた積層板で形成したFPCでは、銅箔除去後の樹脂基材11の透明性が低いことが分かる。従って、銅箔を除去した箇所の樹脂基材11越しに銅配線を認識することが難しいことがある。例えば、樹脂基材11と銅配線との境界を認識することができないことがある。
【0054】
(d)粗化銅めっき層3上にめっき粒子脱落抑制層4を設けることで、粗化銅めっき層3に含まれるめっき粒子3aが銅箔基材2から脱落することを抑制できる。特に、めっき粒子3aの粒子径が大きい場合(例えば平均最大粒子径Mが0.4μm以上である場合)に有効である。
【0055】
(e)本実施形態にかかる表面処理銅箔1を用いて形成した積層板10は、FPCに用いられる場合に特に有効である。本実施形態にかかる表面処理銅箔1を用いて形成したFPCは、表面処理銅箔1が除去された箇所の樹脂基材11を介した識別容易性が高く、表面処理銅箔1が除去された箇所の樹脂基材11越しに銅配線を容易に認識することができ、実装作業性を向上させることができる。
【0056】
(本発明の他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0057】
上述の実施形態では、表面処理銅箔1が、銅箔基材2と、粗化銅めっき層3と、を備える場合について説明したが、これに限定されない。例えば、表面処理銅箔1の耐薬品性や耐熱性等を向上させるため、粗化銅めっき層3(めっき粒子脱落抑制層4が設けられている場合は、めっき粒子脱落抑制層4)の上面には、防錆層が設けられていてもよい。また、防錆層は、粗化銅めっき層3が設けられた側とは反対側の銅箔基材2の主面上にも設けられているとより好ましい。防錆層の厚さは例えば1nm以上70nm以下であることが好ましい。
【0058】
防錆層として、例えば、銅箔基材2の側から順に、厚さが10nm以上50nm以下であるニッケル(Ni)めっき層と、厚さが1nm以上10nm以下である亜鉛(Zn)めっき層と、厚さが1nm以上10nm以下であるクロメート処理層(3価のクロム化成処理層)と、厚さが非常に薄い(極薄の)シランカップリング層と、が設けられていることが好ましい。
【0059】
防錆層の厚さは非常に薄いため、平均最大粒子径Mやや平均底面径Bを算出する際に、防錆層の厚さは無視できる。つまり、防錆層の上からSEM法により粗化銅めっき層3を観察し、平均最大粒子径Mを算出することができる。また、凹部の平均底面径Bを算出する際、粗化銅めっき層3上に設けられた防錆層が樹脂基材11に対向するように表面処理銅箔1を樹脂基材11に貼り合わせた後、樹脂基材11から表面処理銅箔1を除去した樹脂基材11を用いて、平均底面径Bを算出することができる。
【0060】
上述の実施形態では、めっき粒子脱落抑制層4が設けられている場合について説明したが、これに限定されない。つまり、めっき粒子脱落抑制層4は設けられていなくてもよい。
【0061】
また、例えば、銅箔基材2と粗化銅めっき層3との間には、粗化銅めっき層3の下地層として機能する下地めっき層が設けられていてもよい。下地めっき層は、例えば銅めっき層で形成されていることが好ましい。これにより、銅箔基材2として例えば圧延銅箔が用いられる場合、圧延銅箔の表面に形成された圧延ロールの跡やオイルピット等の凹凸を埋めることができ、より平坦な面上に粗化銅めっき層3を形成することができる。その結果、めっき粒子3aの粗化抜けの発生をより抑制できる。
【0062】
上述の実施形態では、銅箔基材2として圧延銅箔を用いる場合を例に説明したが、これに限定されない。銅箔基材2として例えば電解銅箔を用いてもよい。この場合であっても、粗化銅めっき層3を形成するめっき処理の時間を圧延銅箔を用いた場合の例えば20倍程度にすることで、銅箔基材2(電解銅箔)上に粗化銅めっき層3を形成できる。
【0063】
上述の実施形態では、樹脂基材11のいずれかの主面上に表面処理銅箔1が設けられている場合について説明したが、これに限定されない。つまり、樹脂基材11の両主面上にそれぞれ表面処理銅箔1が設けられていてもよい。この場合、樹脂基材11を挟んで表面処理銅箔1がそれぞれ対向するように、表面処理銅箔1が設けられていることが好ましい。
【0064】
上述の実施形態では、表面処理銅箔1と樹脂基材11との貼り合わせを、真空プレス機を用いて行ったが、これに限定されない。例えば、接着剤を用いて表面処理銅箔1と樹脂基材11とを貼り合わせて積層板10を形成してもよい。
【0065】
また、例えば、粗化銅めっき層形成工程やめっき粒子脱落抑制層形成工程の前に、必要に応じて銅箔基材2や粗化銅めっき層3の表面を清浄する清浄処理を行ってもよい。清浄処理として、例えば電解脱脂処理と酸洗処理とを行うとよい。
【0066】
上述の実施形態では、表面処理銅箔1を用いて構成された積層板10からFPCが形成される場合について説明したが、これに限定されない。表面処理銅箔1を用いて構成された積層板10からTAB(Tape Automated Bonding)テープ、BGA(Ball Grid Array)テープ、COF(Chip On Film)テープ等を形成してもよい。この場合も、上述の効果を得ることができる。
【0067】
例えば、フリップチップ接合により、表面処理銅箔1を用いた積層板10で形成したCOFテープ上にICチップを搭載する際、CCDカメラ等を用いて、ICチップ上に設けられた金(Au)バンプと、COFテープ上のリード(表面処理銅箔1で形成した銅配線)と、の位置合わせを容易に行うことができる。つまり、COFテープ上にICチップを搭載する際の実装作業性を向上させることができる。具体的には、B/Mが0.9以下の表面処理銅箔1を用いることで、めっき粒子3aの粒子径を小さくしても、積層板10において所定の接触表面積を維持できるため、めっき粒子3aの形状が転写されることで樹脂基材11に形成される凹凸が小さくなる。その結果、CCDカメラが備える光照射部から照射されてCOFテープが備える透明の樹脂基材11(絶縁性フィルム基材)を透過する光が、樹脂基材11に形成された凹凸部分で乱反射することを低減できるため、実装作業性を向上させることができる。
【0068】
また、本実施形態にかかる表面処理銅箔1は、プラズマディスプレイ用電磁波シールド、ICカードのアンテナ等にも用いることができる。
【実施例】
【0069】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0070】
<試料の作製>
(試料1)
まず、銅箔基材として、無酸素銅(OFC)で形成され、厚さが12μmであり、表面粗さ(Rz)が0.5μmである圧延銅箔(無酸素銅箔)を準備した。
【0071】
この銅箔基材に電解脱脂処理と酸洗処理とを行い、銅箔基材の表面を清浄した。具体的には、まず、水酸化ナトリウムを30g/Lと、炭酸ナトリウムを40g/Lと、を含む水溶液を用いて電解脱脂処理を行った。このとき、液温を40℃にし、電流密度を15A/dmにし、めっき時間(処理時間)を15秒間にした。電解脱脂処理が終了した後、銅箔基材を水洗した。その後、硫酸を150g/L含み、液温が25℃である水溶液中に、銅箔基材を10秒間浸漬して酸洗処理を行った。酸洗処理が終了した後、銅箔基材を水洗した。
【0072】
次に、銅箔基材のいずれかの主面上に、粗化銅めっき層の下地層として機能し、厚さが0.6μmである銅めっき層(下地めっき層)を形成した。具体的には、まず、銅めっき液として、硫酸銅五水和物を100g/Lと、硫酸を60g/Lと、を含む水溶液を作製した。また、この銅めっき液中に、添加剤として、有機硫黄化合物(SPS)(粉末試薬)、ポリプロピレングリコール(液体試薬)、ジアリルジアルキルアンモニウムアルキルサルフェイト、塩酸を、それぞれ、40mg/L、4ml/L、0.3g/L、0.15ml/Lになるように配合し、下地めっき層を形成するめっき液(下地銅めっき液)を作製した。そして、下地銅めっき液の液温を35℃にし、電流密度を8A/dmにし、めっき時間を20秒間にして、銅箔基材のいずれかの主面に対して電気めっき処理を行い、所定厚さの下地めっき層を形成した。
【0073】
下地めっき層を形成した後に銅箔基材を水洗した。その後、下地めっき層上に、厚さが0.18μmである粗化銅めっき層を形成した。具体的には、硫酸銅五水和物を50g/Lと、硫酸を80g/Lと、硫酸鉄七水和物を50g/Lと、を含む水溶液である粗化銅めっき液を用い、電気めっき処理により行った。このとき、粗化銅めっき液の液温を30℃にし、電流密度を50A/dmにし、めっき時間を1.0秒間にした。
【0074】
そして、粗化銅めっき層上に防錆層を形成した。具体的には、防錆層として、銅箔基材の側から順に、厚さが0.04μm(40nm)であるNiめっき層と、厚さが7nmであるZnめっき層と、厚さが4nmであるクロメート皮膜と、極薄い厚さのシランカップリング処理層と、を形成した。
【0075】
具体的には、まず、粗化銅めっき層を形成した後、銅めっき層及び粗化銅めっき層を形成した銅箔基材を水洗した。そして、硫酸ニッケル六水和物を300g/Lと、塩化ニッケルを45g/Lと、硼酸を40g/Lと、を含む水溶液(Niめっき液)を用い、電気めっき処理によりNiめっき層を形成した。このとき、Niめっき液の液温を50℃にし、電流密度を3.6A/dmにし、めっき時間を2.9秒間にした。Niめっき層を形成した後、銅箔基材を水洗した。その後、硫酸亜鉛七水和物を90g/Lと、硫酸ナトリウムを70g/Lと、を含む水溶液(Znめっき液)を用い、Znめっき層を形成した。このとき、Znめっき液の液温を30℃にし、電流密度を1.8A/dmにし、めっき時間を4秒間にした。Znめっき層を形成した後、銅箔基材を水洗した。続いて、3価クロム化成処理を行い、クロメート皮膜を形成した。クロメート皮膜を形成した後、銅箔基材を水洗した。そして、3−アミノプロピルトリメトキシシランの濃度が5%であり、液温が25℃であるシランカップリング液中に、クロメート皮膜を形成した銅箔基材を5秒間浸漬した後、直ちに200℃の温度で乾燥することで、シランカップリング処理層を形成した。
【0076】
粗化銅めっき層上の防錆層の形成と併行して(粗化銅めっき層上の防錆層の形成と同時に)、銅箔基材の粗化銅めっき層が設けられた側とは反対側の主面に、防錆層(裏面防錆層)として、銅箔基材の側から順に、Niめっき層と、Znめっき層と、クロメート処理層と、を形成した。なお、Niめっき層、Znめっき層、クロメート処理層の形成方法は、粗化銅めっき層上に設けた防錆層としてのNiめっき層、Znめっき層、クロメート処理層と同様である。これにより、表面処理銅箔を作製し、これを試料1とした。
【0077】
(試料2〜3、6)
試料2〜3及び試料6ではそれぞれ、粗化銅めっき層を形成する際の電流密度を下記の表1に示す通りに変更した。この他は、試料1と同様にして表面処理銅箔を作製した。これらをそれぞれ、試料2〜3及び試料6とする。
【0078】
(試料4〜5)
試料4〜5ではそれぞれ、粗化銅めっき層を形成する際の電流密度を下記の表1に示す通りに変更した。また、粗化銅めっき層上に、粗化銅めっき層を形成した後、防錆層(Niめっき層)を形成する前に、粗化銅めっき層に含まれるめっき粒子の脱落を抑制する銅めっき層(めっき粒子脱落抑制層)を粗化銅めっき層上に形成した。なお、めっき粒子脱落抑制層の形成は、硫酸銅五水和物を100g/Lと、硫酸を60g/Lと、を含む銅めっき液を用い、電気めっき処理により行った。このとき、銅めっき液の液温を40℃にし、電流密度を19A/dmにし、めっき時間を2.9秒間にした。
【0079】
【表1】
【0080】
<積層板の作製>
試料1〜6の各表面処理銅箔と樹脂基材とを貼り合わせて、積層板として両面FCCL(Flexible Copper Clad Laminate)をそれぞれ作製した。
【0081】
具体的には、試料1〜6の各表面処理銅箔をそれぞれ所定の大きさ(縦100mm×横60mm)に裁断して切り出した。そして、裁断した各試料の表面処理銅箔(つまり、樹脂基材に貼り合わせる前の各試料)についてそれぞれ、めっき粒子の平均最大粒子径Mの測定を行った。具体的には、SEM法により、観察倍率を1万倍にし、粗化銅めっき層の主面に対して法線方向における上方から粗化銅めっき層の上面を観察してSEM像を得た。例えば、図7(a)に試料1の表面処理銅箔の粗化銅めっき層を観察したSEM像の一例を示し、図7(b)に試料3の表面処理銅箔の粗化銅めっき層を観察したSEM像の一例を示す。そして、SEM像中で観察されるめっき粒子のうち、最大径の大きい方から順に20個のめっき粒子を抽出した。そして、抽出しためっき粒子の最大径の平均値を算出し、この平均値を平均最大粒子径Mとした。算出結果を下記の表2に示す。
【0082】
また、裁断した各試料の表面処理銅箔についてそれぞれ、粗化面の十点平均粗さ(Rz)を測定した。なお、粗化面のRzの測定は、JIS B0601に基づき、接触粗さ計を用いて行った。試料1〜6のRzの測定結果はそれぞれ、0.6〜2.3μmであった。
【0083】
続いて、試料1〜6の各試料から切り出した表面処理銅箔を用いて、積層板としての両面FCCLをそれぞれ作製した。具体的には、同一の試料から切り出した2つの表面処理銅箔を樹脂基材を挟んでそれぞれ対向させるとともに、2つの表面処理銅箔の粗化銅めっき層がそれぞれ樹脂基材に対向するように、樹脂基材の両面上に表面処理銅箔を配置し、表面処理銅箔と樹脂基材との積層体を形成した。そして、真空プレス機を用い、260℃の条件下で15分間、積層体を加熱した後、300℃の条件下で、プレス圧を4MPaにして10分間、積層体に圧力をかけて、表面処理銅箔と樹脂基材とを貼り合わせて、両面CCLを作製した。なお、樹脂基材として、厚さが50μmであるポリイミドフィルム(株式会社カネカ製のピクシオ(登録商標))を用いた。
【0084】
<平均底面径B/平均最大粒子径Mの算出>
まず、試料1〜6の各試料からそれぞれ切り出した表面処理銅箔を用いて形成した積層板に対して、50℃の条件下で塩化第二鉄を用いたスプレーエッチングを行い、積層板から表面処理銅箔を全て除去した。つまり、樹脂基材の両面(両主面)の全面を露出させた状態にした。そして、SEM法により、観察倍率を1万倍にし、樹脂基材の主面に対して法線方向における上方から樹脂基材の上面を観察してSEM像を得た。例えば、図8(a)に試料1の表面処理銅箔を貼り合わせて除去した後の樹脂基材の銅箔除去箇所のSEM像の一例を示し、図8(b)に試料3の表面処理銅箔を貼り合わせて除去した後の樹脂基材の銅箔除去箇所のSEM像の一例を示す。そして、得られたSEM像中で観察される凹部(粗化銅めっき層に含まれるめっき粒子の形状が転写されることで形成される凹部)のうち、樹脂基材の主面(測定面)と同一面における径(凹部の底面径)の大きい方から順に20個の凹部を抽出した。そして、抽出した凹部の底面径の平均値を算出し、この平均値を平均底面径Bとした。算出結果を、下記の表2に示す。
【0085】
そして、算出した平均最大粒子径Mと、平均底面径Bと、を用い、各試料についてそれぞれB/Mを算出した。算出結果をそれぞれ、下記の表2に示す。
【0086】
<透明性の評価>
試料1〜6の各表面処理銅箔を用いて形成した積層板についてそれぞれ、樹脂基材の透明性の評価として、積層板から各試料である表面処理銅箔を除去した後の樹脂基材のHAZE値の測定を行った。
【0087】
具体的には、各試料を用いて作製した積層板に対し、塩化第二鉄を用いてスプレーエッチングを行い、積層板から表面処理銅箔を全て除去した。つまり、樹脂基材の両面(両主面)の全面を露出させた。そして、表面処理銅箔が除去された樹脂基材のそれぞれについて、BYK製のhaze−gard plusを用いてHAZE値の測定を行った。HAZE値の測定結果をそれぞれ、下記の表2に示す。
【0088】
<密着性の評価>
試料1〜6の各表面処理銅箔を用いて作製した積層板についてそれぞれ、表面処理銅箔と樹脂基材との密着性の評価として、表面処理銅箔を樹脂基材から剥離する際のピール強度の測定を行った。
【0089】
ピール強度の測定は、以下のように行った。まず、試料1〜6の各表面処理銅箔を用いて作製した積層板のそれぞれの一方の主面(表面処理銅箔の樹脂基材と接する側とは反対側の面)上に、幅が1mmのマスキングテープを貼った。また、各積層板の他方の主面の全面にマスキングテープを貼った。そして、マスキングテープを貼った各積層板に対し、塩化第二鉄を用いてスプレーエッチングを行い、積層板から表面処理銅箔の所定箇所(マスキングテープが貼られていない箇所)を除去した。その後、マスキングテープを除去した。続いて、表面処理銅箔を樹脂基材から引き剥がした際の強度を測定した。具体的には、エッチングされて1mm幅となった表面処理銅箔を、樹脂基材から90°の角度で(引き剥がされた表面処理銅箔と樹脂基材との為す角が90°となるように)、表面処理銅箔を樹脂基材から引っ張ったときの剥離荷重を測定し、これをピール強度とした。このように測定したピール強度の値が大きいほど、密着性が高いといえる。ピール強度の測定結果をそれぞれ、下記の表2に示す。
【0090】
<総合評価>
総合評価として、所望の密着性を維持しつつ、所望の透明性を確保できているか否かの評価を行った。具体的には、ピール強度が1.0N/mm以上であり、HAZE値が70%以下である試料の総合評価を「○」とした。また、ピール強度が1.0N/mm未満であったり、HAZE値が70%を超える試料の総合評価を「×」とした。総合評価の評価結果をそれぞれ、下記の表2に示す。
【0091】
【表2】
【0092】
<評価結果>
試料1〜2から、B/Mが0.9以下であると、所望の密着性を維持しつつ、所望の透明性を確保できることを確認した。具体的には、ピール強度を1.0N/mmに維持しつつ、HAZE値を70%以下にできることを確認した。その結果、表面処理銅箔を用いて形成したFPCに電子部品等を実装する際、目視やCCDカメラ等により、銅箔が除去された箇所の樹脂基材越しに銅配線を認識でき、電子部品の実装位置の位置決めを容易に行うことができることを確認した。また、銅配線が樹脂基材から剥離しにくく、FPCの信頼性を高めることができることを確認した。
【0093】
試料1〜2と、試料3と、の比較から、B/Mが0.9を超えると、所望の密着性を維持しつつ、所望の透明性を確保することができない場合があることを確認した。つまり、試料3から、B/Mが0.9を超えると、表面処理銅箔と樹脂基材との接触面積が小さくなることがあり、その結果、ピール強度が1.0N/mm未満になることがあることを確認した。
【0094】
試料4から、粗化銅めっき層に含まれるめっき粒子の粒子径を大きくしても、めっき粒子の脱落を抑制する銅めっき層を設けることで、めっき粒子の脱落を抑制できることを確認した。つまり、粗化抜けの発生を抑制できることを確認した。その結果、B/Mを所望の範囲にすることで、所望の密着性を維持しつつ、所望の透明性を確保できることを確認した。例えば、ピール強度を1.0N/mm以上にしつつ、HAZE値を70%以下にできることを確認した。
【0095】
試料4と試料5との比較から、平均最大粒子径Mを0.5μm以下にすることで、所望の密着性を維持しつつ、所望の透明性をより確実に確保することができることを確認した。つまり、試料5から、平均最大粒子径Mが0.5μmを超えると、ピール強度は1.0N/mm以上にできるが、B/Mを0.9以下にしても、HAZE値が70%を超えることがあることを確認した。
【0096】
試料1〜2と試料6との比較から、平均最大粒子径Mを0.2μmより大きくすることで、B/Mを0.9以下にでき、所望の密着性を維持しつつ、所望の透明性をより確実に確保することができることを確認した。つまり、試料6から、平均最大粒子径Mが0.2μm以下になると、B/Mが0.9を超えることがあることを確認した。また、ピール強度が1.0N/mm未満になることがあることを確認した。
【0097】
<本発明の好ましい態様>
以下に、本発明の好ましい態様について付記する。
【0098】
[付記1]
本発明の一態様によれば、
銅箔基材と、
前記銅箔基材の少なくともいずれかの主面上に設けられた粗化銅めっき層と、を備える表面処理銅箔であって、
前記粗化銅めっき層に含まれるめっき粒子の最大径の平均値をMとし、
前記粗化銅めっき層が樹脂基材に対向するように前記表面処理銅箔を前記樹脂基材に貼り合わせた後、前記樹脂基材から前記表面処理銅箔を除去したとき、前記めっき粒子が前記樹脂基材に押し当てられて形成された凹部の前記樹脂基材の表面と同一面における径の平均値をBとした場合、
B/Mが0.9以下である表面処理銅箔が提供される。
【0099】
[付記2]
付記1の表面処理銅箔であって、好ましくは、
前記表面処理銅箔を前記樹脂基材に貼り合わせた後に前記表面処理銅箔を前記樹脂基材から引き剥がした際のピール強度が1.0N/mm以上であり、
前記表面処理銅箔を除去した後の前記樹脂基材のHAZE値が70%以下である。
【0100】
[付記3]
付記1又は2の表面処理銅箔であって、好ましくは、
前記Mの値が0.2μmより大きく、0.5μm以下である。
【0101】
[付記4]
付記1ないし3のいずれかの表面処理銅箔であって、好ましくは、
前記粗化銅めっき層上には、前記銅箔基材上からの前記めっき粒子の脱落を抑制するめっき粒子脱落抑制層が設けられている。
【0102】
[付記5]
本発明の他の態様によれば、
銅箔基材、及び前記銅箔基材の少なくともいずれかの主面上に設けられた粗化銅めっき層、を備える表面処理銅箔と、
前記粗化銅めっき層に対向するように前記表面処理銅箔と貼り合わせられた樹脂基材と、を備え、
前記粗化銅めっき層に含まれるめっき粒子の最大径の平均値をMとし、
前記粗化銅めっき層が前記樹脂基材に対向するように前記表面処理銅箔を前記樹脂基材に貼り合わせた後、前記樹脂基材から前記表面処理銅箔を除去したとき、前記めっき粒子が前記樹脂基材に押し当てられて形成された凹部の前記樹脂基材の表面と同一面における径の平均値をBとした場合、
B/Mが0.9以下である積層板が提供される。
【0103】
[付記6]
本発明のさらに他の態様によれば、
銅箔基材のいずれかの主面上に粗化銅めっき層を形成して表面処理銅箔を形成する工程と、
前記粗化銅めっき層に含まれるめっき粒子の最大径の平均値Mを測定する工程と、
前記粗化銅めっき層が樹脂基材に接するように前記表面処理銅箔を前記樹脂基材に貼り合わせた後、前記樹脂基材から前記表面処理銅箔を除去し、前記めっき粒子が前記樹脂基材に押し当てられて形成された凹部の前記樹脂基材の表面と同一面における径の平均値Bを測定する工程と、
B/Mが0.9以下であるか否かを検査する工程と、を有する表面処理銅箔の製造方法が提供される。
【0104】
[付記7]
本発明のさらに他の態様によれば、
銅箔基材のいずれかの主面上に粗化銅めっき層を形成して表面処理銅箔を形成する工程と、
前記粗化銅めっき層が樹脂基材に接するように前記表面処理銅箔を前記樹脂基材に貼り合わせる工程と、
前記粗化銅めっき層に含まれるめっき粒子の最大径の平均値Mを測定する工程と、
前記樹脂基材から前記表面処理銅箔を除去し、前記めっき粒子が前記樹脂基材に押し当てられて形成された凹部の前記樹脂基材の表面と同一面における径の平均値Bを測定する工程と、
B/Mが0.9以下であるか否かを検査する工程と、を有する積層板の製造方法が提供される。
【符号の説明】
【0105】
1 表面処理銅箔
2 銅箔基材
3 粗化銅めっき層
3a めっき粒子
10 積層板
11 樹脂基材
11a 凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8