(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記湿式セリア粒子が前記合成石英ガラス基板用研磨剤100質量部に対して、5質量部以上20質量部以下の割合で含まれるものであることを特徴とする請求項1に記載の合成石英ガラス基板用研磨剤。
前記研磨促進剤が前記湿式セリア粒子100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下の割合で含まれるものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の合成石英ガラス基板用研磨剤。
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の合成石英ガラス基板用研磨剤を、粗研磨工程後の仕上げ研磨工程で使用することを特徴とする合成石英ガラス基板の研磨方法。
【背景技術】
【0002】
近年、光リソグラフィーによるパターンの微細化により、最先端用途の半導体関連電子材料に使用される合成石英ガラス基板は欠陥密度、欠陥サイズ、面粗さ、及び平坦度等の品質に関して、一層厳しい基準を満たすことが要求されている。なかでも合成石英ガラス基板上の欠陥に関しては、集積回路の高精細化、磁気メディアの高容量化に伴い、更なる高品質化が要求されている。
【0003】
このような観点から、合成石英ガラス基板の研磨に使用する研磨剤に対して、研磨後の合成石英ガラス基板の品質向上が求められている。具体的には、研磨後の合成石英ガラス基板の表面粗さが小さいことや、研磨後の合成石英ガラス基板の表面にスクラッチ等の表面欠陥が少ないことが強く要求されている。さらに、生産性向上の観点から、合成石英ガラス基板の研磨速度の向上も要求されている。
【0004】
従来、合成石英ガラス基板用研磨剤として、一般的に、シリカ(SiO
2)系の砥粒を含む研磨剤を使用することが検討されている。シリカ系のスラリーは、シリカ粒子を四塩化ケイ素の熱分解により粒成長させ、アンモニア等のアルカリ金属を含まないアルカリ溶液でpH調整を行って製造している。
【0005】
例えば、特許文献1には、高純度のコロイダルシリカを中性付近で使用し欠陥を低減できることが記載されている。しかし、コロイダルシリカの等電点を考慮すると、中性付近においてコロイダルシリカは不安定であり、研磨中コロイダルシリカ砥粒の粒度分布が変動し安定的に使用できなくなることが懸念される。従って、研磨において、シリカ系の研磨剤を循環及び繰り返し使用することは困難であり、掛け流しで使用する必要が有るため経済的に好ましくないという問題がある。
【0006】
また、特許文献2には、平均一次粒子径が60nm以下のコロイダルシリカと酸を含有した研磨剤を使用することで、欠陥を低減できることが記載されている。しかしながら、これらの研磨剤は現在の欠陥の低減要求を満足させるには不十分であり、より欠陥を低減するための改良が必要である。
【0007】
一方で、セリア(CeO
2)粒子は、シリカ粒子やアルミナ粒子に比べ硬度が低いため、研磨後の合成石英ガラス基板の表面にスクラッチ等の欠陥が発生し難い。従って、セリア粒子を研磨砥粒として使用した研磨剤は、欠陥の低減のために有効である。また、セリア粒子は強酸化剤として知られており、化学的に活性な性質を有しているため、セリア系の研磨剤はガラス等の無機絶縁体の研磨への適用に有効である。
【0008】
しかし、一般に、セリア系の研磨剤では、乾式セリア粒子が使用され、乾式セリア粒子は、不定形な結晶形状を有するため、乾式セリアを研磨剤に適用すると、石英ガラス基板表面にスクラッチ等の欠陥が発生しやすい問題がある。一方、湿式セリア粒子は乾式セリア粒子に比べて安定な多面体構造を有している。これによって、従来の乾式セリア粒子に比べてスクラッチ等の欠陥を大幅に改善することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、湿式セリア粒子を使用した場合、スクラッチ等の欠陥は十分に低減されるものの、研磨速度は現在要求されている研磨速度を満たすには至らない。特許文献3では、コロイダルシリカを使用した研磨剤に、アクリル酸/スルホン酸共重合体のようなスルホン酸基を有する重合体を含有した研磨剤を使用することで、研磨速度が高くできることが記載されている。しかしながら、このような、重合体をセリア系の研磨剤に添加しても、現在要求されている研磨速度を満たすには至らず、研磨速度をより向上させることが必要とされている。以上のように、従来の技術では、研磨欠陥の発生の低減と研磨速度の十分な向上とを両立することが困難であるという問題があった。
【0011】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、高い研磨速度を有するとともに、研磨による欠陥の発生を十分に低減することができる合成石英ガラス基板用研磨剤を提供することを目的とする。また、本発明は高い研磨速度を有し、欠陥の生成を十分に低減できる合成石英ガラス基板の研磨方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、研磨砥粒、研磨促進剤、及び水を含む合成石英ガラス基板用研磨剤であって、前記研磨砥粒が湿式セリア粒子であり、前記研磨促進剤がポリリン酸又はその塩、メタリン酸又はその塩、及びタングステン酸又はその塩のいずれかであることを特徴とする合成石英ガラス基板用研磨剤を提供する。
【0013】
本発明の合成石英ガラス基板用研磨剤は、研磨砥粒として湿式セリア粒子を含むものであるため、この研磨剤を使用した研磨においては、合成石英ガラス基板の表面にスクラッチ等の欠陥が発生し難い。そして、研磨促進剤として上記のいずれかの化合物を使用すると、湿式セリア粒子を使用した場合であっても十分な研磨速度を得ることができる。
【0014】
このとき、前記湿式セリア粒子が前記合成石英ガラス基板用研磨剤100質量部に対して、5質量部以上20質量部以下の割合で含まれるものであることが好ましい。
【0015】
湿式セリア粒子の濃度が5質量部以上であれば、合成石英ガラス基板用研磨剤に対する好適な研磨速度を確実に得ることができる。湿式セリア粒子の濃度が20質量部以下であれば、研磨剤の保存安定性をより高くできる。
【0016】
またこのとき、前記研磨促進剤が前記湿式セリア粒子100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下の割合で含まれるものであることが好ましい。
【0017】
本発明において、湿式セリア粒子100質量部に対し研磨促進剤の割合が0.1質量部以上となるように研磨促進剤を含めば合成石英ガラス基板用研磨剤に対する研磨速度の向上効果を十分に得ることができる。また、上記割合が5質量部以下となるように研磨促進剤を含めば研磨剤の保存安定性をより高くできる。
【0018】
このとき、本発明の合成石英ガラス基板用研磨剤はpHが3以上8以下のものであることが好ましい。
【0019】
本発明の合成石英ガラス基板用研磨剤のpHが3以上であれば、研磨剤中の湿式セリア粒子が安定的に分散する。また、上記pHが8以下であれば、合成石英ガラス基板用研磨剤に対する好適な研磨速度を確実に得られる。
【0020】
さらに、上記目的を達成するために、本発明は、上記のいずれかの合成石英ガラス基板用研磨剤を、粗研磨工程後の仕上げ研磨工程で使用することを特徴とする合成石英ガラス基板の研磨方法を提供する。
【0021】
合成石英ガラス基板の研磨に上記のいずれかの本発明の合成石英ガラス基板用研磨剤を使用することで、高い研磨速度を有し、また研磨傷等の欠陥の少ない合成石英ガラス基板を製造できる研磨を行うことができる。特に、欠陥の発生を一層低減することが要求される仕上げ研磨工程で使用することが好適である。
【発明の効果】
【0022】
本発明であれば、合成石英ガラス基板の研磨において、十分な研磨速度を得られ、かつ、合成石英ガラス基板の表面の欠陥生成を十分に抑制することが可能となる。その結果、合成石英ガラス基板の製造における、生産性及び歩留りを向上できる。また、特に、合成石英ガラス基板の製造工程における仕上げ研磨工程で、本発明の合成石英ガラス基板用研磨剤を使用することで、半導体デバイスの高精細化につながる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0025】
上述のように、本発明の合成石英ガラス基板用研磨剤(以下、単に「研磨剤」とも称する。)は研磨砥粒、研磨促進剤、及び水を含む。そして、本発明の研磨剤は研磨砥粒として湿式セリア粒子を含み、研磨促進剤としてポリリン酸又はその塩、メタリン酸又はその塩、及びタングステン酸又はその塩のいずれかを含む。
【0026】
湿式セリア粒子はシリカ粒子やアルミナ粒子に比べ硬度が低く、かつ、乾式セリア粒子に比べて安定な多面体構造を有している。本発明の合成石英ガラス基板用研磨剤は、このような湿式セリア粒子を研磨砥粒として含むことで研磨による傷等の欠陥の発生を抑制することが可能である。
【0027】
また、本発明の研磨剤は、上記のような研磨促進剤を含むことで、湿式セリア粒子を研磨砥粒として使用した場合であっても、十分に高い研磨速度を得ることができる。研磨促進剤として使用するポリリン酸又はその塩、メタリン酸又はその塩、タングステン酸又はその塩は、合成石英ガラスに対し、わずかながら反応性を示す。このため、本発明の合成ガラス用研磨剤において、研磨速度が向上する理由は、研磨促進剤と合成石英ガラス基板の表面で何らかの化学反応が起こり、合成石英ガラス基板の表面が改質されることで研磨が促進されるからであると推測される。
【0028】
以下、研磨剤中の各成分及び研磨剤に任意に添加できる成分、及び本発明の研磨剤による合成石英ガラス基板の研磨についてより詳細に説明する。
【0029】
上述のように、本発明の研磨剤に含まれる湿式セリア粒子は、乾式セリア粒子に比べて、多面体構造を持っており、スクラッチ等の研磨傷を改善出来る点で好ましい。この湿式セリア粒子の平均粒径は、5nm〜200nmの範囲であることが好ましい。また、湿式セリア粒子の平均粒径は20nm〜100nmの範囲であることがより好ましく、40nm〜70nmの範囲であることが特に好ましい。湿式セリア粒子の平均粒径が5nm以上であれば、合成石英ガラス基板に対する研磨速度を十分に高くできる。また、湿式セリア粒子の平均粒径が200nm以下であれば、スクラッチ等の研磨傷の発生をより低減できる。これらの効果は、特に、湿式セリア粒子の平均粒径が20nm〜100nmの範囲で顕著となる。
【0030】
湿式セリア粒子の平均粒径は、例えば、超音波減衰式粒度分布計(Matec Applied Sciences社製 Zeta−APS)などを使用することで測定可能である。
【0031】
研磨剤中の湿式セリア粒子の濃度に特に制限はないが、合成石英ガラス基板に対する好適な研磨速度がより確実に得られる点から、研磨剤100質量部に対して0.1質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることが特に好ましい。また、湿式セリア粒子の濃度の好ましい上限としては、研磨剤の保存安定性をより高くできる観点から、50質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、20質量部以下であることが特に好ましい。
【0032】
また、本発明において湿式セリア粒子は以下のような製造方法により製造されたものであることが好ましい。まず、セリアの前駆体であるセリウム塩を超純水と混合してセリウム水溶液を製造する。セリウム塩と超純水は、例えば、2:1〜4:1の割合で混合することができる。ここでセリウム塩としては、Ce(III)塩、及びCe(IV)塩の少なくともいずれかを利用することができる。つまり、少なくとも一つのCe(III)塩を超純水と混合するか、または、少なくとも一つのCe(IV)塩を超純水と混合するか、または、少なくとも一つのCe(III)塩と少なくとも一つのCe(IV)塩を超純水と混合することができる。Ce(III)塩としては、塩化セリウム(III)、フッ化セリウム(III)、硫酸セリウム(III)、硝酸セリウム(III)、炭酸セリウム(III)、過塩素酸セリウム(III)、臭化セリウム(III)、硫化セリウム(III)、ヨウ化セリウム(III)、シュウ酸セリウム(III)、酢酸セリウム(III)などを混合することができる。Ce(IV)塩としては、硫酸セリウム(IV)、硝酸アンモニウムセリウム(IV)、水酸化セリウム(IV)などを混合することができる。なかでも、Ce(III)塩としては硝酸セリウムが(III)、Ce(IV)塩として硝酸アンモニウムセリウム(IV)が使いやすさの面で好適である。
【0033】
さらに、超純水と混合して製造されたセリウム水溶液の安定化のために酸性溶液を混合することができる。ここで、酸性溶液とセリウム溶液は、1:1〜1:100の割合で混合することができる。ここで使用できる酸性溶液としては、過酸化水素、硝酸、酢酸、塩酸、硫酸などがあげられる。酸性溶液と混合されたセリウム溶液は、pHを例えば0.01に調整することができる。
【0034】
また、セリウム溶液とは別に塩基性溶液を製造する。塩基性溶液としては、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを使用することができ、超純水と混合して適切な濃度に希釈して使用される。希釈する割合としては、塩基性物質と超純水を1:1〜1:100の割合で希釈することができる。希釈された塩基性溶液は、pHをたとえば11〜13に調整することができる。
【0035】
次に、希釈された塩基性溶液を反応容器に移した後、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下で、例えば5時間以下攪拌を行う。そして、希釈された塩基性溶液にセリウム水溶液を、例えば毎秒0.1リットル以上の速度で混合する。続いて、所定の温度で熱処理を行う。この時の熱処理温度は、100℃以下、例えば60℃以上100℃以下の温度で加熱処理をすることができ、熱処理時間は、2時間以上、例えば2時間〜10時間行うことができる。また、常温から熱処理温度までの昇温速度は、毎分0.2℃〜1℃、好ましくは毎分0.5℃の昇温速度で昇温することができる。
【0036】
続いて、熱処理を実施した混合溶液を、室温まで冷却する。このような過程を経て、1次粒径が、100nm以下の湿式セリア粒子が生成された混合液が製造される。
【0037】
上記のように、湿式セリア粒子は、セリウム塩の前駆体水溶液と希釈された塩基性溶液の混合液を、適切な昇温速度で昇温して、適切な範囲の熱処理温度で加熱すると、昇温過程で混合液内のセリウム塩が反応して、セリア(CeO
2)の微細核が生成される。そして、これらの微細核を中心に結晶が成長して、5nm〜100nmの一次粒径を持つ湿式セリアの結晶粒子が製造される。このように、セリウム塩を前駆体物資として、塩基性溶液と混合・加熱処理する湿式沈殿法により生成された湿式セリア粒子であれば、適切な一次粒径を有する。さらに、このような湿式セリア粒子は二次粒径が大きな粒子が生成されにくい。そのため、このような適切な粒径を有する湿式セリア粒子を研磨砥粒として含む研磨剤であれば、より一層研磨傷の発生を抑えることができる。
【0038】
さらに、本発明の合成石英ガラス基板用研磨剤は、研磨促進剤としてポリリン酸又はその塩、メタリン酸又はその塩、タングステン酸又はその塩のいずれかを含有する。これら研磨促進剤は、研磨中に、合成石英ガラスと化学反応して合成石英ガラス基板の表面を改質することにより研磨を促進し、研磨速度を高める効果を有する。上記の研磨促進剤としては、例えば、ポリリン酸、ポリリン酸ナトリウム、ポリリン酸アンモニウム、メタリン酸、メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、タングステン酸、リンタングステン酸、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸カルシウム等があげられる。
【0039】
研磨促進剤は、研磨剤100質量部に対して0.01質量部から5質量部の範囲の割合で含まれることが好ましい。上記研磨促進剤が、研磨剤100質量部に対して0.01質量部以上含まれていれば、研磨促進剤と合成石英ガラス基板表面との化学反応が十分に起こり研磨速度の向上効果をより十分に得られる。研磨促進剤が、研磨剤100質量部に対して0.01質量部から5質量部の範囲で含まれていれば、合成石英ガラス基板表面との化学反応も十分となり高い効果が得られる。
【0040】
また、本発明の研磨剤では、研磨促進剤が湿式セリア粒子100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下の割合で含まれるものであることが好ましい。本発明において、湿式セリア粒子100質量部に対し研磨促進剤の割合が0.1質量部以上となるように研磨促進剤を含めば合成石英ガラス基板用研磨剤に対する研磨速度の向上効果を十分に得ることができる。また、この割合が5質量部以下となるように研磨促進剤を含めば研磨剤の保存安定性をより高くできる。
【0041】
本発明の研磨剤は、研磨特性を調整する目的で、上記の研磨促進剤の他に、更に別の添加剤を含有することができる。このような添加剤としては、湿式セリア粒子の表面電位をマイナスに転換することができるアニオン性界面活性剤、またはアミノ酸を含むことができる。湿式セリア粒子の表面電位をマイナスにすれば、研磨剤中で分散しやすいため、粒径の大きな二次粒子が生成されにくく、研磨傷の発生をより一層抑制できる。
【0042】
アニオン性界面活性剤としては、モノアルキル硫酸塩、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、モノアルキルリン酸塩、ラウリル硫酸塩、ポリカルボン酸、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩等があげられる。アミノ酸としては、例えばアルギニン、リシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、ヒスチジン、プロリン、チロシン、セリン、トリプトファン、トレオニン、グリシン、アラニン、メチオニン、システイン、フェニルアラニン、ロイシン、バリン、イソロイシン等があげられる。
【0043】
これらの添加剤は、研磨砥粒1質量部に対して0.01質量部から0.1質量部の範囲で研磨剤に含まれることが好ましい。さらに、添加剤は、研磨砥粒1質量部に対して0.02質量部から0.06質量部の範囲で研磨剤に含まれることがより好ましい。含有量が研磨砥粒1質量部に対して0.01質量部以上であれば、研磨剤中で湿式セリア粒子がより安定して分散し、粒径の大きな凝集粒子が形成され難くなる。また、含有量が研磨砥粒1質量部に対して0.1質量部以下であれば、添加剤が研磨を阻害することがなく、研磨速度の低下を防止することができる。従って、上記範囲で添加剤を含めば、研磨剤の分散安定性をより向上させたうえに、研磨速度の低下を防止することができる。
【0044】
本発明の研磨剤のpHは、研磨剤の保存安定性や、研磨速度に優れる点で、3.0以上8.0以下の範囲にあることが好ましい。pHが3.0以上であれば研磨剤中の湿式セリアが安定して分散する。pHが8.0以下であれば、研磨速度をより向上させることが可能である。また、pHの好ましい範囲の下限は4.0以上であることがより好ましく、6.0以上であることが特に好ましい。また、pHの好ましい範囲の上限は、8.0以下であることが好ましく、7.0以下であることがより好ましい。また、研磨剤のpHは、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸等の有機酸、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)などを添加することよって調整可能である。
【0045】
次に、本発明の研磨剤を使用した合成石英ガラス基板の研磨方法について説明する。本発明の研磨剤は特に粗研磨工程後の仕上げ研磨工程で使用することが好ましいため、仕上げ研磨工程において片面研磨を行う場合を例に説明する。しかしながら、もちろんこれに限定されることはなく、本発明の研磨剤は粗研磨にも用いることができる。また、本発明の研磨剤は片面研磨だけではなく両面研磨などにも用いることができる。
【0046】
本発明の研磨方法に用いることができる片面研磨装置は、例えば、
図1に示すように、研磨パッド4が貼り付けられた定盤3と、研磨剤供給機構5と、研磨ヘッド2等から構成された片面研磨装置10とすることができる。
【0047】
また、
図1に示すように、研磨ヘッド2は、研磨対象の合成石英ガラス基板Wを保持することができ、また、自転することができる。また、定盤3も自転することができる。
【0048】
研磨パッド4としては、不織布、発泡ポリウレタン、多孔質樹脂等が使用できる。また、研磨を実施している間は、常に研磨パッド4の表面が研磨剤1で覆われていることが好ましいため、研磨剤供給機構5にポンプ等を配設することで連続的に研磨剤1を供給することが好ましい。
【0049】
このような片面研磨装置10では、研磨ヘッド2で合成石英ガラス基板Wを保持し、研磨剤供給機構5から研磨パッド4上に本発明の研磨剤1を供給する。そして、定盤3と研磨ヘッド2をそれぞれ回転させて合成石英ガラス基板Wの表面を研磨パッド4に摺接させることにより研磨を行う。
【0050】
このような本発明の研磨剤を用いた研磨方法であれば、研磨速度を高くすることができ、かつ、研磨による欠陥の発生を抑制できる。そして、本発明の研磨方法は、大幅に欠陥の少ない合成石英ガラス基板を得ることができるので仕上げ研磨に好適に使用できる。
【0051】
特に本発明の研磨方法により仕上げ研磨を実施した合成石英ガラス基板は、半導体関連の電子材料に用いることができ、フォトマスク用、ナノインプリント用、磁気デバイス用として好適に使用することができる。なお、仕上げ研磨前の合成石英ガラス基板は、例えば、以下のような工程により準備することができる。まず、合成石英ガラスインゴットを成形し、その後、合成石英ガラスインゴットをアニールし、続いて、合成石英ガラスインゴットをウェーハ状にスライスする。続いて、スライスしたウェーハを面取りし、その後、ラッピングし、続いて、ウェーハの表面を鏡面化するための研磨を行う。そしてこのようにして準備した合成石英ガラス基板に対して、本発明の研磨方法により仕上げ研磨を実施することができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0053】
まず、後述する実施例1〜3で研磨砥粒として使用する湿式セリアを以下のような手順で合成した。
【0054】
(湿式セリアの合成)
まず、1000gの硝酸セリウム六水和物(Ce(NO
3)
3・6H
2O)を純水250gに溶解した溶液に、硝酸100gを混合してセリウム(III)溶液を得た。次いで、1gの硝酸二アンモニウムセリウム((NH
4)
2Ce(NO
3)
3)を純水500gに溶解してセリウム(IV)溶液を得た。引き続きセリウム(III)溶液とセリウム(IV)溶液を混合してセリウム混合液を得た。
【0055】
続いて、反応容器に純水4000gを窒素ガス雰囲気下で滴下し、続いて1000gのアンモニア水を反応容器に滴下し、攪拌して塩基性溶液を得た。
【0056】
次に、上記で得たセリウム混合液を、塩基性溶液を収容した反応容器に滴下し攪拌して、窒素ガス雰囲気下で80℃まで加熱した。そして、8時間熱処理を行い、湿式セリア粒子を含有した混合溶液を得た。
【0057】
続いて、湿式セリア粒子を含有した混合液を室温まで冷却後、この混合液に硝酸を滴下し、混合液のpHを4以下の酸性に調整して反応を終端させた。混合液中のセリア粒子を沈殿させた後、純水により数回洗浄及び遠心分離を繰り返し洗浄し、最終的に研磨砥粒として使用する湿式セリア粒子を得た。
【0058】
(実施例1)
まず、上記のように合成した湿式セリア粒子500g、ポリリン酸ナトリウム(和光純薬工業(株)製)5g、純水5000gを混合し、攪拌しながら超音波分散を60分行った。その後、混合液を目開き0.5μmのフィルターでろ過し、純水で希釈することで、湿式セリア粒子10質量%、ポリリン酸ナトリウム0.1質量%を含有する合成石英ガラス基板用研磨剤を調製した。
【0059】
得られた合成石英ガラス基板用研磨剤のpHは5.5であった。また、粒度分布を超音波減衰式粒度分布計(Matec Applied Sciences社製 Zeta−APS)で測定した結果、平均粒子径は0.10μm(=100nm)であった。
【0060】
(実施例2)
ポリリン酸ナトリウムの代わりにメタリン酸ナトリウム(関東化学(株)製)を添加したこと以外は、実施例1と同様の手順により研磨剤を調製した。
【0061】
得られた研磨剤のpHは5.3であった。また、実施例1と同様に粒度分布を超音波減衰式粒度分布計で測定した結果、平均粒子径が0.11μm(=110nm)であった。
【0062】
(実施例3)
ポリリン酸ナトリウムの代わりにタングステン酸ナトリウム(和光純薬工業(株)製)を添加したこと以外は、実施例1と同様の手順により研磨剤を調整した。
【0063】
得られた研磨剤のpHは5.6であった。また、実施例1と同様に粒度分布を超音波減衰式粒度分布計で測定した結果、平均粒子径が0.10μm(=100nm)であった。
【0064】
(比較例1)
ポリリン酸ナトリウムを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の手順により研磨剤を調製した。
【0065】
得られた研磨剤のpHは5.8であった。また、実施例1と同様に粒度分布を超音波減衰式粒度分布計で測定した結果、平均粒子径が0.11μm(=110nm)であった。
【0066】
(比較例2)
研磨砥粒として乾式セリア粒子を使用したこと以外は、実施例1と同様の手順により研磨剤を調整した。
【0067】
得られた研磨剤のpHは5.5であった。また、実施例1と同様に粒度分布を超音波減衰式粒度分布計で測定した結果、平均粒子径が0.15μm(=150nm)であった。
【0068】
(比較例3)
研磨砥粒として乾式セリア粒子を使用したことと、ポリリン酸ナトリウムを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様な手順により研磨剤を調整した。
【0069】
得られた研磨剤のpHは5.8であった。また、実施例1と同様に粒度分布を超音波減衰式粒度分布計で測定した結果、平均粒子径が0.15μm(=150nm)であった。
【0070】
上記のように調整した実施例1〜3及び比較例1〜3の研磨剤をそれぞれ使用して、
図1のような研磨装置において合成石英ガラス基板の研磨を行った。この際の研磨条件は以下のとおりである。
【0071】
(研磨条件)
研磨パッドとして、材質が軟質スエードの研磨パッド((株)FILWEL社製)を定盤に貼り付けた。そして、研磨ヘッドに、粗研磨を行った後の直径4インチ(直径約100mm)の合成石英ガラス基板をセットし、この基板の研磨を実施した。ここで、研磨荷重60gf/cm
2、定盤及び研磨ヘッドの回転速度を50rpm、研磨剤の供給量を毎分100mlとした。また、研磨代は、粗研磨工程で発生した欠陥を除去するのに十分な量である2μm以上研磨した。このような条件で、5枚の合成石英ガラス基板を研磨した。
【0072】
上記のような研磨の終了後、合成石英ガラス基板を研磨ヘッドから取り外し、純水で洗浄後、さらに超音波洗浄を行った。その後、合成石英ガラス基板を乾燥器によって80℃雰囲気中で乾燥させた。乾燥終了後、反射分光膜厚計(大塚電子(株)製 SF−3)により、研磨前後の合成石英ガラス基板の厚さの変化を測定することで研磨速度を算出した。また、レーザー顕微鏡により、研磨後の合成ガラス基板表面に発生した、サイズが100nm以上の欠陥の個数を求めた。その結果を表1に示す。なお、表中の数字は実施例及び比較例でそれぞれ研磨した5枚の合成石英ガラス基板における研磨速度及び欠陥数の平均値である。
【0073】
【表1】
【0074】
実施例1〜3の研磨剤、すなわち、研磨砥粒として湿式セリアを使用し、研磨促進剤としてポリリン酸又はその塩、メタリン酸又はその塩、及びタングステン酸又はその塩のいずれかを含む研磨剤により、合成石英ガラス基板を研磨することで、研磨による欠陥の発生を少なく抑えることができた。さらに、合成石英ガラス基板に対して、乾式セリア粒子を用いた場合と同程度の高い研磨速度が得られる。
【0075】
一方、上記の実施例のような研磨促進剤を添加せずに、湿式セリア粒子を使用した比較例1の研磨剤は、欠陥は少ないものの、合成石英ガラス基板に対する研磨速度が低い結果となった。
【0076】
また、比較例2の研磨剤は、研磨砥粒として乾式セリア粒子を使用した。この場合、研磨速度に関しては実施例に比べ幾分高いが、研磨後の石英ガラス基板表面の欠陥発生個数は実施例に比べ大幅に増加する結果となった。
【0077】
さらに、研磨砥粒に乾式セリアを使用し、研磨促進剤を添加しない比較例3の研磨剤においては、研磨速度に関しては実施例と同程度で、研磨後の石英ガラス基板表面の欠陥発生個数は、実施例に比べ大幅に増加する結果となった。
【0078】
以上のように、本発明の合成石英ガラス基板研磨用研磨剤により合成石英ガラス基板の研磨を行うことで、合成石英ガラス基板に対して高い研磨速度が得られ、かつ、研磨による欠陥発生を抑制することができる。
【0079】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。