(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6393310
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】5−クロロ−チオフェン−2−カルボン酸[(S)−2−[メチル−3−(2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−ベンゼンスルホニルアミノ]−3−(4−メチル−ピペラジン−1−イル)−3−オキソ−プロプリル]アミドの酒石酸塩
(51)【国際特許分類】
C07D 409/12 20060101AFI20180910BHJP
A61K 31/496 20060101ALI20180910BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20180910BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20180910BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20180910BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
C07D409/12CSP
A61K31/496
A61P9/10
A61P9/00
A61P7/02
A61P43/00 111
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-509496(P2016-509496)
(86)(22)【出願日】2014年4月25日
(65)【公表番号】特表2016-518381(P2016-518381A)
(43)【公表日】2016年6月23日
(86)【国際出願番号】EP2014058513
(87)【国際公開番号】WO2014174102
(87)【国際公開日】20141030
【審査請求日】2017年2月27日
(31)【優先権主張番号】13305556.6
(32)【優先日】2013年4月26日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504456798
【氏名又は名称】サノフイ
【氏名又は名称原語表記】SANOFI
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ローラン・ラフェレール
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン・ヴィリオン
(72)【発明者】
【氏名】サンドラン・ゴーチエ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレ・ブルボン
【審査官】
早乙女 智美
(56)【参考文献】
【文献】
特表2011−512368(JP,A)
【文献】
特表2002−501527(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/008253(WO,A1)
【文献】
特表2007−504098(JP,A)
【文献】
特表2002−504883(JP,A)
【文献】
特表2000−514413(JP,A)
【文献】
C.G.WERMUTH編,「最新 創薬化学 下巻」,株式会社 テクノミック,1999年,347〜365頁
【文献】
Journal of Pharmaceutical Sciences,1977年,Vol.66, No.1,p.1-19
【文献】
BASTIN,R.J. et al,Salt selection and optimization procedures for pharmaceutical new chemical entities,Organic Process Research & Development,2000年,Vol.4, No.5,p.427-435
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5−クロロ−チオフェン−2−カルボン酸[(S)−2−[メチル−3−(2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−ベンゼンスルホニルアミノ]−3−(4−メチル−ピペラジン−1−イル)−3−オキソ−プロプリル]アミドのL−酒石酸塩。
【請求項2】
結晶性であることを特徴とする、請求項1に記載の5−クロロ−チオフェン−2−カルボン酸[(S)−2−[メチル−3−(2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−ベンゼンスルホニルアミノ]−3−(4−メチル−ピペラジン−1−イル)−3−オキソ−プロプリル]アミドのL−酒石酸塩。
【請求項3】
5−クロロ−チオフェン−2−カルボン酸[(S)−2−[メチル−3−(2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−ベンゼンスルホニルアミノ]−3−(4−メチル−ピペラジン−1−イル)−3−オキソ−プロプリル]アミドのL−酒石酸塩を製造する方法であって、5−クロロ−チオフェン−2−カルボン酸[(S)−2−[メチル−3−(2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−ベンゼンスルホニルアミノ]−3−(4−メチル−ピペラジン−1−イル)−3−オキソ−プロプリル]アミドの遊離塩基形態を、溶媒中でL−酒石酸と反応させることを特徴とする方法。
【請求項4】
5−クロロ−チオフェン−2−カルボン酸[2−アミノ−3−(4−メチル−ピペラジン−1−イル)−3−オキソ−プロピル]−アミドおよび2−メチル−3−(2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−ベンゼンスルホニルクロリドを加えることによって、5−クロロ−チオフェン−2−カルボン酸[(S)−2−[メチル−3−(2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−ベンゼンスルホニルアミノ]−3−(4−メチル−ピペラジン−1−イル)−3−オキソ−プロプリル]アミドの遊離形態を得ることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
5−クロロ−チオフェン−2−カルボン酸[(S)−2−[メチル−3−(2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−ベンゼンスルホニルアミノ]−3−(4−メチル−ピペラジン−1−イル)−3−オキソ−プロプリル]アミドのL−酒石酸塩を含むことを特徴とする薬剤。
【請求項6】
活性成分として5−クロロ−チオフェン−2−カルボン酸[(S)−2−[メチル−3−(2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−ベンゼンスルホニルアミノ]−3−(4−メチル−ピペラジン−1−イル)−3−オキソ−プロプリル]アミドのL−酒石酸塩および、また少なくとも1つの薬学的に許容しうる賦形剤を含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項7】
心血管障害、血栓塞栓性疾患または再狭窄の治療または予防に使用するための請求項1又は2に記載の5−クロロ−チオフェン−2−カルボン酸[(S)−2−[メチル−3−(2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−ベンゼンスルホニルアミノ]−3−(4−メチル−ピペラジン−1−イル)−3−オキソ−プロプリル]アミドのL−酒石酸塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5−クロロ−チオフェン−2−カルボン酸[(S)−2−[メチル−3−(2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−ベンゼンスルホニルアミノ]−3−(4−メチル−ピペラジン−1−イル)−3−オキソ−プロプリル]アミドの新規な塩、その結晶形態、その製造およびその治療的使用に関する。
【背景技術】
【0002】
5−クロロ−チオフェン−2−カルボン酸[(S)−2−[メチル−3−(2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−ベンゼンスルホニルアミノ]−3−(4−メチル−ピペラジン−1−イル)−3−オキソ−プロプリル]アミドは、下の式(I):
【化1】
の化合物に相当する。
【0003】
塩酸塩形態の式(I)の化合物、およびその製造方法は、特許文献1に記載されている。
【0004】
この化合物は、他のクロロチオフェン−アミドの中で、凝固第Xa因子およびトロンビンの阻害薬として記載されている。
【0005】
しかし、特許文献1に従って得られた式(I)の化合物の遊離塩基、およびその塩酸塩は、いずれもアモルファスであり、そのため工業的に加工困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2009/103440
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、凝固第Xa因子およびトロンビンの容易に加工可能な阻害薬が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここで、この同じ化合物のL−2,3−ジヒドロキシブタン二酸(L−酒石酸としても知られている)の塩は、好都合な性質を示し、それにより薬剤の活性成分としての使用に特に適したものとなることが見いだされている。
【0009】
従って、本発明の主題は、5−クロロ−チオフェン−2−カルボン酸[(S)−2−[メチル−3−(2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−ベンゼンスルホニルアミノ]−3−(4−メチル−ピペラジン−1−イル)−3−オキソ−プロプリル]アミドのL−酒石酸の塩(すなわちL−酒石酸塩)、その製造およびその治療的適用である。
【0010】
本発明の別の主題は、5−クロロ−チオフェン−2−カルボン酸[(S)−2−[メチル−3−(2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−ベンゼンスルホニルアミノ]−3−(4−メチル−ピペラジン−1−イル)−3−オキソ−プロプリル]アミドのL−酒石酸塩の結晶形態であり、その物理化学特性は、下に記載されている。
【0011】
結晶形態の特徴づけ
X線回折図
式(I)の化合物のL−酒石酸塩の粉末試料から出発して粉末X線回折図を記録した。
【0012】
分析は、ブラッグ−ブレンターノ(Bragg-Brentano)タイプ(θ−θ)の焦点調節機構を有し、鏡映の設定で、Anton-Paar TKK温度室を備えたD8 Advance回折計(Bruker-Siemens)において実施した。
【0013】
銅の対陰極管は、入射放射線(λKα1=1.5406および1.5444オングストローム)を提供する。
【0014】
周囲温度でのダイヤグラムの記録は、2θで4度から45度までで行う。
【0015】
回折図の特徴的な線を下の表に示す。
【0016】
【表1】
【0017】
式(I)の化合物のL−酒石酸塩の回折図を
図1に示す。
【0018】
式(I)の化合物のL−酒石酸塩は、結晶性固体である。回折図の指数付けは、それが純粋な結晶相であることを示している(空間群P21;格子体積1618Å
3)。
【0019】
赤外線スペクトル
式(I)の化合物のL−酒石酸塩の赤外線(IR)スペクトルは、Nexus IRTF分光計において4000〜400cm
-1の間、4cm
-1の分解能で記録した。このスペクトルは、下の表に示された吸収バンドを特徴とする。
【0020】
【表2】
【0021】
サーモグラム
本発明の化合物において実施した示差熱力学的分析は、203.9℃で融解する前になんら熱的事象を示さなかった。
【0022】
本発明の別の主題は、5−クロロ−チオフェン−2−カルボン酸[(S)−2−[メチル−3−(2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−ベンゼンスルホニルアミノ]−3−(4−メチル−ピペラジン−1−イル)−3−オキソ−プロプリル]アミドの酒石酸塩およびその結晶形態の製造方法である。
【0023】
本発明によれば、本発明の酒石酸塩は、塩形成反応において、遊離形態の式(I)の化合物を、溶媒中で酒石酸と反応させることによって製造することができる。
【0024】
式(I)の化合物は、以下の方法に従って得ることができる:
【化2】
【0025】
別法として、式(I)の化合物は、特許文献1に記載された方法の1つに従って製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】式(I)の化合物のL−酒石酸塩の回折図である。
【0027】
以下の実施例は、上記の一般的なスキームによる本発明の式(I)の化合物の酒石酸塩の製造を記載する。
【0028】
以下の略語および実験式を用いる:
EtOAc 酢酸エチル
Boc tert−ブトキシカルボニル
DAP ジアミノピメリン酸
T3P プロピルホスホン酸無水物
EtOH エタノール
DIEA N,N−ジイソプロピルエチルアミン
HCl 塩化水素
MeTHF 2−メチルテトラヒドロフラン
t−BuOK カリウムtert−ブトキシド
THF テトラヒドロフラン
iPrOH イソプロパノール
℃ 摂氏温度
【0029】
ステップ(a):5−クロロ−チオフェン−2−カルボニルクロリド(化合物III)
式(II)の5−クロロ−チオフェン−2−カルボン酸100g(1.1当量)から、80℃でトルエン1.4体積中の塩化チオニル1.5当量との反応によって式(III)の酸塩化物を得た。
【0030】
ステップ(b):2−tert−ブトキシカルボニルアミノ−3−[(5−クロロ−チオフェン−2−カルボニル)−アミノ]−プロピオン酸(化合物IV)
式(IV)の化合物を得るために、ステップ(a)で得た酸塩化物(化合物III)を含む反応媒体を、THF 3体積および水1.2体積中の30%NaOH 3.3当量の存在下で、Boc−DAP−OH 1当量を含む5℃の溶液上に移し、それを蒸発させた後、単離した。
【0031】
ステップ(c):[1−{[(5−クロロ−チオフェン−2−カルボニル)−アミノ]−メチル}−2−(4−メチル−ピペラジン−1−イル)−2−オキソ−エチル]−カルバミン酸tert−ブチルエステル(化合物V)
ステップ(b)で得た化合物(IV)3当量を、EtOAcの溶液中、カップリング剤としてT3P 1.5当量を用いてメチルピペラジンと18時間カップリングさせることによって化合物(V)を得た。次いで、化合物(V)をEtOAcで抽出し、次いで、EtOAc 1.5〜2体積中の結晶化によって単離した。
【0032】
ステップ(d):5−クロロ−チオフェン−2−カルボン酸[2−アミノ−3−(4−メチル−ピペラジン−1−イル)−3−オキソ−プロピル]−アミド(化合物VI)
化合物(VI)は、化合物(V)のBoc官能基を加水分解することによって得た。EtOH 6.5体積および水0.36体積中の化合物(V)を、1時間の間、加熱された(70℃)12N水性HCl 3当量の上に移した。
【0033】
ステップ(e):N−(3−ブロモ−2−メチル−フェニル)−4−クロロ−ブチルアミド(化合物VIII)
化合物(VIII)は、3−ブロモ−メチルアニリン(化合物VII)200gを、THF 5体積中のDIEA 1.2当量の存在下、20℃で4−クロロブチリルクロリド1当量でアシル化することによって製造した。2時間後、生成した混合物を、15℃で水13当量の上に移し、化合物VIIIを沈殿させた。
【0034】
ステップ(f):1−(3−ブロモ−2−メチル−フェニル)−ピロリジン−2−オン(化合物IX)
化合物(IX)は、MeTHF 10体積中のtBuOK 1.2当量の存在下、10℃で化合物(VIII)290gの環化によって得た。
【0035】
ステップ(g):1−(3−ベンジルスルファニル−2−メチル−フェニル)−ピロリジン−2−オン(化合物X)
化合物(X)は、トルエン8体積中のベンジルメルカプタン1.2当量、ホスフィン0.06当量、Pd(0)0.03およびDIEA 2当量の存在下、100℃で4時間、化合物(IX)20gから得た。
【0036】
ステップ(h):2−メチル−3−(2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−ベンゼンスルホニルクロリド(化合物XI)
化合物(XI)は、酢酸5.7当量および水0.3体積中の塩化スルフリル4当量の存在下で化合物(IX)の酸化によって得た。
【0037】
ステップ(i):5−クロロ−チオフェン−2−カルボン酸[(S)−2−[メチル−3−(2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−ベンゼンスルホニルアミノ]−3−(4−メチル−ピペラジン−1−イル)−3−オキソ−プロプリル]アミド(式(I)の化合物)
式(I)の化合物は、化合物(VI)と化合物(XI)とをカップリングすることによって得た。
【0038】
化合物(XI)の溶液を、水3体積およびジクロロメタン2体積中のK
2CO
3 8当量の存在下、10℃で、化合物(VI)208.85g上に移し、このようにして遊離形態の式(I)の化合物を得た。
【0039】
得られた式(I)の化合物は、アモルファス生成物であった。
【0040】
塩形成
遊離形態の式(I)の化合物が得られたら、そのL−酒石酸塩を得るためにそれを結晶化反応にかけた。
【0041】
ステップ(i)で得た式(I)の化合物を結晶化反応にかけた。
【0042】
フラスコ中、水4ml中の式(I)の化合物0.5g、次いでL(+)酒石酸0.132gを溶液全体で加熱し、次いで撹拌下24時間保持した。次いで、形成された固形物を、濾過し、そして乾燥し、次いで本発明の化合物の白色粉末を得た。
【0043】
このようにして得た式(I)の化合物のL−酒石酸塩は、非常に高い純度(98.9%)の割合を有する。
【0044】
試験
前に記載したように、塩酸塩の形態の式(I)の化合物はアモルファスであり、それを結晶化させる試みが成功していないことに注目すべきである。
【0045】
予想外なことに、式(I)の化合物の酒石酸塩は、L−乳酸塩およびL−ナトリウム形態(両方とも結晶性塩)の同じ化合物に関して改善された純度、安定性および溶解度の性質を有することが、具体的に示されている。
【0046】
物理的性質
ナトリウム塩、L−乳酸塩およびL−酒石酸塩における式(I)の化合物の物理的性質を下の表にまとめる。
【0047】
【表3】
【0048】
これらの結果は、L−酒石酸塩が、ストレス条件下でナトリウム塩およびL−乳酸塩よりも、より良好な吸湿性、水分取込みおよび安定性を示すことを示しており、それはL−酒石酸塩がより容易に取り扱うことができ、かつ保存できることを意味している。
【0049】
結晶化特性:
ナトリウム塩、L−乳酸塩およびL−酒石酸塩における式(I)の化合物の結晶化のいくつかの特性を2つの異なる溶媒:非極性溶媒(酢酸エチルまたはEtOAc)および極性プロトン性溶媒(イソプロパノールまたはiPrOH)において分析した。
【0050】
結果を下の表に記載する。
【0051】
【表4】
【0052】
上の結果に照らして、式(I)の化合物のL−酒石酸塩は、試験した両溶媒においてL−乳酸塩およびナトリウム塩よりもより良好な結晶化特性を有することが見いだされた。
【0053】
特に、L−酒石酸塩の結晶化は好収率で迅速であり、得られた生成物が容易に濾過される。したがって、これらの結果は、式(I)の化合物のL−酒石酸塩の良好な結晶化加工性を示している。
【0054】
固体状態における安定性の試験
以下で1週間貯蔵した後、式(I)の化合物のナトリウム塩、L−乳酸塩およびL−酒石酸塩を分析した:
・80℃
・80℃および飽和湿度下
【0055】
結果を下の表に記載する。
【0056】
【表5】
【0057】
上で得られた結果に照らして、式(I)の化合物のナトリウム塩およびL−乳酸塩は、熱および湿度の影響下で安定でなく、そのため湿度から保護して保存しなければならないことがわかる。
【0058】
対照的に、L−酒石酸塩は変わらないままである。したがって、これらの結果は、試験条件下で式(I)の化合物のL−酒石酸塩のより大きな安定性を示している。
【0059】
溶解度の試験
式(I)の化合物のナトリウム塩、L−乳酸塩およびL−酒石酸塩の溶解度を異なる緩衝液中で分析した。
結果を下の表に記載する(試験化合物の溶解度は、mg/mlで表す)。
【0060】
【表6】
【0061】
上で得られた結果に照らして、試験した3つのすべての塩は、調査したすべての媒体中で非常に可溶性であり、そしてL−酒石酸塩が、それらのうち最も可溶性であることがわかる。
【0062】
溶液中の安定性の試験
式(I)の化合物のナトリウム塩、L−乳酸塩およびL−酒石酸塩を、強い酸化性溶液中で1週間の貯蔵後に分析した:3つの化合物を、室温で、0.3%H
20
2の溶液中に維持した。
【0063】
6時間または1週間のいずれかの後、式(I)
【化3】
の化合物の主なN−オキシド不純物の割合を測定した。
【0064】
結果を下の表に記載する。
【0065】
【表7】
【0066】
上で得られた結果からみて、L−酒石酸塩は、式(I)の化合物のL−乳酸塩およびナトリウム塩よりも酸化性溶液中でより安定であることがわかる。
【0067】
式(I)の化合物のL−酒石酸塩の物理化学的性質により、それは、光の存在、温度および湿度に関して過度に制限的な予防措置なしに、通常の条件下で保存することが可能となり、したがって、容易に加工することが可能となる。
【0068】
5−クロロ−チオフェン−2−カルボン酸[(S)−2−[メチル−3−(2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−ベンゼンスルホニルアミノ]−3−(4−メチル−ピペラジン−1−イル)−3−オキソ−プロプリル]アミドの酒石酸塩は、凝固第Xa因子およびトロンビンの阻害薬である。
【0069】
このように、それは、薬剤、特に、凝固第Xa因子およびトロンビンの阻害薬である薬剤の製造に用いることができる。
【0070】
したがって、その態様の別のものにおいて、本発明は、5−クロロ−チオフェン−2−カルボン酸[(S)−2−[メチル−3−(2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−ベンゼンスルホニルアミノ]−3−(4−メチル−ピペラジン−1−イル)−3−オキソ−プロプリル]アミドのL−酒石酸塩を含む薬剤を提供する。
【0071】
これらの薬剤は、特に心血管障害、血栓塞栓性疾患または再狭窄の治療および予防において治療的に用いられる。また、これらの薬剤は、第Xa因子およびトロンビンの阻害のため、または血液凝固もしくは線維素溶解に影響を与えるため、または上記もしくは下記の疾患の治療もしくは予防のため、例えば、心血管障害、血栓塞栓性疾患または再狭窄の治療および予防に使用するため、ならびに上記治療および予防のための方法を含むこのような目的を意図する治療の方法に治療的に用いられる。
【0072】
また、これらの薬剤は、病的血栓形成、急性心筋梗塞、不安定狭心症、血栓塞栓症、血栓溶解療法もしくは経皮的経管的冠動脈形成術(PTCA)に関連する急性血管閉鎖、一過性虚血発作、脳卒中、間欠性跛行または冠状動脈もしくは末梢動脈のバイパス移植術、血管内腔狭窄、冠状動脈もしくは静脈血管形成術後の再狭窄、長期血液透析患者における血管アクセス開通性の維持、腹部、膝もしくは股関節部の手術後に下肢静脈に生じる病的血栓形成、腹部、膝および股関節部の手術後に下肢静脈に生じる病的血栓形成、肺血栓塞栓症のリスク、または敗血症性ショック、特定のウイルス感染もしくはがんにおいて血管系に起こる播種性全身性血管内凝固障害のような疾患状態の治療に用いられる。
【0073】
また、本発明の化合物は、炎症反応を低減するために用いることもできる。本発明の化合物を用いることができる治療または予防に関する具体的な障害の例は、冠動脈性心疾患、心筋梗塞、狭心症、血管再狭窄、例えばPTCAのような血管形成術後の再狭窄、成人呼吸窮迫症候群、多臓器不全および播種性血管内凝固障害である。手術に伴う関連した合併症の例は、深部静脈および近位静脈血栓症のような血栓症であり、それは手術後に起こりうる。
【0074】
その態様の別のものによれば、本発明は、活性成分として、本発明による5−クロロ−チオフェン−2−カルボン酸[(S)−2−[メチル−3−(2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−ベンゼンスルホニルアミノ]−3−(4−メチル−ピペラジン−1−イル)−3−オキソ−プロプリル]アミドのL−酒石酸塩を含む医薬組成物に関する。これらの医薬組成物は、本発明による化合物の有効量および、また少なくとも1つの薬学的に許容しうる賦形剤を含有する。
【0075】
上記賦形剤は、医薬形態および所望の投与様式に応じて、当業者に知られている通常の賦形剤から選択される。