【実施例】
【0076】
  以下、本発明の実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0077】
  本発明の実施例として、実施例1−1〜実施例1−4及び実施例2−1〜実施例2−3に係る合金構造体を製造し、凝固組織の観察、元素組成分布、機械的特性の評価を行った。また、実施例の対照として、比較例1−1〜比較例1−4及び比較例2−1〜比較例2−4に係る合金構造体を製造し、併せて評価を行った。
【0078】
[実施例1−1]
  実施例1−1として、元素組成がAl
0.3CoCrFeNiで表わされる合金構造体を積層造形により製造した。原子濃度比率は、Alの原子濃度が約7at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約23.3at%である。
【0079】
  はじめに、Alの原子濃度が約7at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約23.3at%である合金を地金として用いて、ガスアトマイズ法によって、合金粉末を調製した。そして、得られた合金粉末を分級し、粒子径分布を50μm以上100μm以下の範囲に限定すると共に、体積基準の平均粒子径が約70μmとなるようにした。
【0080】
  続いて、積層造形装置を使用して、基材上に合金構造体を造形した。基材としては、100mm×100mm×10mmの板状の機械構造用炭素鋼「S45C」を用いた。また、積層造形装置としては、熱源を電子ビームとした電子ビーム溶融積層造形装置「A2X」(Arcam社製)を使用した。積層造形装置では、真空雰囲気下において、基材上に、粉末展延工程及び凝固層造形工程を繰り返し行うことによって、直径10mm、高さ50mmの円柱形状の合金構造体を製造した。このとき、合金粉末の溶融は、合金の融点(Tm)の50%から80%の温度の予備加熱を事前に行いながら実施し、展延された合金粉末の飛散を抑制した。その後、合金構造体を基材から切り離した。
【0081】
[実施例1−2]
  実施例1−2として、元素組成がAlCoCrFeNiで表わされる合金構造体を積層造形により製造した。原子濃度比率は、Al、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約20.0at%である。
【0082】
  実施例1−2に係る合金構造体は、合金粉末の調製に用いる地金の組成を変えた点を除いて、実施例1−1と同様にして製造した。
【0083】
[比較例1−1]
  比較例1−1として、元素組成がAl
0.3CoCrFeNiで表わされる合金構造体を鋳造により製造した。原子濃度比率は、Alの原子濃度が約7at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約23.3at%である。
【0084】
  はじめに、Alの原子濃度が約7at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約23.3at%である合金を地金として用いて、ガスアトマイズ法によって、合金粉末を調製した。そして、得られた合金粉末を分級し、粒子径分布を50μm以上100μm以下の範囲に限定すると共に、体積基準の平均粒子径が約70μmとなるようにした。
【0085】
  続いて、得られた合金粉末を、アルミナ製の坩堝に投入し、真空雰囲気下において、高周波誘導加熱によって溶解させた後、銅製の水冷鋳型に注湯し、冷却して凝固させることによって、直径10mm、高さ50mmの円柱形状の合金構造体を製造した。
【0086】
[比較例1−2]
  比較例1−2として、元素組成がAl
0.2CoCrFeNiで表わされる合金構造体を積層造形により製造した。原子濃度比率は、Alの原子濃度が約4.8at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約23.8at%である。
【0087】
  比較例1−2に係る合金構造体は、合金粉末の調製に用いる地金の組成を変えた点を除いて、実施例1−1と同様にして製造した。
【0088】
[実施例1−3]
  実施例1−3として、元素組成がAl
1.5CoCrFeNiで表わされる合金構造体を積層造形により製造した。原子濃度比率は、Alの原子濃度が約27.2at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約18.2at%である。
【0089】
  はじめに、Alの原子濃度が約27.2at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約18.2at%である合金を地金として用いて、ガスアトマイズ法によって、合金粉末を調製した。そして、得られた合金粉末を分級し、粒子径分布を20μm以上50μm以下の範囲に限定すると共に、体積基準の平均粒子径が約30μmとなるようにした。
【0090】
  続いて、積層造形装置を使用して、基材上に合金材を造形した。基材としては、直径10mm、高さ50mmの円柱形状の機械構造用炭素鋼「S45C」を用いた。また、積層造形装置としては、熱源をレーザー光としたレーザー溶融積層造形装置「EOSINT  M270」(EOS社製)を使用した。積層造形装置では、窒素雰囲気下において、基材上に、粉末展延工程及び凝固層造形工程を繰り返し行うことによって、200μmの多層膜状の合金材を製造した。
【0091】
[比較例1−3]
  比較例1−3として、元素組成がAlCoCrFeNiで表わされる合金構造体を溶射により製造した。原子濃度比率は、Al、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約20.0at%である。
【0092】
  はじめに、Al、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約20.0at%となるように、Al、Co、Cr、Fe及びNiの各金属粉を混合した。なお、各金属粉は分級し、粒子径分布を50μm以上150μm以下の範囲に限定すると共に、体積基準の平均粒子径が約70μmとなるようにした。
【0093】
  続いて、混合した金属粉末を、窒素雰囲気下において、基材上に、プラズマ溶射法によって溶射することによって、200μmの膜状の合金構造体を製造した。基材としては、直径100mm、高さ10mmの円柱形状の機械構造用炭素鋼「S45C」を用いた。
【0094】
[比較例1−4]
  比較例1−4として、元素組成がAl
2.0CoCrFeNiで表わされる合金構造体を積層造形により製造した。原子濃度比率は、Alの原子濃度が約33.3at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約16.7at%である。
【0095】
  比較例1−4に係る合金構造体は、合金粉末の調製に用いる地金の組成を変えた点を除いて、実施例1−2と同様にして製造した。
【0096】
[実施例1−4]
  実施例1−4として、元素組成がAlCoCrFeNiMo
0.5で表わされる合金構造体を積層造形により製造した。原子濃度比率は、Al、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約18.2at%、Moの原子濃度が約9.1at%である。
【0097】
  はじめに、Al、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約18.2at%、Moの原子濃度が約9.1at%である合金を地金として用いて、ガスアトマイズ法によって、合金粉末を調製した。そして、得られた合金粉末を分級し、粒子径分布を50μm以上100μm以下の範囲に限定すると共に、体積基準の平均粒子径が約70μmとなるようにした。
【0098】
  続いて、積層造形装置を使用して、基材上に合金構造体を造形した。基材としては、直径300mm、高さ10mmの円柱形状の機械構造用炭素鋼「S45C」を用いた。また、積層造形装置としては、熱源を電子ビームとした電子ビーム溶融積層造形装置「A2X」(Arcam社製)を使用した。積層造形装置では、真空雰囲気下において、基材上に、粉末展延工程及び凝固層造形工程を繰り返し行うことによって、直径300mm、高さ100mmの略円柱の羽根車形状の合金構造体を製造した。このとき、合金粉末の溶融は、合金の融点(Tm)の50%から80%の温度の予備加熱を事前に行いながら実施し、展延された合金粉末の飛散を抑制した。その後、羽根車形状の合金構造体を基材から切り離した。
【0099】
[実施例2−1]
  実施例2−1として、元素組成がAl
0.3CoCrFeNiで表わされ、不可避的不純物の濃度を制限した合金構造体を積層造形により製造した。原子濃度比率は、Alの原子濃度が約7at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約23.3at%である。また、Pの濃度を0.002wt%以下、Siの濃度を0.010wt%以下、Sの濃度を0.001wt%以下、Snの濃度を0.002wt%以下、Sbの濃度を0.001wt%以下、Asの濃度を0.001wt%以下、Mnの濃度を0.020wt%以下、Oの濃度を0.0003wt%以下、Nの濃度を0.001wt%以下に制限した。
【0100】
  実施例2−1に係る合金構造体は、合金粉末の調製に用いる地金の組成を変えた点を除いて、実施例1−1と同様にして製造した。
【0101】
[実施例2−2]
  実施例2−2として、元素組成がAlCoCrFeNiで表わされ、不可避的不純物の濃度を制限した合金構造体を積層造形により製造した。原子濃度比率は、Al、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約20.0at%である。また、Pの濃度を0.002wt%以下、Siの濃度を0.010wt%以下、Sの濃度を0.001wt%以下、Snの濃度を0.002wt%以下、Sbの濃度を0.001wt%以下、Asの濃度を0.001wt%以下、Mnの濃度を0.020wt%以下、Oの濃度を0.0003wt%以下、Nの濃度を0.001wt%以下に制限した。
【0102】
  実施例2−2に係る合金構造体は、合金粉末の調製に用いる地金の組成を変えた点を除いて、実施例1−1と同様にして製造した。
【0103】
[比較例2−1]
  比較例2−1として、元素組成がAlCoCrFeNiで表わされ、不可避的不純物の濃度を制限した合金構造体を鋳造により製造した。原子濃度比率は、Al、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約20.0at%である。また、Pの濃度を0.002wt%以下、Siの濃度を0.010wt%以下、Sの濃度を0.001wt%以下、Snの濃度を0.002wt%以下、Sbの濃度を0.001wt%以下、Asの濃度を0.001wt%以下、Mnの濃度を0.020wt%以下、Oの濃度を0.0003wt%以下、Nの濃度を0.001wt%以下に制限した。
【0104】
  比較例2−1に係る合金構造体は、合金粉末の調製に用いる地金の組成を変えた点を除いて、比較例1−1と同様にして製造した。
【0105】
[比較例2−2]
  比較例2−2として、元素組成がAl
0.2CoCrFeNiで表わされ、不可避的不純物の濃度を制限した合金構造体を鋳造により製造した。原子濃度比率は、Alの原子濃度が約4.8at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約23.8at%である。また、Pの濃度を0.002wt%以下、Siの濃度を0.010wt%以下、Sの濃度を0.001wt%以下、Snの濃度を0.002wt%以下、Sbの濃度を0.001wt%以下、Asの濃度を0.001wt%以下、Mnの濃度を0.020wt%以下、Oの濃度を0.0003wt%以下、Nの濃度を0.001wt%以下に制限した。
【0106】
  比較例2−2に係る合金構造体は、合金粉末の調製に用いる地金の組成を変えた点を除いて、実施例1−1と同様にして製造した。
【0107】
[実施例2−3]
  実施例2−3として、元素組成がAl
1.5CoCrFeNiで表わされ、不可避的不純物の濃度を制限した合金構造体を積層造形により製造した。原子濃度比率は、Alの原子濃度が約27.2at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約18.2at%である。また、Pの濃度を0.005wt%以下、Siの濃度を0.040wt%以下、Sの濃度を0.002wt%以下、Snの濃度を0.005wt%以下、Sbの濃度を0.002wt%以下、Asの濃度を0.005wt%以下、Mnの濃度を0.050wt%以下、Oの濃度を0.001wt%以下、Nの濃度を0.002wt%以下に制限した。
【0108】
  はじめに、Alの原子濃度が約27.2at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約18.2at%であり、Pの濃度を0.005wt%以下、Siの濃度を0.040wt%以下、Sの濃度を0.002wt%以下、Snの濃度を0.005wt%以下、Sbの濃度を0.002wt%以下、Asの濃度を0.005wt%以下、Mnの濃度を0.050wt%以下、Oの濃度を0.001wt%以下、Nの濃度を0.002wt%以下に制限した合金を地金として用いて、ガスアトマイズ法によって、合金粉末を調製した。そして、得られた合金粉末を分級し、粒子径分布を20μm以上50μm以下の範囲に限定すると共に、体積基準の平均粒子径が約30μmとなるようにした。
【0109】
  続いて、積層造形装置を使用して、基材上に合金材を造形した。基材としては、直径100mm、高さ10mmの円柱形状の機械構造用炭素鋼「S45C」を用いた。また、積層造形装置としては、熱源をレーザー光としたレーザー溶融積層造形装置「EOSINT  M270」(EOS社製)を使用した。積層造形装置では、窒素雰囲気下において、基材上に、粉末展延工程及び凝固層造形工程を繰り返し行うことによって、200μmの多層膜状の合金材を製造した。
【0110】
[比較例2−3]
  比較例2−3として、元素組成がAlCoCrFeNiで表わされ、不可避的不純物の濃度を制限した合金構造体を溶射により製造した。原子濃度比率は、Al、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約20.0at%である。また、Pの濃度を0.002wt%以下、Siの濃度を0.010wt%以下、Sの濃度を0.001wt%以下、Snの濃度を0.002wt%以下、Sbの濃度を0.001wt%以下、Asの濃度を0.001wt%以下、Mnの濃度を0.020wt%以下、Oの濃度を0.0003wt%以下、Nの濃度を0.001wt%以下に制限した。
【0111】
  はじめに、Al、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約20.0at%となり、Pの濃度を0.002wt%以下、Siの濃度を0.010wt%以下、Sの濃度を0.001wt%以下、Snの濃度を0.002wt%以下、Sbの濃度を0.001wt%以下、Asの濃度を0.001wt%以下、Mnの濃度を0.020wt%以下、Oの濃度を0.0003wt%以下、Nの濃度を0.001wt%以下に制限した、Al、Co、Cr、Fe及びNiの各金属粉を混合した。なお、各金属粉は分級し、粒子径分布を50μm以上150μm以下の範囲に限定すると共に、体積基準の平均粒子径が約70μmとなるようにした。
【0112】
  続いて、混合した金属粉末を、窒素雰囲気下において、基材上に、プラズマ溶射法によって溶射することによって、200μmの膜状の合金構造体を製造した。基材としては、直径100mm、高さ10mmの円柱形状の機械構造用炭素鋼「S45C」を用いた。
【0113】
[比較例2−4]
  比較例2−4として、元素組成がAl
2.0CoCrFeNiで表わされ、不可避的不純物の濃度を制限した合金構造体を積層造形により製造した。原子濃度比率は、Alの原子濃度が約33.3at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約16.7at%である。また、Pの濃度を0.002wt%以下、Siの濃度を0.010wt%以下、Sの濃度を0.001wt%以下、Snの濃度を0.002wt%以下、Sbの濃度を0.001wt%以下、Asの濃度を0.001wt%以下、Mnの濃度を0.020wt%以下、Oの濃度を0.0003wt%以下、Nの濃度を0.001wt%以下に制限した。
【0114】
  比較例2−4に係る合金構造体は、合金粉末の調製に用いる地金の組成を変えた点を除いて、実施例2−2と同様にして製造した。
【0115】
  次に、製造した実施例1−1〜実施例1−4及び実施例2−1〜実施例2−3に係る合金構造体、及び、比較例1−1〜比較例1−4及び比較例2−1〜比較例2−4に係る合金構造体について、凝固組織の観察、ニッケル濃度分布の解析、硬度測定を行った。なお、凝固組織の観察は、高分解能の透過型電子顕微鏡によって、結晶構造と平均結晶粒径を確認することによって行った。また、ニッケル濃度分布の解析は、走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光(Scanning Electron Microscope - Energy Dispersive X-ray Detector;SEM−EDX)によって、任意に抽出した10箇所の領域についてニッケル濃度を計測することによって行った。また、硬度測定は、合金材の任意に抽出した10点についてビッカース硬度(Hv)を計測することによって行った。試験荷重は100gfとし、保持時間は10秒とした。
【0116】
  凝固組織の観察、ニッケル濃度分布の解析、硬度測定の結果を表1に示す。表1において元素組成の欄は、主成分元素と添加元素の原子濃度比を示している。また、不純物の欄は、「±」が不可避的不純物を制限していない例、「−」が不可避的不純物をやや制限した例、「−−」が不可避的不純物をより制限した例を示している。また、「結晶構造」の欄は、主晶の結晶構造を示している。「硬度」の欄における「*」は、割れが生じたことを示している。
【0117】
【表1】
【0118】
  表1に示されるように、実施例1−1〜実施例1−4及び実施例2−1〜実施例2−3に係る合金構造体は、面心立方格子の結晶構造又は体心立方格子の結晶構造のいずれかを有していることが確認された。また、ニッケル濃度分布及び硬度の値からは、標準偏差が小さく、元素組成及び機械的強度の分布の均一性が高いことが分かる。また、凝固組織の観察からは、
図2(a)及び(b)に示されるような凝固組織と結晶構造とが確認された。羽根車形状とした実施例1−4に係る合金構造体については、塩水(人工海水)腐食試験時における腐食減肉量が、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)よりも抑制されることが別途確認され、耐腐食用構造部材、耐腐食用機構部材等として好適であることも確認された。
【0119】
  これに対して、比較例1−1〜比較例1−4及び比較例2−1〜比較例2−4に係る合金構造体は、ニッケル濃度分布及び硬度の値は、標準偏差が大きく、元素組成及び機械的強度の分布の均一性は低いことが分かる。また、結晶構造は、元素組成の均一性の低さが反映されて、複相組織が形成されていることが認められた。特に、Alの原子濃度を低下させると、硬度が軟鋼よりも低い値に留まり、構造部材、機構部材等として不適であることが判明した。また、Alの原子濃度を増大させると、B2型金属間化合物が生じ、試験時において割れが生じてしまい、構造部材、機構部材等として不適であることが判明した。
【0120】
  一般に、構造部材、機構部材等においては、熱劣化、摩耗、腐食等が、耐性が低い領域を起点として進展するため、圧延等を考慮すると構造部材、機構部材等においては硬度と延性を両立することが望まれるといえる。また、これらの性質の偏差も極小化されることが求められるといえる。このような観点からは、実施例1−1〜実施例1−4及び実施例2−1〜実施例2−3に係る合金構造体と比較例1−1〜比較例1−4及び比較例2−1〜比較例2−4に係る合金構造体との結果から、本発明が有する元素組成及び機械的強度の分布の均一性が、構造部材、機構部材等の特性を向上させる場合において極めて有利に働くことが確認できたといえる。
【0121】
  次に、本発明の実施例として、実施例3−1及び実施例3−2に係る合金構造体を製造し、応力−歪特性の評価を行った。
【0122】
  図5は、実施例3に係る合金構造体の形状寸法を示す図である。
【0123】
[実施例3−1]
  実施例3−1として、元素組成がAlCoCrFeNiで表わされ、不可避的不純物の濃度を制限した
図5に示す合金構造体を積層造形により製造した。原子濃度比率は、Al、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約20.0at%である。また、Pの濃度を0.002wt%以下、Siの濃度を0.010wt%以下、Sの濃度を0.001wt%以下、Snの濃度を0.002wt%以下、Sbの濃度を0.001wt%以下、Asの濃度を0.001wt%以下、Mnの濃度を0.020wt%以下、Oの濃度を0.0003wt%以下、Nの濃度を0.001wt%以下に制限した。
【0124】
  はじめに、Alの原子濃度が約7at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約23.3at%であり、Pの濃度を0.002wt%以下、Siの濃度を0.010wt%以下、Sの濃度を0.001wt%以下、Snの濃度を0.002wt%以下、Sbの濃度を0.001wt%以下、Asの濃度を0.001wt%以下、Mnの濃度を0.020wt%以下、Oの濃度を0.0003wt%以下、Nの濃度を0.001wt%以下に制限した合金を地金として用いて、ガスアトマイズ法によって、合金粉末を調製した。そして、得られた合金粉末を分級し、粒子径分布を45μm以上105μm以下の範囲に限定すると共に、体積基準の平均粒子径が約70μmとなるようにした。
【0125】
  続いて、積層造形装置を使用して、基材上に合金材を造形した。基材としては、200mm×200mm×10mmの板状の機械構造用炭素鋼「S45C」を用いた。また、積層造形装置としては、熱源を電子ビームとした電子ビーム溶融積層造形装置「A2X」(Arcam社製)を使用した。積層造形装置では、真空雰囲気下において、基材上に、粉末展延工程及び凝固層造形工程を繰り返し行うことによって、
図5に示すように、150mm×150mm×30mmの板状造形物(板状部)を形成し、その上に28mm×28mm×20mmの直方体造形物(直方体部)を縦横6mmの間隔を空けて計16個造形した。このとき、合金粉末の溶融は、合金粉末の融点(Tm)の50%から80%の温度の予備加熱を事前に行いながら実施し、展延された合金粉末の飛散を抑制した。なお、造形物全体の体積は、925880mm
3であった。
【0126】
[実施例3−2]
  実施例3−2として、元素組成がAlCoCrFeNiで表わされ、不可避的不純物の濃度を制限していない
図5に示す合金構造体を積層造形により製造した。原子濃度比率は、Al、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約20.0at%である。
【0127】
  実施例3−2に係る合金構造体は、合金粉末の調製に用いる地金の組成を変えた点を除いて、実施例3−1と同様にして製造した。なお、合金粉末における不可避的不純物の濃度は、Pの濃度が0.008wt%、Siの濃度が0.040wt%、Sの濃度が0.012wt%、Snの濃度が0.006wt%、Sbの濃度が0.002wt%、Asの濃度が0.006wt%、Mnの濃度が0.300wt%、Oの濃度が0.002wt%、Nの濃度が0.003wt%であった。
【0128】
  次に、製造した実施例3−1及び実施例3−2に係る合金構造体について、ニッケル濃度分布の解析を行った。ニッケル濃度分布の解析は、計16個の各直方体部について、走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光(Scanning Electron Microscope - Energy Dispersive X-ray Detector;SEM−EDX)によって、任意に抽出した10箇所の領域についてニッケル濃度を計測することによって行った。計16個の各直方体部についての、Ni濃度分布の平均値と標準偏差の結果を表2に示す。
【0129】
【表2】
【0130】
  表2に示すように、不可避的不純物をより制限した実施例3−1に係る合金構造体では、各直方体部についてのニッケル濃度分布の偏差が、実施例3−2に係る合金構造体よりも小さい傾向が現れており、合金粉末の不可避的不純物をより制限することで、合金構造体の元素組成分布の均一性が高められていることが分かる。
【0131】
  次に、
図5に示す合金構造体の計16個の各直方体部について積層方向に沿って試験片を採取し、単軸圧縮試験を行った。試験片は、合金構造体における積層方向を長軸とするダンベル状試験片を各直方体部から板状部にかけて切り出したものとし、平行部の寸法は、直径4mm×高さ30mmとしたものを用いた。室温における圧縮真応力―圧縮真歪線図の測定結果を、計16個の各直方体部についての平均として
図6に示す。
【0132】
  図6は、実施例3に係る合金構造体における圧縮真応力―圧縮真歪線図である。
【0133】
  図6に示すように真応力―真歪線図のばらつきは、実施例3−1及び実施例3−2のいずれにおいてもほとんど認められず、
図6に示す線幅の線図を描くことができた。すなわち、非特許文献2に示される合金材よりも約160倍以上大きな体積の合金構造体において、造形物の全域に亘り、機械的特性の均一性が高められることが確認できた。特に、実施例3−2では、引張強度は約2800MPa、全伸びは約38%であるのに対し、実施例3−1では、引張強度は約3850MPa、全伸びは約43%であり、引張強度が約1.37倍、全伸びが約1.1倍増加していることが分かる。よって、不可避的不純物の濃度を低減することにより、より機械的特性を向上させることが可能であることが認められる。
【0134】
  次に、本発明の実施例として、実施例4−1〜実施例4−3に係る合金構造体を製造し、引張特性の評価を行った。
【0135】
[実施例4−1]
  実施例4−1として、元素組成がAlCoCrFeNiで表わされ、不可避的不純物の濃度を制限した合金構造体を積層造形により製造した。原子濃度比率は、Al、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約20.0at%である。また、Pの濃度を0.002wt%以下、Siの濃度を0.010wt%以下、Sの濃度を0.001wt%以下、Snの濃度を0.002wt%以下、Sbの濃度を0.001wt%以下、Asの濃度を0.001wt%以下、Mnの濃度を0.020wt%以下、Oの濃度を0.0003wt%以下、Nの濃度を0.001wt%以下に制限した。
【0136】
  はじめに、Alの原子濃度が約7at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約23.3at%であり、Pの濃度を0.002wt%以下、Siの濃度を0.010wt%以下、Sの濃度を0.001wt%以下、Snの濃度を0.002wt%以下、Sbの濃度を0.001wt%以下、Asの濃度を0.001wt%以下、Mnの濃度を0.020wt%以下、Oの濃度を0.0003wt%以下、Nの濃度を0.001wt%以下に制限した合金を地金として用いて、ガスアトマイズ法によって、合金粉末を調製した。そして、得られた合金粉末を分級し、粒子径分布を45μm以上105μm以下の範囲に限定すると共に、体積基準の平均粒子径が約70μmとなるようにした。
【0137】
  続いて、積層造形装置を使用して、基材上に合金構造体を造形した。基材としては、200mm×200mm×10mmの板状の機械構造用炭素鋼「S45C」を用いた。また、積層造形装置としては、熱源を電子ビームとした電子ビーム溶融積層造形装置「A2X」(Arcam社製)を使用した。積層造形装置では、真空雰囲気下において、基材上に、粉末展延工程及び凝固層造形工程を繰り返し行うことによって、凝固層の積層方向を水平軸とするダンベル状試験片を合金構造体として造形した。このとき、合金粉末の溶融は、合金粉末の融点(Tm)の50%から80%の温度の予備加熱を事前に行いながら実施し、展延された合金粉末の飛散を抑制した。なお、ダンベル状試験片は、試験片本体を支持する支持部材と共に基材上に横置きの状態で造形し、平行部の寸法を直径4mm×高さ30mmとした。
【0138】
[実施例4−2]
  実施例4−2として、元素組成がAlCoCrFeNiで表わされ、不可避的不純物の濃度を制限した合金構造体を積層造形により製造した。原子濃度比率は、Al、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約20.0at%である。また、Pの濃度を0.002wt%〜0.005wt%、Siの濃度を0.010wt%〜0.040wt%、Sの濃度を0.001wt%〜0.002wt%、Snの濃度を0.002wt%〜0.005wt%、Sbの濃度を0.001wt%〜0.002wt%、Asの濃度を0.001wt%〜0.005wt%、Mnの濃度を0.020wt%〜0.050wt%、Oの濃度を0.0003wt%〜0.001wt%、Nの濃度を0.001wt%〜0.002wt%とした。
【0139】
  実施例4−2に係る合金構造体は、合金粉末の調製に用いる地金の組成を変えた点を除いて、実施例4−1と同様にして製造した。
【0140】
[実施例4−3]
  実施例4−3として、元素組成がAlCoCrFeNiで表わされ、不可避的不純物の濃度を制限していない合金構造体を積層造形により製造した。原子濃度比率は、Al、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約20.0at%である。
【0141】
  実施例4−3に係る合金構造体は、合金粉末の調製に用いる地金の組成を変えた点を除いて、実施例4−1と同様にして製造した。なお、合金粉末における不可避的不純物の濃度は、Pの濃度が0.008wt%、Siの濃度が0.040wt%、Sの濃度が0.012wt%、Snの濃度が0.006wt%、Sbの濃度が0.002wt%、Asの濃度が0.006wt%、Mnの濃度が0.300wt%、Oの濃度が0.002wt%、Nの濃度が0.003wt%であった。
【0142】
  次に、製造した実施例4−1〜実施例4−3に係る合金構造体について、引張試験を行った。引張試験は、0℃から900℃の温度にかけて行い、引張強度を計測した。引張試験の測定結果を
図7に示す。
【0143】
  図7は、実施例4に係る合金構造体における引張強度の試験温度依存性を示す図である。
【0144】
  図7に示すように、不可避的不純物を制限した実施例4−1〜実施例4−2に係る合金構造体では、不可避的不純物を制限していない実施例4−3に係る合金構造体に対して、引張強度が向上していることが判る。また、不可避的不純物をより制限した実施例4−1に係る合金構造体では、広い温度域で引張強度が向上していることが判る。よって、不可避的不純物の濃度を低減することにより、さらに機械的特性を向上させることが有効であることが確認された。
【0145】
  次に、本発明の実施例として、主成分元素の元素種類を変えて実施例5、実施例6、実施例7及び実施例8に係る合金構造体を製造し、その評価を行った。
【0146】
  はじめに、鉄(Fe)とその他の複数元素とを主成分として、高エントロピー合金の固溶相を形成することが可能か否かを熱力学的計算によって推定した。なお、熱力学的計算は、Feを含めて5種類以上の元素を等原子比率となる元素組成で含有する場合を仮定して第一原理計算法を使用して行い、そのような元素組成において常温且つ常圧下で固溶相が形成され得るか否かを確認した。主成分の元素は、Feのほか、元素周期律表の第3族から第16族までに含まれる原子番号3から原子番号83の元素群から複数種づつ選択した。
【0147】
  図8は、合金構造体において固溶相を形成することができる主成分元素の範囲を示す図である。
【0148】
  図8において、縦軸は、元素の原子番号、横軸は、Fe原子に対する原子半径の比率(各元素の原子半径/Feの原子半径)を示している。また、各プロットの形状は、常温且つ常圧下での結晶構造を示している。二重四角は面心立方格子、二重丸は体心立方格子、六角は六方細密充填、四角はその他の結晶格子である。
【0149】
  主成分の元素の種々の組合せについて熱力学的計算を行ったところ、
図8において鎖線で囲まれた領域の元素を等原子比率で含有する元素組成について、固溶相を形成することが可能であることが判明した。具体的には、Feと共に固溶化が可能であることが認められた元素(非Fe主成分元素)は、原子番号13のAlから原子番号79のAuまでのうち、Fe原子に対する原子半径の比率が0.83以上1.17以下である元素、すなわち、Al、Si、P、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Se、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Auである。また、その組合せによる成分組成としては、CoCrFeNiAl、CoCrFeNiCu、CoCrFeNiCuAl、CoCrFeNiCuAlSi、MnCrFeNiCuAl、CoCrFeNiMnGe、CoCrFeNiMn、CoCrFeNiMnCu、TiCoCrFeNiCuAlV、TiCoCrFeNiAl、AlTiCoCrFeNiCuVMn、TiCrFeNiCuAl、TiCoCrFeNiCuAl、CoCrFeNiCuAlV、TiCoCrFeNiAl、TiCoCrFeNiCuAl、CoCrFeNiCuAl、CoFeNiCuV、CoCrFeNiCuAl、MnCrFeNiAl、MoCrFeNiCu、TiCoCrFeNi、TiCoCrFeNiMo、CoCrFeNiCuAlV、MnCrFeNiCu、TiCoCrFeNi、TiCoCrFeNiAl、CoCrFeNiMo、CoCrFeNiAlMo、TiCoCrFeNiCu、CoCrFeNiCuAlMn、TiCoCrFeNiMo、CoCrFeNiCuAlV、TiCoCrFeNiCuVMn、AlTiCoCrFeNiCuVMn、CoCrFeNiCuAlMn、CoCrFeNiAlMo、CoCrFeNiCuAlMo、TiCoCrFeNiCu等が確認された。これらのうち、AlTiCoCrFeNiCuVMnの9元高エントロピー合金を、実施例5、実施例6、実施例7及び実施例8に係る合金構造体の造形に応用した。
【0150】
[実施例5]
  実施例5として、元素組成をAlTiCoCrFeNiCuVMnとし、不可避的不純物の濃度を制限した
図5に示す合金構造体を積層造形により製造した。原子濃度比率は、Al、Ti、Co、Cr、Fe、Ni、Cu、V及びMnの原子濃度については、原子濃度の差を±3%以内の範囲に揃えて略等原子比率とした。また、Pの濃度を0.005wt%〜0.002wt%、Siの濃度を0.040wt%〜0.010wt%、Sの濃度を0.002wt%〜0.001wt%、Snの濃度を0.005wt%〜0.002wt%、Sbの濃度を0.002wt%〜0.001wt%、Asの濃度を0.005wt%〜0.001wt%、Mnの濃度を0.050wt%〜0.020wt%、Oの濃度を0.001wt%〜0.0003wt%、Nの濃度を0.002wt%〜0.001wt%の範囲に制限した。
【0151】
  はじめに、Al、Ti、Co、Cr、Fe、Ni、Cu、V及びMnの原子濃度が、略等原子比率であり、Pの濃度を0.002wt%以下、Siの濃度を0.010wt%以下、Sの濃度を0.001wt%以下、Snの濃度を0.002wt%以下、Sbの濃度を0.001wt%以下、Asの濃度を0.001wt%以下、Mnの濃度を0.020wt%以下、Oの濃度を0.0003wt%以下、Nの濃度を0.001wt%以下に制限した合金を地金として用いて、ガスアトマイズ法によって、合金粉末を調製した。そして、得られた合金粉末を分級し、粒子径分布を45μm以上105μm以下の範囲に限定すると共に、体積基準の平均粒子径が約70μmとなるようにした。
【0152】
  続いて、積層造形装置を使用して、基材上に合金材を造形した。基材としては、200mm×200mm×10mmの板状の機械構造用炭素鋼「S45C」を用いた。また、積層造形装置としては、熱源を電子ビームとした電子ビーム溶融積層造形装置「A2X」(Arcam社製)を使用した。積層造形装置では、真空雰囲気下において、基材上に、粉末展延工程及び凝固層造形工程を繰り返し行うことによって造形した。このとき、合金粉末の溶融は、合金粉末の融点(Tm)の50%から80%の温度の予備加熱を事前に行いながら実施し、展延された合金粉末の飛散を抑制した。製造された実施例5に係る合金構造体は、
図5に示す合金構造体と略同形状を有し、造形物全体の体積は、856700mm
3であった。
【0153】
  次に、実施例5に係る合金構造体の計16個の各直方体部について積層方向に沿って試験片を採取し、単軸圧縮試験を行った。試験片は、合金構造体における積層方向を長軸とするダンベル状試験片を各直方体部から板状部にかけて切り出したものとし、平行部の寸法は、直径8mm×高さ12mmとしたものを用いた。また、製造された実施例5に係る合金構造体について、Fe濃度分布の解析を行った。Fe濃度分布の解析は、計16個の各直方体部について、走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光によって、任意に抽出した10箇所の領域について鉄濃度を計測することによって行った。
【0154】
  その結果、各直方体部についての平均では、真応力―真歪線図のばらつきと、Fe濃度分布とが、いずれも1〜3%以内の差の範囲内にあることが確認された。また、標準偏差は、1.20%以下という結果が得られ、元素組成の分布の均一性が高められることが確認できた。また、実施例5に係る合金構造体の元素組成は、用いた合金粉末の元素組成と略同一で、成分濃度の誤差が凡そ±3%以内に収まっており、元素組成分布、溶融速度、冷却速度等に起因するむらが解消されると共に、元素組成及び機械的強度の分布の均一性も確保できることが確認された。
【0155】
[実施例6]
  実施例6として、元素組成をAlTiCoCrFeNiCuVMnとし、不可避的不純物の濃度を制限した円弧状の形状を有する合金構造体(
図9参照)を積層造形により製造した。
【0156】
  図9は、実施例6に係る合金構造体の形状寸法を示す図である。
【0157】
  図9に示すように、実施例6に係る合金構造体1Aは、横断面が円弧状の形状を有する柱状体であり、タービンブレード等に適用できる形状となっている。このような形状の合金構造体1Aを、積層造形される立体形状を変えた点を除いて、実施例5と同様にして製造し、幅(W)149mm×奥行き(D)110mm×高さ(H)153mmの円弧状造形物として造形した。製造された実施例6に係る合金構造体は、造形物全体の体積が、184480mm
3、表面積が、60470mm
2であり、非特許文献2に示される合金材の約33倍の体積で形成することができた。
【0158】
  次に、実施例6に係る合金構造体について、Fe濃度分布の解析を行った。Fe濃度分布の解析は、走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光によって、任意に抽出した10箇所の領域について鉄濃度を計測することによって行った。
【0159】
  その結果、実施例6に係る合金構造体の元素組成は、用いた合金粉末の元素組成と略同一で、成分濃度の誤差が凡そ±3%以内に収まっており、元素組成分布、溶融速度、冷却速度等に起因するむらが解消されると共に、元素組成及び機械的強度の分布の均一性も確保できることが確認された。
【0160】
[実施例7]
  実施例7として、元素組成をAlTiCoCrFeNiCuVMnとし、不可避的不純物の濃度を制限したダンベル状の形状を有する合金構造体を積層造形により製造した。
【0161】
  実施例7に係る合金構造体は、合金粉末の調製に用いる地金の組成と、積層造形される立体形状とを変えた点を除いて、実施例4−1と同様にして製造し、凝固層の積層方向を水平軸とするダンベル状の造形物とした。
【0162】
  その結果、実施例7に係る合金構造体の元素組成は、用いた合金粉末の元素組成と略同一で、成分濃度の誤差が凡そ±3%以内に収まっており、元素組成分布、溶融速度、冷却速度等に起因するむらが解消されると共に、元素組成及び機械的強度の分布の均一性も確保できることが確認された。また、実施例4−1に係る合金構造体と比較して、表面が平滑になり、金属光沢が強く発現することが確認され、合金構造体の元素組成を多元化することによって、表面性状を改質する効果が得られることが分かった。
【0163】
[実施例8]
  実施例8として、元素組成をAlTiCoCrFeNiCuVMnとし、不可避的不純物の濃度を制限したロッド状の形状を有する合金構造体を積層造形により製造した。
【0164】
  実施例8に係る合金構造体は、合金粉末の調製に用いる地金の組成と、積層造形される立体形状とを変えた点を除いて、実施例4−1と同様にして造形した。
【0165】
  その結果、実施例8に係る合金構造体の元素組成は、用いた合金粉末の元素組成と略同一で、成分濃度の誤差が凡そ±3%以内に収まっており、元素組成分布、溶融速度、冷却速度等に起因するむらが解消されると共に、元素組成及び機械的強度の分布の均一性も確保できることが確認された。製造された実施例8に係る合金構造体を摩擦撹拌用ツールとして使用して、厚さ10mm以下の軟鉄製の板材について摩擦撹拌接合による接合を行った。その結果、接合部に欠陥を生じることなく接合することができ、反りがほとんど見られない良好な接合を行うことができた。すなわち、多元化された実施例8に係る合金構造体は、高温強度や耐摩耗性が要求され、従来困難であったFeを主体とした材料の摩擦撹拌接合に適用可能であることが確認された。また、凝固層造形工程で、凝固部が形成されるまでの高温の状態において、凝固部乃至凝固層の形状成形加工や表面加工を行うことによって、適切に加工が施された造形物を得ることができることも確認された。