(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
延伸フィルムと、前記延伸フィルム上に、請求項1〜3のいずれかに記載のポリイミドを含有するワニスを塗工し、得られた塗膜を乾燥することにより形成されたポリイミド膜とを有する積層フィルム。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を、1)ポリイミド、並びに、2)積層フィルム、位相差フィルム及び積層フィルムの製造方法、に項分けして詳細に説明する。
【0017】
1)ポリイミド
本発明のポリイミドは、前記式(1)で示される繰り返し単位(以下、「繰り返し単位(1)」ということがある。)と、前記式(2)で示される繰り返し単位(以下、「繰り返し単位(2)」ということがある。)を有し、繰り返し単位(1)と繰り返し単位(2)の割合〔繰り返し単位(1):繰り返し単位(2)〕のモル比が、20:80〜70:30であり、繰り返し単位(1)と繰り返し単位(2)の合計量が、全繰り返し単位中、80〜100モル%であることを特徴とする。
【0018】
<繰り返し単位(1)>
繰り返し単位(1)中、R
1、R
2は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状アルコキシル基、又はトリフルオロメチル基を表す。
【0019】
R
1、R
2のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
R
1、R
2の炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状アルキル基の炭素数は1〜3が好ましい。炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−へキシル基、イソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
R
1、R
2の炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状アルコキシル基の炭素数は1〜3が好ましい。炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状アルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基等が挙げられる。
【0020】
a、bは、それぞれ独立に、0〜4の整数を表す。a、bが、2〜4の整数の場合、複数のR
1は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよく、複数のR
2は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
A
1は、前記式(3a)又は(3b)で示される基を表す。
【0021】
繰り返し単位(1)は、下記式(4a)又は(4b)で示されるテトラカルボン酸二無水物と、下記式(5)で示されるジアミンとを反応させて得られる構造を有する。
テトラカルボン酸二無水物〔下記式(4a)又は(4b)で示される化合物〕に由来する部分は脂環式構造を有する。
【0024】
このため、本発明のポリイミドは透明性に優れる。また、本発明のポリイミドは、この脂環式構造を有することで、有機溶媒に対する溶解性に優れる。したがって、本発明のポリイミドを用いることで、キャスト法により効率よく位相差フィルムを製造することができる。
【0025】
繰り返し単位(1)中の、ジアミン〔下記式(5)で示される化合物〕に由来する部分は、π結合が広がってなる剛直構造を有する。
【0027】
本発明のポリイミドは、この剛直構造を有するため分子鎖の向きが揃い易くなる。後述するように、延伸フィルムを基材として用いて、キャスト法によりポリイミドフィルムを形成する際に、剛直構造のこの作用により、繰り返し単位(2)中のフルオレン環がフィルム平面に対して垂直方向に立ち上がり易くなり、フィルムの複屈折性が高められる。
【0028】
<繰り返し単位(2)>
繰り返し単位(2)中、R
3〜R
6は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状アルコキシル基、又はトリフルオロメチル基を表す。
これらの基の具体例としては、R
1、R
2として例示したものと同様のものが挙げられる。
繰り返し単位(2)中、c〜fは、それぞれ独立に、0〜4の整数を表す。cが2〜4の整数の場合、複数のR
3は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、e〜fが2〜4の整数の場合におけるR
4〜R
6についても同様である。
繰り返し単位(2)中、A
1は、前記式(3a)又は(3b)で示される基を表す。
【0029】
繰り返し単位(2)中の、テトラカルボン酸二無水物〔前記式(4a)又は(4b)で示される化合物〕に由来する部分は、式(1)で示される繰り返し単位のテトラカルボン酸二無水物と同様のものである。したがって、本発明のポリイミドは透明性及び有機溶媒に対する溶解性に優れる。
【0030】
繰り返し単位(2)は、前記式(4a)又は(4b)で示されるテトラカルボン酸二無水物と、下記式(6)で示されるジアミンとを反応させて得られる構造を有する。
ジアミン〔下記式(6)で示される化合物〕に由来する部分は、フルオレン環を有する。
【0032】
本発明のポリイミドは、フルオレン環を有する繰り返し単位(前記(2)で示される繰り返し単位)と、前記剛直構造を有する繰り返し単位(前記式(1)で示される繰り返し単位)とを有する。この組み合わせにより、本発明のポリイミドは、より高い複屈折性が発現する。また、本発明のポリイミドは、このフルオレン環構造を有することで、有機溶媒に対する溶解性に優れる。したがって、本発明のポリイミドを用いることで、キャスト法により効率よく位相差フィルムを製造することができる。
【0033】
本発明のポリイミドの、繰り返し単位(1)と繰り返し単位(2)の割合〔繰り返し単位(1):繰り返し単位(2)〕のモル比は、20:80〜70:30であり、好ましくは30:70〜70:30である。
繰り返し単位(1)の割合が少な過ぎると、後述するフィルムにおいて位相差が発現し難くなる。また、繰り返し単位(1)の割合が多過ぎると、ポリイミドが有機溶媒に溶けにくくなり、キャストフィルムを製造することが困難となる。
【0034】
本発明のポリイミド中の繰り返し単位(1)と繰り返し単位(2)の合計量は、全繰り返し単位中、80〜100モル%であり、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%である。
繰り返し単位(1)と繰り返し単位(2)の合計が上記範囲内にあることで、複屈折性が高いフィルムの製造原料として有用な、透明性、機械特性及び有機溶媒に対する溶解性に優れるポリイミドを得ることができる。
【0035】
本発明のポリイミドは、繰り返し単位(1)、(2)以外の、任意の繰り返し単位を有していてもよい。このような繰り返し単位としては、後述する、前記式(4a)、(4b)で示されるテトラカルボン酸二無水物以外のテトラカルボン酸二無水物や、前記式(5)、(6)で示されるジアミン以外のジアミンを用いて形成された繰り返し単位が挙げられる。
【0036】
本発明のポリイミドの合成方法は特に限定されない。例えば、前記式(4a)又は(4b)で示されるテトラカルボン酸二無水物、前記式(5)で示されるジアミン、前記式(6)で示されるジアミン、その他必要に応じて用いられる、前記式(4a)、(4b)で示されるテトラカルボン酸二無水物以外のテトラカルボン酸二無水物、前記式(5)、(6)で示されるジアミン以外のジアミンを原料として用いて反応を行うことにより、本発明のポリイミドを合成することができる。
【0037】
式(4a)、(4b)で示されるテトラカルボン酸二無水物以外のテトラカルボン酸二無水物としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,3’,4,4’−テトラカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシフェニル)スルホン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0038】
式(5)、(6)で示されるジアミン以外のジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ジ(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ジ(4−アミノフェニル)プロパン、2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ジ(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ジ(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,1−ジ(3−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ジ(4−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1−(3−アミノフェニル)−1−(4−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(3− アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゾニトリル、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ピリジン、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、4,4’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、4,4’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ]ジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、5−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、2,2’−ジ(p−アミノフェニル)−6,6’−ビスベンゾオキサゾール、2−(4−アミノフェニル)−6−アミノベンゾオキサゾール、N−(4−アミノフェニル)−4−アミノベンズアミド、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)テレフタルアミド、4−アミノフェニル−4−アミノベンゾエート、2,2’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジアミン等が挙げられる。
【0039】
本発明のポリイミドの合成方法としては、テトラカルボン酸二無水物とジアミン(以下、これらの化合物をモノマーということがある。)を反応させて、ポリイミド前駆体を得た後、得られたポリイミド前駆体をイミド化してポリイミドを合成する方法(方法1)や、テトラカルボン酸二無水物とジアミンから、直接、ポリイミドを合成する方法(方法2)等が挙げられる。
【0040】
方法1(ポリイミド前駆体をイミド化する方法)において、ポリイミド前駆体の合成方法は特に限定されず、公知の方法を採用することができる。
例えば、まず、前記式(5)で示されるジアミン及び前記式(6)で示されるジアミン、並びに、必要に応じて用いられるその他のジアミンを溶媒に溶かして溶液を得た後、撹拌下、この溶液に、用いたジアミンと実質的に当量の、前記式(4a)又は(4b)で示されるテトラカルボン酸二無水物、及び、必要に応じて用いられるその他のテトラカルボン酸二無水物を徐々に添加し、撹拌を継続して反応させることにより、ポリイミド前駆体の溶液を得ることができる。
このときのモノマー濃度は特に限定されないが、通常、5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%である。
【0041】
ポリイミド前駆体を合成する際に用いる溶媒は、モノマー及びポリイミド前駆体を十分溶解するものであれば、特に限定されない。例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム、ヘキサメチルリン酸トリアミド等のアミド系溶媒;スルホラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホン、ジメチルテトラメチレンスルホン等の含硫黄系溶媒;クレゾール、フェノール、キシレノール等のフェノール系溶媒;ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラグライム等のジグライム系溶媒;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン系溶媒;イソホロン、シクロヘキサノン、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ピリジン、エチレングリコール、ジオキサン、テトラメチル尿素等のその他の溶媒;等が挙げられる。これらの溶媒は1種単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0042】
反応温度は特に限定されないが、通常、−10〜80℃、好ましくは0〜40℃である。
反応時間は特に限定されないが、通常、0.5〜150時間、好ましくは3〜24時間である。
【0043】
得られたポリイミド前駆体の溶液は、ポリイミド前駆体を単離することなく、そのまま、あるいは濃度を調整した後、次のイミド化反応に供することができる。また、ポリイミド前駆体の溶液を大量の水やメタノール等の貧溶媒に滴下し、ポリイミド前駆体を析出させ、これをろ取、洗浄、乾燥することにより、ポリイミド前駆体を単離することもできる。
【0044】
ポリイミド前駆体をイミド化する方法は特に限定されず、例えば、公知の化学イミド化法や、熱イミド化法を採用することができる。なかでも、過度に加熱する必要が無く、ポリイミドの分子量低下を抑制し得ることから、化学イミド化法がより好適に用いられる。
【0045】
化学イミド化法は、例えば、ポリイミド前駆体の溶液を撹拌しながら、この溶液に、有機酸無水物と有機塩基を滴下することにより行うことができる。
ポリイミド前駆体の溶液の溶媒としては、ポリイミド前駆体の合成用の溶媒として示したものと同様のものが挙げられる。
有機酸無水物としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸等が挙げられる。なかでも、反応後の除去が容易であることや、費用の観点から、無水酢酸が好適に用いられる。
有機酸無水物の使用量は特に限定されないが、ポリイミド前駆体の理論脱水量の1〜10当量が好ましく、2〜5当量がより好ましい。
【0046】
有機塩基としては、ピリジン、ピコリン等の複素環式化合物;トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン等の3級アミン;等が挙げられる。
有機塩基の使用量は特に限定されないが、有機酸無水物に対して0.1〜2当量が好ましく、0.2〜1.5当量がより好ましい。
【0047】
化学イミド化法において、反応温度は特に限定されないが、通常、0〜130℃、好ましくは20〜110℃である。反応時間は特に限定されないが、通常、0.5〜48時間、好ましくは1〜24時間である。
【0048】
熱イミド化法は、例えば、ポリイミド前駆体の溶液を脱水閉環反応が起きる温度に加熱することにより行うことができる。加熱する際は、最高温度まで一段階で昇温する方法、多段階で昇温する方法のどちらでもよい。
【0049】
ポリイミド前駆体の溶液の溶媒としては、ポリイミド前駆体の合成用の溶媒として示したものと同様のものが挙げられる。
熱イミド化法において、反応温度は特に限定されないが、通常、130〜450℃、好ましくは300〜400℃である。反応時間は特に限定されないが、通常、0.1〜24時間、好ましくは0.5〜5時間である。
反応は、真空中、窒素、アルゴン等の不活性ガス中、あるいは空気中で行うことができる
反応系内には、触媒としてγ−ピコリン等の有機塩基や、副生成物である水を共沸留去するために、トルエンやキシレン等を添加してもよい。
【0050】
また、単離したポリイミド前駆体を、そのまま加熱して熱イミド化することもできる。
反応温度は特に限定されないが、通常、200〜400℃、好ましくは250〜300℃である。
反応時間は特に限定されないが、通常、0.5〜48時間、好ましくは1〜24時間である。
反応は、真空中、窒素、アルゴン等の不活性ガス中、あるいは空気中で行うことができるが、着色を防ぐことができることから、真空中又は不活性ガス中で行うことが好ましい。
【0051】
方法2(テトラカルボン酸二無水物とジアミンから、直接、ポリイミドを合成する方法)によりポリイミドを合成する場合、例えば、方法1におけるポリイミド前駆体の合成方法の反応条件を変えることにより、テトラカルボン酸二無水物とジアミンから、直接、ポリイミドを合成することができる。
【0052】
反応に用いる溶媒としては、ポリイミド前駆体の合成用の溶媒として示したものと同様のものが挙げられる。なかでも、アミド系溶媒やフェノール系溶媒が好ましい。
反応温度は特に限定されないが、通常、130〜250℃、好ましくは150〜200℃である。
反応時間は特に限定されないが、通常、0.5〜48時間、好ましくは1〜24時間である。
反応系内には、触媒としてγ−ピコリン等の有機塩基や、副生成物である水を共沸留去するために、トルエンやキシレン等を添加してもよい。
【0053】
上記の方法1や方法2により反応を行い、得られたポリイミドの溶液を大量の貧溶媒中に滴下することで、ポリイミドを析出させることができる。さらに、析出したポリイミドを、ろ取、洗浄、乾燥等することにより、ポリイミドの粉末を得ることができる。
貧溶媒としては、ポリイミドを溶解しないものであれば特に限定されないが、反応溶媒や化学イミド化剤との親和性が高いことや、乾燥による効率よく除去し得ることから、水;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;アセトン等のケトン系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;これらの混合溶媒;等が好適に用いられる。
【0054】
本発明のポリイミドの重量平均分子量は、通常5,000〜1,000,000、好ましくは10,000〜500,000である。
ポリイミドの分子量分布は、通常1.3〜3、好ましくは1.5〜2.5である。
重量平均分子量や、分子量分布が上記範囲内のポリイミドを用いることで、透明性及び機械特性に優れ、かつ、複屈折性が高いフィルムが得られ易くなる。
なお、重量平均分子量および分子量分布は、シクロペンタノンを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により得られた、ポリスチレン換算値である。
【0055】
本発明のポリイミドは透明性に優れる。本発明のポリイミドは、厚みが10μmのフィルムに成形したときに、そのフィルムの、波長400nmの光の光線透過率が90%以上になるものが好ましく、95%以上になるものがより好ましい。
【0056】
本発明のポリイミドは有機溶媒に対する溶解性が高い。本発明のポリイミドは、25℃のシクロペンタノンに溶解させて飽和溶液を調製したときに、その飽和溶液の濃度が5重量%以上になるものが好ましく、10重量%以上になるものがより好ましい。飽和溶液の濃度の好ましい上限は特にないが、通常は、50重量%以下である。
【0057】
本発明のポリイミドは、上記のように、透明性に優れ、有機溶媒に対する溶解性が高い。このような特性を有するポリイミドは、キャスト法により光学フィルムを製造する際の材料として、好適に用いられる。
【0058】
2)積層フィルム、位相差フィルム及び積層フィルムの製造方法
本発明の積層フィルムは、延伸フィルムと、前記延伸フィルム上に、本発明のポリイミドを含有するワニスを塗工し、得られた塗膜を乾燥することにより形成されたポリイミド膜とを有することを特徴とする。
【0059】
〔ワニス〕
本発明の積層フィルムの製造に用いるワニスは、本発明のポリイミドの適当量を溶媒に溶解することにより、調製することができる。
ワニスの調製に用いる溶媒は、ポリイミドを溶解するものであって、かつ、延伸フィルムを侵さないものであれば、特に限定されない。ワニスの塗工後に、塗膜から溶媒を効率よく揮発させることができることから、溶媒の沸点は180℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、130℃以下がさらに好ましい。
【0060】
用いる溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム、ヘキサメチルリン酸トリアミド等のアミド系溶媒;スルホラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホン、ジメチルテトラメチレンスルホン等の含硫黄系溶媒;クレゾール、フェノール、キシレノール等のフェノール系溶媒;ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラグライム等のジグライム系溶媒;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン系溶媒;ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、イソホロン、シクロヘキサノン、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ピリジン、エチレングリコール、ジオキサン、テトラメチル尿素等のその他の溶媒;等が挙げられる。これらの溶媒は1種単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
これらの中でも、延伸フィルムとして、シクロオレフィンポリマーフィルムを用いる場合、ケトン系溶媒が好ましく、シクロペンタノンがより好ましい。
【0061】
ワニス中のポリイミドの濃度(樹脂濃度)は、ワニスの塗工方法や目的のフィルム厚みに応じて適宜決定することができる。樹脂濃度は、好ましくは5〜30重量%、より好ましくは5〜20重量%である。
【0062】
本発明の効果を損ねない範囲において、ワニスは添加剤を含有してもよい。添加剤としては、酸化安定剤、フィラー、接着促進剤、シランカップリング剤、感光剤、光重合開始剤、増感剤、末端封止剤、架橋剤等が挙げられる。
【0063】
〔延伸フィルム〕
本発明に用いる延伸フィルムは、延伸により複屈折性が発現したものであれば、特に限定されない。
延伸フィルムの材料は、熱可塑性樹脂であれば特に制限はないが、ガラス転移温度(Tg)が80℃から200℃のものが好ましく、100℃から180℃のものがより好ましい。
延伸フィルムを構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニルポリメチルメタクリレート、ポリアリレートなどが挙げられる。これらの中でも、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネートが好ましく、シクロオレフィンポリマーが特に好ましい。
【0064】
シクロオレフィンポリマーとしては、ノルボルネン系樹脂、単環の環状オレフィン系樹脂、環状共役ジエン系樹脂、ビニル脂環式炭化水素系樹脂、および、これらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン系樹脂は、透明性と成形性が良好なため、好適に用いることができる。
ノルボルネン系樹脂としては、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との開環共重合体またはそれらの水素化物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との付加共重合体またはそれらの水素化物等を挙げることができる。
【0065】
市販のシクロオレフィンポリマーとしては、「Topas」(Ticona社製)、「アートン」(JSR社製)、「ゼオノア」および「ゼオネックス」(日本ゼオン社製)」、「アペル」(三井化学社製)等が挙げられる(いずれも商品名である)。
【0066】
上記熱可塑性樹脂を製膜して、熱可塑性樹脂フィルムを得、これを延伸することにより、本発明に用いる延伸フィルムを得ることができる。
製膜する際には、溶剤キャスト法や溶融押出法など、公知の製膜手法を適宜利用することができる。また、「エスシーナ」、「SCA40」(積水化学工業社製)、「ゼオノアフィルム」(日本ゼオン社製)、「アートンフィルム」(JSR社製)等の市販の熱可塑性樹脂フィルムを利用することもできる。
【0067】
熱可塑性樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂の他に、配合剤を含有していてもよい。配合剤としては、層状結晶化合物;無機微粒子;酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、近赤外線吸収剤等の安定剤;滑剤、可塑剤等の樹脂改質剤;染料や顔料等の着色剤;帯電防止剤等が挙げられる。これらの配合剤は、一種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。配合剤の配合量は本発明の目的を損なわない範囲で適宜決定することができる。
【0068】
熱可塑性樹脂フィルムを延伸する際は、一軸延伸法、二軸延伸法、斜め延伸法等の公知の方法を利用することができる。
【0069】
延伸フィルムは、大気圧プラズマ表面処理、シランカップリング剤処理等の表面処理を施すことが好ましい。これらの表面処理を施した延伸フィルムの表面に、キャスト法によりポリイミド膜を形成することで、延伸フィルムを構成する分子鎖の配列をポリイミド膜により強く反映させることができ、複屈折性により優れるポリイミド膜を形成することができる。
【0070】
延伸フィルムの厚みは、特に限定されないが、好ましくは5〜200μm、より好ましくは20〜100μmである。
延伸フィルムの波長550nmにおける面内のリタデーション(Re)は、特に限定されないが、好ましくは30〜250nm、より好ましくは80〜200nmである。
【0071】
ポリイミド膜を形成することにより得られる積層フィルムから延伸フィルムを剥離除去することなく、積層フィルムをそのまま位相差フィルムとして用いる場合〔後述する位相差フィルム(α)や位相差フィルム(β)〕、用いる延伸フィルムは、透明性に優れるものが好ましい。この場合、延伸フィルムの、波長が400〜800nmの光の光線透過率は、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましい。
一方、延伸フィルムを工程シートとして利用し、延伸フィルムを剥離除去して用いる場合〔例えば、後述する位相差フィルム(γ)〕、用いる延伸フィルムは、透明性に劣るものであってもよい。
【0072】
〔積層フィルム〕
本発明の積層フィルムは、前記ワニスを延伸フィルム上に塗工し、得られた塗膜を乾燥することによりポリイミド膜を形成することにより製造することができる。
【0073】
ワニスを塗工する方法としては、特に制限されず、従来公知の方法を利用することができる。塗工方法としては、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、スリットコート法等が挙げられる。
【0074】
乾燥温度は、通常50〜130℃、好ましくは60〜120℃、より好ましくは70〜110℃であり、乾燥時間は、通常1〜60分、好ましくは1〜50分、より好ましくは1〜40分である。
【0075】
ポリイミド膜の膜厚は、通常1μm以上、好ましくは、1〜100μm、より好ましくは、5〜50μmである。
【0076】
本発明の積層フィルムは、前記ポリイミド膜を有するものであればよく、その他の層は特に限定されない。
本発明の積層フィルムは、そのまま位相差フィルムとして用いることができる。本発明の積層フィルムとしては、延伸フィルムの片側に前記ポリイミド膜を有するフィルム〔位相差フィルム(α)〕、延伸フィルムの両側にそれぞれ前記ポリイミド膜を有するフィルム〔位相差フィルム(β)〕が挙げられる。
【0077】
位相差フィルム(α)としては、例えば、延伸フィルムの片側に、ポリイミド膜を形成して得られた直後の、延伸フィルム/ポリイミド膜、の層構造を有するフィルム等が挙げられる。
位相差フィルム(β)としては、例えば、位相差フィルム(α)の延伸フィルム側に、さらにポリイミド膜を形成して得られる、ポリイミド膜/延伸フィルム/ポリイミド膜、の層構造を有するフィルム等が挙げられる。
【0078】
〔位相差フィルム〕
前記積層フィルムから、延伸フィルムを剥離除去することにより、位相差フィルム〔位相差フィルム(γ)〕を得ることができる。
位相差フィルム(γ)としては、例えば、ポリイミド膜のみからなるフィルムが挙げられる。延伸フィルムの剥離除去は、例えば、位相差フィルム(α)を水中に浸漬させることにより行うことができる。
【0079】
本発明の積層フィルム及び位相差フィルム(以下、「積層フィルム等」ということがある。)は粘着剤層を有するものであってもよい。粘着剤層を有する本発明の積層フィルム等を、他のフィルム等に貼着することで、複屈折性を有する積層フィルム等を効率よく得ることができる。
【0080】
粘着剤層を形成する際は、光学フィルムにおいて通常用いられる粘着剤や接着剤を利用することができる。例えば、ホットメルト型接着剤、熱硬化型接着剤、感圧型接着剤、エネルギー線硬化型接着剤、吸湿型接着剤、乾燥型接着剤、UV硬化型接着剤、重合型接着剤、2液反応型接着剤、嫌気型接着剤等を利用することができる。
粘着剤層を形成する際は、市販の透明粘着シートを用いることもできる。かかる透明粘着シートとしては、例えば、LUCIACS(日東電工社製)等が挙げられる。
【0081】
本発明の積層フィルム等は透明性に優れる。本発明の積層フィルム等の、波長400nmの光の光線透過率は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。
【0082】
本発明の積層フィルム等を構成するポリイミド膜は、高い複屈折性を有する。ポリイミド膜の、波長が400〜800nmにおける複屈折率は、通常、0.02以上、好ましくは0.03以上である。複屈折率の上限値は特にないが、通常は、0.06以下である。
【0083】
本発明の積層フィルム等を構成するポリイミド膜は、機械特性に優れる。膜厚10μm、幅10mmのポリイミド膜を用いて、100mm/分の速度で引張試験を行ったときに、破断強度は、60MPa以上が好ましく、80MPa以上がより好ましく、上限は特に限定されないが、200MPa程度である。また、破断伸びは、5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、上限は特に限定されないが、50%程度である。
【0084】
〔積層フィルムの製造方法〕
本発明の積層フィルムの製造方法は、本発明のポリイミドを含有するワニスを延伸フィルム上に塗工し、得られた塗膜を乾燥する工程を有する。
本発明の方法に用いる、ポリイミド、ワニス、延伸フィルムとしては、前記と同様のものが挙げられる。また、ワニスの塗工方法や得られた塗膜の乾燥方法としては、前記方法を利用することができる。
【0085】
本発明の方法によれば、キャスト法により効率よく積層フィルムを製造することができる。特に、複屈折性を強く発現させることができることから、延伸フィルムとしてシクロオレフィンポリマーフィルムを用いるのが好ましく、大気圧プラズマ表面処理及びシランカップリング剤処理を施したシクロオレフィンポリマーフィルムを用いるのがより好ましい。
【実施例】
【0086】
以下、実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。また、下記の実施例および比較例において、「部」および「%」は特に断りのない限り、重量基準である。
【0087】
実施例において用いた材料は以下の通りである。
シクロオレフィンフィルム(1):シクロオレフィン系延伸フィルム(日本ゼオン社製、製品名:ゼオノアZM−16)に対して、大気圧プラズマ表面処理とシランカップリング剤(チッソ社製、商品名:サイラエースS330)処理を施して得られたフィルム
シクロオレフィンフィルム(2):シクロオレフィン系未延伸フィルム(日本ゼオン社製、製品名:ゼオノアZF−16)に対して、大気圧プラズマ表面処理とシランカップリング剤(チッソ社製、商品名:サイラエースS330)処理を施して得られたフィルム
【0088】
〔実施例1〕
4,4’−ジアミノベンズアニリド(DABA)3.409g(0.015モル)、9,9’−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン(BAFL)5.226g(0.015モル)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)107.6gを混合し、25℃で20分攪拌した。次いで、得られた溶液を氷冷し、この溶液にビス(オクタヒドロ−1,3−ジオキソ−5−イソベンゾフランカルボン酸)4,4’−スルホニルジアニリド(PSHT)18.259g(0.03モル)を加え、氷冷下で2時間、次いで25℃で20時間攪拌してポリイミド前駆体ワニスを得た。
得られたポリイミド前駆体ワニスに無水酢酸12.25g(0.12モル)、ピリジン11.87g(0.15モル)を加え、25℃で1時間、80℃で1時間、110℃で4時間攪拌して化学イミド化反応を行った。この際、反応液はゲル化しなかった。反応後、樹脂濃度が7%になるように反応液にDMAcを加えて希釈し、得られた希釈液をメタノール8L中に滴下することにより、ポリイミドを析出させ、これをろ過により回収した。
ポリイミドをメタノールで2度洗浄した後、130℃で6時間、真空乾燥した(収量:25.12g、収率97.1%)。
得られたポリイミドの25℃のシクロペンタノンに対する溶解性を調べたところ、その飽和溶液の濃度は20%以上であった。
【0089】
ポリイミドをシクロペンタノンに溶かし、濃度20%のワニスを得た。次いで、このワニスを、ドクターブレードを用いて、乾燥後の膜厚が10μmになるようにシクロオレフィンフィルム(1)上に塗工し、得られた塗膜を、窒素気流式イナートオーブンを用いて、80℃で30分、150℃で60分、加熱乾燥し、シクロオレフィンフィルム(1)とポリイミド膜とからなる積層フィルムを得た。
得られた積層フィルムを切断して膜断面を露出させた後、水中に24時間浸漬させることにより、ポリイミド膜をシクロオレフィンフィルム(1)から剥離し、剥離したポリイミド膜を130℃で3時間真空乾燥した。
【0090】
〔実施例2〕
実施例1において、DABAの使用量を2.045g(0.009モル)、BAFLの使用量を7.316g(0.021モル)に変更したことを除き、実施例1と同様にしてポリイミド膜を得た。
【0091】
〔実施例3〕
実施例1において、DABAの使用量を4.772g(0.021モル)、BAFLの使用量を3.136g(0.009モル)に変更したことを除き、実施例1と同様にしてポリイミド膜を得た。
【0092】
〔実施例4〕
実施例1において、PSHTをビス(オクタヒドロ−1,3−ジオキソ−5−イソベンゾフランカルボン酸)1,4−フェニレンジアミド(PPHT)に変更したことを除き、実施例1と同様にしてポリイミド膜を得た。
【0093】
〔比較例1〕
実施例1において、シクロオレフィンフィルム(1)をシクロオレフィンフィルム(2)に変更したことを除き、実施例1と同様にしてポリイミド膜を得た。
【0094】
〔比較例2〕
実施例1において、ジアミンとして、DABA6.818g(0.03モル)のみを使用したことを除き、実施例1と同様にしてポリイミドを合成した。得られたポリイミドは、25℃のシクロペンタノンに難溶であり(飽和溶液の濃度が5%以下)、ポリイミド膜を得ることができなかった。
【0095】
〔比較例3〕
実施例1において、ジアミンとして、BAFL10.453g(0.03モル)のみを使用したことを除き、実施例1と同様にしてポリイミド膜を得た。
【0096】
〔比較例4〕
実施例1において、テトラカルボン酸二無水物として、3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(S−BPDA)を8.826g(0.03モル)、ジアミンとして、BAFL10.453g(0.03モル)を使用したことを除き、実施例1と同様にしてポリイミドを合成した。得られたポリイミドは、25℃のシクロペンタノンに難溶であり(飽和溶液の濃度が5%以下)であり、ポリイミド膜を得ることができなかった。
【0097】
実施例1〜4及び比較例1〜4で得たポリイミド及びポリイミド膜について以下の測定を行い、物性を評価した。結果を第1表に示す。
【0098】
〔溶解性〕
ポリイミドを25℃のシクロペンタノンに溶解させ、以下の基準で溶解性を評価した。
○:濃度が20%を超える溶液が得られる。
△:濃度が5%を超え、20%以下の溶液が得られる。
×:濃度が5%を超える溶液が得られない。
【0099】
〔位相差測定〕
分光エリスロメーター(J.A.WOOLLAM JAPAN社製、製品名:M−2000を用いて、ポリイミドフィルム(厚膜約10μm)の、フィルムの面方向(x軸、y軸)、フィルムの垂直方向(z軸)の屈折率を測定し、位相差(Rth)を算出した。
【0100】
〔光線透過率の測定〕
紫外可視近赤外分光光度計(日本分光社製、製品名:V−570)を用いて、ポリイミド膜(膜厚10μm)の波長400nmの光線透過率を測定し、光線透過率が90%以上である場合を○とした。
【0101】
〔熱膨張率の測定〕
熱機械分析装置(SII社製、製品名:TMASS7100)を用いて、窒素雰囲気下、温度範囲:室温〜300℃、昇温速度:5℃/分、2サイクルの条件でポリイミドフィルムの熱膨張率(ppm/℃)を測定し、2サイクル目の測定値を採用した。
【0102】
〔膜破断強度、破断伸び〕
精密万能試験機(島津製作所社製、製品名:オートグラフAG)を用いて、膜厚10μm、幅10mmのポリイミドフィルムを用いて、100mm/分の速度で引張り試験を行い、破断強度(MPa)、破断伸び(%)を測定した。
【0103】
【表1】
【0104】
第1表から以下のことが分かる。
実施例1〜4で得られたポリイミドは、シクロペンタノンに対して高い溶解性を示し、キャスト法用のワニスを調製することができる。
一方、ジアミンとしてDABAのみを用いた比較例2のポリイミド、テトラカルボン酸二無水物としてS−BPDAを用いた比較例4のポリイミドは、いずれもシクロペンタノンに対する溶解性に劣る。
比較例1では、基材として未延伸フィルムを用いたため、複屈折性が十分には発現していない。
比較例3では、ジアミンとしてDABAを用いていないため、複屈折性がほとんど発現していない。