(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
コークス炉の製造の流れとしては、貯炭場に貯蔵された石炭を配合設備で適宜配合し、
分級や粉砕をして粉炭とした後、それらをベルトコンベアーで運び、ベルトコンベアーから下部にある石炭塔に投入する。石炭塔は隣接して複数並んでおり、ベルトコンベアーを移動させることで各石炭塔に投入される。
図4にも示すように、成型炭をコークス製造用の原料として製造する場合は、粉炭の一部を取り出し、混練機にコールタール等のバインダーを添加して混練し、成型機で成型炭としたのち、この成型炭と残りの粉炭とを共にベルトコンベアーで運搬して、ベルトコンベアーから下部にある石炭塔に投入する。
【0009】
そして、
図5に示すように、石炭塔の内部にある石炭を石炭塔の下に配置された装入車に投入して、装入車から複数の炭化室を有するコークス炉の各炭化室に原料炭が一度に導入される。通常、各炭化室の上部には装入車からの石炭装入口が複数箇所設けられており、装入車にもその石炭装入口の位置に対応する箇所に石炭塔からの受け入れ口がある。炭化室で乾留され生成されたコークスは押出機(図示せず)で押し出され、消火塔で消火された後、コークワーフ(図示せず)に落とされて製品コークスとなる。
【0010】
ベルトコンベアーから石炭塔に原料炭(成型炭、粉炭の混合物)が投入されると、原料炭は
図5に示すように石炭塔内部で山積みとなる。
石炭塔内部の原料炭の山に成型炭が上から投入されると、成型炭の形状によっては、成型炭の偏析(成型炭と粉炭との配合割合が石炭塔の内部で不均一となる現象)や割れが生じる。その結果、コークス炉の炭化室内で成型炭と粉炭が均質に混合されず、炭化室から抜き出される製品コークスの品質(目的とする強度)にバラつきが発生する問題があった。
【0011】
特に、上記特許文献3に記載された成型炭の形状(マセック型、タマゴ型)であると、原料炭の山の斜面を転がりやすく、成型炭が偏析するという問題が判った。また、板状の成型炭(横溝状や波板状等の板状)では、粉炭とともにコークス炉に装入した際に目標とする嵩密度とならず、ひいてはコークスの生産性を満足させることができないという問題が生じる場合がある。
【0012】
そこで、本発明は、原料炭として粉炭と成型炭を用いたコークス製造時に、石炭塔内部での成型炭の偏析を抑制することができるコークス製造用成型炭及びその成型炭を使用したコークスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、成型炭を特定の形状とすることにより、偏析の主要因である転がりを抑制できる機能を持つことを見出した。その結果、成型炭と粉炭とを混合した原料炭を用いてコークスを製造した場合に、コークス炉内でより均質に成型炭が混合されることにより、得られるコークスの品質を向上させ得ることを見出した。
【0014】
即ち、本発明の要旨は以下の[1]〜[8]にある。
[1] 粉炭を含有する原料炭を成型して得られるコークス製造用成型炭であって、以下で規定する回転係数が2.0〜3.0の範囲内となる形状を有することを特徴とするコークス製造用成型炭。
(1)成型炭の重心を通り、成型炭の最長辺と平行な直線を基準軸として互いに直交する3軸を設定する
(2)設定した3軸の各軸回りで1回転する際の慣性モーメントをそれぞれ算出する
(3)3軸回りの慣性モーメントのうち、最大値と最小値との比を算出し、回転係数とする
【0015】
[2] 粉炭を含有する原料炭を成型して得られるコークス製造用成型炭であって、重量
が30〜75gであり、以下の方法で測定した3軸回りの慣性モーメントのうち最小値が5.0kg・mm
2以上である形状を有することを特徴とするコークス製造用成型炭。
(1)成型炭の重心を通り、成型炭の最長辺と平行な直線を基準軸として互いに直交する3軸を設定する
(2)設定した3軸の各軸回りで1回転する際の慣性モーメントをそれぞれ算出する
【0016】
[3] [1]又は[2]に記載の成型炭を50重量%以上含有するコークス製造用成型炭。
[4] 前記成型炭のアスペクト比が1.1〜3.5である[1]〜[3]のいずれか1項に記載のコークス製造用成型炭。
[5] 前記成型炭の最大長が100mm以下である[1]〜[4]のいずれか1項に記載のコークス製造用成型炭。
[6] 前記成型炭中の水分量が0.1〜15重量%である[1]〜[5]のいずれか1項に記載のコークス製造用成型炭。
[7] 粉炭と成型炭とを含有するコークス用原料炭であって、全原料炭中に[1]〜[6]のいずれか1項に記載の成型炭を5〜50重量%含有するコークス用原料炭。
[8] [7]に記載のコークス用原料炭をコークス炉に装入し、乾留してコークスを製造するコークスの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、原料炭として粉炭と成型炭を用いたコークス製造時に、石炭塔内部での成型炭の偏析を抑制することができる。そして、そのコークス製造用成型炭を用いることにより、コークス炉内でより均質に成型炭を混合させることができ、得られるコークスの品質を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明において「成型原料炭」とは、成型炭の原料として用いる原料炭を意味する。また、「コークス原料炭」とは、コークスの原料として用いる原料炭を意味し、成型炭以外の原料炭のみを意味する場合と、成型炭以外の原料炭及び成型炭の混合原料を意味する場合がある。なお、単に「原料炭」という場合は、成型原料炭、コークス原料炭の何れか又は双方の意味を包含する。
【0020】
本発明は、粉炭を含有する原料炭を成型して得られるコークス製造用の成型炭についての発明である(以下、「コークス製造用の成型炭」を単に「成型炭」という場合がある)。より詳細には、成型原料炭として、粘結炭及び非微粘結炭を混合して得られる配合炭を用い、これにバインダーを添加して混練し、成型して得られる成型炭についての発明である。
本発明の成型炭は、後述する通り、その形状等に特徴を有する。ここで、本発明が対象とする成型炭は、例えば型崩れする等によって偶発的に製造されたものを対象とするものではなく、金型等を用いて意図的に成形されたものを対象とする。また、そのように製造されたものであれば、複数の成型炭の集合体のみならず、1個の成型炭についても対象と
するものである。更には、本発明の特徴をもつ特定の成型炭を成型するための金型についても、本発明の対象とするものである。
【0021】
本発明において複数の成型炭の集合体を対象とする場合、当該集合体中に本発明の成型炭が1個でも含まれれば対象となるが、好ましくは本発明の成型炭を50重量%以上、より好ましくは60重量%以上、更に好ましくは70重量%以上、特に好ましくは80重量%以上含有する成型炭の集合体であることが望ましい。全成型炭中に本発明の成型炭が所定割合以上含有されることにより、石炭塔内部での偏析を抑制する効果が向上する傾向にある。なお、全成型炭中に含まれる本発明の成型炭の含有割合の上限は限定されず、通常100重量%である。
【0022】
[成型炭の原料]
本発明の成型炭は、その原料(以下、「成型炭原料」という場合がある。)として成型原料炭を必須とし、バインダーや粘結材、その他成分を任意に用いることができる。
【0023】
[成型原料炭]
本発明のコークス製造用成型炭の前記成型原料炭は限定されないが、主成分(主原料)は粉炭であり、通常、粘結炭と非微粘結炭を含む配合炭である。
前記粉炭とは粉状の石炭を意味し、通常、粒径が3mm以下の石炭粒子を70〜90重量%程度の範囲で含有する、粉砕された石炭を意味する。
前記粘結炭とは、加熱したときに軟化溶融する性質(粘結性)をもつ石炭をいう。コークスは、製鉄時における高炉内の充填層の圧力に耐えて高い空隙率を保つのに十分な強度が必要であるとともに、微粉の発生を抑制しうる高い耐摩耗性が必要であるが、この特性を付与するためにコークス原料として粘結炭を用いる必要がある。
【0024】
前記非微粘結炭とは、単独では加熱しても粘結性を示さない、又は示してもその程度はごく僅かである石炭化度の低い石炭をいう。この非微粘結炭は世界的に粘結炭より産出量が多く、粘結炭より安価に入手することができる。
前記非微粘結炭の反射率は特に限定されないが、好ましくは0.80%以下であり、より好ましくは0.50〜0.76%であり、更に好ましくは0.71〜0.75%である。なお、非微粘結炭の反射率とは、ビトリニットの平均最大反射率であり、たとえば、JIS M8816で規定される方法(反射率測定方法)で測定することができる。
【0025】
前記非微粘結炭の最高流動度は特に限定されないが、好ましくは0.90〜2.70であり、より好ましくは1.00〜2.40である。非微粘結炭の最高流動度とは、石炭の流動性を評価する指標の一つであり、これにより石炭のコークス化性を評価することができる。最高流動度はJIS M8801で規定される方法(ギーセラープラストメーター法)で測定することができる。なお、上述の数値範囲は本測定法で得られた数値を常用対数で換算した値(単位:Log ddpm(Log Dial Division Per Minute))である。
【0026】
非微粘結炭の揮発分は特に限定されないが、好ましくは5〜45重量%であり、より好ましくは20〜40重量%であり、特に好ましくは、30〜38重量%である。なお、揮発分とは、試料を900℃で7分間加熱したときの減量の試料に対する重量百分率を求め、これから同時に定量した水分を減じたものであり、たとえばJIS M8812で規定される方法(揮発分定量方法)で測定することができる。
【0027】
前記成型炭原料中の前記粘結炭の配合量(配合割合)は特に限定されないが、10〜40重量%が好ましく、15〜35重量%がより好ましい。また、前記成型炭原料中の前記非微粘結炭の配合量は60〜85重量%が好ましく、65〜80重量%がより好ましい。
成型炭原料中の粘結炭や非微粘結炭の配合割合が上記範囲を外れる場合は、得られるコークスの強度が低下する傾向がある。
【0028】
前記の通り、非微粘結炭は産出量が多く、安価に入手することができるため、コークスの原料として極力多く用いることが望ましいが、一方で非微粘結炭は粘結性に乏しいため、コークス原料中の含有量を増加させるとコークスの強度が低下する傾向がある。
コークス原料として非微粘結炭の使用比率を増大させる手法としては、成型炭の原料として高い含有割合で用いることによって達成することができる。更には、成型炭の原料として粘結材を添加することも効果的である。
【0029】
[粘結材]
粘結材としては、粘結炭と非微粘結炭とを接着できるものであれば特に限定されないが、通常は粉末状固体であり、具体的にはピッチ等が挙げられる。
前記成型炭原料中の前記粘結材の含有量は特に限定されないが、1重量%以上が好ましく、2重量%以上がより好ましい。粘結材の含有量が1重量%未満の場合は、成型炭の強度が低下する傾向がある。一方、粘結剤の含有量は、5重量%以下が好ましく、4重量%以下がより好ましい。粘結材の含有量が多過ぎると、コークスの生産性(歩留まり)が低下する傾向がある。
【0030】
[バインダー]
バインダーとしては、粘結炭と非微粘結炭とを接着できるものであれば特に限定されないが、通常は液状であり、具体的にはコールタールが一般に用いられる。前記成型炭原料中の前記バインダーの含有量は特に限定されないが、3重量%以上が好ましく、4重量%以上がより好ましい。バインダーの含有量が3重量%未満の場合は、成型により得られる成型炭の強度が十分でない場合がある。一方、バインダーの含有量は、8重量%以下が好ましく、7重量%以下がより好ましい。
【0031】
[成型炭]
成型炭とは、成型炭原料を成型して得たものであり、コークス原料炭と混合してコークス炉内へ装入される。コークス原料として成型炭を用いることによりコークスの強度が向上する主な理由は、以下の通りである。成型炭原料を成型することにより、石炭粒子間の間隔が狭くなり粘結性が向上する。また、コークス製造時に成型炭部の膨張性が増大することにより、周囲にある粉炭部の圧密化が促進され、粉炭部の粘結性も向上する。さらに、成型炭を製造する際に添加する粘結材により石炭の軟化溶融性が向上する。
【0032】
成型炭の厚さは特に限定されないが、好ましくは10〜50mmであり、より好ましくは24〜35mmである。成型炭の厚さが大きすぎると、成型加工時に成型機からの剥離性が低下する傾向がある。一方、成型炭の厚さが小さすぎると、生産性が低下する傾向があり、また、成型炭を用いることによるコークス品質の向上効果が低減する傾向がある。なお、成型炭の厚さは、成型炭の本体が球状の場合はその直径、すい状の場合はその底面の直径、柱状の場合はその端面の径を意味する。
【0033】
成型炭のアスペクト比は限定されないが、好ましくは1.1〜3.5であり、より好ましくは1.3〜3.0、更に好ましくは2.0〜2.7である。アスペクト比が大きくなるほど転がりにくくなるが、成型加工が困難となる場合や、成型炭が折れやすくなる場合がある。また、アスペクト比が小さくなるほど転がりやすくなる。本発明においてアスペクト比とは、成型炭の最大長(最大径)と最短径との比(最大長/最短径)を意味し、後述する回転係数と同義ではない。
【0034】
成型炭の最大長は特に限定されないが、100mm以下が好ましく、80mm以下がよ
り好ましい。成型炭の最大長が100mmを超える場合は、成型炭の強度が低下する傾向がある。一方、成型炭の最大長の下限は、前記した成型炭の厚さの下限に相当し、好ましい下限も同様である。
【0035】
成型炭の密度は限定されないが、通常0.90〜1.40g/cm
3、好ましくは1.00〜1.35g/cm
3、より好ましくは1.05〜1.30g/cm
3、更に好ましくは1.10〜1.28g/cm
3である。成型炭の密度が前記下限値未満であると成型炭の強度が不十分となり、割れが発生する場合や、得られるコークスの強度が低下する傾向がある。一方、成型炭の密度が前記上限を超える場合は、装入重量が過大となり、各作業機械が過積載となる場合がある。
【0036】
本発明の第1の発明は、以下で規定する回転係数が2.0〜3.0の範囲内となる形状を有する成型炭である。
(1)成型炭の重心を通り、成型炭の最長辺と平行な直線を基準軸として互いに直交する3軸を設定する
(2)設定した3軸の各軸回りで1回転する際の慣性モーメントをそれぞれ算出する
(3)3軸回りの慣性モーメントのうち、最大値と最小値との比を算出し、回転係数とする
【0037】
以下に、上記回転係数を算出する方法について具体的に説明する。
先ず、3軸の原点となる成型炭の重心を確認する。成型炭の重心位置の確認方法としては、成型炭を吊った際の鉛直線の交点として求めることができる。具体的には、3点を支点として成型炭を吊った際に、吊り合った状態での鉛直線を確認し、これを異なる3か所で確認した後、3本の鉛直線の交点として求めることが出来る。
次いで、重心を通り、成型炭の最大長となる方向の軸(以下、長軸という場合がある)を設定する。
次いで、重心を通り、当該長軸と直交し、その軸回りでの慣性モーメントが最大値となる軸を設定する(以下、第2軸という場合がある)。
次いで、重心を通り、長軸、第2軸の何れとも直交する軸を設定する(以下、第3軸という場合がある)。
【0038】
上記の通り設定した3軸の各軸回りで1回転する際の慣性モーメントをそれぞれ算出する。ここで、慣性モーメントは物体の各点について中心軸からの距離の2乗にその点の微小質量を乗じたものを積分することにより算出することが出来る。
3軸回りの慣性モーメントを算出した後、これらの最大値と最小値との比(最大値/最小値)を算出し、回転係数とする。通常、長軸回りの慣性モーメントが、その成型炭の慣性モーメントの最小値となる場合が多いが、成型炭の形状によっては第3軸回りの慣性モーメントが最小となる場合もある。また通常は第2軸回りの慣性モーメントが最大となるが、長軸回りの慣性モーメントが最大となる場合もある。
【0039】
成型炭の形状が球形である場合は回転係数が1であることからも判る通り、回転係数が小さい形状とは異方性が小さい形状を意味するものである。このような形状であると、粉炭と成型炭が混合された状態でベルトコンベアーから石炭塔へ投入されても、原料炭の山の斜面を成型炭が転がることとなり、山の周辺部に成型炭が集積することとなる。従来から用いられてきたマセック型の成型炭の場合は、回転係数が約1.6程度であるため、このような問題を生じることとなるが、回転係数が2.0以上となる形状とすることにより、成型炭の転がりを抑制することが出来る。
【0040】
一方、回転係数の数値が高い形状とは、通常、アスペクト比の大きな形状に相当する場合が多い。通常、回転係数が大きくなると転がりは抑制される傾向にあるが、一定の上限
を超えると、3軸のうち慣性モーメントが最小となる軸回りの回転によって転がることを抑制出来なくなる。更には、このような形状の場合は、成型炭自体が脆くなるため、その製造過程で型崩れを生じる場合や、ベルトコンベアーから石炭塔へ投入した時点で割れ等が生じることとなる。回転係数を3.0以下とすることにより、割れ等の破損を生じずに、しかも転がりを抑制することが出来る。
【0041】
第1の発明の成型炭は、上記と同様の理由により、回転係数が好ましくは2.2以上、より好ましくは2.4以上であり、一方、好ましくは2.9以下、より好ましくは2.8以下であることが望ましい。
【0042】
なお、本発明においては、成型炭の重心、各回転軸(長軸、第2軸、第3軸)、慣性モーメント及び回転係数は、市販の解析ソフト(例えば、シーメンスPLMソフトウェア社製、NX−IDEAS等)を用いて解析、算出してもよい。
成型炭は、表面と内部との間に密度の差が生じるなど、密度が均一でない場合があるが、本発明において慣性モーメントを算出する際には、密度が均一であるものとして扱う。成型炭の密度が均一でないために、重心位置が実測と異なる場合は、均一なものとして解析ソフトで算出する。
【0043】
本発明の第2の発明は、重量が30〜75gであり、以下の方法で測定した3軸回りの慣性モーメントのうち最小値が5.0kg・mm
2以上である形状を有する成型炭である。
(1)成型炭の重心を通り、成型炭の最長辺と平行な直線を基準軸として互いに直交する3軸を設定する
(2)設定した3軸の各軸回りで1回転する際の慣性モーメントをそれぞれ算出する
ここで、成型炭の重心の確認方法、3軸の設定方法、および各軸回りでの慣性モーメントの算出方法については、上述の第1の発明と同様である。
【0044】
成型炭の3軸回りの慣性モーメントのうち最小値が小さい場合は、その軸回りの回転によって転がることを抑制出来なくなる。従来から用いられてきたマセック型の成型炭の場合は、3軸回りの慣性モーメントのうち最小値が4.3kg・mm
2程度であるため、このような問題を生じることとなるが、最小値が5.0kg・mm
2以上となるように設計することにより、成型炭の転がりを抑制することが出来る。
【0045】
ここで、単に成型炭のサイズを大きくするだけでも、慣性モーメントの値を大きくすることは可能である。しかしながら、成型炭を一定以上に大きくすると、製造過程で十分に押し固めることが出来ずに型崩れを生じる場合や、ベルトコンベアーから石炭塔へ搬送する過程で割れ等が生じることとなる。更には、一定以上に大きな成型炭を用いてコークスを製造した場合、成型炭の個数が少なくなることによってまばらさが増大し、乾留過程で成型炭が周囲の粉炭を圧縮する効果が薄れる等の問題を生じることとなる。このため、第2の発明において成型炭の重量は30〜75gの範囲とする必要がある。
【0046】
第2の発明の成型炭は、上記と同様の理由により、3軸回りの慣性モーメントのうち最
小値が好ましくは6.0kg・mm
2以上、より好ましくは10.0kg・mm
2以上、
更に好ましくは13.0kg・mm
2以上であることが望ましい。また、3軸回りの慣性
モーメントのうち最小値の上限は限定されないが、通常30.0kg・mm
2以下、好ま
しくは25.0kg・mm
2以下、より好ましくは20.0kg・mm
2以下である。
第2の発明の成型炭は、上記と同様の理由により、重量が好ましくは40g以上、より
好ましくは45g以上であり、更に好ましくは50g以上であり、一方、好ましくは61
g以下、より好ましくは55g以下であることが望ましい。
【0047】
なお、本発明においては、上記の第1の発明の構成及び第2の発明の構成の要素を組み合わせて最適化することもできる。
【0048】
[成型炭の形状]
本発明の成型炭は上記の規定を満たすものであれば、その形状は限定されるものではないが、具体的には、例えば、突起型、枕型、リボン型等の形状が例示される。なお、成型炭の形状が同様であっても、その大きさによって慣性モーメントは異なるが、形状を最適化することは本発明における慣性モーメントや回転係数を最適化する上での重要な達成手段となり得る。以下に、これらの形状の場合について、より詳細に説明する。
【0049】
[突起型]
図1に突起型形状の成型炭の例を示す。突起型形状の成型炭とは、成型炭の本体に少なくとも1つの突出部が形成されていることを特徴とする。この突出部は、石炭塔内部でのコークス原料炭の山の斜面を転がり始めても、この突出部により偏析の主要因である転がりを抑制できる機能を持つ。
前記した慣性モーメントによる効果に加え、成型炭に突出部を設けることによりコークス原料炭の偏析を抑制できる要因としては、以下の機構が考えられる。その1つは、成型炭がコークス原料炭の斜面を転がり始めても、成型炭の突出部がコークス原料炭中に突き刺さることによって転がりが止まる機構である。他の1つは、成型炭に突出部を設けることにより、その重心が回転中心から外れるため、回転を繰り返すためのエネルギーが増大することによって転がりを止める機構である。
本発明の成型炭の形状を後述する通り更に最適化することにより、上記の機構による効果を一層向上させることが出来る。
【0050】
前記成型炭本体の大きさは特に限定されないが、通常、突出部の体積よりも大きい。本体形状は特に限定されないが、例えばマセック型、タマゴ型、俵型、立方体、球体、直方体、円柱、円錐などが挙げられる。好ましくは、成型加工のしやすさから、立方体、直方体、マセック型である。換言すれば、上記のような形状を有し、成型炭の50体積%以上を占める部分を本体とみなすことができる。
【0051】
前記突出部は、上記成型炭本体に少なくとも1つ形成されている。突出部の形状は特に限定されないが、円柱状等の柱状、球状、錐状などが挙げられる。生産性、突出部の強度、石炭塔内のコークス原料炭の山での転がり抑制の観点から、錐状、円柱状等の柱状が好ましく、成型加工のしやすさや成型炭の転がりにくさの観点から、柱状、特に円柱状がより好ましい。
【0052】
突出部の形成される箇所は限定されないが、成型炭の本体形状が錐状の場合は底面部に突出部が設けられるのが好ましく、成型炭の本体形状が柱状の場合はその端面部に突出部が設けられるのが好ましい。特に、突出部が本体側面の延長線上に突出して形成されることが好ましい。ここで側面とは通常、成型炭の長径方向である。このような配置とすることにより、成型炭のアスペクト比、特に本体が錐状又は柱状の場合は、アスペクト比が大きくなるので、より転がりにくくなる傾向がある。
【0053】
また、突出部の長さは、本体の同じ方向の長さに対して1/4以上が好ましく、1/3以上がより好ましい。一方、本体の同じ方向の長さに対する突出部の長さの上限は3/4が好ましく、2/3がより好ましい。突出部が長くなるほど転がりにくくなるが、突出部が折れやすくなるおそれがある。一方、突出部が短くなるほど、突出部は折れにくくなるが、転がりやすくなる。
【0054】
突起型形状の成型炭の例としては、
図1に示すようなカギ型形状の成型炭が挙げられる
が、更には、このカギ型形状の成型炭を2つ以上組み合わせた形状の成型炭(つまり、柱状の突出部が2つ以上ある形状の成型炭)などであってもよい。
【0055】
本発明の成型炭は、成型炭本体と突出部とが接する部分が鋭角であるよりも、鈍角、すなわち90度以下であることが好ましい。成型炭本体と突出部とが接する部分が鋭角であると、成型炭本体と突出部との境界で割れが発生する傾向がある。当該接する部分の角度の上限は限定されないが、135度以下が好ましく、120度以下がより好ましい。当該接する部分の角度が大きすぎると、突出部がコークス原料炭中に突き刺さる効果が低減する傾向にある。
【0056】
本発明の成型炭は、
図1(a)に例示するように成型炭本体と突出部とが接する部分が直線的に(曲面を持たずに)接合された形状であってもよいが、
図1(b)に例示するようになだらかに接合されていることが好ましい。具体的には、曲率半径が好ましくは1mm以上、より好ましくは2mm以上、更に好ましくは5mm以上の曲面で接合されていることが好ましい。なお、このような接合形状は、成型炭本体と突出部とが接する接合部の全周にわたって形成されている必要は無く、好ましくは接合部の30%以上、より好ましくは接合部の50%以上、更に好ましくは接合部の70%以上である。成型炭本体と突出部とが接する部分が上記のようになだらかに接合されていることにより、成型炭本体と突出部との境界で割れが発生することが抑制される傾向がある。更には、加圧成型によって成型炭を製造する際に、圧力が部分的にかかることが抑制され、その結果、成型炭の本体部分と突出部との境界部の物理的強度が良好となる傾向にある。
【0057】
[枕型]
図2に枕型形状の成型炭の例を示す。枕型の成型炭とは、最大断面形状が略長方形であり、これと直交する断面形状が略楕円形であることを特徴とする。断面形状は正確な長方形である必要は無く、略平行に対向する2組の2辺によって、4辺で構成されていればよい。これと直交する楕円形については、真円に近い形状から長径/短径の比が大きな形状までを含み、更に、長方形の角部を曲線化した形状(楕円を構成する長径及び又は短径と接する位置が所定の長さの直線で構成される形状)をも含み得る。
更に
図2に例示した様に、左右対称とせずに重心をずらした形状(水滴型)としてもよい。このように重心をずらすことにより、回転を繰り返す際の重心の上下動が生じることとなるため、回転を抑制する点で好ましい。このような水滴型の形状は、最大断面に直交する面として、最大断面の長径方向の断面(
図2(a))であっても、短径方向の断面(
図2(b))であってもよい。
【0058】
枕型形状の成型炭を構成する最大断面の長径/短径比は限定されないが、通常、長径に対する短径の比率が50〜80%、好ましくは60〜70%である。
枕型形状の成型炭を構成する最大断面積と、これと直交する断面の最大面積との比は限定されないが、通常、最大断面積に対する直交最大断面積との比率が50〜80%、好ましくは60〜70%である。
【0059】
[リボン型]
図3にリボン型形状の成型炭の例を示す。リボン型の成型炭とは、最大断面形状が、略長方形を構成する対向2辺が切り欠かれた形状、換言すれば、2箇所の鈍角のくびれ部を持つ六角形であることを特徴とする。この様な形状とすることにより、中央部が絞られているため、慣性モーメントが大きく取れる傾向があり、回転を抑制する点で好ましい。
リボン型形状の成型炭を構成する、最大断面と直交する面の形状については、前記の枕型と同様の形状を適用することが出来る。また、当該くびれ部を境界として左右対称であってもよいし、非対象であってもよい。リボン型の成型炭において非対称の形状とすることにより、更に回転を抑制することが出来る場合がある。
【0060】
リボン型形状の成型炭を構成する最大断面の長径/短径比は限定されないが、通常、長径に対する短径の比率が50〜80%、好ましくは60〜70%である。ここで、短径とは、前記のくびれ部を意味する。
リボン型形状の成型炭を構成する最大断面積と、これと直交する断面の最大面積との比は限定されないが、通常、最大断面積に対する直交最大断面積との比率が50〜80%、好ましくは60〜70%である。
【0061】
[成型炭の製造方法]
本発明の成型炭を製造する方法は限定されないが、まず、成型原料炭として、前記の粘結炭と非微粘結炭とを混練機で混合、混練する。この際、バインダーを加えることにより、成型炭原料が調整される。得られた成型炭原料を成型機で成型することにより、成型炭が得られる。なお、前記の粘結材は粘結炭と非微粘結炭とともにあらかじめ混合しておき、バインダーはその混合物に添加して使用されることが好ましい。
【0062】
上記の成型炭の成型方法は特に限定されないが、本発明の成型炭の形状が形成された金型や木枠、又は加圧成型機が用いられる。加圧成型機を使用すると、連続的に大量生産出来るだけでなく、大量の成型炭を一度にムラ無く圧密することができ、粒子の接着性を向上させることができる。
加圧成型機の方式や機構は限定されないが、成型炭の形状が形成された凹部を有する1対のローラー型の金型を使用し、該ローラーが回転する際に成型炭原料が凹部に充填されて圧縮される機構であることが好ましい。このような加圧成型機による加圧圧力(線圧)は特に限定されないが、0.8〜2.0t/cmが好ましく、1.0t/cm〜1.2t/cmがより好ましい。加圧が上記範囲より小さいと、十分な強度を有する成型炭が得られない場合がある。
【0063】
成型する際の成型炭に含まれる水分量は特に限定されないが、0.1重量%以上が好ましく、より好ましくは1重量%以上であり、更に好ましくは2重量%以上である。一方、水分量の上限は特に限定されないが、15重量%が好ましく、より好ましくは13重量%であり、更に好ましくは12重量%である。この範囲を外れると成型炭としての強度が発現しにくくなるおそれがある。
【0064】
[コークス用原料炭及びコークスの製造方法]
次に、
図4を用いて、成型炭装入法を用いたコークスの製造法について具体例を説明する。
まず、粉砕された原料炭(粘結炭及び非微粘結炭)の一部を成型原料炭として取り分け、成型炭の強度を向上させるためのバインダー及び必要により粘結材等を添加し、混練機にて、通常40〜80℃の温度で十分な混合を行う。混合する時間は特に限定されないが、通常は数分間程度である。
【0065】
得られた成型炭原料は、加圧成型機等の成型機を用いて成型され、成型炭が製造される。製造された成型炭は、所定の割合で、残りのコークス原料炭(粘結炭及び非微粘結炭)の粉炭と混合され、コークス用原料炭としてコークス炉へ装入される。
【0066】
この混合比は、前記成型炭は10重量%以上が好ましく、15重量%以上がより好ましい。そして、前記粉炭は90重量%以下が好ましく、85重量%以下がより好ましい。成型炭が10重量%より少ない(粉炭が90重量%より多い)と、成型炭を石炭塔に導入する際に、石炭塔内で成型炭の存在割合に偏りが出る恐れがある。一方、前記成型炭は40重量%以下がよく、30重量%以下が好ましい。そして前記粉炭は60重量%以上がよく、70重量%以上が好ましい。成型炭が40重量%より多い(粉炭が60重量%より少な
い)と、コークス強度が低下する傾向がある。
【0067】
本発明のコークス用原料炭は、当該原料炭中に本発明の成型炭が1個でも含まれれば対象となるが、好ましくはコークス用原料炭(粉炭を含む)中に本発明の成型炭を5重量%以上、より好ましくは10重量%以上、更に好ましくは15重量%以上含有することが望ましい。コークス用原料炭中に本発明の成型炭が所定割合以上含有されることにより、石炭塔内部での偏析を抑制する効果が向上する傾向にある。なお、コークス用原料炭中に含まれる本発明の成型炭の含有割合の上限は40重量%以下が好ましく、30重量%以下がより好ましい。
【0068】
成型炭は成型されてからコークス炉へ搬送されるまでの間に一度石炭塔などの貯槽に貯蔵されるため、大量の成型炭が貯蔵されると、成型炭はその重さ分だけの荷重を受ける。また、成型炭のコークス炉への搬送は、通常、ベルトコンベアーで搬送されるが、ベルトコンベアーのベルトの乗り継ぎでの衝撃もある。このような衝撃や荷重などを受けるため、成型炭の強度が低いと粉化の度合いが大きくなり、結果としてコークス強度の向上効果が低下する。
【0069】
本発明の手法により製造される成型炭は、従来の手法により製造される成型炭と同等の強度を有しており、更には、成型炭の形状を最適化したり、成型炭の製造方法を最適化することにより、より強度の高いコークスを製造することができる。
【0070】
前記の方法により製造された成型炭は、コークス原料炭(粘結炭及び非微粘結炭)の粉炭と共にコークス炉に装入され、乾留されることにより、コークスが得られる。この乾留時の条件としては公知の条件が適宜採用され、通常、温度1100〜1300℃で18〜20時間乾留を行う。
【実施例】
【0071】
本発明の実施例について以下に示す。なお、以下の実施例は本発明の効果を確認するための例であり、本発明はこの例に限定されるものではない。本発明は本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0072】
<偏析評価試験>
偏析評価試験は以下のような手順で実施した。
(1) 成型炭の含有割合が20重量%となるように成型炭と粉炭とを混合し、原料炭を調製する。調整した原料炭を、平地上に高さ=4700mmから600kg落下させることにより、高さが約750mm、底面の直径が約2000mmの原料炭の山を形成する。(2)形成された原料炭の山について、
図6のようにサンプリングエリアを区分けし、各エリアにある成型炭の重量をそれぞれ秤量し、成型炭の分配割合を算出する。
(3)
図6に示す(5)のエリア(山の周辺部)にある成型炭の重量割合を「偏析係数」とし、この偏析係数が小さいものを偏析が良好であると評価した。
【0073】
<成型炭の形状>
成型炭の形状は、表−1に示す通りの5種類(突起型−1、突起型−2、枕型、リボン型、マセック型(比較例))とした。各成型炭の形状の概略は、それぞれ、
図1(a)、
図1(b)、
図2(b)、
図3及び
図7に対応する。これらの各成型炭の形状について、前述の方法に基づき、慣性モーメント及び回転係数を算出した結果を表−1に示す。
【0074】
[実施例1〜4、比較例1]
成型炭原料として、粒径3mm以下を80重量%以上含む石炭(非微粘結炭70重量%と粘結炭30重量%とを配合した配合炭であり、配合炭中に水分を9重量%含む)にバイ
ンダーとしてコールタール(石炭に対して5重量%)を添加した。これを40〜60℃に加温しながら5〜10分間混練した後、表−1に示す形状の成型炭に対応する型を有するローラー型の加圧成型機に充填して線圧1.0t/cmで成型炭を作成した。成型品は、加圧成型機の型から外れたものが自然落下することで回収貯蔵した。
【0075】
各成型炭について、重量(型崩れ等の無いもの3個の平均値)、密度及び水分量を測定した結果を表−1に示す。更に、各成型炭について、前記の偏析評価試験を行った結果を表−2に示す。
表−2から明らかな通り、回転係数が2.0未満である比較例1(マセック型)と比較し、回転係数が規定値内である実施例1〜4の成型炭は偏析が少ないことが判った。また、3軸回りの慣性モーメントのうち最小値が5.0kg・mm
2未満である比較例1(マセック型)と比較し、当該最小値及び成型炭重量が規定値内である実施例1〜4の成型炭は偏析が少ないことが判った。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】