特許第6394307号(P6394307)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6394307
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】複フッ化物蛍光体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/08 20060101AFI20180913BHJP
   C09K 11/61 20060101ALI20180913BHJP
   C09K 11/67 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   C09K11/08 A
   C09K11/61
   C09K11/67
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-231476(P2014-231476)
(22)【出願日】2014年11月14日
(65)【公開番号】特開2015-163675(P2015-163675A)
(43)【公開日】2015年9月10日
【審査請求日】2016年12月21日
(31)【優先権主張番号】特願2014-15729(P2014-15729)
(32)【優先日】2014年1月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079304
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100114513
【弁理士】
【氏名又は名称】重松 沙織
(74)【代理人】
【識別番号】100120721
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 克成
(74)【代理人】
【識別番号】100124590
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100157831
【弁理士】
【氏名又は名称】正木 克彦
(72)【発明者】
【氏名】金吉 正実
(72)【発明者】
【氏名】石井 政利
【審査官】 磯貝 香苗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−014715(JP,A)
【文献】 特開2011−012091(JP,A)
【文献】 特開2012−224536(JP,A)
【文献】 特開2010−209311(JP,A)
【文献】 特開2010−254933(JP,A)
【文献】 特開2013−60506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00−11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)
2MF6:Mn (I)
(式中、AはLi、Na、K、Rb及びCsから選ばれ、かつ少なくともNa及び/又はKを含む1種又は2種以上のアルカリ金属であり、MはSi、Ti、Zr、Hf、Ge及びSnから選ばれる1種又は2種以上の4価元素である。)
で示される化学組成を有する複フッ化物蛍光体の製造方法であって、Mを含む第1のフッ化水素酸溶液と、Aを含む第2のフッ化水素酸溶液を準備すると共に、Mnを含む化合物を上記第1のフッ化水素酸溶液と第2のフッ化水素酸溶液とのいずれか一方に溶解するか又は別途Mnを含む化合物を溶解させた溶液を調製し、上記溶液を混合して上記式(I)の蛍光体を沈殿させるに際し、上記溶液が全て混合した状態でのMの濃度が0.1モル/リットル以上0.4モル/リットル以下となるように混合することを特徴とする複フッ化物蛍光体の製造方法。
【請求項2】
Mnを含む化合物がMを含む第1のフッ化水素酸溶液に溶解され、この第1の溶液にAを含む第2のフッ化水素酸溶液を添加するようにした請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
溶液が全て混合した状態でのAの量が、MとMnの和に対して、モル比で2.5倍以上である、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
溶液が全て混合した状態でのフッ化水素の割合が、全体の20質量%以上60質量%以下である、請求項1〜3のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項5】
式(I)で示される蛍光体が、130℃での発光強度が20℃での発光強度の90%以上である、請求項1〜4のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項6】
上記式(I)中のMがSi、Ti、Zr、Hf及びSnから選ばれる1種又は2種以上の4価元素である、請求項1〜5のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項7】
上記式(I)中のMがGeである、請求項1〜5のいずれか1項記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青色LED用赤色フッ化物蛍光体として有用な式A2MF6:Mn(式中、MはSi、Ti、Zr、Hf、Ge及びSnから選ばれる1種又は2種以上の4価元素、AはLi、Na、K、Rb及びCsから選ばれ、かつ少なくともNa及び/又はKを含む1種又は2種以上のアルカリ金属である。)で表されるMn賦活複フッ化物赤色蛍光体(複フッ化物蛍光体)及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白色LED(Light Emitting Diode)の演色性向上、あるいは白色LEDを液晶ディスプレイのバックライトとして用いる場合の色再現性の向上の目的で、近紫外から青色のLEDに相当する光で励起されて赤色に発光する蛍光体が必要とされ、研究が進められている。この中で特表2009−528429号公報(特許文献1)には、A2MF6(AはNa,K,Rb等、MはSi,Ge,Ti等)などの式で表される複フッ化物にMnを添加したもの(複フッ化物蛍光体)が有用であることが記載されている。
【0003】
上記蛍光体の製造方法については、特許文献1では構成各元素を全て溶解又は分散させたフッ化水素酸溶液を蒸発濃縮させて析出させる方法(蒸発濃縮法)が開示されている。別の製法として、米国特許第3576756号明細書(特許文献2)には、構成各元素をそれぞれ溶解させたフッ化水素酸溶液を混合後、水溶性有機溶剤であるアセトンを加えて溶解度を低下させることにより析出させる方法(貧溶媒添加法)が開示されている。更に、特許第4582259号公報(特許文献3)、及び特開2012−224536号公報(特許文献4)には、上記式における元素Mと、元素Aをそれぞれ別々の、フッ化水素酸を含む溶液に溶解し、そのどちらかにMnを添加しておいたものを改めて混合することにより蛍光体を析出させる方法(混合析出法)が開示されている。
【0004】
以上に述べた既知のMn添加A2MF6(AはNa,K,Rb等、MはSi,Ge,Ti等)で表される複フッ化物蛍光体の製造工程は、実験室での少量合成には適用できる。しかし、工業的に大規模で実施するには更に検討が必要である。既知の方法のうちでは量産化に適性が高いと思われる水系溶液の混合による方法(特許文献3、4)の場合でも、実際の工業的製造装置を念頭に置いた製造工程の検討は途上である。
【0005】
特に、上記蒸発濃縮法では、生成物の純度が十分ではなく、貧溶媒添加法では、結晶性の良くない細かい粒子が生成しやすいことなどから、いずれも生成する蛍光体の発光特性は満足なものとは言えなかった。その点、混合析出法は、より改善された方法といえるが、詳細な条件はまだ検討途上であり、特に反応液の濃度・組成によっては十分な特性のものが得られなかったり、溶解度の関係で沈殿そのものが生じなかったりする場合がある。
【0006】
更に、近年白色LEDの1個あたりの光束を大きくしたいという技術的要請があり、そのためにはLEDチップに流れる電流量を大きくすることが行われている。ところがこの場合、用いられる蛍光体の温度が上がってしまい、そのために蛍光体の発光が低下するという現象が起こりうる。上述従来の方法で作られる結晶性の良くない蛍光体は特にその高温での発光特性の低下が大きく、改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2009−528429号公報
【特許文献2】米国特許第3576756号明細書
【特許文献3】特許第4582259号公報
【特許文献4】特開2012−224536号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】丸善株式会社発行、日本化学会編、新実験化学講座8「無機化合物の合成III」、1977年発行、1166ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、発光特性に優れ、高温でも良好な発光特性を有する複フッ化物蛍光体、及びかかる蛍光体を安定して収率良く製造し得る複フッ化物蛍光体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するべく、上記混合析出法による蛍光体製造の条件、特に反応液の組成・濃度などを鋭意検討し、本発明をなすに至った。
即ち、本発明は下記の複フッ化物蛍光体の製造方法を提供する。
〔1〕
下記式(I)
2MF6:Mn (I)
(式中、AはLi、Na、K、Rb及びCsから選ばれ、かつ少なくともNa及び/又はKを含む1種又は2種以上のアルカリ金属であり、MはSi、Ti、Zr、Hf、Ge及びSnから選ばれる1種又は2種以上の4価元素である。)
で示される化学組成を有する複フッ化物蛍光体の製造方法であって、Mを含む第1のフッ化水素酸溶液と、Aを含む第2のフッ化水素酸溶液を準備すると共に、Mnを含む化合物を上記第1のフッ化水素酸溶液と第2のフッ化水素酸溶液とのいずれか一方に溶解するか又は別途Mnを含む化合物を溶解させた溶液を調製し、上記溶液を混合して上記式(I)の蛍光体を沈殿させるに際し、上記溶液が全て混合した状態でのMの濃度が0.1モル/リットル以上0.4モル/リットル以下となるように混合することを特徴とする複フッ化物蛍光体の製造方法。
〔2〕
Mnを含む化合物がMを含む第1のフッ化水素酸溶液に溶解され、この第1の溶液にAを含む第2のフッ化水素酸溶液を添加するようにした〔1〕記載の製造方法。
〔3〕
溶液が全て混合した状態でのAの量が、MとMnの和に対して、モル比で2.5倍以上である、〔1〕又は〔2〕記載の製造方法。
〔4〕
溶液が全て混合した状態でのフッ化水素の割合が、全体の20質量%以上60質量%以下である、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の製造方法。
〔5〕
式(I)で示される蛍光体が、130℃での発光強度が20℃での発光強度の90%以上である、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の製造方法。
〔6〕
上記式(I)中のMがSi、Ti、Zr、Hf及びSnから選ばれる1種又は2種以上の4価元素である、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の製造方法。
〔7〕
上記式(I)中のMがGeである、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、発光特性に優れ、高温でも良好な発光特性を有する複フッ化物蛍光体を安定的に収率良く製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る複フッ化物の製造方法は、下記式(I)
2MF6:Mn (I)
(式中、MはSi、Ti、Zr、Hf、Ge及びSnから選ばれる1種又は2種以上の4価元素、AはLi、Na、K、Rb及びCsから選ばれ、かつ少なくともNa及び/又はKを含む1種又は2種以上のアルカリ金属である。)
で示される複フッ化物蛍光体を得るための方法である。
ここで、MとしてはSi、Ti又はGe、特にSi又はTiが好ましく、またAとしてはNa又はKが好ましい。
【0013】
本発明においては、まず、4価元素M(MはSi、Ti、Zr、Hf、Ge及びSnから選ばれる1種又は2種以上の4価元素である。)を含む第1のフッ化水素酸溶液を調製する。
第1の溶液は、Mのフッ化物、酸化物、水酸化物、炭酸塩などのMを含む化合物をフッ化水素酸を含む水溶液に溶解させることにより作成する。この際にフッ化水素酸は溶解に必要な量より過剰に用いる。具体的にフッ化水素酸の濃度は10〜60質量%、特に20〜50質量%であることが好ましい。また、この場合のMの源として実例を挙げればSiO2、TiO2などである。これらをフッ化水素酸水溶液と共に水に溶解させると、実質的に元素Mのポリフルオロ酸塩を含む水溶液となっている。また、H2SiF6などのポリフルオロ酸塩の溶液を入手して使用することもできる。この場合、これらポリフルオロ酸塩の水溶液をフッ化水素酸水溶液と混合する。
【0014】
別に、アルカリ金属A(AはLi、Na、K、Rb及びCsから選ばれる1種又は2種以上、好ましくはNa及び/又はKである)を含む第2のフッ化水素酸溶液を調製する。
第2の溶液は、フッ化物AF、フッ化水素塩AHF2、硝酸塩ANO3、硫酸塩A2SO4、硫酸水素塩AHSO4、炭酸塩A2CO3、炭酸水素塩AHCO3及び水酸化物AOHなどから選ばれるAの化合物をフッ化水素酸水溶液に溶解させて調製することができる。フッ化水素塩の場合は、水のみに溶解させても溶解時にフッ化水素HFが溶出するので差支えない。なお、フッ化水素酸の濃度は5〜60質量%、特に10〜50質量%であることが好ましい。
【0015】
発光中心元素であるマンガンは、マンガンのフッ化物、炭酸塩、酸化物、水酸化物などのMnを含む化合物をフッ化水素酸に溶解して用いることができるが、マンガンの酸化状態と、溶解しやすさの点からA2MnF6で表される複フッ化物や、A2MnO3で表される複酸化物を用いることが好ましい。実例を挙げればK2MnF6などである。
マンガンは第1、第2の溶液のいずれかに添加しておくか、第1、第2の溶液を混合する際に別に溶液で加えるか、いずれかの方法で加えることができる。好ましいのは第1の溶液に、第2の溶液との混合前に加えておく方法である。
【0016】
全てが混合された状態での濃度は、Mが0.1モル/リットル以上0.5モル/リットル以下である必要がある。0.1モル/リットル未満でも、0.5モル/リットルを超えても、得られる蛍光体の発光特性が十分でなくなるおそれがある。更に0.1モル/リットル未満では、蛍光体の収率が悪くなる、0.5モル/リットルを超えると沈殿が生じた状態での液の粘度が上がりすぎて反応操作が行いにくいという問題もある。より好ましくは0.12〜0.4モル/リットル、特に好ましくは0.13〜0.35モル/リットルである。
【0017】
最終的にこの濃度を実現するためには、第1の溶液と第2の溶液の液量も関係してくるが、第1の溶液中のMの濃度が0.1〜1.5モル/リットルであることが好ましい。
全てが混合された状態でのAの量は、MとMnの合計に対してモル比で2.5以上あることが必要である。2.5未満では、複フッ化物の溶解度が大きく、収率が下がるか、沈殿が得られないおそれがある。好ましくは2.7以上5以下、特に好ましくは2.8以上4以下である。このA/(M+Mn)に本質的な上限はないが、5を超えて増やしても利点はない。なお、M+Mn中のMnの割合は0.1〜20モル%、特に0.3〜10モル%であることが好ましい。
このAと(M+Mn)の比を実現するためには、第1の溶液と第2の溶液の液量も関係してくるが、第2の溶液中のAの濃度が0.25〜10モル/リットルであることが好ましい。
【0018】
反応液中にはフッ化水素(HF)が存在していることが必要である。フッ化水素の濃度は20質量%以上60質量%以下が好ましい。更に好ましくは25〜50質量%である。フッ化水素が20質量%未満では、マンガン錯イオンの加水分解や還元が起こり、結果として発光特性が悪くなるおそれがあり、60質量%を超えることは安全性の点から好ましくない。
【0019】
第1の溶液、第2の溶液、更に混合後の溶液の温度は−10℃以上100℃以下の範囲の任意の温度で良い。特に好ましいのは0〜40℃である。温度を調整するために、加熱を行ったり、液作成や第1、第2両溶液の混合の際に発熱して温度が上昇する分を見込んで冷却を行っても良い。
第1の溶液と第2の溶液を混合して沈殿を生成させる反応は、片方の液が撹拌機で撹拌されているところへ、もう一方の液を注ぎ込む、片方の液が循環流動しているところへ、もう一方の液を合流させる、両液を同時に流して流動させながら混合するなど任意の方法を用いることができる。反応装置が単純で実施しやすく、製品の性能上も満足なのは、第1の溶液を撹拌しているところへ第2の溶液を注ぎ込む方法である。この混合工程の反応時間は、通常10秒間〜1時間である。好ましくは20秒から20分である。
【0020】
反応によって沈殿として得られた蛍光体は、濾別、遠心分離、デカンテーションなどの方法により固液分離し、取り出すことができる。固液分離後に、必要に応じて、洗浄、溶媒置換などの処理を実施することができ、また、真空乾燥などによって乾燥することができる。
【0021】
本発明の製造方法によって得られた蛍光体はMnを発光中心とする複フッ化物蛍光体であり、青色(400〜480nm、1例として450nm)光の励起により赤色発光を示す。630nm前後に最強ピークを有し、数本の鋭い線幅のピークからなる発光スペクトルを示す。本発明の範囲の標準的な条件で製造した場合、450nmの光に対する吸収率が0.6以上、好ましくは0.63〜0.85、内部量子効率が0.8以上、好ましくは0.83〜0.93を示し、青色LEDを励起源とする白色LED用の赤色蛍光体として好適である。
また、本発明の製造方法により、130℃での発光強度が20℃での発光強度の90%以上、特に95℃以上である複フッ化物蛍光体を得ることができる。特に、式(I)において、MがSiの場合は、かかる高温での発光強度特性に優れている。
なお、発光強度の測定は、後述する実験例2に記載の通りである。
【実施例】
【0022】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例1,2はK2SiF6:Mn、実施例3はK2TiF6:Mnの例である。
【0023】
[参考例]
[K2MnF6の調製]
丸善株式会社発行、日本化学会編、新実験化学講座8「無機化合物の合成III」、1977年発行、1166ページ(非特許文献1)に記載されている方法に準拠し、以下の方法で調製した。
塩化ビニル樹脂製の反応槽の中央にフッ素樹脂系イオン交換膜の仕切り(隔膜)を設け、イオン交換膜を挟む2室の各々に、いずれも白金板からなる陽極と陰極を設置した。反応槽の陽極側にフッ化マンガン(II)を溶解させたフッ化水素酸水溶液、陰極側にフッ化水素酸水溶液を入れた。両極を電源につなぎ、電圧3V、電流0.75Aで電解を行った。電解を終えた後、陽極側の反応液に、フッ化水素酸水溶液に飽和させたフッ化カリウムの溶液を過剰に加えた。生成した黄色の固体生成物を濾別、回収し、K2MnF6を得た。
【0024】
[実施例1]
40質量%のケイフッ化水素酸(H2SiF6)水溶液(森田化学工業(株)製)234cm3を、まず50質量%フッ化水素酸(HF)(SA−X、ステラケミファ(株)製)2,660cm3と混合した。これに、予め参考例の方法で作製したK2MnF6粉末を13.32g加えて撹拌し溶解させた(第1の溶液:Si−F−Mn)。
これとは別に、フッ化水素カリウム(ステラケミファ製酸性フッ化カリウム、KHF2)210.5gを50質量%フッ化水素酸水溶液680cm3、純水1,270cm3と混合し溶解させた(第2の溶液:K−H−F)。
第1の溶液を室温(16℃)で撹拌翼とモーターを用いて撹拌しながら、第2の溶液(15℃)を1分30秒かけて少しずつ加えていった。液の温度は26℃になり、淡橙色の沈殿(K2SiF6:Mn)が生じた。更に10分撹拌を続けたのち、この沈殿をブフナー漏斗で濾別し、できるだけ脱液した。更にアセトンで洗浄し、脱液、真空乾燥して、K2SiF6:Mnの粉末製品183.0gを得た。
ここまでの反応に用いた原料の仕込み量から計算すると、混合後の全液中のSiの濃度は0.182モル/リットル、K/(Si+Mn)=2.83(モル比)、フッ化水素の量は全体の34.9質量%であった。
得られた粉末製品の粒度分布を、気流分散式レーザー回折法粒度分布測定器(HELOS&RODOS、Sympatec社製)によって測定した。その結果、粒径8.8μm以下の粒子が全体積の10%(D10=8.8μm)、粒径19.4μm以下の粒子が全体積の50%(D50=19.4μm)、粒径29.6μm以下の粒子が全体積の90%(D90=29.6μm)を占めた。
【0025】
[実施例2]
第2の溶液を作成する際の50質量%HFの量を1,110cm3、水の量を910cm3にしたことのほかは、実施例1と同様に各原料を秤量準備した。第1の溶液、第2の溶液ともねじ式の蓋がついているプラスチック容器に入れて、容器ごと冷水浴につけておくことにより、7℃に冷却した。
ここから実施例1と同様に反応させた。第1の溶液を撹拌しながら第2の溶液を1分30秒かけて注ぎ込んだ。液の温度は14℃になり、淡橙色の沈殿が生じた。更に10分撹拌を続けたのち、この沈殿をブフナー漏斗で濾別し、できるだけ脱液した。更にアセトンで洗浄し、脱液、真空乾燥して、K2SiF6:Mnの粉末製品182.3gを得た。
ここまでの反応に用いた原料の仕込み量から計算すると、混合後の全液中のSiの濃度、K/(Si+Mn)は実施例1と同じ、フッ化水素の量は全体の39.5質量%であった。
実施例1と同様にして測定した粒度分布の結果は、D10=13.6μm、D50=32.1μm、D90=50.8μmであった。
【0026】
[実施例3]
40質量%のチタンフッ化水素酸(H2TiF6)水溶液(森田化学工業(株)製)436cm3を、まず50質量%HF2,458cm3と混合した。これに、実施例1と同じ予K2MnF6粉末を14.8g加えて撹拌し溶解させた(第1の溶液:Ti−F−Mn)。
これとは別に、KHF2468.6gを純水1,910cm3と混合し溶解させた(第2の溶液:K−H−F)。
両液を実施例2と同様に容器ごと冷水浴につけ、10℃に冷却した。
第1の溶液を撹拌翼とモーターを用いて撹拌しながら、第2の溶液を1分35秒かけて少しずつ加えていった。液の温度は22℃になり、淡橙色の沈殿(K2TiF6:Mn)が生じた。更に10分撹拌を続けたのち、この沈殿をブフナー漏斗で濾別し、できるだけ脱液した。更にアセトンで洗浄し、脱液、真空乾燥して、K2TiF6:Mnの粉末製品250.2gを得た。
ここまでの反応に用いた原料の仕込み量から計算すると、混合後の全液中のTiの濃度は0.297モル/リットル、K/(Ti+Mn)=3.85(モル比)、フッ化水素の量は全体の25.8質量%であった。
実施例1と同様にして測定した粒度分布の結果は、D10=17.2μm、D50=57.3μm、D90=113.5μmであった。
【0027】
[比較例1]
40質量%H2SiF6溶液26.1cm3を、まず50質量%HF975cm3と混合した。これに、実施例1と同じK2MnF6粉末を1.48g加えて撹拌して溶解させた(第1の溶液:Si−F−Mn)。
別に、17.38gのKHF2を500cm3の50%HFに溶解させた(第2の溶液:K−H−F)。
第1の溶液を室温(19℃)で撹拌翼とモーターを用いて撹拌しながら、第2の溶液(18℃)を1分15秒かけて少しずつ加えていった。液の温度は21℃になった。20分撹拌を続けたが、沈殿は生じなかった。
ここまでの反応での原料の仕込み量から計算すると、混合後の全液中のSiの濃度は0.071モル/リットル、K/(Si+Mn)=2.1(モル比)、フッ化水素の量は全体の48.6質量%であった。
【0028】
[比較例1A]
比較例1の結果の沈殿の生じていない混合液に、撹拌をしながらアセトン(和光純薬製試薬特級)800cm3を滴下漏斗から5分かけて添加した。沈殿が生じ、最後には液は28℃になっていた。この沈殿を濾別し、アセトンで洗浄し真空乾燥して、13.88gの粉末製品を得た。実施例1と同様にして測定した粒度分布の結果は、D10=0.58μm、D50=1.52μm、D90=3.16μmであった。
【0029】
[比較例2]
40質量%H2SiF6溶液261cm3を、まず50質量%HF740cm3と混合した。これに、実施例1と同じK2MnF6粉末を14.8g加えて撹拌して溶解させた(第1の溶液:Si−F−Mn)。
別に、173.8gのKHF2を500cm3の50質量%HFに溶解させた(第2の溶液:K−H−F)。
第1の溶液を室温(17℃)で撹拌翼とモーターを用いて撹拌しながら、第2の溶液(16℃)を1分15秒かけて少しずつ加えていった。液の温度は21℃になり、淡橙色の沈殿が生じた。更に10分撹拌を続けたのち、この沈殿をブフナー漏斗で濾別し、できるだけ脱液した。更にアセトンで洗浄し、脱液、真空乾燥して、粉末製品206.7gを得た。
ここまでの反応での原料の仕込み量から計算すると、混合後の全液中のSiの濃度は0.706モル/リットル、K/(Si+Mn)=2.1(モル比)、フッ化水素の量は全体の37.6質量%であった。
実施例1と同様にして測定した粒度分布の結果は、D10=10.9μm、D50=25.4μm、D90=37.8μmであった。
【0030】
[実験例1]
実施例及び比較例によって得られた蛍光体の発光特性、発光スペクトルと吸収率、量子効率を量子効率測定装置QE1100(大塚電子(株)製)で測定した。励起波長450nmでの吸収率と量子効率を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
[実験例2]
実施例及び比較例によって得られた蛍光体の発光特性の温度による変化を測定した。分光蛍光光度計FP6500(日本分光(株)製)を用いた。光の出入りする部分が石英ガラス、その他の部分が金属でできた試料ホルダを用い、この金属部分をヒーターに接触させて試料を温度制御して加熱できるようにして測定を行った。室温(20℃)と130℃で蛍光スペクトルを、450nmの励起(励起光のスリット幅5nm)により測定した。その結果を表2に示す。発光強度は、蛍光スペクトル(50nm/分で掃引し、0.2nm間隔で読み取ったもの)の、550nmから700nmの範囲の積分値で示している。
【0033】
【表2】
【0034】
なお、これまで本発明を実施形態をもって説明してきたが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。