【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1の吸着チャックでは、可撓性の外フランジに対応する箇所に吸着パッドの開口部が形成されている。このため、面取り研磨時の外力によってウェーハに撓みを生じた場合、外フランジがウェーハに十分に追従できずに、外フランジの吸着パッドとウェーハとの界面が剥がれ、外フランジの対応する箇所の開口部から真空が破れるおそれがある。
また、面取り研磨では、研磨スラリー存在下でのシリコンウェーハと吸着チャックとの接触により、シリコンウェーハの外周領域において欠陥が発生する問題があった。
図3に、シリコンウェーハWの面取り研磨後の被吸着面におけるLPD(Light Point Defect)マップを示す。
図3において、ひし形で表わされる箇所が、LPD欠陥を示している。
具体的には、
図3に示すように、面取り研磨を終えたシリコンウェーハWの被吸着面に、主に、吸着チャックステージの外周形状に沿って欠陥パターンが形成され、上記欠陥パターンを原因とするパーティクル品質悪化やナノトポロジー品質悪化が問題となっている。
【0007】
本発明の目的は、シリコンウェーハの密着性を向上させ、シリコンウェーハの外周領域における欠陥の発生を抑制する、吸着チャック、面取り研磨装置、及び、シリコンウェーハの面取り研磨方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の面取り研磨時にシリコンウェーハの外周領域に形成される欠陥の発生メカニズムは以下のように推察される。
シリコンウェーハの面取り研磨は、
図1に示すように、面取り研磨装置1の吸着チャック2に吸着保持されたシリコンウェーハWを高速回転させ、研磨スラリーを供給し、更に、研磨パッドを備えた研磨手段3をシリコンウェーハWの面取り部に所定の荷重で押し当てることで行われる。
ここで、
図4に示すように、研磨手段3は、面取り部の研磨する位置に応じて上方側台座31、端面側台座32及び下方側台座33をそれぞれ備えている。上方側台座31、端面側台座32及び下方側台座33には、それぞれ研磨パッド34が貼り付けられている。面取り研磨装置1では、上方側台座31、端面側台座32及び下方側台座33がシリコンウェーハWの全周にわたって、適宜配置されている。したがって、面取り研磨装置1を上方からみたとき、例えば、時計回りに、上方側台座31、端面側台座32、下方側台座33の順番で配置されている場合、反時計回りに高速回転するシリコンウェーハWは、下方側台座33、端面側台座32、上方側台座31の順番で研磨される。このように、面取り研磨中のシリコンウェーハWは、異なる方向からの荷重を順次受けるため、その外周領域が高周波で振動することになる(以下、この状態を「ウェーハ振動」という場合がある)。
【0009】
図5に示すように、ウェーハ振動では、下方側台座の研磨パッドによる研磨で、下方側からの荷重F1を受けると、シリコンウェーハWの外周領域は、上方側に撓む。シリコンウェーハWが撓むと、吸着保護パッド2CとシリコンウェーハWとの界面が外周領域で一時的に剥がれるときがある。また、シリコンウェーハWは、真空引きすることで吸着チャック2に吸着保持されている。このため、この真空引きによって、界面が剥がれて生じた隙間から研磨スラリーSが吸引され、吸着保護パッド2CとシリコンウェーハWとの間に、研磨スラリーSが侵入した状態になる。
そして、上方側台座の研磨パッドによる研磨で、上方からの荷重F2を受けると、今度は、シリコンウェーハWの外周領域は、下方側に撓む。シリコンウェーハWが撓むと、一時的に剥がれたシリコンウェーハWの外周領域が、吸着保護パッド2Cに押し付けられる。このとき、吸着保護パッド2Cの上には、シリコンウェーハWと吸着保護パッド2Cとの隙間に侵入した研磨スラリーSが存在しているので、シリコンウェーハWの外周領域は、研磨スラリーSに含まれる砥粒に打ち付けられるように衝突する。また、シリコンウェーハWと吸着保護パッド2Cとの界面に砥粒が存在している状態で、シリコンウェーハWが撓むことで、シリコンウェーハWと砥粒とが接触している箇所では、シリコンウェーハWが砥粒で擦られる。
【0010】
このように、研磨スラリーSの存在下でのウェーハ振動で、吸着保護パッド2Cで保持されるシリコンウェーハWの外周領域にて研磨スラリーSの介在を伴った機械的作用が働くことで局所的なエッチング作用が進行し、シリコンウェーハWの外周領域に、主に、吸着チャックステージ2Bの外周形状に沿ってスクラッチ状の凹み欠陥W1が発生するものと推察される。
【0011】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、吸着チャックの外周領域において、シリコンウェーハに対する追従性を高め、同時に、外周領域において吸着保護パッドとシリコンウェーハとの界面の密着性を確保して研磨スラリーの侵入を抑制することで、面取り研磨時にシリコンウェーハの外周領域に形成される欠陥を抑制できることを見出した。
本発明は、上述のような知見に基づいて完成されたものである。
【0012】
すなわち、本発明の吸着チャックは、円形の吸着面を有する吸着チャックステージと、前記吸着面に設けられた吸着保護パッドと、を備え、前記吸着面には、中心側に位置する中央領域と外周側に位置する外周領域とに区画する環状又は円弧状の凹部が形成され、かつ、前記中央領域には放射状の凹部が形成され、前記吸着保護パッドは、前記放射状の凹部と連通する開口孔を有し、前記吸着保護パッドは、前記放射状の凹部を除いた前記中央領域で前記吸着面と接合されることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、吸着保護パッドは環状又は円弧状の凹部で区画された中央領域で吸着チャックステージの吸着面と接合されている。即ち、吸着チャックステージの吸着面に設けられる吸着保護パッドのうち、吸着面の中央領域よりも外方側では、吸着保護パッドは吸着面に接合されていない。
このため、面取り研磨中に生じるウェーハ振動に対して、シリコンウェーハの外周領域が上方側或いは下方側に撓んでも、吸着面に接合されていない吸着保護パッドの外周領域は、シリコンウェーハに追従して撓む。特に、吸着チャックステージよりも可撓性が高い吸着保護パッドのみが、表面張力でシリコンウェーハに貼り付き、シリコンウェーハに追従して撓むので、外周領域における、吸着保護パッドとシリコンウェーハとの界面は、ウェーハ振動があっても、常に高い密着性が維持される。
結果として、シリコンウェーハの外周領域がウェーハ振動によって吸着保護パッドから一時的に剥がれることが抑制される。このため、ウェーハ振動時に、シリコンウェーハと吸着保護パッドとの界面に研磨スラリーが侵入することを抑制できる。
【0014】
また、ウェーハ振動でシリコンウェーハが撓むと、吸着チャックステージと吸着保護パッドとが接合されていない外周領域に隙間が生じる。そして、真空引きにより、吸着チャックステージと吸着保護パッドとの間に生じた隙間から研磨スラリーが吸い込まれる。この研磨スラリーが吸い込まれる経路では、シリコンウェーハは吸着保護パッドで保護されているため、シリコンウェーハの被吸着面と研磨スラリーとの接触が低減される。
また、吸着チャックステージと吸着保護パッドとの間に生じた隙間が研磨スラリーが吸い込まれる経路になるために、シリコンウェーハと吸着保護パッドとの界面に研磨スラリーが吸い込まれる頻度が低減される。結果として、研磨スラリーが吸い込まれる経路が分散されるため、シリコンウェーハと吸着保護パッドとの界面から侵入する研磨スラリーの吸い込み量が低減される。
【0015】
また、吸着保護パッドは、放射状の凹部と連通する開口孔を有している。開口孔が放射状の凹部と連通する位置に設けられることで、真空引きによる吸着保持力が放射状の凹部及び開口孔を介してシリコンウェーハの被吸着面に直接伝わる。このため、シリコンウェーハは、吸着保護パッドを介して吸着面に安定に吸着保持される。
なお、開口孔を放射状の凹部と連通する位置だけでなく、外周の環状又は円弧状の凹部に連通する開口孔を設けた場合、吸着チャックステージの最外周領域では真空引きがリークする経路がシリコンウェーハと吸着保護パッドの界面と、吸着保護パッドと吸着チャックステージの界面の2系統になる。このために、シリコンウェーハと吸着保護パッドの界面の密着性が低下して、ウェーハ振動に対する吸着保護パッドの追従性が低下する。その結果、ウェーハ振動によるシリコンウェーハへの外周領域の局所的な機械的作用が増大し、欠陥形成が進行するおそれがある。
以上、本発明による吸着チャックにより、シリコンウェーハの吸着保持機能を維持しながら、所望の精度の面取り研磨を実施でき、かつ、シリコンウェーハの被吸着面と吸着保護パッドとの界面への研磨スラリーの侵入を抑制できる。結果として、シリコンウェーハの外周領域における欠陥の発生を抑制することができる。
【0016】
また、本発明の吸着チャックでは、前記吸着保護パッドは、前記吸着面と同径又はそれ以上の円形であることが好ましい。
本発明の吸着チャックによれば、吸着保護パッドは、吸着面と同径又はそれ以上の円形である。このように、吸着保護パッドの形状を被処理物であるシリコンウェーハの形状に近づけることで、吸着保護パッドでシリコンウェーハが保護される領域を増やすことができる。結果として、面取り研磨中におけるシリコンウェーハの品質を悪化させるリスクをより低減できる。
【0017】
本発明の面取り研磨装置は、上記吸着チャックを備えたことを特徴とする。
本発明の面取り研磨装置によれば、面取り研磨装置に上述したような本発明の吸着チャックを設けている。このため、本発明の上述した吸着チャックと同様の作用を奏した状態で、適切にシリコンウェーハの面取り部を研磨可能な面取り研磨装置を提供できる。
【0018】
本発明のシリコンウェーハの面取り研磨方法は、円形の吸着面を有する吸着チャックステージと、前記吸着面に設けられた吸着保護パッドと、を備えた吸着チャックの、前記吸着保護パッドにシリコンウェーハを吸着保持し、前記シリコンウェーハの面取り部を研磨する、シリコンウェーハの面取り研磨方法において、前記吸着面には、中心側に位置する中央領域と外周側に位置する外周領域とに区画する環状又は円弧状の凹部が形成され、かつ、前記中央領域には放射状の凹部が形成され、前記吸着保護パッドは、前記放射状の凹部と連通する開口孔を有し、前記吸着保護パッドは、前記放射状の凹部を除いた前記中央領域で前記吸着面と接合されることを特徴とする。
本発明のシリコンウェーハの面取り研磨方法によれば、上述したような本発明の吸着チャックを用いて面取り研磨を実施している。このため、本発明の上述した吸着チャックと同様の作用を奏した状態で、適切にシリコンウェーハの面取り部を研磨できる。
【0019】
また、本発明のシリコンウェーハの面取り研磨方法では、前記吸着保護パッドは、前記吸着面と同径又はそれ以上の円形であることが好ましい。
本発明のシリコンウェーハの面取り研磨方法によれば、吸着保護パッドは、吸着面と同径又はそれ以上の円形である。このように、吸着保護パッドの形状を被処理物であるシリコンウェーハの形状に近づけることで、吸着保護パッドでシリコンウェーハが保護される領域を増やすことができる。結果として、面取り研磨中におけるシリコンウェーハの品質を悪化させるリスクをより低減できる。