特許第6394418号(P6394418)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6394418非水系二次電池用正極活物質及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6394418
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】非水系二次電池用正極活物質及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20180913BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20180913BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   H01M4/525
   H01M4/505
   H01M4/36 C
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-15790(P2015-15790)
(22)【出願日】2015年1月29日
(65)【公開番号】特開2015-195176(P2015-195176A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2017年7月14日
(31)【優先権主張番号】特願2014-60286(P2014-60286)
(32)【優先日】2014年3月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】吉田 秀樹
【審査官】 赤樫 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−253305(JP,A)
【文献】 特開平06−321543(JP,A)
【文献】 特開2011−070789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム遷移金属複合酸化物を含むコア粒子と、前記コア粒子の表面を被覆する被覆層とを含む非水系二次電池用正極活物質であり、
前記被覆層は、
ニオブ及び炭酸イオンを含有し、正極活物質に対する前記炭酸イオンの濃度が0.2重量%以上0.4重量%以下であり、
赤外吸光スペクトルにおいて、1320cm−1以上1370cm−1以下の波数範囲及び1640cm−1以上1710cm−1以下の波数範囲にそれぞれピークを有し、
前記被覆層における前記ニオブの含有量が、前記リチウム遷移金属複合酸化物に対して0.05mol%以上5.0mol%以下である、非水系二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記リチウム遷移金属複合酸化物が、下式
LiNi1−x−yCoMn
(a、x及びyは、0.95≦a≦1.2、0.30≦x≦0.40、0.30≦y≦0.40及び0.60≦x+y≦0.70を満たす)
で表される、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
シュウ酸の酸化ニオブに対する物質量比(COOH)/Nbがモル基準で0.01以上0.6以下であるシュウ酸含有酸化ニオブゾルを準備することと、
リチウム遷移金属複合酸化物を含むコア粒子と前記シュウ酸含有酸化ニオブゾルとを混合して、前記コア粒子の表面に前記シュウ酸含有酸化ニオブゾルが存在するゾル含有粒子を得ることと、
前記ゾル含有粒子を250℃以上500℃以下で熱処理し、前記コア粒子の表面にニオブ及び炭酸イオンを含有する被覆層を形成することと、
を含み、
前記ゾル含有粒子は、前記シュウ酸含有酸化ニオブゾルの前記コア粒子に対する質量比が0.05以上0.5以下である正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水系二次電池用正極活物質及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水系二次電池は、正極活物質にアルカリ金属イオンを脱離・挿入可能な物質を、負極活物質に金属リチウム等のアルカリ金属単体あるいはアルカリ金属イオンを脱離・挿入可能な物質を、アルカリ金属イオン伝導材に非水電解液等を用い、アルカリ金属イオン伝導材を通じて正負極間でアルカリ金属イオンをやり取りし、外部と電力をやり取りする電池である。リチウムイオン二次電池においては、コバルト酸リチウム等のリチウム遷移金属複合酸化物が正極活物質として代表的に用いられている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを含有する電解質を有機溶媒に溶解した非水電解液をリチウムイオン伝導材として用いる非水電解液二次電池の一種である。このように非水電解液二次電池は有機溶媒を用いるので、本質的に発火、引火等の危険を孕んでおり、対策が求められる。
【0004】
一方、リチウムイオン伝導性を有する無機固体(固体電解質)をリチウムイオン伝導材に用いる全固体リチウム二次電池がある。全固体リチウム二次電池等の全固体二次電池では有機溶媒が不要になるため、非水電解液二次電池における安全対策を省くことができ、電池の構造がより簡素になる。
【0005】
しかし、全固体二次電池は非水電解液二次電池に比べて一般的に出力特性が低い。その原因の一つは、固体電解質と電極活物質との界面で形成される高抵抗領域が、リチウムイオンの移動を抑制するためと考えられている。正極活物質と他の要素との界面を改質する技術として、正極活物質の表面を特定の物質で被覆することが提案されている。被覆物質の例としてはニオブ化合物がある。
【0006】
特許文献1では、層状構造を有し、ニッケル及びマンガンを必須とするリチウム含有遷移金属複合酸化物に、ニオブを付与する技術が提案されている。この技術によって、正極と非水電解液との界面が改質され、電荷移動反応が促進され、出力特性が改善するとされている。ニオブを付与する具体的な方法としては、リチウム含有遷移金属複合酸化物と酸化ニオブとを所定の割合で混合し、所定の温度で焼成する方法が開示されている。
【0007】
特許文献2では、硫化物系固体電解質を用いた全固体リチウム電池において、正極活物質表面をリチウムイオン伝導性酸化物で被覆する技術が提案されている。この技術によって、硫化物系固体電解質と正極活物質との界面に高抵抗層が形成されることが抑制され、全固体リチウム電池の出力特性が向上するとされている。前記リチウムイオン伝導性酸化物の例としてはLiNbOが挙がっている。また、具体的な被覆方法としては、リチウムとニオブとを含有するアルコキシド溶液を正極活物質粒子に噴霧し、空気中の水分によって加水分解させる方法が開示されている。正極活物質の例としてはLiCoOとLiMnが具体的に開示されている。
【0008】
特許文献3では、リチウムニッケル複合酸化物の表面にニオブ等の化合物を存在させ、焼成する技術が提案されている。この技術によって、ニオブ等の化合物がリチウムニッケル複合酸化物表面に安定的に存在し、表面のニオブ等の化合物が電解液中に溶解することが抑制でき、高温保存及び高温サイクル運転においてもインピーダンスの上昇が抑えられるとされている。具体的には、アセトンに分散させた市販の酸化ニオブゾルにリチウムニッケル複合酸化物を分散させ、アセトンを蒸発させた後、120℃に加熱して乾固させる方法が開示されている。市販の酸化ニオブゾルの分散媒についての記載はない。
【0009】
ところで、ニオブを含有する材料として、酸化ニオブゾルが公知である。例えば特許文献4には、シュウ酸とニオブ酸化物を含み、その物質量比を(HCOO)/Nb=0.2〜0.8とした酸化ニオブゾルが、その粒子径が100オングストローム以下と微細でありながら安定化されることが記載されている。このような酸化ニオブゾルは、活性な水酸化ニオブスラリーに特定量のシュウ酸を加え、特定条件の加熱反応を行うことで得られるとされている。
【0010】
また、特許文献5には、シュウ酸で安定化された酸化ニオブゾルに更にクエン酸を含有させた酸化ニオブゾルが、他の金属元素(例えばコバルト)と併用してもなお安定化することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2011−070789号公報
【特許文献2】国際公開第07/004590号
【特許文献3】特開2004−253305号公報
【特許文献4】特開平6−321543号公報
【特許文献5】特開平8−143314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に記載の技術ではリチウム遷移金属複合酸化物粒子(コア粒子)の表面をニオブ化合物で充分に被覆するのは困難である。そのため、正極活物質と固体電解質の界面抵抗を充分低減させることができない。特許文献2に記載の技術はコア粒子の表面をニオブ化合物で被覆し得るが、その手法は煩雑であり、また、有機溶媒を用いるので有機物の残留が懸念される。特許文献3に記載の技術はコア粒子の表面の被覆状態がそもそも不明である。このように、従来の技術ではコア粒子の表面を充分に被覆し、固体電解質との界面抵抗を充分低減させる技術が存在せずにいた。
【0013】
本発明はこれらの事情に鑑みてなされたものである。本開示の一態様の目的は、リチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面を、固体電解質との界面抵抗を低減可能な程度に被覆し得る、非水系二次電池用正極活物質の製造方法を提供することである。また、本開示の一態様のもう一つの目的は、非水系二次電池において出力特性が改善する正極活物質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために本発明者は鋭意検討を重ね、本発明を完成するに至った。本発明者は、特定量のシュウ酸を含む酸化ニオブゾルを用いてリチウム遷移金属複合酸化物粒子を被覆して非水系二次電池用正極活物質を構成すると、固体電解質との界面抵抗を十分低減し得ること、そしてそうして得られる非水系二次電池用正極活物質は、赤外吸光スペクトルにおいて特定波数にピークを有し、且つ特定範囲の炭酸イオン濃度を有することを見出した。すなわち、本発明は以下の態様を包含する。
【0015】
本開示の一つの実施形態に係る非水系二次電池用正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物を含むコア粒子と、前記コア粒子の表面を被覆する被覆層とを含み、前記被覆層は、ニオブ及び炭酸イオンを含有し、前記炭酸イオンの濃度が0.2重量%以上0.4重量%以下であり、赤外吸光スペクトルにおいて、1320cm−1以上1370cm−1以下の波数範囲及び1640cm−1以上1710cm−1以下の波数範囲にそれぞれピークを有する。
【0016】
また、本開示の一つの実施形態に係る非水系二次電池用正極活物質の製造方法は、シュウ酸の酸化ニオブに対する物質量比(COOH)/Nbが、モル基準で0.01以上0.6以下であるシュウ酸含有酸化ニオブゾルを準備することと、リチウム遷移金属複合酸化物を含むコア粒子と前記シュウ酸含有酸化ニオブゾルとを混合して、前記コア粒子の表面に前記シュウ酸含有酸化ニオブゾルが存在するゾル含有粒子を得ることと、前記ゾル含有粒子を250℃以上500℃以下で熱処理し、前記コア粒子の表面にニオブ及び炭酸イオンを含有する被覆層を形成することと、を含む。
【発明の効果】
【0017】
本開示の実施形態に係る非水系二次電池用正極活物質は上記の特徴を備えているため、非水系電解質(特に固体電解質)との界面抵抗を劇的に低減できる。そのため、本開示の実施形態に係る非水系二次電池用正極活物質を用いた非水系二次電池(特に、全固体二次電池)は出力特性を大幅に向上することができる。
【0018】
また、本開示の実施形態に係る非水系二次電池用正極活物質の製造方法は上記の特徴を備えているため、特定範囲の炭酸イオン濃度を有し、赤外吸光スペクトルにおいて特定のピークを有するようになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は実施例1〜3及び比較例1〜3の非水系二次電池用正極活物質の赤外分光スペクトルである。
図2図2は実施例1及び比較例3の非水系二次電池用正極活物質を用いた全固体二次電池の放電曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示の実施形態に係る非水系二次電池用正極活物質及びその製造方法について、実施の形態及び実施例を用いて詳細に説明する。但し、本発明はこれら実施の形態及び実施例に限定されるものではない。
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。さらに組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0021】
本開示の実施形態に係る非水系二次電池用正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物を含むコア粒子と、コア粒子の表面の少なくとも一部を被覆し、ニオブ及び炭酸イオンを含む被覆層とを含む。以下、被覆層を中心に説明する。
【0022】
[コア粒子]
コア粒子は公知のリチウム遷移金属複合酸化物を用いればよい。リチウム遷移金属複合酸化物としては、例えばリチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、スピネル構造のリチウムマンガン複合酸化物、オリビン構造のリン酸鉄リチウム等が挙げられる。
【0023】
リチウムコバルト複合酸化物等の層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物は、充放電容量、エネルギー密度等のバランスが良い非水系二次電池を得やすいので好ましい。特に遷移金属としてニッケル、コバルト及びマンガンを含み、これらの遷移金属の物質量比(モル基準)が1:1:1に近いリチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。組成として表すと、下記式で表されるリチウム遷移金属複合酸化物が特に好ましい。
LiNi1−x−yCoMn
ここで、a、x及びyは、0.95≦a≦1.2、0.30≦x≦0.40、0.30≦y≦0.40、0.60≦x+y≦0.70を満たす。
【0024】
コア粒子の粒子径は特に制限されず、目的等に応じて適宜選択すればよい。コア粒子の粒子径は、例えば、体積平均粒子径で3μm以上20μm以下である。
【0025】
[被覆層]
被覆層はニオブ及び炭酸イオンを含有し、さらに赤外吸光スペクトルにおいて1320cm−1以上1370cm−1以下の波数範囲及び1640cm−1以上1710cm−1以下の波数範囲にそれぞれピーク(吸収強度の極大値)を有する。これらのピークはシュウ酸に由来する化合物に対応すると考えられる。シュウ酸に由来する化合物の存在形態の詳細は不明だが、主にシュウ酸リチウムとして存在していると推測される。このシュウ酸に由来する化合物の存在が、コア粒子と非水系電解質(特に、固体電解質)の間に静電気的相互作用を生じさせ、界面抵抗を特に低減していると考えられる。ニオブの存在形態は、酸化ニオブ、ニオブとコア粒子を構成する元素との複合酸化物、あるいはそれらの混合物であると推測される。これらの特徴を有する被覆層は、例えば、後述する正極活物質の製造方法によって効率的に形成される。
【0026】
被覆層はニオブを含有するため電気化学的に活性な傾向があり、被覆層周辺の状況によっては物理的あるいは化学的に崩壊し得る。しかしながら、被覆層に一定量の炭酸イオンを含有させることで、被覆層の崩壊を抑制することができる。炭酸イオンの含有量が多すぎると正極活物質と固体電解質との界面抵抗が上昇する傾向がある。そのため、被覆層における炭酸イオン濃度を、正極活物質中に0.2重量%以上0.4重量%以下とし、好ましくは0.2重量%以上0.3重量%以下とする。炭酸イオンはコア粒子に吸着する二酸化炭素や、被覆層形成時におけるシュウ酸基の分解によって供給されると考えられる。被覆層中の炭酸イオン濃度は、コア粒子の組成、粒径、合成条件、あるいは後述の被覆工程、熱処理工程等の各種条件を調整することによって所望の範囲に調整可能である。
被覆層における炭酸イオン濃度とは、被覆層に含まれる炭酸イオンの含有量を正極活物質中における重量基準の含有率として算出した数値であり、正極活物質中の炭酸イオン含有率を意味する。
【0027】
被覆層に含まれる炭酸イオン濃度は、正極活物質を純水に浸漬し、溶出した炭酸イオンを定量することで測定することができる。
【0028】
被覆層におけるニオブの含有量が所定量以上であると正極活物質と固体電解質との界面抵抗をより十分に低減できる。一方、被覆層のニオブは充放電容量に関わらないので、ニオブの含有量が所定量以下であると、単位重量当たりの充放電容量が増加する傾向がある。これらを考慮すると、好ましいニオブの含有量は、リチウム遷移金属複合酸化物に対して0.05mol%以上5.0mol%以下である。より好ましいニオブの含有量は、リチウム遷移金属複合酸化物に対して0.5mol%以上3.0mol%以下である。
被覆層におけるニオブの含有量は、正極活物質を誘導プラズマ結合(ICP)分析に付することで測定することができる。
【0029】
被覆層はコア粒子の表面に形成される。被覆層の厚みは特に制限されず、目的等に応じて適宜選択すればよい。例えば、所望の炭酸イオン濃度とニオブ含有量が達成できるように被覆層の厚みを選択することができる。
また被覆層は、正極活物質の断面を観察した場合に、コア粒子と明確に区別される態様で形成されていてもよく、コア粒子と被覆層とが明確な層構造を形成せず、連続的に組成が変化する態様で形成されていてもよい。
【0030】
本開示の実施形態に係る正極活物質の製造方法は、シュウ酸の酸化ニオブに対する物質量比(COOH)/Nbが、モル基準で0.01以上0.6以下であるシュウ酸含有酸化ニオブゾルを準備すること(以下、「ゾル調製工程」ともいう)と、リチウム遷移金属複合酸化物を含むコア粒子と前記シュウ酸含有酸化ニオブゾルとを混合して、前記コア粒子の表面に前記シュウ酸含有酸化ニオブゾルが存在するゾル含有粒子を得ること(以下、「被覆工程」ともいう)と、前記ゾル含有粒子を250℃以上500℃以下で熱処理し、前記コア粒子の表面にニオブ及び炭酸イオンを含有する被覆層を形成すること(以下、「熱処理工程」ともいう)と、を含む。以下これらの工程を中心に説明する。
【0031】
[ゾル調製工程]
ゾル調製工程では、シュウ酸の酸化ニオブに対する物質量比(COOH)/Nbが、モル基準で0.01以上0.6以下であるシュウ酸含有酸化ニオブゾルを準備する。シュウ酸含有酸化ニオブゾルは、例えば以下のようにして調製することができる。
水系溶媒に分散された酸化ニオブゾルとシュウ酸水溶液とを混合することで、シュウ酸含有酸化ニオブゾルを得る。酸化ニオブに対するシュウ酸の物質量比(COOH)/Nbが大きいと正極活物質と固体電解質との界面抵抗をより十分低減できる。一方前記物質量比が小さいと被覆層に含有される炭酸イオン濃度を調整し易い傾向がある。これらを考慮し、酸化ニオブに対するシュウ酸の物質量比は、0.01以上0.6以下が好ましく、0.01以上0.5以下がより好ましい。
【0032】
[被覆工程]
被覆工程では、コア粒子と、ゾル調製工程で得られるシュウ酸含有酸化ニオブゾルとを混合し、コア粒子の表面にシュウ酸含有酸化ニオブゾルが存在するゾル含有粒子を得る。混合は、コア粒子を撹拌装置等によって流動させ、そこへシュウ酸含有酸化ニオブゾルを噴霧、滴下等することによって行うことが好ましい。混合中はコア粒子が流動性を失わない様、シュウ酸含有酸化ニオブゾルの添加速度、添加量等を調整する。シュウ酸含有酸化ニオブゾルのコア粒子に対する質量比が小さいと、コア粒子の流動性が混合中、良好に保たれる。一方、前記質量比が大きいと、得られる正極活物質と固体電解質との界面抵抗を十分低減できる。これらを考慮すると、ゾル含有粒子におけるシュウ酸含有酸化ニオブゾルのコア粒子に対する質量比は、0.05以上0.5以下であることが好ましく、0.1以上0.5以下であることがより好ましい。シュウ酸含有酸化ニオブゾル中のニオブ濃度は、これらを考慮して適宜調整すればよい。
【0033】
[熱処理工程]
熱処理工程では、得られたゾル含有粒子を熱処理し、コア粒子の表面に被覆層を形成する。被覆層はコア粒子の表面全体に形成されることが好ましい。この熱処理工程でシュウ酸含有酸化ニオブゾル中のシュウ酸は一部が炭酸イオンに分解され得るが、多くはコア粒子のリチウムと反応してシュウ酸リチウムに変化すると推測される。一方、ニオブは酸化ニオブ、ニオブとコア粒子を構成する元素との複合酸化物、あるいはそれらの混合物に変化すると推測される。熱処理温度が高いとより多くのシュウ酸を炭酸イオンに分解できる。一方、熱処理温度が低いと一定量のシュウ酸を残存させることができる。これらを考慮し、熱処理温度は250℃以上500℃以下とする。好ましい熱処理温度は300℃以上450℃以下である。
【0034】
熱処理工程における雰囲気は特に制限されず、大気雰囲気下であっても、不活性ガス雰囲気下であってもよい。また熱処理時間は、例えば、3時間以上15時間以下であり、3時間以上10時間以下であることが好ましい。
【実施例】
【0035】
以下、実施例等によってより具体的に説明する。
【0036】
[実施例1]
水系溶媒に分散された市販の酸化ニオブゾル及びシュウ酸水溶液を、物質量比(COOH)/Nbがモル基準で0.2となるように混合し、ニオブ濃度が0.47mol/L、密度1.05g/cmのシュウ酸含有酸化ニオブゾルを得た。
【0037】
コア粒子として層状構造を有し、組成が式Li1.15Ni1/3Co1/3Mn1/3で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を用意した。コア粒子1000gを羽根型混合機で撹拌しながら、シュウ酸含有ニオブゾル392gを20分かけて滴下し、ゾル含有粒子を得た。
【0038】
得られたゾル含有粒子を大気雰囲気下400℃で5時間熱処理し、目的の正極活物質を得た。
【0039】
[実施例2]
水系溶媒に分散された市販の酸化ニオブゾル及びシュウ酸水溶液を、物質量比(COOH)/Nbが0.5となるように混合し、ニオブ濃度が0.94mol/L、密度1.03g/cmのシュウ酸含有酸化ニオブゾルを得た。
【0040】
実施例1と同様のコア粒子を用意した。コア粒子1000gを羽根型混合機で撹拌しながら、シュウ酸含有ニオブゾル490gを20分かけて滴下し、ゾル含有粒子を得た。
【0041】
得られたゾル含有粒子を大気雰囲気下400℃で5時間熱処理し、目的の正極活物質を得た。
【0042】
[実施例3]
水系溶媒に分散された市販の酸化ニオブゾル及びシュウ酸水溶液を、物質量比(COOH)/Nbが0.5となるように混合し、ニオブ濃度が0.84mol/L、密度1.05g/cmのシュウ酸含有酸化ニオブゾルを得た。
【0043】
実施例1と同様のコア粒子を用意した。コア粒子1000gを羽根型混合機で撹拌しながら、コア粒子1000gを羽根型混合機で撹拌しながら、シュウ酸含有ニオブゾル700gを20分かけて滴下し、ゾル含有粒子を得た。
【0044】
得られたゾル含有粒子を大気雰囲気下400℃で5時間熱処理し、目的の正極活物質を得た。
【0045】
[比較例1]
実施例1における市販の酸化ニオブゾルを用意した。この酸化ニオブゾルは、ニオブ濃度が0.47mol/L、密度1.05g/cmであった。また、実施例1と同様のコア粒子を用意した。コア粒子1000gを羽根型混合機で撹拌しながら、市販の酸化ニオブゾル390gを20分かけて滴下し、ゾル含有粒子を得た。
【0046】
得られたゾル含有粒子を大気雰囲気下400℃で5時間熱処理し、目的の正極活物質を得た。
【0047】
[比較例2]
水系溶媒に分散された市販の酸化ニオブゾル及びシュウ酸水溶液を、物質量比(COOH)/Nbが1.0となるように混合し、ニオブ濃度が0.46mol/L、密度1.05g/cmのシュウ酸含有酸化ニオブゾルを得た。
【0048】
実施例1と同様のコア粒子を用意した。コア粒子1000gを羽根型混合機で撹拌しながら、シュウ酸含有ニオブゾル399gを20分かけて滴下し、ゾル含有粒子を得た。
【0049】
得られたゾル含有粒子を大気雰囲気下400℃で5時間熱処理し、目的の正極活物質を得た。
【0050】
[比較例3]
熱処理工程における熱処理温度が600℃であった以外は、実施例1と同様にし、目的の正極活物質を得た。
【0051】
<正極活物質の評価>
実施例及び比較例1、2について正極活物質の特性を以下の方法で測定した。
【0052】
[赤外分光分析]
正極活物質粒子について、拡散反射法による赤外分光分析を行った。
【0053】
[炭酸イオンの測定]
正極活物質10gを純水50mLに1時間、室温(25℃)で分散させた後、正極活物質と溶液とを分離した。溶液をWarder法に準じて滴定して炭酸イオンの量を求めた。なお、指示薬は第一段にフェノールフタレイン溶液を、第二段にブロモフェノールブルーを用いた。
【0054】
[ニオブ含有量の測定]
正極活物質について、誘導プラズマ結合(ICP)分析を行い、リチウム遷移金属複合酸化物に対するニオブの含有量を求めた。
【0055】
<電池評価>
実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた正極活物質を用いて、以下のようにして二次電池を作製し、電池評価を行った。
【0056】
[固体電解質作製]
アルゴン雰囲気下で硫化リチウム及び五硫化リンを、その物質量比が7:3となるように秤量し、メノウ乳鉢で混合した。得られた混合物をさらにボールミルによって粉砕混合し、硫化物ガラスを得た。得られた硫化物ガラスを固体電解質として用いた。
【0057】
[正極合剤作製]
正極活物質60重量部、固体電解質36重量部及びVGCF(気相法炭素繊維)4重量部を混合し、正極合剤を得た。
【0058】
[負極作製]
厚さ0.05mmのインジウム箔を直径11.00mmの円形にくり抜き、負極とした。
【0059】
[電池作製]
内径11.00mmの円筒状外型に外径11.00mmの円柱状下型を、外型下部から挿入した。下型の上端は外型の中間に位置に固定した。この状態で外型の上部から下型の上端に固体電解質80mgを投入した。投入後、外径11.00mmの円柱状上型を外型の上部から挿入した。挿入後、上型の上方から90MPaの圧力をかけて、固体電解質を成形し、固体電解質層とした。成形後上型を外型の上部から引き抜き、外型の上部から固体電解質層の上部に正極合剤20mgを投入した。投入後、再度上型を挿入し、今度は360MPaの圧力をかけて正極合剤を成形し、正極層とした。成形後上型を固定し、下型の固定を解除して外型の下部から引き抜き、外型の下部から固体電解質層の下部に負極を投入した。投入後、再度下型を挿入し、下型の下方から150MPaの圧力をかけて負極を成形し、負極層とした。圧力をかけた状態で下型を固定し、上型に正極端子、下型に負極端子を取り付け、全固体二次電池を得た。
【0060】
[放電特性]
電流密度0.195μA/cm、充電電圧4.0Vで定電流定電圧充電を行った。充電後、電流密度0.195μA/cm、放電電圧1.9Vで定電流放電を行い、放電容量Qdを測定した。非水電解液に比べてリチウムイオン伝導性の低い固体電解質を用いた全固体二次電池において、正極活物質と固体電解質との界面抵抗は放電容量に影響する。その為、Qdの高さで界面抵抗の低さを判断した。
【0061】
実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた正極活物質の赤外分光分析スペクトルを図1に示す。また、実施例1〜3及び比較例1〜3における製造条件を表1に、正極活物質の特性及び放電特性を表2に示す。さらに、実施例1及び比較例1、3で得られた正極活物質を用いた全固体二次電池について、放電曲線を図2に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
表1、2及び図1から、(COOH)/Nbを適切に調整したシュウ酸含有ニオブゾルを用い、適切な熱処理温度で熱処理して得られた実施例1〜3の正極活物質は、所定の炭酸イオン濃度と所定の赤外分光スペクトルのピーク(図1の破線部囲み)とを有すことが分かる。その結果、実施例1〜3の正極活物質を用いた全固体二次電池は、比較例1、2の正極活物質を用いた全固体二次電池に比べて放電容量Qdが高くなっている。
【0065】
図1図2より、(COOH)/Nbが少なすぎる比較例1の正極活物質及び熱処理温度が高過ぎる比較例3の正極活物質は、所定の炭酸イオン濃度を満たさず、所定の赤外分光スペクトルのピークも示さないことが分かる。その結果、比較例1、3の正極活物質を用いた全固体二次電池は放電時の平均電圧が低くなっている。これらの結果は、充放電によって被覆層が破壊された結果と推測される。放電時の平均電圧が低いと、全固体二次電池のエネルギー密度が低下するため不利である。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本開示の実施形態に係る正極活物質を用いると、出力特性に優れた全固体二次電池を得ることができる。そのため、得られる全固体二次電池は電気自動車等の大出力且つ高い安全性が求められる機器の動力源として好適に利用可能である。
図1
図2