(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
検査光を、基板と、該基板上に形成された少なくとも1層の薄膜とを有する被検査物の表面に照射しながら走査して、上記検査光の反射光の強度変化から被検査物の表面部の欠陥を検出する欠陥検査方法であって、
被検査物に検査光を第1の入射角範囲から照射して、検査光の第1の反射率を取得する工程と、
上記第1の反射率が所定の反射率より低い場合に、上記第1の入射角範囲と異なる第2の入射角範囲から被検査物に検査光を照射して、検査光の第2の反射率を取得する工程と、
上記第2の反射率が上記第1の反射率より高い場合に、上記第2の入射角範囲の検査光を与える照明方式を設定する工程
とを含み、上記照明方式として、上記入射角範囲が入射角0°を超えて90°未満であり、入射角0°を中心軸とし、検査光学系の対物レンズを介して被検査領域に上記検査光が収束する断面円形リング形状の輪帯照明方式において、周方向に沿って上記円形リング形状の一部が欠落している断面円弧帯形状の変形照明方式を設定することを特徴とする欠陥検査方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
半導体デバイスの継続的な微細化に伴って、フォトリソグラフィ技術の解像度を向上させる技術の開発も積極的になされている。これまで、波長193nmのフッ化アルゴン(ArF)エキシマレーザ光を用いたArFリソグラフィ技術が開発され、半導体デバイスの量産に適用されてきた。また、より短波長化した波長13.5nmのEUV(Extreme Ultra Violet)光を使用したリソグラフィ技術(EUVL:Extreme Ultra Violet Lithography)の開発もなされている。しかし、量産技術としての取扱いが依然として難しい状況から、ArFリソグラフィ技術を継続して使用し、露光プロセスや加工プロセスを複数回組み合わせるマルチパターニングというプロセスを採用することにより、最終的には露光波長と比べて十分に小さい寸法のパターンを形成する技術が、精力的に検討されている。このプロセスの場合、1枚のフォトマスクで1回の露光で形成する最小パターンピッチは、縮小投影で寸法を1/4とするフォトマスク(4倍マスク)上で400〜600nm程度であるが、マルチパターニングを前提とするので、転写パターンの形状の忠実性やパターンエッジ位置の精度を向上させる必要があり、フォトマスク上に、単独では転写されない微細な補助パターンを多数形成しなければならない。この補助パターンの寸法は、フォトマスク上で100nm以下に達する。そのため、このような精度の高いパターン形成では、加工に用いるレジスト膜を、従来の厚さより薄くすることが必要である。そして、レジスト膜及び加工される光学膜においては、パターンの形成に対して致命的となるピンホール欠陥などの欠陥をすべて検出する必要がある。
【0007】
上記の特許文献1〜4に記載されている検査装置は、いずれも光学的な欠陥検出法を採用した装置である。光学的な欠陥検出法は、比較的短時間での広域欠陥検査を可能とし、光源の短波長化等により微細欠陥の精密検出も可能となるという利点がある。しかし、レーザ光のような波長分布の狭い照明光を検査光として用いると、検査のために用いる反射光の強度が膜の構造に依存して変化する。特にレジスト膜は、検査光に対してほぼ透明である場合が多く、膜厚によっては、検査光の反射率が1%未満と極めて低くなる。このような場合、十分な反射光強度を得ることができず、精度の高いパターン形成においては致命的な欠陥となる微小な欠陥を検出することが困難である。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、被検査物の表面部の欠陥検査において、被検査物、例えば、フォトマスクブランクなどのマスクブランクの表面部に形成されている薄膜などの構造や光学特性により、十分な反射率が得られない場合であっても、検査光の反射光の光量を確保して欠陥検出を可能とする欠陥検査方法、及びこの検査方法に好適な検査光の照射方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、検査光を被検査物の表面に照射したときの反射率は、検査光の入射角によって変化することから、検査光を一の入射角から照射した場合に、反射率が低すぎて、光量が不足して微小な欠陥の検出ができない場合であっても、検査光を他の入射角から照射すれば、十分な反射率と光量が得られ、微小な欠陥であっても検出が可能となることを見出した。
【0010】
そして、本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、検査光を被検査物の表面に照射して、検査光の反射光の強度を測定する際、例えば、検査光を、基板と、基板上に形成された少なくとも1層の薄膜とを有する被検査物の表面に照射しながら走査して、検査光の反射光の強度変化から被検査物の表面部の欠陥を検出する際に、
(1)被検査物に検査光を第1の入射角範囲から照射して、検査光の第1の反射率を取得し、第1の反射率が所定の反射率より低い場合に、第1の入射角範囲と異なる第2の入射角範囲から被検査物に検査光を照射して、検査光の第2の反射率を取得し、第2の反射率が第1の反射率より高い場合に、第2の入射角範囲を与える検査光の照明方式を設定して、又は
(2)被検査物に検査光を照射して、検査光の入射角に対する反射率分布を取得し、この反射率分布に基づき、反射率分布において反射率の高い入射角範囲を選定して、検査光が選定された入射角範囲から照射される検査光の照明方式を設定して、
検査光を被検査物に照射すれば、十分な反射率と光量が得られ、被検査物の表面部の構造や光学特性、例えば、被検査物の表面部に形成されている薄膜の構造や光学特性により、十分な反射率が得られない場合であっても、検査光の反射光の光量を確保でき、被検査物の表面部の欠陥を高い感度で検出できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0011】
従って、本発明は、以下の欠陥検査方法及び検査光の照射方法を提供する。
請求項1:
検査光を、基板と、該基板上に形成された少なくとも1層の薄膜とを有する被検査物の表面に照射しながら走査して、上記検査光の反射光の強度変化から被検査物の表面部の欠陥を検出する欠陥検査方法であって、
被検査物に検査光を第1の入射角範囲から照射して、検査光の第1の反射率を取得する工程と、
上記第1の反射率が所定の反射率より低い場合に、上記第1の入射角範囲と異なる第2の入射角範囲から被検査物に検査光を照射して、検査光の第2の反射率を取得する工程と、
上記第2の反射率が上記第1の反射率より高い場合に、上記第2の入射角範囲の検査光を与える照明方式を設定する工程
とを含み、上記照明方式として、上記入射角範囲が入射角0°を超えて90°未満であり、入射角0°を中心軸とし、検査光学系の対物レンズを介して被検査領域に上記検査光が収束する断面円形リング形状の輪帯照明方式において、周方向に沿って上記円形リング形状の一部が欠落している断面円弧帯形状の変形照明方式を設定することを特徴とする欠陥検査方法。
請求項
2:
被検査物の検査面の方向に沿って上記被検査物を移動できるステージに被検査物を載置する工程と、
上記設定された照明方式で、検査光を、被検査物の表面を走査しながら照射する工程と、
検査光が照射された被検査領域の反射光の光量を、検査光学系の対物レンズを介して上記被検査領域の検査信号として収集する工程と、
上記検査信号が予め設定した閾値と交差したときを欠陥の検知として、欠陥を検出する工程と、
検出された欠陥の情報を記録する工程
とを含むことを特徴とする請求項
1に記載の欠陥検査方法。
請求項
3:
上記被検査物が、半導体回路パターン転写用マスクの製造に用いられるマスクブランクであることを特徴とする請求項1
又は2に記載の欠陥検査方法。
請求項
4:
上記マスクブランクが、最表層としてフォトレジスト膜を有するマスクブランクであり、上記フォトレジスト膜の欠陥を検査することを特徴とする請求項
3に記載の欠陥検査方法。
請求項
5:
上記検査光の波長が210〜550nmであることを特徴とする請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の欠陥検査方法。
請求項
6:
検査光を被検査物の表面に照射して、上記検査光の反射光の強度を測定するための検査光の照射方法であって、
被検査物に検査光を第1の入射角範囲から照射して、検査光の第1の反射率を取得する工程と、
上記第1の反射率が所定の反射率より低い場合に、上記第1の入射角範囲と異なる第2の入射角範囲から被検査物に検査光を照射して、検査光の第2の反射率を取得する工程と、
上記第2の反射率が上記第1の反射率より高い場合に、上記第2の入射角範囲の検査光を与える照明方式を設定する工程
とを含み、上記照明方式として、上記入射角範囲が入射角0°を超えて90°未満であり、入射角0°を中心軸とし、検査光学系の対物レンズを介して被検査領域に上記検査光が収束する断面円形リング形状の輪帯照明方式において、周方向に沿って上記円形リング形状の一部が欠落している断面円弧帯形状の変形照明方式を設定することを特徴とする検査光の照射方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被検査物の表面部の構造や光学特性、例えば、被検査物の表面部に形成されている薄膜の構造や光学特性により、十分な反射率が得られない場合であっても、検査光の反射光の光量を確保して、被検査物の表面部の欠陥を高い感度で検出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
まず、フォトマスクブランクからフォトマスクを製造する工程を説明し、フォトマスクブランクの欠陥の影響を説明する。
図1は、フォトマスクブランクからフォトマスクを製造する工程の一例の説明図であり、製造工程の各段階におけるフォトマスクブランク、中間体又はフォトマスクの断面図である。フォトマスクブランクには、透明基板上に、少なくとも1層の薄膜が形成されている。
【0015】
図1(A)に示されるフォトマスクブランク500では、透明基板501上に、遮光膜、ハーフトーン位相シフト膜等の位相シフト膜などとして機能する光学薄膜502が形成され、光学薄膜502の上に、光学薄膜502のハードマスク膜(加工補助薄膜)503が形成されている。このようなフォトマスクブランクからフォトマスクを製造する場合、まず、ハードマスク膜503の上に、その加工のためのレジスト膜504が形成される(
図1(B))。次に、電子線描画法などによるリソグラフィ工程を経て、レジスト膜504からレジストパターン504aを形成し(
図1(C))、レジストパターン504aをエッチングマスクとして、下層のハードマスク膜503を加工し、ハードマスク膜パターン503aを形成して(
図1(D))、レジストパターン504aを除去する(
図1(E))。更に、ハードマスク膜パターン503aをエッチングマスクとして、下層の光学薄膜502を加工すると、光学薄膜パターン502aが形成され、その後、ハードマスク膜パターン503aを除去すると、フォトマスク500aが得られる(
図1(F))。
【0016】
フォトマスクブランクの薄膜にピンホールなどの欠陥が存在すると、最終的にフォトマスク上のマスクパターンの欠陥の原因となる。典型的なフォトマスクブランクの欠陥の例を
図2に示す。
図2(A)は、光学薄膜502の高精度な加工を行うために、その上に形成したハードマスク膜503にピンホール欠陥dが存在するフォトマスクブランク500の例を、また、
図2(B)は、光学薄膜502自体にピンホール欠陥dが存在するフォトマスクブランク500の例を示す図である。更に、
図2(C)は、
図1(A)に示されるフォトマスクブランク500上に形成されたレジスト膜504にピンホール欠陥dが存在する例を示す図である。
【0017】
いずれのフォトマスクブランクにおいても、このようなフォトマスクブランクから、
図1に示される製造工程によりフォトマスクを製造した場合、
図2(D)に示されるフォトマスク500aのように、フォトマスクブランク由来又はレジスト膜由来の欠陥dが光学薄膜パターン502aに存在するフォトマスクとなってしまう。そして、この欠陥dはフォトマスクを用いた露光において、パターン転写エラーを引き起こす原因となるため、フォトマスクブランク及びレジスト膜の欠陥は、フォトマスクブランクを加工する前に、フォトマスクブランクの段階やフォトマスクブランクにレジスト膜を形成した段階で検出して、欠陥を有するものを排除したり、欠陥の修正を施したりする必要がある。このような理由から、フォトマスクブランクで用いられる光学薄膜、加工補助薄膜、レジスト膜などの薄膜に存在するピンホールなどの欠陥、特に、半導体デバイスの微細化に伴い、必要となった、より微細なサイズの欠陥を、光学的な手法により、効果的に検出できる方法が望まれる。
【0018】
図3は、フォトマスクブランクなどのマスクブランクの欠陥検査装置の基本構成の一例を示す図である。
図3に示されるように、検査光学系は、光源ILS、ビームスプリッタBSP、対物レンズOBL、光学膜が形成されたマスクブランクMB、及び検出器SEを備えている。本発明においては、検査光として、波長が210〜550nm程度の光、例えば、DUV光(波長が210〜300nm程度の光)を用いることが好適であり、光源ILSは、このような光を射出することができるように構成されており、この光源ILSから射出された検査光BM1は、照明領域制御用絞りAP1やレンズ群L1,L2を介してビームスプリッタBSPに入射される。そして、ビームスプリッタBSPで反射させて折り曲げられ、対物レンズOBLを通してマスクブランクMBの所定領域に照射される。
【0019】
マスクブランクMBに照射された検査光BM1は反射し、反射光BM2は対物レンズOBLで集められるとともに、ビームスプリッタBSP、開口絞りAP2、レンズL3を透過して検出器SEの受光面に到達する。このとき、検出器SEの受光面にマスクブランクMBの表面の拡大検査像が結像されるように、検出器SEの位置が調整されている。検出器SEで受光された拡大検査像を解析することにより、マスクブランクMB上に存在する欠陥を検出できる。検出器SEで収集されたデータは、検査画像データ格納部2に格納され、後述する演算処理を施される。そして、演算された欠陥情報がメモリ3に格納される。
【0020】
マスクブランクMBはマスクステージSTGに載置され、マスクステージSTGの移動と位置決めにより、欠陥が対物レンズOBLで検査できる位置に位置決めされる。この位置決め、検査画像の収集、および各種演算処理は、CPUを含むシステム制御部1で統括制御される。システム制御部1は、ステージ駆動手段5を介してマスクステージSTGの位置制御を行うと同時に、照明絞り駆動手段6を介して照明領域制御用絞りAP1を制御して種々の照明条件を実現し、また、開口絞り駆動手段7を介して開口絞りAP2を制御して種々の瞳フィルタを選択することができる。また、この欠陥検査装置は、モニタ4を備えており、欠陥の観察像を表示する。
【0021】
図4は、反射光を検出器で捉えた検査信号の例を示す図である。反射光の強度は、被検査物の表面部の構成、例えば、マスクブランク表面の光学膜の構成によって異なるが、いずれの場合も、表面に欠陥が存在すると、欠陥近傍で変化する。
図4(A)に示される曲線SIG−11は、欠陥部分の信号強度レベルが欠陥周辺部の強度レベルBGLより低い場合の検査信号強度の変化を、
図4(B)に示される曲線SIG−12は、欠陥部分の信号強度レベルが欠陥周辺部の信号強度レベルBGLより高い場合の変化を、各々示している。
【0022】
図5は、レジスト膜厚と検査光の反射率との関係を示す図である。マスクブランクのマスクパターン加工のために設けられるレジスト膜の欠陥検査を行う場合を例に挙げると、レジスト膜は、光学的には反射防止膜として作用する場合が多いため、例えば、石英基板上に、MoSi系材料のハーフトーン位相シフト膜と、Cr系材質の遮光膜との2層の薄膜が形成され、その上に、更に、最表層としてレジスト膜(フォトレジスト膜)が形成されたマスクブランクに対し、例えば、入射角範囲が入射角0°を含み、入射角0°を中心軸とし、検査光学系の対物レンズを介して被検査領域に検査光が収束する断面円形状の単純照明方式により波長532nmの検査光を照射して、検査光の反射率とレジスト膜厚との関係を調べると、
図5に示される曲線REFC1のように、レジスト膜の薄膜干渉に起因して、膜厚が80nm付近で、反射率が1%以下まで低下する。この反射率は、
図4に示される検査光の検査信号レベルと相関するため、反射率が極端に低くなると、検査信号の収集が困難となり、検査を継続して行うことができなくなる。レジスト膜の膜厚は、マスクブランクの加工の観点から設定され、レジストパターンを用いて加工する対象によって80〜90nmが好ましい場合があるが、この例においては、このような場合に正確な欠陥検査が難しくなる。
【0023】
本発明の欠陥検査方法では、検査光を、被検査物、例えば、基板と、基板上に形成された少なくとも1層の薄膜とを有する被検査物の表面に照射しながら走査して、検査光の反射光の強度変化から被検査物の表面部の欠陥を検出する。
【0024】
本発明においては、検査光を被検査物の表面に照射して、検査光の反射光の強度を測定する際、被検査物に検査光を第1の入射角範囲から照射して、検査光の第1の反射率を取得し、得られた第1の反射率が所定の反射率より低い場合に、第1の入射角範囲と異なる第2の入射角範囲から被検査物に検査光を照射して、検査光の第2の反射率を取得し、第2の反射率が第1の反射率より高い場合に、第2の入射角範囲の検査光を与える照明方式を設定することが好適である。そして、本発明の欠陥検査方法においては、この検査光の照射方法を適用すること、即ち、被検査物に検査光を第1の入射角範囲から照射して、検査光の第1の反射率を取得し、得られた第1の反射率が所定の反射率より低い場合に、第1の入射角範囲と異なる第2の入射角範囲から被検査物に検査光を照射して、検査光の第2の反射率を取得し、第2の反射率が第1の反射率より高い場合に、第2の入射角範囲の検査光を与える照明方式を設定することが好適である。
【0025】
本発明の検査光の照射方法及び本発明の欠陥検査方法における検査光の照射方法の工程について、
図6を示して、更に具体的に説明する。
図6は検査光の照射方法の工程の一例のフローチャートである。まず、欠陥検査などにおいて、被検査物に検査光を第1の入射角範囲から照射して、検査光の第1の反射率を取得する(S101)。これは、例えば、検査装置の標準の照明条件のもとで検査光を照射して、反射率を確認する方法が採用できる。次に、第1の反射率が、所定の反射率、具体的には、検査装置で欠陥の検出が可能な反射率と比較して、所定の反射率より低いか否かを判断する(S102)。次に、第1の反射率が所定の反射率より低い場合に、第1の入射角範囲と異なる第2の入射角範囲から被検査物に検査光を照射して、検査光の第2の反射率を取得する(S103)。次に、第2の反射率を第1の反射率と比較して、第2の反射率が第1の反射率より高いか否かを判断する(S104)。第2の反射率が第1の反射率より高い場合に、照明条件(入射角範囲)を第2の入射角範囲を与える照明条件に変更し、検査光の照明方式を設定する(S105)。なお、第1の反射率が所定の反射率以上である場合には、第1の入射角範囲を与える照明条件をそのまま適用することが可能であり、本発明の検査光の照射方法を適用しても、適用しなくてもよい。一方、設定した第2の入射角範囲のいずれにおいても、第2の反射率が、第1の反射率と同じ又は第1の反射率より低い場合には、本発明の検査光の照射方法は適用されない。
【0026】
また、本発明においては、検査光を被検査物の表面に照射して、検査光の反射光の強度を測定する際、被検査物に検査光を照射して、検査光の入射角に対する反射率分布を取得し、この反射率分布に基づき、反射率分布において反射率の高い入射角範囲を選定して、選定された入射角範囲の検査光を与える照明方式を設定することも好適である。そして、本発明の欠陥検査方法においては、この検査光の照射方法を適用すること、即ち、被検査物に検査光を照射して、検査光の入射角に対する反射率分布を取得し、この反射率分布に基づき、反射率分布において反射率の高い入射角範囲を選定して、選定された入射角範囲の検査光を与える照明方式を設定することも好適である。
【0027】
図7は、上述した膜厚が80nmのレジスト膜に対する検査光の入射角と反射率との関係を示す図である。このレジスト膜に対する検査光の反射率は、検査光の入射角の変化に応じて曲線REFC2のように変化する。そのため、この場合、入射角が低角度側の範囲を検査光として用いずに、入射角が高角度側の範囲を検査光として用いることにより、反射率が向上するので、欠陥の検出に十分な、検査信号の強度を得ることができる。また、このような入射角が高角度側の範囲のみを検査光として用いる場合は、マスクブランクにダメージを与えることが懸念される高出力の検査光、即ち、入射角0°の成分を照射しない点においても有利である。
【0028】
第1の反射率及び第2の反射率並びに反射率分布は、欠陥検査又は測定に供する被検査物と同一態様の他の被検査物に検査光を照射して予め取得しても、欠陥検査又は測定に供する被検査物、例えば、基板及びび薄膜を光学モデル化して、光学シミュレーションにより予め取得してもよい。
【0029】
次に、照明方式を具体的な例を挙げて説明する。
図8は、
図3に示される検査装置のうち、対物レンズOBLとマスクブランクMBの近傍を示す図であり、
図8(B)及び
図8(D)は、各々、
図8(A)及び
図8(C)の対物レンズOBL近傍の検査光の横断面図である。なお、
図8中、ILM1,ILM2は検査光、NAは対物レンズの開口範囲を示す。
図8(A)及び
図8(B)に示される照明方式は、入射角範囲が入射角0°を含み、入射角0°を中心軸とし、検査光学系の対物レンズを介して被検査領域(照明領域)に検査光が収束する断面円形状の単純照明方式である。この場合の入射角の上限は、対物レンズの開口範囲より狭く設定される。上述した膜厚80nmのレジスト膜の場合、この単純照明方式を採用して、検査光のマスクブランクMBへの入射角を、例えば、最小値を0°、最大値を55°として、これを第1の入射角範囲とした場合、
図7に示されるように、第1の入射角範囲の検査光の第1の反射率は1〜数%であるため、欠陥検査に有効な反射率が得られない。
【0030】
これに対して、
図8(C)及び
図8(D)に示される照明方式は、入射角範囲が入射角0°を超えて90°未満であり、入射角0°を中心軸とし、検査光学系の対物レンズを介して被検査領域(照明領域)に検査光が収束する断面円形リング形状の輪帯照明方式である。この場合の入射角の上限は、対物レンズの開口範囲と一致させること、換言すれば、対物レンズの開口数に対応する角度とすることができる。上述した膜厚80nmのレジスト膜の場合、この輪帯照明方式を採用して、検査光のマスクブランクMBへの入射角を、例えば、最小値を55°、最大値を68°として、第2の入射角範囲とした場合、
図7に示されるように、第2の入射角範囲の検査光の第2の反射率は数〜十数%であるため、欠陥検査に有効な反射率が得られる。
【0031】
図9は、最表層として膜厚80nmのレジスト膜(フォトレジスト膜)が形成された上述したマスクブランクに対しレジスト膜に存在する幅が60nmのピンホール欠陥を検査したときの欠陥検査画像を光学シミュレーションで求めた結果を示す図である。これは、
図3に示される欠陥検査装置において、検査波長を532nmとし、照明領域制御用絞りAP1を制御して通常の明視野照明を採用し、開口絞りAP2は全開にして、対物レンズの開口数=0.95なる結像光学条件を指定した場合のシミュレーション結果である。
図9(A)は、単純照明方式を適用した場合の検査信号の強度分布、
図9(B)は、輪帯照明方式を適用した場合の検査信号の強度分布を示す。また、
図9(C)は、
図9(A)におけるA−A’線に沿った検査信号強度SIG−21、及び
図9(B)におけるB−B’線に沿った検査信号強度SIG−22を示す。検査信号強度SIG−21とSIG−22とを比較すると、両者間で欠陥部分における検査信号強度の変化量にはほとんど差が無いものの、検査用反射光の強度レベルは向上する。その結果、欠陥検査画像の光電変換により十分な欠陥検出ができる検査信号を確保できることがわかる。
【0032】
本発明においては、上述した輪帯照明方式を変形した照明方式を適用することも可能である。
図10は、
図3に示される検査装置のうち、対物レンズOBLとマスクブランクMBの近傍を示す図であり、
図10(B)は、
図10(A)の対物レンズOBL近傍の検査光の横断面図である。なお、
図9中、ILM3は検査光、NAは対物レンズの開口範囲を示す。
図10(A)及び
図10(B)に示される照明方式は、入射角範囲が入射角0°を超えて90°未満であり、入射角0°を中心軸とし、検査光学系の対物レンズを介して被検査領域(照明領域)に検査光が収束する断面円形リング形状の輪帯照明方式において、周方向に沿って円形リング形状の一部が欠落している断面円弧帯形状の変形照明方式である。特に、
図10に示される左右対称で2領域に分割された照明方式は、ダイポール照明方式とも呼ばれる。この場合の入射角の上限は、対物レンズの開口範囲と一致させること、換言すれば、対物レンズの開口数に対応する角度とすることができる。上述した膜厚80nmのレジスト膜の場合、この変形照明方式を採用して、検査光のマスクブランクMBへの入射角を、例えば、最小値を55°、最大値を68°とした場合、
図7に示されるように、この入射角範囲の検査光の反射率は数〜十数%であるため、欠陥検査に有効な反射率が得られる。
【0033】
図11は、最表層として膜厚80nmのレジスト膜(フォトレジスト膜)が形成された上述したマスクブランクに対しレジスト膜に存在する幅が60nmのピンホール欠陥を検査したときの欠陥検査画像を光学シミュレーションで求めた結果を示す図であり、検査光が照射される面の欠陥の中心を通る一方向に沿った検査信号強度を示す。検査波長、照明領域制御用絞りAP1、開口絞りAP2及び対物レンズの開口数は、上述した単純照明方式及び輪帯照明方式の場合と同じ条件である。
図11中、SIG−23は、
図8(C)及び
図8(D)に示される輪帯照明方式を適用した場合の検査信号強度、SIG−24は、
図10に示されるダイポール照明方式を適用した場合の検査信号強度を示す。なお、
図11は、信号強度の変化をわかり易くするために縦軸を拡大して示している。検査信号強度SIG−23とSIG−24とを比較すると、ダイポール照明方式による欠陥部分における検査信号強度の変化量は、輪帯照明方式による欠陥部分における検査信号強度の変化とほぼ同等であるが、欠陥部分における信号の変化がより急峻になっているので、例えば微分信号を生成すると、より信頼度の高い欠陥検査を行なえることがわかる。
【0034】
なお、上述した例においては、検査対象であるレジスト膜の検査光の反射率が、低角度側で低く、高角度側で高い場合を示したが、検査対象によっては、低角度側で高く、高角度側で低い場合もあり得る。そのような場合には、第1の入射角範囲、及び反射率分布において反射率の低い入射角範囲が、高角度側、第2の入射角範囲、及び反射率分布において反射率の高い入射角範囲が、低角度側となり、検査光が、低角度側から被検査領域に照射されるように、検査光の照明方式を設定すればよく、その場合、上述した単純照明方式を設定することも可能である。検査光の入射角の調整や設定は、例えば、
図3に示される検査装置においては、照明領域制御用絞りAP1の絞り形状を変更することにより実現でき、必要に応じて光源LISの出力を調整してもよい。
【0035】
本発明の欠陥検査方法は、上述した照明方法を適用して実施することが好適である。上述した照明方法を適用した欠陥検査方法として具体的には、被検査物の検査面の方向に沿って被検査物を移動できるステージに被検査物を載置する工程と、上述した照明方法において設定された照明方式で、検査光を、検査物の表面を走査しながら照射する工程と、検査光が照射された被検査領域の反射光の光量を、検査光学系の対物レンズを介して被検査領域の検査信号として収集する工程と、検査信号が予め設定した閾値と交差したときを欠陥の検知として、欠陥を検出する工程と、検出された欠陥の情報を記録する工程とを有する方法により実施することができる。
【0036】
このような欠陥検査方法の工程について、
図12を示して、更に具体的に説明する。
図12は欠陥検査方法の工程の一例のフローチャートである。まず、上述した検査光の照明方法を実施して、検査光の照明方式を設定する(S111)。次に、検査光学系を所定の条件に設定する(S112)。次に、被検査物をステージに載置する(S113)。被検査物は、複数の被検査物を収納できる収納容器に収納して検査装置にセットすることができ、その場合、被検査物を順に1つずつステージに載置すればよい。次に、通常の検査装置の操作により、被検査物の欠陥検査を実施する。具体的には、まず、設定された照明方式で、検査光を被検査物の表面を走査しながら照射し(S114)、検査光が照射された被検査領域の反射光の光量を、検査光学系の対物レンズを介して被検査領域の検査信号として収集し(S115)、検査信号が予め設定した閾値と交差したときを欠陥の検知として、欠陥を検出する(S116)。そして、検出された欠陥の情報を記録する(S117)。被検査物を、複数の被検査物を収納できる収納容器に収納して検査装置にセットした場合は、被検査物を入れ替えて、S113〜S117工程を繰り返せばよく、入れ替えた被検査物が異種の場合は、S111〜S117工程を繰り返して、被検査物に応じて、S111工程において検査光の照明方式、S112工程において検査光学系の条件を、各々設定すればよい。
【0037】
本発明は、半導体回路パターン転写用マスクの製造に用いられるフォトマスクブランクなどのマスクブランクを対象とすることができる。マスクブランクとしては、最表層としてフォトレジスト膜などのレジスト膜を有するマスクブランクが好適であり、本発明により、レジスト膜の欠陥、特に、レジスト膜のピンホール欠陥を検査することができる。本発明の欠陥検査方法を、マスクブランクの欠陥検査に適用することにより、欠陥検査方法で検査して得られた欠陥の有無の情報に基づいて、マスクブランクを選別することができる。また、本発明によれば、欠陥の有無の情報、特に、所定のサイズより大きい欠陥が存在しないという情報が得られるので、欠陥検査方法で得られた欠陥の情報は、検査票を付帯させるなどの方法により、マスクブランクに付与することができる。更に、マスクブランクに付与された情報に基づいて、欠陥を含まないマスクブランクを選別することもできる。
【0038】
なお、上述した例においては、被検査物として、基板上に形成されたレジスト膜の欠陥を検査する場合を説明したが、検査対象はレジスト膜に限られず、光学薄膜、加工補助膜などの様々な薄膜を対象とすることができ、膜の積層構造において、最上層として形成されている膜の欠陥検査として、本発明を適用することができる。本発明は、特に、検査対象の膜が検査光に対して反射防止膜として作用する場合に特に好適である。本発明によれば、従来、反射光強度が不足して検査が困難であった薄膜であっても十分な反射光量を確保して欠陥検査をすることができ、欠陥検査が可能な膜の対象が広がる。
【0039】
以上のように、マスクブランクの表面に存在する欠陥の検査方法を説明したが、その光学的な原理を考慮すれば、本発明は、被検査体として、マスクブランクの代わりに、例えば、各種の金属膜等が形成されている半導体ウエハ、基板上に各種の金属膜や光学薄膜が形成された記録媒体などが適用し得ること、表面にピンホール欠陥のような凹陥部を凹欠陥として有する被検査体、表面に凸欠陥を有する被検査体などに、本発明の欠陥検査方法が好適に適用し得ることは容易に理解される。