特許第6394498号(P6394498)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6394498
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】黒鉛被覆粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/18 20060101AFI20180913BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20180913BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20180913BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20180913BHJP
【FI】
   C01B33/18 C
   H01M4/36 C
   H01M4/36 E
   H01M4/587
   H01M4/48
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-108348(P2015-108348)
(22)【出願日】2015年5月28日
(65)【公開番号】特開2016-222475(P2016-222475A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2017年5月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079304
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100114513
【弁理士】
【氏名又は名称】重松 沙織
(74)【代理人】
【識別番号】100120721
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 克成
(74)【代理人】
【識別番号】100124590
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100157831
【弁理士】
【氏名又は名称】正木 克彦
(72)【発明者】
【氏名】福岡 宏文
(72)【発明者】
【氏名】田村 行雄
【審査官】 浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−047404(JP,A)
【文献】 特開2014−139948(JP,A)
【文献】 特開2015−095342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00−33/193
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素含有物の表面が黒鉛で被覆処理された黒鉛被覆粒子の製造方法であって、黒鉛被覆処理がロータリーキルン装置を用いたCVD処理であり、珪素又は一般式SiOx(0.5≦x<1.5)で表される酸化珪素を、有機物ガス及び/又は蒸気中、500〜1,300℃で、ロータリーキルン内面積当たりの黒鉛被覆速度0.02〜0.10kg/hr・m2でCVD処理することを特徴とし、上記黒鉛被覆粒子が、ラマンスペクトルにおいて500cm-1に現れる珪素のピークIsiと、1,580cm-1に現れるグラファイトのピークIGの強度比Isi/IGが0〜1.0である上記黒鉛被覆粒子の製造方法。
【請求項2】
黒鉛被覆粒子の平均粒子径が0.1〜30μm、BET比表面積が0.3〜30m2/g、被覆炭素量が0.5〜40質量%である請求項1記載の黒鉛被覆粒子の製造方法。
【請求項3】
ロータリーキルン装置が、バッチ式ロータリーキルン装置である請求項1又は2記載の黒鉛被覆粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池活物質として、負極材に用いた際に、高い充放電容量及び良好なサイクル特性を有する黒鉛被覆粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型の電子機器、通信機器等の著しい発展に伴い、経済性と機器の小型化、軽量化の観点から、高エネルギー密度の二次電池が強く要望されている。従来、この種の二次電池の高容量化策として、例えば、負極材料にV、Si、B、Zr、Sn等の酸化物及びそれらの複合酸化物を用いる方法(特許文献1:特開平5−174818号公報、特許文献2:特開平6−60867号公報他)、溶融急冷した金属酸化物を負極材として適用する方法(特許文献3:特開平10−294112号公報)、負極材料に酸化珪素を用いる方法(特許文献4:特許第2997741号公報)、負極材料にSi22O及びGe22Oを用いる方法(特許文献5:特開平11−102705号公報)等が知られている。また、負極材に導電性を付与する目的として、SiOを黒鉛とメカニカルアロイング後、炭化処理する方法(特許文献6:特開2000−243396号公報)、珪素粒子表面に化学蒸着法により炭素層を被覆する方法(特許文献7:特開2000−215887号公報)、酸化珪素粒子表面に化学蒸着法により炭素層を被覆する方法(特許文献8:特開2002−42806号公報)、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料の表面を黒鉛被膜で被覆する方法としてローラーハースキルン、ロータリーキルン等の連続炉で行う方法(特許文献9:特開2013−8654号公報)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−174818号公報
【特許文献2】特開平6−60867号公報
【特許文献3】特開平10−294112号公報
【特許文献4】特許第2997741号公報
【特許文献5】特開平11−102705号公報
【特許文献6】特開2000−243396号公報
【特許文献7】特開2000−215887号公報
【特許文献8】特開2002−42806号公報
【特許文献9】特開2013−8654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の方法では、充放電容量が上がり、エネルギー密度が高くなるものの、サイクル性が不十分であったり、市場の要求特性には未だ不十分であったりし、必ずしも満足でき得るものではなかった。このことから、さらなる向上が望まれていた。
【0005】
特に、特許第2997741号公報では、酸化珪素をリチウムイオン二次電池負極材として用い、高容量の電極を得ているが、本発明者らがみる限りにおいては、未だ初回充放電時における不可逆容量が大きかったり、サイクル性が実用レベルに達していなかったりし、改良する余地がある。また、負極材に導電性を付与した技術についても、特開2000−243396号公報では、固体と固体の融着であるため、均一な炭素被膜が形成されず、導電性が不十分であるといった問題があり、特開2000−215887号公報の方法においては、均一な炭素被膜の形成が可能となるものの、Siを負極材として用いているため、リチウムイオンの吸脱着時の膨張・収縮があまりにも大きすぎて、結果として実用に耐えられず、サイクル性が低下するためにこれを防止するべく充電量の制限を設けなくてはならない。特開2002−42806号公報の方法においては、微細な珪素結晶の析出、炭素被覆の構造及び基材との融合が不十分であることより、サイクル性の向上は確認されるも、充放電のサイクル数を重ねると徐々に容量が低下し、一定回数後に急激に低下するという現象があり、二次電池用としてはまだ不十分であるといった問題があった。また、特開2013−8654号公報の方法においては、生産性は上がるものの、長時間運転を行った場合、炉心管内壁へ材料の付着が生ずることで伝熱性が低下し、運転初期と後期の品質バラツキが生じたり、運転安定性が低下する問題があった。
【0006】
リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池負極材として、充放電容量が現在主流であるグラファイト系のものと比較して、その数倍の容量であることから期待されている半面、繰り返しの充放電による性能低下が大きなネックとなっている珪素系物質の電池特性を改善する方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、比較的高容量な珪素含有物の表面を黒鉛被膜で被覆することで、著しい電池特性の向上が見られることを確認すると共に、同時に単なる黒鉛被覆では市場の要求特性に応えられないことを認識した。そこで、本発明者らはさらなる特性向上を目指し詳細検討を行った結果、黒鉛被覆処理を適切な条件にてロータリーキルンで行うことで、均一な黒鉛被膜が形成され、得られた黒鉛被覆粒子を、

リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池負極材として用いることで、市場の要求する特性レベルに到達し得ることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0008】
従って、本発明は下記発明を提供する。
[1].珪素含有物の表面が黒鉛で被覆処理された黒鉛被覆粒子の製造方法であって、黒鉛被覆処理がロータリーキルン装置を用いたCVD処理であり、珪素又は一般式SiOx(0.5≦x<1.5)で表される酸化珪素を、有機物ガス及び/又は蒸気中、500〜1,300℃で、ロータリーキルン内面積当たりの黒鉛被覆速度0.02〜0.10kg/hr・m2でCVD処理することを特徴とし、上記黒鉛被覆粒子が、ラマンスペクトルにおいて500cm-1に現れる珪素のピークIsiと、1,580cm-1に現れるグラファイトのピークIGの強度比Isi/IGが0〜1.0である上記黒鉛被覆粒子の製造方法。
[2].黒鉛被覆粒子の平均粒子径が0.1〜30μm、BET比表面積が0.3〜30m2/g、被覆炭素量が0.5〜40質量%である[1]記載の黒鉛被覆粒子の製造方法。
[3].ロータリーキルン装置が、バッチ式ロータリーキルン装置である[1]又は[2]記載の黒鉛被覆粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のロータリーキルンを用いたCVD処理を含む製造方法によれば、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池負極材として用いた際に、高い充放電容量及び良好なサイクル特性を有する黒鉛被覆粒子を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の製造方法は、黒鉛被覆処理がロータリーキルンを用いたCVD処理である、ラマンスペクトルにおいて500cm-1に現れる珪素のピークIsiと、1,580cm-1に現れるグラファイトのピークIGの強度比Isi/IGが0〜2.0である黒鉛被覆粒子の製造方法である。
【0011】
まず、得られた黒鉛被覆粒子について説明する。
[珪素含有物の表面が、黒鉛で被覆処理された黒鉛被覆粒子]
黒鉛で被覆されたものは、容量の大きい珪素を含む珪素含有物であり、例えば、珪素、酸化珪素、炭化珪素、窒化珪素、酸窒化珪素及びこれらの混合物が挙げられ、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。中でも、珪素、一般式SiOx(0.5≦x<1.5)で表される酸化珪素、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子又はこれらの混合物が好ましい。珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子については、一般式SiOx(0.5≦x<1.5)を出発原料とし、熱処理を行い不均化反応することによって得られるが、珪素の微粒子の大きさは1〜500nmであることが好ましい。なお、珪素の微粒子の大きさはX線回折・分析による結晶子のサイズを測定することにより得られる。珪素系化合物としては、二酸化珪素、窒化珪素、炭化珪素、酸窒化珪素等が挙げられる。不活性なものが好ましく、二酸化珪素が好ましい。
【0012】
本発明の黒鉛被覆粒子は、ラマンスペクトルにおいて500cm-1に現れる珪素のピークIsiと、1,580cm-1に現れるグラファイトのピークIGの強度比Isi/IGが0〜2.0である。この比は黒鉛被覆膜の均一性の指標であり、1.8以下が好ましく、1.0以下がより好ましい。上記強度比は、母材である珪素化合物中の珪素が表面に晒されている割合を示す指標となり、完全に黒鉛被覆された場合が0となる。強度比が2.0より大きいと、リチウムイオン二次電池負極材に用いた場合に導電性にバラツキが生じ、電池特性が低下する。
【0013】
黒鉛被覆粒子の物性については特に限定されるものではないが、平均粒子径は0.1〜30μmが好ましく、0.3〜25μmがより好ましく、0.5〜20μmがさらに好ましい。平均粒子径が0.1μmより小さいと表面酸化の影響で純度が低下し、リチウムイオン二次電池負極材に用いた場合、充放電容量が低下したり、嵩密度が低下し、単位体積あたりの充放電容量が低下する場合がある。一方、30μmより大きいと化学蒸着処理における黒鉛析出量が減少し、結果としてリチウムイオン二次電池負極材に用いた場合にサイクル性能が低下するおそれがある。なお、平均粒子径は、レーザー光回折法による粒度分布測定における重量平均粒子径で表すことができる。
【0014】
黒鉛被覆粒子のBET比表面積は、0.3〜30m2/gが好ましく、0.5〜25m2/gがより好ましく、1.0〜20m2/gがさらに好ましい。BET比表面積が0.3m2/g未満では、表面活性が小さくなり、結果として非水電解質二次電池負極材に用いた場合に充放電容量が低下するおそれがある。逆に、BET比表面積が30m2/gを超えると、電極作製時の結着剤量が多くなり、電極としての容量が低下し、経済的にも不利となる。
【0015】
黒鉛被覆量は、黒鉛被覆粒子中0.5〜40質量%が好ましく、2〜30質量%が好ましく、2.5〜20質量%がさらに好ましい。黒鉛被覆量が0.5質量%未満では、導電性膜形成といった点で不十分であり、十分な導電性を維持できなく、結果として非水電解質二次電池負極材に用いた場合に、サイクル性が低下するおそれがある。逆に黒鉛被覆量が40質量%を超えても、効果の向上が見られないばかりか、負極材料に占める黒鉛の割合が多くなり、非水電解質二次電池負極材に用いた場合、充放電容量が低下する。
【0016】
[黒鉛被覆粒子の製造方法]
次に、本発明における黒鉛被覆粒子の製造方法について説明する。本発明の製造方法は、ロータリーキルンを用い、粒子を転動しながら黒鉛被覆処理を行うことを特徴としている。
【0017】
具体的には、珪素又は一般式SiOx(0.5≦x<1.5)で表される酸化珪素を、有機物ガス及び/又は蒸気中、500〜1,300℃で、ロータリーキルン内面積当たりの黒鉛被覆速度0.02〜0.30kg/hr・m2でCVD処理する方法が挙げられる。
【0018】
本発明において酸化珪素とは、通常、二酸化珪素と金属珪素との混合物を加熱して生成した一酸化珪素ガスを冷却・析出して得られた非晶質の珪素酸化物の総称であり、本発明においては、一般式SiOx(0.5≦x<1.5)を用いる。xは1.0≦x<1.3が好ましく、1.0≦x≦1.2がより好ましい。
【0019】
炭素被覆前の、珪素又は一般式SiOx(0.5≦x<1.5)で表される酸化珪素の平均粒子径は0.1〜30μmが好ましく、0.3〜25μmがより好ましい。また、BET比表面積は0.1〜30m2/gが好ましく、0.2〜25m2/gがより好ましく、0.3〜20m2/gがさらに好ましい。珪素、一般式SiOx(0.5≦x<1.5)で表される酸化珪素の平均粒子径及びBET比表面積が上記範囲外では、所望の平均粒子径及びBET比表面積を有する黒鉛被覆粒子が得られない場合がある。
【0020】
具体的には、0.1〜20rpm、好適には0.3〜10rpmで、珪素又は一般式SiOx(0.5≦x<1.5)で表される酸化珪素を回転させながら、有機物ガス及び/又は蒸気中、500〜1,300℃でCVD処理する。
【0021】
黒鉛被覆処理を行う処理温度は、500〜1,300℃が好ましく、700〜1,200℃が好ましい。処理温度が500℃より低いと黒鉛被覆処理に長時間を要し、生産性が低下する。逆に処理温度が1,300℃を超えると、一般式SiOx(0.5≦x<1.5)で表される酸化珪素を黒鉛被覆処理した場合、不均化反応が進行し過ぎ、本黒鉛被覆粒子をリチウムイオン二次電池負極材に用いた場合に、サイクル特性が低下するおそれがある。
【0022】
本発明における有機物ガスを発生する原料として用いられる有機物としては、特に非酸化性雰囲気下において、上記熱処理温度で熱分解して炭素(黒鉛)を生成し得るものが選択され、例えばメタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、ブタン、ブテン、ペンタン、イソブタン、ヘキサン等の炭化水素の単独もしくは混合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、ジフェニルメタン、ナフタレン、フェノール、クレゾール、ニトロベンゼン、クロルベンゼン、インデン、クマロン、ピリジン、アントラセン、フェナントレン等の1環乃至3環の芳香族炭化水素もしくはこれらの混合物が挙げられる。また、タール蒸留工程で得られるガス軽油、クレオソート油、アントラセン油、ナフサ分解タール油も単独もしくは混合物として用いることができる。また、雰囲気は、特に限定されず、上記有機物ガスの他にAr、N2、H2、He等の非酸化性ガスを混合することもできる。また、常圧、減圧等圧力も適宜選定することができる。
【0023】
珪素又は一般式SiOx(0.5≦x<1.5)で表される酸化珪素を回転させながら、ロータリーキルン内に非酸化性ガスを流入し、上記処理温度まで温度を上昇させた後、有機物ガスを流入させてもよい。
【0024】
本発明の物性の黒鉛被覆粒子を得るために重要なことは、例えば、黒鉛被覆速度を一定の範囲とすることである。本発明者らが種々検討した結果、ロータリーキルン内面積当たりの黒鉛被覆速度を0.02〜0.30kg/hr・m2とすることで、ラマンスペクトルにおいて500cm-1に現れる珪素のピークIsiと、1,580cm-1に現れるグラファイトのピークIGの強度比Isi/IGが0〜2.0である、黒鉛被覆粒子を得ることができる。
【0025】
ロータリーキルン内面積当たりの黒鉛被覆速度とは、単位時間あたりの黒鉛被覆量をロータリーキルン内面積で除した値であり、ロータリーキルンを用いて黒鉛被覆処理を行う際の黒鉛被覆速度と定義される。本発明者らの知見では、このロータリーキルン内面積当たりの黒鉛被覆速度を0.02〜0.30kg/hr・m2とすることで容易に本発明の物性を得ることができる。この範囲は0.03〜0.28kg/hr・m2が好ましく、0.03〜0.10kg/hr・m2がより好ましい。ロータリーキルン内面積当たりの黒鉛被覆速度が0.02kg/hr・m2より小さいと黒鉛被覆処理に長時間を要し、生産性が低下する。逆に黒鉛被覆速度が0.30kg/hr・m2より大きいと黒鉛被覆膜のバラツキが大きくなるおそれがある。
【0026】
ロータリーキルン装置は特に限定されず、回転機構を有する加熱装置であればよく、バッチ式、連続式等を目的に応じ適宜選択することができるが、バッチ式ロータリーキルンの方が品質安定性と運転安定性の観点から好ましい。なお、連続式ロータリーキルンの場合、ロータリーキルン内面積とは黒鉛被覆処理ゾーンをいう。
【0027】
単位時間の始期は、バッチ式の場合、黒鉛被覆処理が開始する時間であり、通常、黒鉛被覆処理温度下で有機物ガス又は蒸気を導入した時間であり、終期は、黒鉛被覆処理が終了する時間であり、通常、有機物ガス又は蒸気を停止した時間である。一方、連続式の場合の始期は、原料が黒鉛被覆処理温度に到達した時間であり、終期は、黒鉛被覆処理温度から外れた時間をいう。ロータリーキルン内面積当たりの黒鉛被覆速度は、黒鉛被覆処理温度、時間、仕込量、有機物発生ガス量等により制御することが可能である。単位時間は、黒鉛被覆速度を上記特定の範囲となるように選定されるが、通常0.5〜30hrの範囲で適宜選定される。
【0028】
[非水電解質二次電池用負極材]
本発明は、上記黒鉛被覆粒子を、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池用負極活物質として、負極材に用いることができる。これを用いた非水電解質二次電池負極材を用いて、負極を作製し、リチウムイオン二次電池を製造することができる。
【0029】
なお、上記黒鉛被覆粒子を用いて負極を作製する場合、カーボン等の導電剤を添加することができる。この場合においても導電剤の種類は特に限定されず、構成された電池において、分解や変質を起こさない電子伝導性の材料であればよく、具体的にはAl,Ti,Fe,Ni,Cu,Zn,Ag,Sn,Si等の金属粒子や金属繊維又は天然カーボン、人造カーボン、各種のコークス粒子、メソフェーズ炭素、気相成長炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、各種の樹脂焼成体等のカーボンを用いることができる。
【0030】
負極(成形体)の調製方法としては下記の方法が挙げられる。上記黒鉛被覆粒子と、必要に応じて導電剤と、結着剤等の他の添加剤とに、N−メチルピロリドン又は水等の溶剤を混練してペースト状の合剤とし、この合剤を集電体のシートに塗布する。この場合、集電体としては、銅箔、ニッケル箔等、通常、負極の集電体として使用されている材料であれば、特に厚さ、表面処理の制限なく使用することができる。なお、合剤をシート状に成形する成形方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0031】
[リチウムイオン二次電池]
リチウムイオン二次電池は、上記黒鉛被覆粒子を、非水電解質二次電池負極活物質として、非水電解質二次電池用負極材に用いる点に特徴を有し、その他の正極、負極、電解質、セパレータ等の材料及び電池形状等は限定されない。例えば、正極活物質としてはLiCoO2、LiNiO2、LiMn24、V26、MnO2、TiS2、MoS2等の遷移金属の酸化物及びカルコゲン化合物等が用いられる。電解質としては、例えば、過塩素酸リチウム等のリチウム塩を含む非水溶液が用いられ、非水溶媒としてはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、2−メチルテトラヒドロフラン等の単体又は2種類以上を組み合わせて用いられる。また、それ以外の種々の非水系電解質や固体電解質も使用できる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例、参考例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0033】
[実施例1]
平均粒子径5μmの一般式SiOx(x=1.02)で表される酸化珪素粉末1,000gをバッチ式ロータリーキルン内(内径;200mmφ、長さ;300L、内面積;0.188m2)に仕込んだ。次に回転数1rpmにて回転させながら、窒素ガスを3NL/min流入させ、300℃/hrの昇温速度で1,000℃まで昇温・保持した。次に、CH4ガスを3NL/min追加流入し、3時間の黒鉛被覆処理を行った。処理後は降温し、約1,050gの黒色粉末を得た。得られた黒色粉末は、平均粒子径=5.1μm、BET比表面積=5.5m2/g、黒鉛被覆率=5.2質量%の黒鉛被覆粒子であった(黒鉛被覆量=55g)。この条件でのロータリーキルン内面積当たりの黒鉛被覆速度は0.10kg/hr・m2となる。なお、この粉末を顕微ラマン分析(HORIBA製 XploRA PLUSを使用、532nmの緑色レーザーにて測定)を行った結果、ラマンスペクトルは、ラマンシフトが500cm-1(Isi)と1,580cm-1(IG)付近にスペクトルを有しており、Isi強度=47.3counts,IG強度=46.5countsであり、その強度比Isi/IGは1.0であった。
【0034】
[電池評価]
次に、以下の方法で、得られた導電性粉末を負極活物質として用いた電池評価を行った。
まず、得られた導電性粉末にポリイミドを10質量%加え、さらにN−メチルピロリドンを加えてスラリーとし、このスラリーを厚さ20μmの銅箔に塗布し、80℃で1時間乾燥後、ローラープレスにより電極を加圧成形し、この電極を350℃で1時間真空乾燥した後、2cm2に打ち抜き、負極とした。
【0035】
ここで、得られた負極の充放電特性を評価するために、対極にリチウム箔を使用し、非水電解質として六フッ化リンリチウムをエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの1/1(体積比)混合液に1モル/Lの濃度で溶解した非水電解質溶液を用い、セパレータに厚さ30μmのポリエチレン製微多孔質フィルムを用いた評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0036】
作製したリチウムイオン二次電池は、一晩室温で放置した後、二次電池充放電試験装置((株)ナガノ製)を用い、テストセルの電圧が0Vに達するまで0.5mA/cm2の定電流で充電を行い、0Vに達した後は、セル電圧を0Vに保つように電流を減少させて充電を行った。そして、電流値が40μA/cm2を下回った時点で充電を終了した。放電は0.5mA/cm2の定電流で行い、セル電圧が2.0Vを上回った時点で放電を終了し、放電容量を求めた。
【0037】
以上の充放電試験を繰り返し、評価用リチウムイオン二次電池の50サイクル後の充放電試験を行った。その結果、初回充電容量1,880mAh/g、初回放電容量1,520mAh/g、初回充放電効率80.9%、50サイクル目の放電容量1,400mAh/g、50サイクル後のサイクル保持率92.1%の高容量であり、かつ初回充放電効率及びサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池であることが確認された。
【0038】
[実施例2]
仕込量を500g、黒鉛被覆処理温度を950℃、処理時間を5時間とした他は実施例1と同様の条件で黒鉛被覆処理を行った。
得られた黒色粉末は、平均粒子径=5.1μm、BET比表面積=6.8m2/g、黒鉛被覆率=5.1質量%の黒鉛被覆粒子であった(黒鉛被覆量=27g)。この条件でのロータリーキルン内面積当たりの黒鉛被覆速度は0.03kg/hr・m2となる。なお、この粉末を顕微ラマン分析を行った結果、ラマンスペクトルは、ラマンシフトが500cm-1(Isi)と1,580cm-1(IG)付近にスペクトルを有しており、Isi強度=42.1counts,IG強度=55.8countsであり、その強度比Isi/IGは0.8であった。
【0039】
この黒鉛被覆粒子を実施例1と同様な方法で電池評価を行った結果、初回充電容量1,910mAh/g、初回放電容量1,510mAh/g、初回充放電効率79.1%、50サイクル目の放電容量1,400mAh/g、50サイクル後のサイクル保持率92.7%の高容量であり、かつ初回充放電効率及びサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池であることが確認された。
【0040】
[実施例3]
CH4量を1NL/min、処理時間を10時間とした他は実施例1と同様な条件で黒鉛被覆処理を行った。
得られた黒色粉末は、平均粒子径=5.1μm、BET比表面積=6.3m2/g、黒鉛被覆率=4.9質量%の黒鉛被覆粒子であった(黒鉛被覆量=52g)。この条件でのロータリーキルン内面積当たりの黒鉛被覆速度は0.03kg/hr・m2となる。なお、この粉末について顕微ラマン分析を行った結果、ラマンスペクトルは、ラマンシフトが500cm-1(Isi)と1,580cm-1(IG)付近にスペクトルを有しており、Isi強度=46.3counts,IG強度=54.5countsであり、その強度比Isi/IGは0.8であった。
【0041】
この黒鉛被覆粒子を実施例1と同様な方法で電池評価を行った結果、初回充電容量1,890mAh/g、初回放電容量1,510mAh/g、初回充放電効率79.9%、50サイクル目の放電容量1,400mAh/g、50サイクル後のサイクル保持率92.7%の高容量であり、かつ初回充放電効率及びサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池であることが確認された。
【0042】
参考例1
CH4量を10NL/min、処理時間を1時間とした他は実施例1と同様の条件で黒鉛被覆処理を行った。
得られた黒色粉末は、平均粒子径=5.2μm、BET比表面積=4.8m2/g、黒鉛被覆率=4.8質量%の黒鉛被覆粒子であった(黒鉛被覆量=50g)。この条件でのロータリーキルン内面積当たりの黒鉛被覆速度は0.27kg/hr・m2となる。なお、この粉末について顕微ラマン分析を行った結果、ラマンスペクトルは、ラマンシフトが500cm-1(Isi)と1,580cm-1(IG)付近にスペクトルを有しており、Isi強度=75.3counts,IG強度=40.8countsであり、その強度比Isi/IGは1.8であった。
【0043】
この黒鉛被覆粒子を実施例1と同様の方法で電池評価を行った結果、初回充電容量1,850mAh/g、初回放電容量1,480mAh/g、初回充放電効率80.0%、50サイクル目の放電容量1,360mAh/g、50サイクル後のサイクル保持率91.9%の高容量であり、かつ初回充放電効率及びサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池であることが確認された。
【0044】
[実施例
CH4量を1NL/min、処理時間を15時間とした他は実施例1と同様な条件で黒鉛被覆処理を行った。
得られた黒色粉末は、平均粒子径=5.1μm、BET比表面積=7.2m2/g、黒鉛被覆率=7.2質量%の黒鉛被覆粒子であった(黒鉛被覆量=78g)。この条件でのロータリーキルン内面積当たりの黒鉛被覆速度は0.03kg/hr・m2となる。なお、この粉末について顕微ラマン分析を行った結果、ラマンスペクトルは、ラマンシフトが500cm-1(Isi)と1,580cm-1(IG)付近にスペクトルを有しており、Isi強度=0counts,IG強度=80.3countsであり、その強度比Isi/IGは0であった。
【0045】
この黒鉛被覆粒子を実施例1と同様な方法で電池評価を行った結果、初回充電容量1,830mAh/g、初回放電容量1,460mAh/g、初回充放電効率79.8%、50サイクル目の放電容量1,360mAh/g、50サイクル後のサイクル保持率93.2%の高容量であり、かつ初回充放電効率及びサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池であることが確認された。
【0046】
参考例2
CH4量を8NL/min、処理時間を1時間とした他は実施例1と同様の条件で黒鉛被覆処理を行った。
得られた黒色粉末は、平均粒子径=5.1μm、BET比表面積=4.5m2/g、黒鉛被覆率=4.3質量%の黒鉛被覆粒子であった(黒鉛被覆量=45g)。この条件でのロータリーキルン内面積当たりの黒鉛被覆速度は0.24kg/hr・m2となる。なお、この粉末について顕微ラマン分析を行った結果、ラマンスペクトルは、ラマンシフトが500cm-1(Isi)と1,580cm-1(IG)付近にスペクトルを有しており、Isi強度=80.3counts,IG強度=40.1countsであり、その強度比Isi/IGは2.0であった。
【0047】
この黒鉛被覆粒子を実施例1と同様な方法で電池評価を行った結果、初回充電容量1,860mAh/g、初回放電容量1,480mAh/g、初回充放電効率79.6%、50サイクル目の放電容量1,350mAh/g、50サイクル後のサイクル保持率91.2%の高容量であり、かつ初回充放電効率及びサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池であることが確認された。
【0048】
[比較例1]
CH4量を12NL/min、処理時間を0.8時間とした他は実施例1と同様の条件で黒鉛被覆処理を行った。
得られた黒色粉末は、平均粒子径=5.2μm、BET比表面積=4.5m2/g、黒鉛被覆率=4.9質量%の黒鉛被覆粒子であり(黒鉛被覆量=52g)、粗大粒の形成が見られた。この条件でのロータリーキルン内面積当たりの黒鉛被覆速度は0.34kg/hr・m2となる。なお、この粉末の顕微ラマン分析を行った結果、ラマンスペクトルは、ラマンシフトが500cm-1(Isi)と1,580cm-1(IG)付近にスペクトルを有しており、Isi強度=82.5counts,IG強度=36.6countsであり、その強度比Isi/IGは2.3であった。
【0049】
この黒鉛被覆粒子を実施例1と同様な方法で電池評価を行った結果、初回充電容量1,840mAh/g、初回放電容量1,450mAh/g、初回充放電効率78.8%、50サイクル目の放電容量1,300mAh/g、50サイクル後のサイクル保持率89.7%であり、明らかに実施例に比べ、初回充放電容量、サイクル性に劣るリチウムイオン二次電池であった。
【0050】
[比較例2]
黒鉛被覆処理温度を1,100℃、処理時間を0.5時間とした他は実施例1と同様の条件で黒鉛被覆処理を行った。
得られた黒色粉末は、平均粒子径=5.3μm、BET比表面積=4.3m2/g、黒鉛被覆率=5.5質量%の黒鉛被覆粒子であり(黒鉛被覆量=58g)、粗大粒の形成が見られた。この条件でのロータリーキルン内面積当たりの黒鉛被覆速度は0.62kg/hr・m2となる。なお、この粉末を顕微ラマン分析を行った結果、ラマンスペクトルは、ラマンシフトが500cm-1(Isi)と1,580cm-1(IG)付近にスペクトルを有しており、Isi強度=86.5counts,IG強度=32.6countsであり、その強度比Isi/IGは2.7であった。
【0051】
この黒鉛被覆粒子を実施例1と同様な方法で電池評価を行った結果、初回充電容量1,780mAh/g、初回放電容量1,400mAh/g、初回充放電効率78.7%、50サイクル目の放電容量1,220mAh/g、50サイクル後のサイクル保持率87.1%であり、明らかに実施例に比べ、初回充放電容量、サイクル性に劣るリチウムイオン二次電池であった。
【0052】
実施例1〜4、参考例1,2、比較例1,2の結果を表1〜4に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
【表4】