(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C)は、ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に3個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、前記(B)成分中のアリル基1個に対して、当該成分中のケイ素原子に結合した水素原子の個数が0.1〜1.0個となる量である請求項1又は2記載の熱伝導性シリコーングリース組成物。
熱伝導性無機充填材(E)が、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、及び金属ケイ素から選ばれる1種又は2種以上の組み合せである請求項1〜3のいずれか1項記載の熱伝導性シリコーングリース組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、熱伝導率に優れるだけでなく、冷熱サイクル時の割れ・ズレが発生しない熱伝導性シリコーングリース組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の目的を達成するために鋭意検討を続けた結果、特定のオルガノポリシロキサン、前記オルガノポリシロキサンよりもSP値が高く、アリル基を有する芳香族含有有機化合物、特定のオルガノハイドロジェンポリシロキサン、熱伝導性充填材を組み合せることにより、熱伝導率に優れるだけでなく、冷熱サイクル時の割れ・ズレが発生しない熱伝導性シリコーングリース組成物を得ることができることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
即ち、本発明は、下記高熱伝導性シリコーングリース組成物を提供する。
〔1〕
(A)オルガノポリシロキサン:20〜90質量部、
(B)アリル基を有する芳香族含有有機化合物:40〜5質量部、
(C)オルガノハイドロジェンポリシロキサン:40〜5質量部、
(但し、(A)、(B)、(C)成分の合計は100質量部である。)
(D)白金及び白金化合物からなる群より選択される触媒:触媒量、
(E)平均粒径が0.5〜100μmである熱伝導性無機充填材:(A)、(B)、(C)成分の合計100質量部に対して200〜2,000質量部
を含有してなる熱伝導性シリコーングリース組成物であって、オルガノポリシロキサン(A)とアリル基を有する芳香族含有有機化合物(B)のSP値が(B)>(A)であると共に、(B)成分のSP値−(A)成分のSP値>2であり、かつ熱伝導性シリコーングリース組成物の粘度が25℃において50〜1,000Pa・sであることを特徴とする熱伝導性シリコーングリース組成物。
〔2〕
オルガノポリシロキサン(A)が、下記一般式(1)
【化1】
(式中、R
1は同一又は異種の1価炭化水素基である。X
1、X
2、X
3はR
1又は−R
2−SiR
1a(OR
3)
3-aで示される基であり、それぞれ異なっても良い。R
1は上記の通り、R
2は酸素原子又は炭素数1〜4のアルキレン基、R
3は炭素数1〜4のアルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基又はアシル基であり、aは1〜3の整数である。m及びnはそれぞれ1≦m≦1,000、0≦n≦1,000である。)
で示され、25℃における粘度が0.005〜100mPa・sである3官能の加水分解性オルガノポリシロキサンであり、
アリル基を有する芳香族含有有機化合物(B)が、分子中にエポキシ基及びフェノール性水酸基から選ばれる有機基を有するSP値が10以上の化合物であり、
オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C)が分子中にケイ素原子に結合した水素原子が3個以上存在するものであり、
熱伝導性無機充填材(E)が、金属系粉末、金属酸化物系粉末、金属水酸化物粉末及び金属窒化物粉末から選択される少なくとも1種である〔1〕記載の熱伝導性シリコーングリース組成物。
〔3〕
オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C)は、ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に3個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、前記(B)成分中のアリル基1個に対して、当該成分中のケイ素原子に結合した水素原子の個数が0.1〜1.0個となる量である〔1〕又は〔2〕記載の熱伝導性シリコーングリース組成物。
〔4〕
熱伝導性無機充填材(E)が、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、及び金属ケイ素から選ばれる1種又は2種以上の組み合せである〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の熱伝導性シリコーングリース組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱伝導性シリコーングリース組成物は、熱伝導率に優れるだけでなく、冷熱サイクル時の割れ・ズレが発生しないことから、使用中に熱が発生する電気・電子部品からの除熱に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の熱伝導性シリコーングリース組成物を構成する(A)成分のオルガノポリシロキサンは、25℃における粘度が好ましくは0.005〜100mPa・sの液状シリコーンである。
【0012】
本発明においては、(A)成分のオルガノポリシロキサンのB型回転粘度計による25℃における粘度は、前記したように0.005〜100mPa・sの範囲であることが好ましいが、特に0.01〜50mPa・sであることがより好ましい。25℃における粘度が0.005mPa・sより小さいと、得られるシリコーングリース組成物の保管時の分離などが発生し安定性に乏しくなり、100mPa・sより大きいと、(B)成分との混合が困難となるおそれがある。
【0013】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、少なくとも、下記一般式(1)で表される3官能の加水分解性オルガノポリシロキサンを含有することが好ましい。
【化2】
(式中、R
1は同一又は異種の1価炭化水素基である。X
1、X
2、X
3はR
1又は−R
2−SiR
1a(OR
3)
3-aで示される基であり、それぞれ異なっても良い。R
1は上記の通り、R
2は酸素原子又は炭素数1〜4のアルキレン基、R
3は炭素数1〜4のアルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基又はアシル基であり、aは1〜3の整数である。m及びnはそれぞれ1≦m≦1,000、0≦n≦1,000である。)
【0014】
本発明に用いるより好ましいオルガノポリシロキサン(A)成分は、下記一般式(2)
【化3】
(式中、R
1は独立に非置換又は置換の1価炭化水素基であり、R
3は独立に炭素数1〜4のアルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基又はアシル基であり、pは5〜100の整数であり、aは1〜3の整数である。)
で表され、好ましくは25℃における粘度が0.005〜100mPa・sのオルガノポリシロキサンである。
【0015】
なお、本発明において、粘度はマルコム粘度計で試料の粘度を測定し、プロッターでの記録の最大値を粘度とする。
ローター:A(10rpm)
測定条件:25℃±0.5℃
により測定した値である。
【0016】
オルガノポリシロキサン(A)は、高熱伝導性シリコーングリース組成物を得るために、(E)成分の熱伝導性無機充填材を本発明組成物に高充填しても、該組成物の流動性を保ち、該組成物に良好な取り扱い性を付与する役割も兼ね備えている。
【0017】
上記式(1)及び(2)中、R
1は独立に非置換又は置換の好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは1〜6、更に好ましくは1〜3の1価炭化水素基であり、その例としては、直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、環状アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン化アルキル基が挙げられる。直鎖状アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基が挙げられる。分岐鎖状アルキル基としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、tert−ブチル基、2−エチルヘキシル基が挙げられる。環状アルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基が挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基が挙げられる。アラルキル基としては、例えば、2−フェニルエチル基、2−メチル−2−フェニルエチル基が挙げられる。ハロゲン化アルキル基としては、例えば、3,3,3−トリフルオロプロピル基、2−(ノナフルオロブチル)エチル基、2−(ヘプタデカフルオロオクチル)エチル基が挙げられる。R
1として、好ましくはメチル基、フェニル基、ビニル基である。
【0018】
上記R
3は独立に炭素数1〜4のアルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基又はアシル基である。アルキル基としては、例えば、R
1について例示したのと同様の直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、環状アルキル基が挙げられる。アルコキシアルキル基としては、例えば、メトキシエチル基、メトキシプロピル基等が挙げられる。アシル基としては、例えば、炭素数2〜8が好ましく、アセチル基、オクタノイル基等が挙げられる。R
3はアルキル基であることが好ましく、特にはメチル基、エチル基であることが好ましい。
n、mは上記の通りであるが、好ましくはn+mが10〜50であり、pは5〜100の整数であり、好ましくは10〜50である。aは1〜3の整数であり、好ましくは3である。なお、分子中にOR
3基は1〜6個、特に3又は6個有することが好ましい。
【0019】
オルガノポリシロキサン(A)の25℃における粘度は、通常、0.005〜100mPa・s、特に0.005〜50mPa・sであることが好ましい。該粘度が0.005mPa・sより低いと、得られる室温湿気硬化型熱伝導性シリコーングリース組成物からオイルブリードが発生し易く、また垂れてしまい易い。該粘度が100mPa・sより大きいと、得られる熱伝導性シリコーングリース組成物の流動性が乏しくなり、ディスペンス性、印刷性が悪化してしまうおそれがある。
【0020】
オルガノポリシロキサン(A)の好適な具体例としては、下記のものを挙げることができる。
【0022】
このオルガノポリシロキサン(A)は、(A)、(B)、(C)成分の合計100質量部中、20質量部よりも少ないと熱伝導性シリコーン組成物が増粘して吐出不可となってしまい、90質量部より多いと低粘度になりすぎてオルガノポリシロキサン(A)がブリードしてしまうために、20〜90質量部の範囲で用いるものであり、好ましくは30〜80質量部の範囲である。
【0023】
(B)成分のアリル基を有する芳香族含有有機化合物としては、分子中にエポキシ基及びフェノール性水酸基から選ばれる有機基を有する有機化合物であることが好ましい。
この場合、エポキシ基を有する化合物としては、下記のエポキシ樹脂が挙げられる。分子構造、分子量などは25℃における粘度が10〜1,000,000mPa・sに制限される。このようなエポキシ化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン又はこのハロゲン化物のジグリシジルエーテル及びこれらの縮重合物(いわゆるビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂等)、レゾルシンのジグリシジルエーテル、1,4−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ジフェニルエーテル、1,2−ジオキシベンゼン或いはレゾルシノール、多価フェノールとエピクロルヒドリンとを縮合させて得られるエポキシグリシジルエーテル、ナフタレン環含有エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂などが挙げられ、上記のエポキシ基のオルソ位にはアリル基を有する。
【0024】
なお、上記エポキシ樹脂にモノエポキシ化合物を適宜併用することは差し支えなく、このモノエポキシ化合物としては、スチレンオキシド、フェニルグリシジルエーテルなどが例示され、これらのエポキシ基のオルソ位にはアリル基を有する。
また、用いるエポキシ樹脂は必ずしも1種類のみに限定されるものではなく、2種もしくはそれ以上を併用することができる。
【0025】
フェノール基含有の化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、トリメチロールアリルオキシフェノール、低重合度のフェノールノボラック樹脂などのフェノール樹脂などが挙げられ、これらのフェノール性水酸基のオルソ位にはアリル基を有する。
【0026】
(B)成分の配合量は、(A)、(B)、(C)成分の合計100質量部中、5〜40質量部であり、好ましくは10〜30質量部の範囲である。(B)成分が少なすぎると、所望の熱伝導率が達成できない、(B)成分が多すぎると、高粘度となり作業性が悪化する。
【0027】
(C)成分の1分子中に少なくとも3つのケイ素原子に直結した水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、本組成物の硬化剤であり、(A)成分及び(B)成分と混合することにより硬化し得る。
このオルガノハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素原子結合水素原子(SiH基)の数は3個以上であり、好ましくは3〜50個であり、より好ましくは4〜30個である。
【0028】
このオルガノハイドロジェンポリシロキサン中の水素原子以外のケイ素原子に結合している基としては、非置換又は置換の炭素数1〜10、好ましくは1〜6の脂肪族不飽和結合を除く1価炭化水素基が挙げられ、具体的には、直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、環状アルキル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン化アルキル基が例示され、上記(A)成分で例示したものと同様のものを例示することができる。水素原子以外のケイ素原子に結合している基として、好ましくは直鎖状アルキル基、アリール基であり、特に好ましくはメチル基、フェニル基である。
【0029】
このオルガノハイドロジェンポリシロキサンの25℃における粘度は特に限定されないが、好ましくは1〜100,000mPa・sの範囲内であり、特に好ましくは1〜50,000mPa・sの範囲内である。該粘度がこの範囲内であると、本組成物の取扱作業性を確保し易く、本組成物の硬化物の良好な物性を確保し易い。なお、この粘度は、回転粘度計による測定値である。
【0030】
また、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は特に限定されず、例えば、直鎖状、分岐鎖状、一部分岐を有する直鎖状、環状、樹枝状(デンドリマー状)が挙げられる。このオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、これらの分子構造を有する単一の重合体、これらの分子構造を有する共重合体、又はこれらの混合物であってもよい。上記ケイ素原子結合水素原子は分子鎖末端部分及び分子鎖非末端部分のどちらか一方にのみ存在していてもよいし、その両方に存在していてもよい。
【0031】
(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、例えば、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖、側鎖メチルハイドロジェンシロキシ基ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖、側鎖メチルハイドロジェンシロキシ基ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖、側鎖メチルハイドロジェンシロキシ基ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、式:(CH
3)
3SiO
1/2で表されるシロキサン単位と式:(CH
3)
2HSiO
1/2で表されるシロキサン単位と式:SiO
4/2で表されるシロキサン単位とからなるオルガノシロキサン共重合体、及びこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。
なお、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、基本的にシロキサン骨格からなり、アルコキシ基は含まないものである。
【0032】
(C)成分であるオルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量は、(B)成分中のアリル基1モルに対して、本(C)成分中のケイ素原子結合水素原子(SiH基)の量が、0.05〜0.5モルの範囲内となる量であり、0.1〜0.3モルの範囲内となる量であることが好ましい。該含有量がこのような量であると、本組成物は十分に硬化し、熱サイクル時の割れ・ズレが発生せずに、電子部品に熱応力を与えない適正な硬度になることが可能であり、放熱素子にストレスを与え難い。
【0033】
この場合、(C)成分は、(A)、(B)、(C)成分の合計100質量部中、5〜40質量部であり、好ましくは5〜20質量部の範囲であることが割れ・ズレ防止と応力緩和のバランスの点で好ましい。
【0034】
(D)成分の白金及び白金化合物からなる群より選択される触媒は、(B)成分のアリル基と(C)成分のSiH基との間の付加反応の促進成分である。この(D)成分は、例えば白金の単体、塩化白金酸、白金−オレフィン錯体、白金−アルコール錯体、白金配位化合物等が挙げられる。
【0035】
(D)成分の配合量は、(B)、(C)成分の合計質量に対し、白金原子として0.1ppmより小さくても触媒としての効果がなく、500ppmを超えても効果が増大することがなく、不経済であるので0.1〜500ppmの範囲であり、0.1〜400ppmであることが好ましい。
【0036】
本発明においては、(D)成分の触媒活性を抑制する目的で、制御剤を使用することが好ましい。該制御剤は、室温でのヒドロシリル化反応の進行を抑え、シェルフライフ、ポットライフを延長させるものである。制御剤としては公知の反応制御剤を使用することができ、アセチレン化合物、各種窒素化合物、有機りん化合物等が利用できる。具体的には、1−エチニル−1−シクロヘキサノール、3−ブチン−1−オール等のアセチレン化合物、トリアリルイソシアヌレート及びトリアリルイソシアヌレート誘導体等の各種窒素化合物、トリフェニルホスフィン等の有機りん化合物等が例示できる。
【0037】
制御剤の配合量は、(B)、(C)成分の合計100質量部に対して0.01質量部より少ないと十分なシェルフライフ、ポットライフが得られないおそれがあり、1.5質量部より多いと硬化性が低下するおそれがあるため、0.01〜1.5質量部の範囲が好ましく、0.01〜1.0質量部の範囲がより好ましい。
【0038】
本発明において、上記オルガノポリシロキサン(A)と非シリコーン系有機化合物(B)のSP値をそれぞれSP(A)、SP(B)とすると、SP(B)>SP(A)であり、かつSP(B)−SP(A)>2、好ましくはSP(B)−SP(A)≧2.5、更に好ましくはSP(B)−SP(A)≧3である。
【0039】
本明細書においてSP値とは、沖津俊直、「接着」、高分子刊行会、40巻8号(1996)p342−350に記載された、下記表1に記載した沖津による各種原子団のΔF、Δv値を用い、下記式(3)により算出した溶解性パラメータδを意味する。また、混合溶剤、共重合体の場合は、下記式(4)により算出した溶解性パラメータδを意味する。
δ=ΣΔF/ΣΔv (3)
δ
mix=φ
1δ
1+φ
2δ
2+・・・φ
nδ
n (4)
式中、ΔFは、下記表1におけるΔFを表し、Δvは、下記表1におけるモル容積Δvを表す。φは、容積分率又はモル分率を表し、φ
1+φ
2+・・・φ
n=1である。
【0041】
例えば、溶剤としてのヘプタンのSP値は以下のように求める。
ヘプタンは、原子団として、−CH
3を2個、−CH
2−を5個有する。各々の原子団について表1よりΔF、Δv値を求める。
ΣΔF=205×2+132×5=1070
ΣΔv=31.8×2+16.5×5=146.1
従って、上記式(3)よりヘプタンのδ
hepは、以下のように求められる。
δ
hep=ΣΔF/ΣΔv=1070/146.1=7.32
【0042】
同様に下記式(i)の2官能フェノール樹脂は、原子団として、−CH
2−を3個、CH
2=を2個、−CH=を2個、−OH(Arom)を2個、−C
6H
3(Arom)を2個有する。各々の原子団について表1よりΔF、Δv値を求める。
ΣΔF=2594.0
ΣΔv=241
従って、上記式(3)より2官能フェノール樹脂のδ
phOHは、以下のように求められる。
δ
phOH=d*ΣΔF/ΣΔv=1.15*2594.0/241=12.4
【化5】
【0043】
同様に下記式(ii)の2官能エポキシ樹脂は、原子団として、−CH
2−を7個、>CH−を2個、CH
2=を2個、−CH=を2個、−O−(Epoxy)を2個、−O−(Arom,Lin)を2個、−C
6H
3(Arom)を2個有する。各々の原子団について表1よりΔF、Δv値を求める。
ΣΔF=2646.0
ΣΔv=283
従って、上記式(3)より2官能フェノール樹脂のδ
epoxyは、以下のように求められる。
δ
epoxy=d*ΣΔF/ΣΔv=1.20*2646.0/283=11.2
【化6】
【0044】
理科年表,第84冊,物54(410)より、シリコーンの熱伝導率は0.16W/mK、エポキシ樹脂(BisフェノールA)は0.21W/mKとなっている。
【0045】
(A)成分のポリオルガノシロキサンと(B)成分の有機化合物を混合すると、SP値の差が2より大きければ両者は分離する。金属や金属酸化物、金属窒化物の表面は大気中の酸素と水分の影響により、表面に水酸基もしくはアミノ基が存在する。この表面官能基によってSP値の高いアリル基を有する芳香族含有有機化合物は熱伝導性無機充填材と強い相互作用を持つようになる。意図的にSP値が異なり、SP値の高い(B)成分の有機化合物をシリコーンのマトリックス中に浮かぶ熱伝導性無機充填材の島の間にアリル基を有する芳香族含有有機化合物によって橋かけを行うことにより、従来のシリコーン系熱伝導性放熱グリースに無かった放熱特性を示すようになった。
またアリル基を有する芳香族含有有機化合物に熱硬化性を付与することにより、グリースがズレて変形した場合や、低温や高温環境でも熱伝導性無機充填材とアリル基を有する芳香族含有有機化合物の熱のパスが保持されるために、熱伝導特性が変化しないことが期待できる。
【0046】
(E)成分は、本発明の熱伝導性シリコーングリース組成物に熱伝導性を付与する充填材である。
【0047】
本発明で使用する熱伝導性無機充填材(E)は、平均粒径は0.5〜100μmであることが必要である。平均粒径は、0.5μmより小さくても、100μmより大きくても、グリースが不均一になり高粘度となるので、特に1〜20μmであることが好ましい。なお、本発明において、平均粒径は、レーザー回折法により測定した質量平均値D
50(又はメジアン径)である。
【0048】
(E)成分の熱伝導性無機充填材としては、金属系粉末、金属酸化物系粉末、金属水酸化物粉末、金属窒化物粉末が挙げられ、具体的には、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、金属ケイ素又はこれらの1種又は2種以上の組み合せが好ましい。
【0049】
(E)成分の配合量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン,(B)成分のアリル基を有する芳香族含有有機化合物と(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの合計100質量部に対して200〜2,000質量部の範囲であることが必要であり、好ましくは700〜1,500質量部の範囲である。200質量部より小さいと十分な熱伝導率が得られないだけでなく、グリースとしての強度が保てないためズレやすくなる。また、2,000質量部より大きいとグリース状を保つことができない。
【0050】
本発明の熱伝導性シリコーングリース組成物を製造する場合には、(A)、(B)、(C)成分と(E)成分とその他成分を加えて、トリミックス、ツウィンミックス、プラネタリミキサー(何れも井上製作所(株)製混合機の登録商標)、ウルトラミキサー(みずほ工業(株)製混合機の登録商標)、ハイビスディスパーミックス(特殊機化工業(株)製混合機の登録商標)等の混合機を用いて混合する。必要であれば50〜170℃に加熱してもよい。
【0051】
本発明において、グリース粘度(熱伝導性シリコーングリース組成物の粘度)は25℃において50〜1,000Pa・s、好ましくは100〜500Pa・sである。
粘度が低すぎると、フィラーの沈降が激しく使用前に混合撹拌が必要となり、粘度が高すぎると、精密な吐出が困難となる。
なお、グリース粘度は、株式会社マルコム製の型番PC−1TL(回転数10rpm)での測定値である。
【0052】
また、本発明の熱伝導性シリコーングリース組成物を150℃、120分加熱させた場合の硬度は、アスカーCによる測定で5〜75、特に10〜60である
このように、硬化(又は増粘)することにより、割れ・ズレの発生を防止できる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例によって更に詳述するが、本発明はこれによって限定されるものではない。本発明の優位性をより明確にするために行った実施例及び比較例に係る試験は以下の通りである。
【0054】
〔オルガノポリシロキサン、アリル基を有する芳香族含有有機化合物の粘度〕
ブルックフィールド型回転粘度計にて25±0.5℃、ロータNo.4、10rpmの回転数で測定を行った。
【0055】
〔グリース粘度〕
熱伝導性シリコーングリース組成物の粘度の測定は、株式会社マルコム製の型番PC−1TL(回転数10rpm)を用いて25℃で行った。
【0056】
〔熱伝導率〕
熱伝導率は、京都電子工業株式会社製のTPA−501を用いて、25℃において測定した。
【0057】
〔割れ・ズレ〕
実施例・比較例に示す熱伝導性シリコーングリース組成物1.0gをガラス板とアルミ板の間位に1mmのスペーサーを入れて挟んだ。この試験片を150℃・2時間の乾燥機中に入れて、シリコーングリース組成物を硬化させたのちに、−45℃/30分〜125℃/30分の冷熱サイクルに投入して250回後のグリースの状態を観察した。
【0058】
なお、表中の(A)〜(E)成分は下記の通りである。
オルガノポリシロキサン(A)として
A−1:オルガノポリシロキサン(SP値8.0,粘度30mPa・s)
【化7】
A−2:オルガノシラン(SP値8.2,粘度3mPa・s)
【化8】
A−3:オルガノポリシロキサン(SP値8.1,粘度80mPa・s)
【化9】
【0059】
アリル基を有する芳香族含有有機化合物(B)として
B−1:アリル基含有ビスフェノールF型フェノール樹脂(SP値13.5,粘度25,000mPa・s)
【化10】
B−2:アリル基含有ビスフェノールF型エポキシ樹脂(SP値11.2,粘度18,000mPa・s)
【化11】
B−3:エピコート630(SP値14.6,粘度250mPa・s)
【化12】
【0060】
(C)成分: 下記式で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン
C−1:オルガノハイドロジェンポリシロキサンD3
【化13】
C−2:オルガノハイドロジェンポリシロキサンD4
【化14】
C−3:オルガノハイドロジェンポリシロキサンD16
【化15】
C−4:オルガノハイドロジェンポリシロキサンD25
【化16】
C−5:オルガノハイドロジェンポリシロキサンD2
【化17】
C−6:オルガノハイドロジェンポリシロキサンM2
【化18】
【0061】
(E)成分:
E−1:酸化亜鉛粉末(平均粒径1.1μm)
E−2:アルミニウム粉末(平均粒径10μm)
E−3:アルミナ粉末(平均粒径1.0μm)
E−4:アルミナ粉末(平均粒径10μm)
【0062】
また、(D)成分のアリル基とオルガノハイドロジェンポリシロキサンの反応触媒として、白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体のジメチルビニルシリル末端封鎖のジメチルポリシロキサン溶液)を用いた[PL−5(信越化学工業(株)製)]。
表3の比較例の触媒として、DICY(ジシアンジアミド)を用いた。
【0063】
熱伝導性無機充填材の粒径は、日機装株式会社製の粒度分析計であるマイクロトラックMT3300EXにより測定した、体積基準の累積平均径である。
【0064】
表2及び3の結果は、本発明の熱伝導性シリコーングリース組成物は、熱伝導率に優れるだけでなく、冷熱サイクル時の割れ・ズレが発生しないことから、使用中に熱が発生する電気・電子部品からの除熱に優れていることを実証するものである。
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】