特許第6394575号(P6394575)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6394575
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】差圧伝送器
(51)【国際特許分類】
   G01L 13/02 20060101AFI20180913BHJP
   G01L 19/06 20060101ALI20180913BHJP
   G01F 23/18 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   G01L13/02 C
   G01L19/06 A
   G01F23/18
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-232963(P2015-232963)
(22)【出願日】2015年11月30日
(65)【公開番号】特開2017-101936(P2017-101936A)
(43)【公開日】2017年6月8日
【審査請求日】2017年10月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100096677
【弁理士】
【氏名又は名称】伊賀 誠司
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 真伍
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 卓
【審査官】 森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5892537(JP,B2)
【文献】 特許第4853039(JP,B2)
【文献】 特開2011−21941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F23/14
G01L13/02
G01L19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受圧面に第1のダイアフラムシールを備える低圧側受圧部と、
受圧面に第2のダイアフラムシールを備える高圧側受圧部と、
前記低圧側受圧部と第1のパイプを介して接続され、前記高圧側受圧部と第2のパイプを介して接続される差圧伝送部とを備え、
前記第1のパイプおよび前記第2のパイプには、前記第1のダイアフラムシールおよび前記第2のダイアフラムシールでそれぞれ検出した圧力を差圧伝送部に伝えるための封入液が充填され、
少なくとも前記第1のダイアフラムシールおよび前記第2のダイアフラムシールのいずれか一方の接液側を完全に覆うように絶縁被膜が被覆されており、前記絶縁被膜が被覆されるダイアフラムシールと前記絶縁被膜との間に媒体層が形成されていることを特徴とする差圧伝送器。
【請求項2】
前記絶縁被膜が被覆される前記ダイアフラムシールの接液側に存在する液は、金属イオンを含有する水溶液であることを特徴とする請求項1記載の差圧伝送器。
【請求項3】
前記絶縁被膜は、樹脂であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の差圧伝送器。
【請求項4】
前記樹脂は、フッ素樹脂であることを特徴とする請求項3記載の差圧伝送器。
【請求項5】
圧力式レベル計として適用されることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の差圧伝送器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差圧伝送器に関し、より詳しくは、受圧面にダイアフラムシールを備え、パイプに充填された封入液を介して差圧伝送器に受圧部の圧力を伝えるダイアフラムシール付き差圧伝送器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ダイアフラムシール付き差圧伝送器は、低圧側受圧部と高圧側受圧部とパイプと差圧伝送部とで構成されている。そして、受圧部に備わったダイアフラムシールによって検出された、測定対象としての液またはガスの圧力が、パイプに充填された、圧力伝達媒体としてのシリコンオイル等の封入液によって、差圧伝送部に伝達される構造となっている。
【0003】
このダイアフラムシール付き差圧伝送器による測定方式に対して、測定対象としての液またはガスを、導圧管によって、直接、差圧伝送部の測定部に導入する方式もあり、直接式と呼んで、ダイアフラムシール付き差圧伝送器によるダイアフラムシール式と区別している。
【0004】
ところが、直接式の測定法では導圧管が必要であり、導圧管には詰まりや洩れが発生する恐れがある。また、腐食性が強い液やガス、固形物を析出し易い液やガスでは、差圧伝送器内に液やガスを入れることは好ましくない。さらに、ガスが凝縮性の性質を有する場合、導圧管内に液体が溜まるため、導圧管の途中に凝縮器を設置する必要があり、構造が複雑となって、高度な運転管理、維持管理が必要となる。
【0005】
一方、ダイアフラムシール式によれば、導圧管の詰まりや洩れの懸念が無いばかりで無く、腐食性が強い液やガス、固形物を析出しやすい液やガス、凝縮性の性質を有する液やガスにも適用できる。このため、近年、ダイアフラムシール付き差圧伝送器を採用するケースが増加している。
【0006】
このダイアフラムシール付き差圧伝送器に限らず、差圧伝送器の用途には、液位測定用、差圧式流量測定用、圧力測定用、液体密度測定用等がある。液位測定機器としては、例えば真空系等の負圧環境下における、タンク内の連続した液位測定用には、超音波式レベル計やマイクロウェーブ式レベル計よりも、差圧伝送部を用いた圧力式レベル計が多く用いられている。負圧環境下では、電波を伝播させる役割を担う空気が薄くなるため、超音波式レベル計、マイクロウェーブ式レベル計では液位測定が不可能となる場合があるためである。
【0007】
そのため、負圧環境下で運転されるタンク等においては、圧力式レベル計が用いられている。また、その圧力式レベル計を用いる場合においても、前述の通り、タンク内の測定対象物が腐食性の強い液やガスであるとき、ダイアフラムシール付き差圧伝送器が使われる。
【0008】
例えば、特許文献1では、ダイアフラムシール部を構成するダイアフラムシールの腐食防止として、有機ハロゲン化合物をアルカリ金属により脱ハロゲン化する装置の内部の液体と接触する隔膜(ダイアフラムシール)にハステロイCを用いた圧力測定機器が記載されている。
【0009】
また、特許文献2には、ダイアフラムシールを構成するダイアフラム以外の部分の腐食防止を目的として、ダイアフラムシール取付用フランジの材質と構造に係る技術が記載されている。
【0010】
特許文献3では、水素が容易に金属製ダイアフラムシールを透過するという課題を解決するために、ダイアフラムシール部の構造および構成材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−170760号公報
【特許文献2】特開2006−292723号公報
【特許文献3】特開2013−257225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、非鉄金属の電解設備を構成する、負圧環境下で運転される電解液の中継タンクにダイアフラムシール付き差圧伝送器である圧力式レベル計が備わっている場合であって、ダイアフラムシールが金属等の導電性物質のとき、ダイアフラムシールの接液部に電解液中の金属が析出するという現象が発生することがある。このように、ダイアフラムシール付き差圧伝送器が電解設備に付随する設備に用いられた場合、金属がダイアフラム部に電析する問題が発生することがある。ダイアフラムシールの接液部に電解液中の金属が析出すると、ダイアフラムシールが正常に機能しなくなる。その結果、液位測定が正確に行われなくなるため、液位の制御が安定しない。
【0013】
特許文献1ないし3のいずれにも、いわゆるダイアフラムシールの接液面への電析あるいは電気化学反応の影響を受ないダイアフラムシール付き差圧伝送器に関する記載がない。
【0014】
そこで、本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、ダイアフラムシールの接液部に液中の金属が析出する現象を防止することができる差圧伝送器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上述した目的を達成すべく、鋭意研究を重ねた結果、ダイアフラムシールの接液側に絶縁被膜を被覆することで、ダイアフラムシールの接液部に液中の金属が析出する現象が防止できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
すなわち、本発明の一態様に係る差圧伝送器は、受圧面に第1のダイアフラムシールを備える低圧側受圧部と、受圧面に第2のダイアフラムシールを備える高圧側受圧部と、前記低圧側受圧部と第1のパイプを介して接続され、前記高圧側受圧部と第2のパイプを介して接続される差圧伝送部とを備え、前記第1のパイプおよび前記第2のパイプには、前記第1のダイアフラムシールおよび前記第2のダイアフラムシールでそれぞれ検出した圧力を差圧伝送部に伝えるための封入液が充填され、少なくとも前記第1のダイアフラムシールおよび前記第2のダイアフラムシールのいずれか一方の接液側を完全に覆うように絶縁被膜が被覆されており、前記絶縁被膜が被覆されるダイアフラムシールと前記絶縁被膜との間に媒体層が形成されていることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の一態様では、前記絶縁被膜が被覆される前記ダイアフラムシールの接液側に存在する液は、金属イオンを含有する水溶液であることが好ましい。
【0018】
また、本発明の一態様では、前記絶縁被膜は、樹脂であることが好ましい。さらに、本発明の一態様では、前記樹脂は、フッ素樹脂であることが好ましい。
【0019】
また、本発明の一態様では、圧力式レベル計として適用されることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ダイアフラムシールに液中の金属が析出する現象を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る差圧伝送器の構成を示した概略図である。
図2】本発明の一実施形態に係る差圧伝送器の受圧面のダイアフラムシールの構成を示した概略断面図である。
図3】本発明の一実施形態である電解周辺設備の概略図である。
図4】比較例1におけるダイアフラムシール接液側に発生した電析物を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明を適用した差圧伝送器の実施の形態について説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えることが可能である。
【0023】
また、本発明の一実施形態は、ダイアフラムシール付き差圧伝送器を使用した圧力測定器であれば、液位測定用、差圧式流量測定用、圧力測定用、液体密度測定用等、あらゆる用途に適用することができる。ここでは、本発明の一実施形態として、ダイアフラムシール付き差圧伝送器を使用した圧力式レベル計への適用を例にとって、以下、説明する。
【0024】
<1.差圧伝送器>
本発明の一実施形態に係る差圧伝送器について、図面を用いて説明する。図1は、本発明に係る差圧伝送器1の構成を示した概略図である。本発明の一実施形態に係る差圧伝送器1は、図1に示すように、低圧側受圧部10と、高圧側受圧部20と、低圧側受圧部10と第1のパイプ30を介して接続され、高圧側受圧部20と第2のパイプ40を介して接続される差圧伝送部50とを備える。以下、各構成について、それぞれ説明する。
【0025】
(低圧側受圧部、高圧側受圧部)
低圧側受圧部10は、受圧面に第1のダイアフラムシール(不図示)を備え、高圧側受圧部20は、受圧面に第2のダイアフラムシール(不図示)を備える。具体的には、低圧側受圧部10は、接ガス側の圧力取出し用フランジ11と、第1のダイアフラムシールと、第1のパイプ30側のダイアフラムシール取付け用フランジ(不図示)を備え、高圧側受圧部20は、接液側の圧力取出し用フランジ21と、第2のダイアフラムシールと、第2のパイプ40側のダイアフラムシール取付け用フランジ(不図示)を備える。ここで、液もしくはガスに接する圧力取出し用フランジ11,21とダイアフラムシールには、液もしくはガスの性質に応じた耐食性が要求される。
【0026】
低圧側受圧部10は容器60の上部(ガス層)に設置され、高圧側受圧部20は容器60の下部(液層)に設置される。そして、差圧伝送部50の差圧測定値に基づき容器60内の液位(液面の高さ)が算出される。
【0027】
図2は、本発明の一実施形態に係る差圧伝送器1の接液部、すなわち、高圧側受圧部20に設けられるダイアフラムシール構成を示した概略断面図である。高圧側受圧部20には、図2に示すように、第2のダイアフラムシール22が設けられ、容器60内の液層側と第2のダイアフラムシール22の間に介在するように絶縁被膜23が被覆される。
【0028】
また、低圧側受圧部10には、高圧側受圧部20と同様に、第1のダイアフラムシールが設けられ、容器60内のガス層側と第1のダイアフラムシールの間に介在するように絶縁被膜が被覆されることもできる。なお、低圧側受圧部10にも、第1のダイアフラムシールが設けられているが、第1のダイアフラムシールが液と接する可能性がなければ絶縁被膜は必ずしも必要とはならない。
【0029】
ところで、例えば、非鉄金属の電解設備を構成する、負圧環境下で運転される電解液の中継タンクに差圧伝送器である圧力式レベル計が備わっている場合であって、ダイアフラムシールが金属等の導電性物質からなるとき、ダイアフラムシールの接液部に電解液中の金属が析出するという現象が発生することがあった。
【0030】
ここで、ダイアフラムシールの接液部に電解液中の金属が析出すると、ダイアフラムシールが正常に機能しなくなる。その結果、液位測定が正確に行われなくなるため、液位制御が安定しないという問題があった。
【0031】
このような問題が発生する原因としては、電解設備からの漏れ電流と電位差によるものと考えられる。このため、金属の析出によってダイアフラムシールが変形し、使用困難となるため、ダイアフラムシールの取替えを余儀なくされていた。
【0032】
そこで、上述した問題が発生しないよう、本実施形態に係る差圧伝送器1は、少なくとも低圧側受圧部10に備えられる第1のダイアフラムシールおよび高圧側受圧部20に備えられる第2のダイアフラムシールのいずれか一方の接液側に絶縁被膜が被覆されていることを特徴とする。
【0033】
これにより、絶縁被膜が被覆されるダイアフラムシールの接液側に存在する液が、金属イオンを含有する水溶液である場合でも、ダイアフラムシールの接液部に液中の金属が析出する現象を防止することができる。
【0034】
また、本発明の一実施形態に係る差圧伝送器1は、図2に示すように、高圧側受圧部20の第2のダイアフラムシール22と絶縁被膜23との間に、密着性を向上させるためのゲル状物質(例えばグリス)を充填させても良い。このゲル状物質の充填により、第2のダイアフラムシール22と絶縁被膜23との間には、媒体層24が形成される。さらに、絶縁被膜23の被覆方法については特に制限されず、第2のダイアフラムシール22にシート状の絶縁被膜23を被せても、貼り合せても、例えば溶射処理をしても構わない。
【0035】
第2のダイアフラムシール22は、一般的に使用されるものであり、タンタル、高耐食ステンレス鋼(例えばJIS規格のSUS316)、ニッケル基合金(例えばハステロイCシリーズ(ハステロイC22やハステロイC276等))、チタン等の薄膜である。なお、ハステロイは、登録商標である。中でも、タンタルは、アルカリ金属等に対する耐食性が良好であり、機械的性質も優れている。なお、第1のダイアフラムシールも、第2のダイアフラムシール22と同様である。
【0036】
絶縁被膜23は、特に限定されないが、絶縁性を有し、第2のダイアフラムシール22の変形を妨げない柔らかさを保持し、かつ腐食性の強い液やガスに侵されない材料であれば良い。絶縁被膜23には、好ましくは、プラスチックフィルム、ゴムシート等の樹脂、より好ましくは、テフロン(登録商標)等のフッ素樹脂を使用することができる。
【0037】
絶縁被膜23は、図2に示すように、第2のダイアフラムシール22および金属ブロック25を覆うように、言い換えれば金属ブロック25よりも大きく被覆させる。これにより、第2のダイアフラムシール22の接液側を完全に覆うことができる。
【0038】
なお、絶縁被膜23の厚みは、絶縁性を有し、第2のダイアフラムシール22の変形を妨げない柔らかさを保持できれば特に限定されないが、0.1〜2.0mm程度のもので良い。薄いと破れやすくなり厚いと動きにくくなるが、これは素材の性質にもよるので一概に決めることができない。
【0039】
(第1のパイプ、第2のパイプ)
第1のパイプ30および第2のパイプ40の形状は、一般的に入手し易い円管状のものでよい。第1のパイプ30および第2のパイプ40の材質は、外部からの腐食も考慮すれば、一般的なステンレス鋼が良い。
【0040】
容器60内の圧力は、封入された封入液を介して差圧伝送部50内に伝えられる。また、差圧伝送部50による圧力差の検出は、素子等のセンサーが圧力差を電気信号に変換することにより行われる。
【0041】
第1のパイプ30には、低圧側受圧部10に設けられる第1のダイアフラムシールで受けた圧力を差圧伝送部50に伝達するために封入液が封入されている。また、第2のパイプ40には、高圧側受圧部20に設けられる第2のダイアフラムシール22で受けた圧力を差圧伝送部50に伝達するために封入液が封入されている。なお、封入液としては、耐熱性、耐寒性、粘度安定性、化学的安定性等に優れ、腐食性が無く、熱伝導率が低く、電気絶縁性の高い、シリコンオイルが好適に用いられる。
【0042】
(差圧伝送部)
差圧伝送部50は、低圧側受圧部10と第1のパイプ30を介して接続され、高圧側受圧部20と第2のパイプ40を介して接続されている。この差圧伝送部50は、市販品や、すでに公知となっているものである。
【0043】
差圧伝送部50は、第1のパイプ30および第2のパイプ40に液封されているシリコンオイルの圧力差を基に上下の差圧を求め、それから液面の高さに換算して表示する。このため、差圧伝送部50の内部には、差圧検出用の変換素子の他に、容器内の液体およびシリコンオイルの密度等を記憶するメモリや液面の高さを計算するCPU等が内蔵されているものもある。
【0044】
また、本発明の一実施形態に係る差圧伝送器1は、容器60内の液層に存在する水溶液が金属イオンを含有する水溶液に用いることが好ましい。このように、このダイアフラムシール付き差圧伝送器1を使用することで、高圧側受圧部20のダイアフラムシール23に液層中の金属が析出することによる影響を受けずに、容器60内の差圧を精度よく測定し、電流値に変換することができる。その結果、演算処理によって容器60内の液位(液面の高さ)に換算することができる。
【0045】
(測定方法)
本発明の一実施形態に係る差圧伝送器1を用いて、容器60内の差圧を測定する方法を説明する。まず、本発明の一実施形態に係るダイアフラムシール付き差圧伝送器1の構成である低圧側受圧部10を容器60の上部(ガス層)に取り付け、高圧側受圧部20を容器60の下部(液層)に取り付ける。
【0046】
次に、差圧伝送部50を容器60の底よりも低い位置に設置する。これにより、低圧側受圧部10に備えられる第1のダイアフラムシールおよび高圧側受圧部20に備えられる第2のダイアフラムシール22によってそれぞれ検出された、測定対象である液またはガスの圧力が、第1のパイプ30および第2のパイプ40に充填された、圧力伝達媒体であるシリコンオイル等の封入液によって、差圧伝送部50に伝達される。
【0047】
そして、差圧伝送部50は、ガス層と液層の差圧を測定した後、その差圧を電流値に変換し、さらに演算処理によって容器60内の液位(液面の高さ)に換算することができる。
【0048】
以上より、本発明の一実施形態に係る差圧伝送器1は、受圧面に第1のダイアフラムシールを備える低圧側受圧部10と、受圧面に第2のダイアフラムシール22を備える高圧側受圧部20と、低圧側受圧部10と第1のパイプ30を介して接続され、高圧側受圧部20と第2のパイプ40を介して接続される差圧伝送部50とを備える。そして、第1のパイプおよび第2のパイプには、第1のダイアフラムシールおよび第2のダイアフラムシール22でそれぞれ検出した圧力を差圧伝送部50に伝えるための封入液が充填され、少なくとも第1のダイアフラムシールおよび第2のダイアフラムシール22のいずれか一方の接液側に絶縁被膜23が被覆されていることを特徴とする。
【0049】
本発明の一実施形態に係る差圧伝送器1によれば、差圧伝送部50を電解設備に付随する設備に用いた場合においても、ダイアフラムシールの接液部に液中の金属が析出することによる影響を受けずに、容器60内の液面レベルを測定することができる。また、本実施形態では、ダイアフラムシール部への電析による容器60の液面レベルの指示不良を防止することが可能であり安定操業を提供できるため、その工業的価値は極めて大きい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例および比較例に限定されるものではない。
【0051】
図3は、本発明の一実施形態である電解周辺設備の概略図である。実施例1および比較例1では、ニッケル製錬プロセスにおけるコバルト電解周辺設備100を構成する、負圧環境下で運転される電解液の脱ガス塔110、および中継槽120に設置された差圧伝送器1を使用した圧力式レベル計に適用した。図1に示す接続例に基づいて、図3に示す電解液の脱ガス塔110、および中継槽120に設置された差圧伝送器1をそれぞれ使用した。電解槽周辺設備100では重金属を浸出した電解液に対して、電解槽130内に設置したカソード131・アノード132電極を用いて直流電流を印加して電気分解反応させることによりカソード131電極側に金属を析出させた。この時、電解槽130内に印加した直流電流が電解液を介して電解槽130以外の設備へ拡散することを防止するために前後工程の水溶液とは直接接液しない設備構造とした。
【0052】
まず、電解の後工程である脱ガス工程について説明する。電気化学反応により、アノードボックス133に内蔵されたアノード132電極ではガスが発生し、発生したガスを再び金属浸出を目的としたガスとして再利用するために真空ポンプを用いて回収し、脱ガス工程において脱ガスが行われる。脱ガス塔110にはタンクの上部・下部にダイアフラムシールを設けた差圧式レベル計が用いられた。
【0053】
また、タンク内部のガスを無害化するために除害設備からファンによって引いている設備についてもタンク内は負圧となるため差圧伝送器1を用いた。ここで、脱ガス工程では、真空ポンプにて回収したガス混合状態の水溶液をタンク上部からシャワーのように降らすことで電解槽130との電気的絶縁を図った。
【0054】
(実施例1)
実施例1では、図3に示す中継槽120に差圧伝送器1(JTF929A、アズビル製)を設置した。この中継槽120は、カソード131側の電解廃液を、給液用ヘッドタンク140に送液する際に、一時的に貯留する槽である。差圧伝送器1の高圧側受圧部121には、第2のダイアフラムシール22が設けられ、中継槽120の液層側と第2のダイアフラムシール22の間に介在するように絶縁被膜23を被覆した。実施例1では、この第2のダイアフラムシール22は、タンタルで構成され、この絶縁被膜23は、厚さ1mmのテフロン膜であった。また、第2のダイアフラムシール22および絶縁被膜23との間に、密着性を上げるためのシリコンオイルを充填した。実施例1では、プロセス条件として、この中継槽120には、pH0.5、温度60℃、密度1.2g/cm、粘度2cPの塩化コバルト水溶液が貯留していた。
【0055】
実施例1では、2013年10月から2015年10月までCoの電気分解を行った。その結果、実施例1から構成される差圧伝送器1では、約2年間、指示不良が発生していなかった。なお、実施例1では、中継槽のガス層部の圧力は0mm〜−2500mmHO(水柱)であった。
【0056】
(比較例1)
比較例1では、図3に示す脱ガス塔110に差圧伝送器1を設置した。この脱ガス塔110には、アノード132から発生した塩素ガスと共にアノード132側の電解排液が吸引され、一旦廃液槽150に貯留されたアノード132側の電解廃液が供給される。比較例1では、差圧伝送器の高圧側受圧部にダイアフラムシールを設けた。比較例1では、このダイアフラムシールは、タンタルで構成されていた。比較例1では、プロセス条件として、この脱ガス塔110には、pH1、温度55℃、密度1.2g/cm、粘度2cPの塩化コバルト水溶液が貯留していた。
【0057】
比較例1では、絶縁被膜22を備えていないこと以外は実施例1と同じ差圧伝送器を用い、2013年10月から2015年10月までCoの電気分解を行った。その結果、レベル誤表示となる事例が3ヶ月に1度発生した。この原因は、高圧側受圧部111のダイアフラムシールへの金属析出によって高圧側の受圧面が押されることによるものであった。なお、比較例1では、脱ガス塔110のガス層部の圧力は−7500mmHO(−550mmHg)であった。
【0058】
比較例1で用いられた高圧側受圧部20の液に接する圧力取出し用フランジを取り外し、タンタル製のダイアフラムシールの表面を確認した。その結果、図4に示すようにダイアフラムシールの接液側に電解液中の金属イオンとして存在していたCoが電析し、この電析物が厚さ4mm、大きさ60mmφであることを確認した。
【0059】
(考察)
実施例1では、差圧伝送器1を電解設備に付随する設備に用いた場合においても、図2に示すように絶縁被膜23を被覆することにより、第2のダイアフラムシール22を電気的に絶縁できるダイアフラムシール付き差圧伝送器1を実現できることを確認した。
【0060】
一方、比較例1では、タンク内側面を伝う電解液やタンク雰囲気により電解槽からの漏れ電流が伝搬し、差圧伝送器の高圧側受圧部で電気分解反応が起こった。これにより、ダイアフラムシールの金属がカソードとなり水溶液中に溶解している金属がダイアフラムシール上に析出した。
【0061】
以上より、本発明の一実施形態である差圧伝送器1は、高圧側受圧部20に備えられる第2のダイアフラムシール22に液層中の金属が析出することによる影響を受けずに、容器60内の差圧を測定した後、この差圧を電流値に変換し、演算処理によって容器60内の液位(液面の高さ)に換算することができる。また、本実施形態によれば、経時劣化による第2のダイアフラムシール22の寿命まで、ダイアフラムシールを取り替える必要がない。
【符号の説明】
【0062】
1 差圧伝送器、10 低圧側受圧部、20 高圧側受圧部、22 第2のダイアフラムシール、23 絶縁被膜、30 第1のパイプ、40 第2のパイプ、50 差圧伝送部
図1
図2
図3
図4