(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記鉄基合金層を構成する析出硬化型ステンレス鋼は、15質量%以上19質量%以下のCr、6質量%以上9質量%以下のNi、0.5質量%以上2.0質量%以下のAl、0.01質量%以上0.3質量%以下のC、0.01質量%以上0.3質量%以下のN、残部Feおよび不可避不純物から構成される、請求項1または2に記載の二次電池の負極集電体用箔。
前記一対のCu層には、前記析出硬化型ステンレス鋼を構成する金属元素が拡散し、拡散した前記金属元素の一部が析出物として存在している、請求項1〜3のいずれか1項に記載の二次電池の負極集電体用箔。
前記一対のCu層は、各々、CuまたはCu基合金から構成されるCuめっき層(252、253)である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の二次電池の負極集電体用箔。
析出硬化型ステンレス鋼から構成される鉄基合金板材の両面にCuまたはCu基合金を層状に配置することによって、析出硬化型ステンレス鋼から構成される鉄基合金層(51)と、前記鉄基合金層の両面にそれぞれ配置され、CuまたはCu基合金から構成される一対のCu層(52、53)と、を含み、20μmを超える第1の厚みを有するCu被覆材(150b、150c)を作製し、
作製された前記Cu被覆材を20μm以下の第2の厚みを有するように圧延した後に、500℃以上650℃以下の温度で0.5分以上3分以下保持して時効処理を行い、厚みが20μm以下であり、かつ、体積抵抗率が7μΩ・cm以下である、Cu被覆箔(50)を得る、二次電池の負極集電体用箔(5b)の製造方法。
前記時効処理が行われた前記Cu被覆箔のCu層には、前記析出硬化型ステンレス鋼を構成する金属元素が拡散し、拡散した前記金属元素の一部が析出物として存在している、請求項7または8に記載の二次電池の負極集電体用箔の製造方法。
前記第1の厚みを有する前記Cu被覆材を、前記第2の厚みを有するように圧下率70%以上の条件で圧延する、請求項7〜9のいずれか1項に記載の二次電池の負極集電体用箔の製造方法。
前記鉄基合金板材の両面に一対のCuまたはCu基合金から構成されるCu板材が接合されたCu被覆中間材(150a)を作製し、前記Cu被覆中間材を前記第1の厚みを有するように圧延した後に、850℃以上1050℃以下の温度で0.3分以上3分以下保持して焼鈍することによって、クラッド材から構成され、前記第1の厚みを有する前記Cu被覆材を作製する、請求項7〜10のいずれか1項に記載の二次電池の負極集電体用箔の製造方法。
前記鉄基合金板材の両面にCuまたはCu基合金をめっきすることによって、前記鉄基合金層の両面にCuまたはCu基合金から構成されるCuめっき層(252、253)からなる前記一対のCu層が形成された、前記第1の厚みを有する前記Cu被覆材を作製する、請求項7〜10のいずれか1項に記載の二次電池の負極集電体用箔の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明では、20μm以下の第2の厚みを有するものを「Cu被覆箔」とし、20μmを超える第1の厚みを有するものを「Cu被覆材」とし、その第1の厚みに形成される前の第1の厚みを超える厚みを有するものを「Cu被覆中間材」として区別する。また、本発明では、鉄基合金板材の両面に一対のCu板材を接合する最初の圧延(
図3に示す圧延接合工程を参照)の直後に、元素の拡散を生じさせて接合を強化することによって、その後の圧延における層間の剥がれを抑制することを主目的として行われる焼鈍を特に「拡散焼鈍」と呼び、軟化を生じさせることによって、その後の圧延における薄肉化を容易にすることを主目的として行われる焼鈍を特に「軟化焼鈍」と呼ぶ。
【0030】
[第1実施形態]
まず、
図1および
図2を参照して、本発明の第1実施形態による負極集電箔5bを用いた電池100の構造について説明する。
【0031】
(電池の構造)
本発明の第1実施形態による電池100は、
図1に示すように、いわゆる円筒型のリチウムイオン二次電池である。この電池100は、円筒状の筐体1と、筐体1の開口を封止する蓋材2と、筐体1内に配置される蓄電要素3とを備えている。
【0032】
筐体1内には、蓄電要素3と電解液(図示せず)とが収容されている。蓋材2は、アルミニウム合金等から構成されており、電池100の正極端子(電池正極)を兼ねている。蓄電要素3は、正極4と、負極5と、正極4と負極5との間に配置された絶縁性のセパレータ6とが巻回されることによって形成されている。正極4は、コバルト酸リチウムなどの正極活物質と、アルミニウム箔からなる正極集電箔とを含んでいる。正極集電箔の表面には、バインダーなどにより正極活物質が固定されている。また、正極4には、蓋材2と正極4とを電気的に接続するための正極リード材7が固定されている。
【0033】
負極5は、
図2に示すように、負極活物質5aと、バインダーなどにより負極活物質5aが固定される負極集電箔5bとを含んでいる。負極活物質5aは、たとえば、炭素、SiやSiOなどのリチウムの挿入および脱離が可能な材料から構成されている。負極活物質5aは、リチウムの挿入および脱離に応じて、それぞれ、膨張および収縮をする。また、
図1に示すように、負極5の負極集電箔5bには、筐体1の内底面1aと負極5とを電気的に接続するための負極リード材8が固定されている。なお、負極集電箔5bは、特許請求の範囲の「二次電池の負極集電体用箔」の一例である。
【0034】
(負極集電体の構成)
ここで、第1実施形態では、負極集電箔5bは、析出硬化型ステンレス鋼から構成される鉄基合金層51と、鉄基合金層51の厚み方向(Z方向)の両面51aおよび51bにそれぞれ接合されたCu層52および53とを備える、3層構造のクラッド材から構成されたCu被覆箔50である。なお、鉄基合金層51とCu層52との接合界面および鉄基合金層51とCu層53との接合界面では、金属同士の原子レベルでの接合が生じている。また、Cu層52の鉄基合金層51と接合される側とは反対側の表面52a、および、Cu層53の鉄基合金層51と接合される側とは反対側の表面53aには、それぞれ、負極活物質5aがバインダーによって固定されている。
【0035】
鉄基合金層51を構成する析出硬化型ステンレス鋼とは、析出硬化温度で時効処理を行うことにより微細な析出物を生成させることによって、機械的強度の一種である弾性限界を大きくすることが可能な鉄基合金である。析出硬化型ステンレス鋼としては、たとえば、JIS G4305に準拠するSUS630およびSUS631などがある。
【0036】
また、析出硬化型ステンレス鋼は、Cr(クロム)を15質量%以上19質量%以下、Ni(ニッケル)を6質量%以上9質量%以下、Al(アルミニウム)を0.5質量%以上2.0質量%以下、C(炭素)を0.01質量%以上0.3質量%以下、N(窒素)を0.01質量%以上0.3質量%以下、残部Fe(鉄)および不可避不純物から構成された鉄基合金であるのが好ましい。
【0037】
また、鉄基合金層51には、時効処理が行われたことにより析出物が生成されている。これにより、鉄基合金層51において析出硬化が行われているので、鉄基合金層51の弾性限界が向上されている。析出硬化型ステンレス鋼として、たとえばSUS631または上記組成を有する鉄基合金を用いた場合には、鉄基合金層51内において、微細なAlもしくはNiを含むか、または、AlとNiの両方を含む金属間化合物の粒子(金属間化合物相)が析出物として生成されて分散しているとともに、CもしくはNを含むか、または、CとNの両方を含むものが転位部分に析出物として生成されていると考えられる。また、析出硬化型ステンレス鋼として、たとえばSUS630を用いた場合には、鉄基合金層51内において、Cuリッチの粒子(Cu富化相)が析出物として生成されて分散していると考えられる。
【0038】
Cu層52および53は、99質量%以上のCuを含有するCu板材を用いて作製された層であり、主にCu(銅)から構成されている。また、Cu層52および53には、鉄基合金層51を構成する金属元素の一部が含まれている。この一部の金属元素は、後述する焼鈍(拡散焼鈍および軟化焼鈍)において、鉄基合金層51からCu層52および53に拡散することによって、Cu層52および53の主に鉄基合金層51側の領域に拡散が起こり、拡散した金属元素の一部が時効処理により析出物として存在するようになる。
【0039】
具体的には、鉄基合金層51を構成する析出硬化型ステンレス鋼として、たとえばSUS631または上記組成を有する鉄基合金を用いた場合には、Cu層52および53には、Al、Fe、CrおよびNiのうちの1種または2種以上が拡散していると考えられる。また、鉄基合金層51を構成する析出硬化型ステンレス鋼として、たとえばSUS630を用いた場合には、Cu層52および53には、FeおよびCrが拡散していると考えられる。
【0040】
ここで、第1実施形態では、負極集電箔5bの体積抵抗率(単位体積当たりの電気抵抗値)は、7μΩ・cm以下である。これにより、負極集電箔5bの導電率を、24.6%IACS以上にすることができる。なお、「負極集電箔5bの導電率が24.6%IACS以上である」とは、体積抵抗率が1.7241μΩ・cmの国際標準軟銅の導電率を100%とした場合に、負極集電箔5bの導電率が24.6(=1.7241(μΩ・cm)/7(μΩ・cm)×100)%IACS以上であることを意味する。また、負極集電箔5bの体積抵抗率(単位体積当たりの電気抵抗値)は、5μΩ・cm以下であるのが好ましい。これにより、負極集電箔5bの導電率は、34.5(=1.7241(μΩ・cm)/5(μΩ・cm)×100)%IACS以上になる。なお、負極集電箔5bの体積抵抗率は、4.8μΩ・cm以下(負極集電箔5bの導電率は35.9%IACS以上)であるのがより好ましい。
【0041】
また、負極集電箔5bを構成するCu被覆箔50のZ方向の長さ(厚み)t1は、20μm以下である。なお、電池100の電池容量を向上させるためには、負極集電箔5bを構成するCu被覆箔50をより薄くするのが好ましい。したがって、厚みt1は、約15μm以下であるのが好ましく、約12μm以下であるのがより好ましく、約10μm以下であるのがより一層好ましい。また、負極集電箔5bの作製が困難になるのを避けるために、厚みt1は、約3μm以上であるのが好ましく、約5μm以上であるのがより好ましい。
【0042】
また、Z方向における、Cu層52と鉄基合金層51とCu層53との厚み比率(Cu層52の厚みt2:鉄基合金層51の厚みt3:Cu層53の厚みt4)が、たとえば約「1:3:1」になるように形成されたクラッド材(Cu被覆箔50)であってもよい。つまり、Cu被覆箔50のZ方向の長さ厚みt1が約10μmである場合には、Cu層52の厚みt2、鉄基合金層51の厚みt3、および、Cu層53の厚みt4が、それぞれ、約2μm、約6μm、および、約2μmになるように形成されていてもよい。なお、厚みt1〜t4は、それぞれ、負極集電箔5bの複数の位置で測定した厚みの平均値である。
【0043】
なお、Cu層52と鉄基合金層51とCu層53との厚み比率は、約「1:3:1」に限定されない。つまり、鉄基合金層51の厚みがCu層52および53の厚みよりも大きい場合に限らず、鉄基合金層51の厚みがCu層52および53の厚みよりも小さくてもよいし、等しくてもよい。また、Cu層52の厚みとCu層53の厚みとが異なってもよい。なお、厚み比率は、Cu層52および53における十分な電気伝導性の確保と、鉄基合金層51における高い弾性限界(高い機械的強度)の確保とを両立するために、約「1:8:1」乃至約「3:4:3」の範囲が好ましい。つまり、鉄基合金層51の厚みは、負極集電箔5b(Cu被覆箔50)の厚みの約40%以上約80%以下が好ましく、Cu層52の厚みおよびCu層53の厚みは、それぞれ、負極集電箔5b(Cu被覆箔50)sの厚みの約10%以上約30%以下が好ましい。したがって、鉄基合金層51の厚みは、Cu層52の厚みおよびCu層53の厚みよりも大きい方が好ましい。
【0044】
また、第1実施形態では、好ましくは、負極集電箔5bの弾性限界応力σ
0.01は約700MPa以上である。これにより、約700MPa未満の応力が負極集電箔5bに加えられた場合、負極集電箔5bでは、塑性変形がほとんど生じずに、弾性変形のみが生じるようにすることができる。この結果、電池100において充放電が繰り返し行われた場合であっても、負極集電箔5bにしわ状の凹凸が形成されてしまうのを十分に抑制することが可能である。なお、負極集電箔5bの弾性限界応力σ
0.01は、約750MPa以上であるのがより好ましい。
【0045】
(負極集電箔の製造工程)
次に、
図2および
図3を参照して、第1実施形態における負極集電箔5bの製造工程について説明する。
【0046】
まず、
図3に示すように、析出硬化型ステンレス鋼からなる鉄基合金板材151と、たとえば99質量%以上のCuを含む一対のCu板材152および153を準備する。この際、Cu板材152と鉄基合金板材151とCu板材153との厚み比率(Cu板材152の厚み:鉄基合金板材151の厚み:Cu板材153の厚み)が、「約1:3:1」になるように、鉄基合金板材151、一対のCu板材152および153を準備することができる。なお、容易に準備可能で、かつ、後述する圧延において破断等が生じるのを抑制するために、鉄基合金板材151、一対のCu板材152および153の厚みは、共に、20μm(より好ましくは約100μm)を超えているのが好ましい。たとえば、鉄基合金板材151の厚みを約0.45mmとし、Cu板材152および153の厚みを共に約0.15mmとすることができる。
【0047】
なお、Cu板材152および153は、共に、Cuを99.96質量%以上含む無酸素銅、Cuを99.75質量%以上含むりん脱酸銅、または、Cuを99.9質量%以上含むタフピッチ銅などから構成することができる。なお、Cu板材152および153は、同一の組成を有するCu板材から形成されてもよいし、異なる組成を有するCu板材から形成されてもよい。
【0048】
そして、
図3に示す圧延接合工程において、鉄基合金板材151を一対のCu板材152および153によって厚み方向に挟み込んだ状態で、圧延ロール101を用いて冷間(室温、たとえば約20℃以上約40℃以下)下で圧延接合を行うことができる。これにより、鉄基合金板材151の両面に一対のCu板材152および153がそれぞれ層状に接合されたCu被覆中間材150aを作製することができる。その後、圧延接合工程の次の圧延工程において、Cu被覆中間材150aに対して、圧延ロール102を用いて冷間(室温)下で圧延を行うことによって、20μmを超えて100μm未満の第1の厚みを有するCu被覆材150bを作製することができる。なお、Cu被覆材150bの厚みは、40μmを超えて80μm以下であるのが好ましい。また、Cu被覆中間材150aおよびCu被覆材150bは、特許請求の範囲の「Cu被覆中間材」および「Cu被覆材」の一例である。
【0049】
そして、
図3に示す焼鈍工程において、第1の厚みを有するCu被覆材150bに対して、焼鈍を行うことができる。この際、850℃以上1050℃以下の温度に設定された焼鈍炉103内に特開2008−123964号公報に開示される保持時間(約5分以上)に比べて十分に短い0.3分以上3分以下保持されるように、Cu被覆材150bを焼鈍炉103内に配置する。なお、焼鈍炉103内の温度は、850℃以上1000℃以下が好ましく、より好ましくは、930℃以上980℃以下である。また、焼鈍炉103内における焼鈍(保持)時間は、0.5分以上3分以下であるのが好ましい。焼鈍炉103内は、好ましくは、窒素雰囲気などの非酸化雰囲気にする。
図3に示す焼鈍工程は、第1の厚み(たとえば50μm程度)において軟化を生じさせるために行われる軟化焼鈍であり、その後の圧延における薄肉化を容易にすることができる。なお、
図3に示していないが、圧延接合工程の直後の第1の厚みよりも厚い段階(たとえば150μm程度)において、上記の焼鈍を行うことができる。この場合の焼鈍は拡散焼鈍であり、元素の拡散を生じさせて層間の接合を強化し、その後の圧延における層間の剥がれを抑制することができる。
【0050】
これにより、厚み(第1の厚み)が20μmを超えて100μm未満であり、鉄基合金層51の両面にCu層52および53が接合されたクラッド材(
図2参照)からなるCu被覆材150cを作製することができる。また、上記の焼鈍により、鉄基合金板材151(鉄基合金層51)とCu板材152(Cu層52)との接合界面および鉄基合金板材151(鉄基合金層51)とCu板材153(Cu層53)との接合界面に、金属同士の原子レベルでの接合を形成することができる。また、Cu被覆材150c(特に鉄基合金板材151)は、上記の焼鈍により機械的強度(硬さなど)が小さくなる。
【0051】
一方、上記の焼鈍が行われたCu被覆材150cでは、焼鈍によって、鉄基合金層51を構成する金属元素の一部がCu層52および53に拡散している。たとえば、鉄基合金層51が15質量%以上19質量%以下のCr、6質量%以上9質量%以下のNi、0.5質量%以上2.0質量%以下のAl、0.01質量%以上0.3質量%以下のC、0.01質量%以上0.3質量%以下のN、残部Feおよび不可避不純物から構成された鉄基合金、または、SUS631から構成されている場合には、Al、FeおよびCrなどのうちの1種または2種以上がCu層52および53に拡散していると考えられる。また、鉄基合金層51が、たとえばSUS630から構成されている場合には、FeおよびCrのうちの1種または2種以上がCu層52および53に拡散していると考えられる。なお、圧延接合工程の直後の第1の厚みよりも厚い段階(たとえば150μm程度)において元素の拡散による層間の接合強化を主目的とする上記の拡散焼鈍を行った場合には、第1の厚み(たとえば50μm程度)において上記の焼鈍(軟化焼鈍)を行った場合と同等以上に、元素の拡散が発生する。
【0052】
ここで、特開2008−123964号公報に開示される実施例のように圧延を繰り返しながら0.2mmの厚みに形成した場合と比較するとき、Cu被覆材150cの厚み(第1の厚み)が20μmを超えて100μm未満で小さいため、Cu層52および53の厚みも相対的に小さくなる。このため、Cu層52および53の厚みに対する鉄基合金層51を構成する金属元素の拡散距離の割合が大きくなることに起因して、Cu被覆材150cにおいて、Cu層52および53の体積抵抗率が大きくなる。
【0053】
そして、焼鈍工程の次の圧延工程において、焼鈍が行われたCu被覆材150cに対して、圧延ロール104を用いて冷間下(室温)で圧延を行うことによって、20μm以下の厚み(第2の厚み)を有するCu被覆箔150dを作製することができる。この際、好ましくは、圧延ロール104における圧下率が約70%以上になるように、圧延を行う。たとえば、圧延前のCu被覆材150cの厚み(第1の厚み)が約66μm以上である場合には、圧下率は、圧延後のCu被覆箔150dの厚み(第2の厚み)が20μm以下になるように、70%より大きく設定するとよい。また、圧延前のCu被覆材150cの厚み(第1の厚み)が約90μmである場合には、圧下率は約78%以上に設定するとよい。なお、圧延ロール104における圧下率は、弾性限界を向上させるために、約80%以上が好ましい。また、圧延ロール104における圧下率は、圧延が困難になるのを抑制するために、約90%以下が好ましく、より好ましくは、約85%以下である。
【0054】
そして、
図3に示す時効処理工程において、20μm以下の厚み(第2の厚み)を有するCu被覆箔150dに対して、熱処理炉105を用いて時効処理を行う。この際、500℃以上650℃以下の温度(時効処理温度)に設定された熱処理炉105内に特開2008−123964号公報に開示される保持時間(約5分以上)に比べて十分に短い0.5分以上3分以下の時間(時効処理時間)で保持されるように、Cu被覆箔150dを熱処理炉105内に配置する。なお、熱処理炉105内は、窒素雰囲気などの非酸化雰囲気にされているのが好ましいものの、酸化雰囲気(通常の大気下)または水素雰囲気であってもよい。また、時効処理温度は、十分に時効処理を行って弾性限界をより向上させるために、520℃以上が好ましい。また、時効処理温度は、時効処理における加熱の影響を小さく抑制するために、580℃以下が好ましい。
【0055】
これにより、厚み(第2の厚み)が20μm以下であり、析出硬化により弾性限界が大きくなったCu被覆箔50から構成される負極集電箔5b(
図2参照)を作製することができる。
【0056】
ここで、時効処理が行われた負極集電箔5b(Cu被覆箔50)では、焼鈍においてCu層52および53に拡散した金属元素に起因するCu層52および53の体積抵抗率の上昇の影響が軽減されている。これにより、負極集電箔5bの体積抵抗率が7μΩ・cm以下(好ましくは、5μΩ・cm以下)に小さくなる。
【0057】
なお、第1実施形態において、負極集電箔5bの作製は、
図3に示すように、ロール・ツー・ロール方式で連続的に行うことができる。つまり、コイル状の鉄基合金板材151、コイル状のCu板材152およびコイル状のCu板材153を用いて、コイル状の負極集電箔5bを作製することができる。また、焼鈍炉103および熱処理炉105は、共に連続炉である。
【0058】
ロール・ツー・ロール方式で連続的に作製されたコイル状の負極集電箔5bは、電池100の負極集電箔として用いられる際に、所望の長さに切断することができる。なお、Cu被覆箔150dに対する時効処理は、
図3に示すようなロール・ツー・ロール方式で連続的に行わないことも可能である。たとえば、
図3に示す焼鈍工程と圧延工程を経たCu被覆箔150dを取り出し、電池100の負極集電箔として用いる長さと同じ長さにCu被覆箔150dを切断し、その後、切断されたCu被覆箔をバッチ式の熱処理炉に配置することによって、あるいは、切断されたCu被覆箔を並べて連続式の熱処理炉を通過させることによって、上記と同様な時効処理を行うことができる。
【0059】
<第1実施形態の効果>
第1実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0060】
第1実施形態では、上記のように、負極集電箔5bの厚みが20μm以下であり、かつ、体積抵抗率が7μΩ・cm以下(好ましくは、5μΩ・cm以下)であることによって、負極集電箔5bの導電率を24.6%IACS以上(好ましくは、34.5%IACS以上)にすることができる。また、鉄基合金層51を析出硬化型ステンレス鋼から構成することによって、時効処理による析出硬化により鉄基合金層51の弾性限界を向上させることができるので、負極集電箔5bの弾性限界を向上させることができる。これらの結果、厚みが20μm以下の箔であって、十分な弾性限界と導電性とを有する負極集電箔5bを提供することができる。
【0061】
また、第1実施形態では、負極集電箔5bの弾性限界を向上させることによって、たとえ負極活物質5aの厚みがより大きくなって負極集電箔5bに加わる応力がより大きくなったとしても、負極集電箔5bが塑性変形するのを抑制することができる。これにより、電池100の使用時において、負極活物質5aの膨張および収縮に起因して繰り返し応力が加わったとしても、負極集電箔5bにしわ状の凹凸が形成されるのを抑制することができる。この結果、負極集電箔5b上に配置された負極活物質5aにクラックが発生するのを抑制することができる。
【0062】
また、第1実施形態では、好ましくは、負極集電箔5bの弾性限界応力σ
0.01が700MPa以上である。このように構成すれば、たとえ負極活物質5aの厚みがより大きくなって負極集電箔5bに加わる応力がより大きくなったとしても、負極集電箔5bが塑性変形するのを抑制することができる。これにより、電池100の使用時において、負極集電箔5b上に配置された負極活物質5aの膨張および収縮に起因して繰り返し応力が加わったとしても、負極集電箔5bにしわ状の凹凸が形成されてしまうのを十分に抑制することができる。この結果、負極集電箔5b上に配置された負極活物質5aにクラックが発生するのを十分に抑制することができる。
【0063】
また、第1実施形態では、好ましくは、鉄基合金層51を構成する析出硬化型ステンレス鋼は、15質量%以上19質量%以下のCr、6質量%以上9質量%以下のNi、0.5質量%以上2.0質量%以下のAl、0.01質量%以上0.3質量%以下のC、0.01質量%以上0.3質量%以下のN、残部Feおよび不可避不純物から構成される。このように構成すれば、時効処理により鉄基合金層51においてAlやNiによる微細な析出物の生成や、CやNによる転位の固着が生じるので、鉄基合金層51および負極集電箔5bの弾性限界を向上させることができる。
【0064】
また、第1実施形態では、Cu層52および53に析出硬化型ステンレス鋼を構成する金属元素が拡散(固溶)してCu層52および53の体積抵抗率が大きくなった場合であっても、析出硬化型ステンレス鋼を用いる際に行われる時効処理において所定の短時間(0.5分以上3分以下)時効処理を行うことにより、Cu層52および53の体積抵抗率を小さくすることができる。これにより、負極集電箔5bの導電性は確保される。
【0065】
また、第1実施形態では、負極集電箔5bは、鉄基合金層51の両面に、Cu層52および53がそれぞれ接合されたクラッド材から構成されたCu被覆箔50である。これにより、鉄基合金層51とCu層52および53とが密接に接合されたクラッド材から構成され、厚みが20μm以下であり、かつ、十分な弾性限界と導電性とを有する負極集電箔5bを提供することができる。
【0066】
また、第1実施形態の製造方法では、Cu被覆材150cを20μm以下の第2の厚みを有するように圧延してCu被覆箔150dを作製した後に、500℃以上650℃以下の温度で0.5分以上3分以下保持して時効処理を行う。これにより、20μm以下の第2の厚みに圧延する前のCu被覆材150cにおいて体積抵抗率が上昇している場合であっても、上記のような条件下で時効処理を行うことにより、負極集電箔5bの体積抵抗率を7μΩ・cm以下に小さくすることができる。この結果、厚みが20μm以下の箔であって、十分な弾性限界と導電性とを有する負極集電箔5bを提供することができる。
【0067】
また、第1実施形態の製造方法では、特開2008−123964号公報に開示される約5分間以上保持する時効処理に替えて、Cu被覆箔150dを500℃以上650℃以下の温度で0.5分以上3分以下保持して時効処理(短時間時効処理)を行う。これにより、約5分間以上保持する従来の時効処理を行う場合と比べて、時効処理を短時間で行うことができる。この結果、Cu被覆箔50(負極集電箔5b)の体積抵抗率を7μΩ・cm以下(好ましくは、5μΩ・cm以下)にして、Cu被覆箔50(負極集電箔5b)の導電率を24.6%IACS以上(好ましくは、34.5%IACS以上)にすることができるとともに、連続炉(熱処理炉105)が大型化するのを抑制して、負極集電箔5bの製造装置全体が大型化するのを抑制することができる。また、負極集電箔5bをロール・ツー・ロール方式で連続的に作製することができるので、Cu被覆材同士の付着防止のために紙を挿入しながら長尺帯状のCu被覆材をコイル状にしてバッチ式の熱処理炉で時効処理を行う場合と異なり、Cu層の52および53の表面にCが蒸着するのを防止することができる。
【0068】
また、第1実施形態の製造方法では、20μmを超える第1の厚みを有するCu被覆材150cを作製し、作製されたCu被覆材150cを20μm以下の第2の厚みを有するように圧延する。これにより、取扱いが容易ではない20μm未満の厚みの小さな鉄基合金箔(鉄基合金板材)の両面にCu層をそれぞれ配置することにより直接的に20μm以下の第2の厚みを有するCu被覆箔を形成する場合と比べて、鉄基合金板材151の厚みが比較的大きく機械的強度が大きい状態で、鉄基合金板材151の両面にCu層52および53をそれぞれ配置することができるので、厚みが20μm以下である負極集電箔5bの製造が困難になるのを抑制することができる。
【0069】
また、第1実施形態の製造方法では、20μmを超える第1の厚みを有するCu被覆材150cを、20μm以下の第2の厚みを有するように、好ましくは、圧下率70%以上の条件で圧延する。このように構成すれば、加工硬化や加工誘起マルテンサイト変態によって鉄基合金層51の弾性限界を大きくすることができるので、弾性限界が大きい負極集電箔5bを得ることができる。
【0070】
また、第1実施形態の製造方法では、鉄基合金板材151の両面に一対のCuから構成されるCu板材152および153を接合してCu被覆中間材150aを作製することができる。そして、Cu被覆中間材150aを第1の厚みを有するように圧延してCu被覆材150bを作製した後に、850℃以上1050℃以下の温度で0.3分以上3分以下保持して焼鈍することによって、第1の厚みを有するCu被覆材150cを作製することができる。焼鈍後に、第1の厚みを有するCu被覆材150cを圧延して20μm以下の第2の厚みに形成することにより、鉄基合金層51とCu層52および53とが密接され、20μm以下の第2の厚みを有するクラッド材を作製することができる。その後、第2の厚みに形成したクラッド材に対して時効処理を行うことにより、クラッド材(Cu被覆箔)から構成され、十分な弾性限界と導電性とを有する負極集電箔5bを提供することができる。
【0071】
また、第1実施形態の製造方法では、好ましくは、Cu被覆材150cを850℃以上1050℃以下の温度で0.3分以上3分以下保持して焼鈍する。このように構成すれば、第1の厚みを有するCu被覆材150cを作製する際に、焼鈍における加熱の影響によりクラッド材から構成されるCu被覆材150cの機械的強度を小さくして圧延性を向上させることができるので、Cu被覆材150cを20μm以下の第2の厚みになるように、容易に圧延することができる。さらに、20μmを超える第1の厚みを有するCu被覆材150cを、20μm以下の第2の厚みに圧延してCu被覆箔150dを作製した後に、500℃以上650℃以下の温度で0.5分以上3分以下保持して時効処理(短時間時効処理)を行う。これにより、焼鈍における加熱の影響によって大きくなったCu層52および53の体積抵抗率を小さくすることができるので、厚みが20μm以下であり、かつ、体積抵抗率が7μΩ・cm以下(好ましくは5μΩ・cm以下)である負極集電箔5bを確実に作製することができる。
【0072】
[第2実施形態]
次に、
図1、
図4および
図5を参照して、本発明の第2実施形態による負極集電箔205bについて説明する。第2実施形態では、上記第1実施形態の負極集電箔5bのCu層52および53の替わりに、Cuめっき層252および253を用いた例について説明する。なお、負極集電箔205bは、特許請求の範囲の「二次電池の負極集電体用箔」の一例である。
【0073】
(電池の構造)
本発明の第2実施形態による電池300は、
図1に示すように、負極205を含む蓄電要素203を備えている。負極205は、
図4に示すように、負極活物質5aと、負極集電箔205bとを含んでいる。
【0074】
(負極集電体の構成)
ここで、第2実施形態では、負極集電箔205bは、析出硬化型ステンレス鋼から構成される鉄基合金層51と、鉄基合金層51の厚み方向(Z方向)の両面51aおよび51bにそれぞれめっきされたCuめっき層252および253とから構成されたCu被覆箔250である。つまり、負極集電箔205bは、3層構造を有している。また、Cuめっき層252の鉄基合金層51が配置される側とは反対側の表面52a、および、Cuめっき層253の鉄基合金層51が配置される側とは反対側の表面53aには、それぞれ、負極活物質5aが固定されている。なお、Cuめっき層252および253は、特許請求の範囲の「Cu層」の一例である。
【0075】
Cuめっき層252および253は、主にCu(銅)から構成されている。また、Cuめっき層252および253には、鉄基合金層51を構成する金属元素の一部が含まれている。この一部の金属元素は、後述する焼鈍(
図5に示す焼鈍工程を参照)において、鉄基合金層51からCuめっき層252および253に拡散することによって、Cuめっき層252および253の主に鉄基合金層51側の領域に含まれている。なお、鉄基合金層51上に下地層(たとえばNiめっき層)を設け、その下地層上にCuめっき層252および253を設けてもよい。これにより、鉄基合金層51とCuめっき層252および253との密着性を高めることが可能である。
【0076】
ここで、第2実施形態では、負極集電箔205bの体積抵抗率(単位体積当たりの電気抵抗値)は、7μΩ・cm以下であり、好ましくは、5μΩ・cm以下である。また、負極集電箔205bを構成するCu被覆箔250のZ方向の長さ(厚み)t11は、20μm以下である。なお、電池300の電池容量を向上させるためには、負極集電箔205bを構成するCu被覆箔250をより薄くするのが好ましい。したがって、厚みt11は、約15μm以下であるのが好ましく、約12μm以下であるのがより好ましく、約10μm以下であるのがより一層好ましい。また、負極集電箔205bの作製が困難になるのを避けるために、厚みt11は、約3μm以上であるのが好ましく、約5μm以上であるのがより好ましい。また、Z方向における、Cuめっき層252と鉄基合金層51とCuめっき層253との厚み比率(Cuめっき層252の厚みt12:鉄基合金層51の厚みt3:Cuめっき層253の厚みt14)は、約「1:3:1」となるように負極集電箔205bが形成されている。なお、Cuめっき層252と鉄基合金層51とCuめっき層253との厚み比率は、約「1:3:1」に限定されない。
【0077】
また、第2実施形態では、好ましくは、負極集電箔205bの弾性限界応力σ
0.01は約700MPa以上である。なお、第2実施形態のその他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0078】
(負極集電箔の製造工程)
次に、
図4および
図5を参照して、第2実施形態における負極集電箔205bの製造工程について説明する。
【0079】
まず、
図5に示すように、20μmを超えた厚みを有する析出硬化型ステンレス鋼からなる鉄基合金板材151を準備する。そして、鉄基合金板材151に対して、めっき処理(フープめっき処理)を行うことによって、鉄基合金層51の両面に一対のCuめっき層252および253(
図4参照)がそれぞれ層状に形成されたCu被覆中間材350aを作製する。
【0080】
具体的には、
図5に示すフープめっき処理工程において、鉄基合金板材151に対して、電気めっき浴301内を通過させることによって、Cuめっき層252および253を作製することができる。電気めっき浴301には、硫酸銅水溶液と、硫酸銅水溶液内に配置されるとともに一方電極に接続された、たとえば99.9質量%以上のCuを含むCu板材301aとが配置されている。なお、Cu板材301aは、Cuを99.96質量%以上含む無酸素銅、Cuを99.75質量%以上含むりん脱酸銅、または、Cuを99.9質量%以上含むタフピッチ銅などでよい。そして、鉄基合金板材151に他方電極が接続された状態で電流が流されると、硫酸銅水溶液中の銅イオンが、鉄基合金板材151(鉄基合金層51)の両面に移動して析出するため、Cu被膜を形成することができる。このCu被膜は、銅イオンがCu板材301aから少しずつ硫酸銅水溶液中に溶け込んで補充されるため、やがてCuめっき層252および253に成長するものである。こうして、鉄基合金層51の両面に一対のCuめっき層252および253がそれぞれ形成されたCu被覆中間材350aを作製することができる。
【0081】
なお、Cuめっき層252および253の厚みは、電気めっき浴301の通過時間を設定することにより、たとえば鉄基合金板材151の厚みの約1/3になるように形成することができる。つまり、鉄基合金板材151の厚みが約60μmである場合には、Cuめっき層252および253の厚みが各々約20μmになるように、めっき処理を行うことができる。また、
図5では図示を省略しているが、めっき前には鉄基合金板材151の洗浄を行うことができ、めっき後にはCu被覆中間材350aの洗浄および乾燥を行うことができる。
【0082】
その後、フープめっき処理工程の次の圧延工程において、Cu被覆中間材350aに対して、圧延ロール102を用いて冷間(室温、たとえば約20℃以上約40℃以下)下で圧延を行うことによって、20μmを超えて100μm未満の第1の厚みを有するCu被覆材350bを作製することができる。
【0083】
そして、
図5に示す焼鈍工程において、第1の厚みを有するCu被覆材350bに対して、上記第1実施形態の焼鈍工程(
図3参照)と同様にして焼鈍を行うことができる。これにより、厚み(第1の厚み)が20μmを超えて100μm未満であり、鉄基合金層51の両面にCuめっき層252および253が配置されたCu被覆材350cを作製することができる。
【0084】
一方、上記第1実施形態の焼鈍工程と同様にして焼鈍が行われたCu被覆材350cでは、焼鈍における加熱の影響によって、鉄基合金板材151(鉄基合金層51)を構成する金属元素の一部が、Cuめっき層252および253に拡散していると考えられる。なお、Niめっきによる下地層(Niめっき層)を設けた場合は、下地層からCuめっき層252および253への拡散(主にNiの拡散)も発生すると考えられる。この結果、Cu被覆材350cにおいて、拡散した金属元素に起因して、Cuめっき層252および253の体積抵抗率が大きくなる。
【0085】
そして、焼鈍工程の次の圧延工程において、焼鈍が行われたCu被覆材350cに対して、上記第1実施形態と同様に、圧延ロール104を用いて冷間(室温)下で圧延を行うことによって、20μm以下の厚み(第2の厚み)を有するCu被覆箔350dを作製することができる。この際、好ましくは、圧延ロール104における圧下率が約70%以上になるように、圧延を行う。
【0086】
そして、
図5に示す時効処理工程において、20μm以下の厚み(第2の厚み)を有するCu被覆箔350dに対して、上記第1実施形態と同様に、熱処理炉105を用いて時効処理を行う。この際、Cu被覆箔350dを、500℃以上650℃以下の温度(時効処理温度)に設定された熱処理炉105内に特開2008−123964号公報に開示される保持時間(約5分以上)に比べて十分に短い0.5分以上3分以下保持されるように、Cu被覆箔350dを熱処理炉105内に配置する。これにより、厚み(第2の厚み)が20μm以下であり、析出硬化されることにより弾性限界が大きくなったCu被覆箔250から構成される負極集電箔205b(
図4参照)を作製することができる。ここで、時効処理が行われた負極集電箔205b(Cu被覆箔250)では、焼鈍における加熱の影響によってCuめっき層252および253に拡散した金属元素に起因する、Cuめっき層252および253の体積抵抗率の上昇の影響が軽減されている。これにより、負極集電箔205bの体積抵抗率が7μΩ・cm以下(好ましくは、5μΩ・cm以下)に小さくなる。
【0087】
なお、第2実施形態において、負極集電箔205bの作製は、
図5に示すように、ロール・ツー・ロール方式で連続的に行うことができる。つまり、コイル状の鉄基合金板材151を用いて、コイル状の負極集電箔205bが作製することができる。また、電気めっき浴301は、いわゆるフープめっき処理用の電気めっき浴装置であり、焼鈍炉103および熱処理炉105は、共に連続炉である。なお、コイル状の負極集電箔205bは、電池300の負極集電箔205bとして用いられる際に、所望の長さに切断される。なお、Cu被覆箔350dに対する時効処理は、
図5に示すようなロール・ツー・ロール方式で連続的に行わないことも可能である。たとえば、
図5に示す焼鈍工程と圧延工程を経たCu被覆箔350dを取り出し、電池300の負極集電箔として用いる長さと同じ長さにCu被覆箔350dを切断し、その後、切断されたCu被覆箔をバッチ式の熱処理炉に配置することによって、あるいは、切断されたCu被覆箔を並べて連続式の熱処理炉を通過させることによって、上記と同様な時効処理を行うことができる。
【0088】
<第2実施形態の効果>
第2実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0089】
第2実施形態では、上記のように、負極集電箔205bの厚みが20μm以下であり、かつ、体積抵抗率が7μΩ・cm以下(好ましくは、5μΩ・cm以下)であることによって、負極集電箔205bの導電率を24.6%IACS以上(好ましくは、34.5%IACS以上)にすることができる。また、鉄基合金層51を析出硬化型ステンレス鋼から構成することによって、時効処理による析出硬化により鉄基合金層51の弾性限界を向上させることができるので、負極集電箔205bの弾性限界を向上させることができる。これらの結果、厚みが20μm以下の箔であって、十分な弾性限界と導電性とを有する負極集電箔205bを提供することができる。
【0090】
また、第2実施形態では、一対のCu層は、主にCuから構成されるCuめっき層252および253である。これにより、Cuめっき層252および253から構成され、十分な弾性限界と導電性とを有する負極集電箔205bを提供することができる。
【0091】
また、第2実施形態では、連続的にめっき処理を行うことができるフープめっき処理により鉄基合金板材の両面にCuをめっきすることによって、Cuめっき層252および253を作製することができる。これにより、めっき処理と時効処理とを連続的に行うことができるので、より一層容易に、コイル状の負極集電箔205bを連続的に作製して、負極集電箔205bの生産性を向上させることができる。なお、第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態の効果と同様である。
【0092】
[実施例]
次に、
図6を参照して、上記第1および第2実施形態の効果を確認するために行った実験について説明する。
【0093】
<第1実施例>
まず、第1実施例について説明する。第1実施例では、第1の厚みよりも大きい厚みのCu被覆中間材、または第1の厚みのCu被覆材に焼鈍を行う際の、焼鈍温度とCu被覆中間材またはCu被覆材の厚みに応じた導電率の差異を確認するのを目的としている。具体的には、厚みが第1の厚みよりも大きい150μmであるCu被覆中間材に対して焼鈍温度を異ならせて焼鈍を行った場合の導電率の変化と、厚みが第1の厚みの範囲にある50μmであるCu被覆材に対して焼鈍温度を異ならせて焼鈍を行った場合の導電率の変化とについて測定した。
【0094】
(試験材1のCu被覆中間材の作製)
まず、上記第1実施形態の製造方法に基づいて、試験材1(試験材1a〜1e)のCu被覆中間材を作製した。具体的には、析出硬化型ステンレス鋼であるSUS631からなる鉄基合金板材と、C1020(JIS H0500に準拠)の無酸素銅からなる一対のCu板材とを準備した。なお、鉄基合金板材の厚み(平均厚み)は0.45mmであり、一対のCu板材の厚み(平均厚み)は、共に0.15mmである。各々の板材の厚みの比率(Cu板材の厚み:鉄基合金板材の厚み:Cu板材の厚み)は「1:3:1」である。
【0095】
そして、鉄基合金板材を一対のCu板材によって厚み方向に挟み込んだ状態で、圧延ロールを用いて冷間(室温)下で圧延接合を行うことによって、鉄基合金板材の両面に一対のCu板材がそれぞれ接合され、0.3mmの厚みを有するCu被覆中間材を作製した。その後、Cu被覆中間材に対して、圧延ロールを用いて冷間(室温)下で圧延を行うことによって、試験材1(試験材1a〜1e)の150μmの厚みを有するCu被覆中間材を作製した。なお、試験材1のCu被覆中間材において、鉄基合金層51の厚みは、90μmであり、鉄基合金層51の両面に接合された一対のCu層の厚みは、共に30μmである。Cu被覆中間材における各々の板材の厚みの比率(Cu板材の厚み:鉄基合金板材の厚み:Cu板材の厚み)は、約「1:3:1」になる。
【0096】
そして、作製した複数の試験材1a〜1eの150μmの厚みを有するCu被覆中間材の各々に対して、保持温度を異ならせて焼鈍(拡散焼鈍)を行った。具体的には、試験材1bに対しては、900℃の温度で1分間保持する焼鈍を行った。試験材1cに対しては、950℃の温度で1分間保持する焼鈍を行った。試験材1dに対しては、1000℃の温度で1分間保持する焼鈍を行った。試験材1eに対しては、1050℃の温度で1分間保持する焼鈍を行った。そして、焼鈍後の試験材1b〜1eに対して、JIS−C2525:1999に準拠して体積抵抗率を測定した。また、試験材1aに対しては、焼鈍を行わずに、試験材1b〜1eと同様の方法で体積抵抗率を測定した。そして、体積抵抗率から導電率を算出した。また、試験材1a〜1eのCu被覆中間材における鉄基合金層のビッカース硬さを図示しないビッカース硬さ測定器を用いて測定した。なお、ビッカース硬さは弾性限界応力σ
0.01と対応している(正の相関)と考えられており、材料のビッカース硬さが大きくなると、弾性限界応力σ
0.01もまた大きくなる。
【0097】
(試験材2のCu被覆材の作製)
次に、試験材2(試験材2a〜2f)のCu被覆材を作製した。具体的には、試験材1の150μmの厚みを有するCu被覆中間材に対して900℃の温度で1分間保持する焼鈍(拡散焼鈍)を行い、その後に圧延ロールを用いて冷間(室温)下で圧延を行うことによって試験材2(試験材2a〜2f)の50μmの厚み(第1の厚み)を有するCu被覆材を作製した。つまり、試験材2の厚みが試験材1のCu被覆材の厚み(150μm)の1/3の50μmになるように、試験材2を作製した。なお、試験材2のCu被覆材において、鉄基合金層51の厚みは、30μmであり、鉄基合金層51の両面に接合された一対のCu層の厚みは、共に10μmである。Cu被覆材における各層の厚みの比率(Cu層の厚み:鉄基合金層51の厚み:Cu層の厚み)は、約「1:3:1」になる。
【0098】
そして、作製した複数の試験材2a〜2fの50μmの厚みを有するCu被覆材の各々に対して、保持温度を異ならせて焼鈍(軟化焼鈍)を行った。具体的には、試験材2bに対しては、850℃の温度で1分間保持する焼鈍を行った。試験材2cに対しては、900℃の温度で1分間保持する焼鈍を行った。試験材2dに対しては、950℃の温度で1分間保持する焼鈍を行った。試験材2eに対しては、1000℃の温度で1分間保持する焼鈍を行った。試験材2fに対しては、1050℃の温度で1分間保持する焼鈍を行った。そして、焼鈍後の試験材2b〜2fに対して、JIS−C2525:1999に準拠して体積抵抗率を測定した。また、試験材2aに対しては、焼鈍を行わずに、試験材2b〜2fと同様の方法で体積抵抗率を測定した。そして、体積抵抗率から導電率を算出した。また、試験材2a〜2fのCu被覆材における鉄基合金層のビッカース硬さを測定した。
【0099】
(測定結果)
試験材1の測定結果および試験材2の測定結果を、それぞれ、表1および表2に示す。なお、各表中の「焼鈍温度」は、焼鈍における保持温度である。
【0102】
測定結果としては、試験材1および2のいずれにおいても焼鈍における保持温度が高くなるにつれて、ビッカース硬さが小さくなった。これは、析出硬化型ステンレス鋼が焼鈍における加熱の影響によって軟化されていることを示している。
【0103】
また、試験材1および2のいずれにおいても焼鈍における保持温度が高くなるにつれて、体積抵抗率が大きくなり、導電率が小さくなった。これは、Cu被覆中間材およびCu被覆材において主に導電性に寄与するCu層に、鉄基合金層を構成する金属元素であるAl、Cr、FeおよびNiのうちの1種または2種以上が拡散したからであると考えられる。また、焼鈍における保持温度が高くなるにつれて、焼鈍されていない試験材(試験材1aまたは2a)に対する体積抵抗率の増加率および導電率の減少率が大きくなった。これは、拡散したと考えられる上記の金属元素の総量(拡散量)および拡散距離が焼鈍における保持温度が高くなるにつれて大きくなるからであると考えられる。
【0104】
また、150μmの厚みを有する試験材1では、焼鈍されていない試験材1aに対する体積抵抗率の増加率および導電率の減少率があまり大きくなかった。たとえば、900℃で焼鈍された試験材1bは、焼鈍されていない試験材1aに比べて、体積抵抗率の増加率は4.3%(=((4.38/4.20)×100)−100)であった。また、1050℃で焼鈍された試験材1eは、焼鈍されていない試験材1aに比べて、体積抵抗率の増加率は12.9%(=((5.40/4.20)×100)−100)であった。
【0105】
一方で、50μmの厚みを有する試験材2では、試験材1に比べて、焼鈍されていない試験材2aに対する体積抵抗率の増加率および導電率の減少率が大きくなった。たとえば、900℃で焼鈍された試験材2cは、焼鈍されていない試験材2aに比べて、体積抵抗率の増加率は14.5%(=((4.98/4.35)×100)−100)であった。また、1050℃で焼鈍された試験材2fは、焼鈍されていない試験材2aに比べて、体積抵抗率の増加率は137.0%(=((10.31/4.35)×100)−100)であった。
【0106】
これは、拡散したと考えられる上記の金属元素の拡散量および拡散距離が、焼鈍における保持温度に依存するからであると考えられる。つまり、Cu層の厚みが30μmで大きい試験材1では、Cu層の鉄基合金層近傍に上記の金属元素が拡散したとしても、Cu層の表面近傍(鉄基合金層から離れた位置)までには上記の金属元素が十分に拡散されない。一方、Cu層の厚みが10μmで小さい試験材2では、Cu層の鉄基合金層近傍だけでなく、Cu層の表面近傍(鉄基合金層から離れた位置)まで上記の金属元素が拡散されてしまう。これにより、試験材2では、試験材1に比べて、焼鈍されていない試験材2aに対する体積抵抗率の増加率および導電率の減少率が大きくなったと考えられる。この結果、特開2008−123964号公報に開示される0.1mm以上の厚みを有するクラッド材を20μm以下にまで薄くする場合において、クラッド材が20μmを超えて0.1mm以下の厚みを有する間に焼鈍による加熱の影響を受けると、Cu層の体積抵抗率が大きくなってしまうことが判明した。したがって、特開2008−123964号公報に開示される0.1mm以上の大きな厚みを有するクラッド材は、Cu層の体積抵抗率が大きくならないように圧延されただけの状態であって、圧延を容易にするための焼鈍が行われていない状態であると考えられる。このため、特開2008−123964号公報に開示される0.1mm以上の大きな厚みを有するクラッド材を負極集電体用箔に用いられる20μm以下の厚みまで圧延するには、クラッド材が0.1mm以上から20μm以下の厚みになるまでの間、適宜焼鈍(軟化焼鈍)を施すことによって、圧延に起因する加工硬化が生じても圧延を継続できるように十分な圧延性を確保することが必要である。それだけでなく、0.1mm以上から20μm以下の厚みのクラッド材に対して行う焼鈍条件と時効処理条件との適正化が必要であることが判明した。つまり、クラッド材の厚みを単に薄くするだけでは、負極集電箔を7μΩ・cm以下(好ましくは5μΩ・cm以下)の十分に小さな体積抵抗率にすることが困難であることが判明した。
【0107】
また、試験材1および2に対して、析出硬化型ステンレス鋼に一般的に行われる1050℃を超える高温域で保持する焼鈍を行うよりも、850℃以上1050℃以下の低温域で保持する焼鈍を行うことによって、試験材1および2の体積抵抗率の上昇を抑制しつつ、ビッカース硬さを小さくすることができることが判明した。なお、試験材1のCu被覆中間材および試験材2のCu被覆材において、十分にビッカース硬さを小さくしつつ、体積抵抗率の上昇を抑制するためには、焼鈍における保持温度は、930℃以上980℃以下が好ましいと考えられる。
【0108】
<第2実施例>
次に、第2実施例について説明する。第2実施例では、析出硬化型ステンレス鋼における圧下率と時効処理とに応じた弾性限界の差異を確認するのを目的としている。具体的には、圧下率と時効処理の条件とを異ならせた場合の、析出硬化型ステンレス鋼の機械的強度(ビッカース硬さ)の変化について測定した。なお、上記したように、ビッカース硬さは弾性限界応力σ
0.01と対応している(正の相関)と考えられているので、ビッカース硬さから間接的に弾性限界応力σ
0.01の相対的な大きさ(程度)を推定することが可能である。
【0109】
まず、析出硬化型ステンレス鋼であるSUS631からなり、厚みが1mmの鉄基合金板材を準備した。そして、1050℃で2分間保持する焼鈍することによって、析出硬化型ステンレス鋼からなる試験中間材を作製した。
【0110】
そして、作製した析出硬化型ステンレス鋼からなる試験中間材に対して所定の圧下率で圧延を行って、試験材3〜6を作製した。具体的には、60%、70%、80%および85%の圧下率で析出硬化型ステンレス鋼からなる試験中間材を圧延することによって、それぞれ、試験材3〜6を作製した。そして、試験材3〜6のそれぞれを下記の表3に示す時効処理温度および保持時間で保持する時効処理を行った。そして、時効処理が行われた試験材3〜6のビッカース硬さを各々測定した。
【0111】
(測定結果)
試験材3〜6の測定結果を、表3および
図6に示す。なお、
図6は、時効処理の保持時間が2分である場合の圧下率とビッカース硬さとの関係を示している。
【0113】
測定結果としては、
図6に示すように、圧下率を60%(試験材3)、70%(試験材4)、80%(試験材5)および85%(試験材6)と大きくするにつれて、機械的強度(ビッカース硬さ)が大きくなる傾向が見られた。さらに、析出硬化型ステンレス鋼に対して一般的に行われる40%〜60%程度の圧下率で圧延するよりも、70%〜85%程度のより大きな圧下率で圧延することによって、試験材4〜6のように、ビッカース硬さをさらに大きくすることができることが判明した。したがって、ビッカース硬さが大きくなると大きくなる弾性限界応力σ
0.01も、さらに大きくすることができることが判明した。この結果、負極集電箔を作製する際において、析出硬化型ステンレス鋼からなる鉄基合金層の厚みがより小さくなるように圧延するときに、その鉄基合金層に対する上記の時効処理前の圧下率を70%以上にすることによって、圧延されて厚みがより小さくなった鉄基合金層の上記の時効処理後の弾性限界を効果的に向上させることができることが確認できた。また、析出硬化型ステンレス鋼からなる鉄基合金層に対する上記の時効処理前の圧下率を80%以上にすることによって、上記の時効処理後の鉄基合金層の弾性限界をより効果的に向上させることができることが判明した。
【0114】
また、表3および
図6に示すように、時効処理の保持時間が2分である場合において、時効処理温度を560℃として圧下率を80%以上とした場合(
図6の上方に示す試験材5、6の実線で囲む領域)には、時効処理を行わないで圧下率を80%以上とした場合(
図6の下方に示す試験材5、6の実線で囲む領域)と同様に、ビッカース硬さの上昇がほとんど生じなかった。これは、時効処理による析出硬化が生じたとともに加熱の影響が生じたことによって、析出硬化型ステンレス鋼の析出硬化による弾性限界応力の上昇の効果が相殺されたからであると考えられる。一方、時効処理温度が550℃以下(530℃、500℃)である場合には、圧下率が80%以上(試験材5、6)であっても、ビッカース硬さの上昇が生じた。これは、析出硬化型ステンレス鋼において、時効処理による加熱の影響が小さく抑制されつつ析出硬化が生じたからであると考えられる。これにより、時効処理の保持時間が2分である場合には、析出硬化型ステンレス鋼に対して500℃以上550℃以下の時効処理温度で保持するのが好ましいと考えられる。なお、時効処理の保持時間が0.5分以上2分未満である場合には、550℃を超えて650℃以下の時効処理温度で保持しても、加熱の影響が小さく抑制されつつ析出硬化型ステンレス鋼を析出硬化させて、弾性限界を向上させることが可能であると考えられる。また、500℃以上530℃以下の時効処理温度で保持する場合には、3分程度までの保持時間であれば加熱の影響を小さく抑制することができると考えられる。
【0115】
また、試験材5g〜5lのように、特開2008−123964号公報に開示される析出硬化型ステンレス鋼に対して500℃未満(480℃)の時効処理温度で保持した場合には、保持時間が5分間である場合でも、時効処理を行わない試験材5aに対するビッカース硬さの増加率が6%程度で小さくなった。また、圧下率80%の試験材5に対して析出硬化型ステンレス鋼に対して500℃未満(480℃)の時効処理温度で保持した場合において、試験材5b(500℃、2分)と同等のビッカース硬さを得るためには、少なくとも20分(試験材5i)を超える保持時間にする必要がある。これにより、連続的(効率的)に時効処理を行うためには、480℃の時効処理温度で保持する時効処理では不十分であることが判明した。これにより、負極集電箔の生産性を向上させるためには、500℃以上の時効処理温度で保持する上記の時効処理を行う必要があることが確認できた。
【0116】
また、試験材5c〜5eのように、析出硬化型ステンレス鋼に対して530℃の時効処理温度で保持する時効処理を行った場合には、保持時間が1分間である場合(試験材5c)でも、ある程度のビッカース硬さが得られた。このことから、上記の時効処理の保持時間をより短くした場合(たとえば1分間以下)には、時効処理温度を530℃以上にすることにより、析出硬化型ステンレス鋼をより効果的に析出硬化させることができると考えられる。なお、その際、より高強度(弾性限界応力σ
0.01)の鉄基合金層を得るためには、上記の時効処理の保持時間を加熱の影響がより小さく抑制される程度に短くするのがよいと考えられる。
【0117】
<第3実施例>
次に、第3実施例について説明する。第3実施例では、本発明の製造方法に基づいて厚みが20μm以下の第2の厚みを有する箔であって、十分な弾性限界と導電性とを有する二次電池の負極集電体用箔(負極集電箔)を実際に作製できることを確認するのを目的としている。具体的には、実際に20μm以下の厚みの負極集電箔(Cu被覆箔)を上記第1実施形態の製造方法に基づいて作製し、Cu被覆箔の体積抵抗率および機械的強度(引張強さおよび弾性限界応力σ
0.01)について測定した。
【0118】
(実施例のCu被覆箔の作製)
まず、上記第1実施形態の製造方法に基づいて、実施例のCu被覆箔50(負極集電箔5b)を作製した。具体的には、50μmの厚み(第1の厚み)を有するCu被覆材である上記試験材2に対して、900℃の温度で1分間保持する焼鈍(軟化焼鈍)を行った。その後、圧下率80%で圧延を行うことによって、10μmの厚み(第2の厚み)を有する時効処理前のCu被覆箔を作製した。そして、この10μmの厚みを有するCu被覆箔に対して、530℃の時効処理温度で2分間保持する時効処理を行うことによって、実施例のCu被覆箔50を作製した。また、時効処理を行わない10μmの厚みを有するCu被覆箔を比較例とした。
【0119】
そして、引張試験機を用いて、実施例および比較例のCu被覆箔について、引張強さおよび弾性限界応力σ
0.01を測定した。また、JIS−C2525:1999に準拠して、実施例および比較例のCu被覆箔の体積抵抗率を測定した。そして、この体積抵抗率から実施例および比較例のCu被覆箔の導電率を取得した。
【0120】
(測定結果)
実施例および比較例の測定結果を、表4に示す。なお、表4に記載の「時効処理温度」は、時効処理における保持温度である。
【0122】
測定結果としては、実施例のCu被覆箔では、塑性変形を行わずに、弾性変形の状態で破断した。つまり、実施例の時効処理を行ったCu被覆箔において、引張強さと弾性限界応力σ
0.01とが等しくなった。これは、時効処理により、実施例のCu被覆箔では析出硬化が生じたことによって塑性変形しにくくなり、弾性限界が向上したと考えられる。また、実施例のCu被覆箔では、比較例の時効処理を行わなかったCu被覆箔と比べて、引張強さは小さくなったものの、弾性限界応力σ
0.01が15%程度大きくなった。また、実施例のCu被覆箔では、弾性限界応力σ
0.01が700MPa以上の761MPaになった。これらにより、実施例のCu被覆箔は、塑性変形に起因するしわ状の凹凸が発生しにくいことが確認できた。
【0123】
また、実施例のCu被覆箔では、時効処理前の比較例のCu被覆箔よりも体積抵抗率が6%程度小さくなった。また、実施例のCu被覆箔では、体積抵抗率が7μΩ・cm以下の4.8μΩ・cmになった。これらにより、高温での焼鈍を行ったことに起因して鉄基合金層を構成する金属元素がCu層に拡散したとしても、上記の時効処理を行うことによってCu層の体積抵抗率を十分に小さくすることができるため、負極集電箔の体積抵抗率を7μΩ・cmよりもさらに小さい5μΩ・cm以下(4.8μΩ・cm)にすることができることが判明した。これは、上記の時効処理において、おそらく、Cu層に拡散していた金属元素が、Cu層内で析出物となったことにより、低下していたCu層の導電性が回復したものと考えられる。このため、上記の時効処理を行ったことにより、Cu被覆箔におけるCu層の体積抵抗率が小さくなったと考えられる。
【0124】
なお、約50μmの厚み(第1の厚み)のCu被覆材を約1050℃の温度で焼鈍(拡散焼鈍)し、約10μmの厚み(第2の厚み)のCu被覆箔に圧延した場合、そのCu被覆箔の時効処理前の体積抵抗率は約10.6μΩ・cmとなる。その後、特開2008−123964号公報に開示される約5分〜約180分間保持する時効処理よりも保持時間が十分に短い短時間時効処理(500℃以上650℃以下の温度で0.5分以上3分以下保持する時効処理)として、たとえば約580℃の温度で約2分間保持する時効処理を行ったところ、その時効処理後のCu被覆箔の体積抵抗率が約8.2μΩ・cmとなり、かなり低減することが判明した。上記の短時間時効処理によってCu被覆箔の体積抵抗率が低減する現象は、体積抵抗率の測定ばらつきなどに起因するものではなく、短時間時効処理によって明確に発現する現象であった。
【0125】
なお、Cu層の鉄基合金層の近傍におけるEDX(Energy Dispersive X−ray Spectroscopy)による定量分析では、質量比で、約3.0%のFe、約0.6%のCr、および約0.1%のAlが検出された。これにより、鉄基合金層に含まれる金属元素のCu層への拡散が、Cu被覆箔の体積抵抗率を増大させる一つの原因であることが判明した。
【0126】
また、上記実施例のCu被覆箔では、20μm以下の第2の厚みを有するように圧延する前の20μmを超える第1の厚みを有するCu被覆材に対して、900℃の温度で保持する焼鈍を行っている。しかしながら、Cu被覆材に対して1050℃以下の温度で保持する焼鈍を行うことに起因して、圧延後に第2の厚みを有するCu被覆箔の体積抵抗率が上昇したとしても、第2の厚みを有するCu被覆箔に対して上記の短時間時効処理を行うことにより、Cu被覆箔のCu層の体積抵抗率を十分に小さくして、負極集電箔の体積抵抗率を7μΩ・cm以下さらには5μΩ・cm以下に小さくすることができると考えられる。また、20μmを超える第1の厚みを有するCu被覆材に対して1000℃以下の温度で保持する焼鈍を行った後に20μm以下の第2の厚みを有するように圧延したとしても、上記の短時間時効処理を行うことにより、負極集電箔の体積抵抗率を5μΩ・cm以下(4.8μΩ・cm)に確実に小さくすることができると考えられる。一方で、第2の厚みを有するCu被覆箔に対して1050℃を超える温度で保持する焼鈍を行った場合には、鉄基合金層からの金属元素の拡散に起因するCu被覆箔の体積抵抗率の増大が過剰になる虞がある。Cu被覆箔の体積抵抗率の増大が過剰になった場合は、上記の時効処理による体積抵抗率の回復効果が十分に得られない虞があるため、負極集電箔の体積抵抗率を十分に小さくすることができない虞がある。
【0127】
<第4実施例>
次に、第4実施例について説明する。第4実施例では、時効処理温度の差異による体積抵抗率の変化を確認するのを目的としている。具体的には、時効処理温度を異ならせた50μmの第1の厚みを有するCu被覆材を上記第1実施形態の製造方法に基づいて作製して、体積抵抗率を測定した。そして、Cu被覆材のSEM像を撮影して析出物を確認するとともに、析出物の元素分析を行った。
【0128】
(試験材6のCu被覆材の作製)
まず、上記第1実施形態の製造方法に基づいて、試験材6(試験材6a〜6g)のCu被覆材を作製した。具体的には、上記第1実施例の1050℃の温度で1分間保持する焼鈍を行った試験材1eに対して、圧延ロールを用いて冷間(室温)下で圧延を行うことによって試験材6の50μmの第1の厚みを有するCu被覆材を作製した。なお、試験材6のCu被覆材において、鉄基合金層51の厚みは、30μmであり、鉄基合金層の両面に接合された一対のCu層の厚みは、共に10μmである。試験材6のCu被覆材における各層の厚みの比率(Cu層の厚み:鉄基合金層51の厚み:Cu層の厚み)は「1:3:1」になる。
【0129】
そして、試験材6の50μmの厚みを有する複数のCu被覆材を用いて、時効処理を行わないことによる試験材6aと、時効処理温度を各々異ならせて2分間保持する時効処理を行うことによる試験材6b〜6gのCu被覆材とを作製した。具体的な時効処理温度は、試験材6b、6c、6d、6e、6fおよび6gでは、それぞれ、450℃、500℃、550℃、575℃、600℃および650℃にした。また、水素雰囲気下で時効処理を行った。
【0130】
(体積抵抗率)
そして、JIS−C2525:1999に準拠して、試験材6a〜6gのCu被覆材の体積抵抗率を測定した。
【0131】
(体積抵抗率の測定結果)
試験材6a〜6gの測定結果を、表5および
図7に示す。なお、表5および
図7に記載の「時効処理温度」は、時効処理における保持温度である。
【0133】
測定結果としては、試験材6では、時効処理温度が500℃〜650℃の温度範囲において、体積抵抗率が小さくなることが確認できた。この結果、500℃以上650℃以下の時効処理温度で時効処理を行うことによって、焼鈍によって上昇した体積抵抗率を小さくすることが可能であることが確認できた。また、特に、時効処理温度が520℃以上(より好ましくは550℃以上)の範囲において、体積抵抗率が大幅に小さくすることができることが確認された。なお、試験材6は50μmの厚みを有するので、時効処理後の体積抵抗率が7μΩ・cmを超えるものとなったものの、20μm以下の厚みを有するCu被覆箔では、上記の時効処理により体積抵抗率を7μΩ・cm以下にすることができると考えられる。
【0134】
(SEM像)
次に、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、時効処理を行わない試験材6aと、575℃の時効処理温度で時効処理を行った試験材6eとにおける鉄基合金層とCu層との接合界面周辺の断面を観察した。
【0135】
(SEM像の観察結果)
図8および
図9に示す試験材6aおよび6eのSEM像では、時効処理前後の両方の試験材6aおよび6eのCu層において、1μm以下の析出物が確認できた。この析出物のうち、100nm以下の微細な析出物は、Cu層の略全体に亘って観察されたが、上記の時効処理を行った試験材6eの方が成長して大きくなった。一方、200nm程度またはそれ以上の比較的大きな析出物は、上記の時効処理を行った試験材6eのCu層の接合界面近傍において主に観察された。
【0136】
(元素分析)
次に、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)および電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて、時効処理後の試験材6eのCu層の断面における元素分析を行った。具体的には、Cu層52の表面52aから鉄基合金層51に向かって2μmの上側位置と、鉄基合金層51とCu層52との接合界面から鉄基合金層51から離れる方向に向かって2μmの下側位置とにおいて、EDXを用いてCu層における元素の含有率を測定した。なお、EDXによる測定範囲は、上記の上側位置(Cu層52の表面52aに近い位置)に中心が位置する直径1μmの円内、および、上記の下側位置(鉄基合金層51とCu層52との接合界面に近い位置)に中心が位置する直径1μmの円内とした。EDXによる測定結果を表6に示す。また、SEM像のうち、析出物を拡大した写真を
図10に示すとともに、
図10の撮影位置と同じ撮影位置におけるEPMA像の写真を
図11に示す。
【0138】
(元素分析の結果)
EDXによる元素分析の結果としては、Cu層の広範囲に、鉄基合金層51の鉄基合金に由来するFe、Cr、NiおよびAlのうちの1種または2種以上の金属元素が拡散していることが確認できた。具体的には、金属元素の拡散は、接合界面に近い下側位置だけではなく、接合界面から遠い上側位置においても確認できた。なお、接合界面に近い下側位置における金属元素の含有率が、接合界面から遠い上側位置における金属元素の含有率よりも大きいことから、接合界面近傍のCu層に大きな析出物が析出しやすいと考えられる。
【0139】
また、
図10に示すSEM像および
図11に示すEPMA像により、接合界面近傍のCu層に析出した200nm程度の比較的大きな析出物において、Alが多く含まれていることが検出された。この結果、上記の時効処理後の大きな析出物は、少なくともAlを含む析出物であると考えられる。また、断面の広範囲に析出した100nm以下の微細な析出物は、おそらく、FeもしくはCrを含むか、または、FeとCrの両方を含む析出物であると考えられる。
【0140】
第4実施例の結果から、50μm以下の第1の厚みを有するCu被覆材または20μm以下の第2の厚みを有するCu被覆箔においては、焼鈍によって鉄基合金層の析出硬化型ステンレス鋼に含まれる元素がCu層に拡散することによって、体積抵抗率が大幅に上昇することが判明した。しかしながら、適正な温度範囲で時効処理を行うことにより、焼鈍後の冷却時にCu層中に析出していた析出物が核となり、一旦拡散した金属元素が析出物の上に析出して成長し、あるいは新たな析出物を形成することにより、Cu層中のCu基地に固溶している不純物(拡散した金属元素)の濃度を小さくすることができる。この結果、50μm以下の第1の厚みを有するCu被覆材または20μm以下の第2の厚みを有するCu被覆箔において、体積抵抗率を下げることができると考えられる。
【0141】
また、上記第1〜第4実施例では、試験材、実施例および比較例がクラッド材から構成されている場合において実験を行ったものの、上記第2実施形態のめっき処理により作製されている場合においても、同様の結果が得られると考えられる。
【0142】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態および実施例の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0143】
たとえば、上記第1および第2実施形態では、Cu被覆箔50(250)(二次電池の負極集電体用箔)から構成された負極集電箔205bをリチウムイオン二次電池(電池100)に適用した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、二次電池の負極集電体用箔から構成された負極集電箔をリチウムイオン二次電池以外の二次電池に適用してもよい。たとえば、負極集電箔をナトリウムイオン二次電池またはマグネシウム二次電池などに適用してもよい。
【0144】
また、上記第1実施形態ではCu層/鉄基合金層/Cu層の3層構造のクラッド材からなるCu被覆箔50を負極集電箔5bとして用いた例を示し、また、上記第2実施形態ではCuめっき層/鉄基合金層/Cuめっき層の3層構造のCu被覆箔250を負極集電箔205bとして用いた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、負極集電箔(Cu被覆箔)は、3層構造に限られない。たとえば、クラッド材のCu層またはCuめっき層の鉄基合金層とは反対側の表面に、Cu層(またはCuめっき層)の酸化を抑制するNi層などを形成してもよい。また、上記第2実施形態で記載したように、Cuめっき層と鉄基合金層との間に微小の厚みを有する下地層(たとえばNi層)を配置してもよい。また、この下地層は、クラッド材からなるCu被覆箔にも適用できる。なお、Cu層(またはCuめっき層)および鉄基合金層以外の層の厚みは、二次電池の小型化の観点からCu層(またはCuめっき層)および鉄基合金層のそれぞれの厚みよりも十分に小さいのが好ましい。この場合、4層構造以上の層構造を有する負極集電箔の厚みは、20μm以下であるのがよい。
【0145】
また、上記第1および第2実施形態では、Cu被覆中間材150a(350a)に対して、圧延ロール102を用いて冷間(室温)下で圧延を行うことによって、20μmを超えて100μm未満の第1の厚みを有するCu被覆材150b(350b)を作製する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、第1の厚みは100μm以上であってもよい。この場合、第1の厚みを有するCu被覆材をさらに圧延することによって、20μm以下の第2の厚みを有するCu被覆箔にする必要があるため、第1の厚みは100μm近傍であるのが好ましい。
【0146】
また、上記第2実施形態では、鉄基合金板材151に対してめっき処理を行った後に、20μmを超えて100μm未満の第1の厚みを有するように圧延を行うことができる。その後、20μmを超えて100μm未満の第1の厚みを有するCu被覆材350bに対して焼鈍を行うことができる。そして、焼鈍後のCu被覆材350cに対して20μm以下の厚み(第2の厚み)を有するように圧延を行う例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、20μmを超えて100μm未満の第1の厚みを有するように、鉄基合金板材に対してめっき処理を行った後に、圧延および焼鈍を行わずに、そのまま、20μm以下の厚み(第2の厚み)を有するように圧延を行ってもよい。
【0147】
また、上記第2実施形態では、電気めっき浴301により、鉄基合金層51の両面に一対のCuめっき層252および253をそれぞれ形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、無電解めっき処理により、鉄基合金層の両面に一対のCuめっき層をそれぞれ形成してもよい。
【0148】
また、上記第1および第2実施形態では、Cu層52および53(Cuめっき層252および253)を、主にCu(銅)から構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、Cu層またはCuめっき層を、Cuを主要な元素として含む一方、他の元素も含むCu基合金から構成してもよい。つまり、Cu層52および53を作成するための一対のCu板材152および153をCu基合金から構成してもよいし、Cuめっき層252および253を形成するためのCu板材301aをCu基合金から構成してもよい。
この二次電池の負極集電体用箔(5b)は、析出硬化型ステンレス鋼から構成される鉄基合金(51)と、鉄基合金層の両面にそれぞれ配置され、CuまたはCu基合金から構成される一対のCu層(52、53)と、を含むCu被覆箔(50)を備える。負極集電箔は、厚みが20μm以下であり、かつ、体積抵抗率が7μΩ・cm以下である。