(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基材の少なくとも一部に、印刷画像を備え、前記印刷画像は、樹脂を含む材料によって形成されて盛り上がりを有する蒲鉾状画線が万線状に配置された蒲鉾状画線群の上に、明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性の少なくともいずれか一方の光学特性及び正反射光下で前記蒲鉾状画線と異なる色彩を有し、基画像が分割及び/又は圧縮された潜像画線が万線状に配置された潜像画線群が重なって成り、正反射光下で観察すると前記基画像が潜像画像として出現し、前記基材に対する観察角度を変化させると、前記潜像画像が変化して視認されることを特徴とする潜像印刷物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1から特許文献5までに記載の技術は、盛り上がりを有する蒲鉾状画線の画線表面の一部が光を強く反射し、光を反射した画線表面に重ねられた潜像画線のみが色彩の違いによって可視化される原理で潜像が出現し、印刷物の傾きを変えることで蒲鉾状画線の光を反射する画線表面が変化し、それによって潜像がチェンジする技術である。これらの技術において、正反射時に出現する潜像の視認性は、拡散反射光下と正反射光下における蒲鉾状画線の色彩の違い(色差)の大きさによってほぼ決定される。このため、視認性の高い潜像を出現させるためには、蒲鉾状画線が光を強く反射したり、反射光の色彩が変化する等の特殊な光学特性を付与したりする必要があった。蒲鉾状画線にこのような特殊な光学特性を付与するには、画線を形成するインキに特殊な光学特性を有する機能性材料を混合する方法を用いるのが一般的である。これらの機能性材料の代表物としては、パール顔料、メタリック顔料、ガラスフレーク、エフェクト顔料等が存在する。また、市販されている色彩変化に富んだ特性を有するインキ、例えばOVI(Optical Variable Ink)、CSI(Color Shifting Ink)、コレステリック液晶インキ等を使用することでも同じ効果を得ることができる。このように光学特性に優れた顔料が配合されたインキや光学特性に優れたインキを用いて印刷した画線は、顔料やインキ由来の優れた光学特性が発揮される。しかしながら、通常の厚みのない、平坦な印刷画線と異なり、盛り上がりを有する蒲鉾状画線にこのような特殊なインキを用いて優れた光学特性を付与することには以下のような問題があった。
【0010】
これらのインキに含まれる機能性材料のうち、パール顔料に代表される機能性材料の多くは薄くて平らな鱗ペン形状をしている。このような形状をした顔料は、すべての顔料が同じ向きに揃って並んだ(リーフィングした)場合に光の反射する光量が最も大きくなり、効果が高まる一方で、それぞれの顔料が個別に異なる角度を成してランダムに並んだ場合には反射光量は極端に小さくなり、効果が著しく低くなる。通常の印刷物のように、印刷画線に厚みがなく平坦な画線である場合、画線のインキ膜内で顔料が角度を変える自由度がほとんど無いため、インキ中の鱗ペン状の機能性材料は乾燥過程で自然に平坦となって、すべての顔料の向きが揃うことから、特段の工夫を施さなくても一定以上の効果を常に得ることができる。しかしながら、盛り上がりのある蒲鉾状画線中では、
図19(a)に示すようにインキ樹脂(a)中に顔料(c)がランダムに別々の方向に傾いて固定されるため、蒲鉾状画線から生じる反射光量が小さくなり、出現する画像の視認性が低くなるという問題があった。
【0011】
また、
図19(a)に示すように盛り上がりのある蒲鉾状画線中では、前述のような反射光量が小さくなって画像の視認性が低下することに加え、本来、可視化されるべき画像とは別の画像が同時に出現するという問題があった。
図19(b)を用いて具体的に説明する。蒲鉾状画線の上の潜像画線(b1)が可視化されるべき角度で光が入射した場合、画線表面由来の反射光(d)によって、本来、サンプリングされるべき特定の潜像画線(b1)が可視化される。しかしながら、蒲鉾状画線を構成するインキ樹脂(a)自体は透明であるため、入射光が画線内部(a)に侵入し、ランダムな角度で固定された顔料(c)によって画線内面由来の反射光(e)が生じ、本来サンプリングされてはならない別の潜像画線(b2)も同時に可視化される場合があった。これによって、出現する画像が不明瞭な画像となる問題があった。以上のように、鱗ペン状の機能性材料を配合したインキによって盛り上がりのある蒲鉾状画線を形成した場合、反射光量が低下するとともに、蒲鉾状画線内面から生じる不適切な反射光の介在によって、出現する画像の視認性が低下したり、出現した画像が不明瞭な画像となったりする問題があった。
【0012】
この問題を回避する一つの方法として、特許文献2に記載の技術のように、表面に特殊な撥水・撥油処理を施した鱗ペン状顔料を用いる方法がある。この場合、
図20(a)に示すように、印刷直後に蒲鉾状画線の画線表面の盛り上がりに沿って顔料(c)がリーフィングすることから、
図19(a)のような顔料がランダムに別々の方向に傾いた状態と比較して、より大きな反射光量を得ることができる。また、
図20(b)に示すように光が入射した場合、顔料(c)は蒲鉾状画線表面にのみ存在することから、蒲鉾状画線内面由来の不適切な反射光が生じることなく、蒲鉾状画線表面由来の反射光(d)のみが生じ、適切な潜像画線(b1)のみサンプリングされて可視化され、本来、別の入射光の角度でサンプリングされるべき潜像画線(b2)が可視化されることがない。以上のように、
図20(a)に示すような蒲鉾状画線の画線表面の盛り上がりに沿って顔料(c)がリーフィングした構造を作り出すことによって、
図19(a)のような蒲鉾状画線で生じる問題を解決する方法が存在する。しかし、この顔料の特別な表面処理には大きな手間とコストがかかるという問題があった。また、撥水・撥油処理が施された鱗ペン状顔料はインキ樹脂との密着性が弱いことに加え、顔料が充分にインキ樹脂に被覆されず画線表面に顔料が露出した状態となるため、画線表面が擦られることで顔料が脱落し易いという堅牢性の問題があった。
【0013】
また、
図19(a)のような顔料の向きがランダムな蒲鉾状画線であっても、
図20(a)のような顔料がリーフィングした蒲鉾状画線であっても、それぞれの蒲鉾状画線に共通して要求される事項として、高い視認性と鮮明さを実現するためには、それぞれの蒲鉾状画線の画線形状は、すべて一定の盛り上がり高さを有した完全に均質な三次元構造を有する必要があって、かつ、蒲鉾状画線の表面は微細な凹凸の無い滑らかな表面構造を有することが求められる。このような蒲鉾状画線の構造を実現するために、インキの粘度は高いことが望ましい。一方で、蒲鉾状画線に対して前述のような特殊な光学特性を付与するためには、顔料の配向を阻害させないことを目的としてインキの粘度を低くすることが望ましい。以上のように、蒲鉾状画線に対して前述のような特殊な光学特性を満たすためのインキの条件と、画線形状としても均質で滑らかな三次元構造を実現するためのインキの条件は相反するため、印刷によって一瞬で形成される単一の画線に対して、これら相互に異なる要求を高いレベルで同時に実現することは困難であった。
【0014】
特許文献6の技術は、エンボス加工で擬似的に蒲鉾状画線群を構成する技術であるが、印刷で蒲鉾状画線群を形成する他の技術と比較すると、蒲鉾状画線の三次元形状の均質さがやや劣るとともに、摩擦や折れ、湿気による基材の膨潤等の外的要因によって消失し易く、長期にわたって蒲鉾状画線の形状を維持するという品質の安定性において問題があった。また、特に基材を上質紙として、反射層を直接基材に印刷して形成した場合には、基材の繊維の偏りによる微細な凹凸構造によって反射光量が低下する傾向にあり、引用文献1から引用文献5までの技術程の反射光量を得ることができず、正反射光下で出現する潜像の視認性や鮮明さが劣るという問題があった。
【0015】
本発明は、上記課題の解決を目的とするものであり、盛り上がりを有する蒲鉾形状の画線を特殊な材料を用いることなく形成できるとともに、潜像画像を形成するための画線の光の反射性を高めることで、出現する潜像画像の視認性が高い潜像印刷物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の潜像印刷物は、基材の少なくとも一部に、印刷画像を備え、印刷画像は、樹脂を含む材料によって形成されて盛り上がりを有する蒲鉾状画線が万線状に配置された蒲鉾状画線群の上に、明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性の少なくともいずれか一方の光学特性を備える反射層が積層された反射性蒲鉾状画線群と、反射性蒲鉾状画線群の上に重なって形成され、正反射光下で反射層と異なる色彩を有し、基画像が分割及び/又は圧縮された潜像画線が万線状に配置された潜像画線群とから成り、正反射光下で観察すると基画像が潜像画像として出現し、基材に対する観察角度を変化させると、潜像画像が変化して視認されることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の潜像印刷物は、蒲鉾状画線群及び/又は反射層が、不透明な材料によって形成されたことを特徴とする。
【0018】
また、本発明の潜像印刷物は、基材の少なくとも一部に、印刷画像を備え、印刷画像は、樹脂を含む材料によって形成されて盛り上がりを有する蒲鉾状画線が万線状に配置された蒲鉾状画線群の上に、明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性の少なくともいずれか一方の光学特性及び正反射光下で蒲鉾状画線と異なる色彩を有し、基画像が分割及び/又は圧縮された潜像画線が万線状に配置された潜像画線群が重なって成り、正反射光下で観察すると基画像が潜像画像として出現し、基材に対する観察角度を変化させると、潜像画像が変化して視認されることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の潜像印刷物は、蒲鉾状画線群が、不透明な材料によって形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の潜像印刷物は、従来の技術のように蒲鉾状画線群自体が明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性のような特別な光学特性を備える必要がなく、この光学特性は蒲鉾状画線の上に別に印刷される反射層又は潜像画線が担う。蒲鉾状画線の上に印刷される反射層又は潜像画線は、優れた光学特性を実現することに目的を絞って作製すれば良いことから、必要とされる特殊な光学特性を実現しやすい。また、インキ樹脂上に印刷された反射層又は潜像画線の反射光量は、それ自体の反射光量に加えて、下地となるインキ樹脂の反射光量に準じる光量が加算され全体に大きく嵩上げされる。このため従来技術の蒲鉾状画線群と比較して反射光量が高くすることができ、正反射光下で出現する潜像の視認性が向上した。
【0021】
本発明の潜像印刷物は、従来の技術のように蒲鉾状画線群自体が明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性のような特別な光学特性を備える必要がない。このため蒲鉾状画線群は一定の盛り上がりを有してそれぞれが均質であって、画線表面が滑らかで凹凸の少ない盛り上がりのある画線を形成することに特化して設計されたインキを用いることができ、従来よりも高品質な蒲鉾状画線群を形成することができ、結果として潜像の鮮明さが向上した。
【0022】
また、仮に蒲鉾状画線群が印刷された段階で蒲鉾状画線群の画線表面に滑らかさが欠け、画線表面に微小な凹凸が存在していたとしても、後刷りで形成される反射層又は潜像画線のインキ皮膜によって表面の凹凸が被覆されるため、蒲鉾状画線群の画線表面をより平滑化する作用が生まれる。この作用により、正反射光下で出現する潜像の鮮明さが向上した。
【0023】
本発明の潜像印刷物において、反射性蒲鉾状画線群又は蒲鉾状画線群が不透明であることにより、反射性蒲鉾状画線群又は蒲鉾状画線群から生じる反射光は画線表面由来の反射光が支配的となる。このため、従来の技術のように本来サンプリングされるべきでない潜像画線が可視化して出現することがなく、従来の技術と比較して出現する潜像の鮮明さが向上した。
【0024】
本発明の潜像印刷物の蒲鉾状画線群は、従来の技術によってエンボスで形成した蒲鉾状画線群のように外的要因で消失することがなく、品質的により安定している。また、反射層の形成に特殊な撥水・撥油処理された顔料を用いる必要がないことから、従来技術の蒲鉾状画線のように、画線表面が擦られることで顔料が脱落することがなく、従来の技術と比較して堅牢性が向上した。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
【0027】
(第一の実施の形態)
第一の実施の形態として、本発明における潜像印刷物(1)の基本的な構成について、
図1から
図11を用いて説明する。
図1に、本発明の潜像印刷物(1)を示す。潜像印刷物(1)は、基材(2)上に印刷画像(3)を有して成る。基材(2)は、印刷画像(3)が形成可能な平面を備えていれば良く、上質紙、コート紙、プラスティック、金属等、材質は特に限定されない。その他、基材(2)の色彩や大きさについても特に制限はない。印刷画像(3)の色彩については、いかなる色彩でも良い。具体的には反射層(6)の光学特性の説明の中で後記する。
【0028】
図2に印刷画像(3)の概要を示す。印刷画像(3)は、反射性蒲鉾状画線群(4)の上に潜像画線群(7)が重なって形成されて成る。反射性蒲鉾状画線群(4)とは、蒲鉾状画線群(5)と、その上に重ねられた反射層(6)から成る。正反射時に出現する有意情報は、潜像画線群(7)中に含まれる。この例において潜像画線群(7)は、第一の有意情報であるアルファベットの「A」の文字を表す第一の潜像画線群(7A)と、第二の有意情報であるアルファベットの「B」の文字を表す第二の潜像画線群(7B)から成る。
【0029】
図3に、基材(2)上に形成された蒲鉾状画線群(5)の一例を示す。蒲鉾状画線群(5)は、一定の幅(W1)の直線であり、一定の盛り上がり高さを有した蒲鉾状画線(8)が、万線状に配置されて成る。本発明において、「万線状に配置する」とは、複数の画線が規則的に所定のピッチで配列されている状態をいう。より具低的には、蒲鉾状画線(8)が、画線方向と直交する第一の方向(図中S1方向)に一定のピッチ(P1)で連続して配置されて成る。
図3の拡大図では、蒲鉾状画線(8)と蒲鉾状画線(8)の間に、基材(2)が露出した非画線部がある状態を示しているが、蒲鉾状画線(8)を隙間なく配置して非画線部のない蒲鉾状画線群(5)としても良い。
【0030】
第一の実施の形態において蒲鉾状画線群(5)は、盛り上がりを有した蒲鉾状の画線の集合によって構成された例について説明するが、本発明における蒲鉾状画線群(5)は、これに限定されるものではない。例えば、特許第4682283号公報や特許第4660775号公報に記載されている蒲鉾状の画素を、画線状に配置して一つの蒲鉾状画線を構成し、それを万線状に配置して蒲鉾状画線群(5)としても良い。潜像が視認される原理については後述するが、蒲鉾状画線群(5)が画素で構成される場合においても、画線で構成される場合と同じ原理で潜像が出現することから、本発明に含まれるものとする。
【0031】
蒲鉾状画線群(5)は、樹脂を含んだ材料によって構成される必要がある。ここでいう樹脂とは、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂等の一般的な印刷インキのワニス成分にあたる、一定の光沢を有した樹脂を指す。透かしやエンボス等によって基材(2)に直接凹凸を形成する構成では、本発明の必須要件を満たさない。これは、基材(2)と同じ素材で構成した場合には、蒲鉾状画線群(5)の上に形成される反射層(6)の反射光量を嵩上げする効果を得られないためである。
【0032】
一般にUV硬化型のスクリーン印刷によって蒲鉾状画線群(5)を形成する場合、スクリーンインキの粘度が高いほうが、蒲鉾状画線(8)の盛り上がり高さは高く、かつ、それぞれの蒲鉾状画線(8)の三次元立体形状は互いに均一になる傾向にある。このような蒲鉾状画線(8)の均一な構造は、潜像の視認性や鮮明さを高めるために極めて望ましいことから、本発明の蒲鉾状画線群(5)を形成するにあたっては、粘度の高いインキを用いることが好ましい。従来のように蒲鉾状画線群(5)自体に特殊な光学特性を付与しなければならない形態において、高粘度のインキを使用した場合には、インキ内の機能性材料の配向に悪影響を与え、光学特性が低下することから、粘度の低いインキとせざるを得ず蒲鉾状画線(8)の三次元立体形状は犠牲になることが通例であった。これに対し、粘度の高いインキを用いて均質な蒲鉾状画線(8)の形成をし得るのは、蒲鉾状画線(8)が特別な光学特性の実現を担う必要がないことに起因する、本発明の大きな長所の一つである。均質な立体構造の蒲鉾状画線(8)の形成を重視するのであれば、インキ粘度は1.5Pasを越えていることが望ましい。
【0033】
蒲鉾状画線(8)の画線の盛り上がりの高さは、特に制限するものではないが流通適性を考えると1mm以上の高さを有することは望ましくない。また、蒲鉾状画線(8)をインキによって形成する場合であって、皮膜の厚さが2μm以下の場合は画像のチェンジ効果が低くなる場合がある。よって、蒲鉾状画線(8)をインキ皮膜によって形成する場合には2μm以上1mm以下であることが望ましい。
【0034】
蒲鉾状画線群(5)の上に形成される反射層(6)とは、明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性を有して光反射特性に優れた印刷皮膜である。本発明においては、蒲鉾状画線群(5)と反射層(6)が重なり合った構造を反射性蒲鉾状画線群(4)と定義する。蒲鉾状画線群(5)や反射層(6)が重なり合わずに単独で存在する構造は、反射性蒲鉾状画線群(4)ではなく、印刷画像(3)にも含まれない、印刷画像(3)に隣接する単なる修飾要素と見なす。
【0035】
なお、反射層(6)は、理論上面積率100%(ベタ)で形成することが正反射時に出現する潜像の視認性を高めるために最も効果的であるが、面積率100%で形成することで発生するムカレやピッキングといった印刷トラブルを避けることを目的に面積率を低く形成しても何ら問題ない。
【0036】
反射層(6)は、先に印刷されて予め硬化した蒲鉾状画線群(5)の上に形成される。反射層(6)は、一定膜厚のインキ層から成ることから、蒲鉾状画線群(5)と反射層(6)が重なった反射性蒲鉾状画線群(4)には、蒲鉾状画線群(5)の盛り上がりの高さや幅のような大まかな立体構造はそのまま反映されるが、一方で蒲鉾状画線群(5)の画線表面のわずかな凹凸は、反射層(6)の膜厚によって、印刷直後に、ある程度平坦に埋められる。このため、反射性蒲鉾状画線群(4)の表面は、蒲鉾状画線群(5)の表面よりも滑らかになり、結果として、反射性蒲鉾状画線(4A)の立体形状の再現性がより高まり、相互の反射性蒲鉾状画線(4A)の立体形状は互いに同じ形状により近くなる。本発明において出現する潜像の鮮明さ(潜像の輪郭のシャープさ)を高めるには、それぞれの反射性蒲鉾状画線群(4)の画線表面に重ねられた潜像画線群(7)が規則正しくサンプリングされる必要があり、そのためには、それぞれの反射性蒲鉾状画線(4A)の立体形状が表面の微細な凹凸を含めて完全に同じ形状であることが最も好ましい。このため、蒲鉾状画線(8)の上に反射層(6)を重ねることは、単に反射光量を増大させて潜像の視認性を高める効果を得られるだけでなく、反射性蒲鉾状画線(4A)の立体形状の再現性をより高め、潜像の鮮明さを高める効果をも同時に得ることができる。なお、反射層(6)は蒲鉾状画線群(5)上にのみ形成される必要はなく、蒲鉾状画線(8)と蒲鉾状画線(8)の間の非画線部にも形成されても良い。
【0037】
また、反射層(6)は、光が入射した場合には強く光を反射する特性を有する必要がある。具体的には、光が入射した場合に、明るさ(明度)が上昇する特性、いわゆる明暗フリップフロップ性か、光が入射した場合に色相が変化する特性、いわゆるカラーフリップフロップ性の、少なくともいずれか一方の光学特性を有する必要がある。明暗フリップフロップ性は、アルミや真鍮、酸化鉄等の一般的な金属顔料をインキ中に配合することで容易に付与することができる。また、カラーフリップフロップ性は、カラーフリップフロップ性を備えた機能性顔料をインキ中に配合することで付与できる。カラーフリップフロップ性を備えた機能性材料の具体的な一例としては、パール顔料やコレステリック液晶、ガラスフレーク顔料、金属粉顔料や鱗ペン状金属顔料等がある。また、当然のことながら機能性顔料をインキに配合するだけではなく、明暗フリップフロップ性やカラーフリップフロップ性を有するインキとして市販されているインキを用いて反射層(6)を形成しても良い。明暗フリップフロップ性を有する市販インキとしては、金インキや銀インキ、樹脂自体の光沢が高いOPニス、グロスニス等が存在し、カラーフリップフロップ性を有する市販インキとしては、CSI(Color Shifting Ink)やOVI(Optical Variable Ink)、液晶インキ等がある。
【0038】
ここで、反射性蒲鉾状画線群(4)を構成する一つ一つの反射性蒲鉾状画線(4A)の色彩について説明する。反射性蒲鉾状画線(4A)の色彩は、特定の色彩で着色されていても良いし、着色されていなくても良いが、不透明であることが好ましい。これを満足するためには、反射層(6)が不透明であっても良いし、蒲鉾状画線(8)が不透明であっても良いし、両方が不透明であっても良い。仮に反射層(6)が透明である場合には、蒲鉾状画線(8)を不透明とする必要があり、蒲鉾状画線(8)が透明である場合には、反射層(6)が不透明である必要がある。これは、反射性蒲鉾状画線(4A)に光が入射した場合に、反射性蒲鉾状画線(4A)の内部から内面反射光を生じさせないために必要となる光学特性であり、この条件を満たすことで、反射性蒲鉾状画線(4A)に光が入射した場合に生じる反射光は、すべて反射性蒲鉾状画線(4A)の画線表面から生じる表面反射光となり、本発明の効果の一つである潜像の鮮明さを担保することができる。一方、反射性蒲鉾状画線(4A)を透明とした場合には、不透明とした場合とは異なり、反射性蒲鉾状画線(4A)の内部から不必要な内面反射光自体は生じるが、段落(0036)で説明したように、反射性蒲鉾状画線(4A)の立体形状の再現性が高まることによる、潜像の鮮明さを高める効果と、反射層(6)からの反射光量を増大させて潜像の視認性を高める効果を得ることはできる。
【0039】
続いて、潜像画線群(7)について
図4を用いて説明する。潜像画線群(7)は、正反射時に出現する潜像の基となる、複数の有意情報を含んで成る。本実施の形態の例では第一の有意情報である、アルファベトの「A」の文字と、第二の有意情報であるアルファベットの「B」の文字の2つの有意情報を含んでいる。本実施の形態において、第一の有意情報は、
図4(b)に示す第一の潜像画線群(7A)によって表され、第二の有意情報は
図4(c)に示す第二の潜像画線群(7B)によって表される。すなわち、
図4(b)において、第一の潜像画線(9A)の各々は、潜像画像の基となる基画像「A」の文字を分割した画線に対応しており、
図4(c)において、第二の潜像画線(9B)の各々は、潜像画像の基となる基画像「B」の文字を分割した画線に対応したものとなっている。第一の潜像画線群(7A)は、一定の画線幅(W2)の第一の潜像画線(9A)が、蒲鉾状画線群(5)と同じ第一の方向(S1方向)に、同じピッチ(P1)で、万線状に連続して配置されて成り、第二の潜像画線群(7B)は、一定の画線幅(W3)の第二の潜像画線(9B)が、蒲鉾状画線群(5)と同じ第一の方向(S1方向)に、同じピッチ(P1)で、万線状に連続して配置されて成る。第一の潜像画線(9A)の画線幅(W2)は、すべて同じであり、第二の潜像画線(9B)の画線幅(W3)もすべて同じである必要があるが、第一の潜像画線(9A)の画線幅(W2)と第二の潜像画線(9B)の画線幅(W3)の値は、同じであっても良いし、異なっていても良い。
【0040】
ここで、それぞれの第一の潜像画線(9A)と第二の潜像画線(9B)の位置関係について説明する。第一の潜像画線(9A)と第二の潜像画線(9B)は重なりあってはならない。具体的には第一の潜像画線(9A)と第二の潜像画線(9B)は、第一の方向(S1)に位相がずれている必要がある。
図4(a)は、その一例として、ピッチの半分にあたるP1の2分の1ずれて配置された状態を示している。仮に、第一の潜像画線(9A)と第二の潜像画線(9B)が重なり合って配置された場合には、正反射光下の特定の観察角度において、第一の有意情報と第二の有意情報が重なり合った不明瞭な画像が出現するため、そのような構成は避けなければならない。
【0041】
なお、以降の説明では、具体的に個別の潜像画線(9A、9B)を指すのではなく、潜像画線全般を指す場合には潜像画線(9)として説明する。
【0042】
潜像画線群(7)を構成するそれぞれの潜像画線(9)の正反射光下における色彩は、正反射光下における反射層(6)の色彩と異なる色彩である必要がある。仮に、正反射光下における反射層(6)の色彩が淡い黄色であったとすると、潜像画線(9)の正反射光下における色彩は、淡い黄色以外の色彩である必要がある。青、赤、緑等の全く別の色相であっても良いし、濃い黄色や、より淡い黄色のように色相は同じで明度が異なる色彩であっても良い。これは、正反射光下で潜像を可視化させるための必須事項である。正反射光下で出現する潜像は、反射層(6)と潜像画線(9)の正反射光下における相対的な色差によってその視認性がほぼ決定されることから、この色差が大きく異なれば異なるほど正反射光下で出現する潜像の視認性が高まるため、反射層(6)と潜像画線(9)の正反射光下の色彩を可能な限り異ならせることが望ましい。また、潜像の視認性を高めるためには、反射層(6)と比較して反射率が低いことが望ましい。このため、潜像画線群(7)を印刷によって形成する場合には、反射層(6)より反射率の低いマットなインキで形成することが望ましい。また、通常の観察条件において反射層(6)上の潜像画線(9)は不可視であることが望ましいため、物体色を有さない透明や半透明であることが望ましい。ただし、反射性蒲鉾状画線(4A)が透明や半透明でなく、特定の物体色による色彩を有している場合には、潜像画線(9)が物体色を有していたとしても、反射性蒲鉾状画線(4A)の色彩によって潜像画線(9)はカモフラージュされて目視上不可視となるため、反射性蒲鉾状画線(4A)の色彩と同じ色彩としても良い。また、潜像画線(9)は、正反射光下で反射層(6)とは異なる色相の干渉色を呈する(カラーフリップフロップ性を有する)構成であっても良い。この場合、出現する潜像に豊かな色彩を付与することができる。
【0043】
潜像画線群(7)は、
図1(b)に示すように、反射層(6)の上に形成される。潜像画線群(7)が反射層(6)の上に形成される形態については、
図5に示すように、まず、基材(2)に蒲鉾状画線群(5)を印刷し、その上に反射層(6)を重ね合わせ、最後に潜像画線群(7)を重ね合わせて形成する。反射性蒲鉾状画線群(4)と潜像画線群(7)の位置関係は、反射性蒲鉾状画線群(4)における蒲鉾状画線(8)の配列方向(図中S1方向)と、潜像画線群(7)の中のそれぞれの潜像画線(9)の配列方向(図中S1方向)が一致しなくてはならない。
【0044】
潜像画線群(7)が反射層(6)の上に形成される形態の印刷画像(3)に、特定の光源(20)から光が入射した場合の光の挙動の模式的な拡大図を
図6に示す。本発明の潜像印刷物(1)において、入射した光は、反射層(6)や潜像画線(9)に吸収される光を除くと、ほとんどすべてが反射性蒲鉾状画線(4A)表面で反射され、また、蒲鉾状画線(8)の上に形成された反射層(6)の反射特性も嵩上げされるため、全体の反射光量は相対的に増大する。また、反射性蒲鉾状画線(4A)を不透明とした場合には、従来の技術の
図19(b)の例のように、蒲鉾状画線(8)の内部へと光が侵入することはなく、蒲鉾状画線(8)で生じる内面反射光は生じない。このため、反射光はすべて画線表面で反射される反射光となるため、入射する光の角度に応じた、適正な潜像画線(9)のみがサンプリングされる効果が生まれる。
図6の例においては、本発明の効果を示す図として、反射性蒲鉾状画線(4A)表面で入射する光が反射され、第一の潜像画線(9A)のみがサンプリングされ、第二の潜像画線(9B)はサンプリングされない状態を示している。この結果、潜像の視認性が向上するとともに、鮮明な潜像を視認することができる。
【0045】
なお、仮に反射層(6)が透明であって、蒲鉾状画線(8)が不透明である場合には、反射層(6)と蒲鉾状画線(8)の画線表面によって光は反射され、同様に蒲鉾状画線(8)内部に光は侵入しないため、蒲鉾状画線(8)の内面反射によって第二の潜像画線(9B)が同時にサンプリングされないという本発明の効果を得ることができる。ただし、反射層(6)が不透明な場合と異なり、反射する画線表面が反射層(6)と蒲鉾状画線(8)の二つの面となる。反射面が二つ存在する場合、この反射面の距離の差(反射層(6)の厚み)が1マイクロメートル以下であっても、サンプリングされた第一の潜像画線(9A)による潜像の鮮明さに影響を与える場合がある。このため、本発明の潜像印刷物(1)において、潜像を鮮明に出現させるために最も望ましい形態は、反射層(6)を不透明とする形態である。
【0046】
以上、説明したとおり、本発明の潜像印刷物(1)において、蒲鉾状画線(8)の上に反射層(6)を形成し、かつ、反射性蒲鉾状画線群(4)を不透明とすることで、反射光の光量を増大させるとともに、かつ、反射光を画線表面由来の光のみとすることができる。
【0047】
続いて、本発明の潜像印刷物(1)の効果について、
図7を用いて説明する。
図7(a)のように、左側から潜像印刷物(1)に光が入射した場合、観察者の視点(21)には第一の有意情報であるアルファベットの「A」が視認される。一方、
図7(b)のように、右側から潜像印刷物(1)に光が入射した場合、観察者の視点(21)には第二の有意情報であるアルファベットの「B」が視認される。以上のように、入射する光の角度の変化に応じて、印刷画像(3)中に視認される画像がチェンジする効果を有する。
【0048】
以上のような効果を生じる理由について説明する。
図7(a)に示すように、左側から潜像印刷物(1)に光が入射した場合、明暗フリップフロップ性あるいはカラーフリップフロップ性を有し、盛り上がりを有する反射性蒲鉾状画線(4A)は、入射した光と法線を成す面のみを中心に光を強く反射する。反射性蒲鉾状画線(4A)の画線表面のうち、盛り上がりの中心より左側は光を強く反射して色彩が変化する。反射性蒲鉾状画線(4A)の左側の画線表面には通常の観察条件では不可視である第一の潜像画線(9A)が重なって形成されており、第一の潜像画線(9A)と反射性蒲鉾状画線(4A)の表面にある反射層(6)とは正反射光下の色彩が異なるため、第一の潜像画線(9A)が色彩の違いによって可視化される。この場合、それぞれ反射性蒲鉾状画線(4A)の表面にあるすべての第一の潜像画線(9A)が一度に可視化されるため、結果として第一の潜像画線群(7A)が表す第一の有意情報であるアルファベットの「A」の文字が出現する。その一方で、入射した光と法線を成さなかった、反射性蒲鉾状画線(4A)の盛りあがりの中心より右側表面は光を反射できないため、色彩は変化せず、結果として右側表面にある第二の潜像画線(9B)は可視化されず、第二の有意情報は出現しない。
【0049】
また、
図7(b)のように、右側から潜像印刷物(1)に光が入射した場合には、反射性蒲鉾状画線(4A)の右側の画線表面に重ねられた第二の潜像画線(9B)が色彩の違いによって可視化され、第二の潜像画線群(7B)が表す第二の有意情報であるアルファベットの「B」の文字が出現する。この場合、左側表面にある第一の潜像画線(9A)は可視化されず、第一の有意情報は出現しない。
【0050】
以上のように、反射性蒲鉾状画線(4A)の画線表面に重ねられた潜像画線(9)のうち、入射した光と法線を成した画線表面に存在する潜像画線(9)のみが色彩の違いによって可視化され、それ以外の表面に存在する潜像画線(9)は可視化されない効果が生じる。これによって、入射する光の角度の変化に応じて、印刷画像(3)中に視認される画像がチェンジする効果が生じる。以上が、本発明の潜像印刷物(1)の画像のチェンジ効果が生じる原理である。なお、特許第4682283号公報や特許第4660775号公報に記載の画線、画素構成や効果に関しては、本発明の潜像印刷物(1)にすべて応用することができる。
【0051】
ここまで説明した潜像印刷物(1)は、潜像画線群(7)を特許第4682283号公報や特許第4660775号公報に記載の技術のような特定の有意情報を潜像画線(9)によって分割した画線構成を用いて形成する形態であり、潜像印刷物(1)を傾けることである有意情報から異なる有意情報へとチェンジする、画像のチェンジ効果が生じる形態であった。しかしながら、本発明の潜像印刷物(1)の潜像画線群(7)の構成や、その構成に伴って生じる効果はこれに限定させるものではない。例えば、特許第4844894号公報や特許第5131789号公報に記載の技術のようなモアレが拡大されて視認できる「モアレ拡大現象(Moire Magnification)」を利用した動画効果や、特許第5200284号公報に記載の技術のように、インテグラルフォトグラフィ方式の動画効果を生じさせる形態に適用しても良い。これらについて以下に具体的に説明する。
【0052】
図8に示すのは、モアレ拡大現象を利用して、潜像として拡大モアレ(12)が出現し、潜像印刷物(1)を傾けることで出現した拡大モアレ(12)が動いて見える、特殊な動画効果を生させることが可能な潜像画線群(7)の一形態である。潜像画線群(7)以外の印刷画像(3)の構成については、先に説明した画像のチェンジ効果が生じる形態と全く同じであるので説明を省略する。
【0053】
モアレ拡大現象を利用する潜像画線群(7)は、反射性蒲鉾状画線群(4)の画線方向と直交する第一の方向(図中S1方向)に、基画像(11A、11B)を圧縮した潜像画線(9)を、反射性蒲鉾状画線群(4)のピッチ(P1)とわずかに異なるピッチ(P2、P3)で連続して万線状に連続して配置した構成を有する。
図8の例では、潜像画線群(7)は二つの画線群から成り、第一の潜像画線群(7A)と、第二の潜像画線群(7B)から成る。第一の潜像画線群(7A)は、第一の基画像(11A)としてアルファベットの「J」の文字を第一の方向(図中S1方向)に圧縮して画線幅(W2)とした第一の潜像画線(9A)を、反射性蒲鉾状画線群(4)のピッチ(P1)よりわずかに小さなピッチ(P2)で、第一の方向(図中S1方向)に連続して配置して成る。第二の潜像画線群(7B)は、第二の基画像(11B)としてアルファベットの「P」の文字を第一の方向(図中S1方向)にミラー反転して圧縮して画線幅(W3)とした第二の潜像画線(9B)を、反射性蒲鉾状画線群(4)のピッチ(P1)よりわずかに大きなピッチ(P3)で、第一の方向(図中S1方向)に連続して配置して成る。
【0054】
図8に示した潜像画線群(7)を用いた場合の潜像印刷物(1)の効果は、
図9に示すとおりである。
図9(a)のように、観察者の視点(21)が強い反射光が生じない拡散反射光下にある場合、観察者は印刷画像(3)の中に何も視認できない。しかし、
図9(b)や
図9(c)のように、観察者の視点(21)が強い反射光が生じる正反射光下にある場合、観察者は印刷画像(3)の中にアルファベットの「J」の文字を表す拡大モアレ(12A)と、アルファベットの「P」の文字を表す拡大モアレ(12B)を視認できる。また、
図9(b)や
図9(c)のように、潜像印刷物(1)を傾けたり、入射する光の角度を変えたりした場合には、それぞれの拡大モアレ(12A、12B)が、第一の方向(S1方向)か、あるいは第一の方向(S1方向)と逆方向にそれぞれ反対方向に動く様子を視認することができる。以上のように、本発明の潜像印刷物(1)において、潜像画線群(7)の画線構成を変えるだけで、チェンジ効果とは全く異なるモアレ拡大現象を利用した動画効果を生じさせることができる。なお、このような効果が生じる原理や効果的な構成、条件等については特許第4844894号公報や特許第5131789号公報に記載のとおりであり、特許第4844894号公報や特許第5131789号公報に記載の画線、画素構成等については本発明の潜像印刷物(1)に応用することができる。
【0055】
続いて、
図10に示すのは、インテグラルフォトグラフィ方式の立体画像の形成方法を利用して、潜像として基画像(13)が出現し、潜像印刷物(1)を傾けることで出現した基画像(13)が動いて見える、動画効果が生させることが可能な潜像画線群(7)の一形態である。潜像画線群(7)以外の印刷画像(3)の構成については、先に説明した画像のチェンジ効果が生じる形態と全く同じであるので説明を省略する。
【0056】
インテグラルフォトグラフィ方式の立体画像の形成方法を利用する潜像画線群(7)は、反射性蒲鉾状画線群(4)の画線方向と直交する第一の方向(図中S1方向)に、基画像(13)を一定の幅で分割して取り出して、取り出した画像を第一の方向(図中S1方向)に圧縮して画線幅(W2)とした潜像画線(9)を、反射性蒲鉾状画線群(4)のピッチ(P1)と同じピッチ(P1)で、第一の方向(図中S1方向)に万線状に連続して複数配置した構成を有する。
図10の例では、潜像画線群(7)は桜の花びらを表した基画像(13)から作製した複数の潜像画線(9)から成る。モアレ拡大現象を利用した
図8の例と異なり、隣り合う潜像画線(9)同士は、基画像(13)から取り出す際の位相を一ピッチ分だけずらして圧縮しているため、わずかに形状が異なる。
【0057】
図10に示した潜像画線群(7)を用いた場合の潜像印刷物(1)の効果は
図11に示すとおりである。
図11(a)のように、観察者の視点(21)が強い反射光が生じない拡散反射光下にある場合、観察者は印刷画像(3)の中に何も視認できない。しかし、
図11(b)や
図11(c)のように、観察者の視点(21)が強い反射光が生じる正反射光下にある場合、観察者は印刷画像(3)の中に基画像(13)である桜の花びらを視認できる。また、
図11(b)や
図11(c)のように、潜像印刷物(1)を傾けたり、入射する光の角度を変えたりした場合には、基画像(13)が第一の方向(S1方向)か、あるいは第一の方向(S1方向)と逆方向に動く様子を視認することができる。以上のように、本発明の潜像印刷物(1)において、潜像画線群(7)の画線構成を変えるだけで、チェンジ効果とは全く異なるインテグラルフォトグラフィ方式の立体画像の形成方法を利用した動画効果を生じさせることができる。なお、このような効果が生じる原理や効果的な構成、条件等については特許第5200284号公報に記載のとおりであり、特許第5200284号公報に記載の画線、画素構成を本発明の潜像印刷物(1)の構成に応用することができる。
【0058】
以上のように、本発明の潜像印刷物(1)は反射性蒲鉾状画線群(4)の上に重ねる潜像画線群(7)の構成を変えることで、様々な効果を生み出すことができる。
【0059】
(第二の実施の形態)
第二の実施の形態の潜像印刷物(1´)において印刷画像(3´)は、蒲鉾状画線群(5´)の上に直接、潜像画線群(7´)が形成される2層構造であり、第一の実施の形態で説明した反射層(6)と、その上に形成された潜像画線群(7)の機能を、一つの印刷層として潜像画線群(7´)が担うものであり、以下、詳細について説明する。
【0060】
第二の実施の形態における潜像印刷物(1´)の基本的な構成について、
図12から
図18を用いて説明する。
図12に、本発明の潜像印刷物(1´)を示す。潜像印刷物(1´)は、基材(2´)上に印刷画像(3´)を有して成る。基材(2´)は、上質紙、コート紙、プラスティック、金属等、材質は特に限定されない。その他、基材(2´)の色彩や大きさについても特に制限はない。印刷画像(3´)の色彩については、いかなる色彩であっても良い。これらは第一の実施の形態の潜像印刷物(1)と同様である。
【0061】
図13に印刷画像(3´)の概要を示す。印刷画像(3´)は、蒲鉾状画線群(5´)と、その上に重ねられた潜像画線群(7´)から成る。正反射時に出現する有意情報は、潜像画線群(7´)中に含まれる。ここでは、第一の有意情報であるアルファベットの「A」の文字をネガの状態で表す第一の潜像画線群(7A´)と、第二の有意情報であるアルファベットの「B」の文字をネガの状態で表す第二の潜像画線群(7B´)から成る例について説明する。
【0062】
図14に、基材(2´)上に形成された蒲鉾状画線群(5´)の一例を示す。蒲鉾状画線群(5´)は、一定の幅(W1)の直線を成し、一定の盛り上がり高さを有した蒲鉾状画線(8´)が、画線方向と直交する第一の方向(図中S1方向)に一定のピッチ(P1)で万線状に連続して配置されて成る。また、蒲鉾状画線群(5´)は、樹脂を含んだ材料によって構成される。これらは第一の実施の形態の潜像印刷物(1)と同様である。
【0063】
続いて、潜像画線群(7´)について説明する。第二の実施の形態における潜像画線群(7´)の構成は、
図15に示すように、第一の潜像画線(9A´)と第二の潜像画線(9B´)が、第一の方向(S1方向)に一定のピッチ(P1)で万線状に連続して配置されて、それぞれの潜像画線群(7A´、7B´)が構成される。ただし、第二の実施の形態では、潜像画線群(7´)を形成する材料が以下のとおり異なる。
【0064】
第二の実施の形態において、潜像画線群(7´)を形成する材料は、光が入射した場合に、明るさ(明度)が上昇する特性、いわゆる明暗フリップフロップ性か、光が入射した場合に色相が変化する特性、いわゆるカラーフリップフロップ性の、少なくともいずれか一方の光学特性を有する必要があり、具体的なインキについては、段落(0037)の記載と同じである。これは、第二の実施の形態の潜像画線群(7´)が第一の実施の形態で説明した反射層(6)の機能を果たすためである。
【0065】
第一の実施の形態では、蒲鉾状画線群(5)の上に反射層(6)が形成されることで、反射層(6)を滑らかな表面とし、かつ、反射層(6)からの反射光量を増大させて、潜像の視認性を向上させたが、以上の構成とすることで、第二の実施の形態では、蒲鉾状画線群(5´)の上に潜像画線群(7´)を形成することで、潜像画線群(7´)を滑らかな表面として形成できる。したがって、第二の実施の形態では、潜像画線群(7´)から高い反射光量が得られることとなる。
【0066】
また、第一の実施の形態においては、正反射光下で潜像画線群(7)と反射層(6)の色彩が異なることで潜像が視認できるのに対して、第二の実施の形態では、正反射光下で蒲鉾状画線群(5´)と潜像画線群(7´)の色彩が異なる必要がある。第二の実施の形態では、蒲鉾状画線群(5´)と潜像画線群(7´)の正反射光下の色差が、そのまま潜像の視認性や鮮明さに直結するため、その色彩が大きく異なっていることが望ましい。また、蒲鉾状画線群(5´)を、正反射光下で潜像画線群(7´)とは異なる色相の干渉色を呈する(カラーフリップフロップ性を有する)構成とした場合には、出現する潜像に豊かな色彩を付与することができるため好ましい。
【0067】
第二の実施の形態においては、蒲鉾状画線(8´)の色彩は、特定の色彩で着色されていても良いし、着色されていなくても良いが、蒲鉾状画線(8´)からの内面反射光が生じないようにするために、蒲鉾状画線(8´)を不透明とすることが好ましい。一方、蒲鉾状画線(8´)を透明とした場合には、不透明とした場合とは異なり、蒲鉾状画線(8´)の内部から内面反射光は生じるが、段落(0065)で説明したように、蒲鉾状画線群(5´)を滑らかな表面として形成でき、その上に形成される潜像画線群(7´)から高い反射光量を得ることはできる。
【0068】
以上のような構成で、
図16に示すように、まず、基材(2´)に蒲鉾状画線群(5´)を印刷し、その上に潜像画線群(7´)を重ね合わせる。この形態の潜像印刷物(1´)は、単純な二層構造となる。第一の実施の形態の潜像印刷物(1)と比べると、製造が容易であるといえる。
【0069】
第二の実施の形態における印刷画像(3´)に特定の光源(20)から光が入射した場合の光の挙動の模式的な拡大図を
図17に示す。第二の実施の形態の潜像印刷物(1´)において、入射した光は、潜像画線群(7´)や蒲鉾状画線(8´)に吸収される光を除くと、ほとんどすべてが画線表面で反射され、また、蒲鉾状画線(8´)の上に形成された潜像画線群(7´)の反射特性も嵩上げされるため、全体の反射光量は相対的に増大する。また、蒲鉾状画線(8´)を不透明とした場合には、従来の技術の
図19(b)の例のように、蒲鉾状画線(8)の内部へと光が侵入することはなく、蒲鉾状画線(8´)で生じる内面反射光は生じない。このため、反射光はすべて画線表面で反射される反射光となるため、入射する光の角度に応じた、適正な潜像画線(9´)のみがサンプリングされる。
図17の例においては、第一の潜像画線(9A´)のみがサンプリングされ、第二の潜像画線(9B´)はサンプリングされない状態を示している。
【0070】
以上の説明したとおり、第二の実施の形態の潜像印刷物(1´)においては、蒲鉾状画線(8´)の上に、明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性の少なくともいずれか一方の光学特性を有する潜像画線群(7´)を形成し、かつ、印刷画像(3´)を不透明とすることで、反射光の光量を増大させるとともに、反射光を画線表面由来の光のみとすることができる。
【0071】
続いて、第二の実施の形態の潜像印刷物(1´)の効果について、
図18を用いて説明する。
図18(a)のように、左側から潜像印刷物(1´)に光が入射した場合、観察者の視点(21)には第一の有意情報であるアルファベットの「A」が視認される。一方、
図18(b)のように、右側から潜像印刷物(1´)に光が入射した場合、観察者の視点(21)には第二の有意情報であるアルファベットの「B」が視認される。以上のように、入射する光の角度の変化に応じて、印刷画像(3)中に視認される画像がチェンジする効果を有する。なお、第二の実施の形態における二層構造の潜像印刷物(1´)に関しても、潜像画線群(7´)の構成を変えることで、モアレ拡大現象を利用した動画効果やインテグラルフォトグラフィ方式の動画効果を実現できることはいうまでもない。以上が、第二の実施の形態の潜像印刷物(1´)の説明である。
【0072】
以上に説明した第二の実施の形態の潜像印刷物(1)においては、潜像画線群(7´)が第一の有意情報である「A」の文字と第二の有意情報である「B」の文字をネガの状態で表す例について説明した。これは、第二の実施の形態における潜像画線群(7´)は、第一の実施の形態の反射層(6)と潜像画線群(7)の両方の機能を備えた構造を有するため、蒲鉾状画線群(5´)の画線表面の大部分を反射材料で被覆することができる構成として、発明の効果を高めやすいネガ構成を選択したものである。加えて、潜像画線群(7´)に反射層の機能(明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性の一方)を同時に担わせる第二の実施の形態においては、前述のように、潜像画線(9´)からの高い反射光量は得られるが、ポジの状態で表す潜像画線から反射光の生じる角度範囲が広がることで、潜像画像の鮮明さが低下する傾向にある。これに対して、
図15に示すように、第一の有意情報と第二の有意情報をネガの状態で形成した場合には、ポジの状態で表す潜像画線と比べて、反射光が生じる角度範囲が狭くなることで、潜像画像の輪郭が比較的鮮明に見える。以上の理由からから、第二の実施の形態では、ネガ状態の有意情報を形成することが好ましいが、第一の実施の形態と同様にポジ構成としても一定の効果は生じるため、第二の実施の形態において潜像画線群(7´)は、第一の実施の形態と同様に、第一の有意情報と第二の有意情報をポジの状態で表す構成であっても良い(
図4)。
【0073】
なお、第一の実施の形態及び第二の実施の形態において、画像のチェンジ効果については、一例として二つの潜像がチェンジする構成について説明したが、潜像の数を二つに限定するものではない。すなわちn個(nは2以上の整数)の潜像を付与するのであれば、第一の潜像画線群から第nの潜像画線群までを有する潜像画線群(7)を構成し、それぞれの潜像画線が重なり合わないように配置すれば良い。
【0074】
すべての構造や画線に共通する一定のピッチ(P1)は、0.01mm以上5.0mm以下で形成することが望ましい。0.01mm以下のピッチで、蒲鉾状画線に2μm以上の盛り上がりを形成する場合には、一般的な印刷で再現できる蒲鉾状画線のピッチとしては、ほぼ限界のピッチであり、印刷物品質の安定性に欠ける上に、たとえ、0.01mm以下のピッチで画線を形成できた場合でも、ほとんどの場合、出現する潜像の視認性が極端に低くなるため適当ではない。また、逆に、5.0mm以上のピッチで形成した場合には、潜像として再現できる画像の解像度が極端に低くなってしまうため適切ではない。
【0075】
第一の実施の形態の潜像印刷物(1)のように、潜像画線群(7)を印刷で形成する場合には、比較的高解像度な印刷が可能なオフセット印刷方式やフレキソ印刷方式等が適しているほか、インクジェットプリンターやレーザプリンター等のデジタル印刷機を用いて形成することも可能である。これらのデジタル印刷機を用いる場合には、一枚一枚異なる情報を与える可変情報を容易に付与できるという特徴がある。また、レーザー加工機を用いて反射層(6)を切削して潜像画線群(7)を反射層(6)上に直接形成しても良い。この場合にも、これらのデジタル印刷機で形成する場合と同様に、一枚一枚異なる情報を与える可変情報を容易に付与できるという特徴がある。
【0076】
なお、本明細書中でいう正反射とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と略等しい角度に強い反射光が生じる現象を指し、拡散反射とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と異なる角度に弱い反射光が生じる現象を指す。例えば、虹彩色パールインキを例とすると、拡散反射の状態では無色透明に見えるが、正反射した状態では特定の干渉色の強い光を発する。また、正反射光下で観察するとは、印刷物に入射した光の角度と略等しい反射角度に視点をおいて観察する状態を指し、拡散反射光下で観察するとは、印刷物に入射した光の角度と大きく異なる角度で観察する状態を指す。
【0077】
以下、前述の発明を実施するための形態にしたがって、具体的に作成した潜像印刷物の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【0078】
(実施例1)
実施例1については、第一の実施の形態で説明した三層構造の潜像印刷物(1)の例で説明する。具体的には、第一の実施の形態と同様に
図1から
図7を用いて説明する。
図1に、実施例1の潜像印刷物(1)を示す。潜像印刷物(1)は、基材(2)上に銀色の印刷画像(3)を有してなる。基材(2)には、一般的なコート紙(エスプリコートFM 日本製紙株式会社製)を用いた。
【0079】
図2に印刷画像(3)の概要を示す。印刷画像(3)は、反射性蒲鉾状画線群(4)の上に潜像画線群(7)が重ね合わさって成る。反射性蒲鉾状画線群(4)は、蒲鉾状画線群(5)と、その上に反射層(6)が重ね合わさって成る。潜像画線群(7)はアルファベットの「A」の文字を構成する第一の潜像画線群(7A)及び、アルファベットの「B」の文字を構成する第二の潜像画線群(7B)を含んで成る。
【0080】
図3に、基材(2)上に形成した蒲鉾状画線群(5)を示す。蒲鉾状画線群(5)は、幅0.3mmの直線を成す蒲鉾状画線(8)が、直線方向と直交する第一の方向(S1方向)にピッチ0.4mmで連続して配置されて成る。このような画線構成の蒲鉾状画線群(5)をUV乾燥方式のスクリーン印刷で、高粘度で透明なスクリーンインキ(UV POT 点字用クリア 帝国インキ製造株式会社製)を用いて基材(2)上に印刷した。蒲鉾状画線群(5)の高さは約15μmであった。
【0081】
図2に示す反射層(6)は、ムカレを防止することを目的に網点面積率90%とし、ウェットオフセット印刷で銀インキ(ニューチャンピオン シルバー DIC株式会社製)を用いて蒲鉾状画線群(5)上に印刷した。この反射層(6)は拡散反射光下では暗い灰色で、正反射光下では白色となる、優れた明暗フリップフロップ性を有する。反射層(6)の印刷皮膜は約1μmであった。
【0082】
潜像画線群(7)について
図4を用いて説明する。潜像画線群(7)は、第一の有意情報である、アルファベトの「A」の文字と、第二の有意情報であるアルファベットの「B」の文字の2つの有意情報を含む。第一の有意情報は、
図4(b)に示す第一の潜像画線群(7A)によって表され、第二の有意情報は
図4(c)に示す第二の潜像画線群(7B)によって表される。第一の潜像画線群(7A)は、画線幅0.15mmの第一の潜像画線(9A)を、第一の方向(S1方向)にピッチ0.4mmで連続して配置して構成し、第二の潜像画線群(7B)は、画線幅0.15mmの第二の潜像画線(9B)を第一の方向(S1方向)にピッチ0.4mmで連続して配置して構成した。第一の潜像画線(9A)と第二の潜像画線(9B)は、第一の方向(S1方向)にピッチの半分にあたる0.2mmだけずらした構成とした。以上のような構成の潜像画線群(7)をウェットオフセット印刷で、低光沢で透明なインキ(マットメジウム 株式会社T&K TOKA製)を用いて形成した。
【0083】
実施例1の潜像印刷物(1)の効果について
図7を用いて説明する。
図7(a)のように左側から潜像印刷物(1)に光が入射した場合、観察者(21)には明るい白色の光の中に、第一の有意情報であるアルファベットの「A」の文字が周囲より暗い灰色の色彩で視認された。一方、
図7(b)のように、右側から潜像印刷物(1)に光が入射した場合、観察者(21)には明るい白色の光の中に、第一の有意情報であるアルファベットの「B」の周囲より暗い灰色の色彩で視認された。以上のように、入射する光の角度の変化に応じて、印刷画像(3)中に視認される画像がチェンジする効果を有することが確認できた。
【0084】
(実施例2)
実施例2については、第二の実施の形態で説明した二層構造の潜像印刷物(1´)の例で説明する。具体的には、第二の実施の形態と同様に
図12から
図18を用いて説明する。
図12に、本発明の潜像印刷物(1´)を示す。潜像印刷物(1´)は、基材(2´)上に銀色の印刷画像(3´)を有して成る。基材(2´)には、一般的なコート紙(エスプリコートFM 日本製紙株式会社製)を用いた。
【0085】
図13に実施例2の印刷画像(3´)の構成について、概要を示す。印刷画像(3´)は、蒲鉾状画線群(5´)と、その上に潜像画線群(7´)が重ね合わさって成る。潜像画線群(7´)はアルファベットの「A」の文字をネガの状態で構成する第一の潜像画線群(7A´)及び、アルファベットの「B」の文字をネガの状態で構成する第二の潜像画線群(7B´)を含んで成る。
【0086】
図14に、基材(2´)上に形成した蒲鉾状画線群(5´)を示す。蒲鉾状画線群(5´)は、幅0.3mmの直線を成す蒲鉾状画線(8´)が、直線方向と直交する第一の方向(S1方向)にピッチ0.4mmで連続して配置されて成る。このような画線構成の蒲鉾状画線群(5´)をUV乾燥方式のスクリーン印刷で、カラーフリップフロップ性を有したスクリーンインキ(OVI シクパ社製)を用いて基材(2´)上に印刷した。このインキは、光の入射角の変化によって橙色から緑色に変化する。蒲鉾状画線群(5´)の高さは約10μmであった。
【0087】
図15に潜像画線群(7´)を示す。潜像画線群(7´)は、第一の有意情報である、アルファベットの「A」の文字と、第二の有意情報であるアルファベットの「B」の文字の2つの有意情報を含む。第一の有意情報は、
図15(b)に示す第一の潜像画線群(7A´)によって表され、第二の有意情報は
図15(c)に示す第二の潜像画線群(7B´)によって表される。第一の潜像画線群(7A´)は、画線幅0.15mmの第一の潜像画線(9A´)を、第一の方向(S1方向)にピッチ0.4mmで連続して配置して構成し、第二の潜像画線群(7B´)は、画線幅0.15mmの第二の潜像画線(9B´)を第一の方向(S1方向)にピッチ0.4mmで連続して配置して構成した。第一の潜像画線(9A´)と第二の潜像画線(9B´)は、第一の方向(S1方向)にピッチの半分にあたる0.2mmだけずらした構成とした。以上のような構成の潜像画線群(7´)をウェットオフセット印刷で、銀インキ(ニューチャンピオン シルバー DIC株式会社製)を用いて蒲鉾状画線群(5´)上に印刷した。この潜像画線群(7´)は、拡散反射光下では暗い灰色で正反射光下では白色となる、優れた明暗フリップフロップ性を有する。潜像画線群(7´)の印刷皮膜は約1μmであった。
【0088】
実施例2の潜像印刷物(1´)の効果について
図18を用いて説明する。
図18(a)のように左側から潜像印刷物(1´)に光が入射した場合、観察者(21´)には明るい白色の光の中に、第一の有意情報であるアルファベットの「A」の文字が明るい緑色の色彩で視認された。一方、
図18(b)のように、右側から潜像印刷物(1´)に光が入射した場合、観察者(21´)には明るい白色の光の中に、第一の有意情報であるアルファベットの「B」が明るい橙色の色彩で視認された。以上のように、入射する光の角度の変化に応じて、印刷画像(3´)中に視認される画像が豊かな色彩変化を伴ってチェンジする効果を有することが確認できた。