特許第6395037号(P6395037)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6395037
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】固体酸化物形燃料電池用帯鋼
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20180913BHJP
   C22C 38/50 20060101ALI20180913BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20180913BHJP
   C22C 38/54 20060101ALN20180913BHJP
【FI】
   C22C38/00 302Z
   C22C38/50
   H01M8/12
   !C22C38/54
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-197722(P2014-197722)
(22)【出願日】2014年9月29日
(65)【公開番号】特開2016-69666(P2016-69666A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡田 文徳
(72)【発明者】
【氏名】安田 信隆
【審査官】 川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/144600(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/034002(WO,A1)
【文献】 特開2005−293987(JP,A)
【文献】 特開2003−173795(JP,A)
【文献】 特開2009−167502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 9/46
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%でC:0.05%以下、N:0.05%以下、O:0.01%以下、Al:0.15%以下、Si:0.15%以下、Mn:0.1〜0.5%、Cr:22.0〜25.0%、Ni:1.0%以下、Cu:1.5%以下、La:0.02〜0.12%、Zr:0.01〜1.50%、La+Zr:0.03〜1.60%、W:1.5〜2.5%、残部Fe及び不純物からなる組成を有し、JIS結晶粒度番号で6番以上の細粒であり、表面粗さがRzで15μm以下であることを特徴とする固体酸化物形燃料電池用帯鋼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池用帯鋼に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池は、その発電効率が高いこと、SOx、NOx、COの発生量が少ないこと、負荷の変動に対する応答性が良いこと、コンパクトであること等の優れた特徴を有するため、火力発電の代替としての大規模集中型、都市近郊分散配置型、及び自家発電用等の幅広い発電システムへの適用が期待されている。
その中で、セパレータ、インターコネクタ、集電体等の固体酸化物形燃料電池用の部品には、1000℃程度の高温での耐酸化性、電気伝導性、及び、電解質・電極に近い熱膨張係数等の特性を要求されることからセラミックスが多く用いられてきた。
しかし、セラミックスは加工性が悪く、高価であること、また、近年、固体酸化物形燃料電池の作動温度が低下し、700〜900℃程度になってきたことから、例えば、セパレータの部品等にはセラミックスより安価で、かつ加工性が良く、耐酸化性の優れた金属製の部品を用いる検討が盛んに行われている。
前述の固体酸化物形燃料電池用に用いられる金属製の部品には、優れた耐酸化性が求められ、本願出願人も例えば、WO2011/034002号パンフレット(特許文献1)、WO2012/144600号パンフレット(特許文献2)、特開2005−320625号公報(特許文献3)等として、フェライト系ステンレス鋼でなる耐酸化性に優れる固体酸化物形燃料電池用鋼を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2011/034002号パンフレット
【特許文献2】WO2012/144600号パンフレット
【特許文献3】特開2005−320625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した本願出願人の提案による固体酸化物形燃料電池用鋼は、化学組成の適正化によって、優れた耐酸化性、電気伝導性、Crの蒸発量の低減、熱膨張係数の最適化をはかるものである。
ところで、前述の固体酸化物形燃料電池用鋼を用いて固体酸化物形燃料電池用の部品とする場合、例えば、任意の形状の凹凸の形成や曲げ加工を行う必要がある。特に、固体酸化物形燃料電池用鋼が薄板状の帯鋼である場合、プレス加工によって所望の形状に成形することで加工コストを低減することができる。このプレス加工による曲げ加工は、例えば、約90°の曲げを行う場合もあり、薄板状の固体酸化物形燃料電池用帯鋼には良好な曲げ加工性が求められる。
しかしながら、固体酸化物形燃料電池用帯鋼の曲げ加工性改善に関しては、検討が十分に行われていないのが現状である。
本発明の目的は、薄板としたときに良好な曲げ加工性を得ることができる固体酸化物形燃料電池用帯鋼を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
先ず、固体酸化物形燃料電池用鋼として必要な特性を具備可能な化学組成について検討した。その結果、特に特許文献1や特許文献2で示すW(タングステン)を必須で含有し、他の添加元素の組合せによって、薄板としても優れた耐酸化性を実現可能な化学組成とすることが有利であることを知見した。
次に、曲げ加工性を改善する方法を検討した結果、特定の金属組織とすることで優れた曲げ加工性が得られることを知見し、本発明に到達した。
即ち本発明は、質量%でC:0.05%以下、N:0.05%以下、O:0.01%以下、Al:0.15%以下、Si:0.15%以下、Mn:0.1〜0.5%、Cr:22.0〜25.0%、Ni:1.0%以下、Cu:1.5%以下、La:0.02〜0.12%、Zr:0.01〜1.50%、La+Zr:0.03〜1.60%、W:1.5〜2.5%、残部Fe及び不純物からる組成を有し、JIS結晶粒度番号で6番以上の細粒であり、表面粗さがRzで15μm以下の固体酸化物形燃料電池用帯鋼である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の固体酸化物形燃料電池用鋼を薄板として、曲げ加工を行っても、曲げ加工部のリジングが軽減され、クラックの発生を防止することができ、良好な曲げ加工性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の固体酸化物形燃料電池用帯鋼曲げ試験後の顕微鏡写真である。
図2】比較例の固体酸化物形燃料電池用帯鋼曲げ試験後の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明について詳しく説明する。本発明においては、主として、化学組成の調整によって優れた耐酸化性、電気伝導性、Crの蒸発量の低減、熱膨張係数の最適といった、固体酸化物形燃料電池用鋼として必要な特性を具備させ、金属組織で曲げ加工性を高める思想に基づくものである。
本発明の固体酸化物形燃料電池用帯鋼において各元素の含有量を規定した理由は以下の通りである。なお、各元素の含有量は質量%として記す。
C:0.05%以下
CはCrと結び付くことにより母材のCr量を減少させ、耐酸化性を低下させる元素である。そのため、耐酸化性を向上させるためには、Cはできる限り低くすることが有効である。また、Cは、炭窒化物系の非金属介在物を形成するため、できる限り低くすることが有効である。そのため、本発明ではCを0.05%以下の範囲に限定する。なお、Cは後述するNに比べると精錬による低減が比較的容易であることから、より好ましいCの上限は0.02%である。
【0009】
N:0.05%以下
Nは耐酸化性を劣化させる元素である。また、Nは、オーステナイト生成元素であるため、本発明のフェライト系ステンレス鋼に過剰に含有するとオーステナイト相を生成してフェライト単相を維持できなくするだけでなく、上述のCと共にCr等と結び付いて炭窒化物系介在物を形成し、母材中のCr量を低下させ、耐酸化性を劣化させる。また、この炭窒化物系介在物は、熱間、冷間加工性を害する要因にもなる。そのため、Nは0.05%以下に制限する。好ましくは0.03%以下であり、0%であっても差し支えない。
O:0.01%以下
Oは、Al、Si、Mn、Cr、Zr、La等と酸化物系の非金属介在物を形成して、熱間加工性、冷間加工性を害するだけでなく、耐酸化性向上に大きく寄与するLa、Zr等の固溶量を減少させる。そのため、これらの元素による耐酸化性向上効果を減じる。従って、Oは0.01%以下に制限すると良い。好ましくは、0.008%以下であり、0%であっても差し支えない。
なお、前述したO、N及びCと言った非金属介在物形成元素については、できるだけ低い方が好ましい。これは、本発明で規定する化学組成は、薄板としても優れた耐酸化性を実現可能なものであるため、粗大な非金属介在物や連鎖状の非金属介在物が冷間圧延後の固体酸化物形燃料電池用帯鋼中に存在すると、曲げ加工時に割れ等の不良の原因となるためである。そのため、O、N及びCの含有量は、好ましい範囲として示した範囲に制限するのがより好ましい。
【0010】
Al:0.15%以下
Alは、固体酸化物形燃料電池の作動温度において、Cr酸化被膜近傍の金属組織中にAlを粒子状、及び針状に形成する。これにより、Crの外方拡散を不均一にして安定なCr酸化被膜の形成を妨げることで、耐酸化性を劣化させる。このため、本発明ではAlを0.15%以下の範囲に限定する。前述のAlを低減した場合の効果をより確実に得るにはAlの上限は0.1%以下である。更に好ましくは0.05%以下であり、0%であっても差し支えない。
Si:0.15%以下
Siは、固体酸化物形燃料電池の作動温度において、Cr酸化被膜と母材の界面付近に膜状のSiOを形成する。SiOの電気比抵抗がCrの酸化物よりも高いことから、電気伝導性を低下させる。また、上述のAlの形成と同様に、安定なCr酸化被膜の形成を妨げることで、耐酸化性を劣化させる。このため、本発明ではSiを0.15%以下の範囲に限定する。前述のSiを低減した場合の効果をより確実に得るには、Siの上限を0.1%未満とし、更に好ましくは0.05%以下であり、更に好ましくは0.03%以下であり、0%であっても差し支えない。
【0011】
Mn:0.1〜0.5%
Mnは、Crと共にスピネル型酸化物を形成する元素である。Mnを含むスピネル型酸化物層は、Cr酸化物層の外側(表面側)に形成される。このスピネル型酸化物層は、固体酸化物形燃料電池の電解質・電極等のセラミックス部品に蒸着して燃料電池の性能を劣化させる複合酸化物を形成するCrが、固体酸化物形燃料電池用鋼から蒸発するのを防ぐ保護効果を有する。また、このスピネル型酸化物は、通常Crに比べると酸化速度が大きいので、耐酸化性そのものに対しては不利に働く一方で、酸化被膜の平滑さを維持して、接触抵抗の低下や電解質に対して有害なCrの蒸発を防ぐ効果を有している。
このため、最低限0.1%を必要とする。好ましいMnの下限は0.2%である。一方、過度に添加すると酸化被膜の成長速度を速めるために耐酸化性が悪くなる。従って、Mnは0.5%を上限とする。好ましいMnの上限は0.4%である。
Cr:22.0〜25.0%
Crは、固体酸化物形燃料電池の作動温度において、緻密なCrに代表されるCr酸化被膜の生成により、優れた耐酸化性を実現するに必要な元素である。また、電気伝導性を維持するために重要な元素である。安定して良好な耐酸化性及び電気伝導性を得るため最低限22.0%を必要とする。しかしながら、過度の添加は耐酸化性向上にさほど効果がないばかりか加工性の劣化を招くので上限を25.0%に限定する。好ましいCrの下限は23.0%である。
【0012】
Ni:1.0%以下
Niは、少量添加することで靱性の向上に効果がある。また、熱間加工性を改善する効果があるため、0%を超えて添加する。また、本発明においてCuを含む場合は、赤熱脆性により熱間加工性が低下することが心配される。これを抑制するために少量のNi添加が有効である。前述の効果をより確実に得るにはNiの下限を0.1%とするのが好ましい。更に好ましい下限は0.2%である。一方、Niはオーステナイト生成元素であり、過度に含有した場合、フェライト−オーステナイトの二相組織となり易く、熱膨張係数を増加させる。また、本発明のようなフェライト系ステンレス鋼を製造する際に、例えば、リサイクル材の溶解原料を用いたりすると、不可避的に混入する場合もある。Niの含有量が多くなり過ぎると、セラミックス系の部品との接合性が低下することが懸念されるため、多量の添加または混入は好ましくない。そのため本発明においては、Niの上限を1.0%以下とする。
Cu:1.5%以下
本発明の固体酸化物形燃料電池用帯鋼を用いた固体酸化物形燃料電池用の各種の部材は、700〜900℃程度の作動温度では、Cr酸化物層上に、Mnを含むスピネル型酸化物層が形成された2層構造のCr酸化被膜を形成する。Cuは、Cr酸化物層上に形成されるMnを含むスピネル型酸化物を緻密化することで、Cr酸化物層からのCrの蒸発を抑制する効果がある。そのため、Cuを1.5%を上限として必須添加する。しかし、Cuを1.5%より多く添加すると母相中にCu相が析出して、Cu相の存在場所でち密なCr酸化物が形成されにくくなり、耐酸化性が低下したり、熱間加工性が低下したり、フェライト組織が不安定となる可能性があるので、Cuの上限を1.5%以下とする。
【0013】
W:1.5〜2.5%
Wは最も重要な元素の一つである。一般に、固溶強化等に対してWと同じ作用効果を発揮する元素としてMoが知られている。しかし、WはMoと比較して、固体酸化物形燃料電池の作動温度で酸化したときのCrの外方拡散を抑制する効果が高い。そのため、本発明では、Wを単独で必須添加する。W添加によりCrの外方拡散を抑制することで、Cr酸化被膜形成後の合金内部のCr量の減少を抑制することができる。また、Wは合金の異常酸化も防止して、優れた耐酸化性を維持することができる。この異常酸化防止効果は特に厚さが薄い場合に顕著となる。そのため、薄い帯材とする場合にはWを単独で必須添加するのが好ましい。前述の効果を発揮するためには最低限1.5%を必要とする。しかし、Wを2.5%を超えて添加すると熱間加工性が劣化するため2.5%を上限とする。
Zr:0.01〜1.50%
Zrは、少量添加により酸化被膜を緻密化させたり、酸化被膜の密着性を向上させることで、耐酸化性、及び酸化被膜の電気伝導度を大幅に改善する効果を有する。Zrは0.01%より少ないと酸化被膜の緻密性、密着性を向上させる効果が少なく、一方、1.50%より多く添加するとZrを含む粗大な化合物が多く形成され、熱間加工性及び冷間加工性が劣化するおそれがあることから、Zrは0.01〜1.50%とする。好ましいZrの下限は0.10%であり、より好ましくは0.20%である。また、好ましいZrの上限は0.85%であり、より好ましくは0.80%である。
なお、Zrについては、Zr、C、Nの質量%の比として、Zr/(C+N)を一定量以上に制御することが好ましい。上述した通り、C、Nはともに、母材中のCrと結び付くことにより耐酸化性に有効なCr量を減少させる元素である。Zrの添加は上述の効果以外に、Zr炭化物、Zr窒化物、及びZr炭窒化物を形成することで、C、NのCrとの結合を抑制し、母相であるフェライト相中の有効なCr量を維持することができる。このとき、上述の酸化被膜の緻密化効果や密着性向上効果をもたらすためのZr量をより確実に確保するため、Zr/(C+N):10以上とするのが良い。
【0014】
La:0.02〜0.12%
Laは、少量添加により、主としてCrを含む酸化被膜を緻密化させたり、密着性を向上させることによって、良好な耐酸化性を発揮させる。そのため、Laは必須添加する。Laは0.02%より添加が少ないと酸化被膜の緻密性、密着性を向上させる効果が少なく、一方0.12%より多く添加するとLaを含む酸化物等の介在物が増加し熱間加工性が劣化する恐れがあるため、Laは0.02〜0.12%とする。Laの好ましい下限は0.03%であり、より好ましい下限は0.04%である。また、Laの好ましい上限は0.11%であり、より好ましい上限0.10%である。
La+Zr:0.03〜1.60%
本発明では、前述のLa及びZrについて、いずれも高温での耐酸化性を向上させる優れた効果を有することから複合添加を行う。その場合、LaとZrの合計が0.03%より少ないと耐酸化性向上への効果が少なく、一方、1.60%を超えて添加するとLaやZrを含む化合物が多く生成することによって熱間加工性や冷間加工性の低下が心配されることから、LaとZrは合計で0.03〜1.60%とする。好ましいLa+Zrの下限は0.15%であり、より好ましくは0.30%である。また、好ましいLa+Zrの上限は1.20%であり、より好ましくは0.85%であり、更に好ましくは0.80%である。
【0015】
本発明では、上述した元素以外は、Fe及び不純物とする。以下、代表的な不純物とその好ましい上限を以下に示しておく。なお、不純物元素であるため、各元素の好ましい下限は0%である。
Mo:0.2%以下
Moは、耐酸化性を低下させることから積極的な添加は行わないが、0.2%以下の含有は酸化特性に大きく影響しないので0.2%以下に制限する。
S:0.015%以下
Sは、希土類元素と硫化物系介在物を形成して、耐酸化性に効果をもつ有効な希土類元素量を低下させ、耐酸化性を低下させるだけでなく、熱間加工性、表面肌を劣化させるため、0.015%以下にすると良い。好ましくは、0.008%以下が良い。
P:0.04%以下
Pは酸化被膜を形成するCrよりも酸化しやすい元素であり、耐酸化性を劣化させるため、0.04%以下に制限すると良い。
好ましくは、0.03%以下が良く、更に好ましくは、0.02%以下、更には0.01%以下が良い。
B:0.003%以下
Bは、約700℃以上の高温で酸化被膜の成長速度を大きくし、耐酸化性を劣化させる。また、酸化被膜の表面粗さを大きくして酸化被膜と電極との接触面積を小さくすることによって接触抵抗を劣化させる。そのため、Bは0.003%以下に制限すると良く、できるだけ0%まで低減させる方が良い。好ましい上限は0.002%以下が良く、更に好ましくは0.001%未満が良い。
【0016】
次に、曲げ加工性を高めることができる金属組織について説明する。
本発明では、固体酸化物形燃料電池用帯鋼の金属組織をJIS結晶粒度番号で6番以上の細粒とする。これは、結晶粒度番号で6番以上の細粒とすることにより、高い加工度での曲げ加工を施した後に、加工部分のクラックを防止できるためである。結晶粒が微細なほど機械的特性(伸び、絞り)が向上し、加工後にクラックが入り難くなる。また、曲げ加工を施した場所のリジングが抑制できる。また、エッチング加工を施した場合、結晶粒が大きいと表面粗さが大きくなりうることから微細な結晶粒であることが望ましい。そのため、本発明では固体酸化物形燃料電池用帯鋼の金属組織をJIS結晶粒度番号で6番以上の細粒とする。好ましい金属組織は、JIS結晶粒度番号で7〜11である。過度に結晶粒が微細化すると、耐酸化性が低下する場合があるためである。なお、本発明の場合、曲げ加工を行うような薄板となるため、上記の金属組織観察は固体酸化物形燃料電池用帯鋼の平面から表層部を観察する。結晶粒度番号の判定は、JIS−G0551に従って実施する。
また、前述の結晶粒度とするには、例えば、90%以上の圧下率とする熱間圧延を行い、冷間圧延にて総圧下率を30%以上とし、その後の焼鈍温度を750〜850℃とすると良い。
【0017】
次に、本発明で規定する固体酸化物形燃料電池用帯鋼の表面粗さについて説明する。
本発明では固体酸化物形燃料電池用帯鋼の表面粗さをRzで15μm以下とすることが好ましい。表面粗さが過度に大きくなると、表面積が増加して耐酸化性が低下するおそれがある。また、表面粗さRzが15μmを超えると、固体酸化物形燃料電池用帯鋼表面に突起状の部位が見られる場合がある。固体酸化物形燃料電池用帯鋼を用いて、固体酸化物形燃料電池用部材にする場合、耐酸化性を向上させる目的で、固体酸化物形燃料電池用帯鋼表面にめっき、酸化物の塗布・焼結、蒸着などにより体酸化物形燃料電池用帯鋼表面に被覆層を設ける場合がある。そのとき、突起状の部位は被覆層から突出し、耐酸化性を阻害するおそれがある。加えて、曲げ加工が施された部位の粗さが高まり、被覆層から突起状の部位が突出するおそれがさらに高まる。これらを防止するため、固体酸化物形燃料電池用帯鋼の表面粗さをRzで15μm以下とする。表面粗さRzが10μm以下であれば、より確実に前述の問題の発生を防止できる。更に好ましくい表面粗さRzは5μm以下であり、更に好ましくは1μm以下であり、より好ましくは0.70μm以下である。
なお、本発明で表面粗さをRzとしたのは、前記のように本発明の固体酸化物形燃料電池用帯鋼は被覆層を形成する場合有り、最大粗さが重要になるためである。表面粗さRzの測定は、固体酸化物形燃料電池用帯鋼の幅方向を測定するものとする。
また、本発明で規定する表面粗さとするには、例えば、表面粗さRaで0.10μm以下の粗さを有するワークロールを用いて冷間圧延を行うと良い。
【実施例】
【0018】
溶解・鋳造した鋼塊を熱間鍛造、熱間圧延し、表面の酸化スケールを除去して、厚さ3mmの冷間圧延用素材を得た。なお、熱間圧延時の総圧下率は90%以上である。次に、前述の冷間圧延用素材を用いて酸洗いを行った後、冷間圧延により板厚を減じ厚さを0.5mmとした。冷間圧延後の焼鈍については、焼鈍温度を820〜1000℃の範囲で変化させた。焼鈍時間は5分で統一した。なお、冷間圧延時には、表面粗さを平滑にするように、表面粗さRaで0.05〜0.08μmのワークロールを用いて冷間圧延を行い、固体酸化物形燃料電池用帯鋼とした。
表1に化学組成を示す。表1に示さないMoは無添加とし、S、P及びBはそれぞれ、0.015%以下、0.04%以下、0.003%以下の範囲である。また、表2に冷間圧延後の焼鈍温度、結晶粒度、表面粗さRz及び高い加工度を想定した135度曲げ試験によるリジングの程度とクラックの発生の有無を示す。更に、図1に850℃、図2に1000℃で焼鈍した場合の135度曲げ試験後の外観写真を示す。
なお、結晶粒度番号の測定は、固体酸化物形燃料電池用帯鋼の平面から表層部を観察し、JIS−G0551に従って実施した。表面粗さRzの測定は、固体酸化物形燃料電池用帯鋼の幅方向を測定した。
【0019】
【表1】
【0020】
【表2】
【0021】
表2に示すように、冷間圧延後の焼鈍条件の制御により結晶粒度を6番以上の細粒とすることで、135度曲げ試験後の曲げ加工部のリジングは軽微なものとなり、しかもクラックの発生は見られない結果となった。一方、結晶粒度番号6未満の粗粒の場合には曲げ部に大きなリジングが見られ、クラックの発生も確認できた。
また、本発明のNo.1及びNo.2の固体酸化物形燃料電池用帯鋼は、表面粗さRzも0.43〜0.45μmであることから、曲げ加工部を含む部位に被覆層を形成しても、被覆層から突起状の部位が突出するおそれもないことが分かる。
以上の結果から、本発明の固体酸化物形燃料電池用鋼を薄板として、曲げ加工を行っても、曲げ加工部のリジングが軽減され、クラックの発生を防止することができ、良好な曲げ加工性が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明によれば、固体酸化物形燃料電池用部材の成形に必要な曲げ加工時におけるクラックの抑制が可能である。そのため、複雑加工を必要とする部材に対して適用することが可能である。

図1
図2