【文献】
柔軟で耐熱性に優れたポリイミド=シリカナノコンポジット多孔体,日本化学会第93春季年会(2013) 要旨,日本,独立行政法人産業技術総合研究所、ユニチカ株式会社,2013年 1月21日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリイミド樹脂前駆体内に空孔を形成した後、ポリイミド樹脂前駆体をイミド化する前に、ポリイミド樹脂前駆体にアンモニア水蒸気を吸収させることにより、ポリイミド樹脂前駆体内に含まれるシリコンアルコキシドおよびシリカ中に含まれるアルコキシド成分のさらなる加水分解、ゾルゲル反応を促進する工程を設けることを特徴とする請求項3に記載のポリイミド−シリカ複合多孔体の製造方法。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は、耐熱性や機械的強度、電気特性、耐薬品性、成形特性等に優れているところから、様々な用途に用いられている。しかしながら、近年、何れの用途においても、ポリイミド樹脂に対して、従来以上の特性が求められている。特に、電子部品用材料として用いられるポリイミド樹脂に対しては、耐熱性や機械的強度を維持したまま、電気特性を向上することが求められ、なかでも、電子部品の高周波電流の減衰を抑えるために、誘電率の低下が求められている。
【0003】
低誘電性のポリイミド樹脂として、様々なものが提案されており、その一つとして、ポリイミド樹脂の空隙率を高めることによって誘電率を低下させた多孔質ポリイミドが挙げられる。
多孔質ポリイミドの製造技術として、例えば、特許文献1には、ポリイミド樹脂前駆体と分散性化合物とを含有し、これらがミクロ相分離構造を有するポリイミド樹脂前駆体膜を用い、この膜から超臨界二酸化炭素により分散性化合物を抽出除去することによって、多孔質ポリイミド膜を得ることが開示されている。
また、特許文献2には、ポリイミド樹脂前駆体と光硬化性樹脂前駆体とを含有する溶液から膜を形成し、溶媒の一部を除去したのち、高圧二酸化炭素雰囲気下で、光を照射することで光硬化性樹脂前駆体を硬化させ、その後、溶媒成分を蒸発させ、また光硬化性樹脂を加熱により気化させることによって、多孔質ポリイミド膜を得ることが開示されている。
しかしながら、このようにして得られた多孔質ポリイミド膜は、空隙率が増加するにつれて、破壊強度などの機械的強度が低下することが問題となっている。
【0004】
一方、特許文献3には、ポリイミド樹脂前駆体溶液に架橋剤を加え、加熱することによって架橋とイミド化とを行いポリイミド湿潤ゲルを得たのち、このゲル中の網目骨格の空隙部に熱分解性ポリマーを充填し、得られた複合ゲルに熱処理を行い、熱分解性ポリマーを熱分解して、ナノメーターサイズの空孔径を有する多孔質ポリイミドを得る方法が開示されている。
しかしながら、この多孔質ポリイミドは、加工成形時または使用時の熱処理温度がポリイミド樹脂のガラス転移温度以上になる場合、空孔が閉塞してしまい、安定した電気特性(低誘電性)が得られないという問題がある。
【0005】
一方、ポリイミド樹脂に機能性(光学特性、電気特性、機械強度、熱特性、気体透過性、吸水性など)を付加するために、無機成分をポリイミド樹脂に分散し複合することが行なわれている。その方法として、ポリイミド分子の側鎖や末端に無機成分を共有結合させる方法や、無機物の粒子をポリイミド樹脂に直接分散する方法などがある。
【0006】
ポリイミド分子に無機成分を共有結合させる前者の方法により、これまでに多くのゾルゲル法を用いたポリイミド樹脂とシリカのハイブリッド材料が報告されている。たとえば、ポリイミド樹脂前駆体にアルコキシシリル基を有する末端修飾剤を加えておき、これにシリコンアルコキシドを混合後に熱処理をして、イミド化とゾルゲル反応を同時に進行させることでハイブリッド膜を生成する例が知られている。
このようにして得られたポリイミド−シリカハイブリッド膜は、シリカを含有しない通常のポリイミド膜に比べ、電気特性(低誘電性)、機械的強度や耐熱性が相対的に向上するが、その電気特性(低誘電性)は、多孔質ポリイミドには及ばないものであった。
そこで、特許文献4には、ポリイミド−シリカハイブリッドフィルムに6.0MPaの炭酸ガスを導入し、48時間放置して炭酸ガスを含浸させたのち、加熱および減圧を行うことで発泡させることが開示されている。しかしこの方法で得られるポリイミド−シリカハイブリッド発泡体フィルムは、発泡倍率が15%程度であり、高い空隙率を有するものではなく、電気特性(低誘電性)は、発泡していないポリイミド−シリカハイブリッド膜よりもやや向上するものの、やはり、高い空隙率を有する多孔質ポリイミドには及ばないものであった。
【0007】
一方、後者の方法である無機物の粒子をポリイミド樹脂に直接分散する方法を、特許文献1〜3に記載された多孔質ポリイミドに適用すると、多孔質ポリイミドの機械的強度や、熱特性が改善されることが期待される。
しかしながら、特許文献1〜3に記載されたポリイミド樹脂前駆体溶液にシリカ粒子を含有させる際に、特性向上を目指して、シリカ粒子として平均粒径がナノメーターサイズの球状シリカ粒子を用いると、ポリイミド樹脂前駆体溶液中でシリカ粒子は凝集して均一に分散せずまたポリイミド樹脂前駆体溶液の粘度が著しく上昇するので、塗布により膜などの成形体に成形することは困難であった。
また、ポリイミド樹脂前駆体とシリコンアルコキシドとを混合後に熱処理をして、イミド化とゾルゲル反応を同時に進行させても、得られるシリカ粒子の平均粒径はミクロンサイズと大きく、ポリイミド多孔体の特性を向上させる効果は不充分であった。
このように平均粒径が小さい球状シリカ粒子を含有することによって機械的強度などの特性を向上させた多孔質ポリイミドは得ることができないものであった。
一方、本発明の発明者は、ポリエステル系樹脂とシリコンアルコキシドと二酸化炭素との高圧均一混合物から、発泡構造内に球状シリカ粒子を生成させた、多孔質ポリエステルを形成することが可能であることを見出し、先に特許出願した(特許文献5)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリイミド−シリカ複合多孔体は、平均孔径が0.51〜200μmのマクロ孔と平均孔径が200nmを超え500nm以下のメソ孔とを有する多孔質ポリイミドに、平均粒径が10nm以下のシリカ粒子が分散してなり、シリカ成分を0.1〜50質量%含むものである。
本発明において、多孔質ポリイミドを構成するポリイミド樹脂は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とがイミド結合した重合体である。本発明においては、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを反応させて得られるポリイミド樹脂前駆体(ポリアミック酸)をイミド化することによって得られるポリイミド樹脂であることが好ましい。
【0015】
テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物が挙げられる。これらテトラカルボン酸二無水物は、単独で用いられてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
【0016】
上記ジアミン化合物としては、例えば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、3,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、3,3′−ジアミノジフェニルスルホン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノ−2,2−ジメチルビフェニル、2,2−ビス(トリフルオロメチル)−4,4′−ジアミノビフェニルが挙げられる。これらジアミン化合物は、単独で用いられてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
【0017】
耐熱性や機械的強度、電気特性、耐薬品性に優れることから、ポリイミド樹脂は、テトラカルボン酸二無水物がピロメリット酸二無水物であり、ジアミン化合物が4,4′−ジアミノジフェニルエーテルである構成や、テトラカルボン酸二無水物が3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物であり、ジアミン化合物がp−フェニレンジアミンである構成が好ましい。
【0018】
本発明において上記ポリイミド樹脂は多孔質であることが必要であり、本発明のポリイミド−シリカ複合多孔体における空隙率は、15〜99%であることが好ましく、30〜99%であることがより好ましく、60〜99%であることがさらに好ましい。空隙率は、電気特性(低誘電性)や伝熱特性(断熱性)に関係し、優れた性能を発揮するためには、より高いことが好ましい。
【0019】
多孔質ポリイミドは、高い空隙率を有し、かつ、機械的強度を低下させないために、平均孔径が200nmを超え500nm以下のメソ孔を有することが必要である。メソ孔の平均孔径が200nm以下であると、メソ孔の空孔(セル)密度が低下し、同時に、空隙率も低下してしまう。
【0020】
また、多孔質ポリイミドは、さらに、平均孔径が0.51〜200μmのマクロ孔を有することが必要である。高い空隙率を維持しつつ、機械的強度を低下させないために、マクロ孔の平均孔径は、比較的小さく、かつ均一性が高いことが好ましく、200μm以下であることが必要であり、20μm以下であることが好ましい。一方で、マクロ孔の平均孔径が、小さくなるに従いマクロ孔の空孔(セル)密度が低下し、空隙率も低下してしまうため、0.51μm以上であることが必要であり、1.0μm以上であることが好ましい。
【0021】
本発明において、多孔質ポリイミドは、上記メソ孔とマクロ孔とを含有する。多孔質ポリイミドがメソ孔とマクロ孔とを含有することにより、本発明のポリイミド−シリカ複合多孔体は、上記のように、高い空隙率を有するにもかかわらず、機械的強度が低下することがなく、高い絶縁性能、断熱性能を得ることができ、さらに従来の材料にはない柔軟性を持ち合わせた絶縁材料、断熱材料とすることができる。
本発明において、多孔質ポリイミドの上記マクロ孔とメソ孔の空隙容量の合計に対する上記マクロ孔の空隙容量の容量比率は20容量%以上であることが好ましく、40容量%以上であることがより好ましく、60容量%以上であることがさらに好ましい。前記マクロ孔の容量比率を20容量%以上とすることにより、高い空隙率を有し、かつ、機械的強度の低下を抑制することができる。
なお、本発明においては、孔径が0.51μm以上の細孔をマクロ孔と定義し、孔径が0.1〜500nmの細孔をメソ孔と定義する。よって、IUPACによる提唱に従って定義されるもの、すなわち、直径が50nm以上の細孔をマクロ細孔、直径が2〜50nmの範囲にある細孔をメソ細孔と指称するものとは異なる。
【0022】
本発明のポリイミド−シリカ複合多孔体は、多孔質ポリイミドにシリカ粒子が分散したものである。シリカ粒子は、比表面積が増大することにより、シリカ粒子同士または、ポリイミド樹脂とシリカ粒子の相互作用が強固になり、ポリイミド−シリカ複合多孔体の機械的強度が向上するため、その平均粒径は、より小さい方が好ましく、一般的にシングルナノサイズと言われるサイズである10nm以下であることが必要であり、10nm以下であればより平均粒径が小さい方が機械的強度の向上の効果が得られるため、下限値は規定されない。なお、シリカ粒子の形状は特に規定されず、例えば、中空状、エアロゲル状のシリカ粒子も含む。
【0023】
ポリイミド−シリカ複合多孔体におけるシリカ粒子やシリカゲルなどのシリカ成分の含有量は、0.1〜50質量%であることが必要である。シリカ成分の含有量が50質量%を超えると、ポリイミド−シリカ複合多孔体の機械強度が極度に低下することがある。一方、含有量が0.1質量%未満であると、シリカ粒子による機械的強度の向上に対する充分な効果は得られない。
【0024】
本発明のポリイミド−シリカ複合多孔体は、以下の製造方法によって製造することができる。
すなわち、ポリイミド樹脂前駆体とシリコンアルコキシドまたはその誘導体を含む混合溶液に、二酸化炭素を溶解させた後、シリコンアルコキシドの加水分解によるゾルゲル反応をおこない、その後、混合溶液の溶媒および二酸化炭素を除去することにより、ポリイミド樹脂前駆体内に空孔を形成し、次いでポリイミド樹脂前駆体をイミド化することによってポリイミド−シリカ複合多孔体を製造することができる。
【0025】
本発明の製造方法においては、まず、ポリイミド樹脂前駆体とシリコンアルコキシドまたはその誘導体を含む混合溶液を作製する(工程(i))。
工程(i)において用いられるポリイミド樹脂前駆体は、イミド化によってポリイミド樹脂となり得るポリイミド樹脂の前駆体およびその複合物を含むものであり、特に制限されることなく、公知のものを用いることができ、例えば、ポリアミック酸溶液が用いられる。ポリアミック酸溶液は、上記テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを、下記溶媒中反応させることによって製造することができる。
【0026】
ポリイミド樹脂前駆体溶液を製造するための溶媒として、単独ではポリイミド樹脂前駆体の貧溶媒である溶媒の2種以上からなり、ポリイミド樹脂前駆体の良溶媒である混合溶媒を使用する。すなわち、単独ではポリイミド樹脂前駆体の貧溶媒である溶媒の2種以上からなる混合溶媒であって、貧溶媒を混合することによりポリイミド樹脂前駆体の良溶媒となるものを使用する。
なお、本発明においては、25℃におけるポリイミド樹脂前駆体に対する溶解性が1g/100mL以下である溶媒を貧溶媒と定義し、溶解性が1g/100mLを超える溶媒を良溶媒と定義する。
本発明において、貧溶媒として、水溶性エーテル系化合物、水溶性アルコール系化合物等が挙げられ、混合溶媒として、これらを混合することによって良溶媒となるものを使用する。
水溶性エーテル系化合物としては、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、トリオキサン、1,2−ジメトキエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられ、その中でもTHFが好ましい。
また、水溶性アルコール系化合物としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、tert−ブチルアルコール、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、グリセリン、2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール等が挙げられ、その中でもメタノールが好ましい。
【0027】
混合溶媒における水溶性エーテル系化合物と水溶性アルコール系化合物の質量比は、それぞれ選択される貧溶媒の種類とそれらの組み合わせによって適宜変更され、例えば、THFとメタノールの組み合わせであれば、THF/メタノールは7/3〜9/1であることが好ましく、4/1程度であることがより好ましい。
【0028】
また、本発明において、ポリイミド樹脂前駆体は、ポリアミック酸溶液またはオリゴアミック酸溶液に、ポリアミック酸またはオリゴアミック酸の末端アミンまたはカルボン酸と塩を形成せしめるような芳香族テトラカルボン酸または芳香族ジアミン等を添加することにより製造することができるが、この調製方法に限定されるものではない。
また、重合性不飽和結合を有するアミン、ジアミン、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸の誘導体を添加して、熱硬化時に橋かけ構造を形成させることができる。ポリイミド樹脂前駆体の合成条件、乾燥条件、その他の理由等により、ポリイミド樹脂前駆体中に部分的にイミド化されたものが存在していても特に支障はない。
【0029】
さらに、これらのポリイミド樹脂前駆体の溶液を製造する際、使用する混合溶媒に可溶なポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等、他の耐熱性樹脂を混合することができる。また、シランカップリン剤や各種界面活性剤を添加することもできる。
【0030】
工程(i)においては、ポリイミド樹脂前駆体と、シリコンアルコキシドまたはその誘導体を含む混合溶液を作製する。
本発明において、シリコンアルコキシドは任意のものを使用することができ、具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n―プロピルトリメトキシシラン、n―プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエチルシラン、トリフルオロメチルトリエトキシシラン、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等、およびこれら化合物のアルキル置換体等の化合物が挙げられる。このような化合物の一種又は二種以上が適宜に選択されて、用いられることとなる。また、シリコンアルコキシドの誘導体としては、例えば、テトラメトキシシランオリゴマーを挙げることができる。
【0031】
ポリイミド樹脂前駆体とシリコンアルコキシドまたはその誘導体を含む混合溶液は、ポリイミド樹脂前駆体溶液に、シリコンアルコキシドを直接、または、シリコンアルコキシドを任意の溶媒に溶解させ希釈したものを加え、攪拌することにより得られるが、この調製方法に限定されるものではない。なお、この工程で得られるポリイミド樹脂前駆体とシリコンアルコキシドを含む混合溶液1は、
図1(a)に示すように、均一相を形成している。
【0032】
続いて、前記混合溶液1に二酸化炭素を溶解させる(工程(ii))。
二酸化炭素と溶媒成分が、均一相を形成することで、溶媒成分の極性が遮蔽されるため、溶媒成分からポリイミド樹脂前駆体および混合溶液中の水が相分離する。その結果、混合溶液内の溶媒および溶質は、
図1(b)に示すように、二酸化炭素を含む溶媒成分の液滴3、ポリイミド樹脂前駆体2に分離した状態となる。ただし、溶媒成分はすべて液滴となるわけではなく、液滴とならないものはポリイミド樹脂前駆体内4に存在している。また、水は水素結合を介して、ポリイミド樹脂前駆体2の近傍に存在しているものと推測される。
混合溶液1に二酸化炭素を溶解させる方法としては、混合溶液1を加圧二酸化炭素雰囲気下に保持する方法が挙げられる。二酸化炭素の圧力は、3MPa以上であることが好ましい。
【0033】
そして、シリコンアルコキシドの加水分解によるゾルゲル反応を行う(工程(iii))。
工程(ii)において、二酸化炭素を含む液滴が生成したままの状態で、長時間保持することにより、工程(iii)では、ポリイミド樹脂前駆体内4でシリコンアルコキシドの加水分解およびゾルゲル反応が進行し、ポリイミド樹脂前駆体内4に、
図1(c)に示すように、シリカ粒子5が析出する。二酸化炭素を含む液滴が生成したままの状態を保持する時間、すなわち、混合溶液1を加圧二酸化炭素雰囲気下に保持する時間としては、0.5〜32時間であることが好ましく、1〜18時間であることがより好ましい。
【0034】
また、二酸化炭素の加圧を維持したままの状態で保持することにより、液相または超臨界相の二酸化炭素に溶媒成分が溶解し、液滴3およびポリイミド樹脂前駆体内4に存在する溶媒成分が減少する一方で、溶媒成分が徐々に二酸化炭素へと置換され、液滴3およびポリイミド樹脂前駆体内4の溶媒成分と二酸化炭素の組成比は、二酸化炭素の割合が多い状態へと変化する。
【0035】
その後、混合溶液の溶媒および二酸化炭素を除去することにより、マクロ孔およびメソ孔を形成する(工程(iv))。
二酸化炭素の加圧を止めることにより、液滴3およびポリイミド樹脂前駆体内4の二酸化炭素をシリカ粒子5およびポリイミド樹脂前駆体2の隙間から放出させることにより、
図1(d)に示すように、液滴3が存在していた所にマクロ孔6が形成される。一方で、ポリイミド樹脂前駆体内4で溶媒成分および二酸化炭素が存在していた箇所には、
図1(d)に示すように、メソ孔7が形成する。
【0036】
次いで、ポリイミド樹脂前駆体2をイミド化する(工程(v))。
加熱イミド化することで、ポリイミド樹脂前駆体内4に含まれる揮発性成分を気化させると同時に、ポリイミド樹脂前駆体2のイミド化の進行に伴い生成する縮合水により、シリカ粒子5のさらなる加水分解およびゾルゲル反応を促し構造を安定化させる。
このようにして、本発明のポリイミド−シリカ複合多孔体を得ることができる。
すなわち、上記製造方法において、ポリイミド樹脂前駆体とシリコンアルコキシドまたはその誘導体を含む混合溶液を二酸化炭素により加圧後、液滴3およびポリイミド前駆体内4に存在する溶媒成分を二酸化炭素に置換した後、溶媒および二酸化炭素を除去することによって、平均孔径が0.51〜200μmであるマクロ孔および平均孔径が200nmを超え500nm以下であるメソ孔を形成することができ、同時に、これら二種類の孔を有することでポリイミド−シリカ複合多孔体の空隙率を、15〜99%とすることができる。また、ポリイミド前駆体とシリコンアルコキシドまたはその誘導体を含む混合溶液を二酸化炭素により加圧した状態において、ポリイミド樹脂前駆体内4で、シリカ粒子5を生成することによって、その平均粒径を10nm以下とすることができる。
【0037】
本発明の製造方法においては、ポリイミド樹脂前駆体内に空孔を形成した後、ポリイミド樹脂前駆体をイミド化する前に、すなわち工程(iv)と工程(v)の間に、必要に応じて、ポリイミド樹脂前駆体にアンモニア水蒸気を吸収させることにより、ポリイミド前駆体内に含まれるシリコンアルコキシドおよびシリカ中に含まれるアルコキシド成分のさらなる加水分解、ゾルゲル反応を促進する工程を設けてもよい。これにより、シリカ成分を多孔質ポリイミドにより強固に固定することができる。
【0038】
なお、本発明においては、上記のような混合溶媒に溶解したポリイミド樹脂前駆体溶液を用いる。単独では貧溶媒である溶媒成分はポリイミド樹脂前駆体と溶媒和構造を形成しにくく、当然のことながら、それらの混合溶媒であってもその傾向は同じであるとみられ、ポリイミド樹脂前駆体溶液に二酸化炭素を溶解させた際に、液滴が形成しやすくなる。
また、同様の理由から、一度液滴が形成されると、ポリイミド樹脂前駆体は混合溶媒に再溶解しにくくなるため、多孔構造を形成した際に、孔の凝集を抑制できる効果が得られる。とりわけその作用は、メソ孔の形成に関して効果的であり、それにより、空隙率の高いポリイミド樹脂前駆体を得ることができる。
さらに、この混合溶媒は、ポリイミド樹脂前駆体と溶媒和しにくいため、二酸化炭素を溶解させた際に、気相または超臨界相に拡散しやすい。そのため、セル同士の合一を抑制する効果が期待でき、それによりセル径の小さい多孔構造を得ることができる。
【0039】
なお、上記製造方法によって、マクロ孔は、ポリイミド−シリカ複合多孔体に偏在することなく形成され、またメソ孔は、隣接するマクロ孔の間のポリイミド内に形成される。したがって上記製造方法によっては、マクロ孔とメソ孔とがそれぞれ偏在する構造、例えばマクロ孔のみを有する層とメソ孔のみを有する層とからなるような構造のポリイミド−シリカ複合多孔体は形成されない。また形成されるメソ孔は、独立気孔ではなく、メソ孔同士が連通した構造を有するものである。
【0040】
本発明のポリイミド−シリカ複合多孔体は、ポリイミドが有する優れた耐熱性を維持しつつ、マクロ孔とメソ孔を合わせ持つ多孔構造により機械的特性が低下しないので、特に、低誘電率絶縁材料として利用することができ、低誘電率、絶縁性、ハンダ耐性に優れるフレキシブルプリント基板等の回路基板、回路積層板に好適に用いることができる。
本発明のポリイミド−シリカ複合多孔体は、同様の理由から、耐熱性断熱材料として利用することもでき、航空機や車両部材等の耐熱性が要求される部位の断熱材をはじめ、防振材、吸音材、保温材、緩衝材、摺動材などの好適に用いることができる。
また、本発明のポリイミド−シリカ複合多孔体は、メソ孔を利用することにより、エアフィルター、触媒担体、燃料電池用膜材、カラム充填材としても好適に用いることができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、物性測定は、以下の方法によりおこなった。
【0042】
(1)電子顕微鏡写真
ポリイミド−シリカ複合多孔体について、イオンミリングにより断面出しを行い、蒸着操作を行わずに、日立テクノロジーズ社製電解放射型走査電子顕微鏡SEM−8020を用い、加速電圧0.8〜3.0kVにて観察を行ない、
図3の電子顕微鏡写真を撮影した。
また、ポリイミド−シリカ複合多孔体について、ミクロトームを用いて切り出した断面に対して、白金蒸着を行い、日立ハイテク社製電解放射型走査電子顕微鏡S−800を用い、加速電圧10kVにて観察を行ない、
図2の電子顕微鏡写真を撮影した。
【0043】
(2)シリカ粒子の平均粒径
電子顕微鏡SEM−8020を用いて得られた40000〜150000倍の電子顕微鏡写真において、観測されるシリカ粒子をランダムに10個選択し、それぞれのシリカ粒子について、各粒子内に引くことができる最長の直線の長さを測定し、10個の平均値を、シリカ粒子の平均粒径とした。ランダムに選択した10個の球状シリカ粒子の粒径が、すべて10nm以下であった場合、もしくは、電子顕微鏡写真においてシリカ粒子が観察できなかった場合、シリカ粒子の平均粒径を「≦10」と表記した。
【0044】
(3)シリカ成分の含有量
ポリイミド−シリカ複合多孔体5mgを白金パンに採り、Rigaku社製 Thermo plus EVOIIシリーズ TG−DTAスマートローダを用いて、空気雰囲気下で30℃から800℃まで10℃/分で昇温し、800℃での残存質量の割合をポリイミド−シリカ複合多孔体中に含まれるシリカ含有量とした。
【0045】
(4)密度
ポリイミド−シリカ複合多孔体から試料を切り出し、試料の面積、厚み、質量を測定し、得られた値から多孔体の密度(ρs)を算出した。
【0046】
(5)空隙率
上記(4)で求めたポリイミド−シリカ複合多孔体の密度(ρs)と、公知のデータから求めた前記ポリイミド−シリカ複合多孔体と同じ含有量のシリカ成分を含有するポリイミドシートの密度(ρc)とを用いて、下記の計算式を用いて空隙率を算出した。
空隙率(P)=[1−ρs/ρc]×100
【0047】
(6)メソ孔とマクロ孔の平均孔径
メソ孔の平均孔径については、40000〜150000倍の電子顕微鏡写真中に観測される空孔をランダムに10個選択し、それぞれの空孔について、各空孔内に引くことができる最長の直線の長さをその空孔の孔径とし、10個の平均値を平均孔径とした。
マクロ孔の平均孔径については、100〜2000倍の電子顕微鏡写真中に観測される空孔をランダムに10個選択し、それぞれの空孔について、各空孔内に引くことができる最長の直線の長さをその空孔の孔径とし、10個の平均値を平均孔径とした。
【0048】
(7)ガラス転移温度
試料5mgをアルミナパンに採り、島津製作所社製示差走査熱量計(DSC−60)を用いて、窒素雰囲気下で30℃から550℃まで20℃/分で昇温し、ガラス転移温度を測定した。ガラス転移温度が観測されない場合、「不検出」と表記した。
【0049】
(8)誘電率
得られたポリイミド−シリカ複合多孔体について、Agilent社製LCRメーター(4284A)を用いて、1MHzにおける誘電率を、非接触法により測定した。
【0050】
(9)熱伝導率
得られたポリイミド−シリカ複合多孔体について、英弘精機社製熱伝導率測定装置(HC-74/200VACUUM)を用いて、大気圧下、25℃付近の条件で、熱伝導率を測定した。
【0051】
(10)引張弾性率、引張強度、破断強度、および伸び
得られたポリイミド−シリカ複合多孔体について、33.0mm×5.0mmの長方形に切り出したものを試料とし、各試料について厚みの測定を行なった。
引張試験は、Instron社製2710−102装置を使用し、解析には、Bluehill Lite Softwareを使用し、2.0mm/分の条件で行なった。試験は六連で行い、計測値を試料の厚みで補正することにより、それぞれの引張弾性率(GPa)、引張強度(MPa)、破断強度(MPa)、および伸び(%)を算出したのち、それらの平均値を求めた。
【0052】
(11)曲げ
厚みが0.5mm以下のポリイミド−シリカ複合多孔体膜を作製し、60.0mm(長辺)×5.0mm(短辺)の長方形に切り出したものを試料とし、その短辺同士が接するようにつまみ合わせて10秒間保持した際に、裂け目やひび割れが目視により確認されなかった試料に関して、曲げを「可」と評価した。
【0053】
実施例1
テトラカルボン酸成分としてピロメリット酸二無水物(PMDA)を、ジアミン成分として4,4′−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)を(PMDAとODAの合計が1.5質量部)、重合溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)とメタノールの混合溶媒(THF/メタノール=4/1(質量比))8.5質量部を用い、ポリイミド樹脂前駆体溶液を作製した。得られたポリイミド樹脂前駆体溶液の粘度は4.4(Pa・s/22℃)であった。
ポリイミド樹脂前駆体溶液10.0質量部にテトラメトキシシラン(TMOS)1.5質量部を溶解し、常温で30分間攪拌したのち、得られた均一混合溶液のうち、4.5gをガラスシャーレに移し、内容積470mLの高圧容器に導入した。
高圧容器をヒーターにて40℃に加熱、保温し、容器内の圧力が15MPaになるまで二酸化炭素を導入し、加圧二酸化炭素雰囲気下で16時間保持した。その後、二酸化炭素を高圧容器外に放出することで、15MPaから8MPaまで急減圧し、ついで、8MPaから0.2MPaまで、0.4MPa/分の速度で減圧を行なった。
試料を密閉容器から取り出し、マッフル炉中、窒素雰囲気下にて、室温から130分かけて350℃まで昇温させ、さらに350℃で80分加熱してイミド化処理を行い、ポリイミド−シリカ複合多孔体を得た。
【0054】
比較例1
ピロメリット酸二無水物と4,4′−ジアミノジフェニルエーテルの合計を2.0質量部、重合溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)8.0質量部を用いた以外は実施例1と同様にして、ポリイミド樹脂前駆体溶液を作製し、次いでポリイミド−シリカ複合多孔体を得た。なおポリイミド樹脂前駆体溶液の粘度は5.9(Pa・s/30℃)であった。
【0055】
実施例1と比較例1で得られたポリイミド−シリカ複合多孔体の特性値を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
表1に示すように、実施例1では、平均孔径が0.51〜200μmの範囲にあるマクロ孔と平均孔径が200nmを超え500nm以下の範囲にあるメソ孔とを有する多孔質ポリイミドに、平均粒径が10nm以下のシリカ粒子が分散してなり、シリカ成分を0.1〜50質量%の範囲にあるポリイミド−シリカ複合多孔体が得られた。
一方、ポリイミド前駆体溶液を構成する溶媒として、2種以上の貧溶媒からなる混合溶媒を使用しなかった比較例では、得られた多孔体は、メソ孔の平均孔径が200nm以下であり、またシリカ粒子の平均粒径が10nmを超えるものであった。