特許第6395272号(P6395272)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エルジー・ケム・リミテッドの特許一覧

特許6395272高分子電解質膜、高分子電解質膜を含む膜電極接合体および膜電極接合体を含む燃料電池
<>
  • 特許6395272-高分子電解質膜、高分子電解質膜を含む膜電極接合体および膜電極接合体を含む燃料電池 図000002
  • 特許6395272-高分子電解質膜、高分子電解質膜を含む膜電極接合体および膜電極接合体を含む燃料電池 図000003
  • 特許6395272-高分子電解質膜、高分子電解質膜を含む膜電極接合体および膜電極接合体を含む燃料電池 図000004
  • 特許6395272-高分子電解質膜、高分子電解質膜を含む膜電極接合体および膜電極接合体を含む燃料電池 図000005
  • 特許6395272-高分子電解質膜、高分子電解質膜を含む膜電極接合体および膜電極接合体を含む燃料電池 図000006
  • 特許6395272-高分子電解質膜、高分子電解質膜を含む膜電極接合体および膜電極接合体を含む燃料電池 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6395272
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】高分子電解質膜、高分子電解質膜を含む膜電極接合体および膜電極接合体を含む燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/02 20160101AFI20180913BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20180913BHJP
【FI】
   H01M8/02
   H01M8/10
【請求項の数】24
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-506264(P2016-506264)
(86)(22)【出願日】2014年4月29日
(65)【公表番号】特表2016-518005(P2016-518005A)
(43)【公表日】2016年6月20日
(86)【国際出願番号】KR2014003805
(87)【国際公開番号】WO2014178621
(87)【国際公開日】20141106
【審査請求日】2015年10月5日
【審判番号】不服2017-10222(P2017-10222/J1)
【審判請求日】2017年7月7日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0047773
(32)【優先日】2013年4月29日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2013-0049424
(32)【優先日】2013年5月2日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2013-0132160
(32)【優先日】2013年11月1日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2013-0144440
(32)【優先日】2013年11月26日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】パク、ヤン サン
(72)【発明者】
【氏名】ミン、ミンキュ
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヒュク
(72)【発明者】
【氏名】チョイ、セオン ホ
(72)【発明者】
【氏名】リー、サンウー
(72)【発明者】
【氏名】キム、ドゥヤン
【合議体】
【審判長】 千葉 輝久
【審判官】 長谷山 健
【審判官】 板谷 一弘
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2007/0231653(US,A1)
【文献】 特開2005−68396(JP,A)
【文献】 特開2005−50561(JP,A)
【文献】 特開2008−300317(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0291754(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02, H01B 1/06, C08J 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜であって、
イオン移動領域および3次元網状構造の支持体を含む混合層を含み、
前記イオン移動領域は、イオン伝導性物質を含む2以上のセルが3次元的に接する構造を有し、
前記高分子電解質膜の全体厚さに対する前記混合層の厚さの比は、30%以上100%以下であり、
前記セルの最大直径の平均は、0.25μm以上0.4μm以下であり、
前記セルの最大直径の標準偏差は、0.05μm以上0.2μm以下である、高分子電解質膜。
【請求項2】
前記混合層の厚さは1μm以上30μm以下である、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項3】
前記高分子電解質膜は、混合層の上面、または下面、または上面および下面に備えられた前記イオン伝導性物質のみを含む純粋層をさらに含む、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項4】
前記混合層のいずれか一面に備えられた前記純粋層の厚さはそれぞれ独立して0μm超過6μm以下である、請求項3に記載の高分子電解質膜。
【請求項5】
前記混合層の上面および下面にそれぞれ備えられた前記純粋層の間の厚さの差は前記混合層の厚さの50%以下である、請求項3に記載の高分子電解質膜。
【請求項6】
前記混合層の厚さと、前記混合層の上面に備えられた前記純粋層の厚さおよび前記混合層の下面に備えられた前記純粋層の厚さの和と、の比率は1:0〜1:1.5である、請求項3に記載の高分子電解質膜。
【請求項7】
前記混合層のいずれか一面に備えられた前記純粋層はそれぞれ独立して2層以上積層され、各層は互いに異なるイオン伝導性物質を含む、請求項3に記載の高分子電解質膜。
【請求項8】
前記高分子電解質膜の全体厚さは3μm以上36μm以下である、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項9】
前記イオン伝導性物質は炭化水素系物質を含む、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項10】
前記炭化水素系物質は側鎖に1以上の陽イオン交換基を有する高分子であり、
前記高分子に含まれている炭素原子数とフッ素原子数との比は1:0以上1:1未満であり、
前記陽イオン交換基はスルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、およびこれらの誘導体からなる群より選択される1種以上を含む、請求項9に記載の高分子電解質膜。
【請求項11】
前記高分子電解質膜は、RHサイクルの限界値が少なくとも20,000回である、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項12】
前記イオン伝導性物質はスルホン化ベンズイミダゾール系高分子、スルホン化ポリイミド系高分子、スルホン化ポリエーテルイミド系高分子、スルホン化ポリフェニレンスルフィド系高分子、スルホン化ポリスルホン系高分子、スルホン化ポリエーテルスルホン系高分子、スルホン化ポリエーテルケトン系高分子、スルホン化ポリエーテル−エーテルケトン系高分子、スルホン化ポリフェニルキノキサリン系高分子、およびスルホン化部分フッ素系の導入された高分子からなる群より選択される1種または2種以上を含む、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項13】
前記支持体は炭化水素系物質を含む、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項14】
前記支持体は半結晶質ポリマーを含む、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項15】
前記支持体はポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール(またはポリオキシメチレン)、ポリスルフィド、ポリビニルアルコール、これらのコポリマー、およびこれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項16】
前記混合層の全体体積に対して、前記イオン移動領域は40体積%以上85体積%以下である、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項17】
前記イオン移動領域は前記イオン伝導性物質を60体積%以上100体積%以下で含む、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項18】
前記高分子電解質膜の上面と水平な任意の面において、前記セルは、いずれか一方向(x軸方向)およびこれに垂直な方向(y軸方向)と高分子電解質膜の厚さ方向(z軸方向)に2層以上積層された、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項19】
前記支持体は2以上の前記セルが分布するスポンジ構造である、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項20】
前記高分子電解質膜の垂直断面および水平断面ともに2以上の前記セルの断面を含む、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項21】
前記支持体は2以上のノード(node)からなり、それぞれのノードは3以上の分枝を含む、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項22】
前記混合層は任意の1μm領域に10以上400以下のセルを含む、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれか1項に記載の高分子電解質膜を含む膜電極接合体。
【請求項24】
請求項23に記載の膜電極接合体を含む燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、2013年4月29日付で韓国特許庁に提出された韓国特許出願第10−2013−0047773号、2013年5月2日付で韓国特許庁に提出された韓国特許出願第10−2013−0049424号、2013年11月1日付で韓国特許庁に提出された韓国特許出願第10−2013−0132160号、および2013年11月26日付で韓国特許庁に提出された韓国特許出願第10−2013−0144440号の出願日の利益を主張し、その内容のすべては本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、高分子電解質膜、高分子電解質膜を含む膜電極接合体および膜電極接合体を含む燃料電池を提供する。
【背景技術】
【0003】
燃料電池は高効率の発電装置であって、既存の内燃機関に比べて効率が高くて燃料使用量が少なく、SO、NO、VOCなどの環境汚染物質を発生させない無公害のエネルギー源であるという利点がある。また、生産設備に必要な立地面積が少なく、建設期間が短いなどのさらなる利点がある。
【0004】
したがって、燃料電池は、携帯用機器などの移動用電源、自動車などの輸送用電源、家庭用および電力事業用に利用可能な分散型発電に至るまで、応用分野が多様である。特に、次世代運送装置の燃料電池自動車の運営が実用化される場合、その潜在的な市場規模は広範囲であると予想される。
【0005】
燃料電池は、作動する温度と電解質によって、大きく5つに分類されるが、詳細には、アルカリ燃料電池(AFC)、リン酸型燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)、固体酸化物燃料電池(SOFC)、高分子電解質燃料電池(PEMFC)、および直接メタノール燃料電池(DMFC)がある。そのうち、移動性に優れた高分子電解質燃料電池および直接メタノール燃料電池が将来の電源として大きな注目を集めている。
【0006】
高分子電解質燃料電池は、高分子電解質膜の両面にガス拡散性の電極層を配置し、アノード(Anode)を燃料極に、カソード(Cathode)を酸化極に向けて、高分子電解質膜を介した化学反応によって水が生成され、これによって生じる反応エネルギーを電気エネルギーに変換することを基本原理としている。
【0007】
イオン伝導性高分子電解質膜の代表例としては、1960年代初めに米国のデュポン社で開発した過フッ素系水素イオン交換膜のナフィオン(Nafion)が挙げられる。ナフィオンのほか、これと類似の過フッ素系高分子電解質商用膜として、旭ケミカルス(Asahi Chemicals)社のアシプレックス−S(Aciplex−S)膜、ダウケミカル(Dow Chemicals)社のダウ(Dow)膜、旭硝子(Asahi Glass)社のフレミオン(Flemion)膜などがある。
【0008】
従来商用化された過フッ素系高分子電解質膜は、耐化学性、耐酸化性、優れたイオン伝導性を有しているが、高い価格と製造時に発生する中間生成物の毒性による環境問題が指摘されている。したがって、このような過フッ素系高分子電解質膜の欠点を補うために、芳香族環高分子にカルボキシル基、スルホン酸基などを導入した高分子電解質膜が研究されている。その一例として、スルホン化ポリアリールエーテルスルホン[Journal of Membrane Science、1993、83、211]、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン[日本国特開平6−93114、米国特許第5,438,082号]、スルホン化ポリイミド[米国特許第6,245,881号]などがある。
【0009】
高分子電解質膜は、温度と水和(hydration)の程度によって15〜30%の膜厚変化と体積変化を伴い、このため、燃料電池の運転条件によって電解質膜は膨潤と収縮を繰り返し、このような体積変化で微細孔や亀裂が発生する。また、副反応としてカソードでの酸素の還元反応で過酸化水素(H)または過酸化物ラジカルが生成され、電解質膜を劣化させることがある。燃料電池用高分子電解質膜は、燃料電池の駆動中に発生し得るこのような現象を念頭において、機械的、化学的耐久を改善させる方向で開発されてきている。
【0010】
機械的耐久を改善するための方向には、ナフィオン溶液(5重量%の濃度)をe−PTFEに導入して製造した強化複合電解質膜(米国特許第5,547,551号)、およびスルホン化された炭化水素系高分子物質に寸法安定性の優れた高分子を導入した高分子ブレンド複合膜に関する研究(大韓民国特許第10−0746339号)などがある。また、ゴア&アソシエーツ(W.L.Gore&Associates)社では、ゴアセレクト(Gore Select)という商品名で商用化された強化複合電解質膜製品を発売している。
【0011】
強化複合電解質膜には、機械的物性および寸法安定性を付与するために多孔性支持体が使用される。多孔性支持体は、性能を低下させないとともに機械的耐久性を維持させなければならないため、高い気孔度を有しながら優れた機械的物性を備えた好適な素材の支持体を選択しなければならない。また、イオン伝導体を支持体に含浸させる方法とイオン伝導体の種類によって膜のイオン伝導度が大きく変化し得るため、効果的なイオン伝導体の含浸方法および強化複合電解質膜に適したイオン伝導体の開発が要求される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、高分子電解質膜を提供することである。さらに、前記高分子電解質膜を含む膜電極接合体およびこれを含む燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一実施形態は、イオン移動領域および3次元網状構造の支持体を含む混合層を含み、前記イオン移動領域はイオン伝導性物質を含む2以上のセルが3次元的に接する構造を有し、前記高分子電解質膜の全体厚さに対する前記混合層の厚さの比は30%以上100%以下である高分子電解質膜を提供する。
【0014】
本発明の一実施形態は、前記高分子電解質膜を含む膜電極接合体を提供する。
【0015】
本発明の一実施形態は、前記膜電極接合体を含む燃料電池を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一実施形態に係る高分子電解質膜は、耐久性に優れるという利点がある。具体的には、本発明の一実施形態に係る高分子電解質膜を含む膜電極接合体を燃料電池に適用する場合、燃料電池の性能の向上に寄与することができる。すなわち、本発明の一実施形態に係る高分子電解質膜は、高温加湿および乾燥が繰り返され、高分子電解質膜の収縮と膨脹が繰り返される燃料電池の作動環境において、燃料電池の性能の低下を最小化し、一定の性能を維持可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る高分子電解質膜の表面の一領域を示すものである。
図2】本発明の一実施形態に係る高分子電解質膜の表面の一領域を示すものである。
図3】本発明の一実施形態に係る高分子電解質膜の断面の一領域を示すものである。
図4】本発明の一実施形態に係る燃料電池の構造を示すものである。
図5】本発明の一実施形態に係る高分子電解質膜の表面のセルの最大直径を測定した結果を示すものである。
図6】実施例および比較例によるRHサイクルの結果を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本明細書の一実施形態についてより詳細に説明する。
【0019】
本明細書において、ある部材が他の部材の「上に」位置しているとする時、これは、ある部材が他の部材に接している場合だけでなく、2つの部材の間にさらに他の部材が存在する場合も含む。
【0020】
本明細書において、ある部分がある構成要素を「含む」とする時、これは、特に反対となる記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに包含できることを意味する。
【0021】
本発明の一実施形態は、イオン移動領域および3次元網状構造の支持体を含む混合層を含み、前記イオン移動領域はイオン伝導性物質を含む2以上のセルが3次元的に接する構造を有し、前記高分子電解質膜の全体厚さに対する前記混合層の厚さの比は30%以上100%以下である高分子電解質膜を提供する。
【0022】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜の全体厚さに対する前記混合層の厚さの比は50%以上100%以下であってよい。
【0023】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜の全体厚さに対する前記混合層の厚さの比は65%以上95%以下であってよい。
【0024】
前記混合層の高分子電解質膜の全体厚さに対する厚さの比が前記範囲を外れて前記高分子電解質膜の全体厚さに対して50%未満の場合、前記混合層の支持体による耐久性上昇効果がわずかであり得る。具体的には、前記混合層の厚さが前記高分子電解質膜の全体厚さに対して50%未満の場合、前記高分子電解質膜は、イオン伝導性物質からなる純粋層の挙動に支配されてしまい、耐久性が低下することがある。
【0025】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜は、前記混合層のみからなってもよい。具体的には、本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜は、前記混合層のみからなる場合、前記高分子電解質膜の全体厚さに対する前記混合層の厚さの比は100%であってもよい。
【0026】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜の全体厚さに対する前記混合層の厚さの比は50%以上100%未満であってよい。具体的には、本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜は、前記混合層の上面および/または下面に、前記イオン伝導性物質からなる純粋層をさらに含むことができる。
【0027】
前記高分子電解質膜が前記混合層のみからなる場合、前記高分子電解質膜と電極との接合力が低下することがあり、これは、燃料電池の駆動中に電極と高分子電解質膜との分離現象が発生し得る問題が発生することがある。
【0028】
本発明の一実施形態によれば、前記混合層の厚さが1μm以上30μm以下である、高分子電解質膜を提供する。
【0029】
本発明の一実施形態によれば、前記混合層の厚さは1μm以上25μm以下であってよい。
【0030】
本発明の一実施形態によれば、前記混合層の厚さは1μm以上15μm以下であってよい。
【0031】
本発明の一実施形態によれば、前記混合層の厚さは5μm以上15μm以下であってよい。
【0032】
本発明の一実施形態に係る前記混合層の厚さが1μm以上30μm以下の場合、高いイオン伝導度および耐久性を実現することができる。また、前記混合層が前記厚さ範囲内の場合、厚さの減少に伴う耐久性の低下がほとんど発生しなくて済む。すなわち、前記混合層の厚さが1μm未満の場合には、耐久性が維持されないという欠点があり、厚さが30μm超過の場合には、イオン伝導度が低下し得るという欠点がある。
【0033】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜は、混合層の上面、または下面、または上面および下面に備えられた前記イオン伝導性物質のみを含む純粋層をさらに含むことができる。
【0034】
本発明の一実施形態によれば、前記支持体をイオン伝導性物質に含浸して前記混合層を形成することができる。
【0035】
具体的には、本発明の一実施形態によれば、前記イオン伝導性物質を前記支持体の厚さ範囲まで含ませる場合、純粋層のない高分子電解質膜を形成することができる。また、本発明の一実施形態によれば、前記イオン伝導性物質を前記支持体の厚さ範囲を超えて含ませる場合、前記混合層の上面および/または下面に純粋層が備えられた高分子電解質膜を製造することができる。
【0036】
本発明の一実施形態によれば、前記混合層に含まれるイオン伝導性物質と、前記純粋層に含まれるイオン伝導性物質とは互いに異なっていてもよい。具体的には、本発明の一実施形態によれば、前記混合層を形成した後、混合層に含まれるイオン伝導性物質と異なる物性のイオン伝導性物質を、前記混合層の上面および/または下面に塗布して純粋層を形成することができる。
【0037】
本発明の一実施形態によれば、前記混合層のいずれか一面に備えられた前記純粋層はそれぞれ独立して2層以上積層され、各層は互いに異なるイオン伝導性物質を含むことができる。
【0038】
本発明の一実施形態によれば、前記混合層のいずれか一面に備えられた前記純粋層の厚さはそれぞれ独立して0μm超過6μm以下であってよい。
【0039】
本発明の一実施形態によれば、前記純粋層は前記混合層の上面および下面にそれぞれ備えられてもよい。
【0040】
本発明の一実施形態によれば、前記混合層の上面および下面にそれぞれ備えられた前記純粋層の間の厚さの差は前記混合層の厚さの50%以下であってよい。具体的には、前記混合層の上面および下面に備えられた前記純粋層の間の厚さの差は混合層の厚さの30%以下であってよい。本発明の一実施形態によれば、前記純粋層の間の厚さの差が混合層の厚さの0%の場合は、前記混合層の上面および下面にそれぞれ備えられた純粋層の厚さが同一であることを意味する。
【0041】
本発明の一実施形態によれば、前記混合層の上面に備えられた純粋層と、混合層の下面に備えられた純粋層との厚さの差が混合層の厚さの50%以下の場合、前記高分子電解質膜を加湿および乾燥を繰り返しても、前記高分子電解質膜の上面と下面の収縮および膨脹の程度が類似していて、クラック(crack)が発生するのを防止することができる。
【0042】
本発明の一実施形態によれば、前記混合層と前記全体純粋層との厚さの比率は1:0〜1:4であってよい。具体的には、前記混合層と前記全体純粋層との厚さの比率は1:0〜1:1.5であってよい。より具体的には、前記混合層と前記全体純粋層との厚さの比率は1:0〜1:1であってよい。
【0043】
本発明の一実施形態に係る高分子電解質膜によれば、前記純粋層対比の前記混合層の厚さの比率が高いほど、加湿および乾燥状態が繰り返される条件で高い耐久性を発揮することができる。
【0044】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜の全体厚さは3μm以上36μm以下であってよい。
【0045】
本発明の一実施形態によれば、前記イオン伝導性物質は炭化水素系物質を含むことができる。
【0046】
本発明の一実施形態によれば、前記炭化水素系物質は側鎖に1以上の陽イオン交換基を有する高分子であり、前記高分子に含まれている炭素原子数とフッ素原子数との比は1:0以上1:1未満であり、前記陽イオン交換基はスルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、およびこれらの誘導体からなる群より選択される1種以上を含むものであってよい。
【0047】
本発明の一実施形態によれば、前記炭化水素系物質は主鎖または側鎖にフッ素を含まなくてもよい。
【0048】
本発明の一実施形態によれば、前記炭化水素系物質は、前記高分子に含まれている炭素原子数とフッ素原子数との比は1:0以上2:1以下であってよい。
【0049】
本発明の一実施形態によれば、前記イオン伝導性物質は陽イオン伝導性物質および/または陰イオン伝導性物質を含むことができる。
【0050】
本発明の一実施形態によれば、前記イオン伝導性物質はプロトン伝導性物質を含むことができる。
【0051】
本発明の一実施形態によれば、前記イオン伝導性物質はスルホン化ベンズイミダゾール系高分子、スルホン化ポリイミド系高分子、スルホン化ポリエーテルイミド系高分子、スルホン化ポリフェニレンスルフィド系高分子、スルホン化ポリスルホン系高分子、スルホン化ポリエーテルスルホン系高分子、スルホン化ポリエーテルケトン系高分子、スルホン化ポリエーテル−エーテルケトン系高分子、スルホン化ポリフェニルキノキサリン系高分子、およびスルホン化部分フッ素系の導入された高分子からなる群より選択される1種または2種以上を含むことができる。
【0052】
本発明の一実施形態によれば、前記スルホン化部分フッ素系の導入された高分子は少なくとも1つの側鎖にスルホン基が結合され、前記高分子に含まれている炭素原子数とフッ素原子数との比は1:0超過1:1未満の高分子であってよい。
【0053】
本発明の一実施形態によれば、前記イオン伝導性物質は60℃以上で1mS/cm以上のイオン伝導性を有することができる。
【0054】
本発明の一実施形態によれば、前記イオン伝導性物質のIEC(ion exchange capacity)が1meq/g以上であってよい。
【0055】
本発明の一実施形態によれば、前記支持体は炭化水素系物質を含むことができる。具体的には、本発明の一実施形態によれば、前記支持体は炭化水素系支持体であってよい。
【0056】
本発明の一実施形態によれば、前記支持体は半結晶質ポリマーを含むことができる。
【0057】
本発明の一実施形態に係る前記半結晶質ポリマーは、結晶度の範囲が20%〜80%であってよい。
【0058】
本発明の一実施形態によれば、前記半結晶質ポリマーはポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール(またはポリオキシメチレン)、ポリスルフィド、ポリビニルアルコール、これらのコポリマー、およびこれらの組み合わせを含むことができ、これらに制限されない。
【0059】
本発明の一実施形態によれば、前記支持体はポリオレフィン系物質由来のものを含むことができる。
【0060】
前記ポリオレフィンはポリエチレン(LDPE、LLDPE、HDPE、UHMWPE)、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、これらのコポリマー、およびこれらのブレンドを含むことができる。
【0061】
前記ポリアミドはポリアミド6、ポリアミド6/6、ナイロン10/10、ポリフタルアミド(PPA)、これらのコポリマー、およびこれらのブレンドを含むことができるが、これらに制限されない。
【0062】
前記ポリエステルはポリエステルテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ−1−4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、および液状結晶ポリマー(LCP)を含むことができ、これらに制限されない。
【0063】
前記ポリスルフィドはポリフェニルスルフィド、ポリエチレンスルフィド、これらのコポリマー、およびこれらのブレンドを含むが、これらに制限されない。
【0064】
前記ポリビニルアルコールはエチレン−ビニルアルコール、これらのコポリマー、およびこれらのブレンドを含むが、これらに制限されない。
【0065】
本発明の一実施形態に係る高分子電解質膜は、均一な大きさのセルを含むことができる。
【0066】
具体的には、本発明の一実施形態によれば、前記セルの最大直径の平均は0.25μm以上0.4μm以下であってよい。また、本発明の一実施形態によれば、前記セルの最大直径の標準偏差は0.05μm以上0.2μm以下であってよい。
【0067】
図5は、本発明の一実施形態に係る高分子電解質膜の表面のセルの最大直径を測定した結果を示すものである。具体的には、図5は、本発明の一実施形態に係る高分子電解質膜の表面に位置するそれぞれのセルの最大直径を示すものであり、これを測定して各セルの最大直径の頻度を示すものである。そのため、本発明の一実施形態に係る高分子電解質膜は、均一な大きさのセルを含むことが分かる。
【0068】
本発明の一実施形態によれば、高分子電解質膜の上面と水平な任意の面において、前記セルは、いずれか一方向(x軸方向)およびこれに垂直な方向(y軸方向)と高分子電解質膜の厚さ方向(z軸方向)に2層以上積層されたものであってよい。
【0069】
本発明の一実施形態によれば、前記支持体は2以上の前記セルが分布するスポンジ構造であってよい。
【0070】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜の垂直断面および水平断面ともに2以上の前記セルの断面を含むことができる。
【0071】
本発明の一実施形態に係るセルの断面の直径は、セルの断面を横切る最も長い線の長さを意味することができる。
【0072】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜の水平表面におけるセルの断面は、縦横比が1:1〜5:1であってよい。
【0073】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜の垂直表面におけるセルの断面は、縦横比が1:1〜10:1であってよい。
【0074】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜の水平表面におけるセルの断面の直径の大きさは40nm以上1,000nm以下であってよい。
【0075】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜の垂直表面におけるセルの断面の直径の大きさは40nm以上1,000nm以下であってよい。
【0076】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜の水平表面と垂直表面との100μmあたりのセルの個数の比は1:1〜1:5であってよい。
【0077】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜の100μmあたりの垂直断面と水平断面とのセルの個数の偏差は0個以上500個以下であってよい。
【0078】
本発明の一実施形態によれば、前記セルの断面の直径の平均大きさは40nm以上500nm以下であってよい。
【0079】
本発明の一実施形態によれば、前記セルの断面の直径の標準偏差は50nm〜200nmであってよい。
【0080】
本発明の一実施形態によれば、前記セルの直径は40nm以上1000nm以下であってよい。
【0081】
本発明の一実施形態によれば、前記支持体は2以上のノード(node)からなり、それぞれのノードは3以上の分枝を含むことができる。
【0082】
本発明の一実施形態によれば、前記支持体のいずれか1つのノードと隣接する他のノードとの距離は10nm〜500nmであってよい。
【0083】
本発明の一実施形態によれば、前記セルの中心から前記支持体の任意の点までの長さは20nm〜500nmであってよい。
【0084】
本発明の一実施形態によれば、前記混合層は任意の1μm領域に10以上400以下のセルを含むことができる。
【0085】
本発明の一実施形態によれば、前記混合層は任意の1μm領域に10以上150以下のセルを含むことができる。
【0086】
本発明の一実施形態によれば、前記混合層は任意の1μm領域に40以上150以下のセルを含むことができる。
【0087】
本発明の一実施形態によれば、前記イオン移動領域は前記混合層の全体体積に対して40体積%以上85体積%以下であってよい。
【0088】
本発明の一実施形態によれば、前記イオン移動領域は前記混合層の全体体積に対して40体積%以上80体積%以下であってよい。
【0089】
本発明の一実施形態によれば、前記イオン移動領域は前記混合層の全体体積に対して40体積%以上70体積%以下であってよい。
【0090】
本発明の一実施形態によれば、前記イオン移動領域は前記混合層の全体体積に対して40体積%以上60体積%以下であってよい。
【0091】
本発明の一実施形態によれば、前記イオン移動領域は前記混合層の全体体積に対して40体積%以上55体積%以下であってよい。
【0092】
本発明の一実施形態によれば、前記イオン移動領域は前記混合層の全体体積に対して45体積%以上65体積%以下であってよい。
【0093】
本発明の一実施形態によれば、前記イオン移動領域は前記混合層の全体体積に対して45体積%以上60体積%以下であってよい。
【0094】
本発明の一実施形態に係るの前記イオン移動領域とは、前記支持体によって形成された骨格を除いた領域を意味することができる。また、前記イオン移動領域は前記支持体のみが存在する場合の気孔領域であってよい。さらに、前記イオン移動領域に前記イオン伝導性物質が含まれ、前記イオン伝導性物質を介してイオンが移動することができる。
【0095】
本発明の一実施形態に係る前記高分子電解質膜の前記イオン移動領域が40体積%以上85体積%以下の場合、前記高分子電解質膜の耐久性を確保することができるとともに、十分なイオン伝導度を確保することができる。すなわち、イオン移動領域が40体積%未満の場合、高分子電解質膜の耐久性は上昇するが、十分なイオン伝導度を確保しにくいという欠点がある。さらに、イオン移動領域が85体積%を超える場合、高分子電解質膜のイオン伝導度は上昇するが、耐久性の確保が困難であるという欠点がある。
【0096】
図1および図2は、本発明の一実施形態に係る高分子電解質膜の表面の一領域を示すものである。具体的には、前記図1は、本発明の一実施形態に係る前記高分子電解質膜の水平表面の一領域を示すものであり、前記図2は、本発明の一実施形態に係る前記高分子電解質膜の垂直表面の一領域を示すものである。さらに、暗い領域で表された領域が支持体を意味し、明るい領域はイオン移動領域を意味する。
【0097】
前記垂直表面とは、前記高分子電解質膜の厚さ方向の表面を意味することができる。また、前記水平表面とは、前記高分子電解質膜の厚さ方向に垂直な表面であって、相対的に広い領域を占める面を意味することができる。
【0098】
図1および図2において、前記イオン移動領域は、セルの断面を意味することができ、図示のセルに3次元的に接するセルが高分子電解質膜の内部に存在する。
【0099】
本発明の一実施形態に係る前記セルは、球状または球の押された形状、多面体であってよいし、セルが球状の場合、セルの断面は、縦横比1:1〜5:1の閉鎖図形であってよい。
【0100】
本発明の一実施形態に係る前記セルは、支持体のノードおよびノードを連結する繊維状の枝が連結される場合、形成される仮想の平面で取り囲まれた仮想の3次元閉鎖空間を意味することができる。前記ノードは、2以上の繊維状の枝が互いに会う部位を意味することができる。具体的には、前記ノードは、2以上の繊維状の枝が互いに会って、3以上の分枝を含む分枝点を形成する部位を意味することができる。
【0101】
図3は、本発明の一実施形態に係る高分子電解質膜の断面の一領域を示すものである。具体的には、図3の点線領域は仮想の線であって、仮想の3次元閉鎖空間を区画するためのものである。暗い領域で表されたものは支持体の繊維状の枝またはノードであり、これは3次元的に連結される。
【0102】
また、本発明の一実施形態に係る前記セルは、支持体の繊維状の枝で取り囲まれたイオン伝導性物質を含むイオン移動領域の単位空間で、支持体の繊維で取り囲まれた場合の仮想の3次元閉鎖空間の水平および垂直方向の断面が円形または楕円形または単一閉曲線図形の形状であってよい。
【0103】
また、本発明の一実施形態に係る前記セルは、一定大きさ以上の体積を有するものを意味し、セルの直径が40nm未満のものは、セルに相当しなくてもよい。
【0104】
本発明の一実施形態に係る前記セルの直径は、セルを横切る最も長い線の長さを意味することができる。
【0105】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜は、RHサイクルの限界値が少なくとも20,000回であってよい。
【0106】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜は、RHサイクルの限界値が少なくとも40,000回であってよい。
【0107】
また、本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜は、RHサイクルの限界値が少なくとも50,000回であってよい。
【0108】
また、本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜は、RHサイクルの限界値が少なくとも60,000回であってよい。
【0109】
また、本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜は、RHサイクルの限界値が少なくとも70,000回であってよい。
【0110】
また、本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜は、RHサイクルの限界値が少なくとも75,000回であってよい。
【0111】
また、本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜は、RHサイクルの限界値が少なくとも80,000回であってよい。
【0112】
また、本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜は、RHサイクルの限界値が少なくとも100,000回であってよい。
【0113】
また、本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜は、RHサイクルの限界値が少なくとも120,000回であってよい。
【0114】
また、本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜は、RHサイクルの限界値が少なくとも150,000回であってよい。
【0115】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜は、前記範囲のRHサイクル回数においても性能の低下がほとんど発生しない。
【0116】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜は、RHサイクルの限界値が300,000回以下であってよい。
【0117】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜は、RHサイクルの限界値が500,000回以下であってよい。
【0118】
本発明の一実施形態に係る前記高分子電解質膜は、耐久性に優れるという利点がある。具体的には、前記高分子電解質膜は、RHサイクルを通して優れた耐久性を確認することができる。より具体的には、本発明の一実施形態に係る高分子電解質膜は、燃料電池の駆動状態と類似のRHサイクルの実行中に発生する体積変化に伴う耐久性の低下が顕著に少ないという利点がある。
【0119】
本発明の一実施形態に係る前記RHサイクルは、高分子電解質膜をMEA(Membrane Electrode Assembley、膜電極接合体)に製造した後、燃料電池状態で耐久性を測定するものを意味する。具体的には、本発明の一実施形態に係る前記RHサイクルは、80℃の条件で、アノードに窒素を0.95slm(standard liter per minute)の流量で注入し、カソードに窒素を1.0slmの流量で注入し、RH(relative humidity)150%の加湿およびRH0%の非加湿を2分間隔で切り替え、耐久性を測定するものを意味する。
【0120】
さらに、本発明の一実施形態に係るRHサイクルが高いほど、高分子電解質膜の耐久性が高いことを意味する。また、前記RHサイクルの限界値は、前記RHサイクルを行って高分子電解質膜がMEAに使用できない程度の損傷が発生したサイクルまでの回数を意味する。
【0121】
本発明の一実施形態に係る前記RHサイクルの限界値を測定するために、LSV(linear sweep volta−mmetry)を利用する。具体的には、前記LSVは、アノードに水素を0.2slmの流量で注入し、カソードに窒素を0.2slmの流量で注入し、0.1〜0.4V(2mV/s)で水素のクロスオーバー(crossover)を測定するものを意味する。すなわち、RHサイクルの途中に水素のクロスオーバー数値が上昇する場合、高分子電解質膜の損傷があると考えられ、水素のクロスオーバー数値が上昇する程度に応じて、高分子電解質膜の損傷の程度を判断することができる。前記RHサイクルの途中に水素のクロスオーバー数値が急激に上昇する場合、高分子電解質膜が本来の性能を果たせない程度の損傷を受けたもので、この時のRHサイクル回数は前記RHサイクルの限界値であってよい。
【0122】
例えば、前記RHサイクルの限界値は、正常作動が可能な高分子電解質膜の水素のクロスオーバー数値が5倍以上増加するRHサイクルの回数を意味する。
【0123】
すなわち、前記RHサイクルの限界値が高いほど、高分子電解質膜の耐久性が高いことを意味し、RHサイクルの限界値が少なくとも20,000回の場合、一般的に優れた耐久性を有すると判断することができる。本発明の一実施形態に係る高分子電解質膜は、前記RHサイクルの限界値が20,000回以上においても性能の低下がほとんどなく一定の性能を維持することができる。
【0124】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜の機械方向(MD:Machine Direction)における最大応力は200kgf/cm以上であってよい。
【0125】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜の機械方向(MD:Machine Direction)の垂直方向における最大応力は200kgf/cm以上であってよい。
【0126】
本発明の一実施形態は、イオン移動領域および3次元網状構造の支持体を含む混合層を含み、前記イオン移動領域は炭化水素系または部分炭化水素系イオン伝導性物質を含む2以上のセルが3次元的に接する構造を有する高分子電解質膜であって、前記高分子電解質膜の機械方向(MD:Machine Direction)における最大応力は200kgf/cm以上である高分子電解質膜を提供する。
【0127】
本発明の一実施形態は、イオン移動領域および3次元網状構造の支持体を含む混合層を含み、前記イオン移動領域は炭化水素系または部分炭化水素系イオン伝導性物質を含む2以上のセルが3次元的に接する構造を有する高分子電解質膜であって、前記高分子電解質膜の機械方向(MD:Machine Direction)の垂直方向における最大応力は200kgf/cm以上である高分子電解質膜を提供する。
【0128】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜は、方向性を有することができる。具体的には、本発明の一実施形態によれば、前記支持体は高分子の一軸延伸または二軸延伸によって製造可能であり、前記延伸による支持体の方向性が前記高分子電解質膜の方向性を決定することができる。そのため、本発明の一実施形態に係る高分子電解質膜は、機械方向(MD:Machine Direction)、および機械方向(MD:Machine Direction)の垂直方向の方向性を有することができ、前記高分子電解質膜は、方向性に応じて、応力および伸び率などの物性に差を示すことができる。
【0129】
前記機械方向(machine direction:MD)は、当業界で一般的に使用される意味であってよい。具体的には、前記機械方向とは、ロール状に巻かれて製造される場合、巻かれる方向を意味することができる。
【0130】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜の機械方向(MD:Machine Direction)における最大応力は300kgf/cm以上であってよい。
【0131】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜の機械方向(MD:Machine Direction)における最大応力は500kgf/cm以上であってよい。
【0132】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜の機械方向(MD:Machine Direction)における最大応力は800kgf/cm以上であってよい。
【0133】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜の機械方向(MD:Machine Direction)における最大応力は900kgf/cm以上であってよい。
【0134】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜の機械方向(MD:Machine Direction)の垂直方向における最大応力は300kgf/cm以上であってよい。
【0135】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜の機械方向(MD:Machine Direction)の垂直方向における最大応力は400kgf/cm以上であってよい。
【0136】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜の機械方向(MD:Machine Direction)の垂直方向における最大応力は600kgf/cm以上であってよい。
【0137】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜の機械方向(MD:Machine Direction)の垂直方向における最大応力は800kgf/cm以上であってよい。
【0138】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜の機械方向(MD:Machine Direction)における最大伸び率は20%以上であってよい。
【0139】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜の機械方向(MD:Machine Direction)における最大伸び率は50%以上であってよい。
【0140】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜の機械方向(MD:Machine Direction)における最大伸び率は60%以上であってよい。
【0141】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜の機械方向(MD:Machine Direction)の垂直方向における最大伸び率は10%以上であってよい。
【0142】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜の機械方向(MD:Machine Direction)の垂直方向における最大伸び率は30%以上であってよい。
【0143】
本発明の一実施形態に係る前記最大応力は、20℃の温度および22%の湿度条件で、グリップ間隔を100mmとし、引張速度を10mm/minとして、高分子電解質膜が破れた瞬間の単位面積あたりの力の大きさを意味する。
【0144】
また、本発明の一実施形態に係る前記最大伸び率は、20℃の温度および22%の湿度条件で、グリップ間隔を100mmとし、引張速度を10mm/minとして、高分子電解質膜が破れた瞬間の高分子電解質膜の伸びた割合を意味する。具体的には、本発明の一実施形態に係る前記最大応力および最大伸び率は、ASTM(American Society for Testing and Materials)標準によって切り取られたドッグボーン形状の高分子電解質膜を、UTM(united test machine)で10mm/minの速度で測定したものを意味する。前記UTMは引張強度と伸び率を同時に測定する装備であって、当業界で一般的に用いられる装備である。
【0145】
本発明の一実施形態に係る高分子電解質は、高い最大応力を有しているため、高温加湿および乾燥が繰り返され、電解質膜の膨脹と収縮が繰り返される燃料電池内において、長時間性能の変化なく機能を行うことができるという利点がある。
【0146】
本発明の一実施形態によれば、前記イオン移動領域は前記イオン伝導性物質を60体積%以上100体積%以下で含むことができる。
【0147】
本発明の一実施形態によれば、前記イオン移動領域は前記イオン伝導性物質を70体積%以上100体積%以下で含むことができる。
【0148】
本発明の一実施形態によれば、前記高分子電解質膜の空気透過度は1hour/100ml以上であってよい。
【0149】
本発明の一実施形態に係る高分子電解質膜は、緻密な構造を形成して燃料電池内で優れた性能を発揮することができる。具体的には、前記高分子電解質膜の緻密構造は、前記空気透過度の数値を通して分かる。本発明の一実施形態に係る高分子電解質膜は、前記範囲の空気透過度を有する場合、燃料電池内で優れた電解質膜の性能を発揮することができる。
【0150】
本発明は、前記高分子電解質膜を含む膜電極接合体を提供する。また、本発明は、前記膜電極接合体を含む燃料電池を提供する。
【0151】
本発明の前記燃料電池は、当業界で一般的に知られている燃料電池を含む。
【0152】
本発明の一実施形態によれば、前記膜電極接合体と、前記膜電極接合体の間に介在するセパレータとを含むスタックと、燃料を前記スタックに供給する燃料供給部と、酸化剤を前記スタックに供給する酸化剤供給部とを含む、燃料電池を提供する。
【0153】
図4は、本発明の一実施形態に係る燃料電池の構造を示すもので、燃料電池は、スタック60と、酸化剤供給部70と、燃料供給部80とを含んで構成される。
【0154】
前記スタック60は、前記膜電極接合体を1つまたは2つ以上含み、膜電極接合体が2つ以上含まれる場合には、これらの間に介在するセパレータを含む。
【0155】
前記セパレータは、前記膜電極接合体が電気的に連結されるのを防止し、外部から供給された燃料および酸化剤を膜電極接合体に伝達する役割を果たす。
【0156】
前記酸化剤供給部70は、酸化剤をスタック60に供給する役割を果たす。酸化剤としては酸素が代表的に使用され、酸素または空気をポンプ70に注入して使用することができる。
【0157】
前記燃料供給部80は、燃料をスタック60に供給する役割を果たし、燃料を貯蔵する燃料タンク81と、燃料タンク81に貯蔵された燃料をスタック60に供給するポンプ82とから構成されてもよい。燃料としては、気体または液体状態の水素または炭化水素燃料が使用可能であり、炭化水素燃料の例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、または天然ガスが挙げられる。
【実施例】
【0158】
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例を挙げて詳細に説明する。しかし、本発明に係る実施例は、種々の異なる形態に変形可能であり、本発明の範囲が以下に述べる実施例に限定されると解釈されない。本発明の実施例は、当業界における平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0159】
[実施例1]
イオン伝導性物質としてスルホン化ポリエーテル−エーテルケトン系高分子を7wt%の濃度でDMSO(Dimethyl Sulfoxide)に溶かして含浸溶液を作り、10cm×10cmのフレームに固定された気孔度約70%、厚さ約15μmの支持体を前記含浸溶液に含浸させた。以後、80℃のオーブンで24時間乾燥して、高分子電解質膜を製造した。製造された膜は、80℃、10%硫酸で24時間酸処理後、蒸留水で4回以上洗浄した後、乾燥して使用した。前記実施例1によって製造された高分子電解質膜の最終厚さは11μm〜12μmであり、混合層の厚さは7μm〜8μmであり、混合層の上部に備えられた純粋層の厚さは0.7μm〜1.2μmであり、混合層の下部に備えられた純粋層の厚さは2μm〜3μmであった。
【0160】
[比較例1]
前記実施例1で使用された含浸溶液のみを用いて、400μmの厚さでガラス板上にキャスティングし、以後、80℃のオーブンで24時間乾燥して、高分子電解質膜を製造した。製造された高分子電解質膜は、実施例1と同様の方法で処理して使用した。前記比較例1によって製造された高分子電解質膜は、純粋層のみからなっており、厚さは20μmであった。
【0161】
[比較例2]
イオン伝導性物質としてスルホン化ポリエーテル−エーテルケトン系高分子を7wt%の濃度でDMSOに溶かして含浸溶液を作った後、10cm×10cmのフレームに固定された気孔度約65%、厚さ約20μmの支持体を前記含浸溶液に含浸させた。以後、含浸された支持体の一方の面に約5mlの含浸溶液を追加的に塗布した後、80℃のオーブンで24時間乾燥して、高分子電解質膜を製造した。製造された膜は、80℃、10%硫酸で24時間酸処理後、蒸留水で4回以上洗浄した後、乾燥して使用した。前記比較例1によって製造された高分子電解質膜の総厚さは約56μm〜62μmであり、混合層の厚さは13μm〜14μmであり、含浸溶液を追加的に塗布した面の純粋層の厚さは30μm〜33μmであり、これと反対面の純粋層の厚さは13μm〜15μmであった。
【0162】
[比較例3]
イオン伝導性物質としてスルホン化ポリエーテル−エーテルケトン系高分子を7wt%の濃度でDMSOに溶かして含浸溶液を作った後、10cm×10cmのフレームに固定された気孔度約70%、厚さ約3μmの支持体を前記含浸溶液に含浸させた。以後、80℃のオーブンで24時間乾燥して、高分子電解質膜を製造した。製造された膜は、80℃、10%硫酸で24時間酸処理後、蒸留水で4回以上洗浄した後、乾燥して使用した。前記比較例1によって製造された高分子電解質膜の総厚さは約6.3μm〜6.6μmであり、混合層の厚さは1.6μm〜1.8μmであり、混合層の上部に備えられた純粋層の厚さは2.3μm〜2.5μmであり、混合層の下部に備えられた純粋層の厚さは2.1μm〜2.3μmであった。
【0163】
前記実施例および比較例によって製造された高分子電解質膜を、RHサイクルを通して耐久性を測定し、これは図6に示した。図6によれば、x軸はRHサイクルの回数を意味し、y軸はRHサイクルが進行している間に高分子電解質膜の損傷の程度が分かる水素のクロスオーバー数値に関するものである。
【0164】
図6をみると、比較例1および3による高分子電解質膜は、RHサイクル初期から高分子電解質膜の損傷が発生して正常な機能を行うことができないことが分かる。また、比較例2による高分子電解質膜は、RHサイクルが22,000回を超えてから膜の損傷が次第に進むことが分かる。
【0165】
具体的には、比較例1の場合、支持体による耐久性向上効果がないため、RHサイクル初期から高分子電解質膜の損傷が発生したことを推測することができる。
【0166】
また、比較例2および3のように、高分子電解質膜の全体厚さに対する前記混合層の厚さの比が30%未満の場合、混合層内の支持体による耐久性向上効果が大きくないことが分かる。
【0167】
さらに、比較例2のように、混合層の上部および下部に備えられた純粋層の厚さの差が大きい場合、高分子電解質膜の耐久性に悪影響を与えることが分かる。
【0168】
これに対し、実施例1による高分子電解質膜は、RHサイクルが80,000回を超えても電解質膜の損傷が発生しないことが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6