特許第6395276号(P6395276)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6395276溶剤の反応性を決定する構造的効果に対する類似性評価方法およびこれを用いたシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6395276
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】溶剤の反応性を決定する構造的効果に対する類似性評価方法およびこれを用いたシステム
(51)【国際特許分類】
   G06F 19/00 20180101AFI20180913BHJP
【FI】
   G06F19/00 110
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-518056(P2017-518056)
(86)(22)【出願日】2016年7月19日
(65)【公表番号】特表2017-538988(P2017-538988A)
(43)【公表日】2017年12月28日
(86)【国際出願番号】KR2016007865
(87)【国際公開番号】WO2017014539
(87)【国際公開日】20170126
【審査請求日】2017年4月19日
(31)【優先権主張番号】10-2015-0102614
(32)【優先日】2015年7月20日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】リー、スン−ユプ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン、ジ−ウォン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ミ−リ
(72)【発明者】
【氏名】オ、キュン−シル
(72)【発明者】
【氏名】キム、キュン−フン
【審査官】 宮地 匡人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−182077(JP,A)
【文献】 速水 醇一,有機反応における溶媒の働き方について,有機合成化学,1984年,Vol.42 No.12,pp.1107-1120
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 19/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)溶剤の構造的効果の測定に使用されるN個の溶剤を選択するステップ(前記Nは、3以上の自然数である)と、
b)前記a)ステップで選択されたN個の溶剤に対する構造的効果を評価するステップとして下記のi)〜iv)ステップとを含み、前記a)ステップ、および、b)ステップ、並びに、下記のi)〜iv)ステップはコンピュータによって実行される、溶剤の反応性を決定する構造的効果に対する類似性評価方法:
i)a)ステップで選択されたN個の溶剤のうち、溶剤Sに対するR(S)を、下記式1〜式3を用いて計算するステップと、
[式1]
【数1】
[式2]
【数2】
[式3]
【数3】
(前記式1〜式3において、Sは、N個の選択された溶剤のうちのi番目の溶剤を示し、MVbase(S)は、溶剤Sに対するモル体積(Molar Volume)を示し、m(S)は、溶剤Sに対する分子体積(Molecular Volume)を示す値でマッゴーワン体積(McGowan Molecular volume)またはファンデルワールス体積(van der Waals Volume)であり、Nは、アボガドロ定数(Avogadro constant)であり、Rdは、分子構造(Molecular Structure)に対する特性長さを示す値で分子回転半径(Molecular Radius of Gyration)であり、定数kとkは、0.0でない実数であり、定数wは、0.0より大きい実数である)
ii)前記i)ステップで計算されたN個のR(S)に対する平均値(AVG)と標準偏差(SD)を用いて正規分布を設定し、N個のR(S)に対する累積分布関数(cumulative distribution function)を計算して、累積確率値のρ(S)を求めるステップと、
iii)溶剤SとSに対するそれぞれの累積確率値の差であるΔdel(S,S)を、下記式4を用いて計算するステップと、
[式4]
【数4】
(前記式4において、Sは、N個の選択された溶剤のうちのi番目の溶剤を示し、Sは、N個の選択された溶剤のうちのj番目の溶剤を示す)
iv)前記iii)ステップで計算された溶剤SとSに対するΔdel(S,S)値を、設定された閾値(cut−off)と比較して、Δdel(S,S)値が閾値のδ以下の場合、溶剤SとSの有する構造的効果が類似すると判断し、Δdel(S,S)値が閾値のδ超過の場合、溶剤SとSの有する構造的効果が異なると判断して、N個の溶剤に対する構造的効果を定量的に評価するステップ(前記δは、0.0〜1.0の実数であり、Δdel(S,S)=Δdel(S,S)である)。
【請求項2】
前記溶剤に対する構造的効果の評価は、溶剤の反応性に対する類似性を評価して溶剤を分類する、請求項1に記載の溶剤の反応性を決定する構造的効果に対する類似性評価方法。
【請求項3】
前記a)ステップのNは、3〜100の自然数である、請求項1または2に記載の溶剤の反応性を決定する構造的効果に対する類似性評価方法。
【請求項4】
前記b)ステップの定数kは、0.0〜4.0の実数であり、kは、0.0〜10.0の実数である、請求項1から3のいずれか一項に記載の溶剤の反応性を決定する構造的効果に対する類似性評価方法。
【請求項5】
前記b)ステップの定数wは、0.0〜3.0の実数である、請求項1から4のいずれか一項に記載の溶剤の反応性を決定する構造的効果に対する類似性評価方法。
【請求項6】
前記b)ステップの閾値のδは、0.01〜0.40の実数である、請求項1から5のいずれか一項に記載の溶剤の反応性を決定する構造的効果に対する類似性評価方法。
【請求項7】
溶剤の構造的効果の測定に使用されるN個の溶剤を選択する選択モジュール(前記Nは、3以上の自然数である)と、
前記選択モジュールで選択されたN個の溶剤に対する構造的効果を評価する評価モジュールとして下記の第1データ入力モジュール〜第4データ入力モジュールとを含む、溶剤の反応性を決定する構造的効果に対する類似性評価システム:
選択モジュールで選択されたN個の溶剤のうち、溶剤Sに対するR(S)を、下記式1〜式3を用いて計算する第1データ入力モジュールと、
[式1]
【数5】
[式2]
【数6】
[式3]
【数7】
(前記式1〜式3において、Sは、N個の選択された溶剤のうちのi番目の溶剤を示し、MVbase(S)は、溶剤Sに対するモル体積(Molar Volume)を示し、m(S)は、溶剤Sに対する分子体積(Molecular Volume)を示す値でマッゴーワン体積(McGowan Molecular volume)またはファンデルワールス体積(van der Waals Volume)であり、Nは、アボガドロ定数(Avogadro constant)であり、Rdは、分子構造(Molecular Structure)に対する特性長さを示す値で分子回転半径(Molecular Radius of Gyration)であり、定数kとkは、0.0でない実数であり、定数wは、0.0より大きい実数である)
前記第1データ入力モジュールで計算されたN個のR(S)に対する平均値(AVG)と標準偏差(SD)を用いて正規分布を設定し、N個のR(S)に対する累積分布関数(cumulative distribution function)を計算して、累積確率値のρ(S)を求める第2データ入力モジュールと、
溶剤SとSに対するそれぞれの累積確率値の差であるΔdel(S,S)を、下記式4を用いて計算する第3データ入力モジュールと、
[式4]
【数8】
(前記式4において、Sは、N個の選択された溶剤のうちのi番目の溶剤を示し、Sは、N個の選択された溶剤のうちのj番目の溶剤を示す)
前記第3データ入力モジュールで計算された溶剤SとSに対するΔdel(S,S)値を、設定された閾値(cut−off)と比較して、Δdel(S,S)値が閾値のδ以下の場合、溶剤SとSの有する構造的効果が類似すると判断し、Δdel(S,S)値が閾値のδ超過の場合、溶剤SとSの有する構造的効果が異なると判断して、N個の溶剤に対する構造的効果を定量的に評価する第4データ入力モジュール(前記δは、0.0〜1.0の実数であり、Δdel(S,S)=Δdel(S,S)である)。
【請求項8】
前記溶剤に対する構造的効果の評価は、溶剤の反応性に対する類似性を評価して溶剤を分類する、請求項7に記載の溶剤の反応性を決定する構造的効果に対する類似性評価システム。
【請求項9】
前記選択モジュールのNは、3〜100の自然数である、請求項7または8に記載の溶剤の反応性を決定する構造的効果に対する類似性評価システム。
【請求項10】
前記評価モジュールの定数kは、0.0〜4.0の実数であり、kは、0.0〜10.0の実数である、請求項7から9のいずれか一項に記載の溶剤の反応性を決定する構造的効果に対する類似性評価システム。
【請求項11】
前記評価モジュールの定数wは、0.0〜3.0の実数である、請求項7から10のいずれか一項に記載の溶剤の反応性を決定する構造的効果に対する類似性評価システム。
【請求項12】
前記評価モジュールの閾値のδは、0.01〜0.40の実数である、請求項7から11のいずれか一項に記載の溶剤の反応性を決定する構造的効果に対する類似性評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2015年7月20日付の韓国特許出願第10−2015−0102614号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容は本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、溶剤の反応性を決定する構造的効果に対する類似性評価方法およびこれを用いたシステムに関する。より詳細には、溶剤が他の物質と反応する時、反応性に影響を与える溶剤の構造的な効果を定量的に測定できる新たな評価方法およびこれを用いたシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
溶剤(Solvent)は、溶質を溶解させて溶液を製造できるだけでなく、他の物質との反応により新たな物質を合成する上で反応物として使用される。また、溶剤は、反応により形成された生成物質を通して対象物質の表面性質のような特性を調節して性能を向上させたり、新たな機能を付与できて、素材開発分野において大きな役割を果たす物質である。溶剤が他の物質と反応して新たな生成物を製造する場合、溶剤の有する構造的な効果が反応速度または反応進行の有無を決定するのに大きな影響を及ぼす。例えば、構造的な効果によって同一の溶剤を用いた場合でも、特定物質に対する反応はうまく進行するのに対し、他の特定物質との反応はうまく進行しないという反応性の差が発生し得る。このような溶剤の構造的な効果の差によって発生する溶剤の反応性の差は、多くの化学反応の成功の可否を決定する非常に重要な要因である。しかし、このような反応性の差を誘発する溶剤の構造的な効果を明確に評価したり測定できる方法はない。したがって、向上した性能を有する新たな素材を開発するためには、反応速度または反応性に大きな影響を与え得る溶剤の構造的な効果を明確に測定できる新たな評価方法の開発が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の従来技術の問題点を解決するためのものであって、溶剤が他の物質と反応する時、反応性に影響を与える溶剤の構造的な効果を定量的に測定できる新たな方法に関する。本発明は、少なくとも3つ以上の溶剤に対してそれぞれの溶剤が示し得る構造的な効果を定量的に評価可能で、溶剤が示す構造的な効果を明確に測定できるだけでなく、特定溶剤に対して互いに類似する構造的な効果を示す溶剤を区分することができる新たな方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明は、a)溶剤の構造的効果の測定に使用されるN個の溶剤を選択するステップ(前記Nは、3以上の自然数である)と、b)前記a)ステップで選択されたN個の溶剤に対する構造的効果を評価するステップとして下記のi)〜iv)ステップとを含む、溶剤の反応性を決定する構造的効果に対する類似性評価方法を提供する。i)a)ステップで選択されたN個の溶剤のうち、溶剤Sに対するR(S)を、下記式1〜式3を用いて計算するステップと、
[式1]
【数1】
[式2]
【数2】
[式3]
【数3】
(前記式1〜式3において、Sは、N個の選択された溶剤のうちのi番目の溶剤を示し、MVbase(S)は、溶剤Sに対するモル体積(Molar Volume)を示し、m(S)は、溶剤Sに対する分子体積(Molecular Volume)を示す値でマッゴーワン体積(McGowan Molecular volume)またはファンデルワールス体積(van der Waals Volume)であり、Nは、アボガドロ定数(Avogadro constant)であり、Rdは、分子構造(Molecular Structure)に対する特性長さを示す値で分子回転半径(Molecular Radius of Gyration)であり、定数kとkは、0.0でない実数であり、定数wは、0.0より大きい実数である)
ii)前記i)ステップで計算されたN個のR(S)に対する平均値(AVG)と標準偏差(SD)を用いて正規分布を設定し、N個のR(S)に対する累積分布関数(cumulative distribution function)を計算して、累積確率値のρ(S)を求めるステップと、
iii)溶剤SとSに対するそれぞれの累積確率値の差であるΔdel(S,S)を、下記式4を用いて計算するステップと、
[式4]
【数4】
(前記式4において、Sは、N個の選択された溶剤のうちのi番目の溶剤を示し、Sは、N個の選択された溶剤のうちのj番目の溶剤を示す)
iv)前記iii)ステップで計算された溶剤SとSに対するΔdel(S,S)値を、設定された閾値(cut−off)と比較して、Δdel(S,S)値が閾値のδ以下の場合、溶剤SとSの有する構造的効果が類似すると判断し、Δdel(S,S)値が閾値のδ超過の場合、溶剤SとSの有する構造的効果が異なると判断して、N個の溶剤に対する構造的効果を定量的に評価するステップ(前記δは、0.0〜1.0の実数であり、Δdel(S,S)=Δdel(S,S)である)。
【0006】
また、本発明は、溶剤の構造的効果の測定に使用されるN個の溶剤を選択する選択モジュール(前記Nは、3以上の自然数である)と、前記選択モジュールで選択されたN個の溶剤に対する構造的効果を評価する評価モジュールとして第1データ入力モジュール〜第4データ入力モジュールとを含む、溶剤の反応性を決定する構造的効果に対する類似性評価システムを提供する。
選択モジュールで選択されたN個の溶剤のうち、溶剤Sに対するR(S)を、下記式1〜式3を用いて計算する第1データ入力モジュールと、
[式1]
【数5】
[式2]
【数6】
[式3]
【数7】
(前記式1〜式3において、Sは、N個の選択された溶剤のうちのi番目の溶剤を示し、MVbase(S)は、溶剤Sに対するモル体積(Molar Volume)を示し、m(S)は、溶剤Sに対する分子体積(Molecular Volume)を示す値でマッゴーワン体積(McGowan Molecular volume)またはファンデルワールス体積(van der Waals Volume)であり、Nは、アボガドロ定数(Avogadro constant)であり、Rdは、分子構造(Molecular Structure)に対する特性長さを示す値で分子回転半径(Molecular Radius of Gyration)であり、定数kとkは、0.0でない実数であり、定数wは、0.0より大きい実数である)
前記第1データ入力モジュールで計算されたN個のR(S)に対する平均値(AVG)と標準偏差(SD)を用いて正規分布を設定し、N個のR(S)に対する累積分布関数(cumulative distribution function)を計算して、累積確率値のρ(S)を求める第2データ入力モジュールと、
溶剤SとSに対するそれぞれの累積確率値の差であるΔdel(S,S)を、下記式4を用いて計算する第3データ入力モジュールと、
[式4]
【数8】
(前記式4において、Sは、N個の選択された溶剤のうちのi番目の溶剤を示し、Sは、N個の選択された溶剤のうちのj番目の溶剤を示す)
前記第3データ入力モジュールで計算された溶剤SとSに対するΔdel(S,S)値を、設定された閾値(cut−off)と比較して、Δdel(S,S)値が閾値のδ以下の場合、溶剤SとSの有する構造的効果が類似すると判断し、Δdel(S,S)値が閾値のδ超過の場合、溶剤SとSの有する構造的効果が異なると判断して、N個の溶剤に対する構造的効果を定量的に評価する第4データ入力モジュール(前記δは、0.0〜1.0の実数であり、Δdel(S,S)=Δdel(S,S)である)。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る溶剤の反応性を決定する構造的効果に対する類似性評価方法は、類似の構造的効果を有する溶剤が有し得る特性を定量的に推定することができる。したがって、本発明に係る定量的な溶剤の構造的効果の評価方法は、溶剤の反応性向上のための新たな方法の開発または新たな特性を有する反応を設計する上で今後非常に重要に使用されることが期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
参照として、本発明の下記の計算式で定義された定数は、本発明で開発された方法がよく動作する範囲に基づいて限定した定数値である。
【0010】
本発明において、構造的効果とは、2つ以上の溶剤の官能基が反応する時、官能基周辺の構成原子によって、反応性の差を示すことを意味する。
【0011】
例えば、Aという物質における官能基(functional group)のメチル基(−CH)と、Bという物質の水酸化基(−OH)とが互いに接して反応をしてHOになると仮定する。この時、メチル基(−CH)が分子の外郭に導出されている場合には、水酸化基(−OH)とうまく接して反応をすることができる。しかし、メチル基(−CH)がA物質の他の分子に囲まれている場合は、水酸化基(−OH)にうまく接することができず、反応がうまく起こらなくなる。この差を構造的効果による反応性の差という。
【0012】
本発明において、溶剤は、固体または液体状態であってもよい。
【0013】
本発明の溶剤の反応性を決定する構造的効果に対する類似性評価方法は、
a)溶剤の構造的効果の測定に使用されるN個の溶剤を選択するステップ(前記Nは、3以上の自然数である)と、
b)前記a)ステップで選択されたN個の溶剤に対する構造的効果を評価するステップとして下記のi)〜iv)ステップとを含む。
i)a)ステップで選択されたN個の溶剤のうち、溶剤Sに対するR(S)を、下記式1〜式3を用いて計算するステップと、
[式1]
【数9】
[式2]
【数10】
[式3]
【数11】
(前記式1〜式3において、Sは、N個の選択された溶剤のうちのi番目の溶剤を示し、MVbase(S)は、溶剤Sに対するモル体積(Molar Volume)を示し、m(S)は、溶剤Sに対する分子体積(Molecular Volume)を示す値でマッゴーワン体積(McGowan Molecular volume)またはファンデルワールス体積(van der Waals Volume)であり、Nは、アボガドロ定数(Avogadro constant)であり、Rdは、分子構造(Molecular Structure)に対する特性長さを示す値で分子回転半径(Molecular Radius of Gyration)であり、定数kとkは、0.0でない実数であり、定数wは、0.0より大きい実数である)
ii)前記i)ステップで計算されたN個のR(S)に対する平均値(AVG)と標準偏差(SD)を用いて正規分布を設定し、N個のR(S)に対する累積分布関数(cumulative distribution function)を計算して、累積確率値のρ(S)を求めるステップと、
iii)溶剤SとSに対するそれぞれの累積確率値の差であるΔdel(S,S)を、下記式4を用いて計算するステップと、
[式4]
【数12】
(前記式4において、Sは、N個の選択された溶剤のうちのi番目の溶剤を示し、Sは、N個の選択された溶剤のうちのj番目の溶剤を示す)
iv)前記iii)ステップで計算された溶剤SとSに対するΔdel(S,S)値を、設定された閾値(cut−off)と比較して、Δdel(S,S)値が閾値のδ以下の場合、溶剤SとSの有する構造的効果が類似すると判断し、Δdel(S,S)値が閾値のδ超過の場合、溶剤SとSの有する構造的効果が異なると判断して、N個の溶剤に対する構造的効果を定量的に評価するステップ(前記δは、0.0〜1.0の実数であり、Δdel(S,S)=Δdel(S,S)である)。
【0014】
具体的には、前記a)ステップは、溶剤の構造的効果の測定に使用されるN個の溶剤を選択するステップで、前記Nは、最小限3以上の自然数であることが好ましく、Nが3より大きい値を有する場合、特別な制限はないが、Nは、3〜100の自然数であることがより好ましい。本発明は、類似の構造的効果を示す溶媒を分類することを目的とするが、区分すべき溶媒の数(N)が大きくなるほど溶媒が互いに重なる効果(overlapping effect)が発生し得る。例えば、N=3の場合に、溶媒がA1、A2、A3がある時、本発明の適用によりA1とA2は類似し、A3は類似しないということができるが、仮にNが100以上の自然数であるNとすれば、A1からANの中でA2がA1にも類似し、A2がA10にも類似することができる。このように互いに類似する状況が多く重なると、本発明を通しても、区分がつきにくいという点を考慮して、Nを3〜100に限定した。
【0015】
前記溶剤に対する構造的効果の評価は、溶剤の反応性に対する類似性を評価して溶剤を分類するものであってもよい。
【0016】
前記a)ステップで選択されたN個の溶剤の構造的効果の測定は、下記に記述したb)ステップの計算により進行させることができる。
【0017】
前記b)ステップは、前記a)ステップで選択されたN個の溶剤に対する構造的効果を評価するステップとして前記i)〜iv)ステップを含む。また、前記b)ステップの式1で使用される定数kは、0.0〜4.0の実数であり、kは、0.0〜10.0の実数であることがより好ましく、前記b)ステップの式3で使用される定数wは、0.0〜3.0の実数であることがより好ましい。
【0018】
前記b)ステップの閾値(cut−off)であるδは特別な制限はないが、0.0〜1.0の実数であることが好ましく、0.01〜0.40の実数であることがより好ましい。閾値(cut−off)は、基準となる値で、評価しようとする溶剤の種類によって変化可能な値(flexible value)である。この場合は、予め定めた閾値よりΔdel(S,S)値の大きさが小さいか等しい場合にのみ、溶剤SとSの有する構造的効果が類似すると判断することができ、その他の場合は、溶剤が互いに構造的効果が異なると判断することができる。前記のような定量的な評価を通して構造的効果が類似する溶剤を区分することができる。
Δdel(S,S)<δ→構造的効果が類似する
Δdel(S,S)>δ→構造的効果が互いに異なる
Δdel(S,S)=Δdel(S,S
【0019】
また、本発明は、上記で説明した溶剤の反応性を決定する構造的効果に対する類似性評価方法を用いた溶剤の反応性を決定する構造的効果に対する類似性評価システムを提供する。
【0020】
本発明の溶剤の反応性を決定する構造的効果に対する類似性評価システムは、
溶剤の構造的効果の測定に使用されるN個の溶剤を選択する選択モジュール(前記Nは、3以上の自然数である)と、
前記選択モジュールで選択されたN個の溶剤に対する構造的効果を評価する評価モジュールとして下記の第1データ入力モジュール〜第4データ入力モジュールとを含む。
選択モジュールで選択されたN個の溶剤のうち、溶剤Sに対するR(S)を、下記式1〜式3を用いて計算する第1データ入力モジュールと、
[式1]
【数13】
[式2]
【数14】
[式3]
【数15】
【0021】
(前記式1〜式3において、Sは、N個の選択された溶剤のうちのi番目の溶剤を示し、MVbase(S)は、溶剤Sに対するモル体積(Molar Volume)を示し、m(S)は、溶剤Sに対する分子体積(Molecular Volume)を示す値でマッゴーワン体積(McGowan Molecular volume)またはファンデルワールス体積(van der Waals Volume)であり、Nは、アボガドロ定数(Avogadro constant)であり、Rdは、分子構造(Molecular Structure)に対する特性長さを示す値で分子回転半径(Molecular Radius of Gyration)であり、定数kとkは、0.0でない実数であり、定数wは、0.0より大きい実数である)
前記第1データ入力モジュールで計算されたN個のR(S)に対する平均値(AVG)と標準偏差(SD)を用いて正規分布を設定し、N個のR(S)に対する累積分布関数(cumulative distribution function)を計算して、累積確率値のρ(S)を求める第2データ入力モジュールと、
溶剤SとSに対するそれぞれの累積確率値の差であるΔdel(S,S)を、下記式4を用いて計算する第3データ入力モジュールと、
[式4]
【数16】
(前記式4において、Sは、N個の選択された溶剤のうちのi番目の溶剤を示し、Sは、N個の選択された溶剤のうちのj番目の溶剤を示す)
前記第3データ入力モジュールで計算された溶剤SとSに対するΔdel(S,S)値を、設定された閾値(cut−off)と比較して、Δdel(S,S)値が閾値のδ以下の場合、溶剤SとSの有する構造的効果が類似すると判断し、Δdel(S,S)値が閾値のδ超過の場合、溶剤SとSの有する構造的効果が異なると判断して、N個の溶剤に対する構造的効果を定量的に評価する第4データ入力モジュール(前記δは、0.0〜1.0の実数であり、Δdel(S,S)=Δdel(S,S)である)。
【0022】
具体的には、前記選択モジュールは、溶剤の構造的効果の測定に使用されるN個の溶剤を選択するモジュールで、前記Nは、最小限3以上の自然数であることが好ましく、Nが3より大きい値を有する場合、特別な制限はないが、Nは、3〜100の自然数であることがより好ましい。
【0023】
前記溶剤に対する構造的効果の評価は、溶剤の反応性に対する類似性を評価して溶剤を分類するものであってもよい。
【0024】
前記選択モジュールで選択されたN個の溶剤の構造的効果の測定は、下記に記述した評価モジュールの計算により進行させることができる。
【0025】
前記評価モジュールは、前記選択モジュールで選択されたN個の溶剤に対する構造的効果を評価するモジュールとして前記第1データ入力モジュール〜第4データ入力モジュールを含む。また、前記評価モジュールの式1で使用される定数kは、0.0〜4.0の実数であり、kは、0.0〜10.0の実数であることがより好ましく、前記評価モジュールの式3で使用される定数wは、0.0〜3.0の実数であることがより好ましい。
【0026】
前記評価モジュールの閾値(cut−off)のδは、0.0〜1.0の実数であることが好ましく、0.01〜0.40の実数であることがより好ましい。閾値(cut−off)は、基準となる値で、評価しようとする溶剤の種類によって変化可能な値(flexible value)である。この場合は、予め定めた閾値よりΔdel(S,S)値の大きさが小さいか等しい場合にのみ、溶剤SとSの有する構造的効果が類似すると判断することができ、その他の場合は、溶剤が互いに構造的効果が異なると判断することができる。前記のような定量的な評価を通して構造的効果が類似する溶剤を区分することができる。
Δdel(S,S)<δ→構造的効果が類似する
Δdel(S,S)>δ→構造的効果が互いに異なる
Δdel(S,S)=Δdel(S,S
【0027】
また、本明細書で記載したモジュール(module)という用語は、特定の機能や動作を処理する1つの単位を意味し、これは、ハードウェアやソフトウェア、またはハードウェアおよびソフトウェアの結合で実現することができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明するが、下記に開示される本発明の実施形態はあくまで例示であって、本発明の範囲はこれらの実施形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲に示され、なおかつ特許請求の範囲の記録と均等の意味および範囲内でのあらゆる変更を含んでいる。
【0029】
実施例
ステップ1.構造的効果を測定するN個の溶剤の選択
構造の類似性を評価する溶剤として、下記の8つの溶剤を選択した。
【0030】
1.エタノール(Ethanol)2.イソプロピルアルコール(Isopropyl alcohol)3.酢酸(Acetic acid)4.ブタノール(n−Butanol)5.ギ酸(Formic acid)6.ペンタノール(n−pentanol)7.ベンジルアルコール(Benzyl alcohol)8.ヘキサノール(n−Hexanol)
【0031】
ステップ2.選択されたN個の溶剤に対する構造的効果の評価
前記ステップ1で選択された8つの溶剤Sに対するR(S)を、下記式1〜式3を用いて計算して、それぞれの溶剤によるR(S)値を表1に示した。
[式1]
【数17】
[式2]
【数18】
[式3]
【数19】
【0032】
前記計算において、m(S)は、それぞれの溶剤Sに対するマッゴーワン体積(McGowan Molecular volume)に設定し、Rdは、それぞれの溶剤Sに対する分子回転半径(Molecular Radius of Gyration)に設定した。定数kとkは、それぞれ1.0と0.12に設定し、定数wは、1.3に設定した。アボガドロ定数のNは、約6.02214×1023mol−1に設定した。この場合、それぞれの溶剤に対する値は、m(S)は27.1ml/mol、m(S)は35.5ml/mol、m(S)は28.0ml/mol、m(S)は44.0ml/mol、m(S)は19.5ml/mol、m(S)は52.5ml/mol、m(S)は55.1ml/mol、m(S)は61.0ml/molである。そして、Rd1は1.20Å、Rd2は1.38Å、Rd3は1.27Å、Rd4は1.92Å、Rd5は1.03Å、Rd6は2.28Å、Rd7は2.00Å、Rd8は2.64Åである。
【0033】
【表1】
【0034】
前記で計算された8つの溶剤SのR(S)に対する平均値(AVG)と標準偏差(SD)を用いて正規分布を設定し、累積分布関数(cumulative distribution function)を計算して累積分布関数値の累積確率値ρ(S)を求めて、それぞれの値を下記表2に示した。
【0035】
【表2】
【0036】
その後に、8つの溶剤のうち、それぞれi番目の溶剤を示すSとj番目の溶剤を示すSに対する累積分布関数(cumulative distribution function)値の累積確率値ρ(S)の差を、下記式4を用いて計算した。
[式4]
【数20】
【0037】
全体8つの溶剤を選択する場合、このうち、前記式4を用いて計算されたΔdel(S,S)が、設定された閾値(cut−off)のδ以下の場合、構造的効果が互いに類似する溶剤を探索して、評価の結果、構造的効果が互いに類似することが期待される溶剤を表3に示した。閾値(cut−off)のδは0.05に設定した。
Δdel(S,S)≦δ→構造的効果が類似する
【0038】
【表3】
【0039】
前記過程を通した定量的な評価の結果、互いに類似する構造的効果を示すと判断された溶剤は、閾値(cut−off)のδが0.05の場合、閾値以下の値である、次に示した3つの場合で確認することができた。
(1)エタノールとイソプロピルアルコール(2)ブタノールとギ酸(3)ベンジルアルコールとヘキサノール
【0040】
また、前記溶剤のうち、酢酸およびペンタノールと類似の構造的効果を示すと判断された溶剤はないことが、計算の結果を通して確認することができた。
【0041】
前記方法により溶剤が有し得る類似の構造的効果の特性を定量的に推定可能で、溶剤の反応性向上のための新たな方法の開発または新たな特性を有する反応を設計することができた。