特許第6395340号(P6395340)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人大阪大学の特許一覧

<>
  • 特許6395340-光量子化器 図000002
  • 特許6395340-光量子化器 図000003
  • 特許6395340-光量子化器 図000004
  • 特許6395340-光量子化器 図000005
  • 特許6395340-光量子化器 図000006
  • 特許6395340-光量子化器 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6395340
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】光量子化器
(51)【国際特許分類】
   G02F 7/00 20060101AFI20180913BHJP
   G02F 1/21 20060101ALI20180913BHJP
   G02F 1/01 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   G02F7/00
   G02F1/21
   G02F1/01 D
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-503398(P2017-503398)
(86)(22)【出願日】2016年2月16日
(86)【国際出願番号】JP2016054376
(87)【国際公開番号】WO2016140048
(87)【国際公開日】20160909
【審査請求日】2017年8月2日
(31)【優先権主張番号】特願2015-44007(P2015-44007)
(32)【優先日】2015年3月5日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、総務省、戦略的国際連携型研究開発推進事業「クロストーク分析に基づき最適化されたマルチキャリアを収容可能な柔軟性のある全光OFDM技術の研究開発」に係る委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】小西 毅
【審査官】 佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−523849(JP,A)
【文献】 特開平10−028055(JP,A)
【文献】 T. Satoh, et al.,Power-Saving Approach Toward 7-bit Optical Quantization for Photonic Analog-to-Digital Conversion,2013 Conference on Lasers and Electro-Optics Pacific Rim (CLEO-PR),2013年 6月30日,TuO1-2
【文献】 Tsuyoshi Konishi, Motoki Hiraoka, Yu Yamasaki, and tomotaka Nagashima,Linear technique of optical quantization for photonic analog-to digital conversion,2016 IEEE Photonics Conference ,IEEE,2016年10月 6日,IPC 2016 7831227,pp. 554-555
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00 − 1/125
1/21 − 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力されたアナログ信号を、サンプリング用光パルスを用いてディジタル信号に変換する光A/D変換器のための光量子化器であって、
前記サンプリング用光パルスに対して、少なくとも、前記アナログ信号で強度変調することにより、前記サンプリング用光パルスが前記アナログ信号で強度変調され、かつ、スペクトル軸方向に強度が平坦なスペクトルを有する第1光パルスを生成する第1整形部と、
前記サンプリング用光パルスに対して、スペクトル整形をすることにより、スペクトル軸方向に強度が単調増加又は単調減少するスペクトルを有する第2光パルスを生成する第2整形部と、
前記第1整形部又は前記第2整形部に備えられ、前記第1光パルスと前記第2光パルスとの位相差が所定の位相差となるように、前記第1整形部又は前記第2整形部に入力された光パルスの位相をシフトする位相シフト器と、
前記第1光パルスと前記第2光パルスとを干渉させる干渉器と、
前記干渉器から出力された光パルスを複数の波長帯に分波する波長分波器と
を備える光量子化器。
【請求項2】
前記第1整形部は、さらに、前記強度変調で得られた光パルスに対してスペクトル整形をすることにより、前記第1光パルスを生成する
請求項1記載の光量子化器。
【請求項3】
入力されたアナログ信号を、サンプリング用光パルスを用いてディジタル信号に変換する光A/D変換器のための光量子化器であって、
前記サンプリング用光パルスに対して、少なくとも、前記アナログ信号で強度変調することにより、前記サンプリング用光パルスが前記アナログ信号で強度変調され、かつ、空間軸方向に強度が平坦な空間強度分布を有する第1光パルスを生成する第1整形部と、
前記サンプリング用光パルスに対して、空間強度分布の整形をすることにより、前記空間軸方向に強度が単調増加又は単調減少する空間強度分布を有する第2光パルスを生成する第2整形部と、
前記第1整形部又は前記第2整形部に備えられ、前記第1光パルスと前記第2光パルスとの位相差が所定の位相差となるように、前記第1整形部又は前記第2整形部に入力された光パルスの位相をシフトする位相シフト器と、
前記第1光パルスと前記第2光パルスとを干渉させる干渉器と、
前記干渉器から出力された光パルスに対して、前記空間軸方向に分割された複数の分割空間のそれぞれでの強度を検出する光検出器と
を備える光量子化器。
【請求項4】
前記第1整形部は、さらに、前記強度変調で得られた光パルスに対して、空間強度分布の整形をすることにより、前記第1光パルスを生成する
請求項3記載の光量子化器。
【請求項5】
前記所定の位相差は、略180度である
請求項1〜4のいずれか1項に記載の光量子化器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光量子化器に関し、特に、入力されたアナログ信号を、サンプリング用光パルスを用いてディジタル信号に変換する光A/D変換器のための光量子化器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のA/D変換技術では、アナログ信号をディジタル信号に変換するための主要な処理(サンプリング、量子化、符号化)を電気的に実現している。実世界のアナログ信号は、ほとんどの場合ディジタル技術を用いて処理されているため、アナログ信号をディジタル信号に変換するA/D変換技術はあらゆる分野において必要不可欠の技術となっている。特に、数十GHzを超える超広帯域なアナログ信号を扱うようなリモートセンシング(レーダー観測、天文観測など)の分野だけでなく、100Gbps(Giga-bit per sec)を超える超広帯域光通信などの情報通信分野においてはますます重要となってきており、より高性能なA/D変換器が求められている。
【0003】
現在の電気的なA/D変換器は、最高で100Gsps(Giga-sample per sec)程度の性能を実現しているものもあるが、10Gsps程度のものを複数個、組み合わせた構成となっている。これらの性能は、基本構成要素である10GspsのA/D変換器の性能に依存しており、技術レベルとしては、既に完成度が高く、これ以上の超広帯域化は、消費電力やサンプリングの時間ジッタの問題により難しくなっているのが現状である。
【0004】
これらの課題を解決するために、最近、A/D変換器の光化が検討されている(非特許文献1、2参照)。これら非特許文献1、2では、A/D変換器における量子化器の光化(光量子化器)として、自己周波数シフトなどの非線形光学効果を利用する方法、あるいは、複数の光アクティブデバイスの並列利用による方法などが紹介されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】DSA8300型サンプリング・オシロスコープ用80C00シリーズ光サンプリング・モジュール・データ・シート、[online]、最終更新日:2014−09−16 07:00:00、TEKTRONIX,INC.、[2015年2月1日検索]、インターネット<URL:http://jp.tek.com/datasheet/default-accessory-series-2>
【非特許文献2】G.C.Valley,“Photonic analog−to−digital converters.” Optics Express 15.5 1955−1982 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の光量子化器では、消費電力の低減に限界がある。つまり、自己周波数シフトなどの非線形光学効果を利用する方法では、そのような非線形光学効果を生じさせるだけの大きな消費電力が必要とされる。また、複数の光アクティブデバイス又は電子デバイス(電気的なADCなど)の並列利用による方法では、複数の光アクティブデバイス又は電子デバイスを動作させるだけの大きな消費電力が必要とされる。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、低消費電力化を可能にする光量子化器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一形態に係る光量子化器は、入力されたアナログ信号を、サンプリング用光パルスを用いてディジタル信号に変換する光A/D変換器のための光量子化器であって、前記サンプリング用光パルスに対して、少なくとも、前記アナログ信号で強度変調することにより、前記サンプリング用光パルスが前記アナログ信号で強度変調され、かつ、スペクトル軸方向に強度が平坦なスペクトルを有する第1光パルスを生成する第1整形部と、前記サンプリング用光パルスに対して、スペクトル整形をすることにより、スペクトル軸方向に強度が単調増加又は単調減少するスペクトルを有する第2光パルスを生成する第2整形部と、前記第1整形部又は前記第2整形部に備えられ、前記第1光パルスと前記第2光パルスとの位相差が所定の位相差となるように、前記第1整形部又は前記第2整形部に入力された光パルスの位相をシフトする位相シフト器と、前記第1光パルスと前記第2光パルスとを干渉させる干渉器と、前記干渉器から出力された光パルスを複数の波長帯に分波する波長分波器とを備える。
【0009】
これによれば、サンプリング用光パルスがA/D変換の入力であるアナログ信号で強度変調され、かつ、スペクトル軸方向に強度が平坦なスペクトルを有する第1光パルスと、スペクトル軸方向に強度が単調増加又は単調減少するスペクトルを有する第2光パルスとが、所定の位相差(例えば、180度)をもった状態で干渉され、複数の波長帯に分波される。
【0010】
第1光パルスと第2光パルスとは、所定の位相差(例えば、180度)が設けられているので、第1光パルスの強度と第2光パルスの強度とが同じになる波長帯において、干渉後の光パルスの強度が最小(例えば、ゼロ)となるので、複数の波長帯に分波された光パルスのうち、強度が最も小さい光パルスが出力される波長帯を特定することで、その波長帯に対応する第2光パルスの強度、つまり、第1光パルスの強度を特定でき、特定した第1光パルスの強度から、第1整形部における強度変調の特性を考慮することで、入力されたアナログ信号の強度を特定することができる。つまり、複数の波長帯に分波された光パルスのうち、最も強度が小さい光パルスが出力される波長帯がどれであるかという位置情報(複数の波長帯のうちの一つを示すディジタル値)は、入力されたアナログ信号の強度に依存して決定されることになり、スペクトル領域を利用したA/D変換が行われる。
【0011】
このような光量子化では、大きな電力を必要とする非線形光学効果を用いることなく、小さな電力で実現できる線形現象(干渉)が用いられる。また、光アクティブデバイス及び電子デバイスなどの電力を要するデバイスを用いることなく、波長分波器などの光学デバイスで実現され得る。よって、低消費電力化を可能にする光量子化器が実現される。
【0012】
ここで、前記第1整形部は、さらに、前記強度変調で得られた光パルスに対してスペクトル整形をすることにより、前記第1光パルスを生成してもよい。
【0013】
これにより、第1整形部において、スペクトル軸方向に強度が平坦なスペクトルを有する第1光パルスを生成するためのスペクトル整形が行われるので、サンプリング用光パルスが、スペクトル軸方向に強度が平坦なスペクトルを有する光パルスでなくても、第1整形部から、スペクトル軸方向に強度が平坦なスペクトルを有する第1光パルスが生成され、A/D変換が行われ得る。
【0014】
また、上記目的を達成するために、本発明の一形態に係る光量子化器は、入力されたアナログ信号を、サンプリング用光パルスを用いてディジタル信号に変換する光A/D変換器のための光量子化器であって、前記サンプリング用光パルスに対して、少なくとも、前記アナログ信号で強度変調することにより、前記サンプリング用光パルスが前記アナログ信号で強度変調され、かつ、空間軸方向に強度が平坦な空間強度分布を有する第1光パルスを生成する第1整形部と、前記サンプリング用光パルスに対して、空間強度分布の整形をすることにより、前記空間軸方向に強度が単調増加又は単調減少する空間強度分布を有する第2光パルスを生成する第2整形部と、前記第1整形部又は前記第2整形部に備えられ、前記第1光パルスと前記第2光パルスとの位相差が所定の位相差となるように、前記第1整形部又は前記第2整形部に入力された光パルスの位相をシフトする位相シフト器と、前記第1光パルスと前記第2光パルスとを干渉させる干渉器と、前記干渉器から出力された光パルスに対して、前記空間軸方向に分割された複数の分割空間のそれぞれでの強度を検出する光検出器とを備える。
【0015】
これによれば、サンプリング用光パルスがA/D変換の入力であるアナログ信号で強度変調され、かつ、空間軸(例えば、水平方向を示すX軸)方向に強度が平坦な空間強度分布を有する第1光パルスと、空間軸方向に強度が単調増加又は単調減少する空間強度分布を有する第2光パルスとが、所定の位相差(例えば、180度)をもった状態で干渉され、干渉後の光パルスについて、空間軸方向に分割された複数の分割空間のそれぞれでの強度が検出される。
【0016】
第1光パルスと第2光パルスとは、所定の位相差(例えば、180度)が設けられているので、第1光パルスの強度と第2光パルスの強度とが同じになる空間位置において、干渉後の光パルスの強度が最小(例えば、ゼロ)となるので、複数の分割空間に分割された光パルスのうち、強度が最も小さい光パルスが出力される分割空間を特定することで、その分割空間に対応する第2光パルスの強度、つまり、第1光パルスの強度を特定でき、特定した第1光パルスの強度から、第1整形部における強度変調の特性を考慮することで、入力されたアナログ信号の強度を特定することができる。つまり、複数の分割空間に分割された光パルスのうち、最も強度が小さい光パルスが出力される分割空間がどれであるかという位置情報(複数の分割空間のうちの一つを示すディジタル値)は、入力されたアナログ信号の強度に依存して決定されることになり、空間領域を利用したA/D変換が行われる。
【0017】
このような光量子化では、大きな電力を必要とする非線形光学効果を用いることなく、小さな電力で実現できる線形現象(干渉)が用いられる。また、空間強度分布の整形については、光アクティブデバイス及び電子デバイスなどの電力を要するデバイスを用いることなく、光学フィルタなどの光学デバイスで実現され得る。よって、低消費電力化を可能にする光量子化器が実現される。
【0018】
ここで、前記第1整形部は、さらに、前記強度変調で得られた光パルスに対して、空間強度分布の整形をすることにより、前記第1光パルスを生成してもよい。
【0019】
これにより、第1整形部において、空間軸方向に強度が平坦な空間強度分布を有する第1光パルスを生成するための空間整形が行われるので、サンプリング用光パルスが、空間軸方向に強度が平坦な空間強度分布を有する光パルスでなくても、第1整形部から、空間軸方向に強度が平坦な空間強度分布を有する第1光パルスが生成され、A/D変換が行われ得る。
【0020】
なお、前記所定の位相差は、略180度であってもよい。
【0021】
これにより、第1光パルスと第2光パルスとは、180度の位相差となるので、第1光パルスと第2光パルスとの干渉によって弱め合う度合が最大となり、波長分波器又は光検出器による位置情報の特定が容易となり、位置情報の精度が向上される。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、低消費電力化を可能にする光量子化器が実現される。
【0023】
つまり、本発明は、従来の電気的なAD変換器の限界を解決する光量子化の光化に対して、非線形デバイスや光アクティブデバイスを高性能化することなく、光量子化を実現している。これにより、従来の光量子化器に比べ、容易に10倍以上の低消費電力化が実現される。また、光アクティブデバイスの並列利用が必要ないためにコストを低く抑えることができるので、大きな経済的効果も発揮され得る。
【0024】
つまり、本発明では、非線形光学効果を用いることなく、線形な現象である干渉現象のみを用いている。この結果、従来の消費電力性能を決めていた非線形デバイス、光アクティブデバイス及び電子デバイスの高性能化及び並列化をすることなく、容易に低消費電力化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、本発明の実施の形態1における光量子化器の構成を示すブロック図である。
図2図2は、同光量子化器の動作を確認する実験結果を示す図である。
図3図3は、実施の形態1の変形例に係る光量子化器の構成を示すブロック図である。
図4図4は、発明の実施の形態2における光量子化器の構成を示すブロック図である。
図5図5は、実施の形態2の変形例に係る光量子化器の構成を示すブロック図である。
図6図6は、実施の形態1における波長分波器及び実施の形態2における光検出器の離散的出力特性を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一態様に係る光量子化器について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、処理順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0027】
(実施の形態1)
まず、本発明の実施の形態1における光量子化器について説明する。
【0028】
図1は、本発明の実施の形態1における光量子化器10の構成を示すブロック図である。この光量子化器10は、入力されたアナログ信号を、サンプリング用光パルスを用いてディジタル信号に変換する光A/D変換器のための光量子化器であって、スペクトル領域を利用して低消費電力で光量子化を行う特徴を有する。光量子化器10は、図示されるように、主要な構成要素として、第1整形部20、第2整形部30、干渉器12、及び、波長分波器14を備える。各構成要素は、光ファイバケーブル、光導波路、又は、空間等の伝送媒体によって接続されている。
【0029】
なお、図1には、主要な信号経路に、概括的な信号の波形、スペクトル(図1の(a)〜(d))、及び、強度分布特性(図1の(e))が図示されている。
【0030】
サンプリング用光パルスは、例えば、100GHzの繰り返し周波数で入力される光パルス列であり、図1の(a)に示されるようなスペクトルを有し、光カプラなどで分岐されて第1整形部20及び第2整形部30に入力される。
【0031】
第1整形部20は、入力されたサンプリング用光パルスに対して、少なくとも、A/D変換の入力信号であるアナログ信号で強度変調することにより、サンプリング用光パルスがアナログ信号で強度変調され、かつ、スペクトル軸方向に強度が平坦なスペクトルを有する第1光パルスを生成する処理部の一例であり、本実施の形態では、強度変調器22、第1スペクトル整形器24、及び、位相シフト器26から構成される。
【0032】
なお、「スペクトル軸方向に強度が平坦なスペクトル」とは、求められる波長帯(例えば、サンプリング用光パルスが有する波長帯)において、求められるA/D変換の精度(変換精度等)に応じて予め定められる範囲内の強度の平坦度を有するスペクトルをいい、必ずしも直線的に平坦な強度を有するスペクトルだけでなく、例えば、上記波長帯における強度(エネルギー)が中心強度(平均強度)から±6dBの範囲内に収まっているスペクトルであってもよいし、より好ましくは、上記波長帯における強度(エネルギー)が中心強度(平均強度)から±3dBの範囲内に収まっているスペクトルであってもよいし、更に好ましくは、上記波長帯における強度(エネルギー)が中心強度(平均強度)から±E%(Eは、30、20、又は10等)の範囲内に収まっているスペクトルであってもよい。
【0033】
強度変調器22は、入力されたサンプリング用光パルスに対して、A/D変換の入力となるアナログ信号で強度変調し、これによって、アナログ信号が重畳された光パルスを生成する変調器であり、例えば、マッハツェンダ型光強度変調器である。マッハツェンダ型光強度変調器は、電気信号により透過光強度を変化させる光変調器の一種であり、2つの光導波路に電圧を印加することによって光導波路中の光の位相を変化させ、再度合波して干渉させることで光の強度を変化させる装置である。
【0034】
第1スペクトル整形器24は、強度変調器22から出力された光パルスに対して、スペクトル整形を施すことで、スペクトル軸方向に強度が平坦なスペクトルを有する光パルスに変換するスペクトル整形器であり、例えば、光分波器、分波後の各波長帯の光パルスに対して、平坦なスペクトルを得るための所定の透過率で透過させる光学フィルタ群、及び、光学フィルタ群を通過後の各光パルスを合波する光合波器などによって実現される。
【0035】
位相シフト器26は、第1整形部20から出力される第1光パルスと第2整形部30から出力される第2光パルスとの位相差が所定の位相差(ここでは、180度)となるように、第1スペクトル整形器24から出力された光パルスの位相をシフトさせるものであり、例えば、第1スペクトル整形器24から出力された光パルスの波長帯(より厳密には、波長帯の中心波長)における180度の位相に相当する長さの光ファイバケーブル又は光導波路である。
【0036】
なお、位相シフト器26は、第1整形部20ではなく、第2整形部30に設けられてもよい。つまり、位相シフト器26は、第1整形部20又は第2整形部30に備えられ、第1整形部20から出力される第1光パルスと第2整形部30から出力される第2光パルスとの位相差が所定の位相差(ここでは、180度)となるように、第1整形部20又は第2整形部30に入力された光パルスの位相をシフトするものであれば、第1整形部20及び第2整形部30のいずれに設けられてもよい。
【0037】
第2整形部30は、入力されたサンプリング用光パルスに対して、スペクトル整形をすることにより、スペクトル軸方向に強度が単調増加又は単調減少するスペクトルを有する第2光パルスを生成する処理部の一例であり、第2スペクトル整形器32で構成される。第2スペクトル整形器32は、入力されたサンプリング用光パルスに対して、スペクトル整形をすることにより、スペクトル軸方向に強度が単調増加又は単調減少するスペクトルを有する第2光パルスを生成するスペクトル整形器であり、例えば、光分波器、分波後の各波長帯の光パルスに対して、単調増加又は単調減少するスペクトルを得るための所定の透過率で透過させる光学フィルタ群、及び、光学フィルタ群を通過後の各光パルスを合波する光合波器などによって実現される。
【0038】
なお、スペクトル軸方向に強度が単調増加又は単調減少するスペクトルは、例えば、図1の(c)に示されるように、サンプリング用光パルスが有していた波長帯において、A/D変換の入力レンジにおける最大強度(例えば、10V)と最小強度(例えば、0V)とを接続する単調増加又は単調減少する直線又は曲線状の強度を有するスペクトルである。ここで、本実施の形態における「単調増加(又は、単調減少)」とは、スペクトル軸方向に強度が完全に単調増加(又は、単調減少)することだけでなく、例えば、求められる波長帯(例えば、サンプリング用光パルスが有する波長帯)における強度(エネルギー)がスペクトルの近似直線(又は、近似曲線)から±6dBの範囲内に収まっていることを意味してもよいし、より好ましくは、上記波長帯における強度(エネルギー)がスペクトルの近似直線(又は、近似曲線)から±3dBの範囲内に収まっていることを意味してもよいし、更に好ましくは、上記波長帯における強度(エネルギー)がスペクトルの近似直線(又は、近似曲線)から±E%(Eは、30、20、又は10等)の範囲内に収まっていることを意味してもよい。
【0039】
干渉器12は、第1整形部20から出力される第1光パルスと第2整形部30から出力される第2光パルスとを干渉させる光結合器であり、例えば、光カプラなどである。
【0040】
波長分波器14は、干渉器12から出力された光パルスを複数の波長帯に分波する光分波器であり、例えば、16個の出力ポートを有する(16個の波長帯に分波する)アレイ導波回折格子(AWG;Arrayed Waveguide Grating)などである。
【0041】
次に、以上のように構成された本実施の形態における光量子化器10の動作について説明する。
【0042】
入力されたサンプリング用光パルスは、光カプラなどで分岐され、第1整形部20を構成する強度変調器22及び第2整形部30を構成する第2スペクトル整形器32に入力される。なお、本実施の形態では、サンプリング用光パルスを構成する個々の光パルスは、図1の(a)に示されるように、山形のスペクトルを有する。
【0043】
強度変調器22は、入力されたサンプリング用光パルスに対して、A/D変換の入力となるアナログ信号で強度変調し、第1スペクトル整形器24に出力する。
【0044】
第1スペクトル整形器24は、強度変調器22から出力された光パルスに対して、スペクトル整形を施すことで、スペクトル軸方向に強度が平坦なスペクトルを有する光パルスに変換し、位相シフト器26に出力する。
【0045】
位相シフト器26は、第1整形部20から出力される第1光パルスと第2整形部30から出力される第2光パルスとの位相差が所定の位相差(ここでは、180度)となるように、予め定められた位相だけ、第1スペクトル整形器24から出力された光パルスの位相をシフトさせ、第1光パルスとして、干渉器12に出力する。
【0046】
このような第1整形部20での処理により、位相シフト器26から出力される光パルス、つまり、第1整形部20から出力される第1光パルスは、図1の(b)に示されるスペクトルを有する。つまり、第1光パルスは、サンプリング用光パルスが有していた波長帯において、入力されたアナログ信号の強度に対応する高さの平坦領域を有するスペクトルを有する。
【0047】
一方、第2整形部30では、第2スペクトル整形器32は、入力されたサンプリング用光パルスに対して、スペクトル整形をすることにより、スペクトル軸方向に強度が単調増加又は単調減少するスペクトルを有する光パルスに変換し、第2光パルスとして、干渉器12に出力する。その結果、第2整形部30から出力される第2光パルスは、例えば、図1の(c)に示されるようなスペクトルを有する。つまり、第2光パルスは、サンプリング用光パルスが有していた波長帯において、A/D変換の入力レンジにおける最大強度と最小強度とを接続する単調減少する直線状の強度となるスペクトルを有する。
【0048】
干渉器12は、第1整形部20から出力される第1光パルスと第2整形部30から出力される第2光パルスとを干渉させ、波長分波器14に出力する。ここで、第1光パルスと第2光パルスとは、所定の位相差(ここでは、180度)が設けられているので、第1光パルスの強度と第2光パルスの強度とが同じになる波長帯において、干渉後の光パルスの強度が最小(例えば、ゼロ)となる。よって、干渉器12での干渉によって、図1の(b)に示されるスペクトルを有する第1光パルスと、図1の(c)に示されるスペクトルを有する第2光パルスとが合波され、図1の(d)に示されるような凹型に湾曲した強度のスペクトルを有する光パルスに変換され、波長分波器14に入力される。
【0049】
波長分波器14は、入力された光パルスを複数の波長帯に分波する。図1の(e)の強度分布特性は、波長分波器14から出力される光パルスの強度分布を示す。横軸は、波長帯(つまり、波長分波器14の出力ポートの位置)を示し、縦軸は、波長帯ごとに出力される光パルスの強度を示す。波長分波器14に入力された、図1の(d)のスペクトルを有する光パルスは、波長帯ごとに分波され、図1の(e)の強度分布特性に示される強度分布で、波長分波器14の各出力ポートから出力される。
【0050】
よって、波長分波器14の各出力ポートから出力される光パルスの強度を検出する光検出器及び比較器などを用いて、強度が最も小さい光パルスが出力される出力ポート(つまり、波長帯)を特定することで、図1の(d)に示されるスペクトルにおいて最小値となる波長帯が特定される。特定された波長帯は、所定の位相差(ここでは、180度)をもつ第1光パルスの強度と第2光パルスの強度とが同じになる波長帯であることから、その波長帯に対応する第2光パルスの強度、つまり、第1光パルスの強度を特定でき、特定した第1光パルスの強度から、第1整形部における強度変調の特性を考慮することで、入力されたアナログ信号の強度を特定することができる。
【0051】
つまり、波長分波器14によって複数の波長帯に分波された光パルスのうち、最も強度が小さい光パルスが出力される波長帯(つまり、出力ポート)がどれであるかという位置情報(例えば、16個の波長帯(つまり、出力ポート)のうちの一つを示す4ビットのディジタル値)は、入力されたアナログ信号の強度に依存して決定されることになり、スペクトル領域を利用したA/D変換が行われる。
【0052】
以上の光量子化器10における動作は、入力されたサンプリング用光パルスを構成する個々の光パルスごとに繰り返される。例えば、100GHzで繰り返される。これにより、例えば、100Gspsで4ビットの出力分解能をもつ光量子化器10が実現される。
【0053】
このように、本実施の形態における光量子化器10は、大きな電力を必要とする非線形光学効果を用いることなく、小さな電力で実現できる線形現象(干渉)を用いている。また、光アクティブデバイス及び電子デバイスなどの電力を要するデバイスを用いることなく、波長分波器14などの光学デバイスで構成される。よって、本実施の形態における光量子化器10は、非線形光学効果を利用した従来の光量子化器や、複数の光アクティブデバイス又は電子デバイスを並列化して構成される従来の光量子化器に比べ、低消費電力で動作する。
【0054】
図2は、本実施の形態における光量子化器10の動作を確認する実験結果を示す図である。図2の(a)は、第1整形部20から出力された第1光パルスの波形(図2の(a1))、スペクトル(図2の(a2))、及び、図2の(a2)を拡大したスペクトル(図2の(a3))を示す。図2の(b)は、第2整形部30から出力された第2光パルスの波形(図2の(b1))、スペクトル(図2の(b2))、及び、図2の(b2)を拡大したスペクトル(図2の(b3))を示す。図2の(c)は、干渉器12から出力された干渉後の光パルスの波形(図2の(c1))、スペクトル(図2の(c2))、及び、図2の(c2)を拡大したスペクトル(図2の(c3))を示す。
【0055】
図2の(c3)に示されるスペクトルから分かるように、第1光パルスと第2光パルスとの干渉によって、第1光パルスの強度に相当する波長帯(ここでは、スペクトル軸の中央)で、強度が最小になっている。よって、強度が最小となる波長帯を波長分波器14によって特定することで、第1光パルスの強度、つまり、入力されたアナログ信号の強度が特定される。
【0056】
なお、本実施の形態では、第1整形部20は、強度変調器22、第1スペクトル整形器24、及び、位相シフト器26が、この順で直列に接続されて構成されたが、強度変調器22、第1スペクトル整形器24、及び、位相シフト器26の接続順序は、この順に限定されず、いかなる接続順であってもよい。例えば、第1整形部20は、位相シフト器26、第1スペクトル整形器24、及び、強度変調器22が、この順で直列に接続されて構成されてもよい。
【0057】
また、位相シフト器26が、第1整形部20内ではなく、第2整形部30内に設けられる場合にも、第2整形部30を構成する位相シフト器26と第2スペクトル整形器32とは、いずれが先(処理順で先)に接続されもよい。
【0058】
また、本実施の形態では、第1整形部20に、スペクトルを平坦化する第1スペクトル整形器24が設けられたが、図3に示されるように、サンプリング用光パルスを構成する個々の光パルスが平坦なスペクトルを有する場合には、第1スペクトル整形器24は不要となる。図3は、実施の形態1の変形例に係る光量子化器11の構成を示すブロック図である。図1に示された光量子化器10と同一の構成要素には、同一の符号が付されている。この変形例に係る光量子化器11は、上記実施の形態における光量子化器10に比べ、第1整形部20に第1スペクトル整形器24が設けられていない点だけが異なる。この光量子化器11では、サンプリング用光パルスを構成する個々の光パルスは、図3の(a)に示されるように、スペクトル軸方向に強度が平坦なスペクトルを有する。よって、この変形例に係る光量子化器11では、第1整形部20に第1スペクトル整形器24が備えられていないが、上記実施の形態と同様のスペクトルを有する第1光パルスが生成され、波長分波器14からは上記実施の形態と同様の信号が出力され、上記実施の形態における光量子化器10と同様の効果が奏される。
【0059】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2における光量子化器について説明する。
【0060】
図4は、本発明の実施の形態2における光量子化器50の構成を示すブロック図である。この光量子化器50は、入力されたアナログ信号を、サンプリング用光パルスを用いてディジタル信号に変換する光A/D変換器のための光量子化器であって、空間領域を利用して低消費電力で光量子化を行う特徴を有する。つまり、本実施の形態における光量子化器50は、スペクトル領域を利用して光量子化を行った実施の形態1と異なり、空間領域を利用して光量子化を行う点に特徴を有する。この光量子化器50は、図示されるように、主要な構成要素として、第1整形部60、第2整形部70、干渉器52、及び、光検出器54を備える。各構成要素は、光ファイバケーブル、光導波路、又は、空間等の伝送媒体によって接続されている。
【0061】
なお、図4には、主要な信号経路に、概括的な信号の波形、空間強度分布(図4の(a)〜(d))、及び、強度分布特性(図4の(e))が図示されている。
【0062】
サンプリング用光パルスは、例えば、100GHzの繰り返し周波数で入力される光パルス列であり、図4の(a)に示されるような空間強度分布を有し、光カプラなどで分岐されて第1整形部60及び第2整形部70に入力される。
【0063】
第1整形部60は、入力されたサンプリング用光パルスに対して、少なくとも、A/D変換の入力信号であるアナログ信号で強度変調することにより、サンプリング用光パルスがアナログ信号で強度変調され、かつ、空間軸方向に強度が平坦な空間強度分布を有する第1光パルスを生成する処理部の一例であり、本実施の形態では、強度変調器62、第1空間整形器64、及び、位相シフト器66から構成される。
【0064】
なお、「空間軸方向」とは、光パルスの進行方向に対して直交する面を構成する軸の方向であり、例えば、光パルスの進行方向に直交し、かつ、水平な方向(X軸)である。また、「空間軸方向に強度が平坦な空間強度分布」とは、求められる空間区間(例えば、サンプリング用光パルスが有していた空間軸の範囲)において、求められるA/D変換の精度(変換精度等)に応じて予め定められる範囲内の強度の平坦度を有する空間強度分布をいい、必ずしも直線的に平坦な強度を有する空間強度分布だけでなく、例えば、上記空間区間における強度(エネルギー)が中心強度(平均強度)から±6dBの範囲内に収まっている空間強度分布であってもよいし、より好ましくは、上記空間区間における強度(エネルギー)が中心強度(平均強度)から±3dBの範囲内に収まっている空間強度分布であってもよいし、更に好ましくは、上記空間区間における強度(エネルギー)が中心強度(平均強度)から±E%(Eは、30、20、又は10等)の範囲内に収まっている空間強度分布であってもよい。
【0065】
強度変調器62は、入力されたサンプリング用光パルスに対して、A/D変換の入力となるアナログ信号で強度変調し、これによって、アナログ信号が重畳された光パルスを生成する変調器であり、例えば、実施の形態1と同様のマッハツェンダ型光強度変調器である。
【0066】
第1空間整形器64は、強度変調器62から出力された光パルスに対して、空間強度分布の整形を施すことで、空間軸方向に強度が平坦な空間強度分布を有する光パルスに変換する空間整形器であり、例えば、入力された光パルスの空間軸方向の強度分布に対応した(強度が大きいほど透過率を低くした)透過率のパターンを有する光学フィルタ、より具体的には、X軸方向に、そのような透過率のパターンに対応するグレースケールのパターンを印刷したガラスなどによって実現される。
【0067】
位相シフト器66は、第1整形部60から出力される第1光パルスと第2整形部70から出力される第2光パルスとの位相差が所定の位相差(ここでは、180度)となるように、第1空間整形器64から出力された光パルスの位相をシフトさせるものであり、例えば、第1空間整形器64から出力された光パルスの波長帯(より厳密には、波長帯の中心波長)における180度の位相に相当する長さの光ファイバケーブル又は光導波路である。
【0068】
なお、位相シフト器66は、第1整形部60ではなく、第2整形部70に設けられてもよい。つまり、位相シフト器66は、第1整形部60又は第2整形部70に備えられ、第1整形部60から出力される1光パルスと第2整形部70から出力される第2光パルスとの位相差が所定の位相差(ここでは、180度)となるように、第1整形部60又は第2整形部70に入力された光パルスの位相をシフトするものであれば、第1整形部60及び第2整形部70のいずれに設けられてもよい。
【0069】
第2整形部70は、入力されたサンプリング用光パルスに対して、空間強度分布の整形をすることにより、空間軸方向に強度が単調増加又は単調減少する空間強度分布を有する第2光パルスを生成する処理部の一例であり、第2空間整形器72で構成される。第2空間整形器72は、入力されたサンプリング用光パルスに対して、空間強度分布の整形をすることにより、空間軸方向に強度が単調増加又は単調減少する空間強度分布を有する第2光パルスを生成する空間整形器であり、例えば、X軸方向に濃度が徐々に薄く(あるいは、濃く)なるグレースケールのパターンを印刷したガラスなどによって実現される。
【0070】
なお、空間軸方向に強度が単調増加又は単調減少する空間強度分布は、例えば、図4の(c)に示されるように、サンプリング用光パルスが有していた空間軸の範囲において、A/D変換の入力レンジにおける最大強度(例えば、10V)と最小強度(例えば、0V)とを接続する単調増加又は単調減少する直線又は曲線状の強度を有する空間強度分布である。ここで、本実施の形態における「単調増加(又は、単調減少)」とは、空間軸方向に強度が完全に単調増加(又は、単調減少)することだけでなく、例えば、求められる空間区間(例えば、サンプリング用光パルスが有していた空間軸の範囲)における強度(エネルギー)が空間強度分布の近似直線(又は、近似曲線)から±6dBの範囲内に収まっていることを意味してもよいし、より好ましくは、上記空間区間における強度(エネルギー)が空間強度分布の近似直線(又は、近似曲線)から±3dBの範囲内に収まっていることを意味してもよいし、更に好ましくは、上記空間区間における強度(エネルギー)が空間強度分布の近似直線(又は、近似曲線)から±E%(Eは、30、20、又は10等)の範囲内に収まっていることを意味してもよい。
【0071】
干渉器52は、第1整形部20から出力される第1光パルスと第2整形部70から出力される第2光パルスとを干渉させる光結合器であり、例えば、光カプラなどである。
【0072】
光検出器54は、干渉器52から出力された光パルスに対して、空間軸方向に分割された複数の分割空間のそれぞれでの強度を検出する光強度検出器であり、例えば、光を電気信号に変換する16個の受光素子が空間軸(ここでは、X軸)方向に並べられ、各受光素子からの電気信号を出力する16個の出力ポートを有するマルチフォトディテクタなどである。
【0073】
次に、以上のように構成された本実施の形態における光量子化器50の動作について説明する。
【0074】
入力されたサンプリング用光パルスは、光カプラなどで分岐され、第1整形部60を構成する強度変調器62及び第2整形部70を構成する第2空間整形器72に入力される。なお、本実施の形態では、サンプリング用光パルスを構成する個々の光パルスは、図4の(a)に示されるように、X軸方向に山形の空間強度分布を有する。
【0075】
強度変調器22は、入力されたサンプリング用光パルスに対して、A/D変換の入力となるアナログ信号で強度変調し、第1空間整形器64に出力する。
【0076】
第1空間整形器64は、強度変調器62から出力された光パルスに対して、空間強度分布の整形を施すことで、空間軸(ここでは、X軸)方向に強度が平坦な空間強度分布を有する光パルスに変換し、位相シフト器66に出力する。
【0077】
位相シフト器66は、第1整形部60から出力される第1光パルスと第2整形部70から出力される第2光パルスとの位相差が所定の位相差(ここでは、180度)となるように、予め定められた位相だけ、第1空間整形器64から出力された光パルスの位相をシフトさせ、第1光パルスとして、干渉器52に出力する。
【0078】
このような第1整形部60での処理により、位相シフト器66から出力される光パルス、つまり、第1整形部60から出力される第1光パルスは、図4の(b)に示される空間強度分布を有する。つまり、第1光パルスは、サンプリング用光パルスが有していた空間軸(ここでは、X軸)の範囲において、入力されたアナログ信号の強度に対応する高さの平坦領域を有する空間強度分布を有する。
【0079】
一方、第2整形部70では、第2空間整形器72は、入力されたサンプリング用光パルスに対して、空間強度分布の整形をすることにより、空間軸(ここでは、X軸)方向に強度が単調増加又は単調減少する空間強度分布を有する光パルスに変換し、第2光パルスとして、干渉器52に出力する。その結果、第2整形部70から出力される第2光パルスは、例えば、図4の(c)に示されるような空間強度分布を有する。つまり、第2光パルスは、サンプリング用光パルスが有していた空間軸(ここでは、X軸)の範囲において、A/D変換の入力レンジにおける最大強度と最小強度とを接続する単調減少する直線状の強度となる空間強度分布を有する。
【0080】
干渉器52は、第1整形部20から出力される第1光パルスと第2整形部70から出力される第2光パルスとを干渉させ、光検出器54に出力する。ここで、第1光パルスと第2光パルスとは、所定の位相差(ここでは、180度)が設けられているので、第1光パルスの強度と第2光パルスの強度とが同じになる空間軸(ここでは、X軸)上の位置において、干渉後の光パルスの強度が最小となる。よって、干渉器52での干渉によって、図4の(b)に示される空間強度分布を有する第1光パルスと、図4の(c)に示される空間強度分布を有する第2光パルスとが合波され、図4の(d)に示されるような凹型に湾曲した強度の空間強度分布を有する光パルスに変換され、光検出器54に入力される。
【0081】
光検出器54は、干渉器52から出力された光パルスに対して、空間軸(ここでは、X軸)方向に分割された複数の分割空間のそれぞれでの強度を検出する。図4の(e)の強度分布特性は、光検出器54から出力される光パルスの強度分布を示す。横軸は、空間軸における複数の分割空間の位置(つまり、光検出器54の出力ポートの位置)を示し、縦軸は、分割空間ごとに出力される光パルスの強度を示す。光検出器54に入力された、図4の(d)の空間強度分布を有する光パルスは、分割空間ごとに強度が検出され、図4の(e)の強度分布特性に示される強度分布で、光検出器54の各出力ポートから出力される。
【0082】
よって、光検出器54の各出力ポートから出力される電気信号の大きさを比較する比較器などを用いて、強度が最も小さい光パルスが出力される出力ポート(つまり、分割空間)を特定することで、図4の(d)に示される空間強度分布において最小値となる分割空間が特定される。特定された分割空間は、所定の位相差(ここでは、180度)をもつ第1光パルスの強度と第2光パルスの強度とが同じになる空間軸上の位置(分割空間)であることから、その位置に対応する第2光パルスの強度、つまり、第1光パルスの強度を特定でき、特定した第1光パルスの強度から、第1整形部における強度変調の特性を考慮することで、入力されたアナログ信号の強度を特定することができる。
【0083】
つまり、光検出器54によって複数の分割空間に分割された光パルスのうち、最も強度が小さい光パルスが出力される分割空間(つまり、出力ポート)がどれであるかという位置情報(例えば、16個の分割空間(つまり、出力ポート)のうちの一つを示す4ビットのディジタル値)は、入力されたアナログ信号の強度に依存して決定されることになり、空間領域を利用したA/D変換が行われる。
【0084】
以上の光量子化器50における動作は、入力されたサンプリング用光パルスを構成する個々の光パルスごとに繰り返される。例えば、100GHzで繰り返される。これにより、例えば、100Gspsで4ビットの出力分解能をもつ光量子化器50が実現される。
【0085】
このように、本実施の形態における光量子化器50は、大きな電力を必要とする非線形光学効果を用いることなく、小さな電力で実現できる線形現象(干渉)を用いている。また、光アクティブデバイス及び電子デバイスなどの電力を要するデバイスを用いることなく、光学フィルタなどの光学デバイスで構成される。よって、本実施の形態における光量子化器50は、非線形光学効果を利用した従来の光量子化器や、複数の光アクティブデバイス又は電子デバイスを並列化して構成される従来の光量子化器に比べ、低消費電力で動作する。
【0086】
なお、本実施の形態では、第1整形部60は、強度変調器62、第1空間整形器64、及び、位相シフト器66が、この順で直列に接続されて構成されたが、強度変調器62、第1空間整形器64、及び、位相シフト器66の接続順序は、この順に限定されず、いかなる接続順であってもよい。例えば、第1整形部60は、位相シフト器66、第1空間整形器64、及び、強度変調器62が、この順で直列に接続されて構成されてもよい。
【0087】
また、位相シフト器66が第2整形部70内に設けられる場合にも、第2整形部70における位相シフト器66と第2空間整形器72とは、いずれが先(処理順で先)に接続されもよい。
【0088】
また、本実施の形態では、第1整形部20に、空間強度分布を平坦化する第1空間整形器64が設けられたが、図5に示されるように、サンプリング用光パルスを構成する個々の光パルスが平坦な空間強度分布を有する場合には、第1空間整形器64は不要となる。図5は、実施の形態2の変形例に係る光量子化器51の構成を示すブロック図である。図4に示された光量子化器50と同一の構成要素には、同一の符号が付されている。この変形例に係る光量子化器51は、上記実施の形態2における光量子化器50に比べ、第1整形部60に第1空間整形器64が設けられていない点だけが異なる。この光量子化器51では、サンプリング用光パルスを構成する個々の光パルスは、図5の(a)に示されるように、空間軸方向に強度が平坦な空間強度分布を有する。よって、この変形例に係る光量子化器51では、第1整形部60に第1空間整形器64が備えられていないが、上記実施の形態2と同様の空間強度分布を有する第1光パルスが生成され、光検出器54からは上記実施の形態2と同様の信号が出力され、上記実施の形態2における光量子化器50と同様の効果が奏される。
【0089】
以上、本発明に係る光量子化器について、実施の形態1、2、及び、それらの変形例に基づいて説明したが、本発明は、これらの実施の形態及び変形例に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態又は変形例に施したものや、異なる実施の形態及び変形例における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本発明の範囲内に含まれる。
【0090】
例えば、上記実施の形態1における波長分波器14及び上記実施の形態2における光検出器54の出力ポートのうち、強度が最小の信号を出力する出力ポートを選択する際に、隣接する2つの出力ポートから同じ強度の信号が出力されるケースがあり得るが、このようなケースでは、例えば、同じ強度の信号を出力する2つの出力ポートのうちの大きい方(波長帯又は空間位置の大きい方)を選択することにしておけばよい。
【0091】
図6は、波長分波器14及び光検出器54の離散的出力特性を説明する図である。図6の(a)は、第1光パルス及び第2光パルスの強度分布(スペクトル及び空間強度分布)を示す図であり、図6の(b)は、図1の(e)又は図3の(e)に相当する図(波長分波器14又は光検出器54の出力ポートにおける強度分布特性)である。
【0092】
図6の(a)に示されるように、第1光パルスの強度分布と第2光パルスの強度分布とがクロスする箇所(クロスポイント)を含む一定の観測幅(波長帯又は分割空間)での出力強度(図6の(a)における面積)から、一定の観測幅にクロスポイントが含まれれば、その位置に依らず離散的な出力が得られる。その結果、図6の(b)に示されるように、クロスポイントを含む観測幅での出力信号の強度は、極小値を示し、観測幅に含まれるクロスポイントの位置に依らず一定の値の出力となる。しかしながら、図6の(a)において、例えば、さらに入力のアナログ信号の強度が下がっていくと、つまり、第1光パルスの強度が下がっていくと、隣接する2つの観測位置での出力強度(図6の(a)における面積)が同じとなり得る。つまり、観測幅の境界上にクロスポイントが位置する場合には、そのクロスポイントの両側に位置する2つの観測幅での出力強度(図6の(a)における面積)は同一となる。このような時は、例えば、2つの出力ポートの大きい方を選択するとしておけばよい。これによって、隣接する2つの出力ポートから同じ強度の信号が出力されるケースであっても、一つの出力ポート(一つのディジタル値)が確実に特定される。
【0093】
また、上記実施の形態1及び2では、第1光パルスと第2光パルスの位相差が180度に設定されたが、これに限られず、略180度であれがよく、例えば、160〜200度の範囲内の位相差であってもよいし、135〜225度の範囲内の位相差であってもよい。この位相差は、180度に近いほど、第1光パルスと第2光パルスとの干渉によって弱め合う度合が強くなるので、波長分波器14及び光検出器54での位置情報の特定が容易となることから、求められる位置情報の精度に対応して、180度に近い位相差を決定すればよい。
【0094】
また、上記実施の形態1及び2では、第2光パルスは、直線的に単調減少するスペクトル又は空間強度分布を有したが、単調増加又は単調減少する限り、いかなる形状のスペクトル又は空間強度分布を有してもよく、例えば、二次曲線等の曲線状に変化する形状であってもよい。このとき、第2光パルスのスペクトル又は空間強度分布の形状は、第1光パルスと第2光パルスとが干渉した後の光パルスのスペクトル又は空間強度分布における極小点がより鋭い下向きのピークとなるような形状が好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、光A/D変換器のための光量子化器として、例えば、数十GHzを超える超広帯域なアナログ信号をA/D変換するのに用いられる光量子化器として、例えば、リモートセンシングにおけるレーダー、ライダー、電波望遠鏡、超広帯域光通信等のための超広帯域AD変換器として、利用できる。
【符号の説明】
【0096】
10、11、50、51 光量子化器
12、52 干渉器
14 波長分波器
20、60 第1整形部
22、62 強度変調器
24 第1スペクトル整形器
26、66 位相シフト器
30、70 第2整形部
32 第2スペクトル整形器
54 光検出器
64 第1空間整形器
72 第2空間整形器
図1
図2
図3
図4
図5
図6