(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0008】
(炭化水素系高分子)
まず、本発明の一実施態様における樹脂組成物に用いることができる炭化水素系高分子について説明する。本発明に使用する炭化水素系高分子は、下記一般式(I)で表される構造単位を含む。
(式(I)中、Arは、主鎖を構成するアリーレン基であり、該アリーレン基は、直接または間接に結合した少なくとも1つのイオン交換基を有し、フッ素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールスルホニル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルスルホニル基およびシアノ基からなる群より選ばれる1種以上の基を有することができる。mは1以上の整数、nは2以上の整数を表す。複数存在するArは、それぞれ同一でも異なってもよい。Yは、直接結合、SO
2、COまたはOを表す。複数存在するYはそれぞれ同一でも異なってもよい。)
【0009】
このような炭化水素系高分子であると、後述の方法にて作製される炭酸ガス分離膜が炭酸ガス透過のために十分な保水性を維持しつつも、膨潤度が抑えられ、機械的強度が良好であるという利点がある。
【0010】
前記式(I)におけるArは、主鎖を構成するアリーレン基であり、該アリーレン基は、直接または間接に結合した少なくとも1つのイオン交換基を有する。すなわち、前記イオン交換基は、主鎖を構成するアリーレン基の芳香族環に直接結合してもよく、また、主鎖を構成するアリーレン基が有する基を介して、間接的に結合してもよいが、直接結合していることが好ましい。該アリーレン基としては、例えば、フェニレン基等の単環性芳香族基、ナフタレンジイル基等の縮環系芳香族基、ピリジンジイル基、キノキサリンジイル基、チオフェンジイル基等の芳香族複素環基等があげられる。中でも、工業的に容易に入手できる原料を用いることができる、製造が容易である原料を用いることができる観点から、下記式(ca)〜(cj)で表される2価アリーレン基が好ましい。中でも、(cb)が、吸水膨潤時の寸法安定性および耐水性に優れるため特に好ましい。
【0011】
該アリーレン基に直接または間接に結合するイオン交換基としては、前述のものがあげられ、その好ましい例も前述のものと同様である。
【0012】
また、該アリーレン基は、イオン交換基以外にも、フッ素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールスルホニル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルスルホニル基およびシアノ基から選ばれる基を有することができる。好ましい基としては、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールスルホニル基およびシアノ基があげられる。このような基を有するポリアリーレン系ブロック共重合体は、高い耐加水分解性を有するため好ましい。特に好ましい基としては、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基があげられる。このような基を有するポリアリーレン系ブロック共重合体は、耐水性に優れるため好ましい。
また、アシル基を有する場合、該アシル基を有する2つの構造単位が隣接し、該2つの構造単位にあるアシル基同士が結合したり、このようにしてアシル基同士が結合した後、転位反応を生じたり、する場合がある。このようなアシル基同士が連結した場合であっても、結合後(転位反応後)の基が、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基または置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基のいずれかに相当する場合は、本発明のポリマーに包含される。また、このようにアシル基同士が結合したり、結合後に転位反応を生じたり、するような反応が生じたか否かは、例えば
13C−核磁気共鳴スペクトルの測定により確認することができる。
【0013】
ここで、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、2,2−ジメチルプロピル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、2−メチルペンチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基等の炭素数1〜20のアルキル基およびこれらのアルキル基がヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等を置換基として有する、その総炭素数が20以下であるアルキル基等があげられる。
【0014】
また、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、2,2−ジメチルプロピルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、2−メチルペンチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、ドデシルオキシ基、ヘキサデシルオキシ基、イコシルオキシ基等の炭素数1〜20のアルコキシ基およびこれらの基が以下の置換基群から選ばれる1種以上の置換基を有するその総炭素数が20以下であるアルコキシ基等があげられる。
[置換基群]メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、2,2−ジメチルプロピル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、2−メチルペンチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、ドデシル基等の炭素数1〜19のアルキル基、これらのアルキル基がヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、フェニル基、ナフチル基等を置換基として有するその総炭素数が19以下であるアルキル基およびヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等
【0015】
置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、フェナントレニル基、アントラセニル基等のアリール基およびこれらの基が以下の置換基群から選ばれる1種以上の置換基を有するその総炭素数が20以下であるアリール基等があげられる。
[置換基群]メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、2,2−ジメチルプロピル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、2−メチルペンチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、ドデシル基等の炭素数1〜14のアルキル基、これらのアルキル基がヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、フェニル基、ナフチル基等を置換基として有するその総炭素数が14以下であるアルキル基およびヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等
【0016】
置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基としては、例えばフェノキシ基、ナフチルオキシ基、フェナントレニルオキシ基、アントラセニルオキシ基等のアリールオキシ基およびこれらの基が以下の置換基群から選ばれる1種以上の置換基を有する、その総炭素数が20以下であるアリールオキシ基があげられる。
[置換基群]メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、2,2−ジメチルプロピル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、2−メチルペンチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、ドデシル基等の炭素数1〜14のアルキル基、これらのアルキル基がヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、フェニル基、ナフチル基等を置換基として有するその総炭素数が14以下であるアルキル基およびヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等
【0017】
置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基としては、例えばアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ベンゾイル基、1−ナフトイル基、2−ナフトイル基等の炭素数2〜20のアシル基およびこれらの基が以下の置換基群から選ばれる1種以上の置換基を有する、その総炭素数が20以下であるアシル基があげられる。
[置換基群]メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、2,2−ジメチルプロピル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、2−メチルペンチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、ドデシル基等の炭素数1〜18のアルキル基、これらのアルキル基がヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、フェニル基、ナフチル基等を置換基として有するその総炭素数が18以下であるアルキル基およびヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等
【0018】
置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールスルホニル基としては、ベンゼンスルホニル基、1−ナフタレンスルホニル基、2−ナフタレンスルホニル基等の炭素数6〜20のアリールスルホニル基およびこれらの基が以下の置換基群から選ばれる1種以上の置換基を有する、その総炭素数が20以下であるアリールスルホニル基があげられる。
[置換基群]メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、2,2−ジメチルプロピル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、2−メチルペンチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、ドデシル基等の炭素数1〜14のアルキル基、これらのアルキル基がヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、フェニル基、ナフチル基等を置換基として有するその総炭素数が14以下であるアルキル基およびヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等
【0019】
置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルスルホニル基としては、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、n−プロピルスルホニル基、イソプロピルスルホニル基、n−ブチルスルホニル基、sec−ブチルスルホニル基、イソブチルスルホニル基、n−ペンチルスルホニル基、2,2−ジメチルプロピルスルホニル基、シクロペンチルスルホニル基、n−ヘキシルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、2−メチルペンチルスルホニル基、2−エチルヘキシルスルホニル基、ノニルスルホニル基、ドデシルスルホニル基等の炭素数1〜20のアルキルスルホニル基およびこれらの基が以下の置換基群から選ばれる1種以上の置換基を有する、その総炭素数が20以下であるアルキルスルホニル基があげられる。
[置換基群]ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等
【0020】
式(I)におけるmは、1以上の整数である。mは、1000以下であることが好ましく、500以下であることが更に好ましい。mがこのような範囲であれば、得られる炭酸ガス分離膜は十分な機械強度を有し、また、製造が容易であるので好ましい。
【0021】
式(I)におけるnは、2以上の整数である。nは、1000以下であることが好ましく、500以下であることが更に好ましい。nがこのような範囲であれば、得られる炭酸ガス分離膜は十分な機械強度を有し、また、製造が容易であるので好ましい。
【0022】
式(I)におけるYは、直接結合、SO
2、COまたはOを表し、耐熱性の観点から、直接結合であることが好ましい。
【0023】
ここで、「炭化水素系高分子」とは、この高分子を構成する元素質量含有比で表して炭素原子と水素原子が合わせて50mol%以上である高分子を意味する。
なお、ここでいう「炭化水素系高分子」とは炭素原子と水素原子の他に、他の原子を含んでもよく、他の元素とは、例えば、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、ハロゲン原子、ケイ素原子などの複素原子などがあげられる。
【0024】
また、本発明で用いられる炭化水素系高分子は、炭酸ガス分離膜を得たとき、炭酸ガスの透過に必要となる保水性を得る観点から、イオン交換基を有する。イオン交換基は、前記一般式(I)で表される構造単位中に含まれるが、その他の構造単位にも含まれてもよい。
【0025】
上述のイオン交換基として、酸性のイオン交換基(すなわち、カチオン交換基)または塩基性のイオン交換基(すなわち、アニオン交換基)があげられる。必要な保水性を得る観点から、イオン交換基はカチオン交換基であることが好ましい。
カチオン交換基としては、例えば、スルホ基(−SO
3H)、カルボキシル基(−COOH)、ホスホノ基(−PO
3H
2)、スルホニルイミド基(−SO
2NHSO
2−)、フェノール性水酸基等があげられる。これらの中でも、カチオン交換基としては、スルホ基またはホスホノ基がより好ましく、スルホ基が特に好ましい。なお、これらのイオン交換基は、部分的に、あるいは全てが、金属イオンや4級アンモニウムイオン等で交換されて塩を形成していてもよい。
【0026】
これらのイオン交換基は、高分子の主鎖もしくは側鎖の何れか一方、または両方に導入されていてもよいが、主鎖へ導入されているのが好ましい。ここで、高分子の主鎖とは、本発明の炭化水素系高分子において、最長の鎖を意味する。この鎖は共有結合により相互に結合した炭素原子から構成されていて、その際、この鎖は、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等により中断されていてもよい。
【0027】
前記イオン交換基の導入量は、炭化水素系高分子単位質量当たりのイオン交換基数であるイオン交換基容量で表すことができる。
【0028】
ここで「イオン交換基容量」とは、前記樹脂組成物を構成する炭化水素系高分子の、乾燥樹脂1g当たりに含有するイオン交換基の当量数で定義される値[ミリ当量/g乾燥樹脂](以下、meq/g)である。
【0029】
また、「乾燥樹脂」とは炭化水素系高分子を、水の沸点以上の温度に保持し、質量減少がほとんどなくなり質量の経時変化がほぼ一定値に収束した樹脂をいう。
【0030】
本実施形態で用いる炭化水素系高分子は、イオン交換基の導入量が、イオン交換容量で表して0.5meq/g以上、6.0meq/g以下であると好ましく;1.0meq/g以上、6.0meq/g以下であるとより好ましく;2.0meq/g以上、5.5meq/g以下であると更に好ましく;2.7meq/g以上、5.0meq/g以下であると最も好ましい。
【0031】
前記炭化水素系高分子は炭酸ガス分離膜を得たとき、必要となる耐熱性を得る観点から、主鎖が芳香環を有する高分子に、イオン交換基が導入された炭化水素系高分子であることが好ましい。
【0032】
なお、以下の例示においては、イオン交換基がスルホ基である炭化水素系高分子を主として例示するが、このスルホ基を別のイオン交換基に置き換えた炭化水素系高分子でもよい。
【0033】
主鎖が芳香環を有する高分子に、イオン交換基が導入された炭化水素系高分子は、主鎖に酸素原子等のヘテロ原子を含む炭化水素系高分子であってもよい。このような炭化水素系高分子としては、例えば、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリ(アリーレンエーテル)、ポリイミド、ポリ((4−フェノキシベンゾイル)−1,4−フェニレン)、ポリフェニルキノキサレン等の単独重合体のそれぞれに、スルホ基が導入された炭化水素系高分子があげられる。具体的には、スルホアリール化ポリベンズイミダゾール、スルホアルキル化ポリベンズイミダゾール(例えば、特開平9−110982号公報参照)等があげられる。前記主鎖が芳香環を有する高分子に、イオン交換基が導入された炭化水素系高分子は、は、主鎖が酸素原子等のヘテロ原子で中断されている化合物であってもよく、例えば、前記主鎖が芳香環を有する高分子に、イオン交換基が導入された炭化水素系高分子としては、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリ(アリーレンエーテル)、ポリイミド、ポリ((4−フェノキシベンゾイル)−1,4−フェニレン)、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニルキノキサレン、スルホアリール化ポリベンズイミダゾール、スルホアルキル化ポリベンズイミダゾール、ホスホアルキル化ポリベンズイミダゾール、ホスホン化ポリ(フェニレンエーテル)があげられる。このような炭化水素系高分子は、特開平9−110982号公報およびJ.Appl.Polym.Sci.,18,1969(1974)にも記載されている。
【0034】
炭酸ガス分離膜用として良好な耐熱性を有する炭酸ガス分離膜を得るため、前記炭化水素系高分子は、主鎖を構成する芳香環を有し、且つ前記芳香環に直接または間接に結合したイオン交換基を有する炭化水素系高分子が好ましい。さらに、主鎖を構成する芳香族を有し、さらに芳香環を有する側鎖を有してもよく、主鎖を構成する芳香環か側鎖の芳香環の、どちらかの芳香環に直接結合したイオン交換基を有する芳香族系高分子が好ましい。特に、主鎖を構成する芳香族を有し、さらに芳香環を有する側鎖を有してもよく、主鎖を構成する芳香環に直接結合したイオン交換基を有する芳香族系高分子が好ましい。
【0035】
さらに、本発明の一実施態様における樹脂組成物に使用する炭化水素系高分子としては、イオン交換基を有する構造単位とイオン交換基を有しない構造単位とからなる共重合体が、好ましい。なお、かかる共重合体に関し、2種の構造単位の共重合様式は、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合または交互共重合のいずれであってもよく、これらの共重合様式を組み合わせてもよい。
【0036】
特に好ましいイオン交換基を有する芳香族系高分子としては、分子構造内にイオン交換基を有する構造単位と、イオン交換基を有しない構造単位とを有する高分子が例示される。
【0037】
上述のイオン交換基を有する構造単位としては、前記式(I)で表される構造単位を例示することができ、より具体的には、下記式(11a)〜(14a)で示される構造単位を例示することができる。
【0039】
(式中、Ar
1〜Ar
9は、それぞれ同一または相異なり、主鎖を構成するアリーレン基であり、該アリーレン基は、直接または間接に結合した少なくとも1つのイオン交換基を有し、フッ素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールスルホニル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルスルホニル基およびシアノ基からなる群より選ばれる1種以上の基を有することができる。ZおよびZ’はそれぞれ同一または相異なり、COまたはSO
2を表し、X、X’およびX”はそれぞれ同一または相異なり、OまたはSを表し、Yは直接結合または下記式(15)で表される基を表し、pは0、1または2を表し、qおよびrはそれぞれ同一または相異なり、1、2または3を表す。)
【0040】
また、上述のイオン交換基を有しない構造単位としては、下記式(11b)〜(14b)で示される構造単位を例示することができる。
【0042】
(式中、Ar
11〜Ar
19は、それぞれ同一または相異なり、主鎖を構成するアリーレン基であり、該アリーレン基は、フッ素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールスルホニル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルスルホニル基およびシアノ基からなる群より選ばれる1種以上の基を有することができる。但し、該アリーレン基は、イオン交換基を有することはない。ZおよびZ’はそれぞれ同一または相異なり、COまたはSO
2を表し、X、X’およびX”はそれぞれ同一または相異なり、OまたはSを表し、Yは直接結合または下記式(15)で表される基を表し、p’は0、1または2を表し、q’およびr’はそれぞれ同一または相異なり、1、2または3を表す。)
【0044】
(式中、R
1およびR
2はそれぞれ同一または相異なり、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールスルホニル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルスルホニル基またはシアノ基を表す。R
1とR
2とが連結して環を形成していてもよく、R
1とR
2とが連結して形成される環を有する式(15)の基としては、シクロヘキシリデン基等の炭素数5〜20の2価の環状炭化水素基があげられる。)
【0045】
イオン交換基を有する構造単位を示す式(11a)〜(14a)において、Ar
1〜Ar
9は、主鎖を構成するアリーレン基であり、該アリーレン基は、直接または間接に結合した少なくとも1つのイオン交換基を有する。その説明および具体例としては、前述のものと同様であり、その好ましい例も前述のものと同様である。該アリーレン基に直接または間接に結合するイオン交換基としても、前述のものがあげられ、その好ましい例も前述のものと同様である。該アリーレン基は、イオン交換基以外にも、フッ素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールスルホニル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルスルホニル基およびシアノ基から選ばれる基を有することができ、その具体例としては、前述のものと同様であり、その好ましい例も前述のものと同様である。
【0046】
一方、イオン交換基を有しない構造単位を示す式(11b)〜(14b)において、Ar
11〜Ar
19は、主鎖を構成するアリーレン基である。該アリーレン基としては、前述のものと同様であり、その好ましい例も前述のものと同様である。該アリーレン基は、イオン交換基以外にも、フッ素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールスルホニル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルスルホニル基およびシアノ基から選ばれる基を有することができ、その具体例としては、前述のものと同様であり、その好ましい例も前述のものと同様である。
【0047】
式(15)において、R
1およびR
2はそれぞれ同一または相異なり、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基または置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールスルホニル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルスルホニル基またはシアノ基を表し、その具体例としては、前述のものと同様であり、その好ましい例も前述のものと同様である。
【0048】
本発明において、好適な炭化水素系高分子は、前記式(11a)〜(14a)で表される構造単位からなる、イオン交換基を有する構造単位と、前記式(11b)〜(14b)で表される構造単位からなる、イオン交換基を有しない構造単位とを有する炭化水素系高分子である。このような炭化水素系高分子は、イオン交換基を有する構造単位と、イオン交換基を有しない構造単位のそれぞれに対応するモノマーまたはオリゴマーを出発物質とする共重合体として得ることができる。さらに好適なイオン交換基を有する構造単位と、イオン交換基を有しない構造単位との組み合わせとしては、下記の表1の<A>〜<M>に示す組み合わせをあげることができる。
【0050】
本発明において好適に用いられる炭化水素系高分子の構造としては、更に好ましくは、<B>、<C>、<D>、<G>、<H>、<I>、<J>、<L>または<M>であり;より更に好ましくは<G>、<H>、<L>または<M>である。
【0051】
好適な共重合体の例として、以下に示すイオン交換基を有する構造単位の群から選ばれる1種または2種以上の構造単位と、以下に示すイオン交換基を有しない構造単位の群から選ばれる1種または2種以上の構造単位とからなる共重合体をあげることができる。
なお、イオン交換基を有する繰り返し単位におけるイオン交換基は、好適なスルホ基により例示している。もちろん、スルホ基に代えて上述のイオン交換基のいずれかを採用してもよい。
【0052】
また、これら構造単位同士は直接結合している形態でもよく、適当な原子または原子団で連結している形態でもよい。ここでいう構造単位同士を結合する原子または原子団の典型的な例としては、アリーレン基、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらを組み合わせてなる2価の基をあげることができる。
【0061】
(式(4b−15)〜(4b−32)中、r000は0または1以上の整数を示し;r000は、好ましくは100以下であり、より好ましくは1以上80以下である。)
【0062】
前記例示の中でも、イオン交換基を有する構造単位を表す式としては、式(4a−1)、(4a−2)、(4a−3)、(4a−4)、(4a−5)、(4a−6)、(4a−7)、(4a−8)、(4a−9)、(4a−10)、(4a−11)および(4a−12)からなる群から選ばれる1種以上の構造単位が好ましい。同様に、式(4a−10)、(4a−11)および(4a−12)からなる群から選ばれる1種以上の構造単位がより好ましく;式(4a−11)または(4a−12)が特に好ましい。
【0063】
このような構造単位を含むセグメントを有する炭化水素系高分子、特に、このような構造単位を繰り返し単位として含むセグメント(イオン交換基を有するセグメント)を有する炭化水素系高分子は、このセグメントがポリアリーレン構造となるために化学的安定性も比較的良好となる傾向がある。
【0064】
また、イオン交換基を有しない構造単位を表す式としては、式(4b−0)、式(4b−1)、(4b−2)、(4b−3)、(4b−4)、(4b−5)、(4b−6)、(4b−7)、(4b−8)、(4b−9)、(4b−10)、(4b−11)、(4b−12)、(4b−13)および(4b−14)からなる群から選ばれる1種以上の構造単位が好ましい。同様に、式(4b−0)、式(4b−2)、(4b−3)、(4b−10)、(4b−13)および(4b−14)からなる群から選ばれる1種以上の構造単位がより好ましく;式(4b−0)、式(4b−2)、(4b−3)および(4b−14)からなる群から選ばれる1種以上の構造単位が特に好ましい。
【0065】
本発明に係る炭化水素系高分子は、イオン交換基を有する構造単位と、イオン交換基を有しない構造単位とを有する炭化水素系高分子であることが好ましい。この2種の構造単位の共重合様式は、ランダム共重合、交互共重合、ブロック共重合、またはグラフト共重合の何れでもよく、これらの共重合様式の組み合わせでもよい。好ましくは、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合であり;より好ましくは、ランダム共重合、ブロック共重合である。
【0066】
ブロック共重合体としては、主としてイオン交換基を有する構造単位からなるセグメント(イオン交換基を有するセグメント)および、主としてイオン交換基を有しない構造単位からなるセグメント(即ち、イオン交換基を実質的に有しないセグメント)とを有する共重合体が好ましい。また、好適なイオン交換基を有するセグメントを構成する構造単位とイオン交換基を実質的に有しないセグメントを構成する構造単位の組み合わせとしては、下記の表2の<A>〜<M>に示すセグメントの組み合わせをあげることができる。
【0068】
更に好ましくは、<B>、<C>、<D>、<G>、<H>、<I>、<J>、<L>、または<M>であり;より更に好ましくは<G>、<H>、<L>または<M>であり;<G>、<H>または<L>が特に好ましい。
【0069】
前記例示の中でも、イオン交換基を有するセグメントを構成する繰り返し単位に用いられる構造単位を表す式としては式(4a−1)、(4a−2)、(4a−3)、(4a−4)、(4a−5)、(4a−6)、(4a−7)、(4a−8)、(4a−9)、(4a−10)、(4a−11)および(4a−12)からなる群から選ばれる1種以上の構造単位が好ましく;式(4a−10)、(4a−11)および(4a−12)からなる群から選ばれる1種以上の構造単位がより好ましく;式(4a−11)または(4a−12)が特に好ましい。
【0070】
本発明に係る前記ブロック共重合体の好ましい形態の一つとして、イオン交換基を有するセグメントの主鎖が、実質的に複数の芳香環が直接連結してなるポリアリーレン構造を有することがあげられる。そのようなセグメントの構造単位として、好ましくは前述の式(4a−10)、(4a−11)、(4a−12)、(4a−13)、(4a−14)、(4a−15)、(4a−16)、(4a−17)、(4a−18)、(4a−19)および(4a−20)からなる群から選ばれる1種以上の構造単位が好ましく;式(4a−10)、(4a−11)および(4a−12)からなる群から選ばれる1種以上の構造単位がより好ましく;式(4a−11)または(4a−12)が特に好ましい。
【0071】
このような構造単位からなる繰り返し単位を含むセグメント(すなわち、イオン交換基を有するセグメント)を有する炭化水素系高分子、特に、このような繰り返し単位からなるセグメントを有する炭化水素系高分子は、十分な保水性を発現できるものであり、このセグメントがポリアリーレン構造となるために化学的安定性も比較的良好となる傾向がある。
【0072】
ここで「ポリアリーレン構造」とは、主鎖を構成している芳香環同士が実質的に直接結合で結合されている形態であり、具体的には、前記芳香環同士の結合の総数を100%としたとき、直接結合の割合が80%以上の構造であると好ましく、90%以上の構造であるとより好ましく、95%以上の構造であると更に好ましい。なお、直接結合で結合されている形態以外の形態とは、芳香環同士が2価の原子または2価の原子団を介して結合している形態である。
【0073】
イオン交換基を有しないセグメントを構成する繰り返し単位に用いられる構造単位を表す式としては、式(4b−0)、式(4b−1)、(4b−2)、(4b−3)、(4b−4)、(4b−5)、(4b−6)、(4b−7)、(4b−8)、(4b−9)、(4b−10)、(4b−11)、(4b−12)、(4b−13)および(4b−14)からなる群から選ばれる1種以上の構造単位が好ましく;式(4b−0)、式(4b−2)、(4b−3)、(4b−9)、(4b−10)、(4b−13)および(4b−14)からなる群から選ばれる1種以上の構造単位がより好ましく;式(4b−0)、式(4b−2)、(4b−3)、(4b−13)および(4b−14)からなる群から選ばれる1種以上の構造単位がよりさらに好ましく;式(4b−0)、(4b−2)、(4b−3)および(4b−14)からなる群から選ばれる1種以上の構造単位が特に好ましい。
【0074】
また、イオン交換基を有するセグメントとイオン交換基を実質的に有しないセグメントとは、直接結合している形態でもよく、適当な原子または原子団で連結している形態でもよい。ここでいうセグメント同士を結合する原子または原子団の典型的な例としては、アリーレン基、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらを組み合わせてなる2価の基をあげることができる。アリーレン基としては、例えば、式(11a)〜(14a)におけるAr
1〜Ar
9と同様のアリーレン基があげられる。
【0075】
好適なブロック共重合体の例として、前記に示すイオン交換基を有する構造単位の群から選ばれる1種または2種以上の構造単位を含むセグメント(すなわち、イオン交換基を有するセグメント)と、主として前記に示すイオン交換基を有しない構造単位の群から選ばれる1種または2種以上の構造単位を含むセグメント(即ち、イオン交換基を実質的に有しないセグメント)とからなるブロック共重合体をあげることができる。
【0076】
ここで、「イオン交換基を有するセグメント」とは、イオン交換基が、前記セグメントを構成する構造単位1個あたりで平均0.5個以上含まれているセグメントであることを意味し、構造単位1個あたりでイオン交換基が平均1.0個以上含まれているとより好ましい。
【0077】
一方、「イオン交換基を実質的に有しないセグメント」とは、イオン交換基が、前記セグメントを構成する構造単位1個あたりで平均0.5個未満であるセグメントであることを意味し、構造単位1個あたりでイオン交換基が平均0.1個以下であるとより好ましく、平均0.05個以下であるとさらに好ましい。
【0078】
典型的には、イオン交換基を有するセグメントとイオン交換基を実質的に有しないセグメントとが、直接結合で結合されているか、適当な原子または原子団で結合された形態のブロック共重合体である。
【0079】
前記式(11a)〜(14a)で表される構造単位から選ばれる1種以上の構造単位からなるセグメントの重合度は2以上であり、また、1000以下が好ましく、500以下が好ましい。この重合度が2以上であれば、炭酸ガス分離用の炭化水素系高分子として、十分な保水性を発現し、この重合度が1000以下であれば、製造がより容易である利点がある。
【0080】
また、式(11b)〜(14b)で表される構造単位から選ばれる1種以上の構造単位からなるセグメントの重合度は1以上であり、2以上が好ましく、3以上がより好ましい。また、かかるセグメントの重合度は100以下が好ましく、90以下がより好ましく、80以下が更に好ましい。重合度がこのような範囲内であれば、炭酸ガス分離用の炭化水素系高分子として、十分な機械強度を有し、製造が容易であるので好ましい。即ち、かかるセグメントの重合度は、1以上、100以下が好ましく;2以上、90以下がより好ましく;3以上、80以下が更に好ましい。
【0081】
また、本発明で用いられる炭化水素系高分子の分子量は、ポリスチレン換算の数平均分子量で表して、5000〜1000000であることが好ましく、10000〜800000であることがより好ましく、10000〜600000であることがより更に好ましく、中でも15000〜400000であることが特に好ましい。このような範囲の分子量の炭化水素系高分子を用いることにより、後述の方法にて作成される炭化水素系高分子膜は、その膜の形状を安定的に維持できる傾向がある。前記数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される。
【0082】
(樹脂組成物およびその製造方法)
本発明の樹脂組成物は、炭酸ガスと可逆的に反応する物質と、前記一般式(I)で表される構造単位を含む炭化水素系高分子とを含む。
【0083】
炭酸ガスと可逆的に反応する物質としては、例えば特開平7−112122号公報に記載されているような、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ金属水酸化物、アルカノールアミン等をあげることができる。アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩またはアルカリ金属水酸化物が好ましく、アルカリ金属炭酸塩またはアルカリ金属炭酸水素塩がより好ましく、炭酸セシウム、炭酸水素セシウム、炭酸ルビジウムまたは炭酸水素ルビジウムがさらに好ましく、炭酸セシウムがさらにより好ましい。
【0084】
炭酸ガスと可逆的に反応する物質の含有量は、炭酸ガスと可逆的に反応する物質の種類にもよるが、炭酸セシウムの場合、炭酸セシウムと、前記炭化水素系高分子との合計重量に対して、20重量%〜90重量%の範囲であることが好ましく、45重量%〜85重量%の範囲であることがより好ましい。
【0085】
本発明の樹脂組成物は、例えば、下記工程Aを含む製造方法により得られる。
A:炭酸ガスと可逆的に反応する物質と、前記炭化水素系高分子とを混合する工程
【0086】
前記炭化水素系高分子は、そのままの状態で工程Aに供してもよいし、中和処理等の後処理を施した後に工程Aに供してもよい。
【0087】
工程Aの混合において、さらに水を混合することが好ましい。水を混合する場合、その使用量は、得られる樹脂組成物が後述する工程Bに供する際に均一溶液として存在し得る量であることが好ましい。工程Aにおける混合順序は特に限定されず、混合温度は5℃〜90℃の範囲が好ましい。
【0088】
(炭酸ガス分離膜およびその製造方法)
本発明の炭酸ガス分離膜は、前記本発明の樹脂組成物が多孔膜に担持されている。
【0089】
多孔膜としては、フッ素樹脂製、ポリオレフィン製、ポリアミド系樹脂製、ポリスルホン系樹脂製、セラミックス製、金属製等があげられ、フッ素樹脂製のものが好ましい。なかでも、四フッ化エチレン共重合体(PTFE)多孔膜が好ましい。
【0090】
多孔膜は、100℃以上の耐熱性、機械的強度および前記本発明の樹脂組成物との密着性を有することが好ましい。また、空隙率が50%以上で、細孔径が0.01μm以上10μm以下の範囲であるものが好ましく、空隙率が55%以上で、細孔径が0.1μm以上1μm以下の範囲であるものがさらに好ましい。
【0091】
多孔膜は親水性であることが好ましい。また、親水性の多孔膜と疎水性の多孔膜との積層体を用いることもできる。
【0092】
本発明の炭酸ガス分離膜の製造方法は、下記工程AおよびBを含む。
A:炭酸ガスと可逆的に反応する物質と、前記炭化水素系高分子とを混合する工程
B:樹脂組成物を多孔膜に塗布する工程
【0093】
工程Aは、上述したとおりである。工程Bにおける塗布は、前記多孔膜の少なくとも一方の面に、炭酸ガスと可逆的に反応する物質と本発明の前記炭化水素系高分子とを含む層を形成するように行うことが好ましい。
【0094】
工程Bにおける塗布を容易にするために、工程Aにおいて、さらに水を混合することが好ましい。即ち、工程Bに供給される樹脂組成物は、水を含むことが好ましく、水溶液であることがより好ましい。
【0095】
工程Bにおける塗布は、コーター(ドクターブレードともいう)による塗布、刷け塗りによる塗布等の工業的に通常行われる方法により行うことができる。組成物層の厚さは、塗布後の組成物が形成する膜の厚み、樹脂組成物中の前記炭化水素系高分子と水の濃度、炭酸ガスと可逆的に反応する物質と前記炭化水素系高分子との量比等を調節することによって制御することができる。
【0096】
前記多孔膜の少なくとも一方の面に、炭酸ガスと可逆的に反応する物質と前記一般式(I)で表される構造単位を含む炭化水素系高分子とを含む層を形成するために、工程Bに供給される樹脂組成物が水を含む場合、本発明の炭酸ガス分離膜の製造方法は、さらに工程CおよびDを含むことが好ましい。
C:塗布後の組成物を乾燥させて組成物層を形成する工程
D:組成物層を熱処理する工程
【0097】
工程Cにおける乾燥とは、塗布後の組成物に主に含まれる水を除去することを表す。かかる乾燥は、例えば、常温常圧下での自然乾燥、恒温槽やホットプレート等の加熱手段または減圧装置等の減圧手段により、或いはこれらの手段を組み合わせて、該塗布膜から水を蒸発させることにより行われる。加熱手段や減圧手段の条件は、多孔膜の透気度を低下させない範囲で適宜選択でき、例えば恒温槽やホットプレートの場合、その温度設定を多孔膜の融点以下の範囲にすることが好ましい。また、減圧手段では、適当な減圧機の中に、塗布物を封入した後、該減圧機の内部圧力を1〜1.0×10
5Pa程度にすればよい。
【0098】
前記加熱手段における温度が、後述する工程Eの熱処理温度の範囲となる場合には、工程Cと工程Dとを連続して行うことができる。例えば、工程Cで塗布後の組成物を乾燥させ、そのままの条件で引き続き工程Dの熱処理を行うことができる。
【0099】
工程Dの熱処理は、通常、恒温槽やホットプレート等の加熱手段により行われる。熱処理温度は、80℃〜160℃の範囲が好ましい。熱処理時間は、熱処理温度にもよるが、10分〜4時間の範囲が好ましい。
【0100】
(炭酸ガス分離膜モジュールおよび炭酸ガス分離装置)
本発明の炭酸ガス分離膜は炭酸ガス分離膜モジュールとすることができる。また、本発明の炭酸ガス分離装置は、炭酸ガス分離膜または炭酸ガス分離膜モジュールを含み、炭酸ガスを分離回収または分離精製させるための手段を有する。
【0101】
本発明の炭酸ガス分離膜はモジュール化して好適に用いることができる。モジュールの型式の例としては、スパイラル型、中空糸型、プリーツ型、管状型、プレート&フレーム型などがあげられる。また本発明の炭酸ガス分離膜は、例えば、特開2007−297605号に記載のような吸収液と併用した膜・吸収ハイブリッド法としての気体分離回収装置に適用してもよい。
【実施例】
【0102】
以下に、実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれに限るものではない。
【0103】
[二酸化炭素透過係数]
ガス透過測定装置(GTRテック(株)製、型式:GTR−30XAF3SC)を用いて、等圧法にて二酸化炭素透過係数[mol/m
2/sec/kPa]を測定した。炭酸ガス分離膜を挟むセルの温度は条件によって所定の温度に設定した。供給側には炭酸ガスを流し、透過側にはアルゴンガスを流した。供給・透過側のそれぞれのガスは、条件によって所定の温度に加熱したバブラーを通して加湿した。炭酸ガス、アルゴンガスの流量はそれぞれ20cc/minに設定した。背圧は供給側、透過側共に0kPaGとした。
【0104】
[選択率]
ガス透過測定装置(GTRテック(株)製、型式:GTR−30XAF3SC)を用いて、等圧法にてヘリウム透過係数[mol/m
2/sec/kPa]を測定した。炭酸ガス分離膜を挟むセルの温度は80℃に設定した。供給側にはヘリウムガスを流し、透過側にはアルゴンガスを流した。供給・透過側のそれぞれのガスは、70℃に過熱したバブラーを通して加湿した。ヘリウムガス、アルゴンガスの流量はそれぞれ20cc/minに設定した。背圧は供給側、透過側共に0kPaGとした。得られたヘリウム透過係数と二酸化炭素透過係数を用いて、下記式より選択率を得た。
(選択率[−])=(二酸化炭素透過係数[mol/m
2/sec/kPa])/(ヘリウム透過係数[mol/m
2/sec/kPa])
【0105】
[吸水率]
調湿TG(Seiko Instrument Inc.製 型式:EXSTAR6000)を用いて、80℃、相対湿度50%、80%における炭酸ガス分離膜の吸水量を測定した。加湿ガスには窒素を用いた。吸水率は下記式により求めた。
(吸水量)/(乾燥全重量−乾燥多孔質基材重量)
【0106】
[耐熱試験]
炭酸ガス分離膜をサンプル管に入れ、130℃、相対湿度90%に設定したプレッシャークッカー(HIRAYAMA製 型式:PC−304R8)の中に72h放置した。高温高湿下で溶解し、サンプル管中に流動したゲル層の量を測定し、膜面積で規格化することで耐熱性を確かめた。
【0107】
(合成例1)
特開2007−177197号公報に記載の方法に従い、下記式
で表される構造単位と、下記式
(nは繰り返し単位数を表す。)
で示される構造単位とを有するイオン交換基を含む高分子1を合成した。該イオン交換基を含む高分子1のイオン交換容量は2.70meq/gであった。
【0108】
(合成例2)
特開2011−102388号公報パンフレットに記載の方法に従い、下記式
で表される構造単位と、下記式
(nは繰り返し単位数を表す。)
で表される構造単位を有するイオン交換基を含む高分子2を合成した。該イオン交換基を含む高分子2のイオン交換容量は4.70meq/gであった。
【0109】
(合成例3)
窒素雰囲気下、フラスコに無水臭化ニッケル2.9g(13.3mmol)と1−メチル−2−ピロリドン140gとを混合し、内温70℃に昇温し1時間攪拌した。これを60℃に冷却し、2,2’−ビピリジル2.3g(14.6mmol)を加え、撹拌しながら40℃に冷却し、ニッケル含有溶液を調製した。
窒素雰囲気下、フラスコに、4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジ(2,2−ジメチルプロピル)20.0g(38.2mmol)、2’,5’−ジクロロアセトフェノン5.4g(28.3mmol)を加え、1−メチル−2−ピロリドン400gに溶解させて50℃に調整した。得られた溶液に、亜鉛粉末8.7g(133.1mmol)を加え、撹拌しながら40℃に冷却した。これに、前記ニッケル含有溶液を注ぎ込み、40℃のまま5時間重合反応を行い、黒色の重合溶液を得た。
得られた重合溶液を、室温下で6mol/L塩酸水溶液2400gに投入し、30分攪拌した。析出した粗ポリマーを濾過し、さらに濾液のpHが4を越えるまで水洗を行ない、その後、大量のメタノールを用いて、さらに洗浄することで、イオン交換基を含む高分子3前駆体19.5gを得た。
【0110】
上述のようにして得られたイオン交換基を含む高分子3前駆体19.0gをフラスコに入れ、窒素で十分フラスコ内を置換し、水51.7g、無水臭化リチウム13.3g(152.8mmol)および1−メチル−2−ピロリドン480gを加え、イオン交換基を含む高分子3前駆体を十分溶解させてから、120℃に昇温して、同温度で12時間保温撹拌し、イオン交換基を含む高分子溶液を得た。前記ポリマー溶液を6mol/L塩酸2000gに投入し、1時間攪拌した。析出した粗ポリマーを濾過し、大量の塩酸、メタノール混合溶液で数回洗浄を行ない、大量のアセトニトリルを用いて洗浄することで塩酸を除去した後、減圧乾燥することで、下記式
で示される構造単位と下記式
で示される構造単位とを有するイオン交換基を含む高分子3を14.2gを得た。
【0111】
(実施例1)
合成例1で得られた芳香族系エマルジョン200g(うち水198.74g)に炭酸セシウム3.45gを加えて室温で一昼夜攪拌して炭酸ガス分離膜用樹脂組成物1を得た。
【0112】
(実施例2)
合成例2で得られた芳香族系エマルジョン201g(うち水199.9g)に炭酸セシウム4.425gと水143.1gを加えて室温で一昼夜攪拌して炭酸ガス分離膜用樹脂組成物2を得た。
【0113】
(実施例3)
合成例3で得られた芳香族系エマルジョン2032g(うち水2028.6g)に炭酸セシウム8.06gを加え、室温で一昼夜攪拌して炭酸ガス分離膜用樹脂組成物3を得た。
【0114】
(実施例4)
実施例1で得られた炭酸ガス分離膜用樹脂組成物を、親水性PTFE多孔膜(住友電工ファインポリマー製、WPW−045−80、膜厚80μm、細孔径0.45μm)の面上に、塗布した。次に、前記樹脂組成物塗布後の親水性PTFE多孔膜を90℃で1時間乾燥させた後、さらに120℃で2時間程度熱架橋させて炭酸ガス分離膜1を得た。乾燥後樹脂組成物層厚みは45μmであった。
【0115】
(実施例5)
実施例2で得られた炭酸ガス分離膜用樹脂組成物を、実施例4と同様の方法で製膜し、炭酸ガス分離膜2を得た。乾燥後樹脂組成物層厚みは28μmであった。
【0116】
(実施例6)
実施例3で得られた炭酸ガス分離膜用樹脂組成物を実施例4と同様の方法で製膜し、炭酸ガス分離膜3を得た。乾燥後樹脂組成物層厚みは28μmであった。
【0117】
(実施例7)
炭酸ガス分離膜1〜3の二酸化炭素透過係数[mol/m
2/sec/kPa]および選択率[−]を測定した結果を表3に示す。条件1ではセル温度80℃、バブラー温度70℃に設定し、条件2ではセル温度70℃、バブラー温度60℃に設定した。選択率は条件1で測定した。
【0118】
【表3】
【0119】
(実施例8)
炭酸ガス分離膜1〜3の吸水率を測定した結果を表4に示す。結果から、炭酸ガス分離膜1、2および3は高湿度下でも吸水率が小さいため、高湿度下においても機械強度が良好であると考えられる。
【0120】
【表4】
【0121】
炭酸ガス分離膜1の流動ゲル量を測定した結果を表5に示す。結果から、炭酸ガス分離膜1は高い耐熱性を有することが分かる。
【0122】
【表5】